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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LORDS OF THE TRIDENT : THE OFFERING】JAPAN TOUR 22!!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TY CHRISTIAN !!

“Just Like My Short Time With My Host Family In Japan, It Doesn’t Take Much To Change Someone’s Life For The Better. Just a Little Bit Of Kindness Can Completely Change The World!”

DISC REVIEW “THE OFFERING”

「パワー・メタルのジャンルやコミュニティーをバンドや人々にとってポジティブな場所にすることができれば、人と人とのつながりが生まれ、友情が生まれ、最近の暗い時代と戦うことができるのではないかと思うからね。僕が日本でホストファミリーと過ごした短い時間のように、誰かの人生を良い方向に変えるのに、それほど多くの時間は必要ないんだよ。ほんの少しの優しさが、完全に世界を変えるんだ!」
茨城県阿見町。霞ヶ浦を抱く人口4万5000の小さな町の優しさが、遂には北米のパワー・メタル世界を大きな愛で一つにしようとしています。
「実は高校生のとき、茨城県阿見町の家庭でホームステイをしたことがあるんだ。日本に渡り、素晴らしい人たちと一緒に過ごしたことが僕の人生を変えたんだ。彼らはあまり英語を話せないから、日本語でお礼と日本での体験がいかに重要だったかを伝えたいと思った。それで、大学に進学して、3つの専攻のうちの1つを日本語にしたんだ。
日本語の授業でアキ(日本人のハーフだけどアメリカで育ったから言葉は通じない)と出会い、一緒にバンドを結成したよ。また、妻ともその日本語の授業で出会ったんだ。ホストファミリーと過ごした短い時間、そしてホストファミリーのアメリカ人の高校生に対する優しさが、僕の人生を完全に変えてくれたんだ。彼らのおかげで、僕は今ここにいるんだよ」
米国ウィスコンシン州のスーペリア市と姉妹都市である阿見町。その縁もあって、高校生の Fang VonWrathenstein A.K.A. Ty Chritsian はホームステイで阿見町にやってきました。日本の田舎町で受けた歓待、そしてどこの馬の骨かもわからぬ自分に向けられた家族のような温かい優しさは、Ty の人生を完全に変えました。RIP SLYME や GLAY を発見し、日本語を学び、日本語の授業で妻やバンドの盟友 Aki Shimada と出会い、日本のゲームやアニメ、コスプレと共鳴するメタル・バンド LORDS OF THE TRIDENT を結成。日本の優しさから生まれた日本への愛情は、そうしていつしか北米のパワー・メタル世界を優しさで一つにしていきます。
「パワーメタルのバンドや自分たちが作る音楽は、地域のコミュニティーをひとつにまとめ、世界にポジティブな変化をもたらす非常に強い力になるとも思っているんだ。僕たちは、北米のパワー・メタル・バンド、そのコミュニティーを友好的に結びつけることに取り組んでいる」
アメリカのメタルは “怒り” と “恐れ” の音楽。ゆえに、前向きで優しく、ファンタジーと伝統に彩られたパワー・メタルは未だにヨーロッパのもの。ただし、そんな状況を変えるために、LORDS OF THE TRIDENT は北米のパワー・メタル・コミュニティーを一つにしようと決意します。UNREASH THE ARCHERS, SEVEN KINDGOMS, AETHER REALM といったバンドの中心に LORDS OF THE TRIDENT は存在し、Kickstarters、Patreonキャンペーン、ゲームやプロレスのYoutube シリーズ、Twitch など様々なエンターテイメントに共同して取り組み、北米の熱烈なパワー・メタル・ファンや改心者の忠実なコミュニティを徐々に育んできたのです。
ここ数年のよう、現実の生活が悲惨で暗く憂鬱なときは、勝利を収めるヒーローの救済、そんな物語を欲するもの。現実の世界ではヒーローと悪役を見分けることさえも簡単ではありません。勇ましい主人公が究極の悪に立ち向かい暗闇を払う物語は、暗い現実を忘れ前向きに生きるための特効薬なのかもしれません。そんなアメリカの苦悩や絶望を、LORDS OF THE TRIDENT はパワー・メタルのファンタジックな絆で優しさに変えていこうとしているのです。
「僕らは伝統的なパワー・メタルとオールド・スクールなヘヴィ・メタルの間のどこかに存在しようとしてるんだ。ヨーロッパの多くのパワー・メタルとは違って、僕らの音楽には余計なオーケストレーションがないんだ。キャッチーな曲とコーラスを書くことにいつも重点を置いていて、それが僕らの音楽を広めるのに役立っていると思う」
アメリカにパワー・メタルを根付かせるための試みは、DIY のエンタメ活動だけにとどまりません。欧州のプログレッシブでエピックなパワー・メタルと、米国のフラッシーでキャッチーな80’s メタルを巧みに融合することで、彼らはアメリカのオーディエンスに訴えかけました。同時に、コミコンやゲーム・コンベンションのライブで培った、コスプレや小道具、演出で派手好きな米国人を虜にしていきます。そうして、遂には “地球で最もメタルなバンド” の称号を (勝手に) 得ることになりました。
そんな LORDS OF THE TRIDENT が日本に恩返しにやってきます。日本の小さな優しさが生んだ大きなパワー・メタルの物語は、きっとこのツアー、そして夢の土浦公演でひとつのフィナーレを迎えるのでしょう。そして、霞ヶ浦に降り立ったポセイドンは、次の物語にむけて新たな章を開くのです。
今回弊誌では、Ty Chritsian にインタビューを行うことができました。「”ファイナル・ファンタジー6″ が一番好きなゲームで、その音楽とも深いつながりがあるんたよね。実際、Baron の奥さんは結婚式で、”ファイナル・ファンタジー6″ の曲に合わせてヴァージン・ロードを歩いたからね」 どうぞ!!

LORDS OF THE TRIDENT “THE OFFERING” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND ILLUSION : WRATH OF THE GODS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLIND ILLUSION !!

“It’s Really All About The Love Of Playing Music And Most Of All This Latest Incarnate Was Designed To Be Able To Bring The Progressive Thrash Metal To The World.”

DISC REVIEW “WRATH OF THE GODS”

「そう、俺らはあの作品を “ヒッピー・スラッシュ” とか “プログレッシブ・スラッシュ・メタル” と呼んでいたんだ。俺たちは常にあらゆる音楽から影響を受けたリフを取り入れていたし、今でもそうしている。ヘヴィに変換できる素材なら何でもいいのさ! 」
ベイエリアのスラッシュ・シーンで名を馳せた BLIND ILLUSION は、バンドが始まって10年を超えるの活動期間中に、デモなどを除けば、たった1枚のスタジオ・アルバムを制作しただけでした。しかしあの Combat Records からリリースされたアルバム “The Sane Asylum” は、発売から四半世紀以上が経過した現在でもその異端な激音のブレンドでカルトな名盤として語り継がれています。プログ、クラシック・ロック、NWOBHM, サイケをふんだんにまぶした、あの酩酊を誘う重量感を一度耳にすれば決して忘れることはないでしょう。BLIND ILLUSION は、スピードとアグレッションが主流だった当時シーンに、別種のテクニックと多様性、そしてヒッピーの哲学的な味わいを加味し、”美味しすぎる” 闇鍋を作り上げていたのです。
「俺たちは学校で顔を合わせることの多い友人で、3人とも音楽にとても夢中になっていた。Les がギターを習いたいと言ったから、Kirk は俺からレッスンを受けるようにお膳立てしたんだよ。でも俺はベーシストが必要だったから、Les に “ギタリストはどこにでもいる。でもベースを弾けるようになればいつでもバンドを見つけられるぞ!”と言ったんだ。それで彼は BLIND ILLUSION に参加し、当時演奏していた曲から基本的なことを学んでいったんだ」
BLIND ILLUSION の功績はその音楽だけにとどまりません。バンドの首謀者 Mark Biedermann の周りには不思議と異能のアーティストが集まり、その才能を羽ばたかせていきます。類は友を呼ぶということでしょうか。
BLIND ILLUSION が POSSESSED も経由しているギタリスト Larry LaLonde とベースの魔術師 Les Claypool からなる史上最強のオルタナ・ファンク・メタル PRIMUS を生み出したことはつとに有名ですが、まさか Mark が Les にベースへの転向を勧めていたとは…そこにあの Kirk Hammett も絡んでいるのですから言葉を失いますね…あの3人が同じ学校で机を並べて勉強していたのですから。ゆえに当然、EXODUS のデビューにも BLIND ILLUSION のサポートがあったわけです。
「音楽を演奏することへの愛がすべてだよ。何よりもこの最新の俺の化身は、プログレッシブ・スラッシュ・メタルを世界に広めることができるように設計されているんだからね」
デビュー作のリリース後にバンドは解散し、ボーカル/ギターの Mark Biedermann は2010年に酩酊を深めた異なるサウンド、異なるラインナップで復帰しますが、長続きはしませんでした。しかし、Mark のプログレッシブ・スラッシュに対する情熱が消え去ることはありません。2017年に元 HEATHEN のギタリスト Doug Piercy とベーシスト Tom Gears が加入し、4曲入り EP が続き、遂にプログ・スラッシュの伝道作 “Wrath of the Gods” の完成を見ます。ただでさえ、百戦錬磨のスラッシュ戦隊に、元 DEATH ANGEL のドラマー Andy Galeon を加えながら。
「特にベイエリアやアメリカのスラッシュ・シーンで一番心配なのは、真に画期的な新しいバンドがいないことだよ。新しい世代の若いミュージシャンたちは、YouTube のビデオを見たり、既存のバンドと同じようなサウンドを出すのではなく、全く新しいことを実際にやってみる必要がある。GOJIRA, BLIND ILLUSION, SATAN, TOXIK, ANNIHILATOR のようなバンドは皆、他とは違う、未知の世界に踏み出すために懸命に働いているんだからね」
Doug Piercy がそう語る通り、この音は今でも真に画期的で、他とは異なる BLIND ILLUSION のお家芸。30年という時間は、忍耐強く待つには非常に長い時間ですが、それでも “Wrath of the Gods” は間違いなくその価値があります。本作は、場面転換やギアチェンジ、ズバ抜けた個々のパフォーマンス、現代的な洗練を適度に施したビンテージなプロダクションによって、確かに “The Sane Asylam” の真の後継作、そのプライドを宿しています。
このアルバムの素晴らしさは、金切り音を上げるギターソロや突然のリズムチェンジ、独特のしわがれ声というベイエリアの三原則、勝利の方程式を保持しながらがら、スローダウンしてファンクのグルーヴ、サイケのムードで耳を惹く場面が何度もあるところでしょう。やはり、この時代の人たちは YouTube のような “規範” など一切存在しなかっただけあって、自分の色が鮮明。
“Protomolecule’ や “Wrath of the Gods” といった神々しきリフの数々は、破砕的でテクニカルでありながら、非常にキャッチーでエネルギーに満ち、次の展開の予想でリスナーをスピーカーの前に釘付けにするのです。逆に、これで葉っぱキメてないと言われても容易には信じられませんね。
今回弊誌では、Mark Biedermann と Doug Piercy にインタビューを行うことができました。「機会があれば PRIMUS をよく見に行ったものだよ。特に Todd Huth がギタリストだった初期の PRIMUS が大好きでね。それでも、Larry が加入してからも本当に驚かされてばかりさ。透明で流れるようなギターのフレーズをよりヘヴィに仕上げていてね。彼らが新曲を発表するたびに、すぐにチェックしているんだよ」 どうぞ!!

