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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FLESHVESSEL : YEARNING : PROMETHEAN FATES SEALED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLESHVESSEL !!

“Super Adventurous Music And Very Traditional Music Should Be Able To Exist Harmoniously Within Any Genre, Be It Death Metal Or Celtic Folk Music.”

DISC REVIEW “YEARNING: PROMETHEAN FATES SEALED”

「僕にとって、音楽的な面白さの多くは、さまざまな音色とテクスチャーの無限の組み合わせが生み出す色彩にある。メタルは、多くの場合、音色的に精彩を欠くことがあるから、さまざまな音や楽器を使うことで、もう少し音楽的な面白さを取り入れたいと思っているんだ」
モダン・メタルの多様化は、ジャンルの壁だけでなく、文化の壁も取り払います。ギター、ベース、ドラムという “メタル楽器” だけが正義の時代は終焉を迎え、サックスやフルート、シンセサイザーはもちろん、メタルが感染した様々な土地の様々な伝統楽器もヘヴィ・メタルは喰らい、その血肉としているのです。それでも、プエルトリコのクアトロ、フルート、ピッコロ、オカリナ、ヴィオラ、ハープ、ピアノ、タイのピン、グロッケンシュピール、スレイベル、フィンガー・シンバル、トランペット、クラリネット、ダルブカと無限の “ノン・メタル” 楽器を喰らい尽くしたメタル・バンドは FLESHVESSEL がはじめてでしょう。加えて、Alexander Torres, Amos “Troll” Hart, Gwyn Hoetzer, Sakda Srikoetkhruen はその大半を自らで奏でているのです。
「僕たちは、自分の作りたいアートやサウンドを作ることができ、オープンであるべきだと信じている。あえて逆らい、型にはまらず、やりたいことをやる。でも、超冒険的な音楽と非常に伝統的な音楽は、デスメタルであろうとケルトの民族音楽であろうと、どんなジャンルの中でも調和して存在できるはずなんだよ」
伝統と実験、冒険と安心、異端と常識、メタルとノン・メタル。”Yearning: Promethean Fates Sealed” は、そのすべての逆説がアートのために調和したようなレコードです。繊細な瞬間から幕を開けるアルバムは、鮮やかな色彩と奇妙なフォルムで描かれ始め、メタルの異世界で恐怖と熱情と安らぎを見つけるまで止まることはありません。そうして、たしかに映画的ではありますが、このアルバムはそれ自体が物語を語り、命を吹き込むため、映像媒体を必要としていません。
4人の鬼才が築き上げた55分の巨塔は7つのトラックに分かれ、4曲の長大なプログレッシブ・ソングがインストゥルメンタルの “ヴィネット” で区切られています。このヴィネットがアルバムの各所からメロディックなテーマを引用し、思索と内省の中でモチーフを再考。繊細、重厚、爽快、瞑想が同居し、死の淵に押し潰され、風の蝶に魅了され、前衛的な騒乱にまみれるアルバムは、パッケージ全体がジグソーパズルのように不思議と集積し、印象的な1枚の名画としてまとまっているのです。
オープナー “Winter Came Early” はまさにこの類稀なる音の美術館への招待状。クラシカルで繊細なイントロからブラックメタルの絶望が炸裂し、伝統的な激しさが強調され、さらにプログの空想飛行、落ち着きのあるフォークのパッセージ、陽気なジャズのベースライン、アヴァンギャルドな悪夢のようなサウンドなど、色彩のパレットは200色以上の豊かさを誇ります。
「プロメテウスの物語は、世界をより良くしようとする僕たち人間の闘いのアナロジー (似ていることを根拠に異なることを推し量ること) として、このアルバムで使われているよ」
これだけのエピックに、秘められた意味がないはずがありません。プロメテウスとは、神々の火を盗んで人類にもたらし、その裏切りによって罰せられたタイタン。アルバム・タイトルはこのよく知られた神話を、悟りを求め、より良い、より寛容な世界を作り出そうとする人類と、その目標に到達するため障壁となる人類自身との戦いの寓話として扱っています。結局のところ、この分断された世界で私たちを救ってくれる巨人は存在しません。運命の封印を解き、善に心を開くためには、私たち自身の内側から解き放たれる炎を守る必要があるのです。
今回弊誌では、FLESHVESSEL にインタビューを行うことができました。「重要なのは、僕たちはオーケストラ音楽の “メタル版” やメタルの “シンフォニック版 “を作ろうとしているのではなく、さまざまな影響を受けた深い井戸の中から作曲し、演奏することができるということなんだだ」 どうぞ!!

FLESHVESSEL “YEARNING: PROMETHEAN FATES SEALED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COSMIC JAGUAR : THE LEGACY OF THE AZTECS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SERGIO LUNATICO OF COSMIC JAGUAR !!

“We Didn’t Want To Be Another Primitive And Dull Thrash Band That Sings About Booze, Sex, Zombies, Partying, Social Problems And Other Hackneyed Topics.”

DISC REVIEW “THE LEGACY OF THE AZTECS”

「明日何が起こるかわからない、とても危険な状況だったからこそ、できる限りリハーサルを重ねた。結局、4ヶ月でフルアルバムをゼロから作曲し、レコーディングしたんだ!目的が見えていれば、障害は見えなくなるものだよ」
ウクライナへ向けたロシアの非道な侵略が始まって、すでに一年半の月日が経ちました。戦火はおさまることなく混迷と拡大を続け、ウクライナの人々にとって当たり前にあった平和や安全という当たり前の生活は遠のくばかり。しかし、逆境にあってこそ、ヘヴィ・メタルのレジリエンス、反発力や回復力は輝きます。明日全てが失われてしまうかもしれない。そんな限界の非日常において、ウクライナの COSMIC JAGUAR は自らの生きた証をここに残しました。
「音楽の制作は、たとえ平和な時代であっても難しいものだ。なぜなら、たいていは自分の作品が聴衆からの反応やフィードバックをほとんど得られず、また自分の目標を実現するための手段を見つけることも難しいからね」
逆境を跳ね返す力こそ、ヘヴィ・メタルの真骨頂。長年、BESTIAL INVASION で活動してきた Sergio Lunatico はカルト的な人気を得るものの、世界的な名声までは程遠い状況でした。しかし、戦争の勃発と同時に一念発起し結成した COSMIC JAGUAR は、第三世界のメタル、伝統音楽を抱きしめたメタル侵攻の波に乗り、見事に世界的な注目を集めつつあります。DEATH, ATHEIST, VOIVOD, CYNIC, SADIST, CORONER, PESTILENCE といった “あの時代” の特別なテクニカル・メタル、その神秘性が見事にアステカの神話と噛み合った祭壇のメタル・サウンドは、ウクライナから海も山も大陸も超えて、遥かテノチティトランにまで鳴り響くのです。
「僕たちは、酒やセックス、ゾンビ、パーティー、社会問題など、陳腐なテーマを歌う原始的で退屈なスラッシュ・バンドにはなりたくなかった。古代世界の歴史が好きな僕が選んだのは、アステカの文化と神話だった。僕の記憶では、メキシコの地元バンドを除いて、このテーマを使うスラッシュ・バンドはほとんどなかったからね。面白いのは、多くの人が僕らをメキシコのバンドだと思っていることで、彼らに言わせれば、僕らがアステカの精神と雰囲気を非常にうまく伝えているからなんだ。そして、僕らがウクライナ出身だと知ると、彼らはいい意味で認知的不協和を感じるんだ!」
そう、あのメタル・エジプト神 NILE の名を挙げるまでもなく、ヘヴィ・メタルに国境はありません。メタルの世界でアーティストは、好きな題材を好きなだけ深堀りすることが許されています。日本人にとってのオオカミのような存在である、ジャガーをバンド名に冠するのも彼らのメキシコ愛がゆえ。アヴァンギャルド/テクニカル・スラッシュと表現するのが最適なその多彩さは、ラテン、ファンク、ジャズ、デスメタル、ブラックメタル、ワールド・ミュージックとまさにコズミックな拡がりを見せながら、アステカの民族楽器と女性ボーカルでリスナーをアステカの神殿へと誘います。そうして、かの文明の独特な死生観や終末信仰は、未だなお争いを続ける人類への警告として語り継がれるべきなのかもしれませんね。
今回弊誌では、Sergio Lunatico にインタビューを行うことができました。「ウクライナにおける戦争において、今は安全な場所などなく、いつでもミサイルやドローンに捕捉される可能性があるため、毎日が自分や愛する人にとっての最後の日となりうる、そう思って生きているよ。だからこそ僕たちは生き残るためにあらゆる方法を試しているんだ」 どうぞ!!

COSMIC JAGUAR “THE LEGACY OF THE AZTECS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCAR SYMMETRY : THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH) JAPAN TOUR 23’】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PER NILSSON OF SCAR SYMMETRY !!

