“I Don’t Think Melodic Hard Rock/AOR Is Dead, In Fact I Think There’s An Upward Trend Again. If You Look At TV Shows Like Stranger Things Or Cobra Kai, The 80s Are Coming Back.”
DISC REVIEW “HEART OF THE YOUNG”
「メロディック・ハード・ロック/AORが死んだとは思わないし、むしろ再び上昇傾向にあると思う。”ストレンジャー・シングス” や “コブラ会” のようなテレビ番組を見れば、80年代が戻ってきていることに気づくはずだよ。バイパーサングラス、マレット、ジーンズにレザージャケット……。とはいえ、安っぽいグラムロックで大成功できるとは思わない。オリジナリティを持ち、モダンと80年代のいいとこ取りをすることが重要なんだ。だから、昔の模倣ではなく、リフレッシュしている限り、正しい道を歩んでいることになる!」
メロハーは死んだ。AOR なんてダサい。夢のような80年代を経て、時に煌びやかで、時に美しく、時に悲哀を湛え、そして時に情緒を宿したメロディック・ハードの響きは窓際へのと追いやられてしまいました。しかし、時代は巡るもの。”ストレンジャー・シングス” のような大人気ドラマに80年代のノスタルジアが描かれることで、当時の音楽も息を吹き返しつつあります。
そうしたドラマが視聴者の心を掴むのは、ノスタルジーを誘いながらも同時に新たな視点や思想
、テクノロジーを駆使して決して古臭く終わらせないことが理由でしょう。スイスのバンド、FIGHTER V のセカンド・アルバムのアートワークには、近代的で繁栄した都市の外観で建てられた巨大な心臓が描かれています。そう、彼らの “メロハー” も Netflix と同様に当時の風景に新たな解釈をもたらす革命の鐘。”Heart of the Young”、FIGHTER V が奏でる魅力的なメロディック・ハードは、野心的な若いミュージシャンたちによって作られ、若い心を保つすべてのリスナーに贈られたものなのです。
「”Radio Tokyo” は音楽で成功を収め、頂点を目指している少年の話。”Radio Tokyo” に出演するためにね!僕らの象徴だよ。80年代のビッグバンドはみんな東京、少なくとも日本で演奏していた。それができれば、外国のバンドとして本当に成功したと言えるんだ!」
そんな FIGHTER V が、メロハー復興計画の足がかりに選んだ場所が日本、そして東京でした。なぜなら東京、そして武道館はいつだって世界中のハードロック・キッズ憧れの場所だったから。そして、今や日本は #メロハー が生き残る数少ない国のひとつとなったから。”Radio Tokyo” はまさにメロハーの祝祭。そう、DJ に導かれた圧倒的な高揚感、凄まじい精神的な勃起をうながす楽曲こそメロハーの真髄なのです。
「よくプロデュースされ、ミックスされたコーラスといえば、間違いなく HAREM SCAREM が最高の例になるよね!特に HAREM SCAREM の最初のセルフ・タイトル・アルバムは、伝説的なプロデューサー、Kevin Doyle の傑作だった!もちろん、彼らのソングライティングにおけるトップリーグのセンスも忘れてはならないよ。HAREM SCAREM は間違いなく、メロディック・ロックのダイアモンドなんだ!」
だからこそ、クラシックで若々しいメロハーの新境地を求める FIGHTER V が日本が育てた HAREM SCAREM をお手本に選んだのは自然なことでしょう。彼らは80年代のメロハーに、さらに肉厚でオーロラのようにコーティングされたコーラスの魔法と、プログレッシブに捻くれたフック&テクニックを持ち込んだ革命家でした。タイトルをいただいた(?) WINGER の知性や、”Speed Demon” でみせる MR.BIG への憧れも織り交ぜながら、FIGHTER V もまた、敷き詰められた旋律のカーペットに、現代的なエッセンス、コンポジション、プロダクションを飾り付け、このジャンルを次のステージへと誘います。
やっぱり、コーラスやコール&レスポンスの使い方が素晴らしいですね。FAIR WARNING も、TEN も、TERRA NOVA も個性的で扇情的なコーラスを持っていましたが、メロハーはコーラスが命。何より、彼らのアー写のTシャツは SURVIVOR。大事なことはすべて SURVIVOR から学んだ。いつも心に SURVIVOR を。
今回弊誌では、FIGHTER V にインタビューを行うことができました。「GOTTHARD, KROKUS, SHAKRA のようなバンドは、より多くの観客に知られていたし、そこまでハードな音楽ではないから、より親しみやすかった。だからそうした音楽とより繋がりを深めていったんだ」 FRONTLINE に SHAKRA。滾りますね!どうぞ!!
