EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BOB KATSIONIS OF STRAY GODS !!
“I Think That It Has To Do That I’m a Good RPG Player. I Can Get Easily In The Shoes Of Every Band Like I’m a Full Member Of It. I Can Pretend To Be Adrian Smith, Jim Matheos, And Joey DeMaio All On The Same Day.”
BOB KATSIONIS “KEEPER OF THE GREEK POWER METAL”
1980年代後半、ヨーロッパでパワーメタルが登場したとき、それは要するに、すべての “つまみ” を最大にした伝統的なヘヴィ・メタルだったのかもしれません。HELLOWEEN や GAMMA RAY といったバンドは、JUDAS PRIEST や IRON MAIDEN が築いた核となるサウンドに、よりビッグで晴れやかなメロディー、より大仰なアレンジ、より華やかなボーカルを吹き込み、創造力を過剰なファンタジー世界へと導くことに成功しました。パワーメタルが発展するにつれ、アーティストたちはサウンドの特定の側面に焦点を当て、よりシンフォニック。プログレッシブな分派や、スラッシュ、スピードメタルとの再会を目論む一派も登場。細分化が加速されていきます。しかし、1990年代後半から2000年代初頭にかけてギリシャで生まれたパワーメタルのシーンは当初、初期のパワーメタルの原則にほぼ忠実だったのです。
その後20年間で、ギリシャはおそらく世界で最も強力なパワーメタル・シーンに発展しました。リリースされた作品の数、全体的なクオリティ、あるいは探求されたサウンドの幅など、どれをとっても、地中海沿岸の国は世界中のパワーメタル・ウォーリアーズから大きな尊敬を集めています。
実際、初期からシーンを見守る SACRED OUTCRY のベーシスト George Apalodimas は、「最近、ギリシャからリリースされる作品のクオリティに人々が注目しているのを見て、とても嬉しく思っている。伝統的なヘヴィ/パワーからプログレッシブやシンフォニックなものまで、幅広いスペクトルをカバーする様々なアーティストが揃っているし、僕らが最初に活動していた(90年代)頃と比べて、シーンは大きく進歩したんだ」と語っています。
ギリシャで Bob Katsionis ほどパワー・メタルの強豪国としての評判を高めている人物はいないでしょう。アテネ出身の Bob は、2000年代前半に CASUS BELLI と FIREWIND のキーボード奏者として有名になりました。この2つのバンドは、ギリシャがモダンなシーンを確立する上で非常に重要なバンド。
「たしかに FIREWIND が現れて、いくつかのドアを開けたことも今の状況に関係していると思う。私たちが現れるまで、ギリシャで成功したバンドは ROTTING CHRIST や SEPTIC FLESH のようなブラックメタル・バンドだけだったんだ」
特に、Gus. G 率いる FIREWIND は、その津波のように押し寄せるメロディーと超絶技巧の炎風で日本でも大きな成功を掴み、グリーク・パワーメタルの存在を世界へと知らしめる原動力となったのです。
「ソロ、OUTLOUD, SERIOUS BLACK, VASS/KATSIONIS, WARRIOR PATH, STRAY GODS, イタリアの WONDERS、あと VALIDOR も。ププッ多すぎて挙げられない!(笑) 実はそれは、私が RPG の良いプレイヤーであることと関係があると思うんだ。どのバンドにも、自分がそのバンドの完全なメンバーであるかのように、簡単に入り込むことができるんだ。Adrian Smith, Jim Matheos, Joey DeMaio に同じ日になりきることができるんだ」
FIREWIND を離れた現在、Bob は世界中の様々なバンドで演奏し、レコーディング・エンジニアやミュージック・ビデオのディレクターとして働き、Symmetric Records を運営し、ギリシャから最もエキサイティングなメタルのレコードを様々な形でリリースしているのです。Bob Katsionis は、かつての Shrapnel Records における Mike Varney のごとく、これらのアルバムの多くを自らプロデュースし、演奏も加えています。
