COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【GHOST : PREQUELLE】


COVER STORY : GHOST BEHIND “PREQUELLE”

Tobias Forge Returns, Not As New Papa, But As Symbol Of Pop & Proggy Evolved-Occult Metal, Cardinal Copia!

Story Behind Ghost : From Tobias Forge To Papa Emeritus & Cardinal Copia

GHOST のボーカリスト、ソングライター Tobias Forge は Papa Emeritus I, II, III としてこれまで3枚のアルバムを製作しメタル闇教皇としての地位を確固たるものとしています。ステージではスカルのメイクアップを施し、ルシファーにゾンビの女王、処女の血を浴びたハンガリーの伯爵夫人まで奇々怪界な登場人物と共に異能のオカルトメタルを提示する怪人は、今眩くも華々しいスポットライトをその身に浴びているのです。
しかしその功績に反して、Tobias の実態は深い霧の中にありました。GHOST の発足以来、Tobias は Papa の匿名性を保つためインタビューを拒否し、スポットライトを避け、典型的なロックスターの姿とは確実に距離を置いて来たからです。
Tobias の匿名性が脅かされたのは、解雇した元バンドメンバー Nameless Ghoul 達の反乱がきっかけでした。金銭面、クレジット関連の闘争で司法の場に引きずり出された Papa の実名 “Tobias Forge” は、白日の下に晒されスポットライトを浴びることを余儀なくされたのです。
「一度スポットライトに晒されると、ライトが自分を追わないことを願うか、何かを語るしかない。」と嘯く Tobias。Nameless Ghoul の讒言によりファンの一部がその作曲能力を疑う中、新たなキャストと共に Cardinal Copia、”Copia 枢機卿” として GHOST を “リモデル” した Tobias は、こともなげに新経典、傑作 “Prequelle” を突きつけます。「変わったのは Papa Emeritus から Cardinal Copia への名前だけさ。」と皮肉を込めながら。

GHOST は後にデビュー作 “Opus Eponymous” に収録される “Stand by Him” で2006年に産声を上げました。友人 Gustaf Lindström とレコーディングを行った楽曲は、すでに MERCYFUL FATE のメタリックなエッジと BLUE OYSTER CULT のノスタルジックなメロディーを包含したオカルトメタルの雛形だったと言えます。
しかし、そのサタニックなテーマとヴィンテージ映画のムードに対して、Tobias の少年のようなルックスはミスマッチでした。一般的なロックバンドとは異なる、匿名のシアターバンド “GHOST” というアイデアはそこが出発点だったのかも知れませんね。
驚くべきことに、Tobias は元々シンガーを志向していたわけではありません。Keith Richards と Slash に憧れていたコンポーザーは当初、クールに煙草を燻らすギタリストの地位に収まることを想定していたのです。しかし、Messiah Marcolin, Mats Levén, JB 等ことごとく理想のシンガーに断られた Tobias は自らシンガーを務めることを余儀なくされました。もちろん、後にその選択こそが大成功を引き寄せる訳で、数奇なる運命を感じざるを得ませんね。

では、双子の父親で一般的な社会生活を営む29歳の青年が BLUE OYSTER CULT, PENTAGRAM, SAINT VITIUS, CANDLEMASS, DEMON, ANGEL WITCH といったサタニックドゥーム、メロディーを散りばめた仄暗いロックの世界に身を投じるきっかけは何だったのでしょう。
Linköping にある16世紀に建てられた教会がサタンに身を委ねる一つの契機であったと Tobias は振り返っています。奇妙なペイントとステンドグラス、魔法のように美しく恐ろしい場所。
同時に厳格で意地の悪い義母や教師も彼を悪魔の世界へと向かわせました。KISS の “Love Gun” や RAINBOW を教えてくれた兄 Sebastian だけが唯一の救いでしたが、彼が家を離れると少年 Tobias は益々ファンタジーの世界へとのめり込んでいきました。
とはいえ、SF小説や映画、ストーンズのアルバム、Nikki Sixx と “Shout at the Devil” など、81年生まれの Tobias を悪魔の世界へ後押ししたピースの数々は、依然として年齢の離れた兄の影響下にあったのです。故に、GHOST のデモをネット上にポストしたその日に Sebastian が亡くなってしまったことは、人生観の決め手となったに違いありません。エネルギーのトレードオフ。悪魔は何かを得るために必ず何かを犠牲にするのです。