“Meshuggah Let Me – Even Insisting On – Play My Own Solos In The Songs, Not Copying Fredrik’s Solos, And I Had a Lot Of Fun With That. I Improvised Every Solo So That Every Night, I Could Try Something New.”

DISC REVIEW “THE SINGULARITY (PHASE Ⅱ)”

「MESHUGGAH のツアーで数年間は忙しかったし、NOCTURNAL RITES のアルバム制作とツアー、KAIPA との数枚のアルバムのレコーディング、他のバンドのプロデュースやミックスの仕事、セッションの仕事、2019年には父親になったし、世界的なパンデミックも起きた。だから、私生活でも仕事でも世界全体でもいろいろなことがあったんだよ!でも、アルバムがついにリリースされ、ファンが本当に気に入ってくれているようで、今は本当に素晴らしいと感じているよ!」
スウェーデンの近未来知的創造体 SCAR SYMMETRY がバンド結成20年のメモリアルに華々しい復活を遂げようとしています。主役はもちろん、あの MESHUGGAH で鬼才 Fredrik Thordendal の代役を長く務めたギターマスター Per Nilsson。紆余曲折のあったバンドですが、中心メンバーであった Christian Älvestam と Jonas Kjellgren が去って Per の創造性を心臓に据えた北欧の特異点は、メロデスのカタルシスとプログレッシブな冒険心を絶妙な “対称性” で律する最高の SF エピックを紡ぎ出しています。
「3部作の各章は、3部作の音楽世界の一部とつながり、感じられる必要がある一方で、僕は各フェーズが独自のものであることも望んでいたからね。だから、”Phase II” では、メロディや先進性を犠牲にしてでも、”Phase I” よりもかなりヘヴィでアグレッシヴなものにする必要があったんだ」
2014年に始まった SCAR SYMMETRY の “The Singularity” 三部作。キャリア・ハイとなった “Phase I” は、トランス・ヒューマニズム (科学技術で人間の身体や認知を進化させる思想) を軸としたSF コンセプト・アルバムで、精巧であると同時にバンドの歴史上最もキャッチーな作品でした。一般の人間と、金に物を言わせて自身を強化したエリート集団 “ネオ・ヒューマン” との階級闘争、そして戦争に発展する未来社会の物語。Per Nilsson 率いるスウェーデンの5人組は、9年後の “Phase Ⅱ” においても変わらず自信に満ち、強力で、自分たちの “シンギュラリティ” を完全にコントロールしているように見えます。
「近い将来、僕たちは AI に、僕たちが望み、体験したい芸術を創作するよう促すことができるようになるだろう。例えば、モーツァルトとポール・マッカートニーが作曲し、ボブ・ロックがプロデュースとレコーディングを担当し、ベースはクリフ・バートンに、ボーカルはエルトン・ジョンに……といったような曲を AI に作らせることができるようになる。もし、その結果に満足できなければ、AI に指示をして微調整してもらえばいいだけだろう」
とはいえ、2004年、境界のない新しいタイプのデスメタルを作ろうと結成されたバンドには、もはや AI の助力や指図は必要ないでしょう。巨大なシンセサイザーと、本物のデスメタルの嗎、官能的なクリーン・ボーカルはシームレスに組み合わされて、対称と非対称の狭間にある天秤のバランスを巧みに釣り合わせていきます。
FEAR FACTORY や SOILWORK も真っ青なメタル・ディストピアの残酷さに唖然とさせられた刹那、そこにメロディーが生まれ、エピックが兆し、プログパワーのような雄々しさとメロハーのようなエモーションが乱立していきます。深慮遠謀のリフワークに、天高く舞い上がる緻密な音のホールズワース階段こそ Per Nilsson の真骨頂。Jacob Collier や Tim Miller, Tigran Hamasyan まで咀嚼したメタル世界のエイリアン、最高のサブジャンルとギター・ナードの組み合わせは、すべてがユニークで予測不可能なサウンドを生み出すためにブレンドされているのです。
叫び声を上げるもよし、激しく頭を振るもよし、エアギターを達者に気取ってみるもよし、空を見上げながらメロディを口ずさむもよし。あらゆる形態のメタル・ファンにとってあらゆる条件を満たすアルバムがここに完成をみました。もしかすると、Per Nilsson はすでに、人工知能を宿したトランス・ヒューマンであり、このアルバムこそが “シンギュラリティ” を超えた未来なのかもしれません。
今回弊誌では、Per Nilsson にインタビューを行うことができました。「”Future Breed Machine”、”Rational Gaze”、”Bleed” といった僕のお気に入りの曲を演奏できた。そして観客が熱狂するのを見ることができた。彼らは、Fredrik のソロをコピーするのではなく、自分自身のソロを曲の中で演奏させてくれたんだ。僕は毎晩、何か新しいことに挑戦できるように、すべてのソロを即興で演奏したよ」 どうぞ!!

SCAR SYMMETRY “THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH)” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENFORCED : WAR REMAINS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KNOX COLBY OF ENFORCED !!

“Humans Are Violent By Design. That’s How We’ve Survived.”

DISC REVIEW “WAR REMAINS”

「俺たちは古い伝統に思いを馳せながら、新しいリスナーには新鮮に映るように工夫してやってるんだ」
2010年代後半。スラッシュという容赦のない獣は、爆発的な人気を誇る新進気鋭の POWER TRIP の力によって、ハードコアの衝動を多分に受けた新たなスタイルで世界に再びその威光を轟かせました。2020年、POWER TRIP の象徴的なフロントマン Riley Gale の急逝は明らかにメタル世界の大きな損失でしたが、それでも彼らに続くアメリカのニュー・エクストリーム、その激しい波はとどまることを知りません。いや、むしろ、現代こそが “クロスオーバー・スラッシュ” の黄金時代なのかもしれませんね。
「Arthur は、自分のやっていること、作っていることを正確に理解していて、特定のスタイルやサウンドのバンドがどのように表現されるべきかをしっかりと理解しているんだ」
自らも SUMERLANDS, ETERNAL CHAMPION という温故知新のニュー・エクストリームを率いる Arthur Rizk こそが、この新たなアメリカの波の牽引者です。若い世代にとって、インターネットを通して知る80年代の音楽は、ある意味驚きで、新発見なのでしょう。そうして彼の地のメタル・ナードたちは、好奇心の赴くままに古きを温めすぎて、当時を過ごした実体験組のような知識と思い入れを持つようになりました。そこに現代の文脈を織り込めばどうなるのだろう?そんなタイムトリップのような実験こそが、Arthur の真骨頂。
POWER TRIP, CODE ORANGE, TURNSTILE といった Arthur が手がけたニュー・エクストリームの綺羅星たちは、そうやって様々な “If” の掛け算を具現化していったのです。今回インタビューを行った、東海岸から登場した ENFORCED は “暴力装置” という点で、”Arthur’s Children” の中でも群を抜いた存在でしょう。
「俺は暴力的な人間ではないけど、暴力行為の因果関係や思想や概念としての暴力を理解できるほどには成熟している。俺たちが暴力と完全に縁を切るということは、自分のDNAを無視するってことなんだ」
ENFORCED は、否定したくても否定できない人間の “暴力性” に一貫して焦点を当てています。戦争の時代に戻りつつある現代。ENFORCED の魂 Knox Colby は、机上の平和論者に現実を突きつけます。オマエは暴力の恩恵を受けていないのか?戦争は時代を進めて来たんじゃないのか?人類は本当に暴力と縁を切れるのか? “War Remains”…と。
「SLAYER が成してきたことを、俺たちも実現できると思いたいね」
前作 “Kill Grid” のスラッシュへのグルーヴィかつ多彩なアプローチが “South of Heaven” だとすれば、”War Remains” は彼らの “Reign in Blood” に違いありません。このアルバムが走り出したが最後、33分後には死体確定。跡形もなく踏みつけられたリスナーの骸以外、何も残りません。Knox が Tom Araya のひり付くシャウトとデスメタルの凶悪なうなりの完璧なキメラで血の雨を降らせ、殺伐としたギターの戦車が世界を焦土に変えるのに3分以上の時間は必要ないのです。今回、彼らが所望するのは電撃戦。
ただしバンドは、古いスラッシュのルールブックに基づいて演奏しながら、MORBID ANGEL や OBITUARY の伏魔殿から、”Nation of Fear” のような “ハードコアISH” のグルーヴまで暴力の規範を変幻自在に解釈して、人が背負った “業” を、現実を、リスナーに叩きつけていくのです。私たちはそれでも、”ウルトラ・ヴァイオレンス” な世界を塗り替えることができるのでしょうか?
今回弊誌では Knox Colby にインタビューを行うことができました。「人間はそもそも、暴力的にデザインされているんだ。そうやって俺たちはこれまで生き延びてきたんだよ」 どうぞ!!

