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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOODYWOOD : RAKSHAK】


COVER STORY : BLOODYWOOD “RAKSHAK”

“This Has Been Our Direction From Day One — Metal Can Be Fun. You Don’t Have To Be Angry All The Time. People Say Metal Is a Way Of Life, So You Do Get Happy, You Get Sad, You Are In a Chilled-out Mode.”


RAKSHAK

今世紀初頭。ムンバイのメタルヘッド、Sahil Makhija、通称 “The Demonstealer” が、シンフォニック・デスメタルの先駆者 DEMONIC RESURRECTION と共に登場したとき、彼らは必ずしもインドで諸手を挙げて歓迎されたわけではありませんでした。
インドでは80年代後半から POST MARK のようなメタルバンドが活動してはいましたが、00年代に入っても依然として地元のメタルはニッチな存在であり、ファンはヨーロッパやアメリカから来たお気に入りのアーティストを聴きたがっていたのです。そんな中で、IRON MAIDEN だけがインドを準定期的にツアーしており、地元のバンドのほとんどはカバー曲を中心に演奏するにとどまっていました。
「私たちはその頃、オリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。

インド・メタルシーンの柱としての Demonstealer の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし私がやらなかったら、おそらく他の誰かがやってきて、いつか私の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」
Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」

幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。
THE DOWN TRODDENCE は、地元のケララ州の民族音楽の要素をスラッシュとグルーヴ・メタル・アタックに融合させたバンドです。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」
オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。

しかし、彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。
その “Dashavatar” のリリースから発売から4年以上が経ちました。Sahil が詳述したロジスティックとファイナンシャルの問題により、バンドは過度に多作することができませんが、シンガー/ギタリストの彼自身はその限りではありません。WORKSHOP というコメディロックバンドや、REPTILIAN DEATH というオールドスクールなデスメタルバンドでも演奏し、現在は SOULS Ex INFERIS という国際的なアンダーグラウンド・スーパーグループでもボーカルを担当しています。その無限のエネルギーと情熱をソロ・プロジェクト Demonstealer に注ぎ込み、最新作のEP “The Holocene Termination” をリリースしました。この作品は、タイトルが示すように黙示録的であり、The Demonstealer 自身は、自分のネガティブな感情を全て注ぎ込んだと語っています。
「みんな今日起きて、パソコンを開いて最新の恐ろしいニュースを見るのが怖いくらいだと思うんだ。世界がどこに向かっているのか、自分がどう感じているのかを表現するには、音楽が一番だ。COVID にしろ気候変動にしろ、人々はどんどん頭が悪くなり、とんでもない陰謀論にひっかかり、学校で習った最も基本的な科学も忘れている。まるで進化を逆から見ているようだよ」
Demonstealer にはドゥーム系のダークな雰囲気が漂っていますが、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

その筆頭格が、ニューデリーの BLOODYWOOD でしょう。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
Sahil は、彼らがインドのバンドの中で最も国際的にブレイクしそうなバンドであり、3月に4回のイギリス公演を含むヨーロッパ・ツアーと、来年末の Bloodstock への出演が予定されていることに期待を膨らませます。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
BLOODYWOOD が2018年に、”ラジ・アゲインスト・ザ・マシーン” という洒落たタイトルのツアーでヨーロッパを回ったとき、それはギタリスト、プロデューサー、作曲家の Karan Katiyar の言葉を借りれば “人生を変えるような経験” であったといいます。
「あの体験から立ち直れていないまま、もう2年も経ってしまったよ(笑) 俺たちにとっては1ヶ月の映画のようなもので、あらゆる感情が1000倍になっていたからね。友人たちは、俺たちがいつもその話をしていることにうんざりしているくらいでね。なぜなら、パンデミックに襲われる前、俺たちの人生で最後に起こった面白い出来事だったから。アレをもう一度、体験したいんだ」
3月にはヨーロッパに戻り、イギリスでの公演も予定されており、Bloodstook への出演も延期されていることから、彼らはその機会を得ることができそうです。今回は、煽情的なデビュー・アルバム “Rakshak” を携え、バンドを取り巻く興奮は最高潮にまで高まっています。

BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難な仕事となります。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィーなデスコアのような攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな」
そう Karan が分析すると、ラッパーの Raoul Kerr が続けます。
「ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ」
シンガーの Jayant Bhadula がまとめます。
「これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
どように表現しようとも、BLOODYWOOD のサウンドは実にユニークで、しかしそれ故にその開発には時間がかかりました。Raoul が説明します。
「観客の反応を理解し、完璧なバランスを見つけるために、何度も何度も実験を繰り返した結果なんだ。いったんスイート・スポットが見つかると、あらゆる可能性が開けてくる。インドの伝統音楽とメタル、この2つを融合させる新しい方法を見つけるのはまだまだ挑戦だけど、俺たちはこの方向性にとても満足しているんだ。このアルバムでは、そんなサウンドをたくさん聴くことができると思うよ」

2016年にニューデリーで結成されたこのバンドは、まずポップスやフォークソングを “メタライズ” した数々のカバーで、すぐにインターネット上でセンセーションを巻き起こしました。女優の Ileana D’Cruz がバングラ・ポップのヒット曲 “Ari Ari” の彼らのバージョンを何百万人ものインスタグラムのフォロワーと共有したときには、正真正銘のボリウッド・クロスオーバーの瞬間さえ起こしました。Raoul が振り返ります。
「ワイルドな時代だったね! 俺たちは自分たちのサウンドを発見し、オーディエンスを構築するためにカバーを使用したんだよ。それから自分たちの楽曲に集中した。アルバムには自分たちのオリジナルだけを収録したかったからね」
BLOODYWOOD というカレーには、メタル、ヒップホップ、バングラビートに伝統音楽。それ以外にも様々な香辛料が使用されているようです。
「あらゆる種類の音楽を聴いているよ。個人的にはメタル、ヒップホップ、ロックといったジャンルが好きだけど、どこの国の音楽であろうと、良いものは良いというのが俺らの共通認識なんだ。俺たちが作る音楽はそれを体現していて、どんなに異なるジャンルに見えても、全てに共通するものがあることを示している。Karan はThe Snake Charmer(インドで最も有名なバグパイパー)のプロデュースを、Jayant は穏やかな電子音楽とアコースティック音楽に情熱を注ぎ、Raoul は使命感を持って詩的なラップミュージックを作っているからね」
SNS は間違いなく、彼らのような “第三世界” のバンドにとってかけがえのない武器となります。
「間違いなくね。SNS のおかげで、地球上の人々はかつてないほど共感して、俺たちの音楽やメッセージに共鳴してくれるすべての人とつながることができるようになった。SNS は、俺たちが一体となって行動し、音楽の枠を超えてインパクトを与える力を与えてくれるんだ。俺たちのコメント欄をスクロールしてみると、俺たちとともに、インターネット上で最も美しい場所を作り上げている人々がいることがわかる。俺たちの成功は、ソーシャルメディアのポジティブな側面で築かれたものなんだ」

彼らにとって “妊娠期間” とも言えるカバーの時期は、BSB、50 cent、アリアナ・グランデ、そして NIRVANA, LINKIN PARK の曲を残酷にカバーしたアルバム “Anti Pop Vol.1″ で最高潮に達します。しかし、リック・アストリーをリフロールしていないときは(”Never Gonna Give You Up” の見事なヘヴィ・ヴァージョンが収録されている)、彼らは自分たちの楽曲に取り組み、それをよりシリアスなものへとゆっくりと変容させていったのです。
ライブ・セットでは時折騒々しいカヴァーが演奏されることもありますが、バンドは “ポップ・ミュージックを破壊する” という初期の目標よりも、もっと重要な目指すべきものがあることに気づくようになりました。自分たちのサウンドを発展させるだけでなく、自分たちが築いたプラットフォームを使って、自分たちが信じるものについて立ち上がり、発言するようになったのです。
BLOODYWOOD が真のデビュー作と位置づける、ヒンディー語のタイトル “Rakshak” は “保護者” と訳され、彼らの楽曲の多くにこのテーマが宿っています。Jayant が説明します。
「曲を聴いていると、守られているという感覚がある。でも、救世主が助けに来てくれるという意味ではないんだ。アートワークを見ると、子供と象が描かれているよね。象は、人間というこの壊れやすい生き物の中にある強さを表現しているんだ」
Raoul が付け加えます。
「より大きな視点で見ると、より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだよ。音楽が俺たちに与えてきたポジティブな影響を考えれば、より良い世界を作る間接的な能力があると信じるに足るからね。
このアルバムは、俺たちが直面しているあらゆる課題から、人と地球全体を守るための共同作業について書いてある。俺たちは、問題を完全に排除することでこれを実現したいと考えているんだ。なぜなら、最善の防御は優れた攻撃であるから。分裂した政治、汚職、有害なニュース、性的暴行、いじめに関するメッセージや、うつ病との闘い、自分の限界への挑戦など、個人的なメッセージも封じながらね」

