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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROSTBITT : MACHINE DESTROY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IVAN HANSEN OF FROSTBITT !!

“We Have For As Long As We Have Listened To Metal Been Listening To Japanese Rock Bands Like Dir En Grey, Maximum the Hormone, Moi Dix Mois, Babymetal And a Lot Of Anime Openings!”

DISC REVIEW “MACHINE DESTROY”

「Mana 様の作品はどれも好きだけど、特に Moi Dix Mois で作られた音楽は最高だよね!Dir En Grey は、僕たちの大のお気に入り。”Yokan / 予感” や “Cage” のようなファンキーでアーバンなものから、”Obscure” のような Nu-metal、そして後のデスコアやジャンル・ブレンドのヘヴィなものまで、彼らの全てのスタイルが大好きだよ!特に特定の曲のライブ・バージョンが大好きで、より生々しくエモーショナルに聴こえるんだ。”濤声” のライブ・バージョンのようにね。あれは僕にとって完璧だ!NARUTO は特に130話までが僕にとって特別な場所。Asian Kang-Fu Generation の “カナタハルカ” は、生々しい叫びのようなボーカルで、僕に大きなインスピレーションを与えてくれた!」
日本の音楽は世界では通用しない。そんなしたり顔の文言が通用したのも遥か昔。アニメやゲームのヴァイラル化とともに、日本の音楽は今や海外のナードたちにとって探求すべき黄金の迷宮です。とはいえ、ノルウェーのノイズテロリスト FROSTBITT ほど地下深くまで潜り込み、山ほどの財宝を掘り当てたバンドはいないでしょう。
「特にボーカルとベース・サウンドは、KORN から大きなインスピレーションを受けているよ。”Solbrent” “Frostbitt” では、Johnathan Davis とChino Moreno のヴァイブに深く入り込んでいるんだ。ただ、そのせいで少し非難されたし、一時期ちょっとやりすぎたという事実にも同意しているよ。でも、この新しいレコードでは、彼らのインスピレーションはそのままに、他の多くのものも取り入れて、より味わい深いものになったという気がするね。自分たちを取り戻したような感じさ」
未だ Djent が新しく、勢いのあった10年代初頭に頭角を現した FROSTBITT は、近隣の MESHUGGAH や MNEMIC (素晴らしい!) に薫陶を受け、ローチューンのリズミック・マッドネスに心酔しながらも、同時に Nu-metal, 特に KORN や DEFTONES の陰鬱や酩酊をその身に宿す稀有な存在としてシーンに爪痕を残します。ただし、インタビューに答えてくれた Ivan Hansen の歌唱があまりにも Jonathan Davis に似すぎていたため、あらぬ批判を受けることもあったのです。まさに “Life is Djenty”。
しかし、FROSTBITT の時間旅行は “Machine Destroy” で空も海も飛び越える3Dの冒険へと進化しました。”Machine Destroy” というアルバム・タイトルが示すように、FROSTBITT の目的は常識や次元、時間、既存のメカニズムの破壊。CAR BOMB とのツアーは、FROSTBITT にとってノイズと獰猛さを探求するきっかけとなり、あの英国の破壊王 FRONTIERER をも想起させるアクロバティックなエフェクト・ノイズの数々は、”Frost-Riff” というユニーク・スキルとしてリスナーの脳裏に深く刻まれます。これはもう、ギミックの域を超越したテクニックの領域。
さらに、ここには日本からの影響も伝播しました。”Masked Ghost Host” のシアトリカルで狂気じみた呪文のような言霊の連打からの絶叫は、明らかに Dir en Grey の京をイメージさせますし、作品のテーマは攻殻機動隊。何より、”曲をリフ・サラダではなく、構造や繰り返しのある実際の歌らしい歌にしたい” という彼らの理想は非常に日本的な作曲法ではないでしょうか。タイトル・トラック “Machine Destroy” の致死的な電気の渦の中でも埋もれない、メロディの輝きは日本イズムの何よりの証拠。今作ではさらに、時に RADIOHEAD の知性までも感じさせてくれます。
デスメタルの単調とブラックメタルの飽和が囁かれるこの世界では、新しいアイデアを持ったバンドが必要とされているようです。1996年に片足を突っ込み、もう片足をThallの迷宮に突っ込んで、両腕を遠い東の島国に向けて突き上げる FROSTBITT の3Dな音楽センスは、明らかに前代未聞唯一無二で尊ばれるべき才能でしょう。
今回弊誌では、Ivan Hansen にインタビューを行うことができました。「ノルウェーは、暖かい夏と厳しい寒さの冬と雪の両方がある美しい場所。国土が広く、人々は国土全体に散らばっているから、ノルウェーを旅行するときはかなり遠くまで行くことが多いよね。それに、多くの家庭が森の中に山小屋を持っているから、歩く文化や山越えの文化も盛んなんだ。少なくとも、ブラックメタル・バンドからはそんな雰囲気が伝わってくるし、僕自身も同じようなことを実感しているんだよ」 どうぞ!!

FROSTBITT “MACHINE DESTROY” : 10/10

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COVER STORY 【SLEEP TOKEN: EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW】


COVER STORY : SLEEP TOKEN “EVERYONE IS TALKING ABOUT SLEEP TOKEN RIGHT NOW”

Enigmatic Collective climbs to the top of the world in just two weeks!

SUMMON. RITUAL. WORSHIP.

時折、ヘヴィ・ミュージックの世界では突如として大化けするバンドがいますが、ニューシングル “Granite” をリリースしたばかりの謎のバンド SLEEP TOKEN の短期間での大化けぶりはこれまでに記憶がないほどの “バイラル” です。しかし、なぜこれほどまでに皆が彼らのことを話題にしているのでしょうか?
最近のリスナーの急増や新しいファン、評論家の流入がどうであれ、SLEEP TOKEN はまったく新しいバンドではありません。しかし今、世界中の音楽コミュニティが彼らの話題でもちきりです。わずか2週間の間にリリースされた4曲で、バンドはSpotifyの月間リスナー数100万人を突破しました。2週間でSpotifyの月間リスナーが4倍に。
4曲がリリースされる以前は、20万人強のリスナーだったことを考えれば、これは明らかに驚異的なジャンプです。さらに、2週間前の楽曲はすでに YouTube で100万回以上再生されており、最新シングル “Graniteも、20万回近く再生されているのです。しかし、この新たな快進撃は蜃気楼のようなものではなく、今や実体を伴った現象だと言えます。

SLEEP TOKEN の成功は、何年もかけて作られたもの。2016/17年にプログレッシブ・メタル/Djent のとポップやR&Bといった多様な影響を融合させたモダン・メタルで初めて登場し、”Fields Of Elation” や “Nazareth” は耳の早いリスナーたちの注目を集め始めます。しかし、このユニークで謎に満ちた集団が本当に軌道に乗り始めたのは、バンドがデビュー・フル・アルバムからの新曲を垂れ流し始めた2019年になってからでした。
SLEEP TOKEN を “ミステリー・バンド” “エニグマティック” と呼ぶのは、彼らに関する情報があまり出回っていないから。メンバーは儀式的な仮面をつけ、服装も隠しているため、その素性は明らかにされてはいません。わかっているのは、バンドのリーダーが Vessel という名前で活動していることと、 “Sundowning”(2019), “This Place Will Become Your Tomb”(2021)という2枚のフルアルバムがあることだけで、後者は、様々な媒体で2021年のベスト・アルバム・リストに選出されています。

SLEEP TOKEN のアイデンティティ、その神秘性と、複数の異なるスタイルの音楽を融合させた非効率性と異常性の両方を利用したことは、成功の助けとなりました。なぜなら、そうして複数の市場からの注目を集めることは、新人バンドにとって名声を得るための最も手っ取り早い方法のひとつであり、匿名性はファンによる “詮索” というアミューズメントを生み出します。
デジタル時代には匿名性の美しさがあります。私たちの多くは、知り合いが1~4つの SNS で常につながっていて、恐ろしいほどの勢いで切り替えながら憧れのセレブリティや、架空のヒーローについてあらゆることを学びます。私たちは、消費するために情報をノンストップで消費し、自分の行動を疑うことはありません。
SLEEP TOKEN の信奉者たちは、その手がかりを探し求めています。コヴェントリー在住のファン Chris が立ち上げた Discord サーバーで、彼らはバンドの歌詞、アートワーク、MV、グッズを丹念に調べ、ダ・ヴィンチ・コードのメタル版といった風態で隠れた意味を読み解こうと試みているのです。
「ウェブサイトで Vessel のインタビューを読んで、もっと知りたくなったんだ。Reddit でバンドのコミュニティがないか見てみたんだけど、当時はなかったから作ることにしたんだよ」
現在、そのメンバーは900人を超え、バンドが残した暗号を読み解くことに必死です。Tシャツのデザインに描かれた数字列が、鯨の死骸が海底に落ち、生態系全体の栄養源となる “鯨落ち” の座標であることを発見しました。
「バンドが提示する隠されたアイデンティティと世界観が好きだ。音楽だけでなく、全体的な体験ができるんだ」
アルバム “This Place Will Become Your Tomb” は、腐敗した鯨とそれを餌とする動物たちのヘヴィなイメージを象徴としています。死の中の生、つまり Vessel が頻繁にリリックで取り上げるトピックと永遠の繰り返しを表現しています。
Discord は、バンドがその芸術を通して何を探求しているのか、あるいはしていないのか、魅力的な洞察を与え続けています。
「何事も永遠には続かない。それまで我々は崇拝するのだ」と Chris は淡々と語ります。

神話に関する議論とは別に、Discord は人々を結びつける社交クラブにもなっています。「Discordのコミュニティは素晴らしい」と、ニューヨーク在住のファン、BluKittie ことヴェロニカは言います。
「世界中にファンがいて、バンドに対する同じ愛と情熱を分かち合っている。私たちはいつもお互いに助け合っているの。昨年、私の父が亡くなったんだけど、その辛い時にコミュニティのメンバーが助けてくれたし、今でもそうよ。そこで仲間に出会えたことが、とにかく幸せなの」
つまり、SLEEP TOKEN は、その秘密主義にもかかわらず、というよりも秘密主義であるがゆえに、急速にカルト的なセンセーションを巻き起こしつつあるのです。伝説の中心は Vessel ですが、SLEEP TOKEN は常に自分たちを “集団” と表現し、経験豊富なミュージシャンたちの共同作業を示唆し、全員が芸術に貢献していることを語っています。
SLEEP TOKEN のケースでは、SNS上の反応の大きさも手伝って、新曲は TikTok で爆発的にヒットし(TikTokは彼らが前作をリリースしたときよりも巨大なプラットフォームとなっている)、バンドが SNS で常にトレンドとなることで、見ず知らずの人たちがその騒ぎを目にしてファンとなる雪だるま式の効果もありました。

インターネットと様々なソーシャルメディアの力によって、無名のバンドが一夜にして一般大衆に浸透する時代になったことは間違いないでしょう。SLEEP TOKEN を新しいバンドだと思い込んでいるメディアもあるかもしれません。しかし重要なのは、多くのバンドやミュージシャンがそうであるように、この新たな成功は何年もかけて作られたものなのです。結局、時代がどう変わろうと、バンドをどのように発見するかはあまり重要ではないのかもしれませんね。昔からのファンであろうと、SLEEP TOKEN の活動を初めて知った人であろうと、バンドが成功を収めることは常にクールであり、新しくてユニークな体験とサウンドを提供するバンドであれば、なおさら嬉しいことですから。
バンドへの期待値は、今後も上昇傾向にありそうです。Genius によると、具体的なリリース日は明らかにされていないものの、”Take Me Back to Eden” というタイトルのアルバムが進行中とのこと。
Spinefarm Records のウェブサイトでは、”Chokehold” と “The Summoning” について、「次に何が来るかは時間だけが教えてくれるが、確かなのは、それが慣習に縛られることはないだろう」と書かれています。

では、SLEEP TOKEN について、人々は何をもって特別だと言っているのでしょうか?ヘヴィー、ソフト、メロディック、アトモスフェリック、エクスペリメンタルなど、様々なスタイルの曲を巧みに作り上げる彼らの能力に興味を持った人が多いようです。複数のジャンルや従来とは異なるやり方を取り入れることを恐れない。まさにモダン・メタルの雛形だと言えます。
「SLEEP TOKEN は2020年代のメタルのあり方を体現している」と、ブラック・メタルの伝説 EMPEROR の共同創設者であり、アヴァンギャルドなメタル・アーティストのパイオニアである Ihsahnは語り、このバンドと同じレーベルに所属しています。「初めて聴いたときから、完全に興味をそそられたんだ。モダン・メタルの要素と非常にダークなムードを混ぜ合わせながら、非常にクリアでモダンなR&Bスタイルのプロダクション・バリューもあるんだからね」
SLEEP TOKEN は決してメタル界初の匿名集団、マスク・ド・メタルではありませんが、彼らのシンボルをあしらったマスク、ダークなボディ・ペイント、北欧のルーン文字からヒンドゥー教のシンボルまでを使用したアートワークは、メタルファンやミュージシャン仲間の好奇心を十二分に刺激しています。

「ブラック・メタルと似ていて、マスクと謎めいた雰囲気が全体を引き締めているんだ」と Ihsahn は説明します。「そうしたシアトリカル、演劇的な要素がなければ、EMPEROR は今のような大きな存在にはならなかっただろうからね。そうやって、芸術とアーティストの間に明確な距離と空間が生まれる。デヴィッド・ボウイのインタビューを見ても、我々は彼を知っているようにはまったく感じられない。彼の作るアートはただ提供されるものであり、我々はそれを理解しようとするだけでよかったのだよ」
謎解きといえば、SLEEP TOKEN が次にどのような方向に進むのか、誰も知らないし、教えてくれようともしない。しかし、それはこのバンドが常にそうであったように、リリースのたび、ファンはその謎を解く楽しみを持つことができるのです。
「2ndアルバムを聴いたとき、彼らがどこへ行こうとしているのか全くわからなかったから、私の中では発展の種がたくさん生まれたんだ」 と Ihsahn は目を細めます。「今はより成熟し、明らかに彼らが目指しているものがある、でもそれが何であるかは言えないんだ……」

ライブでサポートを務めた AA Williams も SLEEP TOKEN に心酔する一人です。SLEEP TOKEN と同様、彼女の音楽はオルタナティブ、ポップ、ソウル、メタルと多岐に渡りますが、メタル世界にも受け入れられています
「私たちはとてもうまく調和していると思うわ。ポップな音楽とヘヴィな音楽の両方を、どちらかに偏ることなく追求できるアーティストを見るのは素晴らしいこと。ライブでは、そのダイナミクスに命が吹き込まれ、観客はまるで教会に行っているような気分になる」
SLEEP TOKEN の正体を明かそうとした人はいるのでしょうか?
「彼らのプライバシーを侵害しないように、また、アートを特定の方法で表現するという選択を尊重するようにしたいもの。もし、誰ですか?と聞かれたら、ロバート・デ・ニーロと答えよう」
Redditでは、このバンドの登場を GHOST に例えている人もいます。
「SLEEP TOKEN は新世代の GHOST のようなものだと思う。GHOST が過ぎ去った世代のメタル・スタイルと今の世代のポップセンスを融合させたように、SLEEP TOKEN は今日のメタル・サウンド(主にメタルコアやDjent)と近年流行しているポップ・サウンドを見事に融合させたんだ。そして、それがとてもクールなんだよ。だって、机の上ではうまくいかないはずなのに、実際にはうまくいくんだもの」

事実、”The Love You Want” や “Alkaline” に封じられた EDM とシンフォニック・メタルコアの婚姻は10代のTikTokユーザーにとってたまらない取り合わせでしょう。 ポップなフックを持つヘヴィ・ミュージックは確かに新しいものではありませんが、SLEEP TOKEN は誰よりも大きな力でジャンルの境界を溶かしています。そして、ヒップホップからプログ・メタルまであらゆるものを取り入れ、すぐに愛されるシングルをサプライズ的に散りばめながら、最も予想外の場所に力を見出す反抗的なメタルの旗をかざしているのです。
Redditの別のユーザーは、”The Summoning” に “衝撃を受けた” と述べ、このリスニング体験を”クソ超越的な経験” と驚きをあらわにします。また、Vessel が少し変わったボーカルアプローチをとっていることを指摘し、彼のスクリームを賞賛する人も多いようです。
「コーラスのバックで鳴っているあのうっすらとしたビープ音は、私を必要以上に幸せにしてくれる」と、別のファンはRedditで “Chokehold” について言及しています。「このバンドの、純粋なヘヴィ・ミュージックも好きだけど、ダークでポップな “ベイビー・ミュージック” を作ったときに本当に輝きを増すんだ」
SLEEP TOKEN を “Worship” “崇拝” するファンにとって、ライブはまさに “Ritual” “儀式” だと言えます。静まり返る会場で、バンドの神秘性の裏にあるメッセージや隠された意味、どんなサインでもいいから受け取りたいと、全員の目が仮面とマントをまとったシンガーに注がれます。Vessel は言葉というゴスペルの代わりに感謝の印に両手を合わせ、何も語らないことで全てを語ろうとし、皆の心を揺さぶります。
かつて Vessel は自分たちの音楽はすべて “スリープ” 、つまり何世紀も前にルーツを持つ眠りについた謎の神への奉仕であると語っています。
「我々がどうやってここに来たかは、我々が誰であるかということと同じくらい無関係だ。重要なのは音楽とメッセージだ。我々はスリープに仕え、彼のメッセージを映し出すためにここにいる。バンドの未来?何もない。永遠に続くものはない」


参考文献: LOUDWIRE BLUNT  THE NEW FURY

LOUDERSOUND

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【POLYPHIA : REMEMBER THAT YOU WILL DIE】


COVER STORY : POLYPHIA “REMEMBER THAT YOU WILL DIE

“I’m Gonna Grow Up And Be a Rock Star, And Just Truly Believing That.”

