タグ別アーカイブ: Modern Metal

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONQUER DIVIDE : SLOW BURN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ISABEL “IZZY” JOHNSON OF CONQUER DIVIDE !!

“The Metal Community Is a Great Escape For People Because The Music Has So Much Energy And The Listeners Are So Welcoming To One Another. We Can Be Outcasts…But We Are Outcasts Together!”

DISC REVIEW “SLOW BURN”

「メタル・コミュニティは人々にとって素晴らしい逃避場所よ。なぜなら、メタルにはエネルギーが溢れているし、リスナーたちはお互いを歓迎しているからね。そうね、私たちは社会から追放されることもある……でも私たちは一緒に追放されているから大丈夫なんだよ! 」
分断された社会やパンデミックで、孤独に苛まれる世界。誰もそばにいない、誰もわかってくれない、誰も手を差し伸べてくれない。誰もが社会から一瞬で “追放” され、転がり落ちる危険をはらんだ世界で、メタルの叫びはきっと蜘蛛の糸。君はひとりじゃない。自らも社会から疎外された経験を持つ CONQUER DIVIDE はそうして様々な孤独の檻を、”Slow Burn” 緩やかな優しさの炎で燃やしていきます。
「私たちはみんな BRING ME THE HORIZON のファンなのよ。みんなと同じように、ミュージシャンも変化する。アーティストとして、何度も何度も同じような古い音楽を作るのはファンに対する冒涜だから」
長い活動休止を経て復活した国際的な5人組 CONQUER DIVIDE は、さながらリスペクトを捧げる BRING ME THE HORIZON のように豊かな成熟を遂げていました。クラシックなメタル・コアから、洗練と実験のオルタナティブへ。色彩と幅が広がった5人の音楽は、5人の内面や経験を語ることでさらに新たなレベルのカタルシス、芸術性、内省をもたらし、物語のメタル・コアとして孤独に挑むことになりました。
「”gAtEkEePer” は基本的に、私たちが女性だけのバンドであることを理由に、私たちを粗末に扱ってきた業界関係者や同業者すべてに対して立てた中指なの。それは、常に女性がフロントマンを務める音楽をブロックしようとする音楽業界のゲートキーパーたちに直接向けられたものよ」
CONQUER DIVIDE にとって新時代の到来を告げるこのエモーショナルでヘヴィなアルバムには、リスナーの心を揺さぶる感情や傷が幾重にも含まれています。そんな傷の中でも “いじめ” は一つの大きなトラウマとして常に語られています。
女性であることで拒絶され、SNS で誹謗中傷された傷。学生時代に文字通りのいじめを受けた傷。そうした “傷” は、加害者が思うよりも長く、永遠のように心の中に燻り続けることを彼女たちは知っています。だからこそ、ここでバンドもアンセムで、バラードで、そしてメタル・コアの叫びでその負の感情を解放し、同じような悩みでもがき続けるリスナーにも感情の解放を促しました。
“いつまでも過去にとらわれず、前へ進もう”。そうしてCONQUER DIVIDE は、”INVISIBLE” で世界から “透明人間” “のけもの” として傷ついた過去を捨て去り、みんなで未来へ進もうと呼びかけるのです。一緒なら大丈夫と抱きしめながら。
今回弊誌では、ギタリストの Isabel “Izzy” Johnson にインタビューを行うことができました。「10代の頃はアニメをよく見ていたし、J-ロックにもハマっていて、2008年にはロンドンでMIYAVI を見たよ。MIYAVI を見て14~15歳の頃のようなギターを弾く情熱が戻ってきたんだよ。正直なところ、MIYAVI の影響がなかったら、今の私は音楽をやっていなかっただろうね!」 どうぞ!!

CONQUER DIVIDE “SLOW BURN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TABAHI : THRASH FOR JUSTICE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FAIQ AHMED OF TABAHI !!

“While Karachi’s Reputation As a Challenging City May Have Influenced Our Music To Some Extent, It’s The Genre’s Ability To Speak To The Experiences Of Our Society That Truly Drives Us.”

DISC REVIEW “THRASH FOR JUSTICE”

