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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SARAH LONGFIELD : DISPARITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SARAH LONGFIELD !!

“I’m Just So Happy To See It Getting Normalized. I Remember Starting Out There Were No Women On YouTube Or The Guitar Community, Which Was Always Disheartening.”

DISC REVIEW “DISPARITY”

Fender が行った調査によると、近年新たにギターを始める人の半数が女性であるそうです。その傾向を裏付けるように、Yvette Young, Nita Strauss, Orianthi Panagaris などテクニカルなロックやメタルの世界においてもギターヒロインの存在感、輝きは増す一方だと言えるでしょう。
Sarah Longfield。仄暗く凍える湖と森を抱くアメリカ中西部の最北、ウィスコンシンから登場した25歳の美姫は、さながらギターシーンのジャンヌダルクなのかも知れませんね。
2016年、Guitar World 誌による “世界最高の7弦、8弦ギタープレイヤー15人” の中に選された革新のハイテクニックビューティーは、驚くべきことにチャンネル登録者数20万を超える人気 YouTuber でもあるのです。(Rob Scallon とのコラボレートの数々は秀逸)
「マルチなプラットフォームを築き、ミュージックコミュニティーの様々な側面で名前が売れることは、素晴らしいプロモーションにもなって来たのよ。」と Sarah が語るように、ソロ活動、バンド THE FINE CONSTANT、そして YouTube と新世代らしく現代的なプラットフォームを意欲的に活用することで、彼女は Season of Mist との契約を手にすることになりました。
インタビューで、「私はまずピアノを8歳の時に始めて、それからヴァイオリンを10歳の時に始めたの。遂にギターを手にしたのは12歳の時だったわね。」と語るようにその音楽的素養は実に深くそして多様。弊誌に何度か登場している Yvette Young が似たようなバックグラウンドを持つことも興味深いシンクロニシティーではないでしょうか。
魔女か英雄か。さらにはチェロ、パーカッションまで嗜む才女のエクレクティックな素養とオープンマインドは、メタルの様式、伝統、アグレッションを地図にない未踏の領域へと導くのです。
「最新作は実際、前作とは全く異なるアルバムになったわね。焦点がよりオーガニックなマテリアルにシフトされ、私の持つ様々な影響を探求することが出来るようになったのよ。」 と語る Sarah。つまり、不均衡や差異を意味するタイトルを冠した最新作 “Disparity” は、遂に彼女本来の魅力を余す事なく伝えるマイルストーンに仕上がったと言えるはずです。
人生で初めて手にしたピアノの響きをイントロダクションに、幽玄荘厳、夢見がちでアトモスフェリックな独特の世界はその幕を開けます。”Embracing Solace”。慰めを抱擁する。プログレッシブなデザインからエレクトロニカの実験にジャズの恍惚まで、全てをシームレスに、壮麗優美に、そして時に幽冥に奏でるサウンドスケープは実にユニークかつ濃密。
Kate Bush を想起させる嫋やかな Sarah 自身のボーカルとエモーションを増したギター捌きの相性も極上。自らの音楽旅行を通して経験した光と影はこうして楽曲、作品へと見事に投影されて行きます。
ANIMALS AS LEADERS のショウを見た翌日に書かれたという、ヘヴィーでマスマティカルなデジタルのルーツを探求する “Cataclysm” が Tech-metal、ギターナードの心を激しく打つ一方で、”Departure” のオリエンタルな情緒や “Citrine” のオーガニックなポストロックの音景、”Miro” のアヴァンギャルドなジャズ精神は、二胡やハープ、サクスフォンの導入も相俟って、リスナーをカラフルで刺激的な非日常の絶景へと誘うのです。
今回弊誌では、Sarah Longfield にインタビューを行うことが出来ました。「私は女の子がギターをプレイすることがいたって普通な世の中になってただ本当に嬉しいのよ。」ウィスコンシンの乙女は果たして高潔か異端か。それは歴史が語るでしょう。どうぞ!!

SARAH LONGFIELD “DISPARITY” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COLD NIGHT FOR ALLIGATORS : FERVOR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKOLAJ SLOTH LAUSZUS OF COLD NIGHT FOR ALLIGATORS !!

“You Can Have The Most Unique Mix Of Influences And Gimmicks In The World, But If You Can’t Write a Catchy Or Captivating Piece Of Music, Nobody’s Going To Care.”

