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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【METALLICA : 72 SEASONS】


COVER STORY : METALLICA “72 SEASONS”

“We’re All Really Average Players, But When You Put Us Together, Something Happens”

72 SEASONS

METALLICA の前作 “Hardwired… To Self-Destruct” から7年。数多の受賞歴があり、数百万枚の売り上げを誇るモンスター・バンドにとっても、11作目となる “72 Seasons” は、世界的なパンデミックの余波でまったく新しい状況の中の創造となりました。
パンデミックの坩堝の中で生まれた “72 Seasons” は、単なるニューアルバムではありません。コロナ以前に比べて、ポップカルチャーの中で、より大きな位置を占めるようになったバンドの再登場という意味合いが強いのです。その理由のひとつは、1986年の名曲 “Master of Puppets” が Netflix のレトロSFシリーズ “Stranger Things” で大きく取り上げられ、大きな後押しを受けたこと。もうひとつは、Lars Ulrich, Kirk Hammett, Robert Trujillo が昨年ブラジルのステージで、James Hetfield が観客に少し年をとって不安を感じていると認めた後に、3人でこのフロントマンを抱きしめたヴァイラル・ビデオの存在。METALLICA が Ozzy Osbourne とツアーを行い、テストステロンとビールを燃料とするスラッシュ・マシーンだった80年代には、こんなことは考えられませんでした。Lars Ulrich が振り返ります。
「バンド仲間をハグすることは、僕らの楽しみだよ。そして、お互いへの愛、40年以上経った今でもつまずきながらもやっていけることへの感謝をオープンにする。俺たちはそういう面をとても心地よく感じているんだ。俺たちは、お互いにオープンで透明な関係であろうとしている。30数年前、自分が20歳の時に “メタル・ロボット” であるため感情を持つことが許されなかった時代とは対照的だ。当時は、人間的な要素は、ある意味、置き去りにされていたんだ。ステージから降りたとき、俺たちはよく議論したものだ。 “あれは失敗した” “いや、俺のミスじゃない”。それは、ある種の完璧さを求める、狂気じみた、人間離れした努力だった…それが達成可能かどうかもわからない。でも今は、加齢に伴う自分たちの姿に満足し、”あの曲のあの失敗、面白かったよね?”と思えるようになった。今、俺たちは失敗を笑い、冗談にしているんだ。それでも俺たちは毎晩、ベストを尽くそうとする人間なんだよ」

つまり、結局のところ、2023年版の METALLICA はまったく別物なのでしょう。現在の彼らは、2004年に公開されたドキュメンタリー映画 “Some Kind of Monster” で見られるように、単に高額の精神科医を雇って創造性の違いを調整したり、バンド間の対立を仲裁したりすることはありません。彼らは実際に自分たちの感情について話しています。ステージ上でさえ。だからこそ、”72 Seasons” に収録された楽曲は、これまで以上にパーソナルなものになっているのです。以前のように必ずコンセプトや決まりごとから始まった作品ではなく、自らを曝け出し、初めて本音や伝えたいことをむき出しにしたアルバムなのかもしれませんね。
音楽的には、このアルバムはバンドの42年のキャリアを概観するような内容になっています。タイトル曲や “Shadows Follow”, “Too Far Gone?” は METALLICA 初期の熱狂的なスラッシュを蘇らせ、”You Must Burn!” は “Black Album” に収録されていたようなグルーヴを宿し、”Sleepwalk My Life Away” と “Chasing Light” では LORD/RELORD 時代のむき出しのロック・グルーヴを披露。一方、リードシングルの “Lux Æterna” は、METALLICA の初期のインスピレーション NWOBHM, 具体的には DIAMOND HEAD に向けたトリビュートのよう。11分のクローズ曲 “Inamorata” は、KYUSS と METALLICA 1986年のインストゥルメンタル曲 “Orion” の両方を呼び起こすことに成功しています。さて、このキャリアを包括するような新たな歴史の1ページは、いかにして生を受けたのでしょうか?
当初、バンドは毎週 Zoom ミーティングを行い、つながりを保ちながらアイデアを伝えていきました。遠隔地でのコラボレーション最初の試みは、2020年4月に各メンバーの自宅スタジオで録音された “Blackened” のアコースティック・バージョン(Blackened 2020)でした。そこからやがて、メンバー間の会話はより充実した音楽を作ることへと変わっていったのです。
Kirk Hammett が当時を振り返ります。
「ロックダウンが行われたとき、僕はかなりイライラしていた。両手を縛られたような気分だった。Rob(Trujillo) と “どうするんだ、このままじゃダメだ” っていう会話をしたのを覚えているよ!”こんなに時間を失うわけにはいかない!どうやってこの時間を取り戻すんだ!” とね。でも、Rob が言ったことがすごく心に響いたんだ。彼は “こんな時こそポジティブであれ。クリエイティブであれ” と言った。僕はそれを心に刻んだんだ。
今は、音楽的なアイデアがありすぎて、混乱してしまうくらいだ。そうして、ソロEP “Portals” の2曲を完成させることができたし、テクニックを鍛え、ずっとやりたかったギター・プレイに取り組むことができたんだ。時間が出来て、とても幸運だったと思えるよ。ロックダウンは、多くの人にさまざまな影響を与え、中には良くない影響を受ける人もいた。でも僕は Rob のおかげで、ポジティブに、要領よく、生産的でクリエイティブに過ごせたんだ」

そうして、4人の怪物たちは、何百ものアイデアを纏めるために選別し始めました。しかし、Zoom の喜びも束の間、何百、何千マイルも離れた場所にいる彼らは、これまで遭遇したことのない難題に直面しました。プロデューサーの Greg Fidelman がLAにいて、METALLICA のメンバーは西海岸に散らばっていたため、文字通りバラバラで、Lars はこの状況を “クラスター・ファック” と表現していました。
月日が流れ、世界が変わり始めた2020年11月、バンドは “All Within My Hands” のために集まり、実際に同じ空間で初めて新曲に取り組みます。それ以降、メンバーが家族の元に戻る前に会ったり、2021年にキャンセルされたライブを実現したりと、非常にストップ・アンド・ゴーなプロセスでしたが、ゆっくりと、しかし確実に、レコードが見えてきたのです。Lars がそのプロセスについて振り返ります。
「時には、より直接的で明白なビジョンが目の前に示されることもあれば、より本能的で言葉にならないこともある。2008年の “Death Magnetic” は、リック・ルービンと初めて組んだアルバムで、自分たちが何をしているのか、自分たちは何者なのか、これまでどこにいたのか、これからどこへ行くのか、アイデンティティや方向性について話し合うことがとても多かったんだ。こんな風に、各レコードは常に独自の旅であり、独自の存在なんだけど、このレコードはまるで偶然に突然出会ったようだった」
“音楽が現れた時、自分たちの方向に向かっているように感じた” と、Kirk は懐かしそうに振り返ります。
「これは僕らにとって初めてのことだよ。これまでは何度も、自分たちが考えるコンセプト通りに音楽を操作する必要があると感じていたんだけど、今回はそれがなかった。リフが現れて、一緒になって、僕たちはただ邪魔をしないようにするだけだった。音楽が飛び立つのを待つのが好きで、僕はその軌道を維持するためのガードレールに過ぎないんだ」
Lars の説明によると、具体的な目標や方向性に関する “ロッカールームでの会議” はなく、計画に関してはかなりルーズな感じだったと言います。パンデミックという外界の不確実性に囲まれていたため、より直感的に、考えすぎず、Kirk が言うように、音楽の流れに身を任せる必要があると感じていたようです。
「形にはなってきたけど、ゴールはなかった。というのも、創作活動でやっていることの大部分は、心臓や腸など、体の一部から生まれるものだと思うんだよな。もしそれが重くなりすぎたり、頭でっかちになったりすると、少し強引になってしまうし、過去に俺たちが頑張りすぎてしまったこともたしかにあった。だから “Hardwired” やこのアルバムは、曲作りのプロセスを可能な限り有機的なものにすることに重きを置いていると思う」

この自由で無秩序な作業方法と、作曲とレコーディングの過程でバンドに与えられた余分な時間は、音楽とそのクリエイターに余裕を与え、それまでとは全く異なるダイナミズムを植え付けました。Lars はそれは METALLICA にとって驚きだと言います。
「この2年間の制作期間中、誰かが声を荒げたり、議論や衝突があったとは思えない。40年も一緒にいれば、当然ぶつかることもあるし(笑)、それは過去によく語られてきたし、映画などでもよく記録されている。でもこれは、METALLICA がこれまでに作ったレコードの中で、断然、100パーセント、摩擦のないレコードだ。
結局のところ、俺らは自分たちがやっていることをとても愛しているし、自分たちが持っているものをとても大切にしているから、その道を旅するにつれてより大切にするようになるんだ。METALLICA を台無しにするようなことはしたくないから、もし何か問題が起きたら、すぐに手を引くんだ。今は互いにもっと共感できるようになったし、お互いを信頼して、すべての意見の相違が口論になる必要はないと思えるようになったのかもしれない。以前は、自分自身や全体像に対する信頼や信念が足りなかったから、あらゆることが喧嘩になったものだけど、今はそうではないんだよ。つまり、”過去” とは違う環境だ。このバンドにいて一番いいのは、安全な空間のように感じられることで、みんながそれに貢献している。みんながそれをとても大切にしているんだ」
James Hetfield は、METALLICA という “乗り物” があるからこそ4人が輝くと考えているようです。
「俺たち4人は個々でいると、マジで平均的なプレイヤーだよ。だが、4人が集まると何かが本当に起こるんだ。だから、基本的に他のミュージシャンとジャムるのは、俺にとって悪夢のようなものなんだ。俺はとてもシャイだから。1万人、2万人の前に立つよりも、誰かと1対1で座っている方がずっと不安なんだ」
Rob Trujillo も METALLICA の絆を感じています。
「METALLICA は家族なんだ。僕は家族に加わったんだよ。新しい兄弟を受け継いだ。ほとんどの人が知っているように、あるいは知っていてほしいのだが、特にこのようなバンドに参加するときは、責任が生じるんだ。もちろん、演奏できることは必要だし、信頼もパフォーマンスも必要だ。でも同時に、家族の一員として、その人の個性に合わせることも大切なんだ。METALLICA のメンバーはみんな違うし、同じではない。だから、物事を解決するためには、たくさんのコミュニケーションが必要なんだ。そして時には、自分の兄弟と同じように、完全に怒っている自分に気づくこともある。自分の家族と同じように、性格の違いを乗り越えていかなければならない。それと同時に、本当に大切なのはサポートだ。兄弟の誰かが落ち込んでいるとき、どうすれば彼を助けられるかを知っておかなければならないよ。METALLICA にいることは、そういうことなんだ」

METALLICA が闇を知らないわけではありません。”Master Of Puppets” での薬物中毒、 “One” での恐ろしいまでの孤独、”Fade To Black” での自殺願望など、彼らの作品は決して祝福と幸福に満ちたものではありませんでした。しかし、そんな中でも “72 Seasons” は、人間の大きな苦しみと不確実性を背景にした、彼らの最も暗い作品かもしれません。Kirk が説明します。
「ありきたりだけど、音楽は僕らの感情的、精神的、霊的な状態の反映なんだ。逆に言えば、”そうであってはならない” ということが理解できないんだ!僕たちはよく働くバンドだ。ロックダウンで閉じ込められたとき、僕らのエネルギーをどうやって取り除くんだ?僕たちはそれを音楽に注ぎ込む。だから、多くの音楽はとてもエネルギッシュなんだ。バラードがないのは、バラードが現れなかったからだ、兄弟。素敵で優しくて繊細な音楽はないんだ。この感情をカタルシスのある方法で吐き出したいんだ」
確かに、バラードはありません。77分という長い時間をかけて、”72 Seasons” は猛烈な勢いで駆け抜けていきます。このバンドは明らかに、自分たちの才能を誇示する気はなく、代わりに内なる猛り狂った地獄を共感させることを選んだのです。
しかし、この強烈なメタルの狂気は、”72 Seasons” の一つの側面に過ぎません。実際、James Hetfield はキャリアの中で最も露骨で脆弱な歌詞を残しています。人生の最初の18年間は、その後の人生に影響を与えるというコンセプトのもと、72 Seasonsはノスタルジア(”Lux Æterna”)、自傷行為(”Screaming Suicide”)、内省(”Room of Mirrors”, “Sleepwalk My Life Away”)など一見暗い内なるテーマを扱っています。Lars が説明します。
「このアルバムのテーマは、人生の最初の過程で経験したことが、いかに自分を形成し、自分が下す決断に影響を与え続けるか、そして自分が何者であるかを決めるということ。James は、人間のすべてが、最初の “72シーズン” で形作られるというコンセプトを持っていたんだ」