「カラチが挑戦的な都市であるという評判は、ある程度は僕たちの音楽に影響を与えているかもしれないけど、僕たちを真に突き動かしているのは、スラッシュ・メタルが社会に語りかける能力なんだ。僕たちは、スラッシュ・メタルを強力な媒体として、自分たちの考え、経験、感情を世界と共有し、そうすることで、自分たちの身近な問題に取り組みながら、世界のメタル・コミュニティに貢献することを目指しているよ」
カラチはパキスタンで、いやもしかすると世界で最も危険で暴力的な都市だと言われています。この国で唯一のスラッシュ・メタル・バンド TABAHI がカラチを故郷とするのは、なるほどいかにもふさわしいように思えます。加えて、TABAHI というバンド名がウルドゥー語で “Destruction”(破壊)であることも、彼らのオールドスクールなスラッシュが猛威を振るう様を象徴しています。
「”Thrash For Justice” は、スラッシュ・メタルを様々な形で正義に取り組み、提唱する手段として使うという僕たちのコミットメントなんだ。僕たちは音楽と歌詞を通して、正義を求める差し迫った社会的、政治的、文化的問題に光を当てることを目指している。故郷カラチの闘争であれ、より広い世界的な関心事であれ、僕たちは自分たちの音楽を使って正義と前向きな変化を求める声を増幅させることを信じている」
ただし、彼らが破壊したいのは、”正義” に反することだけです。パキスタンのカラチは、実に多くの困難に直面しています。暴力が蔓延り、犯罪率が高く、政治と社会不安のある都市で、社会的な不公平が当たり前のように横行しています。だからこそ、彼らは “正義” に焦がれ、”正義” を望みます。そして TABAHI が正義を貫くに最も適した音楽こそ、スラッシュ・メタル、そのエネルギーと反発力だったのです。
「パキスタンでは、メタルというジャンルは依然としてニッチで、その生のエネルギーと激しさゆえに限られた聴衆にしか評価されていない。TABAHI という名前は、僕たちが耐えている苦難、僕たちが体現しているレジリエンス “回復力”、そして僕たちに不利な状況が積み重なっているにもかかわらず、それでも世界に永続的なインパクトを与えるという揺るぎない決意を痛烈に思い出させるものとなっているんだ」
つまり、彼らに刻印された “破壊” という名前は、臥薪嘗胆の薪であり胆でした。カラチで抑圧に耐える日々。しかし彼らは知っています。ヘヴィ・メタルも長く抑圧され、そしてその抑圧を自らが持つ回復力、反発力、”レジリエンス” で跳ね返してきた事実を。
“Breaking News” の散弾銃のようなリズム。”Run For Your Life” のソドマイズされた叫び。”Survive Or Die” のオールドスクールとモダンの激突。怒りと正義を力に変えた TABAHI のスラッシュ・メタルは、”ニュース速報”、”人生からの逃避”、”生きるか死ぬか” という楽曲のタイトル、その生々しさも手伝って、”本物” の匂いを怖いほどに醸し出しています。そう、”正義のためのスラッシュ”とは、人が人らしく生きるための当たり前を取り戻す反発と回復のモッシュ・ピットなのです。
今回弊誌では、TABAHI にインタビューを行うことができました。
「メタル・ミュージックの生々しくカタルシス溢れる性質は、僕たちの感情やフラストレーションを歌に注ぎ込むことを可能にすると同時に、同じような苦悩を経験しているかもしれない聴衆とのつながりを感じさせる。メタルの集団的な経験、情熱的なファン・ベース、そして音楽の団結力には、個人を高揚させ、逆境に正面から立ち向かう力を与える力があると僕たちは信じているんだよ。メタルは単なるジャンルではなく、コミュニティであり、強さの源であり、回復力を促し、それを最も必要とする人々を鼓舞する自己表現の形なんだ」 誰もがメタルの素晴らしさを再確認できるアルバム。それに、もしかしたら彼らの “正義感” は日本のアニメで養われたのかもしれないよね。そう考えると面白い!どうぞ!!

TABAHI “THRASH FOR JUSTICE” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【KHALAS : ARABIC ROCK ORCHESTRA】 HARMONY IN THE PALESTINE


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ABED HATHOUT OF KHALAS !!

“Our Music Is About Celebrating Life Despite The Horrors Of Our Region, There Is No Difference Between a Girl That Go To Shout In a Demonstration And a Girl That Choose To Dance And Laugh Despite Of The Occupation, We All Resist In Our Own Way.”

DISC REVIEW “ARABIC ROCK ORHESTRA”

「僕たちがパレスチナですることは、すべて政治的なことになっちゃうけどね。ビールを買うことでさえも政治的になるんだから (笑)。 そう、僕たちの音楽は、この地域の惨状にもかかわらず、人生を謳歌するためのもの。例えば、現状を憂いデモで叫びに行く女の子と、占領されているにもかかわらず踊って笑うことを選ぶ女の子に違いはないと思うからね。だからといって、どちらか一方が他方よりパレスチナを気にかけているということではなく、僕たちは皆、それぞれのやり方で抵抗しているということなんだ」
正邪混沌。私たちは今、正義と邪悪が混沌とした世界を生きています。もちろん、善と悪は、白と黒のようにスッキリとした二元論で割り切れるものではありません。多くの場合、両者の間には曖昧な “グレー・ゾーン” が存在し、その灰色の場所で人類は互いにうまくやる術を学んできました。
とはいえ、私たちは本能的に、もしくはそうして生きる中で、暴力や抑圧の愚かさを知り、ゆるやかに、なんとなくではありながら、寛容の尊さを理解してより良い世界に近づいているはずでした。しかし、気がつくと、世界は正義が邪悪、邪悪が正義の残酷で複雑怪奇な、見通しの悪い場所になっていたのです。パレスチナの砂地にメタルの種を撒いた KHALAS は、そんな歪んだ世界を音楽で変えれられると心から信じています。音楽で人生を謳歌することこそが、世界を黒雲で覆う二極化政治に対する抵抗。
「最近はプロパガンダ・マシンと偽メディアのせいで、ORPHANED LAND ともすべてにおいて意見が一致するわけではないけれど、それでも僕たちは友人で、互いの痛みや苦しみを尊重し、理解しているんだよ」
ロシアとウクライナ。イスラエルとハマス (パレスチナ)。もはやその戦いは、SNS とメディアの戦争です。誰もが正義を叫び、誰もが邪悪を叫び、誰でも自分の “側” に引き入れようと死力を尽くしています。その裏で傷つき、無惨に死んでいく無垢の魂には一瞥もくれずに。さて、私たちは何を信じ、誰の側に立ち、誰を救えばいいのでしょうか?
「僕がパレスチナの皆を代表して発言することはできないけど、民間人に対するテロ行為や大量虐殺は、誰が行おうとも非難されるべきものだ。それが組織的な軍隊であれ、過激派グループであれ、罪のない人々、特に子どもたちが政治的な欲や腐敗の代償を払うことは決してあってはならない」
そもそも私たちは、必ずどちらかの “側” に立たなければならないのでしょうか?いえ、もし誰かの “側” に立つとすれば、それは決して正邪混沌の元凶である権力者やテロリストたちではなく、平和を願う無垢なる人たちの “側” でしょう。あまりにも暴力的で極端な “暴君” たちの裏側には、顔の見えないその何万倍もの共存を望む優しい人たちがいます。イスラエル。パレスチナ。大きな主語で、そのすべてを一括りにすることこそ愚か。そもそもが灰色である正義を、邪悪を声高に叫ぶ人々、その声の大きさに取り込まれてはいけません。
事実、パレスチナが産んだオリエンタル・メタルの雄 KHALAS の音楽は、見事に中東と西欧が融合していますし、彼ら自身、イスラエルの ORPHANED LAND とのツアーを融和と共に完遂した経歴を持ちます。つまり、溜め込んだ憎しみも武器も捨て去り溶け合うことは、決して荒唐無稽で夢見がちなお伽話というわけではないのです。ただ願うのは、共存共栄と普通の人々の平和で普通の日常のみ。
今回弊誌では、KHALAS の Abed Hathout にインタビューを行うことができました。「この状況は今に始まったことではない。過去75年間の占領下で続いてきた、終わりのない血の連鎖の新たな章なんだよ。今起きていることはすべてこの75年の結果なんだけど、政府や選挙で選ばれた人たちは、すべての人に平等な人権を与え、占領を終わらせるための非暴力的な解決、その道を歩むことを拒んでいるんだ」 どうぞ!!