ENFORCED “WAR REMAINS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LUNAR CHAMBER : SHAMBHALLIC VIBRATIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON IACOVELLA OF LUNAR CHAMBER !!

“日本はね…私にとって信じられないぐらい夢みたいなところなんですよ。人生と考え方に大影響を受けて、美しい思い出も出来ました…本当に本当に言葉で表現出来ません。今までで一番お気に入りの場所です!”

DISC REVIEW “SHAMBHALLIC VIBRATIONS”

「Tomarumは普通に Progressive Black Metal をしてて、したことないもっとヘヴィな Progressive Death Metal をしたかったんです。お気に入りの Death Metal バンドを尊敬しながら自分のサウンドを作りたかったんです!」
“Shambhallic Vibrations” はプログレッシブでテクニカルなデスメタルのファンにとって、まさに天啓です。ブルータルでありながら静謐、エピックでありながら親密、難解でしかしスピリチュアルなデスメタルが、煌めきとヘヴィネスを伴って届けられる涅槃。
新進気鋭、アトランタのプログ・ブラック集団 Tómarúm の中心メンバー Brandon Iacovella と Kyle Warburn が Timeworn Nexus と They, Who May Not Be Perceived というペンネームで始めたバンドには、フレットレス・モンスターThomas Campbell、BENIGHTED のドラム・マシン Kévin Paradis という異才が加入して LUNAR CHAMBER の名乗りをあげました。
彼らのスピリチュアルな広がりと深みのあるブルータリティーは、現代のシーンに真の類似品がなく、その豊かできめ細かな質感は、フレットレス・ベースとスペーシーなシュレッドの綺羅星によって殊更際立つものとなっています。そのアプローチ、テクニック、トーン、そして影響の数々はあまりにも無数で、むしろすべてが一体となっていることさえ不思議なくらいですが、そこには、日本や仏教、東洋哲学に由来する調和の精神が大きく作用していました。
「若いころからヒンズー教と仏教に興味があって、歌詞とテーマを作りたかった時にその興味を思い出して、日本に住んでいた時とどのぐらい人生が変われたのかも思い出して、そのテーマについて書きたくなったんです」
実はコロナ禍以前、Brandon は日本が好きすぎて来日し、翻訳家を目指し学生として台東区で2年ほど暮らしていました。そこで日本の人たちと触れ合い、価値観や生き方を理解し、日本文化を受け入れることで彼の人生は大きく変わっていきました。争いよりも調和を、欲望よりも悟りを求める生き方は、そうしていつしか Brandon の創造する音楽へと憑依していったのです。
「日本のメタルシーンはめっちゃ凄くて、大好きです。Lunar Chamber の元々のドラマーは Temma Takahata なんですよ! Strangulation, 死んだ細胞の塊、Fecundation、等々のドラマーです!本当に凄いドラマーなんで、彼のバンドと他の友達のバンドも何回も見に行って、本当に大光栄でした。日本のシーンにも大影響を受けました。Desecravity, Viscera Infest, Anatomia, 等々も見ることが出来て、あれもかなりインパクトがありましたね。日本の音楽と言えば確かに Desecravity, Viscera Infest, Strangulation, 死んだ細胞の塊, Crystal Lake, Disconformity, 明日の叙景とかを考えますよね」
アルバムのフィナーレを飾る12分の “Crystalline Blessed Light Flows… From Violet Mountains into Lunar Chambers” は、今年のメタル界で最も注目すべき成果の1つかもしれません。シンセを多用した神秘的なオープニングから、巨大なフューネラル・ドゥームの睥睨、荘厳でマントラのようなメロディ、地響きのブラストと鋭く研ぎ澄まされたギター、瞑想的な静けさと地を這う重量の邂逅、そして到達する涅槃まで、すべては “菩提樹” で見せた印象的なモチーフとハーモニーをさながら経のように貫徹して、絶妙な結束を保持しているのです。
さらに言えば、LUNAR CHAMBER の体には、日本のメタル・シーンの “細胞” が組み込まれています。死んだ細胞の塊、明日の叙景、CRYSTAL LAKE といった現代日本のメタル世界を象徴するような多様性をその身に宿した LUNAR CHAMBER の “調和” は、その東洋思想と相まって、すべてが祇園精舎の菩提樹へと収束していきます。
今回弊誌では、Brandon Iacovella にインタビューを行うことができました。ほとんどの回答を日本語で答えてくれました。「仏教のメタルは、ある人にとっては間違いなく逃避の手段になり得ると思う。自分の音楽で物語を作るのが好きだし、この作品には内省的なところもあるから、誰かが自分の現実や心を探求し、私たちの物語に共感し、慰めを得ることができたら、それは私にとって大きな意味があるんだよ」 どうぞ!!

LUNAR CHAMBER “SHAMBHALLIC VIBRATIONS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEMONSTEALER : THE PROPAGANDA MACHINE】


COVER STORY : DEMONSTEALER “THE PROPAGANDA MACHINE”

“Make The Minority The Big Villain That The Majority Should Fear In Any Country, And You’ve Suddenly Got Control. It’s All The Same Tactics; It’s Just That The Country Changes.”

THE PROPAGANDA MACHINE

“The Propaganda Machine” は、エクストリーム・メタルの言葉で叫ばれる戦いの鬨。Sahil Makhija 4枚目のソロ・アルバム “Demonstealer” は、母国インドをはじめ世界中の大衆を操り搾取する右翼政治家、人種差別主義者、偽情報の拡散者、宗教過激派を狙い撃ちしています。Sahil が言葉を濁すことなく、このアルバムに収録されている歌詞はすべて、抑圧に対する抗議の看板となり得るもの。ただし Sahil は、20年前、彼の先駆的バンド DEMONIC RESURRECTION でインドにデスメタルを紹介していた頃には、まだ “The Propaganda Machine” を作ることはできなかったと認めています。
「俺はボンベイ・シティに住む、かなり恵まれた子供だった。そして、ほとんどの子供がそうであるように、俺は政治に興味がなかったんだ」と Sahil は自身の音楽活動の初期を振り返って言います。SEPULTURA の “Refuse/Resist” のような政治的なメタルを聴いていたにもかかわらず、政治を意識することはなかったのです。
Sahil の覚醒は緩やかでした。彼は2015年のシングル “Genocidal Leaders” で遂に DEMONSTEALER に社会的な歌詞を取り入れ始め、前2作 “This Burden Is Mine” と “The Last Reptilian Warrior” では現実世界の問題がより浸透するようになりました。しかし、”The Propaganda Machine” は、彼がこれまで制作した中で、圧倒的に政治色が強いレコードだと言えます。その理由は、周囲を見渡せばわかるでしょう。トランプ、Brexit、目に余る警察の残虐行為、復活したネオナチズム、世界的なパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻など、その暗闇のリストは身近で気が滅入るものばかり。

「このアルバムは、プロパガンダ・マシーンというタイトル通り、ここ数年の世界のあり方に完全にインスパイアされているんだ。特に、ヒンドゥー教の右翼過激派政権が誕生してからのインドでの出来事に触発されているよ。”The Fear Campaign” では、多数派が少数派を恐れるように仕向けることで、政府が大衆をコントロールすることについて。”Monolith of Hate” は、憎しみの政治と、恐怖のキャンペーンを通じて多数派が少数派を憎むように仕向ける方法について歌っているよ。正直なところ、世界中でこうしたことが起こっているよな。インドではヒンドゥー教徒が大多数で、ヒンドゥーの政府はイスラム教徒に関する悪いプロパガンダを流し続け、ヒンドゥー教徒がイスラム教徒に恐怖を抱くようにしようとしている。イギリスやアメリカ、ヨーロッパでも同じように、移民を恐れさせるキャンペーンが行われているし、アメリカでは、人種や宗教などでも同じことが行われている。世界的な “戦術” なんだよな。”恐怖を与え続け、従順にさせる” という歌詞は、まさにすべてを要約しているよ。
“The Art of Disinformation” は、テクノロジーがいかに武器になるかについて。インドでは、WhatsApp の偽ビデオが、この憎しみを広めるために使われ、最終的には少数民族への暴力や殺害さえも扇動しているんだ。”Screams Of Those Dying” は、ここ数年、リンチや暴動、警察の横暴、殺人、基本的人権のために戦う人々の暗殺によって失われた実際の命について歌った。”The Great Dictator” は、自分たちの利益のために憎悪と暴力を推進・宣伝する右派の指導者について。”‘The Anti-National” “反国家” は、インドや自国の政府に疑問を持つ人々が、いかに “反国家” と呼ばれているかについて。そして最後に “Crushing the Iron Fist” は、俺たちが力を合わせれば、私腹を肥やし、宗教、カースト、人種によって人々を分断するのではなく、生活の質を向上させるために働く、より良い政府を見つけることができるかもしれないという希望をアルバムに残している。国民のために働くという、本来あるべき姿の政府をね」