DISC REVIEW “FERVOR”

鋭利な牙鰐には冷たい夜を。無機質なテクニックには色彩豊かな旋律を。瑞々しきプログメタルの都コペンハーゲンに郡居する奔放なアリゲーター、COLD NIGHT FOR ALLIGATORS は甘美なるフックとインテンスを同時に捕食しモダンプログの水面を貪欲に揺らします。
「僕たちの音楽はエモーショナルかつ実験的だと紹介したいね。グルーヴィーで風変わりなメタルを楽しむ人にはピッタリさ。テクニカルな要素もありながら、リスナーを惹きつけるフックとメロディーにもフォーカスしているんだよ。」 Nikolaj が語るように COLD NIGHT FOR ALLIGATORS の音楽は実際、肉食獣の貪欲さに満ちています。
ダウンチューンのチャグリズム、エレクトロニカの華麗なダンス、洗練のハイテクニックにシルクのプロダクションは、VEIL OF MAYA や BORN OF OSIRIS が育んだモダンメタルコアの Djenty なニュアンスを漂わせ、一方で感情の泉に湧き出でるエセリアルなメロディーラインと多様なポストモダニズムはバンドの確固たるオリジナリティーをまざまざと見せつけるのです。最新作のタイトル “Fervor” はまさに情熱と創造性の証。
アルバムのムード、デザインを濃縮した “Violent Design” で光と闇の劇場はその幕を開けます。新世代らしい不協和のグルーヴで始まる Tech-metal の獰猛は、しかし神々しきギターラインとクリーンボーカルでその姿を瞬時に変化させました。
緊張と緩和をシームレスに繋ぐ虹色のメロディーは天国への階段でしょうか? THE CONTORTIONIST にも通じる夢幻の回廊は、いつしかアートロックとポップに祝福を受けながら、アップリフトなコードワークとエモーショナルなコーラスワークでリスナーを至上のカタルシスへと誘うのです。
「リスナーをフックやメロディー、楽曲構成に浸れる機会を作りたいんだよ。その上で、リスナーの注意を引く方法の一つとしてテクニカルな要素を散りばめていると言う訳さ。アルバムを通してテクニックにフォーカスするんじゃなくね。」ポストハードコア、プログレッシブ、そして R&B まで織り込まれたフックの魔境 “Canaille” は、”ノン・メタル” な素材を存分に発揮してその言葉を実証するアルバムのメインディッシュだと言えるでしょう。
実際、ヘンドリックスが憑依するブルースの哀愁がミニマルな電子音、マスマティカルなデザイン、現代的なアグレッションと溶け合う楽曲は、モダンプログレッシブの理念をあまりに的確に、しかしドラマティックに描き出しているのです。
隠し味としてアルバムを彩る R&B のフレイバーは ISSUES に、キャッチーな旋律の煌めきは VOLA にもシンクロし、さらに “Nocturnal” では TesseracT のアトモスフィアを、”Get Rid of the Wall” ではジャズのモーションをもその血肉として消化する雑食の王。そこに “テクニカルであるためのテクニック” は一欠片も存在してはいません。
今回弊誌では、ドラマー Nikolaj Sloth Lauszus にインタビューを行うことが出来ました。Euroblast, Tech-Fest などで鍛え上げた実力は本物。さらにマスタリングは Jens Bogren が手がけます。「世界で最もユニークな要素やギミックをミックスしたとしても、キャッチーで魅力的な音楽を書かなければ誰も注目しないんだよ。」どうぞ!!

COLD NIGHT FOR ALLIGATORS “FERVOR” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOIVOD : THE WAKE】JAPAN TOUR 2019 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANIEL “CHEWY” MONGRAIN OF VOIVOD !!

“I Don’t Use My Guitar Before I Have An Idea Of What The Melody Could Be. Music Is Not Inside The Instrument, It Is In My Mind, In My Heart. “

DISC REVIEW “THE WAKE”

