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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME : KONCERTOS OF KAWAIINESS: STEALING JOHN CHANG’S IDEAS, A BOOK BY ANDREW LEE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME !!

“I Think That Would Be My Ultimate Goal: To Write a Series That Could Be Adapted By KyoAni, And Then Compose Music For It.”

DISC REVIEW “Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee”

「萌えアニメを伝道するのに最適な方法かどうかはわからないけど、これが僕が知っている唯一の方法だから。自分には同人誌を描く能力がない。だから、音楽やグッズで愛を表現するしかないんだよ。京アニでアニメ化されるようなシリーズを書いて、そのために作曲をする…というのが僕の最終目標かな」
オッサンがオッサンというだけで抑圧される時代。それでもオッサンは、艱難辛苦に耐え忍び生きて行かなければなりません。オッサンがそうした辛い現実や抑圧から逃避する場所。その代表こそ、萌えアニメであり、ヘヴィ・メタルなのです。
Kawaii に癒され、メタルで首を振る。間違っても、オッサンが Kawaii で腰を振ることは許されません。とにかく、オッサンにだって、心のオアシスは必要です。HOUKAGO GRIND TIME の Andrew Lee は、DISCORDANCE AXIS や GRIDLINK で有名な “先輩” に敬意を表しつつ、そんなオアシスとオアシスの悪魔合体に挑み、そして成功を収めました。
「やっと日本でライブができて本当に感謝しているよ!アメリカ国内でライブをする場合、観客の年齢層は少し高めで、アニメ文化に馴染みがないことがほとんどだ。”遊戯王” や “ぼくのぴこ” のもっと有名なミームならわかる人も何人かいるかもしれないけど、ほとんどの人にとってアニメのサンプルはただの面白い音でしかないんだ。日本でショーに来てくれた人たちはみんな真のオタクで、イントロやサンプルをしっかり理解してくれていた。それは本当にうれしいことだったんだ」
Andrew の悪魔合体。しかしそれは、母国アメリカでは少し孤独な戦いでもありました。グラインド・コアと萌えアニメの両方を等しく愛する彼にとって、強烈なグラインド・コアだけを求めるアメリカのファンには、少し違和感を感じていたのかもしれませんね。そんな中で、大成功を収めた日本ツアーは、Andrew にとって自らのアートが完璧に認められた瞬間で、孤独から解放された瞬間で、生きがいを得た瞬間でもありました。わかりあえる、認め合えるというだけで、孤独なオッサンやオタクにとっては奇跡のような “めたる・タイム・きらら” が生まれることもあるのです。
「いろいろなアニメのサウンドトラックを楽しんでいるけど、特に菅野よう子さんの “天空のエスカフローネ” のOSTが大好きでね。もちろん、”Just Communication”、”Irony”、”sister’s noise”、”only my railgun”、”Don’t Say Lazy” など、OPやEDの名曲もたくさんあるよね。ただ、あのスタイルで書くのは自分には難しいので、基本的にはギターソロくらいで、僕の曲に影響を与えていることはないかな。また、”響け!ユーフォニアム” や “ぼざろ” には、ひどい演奏がいくつか入っているのもいい!コンサート・バンドの最初の演奏は学生が録音したのに、最後の演奏はプロが作ったとか、ぼっちちゃんのの最初のバンド・シーンで聴ける意図的なミスや突っ込みとかね」
“Koncertos Of Kawaiiness: Stealing Jon Chang’s Ideas, A Book By Andrew Lee” は、まさにわかりあえるオタク、認め合えるオッサンだけに贈られた Kawaii のメタル・コンチェルト。萌えメタてぇてぇ。Moe to the Gore。腸が煮えくり返るようなボーカルとハイパー・ブラストなゴミ箱スネアの旋風に刻み込まれた萌えアニメの尊いわかりみ、そしてウルトラ・テクニカルなギター・ソロ。そのアンバランスはしかし、まるでこの分断された世界で Kawaii とメタルだけが世界をつないでくれるような不思議な期待感を持たせてくれます。
そう、世界がこれほどまでに分断され、激動している今、唯一の処方箋はわかりみと Kawaii の二重奏に違いありません。オッサンだって自己実現してもいい。オッサンだって美少女になりたい。Kawai くないようじゃ、無理か。オッサンもね、Kawai くしておかないと。オッサンがすべからく HENTAI だと思うなよ!盲点。むしろ久しい。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「僕の人生のすべてが “ハルヒ” と “らき☆すた” に捧げられている。これらの作品を見て、僕は自分をただ “アニメを見ている” 人間だと思わなくなり、真の “オタク “になれたのだから」 わかります。二度目の登場。 彼の本職 (?), RIPPED TO SHREDS も最高です。どうぞ!!

HOUKAGO GRIND TIME “KONCERTOS OF KAWAIINESS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【NILE : THE UNDERWORLD AWAITS US ALL】 JAPAN TOUR 24′


COVER STORY : NILE “THE UNDERWORLD AWAITS US ALL”

“Nile Is Unconcerned With Delusions Of Functioning As an Ethnomusicological Museum Conservatory”

THE UNDERWORLD AWAITS US ALL

その名の通り、NILE はあの悠久の流れのごとく決して静止することはありません。10枚目のアルバム “The Underworld Awaits Us All” は、バンドにとってまた新たな王朝の幕開けとなりました。NILE のディスコグラフィにおけるこれまでの9作と同様、このアルバムもまた兄弟作とは一線を画すユニークな作品となっています。実際、唯一神 Karl Sanders 率いる砂漠の軍団は、アルバムごとに新たな王朝を開いていて、その芸術的刷新の傾向はこのアルバムでも続いています。太陽が昇るように規則正しく、バンドは再び前作から学んだことを取り入れ、その苦労して得た経験を頑丈な土台に注ぎ込み、ピラミッドの改築と再構築に役立てているのです。
「”Amongst the Catacombs of Nephren-Ka” と “Black Seeds of Vengeance” 以来、私たちが作ったアルバムはどれも、”他の NILE のアルバムに似ている “とか、”あのアルバムのようなサウンドにしたかったのか? “とか、好きなレコードのどれかに似ていると言う人がいることに気づいたが、私はシンプルに “メタルを作ることに集中する” ことを好む。人々が愛着を抱くような過去のアルバムを作ったことで、最終的に “やると呪われる、やらないと呪われる” 状況が生まれるのなら、我々は “呪われる” を選ぶんだ」
とはいえ、その新鮮さにもかかわらず “The Underworld Awaits Us All” は紛れもなく NILE のアルバムであり、すぐにそれとわかるバンドの特徴が焼き付けられています。好奇心をそそるエジプト学と古代史、練り込まれたオリエンタルなリフ、燃えるようなテンポと骨の折れるようなスローダウン。これは1994年に NILE がデビュー・デモをリリースして以来、創意工夫を重ねてきたデスメタルの異形であり偉業です。
そして30年後の今、私たちは “Chapter For Not Being Hunged Upside Down On A Stake In The Underworld And Made To Eat Feces By The Four Apes” “冥界の杭の上で逆さまに吊るされ、四匹の猿に糞を食べさせられることのないように” という信じられないようなタイトルの曲を食べさせられることになりました。決してその場しのぎではない、タイトルから曲調に至るまで、デスメタルを愛する人々のためのデスメタル。
新たな血の注入を受けた “Four Apes “は、NILE が今でもレッドラインを越えてなおアクセルを吹かせられることを証明しているのです。ドラマーのファラオ、George Kollias の音の壁を破るようなパフォーマンスだけでも YouTubeは大賑わいでしょう。ある意味、人間離れしたスピードとレーザーガイドのような正確さが組み合わさったこの曲は、過去にバンドが好んだテクニカルなワークアウトを進化させています。NILE のDNAは、そのカタログの総和。
ゆえに、”Four Apes” は2015年の “What Should Not Be Unearthed” のような楽しさがあり、2019年の “Vile Nilotic Rites” のようなダイナミックできらびやかな鋼鉄のサウンドデザインも完備しています。それでも、NILE に刻まれた DNA のもう1つ、改革に執着する部分も存分に発揮されています。

その改革と再生へのこだわりは、”The Underworld Awaits Us All” に深く入り込めば入り込むほど明確になっていきます。”Doctrine Of Last Things” は、NILE の真髄であるスローモーなリフをピラミッドのように積み重ね、盛り上げていきます。テクニカル・ドゥームを愛する多くのリスナーが、なぜこのバンドをマイルストーンとして挙げるのか。Sanders とその仲間たちがもたらす、脂ぎった、悪臭を放つグロテスクな音像はしかし、川の急流のように決して淀まず、静止せず、前へ前へと流れていくのです。
「我々は歴史保存協会ではない。どの曲もアイデアを見つけるのにかなりの時間を費やし、そしてそのアイデアを新しい場所に持っていく。リサーチするだけでは十分ではない。私たちに言いたいことがあることも重要だと思う。これまでのレコードを振り返ってみると、私たちがただ歴史を語っているのではないことがわかる。これは歴史小説だ。歴史小説という媒体を通して、私たち自身の視点や考えを伝えているのだよ」
アメリカを拠点とする NILE は今回も、エジプト学のダークなエッセンスを再びより集めました。エジプト地域の残忍でしかし神秘的な歴史に、これほど適切なサウンドトラックを提供したアーティストはこれまでいないでしょう。しかし Sanders は NILE の音楽が、まず文化の保存ありきではないと主張します。
「NILE は、民族音楽博物館としての機能には無頓着だ。我々は、何よりもまずメタル・バンドである。だから、民族音楽学上の食人族に近いかもしれない。我々のギター・リフの基礎となっている東洋的な様式や調性は、すべてのメタル・リフの遺産とも共通していて、その性質上、多様なアイデアの交配と再利用を推し進めているんだ。それは古代の文化を守ることとは正反対だ。私たちはそうしたアイデアを取り入れて新たなメタルを “作って” いるのだから」
NILE は、ただの文化的なトリビュート・バンドとみなされることへの挑戦を続けると同時に、30年の間に冥界を震撼させるような作品を次々と発表してきたことで、自分たちに課したプレッシャーも克服しているのです。だからこそ、過去のアルバムとは一線を画す部分があります。
「これはストレートな NILE のアルバムだ。東洋の影響を受けたトーンや様式美はまだそこにあるが、このアルバムの直感的な焦点は、メタルの純粋で野蛮な本質にある。私は最近、無意味にオーケストレーションされ、過剰にプロデュースされたレコードの数々を聴いてうんざりしていたので、このアルバムを書いている間、キーボードを下ろしてクローゼットの中にしまい込んだのさ」