REMEMBER THAT YOU WILL DIE


「中学2年生の時にマリファナを吸い始めた。それが僕の人生の中で大きな意味を持つようになったんだ。テキサスに住んでいたから麻薬所持で逮捕されたけど、それが僕のキャリアに火をつけたようなもの。僕は保護観察中で、1年間、学校に行って、家に帰るだけだったんだ。人を呼ぶことも、友達の家に行くことも許されなかった。それで、ギターを本当に、本当に、本当に上手になろうと思ったんだ」
16歳になった POLYPHIA の Tim Henson は薬物所持で2度、法に触れてしまいました。テキサス州のように薬物犯罪が特に重く処罰される州では、尚更居場所を失います。今、28歳の Tim は、「毎日マリファナを吸える仕事に就いたんだ」と皮肉を込めて話します。「でも、”言霊” ってあるんだよね。小学校6年生のとき、”僕は Tim Hendrix。大きくなってロックスターになるんだ” って、みんなに宣言して、本当にそう思っていたんだ。だからね、意識の顕在化、決意表明。その力が本当に重要だと思うんだよ」

麻薬所持の罪で、Tim は保護観察や外出禁止処分となり、一人でいることが多くなりました。しかし、その時間をすべて使ってギターの練習を続け、貪欲に最高のミュージシャンを目指したのです。中国からの移民である母親は、息子がアメリカで得られるチャンスを最大限に生かすことを決意します。3歳のときから Tim はヴァイオリンのレッスンを受け始め、幼少期に長時間の練習に対する耐性を養いました。間違うと先生に弓で手を叩かれることもあり、決して楽しいものではありませんでしたが、彼はこの経験に感謝しています。
「多くの移民が、アメリカはチャンスの国だと考えている。だから、若いうちから何かを始めさせる親が多いんだ。乱暴な先生で、当時はかなり嫌だったけど、今思えばおかげで規律を学べたし、集中し、鍛錬し、練習することで、何事も上手になることを理解できたんだ」
10歳のある日、Tim は父親がギターを取り出すのを見ます。それまで父親がギターを弾くということを全く知らなかった彼は、その楽曲に興味をそそられました。「父親の BLACK SABBATH のコレクションから曲を選んで、耳コピを始めたんだよね。サバスは耳コピが簡単なんだ。全部Eマイナーのペンタトニックだから。そして、15歳になるころには、ヴァイオリンの気晴らしでギターを始めたのに、完全にヴァイオリンを捨てていたよ」

Tim が中学生の頃は、CHIODOS, TAKING BACK SUNDAY, FROM FIRST TO LASTなどが流行っていて、長い前髪に血行が悪くなるほどきついジーンズをはいた仲間に囲まれていました。
「年上の子たちが夢中になっていたクールなバンドだった。メロディーのいくつかは信じられないし、楽器編成も本当にユニークだと思ったんだ。ビートルズ、ジミヘン、サバスなど、古いロックしか知らなかった僕は、現代のバンドがやっていることを聴いて、特にロック的なソロとより現代的でテクニカルなリフを融合させることに、革命的な感覚を覚えたんだよね」
高校に入ると、ほとんどの同級生がシーンを卒業し、より “普通” の趣味を追求していました。しかし、Tim はまだ WHITECHAPEL を聴くことで満足していました。それでも彼は、”メインストリーム” の音楽と、それがなぜそんなに人気があるのかについて、好奇心を抑えることができなくなったのです。
「僕はメインストリームの曲を聴きに行き、なぜ多くの人々が好きなのかを理解しようとしたんだ。メタルは非常にニッチだから、僕はより多くの人に届く音楽を評価するようになっていった。何が親しみやすいのか、なぜ多くの人が共感するのか、音楽にあまり興味のない人たちでさえも。以来、その理由を分析するようになったんだ。僕自身はメインストリームの音楽に個人的に共感していたわけではなく、ただ馴染もうとしていただけなんだけどね。だけど、好きなもののために仲間はずれにされるのは、いい気分ではないからね。とはいえ、メインストリームの音楽の多くに純粋に感謝するようになったんだ」

こうした影響はやがて、Tim が2010年から活動しているバンド、POLYPHIA で作る音楽にも滲み出るようになりました。新譜 “Remember That You Will Die” は、ポップ、ファンク、EDM、Djent といった多様な絵の具をキャンバスに投影した、カルテットにとって最もカラフルでエクレクティックな作品と言えるでしょう。”オマエはいつか死ぬ。忘れるな” というタイトルは、ラテン語の格言 “Memento Mori” をロックンロールの流儀で翻訳した、羊のメタル皮を着た狼の残虐。
「人間は死が避けられないことを自認しているから、生の限られた時間を使って、永遠に存在し続けることができるものを発明しようとする。芸術家は想像力を駆使して、歴史に残るようなものを創り出すんだ。人工知能が発明され、それがアートやテクノロジーに応用されるようになると、人間の思考とコンピューターの思考のギャップを埋める方法が見つかる。 この2つをつなぐことは、最終的に人間の経験の永続性につながり、それは人間が不老不死になることに最も近いと言えるんだ。アルバムのタイトルは、このアートと結びついているんだ」
つまり、POLYPHIA の発明とはジャンルのステレオタイプを気にかけないこと。それが彼らの成功の礎です。彼らは MySpace でデスコアをイメージさせる10代の若者としてテキサスから現れたましたが、彼らをスターにしたのはそのブレイクダウンではなく、21世紀で最もジャンルを打ち破るリックをいくつも生み出したから。ファンク、マスロック、ヒップホップをミックスしたインストゥルメンタル・ジャムは、YouTube で何百万もの再生と Instagram のフォロワーを獲得しました。
「僕たちは何からでもインスピレーションを受ける。過去数枚のアルバムからギターを取り除き、ドラムとベースだけを聴くとしたら、トラップ・ビートやフューチャー・ベース・ビートが残る。もしギターを外して、演奏しているものにボーカルを加えても、やっぱりそう聴こえるだろう。つまり POLYPHIA でギターっぽいのはギターだけで、あとは人間がプログラムされたパートを演奏しているだけなんだ」

POLYPHIA にとって2013年にリリースしたシングル “Inspire” のプレイスルービデオは、最初のバイラルへの扉を開いた楽曲です。3ヶ月で25万の再生数を獲得。Tim は当時の自分たちが “天狗” になっていたと認めています。ただし、そうした “思い上がり” の顕在化が彼らを上へと押し上げて来たのは明らかな事実です。
「僕たちは間違いなくクソガキだった。子供は子供だ。高校生の頃、生活のためにツアーをするのが夢だったんだ。それから数年後、僕たちは実際にそうしていたんだから。それから、”もっと大きくなれたら、かっこいいな!” と思っていたんだ。だから “自分たちは素晴らしい。僕がキッズだったら、僕らが一番好きなバンドになるだろうね。それくらい僕たちの音楽はクールなんだ” なんてインタビューで普通に答えていたんだよ。今は歳をとって、作品に語らせたいんだ。今はもう言うことがない感じかな。僕たちはまだ自分たちがイケてると思っているけど、そのことについて愚かな雁字搦めになる必要はないってことを学んだんだ。前頭葉が発達しているときは、成長するのに時間がかかるんだよ」
ただし、過去の思い上がりに反省もあるようです。
「今はすごく練習してるよ。以前は “最もプロ意識のないプロフェッショナルなバンド” なんて言っていたけど、今は年齢も上がったし、これは自分たちの生活の一部だから、とても真剣にやっている。僕らの作品は演奏するのがとても難しいし、ファンを失望させたくはないんだ。自分たちのケツくらい自分たちで拭けないと。練習していないなんていうのは、ずいぶん前のクソみたいな発言の一つだよ」

POLYPHIA は、半分プログレッシブ・インストゥルメンタル・バンドで、半分オンライン・インフルエンサーだと言えるのかも知れませんね。バンドが2016年に “Euphoria” のビデオを公開した際、半裸のスーパー・モデルをサムネイル画像として起用したところ、400万人を数える人々にクリックバウトされました。YouTube のトップコメントにはこう書かれています。”彼らはとても賢い。美しい女性の画像を使って、騙して素晴らしいギター・バンドを発見させるなんて。ありがとう”
「POLYPHIA は意識的に2つの非常に異なるオーディエンスを一緒にしようとしたんだ。一つはギター・マニアとオタク。もうひとつは、ジャスティン・ビーバーや ONE DIRECTION のキッズだった僕らと同世代の女の子たちだ。それが目標だったんだけど、何年もかけて、自分たちではない何かになろうとすることを減らして、自分たちでいるようになったんだ。今でも男性中心だけど、ライブでは女の子がたくさんいるんだよ」
Ichika Nito、Mateus Asato、Yvette Youngといった才能あるアーティストを起用した 2018年の3rdアルバム “New Levels New Devils”。彼らのプロモ写真には、メルセデスに腰掛け、まるでクールなキッズのような格好をした4人組の姿が写っていました。テック・メタルを愛する若者たちにとって、それはある意味冒涜的な行動でしたが、Tim は当時、重要なことはクールであることと女の子にモテることだったと胸を張ります。
「2004年の “St Anger” で、METALLICA のプロモを見たんだ。彼らは全員メルセデスでリハーサルスペースに乗り付けたんだ。すげーカッコいいと思ったんだ。その時、自分たちを世界最大かつ最高のメタル・バンドと呼ぶというミームを思いついたんだよ。それに、僕らがもっとビッグになりたいと思っていた頃、ONE DIRECTION はまだ存在感を示していた。僕たちは、”よし、彼らがやっていることをやろう。明らかに女の子が好きなことだ” と思ったんだよな」

“The Most Hated” という明らかにノンギターな EP は、ファンたちの頭を悩ませ、中には逃げ出してしまった人もいました。
「あのリリースで、”俺たちが先にいたから POLYPHIA は俺たちのものだ” みたいな気取った老害的ファンを排除したんだ。彼らは僕たちの以前の作品を気に入っているから、それはそれでよかったんだ。結果として、新しいファンを獲得することができたからね。アマチュアから現在のようなバンドへと成長できたのさ。このアルバムも、半分は既存のファンのため、残りの半分は新しいファンのために作ったよ」
ボーカリストがいないことで、当初は多くのリスナーにとって眉唾ものでしたが、Tim はむしろインストであることがバンドに大きな創造性と可能性をもたらしたと考えています。
「より多才になれるし、より多くのコラボレーションが可能になるんだ。僕が本当に理想としているビジネスモデルは、EDMがすごく流行っていた2015年から16年ごろ、Zedd と Alessia Cara みたいな DJ とポップスターとのコラボも盛んで、同じ DJ があらゆるポップスターとコラボしてスターのキャリアを飛躍させるようなシステム。POLYPHIA のアイデアは DJ なんだよね。どんなシンガー、ラッパー、メタル・ボーカリスト、楽器奏者、DJ、プロデューサーともコラボできるんだ」
Chino Moreno や Steve Vai、ラッパーの Killstation や $not、ポップスターの Sophia Black など、”Remember That You Will Die” の豪華なゲスト陣を見れば、POLYPHIA の生み出したモデル・ケース、その影響力が浮き彫りとなります。

特にあの7弦楽器のパイオニアは、グランド・フィナーレ “Ego Death” の最後に登場し、歪んだソロで POLYPHIA の地平を切り裂きます。POLYPHIA にとってこれは記念碑的な出来事であり、Tim はあっけからんと “興奮している” と主張しますが、ここにも POLYPHIA 座右の銘である “気にかけない” が浸透しています。
「2020年に、Steve が NAMM ショーでオープニングをやってくれと頼んできたんだ。その後、僕らは DiMarzio のパーティに行って酔っ払って、彼に “ねぇ、僕らの曲で弾いてくれない?” って頼んだんだよ。そしたら、彼は “もちろん!” って感じだった。数年後、曲ができて、彼にメールを送ったんだ。そして “Ego Death” が完成したんだ」
例え Steve Vaiのような有名人であっても、POLYPHIA はアンチソロ、メロディ優先のビジョンを維持するためにその演奏に手を加えています。最近のインタビューで Vai は切り刻まれたギターソロに驚いたと語っています。
「通常、俺が誰かのために何かを弾くとき、依頼者はそのままの形で受け取るんだ。でも POLYPHIA はとてもクリエイティブで、何かを操作するのが好きなヤツらだ。ただ、最初に聴いたときはあまりに違っていたから、もしかしたら、俺のやったことが気に入らないのかもしれない!と思ったんだ (笑)」
このアルバムでの限界を超えたギター・プレイに対して、Tim は指板のコミュニティで使われているある言葉に異議を唱えています。
「僕たちがやっていることを “シュレッド” とは呼ばないよ。だって、それぞれの曲で1つか2つのモチーフがって、それがたくさんの音符に広がってから、メインのモチーフに戻ることに気づくでしょ?みんな、シュレッド “という言葉の周りで踊っているんだよ。80年代にスーパー・クールだったものを、今の時代にそのまま再現したってクールな訳ないよ。だって時代が違うから。大半のギターインストには緩やかな死を与えるべきかもね。僕たちはたくさんの音を弾くためのシュレッドではなく、音楽を補完するための正しい音を弾いているんだ。しかも、より速くね。メタル・バンドは儲からないからクールじゃない。ギターが中心になっているものは、文字通りソロにソロを重ねただけのものばかりだ。僕たちは確かにソロにソロを重ねたレコードを作ったけど、その間にフックもあったんだ」

“Playing God” では初めてナイロン弦のギターを使い、トラップ・ビートと溶け合わせました。
「フラメンコやボサノバをよく聴くわけじゃない。この曲をアル・ディ・メオラやパコ・デ・ルシアと比較する人もいるけど、僕は聴いたことがないからね。ただ、最近、ハーモニック・マイナーを再発見してね。このギターで弾くとそんな感じになるんだよ。それに、作曲する時は、最も”裸”の状態で完璧な音を出すべきだ。ナイロン弦で良いサウンドなら、どんな楽器に移行しても良いものになる。ただし、エレキより正確に弾かなければならないし、指の肉は安定してあるべき場所に正確に置かなければならないんだ」
Chino Moreno が参加した “Bloodbath” では、オールドスクールなギターソロを Scott が披露しています。
「Scott のソロの中では一番好きなんだ。彼は Dimebag や Wes Hauch、そして FACELESS “Planetary Duality” を少しチャネリングしたと思う。ALLUVIAL のアルバム “Sarcoma” での彼のギター・ワークはすごいよ。めちゃくちゃ聴いたよ」
TikTok やボカロが元となった “ABC” も POLYPHIA のアンテナの敏感さを証明しています。
「今、TikTok にアクセスすると、AC/DCの”Thunderstruck”をプレイする子供がいたりする。それにみんなが狂喜乱舞しているんだ。長い間、ラジオには存在しなかったギターソロを子供たちが発見したんだよ!それは素晴らしいことだ」
つまり、POLYPHIA のアンテナが倒れることはありません。
「先日、BRING ME THE HORIZON のライブを観に行ったんだけど、すごく衝撃的だったよ。僕たちはずっとメモを取りながら見ていたんだ。その前の週は MESHUGGAH を観たんだ。僕はあらゆる種類の音楽を純粋に評価しているからね。僕はポジティブなエネルギーしか持っていないんだ。自分がポジティブに感じた音楽を聴いた時と同じように、子供たちが僕たちの音楽を聴いてくれることを願っているよ。そして、その子供たちが成長して、ドープなことをするようになればいいな」


参考文献: KERRANG!: “The power of manifestation is really important”: How Polyphia’s Tim Henson became the guitar hero metal needs

GUITAR.com: “We were little pieces of shit”: Polyphia on teenage fame and making music with Steve Vai

GUITAR WORLD: Tim Henson and Scott LePage on how Polyphia made the wildest guitar album of 2022: “We were like, ‘F**k. Did we just blow out Steve Vai’s speakers?’”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【YAWN : MATERIALISM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TORFINN LYSNE OF YAWN !!

“We Are Also Obviously Very Into Metal, And We Often See a Lot Of «Standardized» Ways Of Producing And Composing This Kind Of Music Today. We Try To Challenge These Ways By Including More Inspiration From Jazz And Contemporary music.”