プログレッシブとスラッシュの狭間でSFのスリルを享受するケベックの神怪 VOIVOD。5年ぶりとなるフルアルバム “The Wake” の異形と暴威は、バンドの結成35周年を祝賀する来日公演で Voivodian を狂気の渦へと導誘します。
衝動の “Rrröööaaarrr” から、サイバーな中毒性極まる “Dimension Hatross”、そしてアートメタルの極地 “The Outer Limits” まで、逸脱者 VOIVOD の奇々怪界はメタルシーンにおいて畏怖と畏敬を一身に浴び続けて来ました。
スラッシー、時にパンキッシュなアップテンポの猛威とプログレッシブな展開を、サスペンスと不協和に満ちたジャズ由来のテンションコードで賛美する異端の婚姻。そしてその倒錯的なシグニチャーサウンドは、ギターの革命家 Piggy の逝去、豪放磊落なベースマン Blacky の脱退にも、些かも揺らぐことはありませんでした。
バンドにとって何より僥倖だったのは、テクニカルデスのカルトヒーロー MARTYR で雄名を馳せた Chewy こと Daniel Mongrain を迎えたことでしょう。
インタビューで、「僕は11歳の時から VOIVOD のファンで、それこそ狂ったように聴いて来たんだから、もう僕の音楽的な DNA の一部、最も大きな影響の一つだと言えるだろうね。」と語るように、”Target Earth” でバンドに加わって以降、Chewy はあの不協和音とテンションの魔術師 Piggy の遺伝子をしっかりと受け継ぎながら、さらに VOIVOD の意外性、多様性を逞しく拡大しているのです。
バンド史上最も “シネマティック” で “キャッチー” なコンセプトアルバム “The Wake” はその進化を如実に証明するマイルストーン。アートワークにもあるように、Voivodian の象徴、4体の Korgull が見下ろす先は死に行く星。作品に描かれた気候変動、大災害に起因する混乱とカオスは当然我々の住む地球の姿に重なります。
しかし同時に滅びを誘う巨大災害や外敵の来襲は、人類に新たな真理、宇宙において孤高でもなければ唯一種でもないという、ある種の “目覚め” をもたらすのです。
アルバムオープナー “Obsolete Beings” で早くもバンドは Voivodian の心に洗脳のメカニズムを植え付けます。パンキッシュにドライブするリズムセクション、不協和のパラノイア、刻々と変化を続ける万華鏡のテンポとリズム。誇らしげにトレードマークをはためかせながら、一方で Snake の紡ぐボーカルライン、Chewy の奏でるギタートーンはこれまでよりも格段に甘くメロウ。印象的な中間部のブレイクでは、アトモスフェリックな顔さえ覗かせます。
水面下から現れたエイリアンの襲来と、唯一残った人類の贖いを描いた “The End Of Dormancy” は、アンセミックにテクニカルにストーリーを体現する VOIVOD シネマの完成形なのかもしれませんね。
「お前は知りすぎてしまったんだ…。」厄災来たりて笛を吹く。クリムゾンとフロイドの不可解な共演。時に凶暴を、時に畏怖を、時に孤独を、時に勇壮を、時に不屈を伝える千変万化、Chewy のリフデザインは常にストーリーへと寄り添い、Snake は幾つものキャラクターを一人で演じ劇場の支配者として君臨します。
初期 MEGADETH を想起させるハイパーインテレクチュアルなスラッシュアタックと、神々しきオーケストレーションがせめぎ合い、そして底知れぬダイナミズムを奉ずる “Iconspiracy”、サイケデリックに浮遊するキャッチーな幻想宇宙 “Always Moving”。そうしてアルバムは12分のエピック “Sonic Mycelium” で幕を閉じます。
「”The Wake” では全てが “チームスピリット” の下に制作されたんだ。」 その言葉は真実です。張り巡らされたディソナンスとテンションの菌糸をぬって、重層のコーラスさえ従えた煌めきのメロディーは新生 VOIVOD の野心を再び主張し、ポストロックの多幸感さえ仄めかせながらストリングスの絨毯へとあまりにコレクティブなプログレッシブの息吹を着地させるのです。
今回弊誌では、Chewy さんにインタビューを行うことが出来ました。「ソロをプレイする時は、吹き込むパートを何度も何度も聴き込むんだ。そうするとメロディーが頭の中で鳴り始めるんだよ。そうして僕はギターを手に取り、そのメロディーを紡ぐんだ。僕はメロディーが降りてくるまでギターを触りすらしないからね。音楽は楽器の中にあるんじゃない、僕の心、ハートの中にあるんだよ。」二度目の登場。天国の Piggy もきっと満面の笑みでこの作品を賞賛するでしょう。
余談ですが、ブックレットには Away がそれぞれの楽曲をイメージして綴ったアートの数々が描かれています。どうぞ!!

VOIVOD “THE WAKE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEVENTH WONDER : TIARA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEFAN NORGREN OF SEVENTH WONDER !!

“We All Supported Tommy Karevik 100%! Off Course, We All Realized That They’d Come First And That This Would Inevitably Set Us Back Time Wise. But There Was No Way Any Of Us Would Get In The Way Of Such a Great Career Move For Him.”

DISC REVIEW “TIARA”