世界のリスナーにとってあまり馴染みがないのは、2014年にナレンドラ・モディが首相に就任して以来、インドで起きている混乱かもしれません。NRC(全国市民登録制度)とCAA(市民権修正法)という大規模な政治問題です。CAA では、トランプの人種差別的なムスリム禁止令とは異なり、インドに入ってくるイスラム教徒の移民を制限する一方で、他の宗教のメンバーがより自由に入国できるようにしようとしていました。
「多くの抗議があり、俺もそうした抗議に出向いていた。そして、その抗議は、右翼過激派グループが大学の子供たちを攻撃したり、抗議者に発砲したりすることで頂点に達したんだ。その結果、ニューデリーで大規模な暴動が起こり、ヒンドゥー教の過激派によって多くのイスラム教徒が殺されてしまった。その後、パンデミックが始まった。すると政府は突然、人々の移動を制限するようになった。出稼ぎ労働者は出身地でない都市に取り残され、飛行機で帰ることもできず、結局、何百キロも歩いて村まで帰ることになった。その途中で亡くなった人も少なくないんだよ。社会として、俺たちはより憎しみに満ちた生き物へと変化していってしまう。幼い頃から憎むことを教え込まれ、宗教、肌の色、性的嗜好など、異なる誰かを憎むことを強いられ、憎しみは押し付けられ、憎しみのモノリスを築いている。それは俺たちを蝕んでいくものだ。特にインドでは、現在の右派の政府関係者自身が、憎しみのスローガンを唱え、暴力行為や犯罪を呼びかけるデモを行い、彼らのすべてのアジェンダが憎しみで構築されている。なんとかしなければ」
そんな暗闇が重くのしかかる中、Sahil は自宅のスタジオに入り、”The Propaganda Machine”となる曲を書き始めました。歌詞には、自分がインドで体験したことを反映させたかったのですが、同時にリスナーが世界の他の地域とも簡単に結びつけられるようにもしたかったのです。
「どこの国でも同じようなことが起きているのを見た。どの国でも、少数派を多数派が恐れるべき大悪党に仕立て上げれば、突然コントロールが可能になる。国が変わるだけで、すべて同じ手口なんだ。俺たちがいかにプロパガンダに対して盲目的になりがちであるかを伝えたい。宗教であれ、政治であれ、俺たちはある特定の “信者” になるよう条件付けされてきた。宗教もまた、最大のプロパガンダ・マシンのひとつで、世界中のほとんどの人が信じるように仕向けられ、現実が見えなくなる」

プロパガンダによる洗脳に惑わされないために、教育レベルの向上は必須でしょう。
「ただ、インドは巨大な国で、極度の貧困と社会的不平等が存在するから、効果が出るまでには長い時間がかかる。インドには巨大な国土があり、極度の貧困と社会的不平等が存在するんだ。時間が経てばその地点に到達できるかもしれないという希望はあるけど、ほとんどの場合、堂々巡りになってしまう。インドの生活の質、政府が運営する学校や病院の状況を見れば、その状況がわかると思うよ。本当に、宗教的な洗脳や政府による洗脳、時代遅れの習慣や伝統にしがみつく人々など、長い道のりが待っているんだ」
SNS も今や権力の “武器” と化しています。
「俺たちは、ソーシャルメディアによって物語がコントロールされる世界に住んでいる。インドでは、世界の他の地域と同様にフェイクニュースの大きなな問題があって、SNS のほとんどは、右派の与党政府によってコントロールされている。右派政権に対抗できる政党やまともな野党がほとんどない状態でね。この国で最大の誤報拡散者である Whatsapp を使ってプロパガンダや誤報を拡散するためだけに人が雇われているよ。Whatsapp が原因で、リンチされたり殺されたりした人も。物議をかもした市民権法に対する抗議デモの際も、IT部門はフル回転していた。彼らの最大の自慢は、Twitter で何でも流行らせることができること。どんな話題でも、コピーペーストしたようなツイートが表示されるのは悪夢のようなものだ。ウクライナへの攻撃の際にも、このようなことが起こっていたよな」
“レッテル貼り” も権力お得意の分断の手法。
「特にインドにおける右翼の戦術のひとつは、人々に “反国家” の烙印を押すこと。政府に疑問を持てば反国家、あるイデオロギーを推進しなければ反国家というわけさ。最悪なのは、政治とヒンドゥー教を結びつけてしまったことだ。だから今日、牛肉を食べると、憲法で権利が認められているにもかかわらず、反国民とみなされる。現政権は非常に攻撃的で、親ヒンドゥー的でファシスト的な性格を持ち、非常に暴力的なグループを支持している。現首相を批判する人がいれば、ネット上の荒らしの軍団や、実際のチンピラまで現れて問題を起こし、反国民の烙印を押されてしまうんだ。俺は、批判的で、宗教的・政治的な駆け引きではなく、国民の向上のために政府を後押ししようとする人たちこそ、真の愛国者であると信じている」

Sahil は声を上げるためには、ある程度の人気が必要だと考えています。
「音楽にはたくさんの力がある。音楽がもたらす癒しやポジティブな変化はたくさんあるんだ。だけど、ニッチなジャンルの音楽を、ニッチな国で、しかも人気のないアーティストが演奏するとなると、そんな変化も期待できない。もしかしたら、一部の人に影響を与えるかもしれないけど、本当に影響を与えるためには、もっと多くの人に聴いてもらう必要があるんだよ。だから、今のところは、DEMONSTEALER は俺が目にした世界の間違ったことに対して発言するためのただの道具だ。でも、もしそれが人々に語りかけられ、共感され、音楽が人生の困難な時期を乗り越える助けになるなら、それは俺にとっても世界にとっても意味のあることとなる」
音楽的には、Sahil は DEMONSTEALER を実験室として使用し、頭に浮かんだあらゆるアイデアを探求する傾向があります。”The Propaganda Machine” では、彼のキャリアの中で最も緻密なレイヤーを持つ楽曲を作曲していることに気づくでしょう。もし、Sahil の威厳と自信に満ちたクリーン・ボーカルと、元 CRADLE OF FILTH キーボード奏者の Annabelle Iratni が醸し出すシンフォニックな華やかさがなければ、アルバムはもっとデスラッシュの閉塞空間にあったでしょう。Sahil は、自分の直感を信じることで、荘厳と凶暴の適切なバランスを見つけているのです。
「”次のアルバムは、今までで一番ブルータルなアルバムにしよう、ブラストビートと、最も重厚なリフ、そしてうなり声を出すだけだ” なんて思っていても、実際に曲を書き始めると、突然美しいメロディーを思いつき、”これはこの曲にピッタリだ!” なんて思うんだ」

DEMONSTEALER は厳密には Sahil のソロプロジェクトですが、NILE の George Kollias が “This Burden Is Mine” でドラムを叩いて以来、ゲスト・ミュージシャンはそのサウンドに欠かせない要素となっています。DEMONSTEALER のサポート・キャストは着実に増えており、”The Propaganda Machine” は総勢12人のプレイヤーによって命を吹き込まれているのです。クレジットには、鍵盤の Iratni、Hannes Grossmann を含む4人のドラマー、さらに4人のベーシスト、3人のリード・ギタリストの名前があります。James Payne (Kataklysm, Hiss From The Moat), Ken Bedene (Aborted), Sebastian Lanser (Obsidious/Panzerballett), Dominic ‘Forest’ Lapointe (First Fragment, Augury, BARF), Stian Gundersen (Blood Red Throne, You Suffer, Son of a Shotgun), Martino Garattoni (Ne Obliviscaris, Ancient Bards), Kilian Duarte (Abiotic, Scale The Summit), Alex Baillie (Cognizance), Dean Paul Arnold (Primalfrost), Sanjay Kumar (Equipoise, Wormhole, Greylotus)。Sahil は、彼らの役割について厳格に規定することはありません。ここでは、それぞれのミュージシャンが、それぞれの長所を発揮しているのです。
「各ミュージシャンは、それぞれの個性を生かす。これほど多才なミュージシャンと仕事をするのであれば、俺がプログラミングをしたり、これとこれを演奏しろなんて厳しく指示する意味はない。もちろん、ドラムのパートをすべてサンプルで置き換えるのはとても簡単だが、すべて全く同じ音になってしまう。それに何の意味があるのだろう?だから、ドラムの音はアルバムの曲によって変化するし、ベースのダイナミズムも当然変わってくるさ」
このアルバムは、Sahil の独特なソングライティングだけでなく、彼の思想によっても一貫性を保ちます。右翼のポピュリストが支配する不安定な国で活動することは簡単ではありません。最近、ニューデリーとムンバイにあるBBCのオフィスが、インド特集を放送した後に家宅捜索を受けました。”モディ・クエスチョン”(2023年)は、2002年にグジャラート州で起きた一連の暴動で首相が果たした役割を探るドキュメンタリー。ボリウッドの作品は、過激派の脅迫によって定期的に中断、破壊、閉鎖され、Sahil 自身も、風刺ロックバンド WORKSHOP で政治家と悪徳警官を罵倒した際、検閲に直面しました。Sahil が “偉大なる独裁者” や “鉄拳を砕く” のような曲を書くことの結果を恐れているとしても、彼はそれを表に出すことはありません。恐れよりも、彼は何度も自分の特権と、それを使って抑圧と闘う責任について言及します。
「俺のような人間は、アパートでくつろぎながら、こう言うこともできる。これは俺の戦いではないんだ。普通の平穏な暮らしを送ればいいってね。俺は何気ない生活を送れるのだから。だけど、踏みつけにされそうになっている人たちが大勢いる。いずれは反撃に出るべき人たちが。抗議の力、情報の力によって、俺たちは実際に変化を起こすことができるはずだ。どんな形であれ、善戦する人たちはたくさんいる。そして、願わくば、より多くの人々が目を開き、自分たちが持っている特権や、声を上げる必要があるという事実に気づくことを期待しているんだ。そして、この先、より良い日々が待っていることもね。俺たちは、自分たちが見つけた世界よりも良い世界を残すことができる、すべての人々にとってより公正で平等な世界に住むことができると信じたい。他人を親切に扱い、専制や抑圧に負けることはないとね。しかし、実際には、これは長い戦いで、変化は一夜にして起こるものではない。だからこそ俺は、より良い世界を作るために、時間、エネルギー、努力、時には命さえも犠牲にしてきたすべての人々に敬意を表したいんだ」