DISC REVIEW “MATERIALISM”

「YAWN (あくび) というバンド名は、ある意味、音楽業界の “モダン・スタンダード” に対する反動なんだよ。長年音楽教育を受けてきた僕たちは、音楽的に “こっち” や “あっち” の方向に進みたい場合、ジャンルの慣習に基づいたすべてのルールに従ってきていて、かなり疲れていたんだよね。それで、一般的なレシピに従うことなく、何か新しいものを提供したいと心から思っていたんだ」
あらゆる音楽ジャンルには、すべて “規範” “標準” “ルール” が存在します。当然でしょう。ある種の雛形がなければ、ジャンルという概念それ自体が崩壊してしまうのですから。もちろん、現代のインストゥルメンタル、エクストリーム・ミュージック、プログレッシブというジャンルにもその雛形は存在します。MESHUGGAH はそのすべてに多大な影響を与えた巨人にちがいありません。
「ハイゲインの8弦ギター、ローチューンのドラム、そしてプロダクションの考え方など、MESHUGGAH は僕らのバンドにとって圧倒的に重要な音楽的影響を与えた存在だよ。彼らは間違いなく僕たちのヒーローで、もし彼らと一緒にツアーをする機会があれば、おそらく僕たちは心臓発作を起こすだろうね」
YAWN はしかし、その場所からさらに進んで新しいダイナミックな振動をもたらしてくれます。同じような、すこし奇妙な美的関心を持つ人々ならば、このバンドが現代のプログ・メタル世界にモダンなジャズの即興やノイズを導入し、地獄より重いリフ、複雑怪奇なリズムのパズルに新鮮な息吹を吹き込む開拓者であることを即座に認めるはずです。このポリリズムの両輪は次にいつ出会うのだろう、この不思議な響きはどこの伝統音楽だろう、少しづつ、ほんの少しづつ速度を変える肉感的なリズム、そして半音階さえ超えていく四分音の衝撃。
「Djent における共通のモラルは、とても刺激的で高揚感を与えてくれるものだと思うな。”ロックスターなんて論外、みんなでとにかく残虐で奇妙なリフを作ってインターネットにアップしよう” という考えを共有しているように思えるね。このような考え方が、クールな新しいバンドを生み出しただけでなく、現代の “ジェント・ベッドルーム・ミュージシャン” という文脈が、毎日出てくる素晴らしいソフトウェア、ギター・ギア、ドラム・サンプルなどのきっかけになったのだと思っている」
興味深いことに、多くの “MESHUGGAH 崇拝者” とは異なり、YAWN は Djent というムーブメントを抱擁し、すんなりと肯定しています。もちろん、彼らの目指す即興性、音の肉感と Djent の “定型”、機械化は同じ MESHUGGAH の申し子でありながら180度異なる考え方。それでも、”ロックスター” から遠く離れた場所にいるというある種の疎外感、反逆性、DIY の精神は共通していて、エレクトロニカや新機材という文脈からも多大な恩恵を受けていることに違いはないのです。
「どの曲もエンディングがあり、でもそれが次の曲の始まりになっていて、最初から最後まで通して聴くことができるように構成されているよ。このアルバムを制作しながら、僕たちの音楽世界のすべてがこのアルバムに込められているような気がしたんだよね。自分たちの音楽を表現するときに、物質の4つの状態 “固体、液体、気体、プラズマ” と多くの類似点があることに気づいたんだ」
37分のデビューアルバム “Materialism” は、アンビエントなサウンドスケープ、即興のギターソロとブルータルなブレイクダウン、感染性のグルーヴと心を溶かすリズム、実験的なエレクトロニクスを並列繋ぎで並び立て、これらすべての要素を論理的かつ音楽的な快適さを併せ持つ驚きのルービック・キューブとして組み合わせているのです。凍りついた永久凍土の即興音楽は、北欧で噴火するメタルの火山によって見事に溶解をみました。”唯物論” とはすなわち、スタイルやサブジャンルに巣食う特定のルールを破ることを意味していて、彼らは MESHUGGAH を “マトリックス” の世界へと引き込むのに十分な “仮想現実” とハッキングの技術を備えているのです。
今回弊誌では、ギタリスト Torfinn Lysne にインタビューを行うことができました。「僕たちは明らかにメタルが大好きなんだけど、今日、この種の音楽の制作や作曲はある意味 “標準化” された方法だと感じていたんだよね。僕たちは、ジャズや現代音楽からより多くのインスピレーションを得ることで、こうした方法に挑戦しようとしているんだよ。だから、一般的な “モダン・メタル” サウンドを再現しようとするのではなく、自分たちの方向性に沿って音楽を制作しているんだ」 どうぞ!!

YAWN “MATERIALISM” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MESHUGGAH : IMMUTABLE】


COVER STORY : MESHUGGAH “IMMUTABLE”

“We Always Wanted To Have This Lateral Move Away From What You Might Construe Or See As Mainstream Metal.”

IMMUTABLE

30年以上にわたり、ヘヴィ・メタルはスウェーデンの最も重要な輸出品のひとつで、その品々は伝統的なメタルの慣習を粉々に打ち砕いてきました。
1970年代、KING CRIMSON の創設者でギタリストの Robert Fripp は、ドラマーの Bill Bruford とベーシストの John Wetton を “空飛ぶレンガの壁” と呼んでいました。Fripp は当時、バンドの角ばった不協和音を完成させる際、リズムセクションに対してギターの音量とパワーを競わせることに苦労していたのです。35年前にスウェーデン北部のウメオで結成された MESHUGGAH は、その特異で巨大な “空飛ぶレンガの壁” をバンドとして作り上げました。そうして、1995年の “Destroy Erase Improve” で彼らはメタルの慣習を粉々に “破壊し、消し去り、改善” したのです。
MESHUGGAH は、その非正統的なドラムパターン、テンションが張り巡らされた半音階のギター・メロディー、そして邪心の咆哮で、”冷酷で機械的”な数学的メタルのフロンティアを切り開きました。ドラマーの Tomas Haake が「このバンドは常に、主流であると解釈されるようなメタルから、あるいはそう見えるようなものから離れることを望んでいた」と証言するように。
デビュー・アルバム “Contradictions Collapse” のリリースから31年が経過しましたが、新譜 “Immutable” が物語るようにその決意は “不変” であり、衰えることなく続いています。この30年の間にメタルというジャンルは何度か、かつての伝統に寄りかかり、進歩の潮流を塞きとめたのかもしれません。しかし、そんな中でも MESHUGGAH はその歩みをいささかも止めることなく、巨大で、アンタッチャブルな存在であり続けています。変われないのか、変わらないのか。とにかく、おそらく、地球上で最も重要なメタル・バンドのひとつでしょう。

“Immutable” で MESHUGGAH は、自分たちのサウンドを調整することにしました。”イージーリスニング” とまではいかないまでも、 “よりファット” で “よりストレート” なサウンドに仕上げることを目標に据えたのです。ギターサウンドは、凄まじい高音域が明らかに減退しています。ただし、このバンドに特徴的な音色を与え、何十人、何百人もの模倣者が真似をした、あの際立った中低音は厚みを増しながら残っているのです。そうして彼らのギターの壁は、まるでクトゥルフが深海のケーブルをかき鳴らすかのようにダイレクトに響くこととなりました。
Tomas Haake はメタル世界で最も才能のあるドラマーの一人でしょう。かつて MESHUGGAH はロック王道の4/4拍子、その改革を生き様としていました。彼らは4/4拍子が自分たちの曲の基本であると主張しますが、その周辺に複雑なポリリズムを織り込むようになったのです。Haake のオフタイムのスネアヒット、そしてゴースト・ノートの使用は、彼らのリズムをメタル世界唯一無二のものへと羽ばたかせました。
2016年の “The Violent Sleep of Reason” で Haake は、特に “Clockworks” と “Nostrum” を怪物的な楽曲へと仕立て上げました。双方とも、ドラムソロを延長して音楽に合わせたような印象を与えるもの。バンドのソングライター全員がドラムをプログラムしていますが、この2曲はベーシストの Dick Lövgren との共作から生まれたものでした。
MESHUGGAH の “空飛ぶレンガの壁” は、ある雰囲気に従ってジャムを始め、作曲を “延々と続ける” 傾向があると Haake は語り、”Immutable” の秘密を説明します。
「”Immutable” では、僕と Dick が書いた曲と、ギタリストの Mårten Hagström が書いた曲がほぼ交互に演奏される。Marten の曲は、よりがっしりとして、よりビートの周りをスイングするような傾向がある。俺は、自分と Dick の作曲を頭脳的で “青” であると見ているのに対し、Marten の作曲は “赤”、つまり “木の実と内臓” で構成されている曲だと感じてるんだ」

Haake は、このアルバムが他のどのアルバムよりも、2012年の巨大でグルーヴに満ちた “Koloss” に近いとし、”Immutable” 全体のリズムの固定化をその理由に挙げています。
「”Immutable” は全曲にバックビートがあるはじめてのアルバムなんだ。前作の “The Violent Sleep of Reason” を見ると、”Clockworks” のような曲から始まる。スネアのヒットはすべて、小節線上の変拍子上にあるリフの一部になっているからね。だから、何が起こっているのかを把握するのが少し難しくなっていたんだと思う。一方、このアルバムはバックビートがあることで、ノリノリになれるし、僕らが目指しているものをもっと身近に感じてもらえるような気がするんだ」
ただし、MESHUGGAH が “機械” や “方程式” をないがしろにするようなことはあり得ません。
「実際には、両方の要素があると思うんだ。自分たちが感じたものしか書けないという意味ではオーガニックだし…他の多くのバンドのやり方とは違うと思うのは、僕らがすべてを “コンピューターの世界” で作っているということ。Cube Base に座って、僕がドラムのプログラミングをする。例えば、”The Violent Sleep Of Reason” からの “Clockworks” や、このアルバムからの “Phantoms” のように、リズムの面から来るパートもあるからね。ドラムが曲の基礎になって、それに対してリフを書く…まあ多くの場合は、リフから来るけどね。
だけど、オーガニックな面は確かにあるね。でも、リハーサルでジャムったり、いろいろ試したりすることはないんだ。僕らは作曲を完全にコンピュータの世界でやっているし、ほとんどずっとそうだった。僕がバンドに参加した1989年には、誰もがコンピューターを手に入れ始め、使えるソフトウェアが登場してきた…そういうツールがなかったら、バンドとして同じようなものにはならなかったに違いないんだ。僕らにとっては非常に重要なことで、好ましい方法というだけでなく、今ではすっかり慣れてしまっているからね。
だから、機械やコンピューターに頼っている部分も多いし、オーガニックとマシナリーの両方があると思う。でも、実際のアイデアそのものは、オーガニックでなければならないんだ。それは内面からしか生まれないものだから」

複雑怪奇な音楽を作るという命題も、ある意味 MESHUGGAH にとって “不変” です。
「ある意味、僕たちはとても早くから、僕がバンドに入ったときから、すでにテクニカルでヘヴィな音楽を作る道を歩んでいたと思うんだ…。ただ、僕らが育った音楽や10代後半にハマった音楽も、僕らが求める “融合” に大きな影響を及ぼしている。メタルが好きなのは変わらないけど、それとは違うことをやりたかったんだ。そしてその道を進んできた。基本的に僕たちは皆、大人になってからもこの仕事を続けていて、僕は32年間バンドをやっているんだけど、何がきっかけでこの道に進んだのか、それとも別の道に進んだのかを特定するのは難しいことがあるね。
初期の頃は、ある種の工夫が必要だったかもしれないけど、時間が経つにつれて、自然に出てくるようになった。僕たちは難しい音楽を作ろうとしているわけではないんだよ。ただ、自分たちにとって面白く聞こえるものを書こうとしているだけなんだ。だから、計算したりとか、こんなクレイジーなことをすれば、みんなを熱狂させられるだろうと決めたりするようなことはないんだ。決してそんなことはないんだよ。たぶん、年齢を重ねれば重ねるほど、成熟していくんだろうけど、アルバムごとに何を成し遂げようとしているのか、その感覚も成長していくんだろうね」
自身でも驚きを感じる瞬間は、今でもあるのでしょうか?
「今回のアルバムだと、”Armies of the Preposterous” だね。あの曲はワルツ調で、ハンドワークがすごく遅いのに、フットワークは速いんだ。この曲のサウンドにはとても興味をそそられたし、プログラミングしているときのサウンドもとても気に入ったんだけど、実際に演奏するのは難しいかもしれないと思ったよ。メタルでワルツをやるというのは、あまり一般的ではないしね。でも、リハーサルを始めてみると、アルバムの中でも演奏しやすい曲のひとつだったんだ。そうか、僕は自分のことをよく分かっていないんだと思った瞬間だったね。
もうひとつ、オープニング・トラックの “Broken Cog” だけど、これは3度目の正直。2010年から2011年にかけて書いた曲で、”Koloss” のためにやろうとしたんだけど、結局やらなかった。その後、”Violent Sleep” のためにやってみたんだけど、僕にはとても変な感じだったんだ。ドラマーとして演奏するのは本当に厄介でね。正気の沙汰とは思えないような音になっていたよ。自分が何をやっているのか、まったくわからないんだ。常にタイミングを探っているような感じでで、結局やらなかったんだけど、また戻ってきたんだ。それでも、みんなこの曲が好きだから、もう一度やってみようってね。それでもっとリハーサルをしたら、今度はなぜかずっといい感じだったんだ。結果的にとてもクールなものになったから、ライブでも演奏するつもりだよ。3度目の正直だ。この曲は12年もの間、僕らのドアをノックしていたんだけど、ついにそのかわいそうなやつを中に入れてあげたんだよ」

他のバンドと自分たちの音楽を比較することはあるのでしょうか?
「拍子で 7、9、5とか、そういうのを非常にうまくやるバンドがいるんだ。例えば、TOOL のようなバンドは、フォローするのがとても難しいし、聴いていてとても興味をそそられるんだ。でも、彼らのテクニカルな部分は、僕らのやり方とは全然違う。僕らがやろうとしていることは、テクニカルで難しいバンドが時々欠いてしまう音楽の流れを与えていると思うんだ。僕にとって、ライヴに行って CAR BOMB のようなバンドを聴くと、圧倒される。”ウォー!” って感じ。技術的な面ではとても難しい。まるで戦場にいるような衝撃を受けるんだ。アレは僕らには向いてないよ。一旦それができたら、それを維持しようとする。その点に関しては、あまり磨くつもりはないんだ。それよりも、自分たちの流れを維持しようとすることが大事なんだ」
後続の Djent についてはどのように感じているのでしょうか?Marten が答えます。
「あのシーンから大きくなってきたバンドが現れて、僕らを気に入ってくれているんだ。それはとてもクールなことで、本当に嬉しいことだよ。僕らがインスピレーションの源だと言ってくれる人がいるのは、本当に嬉しいことさ。”あなたたちは Djent” が嫌いで、あれもこれも嫌いなんでしょう?” という質問を受けたことがある。いや、違うよ。そんなことは全然ない。単純な話、僕たちはスウェーデンの年老いた怠け者で、この手の音楽を長いことやってきただけさ。だから、新しいアルバムを作っても、新しい音楽は全く聴かないだけなんだ。
誰であろうと、やりたいことがどんなクリエイティブな側面を持っていようと・・・君が何かにインスパイアされたように、他の人をインスパイアする人間になりたいとは思わないかい?それが最大の褒め言葉なんだ。どんな音であろうとね」
MESHUGGAH を聴いていると、バンド全体が難解なものほど魅力的なものとして捉えているようにも感じられます。しかし、Haake は “Immutable” が “The Violent Sleep of Reason” よりも地に足のついたアルバムで、だからこそ素晴らしいと感じています。たしかに後者では、いくつかの曲が力強く始まり、その後少し奇妙な方向に向かう傾向がありました。
「でも、今回はどの楽曲もそんな感じはしないんだ。演奏も、マテリアルも、曲の一部分さえも、もっとこうしておけばよかったと思うことはないんだよね。そして、それは僕たちにとって珍しいことなんだ。アルバムが完成したときに、こんな気持ちになったのは初めてだよ」

だからといって、いくつかの曲に対して不安がなかったわけではありません。”Kaleidoscope” は、彼と Lövgren が完全に満足していると感じるためには、いつもより “少しロック” な感じがしたことが気がかりでした。しかし、例えバンドが一般リスナーに対して譲歩したと危惧する曲でも、少なくとも98%は MESHUGGAH として識別できるようになっています。そして、”Kaleidoscope” における Jens Kidman の叫びは、バンド全体の気持ちをぐっと高めることにつながりました。
Kidman は、アルバム全曲を自身のホームスタジオでレコーディング。つまり、これまで以上にその歌唱に磨きをかける時間があったのです。通常、バンドがレコーディングで遅くれをだすと、彼のスタジオでの時間は減ってしまう。しかし “Immutable”では、通常の2週間ではなく、8週間を費やすことができました。1曲につき2テイク、時には6テイクまで用意して。そうすることで、彼の異なるヴォーカル・パフォーマンスをミックス全体に反映することができたのです。
Kidman の歌唱はまさに威厳。アルバムを通して、彼は唸り、吠え、叫び、また囁き、威嚇します。”Faultless” では、彼の声はピッチシフトされていますし、シングル “The Abysmal Eye” では、歌詞の一部に登場する古代の神々のような性格を歌に分け与えました。