Sanders はこの作品でデスメタルの意味を再発見しました。
「デスメタルのレコードは、まず殴打し、次に楽しませるものだと思う。思慮深く、より複雑でスローなものを最初にレコードの前面に出すと、人々は “ああ、これはブルータルじゃない。邪悪さが足りない。あいつらどうしたんだ?” ってなるからね。
それを、”Ithyphallic” で気づいたんだ。”Ithyphallic” の1曲目、”What May Be Safely Written” は、ビッグで長くて壮大な野獣のような曲だけど、必ずしも即効性のある曲ではない。かけてすぐにバーンという感じではない。奇妙で、クトゥルフ的で、クトニックなスタートだった。あの曲に対するリアクションが、このレコードをどうするか、決定づけたんだ。ハードでツボを押さえた曲を前面に出さなかったせいで、迷子になってしまった人もいると思う。教訓を得たよ。まずは頭を殴って、それから別の場所に連れて行こう」
デスメタルに音楽理論は必要なのでしょうか?
「でも、ギターというのは本来、自分が何をやっているのかわからなくてもいいものだと思う。CELTIC FROST のフロントマンである Tom G. Warrior は、ギターで何をやっているのかさっぱりわかっていないが、信じられないような音楽を作っている!
私が知っているデスメタルを演奏している人たちの中には、自分が何を演奏しているのかまったくわからないのに、音楽を作っている人たちがいる。では、理論は必要なのか?いいえ」
しかし、Sanders 自身は音楽をもっと深く掘り下げているように思えます。
「私はいろんなタイプの音楽を聴く。それは NILE の音楽にも表れていると思う。CANNIBAL CORPSE と SUFFOCATION しか聴かない人、とは思えないよね。NILE を聴くと、他のものもたくさん聴こえてくる。でも、それは必ずしもデスメタルにとって必要なものではない。
つまり、デスメタルばかり聴いていれば、デスメタルをうまく演奏できるようになると思うよ。実際、そういう人はたくさんいるけど、私はたまたまいろんなものが好きなだけなんだ。
影響を受けたものが1つだけだと、音楽的には満足できない。世の中には宇宙みたいに広い音楽の海があって、楽しめるものがたくさんある。実際、クソほどたくさんの音楽があり、クソほどたくさんのギターがある。学べば学ぶほど、自分が何も知らないことを知ることになる!」

A面、B面というロスト・テクノロジーもこの作品で再び発掘されました。
「レコードのシーケンスは、デジタルの時代になって失われた芸術だと思う。70年代には、アイズレー・ブラザーズのレコードがあった。A面はパーティーのレコードで、B面までに誰かとイチャイチャしていなければ、大失敗だ。
10代の頃、友達の家に集まってレコードをかけて、ハイになって、しばらくアルバムのジャケットを見つめていたね。A面とB面の曲順は本当に重要だった」
実際、NILE はエジプトの歴史を紐解くだけでなく、ロックやメタルの歴史をも紐解いているのです。
「ブルータルなリズム・パートから別のリズム・パートへと移行し、フィーリングを変化させたり、フックの到来を予感させたりするようなパッセージ。それは、エレクトリック・ギターの先駆者たちにさかのぼる。ブルースやジャズのコード進行、モチーフ、ターンアラウンドからね。それらははすべて、CREAM やEric Clapton, 初期の Jeff Beck といった初期のものを研究した結果なんだ。Jeff Beck! なんてすごいギタリストなんだ!
レノンとマッカートニーの作品を研究するだけでも、学べることはたくさんある!たとえ君がテクデスを演奏していたとしても、何であれ、ソングライティングはクソ重要だ。音楽的な要素をどのように取り入れ、それらを使って音楽的なストーリーを語るかを知ることは、ただ空から降ってくるようなものではない。
そのためには多くの技術が必要で、巨匠たちの作品を研究することが重要だ」
“The Underworld Awaits Us All” におけるバンドのヴィジョンは、そうしたロックの生々しく奔放で野蛮さのある作曲をすることでした。
「過去の NILE のアルバムでは、確かにエキゾチックな楽器をふんだんに取り入れた。バグラマ・サズやグリセンタール、トルコのリュート、古代エジプトのアヌビス・シストラムに銅鑼、様々なパーカッションなど、自分たちの手で演奏するアコースティックな楽器もあれば、キーボード、ギター・シンセ、映画音楽のライブラリもあった。すべてが混ざり合って、静かに脳を爆発させる音楽。
それはそれでとても楽しいよ。弦楽器では、ギターのテクニックをクロスオーバーさせることもある。バグラマやグリセンタを手にしたときでも、私がメタル奏者であることに変わりはない。やっぱり自分なんだ。つまり、魔法のようにマハラジャに変身したりはしない。私はメタル・パーソンだからな。
でもね、今回は曲の進展が進むにつれ、合唱パートをキーボードで考えるのではなく、本物のヴォーカリストにやってもらおうと思ったんだ。高校時代の友人が地元のゴスペル・クワイアで活動していて、4人のゴスペル・シンガーを紹介してくれた。ゴスペル・シンガーたちとのレコーディング・セッションは、とても素晴らしいものだった。彼らは私たちが誰なのかも、デスメタルというものが一体何なのかも知らなかった。しかし、レコーディング・セッションが進むにつれて、彼らはブルータルなグルーヴとの天性の関係をすぐに見出し、あっという間にヘッドバンギングをしていたよ」

Sanders がたどり着いたリフの極地。それは、シンプルであること。
「初期の CELTIC FROST の大ファンなんだ。シンプルな曲で、シンプルなギター・パートなのに、信じられないほどヘヴィなんだ。
リフやアイデアがシンプルであればあるほど、より直接的な結びつきが生まれ、その重みを感じることができる。重さ、破滅、それはとてもとらえどころのないものだ。あまりトリッキーになりすぎると、破滅の感覚をすぐに失ってしまう。それは儚いものだ。鹿のように逃げてしまう!
そう、シンプルなリフが重要なんだ。この NILE の新譜では、すべての新しいクレイジーさに混じって、スローなリフがたくさんある。
それに、シンプルであること自体が美しいこともある。ある曲のヴァージョンがあるんだけど、ちょっと待って、思い出そうとしているんだけど、古いルー・リードの曲で、”Sweet Jane” という曲なんだけど、15年前に誰かがそれを発表したんだ。シンプルなアコースティック・ギターで、アンビエンスがたくさんで、ボーカルが1レイヤー入っていて、他には何もないんだけど、今まで聴いた中で一番美しくて、心を揺さぶられるような曲だった」
アコースティックな楽器の演奏を覚えるのは、メタル・パーソンの嗜みだと Sanders は考えています。
「よく自問自答するんだけど、現代にはエレクトリック・ギターや大きなドラム・キット、エレクトリック・ベースがある。5,000年前の人々は、邪悪でクソみたいなことをやりたいとき、どうしていたのだろう?ってね。エレキギターはなかった。持っているもので何とかするしかなかった。
逆に、もし人類が滅亡してしまったら……黙示録がやってきたら、私はどうやって生きていけばいいんだろう?電気がなくなったら、どうやってエレキギターを弾けばいいんだ?だから、アコースティック・ギターを弾けるようになった方がいい。4,000年前にはアコースティック楽器しかなかったわけだから」

もうひとりのギタリスト、Brian Kingsland とのコンビネーションも熟成されてきました。
「Brian がギタリストとしてやっていることの新鮮さがとても好きだ。彼は、必ずしもメタル的なアイディアではないけれども、それをメタル的な文脈の中で演奏している。例えば、彼はピックと3本の指で複雑なアルペジオ・シークエンスを演奏するんだけど、それは必ずしもメタルの文脈では見られないものなんだ。
例えば、ふたりでマイナーセブンスフラットファイブ(m7b5)のアルペジオを弾いても、彼はピックだけじゃなくて指も使っているから、ヴォイシングが全部変わっていく。
彼が簡単そうに聴かせるから、聴いているとすべてがスムーズで簡単に聴こえるが、実際にやっていることはとても新鮮だ。このアルバムで彼が書いた曲のコード・ヴォイシングのいくつかは、”なんてこった!天才だ!” って感じだ。彼は私とはまったく違うスタイルを持っているのに、NILE のやっていることを正確に理解している。このギター・チームには本当に満足しているよ」
いつかは “Doom” のようなゲームのサウンド・トラックを作りたいという野望もあります。
「僕は “Doom” のファンなんだ。”Doom Eternal” のサウンド・トラックは神がかり的で、そのサントラも持ってるよ。家事をしながら聴いているんだけど、そうすれば、家の中で何かしていても、それがくだらない家事であっても、”Doom” をやっているように感じられるから、苦に感じないんだ(笑)
メタルはこういう壮大なストーリーにとても適している。誰かが NILE の音楽を取り上げて脚本にする必要があるね!」
NILE の作曲法には黄金の方程式があります。
「僕らの曲作りに秘密のハックや近道があるかどうかはわからない。でも通常、その道は歌詞から始まり、曲はそこから発展していくんだ」
実際、NILE のストーリーテリング能力は驚異的です。エジプトの神々が戦争を繰り広げ、人類を混乱に追いやった遠い過去へとリスナーを即座にいざなうことができるのですから。そして驚くべきことに、彼らが語る神話的なエピソードは、しばしば現代の私たちの世界と共鳴していきます。