BLIND ILLUSION “WRATH OF THE GODS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREW LEE OF HOUKAGO GRIND TIME / RIPPED TO SHREDS !!

“I Want To Express My Love For Anime Through Music, And I Think Educated Listeners Can See That I Have Equal Love For Both Moe Anime And Goregrind.”

DISC REVIEW “HOUKAGO GRIND TIME2 / 劇變(JUBIAN)”

「僕は、自分が感情移入できないもので芸術を作るのは好きではないんだよ。だから、音楽を作るときは、特に作詞作曲や映像のデザインをする場合はいつでも、自分が情熱を傾けられるような題材でなければならないんだ。僕は音楽を通してアニメへの愛を表現したいし、教養のあるリスナーには僕が萌えアニメとゴア・グラインドを等しく愛していることが分かると思う」
愛するものを、自らのアイデンティティを、自然に自由にアートへと昇華する。言うは易く行うは難し。特に、音楽が金銭と直結しにくくなった現代において、理想のハードルは以前よりも高くそびえ立っています。
しかし結局は、案ずるより産むが易し。台湾からアメリカに移住したアジア系アメリカ人の Andrew Lee は、HOUKAGO GRIND TIME ではアニメに対する愛と情熱を、RIPPED TO SHREDS では自らの出自である中国/台湾のアイデンティティで “自らの声” を織り込み、二足のわらじで “嘘のない” アートを実現しています。
「エンターテイメントとは、そのエンターテイメントが市場の需要に応えるという意味で、それを生み出す社会の反映なんだ。エンターテイメントが社会から排除された人たちにオアシスを提供するのは良いことだけど、だからそのエンターテイメント自身が資本主義によって作られた “製品” に過ぎないように感じることがよくあるんだよね」
もしアニメ “けいおん!” の放課後ティータイムがグラインド・コアをやっていたら…そんな荒唐無稽を想像させるような夢のある地獄のグラインドコアが HOUKAGO GRIND TIME。グラインドコアもアニメの世界の一角も、荒唐無稽で大げさでそこそこに不真面目であるべきで、だからこそ、その両者を併せ持った HOUKAGO GRIND TIME の音には説得力が二倍となって宿ります。
さらに言えば、メタルもアニメも社会から時に抑圧され、時に無視される “オタク” にとっての拠り所、逃避場所、心のオアシスで、その両者を併せ持つ HOUKAGO GRIND TIME の寛容さももちろん二倍。重要なのは、Andrew の精神や目的が資本主義の欺瞞から最も遠く離れた場所にあることでしょう。ゆえに、ここには逃げられる、心を許せる、心底楽しめる。
「僕は、他のアジア系アメリカ人が “自分たちの” デスメタルバンドを結成し、自分たちにとって重要なテーマについて歌うようになればいいと思っているんだよ。多くのアジアのバンドは、特にアンダーグラウンドでは、プレゼンテーションやテーマの面で西洋の同世代のバンドを真似してきたからね。SABBAT, IMPIETY, ABIGAIL みたいなバンドは、ビール、パーティー、サタン/キリスト、その他西洋のテーマについて歌っているから」
デスメタルを追求する Andrew もう一つの翼、RIPPED TO SHREDS でも彼の正直さ、純粋で無欲な姿勢は一向に変わりません。Relapse 期待の一作 “劇變”(Jubian)” は、スウェーデンの古を召喚した地獄のようなデスメタルでありながら、スラッシュ譲りの獰猛さとメロディアスなギターワークを備えます。
中国語を多用した歌詞やタイトル、項羽と劉邦や三国志をイメージさせるアートワーク、そしてあの HORRHENDOUS にも例えられるプログレッシブで鋭い技巧の刃は明らかにステレオタイプのメタルをなぎ倒す怒涛のモメンタム。このわずか33分で RIPPED TO SHREDS は歴史、アイデンティティ、そして中国/台湾とアメリカとの関係について深く考察し、自分の頭で考え、自分の音楽を、自分にとって重要なテーマで語っているのです。
RIPPED TO SHREDS の目標の一つは、アジア系アメリカ人のメタルに対する認知度を高めること。Andrew は、歴史の陰惨な側面に立ち向かいながら、キャッチーなリフとエモーショナルかつ奇抜なソロの洪水よって、この目標を実現に近づけていきます。”アメリカのマイノリティであることは本質的に政治的” “アメリカの文脈の中で中国のアートを作るという行為こそが破壊的な問題提起” だと Andrew は指摘しますが、”劇變(Jubian)” はまず細部に至るまで豊かで濃密なヘヴィ・メタルです。
特に “獨孤九劍月神教第三節(In Solitude – Sun Moon Holy Cult Pt 3)” にはコントロールされたカオスが大量に盛り込まれていて、この10分の作品は、疾走感から壮大なメロデスの慟哭、ドゥーミーな中間部までエピックのスイを尽くしてリスナーを民話に根ざした物語に惹きこんでいきます。秦の時代、豊満な戦士が宦官に変装して宮中に忍び込み、皇太后を誘惑するというおかしくも恐ろしいエピソードから、アメリカの原爆投下、中国の重層的な政治的歴史まで、RIPPED TO SHREDS が扱うテーマには必ず Andrew のアイデンティティが下敷きにあって、彼はヘッドバンキングの風圧でそこに火を注ぎ、見事に燃焼させていくのです。
今回弊誌では、Andrew Lee にインタビューを行うことができました。「世の中にはアニメ・ゴア/BDMバンドが少なくないけど、彼らはグロ・ロリ・バイオレンスを “ショック・バリュー” “衝撃度” として使っているだけで、本当にそのテーマに興味を持っているバンドは皆無だよね。アイツらは、自分らのポルノの題材で一瞬たりともシコってないんだよ。ヤツらはただ “hentai violence” でググって、任意の過激な画像をアルバムに載せているだけ。まさに、怠惰なビジュアル、怠惰なテーマ、怠惰なアート、怠惰な音楽」 どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MARBIN : DIRTY HORSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANI RABIN OF MARBIN !!

“I Feel Like The Number One Problem With Fusion Music Today Is That People With The Groove Or The Chords First And Their Melodies End Up Being Something That Fits. A Melody Is The Center. Everything Else Should Be Bent To Fit It.”

DISC REVIEW “DIRTY HORSE”

「僕たちは常にメロディから始めるんだ。コードやハーモニーはフレームだけど、結局メロディーを生み出さないとキャンバスの形がわからないからね。今のフュージョン音楽で一番問題なのは、グルーヴやコードが先にあって、メロディがその場しのぎで終わってしまうことだと思う。でもそうじゃないだろ?メロディーは中心だよ。それ以外のものは、メロディーに合わせていかなければならないんだ」
MAHAVISHNU ORCHESTRA や WEATHER REPORT, そしてもちろん Miles Davis など、かつて “エレクトリック・フュージョン” が革命的で、刺激的で、しかしキャッチーな音楽の花形だった時代は確実に存在しました。日本でも、Casiopea や T-Square がマニア以外にも愛され、運動会で当たり前に流されるという “幸せな” 時代がたしかにあった訳です。
なぜ、エレクトリック・フュージョンは廃れたのか。あの Gilad Hekselman や Avishai Cohen を輩出したジャズの黄金郷、イスラエルに現れた MARBIN のギタリスト Dani Rabin は、率直にその理由を分析します。変わってしまったのは、”メロディーだ” と。
「ファラフェル・ジャズ (ファラフェルとは中東発祥の揚げ物) と呼ばれるものは、イスラエルの音楽を戯画化し、わざわざ最大の “決まり文句” を取り上げて音楽の中に挿入し、人工的に一種のエキゾチックな雰囲気を作り出すもので、僕はいつも軽蔑しているんだ。イスラエルは人種のるつぼで、様々なバックグラウンドを持った人々が集まっている。僕は作曲家として、自分の中にある音楽をそのまま出していけば、民族的なスタンプが有機的に、そしてちょうど良い形で自分の音楽に現れてくると感じているからね」
最近のフュージョンの音楽家が思いついたメロディにコミットできないのは、それが自分を十分に表現できていないメロディだから。そう Dani は語ります。たしかに、近年ごく僅かとなったジャズ・ロックの新鋭たち、もしくはフュージョンの流れを汲んだ djent の綺羅星が、予想可能で機械的なお決まりの “クリシェ” やリズムの常套句を多用しているのはまぎれもない事実でしょう。テクニックは一級品かもしれない。でも、それは本当に心から出てきたものなのだろうか? MARBIN は “Dirty Horse” で疑問を投げかけます。
オープニングの “The Freeman Massacre” で、MARBIN の実力のほど、そして彼らが意図するメロディーの洗練化は十二分に伝わります。Dani とサックス奏者 Danny Markovitch はともに楽器の達人で、バンドはグルーヴし、シュレッドし、卓越した即興ソロを奏でていきます。フュージョンの世界ではよくワンパターンとかヌードリングという言葉を聞くものですが、彼らの色とりどりのパレットは退屈とは程遠いもの。
何より、この複雑怪奇でしかし耳を惹くメインテーマは、”ビバップは複雑なメロディとソロのシンプルなグルーヴで成り立っている。それが正しい順序” という Dani の言葉を地でいっています。”Donna Lee” ほどエキサイティングで難解なテーマであれば、ジャコパスも安心して浮かばれるというものでしょう。
一方で、二部構成のタイトルトラック “Dirty Horse” では、バンドのロマンティックな一面が浮き彫りになります。Dani と Danny のユニゾン演奏は実に美しく、目覚ましく、そして楽しい。両者が時に同調し、時に離別し、この哀愁漂う異国の旋律で付かず離れず華麗に舞う姿は、エレクトリック・フュージョンの原点を強烈に思い出させます。
さらに二部構成の楽曲は続き、”Sid Yiddish” のパート1でバンドは少しスローダウンしながら、Danny の長いスポットライトで彼らの妖艶な一面を、チベットの喉歌で幕を開けるパート2で多彩な一面を印象づけます。能天気なカントリー調から急激に悲哀を帯びる “World Of Computers” の変遷も劇的。正反対が好対照となるのが MARBIN のユニークスキル。
驚くことに、このアルバムは2021年8月にスウィートウォーター・スタジオにおいて、たった3日でレコーディングされています。これほど複雑怪奇で豊かな音楽を3日で仕上げた事実こそ、MARBIN がフュージョンの救世主であることを物語っているのかも知れませんね。MAHAVISHNU のようなレジェンドのファンも、THANK YOU SCIENTIST のような新鋭のファンも、時を超えて手を取り合い、共に愛せるような名品。もちろん、メタル・ファンは “Headless Chicken” でその溜飲を下げることでしょう。
今回弊誌では、日本通の Dani Rabin にインタビューを行うことができました。「僕がイスラエルのサウンドで本当に好きだったのは、東欧の影響とショパンのような和声進行がミックスされている音楽なんだ。というか、僕の好きな世界中の音楽には、そうした共通点が多くあるんだよね。 Piazzolla や Django Reinhardt と、僕が好きなイスラエルの音楽は、ある意味、思っている以上に近いんだよね」 どうぞ!!