KHALAS “ARABIC ROCK ORCHESTRA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KATATONIA : SKY VOID OF STARS】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS RENKSE OF KATATONIA !!

“I Don’t Really Mind The Different Tags People Put On Our Music. We Can Only Do The Music That Keeps Us Inspired And It Doesn’t Matter What Genre It’s Supposed To Be.”

DISC REVIEW “SKY VOID OF STARS”

「すべてのアルバムは新しい章であり、作曲やレコーディングをしている間は、そのアルバムが将来的にどんな意味を持つかなんて考えていない。僕らははただ “今” にいて、自分自身を凌駕しようとしている。作ったアルバムがディスコグラフィーの名作になるかどうかは、歴史が示してくれるだろうね」
KATATONIA、そして Jonas Renkse は、”時代” という言説をあまり信用していません。正直なところ、多くのバンドはそうではありません。そして、KATATONIA というアーティストは、自身をリスナーとは全く違った “今” というレンズで作品を見ています。
「僕らの音楽に付けられる様々なタグはあまり気にしていないんだ。僕らが生み出せるのはインスピレーションを維持できる音楽だけで、それがどんなジャンルであろうと関係ないんだからね」
ゴシック・ドゥームやデスメタルに生を受け、アトモスフェリックなダーク・メタル、ポスト系の音作り、アンビエント、フォーク、プログレッシブと、時に鋭く、時に溶け合いながら、万華鏡のごとくそのサウンドを変化させてきた KATATONIA。リスナーからすれば、アルバム間の区別、つまり “Brave Murder Day” と “Discouraged Ones”、”Last Fair Deal Gone Down” と “Viva Emptiness” 、”The Great Cold Distance” と “Night Is the New Day” 、さらにそこから “Dead End Kings” とのリリースを隔てる、ほとんど断崖絶壁のような決定的 “違い” は、何らかの意識的な決断が働いていると思わざるを得ません。しかし、Jonas はインタビューの中で、そうではなく、KATATONIA の各アルバムは明らかに、一つの芯となる同じ DNA を共有していることを明かしています。それは、彼らの象徴である鴉に宿る暗がりで、メランコリーで、憂鬱。ただし、そんな KATATONIA にも、皮肉なことに “時代” の風を受けた変化の兆しが現れています。
「音楽は常に苦しい現実からの慰めと逃避を提供してきた。そして今もそうだ。音楽という、苦難から乖離した聖域を作り出すことのできる力。その一部になれたことを、僕はうれしく思うよ」
パンデミックや大きな戦争、分断という未曾有の苦難は、KATATONIA の活動、そして Jonas の心にこれまで以上の暗い影を落としました。自分にできることは何なのか。Jonas がたどり着いた結論は、音楽で逃避場所という “サンクチュアリ” を作ること。
“Sky Void of Stars” で私たちは、間違いなくそれを聴くことができます。分厚いベース、轟くメランコリー、そして寂しげなギターはたしかに、今でも彼らのサウンドの大部分を占めています。しかし、”Opaline” が示唆するノスタルジックで、きらびやかで、重厚なシンセの虹空は、エモーショナルなコーラスと相まって、明らかに、苦境に立つリスナーへと寄り添う KATATONIA の新たなサンクチュアリでしょう。
もちろん、プログレッシブな “Austerity”、アンセミックな “Birds”、アトモスフェリックな “Sclera” は過去の残響。しかし、その残響にはすべて、”優しさ” という新たな魅力が加味されています。星のない空などを望む人はいないでしょう。エネルギッシュでありながら瞑想的な優しき名作。そう、KATATONIA は常に挑戦し、今を生きるメタル世界では稀有なるバンドなのです。また、アルバムを締めくくる、6/8の変幻自在なバラードが素晴らしい…
「Mikael Akerfeldt との “聴き合い” の儀式は今でもやっているよ。楽しい儀式だし、最近は集まってつるむための理由という意味の方が大きいかもしれないね。OPETH と KATATONIA は今でも多くの影響を共有しているけれど、ささやかで恵まれない始まりから間違いなく違う道を歩んできているよ」
そんな KATATONIA の初来日が遂に決定しました。”Better Late Than Never”。ボーカリスト Jonas Renkse の、OPETH の Mikael Akerfeldt との親交の深さ (“Brave Murder Day” のボーカルはほとんどが Mikael のもの) 、音楽性の近しさは有名な話ですが、それ以外にも、AYREON や Bruce Soord との WISDOM OF CROWD への参加など、彼の歌声に対するミュージシャンからの信頼は絶大なものがあります。Mr. エモーショナル。Jonas Renkse です。どうぞ!!

