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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONVERGE : BLOODMOON I】


COVER STORY : CONVERGE “BLOODMOON I”

I Asked If We Could Do a Telepathic Meeting, Where We All Stopped And Closed Our Eyes At The Same Moment — No Matter Where We Were Doing — And Channeled Our Energies Into The Center Of This Project

BLOOD MOON

パンデミックにより、バンド・メンバーがアメリカの両端で隔離されている場合、どのようにコラボレートするのがベストでしょうか? インターネットは互いの距離を縮める強力なツールですが、コラボレーターの一人が Chelsea Wolfe のようにゴシックな要素を抱えている場合は、より形而上的な方法で意味のあるつながりを見いだすことになります。
「私は、テレパシー会議ができないかと尋ねたの。アメリカのどこで何をしていようと、全員が同じ瞬間に立ち止まって目を閉じ、エネルギーをこのプロジェクトの中心に注ぎ込むというものよ。私たちはそれを “テレパシー・ズームコール “と呼ぶことにしたのだけも、これはとても面白いと思うわ」
そのプロジェクトとは “Bloodmoon”。ハードコアの先駆者 CONVERGE の4人、Jacob Bannon, Kurt Ballou, Nate Newton, Ben Koller, マルチ奏者 の Ben Chisholm、CAVE IN のフロントマン Stephen Brodsky、そして Wolfe のジョイント・プロジェクト。
「テレパシーでそれぞれが異なる経験をしたわ。Ben Koller は、ステージで曲を演奏している私たちを想像していた。Stephen Brodsky は、ニューヨークの街を歩きながら曲を聴き、立ち止まって私たち全員の努力に感謝していた。私は瞑想をして、私たちが円になって座っているところを想像していたわね…。それはちょうど、心の中の甘い出会いのようなものだったわ」
CONVERGE のヴォーカリスト、Jacob Bannon は、”スピリチュアルでソウルフルな” Wolfeについて、「彼女は、世界の物事が白か黒かだけではないことをとてもよく理解している人だ」と語っています。
「彼女の軽やかなアプローチは、CONVERGE が慣れ親しんできたものとは全く異なるものだ。俺たちはそういったものを嫌っているわけではないけど、パンクのバブルの中で生きているから、肉や骨ではないもの、目の前にないすべてのものを拒絶している。だから、そういったスピリチュアルなものに触れることもあまりないんだよね」
一方の Wolfe は CONVERGE との融合をどう捉えているのでしょうか?
「CONVERGE は、音楽的に自分たちの道を切り開く、そんな世界に存在しているわ。もちろん、ハードコアに根ざしていることは確かだけど、彼らはそれを使って独自の道を歩んで、自分たちの領域のリーダーになったの。私自身のプロジェクトは、常にさまざまなジャンルでやっぱり独自の道を歩んできたように思うわ。ロックの世界が基本だけど、エレクトロニクスを試したり、フォークミュージックを取り入れたりしてきた。つまり、私たちは自分たちのやり方を試すことに前向きで、ある意味、音楽的な感性がうまく融合したんだと思うの。2016年のショーのために初めて集まってセットを作り始めたとき、その相性の良さは明らかだった。いとも簡単に融合したの」
Wolfe は自身の歌声と Bannon の叫びを陰と陽に例えます。
「最終的な結果という意味では、陰と陽の関係になったわね。それが面白いところよ。というのも、私たちは CONVERGE の確立されたサウンドと存在感を知っているから。それは私にとって魅力的で、その逆もまた然り。この二つの世界を融合させたいと思ったわ。でも同時に、私たちがやっていることをもっと浄化したり、少なくとも深みやダイナミクスを加えたりしたいとも願ったの」