実際、Sahil 自身もより良いインドのメタル世界のために戦い続けてきました。
「俺たちも DEMONIC RESURRECTION でオリジナル曲を演奏するようになって、観客から瓶や石を投げつけられたものだよ。バスドラのペダルさえも手に入れるのが困難だった。レコード会社もなく、”ロック・ストリート・ジャーナル” という地元のロック雑誌があり、大きな大学では毎年、文化祭でバンド・バトルをやっていたくらいでね。当時はそれしかなかったんだ」
インドにおけるメタルのリソース不足に直面した Sahil は、インドのバンドを実現させたいなら、自分でやるしかないと決意しました。彼は、インド初のメタル専用のレコーディング・スタジオを設立し、その後すぐにインド初のメタル・レーベルである Demonstealer Records を設立します。そこで自身の音楽を発表し、ALBATROSS や今は亡き MyndSnare といったインドのバンドをサポートするだけでなく、彼のレーベルは BEHEMOTH や DIMMU BORGIR といった入手困難なバンドのアルバムをライセンスしリリースしました。また、元 DEMONIC RESURRECTION のベーシストである Husain Bandukwala と共に、インドで唯一のエクストリーム・メタル専門のフェスティバルである”Resurrection Festival” を立ち上げ、長年にわたって運営しました。インド・メタルシーンの柱としての Sahil の地位は議論の余地がありません。しかし、自身の影響力と遺産について彼は実に控えめです。
「でも、もし俺がやらなくても、おそらく他の誰かがやってきて、いつか俺の成したことをすべてやっていただろうね。でも、もし私が何らかの形で貢献できたのなら、それで満足だ。私は人生をメタル音楽の演奏に捧げているのだから」
Sahil は、貧困が蔓延している社会構造に加え、意味のある音楽ビジネスのインフラがないため、インドでバンドを存続させるためには基本的な収入が必要だと説明します。また、移動距離が長いためバンに乗って全国ツアーに出ることはできず、飛行機代やホテル代も考慮しなければならないことも。さらに最近まで、独自のPAシステムを備えた会場を見つけられることは稀で、各会場でPAシステムを調達し、レンタルしなければなりませんでした。
「その結果、ほとんどのバンドが赤字になり、長期的には解散してしまうんだ。今はマーチャンダイズで、なんとかやっていこうというバンドもいる。ツアーができるバンドもあるけど、簡単なことではないんだよ」

Sahil は早い時期から、物事を実現するために必要なことは何でもやると決めていました。
「メタル・ミュージシャンを続けられるように、自分の人生を設計したんだ。親と一緒にいること、子供を作らないこと、休暇にお金をかけないことも選んだ。自分がやりたいことはこれだとわかっていたから、そういった犠牲を払った。もし、友人たちのように給料が高くない仕事をするなら、その予算でどうやって生きていくかを考えなければならないだろうからね」
幸運にも、彼は “Headbanger’s Kitchen” というチャンネルと番組で、YouTuberとしてのキャリアを手に入れることができました。当初は一般の料理番組としてスタートした彼のチャンネルは、仲間のメタルミュージシャンにもインタビューを行いながら Sahil が実践しているケト食を推奨するプラットフォームへと発展し、今では彼の主な収入源となっています。
しかし、彼の最愛のものがメタルであることに変わりはなく、彼自身の努力もあって、この10年ほどでインドのメタルシーンは花開き始めています。多くの色彩、創造性、活気を伴いながら。ただし、インドから生まれるバンドは、インドと同じくらい多様でありながら、ほとんどの場合、彼らは民族的なモチーフを過剰に使用することはないと Sahil は語ります。
「というのも、この国のメタルの魅力のひとつは、自分たちの文化に反抗することだからね」

オールドスクールなスラッシュとメタルを演奏する KRYPTOS、ブルータルなデス/グラインドを演奏するGUTSLIT、シッキム州の SKID ROW, もしくは WHITESNAKE とも言われる GIRISH AND THE CHRONICLES、メイデン風の高音ボーカルでホラー・メタルを演奏する ALBATROSS, 弊誌でインタビューを行ったインドの DREAM THEATER こと PINEAPPLE EXPRESS などこの地のメタルは意外にも、伝統への反抗意識から西欧の雛形を多く踏襲しています。
彼の地の多くのスタイルやサブジャンルが西洋の聴衆になじみがある一方で、社会的・政治的システムへの怒りや、地元の文化や神話を参照した歌詞には、インド独特の風味が際立ちます。ムンバイのスラッシャー、ZYGNEMA の最新シングル “I Am Nothing” は、インドの多くの地域で未だに悲しいことに蔓延している女性差別やレイプ文化に対して憤慨した楽曲。そして、The Demonstealer のバンドである DEMONIC RESURRECTION は、壮大なブラック・シンフォニック・デスメタルを得意とし、前作 “Dashavatar” はヒンドゥー教の神 Vishnu の10のアバターについて論じています。そして、ニューデリーのBLOODYWOOD。スラミング・ラップ・メタルとインドの民族音楽を組み合わせ、英語、パンジャブ語、ヒンディー語を織り交ぜながら、政治的、個人的な問題に正面から取り組む歌詞を描いた彼らのユニークなサウンドは、近年ますます話題になっています。
「インドはとても大きく、多様性に富んでいて、これがインドだと断定できるものは何もない。彼らはパンジャブ音楽を使うけど、その音楽はインドの南部では人気がないんだ。言語も文化も音楽も違う。国語もなく、すべてが多様なんだよね。でも BLOODYWOOD は、欧米や世界中の人が “インドのメタルはどんな音だろう?”と興味を持ったときに、聴きたいと思うようなものを捉えているんだ」
つまり、Sahil Makhija はもっとポジティブで、特に彼が愛するヘヴィ・メタルの未来については楽観的です。
「インドのバンドがもっと国外に進出するのは間違いないだろう。10年前と比べると、みんなもっとたくさんツアーをやっているし、国際的なバンドがインドで演奏することも増えてきた。今後数年の間に、インド全土でそれなりのシーンと強力なオーディエンスを築き上げることができると思うよ」

参考文献:Bandcamp Daily: Demonstealer Fights For a Better India Through Death Metal

No Clean Singing:AN NCS INTERVIEW: DEMONSTEALER

Demonstealer’s Incendiary Metal Assaults “The Propaganda Machine” (Track-by-Track Rundown)

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HAXPROCESS : THE CAVERNS OF DUAT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LOTHAR MALLEA OF HAXPROCESS !!