KATATONIA “SKY VOID OF STARS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLIND EQUATION : DEATH AWAITS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLIND EQUATION OF JAMES MCHENRY !!

“The Largest Influence On Our Music However Is The Touhou Soundtrack By ZUN. Especially Touhou 8 – Imperishable Night. Yume Nikki And It’s Fangames Have Also Been Largely Influential To Me For The Last Two Albums.”

DISC REVIEW “DEATH AWAITS”

「メタルのルールや境界線を破るためだけに音楽を書いているとは言わないけど、その境界線が自分の制作や作曲のプロセスに影響を与えることはないね。破壊が理にかなっていて、人々の期待を打ち砕くようなものであれば、僕はそれをとても楽しいことだと思うからね」
イリノイの BLIND EQUATION が牽引する “サイバー・グラインド” が一体何なのかよく分からなくても、”Death Awaits” を聴けばその狂気に衝撃を受けることは間違いありません。8bitのチップチューン、ユーロ・トランス、ブラックメタル、そしてグラインドが融合したこの混沌は純粋に、これまで世の中に存在しなかったもの。その音楽はまるでアートワークの彼岸花のように、甘く、切なく、美しく、そして危険です。
「僕らの音楽に最も大きな影響を与えているのは、ZUN による東方サウンド・トラックなんだ。特に東方8、”東方永夜抄 ~ Imperishable Night” だね。夢日記とそのファンゲームも、過去2枚のアルバムに大きな影響を与えているんだよ。ライティング・プロセスでよくプレイしていたからね」
8bit・エレクトロニクスとブラスト・ビートが時にアンセミックに、時にカタストロフィックに共鳴し爆発する彼らの音楽は当然、日本のゲーム・ミュージックに感化されています。ただしそれは、悪魔城ドラキュラや F-Zero、そしてファイナル・ファンタジーといった、海外のアーティストにとってある意味 “おなじみ” となったメジャー作品ではなく、よりアンダーグラウンドな、ZUN 氏が主催する同人サークル “上海アリス幻樂団” による東方Project でした。
「僕たちはみんな一緒に闘っているのだから、お互いに支え合うことが大切なんだよ。音楽や芸術は、ネガティブな感情から逃避するための素晴らしい方法だよね。それはたしかだよ。でも、それ以上に、そうした感情に対処し、癒すためにも使うことができる。音楽コミュニティで素晴らしい人々に出会えたことは、僕を人間として向上させ、単なる逃避以上のものになっているんだから!」
前作 “Life is Pain” “人生とは苦痛” と違って、”Death Awaits” は、現実世界の不安やネガティブな人生経験、対人関係の痛み、失われた信頼について吐き出しながらも、そこに一筋の希望を込めています。
サイバー・グラインドも東方Project も、言ってみれば日陰の中の日陰。メタルやゲームといった現実世界からの逃避場所の中でも、非常に深くて遠い逃避場所でしょう。しかし、だからこそ、BLIND EQUATION の首領 James McHenry は、その深く暗い場所へと逃げるだけではなく、負の感情に対処し、癒やされ、深淵から這い出ることも必要だと語ります。
“孤独なのは君だけじゃない”。そう、あのぼやけた彼岸花のごとく、”Death Awaits” に流れる黒とピンクの曖昧なコントラスト。それは、痛みと希望であり、破壊と協調であり、重さと美しさであり、危険と優しさの象徴です。
アップリフティングとダウナーで極端に二極化されたように思える BLIND EQUATION の音楽でさえ、その”叙事詩” はメタルのルールを破りながら一つとなり、無限の可能性を示してみせました。だからこそ、彼らのこの混沌とした音楽はこの混沌の時代に、孤独なリスナーの心に寄り添い、そっと手を差し伸べる権利があるのでしょう。
今回弊誌では、James McHenry にインタビューを行うことができました。「特に Camellia & Nanahira のアルバム “GO-IN!” は、クリエイティヴな面で僕に大きな影響を与え、BLIND EQUATION の曲作りにおけるジャンルの切り替えやより混沌とした部分の多くにインスピレーションを与えてくれたんだ」 ドラム、ボーカル、ショルキーのトリオ編成も最高!どうぞ!!