哲学的にも、音楽的にも、あるいはラインナップの充実からも、”Bloodmoon: I” は、CONVERGE にとって、ユニークで、大きな変化をもたらすアルバムとなりました。まさにブラッド・ムーンを仰ぐ部分月食の11月19日に発売されたこの作品は、90年代初頭からバンドが磨き上げてきた、メタリック・ハードコアの唸りや地響きをバイブルに、スパゲッティ・ウエスタン・ゴス(”Scorpion’s Sting”)、コーラルでメランコリックなプログレッシブ(”Coil”)、空想的なサバティアン・スラッジ(”Flower Moon”)といった “部外者” との多様なケミストリーも頻繁に顔をのぞかせます。LED ZEPPELIN の遺伝子をひく “Lord of Liars”のようなクラシック・ロック回帰も含めて。CONVERGE 本体とコラボレーターとの間の相乗効果はシームレスで、作品をビーストモードでアップ・グレードしています。もちろんCONVERGE の幅広いディスコグラフィーは常にハードコア以上のものを示唆してきましたが、”Bloodmoon.I” で赤の月の軌道は拡張され、最もその異変を如実に知らしめます。つまりこのアルバムは、CONVERGE の “何でもあり” のアプローチを、最も贅沢に表現した作品なのです。
「俺たちはダイナミックなバンドで、そのサウンドには様々なものがあるんだが、主に、翼竜をバックにしたチェーンソーのようなサウンドで知られている(笑)」
Bannon の言葉通り、このフロントマンは作品の中で最も人間離れした悲痛な遠吠えを持っているに違いありません。Wolfe も Bannon に対して同様に原始的な印象を持っており、彼のボーカルを「虚空に向かって叫ぶ朽ち果てた頭蓋骨」と表現していますが、これは二人の共同ボーカルに対する完璧なメタル的表現でしょう。しかし、何十年にもわたってその力強さを維持することは、Bannon 自身も認めるように、肉体的な犠牲を伴います。
「この30年間、叫び続けてきたことで自分自身に大きなダメージを与えてきたんだけど、今でもやってきたことはやれるぜ。喉に瘢痕組織がたくさんあるから、気持ちよく歌える音やコントロールできる音はほんの一握りしかないし、混乱しているけどな。俺には広い声域はないし、長い時間をかけて研ぎ澄まされ、調整された筋肉でもないだけど、全く別のものがあるから、俺はそれで満足しているんだ。俺はラウドなボーカリストだけど、ラウド・ボーカルは他のスタイルに比べてインパクトやパーカッションとの関係が深いんだよな。というのも、一般的にはビートに合わせて歌うことになるし、音声的にも、自分の中から何かを引き出すために強く押し出さなければならないから硬くなってしまう。だから、伝統的なボーカリストのように、コミュニケーション・ツールというよりは楽器になってしまう。まあ、Chelsea も、やりたいときには残忍なことをやっているし、Stephen はもちろん、Kurt も Ben も時には歌っている。俺たちはこのダイナミクスに賭けていて、レコードの中でいろいろなところを行ったり来たりしているわけさ」
Bannon は “Bloodmoon.I” での自らのパフォーマンスを過小評価しているようです。しかし、自分の限界を知ることには強さにつながります。Bannon がこの作品を “全員が自らのエゴを封印した” と語るように、限界を知り、自分一人では到達できなかったであろうメロディーを、コラボレーターである Wolfe と Brodsky に委ね、彼らが具現化してくれたことに感謝しているのです。
「俺の頭の中では、いつも Ronnie James Dio のためにボーカル・メロディーを書いているんだけど、俺は彼のように歌うことはできないからな。Ronnie James Dio の知り合いでもなかったし、彼は死んでしまった。だから、Stephen Brodsky に任せたんだ」

