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COVER STORY 【STEVEN WILSON : TO THE BONE】INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK REVIEW


EXCLUSIVE INTERVIEW WITH NICK BEGGS & TRACK BY TRACK OF STEVEN WILSON’S “TO THE BONE” !!

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Steven Wilson’s New Adventure “To The Bone” Is Inspired By The Hugely Ambitious Progressive Pop Records That He Loved In His Youth !!

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TRACK BY TRACK “TO THE BONE”

「最も大きなチャレンジは、楽曲重視のレコードを作ることだよ。メロディーにフォーカスしたね。」 モダンプログレッシブの唱導者 Steven Wilson はそう語ります。モダン=多様性の申し子である世界最高の音楽マニアが、至大なる野心を秘めて放つ5作目のソロワーク “To The Bone” は、自身が若き日に愛した偉大なるポップロックレコードの瑞々しいメロディー、その恩恵を胸いっぱいに浴びた新たなる傑作に仕上がりました。
Steven は “To The Bone” のインスピレーションを具体的に挙げています。Peter Gabriel “So”, Kate Bush “Hounds of Love”, TALK TALK “Colour of Spring”, TEARS FOR FEARS “Seeds of Love”, そして DEPECHE MODE “Violator”。勿論、全てが TOP40を記録したメインストリーム、知的で洗練されたポップロックの極み。
同時に彼は自身のプログレッシブなルーツも5枚提示しています。TANGERINE DREAM “Zeit”, Kate Bush “Hounds of Love”, THROBBING GRISTLE “The Second Annual Report”, PINK FLOYD “Ummagumma”, ABBA “Complete Studio Albums” (全てのスタジオアルバム)。
非常に多様で様々なジャンルのアーティスト、レコードが彼の血肉となっていることは明らかです。ポップサイドでも、フックに溢れた音楽的な作品を、プログレッシブサイドでも、難解なだけではなくサウンドスケープやメロディーに秀でた作品を撰するセンス。両方に含まれる Kate Bush の “Hounds of Love” はある意味象徴的ですが、すなわち、レコード毎にその作風を変化させるマエストロが今回探求するのは ナチュラルにその二者を融合させた “プログレッシブポップ” の領域だったのです。
実際、2011年からレコーディング、ツアーに参加し続けているロングタイムパートナー、チャップマンスティックの使い手 Nick Beggs はこの稀有なるレコードを “クロスオーバー” でそれこそが SW の探求する領域だと認めています。そしてその “違い” こそが様々な批判、賛美を生んでいることも。
「プログレッシブロックのオーディエンスって、実は最もプログレッシブじゃないように思えるんだ。プログレッシブミュージックは、プログレッシブな考え方であるべきなんだよ。」 盟友の心情を代弁するかのように Nick はシーンのあるべき姿をそう語ります。いとも容易くミッドウイークの UK チャートNo.1を獲得したアルバムは、決して “プログレッシブロックの逆襲” “プログの帰還” などというシンプルな具象ではなく、イノベーターの強い意志、情念なのかもしれませんね。

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TRACK 1 “To The Bone”
タイトルトラックにしてオープナー、”To The Bone” はこの芳醇なるレコードの絶妙にして正確なるステートメント。XTC の Andy Partridge が歌詞を手がけた楽曲は、”骨の髄まで” 現在の状況を突き詰め、核となる真実を探し出すことについて歌っています。
言うまでもなく、これはドナルド・トランプ時代の産物です。先のアメリカ大統領戦で私たちが経験したように、真実は時に異なる物の見方を生み出し、事実をねじ曲げてしまう可能性があるのですから。
コンセプトアルバムの形は取らなかった “To The Bone” ですが、どの楽曲にも共通するテーマは存在します。それは現在の世界を決して素晴らしいものとは思わないという視点。Steven はその要因の一つが基本的なマナーの欠如だと述べています。世界には敬意や思いやりに欠く人間があまりに多すぎると嘆いているのです。
そういった背景を鑑みれば、ダイナミックでパワフルなアルバムオープナーがトラディショナルである意味オーソドックスなブルースロックを基調としたことにも頷けますね。勿論、寛容さに欠く時代の真理を独白するアメリカの教員 Jasmin Walkes のスポークンワードで全ての幕が開けることにも。
確かにパワーコードやハーモニカ、自身のラフなリードギター、Jeremy Stacey のファンクなドラミングと Pete Eckford のハンドパーカッションは Steven のイメージとそぐわないかも知れません。ただし、アウトロのアトモスフェリックでエセリアルな表情はまさに彼の真骨頂。つまり Steven の核となる真実、音楽の探求と融合を実証した楽曲。”プログレ” じゃない? Nick Beggs はこう一言 “So What?”