「FIREWIND を辞めてからの2年間で、私は新しいスタジオを作り、素晴らしいアルバムをリリースしながら Symmetric Records をアンダーグラウンドで尊敬されるレーベルにし、プロデューサーとしての地位も確立できた。これは、”バンドでキーボードを演奏している人” ではなく、自分自身でいることの利点だったよね」
Bob の最初の本格的なバンド、SKYWARD は、解散する前にフルレングスを録音することができませんでした。ゆえに、ギリシャをパワー・メタルの地図に乗せたのは、1998年にデビューしたアテネの別のバンドでした。INNERWISH の “Waiting for the Dawn” は、HELLOWEEN の “Keeper of the Seven Keys” のメタル・ファンタジーと STRATOVARIUS のパワー・シンセサウンドの中間にあって、ギリシャで今日まで続いているパワーメタルの連鎖の始まりとなりました。
INNERWISH の “Waiting for the Dawn” からのラインナップはアルバム1枚のみとなりましたが、その後バンドはギタリスト Thimios Krikos と Manolis Tsigos の脇を固めるミュージシャンを交代しながら活動を続けてきました。彼らの最新作は2016年のセルフタイトル作品で、EVERGREY や SYMPHONY X を彷彿とさせるプログレッシブな装飾を施した、より洗練されたパワーメタルへと進化を遂げています。かつて弊誌がインタビューを行ったグリーク・パワーの超新星 WARDRUM, SUNBURST にしても、NEVERMORE, KAMELOT という二大プログパワー・バンドを崇拝していましたし、UNTIL RAIN という才能もいます。プログは一つのキーワードなのかもしれませんね。ともあれ、INNERWISH は、同世代の FIREWIND とともに、20年経った今もなおグリーク・パワーメタルを代表する存在といえます。
1998年にピレウスで結成された SACRED OUTCRY ですが、デビュー・アルバム “Damned for All Time” がリリースされたのはなんと2020年のことでした。バンドは初期にカルト的なデモを2つ発表していて、2003年のデモは実質的に “Damned” のラフな原型でしたが、最終バージョンは待つ価値が十分にあったといえます。壮大なメタル、魅惑的なアコースティック・パッセージ、豊かなメロディー、スラッシーなリズム、そして Yannis Papadopoulos のパワフルなボーカルが融合したこの作品は、ギリシャのシーンのみならず、パワーメタル全体のクラシックとなりました。
バンドのベーシストであり、唯一の創設メンバーである George Apalodimas は、「私はパワーメタルをずっと愛してきた。うまくいけば感情を伝えることができるからね。このジャンルの音楽と歌詞は、日常の生活や葛藤から抜け出すための入り口として機能するんだ。そして、それが私たちの音楽で常に目指しているものなんだ」と語ります。
“Damned for All Time” が提供する逃避は、Apalodimas と彼のバンドメンバーが愛するファンタジー小説に根ざしています。アートワークには、マイケル・ムアコックの代表作である『メルニボネの皇子』のエルリックが、頭上をドラゴンが飛び交う厳かな城を見つめる姿が描かれています。このアートはアルバムの雰囲気と完璧にマッチし、特に14分にも及ぶ見事なセンターピース “Damned for All Time” は圧巻のファンタジー。元 LOST HORIZON のシンガー Daniel Heiman をボーカルに迎えた2ndアルバムもすでに “オーブン” の中にあります。このスウェーデン人は、2000年代初期に最も高く評価されたパワーメタルの声であり、ギリシャのシーンの名誉あるメンバーとしての彼の再登場は喜ばしいことといえるでしょう。
さて、Bob Katsionis 率いる Symmetric Records が真に注目を集め始めたのは、Andreas Sinanoglou が率いるアテネのプロジェクト、WARRIOR PATH と仕事を始めたときでした。ファンタジーをテーマにした勇壮なパワーメタルの2枚のアルバムを通して、Sinanoglou はこのジャンルの最高のソングライターの一人としての地位を確立しました。Bob 自身もその2枚のアルバムで演奏し、プロデュースを手がけていますが、彼は最初から特別なバンドを手に入れたと思っていたそうです。
「当初、Andreas は、自分と友達が楽しめるアルバムを作りたかっただけなんだ。でもね、彼がスタジオで曲を演奏しているのを聞いた瞬間、この素材は世界のパワーメタル・シーンに欠けているものだと気づいたんだ」