Karan、Jayant、Raoul の3人が中心となって結成され、ツアー時にはさらにメンバーが加わる BLOODYWOOD は、メンタルヘルスやいじめといった問題についても焦点を当てています。例えば、オンライン・カウンセリングを必要としているファンに無料で提供したり、ツアーの収益を NGO に寄付して、ホームレスの動物を助けるための救急車を提供したり。
例えば “Yaad” は、人間と人間の親友である犬の感動的な物語を通して、愛と喪失という普遍的な人間の経験を祝福するものです。 “Yaad” はヒンディー語で “思い出す”、”記憶の中で” という意味で、Karan の実体験を通して愛する人やペットを失ったことを受け入れて前に進む力について歌っています。
「この歌詞は、彼らが俺たちに与える永久的な影響を祝福し、どんなに離れていても、最高の思い出として彼らを胸に留め続けるという信念を繰り返している。俺は10年前に愛犬を亡くしたけど、今でもその喪失感を感じているんだ。MV では、そのメッセージを強調するために、人間と愛犬の絆を見せたいと思ったんだよ」
この曲とビデオの精神に基づき、BLOODYWOOD は、The Posh Foundationという地元の非営利動物保護施設に動物の救急車を購入する資金を提供しました。同団体が以前使用していた車両は、酷使と故障のために買い替えが必要でした。今後5年間でインドの首都圏にいる27,000匹以上のホームレス動物の命を救うことができるといいます。

一方で、”Machi Bhasad” は、高揚感とエネルギーに満ち、世界を変える声となります。
「元々は Ubisoft のゲーム “Beyond Good and Evil 2” のために作られた曲だ。新しい世代のパワーと、前世代よりも良くなる可能性を称える政治的メッセージのあるトラックなんだよ。ゲームの文脈の外では、この曲はトリビュートと行動への呼びかけ、その両方を意図している。俺たちのような人々に、かつて皆のためになることを考え、行動するようインスピレーションを与えたミュージシャンやリーダーへのトリビュート。同時に、多くの人の犠牲を払って少数のエリートに奉仕する不公平なシステムに疑問を投げかける。俺たちの世代が、先人たちが始めた仕事をやり遂げるための行動への呼びかけでもあるんだよな。世界をより良い方向に変えていくために」
パンジャブ語で “勇者よ生きろ” という意味の “Jee Veerey”は、鬱と戦い、心の健康を提唱するエモーショナルなテーマになっています。また、このシングルに関連して、オンライン・カウンセリングサイト HopeTherapy と提携し、彼らはバンドが負担する50回のカウンセリングセッションを提供しているのです。
「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」

Raoul にとって、”Raj Against The Machine” のタグ(バンドが最初のヨーロッパ公演の際に撮影したツアードキュメンタリーのタイトルでもある)は、単なるダジャレ以上のものでした。ラッパーである彼は、RAGE AGAINST THE MACHINE から音楽的にも活動面でも最も大きな影響を受けているからです。
「彼らは音楽が政治的、社会政治的な観点からどこまで行けるか、そして理想やアイデアの背後に人々を集結させるという点で、音楽がどれほど強いかを証明したんだよ。ほとんどのアーティストは、自分たちのやっていることで足跡を残したいと思っているし、俺たちも人々の生活にポジティブな影響を与えたいと思っている。それは作曲するときに常に念頭に置いていることで、このバンド全般のテーマは、この世界に価値を与えるものでなければならないということなんだ」
彼らは、そのポジティブさと正義の怒り、そして驚くほどユニークな音楽の組み合わせを、もうすぐ世界を震撼させることになるでしょう。
「どこに行くのか正確にはわからないけど、100パーセント確実に言えるのは、このアルバムにすべてを捧げたということだよ。完璧な嵐のように感じるよ。新しいセットでより高いレベルで戻ってくるし、フェスティバルもあるし、今年は本当に爆発するような、そんな良いポジションにいると思う…..音楽が音楽を超えて現実に影響を与えること、音楽が世界を変えることができることをさらに証明したいんだよ」
最後に、BLOODYWOOD とは結局、何なのでしょう?
「BLOODYWOOD はバンドであると同時にファミリーであり、ムーブメントでもあるんだ。俺らの音楽は、地球に永続的でポジティブなインパクトを与えるためのものなんだよ」

参考文献: KERRANG!:Bloodywood: “The theme of this band is that it has to be something that adds value to this world”

KERRANG!:Meet the man who brought metal to India

REVOLVER:WATCH INDIAN METAL VIRAL STARS BLOODYWOOD’S UPLIFTING NEW VIDEO “JEE VEEREY”

BLOODYWOOD BANDCAMP

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GREEN LUNG : BLACK HARVEST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOM TEMPLAR OF GREEN LUNG !!

“We Wanted To Create Something That Harked Back To The Foundations Of The Genre, Something That Tried To Tap Into The Magic Of The Days When You Could Hear a Tony Iommi Riff Or a Halford Scream On Mainstream Radio.”

DISC REVIEW “BLACK HARVEST”