MESHUGGAH は “Immutable” の制作にこれまでよりも時間をかけました。彼らは昨年10月、3ヶ月遅れでレーベル Atomic Fire にマスターを納品。レコーディングの間、彼らはしばしば自分たちに課せられていた束縛をいくつか解き放ちました。以前は、ライブで再現できないハーモニーやメロディーを重ねることを敬遠していたのですが、その戒めも解きました。Haakeの言葉を借りれば、バンドのソングライターが “メロディーをやり過ぎる” のが好きな場合、これ以上自分を律するのは難しいことだったのです。今回、彼らは音楽に身を任せ、ライブの要素は後で考えることにしました。その結果、よりリッチで動的、そしてシネマティックなサウンドが実現したのです。
「メロディーは、曲を作るときにいつも考えていることなんだ。新しいアルバムを制作するためにデモを聞き返すと、僕たちは常に音楽に対して視覚的な感覚を持っていることがわかる。でももちろん、その上でどんなメロディーを弾いているか、ギターのメロディーにどんな音を使うかによって、視覚的な感覚を強化することができるんだ」

このアルバムで最もシネマティックに仕上がっているのは、Hagstrom が作曲したインストゥルメンタル曲 “They Move Below” でしょう。レイヤーが重ねられたサウンドもさることながら、ギターのスライドと重い足音のキックドラムがストーナー・メタルのようなドロドロとした感触を与えています。Haake は、Hagström が常にストーナー・サウンドに片足を踏み入れており、その種のマテリアルを生み出していることを理解しています。彼はこの曲を “The Violent Sleep of Reason” の中の “Ivory Tower” の6/8フィールと比較しています。つまり、バンドはこういったよりストーナー的な曲を、MESHUGGAH 的に解釈する意図を持って演奏しているのです。
Hagström は、Haake と Lövgren に “Ligature Marks” という曲をスタジオに入るまで聞かせませんでした。
「ああ、この古いやつか、俺はこれがちょっと好きだとヤツに言ったんだ。昔は完成された曲じゃなかったけど、今はずっとちょっとカッコいいと思うとね。このアルバムからこれを遠ざけるなんて、バカげてるって言ったよ」
彼がそう感じたのも無理はありません。”Ligature Marks” は、2008年の “obZen” のタイトルトラックと同じように、無情に踏みつけるように始まります。しかし、それは美しく、超越的なアウトロで終わり、リスナーに悩みのタネを植え付けるのです。
“Immutable” では、創設者のギタリスト Fredrik Thordendal が復帰し、彼独特のジャジーでフリーフォームなソロを4つ披露しています。Thordendal は “The Violent Sleep of Reason” 以来、バンドでのツアーは行っていません。ライブでは SCAR SYMMETRY の Per Nilssen が彼の代役を務めていました。しかし、Thordendal は MESHUGGAH のメンバーであり続けているのです。Haakeは Thordendal(名曲 “Bleed “などを作曲)が近年作曲への貢献度が低いことを気にしていません。
「彼が変に感じたり、僕たちが変に感じたりするようなことではないんだ。実際、作曲の任を解かれて彼の肩の荷が下りたと思うんだ、わかるだろ? 彼はもう少し自分のことができるし、曲作りは僕たちに任せられるから」
Hagstrom も同意します。
「Fredrik の “Immutable” における作曲クレジットは “The Violent Sleep of Reason” とほとんど同じだから…何もないよ。”Koloss” 彼は、『みんな、このアルバムではあまり書かないよ』と言って、実際ほとんど書かなかった。彼は基本的に1曲だけ書いて、あとは僕らと一緒にあちこちで共同作業をしていたんだ。”Violent Sleep” では、彼ははっきりと『この作品では一音も書くつもりはない』と言ったんだ。
Fredrik との約束は、彼が3年半(ソロ作品)を続けて、それがどうなるかを見るというものだった。3年半が過ぎ、僕たちはミーティングをして、彼は『もし戻れるなら、ぜひ戻りたい。あそこは私の居場所であり、私の魂なんだ。3年半やってきて、ソロ作はまだ終わっていない。君たちが望むなら、戻ってもいいな』って。僕たちは『F-k yeah、バンドを再結成してツアーに出ようぜ!』って感じだったんだ。
Fredrik が実際にアルバムで演奏するかどうかということになったとき、僕たちは、”Fredrik Thordendal のリードが必要な曲がたくさんあるんだ”って感じだった。彼のリード・サウンドは不可欠だろう?もし彼がリードを弾かなかったら、真の MESHUGGAH のアルバムにはならないだろう。フレドリックがリードを弾いた4曲については、スタジオ33で彼にステムを送り、そこでレコーディングしたんだ」

Thordendal のソロのひとつは、騒々しい “God He Sees In Mirrors” を見事に飾り立てています。元々この曲には、Haake が “トリッピー” と表現するような歌詞がありました。しかし、この曲の攻撃性に直面し、彼は歌詞を書き直したのです。
「マインド・ファックだよ。この曲を聴いた後は、ほとんど暴力を受けたような気分になる。なぜなら、この曲は聴くものをを打ちのめし、ただ進み続けるから」
クラシックなスラッシュ・メタルに部分的にインスパイアされたアルバムの多くと同様に、この曲の歌詞は社会批判に根ざしています。”The Violent Sleep of Reason” が2016年10月にリリースされて以来、世界中でファシズムやポピュリズムが爆発的に広まりました。トランプ大統領が誕生し、去っていきました。専制君主や独裁者が世界中の国々を掌握しています。
「トランプが大きなインスピレーションを与えたのはまちがいない。ボルソナロなど、偽旗の下で走り出す政治家たち。ついでにプーチンも。トランプが鏡を見るとき、そこに映っているのは100%間違いなく自分以外の何者かだ。神のように純粋で、完璧な人類の標本を見ているのだろう。それが彼の見ているもの。そして、そのすべてが妄想なんだ。トランプだけじゃない。ヨーロッパや極東にもいるだろ?彼らの行動はすべて自己、利益、富のためであり、人々のためではないんだよ」
プーチンのウクライナ侵攻は、”Immutable” の大きなテーマの1つである、暴力的なやり方を変えることのできない人類をある意味証明してしまいました。アーティスト Luminokaya のアートワークのナイフを持った炎のような人型は、新しい現実の脅威を表現しているのです。
「歌詞の中に見られる批判は、今起きている多くのことと密接に関係しているんだ。プーチンがウクライナの人々に仕掛けているデタラメに関しては、今の時代、あるいは実際、人間は変われないと証明しているようなものだ」

人類は変わっていないかもしれませんが、MESHUGGAH は Lövgren を除くメンバー全員が50代になり、年を重ねてきています。アルバムのオープニングを飾る “Broken Cog” は、時間が我々から逃げていくというよりも、死という暗い影を背負った我々を地面に叩きつけるような曲。
「この曲の歌詞は、ここにいる自分たちの時間的性質を考え、残された時間を考え、死と暗い考えを受け入れなければならない人たちが、それを乗り切ろうとすることについて書かれているんだよ」
Hagstrom も加齢とアルバムタイトルの関係性を認めます。
「”不変” って僕らのバンドとしての位置づけにぴったりだ。俺たちは年を取った。ほとんどのメンバーが50代になり、自分たちが何者であるかということに納得している。ずっと実験をしてきたけれど、それは初日から変わらない。物事へのアプローチの仕方や、なぜ今でも新しいアルバムを作るのか、なぜ今でも自分たちの音を出すのか、それは不変のものなんだ。人間性も不変だよ。人類は何度も何度も同じ間違いを犯す。結局僕たちも不変なんだ」
MESHUGGAH には作詞家としての Haake、作曲家演奏家としての Haake、つまり二人の Tomas Haake がいます。
「脳の異なる部分を使っているのは確かだよ。以前は、歌詞は年に1回とか、2年に1回とか、掘り下げて書くようなものだったんだ。でも、ここ2枚のアルバムでは、音楽の雰囲気がわかると、その音楽に合わせて書くことが多くなったかもしれないな。トピックとしては、自分の周りで起こっていることに対する社会的なコメントがほとんどだけど、時には純粋なフィクションで、音楽から感じた雰囲気を強めていこうとすることもある。でも、多くの場合、僕の歌詞は社会的なものだよ」

Haake が現代社会に伝えたいことはたくさんあります。
「ソーシャルメディアがいかに多くの点で馬鹿馬鹿しいツールになっているか、偽情報のツールになっているか、さらには政治的なツールになっているかということだよね。”Light The Shortening Fuse” の歌詞は、まさに “Immutable” のために書かれたもので、より具体的にそのことについて話しているんだ。”Phantoms” のような曲は、人生を歩む上での後悔について歌っている。自分が言ったこと、やったことを後悔して、それがずっと自分の中に残っていてついて回る。幽霊や幻のようなものだよ」
彼の白い手袋は、2年前から手の内側にできてしまった湿疹を治すためのものだといいます。「手の中に湿疹があるんだ。全ての指にテープを貼り手袋をしなければ叩けない。だから1年近くドラムを叩いていないことになる。生活もままならないけど前を向いているし、ツアーではなんとか叩こうと思うよ」
有酸素運動よりも、ソファで Netflix を見るのが好きだという Haake は背中を痛め、右足のコントロールが効かなくなったこともあります。”Bleed” のガトリングガンのようなダブルバスドラムを毎晩ツアーで演奏することを期待されているドラマーにとって、それは理想的なことではないでしょう。Hagström は、バンドのリフを演奏する緊張から、手、前腕、肩に痛みを経験したことがあります。MESHUGGAH の音楽を演奏するための肉体的なピークは、おそらく20代や30代なのでしょう。
「人生も、バンドも、生活のためにやっていることも、永遠に続くものではないことに気づくからこそ、ある種の悲しみがあるんだと思う」
しかし、MESHUGGAH の音楽の背後にある意図は、常に不変です。彼らはいつも通り、不可解で華麗なサウンドを奏でています。”Future Breed Machine” でメタルの未来に警鐘を鳴らした彼らは、今でもメタルの未来を定義する “マシーン” として聳え立っています。それはまだ未完成の仕事。”Nothing” Has Changed.

参考文献: KNOTFEST.COM:THE MORE THINGS CHANGE: MESHUGGAH’S TOMAS HAAKE ON ‘IMMUTABLE’

THE PIT:“We aren’t trying to f*** with you too much…”: Meshuggah Drummer Tomas Haake Talks Immutable, Creating Complex Music, + More

LOUDWIRE: MESHUGGAH ADRESS MISCONCEPTION DJENT

日本盤のご購入はこちら。WARD RECORDS

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE KOREA : VORRATOKON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YURI LAMPOCHKIN OF THE KOREA !!

“Right Now, We Are Feeling Like Musicians On Titanic, Who Continued To Play For The People In Their Darkest Hour, But We Want To Let Our Music Speak For Us.”

DISC REVIEW “VORRATOKON”

「僕たちのような音楽が流行りはじめたのは、00年代にローカルなバンドがメタルコアや Nu-metal に影響されたヘヴィな音楽を演奏し始めたのが最初だったと思う。ただ、国境を越えて音楽を届けるには常に問題があったんだけど、ストリーミング産業、特に Spotify や Apple Music といった大手が登場すると、それがずっと簡単になったね」
古くは ARIA や GORKY PARK、長じて EPIDEMIA や ABOMINABLE PUTRIDITY など、ロシアにはメタルの血脈が途切れることなく流れ続けています。ただし、その血管が大動脈となり脈打ちはじめたのは、00年代の後半、メタルコアや djent の影響を受けたテクニカルで現代的なメタルが根付いてからでした。モダン・メタルの多様な創造性は、ギタリスト Yuri Lampochkin 曰く “あらゆる音楽を聴く” ロシアの人たちの心にも感染して、瑞々しい生命力を滾らせていったのです。
仮面のデスコア怪人 SLAUGHTER TO PREVAIL のワールド・ワイドな活躍はもちろん、ギターヒーローとして揺るぎない地位を獲得した Sergey Gorvin、独自のオリエンタル・メタルコアでプログレッシブのモーゼとなった SHOKRAN、複雑怪奇と美麗のマトリョーシカ ABSTRACT DEVIATION など、10年代初頭、我々は芸術的 “おそロシア” の虜となっていきました。THE KOREA もそんな文脈の中で光を放つバンドの1つ。当時、Bandcamp で “Djent” タグを熱心に漁っていた人なら知らない者はいないでしょう。
「音楽で最も感動的なことのひとつは、常に新しい方法を探して、美しいもの、本当にパワフルなものを作り、自分の音や自分の音楽の感じ方を常に進化させることなんだ。僕たちは当時からその感覚を持っていて、今もそれが THE KOREA の原動力になっているんだよ。個人的に影響を受けたのは、これでもだいぶ絞っているんだけど、Jim Root, Jaco Pastorius, Ian Paice, Chester Bennington, Misha Mansoor といったところだね」
THE KOREA が唯一無二なのは、djent と Nu-metal という台風並みの瞬間風速を記録したメタル世界の徒花を、包括的なグルーヴ・メタルと捉え両者の垣根を取り払ったところでしょう。Jaco Pastosius や Ian Paice といったロックやジャズの教科書をしっかりと学びながら、まさにパワフルで美しい “新しい方法” をサンクトペテルブルクで創造しました。
莫大な情報と自由が存在する “西側” の国々でさえ、ハイパーテクニカルな LIMP BIZKIT や 拍子記号に狂った SLIPKNOT、やたらと暴力的な LINKIN PAPK なる “もしも” は考えもしなかったにもかかわらず。そんな “If” の世界を彩るは、雪に政府に閉ざされたロシアの哀しき旋律、それにトリップホップの無垢なる実験。
「僕たちの楽曲 “モノクローム(Монохром)”では、世界における暴力、特に戦争に終止符を打つことについて話している。戦争はもう、僕たちの生活の中にあってはならないことで、世界中の人々がそれに気づき、互いに争うことをやめるべきなんだよね。この曲は1年以上前に書かれたものなんだけど、まさか最近の出来事とこうして結びついていくなんて、僕たちには想像もつかなかったよ」
ロシア語で “耳を傾ける” を意味する最新作 “Vorratokon” はそんな彼らの集大成。戦争を引き起こしたロシアの中にも平和と反戦を願う “優しい” 人たちが存在すること。我々はそんな小さな声にもしっかりと傾聴すべき。奇しくもそんな祈りがタイトルから伝わってくるようです。
「僕たちの国にとって、残酷と不正のトピックは特に重要なんだよ。だけどロシアの社会は、明らかな問題を認識して解決し始めるレベルにもまだ達していないんだ…」
かつて、弊誌のインタビューで同じくロシア出身のチェンバー・デュオ IAMTHEMORNING はこう語ってくれました。もしかしたら、ロシアの中には戦争賛同者が想像以上に多く存在しているのかもしれません。しかし、その一つの意見を切り取ってロシアの総意のように発信するのは明らかに間違いです。
「俺たちは残忍な音楽を演奏しビデオには武器も出る。だけどどんな戦争にも反対だ。ウクライナで起こっていることにとても傷ついている。どうかロシア国民全体を共犯者だと思わないで欲しい。皆の頭上に美しい、平和な空が広がりますように」
SLAUGHTER TO PREVAIL、Alex Terrible の言葉です。こんな考えのロシア人もまた少なくないはずです。政治はともかく、少なくとも音楽の、芸術の世界では Yuri の願い通り私たちは “壁” を作るべきではないでしょう。
今回弊誌では、Yuri Lampochkin にインタビューを行うことができました。「今、僕たちはタイタニック号のミュージシャンのように、最も暗い時にいる人々のために演奏を続けているような気分なんだ…僕たちの音楽が僕たちの心を代弁してくれたらいいんだけどね」こんな時期に、こんな状況で本当によくここまで語ってくれたと思います。どうぞ!!

THE KOREA “VORRATOKON” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SOUND STRUGGLE : THE BRIDGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAMERON RASMUSSEN OF SOUND STRUGGLE !!

“I Think We Are Actually Still Seeing The Djent Scene Decline. It Has Become This Heavily Meme’d Culture That Seems To Realize Its Own Stupidity And Simplemindedness Where Guitar Riffs And Song Structure Are Concerned.”

