EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANTHONY VANACORE OF OU !!
“I Am The Only Non-Chinese In The Band, But We Are a Chinese Band Through And Through. So For There To Be Chinese Lyrics And Some Chinese Sensibilities In The Music Is Just Natural.”
DISC REVIEW “ONE”
「中国、特に北京の音楽シーンは豊かで多様性に富み、活気に満ちているよ。だけど OU は政治には関与しないんだ」
北京のジャズ・シーンで育まれた OU(オー)は、定型化した現代のプログ世界、その停滞したエネルギーに真っ向から歯向かうデビュー作 “One” でメタル異世界のルール無用を叩きつけました。
「中国に来て10年になる。私に言えることは、(このバンドの3人のメンバーも含めて)私にはここに心から愛する友人がたくさんいて、彼らは私にとってまさに家族のような存在だということなんだ」
作曲家で偉大なジャズ・ドラマーでもあるニューヨーク出身の Anthony Vanacore は、大規模な中国ツアーをきっかけに、彼の地の文化や言語に惚れ込み移住を決断します。杭州に移り、”客” ではなくその場所の人間として暮らすうち、彼は外国からみれば統制や不自由の中で暮らす人々の本来備わった人間味や優しさに触れていきました。文化が違えど、人は、個人個人はそんなには違わない。それは音楽も同じです。
「O はバンドの4人の血液型がO型だからで、その後 OU に変えたんだ。ピンイン(中国語のローマ字表記)では O と同じ発音で、”謳” という漢字が対応していて、それには “唱える” という意味があるから、このバンドにはとても合っているんだよ」
中国の “人” と触れ合いはじめた Anthony は北京音楽シーンの素晴らしさにも気づきます。そうして、クラブや本職の音楽教師から仲間を募り、数年の歳月を経て、それぞれのメンバーが特別な調味料を加える複雑な音の中華料理 OU が完成します。
目まぐるしくも自由自在のリズムから幽玄なアルペジオの残響、そして催眠術のように正直で率直なヴォーカル・パフォーマンスまで、この驚くべき料理 “One” にはプログとアンビエント、そしてメタルの旨味が詰まっています。もしかしたら、三国志を終焉に導いたのは彼らなのでしょうか。陽気さ、静謐さ、獰猛さを見事 “一つ” に調和させた OU は、さながら蒸してもよし、焼いてもよし、揚げてもよしの餃子を3000年の歴史から進化させる抜きん出た料音人だと言えるでしょう。
「私はバンド内で唯一の非中国人だけど、それでも私たちは根っからの中国のバンドなんだよね。だから、中国語の歌詞や中国的な感性が音楽に入っているのは、ごく自然なことなんだよ」
OU は、現代的なプログレッシブ・アクトへの強い愛情を示しながらも、彼ら独自のサウンドを切り開いてきました。ハイパー・ポップな HAKEN のように、OU は “Farewell 夔” や “Prejudice 豸” の重く複雑怪奇なグルーヴに、常に嫋やかで優雅なシンセの絹地を織り込んでいきます。まさに張飛、針に糸を通す。この泰山と長江のような美しくも悠久の対比は Devin Townsend や THE GATHERING のキネティックな作品にも匹敵し、さらに貂蝉のように美しく舞うしなやかな Lynn Wu の呪文はこの静謐でしかし刺激的なアートにえもいわれぬ独自性を加えています。
「アジアの伝統音楽には、欧米ではあまり知られていない、未開発の感情や質感がたくさん備わっていると思うんだ。アジアの伝統音楽が、アジア以外の国の音楽にもどんどん浸透していくのは時間の問題だと思っているよ」
実際、中国らしい Lynn の抑揚とゆらぎのある音は、OU を Inside Out のようなメジャーに引っ張る原動力となったはずです。聳え立つ “Mountain 山” では、Lynn の声をマルチトラックで聴かせながら、トラックごとに感情をエスカレートさせる絶妙なマルチバース空間を創造。一方で、”Ghost 灵” “Light 光” の幽玄なセクションで彼女のノイズは言葉ですらなく、最小限の伴奏として存在し、ビョークのような実験的アーティストの手法に似た推進力として扱われています。
他にも例えば、OU を聴いて、Enya, LEPROUS, LTE, RADIOHEAD, PORTISHHEAD, MASSIVE ATTACK といったバンドの姿が目に浮かぶのは自然な感性でしょうが、それだけでは十分ではありません。ここには東洋的な無調や不協和が西洋のモダンなポリリズムと織りなす、シルクロードのタイムマシンが洋々と乗り入れています。
もちろん、熟練したジャズ・ミュージシャンである、Anthony とベーシスト Chris Cui によるリズムのバックボーンは、タイトで整然としながらも混沌としたロックの側面を自在に謳歌。ギタリスト Jin Chan の神秘的な舞踏は二人のタクトで華麗に舞い上がります。まさに指揮者を失った兵ほどみじめなものはない。
老齢化したプログの巨人たちがいつまでも黄忠でいられる保証はありません。OU は国際的な聴衆から切り離されがちな中国にありながら、いやむしろあったからこそ、復権を願うプログ世界の、そしてアジアの希望となりました。中国では食事を少し残すのが礼儀とされていますが、”One” の音楽を一欠片でも残すことは大食漢のプログマニアには実に難しいミッションとなるでしょう。
今回弊誌では、Anthony Vanacore にインタビューを行うことができました。「私はニューヨークのフラッシングに住んでいたんだけど、この街にはかなり大きな中国人コミュニティがあってね。ツアーから戻るとその場所と交わりながら、自分の生活環境に新たな視点が生まれ、中国の文化や言語にますます魅了されるようになっていったんだ」 どうぞ!!