例えばテム (アトゥム) 神。タイトル・トラック “The Underworld Awaits Us All” の主題である創造神テムは、同じ名前の略奪的なオンラインショッピングサイト Temu の形で復活したのかもしれません。Sanders は、神をデジタルの形で解き放つという役割に喜びを感じています。
「PCのスタートページに Temu が現れ、すでにアマゾンで買ったものを売りつけようとするのを見るたびに、このタイトル曲の歌詞を思い出すよ。”死がなかった時代があった、テム神だけが存在した時代が”。
今考えているのは、このアルバムがリリースされたら、Temu のAIボットが私に直接広告を出して、 “The Underworld Awaits Us All” を Temu で買わせようとするなんて皮肉な未来だ。いずれわかるだろう」
とはいえ、メタルはデジタルの恩恵も強く受けています。Sanders はメタルとギターの進化に目を細めています。
「新しいデスメタルはファンがいろいろ送ってくれるから、どんなことがあっても見つけられる。私の受信箱はバンドからの問い合わせでいっぱいだ。デスメタルからは逃れられないんだ。でも、私たちは今、メタルという芸術の爆発的な進化の中に生きていると思う。
YouTubeの登場は、音楽活動のあり方を大きく変えた。例えば私が演奏を学んでいた頃は、YouTubeはなかった。何かを学ぶことは、必ずしも今ほど簡単ではなかった。でも今は、もし君が若いギタリストなら、スティーブ・ヴァイと入力するだけで、ビデオが150本も出てくる。そしてそれを見ることができる。
誰かが何かをやっているのを見るのは、それをただ聴くのとはまったく違う経験だ。好むと好まざるとにかかわらず、私たちは霊長類なのだ。だから今、私たちは、信じられないほど豊富なギター演奏の知識に瞬時にアクセスできる世代を持つことになった。クリックひとつで、しかも無料で。
それを理解し、ハングリーで、何かを学びたいと思っている人たちにとっては、まさにうってつけだ。ここ10年のギター・プレイのレベルは、こんな感じだ!生きていてよかった。まさにメタル・リスナーのための時間だよ」
同時に、怒りが渦巻く世界で、その対処法も古代エジプトからヒントを得ました。
「”Stelae Of Vultures”(禿鷹の墓)。個人的なアンガーマネジメントみたいなものだね。エンナトゥムがウンミテ人を容赦なく虐殺し、その殺戮を楽しんだときに何が起こったのか?いったいなぜ彼は人々を虐殺し、ハゲタカの餌にするようなことをしたのか?なぜ彼は殺戮と残虐行為に酔いしれたのか?誰も、戦いの初期に彼が矢で目を撃たれたことについては言及しない。矢で目を撃たれるなんて、痛いに決まっている。一日中痛むに違いない。慈悲や人間性という概念が窓から消えてしまうに違いない。
これは人間の状態を表す良いたとえ話だ。目には目をというだけではない。目には目をから始まり、そして飽くなき、しかし破壊的な血の欲望を鎮めるために、さらにもっととエスカレートしていく」

つまり、NILE の曲は過去からのストレートな伝言ではなく、例えばホメロス詩や、ヘロドトスの歴史のように神話や伝説が入りこんでいます。さらに、曲によってはラブクラフト的な超自然的な感覚も存在するでしょう。
「私のプロセスはシンプルだ。曲を書く時間だ。本棚に行く。ランダムに本を選ぶ。これは僕が持っている “死者の書” の一冊だ。目を閉じて開き、 目を開けて、そこに何があるか見る。
たいていの場合、これは曲作りの方法としては愚かなことだ。なぜなら、本を開いて適当なページを開いても、そこにはメタルの曲になるようなものは何もないからだ。でも、何十回かに1回くらいは、本を開いて “これはメタル・ソングになるかもしれない” と思うことがある。
“冥界の杭に逆さまに吊るされず、4匹の猿に糞を食わされないための章” がそうだ。私は “死者の書” を第181章まで開いた。逆さ吊りにされず、糞を食べさせられないための章だった。それを見て、これはメタルの曲になると思ったんだ。そして、本から与えられたものを何でも、時にはとんでもなく薄いものでも、メタルの曲に変えてしまうんだ。そうすると大抵、他の本を手に取らなければならなくなる」
だからこそ、ある意味確立された歴史よりも、未だ未知なる歴史の方が題材にしやすいと Sanders は考えています。
「泥沼に片足を突っ込んでしまえば、その泥沼で水しぶきを上げるのは簡単だ。だから私は古王国時代(王朝時代以前の時代)が好きなんだ。その時代について実際に知られていることは少ない。だから、デスメタルのようなアーティスティックな表現もしやすい。私たちは古代史のバランスの取れた視点を提示しているのではない。デスメタルの曲を書いているんだ。それは2つの異なることなんだ。4,000年前の土器を大切に保存する歴史保存協会とは違うんだ。私たちはデスメタルの曲を書いているんだ。無名で誤解されているものを掘り起こして、より誤解されるようにしているんだ。それがとても好きなんだ」
エンターテインメントが学びの入り口となることはよくあることです。
「だから、このままでいいと思う。今、考古学者や大学教授として活躍している人の何割が、ボリス・カーロフの映画で初めてエジプト学に触れたのだろう?では、それは本当に悪いことなのだろうか?歴史について本当に知りたければ、図書館に行くなり、ヒストリーチャンネルを見るなり、インターネットを見るなりして、自分で実際に少し読めばいい。ハリウッドは、そして我々は人々を楽しませるのが仕事であり、その過程で自由を奪うことはできない。エンターテインメントが教育に優先すると決めたのは社会だからな!」


参考文献: NEW NOISE MAG:INTERVIEW: KARL SANDERS OF NILE TALKS ‘THE UNDERWORLD AWAITS US ALL’

STEREOGUM:Animals Of The Nile: An Interview With Nile’s Karl Sanders

METAL INJECTION:INTERVIEWSKARL SANDERS Talks Creating “Music For Tripping” On Saurian Apocalypse, Three Decades Of NILE & The Evolution Of Metal

GUITAR WORLD : KARL SANDERS

SOUNDWORKS DIRECT JAPAN

日本盤のご購入はこちら。Ward Records

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GLYPH : HONOR. POWER. GLORY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JEFF BLACK OF GLYPH !!

“Honor. Power. Glory.” Sums Up All The Fun, Silly And Awesome Things About Power Metal That We Love. Something That’s Really Important To Us Is To Do Things That Are a Little Crazy And Over The Top, Like In Pro Wrestling!”

DISC REVIEW “HONOR. POWER. GLORY.”

「”Honor. Power. Glory.” というタイトルは、僕たちが愛してやまないパワー・メタルの、楽しくて、バカバカしくて、だからこそ最高なものすべてを要約してくれている。僕らにとって本当に大切なことは、プロレスのようにちょっとクレイジーで大げさなことをすることなんだ!多くのバンドは、自分たちの音楽スタイルにある馬鹿げたことを受け入れるにはクールすぎる感じに振る舞っているけど、僕らはその真逆をやりたいんだ」
“GLYPH。彼らは単なるヘヴィ・メタル・バンドではなく、宇宙船VSSドラゴンロードで滅びゆく惑星を脱出する銀河系傭兵のクルー。明らかに、彼らはただ曲を作っているのではなく、新たに世界を構築している”。
そんな謳い文句がしっくりくるほど、GLYPH の音楽やルックはあまりにも大仰でシアトリカルです。それは、彼らがメタルを WWE のようなあからさまで、しかしリスナーに勇気を与える素晴らしきエンターテイメントだと信じているから。エンタメではとにかく突き抜けた者が勝者。そんな彼らのメンタリティは、確実に現代のシリアスなメタル世界に一石を投じます。そう、メタルは現実を見つめても、現実から逃避しても、勇気を出して現実と対峙してもかまわない。そんな寛容な音楽なのです。
「もし人々が GLYPH から強さ、希望、勇気を見出してくれるなら、僕たちは自分たちの仕事を正しくやっているという証拠だよね。パワー・メタルは今、特に北米とヨーロッパで盛り上がっているよ。SABATON, POWERWOLF, WIND ROSE のようなバンドがこのジャンルに新しい息吹をもたらし、人々はその息吹に大きく反応している。ファンタジーやSFを題材にした音楽とつながる “オタク” と呼ばれる人々の文化全体が、かつてないほど大きくなっているんだよ」
栄誉。力。栄光。まるで、努力、友情、正義を掲げた少年ジャンプのようなアルバム・タイトルも彼らの “やりすぎ” なパワー・メタルにはよく似合います。そして彼らはこの場所から、リスナーに強さや希望、勇気といったポジティブなエナジーを見出して欲しいと願います。パワー・メタルというジャンル自体も、この暗い世界でかつてないほどに輝きを放ち始めました。それはある意味、抑圧され、逃げることを余儀なくされたアニメや映画、ゲームといったファンタジーの信奉者、”ナード” “オタク” と呼ばれしものたちのレコンキスタなのかもしれませんね。
「現代のパワー・メタル・バンドをいくつか聴いて、複雑な気持ちになったんだ。曲作りがタイトで即効性があり、コーラスやフックの力強さが好きだったんだけど、ただそこにはメタル要素(リフやソロ)がかなり不足しているように聴こえたんだ。だから、90年代や2000年代のパワー・メタルのクールな要素を取り入れて、タイトでメロディ主導のソングライティング・スタイルに持っていったら面白いと思ったんだ」
そして何より、GLYPH のパワー・メタルには華があります。現代のパワー・メタル、その華のなさ、足りないクレイジーに不満を持って始めた新世代のバンドだけに、DRAGONFORCE や SABATON の剛と勇、そこに90年代が輩出した STRATOVARIUS や BLIND GUARDIAN のシュレッドやエピックが存分に埋め込まれたメタルの園はもはや楽園。もはやその実力はデビュー作にして TWILIGHT FORCE や GLORYHAMMER にも匹敵しています。残念ながら、優れたフロントマンの R.A. は脱退してしまいましたが、もちろんメタルの回復力でより強くなって戻ってきてくれることでしょう。
今回弊誌では、Jeff Black にインタビューを行うことができました。「17歳のときに2ヶ月間日本を訪れたこともあるんだ。 学生時代は漫画やアニメに夢中で、今でも時々見ているよ。好きだったシリーズは、”るろうに剣心”、”カウボーイビバップ”、”新世紀エヴァンゲリオン”、”エルフェン・リート”。ファンタジーやSFに対する日本のアプローチにはいつも感心しているんだ。とても独特で無節操なんだ。スピリチュアルやファンタジーの要素がたくさんあって、でもロマンスなど他のジャンルにも入り込んでいるからね」 新たなキーボード・ヒーローの誕生。どうぞ!!

