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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZEAL & ARDOR : ZEAL & ARDOR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MANUEL GAGNEUX OF ZEAL & ARDOR !!

ALL PHOTOS BY GEORGE GATSAS

“For The Moment I Just Make Music That I Personally Enjoy. There Was No Intention Of Revitalising a Genre Or The Hubris Of Thinking I Can Rebirth Anything. Only Time Will Tell If It Has Any Impact. Until Then I’ll Just Keep Making Music.”

DISC REVIEW “ZEAL & ARDOR”

「すべてクロスオーバーしているんだ。全く違う分野での経験や視点が、別の分野での新しいアプローチにつながることも多いんだよね。それは私のクリエイティビティにとても役立っているよ」
Manuel Gagneux は、あまり考えることが好きではありません。というより、考えすぎることが嫌いなのです。物事の仕組みに興味を持ち、一時期は物理学を専攻し現在は VR の開発に携わるほど知的な人物であるにもかかわらず。ただし、異なる視点や異なる考え方を受け入れることが創造性をふくらませ、人が “傲慢” になることの抑止力であることを知っています。Manuel はすべてにおいて、傲慢が人類の敵であることを本能的に知っているのです。
「これほどの人気になるとは思ってもみなかったよ。見ていて楽しいバンドと一緒にツアーができたことは、この上ない成果なんだ。すべてが私たちにとって驚きなんだよ」
Manuel は、ZEAL & ARDOR の成功が “滑稽” だと語っています。なぜなら、成功は彼が求めていたものではなかったから。バンドを始めようさえとしたわけでもありません。というのも、このバンドは、ウェブ・フォーラムで、一緒になるはずのないジャンルをミックスするという奇抜なアイデアを募集したのがきっかけだったから。ZEAL & ARDOR は、抑圧された黒人奴隷の歌とブラックメタルを混ぜようという提案から生まれたものです。しかし、それは彼にとって多くの音楽的実験のひとつでした。
「”成功 “が定義される限り、音楽はポピュラリティに過ぎない。そして、人気というのは永久に続くものではないんだ。それが、私がずっと前に理解したこと。だから、私はそれを考えないことにしている。そして、人気はいつ崩れ落ちるかもしれないし、長い時間をかけて消えていくかもしれないことも承知している」
それでも、マニュエルはこの成功にとても感謝をしています。それは、芸術的に解放され、重荷にならないものである限り。MESHUGGAH, OPETH といったビッグネームとの共演や、今年のArcTanGent フェスティバルのトップを飾るなど、もはや Manuel の進撃をとめるものはどこにもないように思えます。
「今のところ、私は個人的に楽しめる音楽を作っているだけなんだよ。ジャンルを活性化させようという意図も、何かを再生させることができるという傲慢さもないんだ。インパクトがあるかどうかは、時間が経ってみないとわからない。それまでは、ただ音楽を作り続けるよ」
1989年、スイスで音楽家の両親のもとに生まれた Manuel の家では、音楽はある種の象徴でした。彼の母親はソウルとジャズのシンガーで父親はパーカッショニスト。「サルサ・パーカッションね。変なポリリズムで、音楽を聴きたくない人には迷惑な話だよ。両親は私にサックスを吹くことを強要したんだ。大嫌いだった。子供の頃の話だけど。 そしてパンクに出会った。想像以上に醜いBCリッチを買って、それから数年間、部屋に閉じこもったんだ」
バーゼルには巨大で活発なパンク・シーンがあることを知った彼は、10代でそこに参加し、メタルやグラインドコアのより過激なサウンドにすぐに耳を傾けるようになりました。子供の頃、Manuelと彼の仲間は毎週末ライブハウスに行き、ドイツのグラインドバンド Japanische Kampfhörspiele のようなショーを見てぶらぶらしていたのです。Manuel が最初のバンドを結成したのはその頃で、ブラックメタル系のバンド名で、”Ateraxie Austere Assumptionのようなもの” でした。
「他のメンバーの一人がその名前に固執していたんだ。ライブは一切やらなかった。基本的には、リハーサル室で一番安いビールを飲んで、クソみたいなマイクで叫んでいただけなんだ。それは素晴らしいことだったけど」
学問的には、Manuel は「全く教育を受けていない」と言います。彼は頭が良く、文学にとても貪欲でしたが、16歳の時に学校を辞めます。ただし、物理を勉強したいという思いがあり、そのために軍隊に入隊し、その軍隊を通じて大学に入るという道を選んだのです。
「軍に入隊した時、自分のやりたいことを言えるようになっていて、それが核防衛研究所で、そこから大学へ行けるかもしれないと思ったんだよな。でも、ただただ拘束され、怪しげなことをやらされるだけ。楽しかったかって?いやいや、ひどいもんだよ。怒鳴られるし。あそこで何をしたかなんて、本当は話すことも許されないんだ。辞めたくて仕方なかったんだよ」

結局、”祖国への別れも告げずに脱走” し、ニューヨークへと Manuel は急行します。ここで、彼は音楽に専念しました。
偶然にも、年配のブルース・ミュージシャンと一緒に暮らすことになり、スイス人の下宿人がミキシングの仕事をする代わりに、彼が所有する家に家賃なしで住めるように計らってくれました。この頃から、彼はインターネットでアイデアを募集するようになったのです。トライバル・メロディック・ハードコア、グレゴリアン・ポストロック、ナッシュヴィル・パワーエレクトロニクス、バロック・ブローステップなど計47枚の作品が作られましたが、その中で定着したのが ZEAL & ARDOR だったのです。
「初めてインタビューを受けることになったんだけど、”なんでこんなことしなきゃいけないんだ “って思ったんだ。とても馬鹿げていたんだけど、その時点では、本当に突飛な提案の嵐の中で、こういうことに無感覚だった。そして、ロードバーンの質問が来る頃には、信じられないという気持ちで、ただただ笑っていた。それが、今も続いているような感じさ。つまり唖然としてる」
セルフタイトルのニューアルバム。その制作状況は、デビュー作”Devil Is Fine” や、その次の”Stranger Fruit” とは少々異なるかもしれません。Manuel は今や有名人であり、車輪はよりしっかりと道を進み、好奇心よりもむしろ期待が大きい状況ですが、ただし彼はそれでもまだ初期のシンプルさからそれほど離れていないのです。つまり、重要なのは閃きとそれに従うこと。
「アルバムは私の愚かなアイデアをただ凝縮したもの。つまり、何かを得て、試してみて、脚光を浴びたらそれを完成させ、そして、あまりいじりすぎないようにするだけさ。クリエイティブな面では、”ああ、これをやったらどうなるんだろう “と考えることに夢中なんだ。こういう風にアレンジしたらどうだろう?とか鍵盤を入れたらどうだろう?とか。夢中になる子供みたいなものさ。そういう喜びはあるよね」
ZEAL & ARDOR は、アフリカ系アメリカ人のスピリチュアル・ミュージックとブラックメタルを融合させるというコンセプトに本質的に忠実でありながら、いまだに挑戦的であると感じられるバンドであることをセルフタイトルで証明します。
インダストリアルなリズム、優しく奏でられるギター、シンセサイザーのサウンドスケープを新たに纏いながら、歴史の暗い回廊に響く血と炎の濃度は不変。彼らの音楽的特異性はクロスオーバーの魅力を発揮しながらも、これまでで最もヘヴィーなサウンドをまざまざと見せつけました。
“Death To The Holy” や “Church Burns” といった曲名は、ブラックメタルの伝統を意識したものですが、奴隷時代の労働歌のようなスタイルも携え、過去の恐怖をより深く再現します。一部で使用されるドイツ語は、ワーグナーのオペラ、その恐ろしい大災害さえ思い起こさせます。
“Emersion” の美しいエレクトロニクスは、ブラックゲイズの猛風によって容赦なく遮られ、一方で “Golden Liar” はメタリックな重さを湿度の高いアトモスフィアに変換する度量を見せます。ブルースと同様にヒップホップを思わせるリズムとリリックが特徴的な “Bow” を聴けば、Run The Jewels のスリーブに似たアートワークにも納得。”A-H-I-L” のドローンがこの野心的なアルバムを曖昧に終わらせるまで、クリエイターは風変わりで鋭いまま凛としてその才を発揮し続けます。

「例えば、”Death To The Holy” の、あの奇妙でうるさい音が、このアルバムから最初に出てきたものの一つだったんだ。この音はとても迷惑で不愉快だから、これを中心に曲を作らないといけないと思ったんだ。それでこうなったんだよ。私がひとつの音を中心に曲を作り、何千人もの人々がその迷惑なものを聴かなければならないということを考えると、笑わずにはいられないよね。そして、それを楽しまずにはいられない。そのクスッと笑える感覚がない曲を頑なに作ろうとすると、十中八九、悪い音になっちゃうんだよな」
これらすべてをまとめているのが、ZEAL & ARDOR に欠かせない2つの要素です。1つ目は、これらの奇妙な枝が広がる音楽の幹で、何にもまして重要なこと。そうでなければ、全体が機能しないもの。
「私にとって、アトモスフィアは最も重要なもの。その雰囲気が半永久的に続いている限り、不快なノイズやジャンルの変更も許容されるんだ。このアルバムでは、カットされたり、合わなかったりした曲をたくさん書いた。何がこのアルバムの一部となり得るか、何が耳障りでなく面白いリスニング体験になるかを選んだんだよ。それがタイトロックなんだ」
このバンドのもうひとつの重要な部分は、物語性です。奴隷制と解放という概念は見た目よりも緩やかですが、それでも ZEAL & ARDOR を生き生きとしたものにするために非常に重要な役割を果たしています。
「”Devil Is Fine” のテーマは “奴隷のような生活” で、Stranger Fruitは “脱出、脱獄” だったんだ。このアルバムは、実際に逃亡生活を送りながら、あるいはある程度自由になりながら、”これからどうすればいいんだ?”と考えるものなんだよ。新しいフロンティアなんだ」
新しいフロンティア。つまり、くだらない古い概念や常識、権威を疑いブラックメタルのように “燃やしてしまう” こと。ただし Manuel はそれを暴力的なやり方ではなく、同調者を増やしながら達成したいと考えています。破壊というよりも創造で。
「古い権威を燃やす。その意図は大いにあったね。だけどね、ここでも私は、それでオーソリティの見解や権力者のやり方が変わることはないと自覚しているんだよ。だから何かを変えたいというよりは、むしろこれは私自身と、すでに私に同意している人たちの、過去に決別を告げる “宣言” なんだよね」
ZEAL & ARDOR がより直接的で完全に明確な態度を示したのは、2020年にリリースした “Wake Of A Nation EP” の時だけでした。警察官によるジョージ・フロイド殺害事件後の反人種差別デモをきっかけに書かれ、リリースされたこの作品のアートワークは、2本の警棒でできた逆十字であり、6曲は意図的に “ここ数ヶ月で私の仲間に起こったことに対する反応” でした。
「まさにあの事件が原点だった。当時はアメリカにいる家族のことがとても心配で、基本的には自分へのセラピーとしてあの EP を書いたんだ。あのような不確かな時代にいることは本当に恐ろしいことで、他の方法で対応する方法を知らなかったんだ」
ただし、便乗や売名とは程遠い、静かな抵抗でしたが。
「BLM 運動の理念は正しくて当然だと思うよ。どこでもそうだけど、一番悪い人が一番うるさいことが多いよね。私も職業柄、よく叫ぶ人という皮肉があるんだけど (笑)」
Manuel の音楽に対する動機は今も純粋で、他人が喜ぶものを作れば嘘くさくなる。まずは自分が楽しみ、満足するものを作るという方針はいささかもブレることはありません。だからこそ、メタルのリスナーだけでなく、様々なジャンルの信奉者がこの音楽に惹かれるのでしょう。多様性を掲げた多様な音楽で、人々はさらに予想外のこと、驚きを期待するようになりました。そんな上がりきったハードルの上を飛び越えていくのが ZEAL & ARDOR のやり方です。地に足をつけ、傲慢とは程遠い謙虚で寛容なやり方で。
「音楽を作ることは、私にとってとても地に足がついた経験なんだよ。派手なことは何もないし、気張ってもいない。ただ幸運なことに、それに対して人々が感情移入してくれることはあるんだよね。だけど、彼らの経験は私とは異なるもので、異なるけれどそれは両方とも同じように意味があることなんだよね。それが私の音楽が潜在的にできることのすべて。私が世界を変えられると言うのは傲慢で、率直に言って事実ではないよ」

参考文献: KERRANG!:Zeal & Ardor: “I just want to take people by surprise”

ZEAL & ARDOR “ZEAL & ARDOR” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【STEVE VAI : INVIOLATE】


COVER STORY : STEVE VAI “INVIOLATE”

“It’s Always Good To Push Your Boundaries. It’s Fun! The Feeling Of Accomplishment Is The Feeling Of Fulfillment.”

INVIOLATE

Steve Vai 最後のスタジオ・アルバムから6年が経ちました。エレクトリック・ギターの巨匠は、確かに他の追随を許さない驚異の作品群を有していますが、意外にもその数は決して多くはありません。彼のファンが望むことはただ一つ。「もっと!」
そして遂にその望みが叶います。”Inviolate” は Steve の最も冒険的で妥協のない演奏に満ちながら、シュレッド以上に彼のトレードマークとなった独特のニュアンスとアヴァンギャルドな個性を前面に押し出しています。
肩の手術のため片手で演奏した “Knappsack” や、ホローボディのジャズギターを使った “Little Pretty”、それに目玉のヒドラギターといった異常事態も謳歌する威風堂々。むしろ挑戦のために自ら異常事態に飛び込むその創造性は驚異的。そうして、万華鏡のようなエキゾチックなヴィジョンで、”Apollo in Color” や “Zeus in Chains” といった楽曲はリスナーの心中に喚起的な絵を描きだしていきます。それにしても、アポロやゼウス、ヒドラとはまるでギリシャ神話の世界です。
「そうなんだ。不思議な感じだよね。それって偶然の産物で、意図的なものではなかったからね。まあその後、意図的になったんだけど。”Zeus in Chains” を作ってレコーディングした後、タイトルが決まっていなかったんだよね。面白いことに、私は聴くだけで、その曲がタイトルを教えてくれることが多いんだ。それで、中間部の巨大で低音のギター・リフがハモりながら、その上に超絶不協和音の音が浮かんだところで、あの曲が “これは Zeus in Chains という曲だ”と言ったんだ(笑)
“Apollo in Color” は、妻の馬の名前なんだ。ただ、その名前を、いつも素晴らしい曲のタイトルになるぞと思っていたんだ。”Apollo in Color” ってタイトルは、基本的に僕があの曲を作るのを助けてくれた。だから、ある時は曲がタイトルを教えてくれるし、またある時はタイトルにその曲がどんな風になるかを左右されるという、逆の状況が起こり得るんだ」

同じく、神話上の存在であるヒドラをギターになぞらえたのはなぜだったんでしょうか?
「ヒドラというのは神話に出てくる竜のような生き物で、頭がいくつもあって、一つを切り落とすともう一つ生えてくるからね。だからピッタリだった。そうだ、このギターはそういう名前にするべきだ!と思ったんだ。でも、このギターのもともとのアイデアは5年ほど前に始まったんだ。マッドマックスの映画を見ていたら、砂漠を飛んでいるシーンがあって、トラックの前に縛り付けられた男があんな感じのサイバー・パンクなギターを抱えていて、それを演奏しているんだ(笑)」
映画で有名になったギタリストが、映画の中のギタリストに感化されるとは。
「あの男を見て、”あのギターはたしかにかっこいいけど、偽物だ” と思ったんだよね。それで、”あれは偽物なんだから、本物を作らなきゃ!” と思ったんだ。そこで、複数のネックとハープ弦を持つギターを作り、そのギターで曲を作ることができるようにしようというアイデアが生まれたんだよ。とんでもないギターを持ちながら、そのギターで曲を書いて、音楽を生み出す。完全にそのギターだけで演奏できる、そんな曲を作りたいと思ったのがすべての始まりだったんだ。オーバーダブもループも何もなしでね。その挑戦は、基本的にすべての弦楽器をジャグリングするような音楽を書くことだといえるだろうね」
ネックを3本にしたのはなぜなのでしょう?
「元々、3つのネックを持つギターを作るというアイディアがあったんだ。半分フレットレスになっている12弦のネック、7弦のネック、2弦がフレットレスになっている3/4サイズのベースネック、そして (ピックアップをまたぐ) 13本のハープ弦という感じかな。当時はスチーム・パンクのファッションにもハマっていたから、資料と自分のアイデアを集めて Ibanez に送ったんだ。彼らはとても興奮して、まさに壁を打ち破り、そのアイデアを実現させてくれたんだよ。最初はレンダリングが送られてきたんだけど、私はそのレンダリングを見て、”本当に作るつもりなのか?” と聞いた。そうしたら、”やるよ!” って。でも、ヒドラが家に届いてケースを開けたときは、ただただ唖然としたよ。すごかったけど、威圧感もあった。このギターで曲を作らなければならないと思ったんだ」
Ibanez の技術力は凄まじいものがありますね?
「Ibanezのデザイナーは、私が期待していた以上のことをやってのけたんだ。シンセサイザーのギター・セクションを丸ごと楽器に取り込んで、ピエゾ、サンプルホールド、サスティナー…本当に驚嘆に値する技術だよ」
すぐヒドラに馴染めたのでしょうか?
「このギターが届いて、スタジオに立てかけていたんだけど、1年半くらい、このギターの前を通るたびに不安の発作が起きるんだよね!(笑) 。このギターとしっかり向かい合って、曲を考えなければならないと思ったよ。それで、6週間かけてヒドラと共に過ごし、まず思ったのは、”なんてことをしちゃったんだろう” ということだったな。どうしてこんなことに巻き込まれてしまったんだろう?私の手足はこんなに自立していない。手が二本しかないのに、どうやって完全にシームレスなメロディーを作るんだ!ってね」