MARBIN “DIRTY HORSE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【LORNA SHORE : PAIN REMAINS】


COVER STORY : LORNA SHORE “PAIN REMAINS”

“This Kind Of Music Can Be Very Punch-you-in-the-face All The Time. But I Love Stuff Like In Flames Where There’s a Lot Of Inner Conflict.”

PAIN REMAINS

かつてデスコアは、マイスペースでブレイクした JOB FOR A COWBOY と ALL SHALL PERISH を旗頭に、エクストリーム・ミュージックの最新かつ最も賛否両論を浴びる若い音楽として登場しました。彼らは、デスメタルの悪魔的な強さとメタルコアの乱暴なブレイクダウン、そしてニュースクールのプロダクションを組み合わせていたのです。その後数年の間に、2008年 WHITECHAPEL の代表作 “This Is Exile” や 2009年 SUICIDE SILENCE のヒット作 “No Time to Bleed” といった画期的なレコードが、デスコアをワープ・ツアーのステージや若いメタルヘッズのTシャツの棚へ導きました。
しかし、2010年代半ばになると、このジャンルの新時代的な魅力は頭打ちになり、このスタイルは再びアンダーグラウンドに戻りました。ただし、ニッチではありますが熱狂的なファンベースによって育まれ、最近では、15秒間のクリップを共有できる Tik-Tok を中心としたプラットフォームのおかげで再び外界に広がりはじめています。今現在、LORNA SHORE はこのデスコアの新しい波の中で最も大きく、目立つ存在であり、モダンなプロダクションと10年分のジャンルの歴史のおかげで、”Pain Remains” は10年前のどのレコードよりも重く、スマートで、音楽的にダイナミックなサウンドを実現しているのです。
実際、LORNA SHORE の快進撃は、近年 “デスコアは死んだ” と嘯くリスナーを黙らせるに十分な衝撃、これまで以上にハードでヘヴィでパワフルな死の予感を叩きつけます。TikTokで Will Ramos の気の遠くなるようなピッグ・スクイールに何百万人もの人々が我を忘れて熱狂して以来、今では最大級の観客を召喚する、メタルの最も注目すべきバンドとなったのです。

1時間強のアルバムでこの獰猛な5人組は、その黒々とした魂の奥底から、地獄のサウンドを次から次へと引き出していきます。機械仕掛けのテクニックと抑えきれないカオスが交錯し、ブルータリズムの不協和音にリスナーは息つく暇もありません。ギターソロとパーカッションが頭蓋骨に風穴を開ける一方で、Will のボーカルは終始主役を張っています。彼の喉仏をカメラで撮影し、声帯を変形させながら呻き声や悲鳴を上げる映像は誰もが目にしたことがあるでしょうが、”Pain Remains” ではそれ以上に喉仏が酷使されているのです。
ちなみに、実はこの “喉仏カメラ” がきっかけで、LORNA SHORE に対する教育・医学的な関心も高まっています。
「実は僕の声帯が科学の本に載ることがわかったんだ。世界のどこかで、誰かが声の解剖学の授業を受け、そして僕の声帯を研究する。 いいね、僕は本の中にいるよ!」

一方で、この “痛み” には合唱のモチーフや温かみのあるストリングス・セクションが随所に盛り込まれ、圧倒的なカタルシスと陶酔感が内包されています。さらには、”Into The Earth” の勝利の高揚感、”Apotheosis” の血管を流れる生き生きとしたアドレナリン、”Pain Remains I” のワイルドな奔放さ。そうして彼らは、デスコアのルーツを “Dancing Like Flames” でより大きく、ポジティブな翼で羽ばたかせます。
LORNA SHORE の2021年のシングル “To the Hellfire” は、YouTube でマエストロと評判だった Will Ramos を新しいフロントマンとして紹介した楽曲です。この曲が予想外のバイラル・ヒットとなったのは、Will の動物的な咆哮と、撲殺的なブレイクダウンでにおける鬼気迫る叫び声によるところが大きく、このグループが持つデスコアのナット&ボルト、つまりブレイクダウンとねじれたメロデスのリフ、そしてシンフォニックなブラックメタルのアトモスフィアに痛々しい感情が混ざり合うユニークなスタイルにさらなる新鮮味が加わったからでしょう。Will Ramos は言います。
「僕は多くのボーカリストとは全く異なるサウンドを持っている。たくさんの感情があるけれど、それは怒りに満ちた感情じゃないんだ。悲しいんだ。このジャンルではあまり感じないことだし、だから多くの人が僕らの新しいアルバムを気に入ってくれると思うんだ」
3年前、LORNA SHORE は自分たちに未来があるかどうかさえ分かりませんでしたが、”Pain Remains” でその運命を封印しました。そんな彼らの命の咆哮は、いかにして生まれたのでしょう。
今、地球上で最も沸騰するエクストリーム・バンドの一つ LORNA SHORE は、意外にも、2010年の結成以来、この場所までにかなりの長い道のりを歩んできました。そんなバンドにとって、不運や困難、悲しみは決して遠い存在ではありません。むしろ、ずば抜けた “反発力” でマイナスをプラスにかえながら、ここまで進んできたのです。

ニュージャージーという狭い地域出身の彼らにとって、LORNA SHORE は人生の成功か失敗かの分岐点とも言えました。しかし、初期の EP “Maleficium” で特徴的なブラック・デスコアの感覚を加えた後、彼らはプロデューサーからミックスを受け取るのに1年も待つこととなり、リリース日を延期し続けなければなりませんでした。同時に、バンドは地元のプロモーターの間で “煩い奴ら” と評判になり、地元での演奏が難しくなり、誰も彼らのことを知らない州外で演奏することを余儀なくされました。
ライブで演奏することの難しさと、新曲を後回しにしなければならないことの狭間で、2つの仕事を掛け持ちしてバンドに資金を提供していた Adam は、”Maleficium” が伝わらないなら、バンドを辞めて次の学期からバークリーの学校に行こうと決心していました。
「このままでは LORNA SHORE が終わってしまうというストレスの多い時期だったな」
しかし、2013年12月に “Maleficium” がドロップされると、リード・シングル “Godmaker” のビデオはYouTubeの塹壕の中で猛烈なヒットとなり、突然バンドには数ヶ月前に彼らを無視した同じマネージャー、予約エージェント、レーベルからメールが押し寄せるようになったのです。
かつては、あの CHELSEA GRIN にボーカルを “寝取られ” たこともあります。
“Flesh Coffin” と Summer Slaughter の成功で LORNA SHORE の状況がかつてないほど明るく見えたとき、暗雲が立ち込めます。2017年末、バンドはジャンルの巨頭である CHELSEA GRIN とヨーロッパ・ツアーを行いましたが、CG ボーカルの Alex Koehler は健康上の問題に苦しみ演奏することができなかったため、LORNA SHORE のボーカル Tom Barber を含む他のシンガーに、様々なセットで代役を務めてもらっていました。帰国すると、Barber はその後まもなくLORNA SHORE を脱退し、Alex の後任のボーカリストとして静かに求婚していた CHELSEA GRIN に加入したのです。
「女の子とデートしているときに、その子が “この人、ずっと私を口説いてるけど、私は興味ないわ” って言ってるようなもんだよ。そしたら結局、隠れて不倫してたみたいなね!」と Adam は笑います。
二人はその後、仲直りしたといいます。しかし、当時の彼の突然の脱退は、LORNA SHORE の高揚感を破壊し、すでに予約していたスタジオ・セッションを前に、ボーカリスト不在のまま空回りすることにもなりました。バンドは先行きの見通しが立ちませんでしたが、それでも彼らは Barber の脱退を、バンドを続けるための原動力としたのです。
Adam は、”このままではいけない” と思ったといいます。実際、Barber が脱退しなければ、彼らは今、”バンドとして成立していなかった” と考えています。
「残されたメンバーの心に火がつき、世間が間違っていることを証明することになったんだ」

今年の8月は Bloodstock への出演が大幅に遅れました。彼らはその週末で最も期待されたアクトの一つで、彼らを見るために非常に多くの観客が集まっていたにもかかわらず…
「”プライベート・ライアン” で、ノルマンディーでボートが開いて、みんなが急いで外に出るシーンがあっただろ?あれは、まさに俺たちがバスから降りて、すべての荷物を抱えてステージに駆け上がったのと同じだよ。地獄のように暑かったから、何が起こっているのかまったくわからなかった」
2021年には、新シンガー、Will Ramos がライブデビューのベルリンで、アメリカのコンセントと電圧が違うことを理解せずイヤモニをヨーロッパのコンセントに差し込み、壊してしまったこともありました。ステージ上ではマイクも壊れ、大変な1日になりました。
PARKWAY DRIVE とのツアーでは、不幸は少なくとも、何らかの警告を与えるという礼儀を備えていた。ドラムの Austin Archey が、背中の病気を抱え、ニュージャージーの自宅で療養中。そのため、ベーシストの Michael Yager が代わりにドラムを演奏しています。
しかし彼らは、そんな不運の数々を生贄にするかのように、今現在、最も爆発的な飛躍を遂げているメタルバンドとなりました。ニュージャージーのデスコア・バンドがこれほの成功を収めると想像した人はいないはずです。ロンドンでは、250人収容の Boston Music Room からカムデンの Electric Ballroom まで、3回以上大きな会場に変更されていきました。当初の予定より1,250枚も多いチケットを売り上げることとなったのです。バンドの首謀者 Adam De Micco は、PARKWAY DRIVE のサポート・バンドである自分たちには、20人くらいの観客しか集まらないと予想していました。しかし実際は、LORNA SHORE のシャツを着たファンは寒さの中、長い列を作って4時間もの間辛抱強く待っていたのです。