DISC REVIEW “THE BRIDGE”

「SOUND STRUGGLE で注目すべき元メンバーは、Joey Izzo、Adam Rafowitz、Joe Calderone で、現在彼らは ARCH ECHO でフルタイムで演奏しているよ。彼らは、バンドを今のような形にする上で非常に重要な存在だったんだよね」
音楽は大きな海のようなもの。そこには無数の色があり、無数の命が宿り、無数の音が蠢いています。ただし、陽の当たる海面は大洋のほんの一部で、大部分はとても複雑で、暗く、冷たい深海。しかし、実はこの深海にこそ宝物が隠されているのです。
SOUND STRUGGLE もそんな音海の底で輝く財宝の一つ。3人の元メンバーが立ち上げた ARCH ECHO が水面で脚光をあびる一方で、取り残された Cameron Rasmussen はバンド名が示すように海底で苦闘を続けてきました。それでも、たった一人で長い時間をかけ、脚本、演出、構成のすべてを書き上げた二枚組1時間55分の超大作 “The Bridge” は、沈没船で朽ちさせるにはあまりに惜しいモダン・プログ・メタルの至宝に違いありません。
「ファンクや Prince からの影響は、SOUND STRUGGLE の初期の頃に多く見られたよね。だけどこのバンドが発展していくにつれて、ジャズやファンクのテイストをソロ・セクションやハーモニック・チョイスに加えた、よりモダンなプログレッシブ・メタル・バンドになっていったんだ」
MESHUGGAH meets Prince。10年代初頭、そんな奇抜な触れ込みで djent 世界に登場した SOUND STRUGGLE は、明らかにシーンの他のバンドたちとは一線を画していました。djent の創始者 PERIPHERY の血を引きながらも、その数学的で重々しい雛形にファンクのグルーヴ、ジャズの色彩、プログらしい旋律を配合し、サックスの嗎をも取り込みながら、特別な何かを生み出そうという意欲と野心に満ち溢れていたのですから。
「僕は、今もちょうど djent ・シーンの衰退を目の当たりにしていると思うよ。ギターのリフや曲の構成に関して、自分たちの愚かさや単純さに気づいていないような、ある意味ミーム化した文化になってしまっているよね」
10年代初頭から半ばにかけて、あれだけ雨後の筍のように乱立した djent の模倣者たちはそのほとんどが姿を消してしまいました。それはきっと、あの多弦ギター、近未来的音作り、0000の魔法にポリリズムといった djent のスタイル自体に魅せられすぎたから。一方で、SOUND STRUGGLE の半身ともいえる ARCH ECHO や、あの Steve Vai に見染められた Plini は早々にそのスタイルを武器の一つと割り切ってインストに特化し、より音楽的に、よりカラフルに、よりキャッチーに、”Fu-djent” の世界観を構築してギター世界のスターダムに登り詰めたのです。
「今の djent シーンがどうであろうと、djent はメタル音楽におけるギター・サウンドの基準としては、最もヘヴィーなものだと思っているんだ。だから djent のギターのテクニックとサウンドが、より高度で洗練されたハーモニーのアイデア、そして優れたソング・ライティングと共に適切に使用されるとしたら、きっとそこにメタルの未来があると僕は思う」
SOUND STRUGGLE、いや Cameron Rasmussen は彼らとは異なりあくまでも “メタル” であることにこだわりました。だからこそ、深海での潜伏を余儀なくされたとも言えるのかも知れませんが。もちろん、ブロードウェイ版 “ミセス・ダウト” や、ディズニーの音楽を任されるほどの才能ですから、ARCH ECHO や Plini になるのもそう難しい話ではなかったでしょう。しかし彼は、ギターを教えてくれたメタルを真のプログレッシブへと誘うことに情熱を傾けました。そうして完成した “The Bridge” は、まさにモダン・プログ・メタルの金字塔、深海に眠る宝石として眩いばかりの輝きを放ち始めたのです。
例えば Miles Davis の “Bitches Brew” とメタルがサックスを媒介に自然と溶け合う “Decisions”、例えば ストリングスを交え古のプログとメタルを絶妙に交差させた20分 “The Bridge”、例えば djent Crimson な “The Pursuit of Happiness”、例えばファンクやスウィングが MESHUGGAH と渾然一体で襲い来る “Where is She?”、例えば KORN とジャズが摩訶不思議にダンスを踊る “No Way Out”。あまりに多様で、あまりに混沌で、しかしあまりに審美な2時間は、まさに Cameron が理想とする “djent の適切な使用” を貫きながら壮絶なインテンスで息つく間もなく駆け抜けていきます。
それにしても、流暢を極めながら、突拍子もないアイデアと途方もない表現力でメタルらしく圧倒する Cameron のギタリズム、さらには Tre Watson (彼も長く djent シーンをフォローしている人にとっては懐かし名前) の紡ぐメタルらしい歌心満載の旋律に悪魔の囁きは、SOUND STRUGGLE が文字通り苦闘を重ねながらも “プログ・メタル” をマジマジと追求してきたその理由としてはあまりに出来すぎではないでしょうか。
今回弊誌では、Cameron Rasmussen にインタビューを行うことができました。「Dimebag Darrell はギターの腕前に加えて純粋な思いやりのある人で、人のために尽くしていた。だから僕にとっては、ギタリストとして尊敬できる人の条件をすべて満たしているんだよ」 ARCH ECHO の旧友たちもゲスト参加。どうぞ!!

SOUND STRUGGLE “THE BRIDGE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SPIRITBOX : ETERNAL BLUE】


COVER STORY : SPIRITBOX “ETERNAL BLUE”

“This Music Is What I Need To Move On From a Lot Of Feelings And Really Dark, Intrusive Thoughts That I Constantly Have”

ETERNAL BLUE

世界で最もホットなバンドは?少なくとも SPIRITBOX は、現在すべてのロック、メタルのファンが話題にせずにはいられないバンドでしょう。誰もが “ヘヴィー” の意味を問うことになる “Eternal Blue” の感情的な旅とともに。
SPIRITBOX には当初、大げさな指針や計画は存在しませんでした。そこに存在したのは、自分たちの音楽を作りたい、自分たちの物語を書きたい、自分たちの運命を切り開きたい、というシンプルな願望のみ。ゆえに決断は、簡単で迅速なものでした。
2015年末、当時アバンギャルド・エクスペリメンタル・メタルコア Iwrestledabearonce のボーカリストとギタリストであった Courtney LaPlante と Michael Stringer は、自分たちのキャリアが八方塞がりでどこにも到達しない道を歩んでいるという現実に直面したいました。毎晩ステージに立ち、誰かの曲を演奏する毎日。観客の数はどんどん減っていきました。そして、Courtney はある結論に達します。
「ある日、私たちは集まって、将来について話していたの。そして…私が自分自身についていた嘘のすべてが一度に襲ってきたの。このバンドには未来がないってね」
Courtney LaPlanteは、魅力的で、愛想がよく、努力を惜しまないクールな女性。当時の、好きなバンドと一緒に国中をツアーで回るという人生の過ごし方でわかったことは、アーティストの理想と現実でした。
「中堅のバンドに所属するほとんどの人は、現実から逃げているだけだと思うわ。ツアーが長引けば長引くほど、仕事をしたり、親の家の地下以外に住む場所を探したりする必要がなくなるだけなんだから」
当時27歳の Courtney は、時給8ドルのウエイトレスをしていました。Michael も同様に、配達車でピザを運ぶ仕事をしていました。そして現在、2人はデータ入力の会社で一緒に働いています。つまり、理想よりも現実に襲われ怯えていた当時の彼らには、それでも恋愛面でもクリエイティブな面でも、切っても切れない “ソウルメイト” であるお互いがいたのです。彼らにはまだビジョンがありました。そしてすぐに、彼らはプログレッシブでヘヴィーでアトモスフェリックな、TesseracT というバンドに少なからず影響を受けた音楽を “魂の箱” に入れて、自分たちの新しいバンドを結成したのです。そのバンドの名は SPIRITBOX。

20代半ばの Courtney は、Iwrestledabearonce の前ボーカルである Krysta Cameron の後任としてバンドに加入。本業を休むことになりました。後に Michael も加入しますが、結局あのバンドで、夫妻のクリエイティブな夢は叶えられませんでした。
「自分でバンドを始めるのとは違ったのね。私たちは、すでに確立されたもの、つまり、彼らのビジョンの中に入っていったのだから」
Iwrestledabearonce では、生活費を稼ぐこともままなりませんでした。
「文字通り、ズボンを買うお金もなかったわ。パッチを当てることもできなかった。でも、音楽業界にいない人たちは、みんな私たちが家や車などを持っていると思っているでしょうね。自分たちが目指す場所にたどり着くのはとても大変なことだけど、同じように感じているバンドは世界中に何百万といるでしょう。
メタルの世界は、ある意味ではとても遅れているの。このジャンルには、異なる雰囲気があるわ。業界全体が本物を求めているようだけど、メタルの世界では、ツアーを終えてバーで仕事をしていることを人々に知らせるのは、汚い秘密のようなものと考えているの。そのような姿を人に見られたくない、バンド活動の実際の苦労を見られたくない、みたいなね。
私は、正直な人をとても尊敬しているのよ。だから、”あなたたちはミュージシャン以外に普通の仕事をしているのですか?” と聞かれたら、私たちは正直に “そうよ、生きていくためには絶対に働かなければならないから” と答えるの。私たちと同じレベルのバンドで、仕事をしていないと言っているヤツはバカよ。19歳で母親と一緒に暮らしているか、それともバカかどっちかよ。正直なところ、時給8ドルで働きながらミュージシャンとして生きていくのはとても大変なの。」
Iwrestledabearonce が2016年頃に別れの言葉もなく解散したとき、創設メンバーではなかった Courtney と Michael は、Myspace のメタルコア時代に享受した成功を自分たちの言葉で再現しようと決意しました。Iwrestledabearonce が永久に止まってしまってから2年後、2人はカナダの小さな島に移住し、2017年末に SPIRITBOX として再登場し、自作の同名のデビューEPをリリースすることとなります。
バンド名の由来となった装置( “スピリットボックス” はAM と FM の周波数をスキャンし、ホワイト・ノイズの中に幽霊の声を拾うことができるとされている)の音が散りばめられた再登場で、彼らはメタルに対する雑食的でジャンルを共食いするようなアプローチを示し、インダストリアル・エレクトロニカの音が、マスコアのリフやシューゲイザーのようなメロディ、ポップなフックと一緒に鳴り響く唯一無二を提示したのです。

Courtney と Michael は、夢のバンドを結成するための時間と場所がようやく与えられたとき、結婚生活の年数を合わせたよりも多くの意見の食い違いがありました。アートワークはどのようなものにするか?火か花か?黒か青か?それはまるで結婚セラピーのようでもあり、初めての子育てのようでもありました。
「私たちには多くの意見の相違があったわ。例えば、作品のアートワークの色など、些細なことでもすべてにおいてね」
大局的な部分では基本的に一致していたものの、Photoshop のカラー・パレットについて口論する時間が待ち受けているとは、二人とも想像もしていませんでした。しかし、この戦いには価値がありました。30代になったばかりの2人は、音楽業界で20年の経験を積み、ついに自分たちのバンドと呼べるものを手に入れたのですから。
実は Michael と出会う前、Courtney は自分をメタルのシンガーではなく、女優として見ていました。それが変わったのは、俳優を目指す多くの才能ある子供たちが直面する教訓を学んだ日。自分は優秀だが、ベストではないという壁。
「15歳のとき、アラバマ州のクラスに150人しかいない町から、1,500人いるカナダに引っ越したの。私は、自分がやりたい学校劇の役に、自分より上手い人が挑戦していたら、絶対に挑戦しないタイプだったの」
若い頃に曲を作っていましたが、世に出す勇気がなかった彼女は、そうして弟と一緒に音楽を作ることに自分の創造性を向け始めます。
当時、Courtney は “Garden State” のサウンドトラックのような “ダサいヒップスターやインディーの曲” を聴いていましたが、弟は彼女をメタルの世界に引き込もうとしていました。最初に影響を受けたのは RAGE AGAINST THE MACHINE。
「ある日、弟が作曲した曲の中にブレイクダウンが入っていて、私は “これはどうすればいいの?” って聞いたのよ。すると弟は、”RATM のように叫べばいいんだよ” って。そこではじめて、ライオンが吼えたのです。
「この感覚に匹敵するものはないわね。頭蓋骨全体に振動が伝わるの。とてもパワフルな感じがするわ。音から性別を取り除くような感覚」
彼女はその性別を感じさせないサウンドを練習し続け、小さな町で披露するようになりました。それが、彼女の残りの人生だけでなく、最愛の人へと導く道となりました。
Courtney はその同じカナダの小さな田舎町で育った、後に夫となる SPIRITBOX の共同設立者と出会った瞬間を、今でも鮮明に覚えています。Michael は彼女の弟と同い年でしたが、早熟な楽器の才能を発揮する Michael を二人は畏敬の念を持って見守っていました。
若きギタリストだった Michael は、PROTEST THE HERO や A TEXTBOOK TRAGEDY といったカナダのプログメタル・バンドに夢中になっていました。後者は、BAPTISTS, SUMAC, GENGHIS TORN のドラマー Nick Yacyshyn を擁する、バンクーバーを拠点とする狂乱のバンドでした。Michael の最初のバンドである FALL IN ARCHAEA は、そういったグループの頭が回転するようなポリリズムの足跡を忠実に再現しています。
「2008年6月のことだったわ。彼のバンドと私のバンドが、同じアナーキストの本屋で演奏していたの。弟にあなたが彼の年齢になったときには、彼のように上手になれるわよと言い聞かせていたのだけど、Michael もまだ16歳だったのよね。彼はいつも目立っていたわ」
Courtney と Michael は、先鋭的な書店や小さな町の会場を同じように回っていましたが、それぞれが23歳と22歳になるまで、お互いの人生に大きく関わることはありませんでした。しかし、そんな友人関係は徐々に変わっていきます。
「ある時点で、私は彼を愛しているのではなく、彼に恋をしているのだと気づいたの。Michael も同じことを感じていたようね」
二人の関係は恋愛と仕事で共に、すぐに切り離せないものとなり、一緒にいない時間が苦痛に感じるようになりました。お互いが今ではすべてをさらけ出しています。
「私たちは互いのすべてを知っているわ。24時間365日一緒に過ごすことは、普通のことではないのよね。私たちの関係の境界線は非常に曖昧なのだけれど、一緒にバンドをやっていることで、お互いにもっと正直になれたのよね」

上昇志向の強いスーパー・カップルは、生活のほぼすべての面で絡み合っています。毎朝共に起きて、同じヘルス・データ入力の仕事に行き、同じ時間働いた後、家に帰ってきてバンドのために共同作業を行うのですから。
2016年に Courtney と Michael が結婚したとき、結婚式の招待客は新しいトースターを贈るかわりに、2017年にリリースされたデビューEPのミキシングとマスタリングの費用をまかなうために、2人に数ドルを提供するように求められました。現在の Courtney は、Michael と彼女が共有していた駆け出しのバンドに対する信念を、単にナイーブなだけではなく “妄想” とまでに表現しています。
「私は、バンドには2種類の人がいると思っているの。IWABO の最後の頃の私のように、気晴らしとして利用している人。そして、今の私たちのように、”どうしてもこのバンドをやらなければならない、誰にも止められない”という人たちね。私たちのように、バンドに所属していることが、すべての邪魔をする強迫観念となっている人もたくさんいるのよ」
ただし、そういった二人の “妄想” は、実を結んだと言ってもよいでしょう。ベーシストの Bill Crook が加入して完成をみた SPIRITBOX は、見過ごされていた過去とは一変して、今では世界中のロックやメタルのファン、マネージャー、プロモーター、レーベル、ジャーナリストが口にする名前となっています。4年前には”夫婦バンド” だからと一蹴された音楽が、今では7500万回もストリーミングで聴かれているのですから。
そうして届けられた “Eternal Blue” は2021年で最も完成度が高く、魅力的なヘヴィー・アルバムの一つとなりました。世界は、まさに彼らのもの。しかし、”Eternal Blue” の旅路を理解するには、まず Courtney LaPlante を理解する必要があります。
Courtney は、その曲が存在する何年も前から “Eternal Blue” という名前を見つけていました。もっと言えば、彼女は人生の中でずっとこのタイトルを見つけていたのです。
つまり “永遠の青” とは、自分の人生が “うつに悩まされてきた” という Courtney の告白。
「バンクーバー島が存在することさえ知らなかった。何?島なの?私をバカにしているの?私は18歳になったらすぐにここを出て、アラバマに戻るわよと言っていたの。でも叔父は、今はまだ理解できないだろうが、信じてくれ、お前はとても保護された場所で育ってきたが、これからは多くの新しい経験や人々に触れることになる。ここに戻ってくることはないだろう。君はそこを好きになるだろうってね。そして最終的に彼は正しかったわ」
アメリカ南部のアラバマ州で生まれ育った Courtney は、15歳のとき両親の離婚と母親の再婚を機に、北へ2,000マイル離れたカナダ西海岸のバンクーバー島、ビクトリアに引っ越しました。6人兄弟の長女である彼女はその時、”自分の人生のすべてを捨てた” と言います。新しい町の新しい学校で、彼女は居場所と友人を見つけるのに苦労しました。
「当時、私はうつ病というものがどういうものか知らなかったし、物事はそういうものだと思っていたから……私はよく助けを求めて泣いていたけど、周りの人たちがあまりにも多くのことを経験していて忙しかったから、助けてもらえなかったのでしょう。私は人を操るのがうまいので、何もしなくてもいいように、隙間をすり抜けていたの。私が今もここにいるのはとても幸運なことよ。10代の脳は、完全に発達した大人の脳とは大きく異なるのだから」
Michael がパートナーの感情の起伏、つまり “ベッドから起き上がれないほどの自信喪失と不安” が3日間続くことについて、穏やかに話し始めたのは、ちょうど2年前のことでした。Michael は Courtney に “この状況を何とかしなければならない。君はこんな思いをしなくてもいいんだよ” と告げます。
「私が普通ではないこと、それが私に何か問題があるのではなく、私という人間の一部なのだということを理解するには、彼が必要だったのよ。私は他の人と違うけど、それは欠陥のある人間だということではないのよね」