BLIND EQUATION “DEATH AWAITS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SOLEO : SOLEO】


COVER STORY : SOLEO “SOLEO”

“Music, Just Like Any Artform, Can Inspire a Person To Act, But It’s Still Up To The Person To Put One Foot In Front Of The Other.”

SOLEO

SOLEO は、ボーカルとギターのアミール・ゴリザデ、ドラムのニック・ゴリアス、ベースのタイナン・エヴァンスによって結成されたモダン・プログ・バンドです。クリーブランドを拠点とするこのトリオは、ゴリザデの両親が1979年のイラン革命時に祖国を逃れ、アクロンに避難した経験にインスパイアされ、セルフタイトルのデビューアルバムを今夏リリースしました。
「アルバムに収録されている “Uncle” という曲は、母の叔父のことを歌っているんだ。彼らは母の兄を捕らえ、母の父を捕らえ、彼らも処刑するつもりだった。二人はなんとか逃れたけどね…

ゴリザデの両親はアクロン大学で出会いました。ゴリザデはそうした自分のルーツを知り、音楽を通して家族の物語を伝えたいと思うようになっていきました。
「年をとるにつれて、イランの文化をより深く理解するようになった。このアルバムに取り組んでいる時、イランの歴史について両親ともっと話すようになったんだ。そして自分でも、もっと調べたんだよ」
ゴリザデは若い頃から音楽に造詣が深く、高校時代には AMBERSEIN というバンドを結成していました。

“I grew up listening to a mix of American and Persian music, and I think that’s where my sound comes from. As I got older, I started exploring music more and now I listen to pretty much everything from all over the world. Actually, one of my friends just got me into Japanese prog music from the 1960s. It’s good! I still don’t know much about it, but it’s something I’m learning more about these days.
It would take me way too long to name all the artists that have inspired me, but I wouldn’t say they influenced my writing because I try not to emulate other artists. I want to create original sounding music with my own style. I think copying another artists is a waste of time. That’s just doing a worse version of something that already exists. I don’t want to do that. I want to enjoy their music, and then create my own. I probably do subconsciously draw from artists I listen to, but I try not to.”


「僕はアメリカ音楽とペルシャ音楽をミックスして聴いて育った。大人になるにつれて、もっと音楽を探求するようになり、今では世界中のあらゆる音楽を聴くようになったよ。実は、友人の一人が1960年代の日本のプログレを聴かせてくれたんだ。いいよね!まだあまり詳しくはないけど、最近もっと勉強しているところなんだ。
僕にインスピレーションを与えてくれたアーティストの名前を全部挙げると長くなりすぎるけど、僕は他のアーティストのマネはしないようにしているから、彼らが僕の作曲に影響を与えたとは言えない。僕は自分のスタイルでオリジナルな音楽を作りたいんだ。他のアーティストのコピーは時間の無駄だと思う。それは、すでに存在するものの悪いバージョンをやっているだけだ。そんなことはしたくない。彼らの音楽を楽しんで、それから自分の音楽を作りたい。無意識のうちに、自分が聴いているアーティストの曲を参考にしているのかもしれないけど、そうしないようにしているんだ」

そうして彼は、中東の伝統的な音に大きくインスパイアされた独特のギター・チューニング・スタイルを確立し、曲作りを始めたのです。
「大学時代に父がイランに行ったことがあるんだ。父が帰ってきて、シタールをプレゼントしてくれたんだ。エレキギターをこんな風にチューニングしたら、どんな音がするんだろうってね。すべては、僕が思いついたギターのチューニングから始まったんだ。僕が弾いたチューニングは中東の響きに聞こえた。自然と、それに惹かれたんだ」
大学院に通うためにカリフォルニアに引っ越した後、ゴリザデはより真剣に音楽を追求するためにオハイオ州北東部に帰りたいという気持ちになりました。そして、AMBERSEIN の元バンド仲間であるタイナン・エヴァンスに、新しいプロジェクトを始めることを相談したのです。
ゴリザデは、ベースのエヴァンスに取り組んでいた中東風の曲を紹介し、2人は後にドラムのニック・ゴリアスを加えて SOLEO を結成しました。
SOLEO のサウンドは、西洋のプログレッシブ・ロックとストーナー・メタルに古典的なペルシャ音楽を融合させたシネマティックなもの。このブレンドが、より大らかで壮大なサウンドを生み出しているのです。アルバムは全体として、PINK FLOYD の “The Wall” や THE WHO の “Tommy” のような古典的な作品を思わせる映画的な感覚を持っていますが、同時に現代的なチャレンジも組み込まれています。
ゴリザデのシタール風ギターのサイケデリアと、メタル的なドラミング、ドロドロしたベースラインが、SOLEO に典型的なプログレッシブ・ロックとは一線を画す渾然一体型サウンドを与えています。
バンドは約8年前から共同で曲を作っていて、デビュー・アルバムはその間に作られたもの。驚くことに、2022年にポスト・ハードコアやメタルコア・バンドの多いレーベル、Tragic Hero Records と契約を果たしました。
「”Manifesto” は、おそらく僕が書いた最初の曲で、”これが何になるか分かっている。これがアルバムのオープニングになるんだ” と思っていたね」
オープニング曲のアイデアは、イラン革命の精神的指導者であったルーホッラー・ホメイニー師が、嘘に基づいた楽観的な未来について国民に向けて演説をするというものでした。
アルバムはそこから、ゴリザデの母親がイランから逃れてきて、アクロンで生活と家庭を築くまでを3つの章で語っています。つまり、84分にも及ぶ “Soleo” は、中東とアメリカの両方を横断する物語をリスナーに届けるというコンセプトに沿っているのです。

