COVER STORY : VOICE OF BACEPROT “THE OTHER SIDE OF METALISM”
“To Slander Is Easier Than To Create, Which Is Why It Is Not Surprising To See Many Choosing To Sneer And Mock Instead”
METALISM FIGHTS TO THE STEREOTYPE
2014年、インドネシアの田舎の教室で、3人の女子学生がメタルと恋に落ちました。当時14歳だった彼女たちは、西ジャワ州ガルートにある学校の課外芸術プログラムの中で、学校のガイダンス・カウンセラー Ahba Erza にメタルを “習い” ます。
すぐに3人は、SYSTEM OF A DOWN のユニークで美しいリリシズムや、RAGE AGAINST THE MACHINE, LAMB OF GOD の “反骨精神” に惹かれていきました。やがて、3人は VOICE OF BACEPROT を結成し(”Baceprot” はスンダ語で “うるさい” という意味)、独自の扇情的な騒動を巻き起こしています。
「うるさい声ってバンド名が象徴するように、私たちは独立した人間であることの重要性を叫び続けるわ」
7月下旬、VOICE OF BACEPROT の3人は、2004年にリリースされた SLIPKNOT の名曲 “Before I Forget” をライブでカバーしました。このバンドの熱のこもった、気負いのない演奏を見ていると、かつてこの若い女性たちが定期的に殺害の脅迫を受けていたことを想像するのは難しいかもしれません。
VOICE OF BACEPROT は、シンガー・ギタリストのFirdda Marsya Kurnia、ベーシストの Widi Rahmawati、ドラマーの Euis Siti Aisyah の3人で構成されていて、荒波の中を台風のように台頭し勢力を増しています。イスラム教の信仰に基づいてヒジャブを着用して演奏する彼女たちは、2017年に RAGE AGAINST THE MACHINE, SLIPKNOT, PEAPL JAM のカバーをネット上で公開して話題になりました。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙の記事では、音楽の話よりもまず、彼女たちのヒジャブと柔和な表情が最初に紹介されています。そのため、彼女たちは頻繁に暴力的な嫌がらせの対象となっていました。ある夜には、スタジオから車で帰る途中、悪口を書いた石を投げつけられたり、殺害の脅迫を受けたり、バンドの解散を迫る電話を受けたり。しかし、Kurnia、Rahmawati、Aisyah の3人は、自分たちのその知名度に臆するのではなく利用して、勇気を持って活動しています。
「中傷は結局、SNS 上のコメントにしか過ぎないのよ。最初は少し怖かったけれど、自分たちの音楽に集中したわ。最も困難だったのは、私たちのような女性(特にヒジャブをかぶった女性)は音楽をするべきではないという偏見との戦いだった。彼らは私たちのことを、学校で勉強して高い点数を取ることに集中すべき子供だと思っているの。呪いの言葉や、演奏をやめるべきだという言葉をたくさん受け取った。彼らは私たちに音楽をやめさせようとしているの。ほとんどの場合、私たちが女性だからそういうことを言われるのだと思うけど、私たちは自分の心の中にあるものを言うことを恐れない。多くの人はそれも好まないのよね。もし私たちが男性だったら、こんなに苦労しなかったかもしれないわね。でも音楽は私たちに大きな喜びを与えてくれるから、演奏し続けたいと思っているわ。音楽に集中しているから、他のことはどうでもいいの!」
実際、シングル “God Allow Me (Please) to Play Music” は、彼女たちを罪深い異端者とする批評家たちへの直接的な反撃です。”神様、私に音楽を演奏させてください” というタイトルのこの曲は、いまだに女性を男性と同等に見ようとしない人々と直接対決する強い意志。その意志を込めて書き歌う必要が彼女たちにはありました。タイトルの “祈り” が文字通りの意味であるかどうか、バンドがロックを演奏するために神に許可を求める必要があるかどうかについては、3人は言及していません。しかしメンバーは皆、敬虔でありながら進歩的な考えを持っており、信仰のために誤った判断をされたり、嘲笑されたりすることは許されないと明言しています。そしてこの曲は “女性の抑圧” と “私たちが共通して物や二流の人間として扱われていること” に対するプロテスト・ソングだと Kurnia は語ります。