OU “ONE” : 10/10
INTERVIEW WITH ANTHONY VANACORE
Q1: First of all, I know you are from New York, why did you decide to move to China?
【ANTHONY】: In December and January of 2009-2010 and December and January of 2010-2011 I did two tours around the whole country of China with an Orchestra and the two experiences captivated me; from the culture to the language to the food etc. At the time I was living in Flushing NYC, which has a pretty large Chinese community. Upon returning from the tours I had a new perspective on my living environment and became more and more fascinated with the culture and language. Eventually I decided I was going to dive in do an intense self study of the language and in 2012 I moved to Hangzhou, China to be immersed in the environment to learn the language better and experience life in a different culture. Little did I realize there’s a great music scene here in China and I found myself immersed in that as well. But the short answer to the question is the culture and language!
Q1: あなたはニューヨーク出身だと伺っていますが、なぜ中国への移住を決めたのですか?
【ANTHONY】: 2009年から2010年の12月と1月、2010年から2011年の12月と1月、私はオーケストラと一緒に中国全土を回るツアーを2回行い、文化、言語、食べ物などの体験にとても魅了されたんだ。
当時、私はニューヨークのフラッシングに住んでいたんだけど、この街にはかなり大きな中国人コミュニティがあってね。ツアーから戻るとその場所と交わりながら、自分の生活環境に新たな視点が生まれ、中国の文化や言語にますます魅了されるようになっていったんだ。
そして2012年、中国・杭州に移り住み、今は中国語の勉強と異文化体験に没頭しているよ。中国には素晴らしい音楽シーンがあることもほとんど知らなかったんだけど、気がつけばここの音楽にものめり込んでいたよ。だからこの質問に対する答えを端的に言うと、中国の文化と言語だね。
Q2: You are known as a great jazz drummer and have collaborated with some great jazz musicians. Why did you decide to start playing progressive rock/metal with the Chinese?
【ANTHONY】: Rock and Metal and heavy music are the roots to my musical being. So actually it was always there in my heart. As you grow you might become interested in different things, for me it was all different kinds of music, including jazz. This band and the album is a natural result of all of life’s experiences for the four of us.
Q2: あなたは素晴らしいジャズ・ドラマーとして知られていて、偉大なジャズ・ミュージシャンとも多くコラボレートを果たしています。
なぜ、中国の人たちとプログロック/メタルをはじめようと思ったのですか?
【ANTHONY】: ロックやメタル、ヘヴィ・ミュージックは、私の音楽的存在のルーツなんだ。だから、私の心の中にはいつもそういった音楽があったんだ。人は成長するにつれ、ルーツからさまざまなことに興味を持つようになるけれど、私の場合はそれがジャズも含めたあらゆる種類の音楽だったんだ。このバンドとアルバムは、私たち4人の人生経験のすべてが自然に結実したものなんだよ。
Q3: How is the music scene in China from your point of view? Is there any suppression of freedom of expression?
【ANTHONY】: The music scene in China, especially Beijing is rich and diverse and thriving! OU doesn’t involve itself with politics.
Q3: 中国の音楽シーンはあなたからみていかがですか?表現の自由は保たれているのでしょうか?
【ANTHONY】: 中国、特に北京の音楽シーンは豊かで多様性に富み、活気に満ちているよ。だけど OU は政治には関与しないんだ。
Q4: Why did you name your band OU? How did you meet the members of China?