アルバムは、2009年の大統領選挙後にイランで起こった政治運動グリーン・ムーブメントについても歌っています。
「現職のマフムード・アフマディネジャドは非常に不人気だったため、(アフマディネジャドを支持する)イランの最高指導者が彼の圧勝で再選されたと主張したとき、ほとんどの人々は選挙結果の妥当性を疑った。
“緑” という色は当初、勝利が有力視されていた対立候補、ミール・ホセイン・ムサビの選挙運動で使われ、それに関連していた。選挙後、緑色は革命を推進する人々の団結の象徴となった。圧政を排除し、市民の繁栄を支援するために献身的なより良いリーダーシップをもたらすもののね。緑色は自然を連想させ、生命と成長を象徴しているからだ。 この曲は特にグリーン・ムーヴメントについて歌っているけど、このムーヴメントが歴史上の他の瞬間と類似していることを認識し、強調したかったんだ」
アルバムの終盤は現実から理想というフィクションへと変化し始め、”Soleo” という曲では、ゴリザデと彼の兄弟がイランに戻り、人々を解放するというファンタジーが描かれています。
「第3幕は、イラン革命が僕の母にどのような影響を与えたか、僕にどのような影響を与えたか、そしてイラン人一般にどのような影響を与えたかについて。明らかに、そんなことは起こらない。それでも、革命が起こり、成功すれば、僕たちの多くは、少なくともイランを訪れるために戻ることができる」
ゴリザデはこれまでに2度イランを訪れたことがあります。赤ん坊のときと、大学時代に父親と訪れたとき。しかし母親は一度も戻っていません。
「母の歴史について話すのは、最初はためらった。というのも、クレイジーに聞こえるだろうけど、向こうの政府には人々を監視する人間がいるんだ。彼女は、僕が作品を公開したことに少し神経質になっているけど、彼女の同意なしに公開したわけじゃない。最終的に彼女は問題ないと言ってくれたよ」
ゴリザデは、自分の家族の歴史について音楽を書くことは、解放的で自由であると同時に、最も困難なことであるといいます。
「多くの人が、移民という同じような経験をしているのに、それを表現する方法がないのだと思う。これが僕の家族だけの物語だというのは短絡的だ。多くの人が故郷を離れ、別の場所で新しい生活を始める。だから、ストーリーはユニークだけど、コンセプトは普遍的なんだ。僕の家族のように物理的に居場所がなかったり、学校で仲間はずれにされたり、自分の居場所がどこにもないと感じたり。それがいくつかの曲の大きなテーマなんだ」

イランでは、ヘヴィ・メタルは禁止された音楽です。

“I don’t know if they consider it “devil’s music” but they do say it’s “against Islam” and therefore it is banned. I disagree with this idea, and I would say most Iranian people do as well. Their current government is anti-western culture, so they ban anything that is western influenced, like rock and metal music. But suppressing music just makes people want to engage with it more, so it’s a silly idea to me. I’ll leave it at that.”


「彼らがそれを “悪魔の音楽” と考えているかどうかは知らないが、”イスラム教に反する” と言っているのはたしかだ。僕はこの考えに同意しないし、ほとんどのイラン人もそうだと思う。イランの現政権は反西洋文化主義なので、ロックやメタルのような西洋の影響を受けた音楽を禁止している。しかし、音楽を抑圧することは、人々がもっと音楽に関わりたいと思うようになるだけで、僕にとっては愚かな考えだよ。それは置いておこう」

近年、移民問題は、ここ日本でも多くの注目を集めるようになりました。

“I’d like to know more about what is happening in Japan to spark these kinds of discussions. I think the best way to get along with a group of people you’re not familiar with is to get to know them. Once you scratch the surface, you will find more similarities between people than differences. We all want the same things, and we all have the same kinds of struggles, desires, etc. They just have different flavors to them. But to aliens, we all look the same, like big talking monkeys.
Unfortunately, you can’t force people to be tolerant of one another. I don’t know how to get those kinds of people to accept immigrants. But if someone wants to immigrate to your country, they probably have a love or admiration for it, so take it as a compliment. They’re not here to ruin your country. Immigrants just want to live their lives in peace, just like everyone else. It’s oftentimes scarier for them to move to a new country than it is for the natives to welcome them in. So be kind to them and they will probably be kind to you too.”