“Bloodmoon” プロジェクトが本格的に始動したのは2016年のこと。当時、CONVERGE は Wolfe、Chisholm、Brodsky の3人に声をかけ、ハードコア・グループのカタログの中で、よりムードのある、あまり知られていない部分を強調するため短期間のヨーロッパ・ツアーを行い、オランダの Roadburn Festival で今では伝説となっているセットを披露しました。Bannon が Wolfe との出会いを振り返ります。
「彼女のセカンド・アルバム “Apolaklypsis” を手にしたのは2009年くらいだったと思うけど、すっかり魅了されてしまったね。すばらしいレコードだと思った。その後、俺たちがツアーに出ているときに会うことになったんだが、シアトルか、少なくともシアトルの近くで Chelsea も Ben もそのあたりにいて、ライブに来てくれたんだ。それ以来、さまざまな形で連絡を取り合っていた。Ben とはいくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしたし… CONVERGE でもっと広がりのあるダイナミックな活動をして自分たちの世界を広げていくには、他の創造的な声を持ったミュージシャンと一緒に演奏することが必要だと常に考えていたんだ。そんな話をしていたら、二人と一緒に仕事をするというアイデアが頻繁に出るようになった。2009年から今まで、ずいぶん長い時間が経ったように感じるけど、人を集めるにはスロー・バーンが必要なんだよな。2016年にはヨーロッパでいくつかのショーを行ったけど、そのうちの1つがイギリスのロンドンで “Converge Bloodmoon” として行ったもの、これが本質だ。CONVERGE の曲をベースにアイデアを膨らませたもので、幸運にも Ben と Chelsea 、そして Stephen Brodsky がその最初のライブに同行してくれたんだ。相性はとても良くて、みんなとても仲良くなれた。だから、その後も続けていきたいと思えたんだ」
Brodsky をメンバーに加えたのは、彼がすでに CONVERGE ファミリーの一員であったことから、自然な流れでした。Brodsky は、1998年に発表された CONVERGE のアルバム “When Forever Comes Crashing” でベースを担当しており、さらに2009年に発表された “Axe to Fall “では、CAVE IN と CONVERGE のメンバーが合体して大規模なレッキングクルーとなり2曲を演奏しています。さらに Brodsky は、CONVERGE のメンバーと他にも2つのバンドで共演しています。Koller との MUTOID MAN と、CAVE IN。長年ベーシストであった Caleb Scofield の死後、2018年に Newton を招き入れたのです。Bannon が回想します。
「Stephen とは10代の頃からの付き合いだよ。俺の意見では、彼は俺が知っている中で最も才能のある、自然なプレーヤーの一人だと思う。それは、彼が技術的なスキルを磨いてきたからで、一見すると何の苦労もないように見えるけど、実際には10代の頃にベッドルームで100万時間も練習を重ねていたから。 実は彼は、90年代後半に CAVE IN が活動を休止していたときに、初期の段階で俺たちのバンドにベースで参加していたんだ。彼が CAVE IN の活動を再開したことで、俺たちは別々の方向に進んだよ。でもずっと仲が良くて、彼は俺たちのドラマー Ben Koller とも親しくしていた。それに彼は、Kurt の昔のルームメイトでもあり、Nate と一緒にバンド活動をしているんだ。Stephen はこのプロジェクトにとてもパワフルな音楽的感性をもたらしてくれた。彼のリフやメロディのアイデアは、とてもパワフルだよ。このバンドでも、彼の他のすべての活動でも、特別な線で俺とつながっている。まあ俺は彼のただのファンだから、彼と一緒に仕事ができたことは本当に特別なことだったよ」
Chisholm も同様に、数年前から CONVERGE の近くにいて、”Revelator” という名前で、Bannon のポストロック・プロジェクト WEAR YOUR WOUNDS とのスプリット7インチをリリースしています。また、Chisholm は過去10年間に Wolfe と共演したり、アルバムを制作したりもしていて、彼女に CONVERGE の音楽を紹介した人物でもあるのです。
さらに、Wolfe と MUTOID MAN がともに Sargent House Records と契約していたこともあり、Wolfe はパーティーやフェスティバルで何度も Brodsky と遭遇していて、プラハの街を歩き回っている時、彼と意気投合したこともありました。
「ビートルズが演奏したこともあるアリーナに忍び込んで、Stephen に METALLICA の曲か何かを歌ってもらったの。あの時の音は最高だったわ」