“When You Come To a Live Show It Is Our Duty Make You Forget Everything Else And To Have The Best Time In Your Life Whether You Are Crowd Surfing In Just You Underwear Or Standing In The Corner Listening.”
“TNT Was The First Norwegian Hard Rock Band With International Success, And We, Coming From The Same City As Them, Were So Proud.”
DISC REVIEW “LIFE WILL NEVER BE THE SAME”
「僕たちは HAREM SCAREM や BAD MOON RISING を知っているし、彼らが僕たちと同じようなバンドから影響を受けていることもわかってもらえると思う。グランジやストーナー・ロックが主流になる中で、自分たちのスタイルを貫いたバンドたちだよ。彼らがいたからこそ、僕らも元々インスパイアされていた音楽にこだわっていると言えるかもしれない」
メロディック・ハードロック北欧5人組 STARGAZER は、2001年に F.R.I.E.N.D. というバンド名で結成され、2005年にEPをリリース。2008年に STARGAZER へと改名し、2009年にセルフ・タイトルを、10年の時を経て2019年に2ndアルバム “The Sky Is the Limit” をリリースし、古き良きメロディ志向のリスナーから高い評価を得続けています。なぜでしょう。それは、このノルウェーの美しき星見櫓にたしかな理由と信念が存在するからです。
「まず第一に、僕らは昔ながらの方法で、マイクを使ってアナログで録音しているんだ。アナログの伝統的なプリアンプを使い、リ・アンプは一切行わず、すべての信号を本物らしく保つ。僕たちは、ティン・パン・アレー (アメリカの大衆音楽業界の象徴。Frontiers のやり方を揶揄していると思われる) のような音楽メーカーから曲を買うのではなく、時間と労力をかけて、自分たちの音楽を根本から作り上げているんだよ。だから、僕たちが作る音楽は、僕たちの心に最も近い音楽なんだ」
ご承知の通り、近年の “メロハー” その大部分はイタリアの Frontiers Music から供給されていて、好きものにとっては最後の砦、生命線ともいえるような存在となっています。ただし、心を打つような素晴らしいリリースと同時に、メンバーをシャッフルした集金プロジェクトも少なくないのが事実。また、Alessandro Del Vecchio を中心とした “ホーム・バンド” に作曲、編曲、演奏を依存することも多く、すべてが “心からの” 音楽とは言い難い状況でしょう。
STARGAZER の素晴らしさは、そうしたしがらみに縛られることなく、自分たちのやり方で、心からの音楽を追求しているところにあります。もちろん、HAREM SCAREM にも、BAD MOON RISING にも常に迷いはありましたが、それでもあの困難な時代においてハードロックを追求し続けたその気概と音楽は今よりももっと賞賛されるべきでしょう。そしてSTARGAZER は、そんな90年代の荒波を乗り越えたメロハーの信念をその身に宿しているのです。
「TNT はノルウェーで初めて国際的な成功を収めたハードロック・バンドで、彼らと同じ都市に住む僕たちはそれをとても誇りに思っているんだ。彼らのアルバム “The Knights of the New Thunder” は、僕たちの心を激しく揺さぶったね!彼らは、ノルウェーのような小さな国からでも、世界のシーンに大きな影響を与えることができることを、他のハードロック・バンドに示したんだから」
そして、何より STARGAZER はあの TNT の血脈を引いています。同じトロンヘイムの出身で、Ronnie のギターを受け継ぎ、Morty の客演を成功させた STARGAZER 以上に TNT イズムを体現するバンドはいないでしょう。オーロラのハーモニーに、ガラス細工の美旋律、そしてギターのマシンガンの三位一体は、John Sykes と WHITESNAKE の骨太を加えて、完璧な1987年を今ここに蘇らせました。”Life Will Never Be The Same”。そう、彼らのメロハーを知った後の人生は、これまでとは決して同じではないはずです。
今回弊誌では、シンガーの Tore Andre Helgemo とギタリストの William Ernstsen にインタビューを行うことができました。「ギタリストとしての William はもちろん John Sykes の影響を受けているし、シンガーとしてのTore André は David Coverdale の素晴らしい軌跡と共に歌ってきた。BLUE MURDER も僕らがよく聴いているバンドなんだ」 どうぞ!!