TRACK 2 “Nowhere Now”
ライティングプロセスで Steven が心掛けたのは、複雑性を捨て去り、よりミュージックオリエンテッドな楽曲を生み出すこと。”Nowhere Now” の気に入っていたパートをマエストロはいとも容易く捨て去りました。楽曲のデモバージョンは現在の彼にとって、複雑で長すぎると感じられたのです。
「僕は楽曲の、感情の、メロディーの “ハート” にフォーカスする必要があるんだ。ただし今でも興味深い楽曲を制作したいという願望はあるよ。」 そう語る Steven の “プログレッシブ” は、幾重にもレイヤーされた美麗なるプロダクションやアレンジメントに主張されています。勿論、以前に比べてエレクトロニカサウンドが増している点もそこに繋がるはずですね。
複雑性やテクニカルを極力廃すというアルバムの方針は、お抱えのギターマイスター Dave Kilminster の出番も無くしました。Steven はより自身の感情を反映するため、自らのプレイをギターの軸に据えたのです。とはいえ、面白いことに Dave のボーカルハーモニーは必要とされ4曲にコーラスを挿入しているのですが。
“地下6フィート(墓穴の深さ)、僕たちは今、後方へと進んでいる” というファーストラインは、人類が退化の真っただ中にあることを諮詢しています。しかし、浮遊感を伴う極限にキャッチーなコーラスでは美しき地球を宇宙から俯瞰で見下ろし、ポジティブで広い視野を得るのです。

TRACK3 “Pariah”
ドリーミーなシンセサイザーのシーケンスに幕を開け、エセリアルなシューゲイザーで幕を閉じるコンテンポラリーなドリームポップチューンは Steven とイスラエルのフィーメイルシンガー Ninet Tayeb の優艶なるデュエット。”Hand. Cannot. Erase.” から続く2人のコラボレーションは円熟の域に達し、あざといほど典型的に、諦めないことを、ポジティブなメッセージを届けるのです。

TRACK4 “The Same Asylum As Before”
Steven は “To The Bone” でテレキャスターと恋に落ちたと語ります。”The Same Asylum As Before” のトレブリーで細く硬質なギターサウンドは、まさにテレキャスターソングの典型だと言えるでしょう。
ドライブやディストーションをあまり加えることなくロック出来るテレキャスター。その真の魅力に気づいたと Steve は語ります。勿論、これが Pete Townshend のサウンドであるとも。
ボーカルの延長としてよりレイドバックし、メロディーやキャッチーさを強調する彼のギターワークは鮮彩に躍動していますね。詩情豊かなファルセットは楽曲に陰影をもたらし、”Kashmir” を想起させるコーラスパートも出色です。

TRACK5 “Refuge”
フランス北部の港町カレー。ヨーロッパ最大規模の難民キャンプは治安も衛生状態も悪化していました。経済的に豊かな英国へ渡ろうと、トラックや列車に飛び移り命を落とす難民も現れたのです。Steven は政治的な楽曲を書くつもりはないと語ります。あくまで人間のストーリーを描きたいとも。Refuge では愛する家族や母国から切り離されることの痛みについて歌っているのです。
ポリフォニックシンセサイザー Prophet-6 のアルペジエーターが、この実験的でアンビエントなエレクトロニカチューンのベースとなっていることは明らかです。ポストプログレッシブなイメージが強調された楽曲には Robert Wyatt が “Rock Bottom” で使用したキーボード、Paul Stacey のギターソロも収録され、独特な世界観の構築に貢献しています。

TRACK6 “Permanating”
「どのレコードでも僕は多様性を創造しようとしているんだ。僕にとってはそれこそが本当に満足出来るアルバムを作る秘訣さ。」 “Diversity”, “Eclectic” というワードがモダンミュージックのベースとなっていることは言うまでもありませんが、Steven Wilson が “Permanating” で提示した眩い音楽はそれにしても驚きだと感じます。
ビッグシングルにしてメインストリームなポップフィールで満たされた楽曲には、彼の70年代ディスコミュージック、ABBA への強い愛情が込められているのです。PINK FLOYD と Donna Summer を等しく愛する Steven は「セルアウトと言われるかも知れないけど、ポップスを愛しているんだから仕方がない。」 と語っています。
人生の大半は喜びでも悲しみでもなく、ただ存在するだけだと話す Steven。故にクリスタルのような輝かしい瞬間を保持して生きるべきだと。”Permanating” はまさにその究極に幸せで楽しい時間を切り取った楽曲なのです。