それでも、不可能を可能にするのが Steve Vai という男です。
「10秒くらい強烈な懸念があったんだけど、それから別の声が聞こえてきたんだ。こういうときはたいてい自信に満ちた自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、”黙ってやれよ、Vai! お前ならやれる! 時間をかければできるんだ!黙ってやってみろ!” ってね。”黙ってやれ!始めろ!”。そして私は、”わかったよ…” という感じでゆっくりと曲を書き始めたんだ。面白いのは、多くの場合、不可能に思えることでも一度始めてしまえば不可能に思えなくなるということなんだ。ただ、始めるだけでいい。だから、私はそうしたんだよ」
“The Teeth of the Hydra” はまさにヒドラギターのための楽曲です。
「”The Teeth of the Hydra” を聴くと、面白いことにベース、7弦、12弦、ハープ弦のすべてが、あのギターで一度に演奏されているから、非常にリニアなんだよね。イントロができたところでヴァースに入り、エレガントでシームレスなサウンドになるまで作業を続けていった。バラバラな音楽ではダメなんだ。そうではなく、ギターの、そして私自身の可能性に敬意を表したかったんだ。そして、それができたと思っているよ」
“The Teeth of the Hydra” が、ヒドラギターで作られたことは理解していたとしても、同時に通して演奏していると気づいた人は多くはないでしょう。誰もがマルチトラックでのレコーディングだと考えるはずです。
「このギターがあれば、全部できるんだ。録音した後にやったことは、ハープの弦が全てを拾ってしまいノイズが多いので、トラックをもう1つレイヤーしただけだよ」
リニアな演奏といえば、片手だけで弾ききった “Knappsack” は超絶でした。
「私にとって、楽曲の中で最も重要なのはメロディーだ。 “Knappsack” のように、片手で録音するというアイデアは必要に迫られてのことだったんだ。そして、自分にはそれができると思っていた。片手でレガートとハンマリングを駆使したギターを弾くのは、それほど難しくも、不思議なことでもないんだよ。でも、メロディーは Vai ならではのものでなければならないし、私が音楽を作る理由は、メロディーを書くのが好きだからなんだからね。”Knappsack” をレコーディングするときに、メロディとヴァースのコード・チェンジを書き出して、何かわかったような気がしたんだ。このメロディーを作れば、あとは楽勝だと思ったんだ。狂喜乱舞できる! ってね。この曲で実現したかったことのひとつは、容赦のない感じだった。私はそれが好きなんだ。執拗さの中にエネルギーがあり…Zakk Wylde と一緒にステージに立つと、それはもう容赦ないんだよね。彼のパワーは半端じゃないから、ごまかしがきかないんだ!(笑)。でも、作った後にあのビデオを見るのは本当に楽しかったし、それこそが僕の目的であるエンターテイメントなんだ。僕はエンターテイナーなんだよ!」
音楽家が片方の腕を失うというのは、一時的とはいえ大変なことで、自分の力の半分が失われたようなものでしょう。そんな中でも Vai は実にポジティブかつ楽観的です。
「そうだね、とても簡単に受け入れたよ。それは挑戦だけど、何が起きても自分の利益になるようにと考える。結局それは自分のためになっているんだよ。だから、肩が痛くなったとき、まず、現状を受け入れた。なぜなら、現状を受け入れないと深い苦しみが生じるから。戦っても決してうまくいかないけど、受け入れることでうまくいくんだよね。だから、右手が使えないこと、肩がこることを受け入れたら、片手でやるという決断も視野に入ってきたんだよ。そして、私はただ、レモンからレモネードを作ったんだ」

しかし、多くの音楽家が病気や怪我の深い悩みを抱えているのも事実です。有効な対処法はあるのでしょうか?
「私がやっているのは、楽しい時間を損なうことなく、手と体の安全を意識してベストを尽くすこと。私たちの生活の中ではいろいろなことが起こる。この41年間のツアーでも、いろいろなことがあった。だから起こったことをただ理解するんだ。人生の中でやっていることと同じだよ。不幸だと思っても、それが違う方向を示してくれることだってある。だから、ただ進むだけさ」
怪我だけではなく、例えば、”Little Pretty” という曲では、ホロウボディのグレッチで演奏するという “意識的な制限” を加えていますし、”Candlepower” ではゲインもハムバッカーも使わず、指だけで演奏しています。ジョイント・シフティングという新たな技法も生み出しました。
「この曲は、私が見つけた小さなリフから始まったんだ。私は何千ものリフを持っていて、寝る前にギターを持って演奏し、何か見つけたらそれを録音している。この曲もそんな、ちょっとした断片から始まったんだよ。このジョイントシフトのアイデアは、何年も前から頭の中にあったんだ。まず、ハードテイル・ギターが必要だった。ワーミー・バー付きのギターでは、ある音を曲げると他の音がフラットになってしまうからね。事実上不可能なんだ。そうして、音符が異なる方向に進むような一連のベンドを続けようと考えた。だから、私が他の音や開放弦などを弾いている間に、複数の音がベンドされているんだ。音を曲げながら演奏するというのは、それほどユニークなコンセプトではなく、カントリー・プレーヤーならよくやることだ。しかし、2つの音を異なる方向にベンドし、さらに3つ目の音も曲げるというのは、このコンセプトから生まれたものだよ。この奏法は私が発明したと言われているけど、どうだろうね。ジェリー・ドナヒューというギタリストがいて、彼も同じようなことをやっていたからね。でも、彼はカントリーの巨匠だから、メタルは弾かない。
時間はかかったけど、きっとワイルドなサウンドになると思ったんだ。これは変だから、やらなきゃって思った。それが、僕がギターで一番好きなことなんだ。従来のサウンドとは違う、しかし音楽的なものを考え出すこと。重要なのは、ただのギミックじゃなく、音楽的でなければならない。このジョイント・シフティングのテクニックは、いくつかのパッセージで使ったけど、私が期待しているのは時間のある若いプレーヤーがこのテクニックを見て、その可能性を理解し、さらに別のレベルに持っていってくれることなんだよね。私の頭の中には、このテクニックとそれ以上のものを使って演奏される音楽の全貌が見えている。ただ、私が本当に行きたいところに行くには時間が足りなかったんだ。完全な集中力が必要なんだよ。私が考えているところに到達するためには、1年間は集中しなければならないからね。だから、私がそれをやるかどうかはわからないけれど、若いプレイヤーたちが、Vai が持ってきたものはこれだ、これをどこに持っていけばいいんだろう?と考えてくれたらうれしいね」

“Avalancha” は Steve が今まで書いた中で最高の曲のひとつではないでしょうか?
「素晴らしいメロディーを持つ、本当にヘビーなものが欲しかったんだ。凶暴で、激しく、熱狂的なサウンドにしたかったんだけど、同時に良いメロディーが欲しかったんだ。ベースは Billy Sheehanなんだけど、”Real Illusion”(2005)時代に録音したもので、”Building the Church” とこの曲で迷った時に前者を選び、 “Avalancha” はしばらく棚にしまっておいたんだ。完成させたいとずっと思っていたから、これはいい機会だったね。基本的にベースとドラムはできていて、あとはメロディーを書いて肉付けしていったよ」
“Greenish Blues” は Peter Green へのオマージュなのでしょうか?
「そうじゃないんだ。Peter のことはもちろん尊敬しているけど、私はそういうブルース・プレイヤーではないからね。グリーニッシュ・ブルースと名付けたのは、コード・チェンジがブルースのコード・チェンジに似ているからで、この曲での私の演奏はブルース的ではあるけれど、従来のブルースというよりは私の奇妙な偏屈さが出ているんだ。グリーンという色は、私のキャリアを通じて、ほとんど最初から使っていた色なんだよね。”Alien Love Secret” のタイトルもあの緑色だよね。だから、この曲を “Greenish Blues” と名付けたのは、”Vai Blues” と言うのと同じことなんだ」
以前、Stevie Ray Vaughan にオマージュを捧げていたことがありますね?
「Stevie へのトリビュート(”The Ultra Zone” 収録の “Jibboom”)は、彼がやりそうなことを私もやっていたからなんだけど、Peter Green の場合は彼のことを考えていたわけじゃないんだ。もしそうなら、彼の演奏を聴いてその感性を自分の演奏に反映させ、偉大なアーティストに敬意を表し自分の声を出すかもしれないけど、そんなことはしなかったからね。もちろん、彼のことは知っているけど、私のお気に入りのギタリストというわけではないんだ。どうせブルースなんて弾けないしね(笑)」
明らかに Steve Vai は今でも “Little Stevie” の冒険心を持っていて、長い間ギターに熟達しているからこそ、新鮮さと興味を高く保つために新しい挑戦を行なっているようにも思えます。
「プレイヤーとしてどんな状態であろうと、実績があろうとなかろうと、自分の限界に挑戦することは常に良いことだ。何より、楽しいよね。達成感があるからこそ、充実感があるんだから。12歳のときに初めてギターを手にしたとき、すぐに病みつきになったんだ。楽譜の読み方はわかるけど、ギターの弾き方はまったくわからないという、何もできない状態だった。LED ZEPPELIN の曲集を買ってきて “Since I’ve Been Loving You” の弾き方を覚えたら最高の気分になった。そして、その感覚はずっと続いている。できないことを想像して、でもそれを実行に移せば手が届くとわかっていて、そしてそれを成し遂げて予想以上にうまくいったときは、まるでパーティーを開いているような気分になるんだ! 爆発しそうなくらいにね。いつもそうなるとは限らないよ。でも、次に進むんだ!(笑)。自分らしい表現ができたときの達成感は、喜びだね。それが病みつきになるんだよ。だって、世の中がどうであろうと関係ない。人がどう思うかなんて関係ない。政府が何をしていようが、宗教が何をしようが、経済がどうであろうが・・・自分自身の小さな秘密が進行中で、そこに集中し、それを尊重するとき、そんな時間は本当に楽しいものだ。それを尊重するべきだよね」

楽器とのコミュニケーション、あるいは楽器との関係は、プロになってから40年あまりで変化を遂げたのだろうか?それとも、20歳の頃と同じなのだろうか?
「ミュージシャンと楽器の関係はミュージシャンによって異なると思う。とても知的なアプローチをする人もいれば、とても感情的なアプローチをする人もいる。そのどれもが有効であり、そのどれにもリスナーがいるわけだから。ある人は、感情的な部分をうまく表現できず、そのような刺激を好む知的な人たちから支持されるでしょう。ある人はその逆かもしれない。私は、そのすべてが欲しいんだ。中でも私は、素晴らしいメロディーの感覚を味わいたい。それが、自分にとっては一番大事なことなんだ。泣いたり、笑ったり、ズタズタにしたり……”Inviolate” を聴くと、前作ほどシュレッドしているとは思えないだろう? だけど、それはシュレッドから離れたからではなく、単にメロディーを刺激することに興味があるんだと思うんだ。
私の場合、人生の中で演奏について、より知的なことを考えた時期がとても長かったんだ。自分のスキルを磨いたともいえる。でも、それは楽器とのつながりではなく、自分自身とのつながり、そしてそれを弦と指板のでどう表現するかということなんだ。もちろん、楽器に個性を持たせることはあるよ。でも、長年にわたってツアーに出たり、演奏したりしてきた結果、私が身につけたもの、そして今も身につけ続けているものは、楽器の上で、自分の内耳とつながることなんだ。それは、即座に創造的な表現ができるようになることと言い換えてもいいだろうね」
Vai が演奏するときの仕草や表情はとても印象的です。
「何年も前から、自分にはちょっと風変わりな動きやおかしな表情があることに気づいていて、それを叩かれることもあった。なぜ、そんな動きをするんだ?どうしてそんな変な顔をするんだ?(笑)。でも、やめられないんだよ。勝ってにそうなってしまうんだ!だから、数年前にそれに身を任せたんだよ。なぜなら、自分の自然な傾向に身を任せるって、本当に自分自身であることだし、それはとても気持ちのよいものだから。実際のところ、批判する人たちにエサを与えない限り、彼らは君に対して何の力も持たないよ。私は馬鹿にするのが大好きな人たちに、そのエサを与えてしまった。そんなことをしていたら、肝心なことを見逃してしまうよ。だから、もう今の私にとって重要なのは、楽器や観客、自分の身体とのつながりを、自然に感じられるようにすることなんだ。そして、もうそれについて言い訳はしない。それがありのままの姿だから(笑)」

かつて、Steve Vai は12時間ぶっ続けで練習をしている、なんて噂がありました。
「よく自分の練習や規律について質問されることがあるんだけど、正直言って、何もないんだよ(笑)。やりたくないことはできないからね。重要なのは情熱さ。情熱は、規律よりもはるかに優れた創造のエンジンだから。規律というのは、何かをしなければならない、苦労しなければならないということを意味する。”やりたくないことでも、絶対にやるんだ!”、誰が何と言おうと、私はそんなやり方が嫌いだよ。ここに座って2時間音階の練習をする、それが私の鍛錬だとか、私はそんな風に思ったことはないんだ。ただ自分にとって、ギターから離れることが、唯一、規律を必要とする時だったといえるね。ギターの技術やエクササイズを演奏し、30時間のワークアウト、それは喜びでしかなかったよ。好きでなければ、そんなに長い時間座ってギターを弾くことはできないからね。他のことはすべて気晴らしで、ギターが一番。なぜだかわからないけど、そういうものなんだよね。
自分自身のユニークな創造性に、自然で熱狂的だと感じられる時だけ、情熱を味わうことができるんだ。幸せをつかむためには、”偉大でなければならない”、”成功しなければならない” と信じるプレッシャーやストレスから君を解放してくれる、本当に素敵な鍵が必要だ。自分自身の創造的な喜びを表現すること。それが鍵なんだよ。そして、成功はその結果で、オマケでしかない。プリンスやボウイ、あるいはベートーベンといった偉大な芸術家を見ればわかるよね?」
とはいえ、手癖と楽しいだけでは上達しないのも事実でしょう。
「もちろん、自分の情熱のためには、ある種の規律を用いなければならないこともあるよ。ヒドラの後ろに座ったときもそうだった。訓練は必要だったけど、そのビジョンは情熱的で、達成できるとわかっていたんだ。自分の手の届かないところにあるアイデアに触発され、でもがんばればそれを手に入れられるとわかっているとき、君ならどうする?それは、宇宙が君のために特別に作り上げた本物のアイデアなんだよ。幸せになるために到達しなければならないと信じていることを、未来に先送りしてもしかたがない。今が不幸なら、いつになったら幸せになれるというんだい?幸せになれるのは、今だけなんだよ。もし君がギターを弾いていて、自分の音楽が好きならば、名声や成功への希望をすべて捨てて、今まさに演奏している喜びに全神経を注げば、それこそが成功へ邁進する創造のエンジンなんだよ」
それでも、若いギタリストにはある種の “手引き” が必要でしょう。
「”Alien Guitar Secrets” というライブストリームをやっている。そこでは音楽やギターについて、一般のギタリストが興味を持ちそうなことをすべて話しているんだ。もう一つのライブストリーム、”Under it all” では、スケールやその他のものよりも、自分自身について理解することがより重要だといった、心理的なものに焦点を当てているんだ。自分の欲求や能力など、自分自身についてどう感じているかということが、すべてに優先するからね。そして、その感じ方は、音楽家を前進させ、育成し、進化させる上で最も重要なもの。すべては、君が頭の中で自分に言い聞かせる言葉の中にあるんだからね」