この急成長中のバンドを取り巻くエネルギー、熱意、そして注目度を考慮すれば、LORNA SHORE を駆け出しのバンドと勘違いしてしまう人は多いでしょう。しかし、この衝撃的な瞬間は、2010年の結成以来、ニュージャージーのクルーが経験してきたいくつかの再出発のうちのひとつに過ぎないのです。過去10年以上にわたって、LORNA SHORE は弱小バンドなら潰れてしまうような存亡の危機を何度も乗り越えてきました。2年前にも、彼らはボーカリスト不在のまま無情にも解散し(2度目)、デスコアの “コメンテーター” たちからは一様に、彼らの時代は終わったと見なされていたのです。しかし、今、彼らは新たに再生し、これまでで最も強固なラインアップで生まれ変わり、このジャンルの新しい顔となるべく邁進しています。そのブレイクに何よりも驚いているのは、実はバンド自身なのかもしれませんが。
「ネット上の憎悪が渦巻く中で、虐待疑惑の CJ と別れた瞬間、みんなのシナリオは “このバンドはもう終わりだ。このバンドはもうだめだ、最悪だ” だったからな」
しかし、2020年に虐待疑惑が発覚してバンドを脱退した CJ McReery の後任として Will が加入して以来、LORNA SHORE のストリーミング配信数は爆発的な伸びを見せています。昨年の “And I Return To Nothingness EP” に収録されている “To The Hellfire” は、現在 Spotify で2,500万回近く再生されているのですから。公開からまだ短い期間しか経っていない “Pain Remains” からのシングル曲 “Dancing Like Flames” でさえ、すでに約300万の再生回数を記録しています。
「10年経って、何かが起きているんだ」と Adam は笑います。「始めて10年も経てば多くの人が成功を諦めてしまうかもしれないけど、俺は諦めない。俺たちのために集まってくれる人たちを見ていると、毎日、”よし、彼らが来てくれるのには理由があるんだ”と思うから」
ただし、Adam De Micco は、LORNA SHORE の大成功を夢見て始めたわけではありません。
「単なるローカル・バンド以上の存在になりたいとはずっと思っていたんだ。だけど、”大物” みたいになりたいとか、そういう目標ではなかったんだ。いつでもツアー中のバンドになりたかった。そのために必要なことは何でもするつもりだった」
もちろん、同時に若者らしい理由もありましたが。
「もっとクールな話があればいいんだけどね!16歳のとき、あることがきっかけで彼女と別れたんだけど、再会したとき、彼女は別のバンドをやっている男に夢中だったんだ。それで、”よし、Adam、お前もバンドを始めなきゃ” と思ったんだ」
最初の問題は、彼が楽器を弾けないことでした。
「ボーカルなりたかったんだ。だけど、叫ぶことも、歌詞を書くこともできなかった。ドラムに挑戦してみたけど、すぐに自分はドラムを叩く人生には向いていないことに気づいた。それから、ギターを手にし、食料品店で働いた最初の給料でついに自分のギターを買ったんだ」

残念なことに、Adam の恋は実りませんでした。しかし、音楽を始めたことで、UNEARTH, LAMB OF GOD, KILLSWITCH ENGAGE など、自分と同じようなバンドに夢中になっている人たちに “出会う” ことができたのです。そうして、地元のハードコア・シーン(メタルはそれほどメジャーじゃない)でショーを行うことが Adam の新たな目標となりました。
「ニュージャージーは小さな州だから、小さな場所で演奏するのが普通で、ニューヨークやペンシルヴァニアでも演奏するんだけど、すごく大変だった。とにかく、小さなホールなどで演奏することが多かったね。ありがたいことに、インターネットがツールとして使われるようになったから、そこから抜け出すことができたんだ。というのも、もし地元での小さなライヴに頼るしかなかったら、こうした形でブレイクできたかどうかわからないからね。20~30人規模のライブに慣れていたから、そこから外に出るのは大変だったんだ」
そうして、Batman のコミックに出てくるマイナー・キャラの名を冠した LORNA SHORE は、米国デスコアの王 CARNIFEX のツアーに招待されます。やっとパーティーに招待されたような感じだったと Adam は回想します。
「地元のライブで毎日誰もいないところで演奏していると、”本物” だと感じるのは難しいんだ。でも、あのツアーでは、本物の会場で、本物の人たちの前で演奏していた。そのとき初めて、俺らが本物だと感じた瞬間だった。あのような本物のツアーをすることは、常に俺の頭の中にあった。これが俺のやりたかったことなんだとね」
Adam の中には、目標に負けることなく物事をやり遂げようとする粘り強さがあります。しかし、薄気味悪い信念や、世界征服の大義名分を口にすることはありません。むしろ、この親しみやすく、集中力のある34歳を一言で表すとしたら、”現実主義者” でしょう。つまり、人生には何が起こるかわからないが、その解決策を見つけ、立ち上がるのは結局自分自身であるということを Adam は理解しているのです。
「ロッキーの見すぎかもしれないね (笑) このバンドは殴られることには慣れているんだ。ロッキーの前提は、彼が最後まで殴られ続けること。もしそれで、”これは最悪な状況だ、何もできない、荷物をまとめて家に帰ろう” と彼が思っていたら、この作品は存在しなかっただろう。顎で受け止め、自分を奮い立たせ、”何とかしよう” と言うからロッキーは凄かったんだ!」
Will Ramos の加入は、そうした問題の解決策の一つでした。LORNA SHORE のマイクを握るのは、実は Will が4人目。当初は一時的な代役としてツアーを行っていましたが、2020年に COVID がすべてをひっくり返します。新たなラインナップの探求が難しくなったバンドは、慎重に、新しい若者との水際を試すように、Will Ramos と一緒にEPを作ります。”And I Return To Nothingness” “そして私は無に帰る”。
「俺が心配していたのは、バンドが外部から信頼されていないことだった。ボーカリストを交代してから1年経っていたけど、情報も出てこないし、本当に何も出てこない感じだったから。みんな喪失感を感じていたと思うし、そんな中で、このバンドはどこにも行かないんだという何かを発信したかった。一度 EP をレコーディングしたら、そうした不安はそれほど影響しなくなったよ」
リードトラックの爆発的なストリーミングを経て、Adam が興奮するのも無理はない、濃密なフルアルバムがここに完成しました。どんな困難や不幸に見舞われても、必ずそれ以上の成果を掴み取る、まさにロッキーのようなレジリエンス。偉大なる回復力と反発力。一方、PARKWAY DRIVE とヨーロッパのアリーナやメガホールを回るこのツアーは、Adam の言葉を借りれば “ビッグで本物のアーティスト、ポップやロックのレジェンド” が演奏する場所を自らが体験する別の “興奮” の機会となります。
「クラブでは、俺たちはもう天井に到達している。だからこのツアーは PARKWAY DRIVE のような本物のバンドが巨大な会場で本格的なプロダクションを行うのを見ることができる、全く別の世界があるんだ、という感じだ。別の次元にいるようで、俺にとってはエキサイティングなことなんだ。同じようなルーツを持つメタル・バンドがこうしたレベルに到達するのを見るのは、俺たちにとっても新たな可能性を示しているから。そう言いながらも、俺は物事が少しうまく行きすぎていると思っている。俺はいつも疑っているんだ。次の不幸はどこから来るんだろう?とね」

ギタリストが自分の運が尽きないように警戒しているとすれば、Will Ramos は自分の運を信じることしかできない様子です。誰もが Will をすぐに好きになり、ほとんど無邪気な熱意とエネルギーにあふれ、彼は、思慮深いアダムの陰に対して自由奔放でその場しのぎの陽のような存在。
バンドの他のメンバーからそれほど離れていないところで育った彼は、ギターを弾くことで音楽の世界に入り、クラシック・ロックに夢中になりました。
「Ozzyの “Crazy Train” を初めて聴いたとき、”これは世界で一番クールな曲だ!”と思ったのを覚えているよ」
友人たちが彼に LAMB OF GOD, CRADLE OF FILTH, ESCAPE THE FATE といったヘヴィなサウンドを聴かせようとしましたが、当初はうまくいかなかったようです。
「ああ、WHITECHAPEL を聴いて ”こんなの好きじゃない!” って思ったのを覚えてるよ (笑)。でも、聴き続けているうちに、だんだん好きになるんだ。今、そのことを考えるととても面白いね。だって僕らがやっていることは、そういったバンドよりもずっとダークでヘヴィーなんだから!」
Will の好みは、彼が言うところの “悲しくて歌心のある音楽” で、初期のお気に入りは AFI、最近のお気に入りは SLEEP TOKEN です。
「僕は “シーン・キッド” だったんだ。毎日、髪をストレートにしていたよ。髪を超黒く染めて、顔にピアスもした。唇に4つのピアス…昔はそうだった。最高だったよ!」
音楽的にも、やがて何かが見えてきました。
「それからボーカルに夢中になって、世界で最もハードなボーカルを聴きたくなったんだ。”誰が一番クレイジーなことができるんだろう?” と思い、バンドに参加したかった」
その代わり、彼はニューヨークで映画の仕事に就きます。
「勤務時間が非常識で、クールじゃなかった。自分のために何かをする時間なんてない。プロダクションのオフィスで、電話をかけ、10億通のメールを送り、撮影現場をよく手伝った。でも、それはとても疲れることでね。自分の中では、嫌でも、給料がいいから続けようと思っていたんだ」

LORNA SHORE のシンガーに空席ができたとき、実際、同じ時期、同じ州で、Will は同じような音楽的危機を迎えていました。彼は、過去10年間、いくつかのバンドで経験を積んだものの、いずれも上手くはいかず、彼が望むようなキャリアを積むことはありませんでした。うまくいかないバンドを追って工学部を3年生の時に退学した Will は、”これは最後の砦だ” と自分に言い聞かせたのを覚えています。同時に彼はこの空席を手に入れるのは “15,000人に1人” の倍率で厳しいだろうと考えました。しかし、バンドは Will の人気となった演奏動画をチェックしていて、彼にチャンスを与えました。早速、Will は映画の仕事を辞め、LORNA SHORE に加入します。
「でも、バンドは、ただ代役を募集していただけで、長続きするとは思っていなかった。だから、大好きなバンドと何かクールなことをちょっとだけやって、それから何が起こるか見ようと準備してたんだ」
ツアー、EP、その他すべてがコミットメントなしに行われたにもかかわらず、Will は明らかに適任でした。しかし、完全に “固まった” と感じたのは、新しいアルバムの完成まで待たなければなりませんでした。Will はここで、LORNA SHORE に自分のスタイルを持ち込み、可能な限り悲しい歌詞を書こうとしたのです。そこから、悲しみをテーマにした3部構成の組曲 “Pain Remains” が生まれました。そう、彼らが目指す場所は “ロマンティック・デスコア” の頂き。
「車の中で一人でいるときに一緒に歌ったり泣いたりできる音楽が大好きなんだ!僕は悲しい曲が好きなんだ。悲しい曲は二度と聞きたくないと思うようなことは、人生にはないだろう。でも、それってすごく病んでいるよね。その自分なりのバージョンを書く必要があったんだ。この種の音楽は、基本的に常に顔面を殴るようなものだ。怒りが根っこにある。でも、僕は IN FLAMES のような、内面的な葛藤がある音楽が好きなんだ。痛みがあるけど、圧倒的な喜びも享受できるようなね。この3部作を作るきっかけになったのは、スタジオでアルバムを書いているときに、マリファナをやめることを強く意識したことかな。大麻を吸うと、あまり夢を見なくなる。レム睡眠が止まってしまうんだ。でも、お茶を飲んで休憩すると、すぐに夢を見るようになった。夢の中で恋に落ち、目が覚めたときに、それが現実ではなかったという感覚を歌にしようとしたんだよね。君がそういう夢を見たことがあるかどうかはわからないけど、僕は間違いなくある。目が覚めたら悲しくなっていて、夢ではなく現実だったらいいのに、と思うような夢を見たことがあるよ。もっと眠っていればよかった…って」
偽りの場所にある願い、幸せ。それが手に入らない悲しみ。
「そんなところかな。僕は “ああ、君は最高だ。愛してる。君が誰なのかさえ知らないのに……” って夢をよく見る。その人が誰なのかわからないこともあるよ。知っている人なのか、知らない人なのか、わからない。そして、もう二度と会うことはない。でも僕は、そのシルエットの背後にある顔を見たいんだ。だって、”君が誰だかわからないけど、この感じはわかる。君をもっと知りたい” って思うから。でも、それ以上知ることはないんだよ…」