スウェーデンで毎年行われる “一番大切な冬の行事”、聖ルシア祭。貧しい人々に財産全てを提供した純粋の象徴、光の聖人聖ルチアの姿は、そのスウェーデンに居を置くプログメタルの至心 SEVENTH WONDER と不思議に重なるのかも知れません。
“Waiting in the Wings” でその鵬翼を広げたバンドは、“Mercy Falls” で悲劇的なサスペンスを描き切り、“The Great Escape” では30分のエピックと共に喪失、失楽からの大いなる逃避による微かな希望の灯火を見出して来ました。
「難解なセクションも音楽的に実りがなければ僕にとっては的外れなんだ。だからこそ、メロディーとアトモスフィアが必要なんだけどね。」新加入のドラマーにして現在はバンドのスポークスマン的な役割を務める Stefan Norgren の言葉は真実です。
何より、しばしば DREAM THEATER が引き合いに出されるほどのハイテクニックと緻密なデザインの二重奏を奏でながら、SEVENTH WONDER はスカンジナビアの澄み切った眺望を旋律のクリスタルに封じ込めて来たのですから。そうしてそのパノラマは常に映画のように壮大なストーリーを纏ってリスナーの感情を激しく喚起するのです。
8年という長い月日を経てリリースされた最新作 “Tiara” のストーリーは、もしかするとバンド自体の影法師と言えるのかも知れませんね。滅ぶべき運命にある地球が救いを求め “The Everones” に差し出す純粋無垢の象徴、少女 “Tiara”。そのあらすじに、不世出のボーカル Tommy Karevik の KAMELOT 加入を重ねたファンも多いでしょう。
もちろん、Stefan はインタビューで Tommy の “ダブルワーク” がある程度 Win-Win な状況であることを強調しています。ただし、今でも Roy Khan の亡霊を宿し歌唱をシンフォニックに限定される KAMELOT での活動に、彼本来の姿を知るリスナーの多くが歯痒い思いをしていることも事実です。
実際、”Tiara” での Tommy は不要の責任から解放され自由を謳歌しているようにも思えます。自らに宿る全てのレンジでオクターブの山脈を超え、感情のリミットを解放しながら様々なキャラクターを演じ分けるその絶対的なパフォーマンスはまさに水を得た魚。
よりゴージャスでロックオペラの佇まいを擁する “Tiara”。中でも “Tiara” が別れを告げる “Farewell” 三部作はマスタークラスのバンドと Tommy の開眼が最高レベルでシンクロを果たした絶景と言えるでしょう。
シンセの煌めき、理知的な変拍子、メタルらしいエッジとユニゾンの醍醐味、静と動のダイナミズム、躍動するアコースティック楽器にヴァイオリン、暖かいコーラスの絨毯、Tommy と妹 Jenny との甘やかなデュエット、そして何よりエモーション極まる極上のメロディー。少なくとも、ピュアなプログメタルに求めるものは全てがここに存在します。
同時に、”Arrival” でシンフォニックに幕を開けるアルバムは、”The Everones” のスリリングなボコーダー、”Truth” で見せるベースの妙義とフォルクローレの熱情、“By the Light of the Funeral Pyres” はロックマンの8-bitでしょうか、そしてジェットコースターのエピック “Exhale” までバラエティーに富み、新機軸とチャレンジに満ち溢れています。
「さてその結末は?それはアルバムを聴いて、歌詞を読んで自らで決めて欲しいね…。」では、Tommy と SEVENTH WONDER の物語はどのような結末を迎えるのでしょうか。少なくとも、”Tiara” が DREAM THEATER や SYMPHONY X、そして SHADOW GALLERY を愛し続けて来たここ日本で歓迎されるべき作品であることは確かです。
今回弊誌では、Stefan Norgren にインタビューを行うことが出来ました。「テクニック、メロディー、アトモスフィア…それは僕たちのような音楽を生み出す時、心に留めている素晴らしいキーワードなんだよ。」全てのメタルファンに送る素晴らしき SF 叙事詩。どうぞ!!

SEVENTH WONDER “TIARA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOLA : APPLAUSE OF A DISTANT CROWD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM JANZI OF VOLA !!

“I Would Describe The Band As An Adventurous Rockband With Tendencies Towards Metal And Electronica. We’re Very Keen On Experimenting And Not Being Bound To One Label Or Genre.”

DISC REVIEW “APPLAUSE OF A DISTANT CROWD”

モダンプログレッシブのフロントランナー VOLA は、ジャンルのアイデンティティーを保ちながら進化を遂げる荊棘を成し遂げるユトランドの至宝。
Djent 由来の重厚なグルーヴ、シンコペーションの創造性をメロウでヴィンテージなイヤーキャンディーで包み込み、シンセウェーブのフィヨルドへと注ぎ込む彼らのやり方は、まさしくデンマーク発祥のトレンド、”ヒュッゲ” “甘美な時” をリスナーへと運びます。
レトロ&フューチャーが交差する衝撃のデビューフル “Inmazes” から4年。世界一幸福と言われるデンマークに降臨した “時をかけるバンド” が次なるテーマに選んだのは、皮肉にもテクノロジーや SNS が人類にもたらす栄華と暗部、幸せの価値。
「タイトルの “Applause of a Distant Crowd” “遠方の観客から届く拍手喝采” とは、僕たちが SNS を通してコンスタントに賞賛や承認を求めていることを表しているんだよ。だけど、そうやって喝采をくれる人たちは遠く離れていて、そこでの関係性が何か実りをもたらすことなんてないだろうはずなのに。」と新たなドラムマイスター Adam Janzi が語るように、インターネット& SNS の発展は利便性の向上と同時に、承認欲求、嫉妬、欺瞞、憤怒といった人に巣食う闇の部分をこれまで以上に助長させ、世界は生きづらさが増しているようにも思えます。
“We Are Thin Air”、アルバムの幕開けは、そうした息苦しさを “空気が薄い” と表現する究極のメッセージ。THE ALAN PERSONS PROJECT を彷彿とさせる暖和で壮大なメロディーの洪水は、コーラスの魔法と浮遊感を伴って、あたかも水中で暮らしているかのようなイメージを摩訶不思議に演出し描写します。
同時に、80年代の甘くキラキラした、しかしどこか切ないデジタルの波はコンテンポラリーなディストーションサウンドと融け合い、その波動は “Ghost” のエセリアルなセンチメント、感傷の波へと集約していくのです。
レトロとフューチャーを自在に操る時間魔法師の煌きはすなわち “ビタースイート”。そしてよりオーガニックに、オルタナティブの領域へと接近した新たな旅路は、MEW や MUSE のインテリジェントな方法論とも入念にシンクロしていると言えるでしょう。
一方で、「それでも僕たちは、今でもプログやメタルを愛しているよ。それは変わらないね。」と語るように、MESHUGGAH や DECAPITATED の凶暴なポリリズムが一際そのサウンドスケープを拡大させていることは明らかです。
“Smartfriend”, “Alien Shivers” におけるシンコペーションアグレッションはまさしくプログメタルの系譜を引く証ですし、その場所に VOLA 特有のポップセンス、アトモスフィアが流入した響きには、”Post-djent” を導くヒントが隠されているのかも知れませんね。
さらに、”Vertigo”, “Green Screen Mother” で見せるダークでスロウな一面は、バンドと作品の二面性を際立たせ、モダンプログの骨子である多様性とダイナミズムを一際浮かび上がらせることとなりました。そして、当然そこには、Adam が人生を変えたアルバムで挙げている Chelsea Wolfe, Nick Cave からの仄暗く、ノワールな影響が存在するはずです。
今回弊誌では、その Adam Janzi にインタビューを行うことが出来ました。「もしこのバンドを一言で表すなら、アドベンチャーロックバンドかな。メタルとエレクトロニカの要素を持ったね。」 さて、この作品を耳にして Steven Wilson は何をおもうのでしょうか。どうぞ!!