「自分たちですべてを行うことで得られる創造的な独立性と経済的報酬、その観点からすると、これまで受けたオファーは意味をなさないということなんだよね。大手レーベルと契約する理由の多くは、足がかりやオーディエンスを見つける手助けなんだ。僕たちは主に Bandcamp から有機的にファンを増やすことができたから、今僕たちの権利を手放すことは意味がないと思うんだよ」
英国の陰鬱な伝承を描くドゥームの新鋭 GREEN LUNG は、その音楽だけでなく、この時代におけるバンドのあり方についても革命を起こそうとしています。独立志向の強いバンドは、メジャーレーベルとの契約を断り、代わりにフィンランドのカルト・レーベル Svart Records から最新作 “Black Harvest” をリリースすることを選びました。そうして、Bandcamp のアルバム・チャートで首位を獲得したのです。
「Spotify は僕たちのようなアルバム・アーティストにとっては最悪のプラットフォームだよ。アルバムよりもシングル曲が優遇され、プレイリストをコントロールするために多くの資金が投入され、無機質で、そして僕たちはほとんどお金を得ることができないんだ。Bandcamp はその逆で、80年代や90年代の口コミやジン・カルチャーに相当するようなオンラインのプラットホームなんだよ。僕たちの最大の収入源のひとつさ。インディペンデントな音楽文化をたった一つのサイトが救っているのだから、いくら高く評価しても言い足りないくらいだよ」
GREEN LUNG のフロントマン Tom Templar は Bandcamp について “音楽業界における最後の砦” と表現します。唯一の倫理的な音楽配信・販売サービスだと。メジャーから提示される前金よりも Bandcamp の方が利益が出る現実。実際、現代の音楽産業において Bandcamp は、インディペンデントのアーティストにとって文字通り命綱です。特に、”メインストリームの大きなロックバンドになろうとはしていない” GREEN LUNG のようなバンドにとっては。
彼らがメジャーからの支援を必要としないのは、今を生きるバンドらしいその成長過程にも理由があります。2019年のデビュー作 “Woodland Rites” は、70年代後半の NWOBHM 的郷愁のサウンドと BLACK SABBATH のオカルト・ドゥーム、そして1968年の “ウィッチファインダー・ジェネラル” といった心をかき乱す映画の感覚を融合し、アンダーグラウンドのメタル世界を沸かせました。
「パブで5人くらいを相手にライブをしていたんだけど、ネットの世界から熱狂的なファンが現れたんだ。今では、バンドのマスコット、悪魔のようなヤギのタトゥーを入れている人は20人以上いるんだよ」
ただし、バンドが大量の新しいファンを獲得できたのは Instagram の投稿がバズったからで、特に、伝統的な木版画のデザインでレコードを覆う、彼らの不吉でありながらエレガントな美学が音楽的にも視覚的にも “無料で” 潜在的なリスナーたちの元へと届いたから。もはや、20年代のバンドたちにとって、大きな音楽レーベルの養ってきたノウハウや豊富な資金力は必要のないものなのかもしれません。それよりも、真に必要なのはクリエイティブな自由。
「僕たちは一つのジャンルにとどまるようなバントでいたくはないんだ。ドゥームやストーナーの構成要素を取り入れ、それを使ってモダンなものを作りたいと思っているんだよ。例えば、TURNSTILE がハードコアで、POWER TRIP がクロスオーバー・スラッシュ でやったようにね」
GREEN LUNG が “現代的” なのは、その野心です。面白いものならば、創造的になれるのであれば、ドゥームという地底の音楽に STEELY DAN の羽を纏わせることも、MADBALL の跳ねを植え付けることも厭いません。そうして、”Black Harvest” はその哲学と “Woodland Rites” の基盤すべてを、よりビッグで、よりクラシックで、より壮大なものへと増幅させていました。
そうして、プロデューサー Wayne Adams のタッチ、オルガニスト John Wright のハモンドを前面に押し出しアルバムに思慮深くダークな雰囲気を与えつつ、Tom のキャッチーで世界を包むこむようなオジーの歌唱に、 Scott Black のリフが幾重にも活力と華を添えて “Black Harvest” は完璧なバランスを得ることになりました。つまり、”Black Harvest” は、DEEP PURPLE や BLACK SABBATH, QUEEN といったメタルの祖先が誇りに思うような、壮大な70年代のリバイバルでありながら、深い層を持った進化するアルバムであり、クラシックとなり得る強烈なインパクトと現代らしい奔放さを十二分に兼ね備えているのです。荘厳な”カテドラル” に灯る紫の炎、そして宿る女王の気品。
今回弊誌では、Tom Templar にインタビューを行うことができました。「僕たちは皆、若い頃にエクストリーム・メタル・バンドでプレイしていた。それがあったから、GREEN LUNG を始めたとき、逆にこのジャンルの基礎に立ち返るようなものを作りたかったし、Tony Iommi のリフや Rob Halford の叫びをメインストリーム・ラジオで聞くことができた時代のマジックに触れようと思ったんだ」 どうぞ!!

GREEN LUNG “BLACK HARVEST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WILDERUN : EPIGONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EVAN BERRY OF WILDERUN !!

“Ideas Flow Through Us, We Can Only Try Our Best To Make Something New Out Of It, But Whatever It Is We Create Will Inevitably Be Shaped By a Myriad Of Things That Came Before Us.”

DISC REVIEW “EPIGONE”

「”Veil of Imagination” はこれまでの僕らのキャリアの中で最も大きな意味を持つレコードだった。 カラフルでエキセントリックな感じがより多くの人の心を掴んだというか、”もっと変わったことがしたい!” という気持ちが実を結んだのかもしれないね」
2012年の結成以来、ボストンを拠点とするプログレッシブ/フォーク・メタルの新鋭 WILDERUN は、創意工夫とたゆまぬ努力を続けてこのジャンルの “特別” を勝ち取りました。
特に、ファンやメディアから絶賛を受け、Century Media との契約にもつながった2019年の “Veil of Imagination” では文字通りその創造性のベールをすべて取り去り、素晴らしくカラフルでメロディック、ブルータル、グローリアスかつ全方位的なサブジャンルを探検し、彼らが HAKEN や LEPROUS と同じ土俵に登りつめたことを圧倒的に証明しました。まさに、モダン・プログレッシブ・メタルの旗手、プログレッシブの希望。そんな評価を確実のものとしたのです。
「パンデミックでキャリアを中断された苛立ちが、心の挫折感に光を当てたんだと思う。特にロックダウンで孤立しているときは、そういう思いが渦巻いてしまう。だから、自分の自信のなさや至らなさについて考える時間がたくさんあったんだと思うんだよ。つまり、自分が “Epigone” じゃないかって疑念を抱いたわけさ」
そんな WILDERUN の快進撃を阻んだものこそパンデミックでした。Evan が陰陽の関係と語るレコーディングとライブ。どちらかが欠けても立ち行かないバンド運営の根源、その一つが失われた結果、彼らはアルバムの成果をファンと祝い分かち合うこともできず、暗闇に立ち止まることとなります。闇は孤独と挫折感を生みます。一人になった Evan Berry は自信を失い、自らと芸術の関係性を省みて、自分には創造性が欠けているのではないか、自己が生み出す音楽は “Epigone” なのではないか、そんな疑念を抱いたのです。
「芸術や創造性に関して言えば、自由意志はどこにあるのかわかりにくいものだ。だけど自分のものか他人のものかわからないアイデアはどんどん出てくるし、そこから新しいものを生み出そうと頑張るしかないんだよね。だから結局、僕たちが作るものは、必然的に先人の無数のアイデアによって形作られている。そんなことを、僕は自分の至らなさや独創性のなさを感じたときに、思い出すようにしているんだよ」
“Epigone” とは、優れた先人のアートを安易にパクる人たちのこと。たしかに、独創と模倣の境界は曖昧です。芸術にしても学問にしても、ゼロから何かを生み出す超人などは存在するはずもなく、私たちは先人たちの積み木の上に少しづつ積み木を継ぎ足して新たな何かを創造します。目や耳、五感が知らないうちに何かを吸収して、そこから自らの創作物が解き放たれることもあるでしょう。とはいえ、正直に思い悩み、告白した Evan Berry の音楽はあまりに “Epigone” とは程遠い、10年に一度の傑作です。
「僕は多くの点で WILDERUN をメタル・バンドと呼ぶことに抵抗を感じているんだ。確かにメタルは大好きだし、僕ら全員にとって重要な要素だよ。だけど、音楽を創るという意味では、メタルは土台というより道具だといつも思っているんだ」
多くのファンが WILDERUN をプログに残されたほんの僅かな希望だと信じる一方で、Evan は彼らの期待を気にかけないようにしています。気にかけてしまうと、自分らしい音楽が書けなくなってしまうから。そんな繊細さと優しさを併せ持つ人物が “Epigone” であるはずもなく、そうしてこのアルバムはプログやメタルを超越した完璧なる音のドラマ、”メタ” の領域へと到達しました。オーケストレーション/キーボード担当の Wayne Ingram があの Hans Zimmer の弟子であることがインタビューで語られていますが、まさにこのアルバムは音楽が雄弁にストーリーを語る大作映画の趣を誇っているのです。
“Epigone” は優しく、内省的で、哲学的な “Exhaler” で幕を開けます。たしかに、このレコードは、作品のテーマに寄り添うようにバンドのメロウで繊細な一面が強調されています。ドリーミーなシンセとアルペジオの連動、そして祝祭的なリズムが印象的な “Identifier”、精神的な思索が渦巻く瞑想的なフィルムスコア “Distraction III”。
「このアルバムには繊細で美しい部分がたくさんあるにもかかわらず、不穏な雰囲気が漂っているように感じるんだよね」
ただしそれもあくまでこの巨編の一面にしかすぎません。道具として配置されたメタリックな獰猛やアヴァンギャルドな冒険、そしてテクニカルな流麗はアルバムを二次元から三次元に、傍観から体験へと押し上げていきます。14分の “Woolgatherer” は軽快に始まり、すぐにコーラス、パーカッション、不吉な叫び、ねじれたギターワーク、オーケストレーションの泉、そして雷のようなディストーションで狂気のマラソンに突入する奇跡の一曲で、ある意味、プログ・メタルが今できることのすべて以上を詰め込んだ限界突破のアート。 何より圧倒的なのは、テーマやモチーフの膨らませ方。千変万化、壮大苛烈な “Passenger”、不気味なサウンドコラージュとノイズまで抱きしめた “Distraction Null” も含めて WILDERUN の野心はまさに “不穏” でとどまることを知りません。
アルバムにはボーナストラックとして、RADIOHEAD のカバー “Everything In Its Right Place” が収録されています。オーセンティックでありながら、時に彼らのオリジナルのように聴こえる息を呑むような優れたオマージュは、”Epigone” の本質を指しているようにも思えます。アルバム本編にも RADIOHEAD 的なイメージは見え隠れしていますが、当たり前のように両者はまったく異なるアートを創出しています。僕たちが作るものは、必然的に先人の無数のアイデアによって形作られている。だけどそこに留まってはいないんだ。そんな Evan の新たな決意が伝わってくるように感じられました。
今回弊誌では、Evan Berry にインタビューを行うことができました。「僕にとってベストなやり方は、個人的に好きな音楽を作り続け、他の人たちがそれを好きになってくれることを願うという方法。 それが、これまで僕にとって唯一うまくいってきた方法で、創造性が壊されない状態に僕を導くことができ、その瞬間 “ゾーン” に留まることができる唯一のやり方なんだ」 3度目の登場。 どうぞ!!

