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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【THE WORLD IS QUIET HERE : ZON】 VIDEO GAME IS PROG METAL…


COVER STORY : THE WORLD IS QUIET HERE “ZON”

“The Legend of Zelda: Majora’s Mask Is My Favourite Game. I Loved Ocarina of Time, but Majora’s Mask Is On a Different Level”

ZON

プログレッシブ・メタルとは、実験的でしかし感情的で、技術的にも音楽的にも他の人がやらないようなことをやってのけたうえに、そのすべてをうまくまとめるという難攻不落の使命を帯びたジャンルです。ウィスコンシンの新鋭 THE WORLD IS QUIET HERE のニューアルバム “Zon” はその難題をクリアした稀有なレコードでしょう。彼らのプログレッシブ・メタルは実に冒険的で、エモーショナルで、しかしその創造的な自由の中で、エクストリーム・ミュージックのファンなら誰もが魅了されるであろうメタリックな旅へと誘います。
ドラマーの David Lamb はそもそもジャズ畑のプレイヤーですが、驚くべきことにこのバンドは他にも “学位” を持つプレイヤーが二人もいます。
「ギタリストの Isaac Stolzer と僕 (Tyler Dworak) は音楽専攻で、二人ともレコーディング・プログラムを修了している。David も少しだけど、彼はソフトウェアのプログラミングか、コンピュータの何かを勉強したと思うんだ。彼はドラムが得意で、Izaac はジャズ・アンサンブルでギターを弾いていたね。それがきっかけで、ふたりは本当につながったんだ。僕らの何人かはクラシックのトレーニングを経て、音楽の学位を持っているんだよ」
新ボーカル Lou の歌唱は、この分野では非常に独特で、際立っていて、例えるなら SikTh の Mikee のような異彩を放っています。
「Lou が素晴らしいのは、自分が何をやっているのか理解していること。彼の音域はとても広いから、シンガーではない僕らがハーモニーを担当する必要もなかったね。歌の分野でもっと経験豊富な人がいることは、僕たちにとって本当に必要なことだったし、Lou がそれに応えてくれることに本当に感謝しているよ。それに、面白いことに Lou は車の中で全部録音したんだ。彼は基本的に車の中だけで自分を孤立させることができる。だから、僕の知る限り、Lou の音はすべて彼の車の中で録られたものだ」

同時に、”Zon” には元 PAINTED IN EXILE のギタリスト Ivan Chopik、元 NATIVE CONSTRUCT のギタリスト Kee Poh Hock、そしてOTHERS BY NO ONE のシンガー Max Mobarry といったそうそうたるメンバーがゲスト参加していて、界隈における彼らの高まりつつある名声を証明してます。ただ、特別興味深いことに、TWIQH の面々は、プログレッシブ・メタルが要求する高いハードルを越えるため、ストーリーや音楽においてビデオゲームをジャンプの原動力としています。
もちろん、メタル、特にプログレッシブ・メタルの世界では、そのマニアックな音楽性や世界観と共鳴するかのようにゲームやアニメの “オタク” が多いのですが、彼らの “ナー度” はその中でも群を抜いています。ベーシストで中心メンバーの Tyler Dworak が “この世界” にのめり込んだのは、あるゲームがきっかけでした。
「漠然とした記憶だけど、セガの “アラジン” が最初に買ったゲームかな。実際に覚えている最初のゲームは “ドンキーコング64” だね。クリスマスに買ってもらったんだけど、僕の小さな脳みそが吹き飛ぶくらいの衝撃。あのゲームの巨大さは現実離れしていて、ビーバー (ノーティ) を蹴って探検するのが楽しい世界だった。今でも持っていて、ときどき引っ張り出して遊んでいるよ」
最近はどんなゲームにハマっているのでしょうか?
「最近はアクション・アドベンチャーや RPG が好きだね。時間がかかるゲームや、ストーリーのあるゲーム。音楽と一緒だよ。僕は “ゼルダの伝説” シリーズで育ち、今でもほぼ全作品が大好きで、ずっと夢中になっている。ちょうど今は、ゼルダ・スタイルのゲームのルネッサンスのようなもので、とても素晴らしい。新しい “God of War” も最高だよね。”エルデン・リング” は、プレイヤーにとっては時には悲惨な結果になることもあったけど、オープンワールドのゲームの勝利だよ。
最近は JRPG にハマっているんだけど、ちょっと変わったゲームも好きだよ。”マザー” のゲーム、特に “マザー3” が大好きでね。17年前のゲームとは思えないほど、ストーリーの構成が斬新なんだ。影響されるよね。ここ数年は “ペルソナ5″ に夢中で、あのゲームは僕らのバンド以上にスタイルがあるよ。あと、僕と妻が冗談のように話しているのが、”ゼノブレイド・クロニクル” シリーズ。あのゲームはバカバカしくて、脚本も声優もかなりひどいものだけど、それも魅力のひとつだし、大好きなんだ (笑)」

当然、TWIQH のアルバムにも際立ったストーリーが存在します。
「僕らの音楽はすべて1つの連続した物語だから、このアルバムはファースト・アルバムの直後が舞台なんだ。前作 “Prologue” のリリースからもう5年も経っているんだ。歌詞を読んで内容を推測することなく、インパクトのある形で物語を伝える方法を模索しているよ。もっと決定的な表現方法を見つけたいんだ。
ファースト・アルバムの主人公は、1曲目から推測できるように、”Some Call Me Cynical” という曲だけど、自分をとても卑下していて、人生観が良くないんだ。彼は内向きのスパイラルに陥り、アパートの屋上から飛び降りることになり、”Prologue” の最後で死んでしまうん。僕たちは、人が死ぬとどうなるのかを知りたかった。
何年か前に Eithan のアイデアで、死後の世界は天空の宇宙いうことを思いついてね。死後の世界は “Zon” と呼ばれる惑星から始まり、そこで自分の嫌なところや人生で後悔したことを自分なりに受け止めて、折り合いをつけていく。
だからこのアルバムの物語は、人生の終わりにひどい人間だった主人公が、そのことに気づき、どうすれば変われたか、どうすればもっと良くなれたかをゆっくりと受け入れていくというものなんだ。自分を償うことができれば、その先にあるものを手に入れることができる。彼は今は煉獄から抜け出せないでいるようなものだね。
SF的な要素は少なく、どちらかといえば少しファンタジーに傾いているね。宇宙船やディストピアなどは出てこないよ。手遅れかもしれないのに、より良い人間になろうとする自己反省についてのとても個人的な物語なんだ」
ゲームのようにアルバムのストーリーに浸って欲しいとバンドは望んでいます。
「このアルバムは濃密で、たくさんのことが起こっているんだけど、みんなに歌詞に参加してほしいんだ。このアルバムを聴いて、絶対的なヘヴィネスを追求するのではなく、今まで聴いたことのないような、内省的で奇妙な旅を楽しんでもらいたいんだ。アルバムで語られていることはたくさんあって、ちょっと行間を読むと大きなテーマがあるんだ。そういうことを考えてもらいたいね。
さっきも言ったけど、このアルバムは自分を見つめ直すための大きな作品だし、個人的にもそれはより良い人間になるためにとても大切なことだと思う。だから、その旅を始めるのは大変なことだけど、これをその第一歩にしてほしい。だから、このアルバムの内容を楽しんで、歌詞を読んで、僕らが何を言おうとしているのか、よりよく理解してほしいな」

ゲームからは、ストーリーのみならず、音楽的なインスピレーションも受けているようです。
「”Zon” のベースラインは “ペルソナ3” の勝利のテーマにインスパイアされたものなんだ。偶然、初代スーパーマリオブラザーズの “バウアーズキャッスル” を超彷彿とさせるベースラインを書いたんだけど、これは結局使わなかったね。
アルバム中盤にある “Heliacal Vessels II” のパートがお気に入りなんだ。この曲には、他のどのパートとも違う、Lou が伝道師に変わる部分があるんだ。主人公が出会うキャラクターはほとんど預言者のようなもので、彼は信徒に向かって演説している。ジャズの要素がたくさん入っていて、その部分はとても楽しくて、13分もある超ヘビーな曲の真ん中にあるのだから、おそらく最も奇妙である意味ダサいパートだと思う。このユーモアは多くの人に気に入ってもらえたと思うよ。
最近、僕はシンセサイザーを使った音楽をたくさん作っているんだけど、このゲームがミームになっているのと同じくらい、”Undertale” のサウンドトラックにはインスパイアされたな」
最も長時間プレイしたゲームは何でしょう?
「いくつか思い浮かぶな。生涯では、間違いなくポケモンシリーズがナンバーワンだね。フランチャイズ全体で、何千時間もプレイしているだろう。赤・青・黄以降のゲームは、駄作も含めてすべて何度もプレイしている。見たことのないポケモンを見ると、6歳の頃、レベル100のカメックスだけが大事だったことを思い出すんだ。
“シングルゲーム” ということであれば、パンデミックが始まった頃に夢中になった “ペルソナ5″ は、妻とふたりで合わせて300時間以上やり込んでいる。また、”大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL” と “The Binding of Isaac (アイザックの伝説)” はそれぞれ400時間以上やっているね。どちらもとても上手になるにはそれでも時間が足りないけど、電源を入れて物事を深く考えないようにするには最高のゲームなんだ」

“Zon” の美しいアートワークのように、今までプレイした中で最も美しいゲームは何ですか?
「”大神” だね。最近でこそ人気が出てきたけど、2006年に発売された当時、あのゲームは大失敗という認識だった。当時は新しいゲーム機が出始めたばかりで、PS2のゲームには誰も見向きもしなかったのだけど、このゲームは隅から隅まで本当に素晴らしい出来だった。筆で描いたような独特のグラフィックと、セル画のような陰影が、独特の世界観を作り出していたね。日本の民話に根ざしたストーリー、驚くほど面白く心に響く脚本、ゲーム界で最も素晴らしいサウンドトラック(”ワンダと巨像” に次ぐもの…かも)と相まって、ぼくがこれまで経験した中で最も充実したゲーム体験のひとつとなっているよ。いつもリプレイしているけど、その魅力は決して消えることはないね」
TWIQH の音楽のように、今までで一番難解なゲームは何ですか?
「おそらく “エルデン・リング” だろうね。まあ、他のフロムゲーを全くプレイしていない僕が言うのだから、もう信用は失墜しているけど。バンドのメンバーと一緒にプレイするために、”エルデン・リング” を発売と同時に手に入れたんだけど、荒削りだったね。あのゲームをプレイするのは好きだったし、驚異だと思うんだけど、フロムゲーをプレイしていない人間としてのトラウマは強烈なんだ。このゲームはわざと難しくしているのだ!そして時には自分の実力不足もあるのだ!と悟る必要があったね…でも、このゲームは好きなように遊べるから、その仕組みを学ぶにはもってこいだったよ。とはいえ、本当に難しいボスからは全部逃げていて、マレニアは倒せなかった。もう限界なんだ…」
一番良かったゲームは何でしょう?
「最近よく言われることだけど、”ゼルダの伝説 ムジュラの仮面” が一番好きなゲームだね。”時のオカリナ” も好きだけど、”ムジュラの仮面” はレベルが違うね。Nintendo 64の他のゲームのほとんどは、プレイヤーがある場所から別の場所に移動することが重要で、環境は背景に溶け込むようなものだった。しかし “ムジュラの仮面” は、じっくりと世界を探索し、そこに登場するキャラクターたちと交流することで、初めて成立するものなんだよ。
月が落ちてくる3日間で、時計塔の街が変化していく様子には、いつも驚かされる。市民たちのスケジュールが変わり、彼らとの関わり方によってすべてが違ってくる。ゲームって決してゲーム性だけじゃないんだなあと、子供のころに目から鱗だったんだ。それに加えて、超弩級のサウンドトラックとタルミナという舞台が、これ以上ないくらいにマッチしているんだよ」

そうした “良い” ゲームから学んだこともあります。
「可能な限り包括的で寛容で多様でありたいと思っている。僕は FLUMMOX というバンドの大ファンなんだ。そのバンドの僕らの親友 Max Moberry は、OTHERS BY NO ONE という別のバンドにも参加しているんだけど、彼らは…間違ったラベルを付けたくはないんだけど、そのコミュニティの一員なんだ。そして Max は僕らのアルバムにもフィーチャーされているんだ。”Moonlighter” の一番最後にね。
だから、僕たちはどんな生き方も歓迎するし、誰も排除したくはないんだ。むしろ、少数派の人たちにスポットライトを当てたい。OTHERS BY NO ONE は昨年 “Book II: Where Stories Come From” という素晴らしいアルバムを出していて、FLUMMOX は最近たくさんのライブをやっているよ。この2つのバンドとは Max のおかげでつながることができた」
トレカの収集にも余念がありません。
「”ハースストーン” は大学までずっとプレイしていたよ。物を集めるのは好きなんだけど、実際に物を買って集めるお金がなかったから、無料でゲームができるのは痒いところに手が届くというかそんな感じでね。2021年にBlizzard(Entertainment)が何かと物議を醸し、今のままでは応援できないと思い、その年の夏からプレイをやめたんだ。ちょうどその頃、同僚の多くが仕事帰りや昼休みに定期的に “マジック:ザ・ギャザリング” をプレイしていることを知り、僕も飛びついたんだ。
トレカにハマったのは、同年代のみんなと同じで、ポケモンカードが最初だよ。幼少期は絶対的なアイテムだったな。買いものに行くたびに親にカードをせがんだよ。これもみんなと同じように、実際のゲームの遊び方を知らなかったから、友達に見せびらかしたり、弟に自慢したりするためだけに、カードのお金をせびっていたんだ。それがきっかけで収集癖がついたというかね。その後、”遊戯王”、”マジック・ザ・ギャザリング” へと進んだんだ」

トレカの醍醐味とは何でしょう?
「一緒にプレイする仲間さ。コマンダー形式をプレイするので、だいたい4人組になる。確かに勝つために、できるだけ攻撃的になるゲームもあるけど、たいていの場合は、できる限り非常識なやりとりをしようと思っているんだ。テーブルで誰も見たことのないようなクレイジーなことが起こるのであれば、喜んでゲームに負けるよ。職場の Discord では、デッキのアイデアやルール、トレードなどについてみんなで話している。一緒にいて楽しいコミュニティだよ」
これから、ネットゲームやトレカ、テーブルトークRPG を始める人たちにアドバイスは?
「僕はストーリーを語るのが好きで、即興で人を笑わせるのが好きなんだ。僕がプレイを始めたのは、みんなで貢献できる方法で、お金もかからず、友達と面白い話をしたかったから。初めてプレイする人は、恥をかきたくないとか、オタクになるのが心配とか、いろいろな不安を抱えているし、それは理解できる。キャラクターを演じる “ということは、演じたことがない人” にとっては怖いことなんだよね。地元のゲームショップのイベントに行くのは、安全で歓迎される空間である限りオススメだよ。そこにいるほとんどの人は、たいてい新しい人にやり方を教えることにとても熱心で、理解を示してくれるはずさ」
音楽世界も同様に、初心者やバンドに寛容であるべきでしょう。
「人々はレコードを注文するべきだと思うし、好きなバンドから何かを受け取り続けるべきだと思う。音楽業界は今、バンドがツアーに出られなかったり、ツアーに出ても大赤字だったりと、良い状況ではないので、できる限りバンドをサポートし、クールな音楽を聴くべきだと思うよ」

参考文献: Level Up: The World Is Quiet Here’s Tyler Dworak on Video Games, Card Games, and RPGs

Interview with Tyler Dworak of The World Is Quiet Here

COVER STORY 【SLEEP TOKEN: EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW】


COVER STORY : SLEEP TOKEN “EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW”

Enigmatic Collective climbs to the top of the world in just two weeks!