GLYPH “HONOR. POWER. GLORY.” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCTOPLOID : BEYOND THE AEONS】”TALES FROM THE THOUSAND LAKES” 30TH ANNIVERSARY!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLI-PEKKA LAINE OF OCTOPLOID & AMORPHIS !!

“Probably The Most Important Band For Amorphis Were Piirpauke, Wigwam and Kingston Wall. Especially, Since It Was Possible To Witness Kingston Wall Live, It Made a Huge Impact On Us.”

DISC REVIEW “BEYOND THE AEONS”

「AMORPHIS も BARREN EARTH も素晴らしい人たちから成る素晴らしいバンドだと思うけど、僕は自分のキャリアの中で初めて、音楽的に100%自分の言葉で何かをする必要があったんだ。そうした “マザーバンド” とそれほど違いはないけれど、OCTOPLOID の作曲やプロダクションには、他のバンドでは不可能なニュアンスがあるんだ」
“Beyond the Aeons” “永劫の彼方に” と名付けられた OCTOPLOID という不思議な名前のバンドによるアルバムは、まさにフィンランド・メタル永劫の歴史を眺め続けてきた Olli-Pekka Laine の結晶だといえます。彼は1990年に北欧の伝説 AMORPHIS を結成したメンバーのひとりであり、2000年代にバンドを脱退した後、今度はプログ・メタルの英雄 BARREN EARTH に参加。そして2017年、AMORPHIS に復帰しました。加えて、MANNHAI, CHAOSBREED, といったバンドでもプレイしてきた Oli にとって、”Beyond the Aeons” は自身が歩んだ道のり、まさにフィンランド・メタルの集大成なのかもしれません。
「当時も今と同じように自分たちの仕事をしていただけだから、少し奇妙に感じるよ。ただ、当時としては他とはかなり違うアルバムだったから、 AMORPHIS のフォロワーにとってなぜ “Tales” が重要なのかは、なんとなくわかるよ。デスメタルに民族音楽とプログを組み合わせ、神秘的な歌詞と素晴らしいプロダクション。要は、そのパッケージがあの時代にドンピシャだったんだ。それまで誰もやったことのないコンビネーションだったから、上手くいったのさ」
Oli が歩んだ道のりを包括した作品ならば、当然そのパズルのピースの筆頭に AMORPHIS が位置することは自然な成り行きでしょう。特に Oli にとって思い入れの深い、今年30周年を迎える “Tales From The Thousand Lakes”。そのデスメタルとフォーク、プログを北欧神話でつないだ奇跡の悪魔合体は、この作品でもギラリとその牙を剥いています。しかし、AMORPHIS が AMORPHIS たる由縁は、決してそれだけではありませんでした。
「おそらく僕ら AMORPHIS にとって最も重要なバンドは、PIIRPAUKE, WIGWAM, KINGSTON WALL だったと思う。特に KINGSTON WALL のライブを見ることができたことは大きくて、本当に大きな衝撃を受けたんだ。だから、OCTOPLOID のサウンドにサイケデリアを加えるのは自然なことだった」
Oli が牽引した90年代の “ヴィンテージ” AMORPHIS にとって、フィンランドの先人 KINGSTON WALL のサイケデリックなサウンド、イマジネーションあふれるアイデアは、彼らの奇抜なデスメタルにとって導きの光でした。そしてその光は、”Elegy”, “Tuonela” と歩みを進めるにつれてより輝きを増していったのです。Oli はあまり気に入っていなかったようですが、”Tuonela” で到達した多様性、拡散性は、モダン・メタルの雛形としてあまりにも完璧でしたし、その音楽的包容力は多彩な歌い手たちを伴い、明らかに OCTOPLOID にも受け継がれています。
AMORPHIS の遺産 “Coast Of The Drowned Sailors”、KINGSTON WALL の遺産 “Shattered Wings”。両者ともにそのメロディは珠玉。しかしそれ以上に、ヴァイキングの冒険心、素晴らしいリードとソロ、70年代の思慮深きプログ、80年代のシンセワーク、サイケデリアが恐ろしき悪魔合体を果たした “Human Amoral ” を聴けば、Oli がフィンランドから世界へ発信し続けてきた、アナログの温もり、ヘヴィ・メタルの可能性が明確に伝わるはずです。聴き慣れているけど未知の何か。彼の印象的なベース・ラインは、これからもメタルの未来を刻み続けていくのです。
今回弊誌では、Olli-Pekka Laine にインタビューを行うことができました。「Tomi Joutsen と一緒に大阪と東京の街をよく見て回ったし、この前は西心斎橋通りで素晴らしいフレットレスの日本製フェンダーベースを買ったよ。いいエリアだったよ!日本の人たちも素晴らしいよ。日本の自然公園もぜひ見てみたい。定年退職したら、日本に長期旅行すると誓うよ!」 どうぞ!!

OCTOPLOID “BEYOND THE AEONS” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OCTOPLOID : BEYOND THE AEONS】”TALES FROM THE THOUSAND LAKES” 30TH ANNIVERSARY!

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAATH : THE DECEIVERS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EYAL LEVI OF DAATH !!

“I Think That This Is The Best Time In History To Be a Musician. Because, Just The Only Time In History Where You Have Been Able To Reach The Masses And Reach Niche Audiences Are On Your Own Without Having a Huge Labour.”

DISC REVIEW “THE DECEIVERS”

「今はミュージシャンとして史上最高の時期だと思う。というのも、大衆にリーチし、ニッチな聴衆にリーチすることができる。巨大な労働力を使わずに自力でね。今はそんな歴史上唯一の時代だからね」
2000年代初頭。New Wave of American Heavy Metal 通称 NWOAHM の波が盛り上がりを見せ始めました。”ヨーロピアン・スタイルのリフワークに乾いた歌声を乗せて、メタルをメジャーに回帰させる” というムーブメントはたしかに一定の成果を上げ、いくつかのメタル・バンドはメジャー・レーベルと契約していきました。特に熱心だったレーベルがロードランナー・レコードで、当時新進気鋭のバンドをまるで豊穣な木に実ったおいしい果実のように青田買いを続けたのです。
DAATH もロードランナーに見出されたバンドのひとつ。他の NWOAHM とは明らかに一線を画していましたが、さながら十把一絡げのようにレーベルは彼らと契約。2007年の “The Hinderers” で大成功を収め、その年の Ozzfest にも出演しました。彼らのデスメタルには、バークリー仕込みのウルトラ・テクニック、高度な建築理論、さらにオーケストレーションとエレクトロ的なセンスがあり、まさに彼らの名曲 “Dead On The Dance Floor” “ダンス・フロアの死体” を地でいっていたのです。旧約聖書の生命の樹、その隠されたセフィアの名を冠したバンドの才能は、”どこにもフィットせず”、しかし明らかに際立っていました。
しかし、御多分に洩れずロードランナーのサポートは停滞。その後、DAATH は何度もメンバー・チェンジを繰り返し、レコード会社を変えながら数年活動を続けましたが、2010年のセルフタイトルの後、実質的に活動を休止したのです。世界は14年も DAATH を失いました。しかし、SNS や YouTube といったプラットフォームが完備された今、彼らはついに戻ってきました。もはや巨大な資本や労働力よりも、少しのアイデアや好奇心がバズを生む現代。”どこにもフィットしない” ニッチな場所から多くのリスナーへ音楽を届けるのに、今以上に恵まれた時代はないと DAATH の首謀者 Eyal Levi は腹を括ったのです。
「シュレッドは戻ってきたと思うし、シュレッディングはしばらくここにある。それがバンドを復活させるのにいい時期だと思った理由のひとつでもあるんだ。リスナーは今、シュレッドやテクニックを高く評価して、ヴァーチュオーゾの帰還を喜んでいるように思えたんだ。全体として、今の観客はもっとオープンになっているように感じる。今はヘヴィ・ミュージックをやるには歴史上最高の時代だと思うし、それが観客が楽器の可能性の限界に挑戦するバンドやアーティストに飢えている理由のひとつなんだ」
Eyal はもうこれ以上待てないと、ほとんどのメンバーを刷新してこの再結成に望みました。そして今回、彼が DAATH のメンバーの基準としたのは、ヴァーチュオーゾであること。そして、異能のリード・パートが書けること。
そもそも、Eyal からして父はイングヴェイとも共演した有名クラシック指揮者で、音楽の高等教育を受けし者。そこに今回は、あの OBSCURA でフレットレス・ギターを鳴らした Rafael Trujillo、DECAPITATED や SEPTICFLESH の異端児ドラマー Krimh、さらにあの Riot Games でコンポーザーを務める作曲の鬼 Jesse Zuretti をシンセサイザーに迎えてこの “シュレッド大海賊時代” に備えました。念には念を入れて、Jeff Loomis, Dean Lamb, Per Nillson, Mark Holcomb といった現代最高のゲスト・シュレッダーまで配置する周到ぶり。
「自然を見ると、例えば火山のように、美しいけれど自然がなしうる最も破壊的なこと。海や竜巻など、自然には素晴らしい美しさがある一方で、破壊的で残酷な面もある。だから、美しさと残忍さ、あるいは重苦しさの中の美しさは、必ずしも相反するものだとは思わない。だから、僕のなかでヘヴィで破壊的で残酷な音楽と、美しいメロディやオーケストレーションはとてもよくマッチするんだ。というか、真逆という感覚がないね。メロディーやオーケストレーションは、ヘヴィネスの延長線上にあるもので、音楽をより強烈なものにしてくれる」
そう、そしてこの “The Deceivers” にはまさに旧約聖書のセフィア DAATH が目指した美しき自然の獰猛が再現されています。”妨害者”、”隠蔽者”、そして “詐欺師” を謳った DAATH の人の欺瞞三部作は、人類がいかに自然の理から遠い場所にいるのかを白日の下に晒します。欺瞞なき大自然で、美と残忍、誕生と破壊はひとつながりだと DAATH の音楽は語ります。愚かなプロパガンダ、偽情報に踊り踊らされる時代に必要なのは、自然のように飾らない正直で純粋な魂。
Riot Games の Jesse が手がけた荘厳なオーケストレーションを加えて、”The Deceivers” の音楽は、さながら RPGゲームのボス戦が立て続けに発生するようなアドレナリンの沸騰をリスナーにもたらします。いや、むしろこれはメタルのオーケストラ。そしてこのボス戦のデスメタルが戦うのは、きっと騙し騙され嘘を生業とした不純な現代の飾りすぎた魂なのかもしれませんね。
今回弊誌では、Eyal Levi にインタビューを行うことができました。「インストゥルメンタル・プログレッシヴの POLYPHIA や INTERVALS, PLINI, SHADOW OF INTENT がそうだよね。とてもとてもうまくやっている。芸術的な妥協はゼロでね。僕らの時代にこのようなタイプの技術があれば、よかったと思うよ」 どうぞ!!