WILDERUN “EPIGONE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUCCUMB : XXI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHERI MUSRASRIK & DEREK WEBSTER OF SUCCUMB !!

“Including a Song About The Boxer Rebellion Was a Personal Choice Though It Does Have a Tie To The Album In Its Being Against Westernization And Christianity In Their Rejection Of Ancestor And Nature Deity Worship.”

DISC REVIEW “XXI”

「私には、リアルな部分でとても男性的な面があって、それが演奏するときに姿を現すことは認めるわ。そうやって生の感情や暴力的な態度を表現する自由があることに感謝しているのよ。ただ、ジェンダーを考慮することで私は男性と女性の興味深いダイナミクスを加えることができるわけだけど、だからといってジェンダーを考慮することが常に必要だとは思っていないわ」
人生の選択、クリエイティブな仕事をする上での選択、音に対する選択にかんして、SUCCUMB のボーカリスト Cheri Musrasrik は女性であることに囚われることはありません。それ以上にもはや、エクストリーム・メタル界の女性をめぐる会話は少し陳腐だと言い切る彼女の喉には、性別を超越した凄みが宿り、”The New Heavy” の旗手としてアートワークの中性神のように自信と威厳に満ち溢れています。
「ベイエリアとカナダのシーンから受けた影響を否定することはできない。この2つのシーンに共通しているのは、彼らは常にそれぞれのアートを新しい領域に押し上げる努力をしているということだよ」
超越といえば、SUCCUMB の放出するエクストリームな音像もすべてを超越しています。ベイエリア、カナダというヘヴィな音楽のエルドラドを出自にもつメンバーが集まることで、SUCCUMB は突然変異ともいえる “The New Heavy” を創造しました。洞窟で唸るブラストビートと野蛮なデスメタルから、ハードコアの衝動と五臓六腑を締め付けるノイズまでスラッシーに駆け抜ける SUCCUMB の “エクストリーム” は、最新作 “XXI” においてより混迷の色合いを増し、くぐもっていた Cheri の声を前面に押し出しました。同時に、BRUTAL TRUTH や NAPALM DEATH のようなグラインドコアから、フューネラル・ドゥームの遅重までエクストリームなサブ・ジャンルを網羅することで、遅と速、長と短、獰猛と憂鬱をまたにかける不穏な混沌を生み出すことに成功したのです。
「様々なジャンルのある種のお決まりをコピーペーストするだけでは、あまりにあからさまだし、必ずしも素晴らしい曲作りになるとは限らない。その代わりに、僕たちはそれらの異質なサウンドの間に存在する音の海溝を掘り下げようとしているんだ」
とはいえ、SUCCUMB の “クロスオーバー” は単なる “いいとこ取り” ではありません。だからこそ彼らの発する “無形の恐怖” はあまりに現代的かつ唯我独尊で、基本的はよりアンビエントで実験的なアーティストを扱うレーベル The Flenser にも認められたのでしょう。そう、このアルバムにはリアルタイムの暴力と恐怖が常に流れているのです。その源流には、環境破壊や極右の台頭、世界の分断といった彼らが今、リアルタイムで感じている怒りがありました。
「義和団の乱を選んだのは個人的な選択だけど、祖先や自然の神への崇拝を否定する西洋化やキリスト教に反対しているという点では、このアルバムの趣旨と関係があるのよね。私は太平洋の小さな島の出身なんだけど、その島は恐ろしい宣教師と彼らの間違った道徳によって、固有の文化や習慣の多くが一掃されてしまったの」
アルバムの中心にあるのは、自然や大地を守っていくことの大切さ。アルバム・タイトル “XXI” は21番目のタロットカード “The World” を指し示していますが、正位置では永遠不滅、逆位置では堕落や調和の崩壊を意味するこのカードはまさに SUCCUMB が表現したかったリアルタイム、2021年の “世界” を象徴しているのです。
特に、義和団の乱を扱った “8 Trigrams” には彼らの想いが凝縮しています。中国の文化や貿易だけでなく、自然崇拝や宗教まで制圧し植民地化した列強と、それに激しく対抗した義和団。中でも、道教の自然や四元素へのつながりと敬愛を基にした八掛結社は、先住民の文化や習慣を抑圧し軍事基地や核実験の場として使用された太平洋の島を出自にもつ Cheri にとっては共感をせずにはいられない歴史の一ページに違いありません。そうして、世界がまた抑圧を強いるならば、私たちが音楽で義和団になろう。そんな決意までも読み取れる壮絶な7分間でアルバムは幕を閉じるのです。
今回弊誌では、太平洋の島からベイエリアに移住した Cheri Musrasrik とカナダ出身 Derek Webster にインタビューを行うことができました。「90年代は音楽業界で “成功する” 可能性についての妄想を捨てるというメタル界の考え方の変化により、多くの実験が行われたんだよ。アーティストが自分たちのサウンドを進歩させるために外部のインスピレーションを求めるようになり、その結果、TYPE O NEGATIVE などのバンドが大成功を収めることになったように思えるね」どうぞ!!

SUCCUMB “XXI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DESSIDERIUM : ARIA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEX HADDAD OF DESSIDERIUM !!

“Video Game Soundtracks Have To Be Addictive To Be Good. You Have To Be Able To Listen To Them For Hours On End And Still Enjoy It, And That’s Something I Strive For In My Own Music As Well”

DISC REVIEW “ARIA”