SUMMON. RITUAL. WORSHIP.

時折、ヘヴィ・ミュージックの世界では突如として大化けするバンドがいますが、ニューシングル “Granite” をリリースしたばかりの謎のバンド SLEEP TOKEN の短期間での大化けぶりはこれまでに記憶がないほどの “バイラル” です。しかし、なぜこれほどまでに皆が彼らのことを話題にしているのでしょうか?
最近のリスナーの急増や新しいファン、評論家の流入がどうであれ、SLEEP TOKEN はまったく新しいバンドではありません。しかし今、世界中の音楽コミュニティが彼らの話題でもちきりです。わずか2週間の間にリリースされた4曲で、バンドはSpotifyの月間リスナー数100万人を突破しました。2週間でSpotifyの月間リスナーが4倍に。
4曲がリリースされる以前は、20万人強のリスナーだったことを考えれば、これは明らかに驚異的なジャンプです。さらに、2週間前の楽曲はすでに YouTube で100万回以上再生されており、最新シングル “Graniteも、20万回近く再生されているのです。しかし、この新たな快進撃は蜃気楼のようなものではなく、今や実体を伴った現象だと言えます。

SLEEP TOKEN の成功は、何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent のとポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。
SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。わかっているのは、バンドのリーダーが Vessel という名前で活動していることと、 “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)という2枚のフルアルバムがあることだけで、後者は、様々な媒体で2021年のベスト・アルバム・リストに選出されています。

SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。
デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。
SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン Chris が立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。
「ウェブサイトで Vessel のインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」
現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。
「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」
アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。
「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」と Chris は淡々と語ります。

神話に関する議論とは別に、Discord は人々を結びつける社交クラブにもなっています。「Discordのコミュニティは素晴らしい」と、ニューヨーク在住のファン、BluKittie ことヴェロニカは言います。
「世界中にファンがいて、バンドに対する同じ愛と情熱を分かち合っている。私たちはいつもお互いに助け合っているの。昨年、私の父が亡くなったんだけど、その辛い時にコミュニティのメンバーが助けてくれたし、今でもそうよ。そこで仲間に出会えたことが、とにかく幸せなの」
つまり、SLEEP TOKEN は、その秘密主義にもかかわらず、というよりも秘密主義であるがゆえに、急速にカルト的なセンセーションを巻き起こしつつあるのです。伝説の中心は Vessel ですが、SLEEP TOKEN は常に自分たちを “集団” と表現し、経験豊富なミュージシャンたちの共同作業を示唆し、全員が芸術に貢献していることを語っています。
SLEEP TOKEN のケースでは、SNS上の反応の大きさも手伝って、新曲は TikTok で爆発的にヒットし(TikTokは彼らが前作をリリースしたときよりも巨大なプラットフォームとなっている)、バンドが SNS で常にトレンドとなることで、見ず知らずの人たちがその騒ぎを目にしてファンとなる雪だるま式の効果もありました。

インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。
バンドへの期待値は、今後も上昇傾向にありそうです。Genius によると、具体的なリリース日は明らかにされていないものの、”Take Me Back to Eden” というタイトルのアルバムが進行中とのこと。
Spinefarm Records のウェブサイトでは、”Chokehold” と “The Summoning” について、「次に何が来るかは時間だけが教えてくれるが、確かなのは、それが慣習に縛られることはないだろう」と書かれています。

では、SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。

「ブラック・メタルと似ていて、マスクと謎めいた雰囲気が全体を引き締めているんだ」と Ihsahn は説明します。「そうしたシアトリカル、演劇的な要素がなければ、EMPEROR は今のような大きな存在にはならなかっただろうからね。そうやって、芸術とアーティストの間に明確な距離と空間が生まれる。デヴィッド・ボウイのインタビューを見ても、我々は彼を知っているようにはまったく感じられない。彼の作るアートはただ提供されるものであり、我々はそれを理解しようとするだけでよかったのだよ」
謎解きといえば、SLEEP TOKEN が次にどのような方向に進むのか、誰も知らないし、教えてくれようともしない。しかし、それはこのバンドが常にそうであったように、リリースのたび、ファンはその謎を解く楽しみを持つことができるのです。
「2ndアルバムを聴いたとき、彼らがどこへ行こうとしているのか全くわからなかったから、私の中では発展の種がたくさん生まれたんだ」 と Ihsahn は目を細めます。「今はより成熟し、明らかに彼らが目指しているものがある、でもそれが何であるかは言えないんだ……」

ライブでサポートを務めた AA Williams も SLEEP TOKEN に心酔する一人です。SLEEP TOKEN と同様、彼女の音楽はオルタナティブ、ポップ、ソウル、メタルと多岐に渡りますが、メタル世界にも受け入れられています
「私たちはとてもうまく調和していると思うわ。ポップな音楽とヘヴィな音楽の両方を、どちらかに偏ることなく追求できるアーティストを見るのは素晴らしいこと。ライブでは、そのダイナミクスに命が吹き込まれ、観客はまるで教会に行っているような気分になる」
SLEEP TOKEN の正体を明かそうとした人はいるのでしょうか?
「彼らのプライバシーを侵害しないように、また、アートを特定の方法で表現するという選択を尊重するようにしたいもの。もし、誰ですか?と聞かれたら、ロバート・デ・ニーロと答えよう」
Redditでは、このバンドの登場を GHOST に例えている人もいます。
「SLEEP TOKEN は新世代の GHOST のようなものだと思う。GHOST が過ぎ去った世代のメタル・スタイルと今の世代のポップセンスを融合させたように、SLEEP TOKEN は今日のメタル・サウンド(主にメタルコアやDjent)と近年流行しているポップ・サウンドを見事に融合させたんだ。そして、それがとてもクールなんだよ。だって、机の上ではうまくいかないはずなのに、実際にはうまくいくんだもの」

事実、”The Love You Want” や “Alkaline” に封じられた EDM とシンフォニック・メタルコアの婚姻は10代のTikTokユーザーにとってたまらない取り合わせでしょう。 ポップなフックを持つヘヴィ・ミュージックは確かに新しいものではありませんが、SLEEP TOKEN は誰よりも大きな力でジャンルの境界を溶かしています。そして、ヒップホップからプログ・メタルまであらゆるものを取り入れ、すぐに愛されるシングルをサプライズ的に散りばめながら、最も予想外の場所に力を見出す反抗的なメタルの旗をかざしているのです。
Redditの別のユーザーは、”The Summoning” に “衝撃を受けた” と述べ、このリスニング体験を”クソ超越的な経験” と驚きをあらわにします。また、Vessel が少し変わったボーカルアプローチをとっていることを指摘し、彼のスクリームを賞賛する人も多いようです。
「コーラスのバックで鳴っているあのうっすらとしたビープ音は、私を必要以上に幸せにしてくれる」と、別のファンはRedditで “Chokehold” について言及しています。「このバンドの、純粋なヘヴィ・ミュージックも好きだけど、ダークでポップな “ベイビー・ミュージック” を作ったときに本当に輝きを増すんだ」
SLEEP TOKEN を “Worship” “崇拝” するファンにとって、ライブはまさに “Ritual” “儀式” だと言えます。静まり返る会場で、バンドの神秘性の裏にあるメッセージや隠された意味、どんなサインでもいいから受け取りたいと、全員の目が仮面とマントをまとったシンガーに注がれます。Vessel は言葉というゴスペルの代わりに感謝の印に両手を合わせ、何も語らないことで全てを語ろうとし、皆の心を揺さぶります。
かつて Vessel は自分たちの音楽はすべて “スリープ” 、つまり何世紀も前にルーツを持つ眠りについた謎の神への奉仕であると語っています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」


参考文献: LOUDWIRE BLUNT  THE NEW FURY

LOUDERSOUND

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GALAHAD : THE LAST GREAT ADVENTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STU NICHOLSON OF GALAHAD !!

“I Think We Moved On From What You Would Call ‘Neo-Prog’ In Terms Of The ‘Sound’ Many Years Ago. I Think That These Days We Have Found Our Own ‘Sound’ Which Is Far More Diverse And Varied Than In The Early Days.”

DISC REVIEW “THE LAST GREAT ADVENTURE”

「最近は以前にも増して新しいプログ・バンドが増えているように思える。確かに、1980年代半ばに結成した当初は、それほど多くのプログ・バンドがいるようには感じなかったし、そうは思えなかった。でも、その頃はインターネットも Facebook もなかったから、コミュニケーションや意識という点では世界はもっと “大きく” て、もっと断片的な場所だったんだよ」
70年代を駆け抜けた偉大なる巨人が去りつつあるプログ世界。この場所はきっと、新たなヒーローを必要としています。しかし、SNS, キリトリ動画、倍速視聴…そんなインスタントな文化が支配する現代において、長時間の鍛錬や複雑な思考を必要とするプログレッシブ絵巻を描き出すニューカマーは存在するのでしょうか?同時に、プログはすでに “プログレッシブ” ではない、ステレオタイプだという指摘さえあります。
巨人の薫陶を受け、”ネオ・プログ” の風を感じ、38年この道を歩んできた英国の至宝 GALAHAD は、自らの経験を通してプログの息災と拡大を主張し、自らの音楽を通してプログ世界の進化を証明しているのです。
「僕たちは “ネオ・プログ” と呼ばれるような “音” からは、何年も前に離れてしまったと思う。最近は、初期の頃よりもはるかに多様で変化に富んだ自分たちの “音” を見つけ出していると思うんだ」
MARILLION, IQ, PENDRAGON。華麗と模倣の裏側にシアトリカルな糸を織り込んだネオ・プログの勃興から少し遅れて登場した GALAHAD は、長年にわたり様々なスタイルを経由しながらその存在感を高めてきました。 現在の彼らの形態は、エレクトロニカとメタリックを咀嚼したモダン・プログにまで到達。
ただし重要なのは、Stu Nicholson が語るように、彼らの現在地ではなく、常に挑戦を続けるクリエイティブな精神とメロディの質、そして感情の満ち引き。同郷同世代の FROST が、彼らと非常に似たアプローチでプログの救世主となったことは偶然でしょうか?きっと、旋律煌くノスタルジアと近未来、そして多様性がモダン・プログの浸透には欠かせないものなのでしょう。
「父はアウトドアやクライミングも好きで、ロンドン登山クラブに入会し、20世紀半ばに活躍したイギリスの著名な登山家エリック・シプトンと知り合いだったそうだよ。だから、アルバムに収録されているジャケットの写真は父のものにしたんだ。僕とはちがうけど、人はそれぞれが様々な方法でクリエイティブになれるんだ」
“登山家のプログ・ロック”。コンセプトや物語も重要となるプログ世界において、GALAHAD はこれまで以上に斬新なテーマを選択しました。高齢となった Stu の父親、その軌跡を讃えるアルバムにおいてバンドは、人はそれぞれがそれぞれの方法で創造的になれると訴えかけたのです。それもまた、”偉大なアドベンチャー” の一つ。
10分のタイトル曲は、グロベアグロックナーやヴィルトシュピッツェの伝説的な登山家たちを讃えるような、激しさと優雅さ、ノスタルジックで挑戦的な雰囲気がまさに “登山家のプログ”。ただ技術と難解をひけらかすのではなく、非常に人間的で感情的な挑戦を俯瞰的に見下ろします。
“Blood, Skin, and Bone” と “Enclosure 1764” の組曲は、プログ世界が必要とするキラー・チューンでしょう。GALAHAD が得意とするエッジと哀愁が効いていて、輝かしいコーラスはアルプスのように何層も重なり高くそびえ立ちます。女性ボーカルのハーモニーはオリエンタルで斬新。何か少し硬質で不気味な感じ、特に後半のスポークン・ワードが独特の世界観を纏います。そこから童謡的で映画的で思慮深い “Enclosure 1764″ の、不吉で社会批判に満ちたイメージへの広がりが群を抜いています。さて、プログは本当に死んだのでしょうか?否。むしろプログに侵食されている。あの CRADLE OF FILTH でさえも。
かつて Stu が門を叩いた MARILLION の現在地と比較するのもまた一興。今回弊誌では、円卓の歌い手 Stu Nicholson にインタビューを行うことができました。「”プログ世界をリードする” というのは、”プログ” というジャンルが非常に多様なために、かなり負荷のかかる文言だよね。もちろん、そうであれば最高なんだけど、正直なところ、我々は自分たちがやることをやり、自分たちの音を掘り下げ、その旅の途中で数人のファンを得て一緒に進んでくれることを願っているだけなんだ」 どうぞ!!