“Ghost Reveries Really Opened My Eyes To a Lot Of Advanced Song Writing Skills”

DISC REVIEW “THE CAVERNS OF DUAT”

「僕たちのドラマーは、Mike Portnoy の大ファンなんだよ。その好き具合は想像を絶するものだ。僕は彼のようなスタイルのドラムでデスメタルのリフを演奏するのがとても好きなんだよ。通常のブラストビートやDビートなど、とても効果的なドラムパターンだけど現在のメタルの多くのバンドが使いすぎている傾向があるものよりも、プログレッシブなリズムは曲をよりダイナミックで面白いものにすると思っているんだ」
様々なデスメタルがフロリダから発信された古き良き時代を覚えているでしょうか? 時代は変わりましたが、HAXPROCESS はかつての “メッカ” からプログレッシブなデスメタルの進化形を生み出そうとしています。敬愛する RUSH と同じトリオの形態 (ベースがいるときもある) を選択したジャクソンビルの新鋭たちは、デビュー作 “The Caverns of Duat” で BLOOD INCANTATION や FACELESS BURIAL を手がけた有名エンジニア Pete DeBoer をミックス&マスターに起用。強力なパフォーマーと同じ舞台に上がり、緻密なプログレッシブと残虐なデスメタルの新たな架け橋になろうと目論んでいるのです。
「僕が初めて聴いた OPETH の曲は “Isolation Years” だったと記憶している。このバンドについては、デスメタルとアコースティックな音楽のコントラストがどうのこうのという話はよく聞いていたのだけど、”Isolation Years” では、その美しいアレンジと構成に意表を突かれたんだ。”Ghost Reveries” で、僕は多くの高度なソングライティング・スキルに目を見開かされたんだよ」
そのバンド名から伝わるように、HAXPROCESS は明らかにスウェーデンの知と血の革命者の伝統を受け継いでいます。しかし、その場に留まるだけではありません。プログレッシブな筋肉を駆使し、サイケデリックなインパルス、ワイルドなリード、無骨なオールドスクールのセンスで、ATHEIST から BLOOD INCANTATION, 時には RUSH と MORBID ANGEL のキメラまで、縦横無尽にメタルのエピックを更新していきます。
「僕は昔から、フリジアン・ドミナント、ハーモニック・マイナー、理論を知らない人には “エジプト・スケール” とでも言おうか、とにかくあのメロディが好きだったんだ。この傾向は、RAINBOW の “Gates of Babylon” や IRON MAIDEN の “Powerslave” など、トラディショナル・メタルに傾倒していた頃に好きだった曲からきていると思うんだよ」
加えて、HAXPROCESS には NILE のようなエジプトへの深い造詣が存在します。古代エジプトの地下世界、ドゥアト。ヒエログリフでは川、山、そして洞窟を含む変化に富んだ地形で描かれたこの未知の場所の探索を、HAXPROCESS は音楽で買って出たのです。フロリダ出身のサウンドを生かした邪悪なリフ、複雑な音楽的パッセージ、そして砂漠とピラミッドの旋律によって、彼らはオシリスの領域へと降りていきます。時に、IRON MAIDEN のインスト曲を思わせるクラシックで華やかなアレンジも見事。
今回弊誌では、フロントマン Lothar Mallea にインタビューを行うことができました。「多くの人が BLOOD INCANTATION の先駆けだと言っていたので、TIMEGHOUL をチェックすることにしたのだけど、とても驚いたよ。BLOOD INCANTATION が影響を受けたのは間違いないが、TIMEGHOUL の音楽は多くの人が思っているよりもずっとユニークだ」 どうぞ!!

HAXPROCESS “THE CAVERNS OF DUAT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ATROCITY : OKKULT Ⅲ】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER KRULL OF ATROCITY !!

“Atrocity And Myself Were There When It All Started!”

DISC REVIEW “OKKULT Ⅲ”

「80年代に、私の家でも何度かパーティーを開いたんたけど、メタルヘッズとゴスキッズたちはお互いに少し離れたところにいようとしたんだ。別の部屋にいることさえあって、私が走って行き来しなきゃならなかったこともあったくらいでね (笑)。だからこそ、90年代半ばに ATROCITY でメタル、ニュー・ウェーブ、ゴシックのクロスオーバーを行い、彼らを引き合わせるというアイデアが当時生まれたのかもしれないよね」
INSTIGATOR の名でドイツにおけるハードコアの煽動者となった最初期から、ATROCITY と Alexander Krull はその音楽性をカメレオンのように変化させつづけています。テクニカル・デスメタルの一大叙事詩 “Todessehnsucht” を作り上げた時代、ゴシックやインダストリアルを咀嚼し PARADISE LOST や SENTENCED の先を歩んだ時代、 妹の Yasmin と共闘してアトモスフェリックなメタルにおける女性の存在をクローズ・アップした時代、80年代のニュー・ウェーブやポスト・パンクのカバーでポップを追求した時代。ATROCITY は常に時代の先を行き、実験と挑戦の残虐をその身に刻み込んできたバンドです。
「ATROCITY のアーティスト、ミュージシャンとして、私たちは音楽的な自由を持ち、異なるアプローチでアルバムをレコーディングすることが好きなんだ。ファンとしては、常に自分の好きなものを選ぶことができるし、リスナーは気分によって、ブルータルなデスメタルが似合うか、ダークなメロディーを持つアトモスフェリックな音楽が似合うかを決められるんだから、それでいいんじゃないか?」
ATROCITY を語る時、頻繁に登場するのが “Todessehnsucht” が好きすぎてそれ以降のアルバムを認められない問題でしょう。たしかにあの作品は、イカれたテクニカル・デスメタルでありながらどこか気品があり、耽美と荘厳を兼ね備え、暗闇にフックを携えた欧州デスメタル史に残る不朽の名品です。
インタビューで Alex が言及しているように、ドイツ語のタイトルもミステリアスかつ斬新で、ここでも RAMMSTEIN の先を歩んだ早すぎた挑戦でした。音楽の世界では、往々にして真の先駆者が成功を得られないことがありますが、ATROCITY はまさにそうした存在で、ゆえにメタルの地図がある程度定まってきた今こそ、私たちは彼らの旅路を再度歩み直す必要があるのではないでしょうか。当時は突拍子もないで片付けられたアイデアも、今となればすべてが “先駆” であったことに気づくはずです。つまり、ATROCITY は結局、”道” を外れたことなど一度もなかったのです。
「2004年に行った “Atlantis” のコンセプトに関する大規模な作業では、オカルトに関するさまざまな情報や接点が驚くほど豊富にあったんだ。科学的、考古学的な研究、秘教的な理論に対する神話的な視点、第三帝国のオカルティストの不明瞭な解釈、UFO学のような突飛な世界まで、さまざまなものが存在した。そして、次に私たちが思いつくコンセプトは、世界の謎や人間のダークサイドについてかもしれないと、ほとんど明白になったんだよな。そして、1枚のアルバムでは不十分で、ここに “Okkult” 3部作が誕生したわけだ。ダークで壮大で残忍な音楽で、まさにATROCITY のこの10年間を表現しているよ」
祖父がヴァンパイア伝説の震源地、トランシルヴァニア出身であることからオカルトに興味を惹かれた Alex は、そうして世界各地の怪しい場所や伝承、ダークで壮大で残忍なデスメタルを使ってホラー映画のようにダークサイドを描くライフワークに没頭するようになります。”オカルト・シリーズ” と題された深淵もこれが3作目。
この一連の流れでバンドは、遂にデスメタルの最前線に復帰しながらも、やはり実験の精神は微塵も失うことはありませんでした。Elina Siirala (LEAVES’ EYES) と Zoë Marie Federoff (CRADLE OF FILTH) をゲスト・ボーカルに迎えた “Malicious Sukkubus” では暗黒のストンプにシンフォニックな光が差し、”Teufelsmarsch” では90年代のゴス/インダストリアルを逆輸入しつつその邪悪に磨きをかけます。重要なのは、常にオカルティックなエニグマと、地獄の腐臭が共存していること。ATROCITY の闇への最敬礼はやはり、本物の毒と気品を兼ね備えています。
今回弊誌では、レジェンド Alexander Krull にインタビューを行うことができました。「私たちはヨーロッパで最初に結成されたエクストリーム・メタル・バンドの1つとしてスタートし、メタル音楽の新しい地平を開拓するパイオニアとなり、多くの変わったプロジェクトに携わり、メタルで初めて他の音楽スタイルを組み合わせていったんだ」 どうぞ!!

ATROCITY “OKKULT Ⅲ” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SANGUISUGABOGG : HOMICIDAL ECSTASY】


COVER STORY : SANGUISUGABOGG “HOMICIDAL ECSTASY”

“A Chuck Jones or Tex Avery approach, where we rip out entrails and we’re jumping rope with them.”