Bloodmoon の最初のライブはステージ上のエネルギーがあまりに強烈で、ライブが無事に終わった後、7人のミュージシャンはオリジナルのアルバムを録音することに合意します。以降何年にもわたって、さまざまなデモや曲のアイデアが彼らの間を行き来していましたが、2020年初頭にマサチューセッツ州セーラムにある Kurt Ballou の GodCity レコーディング・スタジオに集結する時間がようやく全員にできたとき、パンデミックが発生しました。ゆえに東海岸のプレイヤーたちには集まる機会があった一方で、Wolfe は北カリフォルニアの自宅スタジオで大部分の楽曲をレコーディングしました。
ソロアルバムではロック、ドゥーム、フォークなど幅広いジャンルのテクスチャーを使用してきた Wolfe にとって、2016年最初に CONVERGE とリンクしたことは、他人の技術を創造的に熟考する良い機会となりました。
「それまでにかなりの数のツアーを経験していたけど、それは常に自分のバンドで、私が指揮をとり、ほとんどを決定していたわ。だから Bloodmoon は、一歩下がってバンドの一員となり、他の人が書いたパートを学ぶチャンスだったの。ミュージシャンとしての成長には役立ったと思うんだけど当時の私はもっとシャイで…ただ背景に消えて、CONVERGE を輝かせようとしていたのよね。私にとって長くてゆっくりとした旅のようなものだったわ。始めたばかりの頃は、人に顔を見られたくなかったから、ビクトリア朝の喪服のようなベールをステージ上で被っていたくらいで。でも今では、そこに自分がいても構わないと思えるようになったのよ」
Wolfe の自宅スタジオは、2019年に発売された “Birth of Violence” をレコーディングするために、パンデミック前にすでに設置されていました。ゆえに自宅で歌い、ギターを弾いているときは、完全に本領を発揮しています。ただし、そのセッション中に予期せぬ個人的な変化が起こりました。インフラが整い、新しい曲を歌えるようになった彼女は、Bloodmoon の曲を、断酒への道を歩み始める “精神的・霊的な調整” を行うための道標として活用したのです。
「禁酒を始めたばかりの頃は、当然ちょっとした苦労があったわ。このプロジェクトは、そんな時期の私にとって、アルコールの影響を受けずに得られた考え方を表現する、とても素晴らしいはけ口になったの。起きてから何時間も楽曲に取り組み、没頭しながらも、とてもクリアな気分になれるという、最高のグルーヴ感を得ることができたのよ。パンデミックがはじまって最初のうちは、クリエイティブでなければならないというプレッシャーがあったと思うの。ヨーロッパでのツアーが中止になり、ショーもせずに飛行機で帰国しなければならなかったし…その後、1月初旬に禁酒を決意したんだけど、ちょうどその頃、CONVERGE の曲を掘り下げ始めたの。私の場合、今の新たな明晰な精神状態が楽曲に反映されていると思うわ。同時に、このボーカルや曲をみんなと一緒に作ったことで、自分の創造性を取り戻すことができた。このプロジェクトの中で、私は本当に自由になれたと感じているの。みんながお互いのアイデアを受け入れていったから。これは本当に楽しい経験だったわ。パンデミックの闇の中の喜びと言ってもいいかもしれないわね。そして、夏にみんなで集まったときに、本当に命が吹き込まれたの」

CONVERGE のメンバーにとって、”Bloodmoon.I” への長き道のりは数十年に及びます。Ballou と Bannon は10代でバンドを結成し、90年代前半に活動していたメタルコア・シーンの硬直した攻撃性に、SLAYER を愛しながら難解なひねりを加えていきました。特筆すべきは今年20周年を迎えた、あの時代を象徴するような “Jane Doe”。その混沌の中に、ピックアップを腐食させるようなノイズ、破壊的な爆音、そして奇妙なフックが詰め込まれたゲーム・チェンジャー。Bannon が女性のストイックな顔を描いた ハイコントラストなジャケットイメージは、最近ではフランス人モデルのオードリー・マルネイの写真を部分的に使用していることが確認されていますが、MISFITS の “Crimson Ghost” と並んで、パンクやメタルのパンテオンに数えられています。
“Bloodmoon: I” では、そんな CONVERGE の定石に数多くの変化が加えられ、万華鏡のように華麗な体験が可能となりました。Bannon の叫び声は、Wolfe の陰鬱でメランコリックなビブラートと溶け合い、Brodsky の生々しいメタリックな叫びに巻き付いていきます。Wolfe も過去に、”Apopkalypsis” の “Primal/Carnal” でエクストリームなボーカルを試したことがありますが、”Bloodmoon: I” のタイトル・トラックは、彼女のヴォーカル・トーンをさらに極端なものにするチャンスでした。
「この1年間、ホラー映画の音楽制作に取り組んできたんだけど、その多くは非常に悪魔的な音を出していたの。Bloodmoon の曲と同じ時期に取り組んでいたから、ちょっとしたクロス・オーバーみたいな感じでね。”Blood Moon” という曲で私は、うなり声のような新しいボーカルに近づいたんだけど、それに触発された Jacob がその部分を引き継いでさらに発展させたのよ」
3人のキー・ボーカリスト以外では、Newton がオークのような悲鳴を上げて、アルバム全体に頻繁に登場します。しかし、Bloodmoon のメンバー全員をその没入感のある重厚なサウンドに導いたと Wolfe と Bannon が認めたのが Ballou で、彼は特に衝撃的な “Viscera of Men” の歌詞を書きました。この曲は、何年にもわたる人間同士の争いが “散らばり、飛び散る” 様子を表現しています。Wolfe はこの曲に、暴力についての彼女自身の “時に戦争がまったく理解できないことがある” という考えを付け加えています。構造的には、CONVERGE が何十年にもわたって必要としてきた武器化された D-Beatに向かって進んでいきますが、すぐにChisholm のシンセ・ブラスのファンファーレに支えられて、恐ろしく、憂鬱な雰囲気に変わります。しかし、この変化に富んだ道のりも、Bannon にとっては CONVERGE らしさの一つ。
「俺がリスナーとして好きなレコードは、LED ZEPPELIN の “Houses of the Holy” だよ。バラエティに富んでいるけど、それでも ZEP らしさは失われていない。俺は自分のバンドを MELVINS や ZEP、METALLICA のカタログと比較したことはない。自分たちの領域を知っているから、俺はそれで構わないんだ。でも、比較とかではなく、このレコードには、彼らのような興味深いサウンド・ボイスが幅広くすべて含まれている。それが俺にとってとてもクールなことなんだ」