MY SPACE からグラミーまで、GHOST は決して順風満帆に辿り着いたわけではありません。特にメディアや評論家による “誇大広告” に晒されたアーティストは予定より長い道のりを歩まされ、時にドロップアウトしてしまうことさえ少なくないのですから。Rise Above Records からリリースしたデビュー作、70年代とサタニックなテーマが牽引するポップメタル “Opus Eponymous” は確かに大きな話題を呼びましたが、北米ツアーは順調とは言い難く、よりアーティスティックなセカンドアルバム “Infestissumam” は商業的に奮いませんでした。
“Opus Eponymous” の独創性を押し広げた “Meliora” は潮目を完全に変えた作品だと言えるでしょう。重厚で斬新な “Circle”、冒涜的なバラード “He Is” はスペシャルで、そこからウルトラキャッチーなシングル、YouTube 総再生回数2400万超えのモンスター “Square Hammer” を得たバンドは加速してチャートの壁を突破していったのです。

参考文献:REVOLVER MAGAZINE (2018) “GHOST: THE TRUE STORY OF DEATH, RELIGION AND ROCK & ROLL BEHIND METAL’S STRANGEST BAND”

ビルボード Top200初登場3位という爆発的な成果と共に、シーンへ大きなうねりをもたらした最新作 “Prequelle”。暴かれた匿名性を逆手にとってスポットライトの中央へ躍り出る決意を果たした Tobias は、明らかに以前よりもしたたかです。
もちろん、彼は自らが敬愛する KISS がメイクと共にその魔法を落としてしまったことを知っています。故に、シーンの潮流を GHOST の個性へと鮮やかに昇華するその手法は言葉を失うほどに見事でした。
キーワードは、多様性とポップ。作品の “匿名性” を紐解いていきましょう。

DISC REVIEW “PREQUELLE”