GALAHAD “THE LAST GREAT ADVENTURE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【POLYPHIA : REMEMBER THAT YOU WILL DIE】


COVER STORY : POLYPHIA “REMEMBER THAT YOU WILL DIE

“I’m Gonna Grow Up And Be a Rock Star, And Just Truly Believing That.”

REMEMBER THAT YOU WILL DIE


「中学2年生の時にマリファナを吸い始めた。それが僕の人生の中で大きな意味を持つようになったんだ。テキサスに住んでいたから麻薬所持で逮捕されたけど、それが僕のキャリアに火をつけたようなもの。僕は保護観察中で、1年間、学校に行って、家に帰るだけだったんだ。人を呼ぶことも、友達の家に行くことも許されなかった。それで、ギターを本当に、本当に、本当に上手になろうと思ったんだ」
16歳になった POLYPHIA の Tim Henson は薬物所持で2度、法に触れてしまいました。テキサス州のように薬物犯罪が特に重く処罰される州では、尚更居場所を失います。今、28歳の Tim は、「毎日マリファナを吸える仕事に就いたんだ」と皮肉を込めて話します。「でも、”言霊” ってあるんだよね。小学校6年生のとき、”僕は Tim Hendrix。大きくなってロックスターになるんだ” って、みんなに宣言して、本当にそう思っていたんだ。だからね、意識の顕在化、決意表明。その力が本当に重要だと思うんだよ」

麻薬所持の罪で、Tim は保護観察や外出禁止処分となり、一人でいることが多くなりました。しかし、その時間をすべて使ってギターの練習を続け、貪欲に最高のミュージシャンを目指したのです。中国からの移民である母親は、息子がアメリカで得られるチャンスを最大限に生かすことを決意します。3歳のときから Tim はヴァイオリンのレッスンを受け始め、幼少期に長時間の練習に対する耐性を養いました。間違うと先生に弓で手を叩かれることもあり、決して楽しいものではありませんでしたが、彼はこの経験に感謝しています。
「多くの移民が、アメリカはチャンスの国だと考えている。だから、若いうちから何かを始めさせる親が多いんだ。乱暴な先生で、当時はかなり嫌だったけど、今思えばおかげで規律を学べたし、集中し、鍛錬し、練習することで、何事も上手になることを理解できたんだ」
10歳のある日、Tim は父親がギターを取り出すのを見ます。それまで父親がギターを弾くということを全く知らなかった彼は、その楽曲に興味をそそられました。「父親の BLACK SABBATH のコレクションから曲を選んで、耳コピを始めたんだよね。サバスは耳コピが簡単なんだ。全部Eマイナーのペンタトニックだから。そして、15歳になるころには、ヴァイオリンの気晴らしでギターを始めたのに、完全にヴァイオリンを捨てていたよ」

Tim が中学生の頃は、CHIODOS, TAKING BACK SUNDAY, FROM FIRST TO LASTなどが流行っていて、長い前髪に血行が悪くなるほどきついジーンズをはいた仲間に囲まれていました。
「年上の子たちが夢中になっていたクールなバンドだった。メロディーのいくつかは信じられないし、楽器編成も本当にユニークだと思ったんだ。ビートルズ、ジミヘン、サバスなど、古いロックしか知らなかった僕は、現代のバンドがやっていることを聴いて、特にロック的なソロとより現代的でテクニカルなリフを融合させることに、革命的な感覚を覚えたんだよね」
高校に入ると、ほとんどの同級生がシーンを卒業し、より “普通” の趣味を追求していました。しかし、Tim はまだ WHITECHAPEL を聴くことで満足していました。それでも彼は、”メインストリーム” の音楽と、それがなぜそんなに人気があるのかについて、好奇心を抑えることができなくなったのです。
「僕はメインストリームの曲を聴きに行き、なぜ多くの人々が好きなのかを理解しようとしたんだ。メタルは非常にニッチだから、僕はより多くの人に届く音楽を評価するようになっていった。何が親しみやすいのか、なぜ多くの人が共感するのか、音楽にあまり興味のない人たちでさえも。以来、その理由を分析するようになったんだ。僕自身はメインストリームの音楽に個人的に共感していたわけではなく、ただ馴染もうとしていただけなんだけどね。だけど、好きなもののために仲間はずれにされるのは、いい気分ではないからね。とはいえ、メインストリームの音楽の多くに純粋に感謝するようになったんだ」

こうした影響はやがて、Tim が2010年から活動しているバンド、POLYPHIA で作る音楽にも滲み出るようになりました。新譜 “Remember That You Will Die” は、ポップ、ファンク、EDM、Djent といった多様な絵の具をキャンバスに投影した、カルテットにとって最もカラフルでエクレクティックな作品と言えるでしょう。”オマエはいつか死ぬ。忘れるな” というタイトルは、ラテン語の格言 “Memento Mori” をロックンロールの流儀で翻訳した、羊のメタル皮を着た狼の残虐。
「人間は死が避けられないことを自認しているから、生の限られた時間を使って、永遠に存在し続けることができるものを発明しようとする。芸術家は想像力を駆使して、歴史に残るようなものを創り出すんだ。人工知能が発明され、それがアートやテクノロジーに応用されるようになると、人間の思考とコンピューターの思考のギャップを埋める方法が見つかる。 この2つをつなぐことは、最終的に人間の経験の永続性につながり、それは人間が不老不死になることに最も近いと言えるんだ。アルバムのタイトルは、このアートと結びついているんだ」
つまり、POLYPHIA の発明とはジャンルのステレオタイプを気にかけないこと。それが彼らの成功の礎です。彼らは MySpace でデスコアをイメージさせる10代の若者としてテキサスから現れたましたが、彼らをスターにしたのはそのブレイクダウンではなく、21世紀で最もジャンルを打ち破るリックをいくつも生み出したから。ファンク、マスロック、ヒップホップをミックスしたインストゥルメンタル・ジャムは、YouTube で何百万もの再生と Instagram のフォロワーを獲得しました。
「僕たちは何からでもインスピレーションを受ける。過去数枚のアルバムからギターを取り除き、ドラムとベースだけを聴くとしたら、トラップ・ビートやフューチャー・ベース・ビートが残る。もしギターを外して、演奏しているものにボーカルを加えても、やっぱりそう聴こえるだろう。つまり POLYPHIA でギターっぽいのはギターだけで、あとは人間がプログラムされたパートを演奏しているだけなんだ」

POLYPHIA にとって2013年にリリースしたシングル “Inspire” のプレイスルービデオは、最初のバイラルへの扉を開いた楽曲です。3ヶ月で25万の再生数を獲得。Tim は当時の自分たちが “天狗” になっていたと認めています。ただし、そうした “思い上がり” の顕在化が彼らを上へと押し上げて来たのは明らかな事実です。
「僕たちは間違いなくクソガキだった。子供は子供だ。高校生の頃、生活のためにツアーをするのが夢だったんだ。それから数年後、僕たちは実際にそうしていたんだから。それから、”もっと大きくなれたら、かっこいいな!” と思っていたんだ。だから “自分たちは素晴らしい。僕がキッズだったら、僕らが一番好きなバンドになるだろうね。それくらい僕たちの音楽はクールなんだ” なんてインタビューで普通に答えていたんだよ。今は歳をとって、作品に語らせたいんだ。今はもう言うことがない感じかな。僕たちはまだ自分たちがイケてると思っているけど、そのことについて愚かな雁字搦めになる必要はないってことを学んだんだ。前頭葉が発達しているときは、成長するのに時間がかかるんだよ」
ただし、過去の思い上がりに反省もあるようです。
「今はすごく練習してるよ。以前は “最もプロ意識のないプロフェッショナルなバンド” なんて言っていたけど、今は年齢も上がったし、これは自分たちの生活の一部だから、とても真剣にやっている。僕らの作品は演奏するのがとても難しいし、ファンを失望させたくはないんだ。自分たちのケツくらい自分たちで拭けないと。練習していないなんていうのは、ずいぶん前のクソみたいな発言の一つだよ」

POLYPHIA は、半分プログレッシブ・インストゥルメンタル・バンドで、半分オンライン・インフルエンサーだと言えるのかも知れませんね。バンドが2016年に “Euphoria” のビデオを公開した際、半裸のスーパー・モデルをサムネイル画像として起用したところ、400万人を数える人々にクリックバウトされました。YouTube のトップコメントにはこう書かれています。”彼らはとても賢い。美しい女性の画像を使って、騙して素晴らしいギター・バンドを発見させるなんて。ありがとう”
「POLYPHIA は意識的に2つの非常に異なるオーディエンスを一緒にしようとしたんだ。一つはギター・マニアとオタク。もうひとつは、ジャスティン・ビーバーや ONE DIRECTION のキッズだった僕らと同世代の女の子たちだ。それが目標だったんだけど、何年もかけて、自分たちではない何かになろうとすることを減らして、自分たちでいるようになったんだ。今でも男性中心だけど、ライブでは女の子がたくさんいるんだよ」
Ichika Nito、Mateus Asato、Yvette Youngといった才能あるアーティストを起用した 2018年の3rdアルバム “New Levels New Devils”。彼らのプロモ写真には、メルセデスに腰掛け、まるでクールなキッズのような格好をした4人組の姿が写っていました。テック・メタルを愛する若者たちにとって、それはある意味冒涜的な行動でしたが、Tim は当時、重要なことはクールであることと女の子にモテることだったと胸を張ります。
「2004年の “St Anger” で、METALLICA のプロモを見たんだ。彼らは全員メルセデスでリハーサルスペースに乗り付けたんだ。すげーカッコいいと思ったんだ。その時、自分たちを世界最大かつ最高のメタル・バンドと呼ぶというミームを思いついたんだよ。それに、僕らがもっとビッグになりたいと思っていた頃、ONE DIRECTION はまだ存在感を示していた。僕たちは、”よし、彼らがやっていることをやろう。明らかに女の子が好きなことだ” と思ったんだよな」

“The Most Hated” という明らかにノンギターな EP は、ファンたちの頭を悩ませ、中には逃げ出してしまった人もいました。
「あのリリースで、”俺たちが先にいたから POLYPHIA は俺たちのものだ” みたいな気取った老害的ファンを排除したんだ。彼らは僕たちの以前の作品を気に入っているから、それはそれでよかったんだ。結果として、新しいファンを獲得することができたからね。アマチュアから現在のようなバンドへと成長できたのさ。このアルバムも、半分は既存のファンのため、残りの半分は新しいファンのために作ったよ」
ボーカリストがいないことで、当初は多くのリスナーにとって眉唾ものでしたが、Tim はむしろインストであることがバンドに大きな創造性と可能性をもたらしたと考えています。
「より多才になれるし、より多くのコラボレーションが可能になるんだ。僕が本当に理想としているビジネスモデルは、EDMがすごく流行っていた2015年から16年ごろ、Zedd と Alessia Cara みたいな DJ とポップスターとのコラボも盛んで、同じ DJ があらゆるポップスターとコラボしてスターのキャリアを飛躍させるようなシステム。POLYPHIA のアイデアは DJ なんだよね。どんなシンガー、ラッパー、メタル・ボーカリスト、楽器奏者、DJ、プロデューサーともコラボできるんだ」
Chino Moreno や Steve Vai、ラッパーの Killstation や $not、ポップスターの Sophia Black など、”Remember That You Will Die” の豪華なゲスト陣を見れば、POLYPHIA の生み出したモデル・ケース、その影響力が浮き彫りとなります。

特にあの7弦楽器のパイオニアは、グランド・フィナーレ “Ego Death” の最後に登場し、歪んだソロで POLYPHIA の地平を切り裂きます。POLYPHIA にとってこれは記念碑的な出来事であり、Tim はあっけからんと “興奮している” と主張しますが、ここにも POLYPHIA 座右の銘である “気にかけない” が浸透しています。
「2020年に、Steve が NAMM ショーでオープニングをやってくれと頼んできたんだ。その後、僕らは DiMarzio のパーティに行って酔っ払って、彼に “ねぇ、僕らの曲で弾いてくれない?” って頼んだんだよ。そしたら、彼は “もちろん!” って感じだった。数年後、曲ができて、彼にメールを送ったんだ。そして “Ego Death” が完成したんだ」
例え Steve Vaiのような有名人であっても、POLYPHIA はアンチソロ、メロディ優先のビジョンを維持するためにその演奏に手を加えています。最近のインタビューで Vai は切り刻まれたギターソロに驚いたと語っています。
「通常、俺が誰かのために何かを弾くとき、依頼者はそのままの形で受け取るんだ。でも POLYPHIA はとてもクリエイティブで、何かを操作するのが好きなヤツらだ。ただ、最初に聴いたときはあまりに違っていたから、もしかしたら、俺のやったことが気に入らないのかもしれない!と思ったんだ (笑)」
このアルバムでの限界を超えたギター・プレイに対して、Tim は指板のコミュニティで使われているある言葉に異議を唱えています。
「僕たちがやっていることを “シュレッド” とは呼ばないよ。だって、それぞれの曲で1つか2つのモチーフがって、それがたくさんの音符に広がってから、メインのモチーフに戻ることに気づくでしょ?みんな、シュレッド “という言葉の周りで踊っているんだよ。80年代にスーパー・クールだったものを、今の時代にそのまま再現したってクールな訳ないよ。だって時代が違うから。大半のギターインストには緩やかな死を与えるべきかもね。僕たちはたくさんの音を弾くためのシュレッドではなく、音楽を補完するための正しい音を弾いているんだ。しかも、より速くね。メタル・バンドは儲からないからクールじゃない。ギターが中心になっているものは、文字通りソロにソロを重ねただけのものばかりだ。僕たちは確かにソロにソロを重ねたレコードを作ったけど、その間にフックもあったんだ」

“Playing God” では初めてナイロン弦のギターを使い、トラップ・ビートと溶け合わせました。
「フラメンコやボサノバをよく聴くわけじゃない。この曲をアル・ディ・メオラやパコ・デ・ルシアと比較する人もいるけど、僕は聴いたことがないからね。ただ、最近、ハーモニック・マイナーを再発見してね。このギターで弾くとそんな感じになるんだよ。それに、作曲する時は、最も”裸”の状態で完璧な音を出すべきだ。ナイロン弦で良いサウンドなら、どんな楽器に移行しても良いものになる。ただし、エレキより正確に弾かなければならないし、指の肉は安定してあるべき場所に正確に置かなければならないんだ」
Chino Moreno が参加した “Bloodbath” では、オールドスクールなギターソロを Scott が披露しています。
「Scott のソロの中では一番好きなんだ。彼は Dimebag や Wes Hauch、そして FACELESS “Planetary Duality” を少しチャネリングしたと思う。ALLUVIAL のアルバム “Sarcoma” での彼のギター・ワークはすごいよ。めちゃくちゃ聴いたよ」
TikTok やボカロが元となった “ABC” も POLYPHIA のアンテナの敏感さを証明しています。
「今、TikTok にアクセスすると、AC/DCの”Thunderstruck”をプレイする子供がいたりする。それにみんなが狂喜乱舞しているんだ。長い間、ラジオには存在しなかったギターソロを子供たちが発見したんだよ!それは素晴らしいことだ」
つまり、POLYPHIA のアンテナが倒れることはありません。
「先日、BRING ME THE HORIZON のライブを観に行ったんだけど、すごく衝撃的だったよ。僕たちはずっとメモを取りながら見ていたんだ。その前の週は MESHUGGAH を観たんだ。僕はあらゆる種類の音楽を純粋に評価しているからね。僕はポジティブなエネルギーしか持っていないんだ。自分がポジティブに感じた音楽を聴いた時と同じように、子供たちが僕たちの音楽を聴いてくれることを願っているよ。そして、その子供たちが成長して、ドープなことをするようになればいいな」


参考文献: KERRANG!: “The power of manifestation is really important”: How Polyphia’s Tim Henson became the guitar hero metal needs

GUITAR.com: “We were little pieces of shit”: Polyphia on teenage fame and making music with Steve Vai

GUITAR WORLD: Tim Henson and Scott LePage on how Polyphia made the wildest guitar album of 2022: “We were like, ‘F**k. Did we just blow out Steve Vai’s speakers?’”