【ANTHONY】: The original name was actually O, just the single letter. The record company had some concerns about that (rightly), because how is it possible to search a band that’s just a letter!! O is because the four of us in the band are all blood type O, we later changed it to OU, which in Chinese pinyin (the romanization of Chinese) has the same pronunciation as just the letter O, and has a corresponding Chinese Character “謳” which can mean “to chant”, which is very suitable to our band.
Q4: なぜ OU というバンド名に決めたのでしょう?
【a】: 元の名前は実は O で、一文字だけだったんだ。レコード会社は(当然)そのことに懸念を抱いていて、一文字だけのバンドをどうやって検索するんだ!ってね。O はバンドの4人の血液型がO型だからで、その後 OU に変えたんだ。ピンイン(中国語のローマ字表記)では O と同じ発音で、”謳” という漢字が対応していて、それには “唱える” という意味があるから、このバンドにはとても合っているんだよ。
Q5: Chinese sung lyrics and the Chinese oriental vibe are fantastic! Is it still important to you to incorporate Chinese traditions and culture into OU music?
【ANTHONY】: I am the only non-Chinese in the band, but we are a Chinese band through and through. So for there to be Chinese lyrics and some Chinese sensibilities in the music is just natural.
Q5: 中国語で歌われる歌や、アジアのオリエンタルなムードも素晴らしいですね!
やはり OU の音楽に、中国の伝統文化は不可欠なものなのでしょうか?
【ANTHONY】: 私はバンド内で唯一の非中国人だけど、それでも私たちは根っからの中国のバンドなんだよね。だから、中国語の歌詞や中国的な感性が音楽に入っているのは、ごく自然なことなんだよ。
Q6: Each song on the album has a subtitle in Chinese characters. What is the concept or story behind “One”?
【ANTHONY】: While the album is not a “concept” record in the true sense, it does have a story telling vibe to it I think, listening to the album is kind of like a going on a journey. The concept of the album was just to channel the most honest music from the heart and see what comes out!
Q6: 楽曲にはそれぞれ、中国語で副題が添えられていますね?
【ANTHONY】: このアルバムは本来の意味での “コンセプト” レコードではないけれど、物語を語るような雰囲気を持っていると思うし、このアルバムを聴くことは、ある種の旅に出るようなものだと思っているよ。このアルバムのコンセプトは、心から最も正直な音楽を流し、そこから何が出てくるかを見るというものだったね。
Q7: It is a big deal for an Asian metal band to release an album on a major label like Inside Out! There have been very few bands mixing Asian folk music and metal, but did you ever imagine that it would fit so well into a very complex metal like yours? Do you think Asian folk music will increase in the metal world in the future?
【ANTHONY】: I’m not sure our current album has too much Asian folk music elements to it, at least there was no direct intent to do that. But I think there’s a lot of untapped feelings and textures in traditional music here that is not well known in the western world. I think it’s only a matter of time before it becomes more and more prevalent in music outside outside of Asia.
Q7: アジアのメタル・バンドが、Inside Out のようなメジャーからアルバムをリリースするのはある意味大事件ですよね。
これまで、特に OU のような複雑なメタルとアジアの伝統音楽をミックスしたバンドはほとんどいませんでしたが、これを契機に増えていくと良いですよね?
【ANTHONY】: このアルバムは、アジアの民族音楽の要素が強すぎるとは思わないし、少なくともそういう直接的な意図はなかったんだよね。でも、アジアの伝統音楽には、欧米ではあまり知られていない、未開発の感情や質感がたくさん備わっていると思うんだ。アジアの伝統音楽が、アジア以外の国の音楽にもどんどん浸透していくのは時間の問題だと思っているよ。
Q8: With the wars in Covid and Ukraine, the world is in chaos and divisions are growing. I know you have an inherent Western culture and view of things, but do you ever have disagreements with your Chinese members when discussing political and social issues?
【ANTHONY】: I’ve been in China 10 years now and all I can say is I have quite a few friends here (including the three members of this band) who I love dearly, who are a straight up family to me. In my time here I’ve been given so much love, caring and respect from friends and colleagues and just people in general that I will be eternally grateful for it. Generally speaking have not had any disagreements with those issues.
Q8: パンデミックや戦争で、世界は分断され混沌としています。西洋文化で育ったあなたと、中国の他のメンバーとで噛み合わない部分はないのですか?
【ANTHONY】: 中国に来て10年になる。私に言えることは、(このバンドの3人のメンバーも含めて)私にはここに心から愛する友人がたくさんいて、彼らは私にとってまさに家族のような存在だということなんだ。この10年の間に、私は友人や同僚、そして世間の人々からたくさんの愛と思いやりと尊敬をもらってきたからね。一般的に言って、こうした問題に関して意見の相違があったことはないんだよ。