DAATH “THE DECEIVERS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ESODIC : DE FACTO DE JURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ZED AMARIN OF ESODIC !!

“Even If Acceptance Doesn’t Grow Significantly, I Don’t Foresee Metal Vanishing From the Middle East, As It Conveys Specific Messages And Emotions That Resonate Uniquely With Its Audience.”

DISC REVIEW “DE FACTO DE JURE”

「ロサンゼルスに移住してバンドを復活させようと決めたのは、ヨルダンですべてのチャンスを使い果たしたから。どんなに最善を尽くしても、ヨルダンで自分のバンドや他のバンドとドラムを演奏して持続可能なキャリアを築くことはできなかった。自分の情熱を追求し、好きなことで生計を立てられる場所に移住する必要があることがはっきりしたんだ」
スラッシュ・トリオ、ESODIC の歴史は深く長く、1995年にヨルダンのアンマンで結成され、当初は PURGATORY として知られていました。彼らは過去30年間にデモ、スプリット、そして2枚のEPをリリースしていますが、ヨルダンでのメタル活動には限界がありました。
「スラッシュ・メタルに惹かれた理由。スラッシュには、現実の問題や社会的不正義を訴えてきた長い歴史があり、それが僕たちの心に深く響いた。SEPULTURA, KREATOR, EXODUS のようなバンドは、政治的なテーマや抑圧への反抗を声高に主張してきた。このサブジャンルは、強烈でパワフルな音楽を通して、僕たちのフラストレーションをぶつけ、現実の複雑さに取り組むための完璧なはけ口を提供してくれる」
SLAYER, TESTAMENT, KREATOR, SEPULTURA, EXODUS といった巨人たちにインスパイアされた ESODIC の音楽と哲学は、抑圧や差別と戦い続けてきた偉人たちの薫陶を受け、常に中東の激動する社会政治情勢を反映したものでした。だからこそ、中東、ヨルダンという不安定な場所においては、バンドとしての存在そのものが嫌がらせや逮捕の危険にさらされていたのです。
「メタル関連の品物をすべて没収されたり、投獄されたり、殴られたり、精神的にも肉体的にも拷問に耐えた者もいた。僕たちの元メンバーは皆、何年にもわたる拘留と激しい嫌がらせに苦しんできた。ムスリム同胞団が大きな影響力を持つ中、ヨルダン政府は僕たちのイベントでの過激な暴力の可能性を防ぐために、メタルヘッズを標的にしていたんだ。それは例えば、10年ほど前、怒った首長の一団がハロウィーン・パーティーで100人以上の人々を石で攻撃したことがあるから。悪魔崇拝者だと決めつけたからだ」
悪魔崇拝。かのパリ・オリンピックでも GOJIRA が揶揄されたように、21世紀の今となってもメタルに貼り付けられたレッテルはそうやすやすと剥がれ落ちてはくれません。伝統や宗教色が濃い国ならなおさらでしょう。しかし、ESODIC やメタルが目指す抑圧への怒り、自由への回復力、寛容な世界への祈りはそれでも決して根を上げることはありません。
“De Facto De Jure” で彼らはウダイ・フセインをテーマにスラッシュ・アタックをキメています。あのサダム・フセインの息子にして、”中東で最も忌み嫌われた男”。女性やスポーツ選手の命をあまりに無慈悲に、ぞんざいに扱った男の愚行は、何年経っても忘れ去るわけにはいかないのです。
「中東ではイスラム教の存在とその禁止事項が強いにもかかわらず、メタル音楽が完全に消滅することはないだろうね。多くのアラブ諸国は、以前よりも徐々にメタルを受け入れつつある。たとえ受容が大きく進まないとしても、メタルがこの地域から消えることはないだろう。なぜなら、メタルは聴衆の心に響く特別なメッセージや感情を伝えているからだよ」
ESODIC は、あらゆる困難をものともしない強さを、回復力を音楽的な寛容さへと還元し、多様で豊かな中東と世界の融解を導き出しました。ここでは、神秘的でエキゾチックなアラビアン・ナイトと、デスラッシュの狂気がひとつの均質な塊として信じられないほどうまく機能しています。ヘヴィなギターとブルータルなボーカルが、トライバルなリズムと繊細な民族音学、民族楽器に命を吹き込む冒険のシンドバッド。ほのかに漂うメランコリーは、ヨルダンを出国せざるを得なかった Zed の望郷の念でしょうか。
今回弊誌では、Zed Amarin にインタビューを行うことができました。「音楽には癒しと団結の力があるように、理解と思いやりを育む役割を果たすことができると信じているからね。ボブ・マーリーがかつて言ったように、”音楽のいいところは、当たっても痛みを感じないところだ”。音楽は架け橋となり、僕たちに共通の人間性を思い出させ、明るい未来をもたらす手助けをすることができるよ」 どうぞ!!

ESODIC “DE FACTO DE JURE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【UNLEASH THE ARCHERS : PHANTOMA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRITTNEY SLAYES OF UNLEASH THE ARCHERS !!

“I Do Wish Though That Maybe The World Was Better Equipped To Have Children On Tour!”

DISC REVIEW “PHANTOMA”

「世界は利己的で、批判的で、孤独な場所かもしれないけど、他人の期待に応える生き方をやめ、自分自身の健康と幸福を第一に考えた選択をすることで、私たちは幸せを見つけることができるのだと思う。
これがファントマが学んだ教訓であり、このアルバムの真意でもある。AIは善にも悪にも使えるツールであり、結局それを決めるのはその背後にいる人間。 私はAIを恐れているのではなく、暗い意図を持った人々がAIを使ってやることを恐れているの」
北米パワー・メタルの巨星 UNLEASH THE ARCHERS は、パワー・メタルの特性である “ストーリー・テリング” “物語” の能力を誰よりも遺憾無く発揮しています。パワー・メタルのファンタジーを歌にのせることこそ、Brittney Slayes の幸せ。今回、バンドは近年の音楽業界で話題となっている人工知能(AI)”物語” に選びました。面白いことに、今のところ、AI は自己の幸せを追求することも、ファンタジーを語ることも得意ではなさそうです。今のところ、人間の “道具” にすぎないようです。しかし、近い未来ではどうでしょうか?
「”Phantoma” の作曲にAIは使っていないよ。だって作曲こそミュージシャンとしての醍醐味のひとつなのに、なぜそれを放棄しなければならないの? 他のみんなも同じだと思う。 私たちは楽しみながら実験し、AIがどんなものかを見ていくだろうが、結局のところ、音楽は人間が人間のために作り続けるもの。 AIが作った音楽で音楽の旅を始める人もいるだろうし、それはそれでいい。 もちろんAIは、これまで音楽に触れることができなかった人たちに作曲する能力を与えるだろうし、私はそれでいいと思う。 でもね、私自身は、昔ながらの方法で音楽を作り続けるつもりだよ。最終的にはAIがそのプロセスの一部になるのかもしれないけど、それまでにはまだ何年もかかると思う」
実際、彼らは最近、”Green & Grass” のプロモーション・ビデオにおけるAIの使用で批判に直面し、芸術的創造プロセスにおいてこのテクノロジーを使用することがどこまで許容範囲なのかという疑問をはからずしも提供することになりました。Brittney の回答はシンプルです。最新のテクノロジー・トレンドは道具にしかすぎない。音楽の裾野が広がることは悪くないけど、結局、音楽に携わる上で最も “楽しみ” である部分、作曲を人が手放すことはあり得ないと。
「日本のバンドで一番好きなのはとにかく GALNERYUS! 何よりボーカリストが素晴らしいわね!そして、音楽がとてもキャッチーで、一緒に歌いやすい!それが私にとってとても大事なことなのよ!(笑)」
そしてその作曲において、UNLEASH THE ARCHERS が最も大事にしていること。それがキャッチーなメロディであり、シンガロングできるコーラスなのです。ウルトラ・テクニカルなギター、超高速ドラム、地下室の咆哮、荘厳なシンフォニー、躍動的な聖歌隊がジェットコースターのように駆け巡るこのコンセプト・アルバムにおいて、しかし彼らの作曲の美学だけはいっさいブレることはありません。物語のなかでAIの主人公ファントマが、人間性を理解し、完璧な人間になりたいと望むように、UNLEASH THE ARCHERS は完璧なパワー・メタルを生み出したいと望みます。
「子供が生まれて、ただ立ち上がって何週間もツアーをするというわけにはいかない。すべてのロジスティクスを、何カ月も前から詳細に計画しなければならないのよ。でもね、最初から苦労することはわかっていたし、うまくいくためには何でもやると自分に言い聞かせていたから、後悔も不満もない。 ただ、ツアー中に子供を育てられる環境が世の中に整っていたらいいなと思うことはある (笑)。 でも、それが変わる可能性は低いと思うけどね!」
人間性、望みといえば、UNLEASH THE ARCHERS はメタル世界に “寛容さ” の輪を広げたいとも望んでいます。もちろん、近年女性の数は増えてきましたが、まだ子供を育てながらツアーに出られるような環境が整っているとは言い難い現状。彼女は先駆者のひとりとなることで、その状況を変えていきたいと願っています。もちろん、日本盤のボーナス・トラックを日本語で歌ったのも “寛容さ” の一環。そうやって、箱や壁はひとつひとつ取り払われていくべきなのでしょう。
今回弊誌では、Brittney Slayes にインタビューを行うことができました。「”Ghosts In The Mist” という曲は日本語に訳すのに適していると思ったから、15年ほど前に日本に移住した友人に翻訳を手伝ってもらったのよ。 彼と彼の奥さんはネイティブ・ジャパニーズで、発音まで手伝ってくれたのよ。 私は一生懸命日本語に取り組んだけど、残念ながらそれでも完璧にはほど遠い。でも、私はあなたたちの言葉が大好きよ! うまく伝わることを願っているわ!」 Olivia Newton John を思わせる彼女の声の透明感が肝。どうぞ!!