2019年10月、フロントマンは依存症をめぐる問題で2度目のリハビリ施設に入りました。”72 Seasons”のコンセプトは、人生の形成期である18年間と、それが最終的にどのように自分自身のあり方へと影響を与えるかだと説明した James 自身は、厳格なクリスチャンの家庭で育ち、13歳の時に両親が離婚。16歳のとき、母親はがんで亡くなっています。James は “大人は誰しも子供時代の “囚人” という言葉を使っています。
「James は、自分が経験してきた多くのことを、とてもオープンにし、透明にしているように感じるんだ。その多くが歌詞に現れていて、彼が歌詞を使ってコミュニケーションをとることをとても支持している。彼の口を塞ぎたくはないんだよ」
歌詞を読み解くと、憂鬱、逃れられない闇、誘惑、分裂、救済への願望など、明確なテーマがあり、その根源は魂の探求と隠れた悪魔との対峙に費やした結果だろうと読み取れます。しかし、 Lars は James の言葉にポジティブなものも見出しているのです。
「James は闇と光のコントラストを表現しているんだ。一歩引いて、歌詞や James が今回持ってきたテーマを見てみると、光と闇の両側面や両者の相互作用についてとてもよく感じられる。自分探しや、自分の弱さ、可能な限り透明であろうとすることなど、多くの要素に取り組んでいるんだ」
Kirk も Lars に同意します。
「歌詞が暗いとは思わない。彼は本当に暗いテーマに明るい光を当てているという事実において、非常にポジティブだと思う。それは必ずしも悪いことではなく、誰も触れようとしないようなパーソナルでタブーなテーマにアプローチすることで、みんなに大きな奉仕をしているんだ。そうやって、自分自身を世界に示しているんだ。もちろん、とても勇気のいることだよ。物事のネガティブな面を見ることは、世界で一番簡単なことなんだ。人は3秒でネガティブになれるが、ポジティブになるにはもう少し努力が必要だ。時間が経つにつれて、ポジティブでいること、みんなの幸福を拾い上げることだけでも努力する価値があると気づくだろう。James はこの歌詞をポジティブに捉えているんだ。KING DIAMOND のように究極の終末を語るわけでもなく、デスメタルのようなものでもなく、James は希望について歌っているんだ」
James も光を認めます。
「俺の人生、キャリアにはたくさんの暗闇があった。しかし、常に希望の感覚を持ち、暗闇の中に光を持ってきた。暗闇がなければ光はないのだから。人生には良いことがたくさんある。それに集中するんだよ。そうすることで、人生のバランスをとることができるんだ。誰もが自分の人生に何らかの希望や光を持っているんだ。明らかに、音楽は俺のもの。”Lux Æterna” では特に、コンサートに集まった人たちのことを歌っているんだ。ライブでは音楽から生まれる喜び、生命、愛、そして家族を見ることができ、ただただ高揚する感覚を味わうことができる」

Lars が James と出会ったのが、ちょうど17の時でした。ある意味、原点に戻るような意図もあったのでしょうか?
「バンドの原点を振り返るというより、俺ら自身のストーリーを振り返るということだと思う。長い間活動していると、その境界線は本当に曖昧になるからな。俺は17歳のときから METALLICA に参加しているから、人生のほとんどすべてを METALLICA の出来事と関連付けている。James と俺が出会ってバンドを始めたのが17歳の時だった。その2、3ヵ月後に18歳になったんだ。だから、人生のタイムラインは、基本的にバンドのタイムラインと連動しているんだよ。この2つを別々の軌跡として切り離すことはできないんだ。
もちろん、仲間と一緒に座って、昔話や喧嘩の話などをすることもあるだろう。旅先での話や、さまざまなおかしないたずらについて話すこともある。でも俺は過去にはあまり時間を割かないんだ。むしろ、未来に時間を割きすぎていて、現在には十分な時間を割いていないのかもしれないよな。でも、過去、現在、未来の間で、俺は間違いなくほとんど未来にいる」
ただし、リード・シングルの “Lux Æterna” に初期の METALLICA、もっと言えば NWOBHM の影響を見る人は多いでしょう。
「”Lux Æterna” を書いているとき、DIAMOND HEAD の話は出てこなかったと思う。でも、曲の中で James が “Lightning the Nations” (DIAMOND HEADのデビュー作) と言ったのは、明らかに意識していたよな。正直なところ、歌詞について彼に聞くことはあまりないんだ。でも、 “NWOBHMみたいだ” とか “DIAMOND HEAD みたいだ” とか言われると、なるほどと思うことがあるのは、俺らのことをよく知っているからだろう。専門的なことを言えば、あのリフのキーはAで、NWOBHM の曲の多くもAだった。俺らの曲の大半はEかF#のどちらかだからな。そこまで分解するのは嫌いだけどね」
セカンドシングルの “Screaming Suicide” をYoutubeで見ようとすると、”この曲は自傷行為について話しています” という警告があり、同意する必要があります。その下には自殺ホットラインの番号が書かれています。
「まあ、それは後からついてきたものだ。作っている最中は、どう解釈されるかなんて考えている暇はない。でも、このテーマ、この歌詞の土台であれば、免責事項や情報をパッケージにしたほうが役に立つと思い、選択したんだよ。そして、それは俺にとって本当に、本当に感情的なことだった。発売から1、2日後にコメントをチェックしたのだけど、ファンからのフィードバックには、自分の家族、親戚、友人など、どれだけの人がこのテーマに影響を受けているのかが書かれていて、ただただ驚かされるばかりだったよ。YouTubeのコメントを読んでいると、3つ目か4つ目のコメントには、身近な人の自殺や自殺願望に関するエピソードが書かれていたんだ。俺は涙を流しながら、この感想を読んでいたよ」

40年のキャリアに11枚のアルバム、そして4人のメンバー全員が60歳代を迎えた METALLICA。暖炉の周りに座って自分たちの遺産について反芻していても不思議ではありませんが、実際の彼らは正反対。METALLICA のタンクにはまだ燃料があり、成し遂げるべきことがはるかに残されているのです。ポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーン、DEEP PURPLE などを例に挙げ、Lars は 「彼らが最高レベルでキャリアを続けていることは刺激になるだけでなく、何が可能かを示している」と言います。
「バンドの精神は長く続けることで、僕らはこれを本当に楽しんでいるんだ。この5年、10年の間に、自分たちの境界線と限界を理解し、どれだけ自分を追い込むべきかを理解できるようになった気がする。でも、膝や首、背中、肘、喉など、いろいろなガタがくるのは、これからだよ(笑)。ステージに上がると、やはり疲労が蓄積するから、健康を祈るばかりだよ」
Rob にとっては、”72 Seasons” こそがバンドの最高傑作です。
「僕らにとっての祝福と呪いのひとつは、新しい音楽的なアイデアがたくさんあって、レコードを作るのが楽しいということ。METALLICA のように長く活動しているバンドの多くは、ある時点で行き詰まりを感じたり、高いレベルで創作することが難しくなったりするものだけどね。でも、僕たちはたくさんのアイデア、たくさんのリフ、たくさんの音楽を持っているバンドなんだ。Kirk のリフのストックなんて、何百もあるみたいだしね。だから、僕らが持っているすべてのアイデアを実現するほど十分なアルバムをまだ作っていないんだよ。だから、想像するに、そう、僕らは新しい音楽を作り続けるんだろう。この作品は、僕がバンドをやってきてから一番いい作品だと思う。だから、これからも新しい音楽には事欠かない。ただ、それをやるための時間があるかどうかだ。それは全く別の話だ」
しかし、METALLICA にはまだ野望があるのだろうか?彼らは地球上のほとんどすべてのフェスティバルでヘッドライナーを務め(今秋にはカリフォルニアで開催される大規模フェスティバル Power Trip に出演予定)、7大陸すべてで演奏した唯一のバンドであり、1億2500万枚以上のアルバムを販売し、ビールやウィスキーの自社製品も持っています。さらに、レコードのプレス工場も購入したばかりです。Lars が答えます。
「よし、まだ月でライブをしたことがないから、その方法を考えてイーロン・マスクに電話しようみたいなチェックリストはないんだ。俺にとっては、自分たちを更新し続けることが重要だ。これからの数年間は、自動操縦に陥らず、自分に挑戦し続けるという適切なバランスを見つけることが大切なんだ」
Kirk は METALLICA の音楽の未来について、たとえ自分たちがこの世から去ったとしても遺せるものがあると信じています。
「ロックンロール・バンドの歴史を見れば、僕らはとっくに解散しているはずなのに、解散していないんだ! なぜそうしなかったかというと、僕たちが真の兄弟だからだ、お互いに離れられないと心から思っている。それに音楽が一番大事なんだ!僕たちはいつか死ぬし、賞味期限があるけど、音楽にはそれがない。音楽は生き続ける。楽曲は何年も何年も存在し続けて、聴かれ、発見されるのを待つ。100年後、誰かが “Seek & Destroy” を発見して、何だこれは?となっても、誰も僕たち4人のことまでは気にしないよ!”うわー、あいつら誰だ?長髪の男たち?でも、Enter Sandman” はクールだ”。レガシーとは、エゴの旅であり、ある意味無駄なものなんだよ」

アルバムのタイトルにもあるように、人生の最初の72シーズン (18年) は、その人のあり方を決定づけます。ある人は、子供の頃が本当に自由だった最後の時期だと振り返り、現実の生活に埋没する前に人生の最高のものを経験したと考えます。一方で、幼少期は過去として残し、明日は前よりも良い日であると考える人もいるでしょう。James は親となる事で、そのどちらをも肯定するようになりました。”過去は終わった” と認めることで希望が生まれる。混沌とした子供時代は避けられなかったかもしれませんが、それも過去であり、未来は自身が作るもの。
「人生最初の72シーズンがどんなもので、それが今どんな意味を持つかは、人それぞれだ。ただ、子供を持つことは、自分の子供時代や両親が経験したことを理解するのに役立つのは間違いない。どちらかというと俺は後者だね。親である俺は、”みんな、勘弁してくれよ。俺はただの人間なんだ” って感じだけど、子供のころは、親を神様のように尊敬していた。親は悪いことをしないし、親が言うことは何でも正しいと崇拝していた。でも親も人間だったんだ。世代を超えて、親として、本当に、俺がやりたいことは、自分の親がやったことより、もう少しうまくやることかもしれない。それが、自分に求めたいことだね。努力しなければならないこともあれば、完全に忘れなければならないこともあるし、見つけなければならないこともある。ただ、あれやこれやと親を責めるのはもうやめにしたいんだ。一つ言えるのは、誰にでも幼少期がある。それが良かったか悪かったかは、人生の後半で決めればいい。子供時代を変えることはできないが、子供時代の概念や今の自分にとっての意味は変えることができるから」
黄色のパッケージを選んだのにも理由がありました。
「俺にとっての黄色は、光。光なんだ。善の源なんだよ。だから、黒に対して、本当にポップな光の作品なんだ。俺のビジョンは、もともとこのアルバムを “Lux Æterna” (永遠の光) という名前にすることだったんだ。そして、俺は名前決めの投票に負けたんだけど、これは素晴らしいことだよ。”72 Seasons” は、より噛み砕きやすい曲であることは間違いない。それが何であるかを理解することができる。もう少し掘り下げて、噛み砕いてみてほしいね。でも、あの色は “Lux Æterna” から生まれたものなんだ」

METALLICA のメンバーにとって、72シーズンは複雑な旅路でしたが、最終的には、今日まで存在するメンバー共通の情熱、すなわちヘヴィ・Fuckin’・メタルを発見したことがすべてでした。Kirk が振り返ります。
「僕は機能不全な子供時代を過ごしていた。18歳になる頃には、頭が真っ白になっていたよ。都会で育ったから、あまりにも多くのものを、あまりにも早くから見すぎたんだ。だから、言いたくはないが、50回目のシーズンにはすでに傷物になっていたんだ(笑)。でも、72シーズンという短い期間の中で、いろいろな音楽を聴くことができたのは、僕にとって大きな財産になった。ベイエリアの音楽、ソウル、ファンク、R&B、ラップ、サルサ、ジャズ、クラシックなど、たくさんの音楽を聴いて育ったからね。ハードロックに目覚めたのは12歳か13歳のときで、KISSというバンドは好きだし、LED ZEPPELIN も好き、PINK FLOYD も好き…と思い、そこから始まったんだ。15歳のときに NWOBHM に出会い、JUDAS PRIEST や MOTORHEAD を知り、IRON MAIDEN のファースト・アルバムが発売され…そういったことはすべて72シーズンのうちに起こったことだ!その間に音楽的な情報を得て形成されたものが、今の僕の人生の音楽なんだ。どんな音楽も好きだけど、ヘヴィーでアグレッシブでエネルギッシュでダークな音楽を演奏するのは、心の底から好きなんだ。メタルが僕の72の季節を映し出す鏡であり、実際に過去に戻らなくても、あの頃のメタルを聴けばそこに行くことができる。それは健全なことだ」
Lars はどうでしょう?
「テニスをする家庭で育ったから、自分の中ではテニスで生きていくと思っていた。デンマークで育ち、テニス選手として国のトップ10にランクされたのに、ロサンゼルスでは、自分が住んでいる通りのベスト10に入ることもできないなんて、思いもよらぬ衝撃だった。だから、音楽の世界に飛び込んで、IRON MAIDEN, DIAMOND HEAD, TYGERS OF PAN TANG といった、バンドが、”音楽をやるのは楽しいかもしれない” と思わせてくれたんだ。それが目標だったんだ。James と俺が音楽を作り始めると、自分たちが求めていたものと同じようなもの、つまりメタルに没頭することを求めている人たちがもっといることに気づいたんだ。当時は世界の仕組み上、誰も知らなかったけど、俺らと同じようなはみ出し者や不適合者、権利を奪われた一匹狼が世界中に何百万人もいて、同じものを探していたんだよ!」