「議論を巻き起こすために、日本で何が起きているのかもっと知りたい。馴染みのない人たちと仲良くなる一番の方法は、その人たちを知ることだと思う。ひとたび表面を剥がせば、人々の間には違いよりも共通点の方が多く見つかるはずだ。みんな同じものを求めているし、同じような葛藤や欲望などを持っている。ただ味付けが違うだけだ。しかし、エイリアンから見れば、僕たちは皆同じで、大きな口をきくサルのように見える。
でもね、残念ながら、人々が互いに寛容であることを強制することはできないんだ。そういう人たちに移民を受け入れてもらうにはどうしたらいいかわからない。でも、もし誰かがあなたの国に移民を希望しているのなら、彼らはおそらくその国に愛着や憧れを持っているはずだから、それを褒め言葉として受け取ってほしい。彼らはあなたの国を破滅させるために来ているわけではないんだよ。移民は他の人たちと同じように、平和に暮らしたいだけなんだ。彼らにとっては、新しい国に移住することは、原住民が彼らを迎え入れることよりもきっと怖いことなんだから。だから彼らに親切にすれば、きっと彼らもあなたに親切にしてくれるだろう」

ゴリザデの親友の一人は、日本人です。

“Absolutely! One of my best friends is Japanese. After high school he moved back to Tokyo. I visited him while I was in college. We explored Tokyo and Kyoto together. It was one of the most important experiences in my life. I love Japanese culture. The food is amazing, the people are kind, and the history is rich. Most of my musical instruments were made in Japan too. My guitar is a Caparison, hand-made in Japan. I also have a Korg synthesizer, and a few Yamaha instruments. I love all of them.
And yes, I do like video games and anime, most of my friends do. I’m a master at the original Super Smash Brothers for Nintendo 64, and I will never back down from a challenge. I do enjoy anime as well. I think it’s very imaginative and often quite thought-provoking. The enthusiasm of Japanese voice acting is fun to listen to. Hayao Miyazaki films are my favorite anime, but I’ve enjoyed plenty of others as well. Howl’s Moving Castle is probably my favorite Miyazaki film.
To our Japanese fans I would say, thank you so much for listening to our music. It’s really amazing to learn it has made its way to Japan. I appreciate every single one of you and I hope we can meet soon. I’ve been wanting to come back to Japan for a while now, and playing music for our fans there would be a great reason to do so. Please feel free to reach out! Arigatou gozaimasu!”


「僕の親友の一人は日本人だ。高校卒業後、彼は東京に戻ったから、大学在学中に彼を訪ねたんだ。東京と京都を一緒に探検した。それは僕の人生で最も重要な経験の一つとなった。僕は日本の文化が大好きだよ。食べ物は素晴らしく、人々は親切で、歴史は豊かだ。僕の楽器もほとんどが日本製なんだ。僕のギターはキャパリソンで、日本で手作りされたもの。コルグのシンセサイザーも持っているし、ヤマハの楽器もいくつか持っている。どれも大好きだよ。
ゲームやアニメも好きでね。NINTENDO64の初代 “大乱闘スマッシュブラザーズ” の達人なんだ。アニメも好きだよ。とても想像力豊かで、考えさせられることも多い。日本の声優の熱意は聞いていて楽しい。宮崎駿監督の作品が一番好きだけど、他の作品もたくさん楽しんでいるんだ。”ハウルの動く城” は宮崎作品で一番好きかもしれない。
日本のファンには、僕らの音楽を聴いてくれて本当にありがとうと言いたいね。日本まで届いたと知って、本当に驚いているんだ。一人一人に感謝しているし、すぐに会えることを願っている。また日本に行きたいとずっと思っていて、日本のファンのために音楽を演奏することは、そのための素晴らしい理由になるだろう。気軽に声をかけてほしい!ありがとうございます!」

イランの最後の国王が支配権を失い、イスラム共和国が国を掌握したイラン革命が、このアルバムの中心的なコンセプト。1年にわたる一連の抗議行動、ストライキ、武力闘争の中で、何千人もの人々が殺されたり、避難を余儀なくされました。
ゴリザデは、アルバムのテーマ、特に革命時に殺された母親の叔父を歌った “Uncle” について、両親には話していないといいます。
「彼はイスラム教に背き、新体制に服従しなかった。だから、ホメイニにひざまずいて、”あなたが私の指導者です” と言えば、殺さないと言われたんだ。だけど、その男の顔に唾を吐きかけ、『王万歳』と言ったところ、撃たれたという話だ。かなり衝撃的だった」
ゴリザデは、ヒジャブの着用をめぐりイランで殺害されたマフサ・アミニさんの事件にも大きな衝撃を受けました。
「地球の裏側で、女性を殴り殺すのがなぜ悪いかについて考えながら、ただポツンと座っているだけで、僕はなんだか役立たずな気がするよ。でも今は、他に何をしたらいいのかわからない。僕が今思いつくのは、この言葉を広め、意識を高める手助けをすることで、変化を起こすために十分な数の人々が結集できるようにすることだ。
22歳のイラン人女性、マフサ・アミニが首都を訪れていたとき、自称 “道徳警察” がヒジャブの下の髪の露出が多すぎるという理由で彼女を逮捕した。これはイランの女性にはよくあることだが、最近政府はこの馬鹿げた法律をより厳しく “取り締まる” ようになった。彼女が拘束されている間に何が起こったのかはまったくわからないが、状況証拠によれば、彼女は頭を殴られたようだ。警察に拘束されている間、彼女が気を失って昏睡状態に陥っている映像がある。ねえ、着ている服のことで女性を殺すことに “道徳的” なことだと言えるのだろうか?
イランは美しい国だ。人々は素晴らしく、温かく、思いやりがある。僕は自分の出自に強い誇りと愛着を持っている。しかし、1979年の政権交代以来、政府はここまで堕落してしまった。これが僕の家族、そして他の多くの人々がイランから去った理由だ。もっと “世俗的” な政府が必要だ。そうでなければ、権力者は “神の名の下に” 女性を殴り殺したり、その他の凶悪な残虐行為を行うことができる。だけどそれは神などではない。悪だ。女性の権利に関心があるなら、これは重要なことだ。黒人の命に関心があるなら、これは重要なことだ。そして、もしあなたが “すべての命が大切だ” と唱えているのなら、これはあなたにとって大切なことだ。これは人権問題であり、誰も自国の政府に殴り殺されるべきではない。何か変化を起こさなければならない」
イスラエルとパレスチナの新たな火種にも言及します。