“Of course we recognize Harem Scarem and Bad Moon Rising, and you might see that they are influenced by a lot of the same bands as we are. These are bands sticking to their guns while grunge and stoner-rock took the mainstream. Therefore, you can say we too hold on to that music we were originally inspired by.”
Melodic hard rock Scandinavian five-piece STARGAZER formed in 2001 under the band name F.R.I.E.N.D., released an EP in 2005, changed their name to STARGAZER in 2008, self-titled in 2009, and after 10 years, released their second in 2019 album “The Sky Is the Limit” and continues to be highly acclaimed by old-school, melody-oriented listeners. Why is that? Because there are certain reasons and beliefs that exist in this beautiful Norwegian stargazing turret.
“First thing is we record the old-fashioned way, analogue with microphones. Using analogue traditional pre-amps and no re-amping, to keep every signal authentic. We don’t go out there and buy songs from Tin-Pan-Alley-like music makers, but we spend time and dedication in creating our own music from the bottom. The music we make is the music closest to our hearts.”
As you know, the majority of “Melo-hard” music in recent years has come from Italy’s Frontiers Music, which has become something of a last resort and lifeline for the likes of you. However, along with the mind-blowingly great releases, the fact is that there have been a few collection projects that have shuffled members around. Also, they often rely on their “home band,” led by Alessandro Del Vecchio, to compose, arrange, and perform, so not all of their music is “from the heart. The beauty of STARGAZER is that it is a band with a lot of heart.
The beauty of STARGAZER is that they are not bound by these ties, but pursue music from the heart in their own way. Of course, Harem Scarem and Bad Moon Rising always had their doubts, but their spirit and music that continued to pursue hard rock in those difficult times should be praised even more than now. And STARGAZER carries in its body the conviction of a melodic musician who overcame the stormy seas of the 90s.
“TNT was the first Norwegian hard rock band with international success, and we, coming from the same city as them, were so proud. Their album “The Knights of the New Thunder” blew our minds! They kind of showed the way for other hard rock bands that it was possible to come from a small country like Norway, and make a big impact on the world scene anyway. ”
Above all, STARGAZER is in that TNT vein. Hailing from Trondheim, no band embodies the TNT-isms more than STARGAZER, which inherited Ronnie’s guitar and successfully guest-starred Morty. The trinity of Aurora’s harmonies, the beautiful melodies of Glasswork, and the machine guns of the guitars, with the added brawn of John Sykes and WHITESNAKE, brings the perfect 1987 back to life here and now.” Life Will Never Be The Same”. Yes, Our life will never be the same after discovering their melodies.