HOMICIDAL ECSTASY

Devin Swank は SANGUISUGABOGG が笑われることを気にしてはいません。オハイオ州コロンバスのフロントマン(そして時折スタンダップ・コメディアン)は、デスメタルのピエロ的な側面、道化役を強く意識しています。9月にエリザベス2世が亡くなったとき、彼はファンのお気に入りである “Dead As Shit” をステージ上で彼女に捧げ、SANGUISUGABOGG のミームを煮詰めた自虐的な Instagram アカウントを運営しています。ソーシャルメディアの誰かが、バンドの増え続けるTシャツ・デザインのストックをぼろくそに言ったときには、彼らの Encylopaedia Metallum のジャンルを “マーチ・コア” と変更。血みどろにこだわった歌詞も、怖いというより喜劇の匂いがします。
「俺はこれを面白いことだと思っている。トムとジェリーやロードランナーのチャック・ジョーンズのようなアプローチで、内臓を引きちぎって縄跳びをするんだ」

オハイオの悪名高い、境界を押し広げる、吸血デスメタルの SANGUISUGABOGG は、CANNIBAL CORPSE, MORTICIAN, GWAR, DETHKLOK といったビジュアルやステージにも拘った先達からインスピレーションを得て、90年代初頭のアクションコメディ “Sgt. Kabukiman N.Y.P.D” からカブキマン軍曹を招集し、ホラー・コメディのセンスで、妥協のない、率直で、強烈なデスメタルを作り上げています。
自称ホラー映画の狂信者で、10 歳のときに両親に引きずられて劇場でリングを見に行ってトラウマとなったSwank。トロマ映画とミュージック・ビデオでのコラボレーションは、BOGGブランドを確立することにつながりました。
「トロマと一緒に仕事をするのは本当にクールだったね。それは俺たちの夢のようなものだった。バンドを結成する前から、俺たちは皆巨大なトロマヘッドのようだった。トロマが忙しくしていなかったら、今もトロマと一緒に仕事を続けていただろう。彼らは今、”トキシック・アベンジャー” のリブートに取り組んでいるからね。エクストリーム・ミュージックとホラーの間には間違いなく境界線がほとんどなくて、両者とも視覚的にも音響的にも非常にインパクトがあり、人々に語りかけ、人々を魅了する。そうやって多くの時間を一緒に過ごして、脳が地獄にワープして戻ってくるように笑い合っているんだ」

同時に、Swank と彼のバンドメンバーは、デスメタルのテクニックにも専念しています。「俺たちは自分たちの音楽性、演奏、そしてどれだけ一生懸命に働くかをいつも真剣に考えてるんだ」
つまり、面白いバンドであることとコメディ・バンドであることの間には明確に違いがあって、SANGUISUGABOGG は後者と間違われることを望んでいないのです。”Homicidal Ecstasy” は彼らにとって2枚目のフルアルバムで、ここにはしっかりと彼らの旗が聳え立っています。ニューシングル “Face Ripped Off” には、JESUS PIECE の Aaron Heard がゲスト・ボーカルとして参加していて、その点でも彼らの活動がシーンに認められつつあると伝わるでしょう。
「俺たちには証明したいことがあったんだ。今回はもっと真剣に取り組んだし、その上、何かをまとめるための時間があったから、より多くの心を込めたんだ」
SANGUISUGABOGG は、FROZEN SOUL, UNDEATH, NECROT, TOMB MOLD, SKELTAL REMAINS, GATECREEPER といったレーベルメイトの北米デスメタル・バンドと共に、”NWOOSDM”、オールドスクール・デスメタルの旗手としてリリースを独占しています。
そして Swank は、OSDMを新しい世代の耳へと届けるムーブメントの一部であることを誇りに思っているのです。ちなみに、FROZEN SOUL と SANGUISUGABOGG は過去に、難読バンドロゴ対決で戦ったライバルでもあります。
「若い人たちに受け入れられているこのスタイルのデスメタルの先駆者になるために、全員が同時に成功を収めたのはクールなことだ。FROZEN SOUL と UNDEATH のメンバーは親友のようなものだ。みんなお互いをサポートし合っているんだ。UNDEATH とは2回ツアーをやったし、FROZEN SOUL と自分たちが同じレーベルになったことで、これから一緒にいろいろなことをやっていくことになると思う」

SANGUISUGABOGG が最初にシーンに登場したのは、2019年の “Pornographic Seizures” で、1日で録音、トラッキング、ミックスされたプリミティブ・デスメタルの電撃的作品でした。Bandcamp のジャンル・タグを調べれば誰もが知っているように、そうした何処の馬の骨ともわからない地下作品は毎週何十枚もリリースされています。しかし、”Pornographic Seizures” は、そうした有象無象の頂点に立つことができたのです。
「アンダーグラウンド・サーキットで話題になるだろうと思っていた。もちろん、大きなメディアに、この作品が取り上げられるとは思っていなかった。でも、頭の片隅には、これが話題になるようなクールなものになるかもしれないし、ライヴでもクールなものになるかもしれないと思っていたんだ。EP がリリースされる前にガレージ・ライブをやったんだけど、リリースされた瞬間に NPR に取り上げられたんだ。子供の頃に尊敬していたミュージシャンたちが、この曲について話しているんだ。これは想像していたよりもずっと大きなことだと思ったね。最初からとても感謝していたし、謙虚な気持ちでいたよ」
“Pornographic Seizures” がネットで話題になった直後、SANGUISUGABOGG はツアーを開始します。すると最初のツアーで、メタル界の重鎮 Century Media の社員が、レーベルのA&R担当者にEPを渡すと連絡してきたのです。しかし、少なくとも最初はうまくいきませんでした。
「彼らのA&Rからメールが来て、本当に悪口は言わなかったけど、ちょっと馬鹿にしていて、最初は興味がなかったんだ。それで、無知でふざけた感じで、EP のレコードを出すときに、Century Media の悪口を書いたステッカーを貼り付けたんだ。彼らがメールで言っていたことを引用して、”From The Posers That Brought You Deez Nuts” (君にタマキンをもたらすポーザーより) と書いたんだ。それを売ったら、みんなが大喜びして、いつの間にか彼らのA&Rがそれを知って、”お前たちのことを誤解していた” って言ってきたんだよ」

しかし、Century Media とのレコード契約のインクが乾く前に、バンドには嵐雲が立ちこめはじめます。まず、COVID-19 の大流行でライブハウスが閉鎖され、予定されていた BLACK DAHLIA MURDER, CATTLE DECAPITATION, KNOCKED LOOSE とのツアーが頓挫。その後すぐに、結成当初のギタリスト Cameron Boggs とバンドの他のメンバーとの間に距離ができ始めます。Boggs は Century Media からのデビュー作 “Tortured Whole” には参加しましたが、それが SANGUISUGABOGG への事実上の最後の貢献となりました。
「彼は約7ヶ月間、俺らと一緒に練習することはなかった。パンデミックの後に戻って最初のツアーをしようとした時に、正式に脱退するとメールを送ってきたんだ。その時、彼は額にアルバム名のタトゥーを入れたんだけど、そこからはもう会わなくなったよ」
バンドの創設者 Boggs は高校時代には友達がゼロで、クラスでゲイの子ということで激しくいじめられていました。学校生活は悲惨でしたが、彼と Davison は SUICIDE SILENCE から BLOOD BROTHERS までを楽しみ、最終的には TRAPPED UNDER ICE や COLD WORLD のようなハードコア・バンドまで、その足跡を辿っていきました。Boggs は小学4年生からギターを弾いていて、高校を卒業するとハードコアの中に受け入れるコミュニティーを見つけ、その後、ユースクルーハードコア、スクリーモ、テクデス、ブラックメタルなど、ヘヴィなスペクトルのあらゆるバンドでプレイするようになりました。

彼らが始めたベッドルームのブラックメタル・プロジェクトは、最終的にデスメタル・バンドである SANGUISUGABOGG へと変化していきました。当初は Boggs と Davidson の2人組で活動する予定でしたが、ボーカルが必要だと考えた Boggs が Facebook で Swank と出会い、1週間後にデモを録音しに来るように依頼。すぐに意気投合し、最初のセッションの帰りの車の中でミックスを聴きながら、曲が終わるたびにお互いに顔を見合わせ、「ヘヘヘ、シックだね」と、さながら “Beavis and Butt-Head” のように笑いあっていたのです。
Boggs の短期間のブラックメタル・バンドでのステージネームはSanguisuga(ラテン語で吸血鬼の意味)でしたが、”bog” がイギリスのスラングで “トイレ” を意味することを知り、このプロジェクトでこの2つを組み合わせることにしました。つまり、吸血トイレ。最初から彼らのジョークは冴え渡っていたのです。
Boggs の脱退は短期的には事態を複雑にしましたが、新しく改良された SANGUISUGABOGG への道を開くことにもなりました。ベースを担当するために最近加入した Ced Davis が、ギターにスライド。ベースは MUTILATRED の Drew Arnold が担当することに。そして、バンドの共同創設者であり、”Tortured Whole” のほとんどの曲の作詞者でもあるドラマーの Cody Davidson が存在感を増して、ラインナップはさらに充実しました。Swank によると、SANGUISUGABOGG は2022年に125回という異常な数のライブを行ったそう。それは、大胆な新しい構成から始まりました。
「俺たちはただ、何かバカなことをやろうぜって感じだったんだ。俺の好きなバンドのひとつにAGORAPHOBIC NOSEBLEED がいるんだけど、彼らにはベースがいなかったんだ。彼らはギターをベース・キャブに通すということをやっていた。PIG DESTROYER もそうしていたな。だから、”2人のギタリストを使って、俺らが聴いているデスメタル・バンドが得意とするような泥臭いトーンでやってみよう” ということになったんだ。そして、(2022年初頭の)NILE と INCANTATION のツアーで試してみることにして、そこからは、これにこだわろうということになったんだ」