“Inviolate” のツアーに私たちは何を期待すればよいのでしょう?
「ライブに来た人たちに体験してほしいのは、ただ楽しい時間を過ごしたい、楽しませたいという人たちと同じ環境に身を置くこと。音楽と完全に一体となったバンドを見ることができ、興味深く、魅力的で、楽しく、美しいメロディーを奏でるパフォーマーを見てほしい。それが、私が望む体験だよ。ショーにかんしては、もし自分が観客としてショーを見ていたらどんな感じだろう、自分が見たいもの、感じたいもの、体験したいことは何だろう、と想像しながら作るのが好きなんだ。音楽に関して言えば、今回のツアーでは、過去のセットリストを洗い直すことができる。”For the Love of God”, “Tender Surrender”, “Bad Horsie” など、みんなが聴きたいと思っている曲をいくつか、それから、カタログの中から演奏したことのない曲を入れたいと思ってるんだ。リストの中の1曲は “Dyin’ Day”(1996年の “Fire Garden” 収録、オジー・オズボーンとの共作)という曲で、一度も演奏したことがなくて、ずっとやりたいと思っていたものさ。ライブではダイナミックな流れを作ろうと思っているから、重いノイズばかりではなく、眠いバラードばかりでもなく、エネルギーを生み出したいね」
“Passion and Warfare”(1990年)は今も名盤として高く評価されている一枚です。
「とても光栄なことだよ。本当にとてつもなく光栄なことだし、稀有な存在だからこそ、それに対する評価も高いんだ。ある特定のジャンルにぴったり符号するレコードは、たとえそれが古くて名盤であっても、若い人たちでさえ少なくともチェックする必要があると見てくれるんだ。若いギタリストの中には、”Steve Vai はあまり好きじゃないけど、このレコードは名盤と言われ、みんな素晴らしいと言っているし、ウィキペディアを見ても素晴らしいと書いてあるから、とにかくチェックしてみようかな” と思う人もいるかもしれないね。だから、そういう人たちがチェックすることで、必然的にその価値を理解してくれるなら、ネットもいい場所だよね」
そして、”Windows to the Soul”(”The Ultra Zone” 収録)は、今でも Vai にとって特別な一曲です。
「私のカタログの中の多くの楽曲は、他のアーティストの楽曲よりも私の心に触れる。それはたいてい、レコーディングしているときに、自分がつながっていたからなんだ。すべての要素が一緒になっていたからね。サウンド、メロディ、ソロ、フレージング。そのつながりの深さが、効果を持続させるんだ。その曲を聴くと、その曲とのつながりが聴こえるからね。ストーリーがあり、波があり、流れがある。今までやったことのないようなテクニックも入っている。もうひとつ、僕にとって本当に特別な曲、おそらく最も革新的な曲だと思うのは、”Modern Primitive”(2016年)の “And We Are One” だね。あれがソロなんだよ、私にとっては。独特で、全部メロディで、全部フレージングなんだ。あそこでやったことには、聴いたことがない要素がたくさん含まれていた。とても繊細だ。でも、それが好きなんだ。このような小さな変化は、私にとって小さな秘密となり、時には他の人がそれを発見することもあるんだよ」

“For the Love of God” で使用した Ibanez Universe はプリンスに贈られました。
「私はプリンスが大好きで、大ファンだったんだけど、彼が7弦を持つべきだと思ったんだ、彼が7弦を使って何かするのを見たいから。どのギターを何に使うかなんて考えもしなかったよ。何本も持っていたから、言ったんだ。”彼に7弦をあげたいんだ。あれはどうだろう?” ってね。それが “For the Love of God” を弾いたものだとも知らなかったんだ。でもいいんだ、彼はとても親切で、とても感謝してくれて、こう言ったからね。”今度、みんなが送ってくれたギターを置く部屋を作るから、そこに置くんだ”ってね。最高だったよ」
彼は “Tender Surrender” をカバーしたそうですが?
「確かそうだったと思う。それか “Villanova Junction” (Jimi Hendrix) か。あまり自信はないんだけど。CDの箱には ‘Tender Surrender’ by Steve Vai と書いてあって、彼は最初のヴァースを何度も何度も弾いているんだけど、私にはジミのように聞こえるんだ。でも、どうだろうね」
Yngwie Malmsteen、Zakk Wylde、Nuno Bettencourt, Tosin Abasi と行ったGeneration Axe ツアーはどう受け止めているのでしょう?
「私のお気に入りだよ。彼らは兄弟みたいなもので、ツアーでは本当に楽しい時間を過ごしたよ。彼らは完全にプロフェッショナルだ。いい意味で非常識で(笑)、みんな自分の仕事に自信を持っていて、長年にわたって究極の形で結果を出してきた。バンドやソロ・プロジェクト、その他もろもろを離れて、ただ外に出るという素晴らしい機会なんだ。簡単な仕事だよ。あの人たちと一緒にいるだけで、とても楽しいよ。みんな大好きだし」
Frank Zappaと共演した時期は、その後のキャリアにとってどのように役だったのでしょうか?
「Frank と一緒に仕事をしていたとき、私はとても若かったんだ。だから、とても観察力が鋭かった。彼のやることなすことすべてを見ていたから、その後の自分行動の多くは Frank を見ていたことに起因しているんだ。彼の仕事の進め方を見ていたんだ。Frank はいつも公平で、人をだましたり、嘘をついたりすることはなく、正直で、いつもクリエイティブだった。すべてがクリエイティブになるチャンスだった。彼はいつも賢くて機知に富んでいた。フランクの口から何が出てくるかわからないけど、みんながそれを待っていた。彼は、自分の仕事に完全に専念していた。私が Frank から得たものの中で、私のキャリアに深く関わっていると思うのは、彼が自由な思想家であったということ。彼は、他人の信念や恐怖心に縛られることなく、自分の考えで真っ直ぐ進んでいたんだよ。だから、私は思ったんだ。”これこそ、音楽をやる方法、やりたいことをやる方法だ” とね。
また、Frank はビジネス面でも、ミュージシャンとして自分を守る術を心得ていて、私も多くを学んだよ。スタジオについても、編集やレコーディングのやり方など、すべて彼を見て学んでいった。つまり、数値化できないんだ。18歳のときに Frank のテープ起こしを始め、20歳のときにバンドに加わり、3年間一緒にツアーをし、常にレコーディングをしていたからね。その年頃はとても感受性が豊かだから」

Eddie Van Halen も Vai にとって重要な人物です。
「素晴らしい思い出がいくつかある。ある時、ソフトボールをやっていて、その時に初めて彼の兄(Alex)に会ったんだけど、彼はとても印象的な男で、彼の奥さんと私の子供も一緒に遊ぶようになったんだ。Eddie の家に行った時、スタジオを見せてもらったんだけど、彼があるアンプを指差して言ったのを覚えてる。”あのアンプを見ろ、あのヘッドでデビュー・アルバムの全曲を録音したんだ、2曲は除いてな”ってね。それから全然知らない曲のテープにあわせて演奏を始めた。私はこの曲を聴いて、こう言ったんだ。”これはすごいぞ!” ってね。つまり、彼がバンドでやっていたこととは似ても似つかぬものだったんだ。もちろん、彼のタッチは入っているんだけど、いくつか素晴らしい曲を聴いて、私はこう言ったんだ。”ソロのレコードを作ったらどう?” ってね。だけど、それは彼の趣味じゃなかった。彼が好きなのは “VAN HALEN のために作ったギター・パートが自分のソロ・レコードだ” というやり方だったからね。彼はそんな風に思っていた。
もうひとつ、Eddie との素晴らしい思い出がある。私は自分のスタジオで、ギターとペダルとスピーカーとアンプを使ってレコーディングしていたんだけど、Ed が入ってきたんだ。私たちはぶらぶらしていて、ただ話をしていたんだけど、彼が今やっていることについて話してくれて、私のギターを掴んで弾き始めたんだ。それは驚くべきことだった。まさに Ed の音で(笑)、私は思ったんだ。”俺の機材を使って、よくもまあ、完全に VAN HALEN な音を出してくれたな!”ってね。すべては自分の頭の中にあるということを、改めて認識する機会になったよ。結局、大事なのは機材でもなんでもないんだよ。もちろん、一部はそうなんだけど、自分のサウンドの大部分は自分の頭の中にあるんだよ。自分の頭の中で、物事がどのように聞こえているかということなんだ。Ed が私のスタジオで、私の家で、私の機材を使ってギターを弾いたとき、それがはっきりとわかったんだ」
アコースティック・アルバムの制作も行われているようですね?
「まだ完成には遠いんだけど。パンデミックの時に始めたんだ。15曲あって、そのうち13曲はシンプルなアコースティックギターで録音したんだ。それからボーカルを始めたんだけど、途中から肩の手術を受けなければならなくなったんだ。手術が終わってから、演奏ができるようになるまでしばらくかかった。その頃には、ツアーに出て、ロック・インストゥルメンタルのアルバムをサポートしたいと思うようになっていた。だけど、アコースティックと歌のツアーをいつかやるかもしれない。絶対にないとは言えないよ。Jeff Beck は80年代にフィンガーピッキングを始めた。彼は40歳の時に、これだけの名盤を残していながら完全に奏法を変えたんだ。人生はこれからだよ」
Steve Vai の創造性は尽きることがありません。
「あからさまにクリエイティブというわけではないよ。でも、自分の心に響く創造的なアイデアは必ず実現できる、それを邪魔するものは何もないという確信があるんだよね。多くのクリエイティブな人たちは、自分の熱意を信じていないんだよ」

参考文献: GUITARGUITAR: THE INVIOLATE INTERVIEW

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUCCUMB : XXI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHERI MUSRASRIK & DEREK WEBSTER OF SUCCUMB !!

“Including a Song About The Boxer Rebellion Was a Personal Choice Though It Does Have a Tie To The Album In Its Being Against Westernization And Christianity In Their Rejection Of Ancestor And Nature Deity Worship.”

DISC REVIEW “XXI”

「私には、リアルな部分でとても男性的な面があって、それが演奏するときに姿を現すことは認めるわ。そうやって生の感情や暴力的な態度を表現する自由があることに感謝しているのよ。ただ、ジェンダーを考慮することで私は男性と女性の興味深いダイナミクスを加えることができるわけだけど、だからといってジェンダーを考慮することが常に必要だとは思っていないわ」
人生の選択、クリエイティブな仕事をする上での選択、音に対する選択にかんして、SUCCUMB のボーカリスト Cheri Musrasrik は女性であることに囚われることはありません。それ以上にもはや、エクストリーム・メタル界の女性をめぐる会話は少し陳腐だと言い切る彼女の喉には、性別を超越した凄みが宿り、”The New Heavy” の旗手としてアートワークの中性神のように自信と威厳に満ち溢れています。
「ベイエリアとカナダのシーンから受けた影響を否定することはできない。この2つのシーンに共通しているのは、彼らは常にそれぞれのアートを新しい領域に押し上げる努力をしているということだよ」
超越といえば、SUCCUMB の放出するエクストリームな音像もすべてを超越しています。ベイエリア、カナダというヘヴィな音楽のエルドラドを出自にもつメンバーが集まることで、SUCCUMB は突然変異ともいえる “The New Heavy” を創造しました。洞窟で唸るブラストビートと野蛮なデスメタルから、ハードコアの衝動と五臓六腑を締め付けるノイズまでスラッシーに駆け抜ける SUCCUMB の “エクストリーム” は、最新作 “XXI” においてより混迷の色合いを増し、くぐもっていた Cheri の声を前面に押し出しました。同時に、BRUTAL TRUTH や NAPALM DEATH のようなグラインドコアから、フューネラル・ドゥームの遅重までエクストリームなサブ・ジャンルを網羅することで、遅と速、長と短、獰猛と憂鬱をまたにかける不穏な混沌を生み出すことに成功したのです。
「様々なジャンルのある種のお決まりをコピーペーストするだけでは、あまりにあからさまだし、必ずしも素晴らしい曲作りになるとは限らない。その代わりに、僕たちはそれらの異質なサウンドの間に存在する音の海溝を掘り下げようとしているんだ」
とはいえ、SUCCUMB の “クロスオーバー” は単なる “いいとこ取り” ではありません。だからこそ彼らの発する “無形の恐怖” はあまりに現代的かつ唯我独尊で、基本的はよりアンビエントで実験的なアーティストを扱うレーベル The Flenser にも認められたのでしょう。そう、このアルバムにはリアルタイムの暴力と恐怖が常に流れているのです。その源流には、環境破壊や極右の台頭、世界の分断といった彼らが今、リアルタイムで感じている怒りがありました。
「義和団の乱を選んだのは個人的な選択だけど、祖先や自然の神への崇拝を否定する西洋化やキリスト教に反対しているという点では、このアルバムの趣旨と関係があるのよね。私は太平洋の小さな島の出身なんだけど、その島は恐ろしい宣教師と彼らの間違った道徳によって、固有の文化や習慣の多くが一掃されてしまったの」
アルバムの中心にあるのは、自然や大地を守っていくことの大切さ。アルバム・タイトル “XXI” は21番目のタロットカード “The World” を指し示していますが、正位置では永遠不滅、逆位置では堕落や調和の崩壊を意味するこのカードはまさに SUCCUMB が表現したかったリアルタイム、2021年の “世界” を象徴しているのです。
特に、義和団の乱を扱った “8 Trigrams” には彼らの想いが凝縮しています。中国の文化や貿易だけでなく、自然崇拝や宗教まで制圧し植民地化した列強と、それに激しく対抗した義和団。中でも、道教の自然や四元素へのつながりと敬愛を基にした八掛結社は、先住民の文化や習慣を抑圧し軍事基地や核実験の場として使用された太平洋の島を出自にもつ Cheri にとっては共感をせずにはいられない歴史の一ページに違いありません。そうして、世界がまた抑圧を強いるならば、私たちが音楽で義和団になろう。そんな決意までも読み取れる壮絶な7分間でアルバムは幕を閉じるのです。
今回弊誌では、太平洋の島からベイエリアに移住した Cheri Musrasrik とカナダ出身 Derek Webster にインタビューを行うことができました。「90年代は音楽業界で “成功する” 可能性についての妄想を捨てるというメタル界の考え方の変化により、多くの実験が行われたんだよ。アーティストが自分たちのサウンドを進歩させるために外部のインスピレーションを求めるようになり、その結果、TYPE O NEGATIVE などのバンドが大成功を収めることになったように思えるね」どうぞ!!

SUCCUMB “XXI” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEEYOUSPACECOWBOY : THE ROMANCE OF AFFLICTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CONNIE SGARBOSSA OF SEEYOUSPACECOWBOY !!

“The Romance of Affliction” Is The Satirical Side As a Call Out To The Romanticization Of Things Like Mentel Health Struggles And Addiction That I Feel Aren’t Things To Be Romanticized Cause I Live With It And Its Not Something Anyone Should Look At Positively.”