We had the pleasure of interviewing singer Tore Andre Helgemo and guitarist William Ernstsen. Here
we go!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RENECK SWEET OF FIRST NIGHT !!
“The Good Old AOR Scene Might Even Disappear Completely In About 20 Years. I Would Not Be Surprised By That But The Music Remains. Thanks To The Albums And The Internet.”
DISC REVIEW “DEEP CONNECTION”
「エストニアで生きていると、時間が経つにつれて、たくさんの素晴らしいバンドを発見できて面白かった。情報のない箱の中で生きているような時もあったからね」
時に限定された状況は、強力な好奇心を生み出します。音楽を聴けないから聴きたくなる。ゲームを買えないからやりたくなる。女性が振り向いてくれないから振り向かせたくなる。そんな、不自由の中の自由から、人は進歩とチンポを続けてきたのです。
エストニアはバルト三国で最も北に位置する小さな国。スウェーデンやフィンランドに面しながらもメタルやロックの黄金郷となれなかったのは、多分にソヴィエト連邦に支配された過去があるからでしょう。しかし、かつて激しく抑圧を受けていた美しい国は、独立を回復した後、目覚ましい発展を遂げます。
ITの分野において、エストニアは今や世界の最先端です。電子国家と呼ばれるように、ほとんどの手続きはインターネットで終わります。Skypeを産んだのもエストニア。さらに、国民の教育レベルは非常に高く、マルチリンガルで、報道の自由度も日本とは比べられないほど高いのです。
そんな小国の回復力、”レジリエンス” は、エストニアから世界を驚かせた FIRST NIGHT の音楽にもしっかりと根付いています。
「バッキングトラックのアイデアやミキシングのアイデアは全て Mutt Lunge から影響を受けている。ただ、僕らのバンドは DEF LEPPARD やどんな他の一つのバンドのようになるつもりはないよ。80年代の全体を愛しているからね」
FIRST NIGHT のメイン・コンポーザー Reneck Sweet にとって、情報が制限された世界はむしろプラスに働いたのかもしれません。ストリーミングや”〇〇放題”は確かに簡単で便利で安価ですが、いつでもあることの安心感が自分で探す楽しさ、探究心や好奇心を大きく犠牲にしている可能性はあります。事実、Spotifyのオススメとは無縁の環境で育った Reneck は、今やトレンドやセールスとは程遠いメロディック・ハードの世界を自らの手で探求し、遂にはエストニアが誇るインターネットの分野で大きな話題となるまでに成長を遂げたのです。
実際、デビュー作から4年の月日を経てリリースされた “Deep Connection” には、80年代への愛情、知識、好奇心が溢れんばかりに詰まっています。北欧的なキーボード/シンセのとうめいかと華やかさ、80年代ドイツ風のクリーン・ボーカル、カナダから輸入した清らかなギター・ライン、さらに80年代後半のブリティッシュAORからの影響、そしてもちろんアメリカのビッグ・サウンドがコーラスに組み込まれ、この作品はあらゆる国、あらゆる側面からメロディック・ハードの “美味しいとこどり” を実現しているのです。ウジウジとした女々しいテーマも実にメロディック・ハードしていてたまりませんね。
「AORというジャンルが徐々に衰退していくのも不思議ではないよ。ほとんどのメロディック・ロックバンドは、若い聴衆を獲得するために、よりヘヴィでモダンなサウンドにすり寄っているからね。でも僕はその方向には行きたくないんだ。僕らのアルバムを買ってくれるのは45~60歳くらいの人が多いんだよ。だから、古き良きAORシーンは、20年後には完全に消滅してしまうかもしれない。そうなっても驚かないけど、音楽は残っていくんだ。名作アルバムとインターネットに感謝だね」
Reneck はもはや、メロディック・ハードの消滅を悲観してはいません。というよりも、かつて限られた情報の中でも情熱を失わなかった自らの姿を重ねながら、音楽さえ電子空間に残っていれば誰かが聴いてくれる、語り継いでくれるという確固たる自信が Reneck の中にはあるのでしょう。DEF LEPPARD, Bryan Adams, BLUE TEARS, BOULEVARD, STRANGEWAYS, DA VINCI といった決して消えない名手の名作たちのように。”Deep Connection” で FIRST NIGHT は明らかに音のタイムトラベルをマスターしたようです。残念なのは、実際に80年代へとタイムトラベルが行えないこと。きっとそこには、満員のアリーナが待っていたはずです。
とはいえ、世はTikTok戦国時代。あの場所でメロディック・ハードがバズる確率は、きっとゼロではないでしょう。今回弊誌では、Reneck Sweet にインタビューを行うことができました。「僕は良いメロディーがとても好きなんだ。僕にとって音楽はメロディーが全てと言えるほどにね。そして “Deep Connection” はまさにそんな僕の望んでいたとおりのものとして完成した」 元嫁の顔をジャケにできるのはメロハーだけ。1st AVENUE 好きに悪い人はいない。どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOMMY NILSEN OF SATIN !!
“Great Music Will Prevail. A Great Example Is That New Tv-series “Peacemaker” That Used a Song By Wig Wam For It’s Opening Credits. That Resulted In Wig Wam Topping The Rock Charts In America, Despite Having “Outdated” Music. That Happened Because People Got a Chance To Hear The Song.”