TRACK7 “Blank Tapes”
“Permanating” での華やかな雰囲気から一変、”Blank Tapes” は悲しみと嘆きのバラードです。男女の別れを描いた楽曲は、Steven が男性の視点で、Ninet が女性の視点でストーリーを紡いでいきます。
Ninet の Rod Stewart を思わせる情感豊かな歌唱は、ギター、ピアノ、メロトロンというシンプルな演奏に良く映えていますね。

TRACK8 “People Who Eat Darkness”
パンキッシュで衝動的な “People Who Eat Darkness” はパリの Bataclan シアターでのテロの後に書かれた楽曲です。テロとその後のメディア報道に Steven は、穏やかな隣人が突然テロリストとなる狂気に戦慄を覚えます。彼はいつも、宗教、政治といったマクロなテーマそれ自体よりも、その中で翻弄される人間に着目するのです。
「階段でよくすれ違っていたんだけど、彼はいつもニコニコと笑顔で挨拶してくれたの。買い物を持ってくれたりしてね。普通の素敵な若い男性だったわ。」 インタビューを受けた隣人の言葉には 、”普通” に見える人間が、怒り、憎しみ、狂気を抱え闇に飲まれている可能性を諮詢しています。分断された現代社会で、果たして誰がそれに気づくことが出来るのでしょうか?

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TRACK9 “Song of I”
スイス人女性シンガー Sophie Hunger とのデュエットは、アルバムで最もエレクトロニカサウンドをセンターに据えた楽曲に仕上がりました。「最近のラップはロックより革新的だよ。」 と嘯いた Steven。”Song of I” には Rihanna をフィーチャーした Kendric Lamar の “Loyality.” を想起させる瞬間が確かに存在します。
ある種淡々とした音像の中で、淡々と伝えられるのは以外にもロマンティックなメッセージ。「タバコも、アルコールも、ギャンブルも、オールだって何だって諦めるけど、あなただけは諦められないよ。」 こういった強迫観念に男女の差異は存在せず、故にデュエットという形がフィットするのかもしれませんね。

TRACK10 “Detonation”
エレクトロビートと Jeremy Stacey のダイナミックなドラムスが目まぐるしく交差するイレギュラーな楽曲は、時にポピュラー音楽史上最も成功した作曲家 Paul McCartney and WINGS の “Live and Let Die” をイメージさせます。”Detonation” には二つの意志が存在するのかも知れません。
楽曲はフロリダの同性愛者クラブで起きたテロリズムに触発されて書かれました。犯人は確かに「アッラーフ・アクバル」 と叫び神に忠誠を誓ったように犯行を行いましたが、実際は自分自身の偏見や憎しみを正当化するためにイスラム教の皮を被っていたようにも思えます。
“Detonation” の最初の一行、「神よ、私はあなたを信じませんが、あなたが望むことはやり遂げます。」 とはすなわち、信じないものの力を借りた自身の正当化です。Steven はこの歪んだ現代社会において、自己に潜む嫌悪感や憎しみを隠すため、宗教へと目を向ける人が存在すると信じているのです。
ともあれ、”Detonation” は Steven の作品でも秀逸なロングピースで、スロバキアのギタリスト David Kollar のマクラフリン風ギターが炸裂するアウトロは実にエキサイティングだと言えますね。

TRACK11 “Song of Unborn”
“Unborn” とはまだ生誕していない命、胎児。Steven はこの感動的なアルバムクローサーで、生まれくる命に子宮の外の危うさを伝えます。ただし、これが彼の典型的なバラード “Routine” や “The Raven that Refused to Sing” と決定的に異なるのは、究極的には希望を宿している点です。”Don’t be afraid to live” 生きることを恐れないでと Steven は歌います。確かに残念な世の中だけど、それでも全ての命はユニークで、時には本当にスペシャルなものへと変わることもあるんだよと。
自分の人生を抱きしめれば、命は深遠に達するという美しいメッセージは、オプティミズムの象徴とも思える美麗なるクワイア、コーラス隊を誘って世界へと降り注ぐのです。

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Steven は、”To The Bone” には以前のレコードにはないエモーション、人々の心を動かす感動が存在すると語ります。ビートルズ、ストーンズ、ゼップ、フロイド、ディラン…彼が崇拝するレコードの大半は、アーティストが20代で制作したもの。しかし、自分は30代から花開き、どんどん良くなっていると Steven は語ります。”To The Bone” が最高傑作だと信じて疑わないことも。「僕は歳を重ねるほど、音楽のコア、真実のエモーションが掴みやすくなるからね。」

参考文献「Steven Wilson :To The Bone: A track-by-track guide 」2017年8月17日

STEVEN WILSON “TO THE BONE” : 10/10

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