DISC REVIEW “THE ROMANCE OF AFFLICTION”

「このアルバムでは、バンドを始めたばかりの頃に持っていたカオスや奇妙さ、それに生意気さや皮肉を取り戻したいと思っていたの。その予測不能な奇妙さにメロディと美しさを融合させられるかどうか、自分たちに挑戦したかったのよね」
混沌と厳しさと審美の中で生きる宇宙のカウボーイが放った最新作 “The Romance of Affliction”。EVERY TIME I DIE の Keith Buckley、UNDEROATH の Aaron Gillespie、If I Die First、そしてラッパー Shaolin G といった幅広いゲストが象徴するように、この苦悩のロマンスではデビューLP “The Correlation Between Entrance and Exit Wounds” で欠落していた初期の混沌と拡散、そして予測不可能性が再燃し、見事に彼らの美意識の中へと収束しています。ドロドロと渦巻くマスコアの衝動と、ポスト・ハードコアの甘くエモーショナルな旋律との間で、両者の軌道交わる最高到達点を目指した野心の塊。
初期のEPと数曲の新曲を集めた “生意気” に躍動するコンプ作品 “Songs for the Firing Squad” と比較して “Correlation” は暗く、悲しく、感情的に重い作品だったと言えるでしょう。それはおそらく、ボーカル Connie Sgarbossa の当時の状況を反映したものでした。重度の薬物依存性、体と心の不調、そしてそこに端を発する人間関係の悪化。大げさではなく、オーバードーズで死にかけたことさえありましたし、友人は亡くなりました。
「多くの依存症者は、社会的な汚名を被ることを恐れてそれを口にすることができず、一人で苦しみ、不幸にも人生を壊してしまうか、ひどい時は死んでしまう。私は、この汚名を少しでも払拭し、人々が一人で負担を背負う必要がないと感じられるように、この問題について話し助けを与えることができるようにしたいのよ。誰かがオーバードーズで亡くなった後にはじめて、その人が薬物の問題を抱えていたと知ることがないようにね」
Connie は今も依存症と戦い続けています。最近では、SNS で自身が重度の依存症であることを明かしました。それは、依存症が一人で抱えるには重すぎる荷物だから。同時に自らが悲劇と地獄を経験したことで、薬物依存が映画の中の、テレビの中の、クールなイメージとはかけ離れていることを改めて認識したからでした。
「メンタルヘルスや依存症といったものがロマンチックに語られることに警鐘を鳴らす意味があるの。私はそれを抱えて生きているからこそ、肯定的に捉えてはならないものだと感じているのよ」
自分のようにならないで欲しい。そんな願いとともに、”The Romance of Affliction” は Connie にとってある種セラピーのような役割も果たしました。音楽に救われるなんて人生はそれほど単純じゃないと嘯きながらも彼女がこれほど前向きになれたのは、弟の Ethan 以外不安定だったバンドの顔ぶれが、オリジナル・メンバー Taylor Allen の復帰と共に固まったことも大きく影響したはずです。そしてそこには、KNOCKED LOOSE の Isaac Aaron のプロデューサーとしての尽力、貢献も含まれています。
依存症者が依存症者に恋をするという、三文オペラのような筋書きの、それでいて興味を示さずにはいられないオープナー “Life as a Soap Opera Plot, 26 Years Running”。Connie はこの曲で、ドラッグやセックスに溺れる依存症の実態を描き、「みんなは結局こういう話が好きなんでしょ?でもそんなに良いものじゃない」 と皮肉を込めてまだまだ緩い、炎の中で燃えたいと叫び倒します。まるでパニックのような激しいギターとスクリームの混沌乱舞は、あの FALL OF TROY でさえ凌いでいるようにも思えますね。
“Misinterpreting Constellations” や “With Arms That Bind and Lips That Lock” では、今回バンドが追い求めた予測不能と予定調和の美しき融合が具現化されています。狂気の暗闇を縦糸に、メロディックな光彩を横糸に織り上げたカオティック・ハードコアのタペストリーはダイナミックを極め、3人のボーカリストがそれぞれ個性を活かしながら自由にダンスを踊ります。もちろん、ジャズ、メタルコアのブレイク・ダウン、唐突のクリーン・トーン、本物のスクリーム、そしてデチューンされたギター・ラインが混在する “Anything To Take Me Anywhere But Here” を聴けば、彼らのアイデアが無尽蔵であることも伝わるでしょう。
重要なのは、宇宙のカウボーイが、往年のポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのサッシーなスリル、不協和音、エモポップのコーラス、メロディックな展開に影響を受けつつ、人間らしさを失わずに洗練されている点でしょう。Connie の想いが注がれたおかげで。
今回弊誌では、Connie Sgarbossa にインタビューを行うことができました。「カウボーイ・ビバップ” のエンドカードとフレーズは私にとって常に印象的で、私はずっとあのアニメのファンでもあったから名前をとったのよ」 どうぞ!!

SEEYOUSPACECOWBOY “THE ROMANCE OF AFFLICTION” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SO HIDEOUS : NONE BUT A PURE HEART CAN SING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON CRUZ OF SO HIDEOUS !!

“Why Waste Opportunity Trying To Do Laurestine or Last Poem Part 2 The Sequel To Please a Small But Loud Subset Of Closed Minded Internet Message Board Music “purists” Clinging To The Past? That’s a Terrible Way To Live.”

DISC REVIEW “NONE BUT A PURE HEART CAN SING”

「アルバムをリリースするのは、自己表現という意味では一生に数回しかないチャンスだ。なぜ “Laurestine” や “Last Poem” の Part 2 みたいな “続編” を作って、インターネット掲示板で少数だけど喧しい “音楽純粋主義” 集団を喜ばせなきゃならないのか?それはひどい生き方だよ」
例えば政治であれ、例えば社会であれ、例えば音楽であれ、純粋さが失われた現代において、真っ直ぐに愛する音楽を奏で、正直に言葉を紡ぐ SO HIDEOUS がいなければ、世界はさらに “とても醜い” ものになってしまうでしょう。
「このバンドは基本的に “エクストリーム・ミュージック・コミュニティ” に向けて売り出されていて、彼らは実際に “極端な” 音楽と呼ばれる音楽を掲げているにもかかわらず、最も保守的なリスナーであることが多いんだよね。どのジャンルやレーベルの下で活動すべきかということに非常に固執し、それを武器にバンドに牙をむいたりね。そんなのクソくらえだよ」
SO HIDEOUS が長い休止期間を経て戻ってきたのは、ポストブラックやブラックゲイズといったジャンルの掟を踏襲するためでも、プライドだけが肥大化したファンという名の何かを満たすためでもなく、ただ自由に望んだ音楽を追求するため。前回のインタビューで Brandon 自らが “コンサート・ホールでシンフォニーが奏でるような完全で妨げる余地のないリスニング体験” と呼んだ、きらびやかで感情的、そしてオーケストレーションを極めた傑作 “Laurestine” さえ過去にする最新作 “None But A Pure Heart Can Sing” には、メタル世界で最も想像力に富んだバンドの野心と矜持と反骨が詰まっているのです。
「叙情的なオーケストレーションではなく、リズムに根差した曲を演奏するのがとても自由なことに思えたんだ。Mike、DJ、Kevin が活動してきたバンドやプロデュースしたバンドに人々はこだわると思うんだけど、実際のところ、彼らはマス/ポストカオティック・ハードコアとか、そういうジャーナリストによって入れられた箱よりもずっと多様なミュージシャンなんだよ」
ポスト・ハードコアの混沌をリードする THE NUMBER TWELVE LOOKS LIKE YOU のリズム・セクション Mike Kadnar と DJ Scully の参加、そして THE DILLINGER ESCASE PLAN の Kevin Antreassian のサウンドメイクは、結果として SO HIDEOUS の宇宙を果てしなく拡げる重要な鍵となりました。獰猛と静寂の邂逅。整合と混沌の融合。
「このバンドのメンバーは、LITURGY と Hunter Hendrix の作品をとても楽しんでいて、絶大な敬意を払っているんだ」
オーケストラやシンフォニックな要素を取り入れている点で SO HIDEOUS は同じニューヨーク出身の LITURGY にも似ています。さらに今回、彼らはより多くのリズムを求めて、フェラ・クティやトニー・アレンのアフロビート、ジェームス・ブラウンのホーン・セクション、オーティス・レディングやサム・クックのバラードなど色彩を多様に吸収して、雅楽までをも抱きしめる LITURGY の哲学に一層近づきました。ただし大きな違いもあります。LITURGY が “超越したブラックメタル” を追求するのに対して、SO HIDEOUS はもはやブラックメタルのようにはほとんど聞こえません。
「以前は、”Screaming VS Orchestra” というシンプルなバンドの “アイデア” にこだわっていたように思うんだよね」
アルバムは、CONVERGE, CAVE IN, ENVY あるいは THE DILLINGER ESCAPE PLANE のようなポスト・ハードコア、メタルコア、マスコアのスタイルにはるかに近く、ブラックゲイズの慣れ親しんだ荘厳とは明らかにかけ離れています。重要なのは、彼らがネオクラシカルなサウンドとこの新しいポスト・ハードコア/メタルコアのスタイル、そして中近東からアフリカに西部劇まで駆け巡るワールド・ミュージックとの間に絶妙な交差点を見つけ出した点で、ストリングスとホーンの組み合わせがヘヴィーなリフと無尽蔵のリズムを際立たせ、苦悩から熱狂を創造する “The Emerald Pearl” の緊張感と即興性はアルバムを象徴する一曲だと言えるでしょう。
今回弊誌では、Brandon Cruz にインタビューを行うことができました。「僕がギターを弾いているのは、Envy の 河合信賢と MONO の Taka Goto のおかげなんだよ。僕は彼らを恩師だと思っていて、彼らの音楽には人生で永遠に感謝し続けるだろうね」  ニ度目の登場。どうぞ!!

SO HIDEOUS “NONE BUT A PURE HEART CAN SING” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CYNIC : ASCENSION CODES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Truly Unlimited Potential With The New Talent Out There. If Cynic Were To Continue I Could See It Acting More As a Collective In This Sense.”

DISC REVIEW “ASCENSION CODES”

「ショーン・マローンは2018年に母親を、2020年1月にはショーン・レイナートを失った。喪失感のダブルパンチで、マローンは大打撃を受けてしまったんだ。その後、パンデミックが起こった。すべてが閉鎖され、マローンの世界も閉ざされてしまった。痛みと苦しみが再び現れ、彼は光を失った…」
長年二人のショーンと人生を共にしたポール・マスヴィダルの言葉です。もちろん、2020年は人類全体にとって途方もなく困難な年として歴史に残るでしょう。しかし CYNIC の音楽を愛する人たちにとってはさらに困難な年となりました。1月に元ドラマーのショーン・レイナートが48歳で、12月にベーシストのショーン・マローンが50歳で早世。それはファンにとってまさに青天の霹靂でした。私たちでも激しいショックを受けたのです。公私ともに近しい関係にあったマスヴィダルの苦悩、そして喪失感はいかほどのものでしょう。
「神秘的な人生に身を任せることは、魂が成長するための偉大な “降伏” であり、そうすることで外界が自身に流れ込み、自分も外界に流れ込むことができるんだ。宇宙とつながるとでもいうのかな。つまり、人生に自然と起こることこそ、私たちの歩むべき道なんだ。起こることすべてが、与えられたギフトなんだよ」
しかし一人残されたマスヴィダルは、果てしない悲しみの中でも前へと進み続けます。喪失や悲劇でさえ成長のための贈り物と捉え、人生の流れに身を委ねる。死とは肉体の終わりであり魂の終わりではない。結局、人は皆量子レベルで互いにつながっているのだから。そんな彼の特殊な人生観、死生観、宇宙観は、マスヴィダルの心を泰然自若に保ち、CYNIC の新たな啓示 “Ascension Codes” をより崇高でスピリチュアルな世界へと導くことになったのです。
CYNIC とはメタル世界において、真の意味でのプログレッシブを指す言葉。トップレベルのパフォーマンス、大脳皮質に直接語りかけるような宇宙的哲学、そして実験と増殖を続ける音のエントロピー。デスメタル、プログ、エクスペリメンタル、ニューエイジ、ジャズ・フュージョンなど、CYNIC の世界は年を重ねるごとに音彩を加えながら、その色を交錯させていきました。しかし、4枚目のフル・アルバムの制作で CYNIC は、未曾有の困難に直面することになります。
「本来ならこのレコードは、”Kindly Bent to Free Us” の直後に作りたかったんだ。だけどすべてが崩壊してしまった…」
楽曲の一部は、2014年の時点で構想が練られていました。マスヴィダルによると、レイナートとマローンは、ここに収録されることになった楽曲の要素を聴いていたそうです。だからこそ彼は、亡くなった同志の思い出に敬意を表し、”Ascension Codes” “魂を昇天させるコード” というタイトルのアルバムを、ゆっくりと、慎重に、そしてマスヴィダルの言葉を借りるなら “愛と勇気を持って” 完成させたのです。
2015年にレイナートが CYNIC を脱退した後、マスヴィダルとマローンは彼の後任としてマット・リンチを起用。彼は”完璧な代役” 以上のものをバンドへともたらします。マスヴィダルはリンチのドラミングを “ハイブリッド・モダン・スタイル” と称しました。つまり、エレクトロニカなドラムン・ベースと、プログレッシブなアプローチの融合。繊細で多様な “Ascension Codes” に適役であるばかりか、絶妙な質感とリズムの地図を加えていきます。
「楽器としてのベースの役割を変える必要があったんだ。マローンのようなサウンドを期待して他の誰かを連れてくるのはフェアじゃなかったからね。私にとって彼はは現存する最も偉大なベーシストの一人であり、このレコードにおいてかけがえのない存在だった。アレンジを変えて、新しいサウンドにするしかなかったんだ」
では、マローンのベースを誰が置き換えるのか?マスヴィダルの答えは、”その必要はない” でした。”Ascension Codes” の中で聞こえるベース・ラインは、キーボード奏者のデイヴ・マッケイがシンセサイザーで演奏しています。彼はマローンの敏感なタッチを再現しつつ、CYNIC にドロドロとしたローエンドの可能性をもたらすことになります。そうしてここに、マスヴィダル曰く、”未来のリズム・セクション” が完成をみます。
「新しい才能を持った人たちは本当に無限の可能性を秘めているよ。仮に CYNIC がこれからも続いていくのであれば、そういう人たちを集めて、バンドというよりはより集合体としての役割を担うのかもしれないね」
“Ascension Codes” のビジョンを達成するために、マスヴィダルは新メンバー、アートワークやプロデュースだけでなく様々な若く才能に満ち溢れた音楽家をも多数起用しました。THE SURREALIST や DARKの活動で知られるルーパン・ガーグは、”コード・ワーカー”として、ハープのような天上のギター・テクスチャーを、EXIST のマックス・フェルペスは “ホログラフィック・レプティリアンボイス” を、オーストラリアの天才プリニは”The Winged Ones” にソロを提供しています。核となる二人のショーンを失った今、CYNIC の魂は新たな才能たちの宿り木として、死を迎えるのではなく形状を変えることにしたのかもしれません。
「コードのタイトルは、奏でられるべきサウンドを意味していてね。これらはそれぞれ、私たちの DNA に存在する、対応するコードを起動させる役割があるんだ」
様々な “仕掛け” を配し、その音の葉自体も野心的な”Ascension Codes” ですが、メインとなる9曲には爆発的な色彩とエネルギーが注ぎ込まれており、これらの楽曲には “アセンション” のための “コード” が埋め込まれているのです。”Mu-54*”、”A’va432″…だからこそ当然このレコードは全体を通して聴くべき作品です。それでも、推進力と冒険に満ち、刺激的な起伏が心を揺さぶり、数学的な配列と目まぐるしいダイナミズムが頭を悩ます “Mythical Serpents” のように、万華鏡のような激しさと折り目正しい規律の二律背反を背負った CYNIC の哲学はたしかに受け継がれています。
一方で、アルバムを締めくくるヘヴィでエセリアルな”Diamond Light Body” はリンチの非人間的なパターンを用いた非常に密度の高い楽曲で、彼らにとって新たな領域のように感じられる不可思議でメロディックなシーケンスが印象的。この曲の美しい緊迫感は否が応でも “形を変えた” CYNIC の未来を期待させてくれるでしょう。
“Ascension Codes” は、これまでの CYNIC のアルバムの中で最も謎を秘めたレコードであると同時に、前作よりもプログレッシブで重量感を伴ったサウンドが封じられています。そして失われたものを慈しみ補うかのように作品に携わるアーティストが増えたことで、アルバムの地平は広大にひろがっていきました。
多くの探求と喪失の後、CYNIC はあらゆる魂との一体感を獲得しました。それは神秘的で聖なる悟りの境地。これが最後の旅路となるのかどうかは “宇宙” のみぞ知るといったところですが、CYNIC の物語は “Ascension Codes” でひとまず完結をみます。「二人の肉体は姿を変えたけど、そのエネルギー体は永遠に宇宙を旅するような超越的音楽を私たちに与えてくれている。苦しみに直面しながらも、多くを与えてくれる創造的な存在と人生の一部を共有できた。感謝してるよ」Paul Masvidal インタビュー。日本盤は DAYMARE RECORDINGS から。ライナーは私、夏目進平が執筆。ニ度目の登場。どうぞ!!

CYNIC “ASCENSION CODES” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MASTODON : HUSHED & GRIM】


COVER STORY : MASTODON “HUSHED & GRIM”

“It Feels Like Someone Has To Die For Us To Make An Album. I Hate This Feeling. But, When Loved Ones Close To Us Pass, We Feel Obligated To Pay This Tribute To Them Musically For Some Reason.”