ヘヴィ・メタルは Lars にとって外の世界に初めてできた “家” でした。
「俺は一人っ子なんだ。バンドをやっているのは、他の人と一緒にいたいからなんだよ。幼いころは確かに一匹狼で、仲間はずれにされ、大きなクラブに所属したこともなく、注目の的だったこともない。いつも1人で外をウロウロしていたんだ。テニスをしていたけど、テニスは孤独なスポーツだ。俺は多くの時間を壁に向かってプレーしたり、ボールマシンでプレーしたりしていたからな。学校へは、他の子供たちと一緒にバスに乗るよりも、自転車で通うことにしていた。だから、バンド、グループ、集団、ギャング……どんな呼び方でもいいけど、俺は常に帰属意識を持ちたかったんだ。
昔は不器用で孤立した一匹狼の子供だったけど、バンドという環境に飛び込んだ。だから、ミート&グリートや、人と一緒にいること、昔はパーティーなど、社会的な要素はすべてその後に生まれたものだ。同じ志を持ち、抑圧されたメタル・ヘッズたちと一緒にいることで、”うわ、俺たちはこんなにたくさんいるんだ” と感じたんだよ。バンドを結成した当初は南カリフォルニアで、俺と James、そしてごく初期に一緒に演奏した数人のメンバーでスタートしたんだ。その後、サンフランシスコに移り、そこのスラッシュ・シーンの一員となった。そこから、メインストリーム以外のミュージシャンやメタル・ファンにどんどん出会っていった。人とのつながりを求めるのは、間違いなく俺の道だ。それは、一人っ子であることから始まった。でも、誰にでも自分なりの道があるものだよ。君にもきっと、自分なりの道があるはずだ」
Lars は、まだクラブで演奏していたころの PANTERA と知り合い、その仲を深めてきました、
共演も控えています。
「”Ride The Lightning” のツアーで兄弟に会って、友達になったんだ。ダラスでのことだよ。二人とも大好きで、テキサスには仲間もいて、テキサスを通るときはいつも会っていたよ。バンドがロック的な雰囲気から、クリエイティブでユニークな力へと進化していくのを、俺たちは何年もかけて見てきたんだ。だから、何十年も彼らとの関係を保ってきたんだ。”Walk” が好きでね。彼らが PANTERA の音楽と魔法を祝うという考えは……人々がそれを支持するかどうかについて、コミュニティで多くの話があるのは知っている。でも、俺はグレン・ヒューズが DEEP PURPLE のセットで演奏したいと言ったら、それを支持するタイプなんだ。だから、PANTERA の再結成はいいことだと思うんだ。Charlie が参加するのも素晴らしいことだ」
そして約40年後の今、ベイエリア出身のはみ出し者たちが、何百万人もの世界中のオーディエンスに接続され、真っ暗な闇の中から希望と光のメッセージを語っているのです。METALLICA の軌跡は、二度と繰り返すことのできない伝説であり、世代を超えたものでありながら、今だに1981年にバンドを始めた10代の若者たちの血と汗と涙が燃料となっているのです。
さて、Lars は72シーズンを終えた18歳の自分にどんなアドバイスをするのでしょうか?
「長髪を楽しめ。30代になったら前髪は消えてしまうし、あの大きなデニッシュのおでこは、一生目立つビジュアルになるんだから!」


参考文献: KERRANG! :Metallica: “In the past every single thing had to be fought over… now the band is a safe space and everyone is very protective of it”

REVOLVER:INSIDE ’72 SEASONS’: METALLICA’S JOURNEY FROM “METAL ROBOTS” TO OPEN-HEARTED FAMILY

CONSEQUENCE SOUND : Letter from the Editor: The Metallica Consequence Cover Story

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HAMMERS OF MISFORTUNE : OVERTAKER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN COBBETT FROM HAMMERS OF MISFORTUNE !!

“Let’s Boil It Down To “Illusions” By Sadus And “Nursery Cryme” By Genesis; This Pair Of Albums Are Kind Of i Ideal In Thrash On One Hand, And Prog On The Other, To Me Anyway.”

DISC REVIEW “OVERTAKER”

「SADUS の “Illusions” と GENESIS の “Nursery Cryme” だね。僕にとってこの2枚はスラッシュとプログの理想形なんだよ。だからこの作品のキーワードは “理想” なんだ。この2枚のアルバムを、プログとスラッシュ、それぞれの分野の表現の象徴として捉えているんだ。この2枚のアルバムの、実際の音楽を組み合わせるということではなく、その精神、ゴーストのようなものを捉えたかった。音楽に対するアプローチが全く異なる2つの作品、どちらも大好きだ。だから、この相反するものをどうにかして結びつけたいと思ったんだ」
プログレッシブ・スラッシュといえば、VOIVOD, VEKTOR。CORONER や MEKONG DELTA、ひょっとすると MEGADETH もその範疇に入るのかもしれません。とにもかくにも、この分野のバンドはほとんどがメタル世界のカルト・ヒーローとして大きなリスペクトを集めています。ただし、彼らは本当に “プログレ” とスラッシュ・メタルを融合させてきたというよりは、独自の実験で “プログレッシブ” の称号を得たと言う方が正しいのかもしれませんね。
一方で、HAMMERS OF MISFORTUNE は彼らほどの認知も賞賛も得られてはいませんが、実験の精神と “プログレ” の解像度ではどのバンドにも負けてはいません。常に裏街道を歩んできた “範馬の不運” は近年、ついにその才能に見合う評価を勝ち取ろうとしています。
「僕はみんなと同じように様々な気分を持っているんだ。時には邪悪なスラッシュの気分、時には壮大なプログレの気分、時にはノイジーなDビート・パンクの気分だ! MR. BUNGLE や NAKED CITY のようなバンドも好きだけど、だけど僕らの音楽がコラージュのように聞こえるのは嫌なんだ。すべてが調和して、自然で有機的なサウンドになることが重要。音楽の “トランジション” はとても重要なんだ」
“トランジション” はひとつ、近年のモダン・メタルにおいてキーワードとなる言葉かもしれませんね。多様で境界を押し拡げるモダン・メタルの理念において、”クソコラ” のように様々なジャンルをツギハギするバンドは決して少なくありません。そんな安易なモザイク、不都合なジグソーパズルは結局、イロモノとしてリスナーに処理され、せいぜい SNS でひと時の “バズ” を得て消えていきます。
一方で、HAMMERS OF MISFORTUNE のやり方は、実にしたたかで巧妙。インテレクチュアルなスラッシュのリフ・ハンマーと、VEKTOR での不運を薙ぎ払うリズム隊の猛攻。そこに、濃密で荘厳なシンセ、メロトロン、そして複数のボーカリストが重なり合い、シームレスに連鎖して、轟音と畏怖と美麗の塊を創造していきます。
GENESIS と SADUS の共存共栄。そんな狂気の夢物語は、地獄のラボで音そのものをツギハギするのではなく、英傑たちのオーラを抽出して “Overtaker” というフラスコへと慎重に注ぎ込む抽象的な実験だったのです。世界観と世界観の蜜月。ロマンティックとおぞましさの婚姻。だからこそ、彼らの狂気はジェットコースターのように、リスナーの五感を圧倒します。
「住宅危機やソーシャル・メディアについて書くのは、最もメタルらしい題材ではない。たしかにそうだ。でも、このようなテーマに取り組んでいるメタルバンドは他に思いつかないけど、間違いなくメタルバンドだって皆これらの問題を扱い、日々深い影響を受けているんだよ。ホームレスと所得格差を暴力的なSFおとぎ話の形で扱った曲、”Overthrower” の歌詞を思いつくには、真剣に考える必要があった。メタルの曲で扱うには簡単なテーマではないけれど…」
つまり、要約すれば、このプロジェクトの首謀者、ベイエリアで長年カルト・ギターヒーローとして活躍を続けた John Cobbett はヘヴィネス、ムード、ドラマ、エキセントリックを変幻自在に超越し、VEKTOR や SABBATH ASSEMBLY といった異能のメンバーを操りながら、フォーキーで、リズミカルで、クラシカルで、プログレッシブなスラッシュ・オペラを完成させ、イラク戦争、住宅問題、SNSというテーマを経て、地球の険しいしがらみから逃れたサイケデリックな宇宙の旅へと到達しました。
ある意味、彼が一平方あたりの人口が6人という途方もない田舎、モンタナへと居を移したことが吉と出たのでしょう。フレキシブルで自由に選べるメンバー、余分なジャムを削ぎ落としたソリッドで凝縮されたコンパクトな楽曲、そして何より、残酷で生死をリアルに感じさせる厳しい自然環境が”Overtaker” のメタル、プログレッシブ、パンクを一層タイトに結びつけました。不運を名に宿したバンドの雪解けは、もうすぐそこです。
今回弊誌では、John Cobbett にインタビューを行うことができました。「現実世界の問題を壮大なヘヴィ・メタルの歌詞にするのは難しいことだけど、結果的にその方がメッセージが効果的になると思うんだよね。間違いなく、よりエンターテインメント性が高い。平凡なことが深遠であってはならないなんて、誰が言ったんだ?」 どうぞ!!

HAMMERS OF MISFORTUNE “OVERTAKER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【XENTRIX : SEVEN WORDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KRISTIAN HAVARD OF XENTRIX !!

“Thrash Metal Could Be Down To Age And Experience. When You’re a Younger Band You Play Together In a Different Way Than When You’ve Been Around The Block a Few Times.”

DISC REVIEW “Seven Words”

「イギリスのスラッシュ・シーンは盛り上がるのが遅くて、アメリカやドイツのようなインパクトはなかったと思う。XENTRIX も同様に現れるのが遅かったから、シーンの興隆の助けにはならなかった。
つまり、レコード会社はイギリスのバンドに投資する前に、アメリカのバンドがどれだけ大きくなれるのか見たかったんだと思う。そして、彼らが僕らのようなバンドを欲しがった時には、もうシーンは次に向けて動き出していたんだ」
XENTRIX ほど “徒花” という言葉が似合うスラッシュの英雄はいないでしょう。生まれた場所や時間さえ違っていれば、今ごろは華々しいレジェンドと肩を並べる存在であったかもしれません。80年代半ばに英国で誕生した XENTRIX はまさに遅れてきたスラッシュ・エキセントリック。バンドの大作 “For Whose Advantage?” が、スラッシュの当たり年 1990年に発売されたのも不運だったのでしょうか。”Rust in Peace” ほどテクニカルではなく、”Twisted into Form” ほど熱くもなく、”Spectrum of Death” ほど凶暴でもなく、”By Inheritance” ほど知的でもなく、”Slaughter in the Vatican” ほど革命的ではありませんでしたが、それでも、”For Whose Advantage?” はメタルの伝統と野望を宿した凶暴なリフの刃でまっすぐ頸動脈に向かってきます。
「ベイエリアのバンドは古いバンドよりもモダンでエキサイティングな感じがしたけど、僕たちは自分たちのメタルのルーツも残したかった。だから、XENTRIX ではその二つの融合を聴くことができると思う。いつも言っていることだけど、僕らはメタルに重点を置いたスラッシュ・メタル・バンドなんだ」
一度は “徒花” として埋葬される運命にあった XENTRIX ですが、墓所の石棺は半ば強引に内側からこじ開けられることになります。”Bury The Pain”。痛みとともに葬られていた才能と野心は、2019年に再度世界へと解き放たれました。バンドの顔であったシンガー Chris Astley こそ欠いていますが、Jay Walsh はその穴を埋めてあまりある逸材。
今振り返ってみると、当時の英国スラッシュ勢、ACID REIGN にしろ、ONSLAUGHT にしろ、SABBAT にしろ、何かしら独特の “エグ味” “異端感” を伴っていたような気がします。その “エグ味” を世界が珍重する前に、ムーブメント自体が終焉してしまった。だからこそ、XENTRIX は再び地上に這い出でる必要があったのです。
「僕たちはベイエリアのバンド、TESTAMENT, VIO-LENCE, EXODUS, FORBIDDEN(これでも少し挙げただけだけど)が大好きだったんだ。
でも、彼らのようになろうとしたわけではなく、メタルという鍋に自分たちの味を持ち込みたかったんだよな」
復活第二弾となる “Seven Words” は、文字通りスラッシュ・メタルの “7つの系譜” を融合させたものと言えるのかもしれませんね。XENTRIX 初期の作品には、ベイエリアの躍動を受け継ぎながらも、ブリティッシュ・ハードの伝統と、CORONER のような暗知的な色合いを備えていました。そうした下地に、 初期の SEPULTURA を思わせるクランチーな圧迫感、さらにメロディアスなリフと高揚感のあるギターでメタル世界の各階層へとアピールしながら、確実に音の進化を刻んでいるのです。
“Seven Words” というリフの迷宮と”Anything but the Truth”” のシンプル・イズ・ベストが交互に現れるリフ・ダイナミズムもアルバムの魅力。そもそもメロディックな色合いは XENTRIX の本分ではないにもかかわらず、巨大なコーラスが破砕的なギタリズムと衝撃的にキャッチーな歌心をさながら溶かして融合させるスラッシュとメタルのハンダ付けはあまりに印象的でエネルギッシュ。そうして彼らは、テクニカルで好戦的でメロディックなヘヴィ・メタルの理想像を老獪に描き出すのです。
今回弊誌では、バンドの心臓 Kristian Havard にインタビューを行うことができました。「スラッシュ・メタルは年齢と経験を重ねる必要があるのかもしれないよな。若いバンドは、経験豊富で何度かバンドを組んだことがある人とは違った方法で一緒に演奏するからな」

XENTRIX “SEVEN WORDS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW【ANARCHŸ : SENTÏENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH REESE TILLER OF ANARCHŸ !!