Yannis Papadopoulos をセンターに据えたセルフタイトルのデビュー作は素晴らしい出来栄えでしたが、Sinanoglou は想像できる限りのあらゆる点で前作を改善した2作目、”The Mad King” で上がり切ったハードルをさらに超えてきました。楽曲はより野心的で、演奏はよりタイトに、歌詞の物語性はより強く、そして何よりここでも Daniel Heiman が歌っています。WARRIOR PATH はパワーメタルで最も切望されているシンガーを確保し、”The Mad King” に瑞々しき命を吹き込んだのです。
「Daniel Heiman を起用したのはクレイジーなアイデアだったが、そうするのが正しいことだと分かっていたんだ」と Bob Katsionisは振り返り、「非常に大胆な行動が、最終的には実を結んだ。このアルバムには、いまだに信じられないほどの愛と賞賛が寄せられているよ。そんなつもりはなくても、”アンダーグラウンド・クラシック” を作ってしまったと思うし、私たちのアルバムを買ってくれた人たちひとりひとりに感謝しているんだ。我々は感謝しているよ」
Bob Katsionisの最新プロジェクトの一つは、TERRA INCOGNITA のシンガー、Billy Vass とのコラボレーション・アルバムです。そして、Vass/Katsionis とクレジットされたアルバム “Ethical Dilemma” は、WARRIOR PATH の剣を振り回す勇壮なパワーメタルからは遠く離れたもの。その代わりに二人は、DREAM THEATER, QUEENSRYCHE, FATES WARNING の美しくも洗練されたプログ・メタルにインスピレーションを得ることになります。こうしたスタイルの追求は、複雑と甘さのバランスが非常に難しいのですが、”Ethical Dilemma” で彼らは “Images and Words” や “Empire” のような完璧なバランスを見つけ出しました。
「90年代から2000年代にかけてのメランコリックで難解なプログレッシブ・メタルに常に愛着を抱いていた私にとって、これはそれを示すチャンスだったんだ。Billy Vass にソロ・アルバムのプロデュースを頼まれた時、”どんな音にしたい?” と聞いたら、FATES WARNING の “Perfect Symmetry” みたいな音楽を作りたいと言われたんだ。で、それが全てだった。作曲には1ヶ月もかからなかったんだけど、彼がメロディーを考えてくれたときは、とても感激したよ。私が渡した音楽すべてに、完璧なセリフと歌詞を書いてくれたんだ!」
1995年、小さな港町ヴォロスに住んでいた10代の頃、Kiriakos Balanos は友人たちと SILENT WINTER をスタートさせます。そのメンバーで数枚のデモを制作しましたが、仕事や学業で方向性が異なるため、バンドは解散。大人になってヴォロスに戻った Balanos は、SILENT WINTER 名義で新たなラインナップを組み、プロジェクトの復活を決意します。バンド名とはうらはらに激烈な “The Circles of Hell” と “Empire of Sins” は、その決断の正しさを裏付けるもの。Balanos のシュレッド・ギターとフロントマン Mike Livas の高らかなファルセットに導かれた、プログ・パワーのワープスピードは光速を超えます。
「ギリシャがパワー・メタルにおいて非常に強力なシーンを作るれたことは、非常に満足のいくこと。特にこの10年間ギリシャは、他の国から羨まれることが何もなかったからね。とバラノスは言います。「この場所に小さな石を贈ることができてとても幸せだよ」
注目すべきは、SILENT WINTER がグリーク・パワーメタルの非公式な本部であるアテネから遠く離れた場所で活動していることでしょう。バラノスは、アテネに多くのチャンスがあることは認めていますが、強い決意と努力によって地理的なハンディキャップを克服することができたと胸を張ります。
「首都に住まないと、どうしても負担が大きくなってしまう。田舎では知り合いが少ないから、広報の仕事も多くなる。つまり、より多くの努力と作業が必要だという意味だよ」
CRIMSON FIRE 3枚目のLP “Another Dimension” のジャケットには、レーザーの目を持つロボット・ペガサスが宇宙空間を飛行している様子が描かれています。ファンタジーの “おふざけ” を皮肉らずに受け入れることで、パワーメタルを伝統的なヘビーメタルの系譜から少々切り離すことに成功しているのかもしれませんね。”Another Dimension” は、CRIMSON FIRE のクラシックなパワーメタル・サウンドに80年代のAOR的なシンセサイザーとボーカル・ハーモニーを取り入れ、HELLOWEEN と JOURNEY の “別次元” が同時に味わえる作品に仕上がっています。