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【PORCUPINE TREE : CLOSURE/CONTINUATION】


COVER STORY : PORCUPINE TREE “CLOSURE/CONTINUATION”

This Is Not a Reunion, Porcupine Tree Has Never Broken Up, Just Like Tool Is Coming Back 15 Years Later With a New Album. We Were Even Earlier, Right?

CLOSURE/CONTINUATION

「これは再結成じゃない。PORCUPINE TREE は一度も解散していないんだ。TOOL が15年後に新しいアルバムで戻ってくるのと同じことだ。私たちの方がもっと早かったくらいだろ?」
12年前、ロイヤル・アルバート・ホールのステージから降りたとき、現在の PORCUPINE TREE 3人のメンバーのうち2人は、バンドがまだ存続していると考えていました。しかし、フロントマンでギタリストの Steven Wilson だけは、少なくとも当分の間は、このバンドはもう終わりだと判断していたのです。ただ、彼はバンド・メンバーにそのことを告げませんでした。マネージメントにも。レーベルにも。一切誰にも。
Steven Wilson。この英国人音楽家のバックカタログは、多彩なソロアルバム、No-Man、Blackfield、I.E.M、Storm Corrosion、Bass Communion、そして復活を遂げた PORCUPINE TREE と、多様なプロジェクトやコラボレーションを量産しています。もちろん、他のアーティストの作品をドルビー・アトモス音響にリミックスすることもあり、スタジオにいないときはワールドツアーを行っています。
ファンの間では長年の議論があります。Wilson は休暇を取ったことがあるのだろうか?
「PORCUPINE TREE のアルバムが終わったら、次のソロアルバムもほとんど書き終えているんだ。あと今、10枚くらいのアルバムをリミックスしているんだ。それから、家庭生活も素晴らしいよ」
Wilson は1987年、XTC の “Dukes of Stratosphere” のような、英国の伝統的サイケデリック・ロックのオマージュとして、PORCUPINE TREE を始めました。しかし、彼はそこに閉塞感を感じていました。そもそもサイドプロジェクトとして始めたものが、人々が彼を知るきっかけとなり、さらに多くのものを提供することを期待されるようになったのですから。
「これは私がやるべきことではないと思い始めたんだ。たしかに、PORCUPINE TREE は私の音楽人生のすべてを支配するものではないはずだった。他のミュージシャンとも仕事をしたかったし、他のスタイルの音楽もやりたかったんだ」
Wilson は当時、ドラムの Gavin Harrison やキーボードの Richard Barbieri から、自分が注目を浴びていることに憤りを感じ、自分の音楽性が批判されているように感じたといいます。
「バンド内で特に好かれているとか、尊敬されているとかいう感じはなかった。正直なところ、メンバー間の関係はいつも少し…”冷え切っている” という言葉は適切ではないかもしれないけど…私たちは人間として全く違う存在なんだ。実際のところ、例えば私のソロ・バンドにはいつも喜びがあったのに、PORCUPINE TREE が素晴らしかったという記憶はないんだ。ソロ・バンドではとても楽しかったけど、PORCUPINE TREE では、いつも少し憤りを感じていた。私はフロントマンになるつもりもなかったし、フロントに立つのは少し嫌だと感じていたんだ。フロントに立っていると、いつもちょっと詐欺にあったような気分になるんだ。
リード・ギター・プレイヤーであることに、いつも若干の詐術的なものを感じていたんだ。それに、技術的な能力という点では、自分がこのバンドで一番弱いミュージシャンだということを強く感じていたんだと思う。でも、ほとんどの曲を書き、ほとんどのインタビューに応じ、バンドの中心的存在だった。それを感じたのは、おそらく私が初めてではないだろうがね。Roger Waters なんかは、私の大好きな PINK FLOYD の中で、明らかに一番弱いミュージシャンだからね。
ただ、バンドが活動を停止し、お互いに距離を置いたことで、人間関係はより良くなったと思う。このアルバムを作るのは、過去のどの PORCUPINE TREE のアルバムよりも楽しかったと思う。それは、自分がただバンドの一員、チームの一員であることを許したからだと思う。私はもともと、チームプレイが苦手で、支配的な性格なんだ。だから、ソロのキャリアが確立され、時間が経って、自分も少し穏やかになった今、今度は自分自身を共同作業の一部にすることが、ようやく楽しくなったんだと思う」

他のメンバーから、今回はインプットを増やしたいという申し出はあったのでしょうか?
「いや、その反対だ。PORCUPINE TREE のレコードを作るなら、君たちにも書いてもらいたいと言ったんだ。というのも、その時点(2012年、2013年)で、私はすでにソロで2枚ほどアルバムを出していたからね。だから、私が一人で PORCUPINE TREE の新譜を書いて、それを持ちこんで、歴史的にそうであったように、”みんな、PORCUPINE TREE の新譜ができたよ” と発表することに何の意味があるんだろう、というのが私の視点だった。それなら、ソロのレコードとして作ることもできるんだ。だから、私にとっては、これをやるなら、物事を変えようということだったんだ。実際に集団で書いてみようと。とはいえ、ほとんどの曲は私と Gavin、または私と Richard のデュオ形式で書かれているけど。要は、新しい曲や新しいアイデアを思いついた瞬間から、常に誰かとの共同作業が行われていたんだよ。だから、私が法律を作ったとは言わないけれど、新しいレコードを作るなら、共作でなければならないということを原則の1つにしたんだ。もちろん、彼らはそれを気に入ってくれた。ある意味、これまでそうでなかったことに不満を持っていたようだけど、今回はもうすべてをコントロールする必要性を感じなくなったんだよね。それは、私にとっても、彼らにとっても安心できることだった」
ソロでの成功は、Wilson に何をもたらしたのでしょうか?
「フロントマンとして、シンガーとして、より自信を持てるようになったと思う。皆が口を揃えて言うのは、このアルバムのボーカルはより自信に満ちていて、よりソウルフルで、より多様に聞こえるんだそうだ。これは、シンガーとして、またフロントマンとしての役割を快適にこなせるようになった結果なのだろうね。もうひとつ、私のソロ活動で特筆すべきことは、ギタリストではなかったということ。ギターは弾くけど、キーボードも弾くし、歌も歌うし、いろいろなことをやった。でも、Guthrie Govan, Dave Kilminster など、私のライブバンドにはいつも “スーパースター” 的なギタリストがいたんだ。だから、自分をギタリストと考えるよりも、フロントマン、フォーカルポイント、リードシンガーであることを許せたんだと思うんだ」

故に当時 Wilson はわざわざ彼らに何かを伝えることはありませんでした。彼はただ去り、PORCUPINE TREE は永久に未解決の案件となったのです。数年間、他の2人は Wilson が戻ってくるのを待っていました。しかし、彼がソロ・キャリアについて語り、自分たちのバンドへの関心を否定するようなインタビュー記事を読んで現状を知ります。
1982年末に David Sylvian が JAPAN から去ったときと同じ状況に陥った Barbieri は、苦い思いと傷みを感じずにはいられなかったと言います。
「批評的にも商業的にも成功したところまで来て、まさにその時点で、置いてけぼりにされた。メンバーがただ続けるのは簡単ではないよ。そこからキャリアに踏み出すまでには、かなりの時間が必要だ。でも、フロントにいる人 (Wilson) は、同じマネージャー、同じレコード会社、同じファンベース、同じ出版社、同じプロモーター、同じエージェントと一緒にやっていける。だから、彼らにとっては、とても楽なことだった。でも、同じように時間をかけて仕事をしてきた人たちを残していくわけだからね…」
Harrison は Wilson の近くに住んでいて、2012年からもしょっちゅうジャムっていたので、インタビューにはあまり動じなかったと語っています。
「まあ、先週彼とお茶を飲んだんだけど、彼は僕にそんなことは言わなかったよって思うんだ。でも、Steven からすれば、自分が始めたバンドと自分自身、彼の頭の中で起こっている2つの異なることの間で、どこか内輪もめをしていたのだと思うし、少なくともファンには、PORCUPINE TREE がいつ復活するかよりも、自分のソロ活動に目を向けてほしかったのだろうね」
Wilson が PORCUPINE TREE の将来について言及することを拒否し続けたことは、幸か不幸か彼らが不在の間にバンドの伝説が大きくなることを意味していました。彼らは “逃亡したプログ・バンド” となったのです。この言葉を嫌う Wilson にとっては、必ずしも喜ばしいことではなかったかも知れませんが。
「このプロジェクトは、2012年に私と Gavin がジャムるところから始まった。だから、もしこのアルバムを作るなら、オンラインでストリーミング配信だけにして、大々的に発表しないほうがいいんじゃないか?ライヴもやらずに、ただ音源を出すだけでいい。そして、まあ大きなショーを1回だけやるか、ヨーロッパとアメリカで大きなショーを1回ずつやるかという感じになったんだ。
でも、マネージメントやレコード会社との交渉が始まると、このした控えめなレコードを作るという計画はすべて水の泡になった。素晴らしいことだけどね。人々が興奮しているんだから。ただ、私たちが不在の間に伝説が大きくなったのには驚いたよ。2010年当時、私たちが活動を休止したころには、2022年に私たちが演奏するような会場で演奏することは決してできなかっただろうからね。アルバート・ホールで一晩やったのが、僕らのイギリスでの軌跡の頂点だったんだ。その後、ソロ・アーティストとしてアルバート・ホールで何度も公演を行ったけど、今回、PORCUPINE TREE はそのすべてを飛び越えて、ウェンブリー・アリーナをソールドアウトさせるんだ。それも1万2000人規模の。すごいことだよ。だから、”不在は心を豊かにする” ってことわざを地で行くようなものだよ」

不在といえば、昔からのファンはベーシスト Colin Edwin の不在を驚いたはずです。
「大きなストーリーがあるわけではないんだ。小さなことがたくさん重なって、このような形になった。まず、このプロジェクトの発端は、ある日 Gavin の家にふらっとお茶を飲みに行ったときに、彼がジャムをしようと言ってきたこと。彼のスタジオを見回すと、ギターはなかったけど、ベースがあった。それで私はベースを手に取ったんだ。そして、初めて一緒になった時、このアルバムの冒頭を飾る “Harridan” のグルーヴをジャムり始めたんだと思う。そんな感じで、わざわざギターを持っていかなくても、ベースを弾くのが楽しいというセッションが何度かあってね。多くのギタリストがそうであるように、私もベースを手にすると、ギタリストのように弾く傾向がある。だから、メロディーを弾いたり、コードを弾いたり、”ちゃんとしたベーシスト” がやりそうもないようなことを、かなり高いレベルでやってしまうんだ。だから、このアルバムの根幹、つまりDNAは、私と Gavin がジャムって、Colin のスタイルとは全く異なる私のスタイルでベースを弾くことによって構築されたんだ。だから、そういう意味では、3、4曲できた時点で、”ああ、じゃあ、このアルバムのベースは私だな” と、ちょっとした既成事実ができたんだ。
でも、他にもいろいろあったんだ。Colin とは何年も音沙汰がなかったしね。2010年に全員が別々の道を歩むことになったんだけど、Richard と Gavin からは定期的に、”いつ新しいことをやるんだ?” “一緒にやろうか?” “食事でもしようか?” “お茶でもしようか?” という連絡があったんだ。Colin からは、いまだに連絡がないんだよ。だから、彼は新しいことに積極的に関わろうとはしなかった。でも、私が思うに、バンドのクリエイティブな中心は常に私たちら3人だったんだ。Gavin は複雑なドラムや拍子記号、ポリリズムに興味を持ち、Richard はサウンド・デザインや質感のあるキーボードプレイに重点を置いている。この2つの要素が、私のシンガー・ソングライターとしての感性にフィルターをかけているんだ。また、最初のころの話になるけど、PORCUPINE TREE はソロ・プロジェクトとしてスタートしたから、当然私はベースを弾いていたんだよ。最初の3枚のアルバムでは、私がベースを弾いていた。その間にリリースされた曲でも、より自分のスタイルに合ったベース、よりアグレッシブでよりギターに近いスタイルでベースを弾いていた。2002年の “In Absentia” や2005年の “Deadwing” でもベースを弾いているから、まったく前例がないわけではないんだ」
ちなみに、Colin Edwin のステイトメントはたしかに Wilson の言葉を裏付けます。
「PORCUPINE TREE の新しいバンド活動や作曲セッション、再活性化の可能性については、長い間、何の兆候も示唆もなかった。私のバンド O.R.k は2019年に (Gavin の) PINEAPPLE THIEF とツアーを行い、私たちは皆仲良くなったけど、Gavin からは PORCUPINE TREE の新しい作品の可能性について全く言及がなく、他の誰からも何も言われていなかった。だから、2021年3月、Steven からメールが来て、新しいアルバムが作られていて、彼はすでにすべてのベース・パートを演奏しているので、”君の役割はない” と言われたのは驚きだったんだ。その後すぐに彼の弁護士から連絡があった。それ以来、誰からもまともな連絡はない」