VOLA “APPLAUSE OF A DISTANT CROWD” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【REVOCATION : THE OUTER ONES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAVID DAVIDSON OF REVOCATION !!

“Sometimes I’ll Discover Some Cool Voicings While Working On a Jazz Tune And I’ll Try To Manipulate Them In a Certain Way So That It Fits Into The Metal Framework Better.”

DISC REVIEW “THE OUTER ONES”

エクストリームメタルシーンの “名状しがたきもの”。刻々とその姿を変える轟音の支配者 REVOCATION は、神秘探求者たるリスナーの脳を時に捕捉し、時に喰らうのです。
「彼らは時代によって音楽性を少しづつ変化させていたでしょ?」David は信奉する DEATH の魅力についてそう語りましたが、自らのバンド REVOCATION にも同様の試みを投影しています。
ハイテクニカルなデスメタルの知性とスラッシュメタルの衝動の中に、オーセンティックなメタルの様式美を組み込んだ初期の煌きは眩しく、一方で鬼才 ARTIFICIAL BRAIN にも所属する Dan Gargiulo 加入以降の、前衛的で中毒性を宿した VOIVOD にも通じる不協和のカオスもまた魅力の一つだったと言えるでしょう。
そうして最新作 “The Outer Ones” でバンドが辿り着いた魔境こそ、トレードマークである演奏能力とアグレッションを拠り所とする”完璧なデスメタル”、すなわち “The Inner Ones” に、荘厳でリリカルなメロディーのイヤーキャンディーやジャズの複雑怪奇、すなわち “The Outer Ones” を織り込んだコズミックな宇宙でした。
饗宴の始まりはダークでソリッドな “Of Unworldly Origin” から。TRIVIUM の爽快さまでイメージさせる耳障りの良いファストチューンは、しかし同時にブルーノートを起点としたジャジーなコードボイシングで自らの異形をアピールします。
分解してスウィングさせればツーファイブにもフィットするウネウネとしたリードプレイから、冷徹でしかしファンタジックな DEATH の遺産、ツインリードへと雪崩れ込むギターの魔法は2人のマエストロを備える REVOCATION ならではの至宝でしょう。
実際、唯一のオリジナルメンバーとなった David Davidson のジャズに対する愛情は、先日あの TESTAMENT のジャズスラッシャー Alex Skolnick との対談でお互いが認め合ったように、本物です。ギター教師の一面も持つインテリジェントな David は、メタルにとって規格外のコード進行、ボイシング、そしてスケールを操りながらアルバムを未知の領域へと誘います。
ロマンチックとさえ表現可能な “Blood Atonement” はまさに David の異能が濃縮した楽曲でしょう。ブラッケンドな激情を叩きつける漆黒のワルツは幽かな叙情を宿し、一転して静寂の中紡がれるクリーントーンの蜜月は Joe Pass の匠を再現します。まさに David 語るところの “コントラスト” が具現化した “血の償い” は、CYNIC のアトモスフィアさえ纏って怪しくも神々しく輝くのです。
“Fathomless Catacombs” で再び DEATH への深い愛情を示した後、バンドは “The Outer Ones” で BETWEEN THE BURIED AND ME の重低音のみ抜き出したかのような不規則な蠢きでラブクラフトのホラーを体現し、さらに不気味なコードワークが映える “Vanitas” では VOIVOD はもとより ATHEIST, PESTILENCE のカオスをも須らく吸収してみせました。
アルバムを締めくくる大曲 “A Starless Darkness” はまさに名状しがたき暗闇。ドゥームの仄暗い穴蔵から這い出でし闇の化身は、勇壮なエピック、スラッシュの突心力、デスメタルの沈痛、シュレッドのカタルシスと多様にその姿を変えながら、OBSCURA と並びプログレッシブデスメタルの森を統べる者としての威厳を示すのです。
今回弊誌では、バンドのマスターマインド David Davidson にインタビューを行うことが出来ました。「ジャズの楽曲に取り組んでいる時、しばしば僕はクールなボイシングをいくつか発見するんだけど、それがメタルのフレームワークへとうまく収まるように手を加えてみるんだ。」フックと展開の目眩くクトゥルフ。今、最もハイテクニカルなギターチームが揃ったバンドの一つでしょう。どうぞ!!