「あの頃の僕は全然正しい道を歩んでいなかったんだよね。自分の好きなことを追求しないことで、鬱屈とした感情を抱え、何かから逃れようと必死になっていた時期だった。それで、自分の夢に深く執着するようになったんだ。日記に記録したり、一日中夢のことを考えたりして夢はどんどん鮮明になり、離れられなくなっていったんだ」
DESSIDERIUM は、ロサンゼルスのサンタモニカの山で生まれ、アリゾナの砂漠と太陽の下で活動を続けている Alex Haddadの音楽夢日記。自らを熱狂的な音楽オタクと称する Alex は、生き甲斐である音楽を追求できずに悩み、そして自身の夢に囚われていきました。それは彼にとってある種の逃避だったのかもしれませんね。
“妄想は自己犠牲を招き、その苦しみは、外側の世界に自分の内なる感情を反映させたいという願いから、慰めを傷つきながら求めるようになる”。壮大なエクストリーム・プログ絵巻”Aria” のテーマは、アルバムの中で最もシネマティックな “Cosmic Limbs” なは反映されています。バンド名 DESSIDERIUM とは、ラテン語で “失われたものへの熱烈な欲望や憧れ” と訳される “Desiderium” が元になっています。そして彼は今、夢の中から自身の夢を取り戻しました。
「JRPG は長い間、僕の生活の一部だった。日本のロールプレイング・ゲームから得られる経験は、他の種類のゲームから得られるものとは全く別のものなんだよ。普段はゲームを楽しむためにプレイしているんだけど、JRPG はストーリー、雰囲気、アート、キャラクターとの関係、そしてもちろん音楽が好きでプレイしている。ビデオゲームという枠を超えているんだ。別世界へのバケーションのようなもので、そこまで没頭していれば、もちろん僕の書く音楽にも影響を与えているに決まっているよね」
日本のロールプレイング・ゲームの熱狂的な信者である Alex にとって、ゲーム音楽には何時間聴いても飽きない中毒性が必須です。彼の愛するゼノギアス、ファイナル・ファンタジー、ドラゴンクエストにクロノ・トリガーはそんな中毒性のある美しくも知的な音楽に満ち溢れていました。
DESSIDERIUM の音楽にも、当然その中毒性は深く刻まれています。そして彼の目指した夢の形は、狭い箱にとらわれず、ビデオゲームの作曲家、映画音楽、プログロックにインスパイアされた幻想と荘厳を、メタルのエナジーと神秘で表現して具現化されたのです。メランコリーと憧憬を伴った、まだ見ぬ時への期待と淡いノスタルジアを感じさせる蒼き夢。
「OPETH は、僕が最も影響を受けたバンドだろうな。OPETH を知ってから2年ほどは、彼らしか聴かない時期があったくらいでね。彼らの初期の作品は非常に悲劇的でロマンチックで、若くて繊細だった僕の心に深く響いたんだよ」
オープニングの “White Morning in a World She Knows” のアコースティックな憂鬱とメランコリックな美声の間には、明らかに OPETH の作品でも最も “孤独” で Alex 最愛の “My Arms, Your Hearse” の影を感じます。しかし、そこから色彩豊かなシンフォニック・プログレへと展開し、後に KRALLICE ライクなリフが黒々とした “複雑な雑音” を奏でると DESSIDERIUM の真の才能が開花していきます。さながら WILDERUN のように、DESSIDERIUM は OPETH との親和性をより高い次元、強烈な野心、多様なメタルの高みに到達するためのプラットフォームとして使用しているのです。
“Aria” が現代の多くの” プログデス” 作品と異なるのは、”The Persection Complex” が象徴するように、そのユニークで楽観的なトーンにあるとも言えます。Alex は、暗さや痛みの即効薬であるマイナースケールをあまり使用せず、より伝統的なメロディーのパレットを多様に選り分けて描いていきます。
パワー・メタル的な “ハッピー” なサウンドとまでは必ずしも言えないでしょうが、醸し出すドラゴンと魔法のファンタジックな冒険譚、その雰囲気は、ほとんどのエクストリーム・メタルバンドが触れることのできない未知の領域なのですから。そうして陰と陽のえも言われぬ対比の美学がリスナーを夢の世界に誘うのです。
今回弊誌では、Alex Haddad にインタビューを行うことができました。「スーパー・ドンキーコングを差したゲームボーイ・カラーを持ち歩き、ヘッドフォンをつないでゲームの一時停止を押すと、ゲームをプレイしなくてもサウンドトラックが流れ続けたのを鮮明に覚えているよ。僕はヒップホップのアルバムを聴いているようなふりをして、実はゲームの音楽に合わせて架空のラッパーが詩を歌うことを想像していた」もし、OPETH と YES と WINTERSUN が日本のロールプレイング・ゲームのサウンドトラックを作ったら。G(ame) 線上のアリア。そんな If の世界を実現するプロジェクト。どうぞ!!

DESSIDERIUM “ARIA” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【EVERY TIME I DIE : RADICAL】


COVER STORY : EVERY TIME I DIE “RADICAL”

“This Record Is Just Very Pro-good Human Being. Pro Spirituality. Pro progress…”

RADICAL

アルコール依存症、結婚生活の困難、そして悪化する実存的危機と闘いながら、EVERY TIME I DIE のフロントマン Keith Buckley はどん底に落ちていました。バッファローの英傑たちが満を持して発表した9枚目のアルバム “Radical” はそんな地獄からの生還を綴ったロードマップであり、Keith にとって重要な人生の変化を追った作品と言えます。
前作 “Low Teens” からの数年間で、Keith は自分の人生と目標を再評価する時間を得られました。それは Keith にとって大きな転機となり、より健康的で楽観的な生活態度を取り戻すことにつながりました。同時にその変化は新譜にも深く刻まれ、プロジェクトに新鮮な音楽的アプローチをもたらすこととなるのです。”Radical” は、バンドのスタイルにおける限界を押し広げると同時に、彼らの特徴である視点を、より賢明で全体的な世界観へと再構築することになりました。鮮やかなカバーアート、狂気じみた新曲、そして迫真の演奏のすべてが、”ラディカル” な時代の “ラディカル” な心に寄り添う、2021年に相応しい作品でしょう。
あまりにも長い間、Keith Buckley は自分自身よりも、バンドやソング・ライティングに対して正直で居続けてしまいました。2020年3月に9枚目のアルバム “Radical” の制作を終えたとき、EVERY TIME I DIE のフロントマンはまだ酒に飲まれていて、家庭生活の静かな平穏とツアーの喧騒なる混沌を調和させるのに苦労し、何かが正しくないという逃れられない感覚と格闘し苦戦していました。ニューヨーク州バッファローにある GCR Audio の赤レンガの要塞の中で、信頼するプロデューサー、Will Putney と共に彼が絞り出した歌詞は、閉所恐怖症と限界に達した魂の不満が滲んでいましたが、それでも彼はまだなされるべき変化と折り合いをつけたばかりであったのです。
「自分の居場所がないことを知るために、自分の人生の惨めさを書く必要があったんだ」
Keith は率直に語ります。「一度アルバムが出たら、以前の自分には戻れないとわかっていた。だからこそ、”急進的な革命” なんだよ」
2016年にリリースした8枚目のLP “Low Teens” まで時を巻き戻しましょう。当時の妻Lindsay と娘 Zuzana の命を救った緊急帝王切開は成功しましたが、そのストレスと不安によって煽られた節目、その感情と衝動は Keith の曲作りに対する鮮明さと即応性を変化させました。彼は、アイデアをバラバラにするのではなく、生きたシナリオ、あるいは潜在意識の奥底から抜き出したシナリオを描くようになったのです。そうして彼は、これからの作品には引き金となる何か同様のトラウマ的な出来事が必要だろうとつぶやいていました。
2019年後半には EVERY TIME I DIE にとってのルーティンである2~3年のアルバム・サイクルは終了していました。一見、そのようなトラウマや傷は存在しないようにも思えましたが、Keith が自分の皮膚の下を掻きむしると、刺激の欠如がより深く、より深い不満の症状であることを伝え始めたのです。
「自分を見つめ直し、自分がどん底のアルコール依存症であることに気づいた。最悪の夫であり、おそらく最悪の父親だった。間違いなく最悪の自分だったんだ」