昨年 “最も印象的だったアルバム” の記事にも記しましたが、近年、MASTODON, VOLBEAT, Steven Wilson, PALLBEARER, Thundercat など様々なジャンルの旗手とも呼べるアーティストが “ポップ” に魅せられ、レガシーの再構築を試みる動きが音楽シーン全体の大きなうねりとして存在するように思えます。当然、邪悪とポップを融合させた稀有なるバンド GHOST もまさしくその潮流の中にいます。
「JUDAS PRIEST はポップミュージックを書いていると思う。彼らはとてもポップな感覚を音楽に与えるのが得意だよね。PINK FLOYD も同様にキャッチー。ちょっと楽曲が長すぎるにしてもね。」
と語るように、Tobias のポップに対する解釈は非常に寛容かつ挑戦的。そして実際、アルバムオープナー “Rat” はそのスピリットを存分に反映した極上のポップ/オカルトメタルチューンです。
そのデザインは実にコンパクト。Ozzy Osbourne の隠れた名曲 “Secret Loser” を彷彿とさせる叙情のメロディー、Vivian Campbell と Jake E Lee の落胤にも思えるスタッカートのリフワーク、シンガロングの衝動はとめどなくキャッチーな80年代への招待状。一方で幽玄なヴィンテージのシンセサウンドと聖歌隊の重厚なコーラスは、中世に現代を隠喩したある種ホラーなSFテーマを伴いながら荘厳に楽曲のコアへと付与され、一際洗練されたオカルトメタルの最新形を提示します。
事実、OPETH や ROYAL BLOOD を手がけたプロデューサー Tom Dalgety は時に BOSTON をイメージさせるほどクリアーでキャッチーなコーラスワークを実現し、アルバムを別の次元へと押し進めていますね。
イントロダクション “Ashes” は英国の童謡 “Ring a Ring o’ Roses”。一見牧歌的ですが、日本の “かごめかごめ” “とおりゃんせ” のように、ロンドンの人口1/4を奪った疫病の恐怖を込めた不吉な “怖い童謡” です。もちろん、歌詞の一節 “fun” は “Funeral” に文字られています。
Tobias はしかし 「これはペストをポジティブに捉えた初めてのレコードだろう。」と語っています。徹頭徹尾サバイバルに焦点を当て、逃れられない死の運命に思いを巡らせるチャンスだとも。ペストを拡散した黒死の悪魔 “ラット” は下水道や荷物に紛れあらゆる場所から山のように現れました。SNS で狂気や悪意を拡散する21世紀の “ラット” はさながら私たちなのかもしれません。事実、GHOST が誘う “死” とは肉体的なものとは限りません。現代に蔓延する社会的、精神的な死から逃がれられる場所などもうどこにもないのです。
“Faith” が KING DIAMOND の華麗な鋭利を反映するならば、”Witch Image” は BLUE OYSTER CULT の流脈。「君が浮世のベッドで眠るその時も、誰かの肉体は今夜も腐っていっている」タブーにして真理。死はあらゆる場所、時間に存在します。もちろんダンスの最中にも。
リスナーを不気味なダンスフロアへと誘う “Dance Macabre” はポップメタルの極地、象徴的な楽曲かも知れませんね。KISS の “I Was Made For Loving You” はもちろんロックにディスコを持ち込んだ初めての楽曲でしたが、スポットライトを月明かりに移譲した GHOST の “死の舞踏” はよりロマンティックでシアトリカル。そうして ABBA や ROXETTE のイメージさえキャプチャーした中毒性の極めて高い哀愁のダンスナンバーは、バンドの多様性を証明するマイルストーンともなりました。
モダン=多様性とするならば、70年代と80年代にフォーカスした “Prequelle” において、その創造性は皮肉なことに実にモダンだと言えるのかもしれません。実際、アルバムにはメタル、ポップを軸として、ダンスからプログ、ニューウェーブまでオカルトのフィルターを通し醸造されたエクレクティックな音景が広がっています。
プログレッシブの胎動は “Prequelle” 核心の一部。Tobias はプログロックの大ファンで、作曲のほとんどはプログレッシブのインスピレーションが原型となっていることを認めています。彼が特に愛する URIAH HEEP のスピリットを宿したインストゥルメンタル “Miasma” はその典型かもしれませんね。一方で、そこには Alice Cooper を頂点とする80年代のショックロックや ARTHUR BROWN の遺産も引き継がれており、そのクロスオーバーこそが興味深いのですが。
OPETH の Mikael Åkerfeldt が貢献した “Helvetesfonster” は YES や JETHRO TULL の哲学を色濃く宿すよりトラディショナルなプログレッシブチューン。決してハイパーテクニカルなプレイを要求することはありませんが、とはいえ Rick Wakeman や Keith Emerson の鼓動がここに息衝いていることは明らかでしょう。
ニューウェーブ、DEPEHCHE MODE のイメージを重ねた “See the Light” にも言えますが、シンセサイザー、オルガン、キーボードの響きが GHOST を基点としてシーンに復活しつつあることは喜ばしい兆候だと言えますね。もちろん、サックス、フルート、ハグストロムギターが彩る楽器の多様性も。何より、現在の GHOST には2人の女性キーボード Nameless Ghoul がステージに滞在し、うち1名が時にサックスをプレイしているのですから。SHINING, IHSAHN, RIVERS OF NIHIL などが巧みに取り込んでいるサクスフォンの艶やかな響きはメタルシーンに不可欠なものとなりつつありますね。
コンパクトでしかしあまりに印象深い GHOST 劇場は荘厳なる叙事詩 “Life Eternal” で静かにその幕を閉じます。ウルトラキャッチーでフックに満ち溢れたカラフルなレコードは、数多のリスナーに “メタル” の素晴らしさを伝え、さらなる “信者” を獲得するはずです。
ただし、匿名性を暴かれた Tobias の野望はここが終着地ではありません。多くのゲストスターを揃えたサイドプロジェクトもその一つ。すでに、JUDAS PRIEST の Rob Halford がコラボレートの計画を明かしていますし、これからもスウェーデンの影を宿したメタルイノベーターから目を離すことは出来ませんね。何より、全ては彼の壮大な計画の一部に過ぎないのですから。

GHOST “PREQUELLE” : 10/10

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