ギタリストの Stelios Koutelis にとって、ギリシャはメタルを “売る” のに適した場所であり、2004年という結成の時期は完璧だったといいます。
「ギリシャでヘヴィ・メタルが盛んになり始めた時期に、メタルシーンに参入する機会に恵まれたと言うべきだろう。やったりやめたり、時にはやり続けるバンドもいたが、周りにバンドがいない瞬間はなかった。そして、これは現在に至っても同じことだよ」
VALIDOR 唯一の常任メンバーである Odi Thunderer は、自身の音楽を “Blood Metal” と呼んでいます。その理由は簡単。Symmetric Records からリリースされた VALIDOR の最新アルバム “Full Triumphed” からは、マーチング・ドラム、スタッカート・ボーカル、ぎっしり詰まったリフに紛れもない血で血を洗う戦争のにおいがします。Thunderer のパワーメタル解釈は、このジャンルの華やかなヨーロッパスタイルよりも、MANILLA ROAD や CIRITH UNGOL といったエピック・メタルとの共通点が多いといえます。そのため、彼はギリシャでは比較的異質な存在ですが、それでも演奏も受け持った Bob Katsionis をはじめシーンの著名人たちとは深く交流しています。
「私の音楽はすべて、”Seventh Son of a Seventh Son” を中心に発展してきたんだ。音、音符、構造、コンセプト。IRON MAIDEN は皆も知る通り、音楽以外にも多くのことをやっている。アートであり、ロックであり、メタルであり、イメージであり、伝説なんだ。だから偉大なんだよ」
では、Bob Katsionis を中心とした グリーク・パワーメタルの原点はどこにあるのでしょうか。答えはズバリ、IRON MAIDEN です。エディをアイコンとしたメイデンのマーケティング戦略やアート、イメージ作り、伝統的なメタルを突き詰めながら幅をもたせた多様なサウンド、そして練りに練ったストーリーをアルバムに付与するコンセプト。そのすべてが Bob Katsionis の作品群とギリシャのパワーメタルに投影されているのです。
「正直なところ、昔のメイデン・ファンの大半がそうであるように、ここ10~15年の彼らにはかなりついていけてないんだ。しかし、これは彼らではなく、私に問題があるんだよ。私は “Senjutsu” を好きになろうとしたし、最後には好きになった。でもたしかに、曲はとても長くて退屈なんだよね」
STRAY GODS はそんな Bob の “メイデン愛” を形にした新たなプロジェクト。ボーカルも、ギターも、リズム隊も、恐ろしいほどに IRON MAIDEN しています。ただし、重要なのは “Storm the Walls” の楽曲はすべてがオリジナルで、ありそうでなさそうであるかもしれないけどないようなメイデンのリフやサウンドを奏でている点です。さらにいえば、”Somewhere in Time”, “Seventh Son of a Seventh Son” というメイデン史上最もキャッチーで煌びやかだった時代を基盤としているので、現在のメイデンには期待できないカタルシスやシンガロング、スピードアタックが存分に繰り広げられているのです。まさにここは “If” の世界。もしメイデンが、あのころの輝きを取り戻したら…
今回弊誌では、弦と鍵盤の二刀流天才派、Bob Katsionis にインタビューを行うことができました。「例えば、DREAM THEATERのように、曲の長さを正当化することはできない。だから、私は彼らを “プログレッシブ” とは呼ばないんだよ。彼らに今必要なのは、外部のプロデューサーなんだろうな。でも、それをいったい誰が言うんだろうね?我々は最後まで彼らを追いかけ、愛していくつもりだよ」 素晴らしいですね。オリジナルだなんだのいろいろをすっ飛ばして言えるなら、”Senjutsu” の2万倍良い。Bandcamp のメタル部門で発売からずっと一位を守り続けているのも頷けます。オリンパス・メタルの守護者の登場。どうぞ!!
STRAY GODS “STORM THE WALLS” : 10/10
参考文献; BANDCAMP Olympus Rocks: Where to Start with Greek Power Metal
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