“Slayer Is Awesome, But We Really Don’t Need Any More Slayer Clones.”

DISC REVIEW “Sentïence”

「僕ら二人は Anarchÿ の他にも音楽活動をしているけど、HeXeN, VOIVOD, VEKTOR のようなメロディックかつプログレッシブなバンドのように、本当に痒いところに手が届くスラッシュ・アーティストをほとんど見たことがないんだよ。だからこそ、僕たちはできるだけ多くの音楽、特にクラシック音楽からインスピレーションを得ることにしたんだ」
スラッシュ・メタルはヘヴィ・メタルの改革にほとんど最初に取り組んだジャンルかもしれません。しかしながら、ここ20年ほど、質の高いスラッシュ・バンドはそれほど多く現れていないのが実情でしょう。80年代半ばから90年代初頭にかけての素晴らしい作品は今でもその輝きを失うことはありません。しかし、2020年代においても、絶賛されるスラッシュ作品のほとんどがあの時代のカルト・ヒーローという現状は決して健康的とは言えないはずです。
弊誌でも、今年取り上げたスラッシュ・バンドは VOIVOD, BLIND ILLUSION, TOXIK などあの時代の英雄ばかり。VEKTOR の偉業はむしろ青天の霹靂でした。では、スラッシュ・メタルを牽引する若い力はもう顕現することはないのでしょうか?
「音楽的に何も新しいものをもたらさない新たなスラッシュ・バンドは本当にたくさんいる。僕はどんな種類のスラッシュも好きだからそれはそれでいいんだけど、今後、もっとユニークなものを作る努力をしてほしいと願うばかりだよ。つまりね、SLAYER は素晴らしいけど、これ以上 SLAYER のクローンは全く必要ないんだ」
心配は無用。スラッシュ・メタルの無政府主義者 Anarchÿ がいます。セントルイスを拠点とするボーカルとマルチ奏者の2人組。彼らのデビューフル “Sentïence” はプログレッシブ・スラッシュの痒いところに手が届く意外性と独自性の塊。アートワークやてんこ盛りのウムラウトも、このジャンルが百花繚乱だった頃を思い起こさせる素晴らしい出来栄え。ジャンルの垣根を取り払い、様々な音楽的影響を融合させたこのアルバムは、スラッシュやメタルを基盤としながらその堅苦しい建物の外に出て、人間の経験や謎めいたテーマに触れながら、神秘的なリスニング体験を届けてくれます。
「スラッシュ・メタル史上最長の曲の後に続くのは、最短の曲以外に何があるだろうか? しかし残念ながら、WEHRMACHT は80年代に “E” で既に最短の試みを先行していたので、僕らは彼らのマイクロソングをカバーすることを選んだんだ。32分の曲の直後に2秒の曲を置くことのユーモアが、誰かに伝わることを祈るよ!」
バッハへの賛辞、スペインの夢、メタルらしからぬハンド・パーカッションなど様々な要素を取り入れたアルバムで、ハイライトとなるのは32分のオデッセイ “The Spectrum of Human Emotion”。シェイクスピアの戯曲 “ハムレット” をロック・オペラ風にアレンジしたこの曲は、スラッシュ・メタルのリフを中心に、ソフトなアコースティック・ギター、ジャズや VOIVOD の不協和音、アカペラ・ボーカル、優しいピアノの響き、そしてDavid Bowie を思わせるスペース・ロックと、ジャンルの枠を越えた冒険がスリルとサスペンスの汀で展開されていきます。スラッシュ・メタルの BETWEEN THE BURIED AND ME とでも評したくなるようなアイデアの湖。ただし、7部構成の壮大なシェイクスピアン・スラッシュが幕を閉じるや否や、たった2秒の “Ë” でリスナーの度肝を抜くのが彼らのやり方。
ただ、Anarchÿ の策士ぶりは、1時間近くあるアルバムの半分以上を “The Spectrum” という1曲の超越した叙事詩で展開しながら、残りのトラックでは、プログレッシブ・スラッシュの雛形を意識し、ジャンルの骨子である目眩く複雑なリフとコンポジションで好き者をも魅了していることからも十二分に伝わります。決して、ただのイロモノではなく、歴史と未来を抱きしめた明らかな “挑戦者” の登場です。
今回弊誌では、Reese Tiller にインタビューを行うことができました。「シェイクスピアの “ハムレット” は、とてつもなく長い戯曲だから、とてつもなく長いスラッシュ・メタルの曲にはぴったりだ!と。そして、歌詞にするためのメモがたくさんとって、曲の歌詞にチャネリングしていったんだ」どうぞ!!

ANARCHŸ “SENTÏENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOIVOD : ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAN “CHEWY” MONGRAIN OF VOIVOD !!

“Let’s Help Each Other And Sing Together! Metal Is One Of The Most Open Community, People Gather And Have Fun, They Connect! We All Can Try To Be Ultraman In Our Own Ways And Help Each Other!”

DISC REVIEW “ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY”

「今世界には、気候、戦争、政治など常に緊張感がある。日本はそれをよく理解しているはずなんだ。SF は時に僕たちが考えるよりも現実に近い。だからこそ、僕たちは皆、テレビの中のウルトラマンが勝利を収めることを望んでいたんだよね。そこに現実世界を重ねているから」
ピコン・ピコン・ピコン・ピコン…私たちは皆子供の頃、ウルトラマンの胸で輝くカラータイマーの点滅が加速するたび、スリルと心配で手に汗を握り、勝利を願いながらテレビにかじりついたものでしょう。もちろん、頭では “これは現実ではない” と理解していても、あの SF 怪奇大作戦に心がのめり込むのは “もしかすると現実でも起こり得る” そんな潜在的な不安と恐怖、そして共感をウルトラマンの巧みな設定やストーリー、そして音楽が掻きたてたから。そして、SF メタルの第一人者 VOIVOD は、今、この暗い時代にこそウルトラマンが必要だと誰よりも深く理解しているのです。
「僕たちは皆、ケベック州(カナダのフランス語圏)で翻訳されたフランス語版のウルトラマンを見て育ったんだ。オリジナル・シリーズ、音楽、怪獣、ベータ・カプセル…カラータイマーがどんどん早くなる時の緊張感…など、ウルトラマンはここケベックで知るものとは全く違っていて、新しい種類の冒険に心を開いてくれたんだよ」
なぜ今、VOIVOD がウルトラマンに着目し、テーマソングをカバーすることに決めたのか。理由は大きく二つ。一つは子供の頃からのヒーローだから。VOIVOD のメンバーはカナダ出身ですが、全員がフランス語圏のケベックで育ちました。日本の特撮やアニメの需要が高いフランス語圏において、彼らがウルトラマンやキャプテン・ハーロック、グレンダイザーをヒーローとして育ったことはある意味自然な成り行きでした。音楽産業がパンデミックや戦争で危機に瀕した時、ウルトラマンの登場を願うことも。
メンバーの中でも特に日本通、Dan “Chewy” Mongrain にとって、コロナ・ウィルスは怪獣に見えたのです。そして、ウルトラマンがその “怪獣コロナ” を一撃必殺のスペシューム光線で粉砕することを願いながら、ウルトラマンのテーマをアレンジしていったのです。そう、VOIVOD にとって光の戦士はまさに希望の象徴でした。
「このパンチの効いた不協和音はまさに VOIVOD のサウンドみたいだよね (笑) もしかするとオリジナル・ギタリストの Piggy は、ウルトラマンの音楽から影響を受けて初期の VOIVOD の音楽を作っていたのかもしれないね!ドラムの Away は僕のデモを聴いて、”うわっ!完全に VOIVOD だ!”と言っていたよ」
もう一つの理由は、純粋にウルトラマンのテーマがあまりに VOIVOD らしい楽曲だったから。それは Chewy が、前任のギタリストでバンドの支柱だった Piggy が、ウルトラマンのサウンドトラックから影響を受けたと推測するほどに。もちろん、半分は冗談でしょうが、SF マニアだった Piggy のことです。絶対にありえない話ではないでしょう。それほどに、ウルトラマンのテーマソング、そこに宿るブラスやオーケストレーション、そして不協和は解体してみれば実に VOIVO-DISH な姿をしています。
実際、VOIVOD は今が絶頂かと思えるほどに充実しています。40年にわたり SF プログレッシブ・スラッシュの王者として君臨してきた彼らは、1987年の3rd “Killing Technology” でこのスタイルを確立しましたが、メンバーの満ち引きを繰り返しながらその独自の方式に繰り返し改良を加えてきました。変幻自在にタイトでトリッキー、そしてフックの詰まった最新フル “Synchro Anarchy” は、まさにバンドが最高の状態にあることを示しています。
冒頭から、威風堂々圧倒的に異世界なギターリフ、近未来の激しいパーカッション、クセの強いディストピアンなボーカルが炸裂し、VOIVOD らしい歓迎すべきねじれた雰囲気を確立。 VOIVOD の愛する黙示録的な高揚感を完璧に体現しています。一方で、反復する心地よいハーモニーの催眠効果、不規則なサイクルと唐突な場面転換で、さながらフランク・ザッパのように VOIVOD は自由自在にメロディック・プログレッシブの地平も制覇していきます。
VOIVOD がただ、直接的な “苛酷” のみに止まらないのは、リスナーにポジティブなオーラ、夢や希望、ひと時でも現実を忘れる娯楽を提供するため。そうして彼らは、”Synchro Anarchy” と “Ultraman EP” の連作において見事にその目的を達成しました。ウルトラの父がいる。ウルトラの母がいる。そして “忠威” がここにいる。
今回弊誌では、Dan “Chewy” Mongrain にインタビューを行うことができました。「僕たちがしようとしたことは、皆を喜びやポジティブな気持ちをもたらすものに集中させること。悪い時は過ぎ去り、きっと良い日はやってくる。だからお互いに助け合い、一緒にメタルを歌おうよ! メタルは最もオープンなコミュニティーの一つだ。人はここに集まり、楽しみ、そしてつながっていく! 僕たちは皆、自分なりの方法で誰かのウルトラマンになろうと努力できるし、お互いに助け合うことができるんだよ!」 3度目の登場。感謝。どうぞ!!

VOIVOD “SYNCHRO ANARCHY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND ILLUSION : WRATH OF THE GODS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLIND ILLUSION !!

“It’s Really All About The Love Of Playing Music And Most Of All This Latest Incarnate Was Designed To Be Able To Bring The Progressive Thrash Metal To The World.”

DISC REVIEW “WRATH OF THE GODS”