「もし、私たちが女性でなかったら、自由に音楽を演奏することを神に許可してもらう曲を書く必要性を感じなかったかもしれないわ。もし私たちが女性でなかったら、ここでは悪魔崇拝の音楽祭とみなされる巨大なメタル・フェスティバルに出演することになったからといって、私たちが自分たちの宗教にとって恥ずかしい存在だと言われることはないでしょう。 私たちは、芸術作品が性別によって分類される可能性があることを知って、少し悲しくなったのよ。だからメッセージはシンプルよ。私たちは犯罪者じゃない。ただ自由に音楽を作りたいだけだし、神様もきっと私たちをお許しになるわ。というよりも、メタルがむしろ私たちを神様に近づけてくれているの。」
ただし、彼女たちは3人のイスラム教徒の女性がヒジャブをかぶり、メタルを演奏することで、自分たちが強い話題を提供できることを知っています。それでも、彼女たちは自らの音楽と社会意識の高い歌詞で自分たちを証明しようとしています。そうして VOICE OF BACEPROT は、女性イスラム教徒でメタル教徒というアイデンティティーを取り戻し、その過程で、NIRVANA, RAGE AGAINST THE MACHINE, RED HOT CHILI PEPPERS の新旧メンバーを含む世界中のファンを獲得し、刺激を与えています。
そういった彼女たちのメンターは、技術的なスキルやステージ上での存在感をトリオに教えるだけでなく、特に SNS で自分たちを宣伝する方法も教えています。もちろん、バンドが最初に有名になったのもソーシャル・メディアでした。初期の頃、彼らのライブ・パフォーマンスのビデオは、Twitter, Facebook, Instagram などで広く拡散され、国外に広まっていきました。昨年、Tom Mollero は、彼女たちが RATM の “Guerrilla Radio” を演奏している動画を “ROCKING” とリツイートし、熱狂的な支持者である Flea は、”VOICE OF BACEPROT に賛同する” とツイートしています。
「私たちの音楽が地元の人々だけでなく、海外の人々にも聴いてもらえる大きなチャンスを与えられたわ。いつか彼らとのコラボレーションも実現したいと思っているの」
新しいEP “The Other Side of Metalism (Live Session)” で VOICE OF BACEPROT は、カバーとオリジナル曲を織り交ぜながら、自分たちに影響を与えたグループに対する敬意を表しています。RATMの “Testify”、SYSTEM OF A DOWN の “I-E-A-I-A-I-O”、ONE MINUTE SILENCE の “I Wear My Skin”、そして前述の “Before I Forget” という5曲のカバーを選んだのは、「過去7年間の音楽の旅を通して、大きなインパクトを与えてくれた曲だから」そう Kurnia は語ります。Rahmawati は、「メタルは、私たちが自分たちを表現するのに最適のジャンルなの。とてもパワフルで、私たちに自由を与えてくれるの。最近は AUDIOSLAVE, GOJIRA, JINJER をよく聴いているわ」と続けます。
VOICE OF BACEPROT の初期のオリジナル曲に影響を与えた激情的な Nu-metal、SLIPKNOT に対する彼女たちの愛は、アイオワ出身の覆面バンドが持つ願望にも通じていました。彼女たちは、”Before I Forget” のカバーを発表した際、「私たちは、 SLIPKNOT がこんなに人気があるのに、どうして顔を隠して音楽を作り続けているのか不思議に思っていたの」と述べています。ヒジャブを纏う VOICE OF BACEPROT にとって、個人的な外見を超えることは明らかに重要なテーマなのです。
「私たちは何よりも音楽性を重視して前進し続けたいの。外見にこだわらず、自分たちのアイデンティティーを捨てずにね」
さらに、VOICE OF BACEPROT は RATM や SOAD といったヒーローたちのように、臆することなく政治的なアジェンダを持ち、次の世代の危機のために戦っています。オリジナルの “The Enemy of Earth Is You” は、若いバンドにとって特に関心の高いテーマである気候変動に対する激しいリアクションでした。地下水の違法な枯渇、雨季の短縮、海面の上昇など、彼女たちの故郷であるインドネシアでこの問題は特に深刻です。Kurnia が地元である西ジャワ州ガルートを例に挙げて説明します。