“Homicidal Ecstasy” でバンドが捉えた腹の底に響くような低音の音色は、その実験の成功を裏付けています。
「ライブのサウンドをできるだけ再現したかったんだ。サブ・ウーファーやローエンドの下にあるベースの音を再現している。でも、これはギターなんだ。一方で、ベース・ソロも入っていて、そのサウンドは “甘い” んだよな」
“Homicidal Ecstasy” の音の病は、そのベース音にとどまりません。Swank は、このアルバムがバンドにとってこれまでで最も協力的な作品であると自負していて、メンバー全員がリフの製造を担当しています。ゆえに、スタジオで制作された前作とは異なり、”Homicidal Ecstasy” は素晴らしいライブバンドの作品のように聴こえるのです。彼らは過去1年半、デスメタルの王道、ハードコアの伝説、そしてハングリーな若手バンドとの共演を果たしています。そのすべてが反映されているようなサウンド。”Homicidal Ecstasy” は、その打撃効果に一途でありながら、グルーヴ、スピード、そしてメロディーと、さまざまな方法で豊かさを実現しているのです。
“Homicidal Ecstasy” は歌詞やテーマの面でも大きな進歩を遂げていますが、これは Swank がようやく歌詞を書くのに十分な時間が取れるようになったため。連続殺人犯のドラマ “デクスター: 警察官は殺人鬼” に触発されたアイデアから始まったこの作品は、デスメタルにおける殺人に対する執着を一種の麻薬のように描いています。
「猟奇殺人はハマってしまうようなもの。多幸感があって安心できるもの。必要で切望するもの。長い目で見れば自分を傷つけるもの。だけど、80年代にティッパー・ゴア(アル・ゴアの元妻で、PMRCを率いて、暴力的あるいは性的に露骨な歌詞が含まれる音楽を批判) に狙われていたらと思うと、フランク・ザッパやディー・スナイダーと一緒に、このテーマがいかに深刻でないかを訴えていただろうからね」

確かに、”Black Market Vasectomy” や “Necrosexual Deviant” といった楽曲は挑発的ではあるものの、基本的に笑いがあって、そこから現実の猟奇的殺人が起こるようには思えません。一方で、シリアスなテーマも存在します。
「アルバム全体のテーマはすべて死に関係していて、そのエクスタシーは多幸感のようなもの。物質やドラッグに関係している可能性もある。死は人を引き込むもの。俺たちが ”A Lesson in Savager” と呼んでいる曲があってこれは、一生殺しをやめられない男のことを皮肉を込めて歌ったもの。まるで中毒のようだ。
同じ中毒でも、現実的なドラッグにも再発のようなものがあるし。自分自身や、自分ををとても愛し、気にかけてくれる人々の周りに大きな影響を及ぼす。俺を育ててくれた祖母を亡くしたとき、俺はドラッグで自分をすり減らし壊すか、彼女のために生きるか選択を迫られた。ありがたいことに、俺は後者を選んだけど、”Mortal Admonishment” “死への戒め” では、そうしなかったらどうなるかという状況を書いた。この曲を書いたのは、いつも俺たちに手を差し伸べてくれる人がいるということを人々に知らせるため。なあ、俺らはいつでも君のそばにいる。何かを乗り越えるためにバンドや音楽が必要な場合は、俺たちがそのバンドになろう。喜んで力を貸すさ」
“Homicidal Ecstasy” が新しいファンを獲得するならば、それはバンドが自分たちの方式を破ってやり直したからではなく、自分たちの方式をより強固にするために一緒になったからであるはずです。
「俺たちは両極端なバンドなんだ。変なロゴと変な名前のバンドだから、みんな俺らのことをどう考えているのかわからない。でも、”Homicidal Ecstasy” を他の作品と比較して聴いてみると、俺らがデスメタルにより多くの愛情を注いでいることがわかる気がするんだ。もっともっと “俺ら” が入っているからな」

参考文献: STEREOGUM:Band To Watch: Sanguisugabogg

REVOLVER: SANGUISUGABOGG

METAL INJECTION:SANGUISUGABOGG: Trauma, Troma Entertainment & The Horrors Of Homicidal Ecstasy

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RVNTVH : CONTEMPLATION OF THE VOID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RVNTVH !!

“We’re Pretty Much Filling In The Gap Where There Wasn’t Any Indonesian Band That Sounds Like This.”

DISC REVIEW “CONTEMPLATION OF THE VOID”

「インドネシアのメタルシーン自体はまだまだアンダーグラウンドで、人々はメタルシーンを何か奇妙でネガティブなものとして見ているようなんだ。インドネシアでも、メタルヘッズは昔のロックスターの習慣から生まれた、ドラッグを使う酔っぱらいの一団という、本当に間違ったステレオタイプのイメージがあるんだよ」
ヘヴィ・メタル大統領として名を馳せる Joko Widodo の存在、レッチリや RATM にも認められた反抗の少女たち VOICE OF BACEPROT の登場、そしてデスメタルが盛んという伝聞やイメージから、私たちはインドネシアをメタルの楽園だと想像します。しかし、隣の芝は青く見えるもの。彼の地に登場した “インドネシアの OPETH” こと RVNTVH (ルントゥフ) は、Joko Widodo の “売名” を疑い、メタルはここでもアンダーグラウンドだよと嘆きながら、それでもプログレッシブで悲しみを湛えた魂を南方から開花させようと真剣です。
「僕たちは、インドネシアにこういうサウンドのバンドがいなかったからこそ、そのギャップを埋めているようなものなんだ。僕が理解しているかぎりでは、OPETH やそれに類するバンドに熱中している人は、この地域にはあまりいないようだからね。そうしたバンドを知っている人は、ここではほんの一握りなんだ」
あくまでも、大衆的な人気はポップ・ミュージックに集中するジョグジャカルタで、RVNTVH はさながらインドネシアの多島美を体現するかの如く、様々な音楽的嗜好を持つメンバーが様々な地域から集結し、混沌と悲壮のメタルに挑戦しています。
東カリマンタンのバリクパパンに生まれ、東ジャワのバニュワンギに移り住み、IRON MAIDEN に始まり MESHUGGAH, PERIPHERY, さらにノイズやアンビエントまで愛するギター/ボーカル Arif Shuardi。
同じくギター/ボーカルの Rabin Rana は RVNTVH のリーダーで創設メンバー。ジョグジャカルタ出身で、現在はオランダのロッテルダムに住んでおり、70年代のプログレッシブ・ロックをこよなく愛します。そこから、プログレッシブ・デスメタルやアトモスフェリック・ブラックメタルに到達し、この2つの音楽に対する愛情が、RVNTVH を両者の融合の場としたのです。
この二人を核として、中部ジャワに住み RADIOHEAD や MUSE を基盤とする3人目のギタリスト Imam、Tricot, ELEPHANT GYM, COVET に影響を受けたチレゴン出身のベーシスト Denis、さらに民族音楽のスペシャリストで鍵盤、サックス、フルートを操る Rico と才能あふれるメンバーが揃い、RVNTVH は世界に打って出ることになりました。
そうした多様な出自や音楽観は、実に新鮮で驚きを秘めた RVNTVH の音楽へ見事に投影されています。OPETH を原点としながらも、KING CRIMSON, LAMB OF GOD, EMPEROR, DREAM THEATER, PERIPHERY, さらにはインドネシアの民族音楽に日本のアニメの影響まで、時間も場所もジャンルも超越した色鮮やかなナシゴレンがデビュー作にして完成しているのです。
まさに、メタルの生命力、感染力、包容力を証明するような第三世界の台頭。まだ拙い部分もありますが (特にクリーン・ボーカルの音程)、リフの一つ一つ、メロディの一つ一つがとても印象的。フルートやサックスといったノン・メタルの楽器も効果的で、なによりデビュー作から22分の大曲を収録できるのは選ばれたバンドだけ。
今回弊誌では、Arif と Rabin にインタビューを行うことができました。「Arif は “Death’s Preparation” で “真・女神転生” についてのパートを書いていたくらいでね。僕が自分のパートを付け足す前に、知らないうちにね!僕はどちらかというとガンダム派なんだよ。セイラ・マスは俺の嫁!」 どうぞ!!

RVNTVH “CONTEMPLATION OF THE VOID” : 9.8/10

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