“Pain Remains” の “夢” を軸としたコンセプトは、あのバンドの新作にも通じています。
「このアルバムはコンセプト・アルバムだ。MACHINE HEAD の Robb Flynn が新譜 “Øf Kingdøm And Crøwn” のインスピレーション源として同じようなことを話していたよね。彼とはポッドキャストで共演もしているんだ。今いる場所が好きではない人、他の場所に行きたい人…とにかく彼らにとって自由になれる場所は夢の中なんだ。すべての曲は、この人物が夢を見、明晰になり、夢をコントロールできるようになり、やがてどんなことにも意味がないことに気づき、ほとんど全能の人物のようになるまでを描いている。物語のクライマックスは、さながら船を作り、その船が自分と共に沈んでいくのを見たい” そんな観念なんだ」
Will は哲学が好きで、”人はそれぞれ違った考えやイデオロギーを持っている” というコンセプトを愛しています。
「だから、この作品は循環するんだ。あるところから始まって、この世界の現実から逃れたいと思い、そして、最終的に現実から逃避し、別の場所に行き着いたところでこのアルバムは終了する。でもそれは始まりでもあるんだ。結局、夢想家は、神のような全能感に飽きる。疲れて、飽きる。全能の神では充実感を得られないんだ。そして、その世界は終わる。誰かが、世界の終わりのサウンドトラックのようなものだと言っていたけど、その通りかもね」
Adam と Will は完全に違う人間ですが、共通の目標を持っています。そのシンクロニシティでついに事態は好転し、LORNA SHORE がすべてを完璧に同期させ、上昇が始まりました。Adam は今のバンドを誇らしく思っています。
「今の状況は信じられないほど素晴らしい。パンデミックの時は、戻ってきても同じようにはいかないんじゃないか、バンドが地盤沈下しているんじゃないか、と思ったこともあった。でも今は、何か素晴らしいことをするチャンスがあると、とても刺激を受けているんだよ。今、俺たちは小さな魚のようなもので、完全に巨大な池の中にいる。メタル・バンドが通常演奏しないような場所で演奏している。ここの階段の壁には、俺らのジャンルとは全く関係のない様々なアーティストが同じ場所で演奏している写真がある。それで、どこまでやれるかワクワクしてきたんだ」
Will にも同じような信念があります。
「2年半前、2022年に僕はどこにいるだろう?聞かれたら、こことは言えなかっただろうね。いや、きっと残りの人生、ずっとパソコンの前で働くんだ “と思っていただろうね。でも今は、もっと上に行きたいんだ」

参考文献: KERRANG!:Lorna Shore: “Things are unbelievable right now… we’re excited to see how far we can take this”

REVOLVER:HOW LORNA SHORE BEAT THE ODDS TO BECOME THE NEW FACES OF DEATHCORE

WALL OF SOUND: Virtual Hangs: Will Ramos of Lorna Shore ‘Writing Lorna Shore’s Romantic Deathcore Ballad’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CALLOUS DAOBOYS : CELEBRITY THERAPIST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARSON PACE OF THE CALLOUS DAOBOYS !!

“The Non-metal Elements Are Way More Important, That’s What Sets Us Apart. We Would Be Playing To 5 People At Local Shows Once a Month If We Didn’t Think Outside Of The Box And Push Ourselves To Be More Than Just a Heavy Band.”

DISC REVIEW “CELEBRITY THERAPIST”

「真の “ダークサイド” なんて存在しないんだよ。少なくとも、君や僕が同意しない側にいる人々にとって、彼ら自身はまったく “ダークサイド” ではないんだから。彼らは自分を社会ののけものとか殉教者だと思っているかもしれないけど、少なくとも自分から見て悪意ある行動をとっているわけではなくてね。真摯に話せる友人がいないから間違った道に進んでしまう」
ジョージア州アトランタのメタルコア・ハイブリッド、THE CALLOUS DAOBOYS。彼らはマスコア、ソフトジャズ、ボサノバ、オルタナティブ、ラジオ・ロック、エフェクトで歪んだヴァイオリンなど複雑なサウンドの嵐を生成し、メタル世界で大きな注目を集めています。そしてその台風の目には、Carson Pace がいます。
ステージ上のエネルギーレベルは桁外れで、PUPIL SLICER とのコラボレートや GREYHAVEN とのツアー、そしてバンドの待望のセカンド・アルバム “Celebrity Therapist” のリリースで、彼らの知名度は飛躍的に向上しました。重要なのは、世界に解き放たれたことで Pace が対話を始める機会を多く得られたということ。彼の叫びはなぜか、陰謀論やカルトに囚われた人たちにも素直に届きます。それはきっと、頭ごなしに否定から入ることをしないから。”ダークサイド” だと見下し、馬鹿にして、間違っていると断言することで、囚われの勇者たちはむしろ、自分が正しいと確信してしまうのですから。
「安倍晋三は去った。それが僕の公式見解だよ。右と左の争いについては、グッドラック!としか言えないよね。僕たちはその解決策をまだ見つけられていないけど、まあ解決策を探す人たちには幸運を祈るよ」
しばしば謎めいた歌詞のアプローチにもかかわらず、Carson は THE CALLOUS DAOBOYS にその生来のストーリーテラー、語り部の感覚を持ちこむことに成功しています。Carson の声は、パワーハウス的な叫びから、Mike Patton や Greg Puciato のような筋張った歌声へとドラマティックに変化して、ストーリーを紡ぎます。”Celebrity Therapist” における Carson のリリックは、盲目の愛国心、陰謀論、アルコール依存症、有名人の崇拝などを点と線で結びつけ、人は皆いずれかの悪徳に陥っていると主張しているのです。
例えば、”Title Track” では、彼は “有名人だと威張って話すリードシンガーの不条理さ” を論じていますが、この内観は逆説的に自己矛盾を抱えていることを自覚しています。つまり、Carson がハマってしまった “カルト” とはナルシズム。自分たちが FOO FIGHTERS ではないにもかかわらず押し寄せるエゴイズム。そう、陰謀論やカルトは決して他人事、宇宙人の話ではないのです。
「THE DILLINGER ESCAPE PLAN も MR. BUNGLE も僕の大好きなバンドだからね。でも、先日イギリスのインタビュアーが、僕らを90年代の Madonna と比較していたんだけど、あれは最高にクールだったね。僕はヘヴィーな音楽よりもポップスやエレクトロニック・ミュージックをよく聴くんだけど、それが間違いなく曲作りに反映されていると思うんだ」
カルトといえば、彼らの “アート・メタル” もカルト的なファンを集めています。”Celebrity Therapist” に収録されたよりプリズム的で、常識はずれな楽曲の数々は、流動性と万華鏡の輝きを保ちながら、常にメタルの常識を疑っています。つまり、彼らの教義とは、疑うこと。エレベーター・ミュージックをモチーフにした轟音スラッシュ “The Elephant Man in the Room”、ポップでロックなファンク・ベースと組み合わされたサイコなバイオリン “Beautiful Dude Missile”、サックスが冴える理路整然なポップとグロテスク・デス・モッシュ “What Is Delicious? Who Swarms”。そうした異端と驚きの数々は、メタルらしさ、メタルの定形を疑うことから生まれ落ちたのです。
今回弊誌では、Carson Pace にインタビューを行うことができました!「僕たちにとってはメタル以外の要素の方がずっと重要で、それが僕らを際立たせているんだ。もし、メタルという狭い箱から出なかったとしたら、自分たちを単なるヘヴィー・バンド以上の存在に押し上げなかったとしたら、月に一度、地元のライブでたった5人を相手に演奏することになっていただろうからね」 どうぞ!!

THE CALLOUS DAOBOYS “CELEBRITY THERAPIST” : 10/10

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COVER STORY 【ALICE IN CHAINS : DIRT】30TH ANNIVERSARY


COVER STORY : ALICE IN CHAINS “DIRT” 30TH ANNIVERSARY

“Two Of Us Aren’t Here,These 30-year Things Are Really Nice, But It’s Bittersweet. That’s Just Our Reality. It’s Everybody’s Reality. Everybody’s Gonna Lose People They Love In Life.”

30 YEARS OF DIRT

1992年9月29日、ALICE IN CHAINS はセカンド・アルバム “Dirt” を発表しました。”Dirt” は間違いなく90年代のマスターピースであるだけでなく、史上最高のロック作品の一つだと言えます。このアルバムは、リスナーを中毒のような詩的な旅に連れ出す比類なき能力を持っています。かつて輝かしいグラム・ロッカーのような装いをしていた ALICE IN CHAINS はもうここには存在しません。”Dirt” は不幸のグランドキャニオンへ裸でフリーフォールしているような錯覚を覚えるような作品。岩に縛り付けられ、毎日猛禽類に肝臓を食われるプロメテウスのような運命を、この神火は背負ってしまったのでしょうか。”Dirt” は人類が知り得る音楽の中で最もソウルフルで、不穏な作品のようにも思えます。女優のマライア・オブライエンによるアートワークも完璧。今年、 “Dirt” はなんと5回目のプラチナ認定を受け、30周年記念リイシューの栄誉を得ました。
「あの頃の僕らのうち、2人がもうここにはいないんだ」と Sean Kinney は語ります。「30年という歳月は本当に素晴らしいものだが、ほろ苦いものだ。それが僕らの現実なんだ。皆の現実でもある。誰もが人生で愛する人を失い、恋しく思う。そういうものなんだ。過去にさかのぼって、若くて、すべてが活気に満ちていた頃を思い出そうとするんだよ」
「30年経った今でも、ノースウエスト出身の4人が1992年に作ったレコードについて誰かが話しているんだ。それはとてもクールだよ」 と Jerry は言います。「アーティストとして究極のゴールは、何世代にもわたって聴き継がれるものを作ることだ。”Dirt” は万人向けではないけれど、特定の人たちには心から愛されている」