「そう、俺らはあの作品を “ヒッピー・スラッシュ” とか “プログレッシブ・スラッシュ・メタル” と呼んでいたんだ。俺たちは常にあらゆる音楽から影響を受けたリフを取り入れていたし、今でもそうしている。ヘヴィに変換できる素材なら何でもいいのさ! 」
ベイエリアのスラッシュ・シーンで名を馳せた BLIND ILLUSION は、バンドが始まって10年を超えるの活動期間中に、デモなどを除けば、たった1枚のスタジオ・アルバムを制作しただけでした。しかしあの Combat Records からリリースされたアルバム “The Sane Asylum” は、発売から四半世紀以上が経過した現在でもその異端な激音のブレンドでカルトな名盤として語り継がれています。プログ、クラシック・ロック、NWOBHM, サイケをふんだんにまぶした、あの酩酊を誘う重量感を一度耳にすれば決して忘れることはないでしょう。BLIND ILLUSION は、スピードとアグレッションが主流だった当時シーンに、別種のテクニックと多様性、そしてヒッピーの哲学的な味わいを加味し、”美味しすぎる” 闇鍋を作り上げていたのです。
「俺たちは学校で顔を合わせることの多い友人で、3人とも音楽にとても夢中になっていた。Les がギターを習いたいと言ったから、Kirk は俺からレッスンを受けるようにお膳立てしたんだよ。でも俺はベーシストが必要だったから、Les に “ギタリストはどこにでもいる。でもベースを弾けるようになればいつでもバンドを見つけられるぞ!”と言ったんだ。それで彼は BLIND ILLUSION に参加し、当時演奏していた曲から基本的なことを学んでいったんだ」
BLIND ILLUSION の功績はその音楽だけにとどまりません。バンドの首謀者 Mark Biedermann の周りには不思議と異能のアーティストが集まり、その才能を羽ばたかせていきます。類は友を呼ぶということでしょうか。
BLIND ILLUSION が POSSESSED も経由しているギタリスト Larry LaLonde とベースの魔術師 Les Claypool からなる史上最強のオルタナ・ファンク・メタル PRIMUS を生み出したことはつとに有名ですが、まさか Mark が Les にベースへの転向を勧めていたとは…そこにあの Kirk Hammett も絡んでいるのですから言葉を失いますね…あの3人が同じ学校で机を並べて勉強していたのですから。ゆえに当然、EXODUS のデビューにも BLIND ILLUSION のサポートがあったわけです。
「音楽を演奏することへの愛がすべてだよ。何よりもこの最新の俺の化身は、プログレッシブ・スラッシュ・メタルを世界に広めることができるように設計されているんだからね」
デビュー作のリリース後にバンドは解散し、ボーカル/ギターの Mark Biedermann は2010年に酩酊を深めた異なるサウンド、異なるラインナップで復帰しますが、長続きはしませんでした。しかし、Mark のプログレッシブ・スラッシュに対する情熱が消え去ることはありません。2017年に元 HEATHEN のギタリスト Doug Piercy とベーシスト Tom Gears が加入し、4曲入り EP が続き、遂にプログ・スラッシュの伝道作 “Wrath of the Gods” の完成を見ます。ただでさえ、百戦錬磨のスラッシュ戦隊に、元 DEATH ANGEL のドラマー Andy Galeon を加えながら。
「特にベイエリアやアメリカのスラッシュ・シーンで一番心配なのは、真に画期的な新しいバンドがいないことだよ。新しい世代の若いミュージシャンたちは、YouTube のビデオを見たり、既存のバンドと同じようなサウンドを出すのではなく、全く新しいことを実際にやってみる必要がある。GOJIRA, BLIND ILLUSION, SATAN, TOXIK, ANNIHILATOR のようなバンドは皆、他とは違う、未知の世界に踏み出すために懸命に働いているんだからね」
Doug Piercy がそう語る通り、この音は今でも真に画期的で、他とは異なる BLIND ILLUSION のお家芸。30年という時間は、忍耐強く待つには非常に長い時間ですが、それでも “Wrath of the Gods” は間違いなくその価値があります。本作は、場面転換やギアチェンジ、ズバ抜けた個々のパフォーマンス、現代的な洗練を適度に施したビンテージなプロダクションによって、確かに “The Sane Asylam” の真の後継作、そのプライドを宿しています。
このアルバムの素晴らしさは、金切り音を上げるギターソロや突然のリズムチェンジ、独特のしわがれ声というベイエリアの三原則、勝利の方程式を保持しながらがら、スローダウンしてファンクのグルーヴ、サイケのムードで耳を惹く場面が何度もあるところでしょう。やはり、この時代の人たちは YouTube のような “規範” など一切存在しなかっただけあって、自分の色が鮮明。
“Protomolecule’ や “Wrath of the Gods” といった神々しきリフの数々は、破砕的でテクニカルでありながら、非常にキャッチーでエネルギーに満ち、次の展開の予想でリスナーをスピーカーの前に釘付けにするのです。逆に、これで葉っぱキメてないと言われても容易には信じられませんね。
今回弊誌では、Mark Biedermann と Doug Piercy にインタビューを行うことができました。「機会があれば PRIMUS をよく見に行ったものだよ。特に Todd Huth がギタリストだった初期の PRIMUS が大好きでね。それでも、Larry が加入してからも本当に驚かされてばかりさ。透明で流れるようなギターのフレーズをよりヘヴィに仕上げていてね。彼らが新曲を発表するたびに、すぐにチェックしているんだよ」 どうぞ!!

BLIND ILLUSION “WRATH OF THE GODS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MACHINE HEAD : OF KINGDOM AND CROWN】


COVER STORY : MACHINE HEAD “OF KINGDOM AND CROWN”

“Attack On Titan Was That Both Sides In That Story Believe That They’re Doing Good, But They’re Both Committing Evil And Atrocities. Once I Started Wrapping My Head Around The Concept That Was Going On In Attack On Titan, I Was Like, “Oh, Shit, I Can Do That To This Concept That I’m Writing.”

OF KINGDOM AND CROWN

Robb Flynn は、逆境に慣れているわけではありません。若い頃は、オークランドのストリートで暴力に遭遇し、ドラッグに手を染めたこともありますがそれでも。MACHINE “Fuckin'” HEAD は、多くの人がメタルは終わった、死んだと言っていた90年代初頭のシーンで、頭角を現しました。長年にわたり、彼はバンドの約30年の歴史の中で唯一不変の存在であり、ゆえに内部からの問題、そして外部からの問題に直面し続けています。直近では、2019年のアルバム “Catharsis” が多くの批判にさらされ、その直後、バンドの半数が辞めていきました。
しかし、常に襲い来る逆風の中でも Robb Flynn は背筋を伸ばし、自らの意思を貫いてきました。しばしば、突き刺さる批判という槍の鋒も、結局は彼を駆り立てただけでした。MEGADETH の記事でも触れましたが、あの時代のメタル・アーティスト、そのレジリエンス、反発力、回復力は脅威的です。そうして “ØF KINGDØM AND CRØWN” は、賛否両論のあった前作とは異なり、”The Blackening” 以来、誰もが認める MACHINE HEAD 新たな最高傑作であり、一部の評論家はバンドが息切れしたと考えていましたが、再生の一撃ともなりました。
Flynn がクリーンな歌声を披露する場面もあれば、これまでで最もヘヴィなリフを披露する場面もあり、何よりクリエイティブかつ怒りに満ちています。つまり、このアルバムにはハッキリと、”Robb Flynn を見捨てるのは危険だ” と書かれているのです。
「俺はただブルドーザーで突き進むだけだ。他のことをする資格はないんだ。プランBなんて俺の人生にはないんだよ。これが俺の仕事だ。俺は曲を書き、激しく、超強烈なパフォーマンスを行い、観客を熱狂させる。それが俺の仕事だ。だから、もし今バンドにいるミュージシャンたちの活動状況が変わったとしても、俺は自分のやることをやり続けるつもりだ」

“ØF KINGDØM AND CRØWN” が誕生したのは、通常よりも少しリラックスした雰囲気の中でした。パンデミックの最中も、Flynn は音楽を続けていました。金曜日の夜には、バンドのライブストリーム “Acoustic Happy Hour” に出演し、その後、妻と一緒に過ごす。
「妻と一緒にデートをするようになったんだ。スタジオに行って、”Acoustic Happy Hour” をやって、それから家に帰ってきて、一緒に過ごすんだ。そんなことができるようになったのは、13~15年ぶりかな。子供たちはティーンエイジャーで、携帯電話や PC で自分たちのことをしている。だから、久しぶりにガレージで酔っぱらうようなことができるようになった」
そんなとき、Flynn 夫人は MY CHEMICAL ROMANCE の “The Black Parade” を聴きながらある提案をします。コンセプト・アルバムの制作です。
「俺たちのお気に入りのアルバムで、ずっと聴いているんだよ。コンセプト・アルバムは以前、試したことがあったんだけど、その時はボツにしたんだ!だから妻には、”どうだろう…クソみたいなコンセプト・レコードになるかもしれない。それに、クソみたいなコンセプト・レコードを出すような男にはなりたくない” と言ったんだ」
しかし、彼女は粘ります。”The Black Parade” のストーリーを説明し、”超酔っぱらい” の Flynn はようやく理解し始めます。
「彼女は一曲一曲、歌詞ごとに説明してくれたんだ。それで、”ワオ、これはすごい” と思った。やってみて、どうなるか見てみようと思ったんだ」
Flynn はすでに次の音楽制作に取り組んでおり、作品にもとりかかっていましたが、どのような形になるのか、まだきちんと把握はできていませんでした。
「ラッキーなことに、俺は自分のスタジオを持っているんだ。ボーカルマイクとギターを持ち、ラップトップをセットアップして、一人で通っていたんだよ。ただアイディアを試すだけで、歌詞のアイディアも何もなかったんだけどね。そのどこかで、オープニング・トラックの “Slaughter The Martyr” のイントロを書いたんだ。これがアルバムの終わりかもしれないし始まりかもしれない…みたいな感じで。どこに向かっているのか全然わからなかったんだ」

アルバムのストーリーやコンセプトを Flynn に与えたのは、家族の別のメンバーでした。そもそも、Flynn が意図していたアルバムのコンセプトは古典的な善と悪の戦いでした。しかし、それがなかなか定着しなかったのです。そして、息子たちと一緒にテレビを見ることになります。
「当初、俺のコンセプトはとてもアメリカ的なストーリー展開だった。善玉と悪玉。いい人が勝つ、というような。でも、結局俺はそれに共感できなかったんだ。まるで、言葉を歌うロボットのような気分だった。で、パンデミックのある時期から、子供たちがアニメをたくさん見るようになった。一日中コンピューターに向かっていて、アニメにどハマりしていった。そういえば、俺も子供のころはアニメオタクだった。最初はスターウォーズ・オタクで、フィギュアやデス・スター、ミレニアム・ファルコンを集めてた。それからアニメオタクになり、”マクロス”, “ロボテック”, “Akira” や “宇宙戦艦ヤマト” に夢中になった。息子たちは知らないが、俺は彼らの年齢のころ、完全にアニメオタクだったんだよ!グッズを買って、フィギュアを集め、コンベンションにも足を運んだ。それから、メタルオタクになり、トレーディング・テープや輸入盤を集めるようになったんだ。 レコードが発売される3ヶ月前に “Reign In Blood” を手に入れた。カセットにはまだハイハットのカウントが入ってるんだ。EXODUS の “Bonded by Blood” は発売の6ヶ月前に持っていた。”Pleasures of the Flesh” や “Brain Dead” のブートレグも持っていたし、親父のガレージでブートレグからジャムって、EXODUS の未発表曲をリハーサルしていたんだよ。そうやって、俺たちはメタルにのめり込んでいったんだ。それで、今度は見たこともないような新しいアニメをまた、子供と一緒に見るようになったんだ。衝撃だったよ!」

そして Flynn の頭に浮かんだのは “進撃の巨人” でした。少なくとも、善と悪が単純に割り切れるような作品ではありません。
「”進撃の巨人” を観たことがない人は、とにかく奇妙でサイケデリックで残忍でクレイジーで、とてもクールなストーリーだから、ぜひ見てほしい。子供の頃に戻って夢中になれるよ。しかもストーリーが長いんだ。シーズン2やシーズン3あたりから、”誰がいい人なんだ?誰が悪者なんだ?” となる。もう何が起こっているのかわからないよ。どっちもめちゃくちゃで、どっちも相手を悪だと思ってるんだ。スゲえな!俺にも、自分の物語でできるかもしれない。善人も悪人もいない。どっちも良いことしてると思ってるけど、どっちも恐ろしくて残虐なことをしてるんだ。そう、このアニメの残虐なところが気に入ってる。どんな映画やドラマにも負けないくらいね」
Flynn の視点が変わったのは、これまでこうした書き方の経験がなかったからに他ならないのです。
「俺はこれまで9枚のアルバムで世界について歌ってきた。俺の目を通して、自分に起こった経験、自分が社会をどう見ているかということを歌ってきた。今、俺は、空がいつも赤く染まっているような近未来で、犯罪が多発する荒野に住む人物を通して作品を書いた。そして、この男の最愛の人を殺した、正反対の人物を通して書くことにもなったんだ。アーティストとして、とても刺激的だった。音楽制作をする上で、いつもとは違う頭の使い方ができたし、本当にクールだったよ」
Flynn の頭の中には、作品の絵コンテまでが存在していました。
「グラフィック・ノベルのようなアルバム、という言い方がぴったりだね。子供がマンガをよく読んでいるから、俺も一緒に読んでいるうちにマンガに目覚めてしまったんだよな。絵コンテのアイデアは、俺の頭の中にあって、文字通り、上から下へ、上へ下へとマンガを描き始めたんだ。ディテールにこだわりたかったんだよ。1人目の主人公アレスは最愛の人、アメジストを失い、彼女を殺した者たちに対して殺人的な暴挙に出る。2番目の登場人物はエロスで、母親を麻薬の過剰摂取で失い、落ちぶれる中で、カリスマ的リーダーによって過激化し、自らも殺人を犯し、アメジストを殺した一人となる。歌詞の中では彼らの人生がどのように絡み合っていくのかが詳細に描かれているよ。オープニングの “Slaughter of the Martyr” は、基本的に登場人物のオリジン・ストーリー。アレスは最愛の人を亡くしたばかり。彼が求めるのは復讐心だけ。それが物語の始まりなのさ」