19ヵ月後、すべてが変わりました。Keith は1年間断酒を続け、妻とは別居しています。晴れた日の午後、都会から100マイル離れた森の中で娘の Zuzana とキャンプを楽しんでいます。そして、”Radical” がようやく日の目を見ることができたのは、16曲のアルバムに込められた自分の意志による変化を完全に理解し、それを実現する時間があったからだと、彼は強調するのです。「以前の自分に戻るつもりはなかったんだ…」と。
“AWOL”(「私たちの間の空間は、血も指紋もない犯罪現場のようだ」)や “White Void”(「暖かさが消えれば、終わりはただ永遠に続く/ここにいる必要はない、このまま生きる必要はない」)といったトラックには、ほとんど解釈の余地はありません。
「正直なところ、このアルバムには、自分が答えを出さなければならないと思って書いたことがあるんだ。このアルバムには道徳的な宣言が詰まっているよ。曖昧さがないんだ。脇道へそれることもない。花形的な比喩もない。俺は、人々がクソのように扱われ、俺自身もクソのように扱われることにうんざりしていると言っているんだよ」
当初、このパンデミックは立ち止まって考えるきっかけになりました。Keith は何年も前から家族を残してツアーに出ることを心配していました。だからこそ、今5歳になる Zuzana とロックダウンで一緒に過ごす時間は、次にいつ荷物をまとめなければならないかという心配をせずに済むとてもほっとするものだったのです。
「自分の人生を思い切って変えてみたんだよ。パンデミックですべてが頭打ちになったんだ。というのも、このアルバムはその時すでに作曲とレコーディングを終えていたからね。パンデミックは、実際にはレコードにまったく影響を与えなかったけど、レコードの生き方には影響を与えたよ。”Post-Boredom” のような曲は、パンデミックの後、新しい意味を持つようになった。”Dark Distance” のような曲は、パンデミックの前に、疫病が起こるように頼んでいることを今思えば少し奇妙に見えるな。
これらの曲は、俺が抱いていた恐れを顕在化させなければ、充実した人生を送れないと思ったことを歌っている。俺はパンデミックに耐え、その間に自分の人生を本当に変える必要があることに気づいたんだ。何かが間違っていると思った。そして、自分自身の真実を見つけ、それを受け入れ、それに従って生きていこうと決めたんだよな。まさにラディカルな時期だった」
実際、”Post-Boredom” は、バンドがこれまでに作った曲の中で、最も奇妙で最もキャッチーな曲かもしれません。パンク・ロックのエネルギーに満ちたこの曲は、異世界のブリッジセクションを誇り、強烈なクレッシェンドと “私の消滅” というリフレインがリスナーの精神に深く入り込むサビが特徴的で、絶対的に耳に残る曲。Keith はこのフレーズを信頼できる歌詞ノートに書き留め、ずっと曲の中で使いたいと考えていました。
「正直言って、このフレーズを歌うのは楽しいんだ。FALL OUT BOY のJoe Trohman と Andy Hurley と一緒に THE DAMMNED THINGS に参加して学んだことの一つは、彼らは文字通りナンバーワンのヒットシングルを出していて、時に人々は言葉の意味より語感を好むということを理解しなければならないということ。曲の意味という十字架に、いつも釘付けになる必要はないんだ。このフレーズは俺にとってとても中毒性があるように思えたし、それを使うことができてうれしいよ」
Keith はボーカリストですが、ゲストボーカルを招いてアルバムをさらに向上させることに躊躇がありません。
「MANCHESTER ORCHESTRA の Andy Hull は俺の世代におけるアート・ガーファンクルのような存在だから、本当に感謝している。サイモン&ガーファンクルが大好きだから、これは最高の賛辞として言っているんだ。Andy と俺との間には、友達以上の深いつながりがあるように感じるんだ。何に対しても同じような視点を持っているんだ、わかるだろ?それで、”Thing With Features” ができたんだ。Andy はスピリチュアルな人だし、たぶん宗教的でもあると思うんだ。この曲は亡くなった俺の妹のことを歌っているんだ。だから彼が参加することは俺にとって重要だった。なぜなら、彼なら歌詞を理解し、その内容を伝えれば、それを感じてくれると思ったからだ。そう、彼はそれを感じてくれたんだ。スタジオでそれを聴いた人たちはみんなそれを感じて、涙が出ていたよ。だから、本当に素晴らしい経験だったよ」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEEYOUSPACECOWBOY : THE ROMANCE OF AFFLICTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CONNIE SGARBOSSA OF SEEYOUSPACECOWBOY !!

“The Romance of Affliction” Is The Satirical Side As a Call Out To The Romanticization Of Things Like Mentel Health Struggles And Addiction That I Feel Aren’t Things To Be Romanticized Cause I Live With It And Its Not Something Anyone Should Look At Positively.”

DISC REVIEW “THE ROMANCE OF AFFLICTION”

「このアルバムでは、バンドを始めたばかりの頃に持っていたカオスや奇妙さ、それに生意気さや皮肉を取り戻したいと思っていたの。その予測不能な奇妙さにメロディと美しさを融合させられるかどうか、自分たちに挑戦したかったのよね」
混沌と厳しさと審美の中で生きる宇宙のカウボーイが放った最新作 “The Romance of Affliction”。EVERY TIME I DIE の Keith Buckley、UNDEROATH の Aaron Gillespie、If I Die First、そしてラッパー Shaolin G といった幅広いゲストが象徴するように、この苦悩のロマンスではデビューLP “The Correlation Between Entrance and Exit Wounds” で欠落していた初期の混沌と拡散、そして予測不可能性が再燃し、見事に彼らの美意識の中へと収束しています。ドロドロと渦巻くマスコアの衝動と、ポスト・ハードコアの甘くエモーショナルな旋律との間で、両者の軌道交わる最高到達点を目指した野心の塊。
初期のEPと数曲の新曲を集めた “生意気” に躍動するコンプ作品 “Songs for the Firing Squad” と比較して “Correlation” は暗く、悲しく、感情的に重い作品だったと言えるでしょう。それはおそらく、ボーカル Connie Sgarbossa の当時の状況を反映したものでした。重度の薬物依存性、体と心の不調、そしてそこに端を発する人間関係の悪化。大げさではなく、オーバードーズで死にかけたことさえありましたし、友人は亡くなりました。
「多くの依存症者は、社会的な汚名を被ることを恐れてそれを口にすることができず、一人で苦しみ、不幸にも人生を壊してしまうか、ひどい時は死んでしまう。私は、この汚名を少しでも払拭し、人々が一人で負担を背負う必要がないと感じられるように、この問題について話し助けを与えることができるようにしたいのよ。誰かがオーバードーズで亡くなった後にはじめて、その人が薬物の問題を抱えていたと知ることがないようにね」
Connie は今も依存症と戦い続けています。最近では、SNS で自身が重度の依存症であることを明かしました。それは、依存症が一人で抱えるには重すぎる荷物だから。同時に自らが悲劇と地獄を経験したことで、薬物依存が映画の中の、テレビの中の、クールなイメージとはかけ離れていることを改めて認識したからでした。
「メンタルヘルスや依存症といったものがロマンチックに語られることに警鐘を鳴らす意味があるの。私はそれを抱えて生きているからこそ、肯定的に捉えてはならないものだと感じているのよ」
自分のようにならないで欲しい。そんな願いとともに、”The Romance of Affliction” は Connie にとってある種セラピーのような役割も果たしました。音楽に救われるなんて人生はそれほど単純じゃないと嘯きながらも彼女がこれほど前向きになれたのは、弟の Ethan 以外不安定だったバンドの顔ぶれが、オリジナル・メンバー Taylor Allen の復帰と共に固まったことも大きく影響したはずです。そしてそこには、KNOCKED LOOSE の Isaac Aaron のプロデューサーとしての尽力、貢献も含まれています。
依存症者が依存症者に恋をするという、三文オペラのような筋書きの、それでいて興味を示さずにはいられないオープナー “Life as a Soap Opera Plot, 26 Years Running”。Connie はこの曲で、ドラッグやセックスに溺れる依存症の実態を描き、「みんなは結局こういう話が好きなんでしょ?でもそんなに良いものじゃない」 と皮肉を込めてまだまだ緩い、炎の中で燃えたいと叫び倒します。まるでパニックのような激しいギターとスクリームの混沌乱舞は、あの FALL OF TROY でさえ凌いでいるようにも思えますね。
“Misinterpreting Constellations” や “With Arms That Bind and Lips That Lock” では、今回バンドが追い求めた予測不能と予定調和の美しき融合が具現化されています。狂気の暗闇を縦糸に、メロディックな光彩を横糸に織り上げたカオティック・ハードコアのタペストリーはダイナミックを極め、3人のボーカリストがそれぞれ個性を活かしながら自由にダンスを踊ります。もちろん、ジャズ、メタルコアのブレイク・ダウン、唐突のクリーン・トーン、本物のスクリーム、そしてデチューンされたギター・ラインが混在する “Anything To Take Me Anywhere But Here” を聴けば、彼らのアイデアが無尽蔵であることも伝わるでしょう。
重要なのは、宇宙のカウボーイが、往年のポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのサッシーなスリル、不協和音、エモポップのコーラス、メロディックな展開に影響を受けつつ、人間らしさを失わずに洗練されている点でしょう。Connie の想いが注がれたおかげで。
今回弊誌では、Connie Sgarbossa にインタビューを行うことができました。「カウボーイ・ビバップ” のエンドカードとフレーズは私にとって常に印象的で、私はずっとあのアニメのファンでもあったから名前をとったのよ」 どうぞ!!