“Eternal Blue” は、今年の初めにカリフォルニア州のジョシュアツリーでレコーディングされましたが、曲作りの多くはこの暗い時期に行われており、結果的にその旅路の傷跡が12曲の中に生々しく残っています。”Eternal Blue” というタイトルは、この12の音楽のコレクションと同様に、Courtney の物語を内包した言葉なのです。
「ヘヴィーな音楽は、自分自身がそういった感情と結びつくための最良の方法のひとつで、それによって、たとえ2、3のステップが必要であっても、乗り越えることができるの。”Eternal Blue” は純粋な利己主義的作品よ。なぜなら、私にとってこの音楽は、私が常に抱いている多くの感情や攻撃性、本当に暗くて私に侵入してくる考えから前に進むため必要なものだから。でもね、私のうつに対する対処法がたまたま市場性のあるものであったことは幸運だったのよ」
歌の中では、彼女のそんな考えが物理的な形で表現され、心の闇を具現化するキャラクターが登場していきます。
「私はイメージやメタファーの後ろに隠れるのが好きなの。それは私が安心できる場所、隠れている場所、そして誰も私を傷つけることができない場所だから」
例えば “Holy Roller” は、2019年のホラー映画 “Midsommar” を彷彿とさせるビデオをになり、昨年、SPIRITBOX を広く世に知らしめました。9歳の少女 Harper がこの曲をカバーしたバイラルビデオが瞬く間に広がり、Courtney の元にまで届いた事実はその証明で、彼女は今でもビデオを見るたび目に涙を溜めます。少なくとも、この9歳の少女は、Courtney の猛烈な音域を正確に捉え、彼女の2倍の体格と長年の経験を持つボーカリストのようなパワーを発揮していました。歌詞の内容まで深く理解しているかはわかりませんが。
「この歌詞は、私が私の中の悪魔として話しているのよ 。それは私の憂鬱であり、私を堕落させようとする悪であり、私を全然良くないからって暗闇に誘惑している声なのよ。私は無宗教だけど教会で育ったから、今でも聖書に書かれているサタンの擬人化の仕方が、いつも心に残っているの。悪魔はモンスターではなく、あなたにささやきかけてくる、最悪の事態を引き起こす人間なの」
Courtney は “Circle With Me” を例に挙げます。
「この曲では、自分自身のことを書いていることもあれば、潜在意識や、目標を阻む憂鬱な気持ちを代弁していることもあるの。自分がまだ十分ではないと言っているの。私の悪魔が私に言っているのよ。あなたが自分らしくあることを妥協すれば、すべてがあなたのものになる… ってね」
これらの声は、Courtney 自身のボーカル・パフォーマンスにも反映されています。クリーンからスクリームへの移行を、Courtney LaPlante のように巧みに、深く、激しくこなすフロントマンはほとんどいないでしょう。それは、バンドが自身の YouTube チャンネルで公開している、スタジオ内のボーカル・ブースでのワンテイク・パフォーマンスのビデオが証明しています。(バンドのシングル “Rule Of Nines” のリリースに合わせて公開されたこのビデオは、これまでに210万回再生され、同じ曲の公式ミュージックビデオよりも人気があるのですから。
Courtney は長年にわたって声帯に深刻な損傷を受け、声域が制限されていましたが、ポリープが奇跡的に消えたことで回復しました。だからこそ、”Eternal Blue” を32歳にしてようやく “自分の本当の声” を実現できた作品だと考えているのです。
天使と悪魔が、コートニーの左右の肩に座っているようにも思える彼女の歌声。表面的には明確なその二面性も、しかし彼女にとっては地続きです。
「私にとって、叫び声と歌声は同じ感情から来ているの。叫ぶことは体に負担がかかるけど、技術的なことはそれほど必要ないわ。私は自分のパフォーマンスに没頭するのが好きで、スクリームは催眠状態のようなもの。でも、歌声はもっと壊れやすいから、考えすぎないようにするのは難しいわね」

そうしてこの対照的な手法は、”Eternal Blue” 全体に、不安定さと脆弱さの感覚を生み出す役割を果たしています。特に後者は、コートニーにとって有益な感情であり、ヘヴィー・ミュージックにはまだまだ大きく欠けているものだと彼女は感じています。
「ヘヴィー・ミュージックはやっぱりまだまだ男性優位の世界だから、男は怒りや強さ以外の特徴を見せてはいけないと教えられているの。誰もが普遍的に弱さを感じることがあるけれど、多くの男性にとって、それを曲の中で表現することを快く思うサポートを得るのはとても難しいことなのよ。
特に、概して “克服” や “立ち上がること”、”戦い” がメッセージになるような攻撃的なタイプの音楽では、そういった状況に陥りやすいわ。だけど、ヘヴィー・ミュージックには周期性があって、その中は弱さが浮かび上がってくることもあるのよ?」
Courtney は、その証拠として “弱さ” を内包していた Nu-metal やエモのムーブメントを挙げ、これらのシーンが、他のサブ・ジャンルでは “ロック” から離れていたかもしれないファンにとって、音楽的なゲートウェイとなったと信じています。同時に彼女は今日、人々がヘヴィー・ミュージックを発見する道は、かつてないほど広く、アクセスしやすくなっていると付け加えました。これは重要なことだと Courtney は感じています。彼女自身の経験がそれを裏打ちしているからです。
「私はこの業界で成功しようと大人になってからずっと過ごしてきたんだけど、一つの定型化した音楽のジャンルにこれほど情熱を傾けるのはとても奇妙なことよね。でも、LOATHE や CODE ORANGE, SLEEP TOKEN のようなバンドが現れたり、ISSUES や BMTH のようなもう少し洗練されたバンドが現れたりすると、また違った感じでとても新鮮なのよ。メタルにおける “ゲート・キーピング” のような旧態依然とした考え方は、古臭くて何か癪に障るのよね。一つのスタイルのメタルしか好きになることができない人たちのようなね。
メタルというジャンルの好きなところの一つは、結局のところ、とても進歩的だということなの。新しい経験に対してオープンであること。奔放で、新しいサウンドを探求したり、ジャンルを試したりすることに寛容なのよ。でも一方では、新しい音楽やアイデアを理解したり受け入れたりすることを全く拒否し、チャンスを与えようともしない閉鎖的な考え方も非常に多いのよね。と言うよりも、多くの点で、メタルというジャンルの “古い” 印象は、境界線を押し広げて新しいことに挑戦している BMTH や ARCHITECTS のような新しいバンドに置き去りにされているからかもしれないわね。
これらのバンドは自分たちに忠実であると同時に、未知の世界へと足を踏み出しながら、昔々、私たちが “クラシック・メタル” と考えていたことをやっているんだけど、結果は違っているのよね。メタルというジャンルにとって、今は別の時代であり、好むと好まざるとにかかわらず、時は進むのよ。だから私たちはそれに合わせて進まなければならないと思うわ」
もちろん、パラダイムが世代によって変わることは、音楽、文学、ファッション、大衆文化などでは当たり前のこと。ヘヴィー・ミュージックは、今後もシフトし続け、劇的に変化していのでしょうか?
「そう思うわ。例えば、私はミレニアル世代だけど今、自分よりも若い世代を見てみると、ジェネレーションZの人たちが見えてくるの。彼らにとっての “ロックスター” のイメージは、現在はヒップホップの世界から来ているのよ。そこでは今、実験的で奇妙なカウンター・カルチャーが起こっていて、彼らは主流のポピュラー・カルチャーと心を通わせようとしているの。私の世代の親は METALLICA に夢中だったけど、今の若い世代はR&Bやヒップホップのアーティストに注目しているわ。
私は、オルタナティブ音楽のジャンルは、これらのアーティストを参考にして、彼らが現在の状況にどのように適応しているか、また、自分の音楽や全体的な影響力をどのように世界に発信し、マーケティングしているかを知ることで、利益を得ることができると考えているのよ。だから私はそういったアーティストから多くのことを学び、インスピレーションを得ているわ。彼ら(ヒップホップ・アーティスト)は、基本的に自分のやりたいように物事を進めていくことで自分の帝国を築き、現代の変化し続ける世界に道筋を作ってきたの」

SNS も現代では成功のための欠かせない要素だと思われています。
「私たちは、Facebook の数字そのものから離れていっていると思うわ。私は、それが音楽と同じくらい重要だった時代を覚えているの。数年前までは、バンドの公式ページにどれだけ多くの人が “いいね!” を押しているかが気になるのが当たり前で、”いいね!” を買っている人もいるくらいでね。
例えば、あるメタルコアバンドの Facebook ページにアクセスすると、ここ10年くらい続いているバンドの場合、Facebook の “いいね!” が15万件もあるのに、何かを投稿すると “いいね!” が6件くらいしかつかないことがあるわ。明らかに何かが間違っている。特定の方法で数字をごまかすことはとても簡単なのよ。幸いなことに、人々はそのような傾向から脱却しつつあり、特にレーベルは、最終的にはそれがとても重要ではないということに気付いているわ。
SPIRITBOX は、ソーシャルメディアの数はたいしたことはないけれど、エンゲージメントには素晴らしいものがあるのよ。私は、オンラインでのエンゲージメントは、音楽への入り口のようなものだと考えていてね。それがある人にとって興味深いものであれば、その人が音楽をチェックする可能性は非常に高くなるのだから。
でも、最近の人々は、まず音楽を聴いて、それからソーシャルメディアの美学をチェックする傾向にあると思いうわ。私が所属していたバンド (IWABO) は、50万以上の “いいね!” を獲得していたけど、ライブになると12人しか来なかった(笑)。つまり、私が言いたいのは、ソーシャルメディアは今日の業界のすべてではないということなのよね」
10代後半に弟を介してヘヴィー・ミュージックに出会った彼女は、幅広い趣味を持つ音楽ファンとして、ヒップホップや R&B、ポップスの世界でソング・ライティングのお手本を挙げる傾向が多いのですが、彼らのやり方はヘヴィー・ミュージックのそれとは相反すると感じています。
「ヘヴィー・ミュージックでは、ボーカリストが、曲の後ろを走ってついて行こうとしているように感じることがよくあるわ。他の多くのジャンルでは、楽曲はボーカリストをサポートするためにあるのであって、その逆ではないのよね。だけど、重要なのは、方法ではなく、何が語られているかということでしょ?
最近の若い世代は、とても勇敢だと思うわ。臆することなく自分自身を表現し、ヘヴィー・ミュージックの文脈の中で自分が何者であるかを探求しているわ。ヘヴィー・ミュージックの世界に入ってきている多様な声、人生の様々な場面で得たユニークな経験を表現することに前向きな声は、ヘヴィー・ミュージックをエキサイティングなものにするだけでなく、このジャンルが必要としているものでもあるのよね」
そもそも “ヘヴィー” とはいったい何でしょうか? “Eternal Blue” の最も重大な成果は、基本的なこの言葉の定義にとらわれることを拒否していることでしょう。確かにこのアルバムは、バンドのルーツであるポスト・メタルコアから生まれたもの。THE ACACIA STRAIN や ARCHITECTS(ボーカルの Sam Carter は、激しい “Yellowjacket” にゲスト参加している)などが、このアルバムの最もヘヴィーな瞬間に使われているトーンやチューニングに対して影響を与えているのは明らかです。テクニカルなリフ、挑戦的なリフ、そしてブレイクダウンも豊富。
しかしそれだけでなく、”Eternal Blue” は、異なる次元と色を持つレコードです。ジャンルの慣習は少なくとも参考にはなりますが、制限にはなるべきではないでしょう。ジョシュアツリーの20エーカーの孤立した土地で “Eternal Blue” をレコーディングしたことも一つの “掟破り” であり、この砂漠の環境がアルバムに幽霊のような雰囲気を与えています。Michael が説明します。
「パンデミックもあって、人里離れた場所での作業を希望していたんだ。そして、カリフォルニアの砂漠の真ん中にその場所を見つけたんだよ。外に出ても何も聞こえない、純粋な静けさだったね。まるで防音室の中にいるようだった。遠くに車が見えるくらいで、それだけさ。そんな生活を30日間続けたことで、このレコードは奇妙な雰囲気を醸し出していると思う」

同時にMichael は SPIRITBOX を立ち上げるにあたって、その作曲法を大きく転換させました。
「俺の最初のバンドは、とてもテクニカルで不協和音を多用していた。Iwrestledabearonce は、それ以上だったな。だから、これまでの俺は、どれだけ速く演奏できるか、どれだけ極端に楽器を演奏できるかといった、衝撃性に夢中だった。でも、SPIRITBOX を始めた頃は、同じような姿勢で、どれだけキャッチーなものを作れるだろうかという感じになっていたね」
Courtney は、”Michael から流れ出る” ギターワークを、”非常にアグレッシブだけど、悲しさもある” と表現しています。彼女は “sorrowful” や “mournful” という言葉を使って、彼のギターを人の声が聞こえてくるようなサウンドスケープを表現しました。Courtney の耳にとってそれは、まるで誰かが泣いている音のように聞こえてくるのです。
「私はいつも、衝撃的なテクニックよりもアトモスフィアに惹かれてきたの。テクニカルな音楽は、演奏しているときはとても楽しいのだけど、感動を時間が経っても持続させる力がないのよね。私の心に響くヘヴィネスの好例は、DEFTONES のようなバンド。ヘヴィネスとは、私にとっては圧縮感なの。ヘヴィーとは、あなたの心を重たくして、萎縮させるもの。自由になって叫ぶことができるような解放感ではなく、それこそがヘヴィーの定義なの」
ゆえに、彼女は友人と喧嘩した後に世界から閉ざされた気分になることを歌ったアルバムのタイトル・トラックを、アルバムの中で最も好きな曲であるだけでなく、アルバムを決定的にする瞬間であると指摘します。EVANESCENCE の影響を受けたオープニングの”Sun Killer” や、アルバムを締めくくる “Constance” では、メロディーの感情的な響きが、アルバムの中で最も激しい3分間 “Silk In The Strings” に匹敵する “重さ” を生み出しています。また、前述のCircle With Meでは、コートニーが “When birds of prey invade my thoughts, they promise I will feel the pain” と優しく歌うと、楽曲最後のノイズのクレッシェンドと同じくらいの衝撃が走ります。
「この音楽はとてもこころを動かすものよ。だから、私と一緒に完全に感情移入してもらいたいの」
このような色とりどりのスタイルは、感情の不安定で変化し続ける形を伝えたいという想いと、SPIRITBOX 独自の流動的で柔軟なサウンドを作りたいという二つの想いから生まれたものでした。 結局、”Eternal Blue” は、簡単に分類できるようなレコードではありませんが、それが重要なポイントなのです。感情や人間は、単純に一つのもので成り立っているわけではないのですから。
「ロックやメタルのリスナーとして、私たちはすべてのボリュームが常に “11” に上げられていることを期待するような耳を鍛えてきたのよね…」
Courtney は、この言葉がメタル界の鼻持ちならない人たちの眉間にしわを寄せるかもしれないことを知っています。そのような人たちに対して、あるいは誰に対しても、彼女は “Eternal Blue” への期待値や SPIRITBOX のサウンドが次にどこに向かうかについて、何の約束もしません。忘れてはならないのは、このバンドはまだ自分たちの足場を見つけたばかりであり、1年前でさえ、このようなスポットライトの下で期待を浴びいるとは思ってさえいなかったということ。

例えば、ライブが復活したら “Eternal Blue” の世界はどうなるのでしょうか?これまでにわずか15回のライブしか行っていないバンドにとって、それを考慮することがいかに難しいかを表現しながら、それは独特の、そして間違いなく歓迎されるべきプレッシャーであると Courtney は認めています。だからこそ、今 Courtney LaPlante は、最も落ち込んでいた2年前の、”Eternal Blue” を書いたときの自分とは少し距離があると感じているのです。
「これからの数年間は、時間に追われている Courtney ではなく、ミュージシャンとしての Courtney という本来の自分を取り戻すことができるでしょうね」
ただし、形は違えど、根っこにある感情は変わりません。
「今は、他の新しい不安を抱えているわ。私は失敗するのかしら?このアルバムは私の夢を叶えてくれるのかしら?それとも世界の笑いものになってしまうのかしら?でも、”Eternal Blue” の曲はすべて、今の私の心に一層響いているのよ。このアルバムの中で最も古い曲は、なりたい自分になれないもどかしさを歌ったものだから」
そして今、そのチャンスを手に入れたのでしょうか?
「今、私は自分の物語の中で自虐的な敵役になれるかもしれないわね。私は警戒心を捨てて、自分が必死であることに気づいているの。そう、私はこのバンドに必死なのよ」
Courtney は最近、Billie Eilish の “Same Interview” のビデオを見ました。その中でポップスターは、前回のインタビューからちょうど365日後にまったく同じ質問に答え、自分の人生の変化を振り返っています。2020年10月18日版では、それも4年目を迎えました。
「私たちは彼女が一人の女性として成長し、昔の自分を笑うのを見ているのよ。でも、彼女が言っていたことの中で、とても心に響いたのは、大スターになった今、誰かと話をしていると、自分ではないような、Billie Eilish の役を演じている自分を見ているような、そんな体外離脱の体験をすることがあるということね。そして、それはとても悲しいことなのよ。でも、私が自己認識を持ち続け、自分が説くことを実践し、自分の音楽の中で弱さを保つことができれば、私たちは大丈夫だと思うのよ」

参考文献:KERRANG!:Believe The Hype: Spiritbox are the hottest band in the world

REVOLVER:10 THINGS WE LEARNED FROM OUR SPIRITBOX

SPIRITBOX:SPIRITBOX: RISING CANUCK METAL TRIO IS A TRUE LABOR OF LOVE

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – SPIRITBOX

 

RISE RECORD: SPIRITBOX

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【FEAR FACTORY : AGGRESSION CONTINUUM】


COVER STORY : FEAR FACTORY “AGGRESSION CONTINUUM”

“Syncopated Guitars And Drums… A Lot Of People Were Saying, ‘Well, Meshuggah Made That Popular, Yeah, Meshuggah Didn’t Make It Popular Till Much Later. Fear Factory At That Time Was a Much Bigger Band. We Were The Only Band, Really, At The Time That Was Really Popularizing That Style With The Syncopated Guitars And Drums.”