REVOCATION “THE OUTER ONES” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREAK KITCHEN : CONFUSION TO THE ENEMY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTIAS “IA” EKLUNDH OF FREAK KITCHEN !!

“I Think The Change Of Music Industry Is a Brave New World With Tons Of Opportunities. You Can’t Sit Home And Complain It Was Better Before. Adjust Or Die.”

DISC REVIEW “CONFUSION TO THE ENEMY”

急速に拡大を続ける “ギターナード” の世界。真のギターフリークの間で、最もイノベーティブかつ画期的なプレイヤーとして崇拝を浴び続ける “Freak of the Freak” Mattias IA Eklundh。
水道のホースクリップ、テレビのリモコン、櫛、大人のディルドーにラジカセアンプ。目につくもの全てを “ギミック” としてギタープレイに活用し、レフトハンドのハーモニクスから両手タッピング、ミステリアスなスケールにポリリズムの迷宮まで自在に操るマエストロのアイデアは決して尽きることがありません。
同時に、弦は錆び付いても切れるまで交換せず、スウェーデンの自然とジャーマンシェパードを溺愛し、音楽産業の利益追求主義を嫌悪する独特の思想と哲学は Mattias の孤高を一層後押ししているのです。
「FREAK KITCHEN を立ち上げたのは少しだけコマーシャルな音楽を志したから。だけど適度にひねくれていて、様々な要素をミックスしながらね。」 とはいえ Mattias が情熱を注ぐスリーピースの調理場は、ただ難解で複雑な訳ではなく、むしろキャッチーでフックに満ち溢れた色とりどりのスペシャリテを提供して来ました。”Pop From Hell” とも評された、甘やかでインテリジェント、Mattias の “歌心” を最大限に引き出した “Freak Kitchen” はまさにバンドのマイルストーンだったと言えますね。
ジャズからボサノバ、アバンギャルド、ブログにインド音楽と手を替え品を替えエクレクティックに食材を捌き続けるバンドは、そうして最新作 “Confusion to the Enemy” でさらなる未踏の領域へと到達したように思えます。
「AC/DC は僕がいつも帰り着く場所なんだよ。Angus にただ夢中だし、Phil Rudd の熱狂的なファンでもあるんだ。」 近年、AC/DC のやり方に再びインスパイアされたことを明かす Mattias。その言葉を裏付けるかのように、作品には以前よりシンプルでスペースを活用した、ヴィンテージロックやブルースのエネルギッシュな息吹が渦巻いているのです。
例えば “Good Morning Little Schoolgirl” をイメージさせるブルースパワーにアンビエントな風を吹き込んだ “The Era of Anxiety”、スウェーデン語で歌われる “Så kan det gå när inte haspen är på” のシンプルな突進力とスライドギターのスキャット、さらにトラディショナルなブルースのクリシェをベースとしながら、愛車のボルボをパーカッションに EXTREME の “Cupid’s Dead” の要領で問答無用にリフアタックを繰り広げる “Auto” の音景は明らかに魅力的な新機軸でしょう。
もちろん、KINGS X を思わせるダークなオープナー “Morons” から胸を締め付ける雄大なバラード “By The Weeping Willow” まで、クラッシックでヴィンテージなサウンドを背景に Mattias らしいルナティックなギタープレイと甘く切ないメロディーのデコレーションを疎かにすることはありません。
圧巻はタイトルトラック “Confusion to the Enemy” でしょう。バンド史上トップ5に入ると語る楽曲は、アルバムに存在する光と闇を体現した究極なまでにダイナミックなプログレッシブ絵巻。MESHUGGAH を想起させる獰猛なポリリズムと空間を揺蕩うアンビエンス、さらにFKらしいイヤーキャンディーが交互に顔を覗かせる未曾有のサウンドスケープは、バンドが辿り着いた進化の証。
時という “敵” であり唯一の資産を失う前に成し遂げた記念碑的な快作は、そうして “We Will Not Stand Down” で緩やかにエモーショナルにその幕を閉じるのです。
今回弊誌では Mattias IA Eklundh に2度目のインタビューを行なうことが出来ました。「ゼロから何かを生み出す作業は、未だに究極の興奮を運んでくれるんだ。ただのルーティンの練習はそうではないよね。」 どうぞ!!