SEEYOUSPACECOWBOY “THE ROMANCE OF AFFLICTION” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAPANGU : HOLOCENO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAPANGU !!

“Northeastern Brazilian Music Made a Huge Impact On Me Ever Since I Was a Kid. Being Influenced By This Kind of Music Is One Of The Main Aspects Of Our Music, Because I Think There Aren’t That Many Rock Or Metal Bands With That Sort Of Influence.”

DISC REVIEW “HOLOCENO”

「ブラジル北東部の音楽は、子供の頃から僕に大きな影響を与えてきた。そうした音楽に影響を受けたことは、僕たちの音楽の大きな特徴の一つなんだよね。だって、そこから影響を受けたロックやメタルのバンドはそれほど多くはないと思うから。ただ、ブラジルの文化には音楽だけでなく、詩や文学、映画それらすべてから大きな影響を受けているよ」
メタルの生存能力、感染力はコロナウィルスをも上回っているのではないか。そしてこのパンデミックで荒廃した地球に光をもたらすのはメタルなのではないか。そう思わざるを得ないほど、ヘヴィ・メタルは21世紀において世界のあらゆる場所に根付き、人種、宗教、文化を乗り越えあらゆる人たちの希望としてその輝きを増しています。
「ANGRA や SEPULTURA が巨大すぎて、自分たちの違いというか個性を捨ててまでその音を追求しようとするバンドが出てきてしまうんだよね。それ自体は悪いことではないし、結局人は自分がやりたいと思うことをやるべきだと思うんだけど、それでもせっかくの音の多様性が損なわれてしまっているように感じるね」
メタルが世界に拡散したことで受ける恩恵は様々ですが、リスナーにとって未知の文化や言語、個性といった “違い” を楽しめることは大きな喜びの一つでしょう。そして、ブラジルから登場した PAPANGU は、その “違い” を何よりも大切にしています。もちろん、ブラジルは世界でも最もメタルの人気が高い場所の一つで、ANGRA, SEPULTURA といった巨大なバンドをいくつか生み出してはいますが、ペルナンブーコの伝統的モンスターの名を冠した PAPANGU はブラジル北東部のリアルな音や声を如実に反映することで、メタルの感染力をこれまでより格段に高めることに成功しました。
「スラッジ、プログ、ブラジル北東部の音楽をミックスしたものが、今のところ僕たちのサウンドのDNAになっている」
プログ世界の問題児 MAGMA が率いた無骨でメタリックな Zeuhl。そのウルトラ・ジャジーで壮大なリズムは間違いなく “Holoceno” の根幹となっています。もちろん、KING CRIMSON の変幻自在でアグレッシブな音選びの妙、スタッカートと休符の呼吸も。ただし、このアルバムの全体的なサウンドは非常に暗く、怒りに満ちていて、時には嘆きさえ溢れています。悲しみと怒りの音楽を表現するのに、あの分厚くてファジーでスラッジーな MASTODON の実験性以上に適した方法があるでしょうか? 例えば、MASTODON と MAHAVISHNU ORCHESTRA が全力でせめぎ合うジャム・セッションが実現したとすれば PAPANGU のようなサウンドかもしれませんね。そうして彼らは、そこにブラジル北東部、ノルデスチの風を運びます。
アルバムでも最もカオティックでアヴァンギャルドな “São Francisco” は現在の PAPANGU を象徴するような楽曲。ファンキーで強烈なラテンのグルーヴから、身体を噛み砕くようなプログ・メタルの妙技、そしてサウダーヂにも通じるダークで美しいメロディアスなセクションへとシームレスにつながり、”プログレ” らしい構築美とは遠く離れた MARS VOLTA 以降の官能性とリビドーを全面に押し出していきます。それは “恐れのないプログ” の鼓動。
「僕たちがノルウェーのロック/メタル/プログのアーティストをたくさん聴いて楽しんでいるから、このつながりが生まれたんだよね」
PAPANGU の “恐れのなさ” は、現在メタル世界で最も革新的な場所の一つ、ノルウェーとのつながりをも生み出しました。LEPROUS, Ihsahn, ENSLAVED, SHINING, ULVER など挙げればキリがありませんが、”違い” を何より重んじるノルウェーの水は PAPANGU のやり方とあったのでしょう。SHINING の Torstein がドラムを叩き、SEVEN IMPALE の Benjamin がサックスを吹き、実力派エンジニアの Jorgen がミキシングを施した “Holoceno” は最先端のモダン・メタルとして完璧なサウンドと野心までをも宿すことになりました。
「右翼政治の現状を厳しく批判しているんだ。ボルソナロと彼の政府は、憎しみと破壊と無謀な愚かさという、最悪の政治の最も身近な代表者と言えるね。人類はすでに多くの問題を抱えていて、世界は有害な気候変動とその自然や社会への影響で下り坂になっている。ボルソナロやトランプ、トルコのエルドアンのような人物は、終末を必要以上に近づけようとしているように見えるんだ」
ポルトガル語で歌われる歌詞は多くの人が理解できないかもしれませんが、それでも彼らはポルトガル語で歌う必要がどうしてもありました。自分たちの言葉で歌わなければ、”真実” も “ウソ” になってしまう可能性を彼らは知っていたからです。失われるアマゾンの自然、パンデミックの脅威に対して手をこまねくばかりか悪化させ続け、私腹を肥やす大企業や政治家。ブラジル北東部の悲しみや怒りは、ポルトガル語でなければ表現不能なサウダーヂなのですから。
今回弊誌では、PAPANGU にインタビューを行うことができました。「PAPANGU という名前は、最初の曲を作り始めたときに思いついたもので、僕たちの地域、人々、住む人の苦悩、そして僕たちの物語について語りたいと思ったのがきっかけだよ」どうぞ!!

PAPANGU “HOLOCENO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY ROW : UNCHAINED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL SALO OF THY ROW !!

“What Always Drew Me Into Japanese Music Was The Melodies – I Feel That Japanese Metal Bands Always Keep The Focus On The Melody, Like a Redline Running Through The Song. This Is Extremely Important To Me Also In My Own Music.”

DISC REVIEW “UNCHAINED”