ALICE IN CHAINS のオリジナル・メンバー、Layne Staley(ボーカル)、Mike Starr(ベース)、Jerry Cantrell(ギター&アディショナル・ボーカル)、Sean Kinney(ドラムス)のうち、もう Layne と Mike はこの世にいません。二人の薬物依存は致命的なものとなり、Layne は Kurt Cobain の死からちょうど8年後の2002年8月5日に他界。生前の Layne を最後に見た Mike Starr も、2011年3月8日に薬物の過剰摂取で死亡しています。
“Dirt” はそんな ALICE IN CHAINS オリジナル・ラインナップの終わりを告げた作品でもあります。Mike Starr が Mike Inez と交代する前の最後のアルバム。Mike と Sean は、9歳の頃から一緒にジャムっていました。一方、Jerry と Layne はハウスパーティーで初めて出会い、そして、あるライブの後に再会します。Layne は、Jerry が母親と祖母を亡くしたばかりであることを知り、シアトルのミュージック・バンクにこの天才少年を招き、一緒に暮らすことにしたのです。
「”Facelift” がリリースされたとき、僕らはすでに “Dirt” に向けて動いていたんだ」と Sean は説明します。「”Facelift” のツアーで、”Dirt” のいくつかの曲の異なるバージョンをライブで演奏し、最終的な形に仕上げていったからね。”Facelift” がリリースされた頃にはすでに、他の曲のレコード契約が結ばれていたからね」
Jerry が付け加えます。「”Facelift” のツアーとキャンペーンは大成功で、おそらく1年半はツアーをしていただろう。その間、俺はいつもアイデアを集めていた。当時は、小さな携帯用テープレコーダーか、タスカムの4トラックを使って、自分のアイデアを書き込んでいたんだ。リハーサルや楽屋でのジャム、サウンドチェックでもね。そのツアーが終わったときには、いいアイデアがたくさんあったし、バンドとしても面白いことが起こっていたよ」
“Dirt” の後、Layne は “鎖につながれた” 兄弟たちと共に、傑作EP “Jar of Flies”(1994年)とセルフタイトル “Alice In Chains”(1995年)を録音することになります。そしてちょうど13年前、再結成した ALICE IN CHAINS は “Black Gives Way to Blue”(2009年)を発表。”Lay down, I’ll remember you.”(横になって、あなたを思い出す)。ピアノで Elton John をフィーチャーしたタイトル曲とその歌詞は Layne のオマージュとなりました。ALICE IN CHAINS はフロントマンの William DuVall を得て今も強力なパフォーマンスを続けていますが、一方で彼らは常に “Layne の亡霊に取り憑かれて” いて、その呪いは奇妙にもバンドの財産となっているのです。なお、最新アルバム “Rainier Fog” のタイトル・トラックも、Layne と Starr の喪失について歌った楽曲。

SCREAMING TREES の故 Mark Lanegan は、ALICE IN CHAINS が強豪となった理由を完璧に理解していました。「彼らのサウンドの立役者である Jerry Cantrell は、ニュアンスを保ちながら力強いハーモニーを奏で、それが彼らの曲に独特の、心に残る、唯一無二の “質” を与えていた…」と彼は書いています。つまり、Jerry の甘い聖歌隊のような声と、ソングライター、作詞家としての卓越した能力は、Layne の才能と見事に調和していたのです。Lanegan はこう続けます。「Layne はモンスター級のボーカリストだった…彼は私がこれまでに聴いた中で最も印象的なハードロック・シンガーだった…」
“Dirt” の30周年を迎えるにあたり、SLIPKNOT の Corey Taylor はこう明かしています。
「ALICE IN CHAINS は、ヘヴィなものと美しいもの、そしてサディスティックなものと希望に満ちたものを組み合わせて曲を書くことができると教えてくれた」
Evan Sheeley は、ALICE IN CHAINS の魅力のあまり議論されていない部分を強調しています。
「Mike Starr はどちらかというとスラッシャーで、それがバンドを素直にしたんだと思う。彼らのサウンドの大きな部分を占めていたんだ」
“Dirt” のエンディング・トラックである “Would?” が ALICE IN CHAINS の亡き友人、MOTHER LOVE BONE の Andrew Wood に捧げられていることは、多くののロック・ファンが知るところでしょう。バンドは、1990年にヘロインの過剰摂取で Andrew が亡くなったことに深い影響を受けていました。亡き Chris Cornell は Facebook の投稿で、マネージャーの家で彼を偲んでいたことを思い出していました。
「Layne が飛んできて、完全に泣き崩れ、深く泣いて、本当に怖くて迷っているように見えたよ。とても子供のようだった」
しかし、この悲劇的な喪失は、大きなショックに対処した後、逆説的にバンドをハードな生き方に対する否定へと押しやりました。ゆえに、”Would?” での正直さと謙虚な感覚が際立つのです。
“Would?” は、キャメロン・クロウ監督の映画 “Singles”(1992年)に使用されます。ミュージック・ビデオで Layne は、Andrew が持っていた赤みがかったオレンジ色のシャツを着ていました。

残念ながら、カリフォルニアでの “Dirt” の制作は、 LAの暴動により停滞します。ALICE IN CHAINS は砂漠に逃げ込み、SLAYER の Tom Araya と共にほとぼりが冷めるまで過ごすことになりました。そうして Araya は “Dirt” の10曲目、”Iron Gland” / “Intro (Dream Sequence) / Untitled” に参加することになります。
“Dirt” は、ドラッグが ALICE IN CHAINS に対して作用し始めた時期の作品です。とはいえ、問題を抱えながらもやり抜いたことは、大きな評価に値します。このレコードの制作は、まるで腐った歯を抜くようなものとも言えましたが、Layne はインスピレーションに満ちていました。 “Facelift” のオープニング曲 “We Die Young” によく似た “Them Bones” の冒頭で即興的に叫んだ瞬間は、このシンガーの最高の魔法のひとつでしょう。
Dave Jerden の仕事は “過剰なプロデュース” という感じは全くしません。それどころか、Jerden は自分の仕事を芸術的にこなし、”Dirt” は強烈に生々しく、有機的で、親密なものとなっています。”Dirt” のセッション中、Jerden は Layne の薬物乱用について向き合わざるを得なくなり、大きな議論に発展しました。この問題は解決したものの、数年後、ALICE IN CHAINS の最後の2曲、”Get Born Again” と “Died” のレコーディング中に、2人は再び大爆発を起こしてしまうことになります。
結局、”Dirt” は、明らかに別世界でこれ以上ない出来栄えとなりました。とはいえ、これは勝利と敗北の両方を意味します。名声によって彼らは暗くなり、ドラッグやアルコールがツアーで欲しいだけ公然と手に入るようになったから。しかし、彼らのネガティブな経験は明らかな芸術的な美しさに転化されていきました。
“Dirt” は明らかに、どんなに成功しても否定できない本物の痛みから生まれたもの。痛みが通行手形ともいえるアルバムを生み出した代償は、あまりにも大きかったのです。Sean が「あれは僕にとってタフなアルバムなんだ。でも、みんなは、あなたの最高傑作のレコードだって言うんだ。ほろ苦いね」と語るように。

“Dirt” は統一されたコンセプト・アルバムとしてシームレスにまとまりましたが、Jerry はその制作過程を “フリー・フォーム” と表現しています。タイトル曲 “Dirt” は、最も病的で、最も刺激的な曲のひとつ。”汚い味が欲しいんだ。口の中で、舌の上で、ピストルが突き刺すような…” “Dirt” は注射器のように尖り、精密なナイフのように鋭いのです。
Layne のリリックに忘れがたいイメージを作り出す能力は、彼の非音楽的な性癖と密接に関係しています。実は Layne は、余暇にはビジュアル・アーティストとして活動していて、シアトルのギャラリーに絵を展示していたこともあるのです。ステンドグラスや時計の文字盤を作ったり、粘土でキャラクターやジュエリーを作ったりするのが趣味でした。このことを踏まえれば、”Angry Chair” の次の一節に新しい意味が付与されます。”道の向こうに何が見える?粘土で成形された自分を見てくれないか”。かつて Layne は創作についてこう語っています。
「俺たちは、多くの人に見られる感情をそのまま表現している。人々は同じような感情を経験し、その曲が自分のために書かれた、あるいは自分のことについて書かれたと確信するほど、共感してくれる。歌詞は、他の人が自分の物語や人生に適用できるようなルーズなものにしている。辛い気持ちを美しい音にして、人々がその思い出と向き合いやすくしているんだ」
“Angry Chair” は、さまざまな解釈が可能。しかし、”Angry Chair” が幻覚的に聞こえるほどに鋭いリスナーは、実はこの曲が AA/NA (アルコール、薬物依存の自助グループ) への具体的な言及をかなり含んでいることに気がつくでしょう。この曲は12曲目に収録されていますが、中毒から回復するプログラムはちょうど12段階。Layne は、回復期の中毒患者の多くが最初に感じる人工的な高揚感である “ピンクの雲” が、”今は灰色に変わってしまった” と訴えています。
この曲は、真剣に受け止めてほしいという懇願のように演奏されます。”孤独は段階的なものではない。痛みの原野が憩いの場だ。平穏は遠くにある”。そうして Layne は、安らぎの祈りが自分には効かないことを表現しているのです。Layne は中毒の告白のみが評価されるような罪悪感の文化に疲れていたのかもしれません。そして、この曲の最後の要求は、卑屈に感じるように意図されています。”Get on your knees time to pray, boy.” “ひざまづいて祈れ、少年よ”。
“Angry Chair” 同様、”Hate to Feel” の歌詞とリフは Layne が書いたもの。このとき、ギターを弾けるようになりたいという彼の決意が花開きました。この楽曲には、”親父のようにはなりたくないと誓っていたのに” という一節があります。”今こそ自分の姿に向き合う時だ” 。元婚約者デムリ・パロットの死後、Layne は Mark Lanegan と数ヶ月間一緒に暮らしました。そこで SCREAMING TREE のボーカルは、Layne の父親 Phil が麻薬の運び屋として働いていたことを確認します。Lanegan は Phil Staley のことを「…息子と同じくらい優しくて、面白くて、賢い男で、Layne の鏡のような存在だった」と回想しています。そしてこの言葉は、”Facelift” の “Sunshine” を思い浮かべると、真に胸に迫ってくるのです。”俺はお前の鏡か! 溶けるような鏡の微笑み”

大胆不敵な自伝的作品 “Dirt” は、依存症患者の病気の過程で変化する自己認識のレベルを再現しています。Jerry Cantrell はかつてこの音楽を “悪魔を追い払うもの” と呼びました。これが “Dirt” の背後にある真の意図。
「”Junkhead” はかなりあからさまな曲で、まるでドラッグ使用の旗を振っているように聞こえる。でも、要は、多くの人が外に出てめちゃくちゃになることは素晴らしいことだと信じていること、パーティーでドラッグを使用する人の姿勢を反映しているんだ。”God Smack” からは、本当に何が起こっているのかがわかり、”Angry Chair” や “Hate to Feel” では、中毒が正しい生き方ではないことに気づかされる。全体として見れば、本当にポジティブな内容なんだけど、多くの人が文脈からネガティヴに受け取るだろうね」
Layne はリハビリ中に “Sickman” と “Junkhead” の歌詞を書きました。”Junkhead” は、Layne がユーザーの心を理解しろと医者にドラッグを試すように勧めている、つまりセラピーセッションの行き違い。中毒者を助けるには中毒者が必要だと主張します。冒頭に出てくる “Junk fuck!” の掛け声は、Sean Kinney が自然に発したもの。一方、”Sickman” では、Layne のリクエストに応えて、Jerry がこれまでにないひねくれたアレンジを書き下ろしました。
そうして “Dirt” は、薬物乱用と戦う人たちに力を与えただけでなく、薬物を完全に避けるように人々を勇気づけていきました。Jerry も言っているように、自分の問題をオープンに語ろうとする Layne の姿勢は、本当に勇気のあるものだったからです。”Facelift” が “Real Thing” で冗談っぽく終わったのに対して、”Dirt” のユーモアはドライで辛辣。真剣で遊びはほとんどありません。Layne はかつてドラッグに対する想いを正直に語っていました。
「俺がドラッグを試したとき、それはとても素晴らしいもので、何年も俺のために働いてくれたのに、今は敵対している。ヘロインがクールだとファンに思われたくないんだよな。でも、ファンが近づいてきて、ハイになったと言って親指を立てるんだ。それこそ起きてほしくなかったことだ」
“Dirt” では、ドラッグが他人に与える影響への懸念も多く聞かれます。ドラッグによる対人関係における葛藤。”Down in a Hole” と “Rain When I Die” はガールフレンドについて書かれた曲で、”Dam that River” は Sean と Jerry の喧嘩に触発されたもの。後のセルフタイトル・アルバムで、Layne はこう歌っています。”友達ってなんだろう?不当に乱用された言葉だ” このスターは最終的に世捨て人になってしまうのです。Sean はのちに、Layne の死について “世界で最も長い自殺” と語っています。中毒は克服するたび、時間をかけて再度忍び寄ります。「ヘロインは死と隣り合わせで、それが一番魅力的なことだろう。危険なんだ。でも、俺はそれに打ち勝ち、死に打ち勝った。俺は不死身だ!」実際には、彼は勝者でも、不死身でもありませんでした。

