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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IER : 物の怪】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IER !!

“Impossible Not To Mention Ryuichi Sakamoto. He left Us This Year, But His Legacy Is Infinite.”

DISC REVIEW “物の怪”

「僕が初めて陰陽師を知ったのは “X/1999″。このアニメや漫画は僕の大好きな作品のひとつで、”御霊信仰” にも影響を与えているんだ。その後、君の指摘の通り、プレイステーション2時代に大好きだったゲーム “九怨” で再び陰陽師を知ったんだ。僕は小さい頃からサバイバル・ホラーゲームが大好きなんだけど、このゲームは平安時代というその種のゲームではあまりない設定なので、とても面白かったんだ。それに、本当に怖かった!!もうずっとプレイしていないんだけど、いつかまたプレイしなおしてみたいね。もうひとつのインスピレーションは、陰陽師を主軸に据えた “帝都物語”。残念ながら、英語版もスペイン語版もないので、まだ原作は読めていないんだ。ただ、1988年の映画を見て、これはすごいと思ったんだよ!」
近年、日本とその文化にインスピレーションを得たメタルは世界中で確実に増殖していますが、アルゼンチンの IER ほどこの国に精通したメタルヘッドは他にいないでしょう。むしろ、日本人よりも日本人なブラックメタルの改革者。平安の都から現代の大都市東京まで、時を駆け抜ける IER のブラックメタルには、呪いと雅と戦慄が渦巻いています。
「”犬神佐清” では、家族、争い、無邪気さの喪失を扱っているから、そうしたテーマを説明するために、1976年の映画 “犬神家の一族” は最適だったんだ。原作は大好きなんだけど、2006年のリメイク版はまだ見ていないんだよ…市川崑監督の作品ということで、さぞかし面白い作品なのだろうね。アーティストが過去の作品を再演する (監督、主演が同じ) のは好きなので、近いうちに見てみようと思う!」
西洋の刹那的でド派手なホラーではなく、日本の真綿で首を絞めるような持続性怪奇譚に取り憑かれた IER の首謀者 Ignacio Elias Rosner は、J-Horror をテーマとした連作の制作にとりかかります。”怪談” で怒り、”うずまき” で恐怖、”妖怪” で孤独について扱った彼が今回たどり着いたのが集団の狂気でした。
パンデミックやロシアによるウクライナへの侵略、極右の台頭。2020年代の初頭に私たちが見たくすんだ景色には、まさに集団狂気、マス・ヒステリアが色濃く反映されていました。正気を保つ人間がむしろ狂人となる。Ignacio はそうした群衆時代の “うずまき” に敏感に反応して、家族という “集団” の怨念と狂気を見事に描いた “犬神家の一族” をメインテーマに現代の “物の怪” を映し出してみせたのです。
「”By The Way” の引用を発見してくれて、本当にうれしいよ!君の言葉通り、僕は自分の心をオープンにして、できるだけ自由な音楽を作るように心がけているんだ。そういった要素が音楽全体の中でフィットしているのを、とても誇らしく思っているんだ。最近はファンクやヒップホップ、コンテンポラリー・R&Bを聴くことが多いから、”物の怪” ではぜひそうした影響を披露したいと思ったんだ。プログレッシブ・ロック/メタルに関しては何でも許される(のかな?)けど、ブラックメタル・シーンはずっと保守的な気がするんだよね。そうした影響は決して強引なものではなく、アルバムの表現方法として理にかなっていると思うのだけどメタルファンを遠ざけてしまう気持ちもまあわかるよ」
Ignacio が放つ狂気は、当然その音楽にも反映されています。レッチリを黒くコーティングした “日本の都市伝説 Vol.1″、KORN と Nu-metal の遺産を黒く受け継ぐ般若の面、そしてゲーム音楽の巨匠山岡晃への敬意で満たされた黒いサイレントヒル “最後の詩”。弊誌では、ブラックメタルこそが今最も寛容かつ先鋭であると主張し続けていますが、Ignacio にとってはそれでもまだ足りなかったのでしょう。ここにあるのは、まさにジリジリとひりつくように持続する和の戦慄と瀬踏みの共鳴。その逢魔時から忌み夜に続くゾゾゾな階段は、sukekiyo の怪談にも似て変幻自在の百鬼夜行をリスナーに突きつけるのです。”犬神佐清” で聴けるような、南米特有の “トリステーザ” がアルバムを通して絶妙のアクセントとなっていて実に素晴らしいですね。
今回弊誌では、IER にインタビューを行うことができました。「アートワークは、佐清の仮面と同じように、この映画を象徴するショットだからね。このショットは、日本の大衆文化の中でかなり参照されているよね? テレビ番組や映画で佐清の脚がたくさんオマージュされているという投稿を、どこかの掲示板で見た覚えがある。”新世紀エヴァンゲリオン” でも使われたくらいにね」  二度目の登場。どうぞ!!