「私たちは、環境意識の欠如がもたらす影響を、すでに感じ始めているわ。村ではきれいな水を手に入れるのがとても難しいの。環境への配慮は、今だけではなく、将来のためにも必要なことだと思う」
女性イスラム教徒という抑圧の出自に対するバンドの挫折感は、オリジナル曲 “School Revolution” にも表れています。2018年にシングルとして発表されたこの曲は、彼らが10代の頃に感じた保守的なマドラス(地元のイスラム教の学校)での判断を痛烈に批判したもので、校長でさえ彼らの音楽を “ハラム”(宗教上の法律で禁止されていること)と呼んだことがありました。英語と彼らの母国語であるスンダ語を織り交ぜて歌われた “School Revolution” の絶望と反抗のメッセージは、強烈に心に響きます。学校での制限された勉強に囚われて、自分の情熱を表現できないことを歌った情熱の楽曲。学校を “牢獄” と比喩し、英語の詩では Kurnia がこう叫びます。「私の魂は空っぽで、私の夢は死にかかっていて、私の魂はダークサイドに落ちて、私は自分の人生を失う」。
ドラマチックなリリックですが、「より身近なテーマを前面に押し出してみたの」と Kurnia は言います。「厳格な校則を守るために、生徒たちが自分の希望や夢から遠ざかり、自分を見失っているとしたら、私たちはそれが単なる従属の一形態であると思うわ。これは、私たち自身が感じたこと、Abah と話したこと、そして多くの本で読んだことに基づいているの。当時、私たちの生活の中で、学校は大きな役割を果たしていた。多くのティーンエイジャーが思春期を過ごす場所でもあるしね。学校は、生徒の希望や夢を受け入れることができる、公正で公平な空間であるべきだと思うのよ」
この曲は、Flea や Krist Novoselic の推薦を得て、グループの画期的なヒット曲となりました。
さらに VOICE OF BACEPROT は、現地のインドネシア音楽シーンのメンバーからも支持を集めます。”School Revolution” を制作したのは、メタル・バンド MUSIKIMIA で活動するギタリスト、Stephen Santoso。後にガルートからジャカルタに移った3人は、テクニカル・デスメタルのヒーロー、DEATHSQUAD のギタリスト、Stevie Item や、全米で有名なジャズ・ベース奏者でプロデューサーでもある Barry Likumahuwa と知り合うことになります。タイミングも良かったのでしょう。3人が一緒に暮らすことで、パンデミックが発生しても練習を続けることができるようになりました。
そういった様々な支援者の指導のもとで、VOICE OF BACEPROT はその才能を磨いてきました。3人とも音楽の専門教育を受けていない状態でのスタートでしたが、驚異的な器用さと完璧なリズム感が先天的に備わっていました。Kurnia が語ります。
「私たちはまず独学で学んだの。それから、基本的な技術や理論は師匠たちからたくさん学んだわ。彼らは私たちの基本的なスキルを完璧にして、音楽理論を教えてくれたの」
皮肉なことに VOICE OF BACEPROT が直面したハードルとは対照的に、インドネシアにはアジアで最も活気のあるメタル・シーンがあり、同国の大統領 Joko Widodo でさえメタル・ヘッドを公言しています。ただ、彼女たちはインドネシアで唯一の女性メタル・グループではありますが、地元のメタル・シーンに参加する女性の数が増えていることに励まされているようです。自分たちの性別が成功の障害になっていないかと聞かれると、Kurnia はこう答えました。
「いいえ、そうじゃないの。なぜ不利なの? 私たちには、否定的な意見から力を得るという不思議な力があるのよ。否定的な意見は私たちの精神を高め、私たちをより強くしているの」
批判者からパワーを得て、熱狂的なファンからもパワーを得て、VOICE OF BACEPROT のスター性は間違いなく高まっています。最近、Tom Morello が3人の RATM のカバーを賞賛し、オリジナル曲も増え、海外ツアーにも目を向けています。「私たちはコーチェラに出演したいの」とAisyah は熱弁を振るいます。