UNLEASH THE ARCHERS “PHANTOMA” : 9.9/10

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COVER STORY 【TURNSTILE : HARDCORE RENAISSANCE】FUJIROCK 2024


COVER STORY : TURNSTILE “HARDCORE RENAISSANCE”

“Hardcore Can Be Whatever Anyone Wants It To Be.”

TURNSTILE LOVE CONNECTION

ボルチモアの TURNSTILE は妥協を許さないエネルギーと伝説的なライブで、ハードコアを全く新しいオーディエンスに紹介しながら、純粋主義者までも納得させる現代のダ・ヴィンチです。
フロントマン Brendan Yates は、たとえその両輪が困難な道だとしても、自分の心に従うべきだと固く信じています。
Yeats のその信念は、2021年のアルバム “GLOW ON” の中心にあり、このアルバムは、シンガーと彼のバンドメイトをスーパースターへと急速に押し上げました。”GLOW ON” は2023年のグラミー賞で3部門にノミネートされ、TURNSTILE は BLINK 182の2023年夏のツアーに参加することになったのです。
そして今や TURNSTILE は、メインストリームの音楽界で起きているハードコア・ルネッサンスの中心にいます。ラッパー、ロッカー、シンガー、プロデューサーたちは皆、このジャンルが築き上げてきた荒々しいエネルギーと獰猛な信憑性の一部を自らの中に取り込もうとしているようです。
今では、どのラッパーもライヴでモッシュピットを起こそうとしているように見えます。他のミュージシャンがハードコアのサウンドを “瓶詰め” にして持ち帰ろうとしている一方で、TURNSTILE は新たなハードコアの栓を抜き、ハードコアの魅力を薄めることなく、より広く、より多様で、より包括的なオーディエンスにハードコアを広めようとしているのです。
ハードコアのルーツは70年代後半まで遡ることができます。そして、BAD BRAINS, MINOR THREAT, BLACK FLAGのようなバンドが、当時流行していたアヴァンギャルドなニューウェーブ・ミュージックとは対照的な存在だったおかげで、このジャンルは80年代に一時代を築きました。それまでのパンク・ロックよりもハードで、より速く、よりアグレッシブなハードコアは、常にスピードと激しさ、そしてそう、”本物” であることを大切にしてきたのです。ギタリストの Pat McCrory はハードコアの自由についてこう語っています。
「ハードコアには自由がある。自分が本当に大切にしていることを歌っている限りね。そうすれば、オーディエンスは耳を傾けてくれるし、内容を理解することができる」

このジャンルの生涯の学習者だと主張する TURNSTILE のメンバーは、その習慣と伝統を尊重しながらも、今までのどのバンドよりもこのジャンルの境界線を押し広げようとしています。”GLOW ON” は、”TLC” や “Don’t Play” を筆頭に、伝統的なハードコア・ミュージックに根づくスラッシュ・ギターとファストなテンポに満ちていますが、同時にアルバム全体を通して外部の要素も貪欲に取り入れています。”HOLIDAY” や “MYSTERY” ではバンドの研ぎ澄まされたグルーヴが際立ち、”BLACKOUT” は複雑なドラム・ソロがエピローグ。”FLY AGAIN” では Yates が荘厳なボーカルを披露し、”NEW HEART DESIGN” や “UNDERWATER BOI” ではラジオ向けのリズムとリフをけれんみなく披露します。
ドラマーの Daniel Fang は TURNSTILE のサウンドの拡大についてこう感じています。
「”伝統的 “という概念がない方が、僕たち全員が人生を楽しめると思うんだ。僕らのバンドは、常に特定のサウンド、文化、コミュニティ、歴史に根ざしている。でも、時には、束縛されず、痒いところに手が届くような、自分たちの感情に従っていくのが好きなんだ。伝統的なものに縛られることは、発見すべき感情を制限するだけだから」
“Glow On” のレコーディングは MASTODON, AVENGED SEVENFOLD から Eminem, Jonas Brothers まであらゆるバンドを手がけたベテラン・プロデューサーのマイク・エリゾンドがおこないました。以前はハードコア・シーンの友人たちとコラボレートしていましたが、マイクの多彩な経験と新鮮な耳によって、彼らは新しいサウンドに挑戦することができたのです。
「マイクはメタル系のアーティストとも仕事をしたことがあるけど、Dr.Dre の下で育ち、フィオナ・アップルのようなアーティストとも仕事をしたことがある。彼がレコーディングしてきたアーティストのスペクトルの広さは、TURNSTILE のような必ずしも簡単にはひとつのカテゴリーに入らないバンドにとって、彼が理にかなっていることを意味していたんだ」
Yates が初めて共同プロデュースにも手を染めたことで、TURNSTILE はソウルやサイケデリア、ラップ・ロックやR&Bに、オルタナティブ・ポップやインディの新しい色合いを重ねることができるようになりました。それは、人間の感情の “複雑で多次元的” な性質を首尾一貫した音の構成に抽出する試み。
「このアルバムは、多くのダンス・ミュージックにインスパイアされている。僕たちは常にリズムを重視している。どの曲も意図的に、いや、意図的ではないのかもしれないが…ダンサブルだ。超高速やグルーヴィーである必要があるという意味ではなく、ミッドペースでもスローでも何でもいい。ラテンのマレンゲのリズム。ジャズ・ミュージック。ハードコアのヘヴィなグルーヴ。興奮が絶えないということなんだ」

ハードコアとジャンルを横断するプログレッシブさが闊達にブレンドされた TURNSTILE の音楽は、資本主義とは遠い場所にあると Yates は語ります。
「音楽を作るという個人的な充実感以外に、何らかの利益を追い求めることはない。その点で、”Time & Space” は可能性を広げてくれた。自分たちがやりたいことを何でもやっていいんだと思えるようになったからね。やりたくないことをやらなければならないというプレッシャーを感じなくなった。もちろん他の人たちが意見を言ったり、何かを参考にしたりすることはできるけど、僕たちは自分たちが大好きで、自分たちにとって特別だと感じる音楽を作ることに集中しているんだ。
僕たちは音楽を仕事として見たことがない。ビジネスや商業的な問題とは常に切り離されている。自分が何をしたいのかわからないまま大学に行ったときでさえ、”音楽は僕の特別なものだから、音楽は仕事にしない” と言ったんだ。
人生は非常に短い。もし、経済的な理由で、気分が乗らないことをするような、犠牲を払わなければならないような状況になったら、生きているとは言えないだろう」
Yates が音楽を愛しているのは、常に経験が加算されていくところ。
「音楽のクールなところは、それが音楽を作ることであれ、インスパイアされることであれ、常に前進する軌跡を持っていることだ。音楽のDNAは、常に追加されていくものなんだ。人生って結局、人、物、出来事など、さまざまな影響やインスピレーションに興奮することだよね。音楽もその影響を入れ替えるのではなく、加えていくんだ」
Yates にとって、執着を無くす、止まらない、新たなものを受け入れるマインドが音楽にプラスに働いています。
「音楽を作ったり、独立したり、旅をしたりするときには、とても流動的であることが重要だと思う。非常に自覚的に変化を受け入れ、新しいことを受け入れるということ。なぜなら、自分のイデオロギーや活動方法、あるいは自分が楽しんでいることの周りに障壁を作れば作るほど、自分自身を制限しているようなものだからだ。バンドに関して言えば、常にオープンマインドを保ち、たとえそれが過去に興奮したり、インスピレーションを受けたりしたものと違っていても、新たな物事の中にある美しさを探そうとすることだと思う。だから、音楽や、ツアーなど、バンドとしてやると決めたことに関しては、常に最も快適で明白な決断を選ばないようにしている。というのも、常に流動的であること、新しい経験やものに対してオープンであることが重要だと思うからだ」

フランク・ザッパ、デヴィッド・ハッセルホフ、エドガー・アラン・ポーなど、さまざまな著名人を育てたボルチモアの小さなコミュニティと多様性も、彼らの万華鏡のようなサウンドに大いに役立っています。「僕はいつも、呼ばれればどこへでも行くという考えをオープンにしてきた。でもボルチモアは特別なんだ。ニューヨークやLAのように、たくさんの人々が音楽を作っていて、自分が大海の中の小さな魚になってしまうような場所ではない。アート、音楽、スケートなど、さまざまな世界の多様な人々が集まる、とても親密な街で、独特の美しさがあるんだ」
TURNSTILE は近年の爆発的な評判を利用して、同じエネルギーと多様性を世界規模で体験しています。
「ヘヴィとかギター・ベースのバンドは僕らしかいないフェスティバルで演奏する機会もあった。自分たちがやっていることとはまったく関係がない人たちともつながることができるんだ」
TURNSTILE は、数え切れないほどの様々なクラブ・ショーに加え、Tyler, The Creator の Camp Flog Gnaw Carnival, Jay-Z の Made In America Fest, そしてあの Coachella にも招待されました。そんな中で Yates は、2019年8月にノルウェーのトロンハイムで開催された Pstereo を、ロンドンのインディー集団 Bloc Party、エセックスのエレクトロニック・アイコン Underworld、フランスのシンセ・ウェイヴの謎Carpenter Brut らと共演した、特に目立ったイベントとして挙げています。
「すべてが美しいバランスなんだ。ある日、あのようなフェスティバルで演奏し、次の日には小さな地下室のDIYショーで演奏する。いつだって自分は自分なんだ。それを受け入れ、誰とでも分かち合おうとすることだ。軌道を選ばず、どんな経験にもオープンであること。成り行きに任せるんだ」
成り行き任せ。それは、彼らのクリエイティブな精神をますます支えています。
「僕たちは、アイデアを持つこと、そして、それが正しいと感じること、そして僕ら5人を適切に反映すること以外に何も心配することなく、それを音楽にすることができる。僕たちがこれまで歩んできた道。今いる場所。これからどうなりたいか..」