ビジュアル・アーティストとしての Bannon は、このプロジェクトのグラフィック・デザインにも同様に幅を持たせています。CONVERGE らしい傷ついた顔が真紅とコバルトの色調でアートワークの左上に描かれていますが、バンドの最も象徴的なイメージを使用しながらここには顔の半分しか描かれていません。これは、CONVERGE のクラシックなラインナップが、”Bloodmoon: I” の全体像の一部にしか過ぎないことを暗示しています。そして中央には、輝くような、統一された陰陽のシンボルが月のようにぶら下がっています。Bannon は “前進することを重視” して、自分のバンドのレガシーについて深く考えることを躊躇していますが、2004年の “You Fail Me” は罰当たりな “Hanging Moon” で締めくくられ、2012年の “All We Love We Leave Behind” のアートワークでは月の周期の位相を表現するなど、その作品群に月のイメージが浸透していることを認めています。
「このアートワークを “トロピカル” と呼ぶ人がいるかもしれないけど、俺にとっては視覚的にも比喩的にも共感できるものだ。人間は皆、さまざまな形でそれぞれの暗闇をかかえている。ある人にとっては月がその象徴となるだろうし、別の人にとっては、月が真っ暗な時間の中で輝く光の象徴になるだろう。この比喩をどう捉えるかは君次第なんだ。それに、この作品の歌詞には蛇のイメージが多く含まれているから、それを取り入れたいと思った。CONVERGE のレコードのような雰囲気を出しつつ、異世界のような雰囲気を出したかったんだ。その構成やアイデアを構築するのに時間がかかったけどね」
音楽とビジュアル・アート、そして私生活の関係についてはどう考えているのでしょうか?
「俺にとって、音楽とアートは同じ芸術空間から生まれてくる。とはいえ、これは俺の仕事でもあるから、本当に好きな面もあれば、疲れてしまう面もある。音楽やアート以外では、海の近くで過ごしたり、家族や子供たちと過ごしたりすることが多いね。先週末、2人の息子を連れて森の中の小道を歩いていたら、偶然にも鹿に出会ったんだよ!あと、俺は子供の頃、1988年か1989年頃まで大のプロレスファンでね。俺がプロレスに夢中になったのは、1983年、7歳か8歳のとき。ロード・ウォリアーズがテレビに出てきて、”Iron Man” に合わせて登場したのを初めて見たときは、圧倒されたよ。思春期の少年にとっては、最高にタフでクールなものだったんだ。今でもサバスの “Iron Man” を聴くと滾るよね」
Wolfe はこの月食の到来を過酷な戦いの終わりになぞらえています。残酷なパンデミックの中でのレコーディング、断酒への道、そして、5年という長い時間をかけた共同創作。
「このアルバムには、赤いエネルギーがたくさん詰まっているの。私にとって “Blood Dawn” という曲は、この旅の終わりのようなもの。血の月から日の出まで続く戦いで、あなたは自分の手に残った血を見ているのよ。私は、戦いの後、太陽が昇る浜辺に座っている全員の姿を想像しているわ。アルバムの曲ができあがってくると、神話的な雰囲気を感じるようになったのよ。大きなテーマ、巻きついた蛇のような古代のシンボル、戦いの後の血まみれの日の出。曲を作りながら、頭の中でそんな神話的なテーマをイメージするようになっていったわ」