もう隣に Phil Demmel はいませんが、代わりに DECAPITATED の Vogg がいます。MACHINE HEAD にスーパースターが揃った印象もあります。
「Vogg は全く別の次元にいるんだ。彼は正気じゃない。そして、彼らと一緒にツアーをすることができた。パンデミックの前に行った “Burn My Eyes” の完全再現ツアーでは、バンドと一緒に毎晩プレイすることができたんだ。これだけの数のツアーをこなすと、お互いの心を読むことができるようになる。それが大事なことだと思う。パンデミックに見舞われたとき、俺たちはとても頑張っていたから、残念だったね。
ロックダウン中でもビルのオーナーは、俺のスタジオだからということで入れてくれた。だから、しばらくはリフを書いたり、デモを作ったりして、それを彼らに送っていたんだ。メールで送っていたよ。若いデスメタル・バンドを何組か知っているけど、彼らはそうやってレコードを全部作っているんだ。リフをメールして、ドラムのビートをメールして、それからギタリストにメールして、シンガーにメールするんだ。俺は、”よし、これなら俺にもできる” と思ったんだ。それで、”このリフを完成させてくれ” みたいな感じでやり始めたんだ」
MACHINE HEAD 最初のライブから30年が経ちました。
「当時はベイエリアにとってワイルドな時代だった。スラッシュ・シーンの多くが死に絶えていった。ゆっくりと恐ろしい死を迎えていたんだ。METALLICA の “Black Album” やチリペッパーズ、FAITH NO MORE のファンクを真似るバンドばかりだった。それで、スラッシュ・ファンクというのが出てきたんだけど、これはひどいもんだったね。俺たちはただヘヴィに演奏したかったんだ。当時はまだそんなにメタルは聴いていなかった。パンクやハードコアやインダストリアルばかり聴いていたよ」

MACHINE HEAD は再び上昇気流に乗ったように見えます。Flynn をさながらオジーのように、これほどまで頑なに前へと推し進めるもなは何なのでしょうか?
「何年も前に、バスケットボールのマイケル・ジョーダンの言葉を読んだことがあるんだ。”NBAを愛する必要はない。バスケットボールの試合だけを愛せばいい” ってね。音楽ビジネスやそれに付随するクソみたいなこと、政治やクソみたいなことに巻き込まれるのはとても簡単だけど、必要ないことでもある。俺は16歳の時にスラッシュ・メタルを始めたんだ。ベイエリアの悪名高いスラッシュ・クラブ、”ルーシー・イン” でプレイしていた。バックヤードパーティ。友達の親が旅行に行って、友達がパーティーを開くんだ。”リビングルームで演奏するんだ!” みたいな。あとは、教会のコミュニティ・センターで演奏していたんだ。スラッシュが好きで、音楽を演奏するのが好きで、その興奮が好きで、この世界に入ったんだよ。つまり、”メタルをやって超有名になるんだ!”なんて思ったことは一度もない。すごくアンダーグラウンドだった。”Burn My Eyes” をやったときも、”MTVで流されることはないだろう。ラジオで流れることもないだろう。ファンベースを獲得するのは大変なことだけど、一人一人、一生懸命に働いてやっていこう” と思っていた。俺にとっては、それは何も変わっていないんだ」
冒頭で述べたように、Robb Flynn は逆境に慣れているわけではありません。しかし、メタルのエネルギー、経験、そして音楽以外の何ものにも代えがたい感覚が、彼をスウィングさせ続けるのです。そこには、挑戦、あるいは克服を楽しみに変える何かがあるのでしょう。
「俺にとって、音楽はつながりなんだ。俺が育った、人々が楽しんでいるときに作り出す、あの狂ったような、目に見えないエネルギーのね。それこそが俺の生きる糧なんだ。ライブ配信からも、同じエネルギーを得ることもできる。それもまた本物だ。そこにあるんだから。全然違うものだけど。でも、そこにある。それこそが、俺にとっての醍醐味なんだよ。うん、それが俺の生きる道だ」

参考文献: METAL INJECTION:INTERVIEWS ROBB FLYNN Breaks Down Of Kingdom And Crown, Love Of Anime, 15 Years Of The Blackening & MACHINE HEAD’s First Show

KERRANG!:How anime, date nights and My Chemical Romance helped recharge Machine Head

LOUDWIRE:Inside Robb Flynn’s Love for Brutal Anime Show ‘Attack on Titan’ + Machine Head’s New Concept Album Read More: Inside Robb Flynn’s Love for Brutal Anime Show ‘Attack on Titan’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TOXIK : DIS MORTA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOSH CHRISTIAN OF TOXIK !!

“I Think When You Realize You’ve Got a Knack For Something It’s Seductive You Want To Keep Pushing It To See Where Your Boundaries Are. The Expression Is What Carries Us As Artists.”

DISC REVIEW “DIS MORTA”

「レーベルは METALLICA と SLAYER の波を利用することばかり考えていたみたいだけど…特にアメリカではね。純粋に僕たちは早すぎたんだ。たしかに TOXIK はスラッシュの波に乗ったけど、これってスラッシュなの??それが完璧な例えだよ。初期の TOXIK の75%は超高速でシンコペーションしたテストステロンで、残りの25%はメロディとダイナミクスだったから。スラッシュはみんなの中にある最も近い定義だっただけなんだと思う」
80年代半ばにギタリスト Josh Christian によって結成されたアメリカのスラッシュメタル・バンド TOXIK はメタルにとって早すぎた “毒気” であり、勇気ある開拓者でした。デビュー作 “World Circus” の無慈悲な猛攻で MEGADETH や ANTHRAX, それに SANCTUARY といった猛者たちを震えあがらせた彼らは、続く “Think This” でメタルの羽化を促しました。例えば、CORONER が、例えば WATCHTOWER が、例えば MEKONG DELTA が、例えば ARTILLERY がそうであったように、TOXIK もまたメタルのスピードとスリルを奇想天外な知と魑の世界に誘いました。中でも、彼らの精巧な技巧とプログレッシブな創造性は群を抜いていました。
「自分の限界を知るため挑戦することは魅力的だからね。そうすることが、僕たちをアーティストたらしめているとも言える。”Think This”…これは無謀で純粋な芸術的主張だった。レーベルはそれを好まず、ファンは “奇妙だ” と言った…だから当時は崖から飛び降りたようなものだったけど、今となってはこのレコードが多くの人にとってベンチマークとなっているのだから、振り返ってみると正しいことだったように思えるね」
結局、商業的な成功を収めることは叶わず、92年に解散に至った TOXIK。しかし、Josh が語るように彼らの無謀とも思える挑戦は決して無駄ではありませんでした。”Think This” の異様はいつしか威容へと姿を変え、CYNIC, ATHEIST, 後期 DEATH, MESHUGGAH、さらに最近では VEKTOR といったゲームチェンジャーたちの指標となりました。そうして彼らは、メタルの多様性や寛容さを開花させていくこととなります。
「たしかにこのアルバムには時間がかかったけど、これから僕たちは進み続けるし、実はこの現代版の僕たちをもっとたくさんマテリアルがあるんだよ。残酷だけど超美しいものがたくさんあるんだ」
20年間沈黙を守っていた TOXIK ですが、2013年には世界の舞台に戻り、ダイナモをはじめとする数々のフェスティバルに出演。その後、新しくなったバンドで “In Humanity”, “Breaking Class”, “Kinetic Closure”の3枚の EP をリリースし、”World Circus” と “Think This” の再録を披露。そして今、2022年、TOXIK は前作から33年という壮大な年月を経て、3rdアルバム “Dis Morta” を完成させました。
大胆に、苛烈に、衝動的に疾駆する “Dis Morte”, “Feeding Frenzy” のオープニング・ダブルは、得意の社会的・政治的なトピックを題材にしながらトラディショナルなモッシュピットを構築します。”発情した QUEEN”、そんな作品の世界観を植え付けながら。もちろん、MORDRED にも通ずるクロス・オーバーの美学も TOXIK の個性ですが、OVERKILL にも匹敵する強度と灼熱のペースも同様に彼らの真骨頂。スラッシュに対する鬼気迫る飢えは、33年の空白を埋めて余りあるターボチャージャーの衝撃。
それにしても、Allan Holdsworth のソロ曲を無理やりスラッシュメタルと悪魔合体したかのような後者は壮絶。Alex Skolnick だけが持て囃されるスラッシュ・ギターの世界は不公平だと言わざるを得ません。HEATHEN の Jim DeMaria もスーパー。
一方で、緩やかななパッセージ、ミドルテンポの迷宮、プログレッシブな情熱が巧みなギヤチェンジを交えて融合した “Hyper Reality” は、新たな地平への大胆な挑戦として際立っていて、TOXIK が未だ実験とサウンドスケープの拡張を恐れていないことを改めて証明します。同様に、古のプログレッシブを引用した “Chasing Mercury” やジャズ・バラードが加速する “Devil in The Mirror”, NEVERMORE の異形にも接近した “Creating the Abyss” も TOXIK にしか不可能な境界の侵食でしょう。そう、これはまごう事なき “Think This” の続編。
今回弊誌では、Josh Christian にインタビューを行うことができました。「僕の父は、僕が生まれる前に日本にいた頃の話をしながら、日本の文化をロマンチックに語ってくれていたからね。父は日本の社会とその組織を非常に尊敬していて、アメリカ社会についての会話でしばしば対比的な例として使っていたんだよ…。80年代、NYの子供たちは日本の影響を受けつつあって、特に僕はゲームに夢中で、他にもコミック、アニメ、音楽などで影響を受けたんだ。当時、日本に夢中になっていたから “Tokyo” という名前がフィットしていたんだよ。今日でも、TOXIK から日本の影響を聴くことができるよ」 どうぞ!!

TOXIK “DIS MORTA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MEGADETH : THE SICK, THE DYING…AND THE DEAD!】


COVER STORY : MEGADETH “THE SICK, THE DYING…AND THE DEAD!”

“For The First Time In a Long Time, Everything That We Needed On This Record Is Right In Its Place”

THE SICK, THE DYING…AND THE DEAD!”

MEGADETH は復讐と共にある。苦難の度に強くなる。長年 MEGADETH と Dave Mustaine を追い続けたリスナーなら、そうした迷信があながち世迷いごとではないことを肌で感じているはずです。METALLICA からの非情なる追放、薬物やアルコール中毒、Marty Friedman の脱退、バンドの解散、Drover 兄弟を迎えた新体制での不振…実際、厄災が降りかかるたびに、MEGADETH と Dave Mustaine は研ぎ澄ました反骨の牙で苦難の数々をはね退け、倍返しの衝撃をメタル世界にもたらし続けています。
逆に言えば、MEGADETH という船が順風満帆であることは稀なのですが、2016年の “Dystopia” 以降の期間は、彼らの波乱万丈の基準からしても、非常に荒れた展開であったと言えるでしょう。まず、”Dystopia” でドラムを担当し、当初はアルバムをサポートするためにバンドとツアーを行っていた Chris Adler が、2016年半ばに当時は本職であった LAMB OF GOD とのスケジュールの兼ね合いで脱退せざるを得なくなります。後任には元 SOILWORK の Dirk Verbeuren がヘッドハントされました。
そうして2019年、次のアルバムの制作が始まった矢先、Dave Mustaine は咽頭癌と診断され、50回以上の放射線治療と化学療法を余儀なくされます。
「今は100パーセント大丈夫だと思う。2020年の10月に医者からOKが出たからね。3年目の節目を迎えるはずさ。それはかなりクールなこと。治療、栄養、そして病院の外で行わなければならない個人的なことまで、すべて一生懸命取り組んだからな。医師たちは、癌を治療するために俺にとって本当に残酷なプログラムを組んでくれたよ。手術をせずにがんを退治しようというのだから仕方がないけど。
俺は医師たちに、Eddie Van Halen が舌の一部を切り取ったのが少し気になると言ったからね。歌えなくなっちゃ困ると。IRON MAIDEN の Bruce Dickinson や Michael Douglas も罹患していて、俺もその一員になったってことさ。素晴らしいプログラムが用意されて、担当医は本当に素晴らしい人たちだった。医者に診てもらって、健康に異常がないと言われれば、普通は本当にありがたく思うもの。もう、俺の癌には何の力もない。ファンが落胆しないようにしたいからな。医師は俺が歌い続けることがいかに重要かを知っていたよ」

無事、寛解にはいたったものの、その後 Covid-19 の大流行が起こり、アルバムの進行はさらに遅れます。決定打は2021年春。長年のベーシストで Mustaine の右腕であった David “Junior” Ellefson が、”性的不祥事” を起こしてしまうのです。バンドで最も品行方正、神父にして良い父親と思われていた Ellefson の性的なスキャンダル。その影響は大きく、バンドはすぐに解雇という判断を下します。そうして、TESTAMENT などで活躍を続けるフレットレス・モンスター Steve Di Giorgio が彼のパートの再レコーディングを行うこととなりました。
「俺は Ellefson を1000回でも許す。だけどもう共に演奏することはない。もう彼のことは本当に話さないよ。面白い話をするのは好きだけど、そういう話をするのは本当に嫌なんだ。
Steve への交代は、多くの理由からそうする必要があったから。外から見ているだけで、俺が間違ったことをしたと言っている人がいたけど、なあ、あの事件が例え真実でなかったとしても、俺の人生にあんなクソ騒動はいらないと思ってたんだ。重要なのはバンドで、バンドには4人のメンバーがいる。クルーがいる。ビジネスの関係もある。そしてその全員の家族たちも。リーダーが間違った決断はできないよ。
Steve は素晴らしい新鮮な空気を吹き込んでくれたよ。最近インタビューを受けたんだけど、女の子が “どうして Dave Ellefson のパートを変えたんですか” って言うんだ。それで俺は思ったんだ。”オマエはバカなのか?あんな事があったんだ、パートを変えなきゃいけないだろ?”ってね。彼女には言わなかったけど、そう思っていたんだ。
Steve Gi Giorgio も (後任の) James Lomenzo も2人とも、一緒にいて本当に楽しい人たちだよ。Steve のことは知らなかったけれど、James と同じくらい一緒にいて楽しいヤツだと思った。みんなが経験したあの時期は、少し気難しいものだったよな。でも、俺たちは正しいことをしたかったんだ。誰もすべての事実を知らないけど、それで誰かを引き抜きたいとは思っていなかったから。TESTAMENT は俺の友人だから。
Steve は偉大なベーシストだけど、俺ら(METALLICA)が TRAUMA から Cliff Burton を引き抜いたときのことを覚えてるよ。TRAUMA はそれほど良いバンドではなかったけど、それでもバンドにはメンバーがいて、彼らの人生はその時に変わってしまったんだ。もし誰かを雇うなら、誰かから盗んでいないことを確かめたかったんだ」