そのサウンドに加え、ライブもハードコアの重要な要素です。ハードコアのライブにおいて、バンドと観客の間にある本当の区別は、誰が音楽を演奏しているかということだけ。それはカタルシスであり、感情の美しい共有、解放であり、モッシュピット、ステージ・ダイブ、ヘッドバンギング、超越を追い求める抑制の解放という形のセラピーだと彼らは言います。
「好きなだけ大声で歌ってもいいし、モッシュしてもいいし、ステージダイブしてもいい。バンドがやっていることも、観客がやっていることも、まったく同じことなんだ」
TURNSTILE のライヴに参加することは、ナイフで切れるほど鋭く、濃厚で豊かなエネルギーに身を浸すこと。うねるような群衆の塊に身を委ね、汗と魂を分かち合うこと。ベーシストの Franz Lyons は 「ライブを見なければわからない」と語っていますが、それは決して誇張ではありません。
「目標は、バンドと応援に来てくれる人々との間にできるだけ距離を置かないようにすることなんだ。みんなが何かの一部であることを感じ、ライブで何が起こっても受け入れてほしいんだ。様々な人生を歩んできた人たちと、その経験を分かち合うことは本当に最高にクールなことだからね」
TURNSTILE の強烈な世界とは裏腹に、バンドのメンバーは皆、気取ったり、ステレオタイプのロックスターの態度に似たものは一切なく、実際に会うと、とても親切でオープン。4人のメンバー(と現在のツアー・ギタリスト Meg Mills) の間にある本物の絆は、このバンドが根強い信頼性を持っている証拠。TURNSTILE はそして、名声が高まるにつれて、ファンベースとより心を通わせていきました。
「何かをするときはいつも、その裏にある意図に全エネルギーを注いでいる。僕たちのサウンドもそうであるように、僕たちのオーディエンスはその意図までも感じることができ、個人的に語りかけてくるのだと思う」
TURNSTILE は5枚のEP、3枚のスタジオ・アルバムをリリースしていますが、サウンドが進化したとしても、バンドのプロセスは不変です。
「僕たちは、自分たちにとって良いと感じれば音楽を発表する。シンプルなことだ。僕たちのゴールは、常に個々人が自分自身とつながっていることであり、そうすればグループとして、自分たちがつながることができる音楽を作れる。そしてそうすることで、自然と他の人たちにもつながる機会が生まれると思う。排他的にはなりたくない。それこそがマジカルなんだ」

つながりといえば、友人とのつながりも大事にする TURNSTILE にとって、POWER TRIP のフロントマンでハードコア界の革命児 Riley Gale の死はあまりにも衝撃的でした。”Thank you for let me C myself / Thank you for let me B myself!” と、傑出したT.L.C.(Turnstile Love Connection)で彼らは感謝を込めて吠え、しかし、”Fly Again” の “それでも君が残した穴を埋められない!” という叫びは、彼らのバック・カタログのどれよりも荒々しく、絶望的な感じが伝わります。
「孤独。漂流感。生きる意味。”Glow On” のテーマは自分が人として世界に与える影響や、自分がこの世からいなくなった時に何を残したかについての大局的な考察なんだ…」
TURNSTILE がさらに前進するにつれて、フロントマンは自分たちをハードコア・バンドと呼ぶのはフェアなことだと主張しますが、ジャンルの定義からはますます遠ざかっています。
「レッテルはあまり好きじゃなかった。レッテルは人を分断するものだから。僕はその逆を行くように努力している。カテゴライズは認められるべきだと思うけど、重要で称賛されるべきなのは、音楽を作っている一人ひとりをとてもユニークにしているものなんだ。音楽を作る人たちの精神がね。誰の個性も強調することが重要で、そのようなジャンル定義の中にある真のバンドとは何かということだ。誰かを排除することは決してない」
それは音楽だけにとどまらず、広い世界にも当てはまることだとYates は強調します。個人主義、自己決定、非伝統主義、多様性といった核となる価値観を持つ TURNSTILE は、2021年以降、人類が再び太陽の下へと歩みを進めるためのサウンドトラックにこれ以上ふさわしい存在はいないはずです。
「人々は、すべてが分類されたシステムを構築することに人生を費やしている。それを打ち破り、謎を解き明かし、学び、以前は理解できなかった人々を理解する余地を残しておくことは、大いに意味がある」
そして、この暗い時代が最終的には新しい音楽と芸術、開かれた心、より高い精神の “ルネッサンス” への踏み台になることを彼らは信じているのです。彼らは、今、かつてないほど毎日を楽しく過ごし、それぞれの経験を喜んでいます。
「ハードコアは誰もが望むものになろうとしている。僕らは何かエキサイティングなことの端っこにいるような気がする。未来に約束されたもの、保証されたものなど何もない。でも、同じ目標をもつ人たちとこの世界を共有できることは、とても特別なことなんだ」


参考文献: KERRANG!:Glow With The Flow: How Turnstile shut out the noise to stay true to themselves

HYPEBEAST:Turnstile: The Heart of Hardcore

The Editorial Mag:A Conversation with Turnstile

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : STUCK IN MY HEAD】


COVER STORY : SLEEP THEORY “STUCK IN MY HEAD”

“If Sleep Theory Was To Take All The Guitars Away, We Can Make a Pop Song. That’s What We Always Want To Do.”

SLEEP THEORY

SLEEP THEORY はまさにメタル世界のライジング・スター。たった1年で旋風を巻き起こしました。フロントマンの Cullen Moore はしかし、そのブレイクのために生涯をかけてトレーニングしてきたのです。R&Bミュージシャンの息子として育ち、父の後を継いで陸軍に入隊した Moore は、何年もかけて音楽キャリアの成功に必要な意欲、協調性、創造的なビジョンを培ってきました。
そして実際、このメンフィスのバンドは、2023年にデビュー・シングル “Another Way” をドロップした直後にブレイク。このムード満点のエモーショナルなアンセムは TikTok でバズり、わずか36時間で50万ビューを記録したのです。この即効性、即時性はまさに今という時代を誰よりも反映した存在でしょう。
「自分たちの音楽を広める機会に恵まれたのは幸運だった。インターネットとソーシャルメディアの力のおかげで、僕たちは人々とつながることができた。
TikTokで爆発的にバズったとき、僕たちはSNSでできる限りファンに対応しようとした。とにかく、今の時代はファンとつながることが重要だし、それが勢いを持続させる大きな鍵だったと思う」

Epitaph からリリースされたデビューEP “Paper Hearts” がその直後に発表され、David Draiman や Jelly Roll を含む多くのフォロワーや有名ファンを獲得。メタルコア、ポップ、R&Bをミックスしたバンドのエキサイティングなサウンドは、明らかに大きな反響を呼び、さらに SHINEDOWN, BEARTOOTH, FALLING IN REVERSE, WAGE WAR との共演で名を上げた SLEEP THEORY は、瞬く間にヘヴィ・ミュージックの大ブレイク・アーティストの一人となったのです。
彼らのサウンドは、BAD OMENS や SLEEP TOKEN のようなジャンルにとらわれないバンドを彷彿とさせ、ビートの効いたリフとソウルフルで胸を打つバラードを自信を持って織り交ぜています。
「正直、自分たちがどんなジャンルなのかさえわからない。ただ僕たちは、君たちの予想を裏切るつもりはない。ただこれが僕たちの好きなことなんだ」
Moore に加えて、ベーシストのPaolo Vergara、そしてギタリスト Daniel Pruitt とドラマー Ben Pruitt の兄弟で構成される SLEEP THEORY。Moore 以外のメンバーは、突然の注目に慌てましたが、Moore の反応は違いました。
「驚きはなかった。むしろ、”よし、始まったぞ “って感じだった」

つまり、Moore は一夜にして成功したように見えるかもしれませんが、彼がここにたどり着くまでには何年も必要とし、その道は決して一直線ではなかったのです。
この素晴らしきボーカリストが生まれる前、父親はR&Bに手を出し、子育てが優先される時期までバラードを書いていました。
Moore 自身の音楽への情熱が燃え上がったのは10代の頃で、彼は LINKIN PARK からマイケル・ジャクソンまで、あらゆるものにインスパイアされました。彼の父親は Moore をずっとサポートしてきましたが、しかし、母親は現実的な懸念を抱いていました。
「母も音楽が好きだったが、確実なキャリアを歩んでほしかったんだ。音楽で生計を立ててどっちに行くかわからないというのは、親にとって怖いことなんだよな」
Moore は父の音楽への情熱を共有しながらも、父と同じ軍人の道には進まないと確信していました。しかし、いつしか考え方や立場が変わり、彼はその “確実なキャリア” を選び、陸軍に入隊したのです。
「僕は決して面倒な人間ではなかったが、それでも軍隊に入ったことは自分にとって良かったんだ。他の人と協力し、心を開き、冷静になり、状況を全体的に見る方法を学べたからね。軍隊にいた時間は、いろいろな意味で自分を形成するのに役立ったよ」
しかし、結局 Moore の音楽への愛情は揺るがず、最終的にはロックスターの夢を追い求めるために退役を決めたのです。