これだけ長い間離れていると、ケミストリーの心配を感じるかもしれませんが、それは完全なる杞憂。ニューアルバム “Closure/Continuation” のオープナー “Harridan” を駆け抜けるトリオは完璧にシンクロしているように見えます。ベースとドラムが夏草のつるのように複雑に絡み合い、その上をキーボードが波のように押し寄せ砕け散る。それは、複雑でとげとげしく、しかしメロディアスなまごう事なき PORCUPINE TREE の音の葉です。
実は “Closure/Continuation” は、PORCUPINE TREE が終わったと思われた頃から制作されていました。つまり、Wilson と Harrison が過去10年に渡って行ってきたジャムが、ロックダウン中に再訪されたのです。Barbieri が後年 Wilson に送ったテープも、曲として仕上げられていました。3人はすべてのレコーディングを自宅で行い、それゆえに2010年以降一緒に演奏することはありませんでしたが、結局誰にも知られることなくニュー・アルバムを制作することが可能となったのです。つまり、バンドは解散ではなくあくまでゆっくりと動き続けていたのです。Wilson が説明します。
「ああ、明らかに私たちはこの作品に取り組んでいることを隠していたから、多くの人が PORCUPINE TREE は終わったんだろうと結論づけたんだ。というのも、このバンドが1枚のアルバムを作る間に、私は5枚のソロ・アルバムを作っているからね。1年、あるいは2年という長い時間をかけて心血を注いだ自分の作品のプロモーションをしているときに、誰かが PORCUPINE TREE について聞いてくれば、”もういい、バンドは終わったんだ” と答えることもあるよ。何よりもフラストレーションから。まあそのことが、私たちがチームとして一緒に音楽を作るのをやめたという、人々が抱く誤解の信憑性につながったのはたしかだけど。でも、実際には、私たちはこの作品に10年以上も取り組んできたんだよ。それが長引けば長引くほど、もし戻ってくるなら、本当に強くて、これまでやってきたことと同じくらい良いものでなければならないと感じるようになったんだけどね」
PORCUPINE TREE に戻ることは “後退” だと語っていた時期もありました。
「私のキャリアで初めて、”ファンが望むものを提供する” と見られる可能性があったから。私はその原則に嫌悪感を抱いているからね(笑)。私は常々、偉大な芸術とは…私自身が偉大な芸術家であるとは思っていないけど、少なくとも誠実な芸術家とは、期待に応えるのではなく、常に期待に立ち向かうべきであると考えている。今回の作品は、最近の記憶では初めて後者を実践していると言えるかもしれないね。私は、このレコードが “同じことの繰り返し” ではないという信念を持っている。PORCUPINE TREE のレコードの真髄を感じながらも、同時に何か新鮮なサウンドでもあるんだ。
もし、このアルバムが単にこれまでと同じようなものだと感じていたら、リリースに踏み切らなかったと思うんだ。私がベースを弾いていること、皆で一緒に作曲したこと、ヘヴィなギターが強調されていないこと…このアルバムには、これまでのアルバムとは違う点がたくさんある。もしかすると、私のキャリアを広く見れば後退しているように見えるかもしれないけれどね。でも、私のソロ・キャリアはまだ続いているし、次のレコードもすでに書き終えている。だから、その点では、今は2つのことが共存しているんだ」

伝説を築き上げたのは、SNS の発展でしょうか?それともソロ活動での成功でしょうか?
「両方だね。そのすべてが関係していると思うよ。私のソロ活動を通じて PORCUPINE TREE の知名度を上げ続けたこと、Gavin が KING CRIMSON とツアーを行い、彼を通じて人々が PORCUPINE TREE について調べるようになったこと。それに、私たちが PORCUPINE TREE でやったことは…当時は認めなかったとしても、今になって振り返ってみるとよくわかるんだけど…今でも完全にユニークに聞こえる。複雑でコンセプチュアルなロックという要素、Richard のサウンド・デザインやキーボードのテクスチャーへのアプローチ、Gavin のポリリズムへの憧れ、私のシンガー・ソングライターとしての感覚、さらには電子音楽や産業音楽、メタル音楽の要素などと融合させて、完全に直感的で無意識な方法ですべてをまとめ上げていたからね。つまり、私たちは “プログレッシブ・ロック” と呼ばれているけど、当時作られていた他のどのプログレッシブ・ロックとも違うんだ。そして、それはその後も真似され続けている。でも、私たちは今でも他の誰よりも上手くやっているよ(笑)。新譜を作った今、本当にそう思っているんだ」
PORCUPINE TREE の新作と Steven Wilson のソロ作の違いはどこにあるのでしょう?
「例えば “Closure/Continuation” を聴いて、”The Future Bites” と比較すればとてもとても違うのはすぐわかる。もちろん、共通点はあるんだけど、それは私の音楽的な個性だから。それは隠そうとしても隠せないよ。自分ではすごく変わっていると思っていることをやって、親しい友人や家族に聴かせても、私の声しか聞こえないんだから!結局、何をやっても私の音にしか聞こえないんだ。だから、自分の個性を埋もれさせたくても埋められないんだ。でも、このレコードのタイミングは面白いと思う。私にとっては、PORCUPINE TREE が戻ってくる完璧なタイミングだと感じているよ。”Cannot. Erase.” などのアルバムでは、ファンか”あれは簡単に PORCUPINE TREE のレコードになり得た” と言われるような瞬間があったんだ。でも、”The Future Bites” のようなアルバムを聴くと、そうではないと思う。あれは、私が PORCUPINE TREE と一緒に作ったようなレコードではないからね。もっとエレクトロニックで、ギターを強調せず、ロック的な要素を排除している。PORCUPINE TREE はどのような存在であれ、またどのような存在になったとしても、明らかにロックバンドのようなサウンドを奏でているから」

近年、音楽業界はアルバム文化よりも SNS、特に TikTok に力を入れています。
「私は年寄りなので、TikTok の印象は、キッチンでめったやたらと踊る主婦やスライムで遊ぶ子供たちの15秒のクリップで、それは私の義理の娘たちが見せてくれるものがほとんど (笑)。
まあ、私がこの状況を理解し、自分自身をある意味納得させようとしたのは、音楽は常に進化し、変化し、発展することに長けているから。そして、その一部は、もちろん、物事が取り残されることであり、それはあるべき姿なんだよね。レコードやCDといったフィジカル・メディアの偉大な時代、そしてアルバムという形で音楽と関わり、レコードやシングルの両面にわたって45分間音楽が連続する時代は、音楽の歴史、ポピュラー音楽の歴史の中ではほんの一瞬に過ぎず、消えつつある。20世紀半ばから存在し始めたものは、すでに廃れつつあるんだ。
人々の音楽への関わり方も、また変わってきているね。それ以前、つまり20世紀前半から遡って、人々が音楽と関わる方法は、コンサートに行くことだった。あるいは、家庭用ピアノの周りに集まって、楽譜に書かれた歌を歌ったりしていた。今、私たちは、暗い部屋で長時間音楽を聴き、レコードのスリーブや歌詞カードをじっくりと見るという概念に、信じられないほどのノスタルジアを持っている。20世紀後半以前の人々にとって無意味だったように、これからの人々にとってそれは無意味なんだ。
20世紀後半にロックがジャズにしたことを、今、アーバン・ミュージックがロックにしている。そうでなければならない。将来、同じようなことをするものが出てきて、アーバン・ミュージックもカルト的な存在になる。カルトミュージック、アンダーグラウンド・ミュージックになるだろう。今、アーバン・ミュージックは、ロックが50年間そうであったように、メインストリームの最前線と中心を担っている。50年間ロックがそうであったように。
私はそれをできるだけポジティブに捉えようと思っているんだ。音楽が進化し、変化し続け、私たちの音楽への関わり方もまた進化し、変化し続けるというのは素晴らしいこと。いずれにせよ、私はそれを認めるよ」
Wilson は近年、明らかに “プログレ” のタグから距離を置きたがっていました。
「意識的に分析しようとするのではなく、自然にそうなるようにやっていたのはたしかだよ。例えば、”The Future Bites” のようなアルバムに取り組むとき、最初から “何か違うことをしたい” という明確な意志があったことを、私は認めざるを得ない。プログレッシブ・ロックの世界とは全く関係のないレコードを作りたかった。それは意図的な再発明ではなかったけれど、それでも無意識的な再発明の試みであり、それは成功したと思う。一方、PORCUPINE TREE には、そのような考え方はまったくない。単純に、これが私たちが集まってやることなんだ。どう位置づけるか、どう宣伝するか、どう売り込むか、などということは考えていない。つまり、自分のキャリアのある時点になれば(私はプロとしてもう30年やっている)、自分自身の音楽の世界を作り上げた人間として見られる権利を得たと強く信じているんだよ。そして、そんなアーティストにこの “ジャンル” という考え方は必ずしも適用されるべきではないと思っているよ。
だってそうでしょ? ボウイやザッパ、ケイト・ブッシュのようなアーティストについて考えるとき、ジャンルについて考えるかい?そうではないでしょう?私はそうではなく、彼らが “デヴィッド・ボウイの音楽” ”ケイト・ブッシュの音楽” を作っていると考えるだけだよ。30年やってきて、いろんな音楽を作ってきて、自分がひとつのジャンルに簡単にカテゴライズされるという考え方は、もう当てはまらないはずだと信じたい。”ジャンル” から解き放たれたとね」

“Closure/Continuation”。このタイトルには、バンドの将来に対する彼らの不安が反映されています。
「無理にこのアルバムを作る必要はなかったんだ」と Wilson は言います。「アメリカ・ツアーのために1,000万ドルのオファーを受けたから戻ってきたというわけでもない。ソロ・キャリアが失敗したから戻ってきたわけでもない。私たちは PORCUPINE TREE を再起動することが楽しいと思ったし、良いマテリアルを持っていた。それがアルバム・タイトルにも反映されていると思う。これが終幕なのか、それともバンドのキャリアを継続させるための新たな一歩なのか、僕には純粋に分からないんだ。”終幕 “であれば、本当にいい方法だと思うよ。あるいは、1年後に電話をして、楽しかったね。もう一回やるか? となるか。私の推測では、おそらく前者だと思う。たぶん、これが僕らが作る最後のレコードで、たぶん最後のツアーになると思うんだ。
長い間、レコードを作るなら、”これはカタログに何を加えるのか” という質問を自分に投げかけなければならないと信じてきた。このレコードを作る目的は何なのか? 同じようなことを繰り返すのは嫌だとね。というのも、多くのバンドが、単に同じものの繰り返し、同じものの繰り返し、同じものの繰り返し…AC/DC 症候群と呼ばれるような、音楽の遺産に何も加えない、ほとんど無意味なレコードをカタログに追加するようなサイクルに陥っているように思うから。私は AC/DC が大好きなので、AC/DC のことを取り上げるのは申し訳ないのだけど(笑)、彼らは私が思いつく限りその最高の例だと思っている。それは素晴らしいこと。でも、この新譜はカタログの中でその存在を正当化するものだと思うし、バンドのサウンドを新しくしたように感じる。そして、次はそれを再び見つけることができると感じなければならないだろう。だから、私たちはドアを閉めないよ。でも、これが最後のレコードだとしたら、最も重要なのは、本当に力強い方法で本を閉じることだと思うんだ。Gavin と Richard と話したんだけど、みんな同じように、最後に作った[2009年の] “The Incident” は最高傑作ではなかったし、特に良い終わり方だとは感じていなかったんだ。悪い作品ではないけれど、ベストな作品ではなかった。だから、もし “Closure/Continuation” が私たちの最後のレコードになるのなら、それについては良い気分でいられると思う」
Barbieri がつけ加えます。
「これが終わったら Steven はソロ・モードに入るだろうね。そして、それが彼をどこに連れて行くかによる。PORCUPINE TREE は Steven がその一員でありたいと思うからこそできることなんだ。僕は、このまま解散してしまっても構わないと思っているよ。それならとても快適だ。だって、いいアルバムができたんだから。そして、僕ら3人の間で良い雰囲気のまま終わることができると思うんだ。ネガティブな感情なんてないだろうしね」

とはいえ、このグループの中にいるのは簡単なことではありません。Wilson には、どんなバンドでも、実際に演奏する音楽はメンバーの好みの交点に限定されるという考えがあり、実際はそれがいかに野心を制限しているかについて話しています。
「PORCUPINE TREE の最初のピリオドが終わるころには、PORCUPINE TREE の曲の典型的な形が出来上がっていたんだ。だから最後のアルバム、最後のツアーに至るまでには、私にはもう面白くなくなっていた」
それは、他のメンバーにとっても同様でした。Harrison はソウル、ファンク、ジャズを愛するドラマーですが、かつての PORCUPINE TREE にそれが入り込む余地はありませんでした。Barbieri も、自身の好む “非常にミニマルでゆっくりと進化するアトモスフェリックなアプローチ” が、他の2人にとって大きな関心事でないことに気づいています。だからこそ、少なくとも、”Closure/Continuation” は、Wilson が主導し他の2人の貢献が少ないこれまでの PORCUPINE TREE ではなく、真の共作で大部分が構成されている、全員が楽しめたアルバムなのです。
実際、ラインナップの変更を強調するかのように、アルバムの幕開けは “Harridan” での Wilson のベースラインが新鮮な攻勢をかけてきます。このエピックはアルバムに収録されている複雑なロックの一面を象徴し、キットの裏側にいる Harrison の驚くべき名人芸をも感じ取れます。同様に、”Rats Return” や “Chimera’s Wreck” はアインシュタインの方程式のように複雑な数学ロックで、”Herd Culling” のコーラスでは、ギターのリフを核兵器の中に封じ込めたような激しさを生み出します。そしてこの大半は、Wilson がベースから始めた音楽なのです。
一方で、PORCUPINE TREE の音楽が安易なジャンル分けに抵抗する理由を示す曲も存在。”Dignity” のアコースティック・ギターは、Barbieri の鍵盤が発するナノ粒子の渦に包まれていますし、”Walk the Plank” では、痛々しいボーカルと壮大なコーラスをフィーチャーし、Wilson のソロシングル “King Ghost” や Barbieri の魅力的なソロ作品に接近。また、デラックス・エディションのボーナス・トラックとして収録されている “Love in the Past Tense” は、シンバル、キーボード、ギターが奏でるキメ細やかな音色にのって、幽玄の世界へと誘われるような壮大さが溢れています。
ただし、この豊富な音楽のためには必要とされる努力もあります。64歳の Barbieri は、自分の集中力に悩んでいます。58歳の Harrison にとっては、ドラムの肉体的な負担がより切実な問題となってきています。