FEAR FACTORY DEMANUFACTURES   AGGRESSION CONTINUUM

FEAR FACTORY の偉業。未来はいつも今、作られ続けています。1995年にリリースされたセカンド・アルバム “Demanufacture” のリリースから25年以上が経過し、読者の中にはもしかすると発売当時生まれていなかった人もいるかもしれません。しかし、そんなリスナーでもこのアルバムを耳にして、時代遅れだとか古臭いといった感想を待つ事はきっとあり得ません。”Demanufacture” は時代を遥か先取りした革新的な作品であり、そして現在でも当時と同じように新鮮に聞こえます。メタルとハードコアの近未来的衝突。
実際、”Demanufacture” はメタルの未来と、インタラクティブ・テクノロジーや人工知能の暴走を、鋭く、力強く予言していました。エクストリーム・ミュージックのサウンドを永遠に変えながら。
実のところ、FEAR FACTORY は広く成功する可能性を持ったバンドではありませんでした。1991年のデビュー作 “Soul Of A New Machine” は、デスメタル、グラインドコア、インダストリアル・ミュージックからヒントを得た、非常に新鮮で独創的なエクストリーム・メタルのレコードでバンドのユニークさを存分に認識させましたが、彼らの音楽的ビジョンが真に生かされたのは、1993年に発表された同様に画期的な “Fear Is The Mindkiller remix EP” でした。FRONTLINE ASSEMBLY の Rhys Fulber が解体・再構築したリミックスの輝きは、喜びに満ちた異種交配によって FEAR FACTORY を正しい方向へと誘い、やがて彼らのキャリアを決定づけるアルバムへと導いたのです。ギタリスト Dino Cazares は当時を振り返ります。
「”Fear Is The Mindkiller” は、俺たちがやりたかったこと。ただ、最初はそのための技術がなかったんだ。キーボードのサンプルもなければ、Rhys が使用するようなコンピュータもなかった。だから、ギター、ベース、ドラム、ボーカルでマシンをエミュレートしようとしたんだ。KMFDM や Ministry のような古いインダストリアル・バンドを聴くと、メタルのリフをサンプリングし、それをループさせて同じリフを何度も繰り返しているよね。僕らはそれを楽器で真似しようとしたんだ」
“Soul Of A New Machine” で礎を築き、その後、リミックスアルバム “Fear Is The Mindkiller” で理想に近づいた FEAR FACTORY。しかし、やはり “Demanufacture” は別格でした。その遺産、今日まで続いている影響、そしてメタルのスタンダードになった手法は多岐に及びます。
まず、クリーン・ボーカルと極端なデス・グラントをミックスした Burton C. Bell のスタイルに注目が集まりました。
「特に、クリーン・ボーカルと極端なデス・グラントをミックスした俺のスタイルは、メタル界のスタンダードとなった。 もしわかっていたら、自分のスタイルを商標登録していただろうね。そんなことはできないだろうけど (笑)。”Fear Is The Mindkiller” の後、俺たちは “Soul Of A New Machine” と “FITM” とのコンビネーションを求めたんだ。完全なエレクトロニックではなく、新しい展開があり、また、多くのハードコア・バンドとツアーをしていたから、ハードコアやメタルの雰囲気も残したかったんだ。そこにさらにもう少し新鮮さを加味したいと思って、ボーカルの幅を広げ始めたんだよね」
そのボーカル・スタイルにはどうやってたどり着いたのでしょう?
「そうだな、正直俺はあまりメタル系の人間ではなかったんだ。好きなメタルバンドはいくつかあったけど、どちらかというと HEAD OF DAVID や SONIC YOUTH, BIG BLACK といったバンドの方が好きだったね。他のバンドの中にもすごく好きな部分があって、例えば GODFLESH では Justin が歌うというより、うめき声のような感じで感情を露わにしている。俺は Justin の真似をしようとしたんだけど、うめき声ではなくメロディーのようなものが出てきたんだ。クールなサウンドだったからそのまま続けてみたら、そのボーカル・スタイルをより多く曲に取り入れることができたんだよね。すべての曲ではないけど、”Pisschrist”, “Self Bias Resistor”, “Zero Signal”, “Replica” みたいな曲では、とても効果的だった。ただ、それはまだはじまりに過ぎず、今でもさらに発展し続けているんだよ」

時代を先取りしていたのは、Burton のボーカルだけではありません。Raymond Herrera のドラムパターンの驚速と激しさは、バンドが本物のドラマーではなく、ドラムマシンを使っていると思われるほどでした。
「彼はスタミナと体力をつけるために、コンバット・ブーツやレッグ・ウェイトを使って演奏していたんだ。人々は、彼が本物のドラマーであることを信じていなかったし、シンガーが一人であることも信じていなかったんだよ。つまり、俺たちには多くの誤解を解いて回らなきゃならなかった。特に初期のツアーでは SICK OF IT ALL や BIOHAZARD のようなハードコア・バンドと一緒に回っていたから、受け入れてもらうのに時間がかかったね」
自身も右手に重りをつけ、左手指の関節を固定してマシンガンピックを養った Dino は、自分たちの音楽にターボチャージャーをかけてパワーアップさせる方法を見つけようとしていました。Rhys Fulber が回顧します。「”Fear Is The Mindkiller” では、それまで演奏されていなかったようなインダストリアルなクラブで演奏するようになったからね」
FEAR FACTORY とロードランナーとの契約に尽力した著名なメタルA&Rのモンテ・コナーは、このバンドの特異なアプローチにいち早く可能性を見出し、革命的だと主張した人物です。
「FEAR FACTORY は最初から先駆的だった。残忍なデスメタル・バンドが、ポップなコーラスを入れていたんだから。しかし、 “Demanufacture” を制作していたときの目標は、デスメタルから完全に新しいものへと進化させることになったんだけどね」
関係者全員の多様な嗜好。FEAR FACTORY はそもそも決して一般的なメタル・バンドになる運命にはありませんでした。デスメタル、インダストリアル、エレクトロニカ、サウンドトラックなど、バンドが愛してやまないものすべてが、スリリングで見慣れない新たなアイデンティティへと集約されていきました。90年代初頭は、商業的にはメタルにとって最も恵まれた時代ではありませんでしたが、SEPULTURA, PANTERA, MACHINE HEAD, KORN などと並んで FEAR FACTORY は新しいやり方とサウンドを考案することで、このジャンルに新鮮な命を吹き込んでいたのです。Burton が説明します。
「俺たちは、FEAR FACTORY をこんなサウンドにしたいというビジョンを持っていたけど、自分たちの技術を理解し、そのポイントに到達する方法を把握するのに時間がかかったんだよね。”Demanufacture” の時点で、すべてがまとまったんだ。歌詞、コンセプト、サウンド、アレンジ、プロダクション…すべてがね。チャンスを逃すことを恐れてはいなかった。だから自分たちの好きなことだけをやっていたよ。コーラスをビッグにしたり、テクノの要素を取り入れたり。自分たちが好きなら、やってみようという感じだった。失うものは何もなかったんだから」

1994年10月から12月にかけてレコーディングされた “Demanufacture” に問題がなかったわけではありません。バンドは、シカゴの Trax スタジオでレコーディングを開始しましたが、すぐに自分たちが期待していたものとは違うことに気づきました。
「次から次へと問題が出てきて、まさに最悪の状態だったな。ドラムを聴き直すと、マイクが機能していなかったせいで多くの音が欠落していた。俺たちは、”この場所はクソだ ” と思い、FAITH NO MORE が “King For A Day” をレコーディングしていたウッドストックに飛んだんだ。空きスペースはあったんだけど、1ヶ月分もはなかったから、結局、シカゴのデイズ・インで1ヶ月間、床に寝ることになったよ。その後、ベアーズビルのスタジオが使えるようになるまで、マネージャーの家に住んでいたね。ここの未完成の地下室を使って、文字通り地面の上でリハーサルをしていたんだ。6月から10月の間、俺たちは宙ぶらりんだった」
ベアーズヴィルは彼らのニーズに合ったスタジオでしたが、バンドには時間がなく、ロンドンのウィットフィールド・ストリート・スタジオでボーカルを完成させました。アルバムの音がちょうどよくなるまで、何度もミックスとリミックスを繰り返しました。また、アルバムにクレジットされてはいますが、ベーシストの Christian Olde Wolbers はバンドに入ったばかりで、Burton によると「十分にタイトな演奏ができなかった」ため、彼のパートはギタリストの Dino Cazares が担当したといいます。その Dino がレコーディングを振り返ります。
「俺たちは、山の中の都会人だった。スタジオでは、FAITH NO MORE と BON JOVI に挟まれていたんだ。FAITH NO MORE とはよく一緒に遊んだと言っておこう。ドラムを始めてからは順調だったんだけど、ギターを始めたところで壁にぶつかってしまった。最初のプロデューサー Colin は俺のギター・トーンが気に入らなかったんだ。2週間も喧嘩して、1音も録れなかったんだよ!」
プロデューサーとの対立の中で、Dino と Burton は、時間がどんどん過ぎていき、予算がどんどんなくなっていくのを感じていました。Colin は、Dino が機材を変えるべきだと断固として主張した。Dino は Colin に「失せろ」と言いました。
「これが俺の音なんだ!ってね。ある日、あまりにもイライラしていたから、スタジオから坂を下ったところにあるフルーツ・スタンドまで歩いて行ったんだ。そこで働いていた男の人に見覚えがあって、それが DC のハードコア・レジェンド BAD BRAINS のギタリスト、Dr. Know だったんだよね。そこで彼と話をして、今の状況を伝えると、彼は『君が使えるものを持っているよ』と言ってくれた。それで、俺のアンプを彼のキャビネットに接続してみたところ、突然、ドーンと音が出てきたんだ。みんな額の汗を拭いていたよ。ハハハ!」
膠着状態が解けたことで、”Demanufacture” の制作が本格的に始まりました。キーボード、サンプル、サウンドエフェクトに重点を置きながらも、リフとキックドラムの同期した機械的ブレンドによって前進するこのアルバムは、11曲で構成され、メタルの新しいマニフェストとなることが約束されていました。しかし、アルバムに対する Dino のビジョンは、その集中力と激しさゆえに、Colin Richadson がミックスを担当するにはもはや適任ではないという結論へと急速に達していました。Rhys Fulber が証言します。
「Colin を悪く言うつもりはないよ。彼は素晴らしい人だけど、俺たちは違う方向に進んでいると感じていた。もし彼がミックスしていたら、典型的なメタルのレコードになっていただろうな。俺たちには既成概念にとらわれないことが必要だった。最初のミックスは最悪でね。キーボードが前面に出ていなくて、俺たちはあの音を大きくしたかったからレコードのコントロールを取り戻したんだ」

誤った情報の宝庫であるウィキペディアによると、”Demanufacture” は、映画『ターミネーター』の第1作目からインスピレーションを得たコンセプト・アルバムであるとされていますが実際はどうなのでしょう? Dino が振り返ります。
「俺たちは最初からSF映画のファンだった。『マッドマックス』は、1979年に撮影されたものでずいぶん昔の話だけど、俺らは子供の頃にそれを見ていたんだ。その後、突然『ターミネーター』が登場して、”Soul of a New Machine” の時に、『ターミネーター2』に出てきた液化したT-1000という新型ターミネーターの記事を読んで、新たな機械の魂ってアルバムのタイトルとしては最高だなと思ったんだ。だから、俺たちは明らかにテクノロジーを受け入れ、それを FEAR FACTORY の大きなコンセプトにしたんだ」
Burton は、SF がインスピレーションのひとつであることに同意するものの、それは多くの源のひとつに過ぎないと語ります。
「俺は『ロボコップ』、『ブレードランナー』、『フォーリング・ダウン』、『アポカリプス・ナウ』のファンだった。あと、”The Closet “という映画があって、そこでは冷戦時代の東側の尋問が描かれていて、それがいくつかの曲のインスピレーションになっているんだ。当時のビデオゲームからもいくつかヒントを得たね。でも、一番のインスピレーションは、92年のLAでの暴動だったと思う。俺たちはアレを経験しているから。殴られたり、裁判を傍聴したりね」
Dino が付け加えます。
「1990年から1995年にかけて、火事、洪水、暴動が起こった。1994年には大きな地震があり、ロサンゼルスが破壊されるのを目の当たりにしたよ。略奪者、銃撃戦、国家警備隊の夜のパトロールなどを目の当たりにね。Burton はそのすべてを “Demanufacture” に注ぎ込むことができたんだよ。このアルバムの最初の行は、”Desensitised by the values of life… ” だからね」
皮肉なことに、暴動が始まった日、バンドはLA南部で “Soul Of A New Machine” の写真撮影を行っていました。その場所は、暴動がはじまったフローレンスとノルマンディーから文字通り3ブロック離れた場所でした。Burton が回顧します。
「人々が集まって抗議活動を始めたとき、ちょうど車でそこを通っていたんだ。これはひどいことになるぞ、早くここから出ようと思っていたね。そして、実際に醜くなった。ピリピリしていたよ。誰もが敵対し、標的になっていた。誰も警察を信用していなかった。シュールだったね。ビルの屋上で自動小銃を持って商品を守っている人もいたんだから。俺たちは “Demanufacture” の時代に生きていて、人間と戦い、生き延びるために必死だった。精神的にも肉体的にも影響を受けたよ。つまり、住んでいた場所を失い、正式にホームレスになって、94年の “Demanufacture” のレコーディングが終わるまで、ソファで暮らしていたんだから」

人間対機械という考えは、FEAR FACTORY にとって永遠のテーマとなりました。自動精算機、ドローン、自動運転車が普及している今日、それは彼らが想像していたよりも予言的であったかもしれません。コンセプトアルバムのアイデアは “Demanufacture” が完成した後に生まれたと Burton は説明します。
「アルバムを録音し、アートワークも完成していたけど、プレス用に各曲の解説をするように頼まれたんだ。そしてそれを書き始めたところ、各曲にストーリーを持たせることが自然に思えてね。つまり、この混乱と人々の暴動の中に主人公がいるということだよ」
歌詞を振り返ってみると、未来的というよりは非常に個人的な内容のものもあります。
「そうだね、すべて個人的なものだよ。”Therapy For Pain” は、元ガールフレンドの夢を描いたもので、愛と痛みをテーマにしているよ。”Zero Signal” は、ロンドンでアシッドトリップから目覚めたときに書いたんだ。Marquee クラブのレイブで大量のアシッドを摂取して、ある女の子と付き合い始めたんだ。彼女の部屋で一晩中トリップしていたんだけど、目が覚めるとカーテンの隙間から日の光が入ってきて、その光が青い目をしたイエスの巨大な絵に当たっていたんだよね。アレはとてもパーソナルな出来事だったな。あとは、あのころ俺は法律番組をよく見ていて、台詞をカセットに録音していたんだけど、その多くがアルバムに使われている」
一方、Dino は別の場所からインスピレーションを得ていました。
「Dino と俺は当時、一緒に暮らしていたんだ。彼はあのころ Dimebag のようになりたいと思って、”Cowboys From Hell” を全部暗記していたくらいでね。それに、面白い事実があるんだ… “New Breed” のリフは、STONE TEMPLE PILOTS のリフを逆に演奏したものなんだよ。確か “Vaseline” だったかな」
1995年6月13日に発売された “Demanufacture” は、オーストラリアではゴールド、イギリスではシルバーに認定され、アルバムチャートで27位を記録しました。さらに、このアルバムは無数のメタルバンドに影響を与え、インダストリアル・メタルやメタルコア、さらにはかなり先の未来、 djent の文字通り青写真となりました。Burton は胸を張ります。
「”Demanufacture” は、俺のキャリア全体を変えたし、多くの扉を開いてくれたんだ。あのアルバムは時の試練に耐えてきたと思うよ。サウンド面やプロダクション面だけでなく、歌詞の面でも真実味がある。俺たちは、暴動やいろいろなことで、文字通り常に緊張感の中にあった。つまり、現在のような状態だよ。結局歴史は繰り返すんだ」
Dino も同様にあのレコードを誇りに思っています。
「本物の演奏だと気づかない人もいた。エレクトロニック・ドラム、つまりプログラムされたドラムだと思った人もいたし、俺のギターがサンプリングされたものだと思った人もいた。非常にタイトなレコードだったから、そしてある意味では機械的な音だったから、リアルではないと思われたんだ。俺は、今でも人々が賞賛するサウンドを作ることができたことをとても嬉しく思っている。今でもあのレコードに影響を受けている人がいるからね。あれはバンドのキャリアの中でも画期的なもので、インダストリアル・メタルというジャンルを定義するような作品を作ったんだ。確かに、 MINISTRY や GODFLESH みたいなバンドはいたけど、FEAR FACTORY はそれを別のレベルに引き上げたんだよね。他の人がやっていないような多くの要素を組み合わせたんだ。
レコードのプロダクションも大きな要因のひとつだね。このレコードのミキシングは、間違いなく新しいレベルに到達している。Rhys と Greg がミックスを担当したのは、この種の音楽の標準となるような、素晴らしいものだったから。ボーカルだけでも、後に続く世代のミュージシャンやボーカリストにインスピレーションを与えたよね。シンコペーションの効いたギターやドラム…多くの人が MESHUGGAHが流行らせたと言っているけど、MESHUGGAH が流行らせたのはもっと後だよ。当時の FEAR FACTORY はもっとビッグなバンドだったから。シンコペーション・ギターやドラムを使ったあのスタイルを広めたのは、当時の俺らだけだったんだ。だから、時の試練に耐えられるような名盤を作れたことは、とても幸運だったと思うよ」
Dino は今でも “Demanfucature” よく聴き返すと語っています。
「サウンドとかではなく、構造を聴くために時々戻ってくるんだ。多くの場合、その構造を新しい曲に応用しているよ。例えば、どうやって “Zero Signal” を書いたんだっけ?どうやって始まるのか?バースはどこへ行くのか?中盤はどうなっているのか?とかね。新しい曲に行き詰ったら、”Demanufacture” に戻って、『よし、これが俺たちのやり方だから、戻ってこの曲に適用してみよう』という感じになる。曲がまったく違っていても、リフが違っていても、今でも曲作りの助けになっているんだよ」