HUSHED & GRIM

2018年9月にバンドマネージャーで親友の Nick John が亡くなったことは、MASTODON にとって深い傷となりました。アトランタの巨匠はその痛みを、驚愕の2枚組 “Hushed & Grim” の中へ、生と死、悲しみと偉大な来世についての壮大なタペストリーとして織り込みました。
「”Gigantium” という曲の “mountain we made in the distance, those will stay with us” の一説は、亡くなった元マネージャーの Nick Johnに、俺たちが一緒にやってきたこと、それが彼がいなくなっても残っているということを伝えている。”Gigantium” の最後の部分は、エンディングにふさわしいサウンドだと思う。俺たちはいつも、どのアルバムでも壮大なエンディングを探しているんだよな。”Leviathan” の “Hearts Alive” のように、大きな、長い、別れの曲をいつも探しているんだ。”Gigantium” のエンディングのリフを見つけたときには、”これが何になろうとも、とにかくエンディングを手に入れた” と思ったよ」
2018年の夏の終わりに MASTODON が大親友の Nick John に電話をかけたとき、彼らはその後の訪問が最後になることを知っていました。バンドの “5人目のメンバー” とも呼ばれた長年のマネージャーが、膵臓がんとの勇敢な闘病生活の終わりに近づいている事実は深く心に刻まれ、4人は苦しい別れを覚悟してロサンゼルス行きの飛行機に乗り込んだのです。
しかしその覚悟も虚しく、ドアを開けてニックの家に入るとそこには在宅ホスピスケアの器具が散乱した空間が広がっていて、魂が揺さぶられるような無力感、ささやきかけるような諦め、はらわたが煮えくり返るような恐怖の雰囲気が、バンドの集合的な記憶に刻み込まれることになります。ギタリストの Bill Kelliher がその時の心情を振り返ります。
「心の準備ができていないような感覚だった。もちろん、電話や Facebook で亡くなった人の話を聞くと悲しい気持ちになる。だけど、実際に部屋で人の最期の瞬間に立ち会うと、死が具体的なものになるんだよ。人生の短さ、不公平さ、厳しさを実感する。気まずい思いをすることもある。誰も何を言ったらいいのか、何をしたらいいのかわからない。悲しみ、無力感、落ち込み、不安、怒り、人生そのものにたいする思考など、さまざまな感情が湧いてくるんだ」

MASTODON の広大な8枚目のアルバム “Hushed And Grim” は、死の瞬間の記念碑であり、その後数年間に渡る喪失感の抽象的なクロニクルでもあります。まずこのタイトルは、1939年の映画大作 “風と共に去りぬ” の間奏部分から引用されています。この作品は、アメリカ南北戦争における彼らの故郷アトランタを舞台にした永遠の名作であり、映画のテーマである失恋と社会的・政治的分断が、アルバム全体にサブリミナル的に封入されています。ドラマーの Brann Dailor は、”かなりひどい個人的なこと” を経験したと語ります。
「コロナによって失われた何百万人もの命の亡霊が、アルバムに宿る無数の暗い隅につきまとっている。ただ、最終的には個人的な思い出と死についての熟考というアルバムのメッセージを確立できたんじゃないかな。”Hushed And Grim” はムードなんだ。悲しみや罪悪感を表現している。友達があんなに苦しんでいるのを見ながら、自分には何もできないってのは本当に酷いことだ。分かる人には分かると思うけど..」
MASTODON が愛する人の死をテーマとしたアルバムを制作するのは、今回が初めてではありません。2002年のデビューLP “Remission” と2009年の “Crack The Skye” の大半には、Brann の14歳で亡くなった妹、その記憶と格闘している様子が描かれています。2011年の “The Hunter” は、狩猟旅行中に亡くなったギタリスト Brent Hinds の弟 Brad へのトリビュート作品です。”Once More ‘Round The Sun” は、Brann の母親が昏睡状態に陥ったことを受けて書かれたもので、さらに2017年の “Emperor Of Sand” は、ベーシスト Troy Sanders の妻が患った癌と、レコーディング中に他界した Bill の母親について認めています。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…」
Brent の言葉です。芸術作品を作ることは、失われた愛する人への完璧なトリビュートとなるのでしょうか。MASTODON のジャム・セッションでは、愛と喪失、生と死についての率直な議論が30分に渡って行われますが、それでも彼らにはより大きな声でより深い真実を語る必要性がありました。Bill が説明します。
「俺たちは男だから感情的なところを見せにくい部分はある。言いたいことほど言わないというかね。だから、言わずに伝える方法は音楽を通してだけなんだ。年をとると、人がいなくなり始める。俺たちは喪失のプロになってきたんだと思う。”誰かを失ったから同情してくれ” という感じじゃなくてね。生から死への道を正面から向き合うことが出来るようになった」
一方で他のバンドメンバーとは異なり、Troy にとってNick の死は彼にとって初めての悲しみの体験だったと言います。
「このアルバムの作曲とレコーディングは、俺にとっては悲嘆や喪失のカウンセリングのようなもだった。最初は恐ろしい気持ちになったけど、最終的には素晴らしい気持ちに落ち着いたよ。もっと幸せなアルバムを作りたいと思っていても、それは不可能だった。俺たちのバンドはそんな風に嘘はつけない。闇をすべてかき分けて、すべてが素晴らしかったと言うことはできないんだから」
Brent が続けます。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…俺はこの感覚が嫌いなんだ。でも、身近な人が亡くなると、なぜか音楽でその人に敬意を払わなければならないような気がするんだよな…俺たちはこれまでに多くのレコードを出しているけど、その大半は亡くなった友人へのオマージュなんだ。多くの人と同じように、俺たちもつらい経験をしてきた。そうして俺たちは、世界の中で永遠の場所と感じられるもの、そんな大切な場所を作るために時間をかけることを選んだんだ。亡くなった人のことを音楽にすると、その人がまだ生きているように感じられるから…」

最終的に、悲しみから抜け出す唯一の方法は通過することかもしれません。前に向いて進むことが唯一の方法。Troy は2020年の後半に GONE IS GONE と KILLER BE KILLED で優れたアルバムをリリースしたように、ここ数年間の多作によって若返り、音楽的な視野を広げ、”本命” である MASTODON で “さらに上を目指す” 準備を行ってきました。
友人から “ロック界一の働き者” と呼ばれる Bill は、カスタムメイドのシルバーバーストESP Sparrowhawk を片手にリフ・マスターとしての地位を再確認していますが、同時に彼の “不動産” の手腕もアルバムには不可欠でした。
2017年にオープンした Ember City Studios は、MASTODON だけでなく、何十人もの地元ミュージシャンに貴重なリハーサルスペースを提供してきました。Bill は、長年エンジニアとして活躍してきた Tom Tapley と協力して、Ember City の地下室を設備の整ったレコーディングスタジオ West End Sound に改装し、バンドに創作の自由をもたらしました。「自分たちのスタジオだから、時計の針が動いているようには感じられないし、金銭面でも助かるよ」と彼は微笑みます。
MASTODON のライティング・プロセスは、常に興味深いイメージやアイデアを収集し “リフバンク” に預金を繰り返すというやり方でしたが、アルバムナンバー8をまとめるプロセスはスタジオが2019年後半にオープンするのとほぼ同時に始まりました。ロックダウンが始まる前から、創造性のために真っ白なキャンバスを用意していたのです。
2020年のコンピレーション “Medium Rarities” に収録された “Fallen Torches” は、この場所で初めてレコーディングされた楽曲です。ロックダウンが始まったとき、このスペースは彼らの思考を集約するための避難所となりました。さらにピーター・ガブリエル、KING CRIMSON, TOOL, MUSE といったプログレッシブ・アイコンを手がけ、その TOOL のスティックマンである Danny Carey が強く推薦したカナダの伝説的プロデューサー、 David Bottrill を起用することで最終的なビジョンが見えてきたのです。
「彼の血統は俺たちの好みにピッタリだった」と Brann は語ります。
「俺たちが同意したのは、”明瞭さ” という言葉だった。俺たちは、1つのトラックにすべてのものを詰め込んで、作曲を混乱させる傾向がある。サイケデリックで音の壁があるようなヘヴィー・ロックを今でも目指しているけど、それだけでなくすべての小さな音をも聞き取れるようにしたいと考えていたからね」

ディテールと同様に重要だったのがスコープです。15曲、88分にも及ぶ “Hushed And Grim” の最終的な設計図はそれまで MASTODON が試みてきたものをはるかに超える、複数のパートからなる巨大なサーガでした。ストリーミング時代において “ダブル・アルバム” というタグは、かつてのような本質的な威信を持ち合わせていないかもしれませんが、この作品における膨大な広がりと複雑さは、子供時代の Brann が影響を受けた叙事詩たちを呼び起こします。GENESIS の “The Lamb Lies Down on Broadway”、LED ZEPPELIN の “Physical Graffiti”、PINK FLOYD の “The Wall” …アルバムは、ロック、サイケデリア、パンク、メタル、オルタナティブ、プログなどの音の風景を、4人の熟練したミュージシャンの天性の表現力でつなぎ合わせた15曲。これまでで最も意欲的な作品で、同時に、3人のカタルシスに満ちたボーカルからは、非常にリアルな喪失感、孤独感、そして救済の雰囲気が漂っています。
「家で聴いていたら、この15曲がうまく調和しているように思えたんだ。クレイジーだとは思うけど、2枚組のアルバムを出して、1時間半の長さにするというアイデアを考えてみたらどうかなと思ったことを覚えている。誰かが俺を非難するだろうとも思ったけどね。俺は、このアルバムに与えられたスペースを気に入っているよ。静かな瞬間も、アトモスフェリックなものもね」
ただし、彼らの最新作を二枚組の超大作と予想していた人はほとんどいなかったでしょう。MASTODON はリリースのたびに未知の領域に針路を定めており、ファンの間ではアルバム8では “Emperor of Sand” のカウンターとしてより荒々しいサウンドスケープと奇妙な潮流を横断することになるだろうという暗黙の了解がありました。それでも、”Hushed And Grim” には気が遠くなるような、時には圧倒されるような聴きごたえがあります。
奇妙に絡まるオープニング “Pain With An Anchor” のスパイラルで悲嘆のプロセスへと誘い、7分近いフィナーレの “Gigantium” で浄化する。その激しいムードと結びついたモチーフを真に理解し始めるには、何度も聴く必要があるはずです。
「死後の世界の神話。その新しいバージョンのようなものかな」と Brann はこのアルバムの “ゆるやかな” 全体的なコンセプトを語り、印象的なアートワークに結びつけていきます。
「死んだら魂は生きている木の中心に宿る。そして木が1年を通してそうしているように、じっとして、四季を経験しなければならないんだ。それが自然界に別れを告げる方法なんだよ。その中で、自分が生きてきた人生の柱を振り返るわけさ。自分がしてきたことを償わなければならないんだよ」
喪に服す人から喪に服される人へ、死のトラウマから死の必然性へと巧みに焦点を移し、同時に生きている人には手遅れになる前に自分のことをよく考えようと誘う、魅力的なテーマです。
崇高で不気味な “Sickle And Peace” では、Tom Tapley の娘が怪しげな声で登場し(’Death comes and brings with him sickle and peace’)苦しんでいる人々に死がもたらす慈悲をあえて認めています。一方、フックの効いたハイライト曲 “Teardrinker”(’Leaving you behind / is the hardest thing I’ve done’)や巨大な “More Than I Could Chew”(’Say when / And I’ll be running back’)のような楽曲には、取り戻せない後悔の心の痛みが漂っています。

プロデューサーの David は、語法と発音を重視することですべての感情を強調し、それまでディストーションを防御手段として使っていたボーカリストたちに隠れる場所を与えませんでした。
「彼は、俺たちが書いた歌詞は俺たち、それに周りの人たちにとって重要なものだからちゃんと聞かせよう言ってくれたんだ。これまでの俺たちは、歌を隠す傾向があったと思う。詩を批評されることを恐れて、表に出すことができなかったんだ」
Troy も同意します。
「長いアルバムだしたくさんの曲があるけど、くだらないものを排除して要点をつかむのがうまくいったと思う。曲を作っているときは多くの場合、脂肪を削ることについて話していた。俺たちはアルバム全体でそれを行えたんだ」
Bill は、最初は “新しいこと” に挑戦する気はなかったが、David の貢献により、このレコードは本当に特別で、他とは違う、次元が違う作品となったと認めます。
「サウンドの多くの方向性を決めるのに、David は大いに貢献してくれた。良いプロデューサーかどうかの90%は、心理学の学位を持っているかどうかだと思うんだ。俺たちはバンドマンであり、ミュージシャンであり、音楽的なリフに心と魂を注ぎ込んでいるから、それは俺たちにとって大きな意味を持つんだ。もし誰かに、あのリフは好きじゃない。そのリフは最悪だ。曲には入れないよ!なんて言われたら、胸が痛むよね。そんな人とはやれないよ。
でも彼は、MASTODON の大ファンで、最高のレコードを作りたいと言ってくれた。彼は誰かの創造性を侮辱することなく、実に巧みに言葉を操ることができたんだ。俺たちは基本的にすべてのことを試してみた。彼は、何かを試すことに問題はない。やりたいことがあれば、熱意を持って取り組み、とにかくやってみることだ。誰かが、ここで歌ってみたい、ここでソロを弾いてみたいと思ったら、やってみようよ。もしかしたら合わないかもしれないけど、やってみないとわからないからって感じでね。だから、全員がオープンマインドで臨んだ結果、素晴らしいものになったんだ。これまでの作品の中で、最も充実した、ビッグなサウンドのレコードになったんだよ」
インストゥルメンタルの部分でも、この死の領域を超えた旅を表現するためには新たな発明が必要でした。YES, GENESRS, RUSH, THIN LIZZY, MELVINS, Björk といった古の影響。その車輪の再発明を促しつつ、NEUROSIS, ISIS のスロウ・バーン、そしてミニマルな要素を有効的に活用しています。

Brann が “ファミリー” と呼ぶ、友人や親戚、尊敬する仲間たちとのコラボレーションは、冷たくて暗いイメージの中に温かみと切なさをもたらしています。THE CLAYPOOL LENNON DELIRIUM のキーボーディストJoão Nogueira が魅せる “Skeleton Of Splendour” の驚異的なシンセサイザーのクレッシェンドは衝撃的。新進気鋭のブルース・ギタリスト、Markus King は、変幻自在な “The Beast” で B-Bender の影響を受けたブルーグラスのイントロを担当。さらに MUNICIPAL WASTE の Dave Witte(Brann が15歳の頃からの友人)は、”Dagger” でトライバルなドラムを披露し、MASTODON がこれまでに作り出したことのないエキゾチックなサウンド・スケープの構築に貢献しました。
「MELT BANANA, BLACK ARMY JACKET, DISCORDANCE AXIS。さまざまなバンドに参加してきた Dave とは、長年にわたって常に連絡を取り合ってきた。彼は現存する最高のグラインドコア・ドラマーの一人だよ。彼が TODAY IS THE DAY のギグに連れて行ってくれた。もし Dave が俺にそのギグに行くように勧めてくれなかったら、今の自分はなかったかもしれない。彼のことは大好きだ。”Dagger” でトライバルなドラムワークのために彼を迎え入れる場所を見つけられた。2枚組のアルバムを作ると、少しずつ活動の幅を広げることができる。親友であり、尊敬してやまない彼を、たとえクールなドラムパートのためだけだとしても、呼ぶことができたのは、素晴らしいことだよ」
“Had It All” は、Troy が GONE IS GONE でセッションしたときの曲のようにも聞こえますが、このバンドにとってのバラードであり、その非常に感動的なコーラス(You had it all / Tomorrow’s never fine / The peace we lost in ourselves are nevev)は、 SOUNDGARDEN の大御所 Kim Thayil のスコールのようなソロや、トロイの母親  Jody のフレンチホルンを伴って感情を最高潮まで高めます。
つまり、”Hushed And Grim” は何よりも、リスナーが慰めと共感を求めて掘り下げられるレコードなのです。「ファンが MASTODON にたどり着くということは、薬にたどり着くということだ」と Bill は説明します。彼はファンからの手紙をすべて読み、自分の歌には治療効果があると自負しています。それでもこのレコードの最終的な譜面と歌詞を見たとき、彼は驚きを隠せませんでした。
「なんてこった、これは俺たちにとって真のステップアップだ!と思ったね。まあでもそうだよな。俺たちは年齢を重ね、より多くの経験を積み、常に自分たちの仕事をより良くしている。そして俺たちには、ファンとパーソナルなつながりを築く義務があり、それがこのアルバムのすべてなんだよ。それは、悲しみや苦しみだけではなく、ファンと一緒に乗り越えようとすることなんだ」