FREAK KITCHEN “CONFUSION TO THE ENEMY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SOUTHERN EMPIRE : CIVILISATION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SEAN TIMMS OF SOUTHERN EMPIRE !!

“When I Was 14, My Father Bought Me a Copy Of “Journey To The Centre Of The Earth” By Rick Wakeman. That Album Changed My Life!”

DISC REVIEW “CIVILISATION”

南半球、オーストラリアの南方アデレードから、プログレッシブな帆を掲げ天海へと漕ぎ出す “南の帝国”。SOUTHERN EMPIRE の紡ぐ物語はあまりに雄弁かつ壮大、圧倒的なパノラマです。
豪州のプログロックにとってアンバサダー的な存在だった UNITOPIA の解散は、旋律の魔法とアートロックの知性を愛するリスナーに茫漠たる喪失感を与えた出来事でした。
後にフロントマン Mark Trueack は元 UNITOPIA とヨーロッパのミュージシャンを集め UNITED PROGRESSIVE FRATERNITY を結成。一方でキーボーディストの Sean Timms はオーストラリアからのみ卓越した人材を選び抜き SOUTHERN EMPIRE を創設したのです。
そして Sean がインタビューで 「別のシンガーを入れた UNITOPIA だと思われないように、Mark のやっている事とは出来るだけ別の事がやりたかったんだ。」と語る通り、SOUTHERN EMPIRE は確かに異色で魅惑のサウンドスケープを深くその帝都に宿します。
30分の大曲を含む全4曲、68分のランニングタイムを携えた最新作 “Civilisation” は一見 “プログマナー”、トラディショナルなプログロックの遺産を存分に受け継いだレトロなレコードにも思えます。
しかし、実際は “プログヘブン” の領域にコンテンポラリーなプロダクション、硬質で鋭利な斬れ味、甘やかでポップなイヤーキャンディーを大胆に織り込みながら、躍動感溢れるハイエンドの造形美を提示したマグナムオパスと言えるのです。
スチームパンクなアートワークは革新を追い求める人類の象徴。ジュール・ヴェルヌの “地球から月へ” を引用したブックレットはイマジネーションへの憧憬。レトロとフューチャー、SFとリアルが入り混じるエピックに、ペリシテの巨人兵器ゴリアテに纏わる “Goliath’s Moon” 以上の幕開けはないでしょう。
ファンクのグルーヴ、モダンでシャープなリフワークに、浮遊する鍵盤の音色、陰影を帯びたロマンチックなボーカルハーモニーが折り重なればそこは異郷のシャングリラ。MOON SAFARI や FROST* にも重なるリリカルでハーモニックなメロディーのオーケストラは、リスナーを誘う優雅なオープニングセレモニーにも思えます。
「このアルバムでは、メンバー全員がライティングとアレンジのプロセスに関わったんだ。その結果は如実に現れているよね。」デビュー作と比較して “Civilisation” には瑞々しく現代的な感性が確かに宿っています。そして、”Goliath’s Moon” をシーンの新たなギターマスター Cam Blokland が作曲し、Sean がアレンジを手がけたという工程こそ、温故知新を具現化したアルバムの肝だと言えるのかも知れませんね。
同様に、ドラマー Brody Green が作曲を行い、Sean が磨き上げた “Cries for the Lonely” もユーティリティーなバンドの本質を明らかにします。NIGHTWISH や劇場音楽にインスピレーションを得た楽曲は確かに絢爛でシアトリカル。SAMURAI OF PROG の Steve Enruh が奏でるヴァイオリン、さらにはフルートの登場も相まって、楽曲はシンフォプログの夢劇場の様相を呈しているのです。
夢劇場と言えば、エレクトロニカやミニムーグ、壮麗なコーラスと共に散りばめられた DREAM THEATER への憧憬は白眉。20分の叙情ストーリーにきっと “A Change of Seasons” の華麗なデザインを思い浮かべるファンも多いでしょう。
プログメタルの大ファンではないと語った Sean 一人では辿り着けなかったであろう多様性の高みへは、Petrucci も舌を巻く鮮烈でロングスプリントな Cam のソロワークがしなやかに連れ去って行くのです。音の選択、配置、ストーリーの描写、グラウンドデザイン、全てにおいて Cam のギターワークはヒーローに相応しい煌めきを灯していますね。
元々は UNITOPIA のために書かれた大作 “The Crossroads” は SOUTHERN EMPIRE との出会いで完璧なるユートピアへと到達したのかも知れませんね。
TOTO のポップセンスに始まり、オリエンタル、フラメンコ、クラッシック、パーカッション、ホルン、ジャジーなサクスフォンにジプシーミュージック。幾重にも折り重なるエクレクティックな音楽の波は、タイトル通りここで交わり、そうしてバンドの大半が備える高い歌唱力を伴ってどこまでも前進を続けて行くのでしょう。
今回弊誌では、バンドのマスターマインド Sean Timms にインタビューを行うことが出来ました。例えば FROST* の “Milliontown”、MOON SAFARI の “Lover’s End” と同等のリスペクトを受けるべき作品だと信じます。
「僕はとても長い楽曲を書く傾向があるんだ。それは僕の歌詞でストーリーを伝えるのが好きだからなんだけどね。」どうぞ!!