ただし Jerry は、”Rain When I Die” は、当時進化していた Layne とのソングライターとしてのパートナーシップを証明するものとなったと語ります。
「特に歌詞とメロディーの面で、俺たちは本当に面白いやり方で仕事をしていたんだ。Layne と俺は、かなり良いパートナーシップを築いていた。あまり多くを語らなかったけど、相手が持っていないものを半分ずつ補っていたのさ。俺がどこかに行き詰まったり、アイデアがなかったりすると、Layne はいつもそれを持っていて、逆に彼がどこかに行き詰まると、俺はいつもそれを持っていた。俺たちは本当にクールな関係だったんだ。あの曲で、彼は自分のアイデアを見せ、俺は自分のアイデアを見せた。不思議なことに、俺が歌詞を書いて歌う場所が、彼にとっては曲の中の空間や息遣いになっていたんだよ。だから俺は、俺のセリフは君の隙間に合って、君のセリフは俺の隙間に合っている。一緒にしてみようって。そうして俺たちはただ歌詞を組み合わせただけなんだけど、それでうまくいったんだ。不思議だった。この曲はアルバムの中で一番好きな曲の一つだよ」
“Hate to Feel” と “Angry Chair” のワンツーパンチは、ソングライターとしての Layne の成長を最もよく表しています。実はこの2曲は、当初はソロ・プロジェクト用に書いたものでした。
「Layneがギターを弾き始めて、リフを持っていたんだけど、彼が本当にバンドで使いたかったのかどうかは分からない」と Sean。「彼は他のことを考えてたと思う。でも、僕たちがこのリフがいかにクールで、どんなにジャムりたいと思ったか…それはよく覚えている。だから結局、それらを ALICE IN CHAINS の曲として発展させ、レコードに収録したんだ」
「Layne はギタリストとして本領を発揮し、”Hate to Feel” と “Angry Chair” でギターによる素晴らしい楽曲をいくつか書いた」と Jerry は付け加えます。「彼がギターを手にするきっかけを作ったという事実も気に入っている。彼がこの曲たちを聴かせてくれて、自分でレコードにしようと考えていたのを覚えているよ。彼は NINE INCH NAILS や MINISTRY といったインダストリアル系の大ファンで、そのための楽曲をポケットに忍ばせていたんだよ。で、彼がそれを聴かせてくれたんだけど、俺たちみんな、”すげえ、かっこいいな。バンドでやるべきだ” と。そしたら彼はしぶしぶ同意してくれたんだ。確かにレコードにとても合う素晴らしい2曲になったよな」

“Dirt” の “恥” の物語を深く掘り下げると、”Rooster” が Jerry の父親と他のベトナム帰還兵の誇りのための曲であることがわかります。つまり、”Rooster” は Jerry Cantrell Sr. の物語。 Jerry は Chris Cornell の家で “Rooster” を書いたことを覚えています。1993年初頭にメインストリーム・ロック・エアプレイ・チャートで7位を記録した “Rooster” のルーツについて、Jerry 次のように語っています。
「10代の頃は、ポップと一緒に過ごす時間が少なかったんだ。俺は母親と一緒に祖母の家で育ったから、父とはそんなに親密じゃなかったし、彼は別の州に住んでいたからたまにしか会えなかった。この曲は、俺がそのことを受け入れ、彼を批判しないようにするための方法だったんだよな。彼の立場に立って、彼を厳しく判断せず、彼の経験を理解しようとしたんだ。そして振り返れば、この曲は彼の人生と俺ら家族に大きな影響を与えたと思うんだ」
「僕たちが初めて会ったとき、Jerry の母親と祖母は共に早くに、しかも立て続けに亡くなっていた。まさに育ての親たちがね」と Sean は回想します。
「彼は父親と少し疎遠になっていたんだ。だから、このような状況を経て、どこかで彼は2人の関係を修復したり、再び結びつこうとするこの曲を作り始めた。Jerry が家族と疎遠なのことを、Layne も僕も理解していた。もし僕らがもっと利己的で、自分勝手で、ただ成功を望んでいたなら、あの曲はすぐに没にできただろう。23歳の若者は、ベトナムについて6分間じっくり語ることにそれほど興奮しないからね。でも、みんなあの曲には思い入れがあったし、Jerry にとっても大切な曲だった。今にして思えば、この曲が今のような形になるとは思ってもみなかったよ」
“Dirt” のリリース後に行われたツアーは、多くの点で大失敗に終わることになります。Mike Starr は演奏後に過剰摂取し、Layne によって蘇生。Mark Lanegan は、SCREAMING TREE で一時的に彼の代役を務めた Layne との薬物使用により、腕の切断することをぎりぎりで免れます。Layne は足を骨折しました。不幸のリストは続きます。しかし、ALICE IN CHAINS はそれでもなお折れませんでしたが、Layne がツアーに出るにはあまりに自己破壊的であることは明白でした。

次の “Jar of Flies” で彼らは、”Would?” が投げかけた問いに答えることになります。”家に帰るには遠くまで走りすぎたかな?”。最終曲の “Swing on This” で Layne はこう歌っています。「母が帰って来いと言った。父は帰ってこいと言った…俺は言った、放っておいてくれ。大丈夫だから」 と。そう、彼らはもう戻れないところまで来てしまったのです。
30年の月日を経て “Dirt” を再体験できる私たちは、幸運にも30年の長い闘いを生き残ったサバイバーなのかもしれません。今回の登場人物で存命なのは本当に一握りなのですから。1994年、Jerry は “Them Bones” に次のように語っています。
「この曲は死や死についてではなく、人生の終わりに向かって、残された時間と向き合うことなんだ。自分が永遠に生きられるわけではないことを実感するのは、とても悲しいことだ。だからこそ、その間に、できる限りのことをやっておいたほうがいい。俺はそうやって生きているよ」
今の二人は、”Dirt” について、ALICE IN CHAINS について、どう感じているのでしょう。
「これが僕たちの人生。僕たちが大切にしていること。ラジオでヒットさせるために契約したわけではないし、そういうことをするために設計されたわけでもない。そして、どうにかこうにか乗り切ってきた。それが、最も誇り高いことのひとつだと思う。僕たちは自分たちの世界を築いただけで、これはすべての人のためのものではないんだよ。でも、意外と多くの人が共感してくれて、それが今、ますます明らかになってきている」
「”Dirt “の音楽性はかなり大胆で、最初の音を聴いただけで、このレコードに本当の獰猛さがあることがわかるよ」と Jerry は付け加えます。「本当に合理的で、脂肪分が全くないんだ。筋肉と骨と歯だけだ。このアルバムには雰囲気があって、それを表現できたことが嬉しいし、このアルバムが人々にとって重要なものであることが理解できてきたよ」

参考文献: BILLBOARD:Alice In Chains’ ‘Dirt’ at 30: Jerry Cantrell & Sean Kinney Look Back on ‘Vibrant and Strange’ Era

KERRANG!:Alice In Chains: The enigmatic power and inner torment of Layne Staley

Metal Injection:30 Years Of Dirt: Celebrating ALICE IN CHAINS’ Iconic Masterpiece

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLACKBRAID : BLACKBRAID I】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Sgah’gahsowah OF BLACKBRAID!!

“Our Ancestors Have Been Painting Their Faces In This Way For Thousands Of Years, Long Before Metal Existed, So We Honor Them By Painting Our Faces In The Same Ways.”

DISC REVIEW “BLACKBRAID I”

「自然に対する尊敬の念は、僕の人生の中で大きな部分を占めている。だからそれは、僕の音楽にも大きく反映されているよ。僕は自然を敬い、神聖な方法で人生を送れるよう最善を尽くしているんだ。 BLACKBRAID は、日常的に自然を体験する機会に恵まれていない人々に、自然からのメッセージや体験を届ける手助けをする方法なんだよね」
近年、ブラックメタルに携わる者は皆、自身の中から湧き出るテーマや意図を持っているように思えます。反差別、反暴力、反ファシズム。
このジャンルを築いたいくつかのバンドが持っていた右翼的で人種差別的なニュアンスを考えれば、それはまさしく革命的な変化であると言えるでしょう。ただし、BLACKBRAID はそういった新しい波とも少し距離を置いているように見えます。首謀者 Sgah’gahsowah はただ、自身のブラックメタルを聴いて、外に出て、自然と対話してほしいと願っているのです。
「そう、僕はネイティブ・アメリカンだよ。人生の大半をニューヨーク州北部に住んで過ごしてきた。若いころは少し引っ越しもしたけど、長い間この地域、アディロンダックに住んでいるんだ」
Sgah’gahsowah のあり方は、今日の世界に蔓延する絶対悪や政治を無視していると主張する人もいるかもしれませんが、地球の状態や気候問題を見れば、もっとシンプルに、自然の中に身を置いてみることの重要性が伝わるはずです。人生の大半を大自然の中で過ごし、日焼けをし、狩り、釣り、剥製など、スピリチュアルで伝統的な生き方を貫く Sgah’gahsowah。
窓の外には3万エーカーの山々が広がり、今は人里離れた場所で24時間365日自然とつながる彼はただ、ハイキングをしたり、山を見たり、小川で泳いだりすることを知らない人々に、音楽を通してそれを伝えたいだけなのです。大都会の高級ブランドならいくつでも名前を挙げられる人が、鳥の名前や魚の名前は一つも挙げることが出来ない。それは果たして “自然” なのか?Sgah’gahsowah はそんな現実を憂い、自分の見ている世界を音楽によって見せたいのです。そこから、何かが変わるかもしれないと仄かな期待を寄せながら。
「僕たちの祖先は、ヘヴィ・メタルが存在する何千年も前からこの方法で顔にペイントしてきたんだよ。だからこそ、僕たちはメタルをやる時に、先祖と同じように顔にペイントを施すことが誇りなんだ。フルートや他の先住民の楽器を使うときも同じで、こうした伝統を自分のブラックメタルに取り入れることができるのは名誉なことなんだ」
もちろん、自然への尊敬と崇拝は、ネイティブ・アメリカンの祖先を敬うことにもつながります。”Sacandaga” や “As the Creek Flows Softly By” を聴けば、彼がネイティブな楽器の音、そして魂をブラックメタルに受け継ぐことを一切恐れないことが伝わります。同時に、始まりの場所、”Barefoot Ghost Dance on Blood Soaked Soil” のような楽曲では、USBM, 特に WOLVES IN THE THRONE ROOM や PANOPTICON といった自然崇拝のカスカディアン・ブラックに対する憧憬をも隠そうとはしません。敬うべきを敬い、敬意に値しない価値観は捨て去る。さらにその場所からも一歩進んで、郷愁を誘うアコースティック・フォーク “As the Creek Flows Softly By”、そしてアコースティックとエレクトリックの二重奏で相互作用を喚起する “Warm Wind Whispering Softly Through Hemlock” と BLACKBRAID は自身に与えられた “ギフト” を存分に見せつけていくのです。
「ブラックメタルが持つ反キリスト教的な思想に共感するのは確かだけど、自然や闇に対する畏敬の念も大きな部分を占めていて、ブラックメタルは僕の音楽にとって完璧なメディアだと思っているんだ」
WAYFARER, UNTAMED LAND, DARK WATCHER のようなアメリカ西部をテーマとするバンドが活躍する中で、USBM には明らかに先住民の声が欠けていました。それはもちろん、ブラックメタルの根元にあったアンチクライストという考え方が、キリスト教に冷酷に弾圧され抑圧された先住民にとって親和性が高いから。しかし、Sgah’gahsowah はそれでも誰かを責めるよりも、闇や自然を敬っていたいのです。政治は彼にとってあまりにも不純な闇だから。争いからは何も生まれないことを知っているから。
今回弊誌では、Sgah’gahsowah にインタビューを行うことができました。どうぞ!!