すべての人にすべてのものを提供しようとすることは不可能で、実りのない追求です。結局、誰も満足しないまま終わってしまうはずですから。とはいえ、”Hushed and Grim”は、ある意味、すべての MASTODON ファンのための MASTODON による MASTODON のレコードであると言えるでしょう。 “Teardrinker” と “More Than I Can Chew” は、ドラマーの Brann が3人目のリード・ボーカルとなりプログ・メタル、そしてスラッジ・メタルの頂点に立った彼らの重大な転機 “Crack the Skye” を思い起こさせます。初期からのファンにとっては、”Pushing the Tides” と “Savage Lands” が、”Remission” がまだ新鮮で、MASTODON の存在自体もまだ新鮮だった頃を思い出させてくれるでしょう。つまり逆説的にいえば、この作品は MASTODON が最も自分自身に影響を受けたレコードなのでしょうか?Brann が答えます。
「どうだろう。ただ、出てきたものだよ。通常、俺たちは筮竹(占いの竹ひご)のようなバンドで、良い音がするものには何でも従って、出てきたものを演奏するだけなんだ。俺たちはバンドになってからずっと、自分自身を掘り下げてきた。リフが出てきたら、シンプルに “これが好き、これがいい、これをやろう” って感じでね。
俺たちは何も恐れていない。新しいサウンドや異なるサウンドが現れたときは少し興奮するよ。”The Beast” という曲では、ブルース・シャッフルのようなものがあるし、この曲の最初にはちょっとしたカントリー・リックもある。”Sickle and Peace” の冒頭のセッションは、これまでよりも70年代風のプログレッシブなサウンドになっているね。俺たちはただ時間をかけて仕事をし、そこに座って何時間も何ヶ月もかけてリフを作っていたんだよ」
“The Beast” のカントリー・リックは “Leviathan” の “Megalodon” を想起させます。
「あれはすべて Brent のスタイルなんだ。彼はいろいろな面からギターを弾くのが好きなんだけど、俺はいつも彼の演奏の側面、つまりカントリー・ハイブリッド・ピッキングを取り入れたいと思っているんだ。彼が何かクールなことを思いついたら、それを使ってみたいし、取り入れてみたい。俺は10代の頃、スラッシュ・メタルにしか興味がなく、カントリーはまったく好きじゃなかった。南部出身の Brent と Troy と一緒にバンドを組んで、”The Fart Box “というバンに乗っていたときは、運転してるヤツがステレオをコントロールできた。当時のステレオからは、Wille Nelson がよく流れていた。最初の頃は、お互いの音楽コレクションを知ることが目的だったよ。逆に俺が車を運転しているときに、”Lamb Lies Down on Broadway” をかけると、彼らは “Woah!”と言うんだ。それがきっかけで、カントリーに対する意識が変わったよな。あの “Megalodon” のリック、最初は突拍子もなくて躊躇したんだけどね。それが “Master of Puppets” のようなサウンドの部分にぶつかったとき、とてもうまくいったんだよ」
実際、Brann の歌を手に入れて、バンドはさらに成熟を遂げました。そして今回、さらに Brann の “歌手” としての仕事は増えています。
「俺は、バンドで歌いたいと思ったことは全くなかったんだよな。バンの中でスティービー・ワンダーをかけたり、ジューダスやオジーをかけたりして、運転中に大声で歌っていたから、メンバーからプレッシャーをかけられていたんだよ。彼らは、”お前、歌えるのか!?” と言ってきてね。俺は歌いながらドラムを叩くなんて、絶対に嫌だと思ったよ。本当に難しいことだし、俺の仕事はドラムだけでも十分大変なんだから。俺は自分を窮地に追い込みたくなんてなかった。でも今は大丈夫なんだ。
以前は、歌詞を書いて、貢献しようとしていた。特に初期の段階では、叫び声のような歌詞やボーカルは、もうひとつのパーカッシブな楽器のような役割を果たしているからね。それで俺はいつも、自分が書いた歌詞の上に重ねるカデンツや何かのアイデアを持っていてね。それを Brent と Troy が再現していた。”Crack the Skye” でも二人が再現してくれることを期待して、自分のアイデアを歌ったんだけどね。Brent は、俺の声にとても好きな音色や響きがあると強く主張していてね。プロデューサーの Brendan とも相談して、俺のボーカルを残すべきだという意見で一致したんだよ。それがきっかけで、俺が歌うことになった。俺たちのファンの中には否定的な人たちもいて、それにはある程度うんざりしているけど、まあべつにいいよ」

バンドとして21回目の “誕生日” を迎えた MASTODON は、嬉々として皮肉を込めたヴィネットを SNS に公開しました。4人のメンバーはバーに入り、パーティーハットをかぶり、不機嫌な笑みを浮かべ、特大の運転免許証を持って、”ビール1本” を注文します。そして、酔っぱらった状態で楽しい時間を過ごします。節目を迎えた彼らは心の奥底で、21世紀メタル世界の旗手、そんな自分たちの時間、遺産、地位についてどう考えているのでしょうか?
「時々、頭の中で計算することがあるんだ」と Brann は茶目っ気たっぷりに話します。
「例えば、2004年に SLAYER のツアーに参加したとき、彼らはバンド結成から21年が経過していた。彼らは21年目のバンドだった。彼らのことは大好きだったけど、”ああ、昔のバンドだな……” という感じだったんだよ。そして今、俺たちはその時点での彼らと同じくらいの年齢になっているんだ。だからたぶん、今の子供たちは、MASTODON が本当に古い、クラシックなバンドだと思っているんじゃないかな。だけど仕事に打ち込んでいて、自分がやっていることを正直に愛していれば、レガシーの問題は自ずと解決するんだけどね」
Brent は、最先端のメタルの過激さには単純に勝てないと主張しています。同時に彼は、MASTODON や BARONESS のようなバンドが、クラシック・ロックのカテゴリーに入る時代が来ると考えているのです。
「それでいいんだよ。俺たちは皆、50歳に近づいている。だから怒りはないけど、リフがあって、かっこいいドラマーがいて、それだけで十分なんだよな」
たしかに、彼らの淡々とした内向きの集中力が、現在の MASTODON を特徴づけ、熱心なファンを多く獲得しているのは間違いありません。ロックン・ロールの世界で重要なのは、独自のニッチを切り開くこと。それが永続的な使命。

ロックダウンの不確かな静寂がアルバムにもたらしたものも存在すると Brann は語ります。
「失って初めて、自分が何を持っているのかがわかる。MASTODON は数ヶ月間活動を停止して、いつ戻って来られるのかわからなかった。それが俺たちをひとつにしてくれたし、当たり前がいかに貴重なものであるかを再確認させてくれたんだ」
Bill も同意します。
「もう二度とバンドの存在を軽視するようなことはしない。俺たちには素晴らしいバンドがあり、100万人の素晴らしいファンがいる。彼らは俺たちの演奏を見たくてたまらないし、俺たちも彼らのために演奏したくてたまらない。できる限り多くのショーをやろうと思っているよ」
もちろん、他の多くのグループが分裂したり、消えていく中で、MASTODON を四半世紀近くにわたって結びつけてきたのは、お互いの目的以上のものでしょう。プライド、経済的な必要性、そして互いの創造性と美徳への称賛などがその役割を果たしているはずです。ただし、最も重要なのは自由であることだと彼らは言います。最もワイルドな音楽的アイデアを表現し、必要なときにはバンドの生活から離れることができる。兄弟のように、カルテットは風に乗って散らばることができ、同時に運命が彼らを呼び戻すのに時間はかからないという安心感があるのです。
「俺たちはまだお互いを笑わせることができる」とBrent は言います。
「まだまだお互いを怒らせることができる。俺たちはまるで兄弟のようなんだ。だけど、兄弟はしばらくすると話をしなくなるものだが、俺たちにはこの音楽を人々の生活に届けるという非常に重要な使命がある。そしてこれは子供や若者の頃から望んでいたことなんだ。手に入れたからにはそれを維持したい。最近では、長くやっていることもあって、まるでギャングのようにつながっているよ」
「MASTODON は、今も昔も自分の家だ」と Troy はうなずきます。
「”Hushed And Grim” は俺たちにとって最も協力的な作品になった。ソングライターやリリシストは一人もいない。全員が貢献し、全員が執筆し、全員がリスクを取ることに専念したわけさ。それはまさに “バンド” という言葉を象徴している。17年前、俺たちは “白鯨” についてのアルバムを書くというリスクを冒した。今は2枚組のアルバムでやはりリスクを冒している。正しいと思えば、それをやるだけだ」
Brann が纏めます。
「ありきたりな言葉だけど、俺らは一緒にたくさんのクソを経験してきたし、そのクソのすべてがアルバムの曲に込められている。俺たちが解散するには、よほどのことが必要だと思うぜ。これまで、たくさんの衝突や喧嘩、傷ついた感情や怒りの瞬間を経験してきたけど、話し合いで解決できないことはないんだよ。Troy や Brent、Bill を見ていると、俺たちは最初から最後まですべてを共に経験しているように思えるね。他の人とはそんな長い共通の歴史を持っていないよね。だからこそ、この関係を維持しなければならない。お互いに維持していかなければならないんだ」

参考文献: KERRANG!:How collective grief shaped Mastodon’s most grandiose, gut-wrenching album ever

SPIN:Mastodon Are Inspired By Themselves On Hushed And Grim

BLABBERMOUTH: MASTODON Guitarist Talks ‘Amazing’ New Album: ‘It’s The Fullest-‘ And ‘Biggest-Sounding Record We’ve Done So Far’

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SPIRITBOX : ETERNAL BLUE】


COVER STORY : SPIRITBOX “ETERNAL BLUE”

“This Music Is What I Need To Move On From a Lot Of Feelings And Really Dark, Intrusive Thoughts That I Constantly Have”

ETERNAL BLUE

世界で最もホットなバンドは?少なくとも SPIRITBOX は、現在すべてのロック、メタルのファンが話題にせずにはいられないバンドでしょう。誰もが “ヘヴィー” の意味を問うことになる “Eternal Blue” の感情的な旅とともに。
SPIRITBOX には当初、大げさな指針や計画は存在しませんでした。そこに存在したのは、自分たちの音楽を作りたい、自分たちの物語を書きたい、自分たちの運命を切り開きたい、というシンプルな願望のみ。ゆえに決断は、簡単で迅速なものでした。
2015年末、当時アバンギャルド・エクスペリメンタル・メタルコア Iwrestledabearonce のボーカリストとギタリストであった Courtney LaPlante と Michael Stringer は、自分たちのキャリアが八方塞がりでどこにも到達しない道を歩んでいるという現実に直面したいました。毎晩ステージに立ち、誰かの曲を演奏する毎日。観客の数はどんどん減っていきました。そして、Courtney はある結論に達します。
「ある日、私たちは集まって、将来について話していたの。そして…私が自分自身についていた嘘のすべてが一度に襲ってきたの。このバンドには未来がないってね」
Courtney LaPlanteは、魅力的で、愛想がよく、努力を惜しまないクールな女性。当時の、好きなバンドと一緒に国中をツアーで回るという人生の過ごし方でわかったことは、アーティストの理想と現実でした。
「中堅のバンドに所属するほとんどの人は、現実から逃げているだけだと思うわ。ツアーが長引けば長引くほど、仕事をしたり、親の家の地下以外に住む場所を探したりする必要がなくなるだけなんだから」
当時27歳の Courtney は、時給8ドルのウエイトレスをしていました。Michael も同様に、配達車でピザを運ぶ仕事をしていました。そして現在、2人はデータ入力の会社で一緒に働いています。つまり、理想よりも現実に襲われ怯えていた当時の彼らには、それでも恋愛面でもクリエイティブな面でも、切っても切れない “ソウルメイト” であるお互いがいたのです。彼らにはまだビジョンがありました。そしてすぐに、彼らはプログレッシブでヘヴィーでアトモスフェリックな、TesseracT というバンドに少なからず影響を受けた音楽を “魂の箱” に入れて、自分たちの新しいバンドを結成したのです。そのバンドの名は SPIRITBOX。

20代半ばの Courtney は、Iwrestledabearonce の前ボーカルである Krysta Cameron の後任としてバンドに加入。本業を休むことになりました。後に Michael も加入しますが、結局あのバンドで、夫妻のクリエイティブな夢は叶えられませんでした。
「自分でバンドを始めるのとは違ったのね。私たちは、すでに確立されたもの、つまり、彼らのビジョンの中に入っていったのだから」
Iwrestledabearonce では、生活費を稼ぐこともままなりませんでした。
「文字通り、ズボンを買うお金もなかったわ。パッチを当てることもできなかった。でも、音楽業界にいない人たちは、みんな私たちが家や車などを持っていると思っているでしょうね。自分たちが目指す場所にたどり着くのはとても大変なことだけど、同じように感じているバンドは世界中に何百万といるでしょう。
メタルの世界は、ある意味ではとても遅れているの。このジャンルには、異なる雰囲気があるわ。業界全体が本物を求めているようだけど、メタルの世界では、ツアーを終えてバーで仕事をしていることを人々に知らせるのは、汚い秘密のようなものと考えているの。そのような姿を人に見られたくない、バンド活動の実際の苦労を見られたくない、みたいなね。
私は、正直な人をとても尊敬しているのよ。だから、”あなたたちはミュージシャン以外に普通の仕事をしているのですか?” と聞かれたら、私たちは正直に “そうよ、生きていくためには絶対に働かなければならないから” と答えるの。私たちと同じレベルのバンドで、仕事をしていないと言っているヤツはバカよ。19歳で母親と一緒に暮らしているか、それともバカかどっちかよ。正直なところ、時給8ドルで働きながらミュージシャンとして生きていくのはとても大変なの。」
Iwrestledabearonce が2016年頃に別れの言葉もなく解散したとき、創設メンバーではなかった Courtney と Michael は、Myspace のメタルコア時代に享受した成功を自分たちの言葉で再現しようと決意しました。Iwrestledabearonce が永久に止まってしまってから2年後、2人はカナダの小さな島に移住し、2017年末に SPIRITBOX として再登場し、自作の同名のデビューEPをリリースすることとなります。
バンド名の由来となった装置( “スピリットボックス” はAM と FM の周波数をスキャンし、ホワイト・ノイズの中に幽霊の声を拾うことができるとされている)の音が散りばめられた再登場で、彼らはメタルに対する雑食的でジャンルを共食いするようなアプローチを示し、インダストリアル・エレクトロニカの音が、マスコアのリフやシューゲイザーのようなメロディ、ポップなフックと一緒に鳴り響く唯一無二を提示したのです。