そして今、”Dystopia” から6年半以上、MEGADETH 40年の歴史の中で最も長いインターバルを経て、”The Sick, the Dying… And the Dead!” がついに解き放たれました。このアルバムの制作にまつわるトラブルや苦悩の山を考えれば、MEGADETH のリベンジが倍返し以上のものであることは、ファンにとって容易に想像できるでしょう。そうして実際、Dave Mustaine は逆境をものともせず、12曲のスリリングで知的で瑞々しい破壊と衝動の傑作を携え戻ってきました。MEGADETH のリーダーのレジリエンス、驚異的な回復力、反発力を再度証明しながら。
「この曲は何人もの人から “パンデミックの話だろ?” と言われたことがあるけど、そうではないんだよ。黒死病についてなんだ。歌詞はとても分かりやすいものさ。かなり明確にストーリーを語っているからね。映画を観たことがあるよ。メアリー・シェリーの “フランケンシュタイン” で、ロバート・デ・ニーロとケネス・ブラナーが出演していた。映画の中でペストについて話している部分があったんだけど、その部分がとても不気味だったのをはっきりと覚えている。童謡の “Ring Around the Rosie” が出てくるんだよ。”Ring-a-ring-a-roses, A pocket full of posies, Atishoo, atishoo, We all fall down.” という歌。”Go to Hell” みたいに童謡を加えたかった。これは黒死病の時代の子供向けの童謡で、死体が悪臭を放つため、悪臭を隠すためにポージー (薬草、花束) を大量に用意しなければならなかったことから、ポージーをポケットに入れることを題材にしたもの。黒死病にかかった人々は、病気を取り除くために死体を火葬しなければならなかったんだ」

COVIDパンデミックの暗さと悲観を反映しつつ、過去の疫病をも呼び起こす禍々しくもハードな開幕のタイトル・トラックから、鞭打つような帰還の狼煙 “We’ll Be Back” まで、Dave Mustaine と MEGADETH は逆境や病から完全に復活しただけでなく、まだ自分の仕事を地獄のように楽しんでいます。
「俺が癌の診断を受けたとき、それが MEGADETH の終わりで、Dave Mustaine の終わりだと思った人たちがいた。しかし、そんなことはあり得ないと思っている信奉者たちは、今回の旅の一部、あるいは全部を一緒に過ごしてきてくれた。多くの人が、俺が癌になったとき、癌がかわいそうなくらいだと言ってくれた。彼らは、俺が戻ってくることを知っていたのさ。
俺は、このレコードで自分を追い込み、最高の歌と演奏を込めてやると決めた。これまでよりも、1パーセント進化する挑戦をね。俺が自分の力と対話し、耳を傾けることに費やした最も重要な時間は、俺の年齢(61歳)では、より速く、より優れた音楽を生み出し続けることはできないかもしれないという弱気だった。でもね、この仕事を始めた頃は若かったけど、その頃に重要だったことは今でも重要で、それに対する考え方は変わっていないんだ。
ただ、シナリオの中で自分がどう位置づけられるかは変わってきているかな。”反抗期は若者の遊び” というのは有名な言葉だけど、俺は人より少し反抗するのが好きな傾向がある。大抵のロッカーは、少し年をとって少し成功すると、車道にメルセデスを置いてアナーキーのシンボルを描くような、詐欺師のような臭いがしてくる。偽善としか言いようがない。
インスピレーションとメンタリティーは、1日1%、良くなるでいいんだよ。それでみんな大喜びさ。今、俺たちは最高の人材を集めている。最も高価というわけではないけど、最高のクルーたちだ。今や、俺たちは皆プロフェッショナル。彼らの仕事ぶりを見るのが何よりの楽しみなんだ」

例えば、”Life in Hell” の「2、3杯飲めば大丈夫/2、3錠飲めば世界が消える/どうせ死ぬんだから」という歌詞を、悪意に満ちたフランク・シナトラのように唸る彼の顔には、無粋な笑みが浮かんでいるにちがいないのです。そうして迎える6分半の軍事大作 “Night Stalkers” には、偉大なる Ice-Tの激しいラップが装備されています。BPM190で、米軍第160特殊作戦航空連隊という高度に専門化した部隊の英雄的行為にリリックと威厳で取り組みました。
「初めて会ったとき、Ice-T はちょうどキャリアをスタートさせたところだった。彼はかなり物議をかもしていた。当時、ラップ・アーティストにはある種のメンタリティがあり、特に Ice-T が1992年に “Cop Killer” みたいな曲を出したときはそうだった。彼は大衆を偏向させていたんだよな。俺は、彼は才能があり、彼が歌っているのは芸術だと信じていた。彼の曲の一つ、”Shut Up, Be Happy” を何年もイントロ・テープとして使っていたくらいでね。”Night Stalkers” での彼のパートはクールだ。俺は、個性的でわかりやすい声と言い回し、それにストリートのメンタリティと言葉を持っている人が欲しかったんだ。彼なら、ヘリに乗り込んで準備をするのに最適な人物だと思った。
それに、メタルとヒップホップ、2つのアートを融合させれば若い奴らにも響くだろ?子供たちがヒップホップに夢中なのは、友達が夢中になっているからだ。音楽を聴くことにかんして、個性的でない子供たちがたくさんいるんだ。友達が聴いていないものは聴きたくない、仲間はずれにされたくないという人がたくさんいる。俺が10代の頃、IRON MAIDEN や AC/DC を聴いていた時はとてもハードでヘヴィだったから、友達はどう考えているかなんて気にしなかったがね」

Sammy Hager もボーナス・トラックで、自身の楽曲のカバーでゲスト参加しています。
「Sammy の曲のカバーソングをやったんだ。多くの人は、VAN HALEN で活動する前の Sammy を知らないんだ。でも俺は、彼が MONTROSE でプレイしていた頃から知っているし、その後、ソロ・キャリアも知っている。正直、VAN HALEN のあの頃の曲にはあまり納得がいかなかったんだけど、MONTROSE で Sammy の歌を聴いて以来、あの人は歌えるなぁと思っていたからね。彼は俺の大好きなシンガーの一人だったんだ、ずっとね」
“The Sick, the Dying… And the Dead!” には、暗闇と暴力、そして痛烈な社会批判が溢れています。原子力発電所の事故によって引き起こされた壊滅的な影響の中で、安全性を必死で手繰り寄せる “Dogs of Cernobyl”。”唾液が噴き出し、嘔吐し、ボウルを溢れさせる/悔い改め、神に問う、あなたはまだ私の魂を欲しているのか?”
さらに、”Junkie”, “Celebutante” といった激しいトラックでは、NWOBHM やクラシックなメタルのスタイルが MEGADETH にどれだけ影響を与えたか、それを隠そうともせず彼らの悪態を正当な形で体現しています。
「オランダで女の子が MEGADETH のロゴの入った服を着てたから、俺のバンドだと言ったんだ。そしたら、近寄るな、変態!みたいな顔してシッシッと光の速さで手を振る。違う、違う、俺のバンドだからと写真を頼んだが、知らない!嫌だとさ」
特に、”Celebutante” は富と名声のためなら何でもするセレブリティの愚かさを皮肉った楽曲。質実剛健な MEGADETH とは正反対の場所にいます。まさに Mustaine の “反発力” が炸裂した最高のストーリー。

「MEGADETH のギタリストに必要なのは Attitude (態度), Ability (能力), Appearance (見た目)だ。まずは態度が大事だ。MEGADETH は音楽が何より優先だから、バンドに始まりバンドに終わる生活が必要。無論、能力がなければ無理だがね。友人同士の馴れ合いでは成功しないから」
もちろん、ムステインが船を操縦している間、目的地に向かうためには良い乗組員が必要です。そして、Verbeuren とリードギタリスト Kiko Loureiro は明らかに、巧みに創造し、大胆に冒険する完璧な船員となりました。重要なのは、Loureiro が12曲中8曲でコ・ライターとしてクレジットされていること。彼のクラシックギター演奏は、広大な “Dogs of Chernobyl” に東欧のテイストを付与し、難解なリフとジャズ・テイストのソロワークは、”We’ll Be Back” と “Night Stalkers “のまさに推進力。また、ミッドテンポのタイトル曲では、Mustaine の唸るようなヴォーカルに呼応したコール&レスポンスを聴かせるなど、彼の存在感は大いに増しています。
「MEGADETH との2枚目のアルバムだけど、Dave とは2015年から7年間一緒にプレイしている。だから、様々な国、様々な年齢のファンに会うことができる。古い曲も新しい曲も演奏するし、業界の人たちにも会うし、もちろん Dave の家族、バンド・メンバー、マネージメント、レーベルの人たちにも会うんだ。だから、もう内輪の付き合いみたいなもんだよ。
でもね、ギター・ソロは、この7年間ほとんど変化していないんだ。ギターソロは、自分自身の表現のようなものだ。ただ自分の楽器を演奏すればいいだけだから。ただし、MEGADETH の遺産にふさわしい曲や、Daveを喜ばせ、ファンを喜ばせるような曲を作ることは、ある意味、このアルバムでもっと簡単にできたんだ。バンドをより理解することができたし、それが大きな違いだったね。VAN HALEN のリフを持ち込んだりはしないよ (笑)」

Loureiro の野生に知性を組み込んだメロディックなスタイルは Mustaine のマニアックなクランチと見事にマッチし、Verbeuren のリズミック・アプローチは、彼が共作した “Junkie” や、トライバル・パムリングを中心とした短い間奏曲 “Psychopathy” などで顕著に効果を発揮。Di Giorgio の妙技を堪能できる場面も多々あり、さらに “Dystopia” の共同プロデューサーである Chris Rakestraw は、”The Sick, the Dying… And the Dead!をでも同じ役割を担いながら、Mustaine とクルーの活力と凶暴性を最高の状態で捉えていきました。
「人生は厳しい。勝ち組になるか、そうでないか。人は敗者と呼ばれるべきではないと思う。でもな、2位になろうとすることは、敗者ではないんだよ。常に自分を高めようと努力する限り、完走した者は勝者なんだ。それはとても簡単なこと。人生を1%改善するだけで、3ヶ月ちょっとの短い努力で、仕事ぶりでも、大切な人に対してでも、子供に対してでも、まったく違う人間になることができる。俺はレコードや出版契約をすべて全うしたよ。俺らのステージや地位にいるバンドで、そんなことをするバンドがどれだけいるだろうか?そんなことはしない。普通は延長するか、そもそも膨大な契約とたくさんのオプションがあって、自由になることはないだろう。だが、俺は本当に抜け目のないビジネスパーソンで、できるだけ早く自分たちの未来を確認することができるのさ」
MEGADETH のように長い歴史を持つバンドの場合、批評家の間では常に最新アルバムをバンドの最も象徴的な作品と比較したり、後期の高水準作品として認められるものは何でも “…以来最高の作品” と呼ぶ傾向があります。しかし、”The Sick, the Dying… And the Dead!” が MEGADETH の膨大なディスコグラフィーの中でどのような位置づけにあるかを正確に知るのは時期尚早であり、現時点で本当に知るべきことは、この新作が素晴らしいかどうかだけ。安心して欲しい。このアルバムはただ、ただ、本当に素晴らしい!
「本当に久しぶりに、このアルバムには必要なものが、正しい場所に、すべて揃っている」

参考文献: IRISH TIMES: Megadeth’s Dave Mustaine: ‘I said, This one’s for the cause. We had to be taken out of the place in a bulletproof bus’ 

LOUDWIRE:Dave Mustaine Didn’t Want to Poach New Megadeth Bassist From Another Band Read More: Dave Mustaine Didn’t Want to Poach New Bassist From Another Band

UCR:Why Kiko Loureiro Isn’t Bringing Van Halen Riffs to Megadeth Read More: Why Kiko Loureiro Isn’t Bringing Van Halen Riffs to Megadeth |

REVOLVER:REVIEW: DAVE MUSTAINE IS BACK WITH A VENGEANCE ON MEGADETH’S ‘THE SICK, THE DYING… AND THE DEAD!’

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【IMPERIAL TRIUMPHANT : SPIRIT OF ECSTASY】


COVER STORY : IMPERIAL TRIUMPHANT “SPIRIT OF ECSTASY”

“I Got Into Learning About Rolls­-Royce As a Company And Learning About These Ultra Luxury Product Companies Like Rolex And Such. The Rolls-Royce Has This Hood Ornament That Is Known As The Spirit Of Ecstasy.”