「僕が日本の音楽に惹かれたのは、メロディーなんだ。日本のメタル・バンドは、曲の中を走る赤い線のように、常にメロディーに焦点を当てていると感じるよ。これは、僕自身の音楽においても非常に重要なことなんだ」
才能溢れる多くのバンドを抱えながら、さながら鎖国のように世界への輸出を拒んできた日本の音楽世界。イメージや言語、そして理解されない珠玉メロディーなどその理由はさまざまでしたが、近年はそんな負の連鎖から解き放たれつつあります。アニメやゲームといった日本のコンテンツが抱擁されるにつれて、永久凍土に見えた音の壁が緩やかに溶け始めたのかもしれません。そして、フィンランドの THY ROW は衝撃のデビュー・アルバム “Unchained” において、日本の音楽が持つクリエイティブな可能性とその影響を惜しみなく解放しています。
「歌を録音することはとても負担が大きく、感情的なプロセスで、歌い終えた後はいつも疲れてしまう。でも、もし誰かの心をどこかに動かし、その曲の意味やストーリーを感じてもらうことができたら、ボーカリストとしての目標は達成できたと思うんだよ」
枚方に一年間留学し、日本語や日本文化、そして感情の機微を胸いっぱいに吸い込んだボーカリスト Mikael Salo は、THY ROW の音楽へと日本の空気を思い切り吐き出しました。
坂本英三、森川之雄。こぶしの効いた浪花節を思わせる、すべてが熱く “Too Much” な二人の歌声は Mikael の心を動かし、憑依し、アルバムに感情の津波を引き起こすことになりました。おそらくは、ANTHEM がこれまで世界にあまり受けいれられなかったのも二人の歌唱が、メロディーが、きっとあまりに “日本的” だったからで、その部分が雪解けとなった20年代では、Mika のようなユーロと日本のハイブリッドの登場もある意味では当然でしょう。ANTHEM は何十年も、ただ最高のメタルを作り続けているのですから。
「”Burn My Heart” や “Destiny” は完璧なパワー・メタルだけど、”Still Loving You” や “Destinations”のような曲は、彼らのスタイルの多様性を示していて、息を呑むような音楽性によってパワー・メタルの曲作りのルールを曲げているよね。驚きだよ!」
THY ROW に影響を与えた日本の音楽は ANTHEM だけではありません。GALNERYUS や X JAPAN の “パワー・メタル” の枠だけには収まらない千変万化の作曲術も、THY ROW にとって不可欠な養音となりました。そうして彼らは、ロックとメタルの境界線の間でバランスを取りながら、メロディーに重点を置き、時折ラジカルなギターソロとマジカルな展開を交え、ビッグなコーラスによって感染力の高い楽曲を完成させてきたのです。
「制作面では、ミキシング・エンジニアの Jussi Kraft(Starkraft Studio)と一緒に、AVENGED SEVENFOLD のアルバム “Hail To The King” を参考にしたんだよね。音楽的には、モダンな影響ならブラジルのバンド ALMAH や、アメリカのバンド ADRENALINE MOB みたいなバンドが思い浮かぶね」
重要なのは、彼らが過去の亡霊に囚われてはいないこと。手数の多いドラムの騒然は MASTODON の嗎に似て、耳を惹くオルタナティブなフレーズは INCUBUS の異端にも似て、クランチーなリフワークとサウンドは QOTSA のエナジーにも似て、THY ROW の音楽を80年代と20年代の狭間に力強く漂わせるのです。冒頭、”Road Goes On” や “The Round” といった真のアンセムを誇示する一方で、アルツハイマーをテーマとしたダークでプログレッシブな “The Downfall” 三部作でアルバムを閉める構成力も素晴らしいですね。
今回弊誌では、Mikael Salo にインタビューを行うことができました。「当時、間抜けなティーン・エイジャーだった僕は、兄にかなり失礼な質問をしてしまったんだよね。”ヘヴィ・メタルって、ドラッグをやったり、タトゥーを入れたりしている人たちのものじゃないの?”って。でも賢明な兄はこう答えたんだ。”そんなことはないよ、美しくて情熱的な音楽だから、ぜひチェックしてみて!”」THY ROW の音楽も十二分に美しく、そして情熱的です。どうぞ!!

THY ROW “UNCHAINED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KAYO DOT : MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOBY DRIVER OF KAYO DOT !!

“It Was Mindblowing To Me When I Discovered That There Were Bands That Blended Death Metal With Sludge And Atmospheric Keyboards, Such As Tiamat, Disembowelment, My Dying Bride, Anathema, And Many Others. That Became My Favorite Style Of Music.”

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE”

「パンデミックの影響で、私は街から離れ、友人や他のミュージシャンとも離れて孤立せざるを得なかった。すべての作品を孤独の中で作らなければならなかったんだよ。当時は精神的にかなり参っていたけど、振り返ってみると、あれは私にとってまさに必要な休暇だったと思えるね。都会の喧騒や過酷な生存競争に巻き込まれることなく、自分自身で大きく成長することができたからね」
メタル/プログレッシブの世界で異端の道を歩み続ける修道僧、KAYO DOT の Toby Driver。彼は、パンデミックの影響により都会から離れ、自然豊かな地元コネチカットの田舎の暮らしで自身を見つめ直すことになりました。そこで再訪したのが、高校時代に愛した Toby のルーツとも言えるレコードたちでした。
「TIAMAT, DISEMBOWELMENT, MY DYING BRIDE, ANATHEMA みたいに、デスメタルにスラッジやアトモスフェリックなキーボードを加えた音楽を知ったときは、驚かされたよね。そして、それが私のお気に入りの音楽スタイルになったんだ」
当時、アメリカの田舎町でヨーロッパのゴシック・ドゥームメタルを愛聴していた若者がいったい何人いたでしょう?さらに、それを聴きながら幽体離脱の瞑想をしていたというのですから、Toby Driver という人物の超越性、異端児ぶりには恐れ入ります。
時は90年代初頭。メタルが遂に “多様性” を手に入れ始めたカラフルな時代の息吹は、青年だった Toby の音楽形成、境界を破壊する才能に大きく寄与することとなります。そうして、MAUDLIN OF THE WELL というプログレッシブ・メタルから始まった彼の音旅は、KAYO DOT でのアヴァンギャルド、ポスト・メタル、アトモスフェリック、チェンバー、エレクトロニカの寄港地を経て再びゴシック・ドゥームの地へと舞い戻りました。
「90年代に活躍したバンドを思い浮かべると、たしかにあの頃のミュージシャンたちは皆とても若くて、音楽に成熟したものを期待することはできなかったよね。私は、あのゴシック・ドゥームという音楽が、成熟していて、経験を積んでいて、しかもまったく新しいもののようにエキサイティングだとしたら、どのように聞こえるだろうかと自問したんだ」
しかし、Toby のその長旅は、すべて最新作 “Moss Grew on the Swords and Plowshares Alike” の養分となり、未成熟で不器用だったあのころのゴシック・ドゥームを完成させるパズルのピースとなりました。言ってみればこのアルバムは、過去への感謝の念を抱いた自由意志の結晶。
「今回は、アーティストとして意味のある音楽を演奏するだけでなく、私たちが所属している Prophecy Productions というレーベルにマッチした音楽を演奏して、お互いに成長できるようにしたいと思っているんだ」
レーベルに合わせて音楽を書く。そんな試みもまさしく前代未聞ですが、それを実現できるのが日本ツアーであの平沢進までカバーした音楽の図書館こと Toby Driver。”The Knight Errant” はそんな KAYO DOT の “錬金術” を象徴する絶景。欧州に根差すブラック・メタルの激しい敵意とゴシックの耽美、さらに LYCIA のようなアメリカのシューゲイズ、そして ULVER や THE CURE といった Toby の “お気に入り” が調合された謎めいたアンチマターは、非常に “Prophecy 的” でありながら純粋で、驚きを秘め、感情を雷鳴のように揺さぶります。KAYO DOT の哲学には明らかに、野蛮とエレガントの巧妙な天秤が設置されていて、どちらか一方に傾くことはありません。
“Eternity” 時代の ANATHEMA を想起させる “Void in Virgo (The Nature of Sacrifice)” を聴けば、よりメタルだったころの Toby を喚起した MAUDLIN OF THE WELL のメンバーを招集した意味も伝わるはずです。シンコペーションとギターのアルペジオが彩る “Necklace” はまさにあのころのゴシックの申し子でしょうが、それよりも自由と伝統の共存、まさに90年代のゴシック・ドゥームの美学を KAYO DOT の豊富な “スペクトル” で調理した “Spectrum of One Colour” にこそこの作品の本質があるのかもしれませんね。
北欧神話や一神教を表のテーマとしながら、実際は世界に蔓延するヒーロー気取りの愚か者を断罪する。それもまた自由と伝統の共存なのでしょう。
今回弊誌では、Toby Driver にインタビューを行うことができました。「私は彼の音楽がとても好きで、東京にある “Shop Mecano” (中野ブロードウェイ) というプログレのレコード店にも足を運んだんだよね。ここは都内でも平沢さんの音楽を扱う主要な業者のひとつなんだろうか?沢山あったからDVDを何枚も買ってしまったよ (笑)」4度目の登場。もはやレギュラーですね。どうぞ!!

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE” : 10/10

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