Courtney と Michael は、夢のバンドを結成するための時間と場所がようやく与えられたとき、結婚生活の年数を合わせたよりも多くの意見の食い違いがありました。アートワークはどのようなものにするか?火か花か?黒か青か?それはまるで結婚セラピーのようでもあり、初めての子育てのようでもありました。
「私たちには多くの意見の相違があったわ。例えば、作品のアートワークの色など、些細なことでもすべてにおいてね」
大局的な部分では基本的に一致していたものの、Photoshop のカラー・パレットについて口論する時間が待ち受けているとは、二人とも想像もしていませんでした。しかし、この戦いには価値がありました。30代になったばかりの2人は、音楽業界で20年の経験を積み、ついに自分たちのバンドと呼べるものを手に入れたのですから。
実は Michael と出会う前、Courtney は自分をメタルのシンガーではなく、女優として見ていました。それが変わったのは、俳優を目指す多くの才能ある子供たちが直面する教訓を学んだ日。自分は優秀だが、ベストではないという壁。
「15歳のとき、アラバマ州のクラスに150人しかいない町から、1,500人いるカナダに引っ越したの。私は、自分がやりたい学校劇の役に、自分より上手い人が挑戦していたら、絶対に挑戦しないタイプだったの」
若い頃に曲を作っていましたが、世に出す勇気がなかった彼女は、そうして弟と一緒に音楽を作ることに自分の創造性を向け始めます。
当時、Courtney は “Garden State” のサウンドトラックのような “ダサいヒップスターやインディーの曲” を聴いていましたが、弟は彼女をメタルの世界に引き込もうとしていました。最初に影響を受けたのは RAGE AGAINST THE MACHINE。
「ある日、弟が作曲した曲の中にブレイクダウンが入っていて、私は “これはどうすればいいの?” って聞いたのよ。すると弟は、”RATM のように叫べばいいんだよ” って。そこではじめて、ライオンが吼えたのです。
「この感覚に匹敵するものはないわね。頭蓋骨全体に振動が伝わるの。とてもパワフルな感じがするわ。音から性別を取り除くような感覚」
彼女はその性別を感じさせないサウンドを練習し続け、小さな町で披露するようになりました。それが、彼女の残りの人生だけでなく、最愛の人へと導く道となりました。
Courtney はその同じカナダの小さな田舎町で育った、後に夫となる SPIRITBOX の共同設立者と出会った瞬間を、今でも鮮明に覚えています。Michael は彼女の弟と同い年でしたが、早熟な楽器の才能を発揮する Michael を二人は畏敬の念を持って見守っていました。
若きギタリストだった Michael は、PROTEST THE HERO や A TEXTBOOK TRAGEDY といったカナダのプログメタル・バンドに夢中になっていました。後者は、BAPTISTS, SUMAC, GENGHIS TORN のドラマー Nick Yacyshyn を擁する、バンクーバーを拠点とする狂乱のバンドでした。Michael の最初のバンドである FALL IN ARCHAEA は、そういったグループの頭が回転するようなポリリズムの足跡を忠実に再現しています。
「2008年6月のことだったわ。彼のバンドと私のバンドが、同じアナーキストの本屋で演奏していたの。弟にあなたが彼の年齢になったときには、彼のように上手になれるわよと言い聞かせていたのだけど、Michael もまだ16歳だったのよね。彼はいつも目立っていたわ」
Courtney と Michael は、先鋭的な書店や小さな町の会場を同じように回っていましたが、それぞれが23歳と22歳になるまで、お互いの人生に大きく関わることはありませんでした。しかし、そんな友人関係は徐々に変わっていきます。
「ある時点で、私は彼を愛しているのではなく、彼に恋をしているのだと気づいたの。Michael も同じことを感じていたようね」
二人の関係は恋愛と仕事で共に、すぐに切り離せないものとなり、一緒にいない時間が苦痛に感じるようになりました。お互いが今ではすべてをさらけ出しています。
「私たちは互いのすべてを知っているわ。24時間365日一緒に過ごすことは、普通のことではないのよね。私たちの関係の境界線は非常に曖昧なのだけれど、一緒にバンドをやっていることで、お互いにもっと正直になれたのよね」

上昇志向の強いスーパー・カップルは、生活のほぼすべての面で絡み合っています。毎朝共に起きて、同じヘルス・データ入力の仕事に行き、同じ時間働いた後、家に帰ってきてバンドのために共同作業を行うのですから。
2016年に Courtney と Michael が結婚したとき、結婚式の招待客は新しいトースターを贈るかわりに、2017年にリリースされたデビューEPのミキシングとマスタリングの費用をまかなうために、2人に数ドルを提供するように求められました。現在の Courtney は、Michael と彼女が共有していた駆け出しのバンドに対する信念を、単にナイーブなだけではなく “妄想” とまでに表現しています。
「私は、バンドには2種類の人がいると思っているの。IWABO の最後の頃の私のように、気晴らしとして利用している人。そして、今の私たちのように、”どうしてもこのバンドをやらなければならない、誰にも止められない”という人たちね。私たちのように、バンドに所属していることが、すべての邪魔をする強迫観念となっている人もたくさんいるのよ」
ただし、そういった二人の “妄想” は、実を結んだと言ってもよいでしょう。ベーシストの Bill Crook が加入して完成をみた SPIRITBOX は、見過ごされていた過去とは一変して、今では世界中のロックやメタルのファン、マネージャー、プロモーター、レーベル、ジャーナリストが口にする名前となっています。4年前には”夫婦バンド” だからと一蹴された音楽が、今では7500万回もストリーミングで聴かれているのですから。
そうして届けられた “Eternal Blue” は2021年で最も完成度が高く、魅力的なヘヴィー・アルバムの一つとなりました。世界は、まさに彼らのもの。しかし、”Eternal Blue” の旅路を理解するには、まず Courtney LaPlante を理解する必要があります。
Courtney は、その曲が存在する何年も前から “Eternal Blue” という名前を見つけていました。もっと言えば、彼女は人生の中でずっとこのタイトルを見つけていたのです。
つまり “永遠の青” とは、自分の人生が “うつに悩まされてきた” という Courtney の告白。
「バンクーバー島が存在することさえ知らなかった。何?島なの?私をバカにしているの?私は18歳になったらすぐにここを出て、アラバマに戻るわよと言っていたの。でも叔父は、今はまだ理解できないだろうが、信じてくれ、お前はとても保護された場所で育ってきたが、これからは多くの新しい経験や人々に触れることになる。ここに戻ってくることはないだろう。君はそこを好きになるだろうってね。そして最終的に彼は正しかったわ」
アメリカ南部のアラバマ州で生まれ育った Courtney は、15歳のとき両親の離婚と母親の再婚を機に、北へ2,000マイル離れたカナダ西海岸のバンクーバー島、ビクトリアに引っ越しました。6人兄弟の長女である彼女はその時、”自分の人生のすべてを捨てた” と言います。新しい町の新しい学校で、彼女は居場所と友人を見つけるのに苦労しました。
「当時、私はうつ病というものがどういうものか知らなかったし、物事はそういうものだと思っていたから……私はよく助けを求めて泣いていたけど、周りの人たちがあまりにも多くのことを経験していて忙しかったから、助けてもらえなかったのでしょう。私は人を操るのがうまいので、何もしなくてもいいように、隙間をすり抜けていたの。私が今もここにいるのはとても幸運なことよ。10代の脳は、完全に発達した大人の脳とは大きく異なるのだから」
Michael がパートナーの感情の起伏、つまり “ベッドから起き上がれないほどの自信喪失と不安” が3日間続くことについて、穏やかに話し始めたのは、ちょうど2年前のことでした。Michael は Courtney に “この状況を何とかしなければならない。君はこんな思いをしなくてもいいんだよ” と告げます。
「私が普通ではないこと、それが私に何か問題があるのではなく、私という人間の一部なのだということを理解するには、彼が必要だったのよ。私は他の人と違うけど、それは欠陥のある人間だということではないのよね」

“Eternal Blue” は、今年の初めにカリフォルニア州のジョシュアツリーでレコーディングされましたが、曲作りの多くはこの暗い時期に行われており、結果的にその旅路の傷跡が12曲の中に生々しく残っています。”Eternal Blue” というタイトルは、この12の音楽のコレクションと同様に、Courtney の物語を内包した言葉なのです。
「ヘヴィーな音楽は、自分自身がそういった感情と結びつくための最良の方法のひとつで、それによって、たとえ2、3のステップが必要であっても、乗り越えることができるの。”Eternal Blue” は純粋な利己主義的作品よ。なぜなら、私にとってこの音楽は、私が常に抱いている多くの感情や攻撃性、本当に暗くて私に侵入してくる考えから前に進むため必要なものだから。でもね、私のうつに対する対処法がたまたま市場性のあるものであったことは幸運だったのよ」
歌の中では、彼女のそんな考えが物理的な形で表現され、心の闇を具現化するキャラクターが登場していきます。
「私はイメージやメタファーの後ろに隠れるのが好きなの。それは私が安心できる場所、隠れている場所、そして誰も私を傷つけることができない場所だから」
例えば “Holy Roller” は、2019年のホラー映画 “Midsommar” を彷彿とさせるビデオをになり、昨年、SPIRITBOX を広く世に知らしめました。9歳の少女 Harper がこの曲をカバーしたバイラルビデオが瞬く間に広がり、Courtney の元にまで届いた事実はその証明で、彼女は今でもビデオを見るたび目に涙を溜めます。少なくとも、この9歳の少女は、Courtney の猛烈な音域を正確に捉え、彼女の2倍の体格と長年の経験を持つボーカリストのようなパワーを発揮していました。歌詞の内容まで深く理解しているかはわかりませんが。
「この歌詞は、私が私の中の悪魔として話しているのよ 。それは私の憂鬱であり、私を堕落させようとする悪であり、私を全然良くないからって暗闇に誘惑している声なのよ。私は無宗教だけど教会で育ったから、今でも聖書に書かれているサタンの擬人化の仕方が、いつも心に残っているの。悪魔はモンスターではなく、あなたにささやきかけてくる、最悪の事態を引き起こす人間なの」
Courtney は “Circle With Me” を例に挙げます。
「この曲では、自分自身のことを書いていることもあれば、潜在意識や、目標を阻む憂鬱な気持ちを代弁していることもあるの。自分がまだ十分ではないと言っているの。私の悪魔が私に言っているのよ。あなたが自分らしくあることを妥協すれば、すべてがあなたのものになる… ってね」
これらの声は、Courtney 自身のボーカル・パフォーマンスにも反映されています。クリーンからスクリームへの移行を、Courtney LaPlante のように巧みに、深く、激しくこなすフロントマンはほとんどいないでしょう。それは、バンドが自身の YouTube チャンネルで公開している、スタジオ内のボーカル・ブースでのワンテイク・パフォーマンスのビデオが証明しています。(バンドのシングル “Rule Of Nines” のリリースに合わせて公開されたこのビデオは、これまでに210万回再生され、同じ曲の公式ミュージックビデオよりも人気があるのですから。
Courtney は長年にわたって声帯に深刻な損傷を受け、声域が制限されていましたが、ポリープが奇跡的に消えたことで回復しました。だからこそ、”Eternal Blue” を32歳にしてようやく “自分の本当の声” を実現できた作品だと考えているのです。
天使と悪魔が、コートニーの左右の肩に座っているようにも思える彼女の歌声。表面的には明確なその二面性も、しかし彼女にとっては地続きです。
「私にとって、叫び声と歌声は同じ感情から来ているの。叫ぶことは体に負担がかかるけど、技術的なことはそれほど必要ないわ。私は自分のパフォーマンスに没頭するのが好きで、スクリームは催眠状態のようなもの。でも、歌声はもっと壊れやすいから、考えすぎないようにするのは難しいわね」

そうしてこの対照的な手法は、”Eternal Blue” 全体に、不安定さと脆弱さの感覚を生み出す役割を果たしています。特に後者は、コートニーにとって有益な感情であり、ヘヴィー・ミュージックにはまだまだ大きく欠けているものだと彼女は感じています。
「ヘヴィー・ミュージックはやっぱりまだまだ男性優位の世界だから、男は怒りや強さ以外の特徴を見せてはいけないと教えられているの。誰もが普遍的に弱さを感じることがあるけれど、多くの男性にとって、それを曲の中で表現することを快く思うサポートを得るのはとても難しいことなのよ。
特に、概して “克服” や “立ち上がること”、”戦い” がメッセージになるような攻撃的なタイプの音楽では、そういった状況に陥りやすいわ。だけど、ヘヴィー・ミュージックには周期性があって、その中は弱さが浮かび上がってくることもあるのよ?」
Courtney は、その証拠として “弱さ” を内包していた Nu-metal やエモのムーブメントを挙げ、これらのシーンが、他のサブ・ジャンルでは “ロック” から離れていたかもしれないファンにとって、音楽的なゲートウェイとなったと信じています。同時に彼女は今日、人々がヘヴィー・ミュージックを発見する道は、かつてないほど広く、アクセスしやすくなっていると付け加えました。これは重要なことだと Courtney は感じています。彼女自身の経験がそれを裏打ちしているからです。
「私はこの業界で成功しようと大人になってからずっと過ごしてきたんだけど、一つの定型化した音楽のジャンルにこれほど情熱を傾けるのはとても奇妙なことよね。でも、LOATHE や CODE ORANGE, SLEEP TOKEN のようなバンドが現れたり、ISSUES や BMTH のようなもう少し洗練されたバンドが現れたりすると、また違った感じでとても新鮮なのよ。メタルにおける “ゲート・キーピング” のような旧態依然とした考え方は、古臭くて何か癪に障るのよね。一つのスタイルのメタルしか好きになることができない人たちのようなね。
メタルというジャンルの好きなところの一つは、結局のところ、とても進歩的だということなの。新しい経験に対してオープンであること。奔放で、新しいサウンドを探求したり、ジャンルを試したりすることに寛容なのよ。でも一方では、新しい音楽やアイデアを理解したり受け入れたりすることを全く拒否し、チャンスを与えようともしない閉鎖的な考え方も非常に多いのよね。と言うよりも、多くの点で、メタルというジャンルの “古い” 印象は、境界線を押し広げて新しいことに挑戦している BMTH や ARCHITECTS のような新しいバンドに置き去りにされているからかもしれないわね。
これらのバンドは自分たちに忠実であると同時に、未知の世界へと足を踏み出しながら、昔々、私たちが “クラシック・メタル” と考えていたことをやっているんだけど、結果は違っているのよね。メタルというジャンルにとって、今は別の時代であり、好むと好まざるとにかかわらず、時は進むのよ。だから私たちはそれに合わせて進まなければならないと思うわ」
もちろん、パラダイムが世代によって変わることは、音楽、文学、ファッション、大衆文化などでは当たり前のこと。ヘヴィー・ミュージックは、今後もシフトし続け、劇的に変化していのでしょうか?
「そう思うわ。例えば、私はミレニアル世代だけど今、自分よりも若い世代を見てみると、ジェネレーションZの人たちが見えてくるの。彼らにとっての “ロックスター” のイメージは、現在はヒップホップの世界から来ているのよ。そこでは今、実験的で奇妙なカウンター・カルチャーが起こっていて、彼らは主流のポピュラー・カルチャーと心を通わせようとしているの。私の世代の親は METALLICA に夢中だったけど、今の若い世代はR&Bやヒップホップのアーティストに注目しているわ。
私は、オルタナティブ音楽のジャンルは、これらのアーティストを参考にして、彼らが現在の状況にどのように適応しているか、また、自分の音楽や全体的な影響力をどのように世界に発信し、マーケティングしているかを知ることで、利益を得ることができると考えているのよ。だから私はそういったアーティストから多くのことを学び、インスピレーションを得ているわ。彼ら(ヒップホップ・アーティスト)は、基本的に自分のやりたいように物事を進めていくことで自分の帝国を築き、現代の変化し続ける世界に道筋を作ってきたの」

SNS も現代では成功のための欠かせない要素だと思われています。
「私たちは、Facebook の数字そのものから離れていっていると思うわ。私は、それが音楽と同じくらい重要だった時代を覚えているの。数年前までは、バンドの公式ページにどれだけ多くの人が “いいね!” を押しているかが気になるのが当たり前で、”いいね!” を買っている人もいるくらいでね。
例えば、あるメタルコアバンドの Facebook ページにアクセスすると、ここ10年くらい続いているバンドの場合、Facebook の “いいね!” が15万件もあるのに、何かを投稿すると “いいね!” が6件くらいしかつかないことがあるわ。明らかに何かが間違っている。特定の方法で数字をごまかすことはとても簡単なのよ。幸いなことに、人々はそのような傾向から脱却しつつあり、特にレーベルは、最終的にはそれがとても重要ではないということに気付いているわ。
SPIRITBOX は、ソーシャルメディアの数はたいしたことはないけれど、エンゲージメントには素晴らしいものがあるのよ。私は、オンラインでのエンゲージメントは、音楽への入り口のようなものだと考えていてね。それがある人にとって興味深いものであれば、その人が音楽をチェックする可能性は非常に高くなるのだから。
でも、最近の人々は、まず音楽を聴いて、それからソーシャルメディアの美学をチェックする傾向にあると思いうわ。私が所属していたバンド (IWABO) は、50万以上の “いいね!” を獲得していたけど、ライブになると12人しか来なかった(笑)。つまり、私が言いたいのは、ソーシャルメディアは今日の業界のすべてではないということなのよね」
10代後半に弟を介してヘヴィー・ミュージックに出会った彼女は、幅広い趣味を持つ音楽ファンとして、ヒップホップや R&B、ポップスの世界でソング・ライティングのお手本を挙げる傾向が多いのですが、彼らのやり方はヘヴィー・ミュージックのそれとは相反すると感じています。
「ヘヴィー・ミュージックでは、ボーカリストが、曲の後ろを走ってついて行こうとしているように感じることがよくあるわ。他の多くのジャンルでは、楽曲はボーカリストをサポートするためにあるのであって、その逆ではないのよね。だけど、重要なのは、方法ではなく、何が語られているかということでしょ?
最近の若い世代は、とても勇敢だと思うわ。臆することなく自分自身を表現し、ヘヴィー・ミュージックの文脈の中で自分が何者であるかを探求しているわ。ヘヴィー・ミュージックの世界に入ってきている多様な声、人生の様々な場面で得たユニークな経験を表現することに前向きな声は、ヘヴィー・ミュージックをエキサイティングなものにするだけでなく、このジャンルが必要としているものでもあるのよね」
そもそも “ヘヴィー” とはいったい何でしょうか? “Eternal Blue” の最も重大な成果は、基本的なこの言葉の定義にとらわれることを拒否していることでしょう。確かにこのアルバムは、バンドのルーツであるポスト・メタルコアから生まれたもの。THE ACACIA STRAIN や ARCHITECTS(ボーカルの Sam Carter は、激しい “Yellowjacket” にゲスト参加している)などが、このアルバムの最もヘヴィーな瞬間に使われているトーンやチューニングに対して影響を与えているのは明らかです。テクニカルなリフ、挑戦的なリフ、そしてブレイクダウンも豊富。
しかしそれだけでなく、”Eternal Blue” は、異なる次元と色を持つレコードです。ジャンルの慣習は少なくとも参考にはなりますが、制限にはなるべきではないでしょう。ジョシュアツリーの20エーカーの孤立した土地で “Eternal Blue” をレコーディングしたことも一つの “掟破り” であり、この砂漠の環境がアルバムに幽霊のような雰囲気を与えています。Michael が説明します。
「パンデミックもあって、人里離れた場所での作業を希望していたんだ。そして、カリフォルニアの砂漠の真ん中にその場所を見つけたんだよ。外に出ても何も聞こえない、純粋な静けさだったね。まるで防音室の中にいるようだった。遠くに車が見えるくらいで、それだけさ。そんな生活を30日間続けたことで、このレコードは奇妙な雰囲気を醸し出していると思う」