BLACKBRAID “BLACKBRAID I” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LILLIAN AXE : FROM WOMB TO TOMB】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVE BLAZE OF LILLIAN AXE !!

“Now, We Are Being Called Prog Rock. I Actually Feel We Are In a Category Of Our Own, Having Influences From All Types Of Music.”

DISC REVIEW “FROM WOMB TO TOMB”

「僕たちはどのカテゴリーにも当てはまらないという点で、とてもユニークな存在なんだ。僕らが出てきた当時は、そういった音楽が流行っていたからヘアメタルというジャンルに括られていた。だけど今、僕たちは “プログ・ロック” と呼ばれているんだからね!あらゆるタイプの音楽から影響を受けている僕たちは、実は自分たちだけのカテゴリーに属していると思う」
LILLIAN AXE は、常にメロディック・ロックの境界線を越え続けてきたバンドです。セルフ・タイトルのデビュー作と、それに続く “Love + War” で名を上げた彼らは、RATT との深いつながりや WARRENT の Jani Lane が加入寸前だったこともあり、ポップな恩恵を受けつつもその黎明は “ヘアメタル” のカテゴリーに幽閉されていたとも言えます。
「”Psychoscizophrenia” が僕らの時間軸の中で大きなランドマークだったということには、僕も同意するよ。曲作りに関して、僕はあのアルバムで心が大きく開くのを感じたんだ。だからこのアルバムは、僕たちの歴史の中で決定的な場所になったと感じているよ」
その才能が完全に開花したのは、1992年、まさにヘアメタルの徒花となった “Poetic Justice” でした。後に、CROWBER や BLACK LABEL SOCIETY, GODSMAC などとも共闘するメンバーを輩出した LILLIAN AXE は、首領者 Steve Blaze が語るようにアメリカ南部の血脈、ルイジアナの神秘性をメロディック・ロックに配合していきます。骨太でありながら知的、ポップでいながらダークで、リリカルな玉手箱はここに一つの完成を見ます。
世はグランジ全盛。しかし、神秘の暗がりが出身地である LILLIAN AXE にとって、主流の逆転はむしろ吉。繊細なメランコリアや重量感を増したダークなアトモスフィア、ステレオタイプからの脱却を纏った “Psychoschizophrenia” は、時代の狭間に置き忘れるにはあまりにも印象的な辞世の句となったのです。
「”From Womb to Tomb” は、僕たちの決定的瞬間であり、作品だと感じているよ。LILLIAN AXE を最も完璧に定義するアルバムなんだ!君の言う通り、まさに素晴らしい映画のサウンドトラックになると確信しているよ。オーケストラや合唱団と一緒にライブをすることを話し合っているくらいでね」
解散と再結成を経てメンバーも大きく変わりましたが、Steve Blaze と彼のバンドは今も、メロディック・ロックの開拓者として実験と挑戦を重ねています。10年ぶりとなる “From Womb to Tomb” は文字通り Steve の自伝とも思える “ゆりかごから墓場まで” のコンセプトで、その魅力的な音の多様性によって高められた作品はメロディックもプログレッシブも超越した、サウンドトラック・ロック、濃密なストーリーをもたらしているのです。そうして典型的な心の葛藤以上に、”From Womb to Tomb” は世界の現状、人類の寿命、人生の栄光と苦悩を深く正直に明らかにしていきます。
エニグマティックで美しいピアノセクション、スタッカートのストリングス・アレンジ、鳴り響く鐘の音に混ざり合い、溶け出す重暗いリフと濃密なコーラス、崇高なボーカル・ライン。メロディックな光沢とパワフルなメタルの毒気は、プログレッシブな探求やサイケデリックなクワイア、アコースティックの浪漫によって典型から遠く離れて、音楽的な賞賛を一身に受けとめます。
物語の終幕は “Ascension”。心と魂の再生はまさしくこの感嘆符のような作品の象徴です。メランコリックな歌声が響き渡り、神聖な終わりへと向かっていく。華やかさと壮大の間を行き来するこの曲は、古と新、子宮と墓、誕生と死に歴史の反復を投影しながら次の輪廻へと誘うのです。メロディック・ハードからの PAIN OF SALVATION に対する解答。素晴らしきリスニング体験、素晴らしき人生観。
今回弊誌では、Steve Blaze にインタビューを行うことができました。「僕のソロは、それぞれ楽曲のストーリーの重要な部分として取り組んでいるからね。ただ、技術的な強みを誇示するためではなく、音楽的、感情的に曲にフィットするように創作しているんだ」どうぞ!!

LILLIAN AXE “FROM WOMB TO TOMB” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TOXIK : DIS MORTA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOSH CHRISTIAN OF TOXIK !!

“I Think When You Realize You’ve Got a Knack For Something It’s Seductive You Want To Keep Pushing It To See Where Your Boundaries Are. The Expression Is What Carries Us As Artists.”

DISC REVIEW “DIS MORTA”

「レーベルは METALLICA と SLAYER の波を利用することばかり考えていたみたいだけど…特にアメリカではね。純粋に僕たちは早すぎたんだ。たしかに TOXIK はスラッシュの波に乗ったけど、これってスラッシュなの??それが完璧な例えだよ。初期の TOXIK の75%は超高速でシンコペーションしたテストステロンで、残りの25%はメロディとダイナミクスだったから。スラッシュはみんなの中にある最も近い定義だっただけなんだと思う」
80年代半ばにギタリスト Josh Christian によって結成されたアメリカのスラッシュメタル・バンド TOXIK はメタルにとって早すぎた “毒気” であり、勇気ある開拓者でした。デビュー作 “World Circus” の無慈悲な猛攻で MEGADETH や ANTHRAX, それに SANCTUARY といった猛者たちを震えあがらせた彼らは、続く “Think This” でメタルの羽化を促しました。例えば、CORONER が、例えば WATCHTOWER が、例えば MEKONG DELTA が、例えば ARTILLERY がそうであったように、TOXIK もまたメタルのスピードとスリルを奇想天外な知と魑の世界に誘いました。中でも、彼らの精巧な技巧とプログレッシブな創造性は群を抜いていました。
「自分の限界を知るため挑戦することは魅力的だからね。そうすることが、僕たちをアーティストたらしめているとも言える。”Think This”…これは無謀で純粋な芸術的主張だった。レーベルはそれを好まず、ファンは “奇妙だ” と言った…だから当時は崖から飛び降りたようなものだったけど、今となってはこのレコードが多くの人にとってベンチマークとなっているのだから、振り返ってみると正しいことだったように思えるね」
結局、商業的な成功を収めることは叶わず、92年に解散に至った TOXIK。しかし、Josh が語るように彼らの無謀とも思える挑戦は決して無駄ではありませんでした。”Think This” の異様はいつしか威容へと姿を変え、CYNIC, ATHEIST, 後期 DEATH, MESHUGGAH、さらに最近では VEKTOR といったゲームチェンジャーたちの指標となりました。そうして彼らは、メタルの多様性や寛容さを開花させていくこととなります。
「たしかにこのアルバムには時間がかかったけど、これから僕たちは進み続けるし、実はこの現代版の僕たちをもっとたくさんマテリアルがあるんだよ。残酷だけど超美しいものがたくさんあるんだ」
20年間沈黙を守っていた TOXIK ですが、2013年には世界の舞台に戻り、ダイナモをはじめとする数々のフェスティバルに出演。その後、新しくなったバンドで “In Humanity”, “Breaking Class”, “Kinetic Closure”の3枚の EP をリリースし、”World Circus” と “Think This” の再録を披露。そして今、2022年、TOXIK は前作から33年という壮大な年月を経て、3rdアルバム “Dis Morta” を完成させました。
大胆に、苛烈に、衝動的に疾駆する “Dis Morte”, “Feeding Frenzy” のオープニング・ダブルは、得意の社会的・政治的なトピックを題材にしながらトラディショナルなモッシュピットを構築します。”発情した QUEEN”、そんな作品の世界観を植え付けながら。もちろん、MORDRED にも通ずるクロス・オーバーの美学も TOXIK の個性ですが、OVERKILL にも匹敵する強度と灼熱のペースも同様に彼らの真骨頂。スラッシュに対する鬼気迫る飢えは、33年の空白を埋めて余りあるターボチャージャーの衝撃。
それにしても、Allan Holdsworth のソロ曲を無理やりスラッシュメタルと悪魔合体したかのような後者は壮絶。Alex Skolnick だけが持て囃されるスラッシュ・ギターの世界は不公平だと言わざるを得ません。HEATHEN の Jim DeMaria もスーパー。
一方で、緩やかななパッセージ、ミドルテンポの迷宮、プログレッシブな情熱が巧みなギヤチェンジを交えて融合した “Hyper Reality” は、新たな地平への大胆な挑戦として際立っていて、TOXIK が未だ実験とサウンドスケープの拡張を恐れていないことを改めて証明します。同様に、古のプログレッシブを引用した “Chasing Mercury” やジャズ・バラードが加速する “Devil in The Mirror”, NEVERMORE の異形にも接近した “Creating the Abyss” も TOXIK にしか不可能な境界の侵食でしょう。そう、これはまごう事なき “Think This” の続編。
今回弊誌では、Josh Christian にインタビューを行うことができました。「僕の父は、僕が生まれる前に日本にいた頃の話をしながら、日本の文化をロマンチックに語ってくれていたからね。父は日本の社会とその組織を非常に尊敬していて、アメリカ社会についての会話でしばしば対比的な例として使っていたんだよ…。80年代、NYの子供たちは日本の影響を受けつつあって、特に僕はゲームに夢中で、他にもコミック、アニメ、音楽などで影響を受けたんだ。当時、日本に夢中になっていたから “Tokyo” という名前がフィットしていたんだよ。今日でも、TOXIK から日本の影響を聴くことができるよ」 どうぞ!!

TOXIK “DIS MORTA” : 10/10

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