あれから26年。Dino が語る通り、FEAR FACTORY は FEAR FACTORY の哲学を微塵も失わない強力な “Aggression Continuum” で戻ってきました。そう、彼らのアグレッションは今でも続いています。
長い間の悲劇的な活動休止の後、棚上げされていた原題 “Monolith” がついに私たちの目の前に現れました。しかし、ここに一つ大きな問題が。30年のキャリアの中で11枚目のフルアルバムである “Aggression Continuum” は、ギタリスト Dino Cazares とボーカリスト Burton C. Bell のデュオにとって最後の作品になります。このアルバムでこそ Burton はその唯一無二の個性を響かせていますが、すでにバンドを脱退。しかし多くの人にとって、Dino と Burton こそが FEAR FACTORY なのではないでしょうか?
残念なことに、ここ数年、Burton や Dino をはじめとするメンバーの人生には様々な浮き沈みがあり、破産や商標権の問題など、バンドの主眼である音楽の行く手を阻む困難が多くありました。そして、二人が一緒にステージに立ち、熱狂的なオーディエンスの前で “Replica” や “Edgecrusher” を口ずさむ姿を見ることはもうかないません。つまり、私たちは “Aggression Continuum” を最大限に活用し、この章をふさわしい形で終わらせることを期待しなければならないのです。
過去と現在のバンドメンバーからの一貫した不誠実な表現と根拠のない告発。Burton が発表した脱退の理由はいたってシンプルでした。
「脱退をしばらく考えていたんだ。訴訟で消耗したんだよね。エゴの塊。貪欲さ。バンドのメンバーだけでなく、弁護士も含めてね。俺はただ、バンドに対する愛情を失っただけ。FEAR FACTORY では、常に何が起きているんだ!と思うことばかりだった。30年というのは、とても良い期間だよ。俺が FEAR FACTORY で制作したアルバムは、これからもずっと世に出続ける。俺は常にその一部であり続けるんだ。だけどただ、前に進むべき時だと感じたんだよ。もちろん、自分の遺産を誇りに思っている。俺たちは偉大なことを成し遂げたからね。信じられないような音楽を作り、音楽業界や世界中のファンに忘れがたい足跡を残してきた。最高の時には山の頂上に登り、最低の時には深い溝を掘ってきた。ただ、別のバンドでもっと素晴らしいことをするために、前に進まなければならない時が来るんだ…」

Dino にももちろん言い分はあります。
「辞めるとすら彼は言わなかった。SNS で知ったくらいでね。彼はいつものように、ちょっと姿を消してしたんだよ。俺が知っている Burton は、困難な状況になると逃げるのが好きな男なんだよね。彼は2002年に辞め、2007年には他のメンバーを辞めさせ、そして今また辞めている。彼はすべてのレコードで歌声を残しているにもかかわらず、辞めてしまう人でもあるんだよ。
俺は問題に正面から取り組むのが好きだ。もし問題があるなら、部屋に入って議論し、解決しようとする。人によっては、自分が追い込まれているように感じ、それに耐えられないこともあるだろうね。彼はそういうタイプなんだ。
去ったのは3年前だが、正直なところ、本当に去ったのは何年も前のことだと思う。おそらく20年は経っているだろう。彼は FEAR FACTORY のために歌詞を書いていたのは、心の底からではないと言っていた。歌詞を崇拝しているファンへの冒涜だよ。お金のために戻ってきたとも 言っていたしね。すでに知っていたよ。対処しなければならなかった」
たしかに Burton は現在、別バンド ASCESION OF THE WATCHER にすべてを捧げています。Dino が FEAR FACTORY に情熱を注ぐように。
「レコードを作ることに関しては、俺は非常に意欲的な人間だ。Burton はいつもプッシュしなければならなかった。さあ、やろうぜ !ってね。 あるいは、彼に連絡を取ろうとしても、彼がいないこともあった。何ヶ月も何ヶ月も姿を消していて、どこにいるのかわからない。彼が戻ってくるのを待つしかないんだよ。
“The Industrialist” のときは、俺がすべての曲を書いて準備ができていたんだけど、Burton が8カ月間も姿を消して、誰にも居場所を教えなかったんだ。その後、彼はカナダで “City Of Fire” というプロジェクトに参加していることがわかった。もちろん、今では自分のプロジェクトで自分のことをする必要があることも理解している。わかったよ。だけど、俺たちに教えてくれよ!
そういう面もあったよね。つまり Burton は長い間、出口を探しているように見えたんだ。彼は自分の他のプロジェクトが軌道に乗ることを望んでいて、そうすれば「おい、CITY OF FIRE は次の SOUNDGARDEN になるぞ、じゃあな!」と言うんじゃないかってね」

バンドを巡る訴訟や個人的な問題が、Burton の脱退に影響を及ぼしたのは明らかです。アルバムの赤々と燃える怒りの炎の代償とも言えるでしょうか。
「理解してもらいたいんだが、俺たちはとても多くの法的な問題や破産、離婚を経験した。俺は個人的に100万ドルの損失を被ったからな。ストレスは大きかったね。何度か病院に行かなければならなかった。心臓発作かと思ったけど、すべてはストレスによるものだった。でも、勘違いしないでほしい。俺はそのことで、戦うべきことを戦い、必要な犠牲を払うことを躊躇したわけではないんだよ。音楽は俺の情熱だから。常に愛しているんだ」
現在は、FEAR FACTORY の商標は、Dino が単独で所有しています。
「必要な措置だった。バンドを存続させたかったら、戦わなければならないという緊急性があった。Burton と戦うという意味ではなく、裁判所と戦うという意味で、Raymond や Christian と戦うという意味でね。
連邦破産法第7章を申請するときには、すべての資産をリストアップしなければならない。コンピュータ、車、家、ビジネス、そして商標などもリストアップしなければならない。そこに何も記載していないと、奪われてしまうんだ。それが Burton に起こったことだよ。Raymond と Christian の弁護士が、彼が FEAR FACTORY の商標を資産として登録していないことを発見したため、商標を取り上げられたんだ。それで裁判所がオークションに出した。みんな俺が Burton から商標を奪った、あるいは訴えたと思っている。だけど、裁判所が商標をオークションにかけたんだ。つまり、誰でも入札できる eBayのようなもの。俺は商標を手放すつもりがなかった。最高額で落札しようとしたんだけど、その入札者には Raymond や Christian もいたんだよね。とても激しい競り合いで、汗びっしょりだったよ」
クラウドファンディングで制作費を募って完成させたアルバムです。
「確かに高額なアルバムだった。レコード会社からもらった前金を使い果たしてしまったから、結局、GoFundMe キャンペーンを行うことになった。キャンペーンはとても成功したんだけど、Burton は賛成しなかったんだ。なぜかはわからないけどね。レコードが出れば彼の利益になるだけだからね。でも、本当に助けてくれたファンの皆に感謝しているんだよ。2万5,000ドルも集まったからね。これは、アンディ・スニープにミックスを依頼したり、生ドラムを叩いてもらったり、エンジニアを雇うための費用となった。金額は言えないけど、かなりの額自腹も切ったよ。だから、俺は今ほとんど無一文なんだ。でも、俺は悪いレコードを抱えて生きることはできないから。もし、ここまで戦ってきて、レコードが最悪だったら意味がないんだ」
一連の騒動がアルバムになんらかの影を落としたのでしょうか?
「いや、音楽に影を落としているとは思わないね、全く。むしろ摩擦が素晴らしいものを生み出すことだってあるだろ?この新譜でもそうだと思うよ。Burton が奏でる美しいメロディックなボーカルには、怒りや不安の感情が同時に込められている。彼が書いた歌詞と彼が歌った歌詞を聴けば、素晴らしいの感想以外はでないだろう」

間違いありません。ここには Burton C Bellの声があります。この声は、SLIPKNOT や KILLSWITCH ENGAGE が台頭してきたときに流行した、ダイナミックな唸りと歌声の元祖。そして、SF的なシンセサイザーやドラムトリガーと、ギターやベースの本格的なピッキングを組み合わせた、相反融合するインダストリアルでオーガニックなサウンドはいささかも衰えることはありません。
つまり、Dino と Burton の FEAR FACTORY は最も相応しい形でその幕を閉じます。インダストリアル・サウンドとマシンライクなリフアタック、多弦の重み、免許皆伝二刀流のボーカル、研ぎ澄まされたリズム隊に加え、一際メロディックでキャッチーなコーラス。さらに、アルバムには映画のようなオーケストレーションが施されており、深みがあって、近未来的なディストピアやドラマのような感覚がしっかりと刻まれています。何より、闘争の恩恵か、彼らは怒りやエッジをほとんど失っていません。”Demanufacture” で聴かれた怒りに匹敵する高温がまだここには火照っています。ただし、何十年もかけて曲作りが洗練されてきたせいか、どことなく柔らかさや滑らかさが出てきたような気もしますね。
モンスター・コーラスといえば、”Purify” が “Agggression Continuum” の “Replica” であるという考えはあながち間違ってはいないはずです。このレコードに収録されている曲の中で最も即効性のある曲ですが、スタイルとエレガンスを持って “浄化” が行われているため、あからさまなキャッチーさやポップメタル的なニュアンスとは無縁。最近、Burton が LINKIN PARK の “Hybrid Theory” は子供向けの “Demanufacture” だと語っていたのを思い出しました。Dino は一笑に付していましたが。
ファースト・シングルの “Disruptor” は、”Genexus”の “Soul Hacker” と多くの共通点があり、 「自分の道を貫け」という希望に満ちた歌詞を持つ、抵抗のための力強いアンセムです。”Fuel Injected Suicide Machine” では、バンドが愛する複雑すぎる曲名と、冷酷なまでの攻撃性が見事に融合しています。「運命を恐れず」「決して抵抗をやめない」という歌詞は、”Demanufacture” のメジャーな曲と同レベルの、真のインダストリアル・バンガー。
FEAR FACTORY には、アルバムを壮大でゆっくりとした曲で閉じるという強い伝統がありますが今回はそうではなく、”End of Line” は、Burton の広大なボーカルレンジと豊富なリフを使ったメタルトラックで、アルバムを大々的に締めくくっています。”Monolith”のソロのように、一歩踏み出した挑戦もあり、”Aggression Continuum” 以前のリリースとは異なるエッジがたしかに生まれてきているのです。そうしてシンセと話し言葉だけが残り、深い声で「恐怖がなくなったとき、私だけが残る」と述べてアルバムは幕を閉じます。危険は去っていない、抵抗は続いていく。結局、FEAR FACTORY は “Demanufacture” のころからずっと、メタルのレジスタンスであり続けているのでしょう。
女性ボーカルを入れるという噂もありますが、Burton との復縁はもう起こらないのでしょうか?
「俺は前に進まなければならない。だから起こるならすぐに実現しなければならないと思う。ファンの皆が待たされるのは不公平だと思うからね。もしそうなるのであれば、なぜ今ではないんだい?なぜファンは、彼がここが自分の居場所だと気づくのを待たなければならないのだろう?
わからないけど、彼は新しい人生の選択をして、前に進んでいるのかもしれない。彼がここにいたくないと思っていた時期が何度もあったという事実を無視することはできないよ。彼が出口を探していた時期もあったしね。だけど、同時に、俺たちが作り上げたものを否定することもできないよね。だから…将来的に Burton と復縁するか?可能性はあるよ。俺はそれを受け入れている」

参考文献: EON MUSIC: FEAR FACTORY Interview

KERRANG!:“I’m Proud Of My Legacy… But You Have To Move Forward”: Burton C. Bell On Leaving Fear Factory And What’s To Come

LOUDER:Dino Cazares: “I think Burton C Bell left Fear Factory many, many years ago”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCING WIRES : PRIME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH YUTARO OKUDA OF ARCING WIRES !!

“Definitely Meshuggah Is a Very Important Artist For The Band. I Guess We’re Musicians That Went To ‘Jazz School’ But Still Want To Play Metal As Well So Maybe That Has a Bit To Do With Our Sound.

DISC REVIEW “PRIME”

「バンドにとって MESHUGGAH は非常に重要なアーティストだよ。僕らは “ジャズスクール” に通っていたミュージシャンだけど、メタルもやりたいと思っているから、それが僕らのサウンドに少し関係しているのかもしれないね」
ジャズとメタルを平等に愛し、その融合に成功するミュージシャンは決して多くはありません。ジャンル自体が希少種と言えるジャズメタルの領域において、ARCING WIRES ほど挑戦的で、楽しく、複雑でありながら消化しやすく、美しさに包まれた音楽に出会えることは奇跡でしょう。
「サウンドの一部として、サックスはもちろん、常に多くのエフェクトやプログラミングを取り入れていて、同様に大きな影響を受けたエレクトリック・ギターやベースのトーンとブレンドすることで、ARCING WIRES サウンドの非常に美しい、不可欠な部分を生み出していると僕は思っているよ」
ギター2本、ドラム、ベースというスタンダードなロックのラインアップにサックスを加えることは、もちろん新機軸ではありません。ドイツの伝説 PANZERBALLETT はすでにそのフォーメーションで繊細なジャズダンスと重厚なメタル戦車の完璧な融合を成し遂げています。
たしかに、”The Lizard”, “Catacaustic”, “Blue Steel” のオープニング3曲を聴けば、その比較はそれほど的外れではないと感じるはずです。しかし、同時に “Catacaustic” から放たれるマスロックの軽快さは眩しいほどにブライトで、さらに “Blue Steel” の終盤では、完全に彼ら自身の「声」を見つけ出すことに成功しています。
「HIATUS KAIYOTE は、僕たちが音楽をどう演奏するかってアイデアを形成する上で、非常に大きな影響を受けているね」
日本人である Yutaro Okuda 氏が語るように、開放的な空と海がジャンルの境界を曖昧にするのでしょうか。オーストラリアは近年、HIATUS KAIYOTE, KING GIZZ のような真のごった煮平等主義者を多数輩出しています。そうして、ジャンルからジャンルへと音の虹をかける ARCING WIRES も当然彼らの血を引いています。Art As Catharsis という彼らのレーベルも、現代におけるロックの多様性を追求する完璧なソウルメイト。
事実、”Prime” はメタルのような怒涛のグルーヴ、非常に流暢で熟練したプログレッシブ・ロック、マスロックのブライトな知性、ポスト・ロックの瞑想、アンビエントの静寂、そしてジャズ/フュージョンの魂とメソッドをシームレスに漂うサーフィンのレコード。
その波乗りを、彼らは実に繊細かつ上品にこなしているため、アルバムの基盤を見極めるのは非常に難しく、音の支配者を探し出すこともほぼ不可能。見事なバランス感覚は真の平等主義者にのみ宿ります。
「学生時代に直接影響を受けたのが Mike Rivett の “Digital Seed” というアルバムだったね。当時の僕にとっては、エレクトリック・サウンドとアコースティック・ジャズの音色の融合を初めて耳にしたアルバムだったんだ。素晴らしいよ」
“Arc9” では、ヘヴィネスとエナジーを抑えて煌めきのグルーヴとメロディに集中し、 “Eniargim” では、オリエンタルな雰囲気が導入し異国の風を運びます。何より、”Serotonin” に込められたエレクトリック・ジャズの鼓動は、UKの新たなジャズの波光とシンクロしながら、音楽に本来あるべきポジティブな新鮮さを感情の高まりに重ねてみせたのです。テレキャスやギブソンで紡がれるギターソロの音色も、画一的な現代のそれではなく、個性的な味わいで素晴らしいですね。明らかにキラキラの Djent とは距離を保ち、伝統と感情を全てに織り込んでいますから。
今回弊誌では、Yutaro Okuda 氏にインタビューを行うことができました。「日本のポップ・パンクのカルテット ELLEGARDEN は大好きだったバンドの一つさ。シドニーに住むアジア人の子供として、ある種のステレオタイプが存在していたから、彼らは僕にとって重要な存在だったな。」ANIMALS AS LEADERS 以来の衝撃。どうぞ!!

ARCING WIRES “PRIME” : 10/10

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