同時にMichael は SPIRITBOX を立ち上げるにあたって、その作曲法を大きく転換させました。
「俺の最初のバンドは、とてもテクニカルで不協和音を多用していた。Iwrestledabearonce は、それ以上だったな。だから、これまでの俺は、どれだけ速く演奏できるか、どれだけ極端に楽器を演奏できるかといった、衝撃性に夢中だった。でも、SPIRITBOX を始めた頃は、同じような姿勢で、どれだけキャッチーなものを作れるだろうかという感じになっていたね」
Courtney は、”Michael から流れ出る” ギターワークを、”非常にアグレッシブだけど、悲しさもある” と表現しています。彼女は “sorrowful” や “mournful” という言葉を使って、彼のギターを人の声が聞こえてくるようなサウンドスケープを表現しました。Courtney の耳にとってそれは、まるで誰かが泣いている音のように聞こえてくるのです。
「私はいつも、衝撃的なテクニックよりもアトモスフィアに惹かれてきたの。テクニカルな音楽は、演奏しているときはとても楽しいのだけど、感動を時間が経っても持続させる力がないのよね。私の心に響くヘヴィネスの好例は、DEFTONES のようなバンド。ヘヴィネスとは、私にとっては圧縮感なの。ヘヴィーとは、あなたの心を重たくして、萎縮させるもの。自由になって叫ぶことができるような解放感ではなく、それこそがヘヴィーの定義なの」
ゆえに、彼女は友人と喧嘩した後に世界から閉ざされた気分になることを歌ったアルバムのタイトル・トラックを、アルバムの中で最も好きな曲であるだけでなく、アルバムを決定的にする瞬間であると指摘します。EVANESCENCE の影響を受けたオープニングの”Sun Killer” や、アルバムを締めくくる “Constance” では、メロディーの感情的な響きが、アルバムの中で最も激しい3分間 “Silk In The Strings” に匹敵する “重さ” を生み出しています。また、前述のCircle With Meでは、コートニーが “When birds of prey invade my thoughts, they promise I will feel the pain” と優しく歌うと、楽曲最後のノイズのクレッシェンドと同じくらいの衝撃が走ります。
「この音楽はとてもこころを動かすものよ。だから、私と一緒に完全に感情移入してもらいたいの」
このような色とりどりのスタイルは、感情の不安定で変化し続ける形を伝えたいという想いと、SPIRITBOX 独自の流動的で柔軟なサウンドを作りたいという二つの想いから生まれたものでした。 結局、”Eternal Blue” は、簡単に分類できるようなレコードではありませんが、それが重要なポイントなのです。感情や人間は、単純に一つのもので成り立っているわけではないのですから。
「ロックやメタルのリスナーとして、私たちはすべてのボリュームが常に “11” に上げられていることを期待するような耳を鍛えてきたのよね…」
Courtney は、この言葉がメタル界の鼻持ちならない人たちの眉間にしわを寄せるかもしれないことを知っています。そのような人たちに対して、あるいは誰に対しても、彼女は “Eternal Blue” への期待値や SPIRITBOX のサウンドが次にどこに向かうかについて、何の約束もしません。忘れてはならないのは、このバンドはまだ自分たちの足場を見つけたばかりであり、1年前でさえ、このようなスポットライトの下で期待を浴びいるとは思ってさえいなかったということ。

例えば、ライブが復活したら “Eternal Blue” の世界はどうなるのでしょうか?これまでにわずか15回のライブしか行っていないバンドにとって、それを考慮することがいかに難しいかを表現しながら、それは独特の、そして間違いなく歓迎されるべきプレッシャーであると Courtney は認めています。だからこそ、今 Courtney LaPlante は、最も落ち込んでいた2年前の、”Eternal Blue” を書いたときの自分とは少し距離があると感じているのです。
「これからの数年間は、時間に追われている Courtney ではなく、ミュージシャンとしての Courtney という本来の自分を取り戻すことができるでしょうね」
ただし、形は違えど、根っこにある感情は変わりません。
「今は、他の新しい不安を抱えているわ。私は失敗するのかしら?このアルバムは私の夢を叶えてくれるのかしら?それとも世界の笑いものになってしまうのかしら?でも、”Eternal Blue” の曲はすべて、今の私の心に一層響いているのよ。このアルバムの中で最も古い曲は、なりたい自分になれないもどかしさを歌ったものだから」
そして今、そのチャンスを手に入れたのでしょうか?
「今、私は自分の物語の中で自虐的な敵役になれるかもしれないわね。私は警戒心を捨てて、自分が必死であることに気づいているの。そう、私はこのバンドに必死なのよ」
Courtney は最近、Billie Eilish の “Same Interview” のビデオを見ました。その中でポップスターは、前回のインタビューからちょうど365日後にまったく同じ質問に答え、自分の人生の変化を振り返っています。2020年10月18日版では、それも4年目を迎えました。
「私たちは彼女が一人の女性として成長し、昔の自分を笑うのを見ているのよ。でも、彼女が言っていたことの中で、とても心に響いたのは、大スターになった今、誰かと話をしていると、自分ではないような、Billie Eilish の役を演じている自分を見ているような、そんな体外離脱の体験をすることがあるということね。そして、それはとても悲しいことなのよ。でも、私が自己認識を持ち続け、自分が説くことを実践し、自分の音楽の中で弱さを保つことができれば、私たちは大丈夫だと思うのよ」

参考文献:KERRANG!:Believe The Hype: Spiritbox are the hottest band in the world

REVOLVER:10 THINGS WE LEARNED FROM OUR SPIRITBOX

SPIRITBOX:SPIRITBOX: RISING CANUCK METAL TRIO IS A TRUE LABOR OF LOVE

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – SPIRITBOX

 

RISE RECORD: SPIRITBOX

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MORDRED : THE DARK PARADE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANNY WHITE OF MORDRED !!

“I Leave It To The Public To Decide If We Influenced This Or That Nu-metal Bands.”

DISC REVIEW “THE DARK PARADE”

「MORDRED が Nu-metal に影響を与えたかどうかは、リスナーの人たちが決めることだからね。でももし、僕たちがまだ一緒にいて、3枚目のアルバムの嵐を乗り切っていたとしたら、僕たちには階段を上るチャンスがあったと思うけどね」
真の先駆者が大衆やジャーナリズムによって忘却の彼方に捨て去られる現象は、時代の変わり目においてしばしば起こりうる悲劇です。1990年代後半、Nu-metal がメタルに DJ を持ち込む斬新さをメディアが賛美する影で、ベイエリア・スラッシュにファンクやヒップホップを大胆に取り込み、レコード・スクラッチを初めてメタルに導入した MORDRED はすでに忘れ去られた存在でした。
「僕たちは他とは違っていたので、スラッシュ・コミュニティに必ずしも受け入れられたわけじゃないけど、それは僕にとっては問題じゃない。良い音楽が好きで心の広い人たちは、僕たちがやることを理解してくれる」
90年代初頭の多くの先駆者たちと同様に、MORDRED は、移り変わるラインナップと気まぐれな市場に悩まされ、3枚のフルアルバムとEPで2000年代の終わりに来るべき “恐怖の大王” を予言した後姿を消しました。
もはやスクラッチが楽器の一つと化した “In This Life” のひりつくような知性とテンション、インタビューで Danny も認めるようにシアトルと SOUNDGARDEN, もしくは FAITH NO MORE にインスパイアされたオルタナティブな “The Next Room”、双方ともが MORDRED が秘めていたポテンシャルの大きさを物語る名作です。一方で、その実験的な傾向と斬新さによって、最も受け入れられるべきスラッシュシーンへの浸透が妨げられた事実は実に皮肉な話ですが。
「実際にはかなり自然なことだったんだよ。僕たちは MCM and The Monster の Aaron Vaughn (DJ Pause) と知り合いだったんだけど、彼らは当時のサンフランシスコのヘヴィー・ファンクシーンの一部だったんだよね。僕たちのドラマー Jeff のバンド Fungo Mungo をはじめとして、Limbomaniacs, The Mofessionsal など、見に行くべき素晴らしいバンドがたくさんあった。同時に、TESTAMENT, EXODUS, DEATH ANGEL といったベイエリアのスラッシュ・シーンも当時爆発的にヒットしていたからね」
ゆえに、爪で肌を掻き毟るようなリフワークを主体とし、ファンクやヒップホップの影響を限定的に採用したデビュー作 “Fool’s Game” こそ、当時のメタル・ヘッズには最も親しみやすい作品であったとも言えます。その代表作に参加したオリジナルのラインナップが再結成されたことで(厳密には “DJ Pause” は当時ゲスト参加)、四半世紀ぶりの新作 “The Dark Parade” がよりメタリックな輪郭を持つのはある種の必然なのかもしれませんね。
冒頭の二曲、TESTAMENT のリフモンスターをラップのアプローチで装飾した “Demonic #7″、ANTHRAX のグルーヴをスクラッチで彩る “Malignancy” で、リスナーはベイエリアと NYC の対比を味わいつつ古き良きスラッシュメタルの攻撃力を洗礼のようにその身へと浴びていきます。
「”The Dark Parade” はトレシージョのリズムパターン (ラテンアメリカの音楽でよく使用される) で始まり、ブラジルのカーニバルの雰囲気を持っているね。それをさらに強調するためにホーンを加えたんだよ」
とはいえ、あの MORDRED がノスタルジアだけで再び集うはずもありません。タイトルトラックではラテンのリズムを抱きしめながらアメリカの分断をリオのカーニバルへと投影し、”I Am Charlie” ではサンプリングを楽曲の一部へと昇華しシアトリカル・インダストリアルなイメージを増幅。何より、”In This Life” の実験を Mike Patton で煮詰めたような “Dragging For Bodies” を聴けば、MORDRED の物語が再び始まったことを確信できるはずです。
そうして彼らは、アヴァン・メタルの原始時代を的確に描きながら、想像以上の説得力と意志とをその身に宿しメタル世界へと帰還を果たします。モードレッドがアーサー王に振りかざした刃を、今度こそ振り下ろすために。
今回弊誌では、ギタリスト Danny White にインタビューを行うことができました。「かつて僕たちが持っていたバンドメンバーの兄弟愛、絆のようなものにとても憧れていたんだよ。それで、僕が好きなバンドの中でも、まだそういった繋がりを持っているように見えるシアトルのバンドに惹かれていったんだ。SOUNDGARDEN をよく聴いていたから、あの時の曲作りにも影響があったと思う」 どうぞ!!

MORDRED “THE DARK PARADE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCALE THE SUMMIT : SUBJECTS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS LETCHFORD OF SCALE THE SUMMIT !!

“You Have To Diversify Your Income. The Days Of Musicians Making a Living Off Of Just Their One Band Is Long Over, It Was Over Even When We Started Our Band In 2005.”

DISC REVIEW “SUBJECTS”

「6枚のアルバムをリリースし、世界中でツアーを行ってきた。たけど楽器の演奏や作曲に少し飽きていたこと、バンドの規模が大きくなってきたこともあり、お気に入りのシンガーに声をかけてみようと考えるようになったんだ」
かつて、インストでなければ SCALE THE SUMMIT ではないとまで言い切った、ギター世界のミッシングリンク Chris Letchford は実際、彼の言葉通り LIQUID TENSION EXPERIMENT と ANIMALS AS LEADERS をつなぐインストゥルメンタルの覇道を突き進む数少ない才能の一人と目されていました。
シュレッドよりも楽曲にフォーカスし、プログ・メタルの標準的なクリシェを排除。ワイルドで目的のないシュレッドの代わりに、まるで弦が声であるかのように、冒険的でメロディックなリードを自らのジャガーノートとして積み上げてきたのです。一方で、Chris の中で、インストの商業的限界、壁を打ち破れない苛立ちとマンネリの幻影が日に日に膨らんでいたのも事実でしょう。
「8人の異なるシンガーを起用したことで、シンガーと本格的に活動していくことが自分のやりたいことだと気づくことができたんだ。音楽を作ることへの情熱が再び蘇ったんだよ」
前作 “In A World of Fear” で各楽曲にソリストを招聘し、新たな “色” を加える試みが一つの導火線となったのでしょうか。SCALE THE SUMMIT は遂にインストゥルメンタルの旗手という地位を捨て去り、新たな航海に出ることを決意します。船に乗り込むのは8人の多種多様なボーカリストたち。
アルバムは Mike Semeski(ex-INTERVALS)をフィーチャーした “Form and Finite” で幕を開けます。猛烈な勢いのギター・ストリームはそれだけで十分にプログで刺激的ですが、ボーカルが加わることでさらなる波が加えられ、最後に鬼才 Andy James がゲストとして花火のごとき流麗なリードを披露し、新生 SCALE THE SUMMIT号は完璧な条件での船出を迎えます。
Chris Letchford は、数年前にソロプロジェクト ISLANDS で、ボーカルとの婚姻を予見していました。アルバム “History of Robots” にはボーカル曲が2曲収録されていたのですが、そこで歌っていた REIGN OF KINDO の Joey Secchiaroli は “Subjects” でも崇高な “Jackhammer Ballet” に登場しています。煩雑なギターワークとジャジーなボーカルの蜜月。”Subjects” にはインストゥルメンタル・バージョンも存在しますが、STS の新章は、独創的なギターと各ボーカリストの優れたパフォーマンスの組み合わせで、ネクスト・レベルへと進化を遂げたのです。
HAKEN の Ross Jennings をフィーチャーした “Daggers and Cloak” で既存のファンの溜飲を下げる一方で、バンドは新たな海域にも進出していきます。今最も注目されているバンドの一つ、SPIRITBOX から Courtney LaPlante を呼び寄せた “The Land of Nod” は STS のヘヴィーとメロディック双方の最高到達点を更新したような珠玉。
「彼の死は本当に衝撃的だった。アルバムの完成後、Garrett とは誰もあまり話をしていなかったんだ。だからアルバムの発表日に SNS にみんながタグ付けして、その時にはじめて彼が亡くなったことを知ったんだよね。辛かったね…」
アルバムのハイライトは、Garrett Garfield をフィーチャーした “Don’t Mind Me” でしょう。Chris のトレードマークであるクリーントーンのタッピングが、Garrett のソウルフルな歌声とデュエットを繰り広げるような夢見心地。 残念ながら、Garrett は昨年11月に鬱に飲み込まれてこの世を去ってしまいました。Garrett の心の痛みや喪失感を反映した感情の灯火は、インストゥルメンタルでは到達できなかった境地なのかもしれませんね。「うつ病や不安、ストレスに悩んでいる人には食事と運動の改善をお勧めするよ。自分で調べてみるのが大事だよ!」
今回弊誌では、Chris Letchford にインタビューを行うことができました。「ミュージシャンを目指すなら、収入を多様化しなければならないよ。ミュージシャンが一つのバンドだけで生計を立てていた時代はとっくに終わったんだ。2005年に僕らがバンドをはじめた時には、すでに終わっていたんだから」二度目の登場。どうぞ!!

SCALE THE SUMMIT “SUBJECTS” : 10/10

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