IER “物の怪” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IER : 妖怪】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IER !!

“Dir en grey Is One Of My Main Influences, And Also One Of My Favourite Bands Ever. They Are Really Original And Creative, But Sadly That Kind Of Japanese Bands Don’t Get Much Attention In The West.”

DISC REVIEW “妖怪”

「アルゼンチンでは、僕の世代の多くの子供たちが日本文化に触れて育っているんだ。90年代はアルゼンチンにグローバリゼーションと新自由主義をもたらした。ケーブルテレビではたくさんのアニメが放送され、いくつかの出版社が多くの漫画の権利を取得し国内で商業化を始めたんだ。90年代後半には、スペイン語でアニメを紹介する雑誌まで出版され、アニメやコスプレの大会も開催されるようになってね。」
まさに地球の裏側、アルゼンチンでこれほどまでに日本文化が花開いているなどと誰が想像したでしょうか。IER の首謀者 Ignacio Elías Rosner は、音楽で日本の怪談を紡ぎその流れを牽引する越境の使者に違いありません。
「怪談に関しては、表現しているテーマの多さに魅了されているんだ。日本人は超自然や死後の世界に対する理解が非常に異なっている。西洋の信仰とのコントラストはとても強く、僕たちを魅了し、同時に怖がらせてくれるんだ。個人的には、それらの民話や伝説、伝統が、僕が好きだったアニメや映画の至る所にあったからこそ、自分の子供時代の一部を代表していると言えるんだ。」
ケーブルテレビで目にしたドラゴンボールや聖闘士星矢、エヴァンゲリヲン。プレイステーションでリリースされるサイレント・ヒルやファイナル・ファンタジーの魅力的ソフトの数々。Ignacio はアルゼンチンに放たれたジャパニーズ・サブカルチャーの虜となり、その場所から日本の音楽や伝統文化、哲学へと歩みを進めていきました。
「怪談の復讐、抑圧、永遠の不幸、孤独、憂鬱、怒り、喪失感、失恋などのテーマは、僕が IER で取り組みたいと思っていたものと同じだった。日本文化に立ち返って、同時に比喩で表現する方法を与えてくれたんだよね。登場人物、状況、行為を通して、僕は多くの感情を外に出すことができ、同時に奇妙で不穏な雰囲気を作り出すことに成功したのさ。」
すべてを Ignacio 一人で収録する IER の J-Horror 四部作は完結へと向かっています。”怪談”、”うずまき”、そして95分の狂気 “妖怪” は壮大なコンセプトの第三幕。アルバムや楽曲タイトルを、漢字を含む日本語で表記する時点で Ignacio の本気と知性が伝わりますが、それ以上に伊藤潤二や日本のホラー映画、怪談を読み込み、分析して音に再現するその異能はある意味常軌を逸しています。
「Dir en grey は大きな影響を受けたバンドの一つで、これまでで一番好きなバンドの一つでもある。彼らは本当に独創的で創造的なんだけど、悲しいかな、この手の日本のバンドは欧米ではあまり注目されていないんだよね。例えば、アルゼンチンではほとんどの人が Dir en grey のことを「アニメ音楽」だと言うだろうから。」
西洋で生まれた恐怖と憂鬱の最高峰、ブラックメタルをプログレッシブに奏でながら、日本の音の葉を織り込む手法こそ Ignacio の語り口。原点である凶暴なカオスは、V系の美学、Dir en grey や Sukekiyo の複雑怪奇、邦画やゲームのサンプリング、伝統芸能のしきたりをカウンターとして絶妙なコントラスト、恐怖のジェットコースターを描き出します。
その情緒に、アルゼンチン由来のラテンやアコースティック、フォーク、スペイン語を重ねた唯一無二は、間違いなく西欧の例えば CANNIBAL CORPSE 的ショックホラーや猟奇よりも、不穏で不気味で奇怪に感じられるはずです。中でも、日本語で皿の数を怒号する “皿屋敷” の恐ろしさは白眉。
今回弊誌では、アルゼンチンのメタル法師 Ignacio にインタビューを行うことができました。「”うずまき” の映画化の監督であるヒグチンスキーは、僕が映画からのサンプルを含む “うずまき” アルバムをリリースした後に連絡してきてね。最初は彼が怒るのかと思ったけど…。それどころか、全然違うんだよ。彼は感激してくれて、法的な問題を避けるために、映画の権利を持っていた映画会社に連絡するのを手伝ってくれたんだ。ありがたいことに、僕は著作権侵害をしていなかったし、ヒグチンスキーは自分のSNSでアルバムをシェアしてくれたんだよ!」 どうぞ!!

IER “妖怪” : 10/10

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