まず、Moore はメンフィスのローカル・バンドと一緒にやってみたのですが、彼らのサウンドを次のレベルに引き上げてくれると信じていたプロデューサーの David Cowell との仕事をグループが拒否したため、そのパートナーシップは2019年に頓挫しました。そこで Moore と Cowell はクリエイティブ・パートナーシップを切り離し、新体制の SLEEP THEORY に専念することを決めたのです。
最初の数年間、SLEEP THEORY は Moore と Cowell を中心とした純粋なスタジオ・プロジェクトでした。しかし当初から、2人は音楽に対する大きな夢と野望を共有していました。
「多くの人は地元のアーティストと競争する傾向があるけど、それではダメなんだ」
SLEEP THEORY という名前はエニグマティックで、SLEEP TOKEN に次ぐ第二の “SLEEP” といったムードも醸し出しています。
「理由はバンドがある種の科学的な名前を調べ始めたという単純なことだった。科学的な言葉をググって、”REM Sleep” と “Theory” を見たんだ」
ベーシストの Vergara とはある誕生日パーティーで出会いました。彼がギターを手に取り、PARAMORE の “My Heart” を演奏するのを目撃した Moore は即リクルート。フィリピンから移住してきた Vergara は成功に飢えていました。
「2016年にアメリカに引っ越してきて、僕の人生の目標はミュージシャンか映画監督になることだった。バンドに加入したときは、今このような立場になるとは思ってもみなかった。フィリピンでバンドをやっていたけど、夢を実現したり、自分たちの曲を発表したりするチャンスはなかった。だから、もしアメリカに来て、バンドとしての夢を実現するチャンスがあるなら彼らの誇りになるようにしなければならない。その夢は今でもずっと心に残っている」

次に彼らはすぐにドラマーの Ben Pruitt を採用します。彼は “Another Way” のサビに入る、スキッターのようなドロップを見せつけました。
幸運なことに、SLEEP THEORY の音楽を求める声が急速に高まると、バンドは Ben の弟で、シュレッドとスクリームを自在に操るギタリスト、Dan を見つけます。ラインナップは固まりました。
「多くのステップを飛ばしたと言われるだろう。でも、正直なところ、いきなり急成長するのは、何年もそれに向かって努力するよりもストレスがたまるものなんだ。ちょっとでも、物事を風化させてしまうと、人々はすぐに気が散ってしまう……忘れ去られてしまう。どうすれば人気を保てるかを考えなければならなかった」
SLEEP THEORY の音楽的な成功の鍵は、ジャンルを飛び越えたサウンドのミックス、モダン・メタルの多様性を駆使して、最も熟練したメタル・リスナーをも飽きさせないその哲学にあります。受けた影響は、BRING ME THE HORIZON, LINKIN PARK, BEARTOOTH, SAIOSIN といった Moore が幼少期に愛したアーティストから、BAD OMENS, ISSUES のような現代のオルタナティブ・メタル・グループにまで遡ることができるます。特に後者の2019年作 “Beautiful Oblivion” は、Moore が今も目指している ベンチマークです。
ただし、彼らの影響はそれだけにとどまりません。子供の頃は Boyz II Men や TEMPTATIONS にも強く影響を受けていた Moore。当然、それらのインスピレーション、多くの人が共感するノスタルジーは SLEEP THEORY の音楽にも深く根付いています。
「SLEEP THEORY は、音楽業界において非常にユニークな位置にある。僕たちの目標は常に、ジャンルの融合を図りながら、人々に時代を超えたノスタルジックな感覚を与えること。僕たちはロック・バンドだけど、僕たちのサウンドは枠にはめることができないんだよ」

さらには、Ariana Grande や Drake まで。つまり、この予測可能性の欠如が SLEEP THEORY の創作プロセスを定義するようになっていったのです。&Bを織り交ぜたローファイな曲を作るという実験的な試み “Gone or Staying” のようなシングルから、Moore が “スーパーR&B” だと強調するリリースされたばかりのニュー・シングル “Stuck in My Head” まで、彼らの音楽は想像の斜め上へと飛び出していきます。
同時に Moore にとって、素直さと弱さを感じさせる歌詞を書くことも重要でした。
「多くの場合、人はその曲をどう受け取って解釈してもいいという書き方をする。でも僕たちは、それをどう受け取ればいいかをしっかり伝えて曲を書きたいんだよ」
Moore のリリシズムのこの要素は、感情的な直接的さをと同様に、SLEEP THEORY の “Reimagined” “再想像シリーズ” で大きな役割を果たしています。オルタナティブに録音された同じ曲の別の音源を聴くことで、彼の言葉の背後にある感情をまったく違った角度から見ることができるのです。
この例として彼は “Numb” を挙げています。”Numb”は、GODSMACK 風のピットでの怒りに満ちた失恋ソングとして生まれましたが、”Reimagined” バージョンではアコースティック・ギター・ソングとして、傷ついた絶望のナンバーへと変貌を遂げました。
「SLEEP THEORY からギターをすべて取り除いたら、ポップ・ソングができる。それが僕らがいつもやりたいことなんだ。ポップ・ソングを書き、それをメタルやロックにする」
Moore がファンからもらったネット上のコメントのひとつに、”このバンドは悪い曲をリリースしたことがない” というものがあります。彼はその考えを持ち続け、今後取り組むすべての作品の指標としています。
「その言葉に取り憑かれてしまったんだ。どの曲もバンガー (最高) に次ぐ最高であり続けようとしている。それはまるで強迫観念のようだ。音楽を作るのは楽しいよ.僕らはクールな曲を書いて、それを楽しんでいるんだ」
そして彼らは、2025年にリリース予定のデビュー・アルバムで、その注目度の高さに応えるような、バイラルを途切れさせないような作品を作ろうと意欲を燃やしています。Moore によれば、まだタイトルの決まっていないアルバムはほぼ完成していますが、”Beautiful Oblivion” のような “飛ばす曲のないアルバム” にしたいという彼の完璧主義と強迫観念のせいもあり、今でも微調整を続けているのです。
「僕たちは、君たちが予想もしないような音楽を投げかけるつもりだよ。そしてこのアルバムを隅から隅まで体験してもらいたいんだ」


参考文献: REVOLVER:SLEEP THEORY: HOW AN ARMY VET FOUND A NEW MISSION IN THIS METALCORE-MEETS-R&B PROJECT

MUSIC SCENE MEDIA: SLEEP THEORY INTERVIEW

LOUDWIRE: SLEEP THEORY

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MIRAR : MARE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIRAR !!

“Thall Is Tone, Ambience And a Genre If You Want. Everything I Do In Mirar Is Inspired By Vildhjarta And HLB, so Based On That I Think We Have a Lot In Common.”

DISC REVIEW “MARE”

「”Thall” とはトーンであり、アンビエンスであり、君がそうとりたいならジャンルでもある。僕が MIRAR でやっていることは全て VILDHJARTA と HLB にインスパイアされているんだ」
Thall とは何なのか?Thall とは魂であり、ユーモアであり、重力であり、アトモスフィア。Thall の解釈は千差万別、人それぞれでしょうが、いつしかこの魔法の言葉は Djent の宇宙を超えた超自然的ジャンルを形成するようになりました。もちろん、その根源にして黎明は Thall 生みの親である VILDHJARTA。その分家である HUMANITY’S LAST BREATH も含まれるはずです。そして、彼らの音楽に心酔し、バンドを始めたフランス&ノルウェーの混合軍 MIRAR もまた、間違いなく “Thall” なのです。
「”Thall” は Calle Thomer と Daniel Adel のゲームに過ぎないんだ。山の中でも、夜でも、水辺でも、嵐の中でも。まるで魅惑の世界を探検しているような気分だった。彼らのギターの音は、まるで生き物のようで、魔女のようで、僕には小さな妖精に取り憑かれた風景や森が見えた。分析的なアプローチを超えて、ただ夢中になることができた。僕は “Thousand of Evils” の続編を作曲したいと思うほど夢中になったよ。特に彼らが何年も行方不明になっているときはね。
彼らのスタイルで作曲したいと思ったのは、彼らが音楽をリリースしていないことが悔しかったからだ。僕のパソコンには VILDHJARTA 風のリフが何十曲も入っていて、個性がなくてもいいから彼らのサウンドを真似しようと何年も費やしたんだ。だから、VILDHJARTA には感謝しているよ! 」
どうやら、MIRAR にとって Thall とは、MESHUGGAH→Djent→Thall という進化系統ではなく、MESHUGGAH→Djent、MESHUGGAH→Thall という考えのようです。そして、その MIRAR が提唱する Thall の進化論は彼ら自身の音楽によって証明されました。
MIRAR は敬愛する VILDHJARTA と同様、無機質なポリリズムの海に風景を持ち込みました。000 の重低音に感情を持ち込みました。それはさながら、暗い北欧の森に住む怪しい魔女の見せる幻影。魔法。怪異。
「高校卒業後は音楽学を学び、偉大な作曲家を発見した。最初によく聴いたのはルネサンスのポリフォニー(オッケム、トマス・タリス、ジョスカン・デ・プレ、マショー、パレストリーナなど)と中世の歌曲だ。一方で、ダブやダブステップのコンサートも見に行く。
それから、ヘンリー・パーセル、バッハ、ヴィヴァルディ、ラモー、クープラン、リュリ、そして全く違うスタイルではラフマニノフに没頭した。彼らは今でも僕のお気に入りの音楽家たちだ。
なぜかわからないが、僕はクラシックの時代にはあまり敏感ではない。でも、アーノルド・シェーンベルクやリゲティのような現代の音楽家は本当に好きだ」
そう、MIRAR は彼らがアートワークとして使用したカラヴァッジョの絵画のように、飽和した Djent のステレオタイプを断罪していきます。ここには、ルネサンスがあり、現代音楽があり、ジャズがあり、ダブステップがあります。そして何より、彼らのリフは Thall 発祥の由来となった World of Warcraft に巣食う夜のエルフのように悲しく、トロールのように畏怖めいていて、もちろん人狼のように雄々しく、アンデットのように怪しく蠢きます。そのピッチシフトは生命の証。彼らのリフ、彼らの音楽にはうねりがあり、胎動があり、命が込められているのです。
今回弊誌では、MIRAR にインタビューを行うことができました。「僕はメタルはあまり聴かない。インディーやジャズを中心に聴いている。この5年間は、メタルだとほとんど VILDHJARTA と HLB しか聴いていない。この2つのバンド以外、僕をインスパイアするメタル音楽はない。だから自然とこのジャンルで存在したいと思うようになった」 どうぞ!!

MIRAR “MARE” : 10/10

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