31年前に始まったドイツの大規模な音楽祭、Wacken Open Air のステージに立ったインドネシアのバンドは、これまでにたった5組。しかし、来年9月には、VOICE OF BACEPROT がそこに加わり、その数はさらに増えることになります。
多くのインドネシアのメタル・ヘッズにとって、これは間違いなく誇らしいことであり、自国ではまだ有名になっていないに3人とっては夢のような出来事でしょう。しかし、この発表は、2014年の結成以来、ヒジャブを被ったイスラム教徒の女性がロックを演奏するのはふさわしくないとバンドに否定的な意見を投げかけてきた評論家たちの勢いを加速させました。彼女たちの技術やステージでの経験が不足しているために、世界的な WACKEN のステージに立つ資格がないと指摘する人もいれば、バンドが裏で取引をして、お金を払ってフェスティバルに出演しているとほのめかす人もいます。
探偵ではなくても、このような嘲笑や憶測には、昔ながらの性差別や保守主義、ロックは男の子(しかも悪魔崇拝者)だけの遊び場だという古臭い考えが染み付いていると推察することができるでしょう。
VOICE OF BACEPROT がフェスティバルで演奏するためにお金を払ったという噂については、Wacken Open Air が声明の中でしっかりと否定しています。
「ブッキング・チームのメンバーがテレビで彼女たちを見てヨーロッパのエージェントと知り合いになり、私たちのフェスティバルにおけるスロットを提供することにした。もちろん、W:O:A 2022での彼女たちのショーをとても楽しみにしているよ!」
VOICE OF BACEPROT が Wacken のステージに立つまでには、まだ1年以上の時間があります。それまでの間、トリオは技術を磨き、性差別主義者や保守的な嫌われ者に対する怒りを音楽にぶつけていきます。
「この問題には性差別がしっかりと根付いているわ。なぜなら、このような中傷者のほとんどは無知であるか、自分の発言がいかに性差別的であるかを知らないからね。でも、私たちはリラックスして、彼らを気にせず、音楽を作り続けることにしたのよ」
インドネシアには女性のロッカーは少なからず存在しますが、現在メインストリームで活躍している人はほとんどいません。当然、宗教的なスカーフをかぶってヘッドバンキングをするような人も。VOICE OF BACEPROT は、このような状況の中で “避雷針” となり、あらゆることの矢面に立ってきました。
Kurnia は、「中傷することは創造することよりも簡単で、だからこそ、多くの人が創造の代わりに嘲笑することを選ぶの。驚くことじゃないわ」と語ります。
ただし、幸いなことに彼女たちの本気度を目の当たりにした両親たちは、西ジャワ各地の音楽フェスティバルにブッキングされた後、やっと3人をサポートするようになりました。
「最初の演奏は学校のイベントで、お別れコンサートだったんだけど、両親が私たちの演奏を初めて見たの。私たちが通っていた学校は、かなり宗教色の強いイスラム教の学校で、みんなかなりショックを受けていたわね。それまで両親は、私たちがメタルをやることを明確に支持したり、禁止したりしなかったの。心の中では、私たちのことを誇りに思ってくれていると思っていたわ。少し心配だったかもしれないけど。でも、最初のライブの後、両親は私たちがメタルを演奏することを禁止したの。でも私たちは続けたし、あまり深く考えなかったわね。一年秘密に練習していたわ。辞めようとか、一歩退こうとか、そんなことは考えなかった。時が経つにつれ、両親やコミュニティからのサポートがないことが、むしろ私たちの精神的な強さや、悪影響を与えないことを証明するための決意を固めるのに、大きな役割を果たしていることに気づいたのよ」
彼女たちの限りない情熱は、歌詞やインタビューで語られる人生哲学の自然な延長線上にあるのかもしれません。Kurnia は、意欲的な女性メタル・ミュージシャンへのアドバイスを求められると、「勇気を持って、強くなること」と淡々と答えます。Aisyah は、田舎の小学生から世界的なメタル・アーティストになるまでの7年間の道のりを表す言葉として、「大きな夢を持つことを恐れないで」と目を輝かせました。
「私たちの音楽のメッセージは、自由について。女性としての自立、人間としての自立、そして人間の価値観や人間性についても多く書いているわ。私たちがやろうとしているのは、伝統を継承し、自分の意見を述べ、自分たちの音楽を他の人々と共有することなの」
LOUDERSOUND: VoP Are The Metal Band That World Need Right Now