SOUTHERN EMPIRE “CIVILISATION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NIGHT VERSES : FROM THE GALLERY OF SLEEP】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH REILLY HERRERA OF NIGHT VERSES !!

“Diversity Is Definitely Key For Us, And We Don’t Ever Want To Overdo Or Repeat Anything More Than Necessary. “

DISC REVIEW “FROM THE GALLERY OF SLEEP”

プログメタルのサルバドール・ダリが草創せし夢幻画廊。ファンタジーとリアリティー、テクニックとアトモスフィア、モダンとオーガニックのダイナミズムを、”夢” という自由な空想世界で交差させる無言の詩聖はインストゥルメンタルミュージックのドラスティックな再構築を試みています。
例えば Tilian Pearson を失った TIDES OF MAN が、故に音に語らせる創意工夫を磨き上げポストロックの妙手となったように、詩人の喪失は時に音楽それ自体の革新を誘います。そして急遽リードボーカル Douglas Robinson がバンドを離れることとなった NIGHT VERSES も同様に、彼の遺した “スペース” を埋めるチャレンジの中で一際精華な創造の翼を得ることとなったのです。
RED HOT CHILI PEPPERS, TOOL, RAGE AGAINST THE MACHINE、そして近年では INTRONAUT とある種独創性を追求したアートの都 L.A. で、NIGHT VERSES の資質が育まれたのは必然なのかも知れませんね。
実際、ポストロックのソニカルな音景とハイパーテクニカルな Djent の相反をオーガニックに融解し、ダウンテンポのエレクトロニカを織り込む前人未到のドリームスケープは、超現実的なダリのシュルレアリスムにも通じる倒錯と魅惑のアートです。
フルブラストで幕を開ける夢への廻廊 “Copper Wasp” こそ “From the Gallery of Sleep” への強烈なインビテーション。多彩なリムショットやハイハットの魔術で複雑怪奇なポリリズムを支配する Aric のドラム劇場は、Nick の雄弁なギターワークと Reilly のアグレッシブなベースサウンドの独壇場。
ANIMALS AS LEADERS を想起させるファストでメカニカルな衝動から、RUSSIAN CIRCLES の重厚荘厳なグルーヴ、そして TYCHO の瑞々しいアンビエントまで自在に操る弦楽隊のテクニック、創造性はあまりに気高く孤高。
さらにサンプリングやエレクトロサウンドを加えて完成に導いたエクレクティックモンスターは、”夢” という自由な空間に花開いた崇高のアート、対比とダイナミズムのエキサイティングな奇跡に違いありませんね。
フレーズ、モチーフの巧みなリピートで、奇抜なテーマを鮮やかに印象付ける独特の手法は “Trading Shadows”, “Vice Wave” でより際立ちます。実際、「異なる音楽的な要素、アートをミックスして僕たちが伝えたい感情を具現化することこそ最も重要なことなんだ。歌詞というガイドがなくなったからね。」とインタビューで語るように、言葉を失った詩人は試行錯誤を経て、その感情を以前よりもビビッドに雄弁にリスナーのスピリットへと届けているのです。
バンドはそこからさらに多様性の扉を開き探求していきます。
パーカッシブでトライバルな “Vantablonde”、ポストロックの壮麗なサウンドスケープを掘り下げた “Lira”、hip-hop のグルーブに照らされた鮮烈のシュレッド “No Moon”、静謐な美しきアコースティックのレリーフ “Harmonic Sleep Engine”。
そうしてその全ての多様性、創造性はギターペダルの可能性を極限まで追求したプログレッシブで trip-hop なエピック “Phoenix IV: Levitation” へと集束していくのです。
アルバムは、幽玄なる白昼夢 “Infinite Beach” で TYCHO や BONOBO の理想とも深くシンクロしながら、メランコリックにノスタルジックにその幕を閉じました。
今回弊誌では、ベースプレイヤー Reilly Herrera にインタビューを行うことが出来ました。ちなみにドラマー Aric は絶賛売り出し中 THE FEVER 333 のメンバーでもあります。
Instru-Metal の最新形こそ彼ら。「”多様性” は間違いなく僕たちにとって鍵だと言えるね。これまでも同じことをやり過ぎたり、必要以上に繰り返したりすることを望んだりはしなかったからね。」どうぞ!!

NIGHT VERSES “FROM THE GALLERY OF SLEEP” : 10/10

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