DISC REVIEW “APPETITION”
「君のように、僕の曲についてオーセンティックとか、”本物” という言葉を使う人がいるけど、本当に光栄に思うよ。おそらくその理由は、SATIN の曲の多くが僕が12歳から15歳の頃に書いたものだからだと思うんだ。1989年から1993年にかけて、メロディック・ロックとヘア・メタルがピークに達し、チャートと電波を席巻していた頃だ」
かつてメディアやシーン、市場を席巻したメロディック・ハード。その復活は近くて遠い。そんな印象を、長くこの音楽と共に生きてきた私は持たざるを得ません。もちろん、一時の無風状態と比べれば、今は天国と地獄。SMASH INTO PIECES, DYNAZTY, PERFECT PLAN, Chez Kane, THE NIGHT FLIGHT ORCHESTRA, GATHERING OF KINGS など百花繚乱の新鋭が躍動し、ベテランもその存在感を増している現在のシーンは非常に健全にも思えます。
ただし一方で、乱発される音源、同じような顔ぶれの同じような音楽には、80年代90年代の初頭に存在した魔法のようなワクワク感、メンバー間の深いケミストリーやストーリーがそれほど感じられないのも事実でしょう。よく出来た “偽物” とでも言うべきでしょうか。
そんなメロディック・ハードの2022年において、SATIN の “Appetition” は明らかに異質です。このアルバムのソングライティングとアレンジ、温もり、自由、そして特に巧妙なハーモニーは、このジャンルが脚光を浴びた栄光の時代からまるで抜け出して来たような “本物感” に満ちています。
それもそのはず、SATIN のマルチ奏者 Tommy Nilsen が完成させた楽曲は、本人があの時代に創造したタイムカプセルなのですから。ただし、あの時代と比べると、プロダクションと全体的なアプローチは非常に新鮮で、Tommy がこの30年で培った経験値と好奇心が本人曰く過去と現在をつなぐ美しき “フランケンシュタイン” の完成に大きく寄与していることは明らかです。
1980年代のメロディック・ハードの名曲が、よりパンチの効いたプロダクションで、時代遅れの楽器やアレンジもなく聴けることを想像してみてください。つまり、私たちリスナーは、”Appetition” というデロリアンに乗って本物の80年代や90年代初頭を体験できるのです。2022年の知識を持ちながら。SATIN は AOR の全盛期から彼が愛したものすべてを、彼自身の手でアレンジし直し、少なくとも片足はクラシックな時代に突っ込んだままで、現在の作品のように聴こえる特殊なタイムカプセルなのかもしれません。
「素晴らしい音楽は必ず勝ち残るよ。今はこのジャンルにも機会があるんだ。だからアーティストが時間をかけてでも素晴らしい曲を共有すれば、ジャンルやタイムスタンプ、歴史に関係なく、注目されるようになるんだ」
固定化されたファン・ベース、そしてその高齢化もメロディック・ハードというジャンルが憂うべき問題の一つです。しかし、Tommy は非常にポジティブです。同世代で同郷の WIG WAM による “Do Ya Really Wanna Taste It” の爆発的なヒットは Tommy だけでなく、このジャンルで懸命にもがく全てのアーティストに大きな力を与えています。人気ドラマ “Peacemaker” で使用され、
WWEや映画界の大スタージョン・シナとの共闘を経て、今では “スカンジナビアの宝石” とまで称されている WIG WAM はメロディック・ハード全体の希望です。聴いてもらえる “機会” さえあれば、どんなジャンルの誰にでも、音楽さえ “良ければ” 成功するチャンスはある。そして、その “機会” であるストリーミングの普及によって、むしろ Tommy は自身の成功を “It’s About Time” だと確信するに及んだのです。
「僕の音楽や歌詞に力をもらい、中には生きる糧、死なない理由になったというメッセージが世界中から届いているんだ。そのメッセージを読むのは胸が痛いんだけど、君が言うとおり、音楽は必要なものだ」
音楽はただ、”良い” か “悪い” かだけだ。そう語る Tommy の音楽、その評価はリスナーの主観に任せるとして、少なくとも “ポジティブ” が貫かれています。名曲 “Angels Come, Angels Go”。SATIN のトレードマークが詰まった、心の琴線に触れるこの曲で Tommy はこう声を絞り出します。
「天使は来て 天使は去る…人生を通して」
甘くて、ノスタルジックで、少しむず痒くて、それでも愛と勇気と希望を忘れない。これぞメロハーの真骨頂。人生で大切な人を失っても愛をあきらめないで。生きて欲しい。そう歌いかける Tommy の言葉が決して押し付けがましく感じられないのは、彼の元に寄せられた様々なメッセージが痛みと感謝と、ほんの少しの希望に彩られていたからでしょう。
今回弊誌では、Tommy Nilsen にインタビューを行うことができました。「僕にとって、音楽には “良い” と “悪い” の2種類しかなくて、何が良くて何が悪いかは、オペラでもデスメタルでもアイルランドの民族音楽でも、僕自身が決めることなんだ」 どうぞ!!
“India Is a Vast Country, And Every Region Is Unique For Its Own Religion, Tradition, Culture And Identity. The Strength Of India Is Its ‘Unity In Diversity.”