この作品はほとんどが別の場所で録音されましたが、今年の6月にミュージシャン全員が GodCity に集まり、最終ミックスと最後の調整を行いました。パンデミックが始まって以降、全員が同じ部屋に集まったのは初めてのことです。Bannon は隔離され音楽に打ち込めるロックダウンが、必ずしも創造性にはつながらないと感じていました。
「Chelsea も同じかどうかはわからないが、パンデミックの影響でクリエイティブな人たちが変な方向に行ってしまったんだよな。誰もがクリエイティブでなければならないと思っていて、俺はそれをかなり息苦しく感じていた。俺はそんな仕事はしたくない。何かを作りたいと思えるようになるまでには、しばらく時間がかかったんだよ。そんな俺にとって、Bloodmoon にはとても素晴らしいサポート体制があった。俺たちは仲間で、互いを思いやり、アーティストとして尊敬し合っている。だから、こんなに大きくて手の込んだことをする自信はなかったけれど、7人の仲間が安心してサポートしてくれるから、誰もが何かを作るときに抱く芸術的な疑問を払拭することができたんだ。そのために俺は、自分のアイデアをもっと自由にしなければならないと感じていた。ひとつひとつのアイデアを延々と練るのではなく、とにかく出してみる。普通のレコードでは考えられないような方法でね。
バンドを続けていると、焼き直しとは言わないまでも、自分たちに合ったやり方を見つけることになる。内面的な力関係とか、どんな曲を作るかとか、そういったことも含めてね。 俺たちはこれまでも、そしてこれからも、さまざまなサイド・プロジェクトをやるんだけど、つまりそれは CONVERGE のサウンドを成長させたいと常に思っているから。その思いは90年代後半にさかのぼる。Kurt と俺は、自分たちがより良いプレイヤーになり、より大きくて幅広い音楽的アイデアを持つようになったら、異なる楽器を取り入れてみてはどうだろうかと話し始めていたんだ。最終的には、このバンドの延長線上にある、ルールがなく、やりたいことが何でもできるようなコラボレーションができたら、すごくいいんじゃないかと思っていたよ」
そもそも、Bloodmoon は CONVERGE の作品と言えるのでしょうか?
「これはバンドの延長線上にあるものだ。CONVERGE は木のようなもので、これはその木の大きな枝のようなものなんだ。俺たちが中心となる4人という意味では関連性があり、CONVERGE と同じ精神を持っているが、新たな協力者を得て、7人組の大きなバンドとして一緒にサウンドを広げているんだ。このアルバムでは、全員が歌詞を書き、曲を作り、レコーディングや編集の過程で全員が何らかの形で発言し、それがとてもポジティブな経験となった。だから、俺たちは CONVERGE のレコードだと、そう考えているよ。バンドの延長線上にあるものとしてね」
CONVERGE の4人のメンバー、ボーカルのJacob Bannon、ベースの Nate Newton、ドラマーの Ben Koller、ギタリストの Kurt Ballou、メタル/フォークの歌姫 Chelsea Wolfe、彼女のバンドメンバーであり作曲家でもある Ben Chisholm、そしてニューイングランドの伝説 CAVE IN の Stephen Brodsky。まさにマグニフィセント・セブン。そして、このアルバム・タイトルは、いずれ “Bloodmoon.II” が作られることを示唆しています。しかし、Bannon と彼のバンドがこれからどこに向かおうとも、ヴォーカリストは CONVERGE の次の進路にいつも興奮しています。
「他の多くのバンドは、大抵、練りに練ったアルバムを作った後、次のレコードではコアな部分に戻っていく。俺は、特に10代で築いたものに柔軟性を持たせるという考え方が好きなんだ。とにかく、これまでにやったことのない、まったく奇妙なことをやってみよう……そして、また次のレコードを作ろう!」

参考文献:REVOLVER:TELEPATHY, SOBRIETY, WARFARE: HOW CONVERGE AND CHELSEA WOLFE ECLIPSED EXPECTATIONS WITH BLOODMOON

KERRANG!:Jacob Bannon and Chelsea Wolfe take you inside Bloodmoon

MANIACS:INTERVIEW – JACOB BANNON OF CONVERGE GOES DEEP ON ‘BLOOD MOON: I’

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