「このレベルの音楽をいつまで続けられるか。今までやっていた他のバンドでは、こんなにヘヴィーでフィジカルな演奏は必要なかったんだ。PORCUPINE TREE は、常に最もハードな仕事をこなしてきた。2014年からメンバーとして参加している KING CRIMSON では、メンバーの多くが70歳をはるかに超えていたけど、70代でこうしてドラムを叩いている姿は想像できないよ…」
それでも、彼らの努力は報われています。Harrison のドラムは物理的に不可能と思われる正確さと雷鳴が混在し、Brian Eno 以来最高のサウンドスケーパーである Barbieri は水彩画家のように音に色を落とし、Wilson はギターとベースで2人のアイデアを推進し、ボーカルを自分で物語を描きます。
PORCUPINE TREE が再びファンの前でライブをするときは、これまで以上に大きな観衆を前にすることになるでしょう。そして、ツアーが終わり、3人がステージを去るとき、それが最後となるかどうかは誰にもわかりません。Harrison は、「もしかしたら、これで一区切りかもしれない」と言います。「2022年に解散するとは言っていないよ。でも、2010年は奇妙な終わり方、あるいは終わり方ではない終わり方だった。だから、もし、そうなるならね」
ただし、UK オフィシャル・チャートのデイリー・アルバムで No.1を獲得し、Wilson の考えも少し変化しつつあるようです。
「もう1枚アルバムを作る可能性は十分にあると思う。実際、Richard とそのことについて話していたんだ。2週間前にドイツでベルリンでプロモをやっていたんだけど、誰かにその質問をされたんだ。私はこう思ったんだ。まだやるべきことがあると。”Walk the Plank” みたいな曲は、我々が最後に作った曲の一つなんだけど、ギターが全く入っていなくて、私がどんどん電子音楽に移行していることを反映しているような曲なんだ。PORCUPINE TREE のアルバムで、ギターではなくキーボードだけにフォーカスしたものを作れないかと考えたんだ。何か違うものでなければ、次のアルバムを正当化することはできないだろう」

参考文献: THE GUARDIAN:Reunited prog-rockers Porcupine Tree on surviving their rift: ‘You can’t help but feel bitter

UNDER THE RADAR :Porcupine Tree’s Steven Wilson on “Closure/Continuation” “Don’t call it a reunion…”

SUPER DELUX EDITION :Steven Wilson on the return of Porcupine Tree 

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OU : ONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANTHONY VANACORE OF OU !!

“I Am The Only Non-Chinese In The Band, But We Are a Chinese Band Through And Through. So For There To Be Chinese Lyrics And Some Chinese Sensibilities In The Music Is Just Natural.”

DISC REVIEW “ONE”

「中国、特に北京の音楽シーンは豊かで多様性に富み、活気に満ちているよ。だけど OU は政治には関与しないんだ」
北京のジャズ・シーンで育まれた OU(オー)は、定型化した現代のプログ世界、その停滞したエネルギーに真っ向から歯向かうデビュー作 “One” でメタル異世界のルール無用を叩きつけました。
「中国に来て10年になる。私に言えることは、(このバンドの3人のメンバーも含めて)私にはここに心から愛する友人がたくさんいて、彼らは私にとってまさに家族のような存在だということなんだ」
作曲家で偉大なジャズ・ドラマーでもあるニューヨーク出身の Anthony Vanacore は、大規模な中国ツアーをきっかけに、彼の地の文化や言語に惚れ込み移住を決断します。杭州に移り、”客” ではなくその場所の人間として暮らすうち、彼は外国からみれば統制や不自由の中で暮らす人々の本来備わった人間味や優しさに触れていきました。文化が違えど、人は、個人個人はそんなには違わない。それは音楽も同じです。
「O はバンドの4人の血液型がO型だからで、その後 OU に変えたんだ。ピンイン(中国語のローマ字表記)では O と同じ発音で、”謳” という漢字が対応していて、それには “唱える” という意味があるから、このバンドにはとても合っているんだよ」
中国の “人” と触れ合いはじめた Anthony は北京音楽シーンの素晴らしさにも気づきます。そうして、クラブや本職の音楽教師から仲間を募り、数年の歳月を経て、それぞれのメンバーが特別な調味料を加える複雑な音の中華料理 OU が完成します。
目まぐるしくも自由自在のリズムから幽玄なアルペジオの残響、そして催眠術のように正直で率直なヴォーカル・パフォーマンスまで、この驚くべき料理 “One” にはプログとアンビエント、そしてメタルの旨味が詰まっています。もしかしたら、三国志を終焉に導いたのは彼らなのでしょうか。陽気さ、静謐さ、獰猛さを見事 “一つ” に調和させた OU は、さながら蒸してもよし、焼いてもよし、揚げてもよしの餃子を3000年の歴史から進化させる抜きん出た料音人だと言えるでしょう。
「私はバンド内で唯一の非中国人だけど、それでも私たちは根っからの中国のバンドなんだよね。だから、中国語の歌詞や中国的な感性が音楽に入っているのは、ごく自然なことなんだよ」
OU は、現代的なプログレッシブ・アクトへの強い愛情を示しながらも、彼ら独自のサウンドを切り開いてきました。ハイパー・ポップな HAKEN のように、OU は “Farewell 夔” や “Prejudice 豸” の重く複雑怪奇なグルーヴに、常に嫋やかで優雅なシンセの絹地を織り込んでいきます。まさに張飛、針に糸を通す。この泰山と長江のような美しくも悠久の対比は Devin Townsend や THE GATHERING のキネティックな作品にも匹敵し、さらに貂蝉のように美しく舞うしなやかな Lynn Wu の呪文はこの静謐でしかし刺激的なアートにえもいわれぬ独自性を加えています。
「アジアの伝統音楽には、欧米ではあまり知られていない、未開発の感情や質感がたくさん備わっていると思うんだ。アジアの伝統音楽が、アジア以外の国の音楽にもどんどん浸透していくのは時間の問題だと思っているよ」
実際、中国らしい Lynn の抑揚とゆらぎのある音は、OU を Inside Out のようなメジャーに引っ張る原動力となったはずです。聳え立つ “Mountain 山” では、Lynn の声をマルチトラックで聴かせながら、トラックごとに感情をエスカレートさせる絶妙なマルチバース空間を創造。一方で、”Ghost 灵” “Light 光” の幽玄なセクションで彼女のノイズは言葉ですらなく、最小限の伴奏として存在し、ビョークのような実験的アーティストの手法に似た推進力として扱われています。
他にも例えば、OU を聴いて、Enya, LEPROUS, LTE, RADIOHEAD, PORTISHHEAD, MASSIVE ATTACK といったバンドの姿が目に浮かぶのは自然な感性でしょうが、それだけでは十分ではありません。ここには東洋的な無調や不協和が西洋のモダンなポリリズムと織りなす、シルクロードのタイムマシンが洋々と乗り入れています。
もちろん、熟練したジャズ・ミュージシャンである、Anthony とベーシスト Chris Cui によるリズムのバックボーンは、タイトで整然としながらも混沌としたロックの側面を自在に謳歌。ギタリスト Jin Chan の神秘的な舞踏は二人のタクトで華麗に舞い上がります。まさに指揮者を失った兵ほどみじめなものはない。
老齢化したプログの巨人たちがいつまでも黄忠でいられる保証はありません。OU は国際的な聴衆から切り離されがちな中国にありながら、いやむしろあったからこそ、復権を願うプログ世界の、そしてアジアの希望となりました。中国では食事を少し残すのが礼儀とされていますが、”One” の音楽を一欠片でも残すことは大食漢のプログマニアには実に難しいミッションとなるでしょう。
今回弊誌では、Anthony Vanacore にインタビューを行うことができました。「私はニューヨークのフラッシングに住んでいたんだけど、この街にはかなり大きな中国人コミュニティがあってね。ツアーから戻るとその場所と交わりながら、自分の生活環境に新たな視点が生まれ、中国の文化や言語にますます魅了されるようになっていったんだ」 どうぞ!!

OU “ONE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YAWN : MATERIALISM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TORFINN LYSNE OF YAWN !!

“We Are Also Obviously Very Into Metal, And We Often See a Lot Of «Standardized» Ways Of Producing And Composing This Kind Of Music Today. We Try To Challenge These Ways By Including More Inspiration From Jazz And Contemporary music.”

DISC REVIEW “MATERIALISM”

「YAWN (あくび) というバンド名は、ある意味、音楽業界の “モダン・スタンダード” に対する反動なんだよ。長年音楽教育を受けてきた僕たちは、音楽的に “こっち” や “あっち” の方向に進みたい場合、ジャンルの慣習に基づいたすべてのルールに従ってきていて、かなり疲れていたんだよね。それで、一般的なレシピに従うことなく、何か新しいものを提供したいと心から思っていたんだ」
あらゆる音楽ジャンルには、すべて “規範” “標準” “ルール” が存在します。当然でしょう。ある種の雛形がなければ、ジャンルという概念それ自体が崩壊してしまうのですから。もちろん、現代のインストゥルメンタル、エクストリーム・ミュージック、プログレッシブというジャンルにもその雛形は存在します。MESHUGGAH はそのすべてに多大な影響を与えた巨人にちがいありません。
「ハイゲインの8弦ギター、ローチューンのドラム、そしてプロダクションの考え方など、MESHUGGAH は僕らのバンドにとって圧倒的に重要な音楽的影響を与えた存在だよ。彼らは間違いなく僕たちのヒーローで、もし彼らと一緒にツアーをする機会があれば、おそらく僕たちは心臓発作を起こすだろうね」
YAWN はしかし、その場所からさらに進んで新しいダイナミックな振動をもたらしてくれます。同じような、すこし奇妙な美的関心を持つ人々ならば、このバンドが現代のプログ・メタル世界にモダンなジャズの即興やノイズを導入し、地獄より重いリフ、複雑怪奇なリズムのパズルに新鮮な息吹を吹き込む開拓者であることを即座に認めるはずです。このポリリズムの両輪は次にいつ出会うのだろう、この不思議な響きはどこの伝統音楽だろう、少しづつ、ほんの少しづつ速度を変える肉感的なリズム、そして半音階さえ超えていく四分音の衝撃。
「Djent における共通のモラルは、とても刺激的で高揚感を与えてくれるものだと思うな。”ロックスターなんて論外、みんなでとにかく残虐で奇妙なリフを作ってインターネットにアップしよう” という考えを共有しているように思えるね。このような考え方が、クールな新しいバンドを生み出しただけでなく、現代の “ジェント・ベッドルーム・ミュージシャン” という文脈が、毎日出てくる素晴らしいソフトウェア、ギター・ギア、ドラム・サンプルなどのきっかけになったのだと思っている」
興味深いことに、多くの “MESHUGGAH 崇拝者” とは異なり、YAWN は Djent というムーブメントを抱擁し、すんなりと肯定しています。もちろん、彼らの目指す即興性、音の肉感と Djent の “定型”、機械化は同じ MESHUGGAH の申し子でありながら180度異なる考え方。それでも、”ロックスター” から遠く離れた場所にいるというある種の疎外感、反逆性、DIY の精神は共通していて、エレクトロニカや新機材という文脈からも多大な恩恵を受けていることに違いはないのです。
「どの曲もエンディングがあり、でもそれが次の曲の始まりになっていて、最初から最後まで通して聴くことができるように構成されているよ。このアルバムを制作しながら、僕たちの音楽世界のすべてがこのアルバムに込められているような気がしたんだよね。自分たちの音楽を表現するときに、物質の4つの状態 “固体、液体、気体、プラズマ” と多くの類似点があることに気づいたんだ」
37分のデビューアルバム “Materialism” は、アンビエントなサウンドスケープ、即興のギターソロとブルータルなブレイクダウン、感染性のグルーヴと心を溶かすリズム、実験的なエレクトロニクスを並列繋ぎで並び立て、これらすべての要素を論理的かつ音楽的な快適さを併せ持つ驚きのルービック・キューブとして組み合わせているのです。凍りついた永久凍土の即興音楽は、北欧で噴火するメタルの火山によって見事に溶解をみました。”唯物論” とはすなわち、スタイルやサブジャンルに巣食う特定のルールを破ることを意味していて、彼らは MESHUGGAH を “マトリックス” の世界へと引き込むのに十分な “仮想現実” とハッキングの技術を備えているのです。
今回弊誌では、ギタリスト Torfinn Lysne にインタビューを行うことができました。「僕たちは明らかにメタルが大好きなんだけど、今日、この種の音楽の制作や作曲はある意味 “標準化” された方法だと感じていたんだよね。僕たちは、ジャズや現代音楽からより多くのインスピレーションを得ることで、こうした方法に挑戦しようとしているんだよ。だから、一般的な “モダン・メタル” サウンドを再現しようとするのではなく、自分たちの方向性に沿って音楽を制作しているんだ」 どうぞ!!

YAWN “MATERIALISM” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MENTAL FRACTURE : DISACCORD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ORI MAZUZ OF MENTAL FRACTURE !!

“For Us, “Prog” Is Mind-Bending Music That Moves You Emotionally And Breaks Your Brain Logically. It Can Incorporate Any Genre.”

