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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【3.2 : THE RULES HAVE CHANGED】TRIBUTE TO KEITH EMERSON


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROBERT BERRY OF 3.2 !!

“I Could Not Get Keith To Overcome The Fan Criticism. He Was Done With It For The Next 28 Years.”

A LABOR OF LOVE

Robert Berry は数奇なる運命と共に音楽カルチャーを漂流した有能なるバガボンドなのかもしれません。シンガーソングライターにして、マルチ奏者、そしてプロデューサー。
サンジョゼに居を構える Soundtek Studios のオーナーとして Robert は、数多のアーティストとイマジネーションを共有し、同時にミュージシャンとしてもベイエリアのレジェンドとしてプログ&AORの脈流に深くその存在を刻み続けています。
Geffen の A&R John Kalodner、JOURNEY のマネージャー Herbie Herbert との出会いが Robert の翼を80年代の空へさらに羽ばたかせるきっかけとなりました。Steve Howe & Steve Hackett のコンビで成功を収めた GTR への参加、Sammy Hagger, Joe Lynn Turner との仕事など、2人の口利きは Robert の世界を広げてマルチな才能の飛翔を可能にしたのです。
キャリアのハイライトは1988年だったのかも知れませんね。Geffen とのコネクションは、彼を Keith Emerson, Carl Palmer 2人のプログレジェンドと引き合わせ、新プロジェクト 3 の結成へと導きました。ELP リユニオンの頓挫、商業的成功への渇望。舞台の裏側には確かに様々な “大人の事情” が絡んでいたのかも知れません。しかし、リリースされたバンド唯一の作品 “To The Power of Three” には現在まで語り継がれるプログポップの萌芽が確かに息づいていたのです。
Keith の繊細かつ複雑な鍵盤捌き、Carl の芸術肌に、Robert のモダンでアクセシブルなソングライティングが噛み合った作品は、振り返ってみれば瑞々しくも確固とした音楽的なアドベンチャーだったと言えるでしょう。しかし、”Talkin’ Bout” のヒット、好調なツアーにもかかわらず、バンドは僅か2年でその活動に終止符を打ってしまうのです。
その背景には、Emerson, Lake and Palmer を崇拝するルナティックからの激しい批判がありました。インタビューで Robert が 「問題は、ELP のファンはただ長尺の楽曲と Greg Lake のボーカルが聴きたかっただけだという点だったね。」と語るように、メインストリームへと接近した 3 のサウンドは、残念ながらプログロックの狂信者にとって耐えられないものだったのかも知れません。そしてその負の重圧には Keith も耐えることが出来なかったのです。華麗なプログエピック “Desde la Vida” もすっかり焼け石に水でした。
以降も途絶えることなく連絡を取り続けた2人。故に、「僕は Keith をファンの批判から守り、克服させることが出来なかったんだ。彼はそこから28年間もその批判を我慢し続けることとなったんだからね。」という Robert の言葉には想像を絶する重みがあります。
2016年に Keith が自ら命を絶った後、Robert は2人で再度着手していた 3 のセカンドアルバムを諦めようとも考えたと明かしてくれました。当然でしょう。しかし、「Keith の遺産を届けたい。」その想い、一念が 3.2 の名の下に際立ったプログポップの快作 “The Rules Have Changed” を完成へと導いたのです。
Keith がコンポジションに20%関与したアルバムで、マルチプレイヤー Robert はまさに Carl, そして亡き Keith が彼の身体に憑依したかのような演奏を披露しています。ここには確かに、30年の月日を経た 3 の新たな物語が生き生きと映し出されているのです。
リスナーは、Robert の持ち味である類稀なるポップセンスが、プログレッシブな波動、クラッシック、ケルト、ジャズ、フォークと見事なまでに融合し、多様なアートロックとしての威厳までをも仄めかす絶佳のトリビュートに歓喜するはずです。
オールドスクールのプログロックとは一線を画すキャッチーでコンパクト、知的でいながらコマーシャルなアルバム。それはまさに 3 のレガシーにして失われた聖杯。
もちろん、Keith が抱えることとなった闇の部分をダークに描写するタイトルトラックなど、全てが耳馴染みの良いレコードではないかも知れません。しかし、だからこそ、この作品には真実の愛、語りかける力があります。
日本盤ボーナストラックにして美しきアルバムクローサー “Sailors Horn Pipe” にはきっと Keith が降臨しています。しかし、残念ながら彼がこの世界に降り立つのはこれが最後の機会となってしまいました。SNS等が普及しよりダイレクトに様々な “声” が届くようになった今、音楽を “受け取る” 側の私たちも、再度アーティストとの接し方、心の持ちようを考えるべきなのかも知れませんね。
今回弊誌では、Robert Berry にインタビューを行うことが出来ました。作品で最も希望に満ちた “Powerful Man” は父親賛歌。「偉大な、最も才能に秀でた友人を失ってしまった訳だからね。もちろん、世界的な損失でもあったよね…」12歳の孫の Ethan は驚くほどに Keith の才を受け継いでいるそうです。弊誌が必ず行わなければならなかった取材。どうぞ!!

3.2 “THE RULES HAVE CHANGED” : 9.9/10

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