DISC REVIEW “ABOUT US”
「インド北東部の丘陵地帯。そこに位置するナガランドには、誇り高きナガ族が住んでいる。過去には、両者の間に紛争があったけど、時代は変わりつつあるよ。和平プロセスは進行中で、正しい方向に向かっていると思う。誰もが平和と調和の中で暮らしたいと思っているんだから。インドは広大な国で、どの地域にも独自の宗教、伝統、文化、アイデンティティが存在する。つまり、インドの強さは “多様性の中の統一” なんだよ」
インドがヘヴィ・メタルやハードロックの新たなエルドラド、黄金郷であることはもはや疑う余地もありません。フジロックの活躍も記憶に新しい BLOODYWOOD を筆頭に、DYMBUR, KRYPTOS, DEMONIC RESURRECTION, SKYHARBOR, GRISH & THE CHRONICLES など、彼の地には才能溢れるバンドがひしめいています。
重要なのは、それぞれがそれぞれの個性を大切に羽ばたいていること。広大なインドの多様なアイデンティティーは、カラフルな万華鏡のごとく、そのままメタル世界にも投影されているのです。
一方で、どこかユニークで、絢爛で、大仰なスタイルやサウンドは彼らの共通項にも思えます。それこそが、ABOUT US 語るところの、”多様性の中の統一” なのかもしれません。そう、インド北東部、ナガランドに住むナガ族 ABOUT US は非常にインドらしくなく、そしてインドらしいバンドなのです。
「僕たちナガ族の社会は、腐敗や犯罪の多いインドとはまったく違うんだ。ナガ族は、家族が何よりも優先され、誰もが尊敬される緊密な社会なんだよ。男性、女性、老いも若きも、お互いに気を配って生きている。汚職や腐敗がまったくないわけではないけれど、ナガ族の社会は基本的に寛容な社会なのさ。そうして、僕たちはシンプルな人間に育ったから、さまざまな希望や夢、願いを持って生きていて、それが僕たちの歌詞にも反映されているわけだよ」
バンドの言葉を借りれば、謎に包まれ、文化や伝統を守りながら生きるナガ族。その暮らしは、エネルギッシュで活気に満ち、一方で犯罪や人権の蹂躙、汚職が蔓延る都市部のインドとは大きく異なります。自然と人の優しさに育まれた ABOUT US は、そうして夢や希望をのせた美しくも爽快なメロディック・ハードロックに行き着きました。
彼らのメッセージはシンプルです。”決してあきらめるな”。自分を信じて、夢を持ち続け、チャンスをつかみ、自分だけの美しい物語を作って欲しい。その言葉はバンドを後押しする人たち、ナガ族、インド人、世界中のファン、そしてもちろん、自分たちにも投げかけられています。
ナガ族にとって欠かせないコミュニケーションの手段、愛と音楽を世界と共有するという夢を持ち、ABOUT US は “若い世代にロックの遺産を残す”、そのためにここにいます。まだ何も始まってはいませんが、セルフタイトルのデビュー作、”About Us” には、遺産を残すだけでなく、メロディック・ハード復権の予感、期待、原動力、その結晶がこれでもかと詰め込まれています。
「僕たちは実験的なメロディック・ハードロックバンドだと思っているよ。僕たちは常に様々な芸術的スタイルを実験しているから、そこからの影響を注入し、融合させたハードなメロディックロック、そんなスタイルやサウンドでありたいんだよね。僕たちは実験や変化に対してオープンだけど、メロディック・ハードロックが僕たちの音楽のコンセプトのベースとなることはたしかだよ」
定型化を極め、ある意味固定ファンのためだけの音楽となった感もあるメロディック・ハード。その功罪は別として、SMASH INTO PIECES, DYNAZTY のような “殻を破る” バンドが近年増えて来ています。再びメロハーの大きな波を、うねりを、濁流を呼ぶために必要なのはきっとそうしたブレイクスルー。ABOUT US はそのための切り札でしょう。
オランダの衝撃 TERRA NOVA を、より瑞々しく、挑戦的で、モダンに磨き上げたような彼らの音楽は、変化をもたらすに十分な “喜び” “楽しさ”、そして爆発には欠かせない “驚き” を備えています。TNT の Tony Harnell も舌を巻く天空へのハイトーンに、HAREM SCAREM の Pete Lesperance を想起させる奔放とストーリーのギターワーク。ナガ族の色を世界に発信したい。そんな野望も心強く、ABOUT US の名に込められたメロハーの “一体感と帰属意識”、その種を彼らは世界中にばら撒いていくのです。
今回弊誌では、ABOUT US にインタビューを行うことができました。「バンドメンバーは、なかなか面白い個性の集まりのアンサンブルなんだよね。この絆がうまく作用しているよ。みんなが自分の持っているものを少しづつ犠牲にし、活用していく。それが僕たちの強みなんだ」 日中の仕事と音楽のバランスを心がける、持続可能なメロハー・ベンチャー。衝撃のデビュー作は来月。どうぞ!!