DISC REVIEW “DISACCORD”

「僕たちにとって “プログ” とは、感情を動かし、論理的に脳を破壊するような、心を揺さぶる音楽だよ。そして、どんなジャンルでも取り入れることができる音楽だ」
“プログレ” の沼にハマった現代のファンは、PINK FLOYD, YES, GENESIS, ELP, KING CRIMSON といった60年代後半から70年代半ばにかけての全盛期を懐かしむか、もしくは DREAM THEATER や PORCUPINE TREE, OPETH といった90年代に起こったジャンルの混交を “新しい” ものとして “寛容に” 受け入れるかのどちらかがほとんどでしょう。では、本当に新しい “ブログ” の形やアーティストが登場したとしたら、受け入れられる余地はもうこの場所に残されてはいないのでしょうか?
プログレッシブ・ミュージックは常に、あらゆる形のロック、フォーク、ジャズ、クラシック、メタルまで、幅広い音楽の領域を平等に愛おしく抱きしめる世界でした。そして実は、年月の経過と音楽地図の拡大は、そのパレットをさらに奥深く多様化しようとしています。イスラエルからオリエンタルな空気と感情の起伏を運ぶ、喜怒哀楽の交差点 MENTAL FRACTURE はまちがいなく、プログの次世代化を推し進める起爆剤です。
「僕たちは、インスピレーションを与えてくれるあらゆる音楽アーティストから、好きな要素を取り入れているんだよ。そうすることで、僕たちの感情を揺さぶる音楽言語が生まれるんだよね。ショパンのメロディーやラフマニノフのクライマックス、CAMEL や PORCUPINE TREE のメランコリー、OPETH の複雑さと激しさ、そして SNARKY PUPPY や Esperanza Spalding にインスパイアされたジャジーなハーモニーも聴くことができると思うよ」
YES や KING CRIMSON といった “プログレ” を定義したバンドの特徴。その核心に、メロディーとテンポ、そして構造の複雑さ、名人芸が据えられていたのは否定できない事実でしょう。多くの場合、それは “More is Better”、”多ければ多いほど良い” という足し算の原則に基づいていたのかもしれませんね。もちろん、それは極論で、そこだけにスポットが置かれていたわけではありませんが。
後に PORCUPINE TREE のようなアーティストが人気を得たのは、その複雑さがやり過ぎにならないよう、線引きをするタイミングを心得て、マイナスの美学を尊んだおかげであったとも言えるのではないでしょうか。そして、MENTAL FRACTURE は時代や場所を超越しながら、その音楽的な算数の巧みさで明らかに群を抜いています。
「オリエンタルな音楽は、それだけでは万人受けはしないかもしれない。だけど、メタルの中に取り入れると、聴衆の心を激しく揺さぶることができるんだよね。僕たちは、微妙な形ではあるけれど、確実にこのテイストを作曲に使っているんだよ」
“Inception of Fear” や “Clockwork” といった名曲群には、プログの先人に贈るリスペクト、90年代と中近東が混ざり合った濃密なメランコリー、現代ジャズの知的なハーモニーと共に、エスニックなパーカッションやアコースティックな響きが添えられています。それはさながら、地中海、紅海、死海という3つの海に面するイスラエルの多様な音景色。Ori Mazuz のファルセットを活用した情熱的な歌唱と、美しくも不気味でピーキーな鍵盤の響きはさながらモーゼのように、広大な “Disaccord” の海を自由自在に闊歩していくのです。
それにしても、KING CRIMSON が “Red” で達成した憂鬱な夢を前半で印象づけながら、大団円 “Hearts Of Stone” で DREAM THEATER のあの傑作 “Metropolis Pt.2” をリクリエーションするその度量はあまりに広大。決して明からさまなオリエンタル・フレーズを使用しているわけではないにもかかわらず、絶対的に感じる中東の風も白眉。
今回、弊誌では Ori Mazuz にインタビューを行うことができました。「僕たちはほぼ毎年紛争を経験していて、そのたびに、僕たちの現実がいかに愚かなものであるかを思い知らされるんだ。僕たちにできることは、ただひとつ、平和を願うことだけだ。だって僕たちは皆、結局のところ人間であり、他人の政治的野心や神の名のもとに死ぬべきでは決してないのだから。だから…僕たちの心はウクライナの人々とともにあるよ」 ネクタイにベスト、スラックスのプロモ写真、そして倒されたキングのチェス盤と沈みゆく太陽。思索に思索を重ねるような素晴らしいバンドの登場ですね。どうぞ!!

MENTAL FRACTURE “DISACCORD” : 10/10

INTERVIEW WITH ORI MAZUZ

Q1: First of all, you were born in Israel. From jazz, classical music, to metal, recently Israeli artists are leading the music scene. How does your being born and raised in Israel affect your music?

【ORI】: The Israeli music scene is extremely diverse, having a lot of great artists in many genres and styles. This means you are very likely to encounter a show by a great band that does something a bit different than what you usually listen to. Such a scene really complements our style of composition, as we love taking even the tiniest bits of inspiration from music that is sometimes completely unrelated to us stylistically.

Q1: 近年、イスラエルはジャズからメタルまで音楽シーンを牽引する国の一つとなっていますね?そういった環境はあなたたちにどんな影響を与えてきましたか?

【ORI】: イスラエルの音楽シーンは非常に多様で、様々なジャンルやスタイルの素晴らしいアーティストがたくさんいるんだよ。つまり、自分が普段聴いている音楽とはちょっと違う、素晴らしいバンドのライヴに出会える可能性が非常に高いんだよね。
こういったシーンは、僕たちの作曲スタイルにとても合っているんだ。僕たちは、時にはスタイル的に全く関係のない音楽から、ほんのわずかでもインスピレーションを得ることが大好きなんだからね。

Q2: How did Mental Fracture come to be? Where did your band name come from?

【ORI】: In 2010 Ori, Yogev and Hai were performing in a school band in Rishon LeZion. We felt that we have great chemistry. Ori was experimenting at the time with writing original music and arrangements. Inspired by bands like Dream Theater, Opeth and Porcupine Tree, we thought it would be cool to form our on progressive rock band! Philip, who studied at the same high school as Yogev and Hai, joined the band and we started composing “Genesis” and “The Mind’s Desire” together (Which were released on the 2019 EP). Although we have collected material for many years up to this day, life got in the way and we couldn’t be an active band until now, 12 years later, when we have finally released “Disaccord”.

Q2: MENTAL FRACTURE 結成の経緯を教えていただけますか?

【ORI】: 2010年、Ori, Yogev, Hai の3人は、リション・レジオンのスクールバンドで演奏していたんだ。僕たちは、素晴らしいケミストリーを感じていたよ。Ori は当時、オリジナル曲の作曲やアレンジを試行錯誤していたんだ。DREAM THEATER, OPETH, PORCUPINE TREE といったバンドに触発されて、自分たちでプログロック・バンドを結成したらクールだろうと思ったんだ!
そうして、Yogev, Hai と同じ高校で学んだ Philip がバンドに加わり、一緒に “Genesis” と “The Mind’s Desire” の作曲を始めた(これは2019年のEPでリリースされた)。今日まで長年に渡ってマテリアルを集めてきたものの、生活との両立はなかなか難しくてね。なかなかバンドとして活動することができず、12年後の今、ようやく “Disaccord” をリリースすることができたんだよ。

Q3: What is the metal/rock scene like in Israel? What’s the hardest part of being in a metal/rock band in Israel and the Middle East?

【ORI】: Israel has an amazing metal community with a variety of sub-genres. Prog is one of them, with bands like Orphaned Land, Subterranean Masquerade, Scardust and many more. The audience here loves sophisticated music and loves to get wild on live shows! The hardest part, for every musician, is to be noticed and reach this audience.

Q3: 中近東でメタルやロックをやることの難しさは何でしょうか?

【ORI】: イスラエルには、様々なサブジャンルを持つ素晴らしいメタル・コミュニティがある。プログもその一つで、ORPHANED LAND, SUBTERRANEAN MASQUERADE, SCARDUST といった素晴らしいバンドがいるんだ。
イスラエルの観客は洗練された音楽が好きで、ライブで盛り上がるのが大好きなんだよ!
ミュージシャンにとって最も難しいのは、そういった観客の目に留まり、その目に届くようになることなんだよ。

Q4: Your melodies are really attractive and engaging. Regarding the Middle East, I’ve had interviews with bands like Orphaned Land. Riverwood and Myrath. They were very oriental in their music, sometimes incorporating Middle eastern folk instruments. There is a definite oriental flavor to your music as well, would you agree? Why are Middle Eastern melodies so appealing to the world?

【ORI】: The bands mentioned really opened our minds about oriental music, as it may not appeal to everyone on its own, when incorporated in metal music it can really touch the metal audience. We are definitely using this flavor in our composition, although in a subtle way.

Q4: ORPHANED LAND, RIVERWOOD, MYRATH といった中近東のバンドは、オリエンタルなメロディーや楽器を巧みに楽曲に取り入れて人気を博しています。
あなたたちはそこまであからさまではないにしろ、中近東の憂いのようなムードが楽曲を一層素晴らしいものに引き立てていますね?

【ORI】: 君の挙げたバンドは、僕たちがオリエンタル・ミュージックに目覚めるきっかけとなった人たちだよ。
オリエンタルな音楽は、それだけでは万人受けはしないかもしれない。だけど、メタルの中に取り入れると、聴衆の心を激しく揺さぶることができるんだよね。僕たちは、彼らよりは微妙な形ではあるけれど、確実にこのテイストを作曲に使っているんだよ。

Q5: I have interviewed various Israeli artists, Orphaned Land, Scardust, Subterranean Masquerade, Nili Brosh, etc., and most of them mentioned their prayers for peace. Israel is a country where war is right around the corner…could you tell us your stance on the Israeli-Palestinian issue and the recent Russian aggression?

【ORI】: The Israeli-Palestinian issue is really complicated. Too complicated to the point that trying to explain any side of it in such a short format would not do it justice. We are experiencing a conflict nearly every year and each time it happens it enlightens how stupid our reality can be. The only thing we can do is to hope for peace. We are all human beings after all and we do not deserve to die for one’s political ambitions or in the name of god. Our hearts are with the people of Ukraine.

Q5: ORPHANED LAND, SUBTERRANEAN MASQUERADE, SCARDUST といったイスラエルのバンドにインタビューして感じたのは、彼らの平和に対する願いでした。まさに戦争がすぐそばにある国だからこそなんでしょうかね…

【ORI】: イスラエルとパレスチナの問題は本当に複雑なんだよ。あまりに複雑すぎて、こうした短いフォーマットで説明しようとしても、正当な評価は得られないだろうな…。
僕たちはほぼ毎年紛争を経験していて、そのたびに、僕たちの現実がいかに愚かなものであるかを思い知らされるんだ。僕たちにできることは、ただひとつ、平和を願うことだけだ。だって僕たちは皆、結局のところ人間であり、他人の政治的野心や神の名のもとに死ぬべきでは決してないのだから。だから…僕たちの心はウクライナの人々とともにあるよ。

Q6: I asked about the war because “Disaccord” seemed to me to be an album about the division of the world and its horrors. Can you tell us about the artwork Chess and the concept of the piece?

【ORI】: “Disaccord” is an album about the division between a person and themselves. Every song is telling a story about a person dealing with their cognitive dissonances. The artwork shows a chess board with only white pieces, and with the king fallen down, which symbolizes a person check-mating themselves.

Q6: 戦争について尋ねたのは、”Disaccord” “不一致、不調和” というアルバム自体、そしてチェスのアートワークが、世界の分断とその恐怖について描いていると感じたからです。

【ORI】: “Disaccord” は、他人と自分との分裂、分断をテーマにしたアルバムなんだ。すべての曲は、認知的不協和に対処する人についての物語を語っているんだよ。アートワークは白い駒だけのチェス盤で、キングが倒れていて、これはつまり人が自分自身をチェックメイトしているってことを象徴しているんだね。

Q7: Still, “Disaccord” is a really great album! I’ve rarely heard progressive music as emotional as this one! Musically, we can hear influences like Opeth, Camel, Porcupine Tree, Rush, etc. Could you please talk about your musical roots?

【ORI】: Thank you! We take what we like from every musical artist that inspires us. It creates a musical language that really moves us emotionally. Ori was classically trained on the piano, so you can hear influences in the melodies from Chopin and the drama buildup and climax of Rachmaninoff. You can hear the melancholy from Camel and Porcupine Tree and the complexity and fierceness of Opeth, and also jazzy harmonies inspired by Snarky Puppy and Esperanza Spalding. The album was self produced, mixed and mastered by Ori and Yogev, so the sound of the album is the sound of the band.

Q7: それにしても、これほどエモーショナルなプログ・ミュージックはめったにお目にかかれないですよ!
OPETH, CAMEL, PORCUPINE TREE, RUSH といったバンドからの影響に、あなたたち独自の感情的な爆発が加えられて傑出した作品となりましたね?

【ORI】: ありがとう!僕たちは、インスピレーションを与えてくれるあらゆる音楽アーティストから、好きな要素を取り入れているんだよ。そうすることで、僕たちの感情を揺さぶる音楽言語が生まれるんだよね。
Ori はクラシック音楽のピアノ教育を受けてきたから、ショパンのメロディーやラフマニノフのドラマの盛り上がり、クライマックスに影響を受けているのがわかると思う。CAMEL や PORCUPINE TREE のメランコリー、OPETH の複雑さと激しさ、そして SNARKY PUPPY やEsperanza Spalding にインスパイアされたジャジーなハーモニーも聴くことができると思う。
アルバムは Ori と Yogev によるセルフプロデュース、ミキシング、マスタリングだから、このアルバムの音がそのままバンドの音だと捉えてもらっていいと思うな。

Q8: I recently interviewed a British prog band called Azure, and they said “We See ‘Prog’ As a Genre Where Anything Can Happen, Whether It Be The Dramatic Fantasy Storytelling And Guitar Harmonies Of Iron Maiden, Or The Slithering Shred Melodies Of Steve Vai, Or Even The Sugary And Bouncy Energy Of The 1975”. So, What does “prog” mean to you?

【ORI】: For us, “Prog” is mind-bending music that moves you emotionally and breaks your brain logically. It can incorporate any genre.