SPIRIT OF ECSTASY

2012年のデビュー以来、IMPERIAL TRIUMPHANT の Zachary Ilya Ezrin (vocals, guitars), Steve Blanco (bass, vocals, keys, theremin), Kenny Grohowski (drums) にはニューヨークの中心部に深く入り込むというミッションがあり、彼らの Bandcamp には “NY の最上階の豪華さから地下の腐ったような場所まで” と優雅に表記されています。
「ニューヨークの音の風景と、そのさまざまなダイナミクスを具現化しようとしているんだ。ニューヨークの風景には視覚的に大きな影響を受けているし、この街ならではのものだよね。この街はとても密度の高い場所だから、いろいろな意味でインスパイアされるものがたくさんあるんだ。音楽的な血統からインフラまで、あらゆる分野で歴史がある。
それに、ニューヨークには何か国家的なナショナリズムのようなものがある。移住してきた人たちも、ニューヨーカーであることを誇りにしているんだ。何が自慢なんだ?棺桶の中に住んでるんだぞ!?とか言われるけどね。ニューヨークという街に対して、みんなすごく興奮しているだよね。その中で、曲のコンセプトが生まれる。大都会のプライドと自己達成のヴェールは、探求するにはとても興味深いコンセプトだよ」

そして、メジャーからの最初の作品 “Alphaville” をリリースした後、最上階の豪華さについての考え方は、さらに深まりました。Trey Spruance (Mr. Bungle) がプロデュースし、Colin Marston が Menegroth Studios で録音した “Alphaville” は、壮大なスケールで、これまでで最大のサウンド・プロダクションとなっていたのです。メタル・コミュニティーの中でのこのレコードの評判は非常に大きく、アールデコの影響を受けた不可思議なトリオは、地元の人気者からメタルのアーカイブスにその地位を刻むまでになったのです。Century Media から2枚目のリリースとなる “Spirit of Ecstasy” でIMPERIAL TRIUMPHANT は、その場所から音楽におけるより細かい部分に焦点を当てるために、音を十分に減らすことを決めました。
「ライブでは、僕の彼女と弟の彼女にマントを着てもらって、観客にマスクを配っていた。当時、僕らの音楽でモッシュする人はいなかったから、ブルックリンの人たちがじっと見ているクラシックな雰囲気よりも、もっと良い雰囲気になる方法はないかと考えていたんだ。全員がマスクをしていれば、グループの儀式になるし、僕らもその一員になれると思ったんだよね。今はモッシュピットも増えてきたけど、それでもマスクをかぶって来る人はいて、ライヴのために華やかなコスチュームに身を包んでくれる人もいる。ライブが単なるパフォーマンスではなく、みんなで参加する儀式のようなものだと感じてもらえたらうれしいね」
弊誌2020年のインタビュー で彼らはあのマスクについてこう説明してくれました。
「あのマスクは20世紀前半のニューヨークで育まれたアールデコ運動と密接に関係しているんだ。そのムーブメントは数千年前にさかのぼり、過去と深遠で神秘的な多くのつながりを持っている。そしてそれは、かつて僕たちの一部であったものがここにあると悠久に想いを馳せる、時を超えた夢の形でもあるんだよ。つまり歴史的意義のある魅力的な美学なんだ」

栄光と黄金のマスクを手にする前に、IMPERIAL TRIUMPHANT は2005年にフロントマン Zachary Ilya Ezrin のハイスクール・プロジェクトとしてスタートしました。そして2012年、このプロジェクトは、テクニカルとメトロポリタンをベースにしたテーマを掲げ、後にその特徴的な不協和音のデスメタル・スタイルとなる何かを形成し始めたのです。トレモロピックとディミニッシュ・セブンスを支えるブラスト・ビートから、金メッキを施したアールデコ調の豪華なイメージまで、IMPERIAL TRIUMPHANT のすべては極端。 不協和音のハイゲイン、悪夢のようなサウンドスケープ、強烈なポリリズムからなるアールデコの仮初めは、今にも全世界が崩壊しそうな感覚を与えます。
2006年に “ごく普通のブラックメタルバンドとして” 結成された彼らは、さまざまな不協和やジャズの要素を取り入れて進化してきました。近年流行りの “ディソナンス系” の一歩も二歩も先を行く凄みは、3人のメンバーの音楽的背景と、より協力的なユニットになったことによる自然な結果。このサウンドの開発以来、 Ezrin は、プロジェクトの寿命と鮮度を保つものは、コラボレーションであると感じています。
「自分の中で一貫しているのは、オープンマインドを保つことだ。コラボレーションをすればするほど、より良い音楽が生まれるんだ」

そうしてニューヨークの美学をさらに追求した Ezrin は、ニューヨークの建築物とフリッツ・ラング1927年の名作映画 “メトロポリス” からインスピレーションを得ることになります。この新たな着想は、トリオのターニングポイントとなり、今や象徴的な存在となったあのコスチュームを作るきっかけとなりました。
「全てはアールデコから始まったんだ。59丁目、セントラルパーク・サウスを歩いていたら、アールデコの古い建物がたくさんあるんだよ。アールデコはニューヨークに限ったものではないけど、もともとニューヨーク的な感じがするし、ヘヴィ・メタルでは使われない。そういうものに飛び込んで、IMMORTAL やブラックメタルが冬にやったことをアールデコでやってみたらどうだろう?って考えたのさ。Steve Blanco がマスクを思いつき、そのコンセプトを発展させ、さらに追加していったんだ」
Ezrin のペダルボードには必要なものしかストックされておらず、Victory amps の V4 Kraken で身軽に移動可能。
「それは IMPERIAL TRIUMPHANT とニューヨークの音楽が一般的に持つ、身軽で包括的な性質の一部だと思う。でも、このアルバムは特に、深夜のダウンタウンのジャズ・バー、そんな場所のジャムに入り込んだような、みんながリラックスして座っているような感じにしたかったんだ」
ニューヨークは夢と現実が共生している場所。
「この街には極端な二面性があり、超高音と超低音がある。最も裕福な人々が住む場所であり、最も貧しい人々が住む場所でもある…そして、それらは互いにほんの数ブロックしか離れていないんだ。音楽的には、IMPERIAL TRIUMPHANT はニューヨークの音にインスパイアされていると言える。通りを歩いていて、サイレンが鳴り響いたり、地下鉄に乗ったり、列車が文字通りトンネルをすり抜ける音を聞いたことがあるだろう。そういうものからインスピレーションを受けて、 “ああ、これをギターで弾いてみよう” と思うんだ。なんでわざわざサンプリングするんだ?自分のギターで弾けばいいんだから」

アールデコを基調とした大都市の風景というテーマは、自然とより大きなスケールで、いわば摩天楼の高みに到達することを切望していきました。そこで、メジャーなメタル・レーベル、Century Media と手を組むことになったです。
「僕たちはかなり野心的なバンドで、その野心をサポートしてくれるレーベルが必要だったんだ。彼らは俺たちに大きなリスクを負ってくれた。ただ、僕たちがアリーナで売れまくって、金儲けしたいっていうのとは違うんだ。彼らはまず芸術的なことを考えてくれるから、結果的に彼らのリスクが報われたと言えるね」
そうして生み出された “Alphaville”はメタル世界で賞賛を浴びましたが、それは決して偶然ではありませんでした。IMPERIAL TRIUMPHANT は何年もかけて自分たちのスタイルを確立し続け、”Alphaville” はまさにその積み重ねの結果。「少しの運と多くの努力があれば、すべてのチャンスは次のチャンスにつながるんだ」
“Alphaville” が IMPERIAL TRIUMPHANT の能力のマクロに焦点を当てたことで、トリオは次の作品を書く時には何か違うことをしようと決めていました。
「”Spirit of Ecstasy” は、まずその名前にとてもインスパイアされている。ロールス・ロイスという会社について学ぶうちに、ロレックスのような超高級品会社について学ぶようになったんだ。ロールス・ロイスには、”スピリット・オブ・エクスタシー” と呼ばれるフードオーナメントがある (ボンネットに装着するエンブレム) 。ロールス・ロイスの製品には、そうしたユーザーの体験や製品のメカニズムに役立つような小さなディテールがたくさんあるんだよね。面白いコンセプトだと思ったから、そのメンタリティーを音楽に応用してみたらどうだろうと考えたのさ」

“Spirit of Ecstasy” は “Alphaville” よりもシンプルなサウンドですが、しかし、よりミクロで、彼らの細部へのこだわりは繰り返し聴くことでより一層、聴き応えを与えてくれます。
「構造的には、”Alphaville” よりもさらにシンプル。僕らは次のステップに進むために、自分たちのミクロなニッチをさらに開拓し、狭い穴にさらに入り込んで、そう、ソングライティングもさらに向上させようとしたんだ。混沌の中にある明晰さの瞬間を人々に与えようとしたんだ。僕たちは曲をすべて書き上げてから、それらをいじくりまわして、非常に細かい部分まで綿密に調べていった。すべてがあるべき姿であることを確認するために、1秒1秒レコードを見直したんだ」
こうしてニューヨーカーの努力は、異様に録音されたボーカル、サックスとギターのデュエル、風の吹くサンプルなど様々な要素を加えるという形で実を結び、すべてが特定の場所に配置され、独自の “フードオーナメント” を掲げて、”Spirit of Ecstasy” がラグジュアリーな “高級ブランド” の産物であることを示すことになりました。
「Max G (Kenny G の息子) は親しい友人で、以前は IMPERIAL TRIUMPHANT のメンバーだった。一緒にニューヨークで小さな会社を経営しているんだ。ある日の午後、ランチを食べているときに、彼にこう聞いたんだ。”僕たちの新譜にこんなパートがあるんだけど、ギターがサックスと戦うというか踊るようなデュアルソロの状況を想像している。君と君のお父さんはこのパートに興味がある?”ってね。彼はイエスと答え、父親に尋ね、父親も同意し、そして彼らは絶対的な傑作を作り上げて帰ってきてくれた。僕たちのやっていることを理解してくれる人たちと一緒に仕事をすると、より強い作品ができるんだ。彼らのような演奏は、僕には決してできないからね。ゲストを招くのは結局、音楽のためであり、他の人の才能に信頼を置くことでもある。Kenny G はモンスター・プレイヤーで、Max G はモンスター・シュレッダーだということを知らない人がいるかもしれないけどね。
僕たちのドラマーの Kenny は Alex Skolnick とフリー・インプロヴァイズのカルテットで演奏している。だから、彼にはかなり簡単に依頼できたよ。VOIVOD の Snake は、彼らも Century Media に所属しているから、”Alphaville” のためにやった VOIVOD の “Experiment” のカヴァーを彼らが気に入っていることが分かったんだ。だから、Century Media は、もし僕らがゲストを望むなら、コネクションを作ることができると言ってくれたんだ。IMPERIAL TRIUMPHANT が決してやらないことは、名前だけのゲストをアルバムに迎えること。どんなに有名な人が来ても、その人がもたらすものは、何よりもまず音楽のためになるものでなければならない。それ以降のことは、すべて飾りに過ぎない」

一方で、Ezrin のギターに対するアプローチは、それ自体が興味深いもの。クラシックからジャズ、スラッシュからブルースまで、様々なスタイルを研究してきた Ezrin は、伝統的な手法と非伝統的な手法を融合させ、既成概念にとらわれないものを作り上げています。
「例えば、チャールズ・ミンガスのような演奏スタイルからインスピレーションを得て、そこから盗むことが多いんだ。彼は指板の上で弦を曲げたり外したりして、エフェクトをかけるんだ。完璧に音を出すことにこだわらなくなれば、いくらでもクールなことができる。アンプを通さない状態でヘヴィーでファッキンなサウンドなら、ゲインたっぷりのアンプで弾くと超ヘヴィーに聞こえるはずだよね。
プレイヤーとして、ある種のパラメーターを持つことはとても楽しいことなんだ。例えば、僕のギターはEスタンダードなんだけど、それよりずっと低い音で演奏するんだ。ワミーバーを使って、ローEのずっと下の音でメロディーを作るんだ。そうすることで、より深く考え、よりクリエイティブになることができる」
IMPERIAL TRIUMPHANT は、リスナーが “Spirit of Ecstasy” を掲げたロールス・ロイスでディストピアの荒野を走り抜けるようなイメージを追求しました。スラッシュ・ヒーローの VOIVOD TESTAMENT のメンバー、そして伝説のサックス奏者 Kenny G を加えたトリオは、不協和音のデスメタルに新たなラグジュアリーと高級感を付与し、55分の長さの中でリスナーにさらなる探究心を抱かせるきっかけとなりました。
「このアルバムは、聴けば聴くほど好きになるようなレコードの一つだと思うんだ。それは非常に挑戦的なことだけど、非常にやりがいのあることだ」

参考文献: BROOKLYN VEGAN : IMPERIAL TRIUMPHANT TALK ART-DECO INSPIERD DEATH METAL

Imperial Triumphant’s Zachary Ezrin on his wild approach to guitar: “There’s tons of cool stuff you can do when you stop caring about hitting the note perfectly”