Q8: 最近、英国の AZURE というバンドにインタビューを行ったのですが、彼らは “プログを何でも起こり得る音楽” と捉えていると話していましたよ。

【ORI】: 僕たちにとって “プログ” とは、感情を動かし、論理的に脳を破壊するような、心を揺さぶる音楽だよ。そして、どんなジャンルでも取り入れることができる音楽だ。

EIGHT ALBUMS THAT CHANGED MENTAL FRACTURE’S LIFE

ORPHANED LAND “MABOOL”

A mediterranean metal masterpiece, where each song has a musical narrative and climax, and shows that metal can make you feel very happy too. This album really opened my mind to oriental and jewish music.

地中海メタルの傑作。音楽的な物語とクライマックスがあり、メタルがとても幸せな気分にさせてくれることを教えてくれる。このアルバムは、僕の心をオリエンタルとジューイッシュ・ミュージックへと導いてくれた。

MAJOR PARKINSON “SONGS FROM A SOLITARY HOME”

I never thought music can be this chaotic and coherent at the same time. They craft melodies and rhythms like no other band I know of and they are my favorite band to this day.

音楽がこれほど混沌とし、同時に首尾一貫したものになるとは思ってもみなかった。他のバンドにはないメロディーとリズムを作り上げていて、今日までで一番好きなバンド。(ORI)

CELTIC FROST “TO MEGA THERION”

I made my very reluctant parents buy this early extreme metal classic when I was just 5 years old. A quarter century of
listening to extreme metal followed, as I really enjoyed it against all odds.

5歳の時、嫌がる親に無理やり買わせた、初期のエクストリーム・メタルの名作。その後、エクストリーム・メタルを聴くきっかけになったね。

DREAM THEATER “SYSTEMATIC CHAOS”

While it isn’t even my favorite album from the band today, it was my first real introduction to prog metal, and it
melted my tiny teenage mind at the time.

僕のお気に入りというわけでもないけど、プログメタルに初めて触れた作品。10代の小さな心を溶かしてくれたね。(PHILIP)

MAGIC PIE “THE SUFFERING JOY”

Similarly to our album Disaccord, this album discusses psychological and emotional issues of humans. Musically, it has an enormous amount of content, heavy riffs, among soft parts. I believe Magic Pie is one of the most underrated bands out there.

僕らのアルバム “Disaccord” と同様に、このアルバムも人間の心理的、感情的な問題を論じている。音楽的には、ソフトな部分の中にヘヴィなリフがあり、膨大な内容になっている。Magic Pieは最も過小評価されているバンドの一つだと思う。

HAKEN “THE MOUNTAIN”

Brilliant compositions that never get boring through the 70 minutes of the album. The sound and production are just wonderful. This album really opened up my ears to what modern prog can sound like.

70分のアルバムを通して、決して飽きさせない見事な構成。サウンドとプロダクションがとにかく素晴らしい。このアルバムでモダンなプログレとはどんなものなのか、理解したよ。(YOGEY)

PORCUPINE TREE “THE INCIDENT”

An incredible album with unique production and sound design, Gavin Harrison plays very dynamically and has a signature
sound.

ユニークなプロダクションを持つ素晴らしいアルバム。Gavin Harrison の非常にダイナミックな演奏と特徴的なサウンドデザインが秀逸。

HADORBANIM “FIRST AFTER THE SECOND”

I was really inspired by the groove of this album. Its compositions and arrangements are top notch.

本当にインスピレーションを受けたよ。このアルバムのグルーブ感、作曲と編曲は一流さ。(HAI)

MESSAGE FOR JAPAN

We love Japan and its culture and we hope to perform live for you one day! Apart from enjoying the most commonly cited cultural exports (such as games/anime/culinary styles etc.) some of us have recently discovered and fallen in love with Japanese Math Rock.

日本とその文化が大好きさ!いつかライブがやれたらいいね。ゲームやアニメ、料理はもちろん、最近は日本のマスロックにハマっているメンバーもいるんだよ。

MENTAL FRACTURE

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZURE : OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTOPHER SAMPSON OF AZURE !!

“We See ‘Prog’ As a Genre Where Anything Can Happen, Whether It Be The Dramatic Fantasy Storytelling And Guitar Harmonies Of Iron Maiden, Or The Slithering Shred Melodies Of Steve Vai, Or Even The Sugary And Bouncy Energy Of The 1975.”

DISC REVIEW “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS”

「IRON MAIDEN と GENESIS を聴いて育ったから、プログレッシブ・ミュージックがすぐに好きになり、ギタリストの Galen Stapley と出会う頃には、キャッチーなコーラスがたくさん入ったクレイジーでハイエナジーなプログを作る準備がお互いに整っていたんだよね」
プログレッシブ・メタルは、興味深い二面性を持っています。その血統からサウンドもテーマもダークであることが要求され、荒々しく、千変万化の野獣を召喚していく一方で、かつてプログの巨人たちが纏っていた光、希望、平和、喜びのファンタジーをも当然しなやかに受け継いでいます。この二面性を今、最も巧みに表現するのが、昨年の英 Prog Magazine 読者投票で最優秀 “未契約” バンドの座を勝ち取った英国の蒼、AZURE です。
「自分たちを “アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ” と呼ぶこともあるし、友人たちからは “フェアリー・プログ” と呼ばれることもある。これらのレッテルは全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っていて、そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的なものもあるんだよね」
Steve Vai や John Petrucci も真っ青の驚嘆のギター・ワーク、Bruce Dickinson と Claudio Sanchez の中道を行く表情豊かなボーカル、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。冒険に付き物の闘い、呪い、毒殺など、時に暗い物語、ダークなトーンを扱っているにもかかわらず、彼らの音楽には、ドラマと芝居が重なるブライトで煌めくような個性が宿っています。そして、その二面性は彼らにとって “プログ” の定義である多様性、音の正十二面体によって構成されているのです。
「僕たちは “プログ” を、IRON MAIDEN のドラマチックなファンタジーの物語とギター・ハーモニーであろうと、Steve Vai のそそり立つシュレッドのメロディであろうと、The 1975 の甘く弾けるエネルギーでさえ、何でも起こりうるジャンルとして捉えているんだよね」
“Self-Crucifixion” はその象徴でしょう。CHON を想起させるアップビートな数学的愉悦を前面に押し出しながら、重い十字架を背負う曲名と歌詞は著しくダークなテーマを表現。同時に、モダンな中に80年代の光彩や美技を織り込むのも彼らのやり方。Vai から Yngwie に豹変するような Galen の妙技は、楽曲に歓びを伴うタイム・パラドックスをもたらしています。加えて、時に Kate Bush や Andre Matos さえ思わせる表情豊かな Chris の歌声は、リスナーに中毒性を植え付けながらリピートを加速させるのです。
一方で、鍵盤奏者 Shaz Dudhia は、 “A Sailor Will Learn” や “Outrun God” で 8bit の異世界を創造し、AZURE のプログを大海原へと解き放っていきます。そしてとどまることを知らない 彼らの青い海は “The Jellyfish” で The 1975のようなインディーポップを、”Ameotoko I – The Curse” で敬愛する J-Rock や JRPG までをも飲み込みプログの新たな波を発生させていくのです。押し寄せるは、DREAM THEATER や PAIN OF SALVATION に初めて出会った時を思い出させる圧倒的な陶酔感。
ミキシングとマスタリングは、SLICE THE CAKE の Gareth Mason と Jonas Johansson が担当。何層もの楽器と様々なダイナミクスを一つもかき消すことなく、インパクトのあるプロダクションを実現しています。
今回、弊誌では、シンガー Christopher Sampson にインタビューを行うことができました。「J-Rock バンドや、そのシーンの多くのプロジェクトに大きな愛着を持っているんだよね。
Ichikoro は素晴らしいし、ゲスの極み乙女や Indigo La End など、僕たちが好きな他のバンドともリンクしている。あと、僕たちは日本のメタルやパワーメタル・シーンも大好きで、GALNERYUS、Doll$Boxx、UNLUCKY MORPHEUS といったバンドを定期的に聴いているんだよ」 どうぞ!!

AZURE “OF BRINE AND ANGEL’S BEAKS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PERSEFONE : METANOIA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARLOS LOZANO OF PERSEFONE !!

“I Remember I Read “Hagakure”, “Dokkodo”, “The Book Of Five Rings” And Works From Mishima Yukio. There Was Something On Those Books That Resonated With Me Since a Very Young Age And Made Me Look To Japan In a Very Personal And Respectful Way.”

DISC REVIEW “METANOIA”

「僕にとって日本は、幼少の頃から大きな存在だった。もちろん、アニメやゲームも入り口だったけど、やがて武道を嗜み、”葉隠”, “独行道”, “五輪書”、そして三島由紀夫の作品を読んだと記憶している。これらの本には、幼い頃から心に響くものがあって、とても個人的かつ尊敬の念を持って日本を見つめさせてくれたんだよね」
欧州のメタル侍。そう称したくなるほどに、PERSEFONE の生き様は彼らが深く薫陶を受けた日本の武士道を喚起させます。世界でも最小の国の一つアンドラから始まって、ビッグレーベルとの契約、Metal Hammer の表紙を飾るといったサクセスストーリーも、すべてはただ、 音楽的な”より善く” の探究を “潔く”、脇目も振らず続けた結果でしょう。
「どこの国でも2022年はストリーミングが主流だから、コンセプト・アルバムを作ることはマーケティング的に最も賢いやり方ではないかもしれないよね。でも、僕たちはただ音楽が好きなんだよ。最初から最後までリスナーに本物の音楽体験を提供したい。それが、僕たちにとっての PERSEFONE の音楽だから」
ストリーミング全盛の世の中において、壮大なコンセプト・アルバムにこだわり続ける。実際、主流に贖い自らの “正義” を通すそんな彼らの武士道こそ、PERSEFONE が世界に認められた理由の一つ。さらに彼らは、現代のプログ・メタル界において、おそらく他のどのバンドよりも破壊的で残忍なテック・デスメタルと、荘厳さ、スピリチュアルな詩歌を巧みに組み合わせることによって、その存在を際立たせているのです。心が洗われるような荘厳美麗の刹那、襲い来る津波のようなテクニカルの牙。その対比の魔法は中毒になるほど鮮烈で、PERSEFONE だけに備わった一撃必殺の抜刀術に違いありません。
「”Metanoia” は、人間の中の深い変化、痛みと意思よる変化についての作品で、個人の闇の奥深くに潜り、もはや役に立たないもの全てを手放し(”Katabasis”)、新しい存在として再び立ち上がる(”Anabasis”)ためのアルバムなんだ」
“悔い改める” というギリシャ語のタイトルが示すように、”Metanoia” は、主人公が精神的なメルトダウンに陥り、そこから抜け出すまでの道のりを辿る壮大な物語。地獄から抜け出すための第一歩は、そこに問題があることを認めること。つまりそれは、心からの内省なのかもしれませんね。前作 “Aathma” では、CYNIC の Paul Masvidal が物語の案内人を担当しましたが、今回は LEPROUS の Einar Solberg が担当。”Pitsfall” という “落とし穴” から蜘蛛の糸をたどって抜け出した Einar ほど、その大役に相応しい人はいないでしょう。
新たなプログレッシブの声による精神世界の対話が終わると、現実という地獄が突然解き放たれます。”Katabasis” の根幹を成すのまさには灼熱のリフワーク、地獄の業火。この曲の優美で繊細な瞬間は、強引に、しかし巧みに、残忍さや複雑さと対になっています。こうした繊細と破壊の戦いは、レコードに類い稀なるダイナミズムと流動性をもたらし、気が遠くなるような主人公の精神的苦痛を伝えるのみならず、リスナー自身の体に直感的な苦痛を植え付けていきます。
燠火に彩られた牧歌的なピアノの旋律がリスナーを迎え入れる “Leap of Faith” は、驚くべきサウンド体験だと言えます。彼らはもはや、心をゆさぶる音楽を演奏するだけではなく、芸術を通してカタルシスや超感覚までをも生み出せることを示した異能のインスト作品。それでも、PERSEFONE は PERSEFONE にしか飼いならすことのできない内なる神獣を宿していて、その発火を待ち焦がれる召喚獣の嗎が、複雑さと凶暴性をすぐさま呼び寄せていくのです。
「僕にとっては “Spiritual Migration” の時代は個人的に難しい時代だった。だからライブで楽しく演奏していても、多くの人が好きなアルバムだとわかっていても、あのアルバムを聴くのは結構キツいものがあるんだよ。だから、”Consciousness pt3 “を作るために “Spiritual Migration” のリフを再利用することは、ある種のセラピーだったんだ」
作品の後半で、 Spiritual Migration” を歌詞や楽曲の引用という形で数多く取り上げたのは、Carlos にとっても地獄から舞い戻るためのセラピーでした。トラウマを乗り越え、生まれ変わるために再訪した過去こそが “Consciousness Part 3″。もしかするとこの楽曲は、DREAM THEATER が20年以上も前に “The Dance of Eternity” で成し遂げたプログとインストの魔法を現代に蘇らせるタイム・マシンなのかもしれませんね。”Spiritual Migration” のオープニングを飾る独特のリズムパターンと、PINK FLOYD のセグメント、そしてあの “Flying Sea Dragons” で登場した海龍の如きタッピングで締めくくられる楽曲はあまりにも秀逸な復活の音の葉。
そうしてこの長い精神の旅路は、前作を彷彿とさせる組曲で終焉を迎えます。”Anabasis” 三部作において彼らは、ジャンルの壁や先入観をいとも簡単になぎ倒し、技術的な複雑さと感情的なサウンドスケープの奇跡的な婚姻によって映画のような没入感を生み出すことに成功しました。いつかの ANATHEMA のように、長く暗い内なる夜は永遠にも思えるが、太陽は確かに昇るのだと語りかけながら。優しく、静謐に。
今回弊誌では、Carlos Lozano にインタビューを行うことができました。「音楽は、僕たちの周りで起こるすべての狂気から、僕たちを逃れさせてくれるよね。僕たちは、世の中で起こっているすべてのことから、できる限り音楽を遠ざけておこうとしているんだ」どうぞ!!

PERSEFONE “METANOIA” : 10/10

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