“I see it all as a tragedy. I don’t know enough about world politics or the history between Israel and Hamas to really give an informed opinion on this particular issue. All I know is that it’s sad to see. I don’t know anything about Iran’s involvement in it either, or if they’re backing Hamas, but it wouldn’t surprise me. America is backing Israel in this fight, so I’m sure Hamas is getting support from other countries as well.”

「すべてが悲劇だと思う。僕は世界政治やイスラエルとハマスの歴史について十分な知識を持っているわけではないから、この特別な問題について本当に詳しい意見を述べることはできない。僕が言えるのは、ただ見ていて悲しいということだけだ。イランの関与についても、彼らがハマスの後ろ盾になっているのかどうかも知らない。アメリカはこの戦いでイスラエルを支援しているのだから、ハマスも他の国から支援を受けているはずだよね」

ゴリザデは、このアルバムはコンセプチュアルなもので、彼の家族の音声記録やイラン革命の映像まで含まれていますが、彼は歌の中の移民の経験が一般の聴衆に語りかけることを望んでいます。
「僕らを応援してくれている人たちには本当に感謝している。僕らの演奏を見るためにお金を払ってくれたり、シャツやCDを買ってくれたりするのは、本当にクールなことだと思う。気に入ってくれることを願っている。できるだけ多くの人に、中東で起こったことや、移民の現状を見せたいんだ」
音楽は、人と人との調和のために、何ができるのでしょうか?

“People enjoy and connect with music, which can enrich a person’s life. And that certainly is important. However, I don’t think music itself necessarily does anything to create change for a peaceful or better world; it’s people who do that. Music, just like any artform, can inspire a person to act, but it’s still up to the person to put one foot in front of the other.
A great example of this is the song “Baraye”, written by Iranian artist, Shervin Hajipour. It is a song inspired by the death of Mahsa Amini, who was killed by the Iranian government last year. Her death sparked a protest in Iran, and that song was so moving that it became the anthem of the protest. I think it inspired people to get engaged with the movement, and it also helped spread awareness of what was happening. In those regards, music can help create a better world, but it’s still up to people to take action.”


「人は音楽を楽しみ、つながり、それによって人生を豊かにすることができる。それは確かに重要なことだ。しかし、音楽そのものが必ずしも平和な世界やより良い世界への変化をもたらすとは思わない。音楽は、他の芸術と同じように、人に行動を促すことはできるが、それでも片足を前に出すのはその人次第だからね。
その好例が、イランのアーティスト、シェルヴィン・ハジプールが書いた “バラエ” という曲だ。この曲は、昨年イラン政府によって殺害されたマフサ・アミニの死にインスパイアされたものだ。彼女の死はイランでの抗議を呼び起こし、この曲はとても感動的で、抗議の賛歌となった。この曲は、人々が運動に参加するきっかけとなり、また、何が起きているのかという認識を広めるのに役立ったと思う。そういった点で、音楽はより良い世界を作る手助けになる」

参考文献: Prog-rock band Soleo tells a family’s story of fleeing Iran in the 1970s

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WORMHOLE : ALMOST HUMAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH WORMHOLE !!

“SF, Video Games, And Heavy Metal…These Are All Things Nerds Like. We Are All Some Kind Of Nerd.”

DISC REVIEW “ALMOST HUMAN”

「SF、アニメ、ゲーム、そしてヘヴィ・メタルはすべて、オタクが好きなものなんだよ。僕らはみんなある種のオタクなんだ」
VOIVOD や PERIPHERY の例を挙げるまでもなく、ヘヴィ・メタルは古来より、SFやアニメ、ビデオゲームと非常に親和性の高い音楽ジャンルとして名を馳せてきました。そこに共通するのは、何かに夢中になり熱狂する力、”オタク力” だとバルティモアの WORMHOLE は胸を張ります。ストイックなまでに己の好奇心を追求するそのパワーこそが、創作の原動力であり、インスピレーションの源となる。そうして様々なジャンルの “オタク力” を集結したメタルのワームホールは、遂に独自のメトロイド・メタル、そして “Tech-Slam” を発明するに至りました。
「”メトロイド・プライム” に惹かれたんだ。8歳と9歳の僕らにとって、一番あのゲームが “ホラー” だったんだよね。それに、かなり暴力的だから、8歳なら当然クールだと思うだろう。それから、雰囲気、キャラクター・デザイン、メトロイド・ヴァニア・タイプ (メトロイドとキャッスル・ヴァニアをあわせた造語。横スクロール・アクションの総称) のゲームデザイン、そしてサムスに惚れ込んだんだ」
では、”テック・スラム” とは一体何なのでしょうか? それは彼らがメトロイドやドゥームといったSFビデオ・ゲームを何千時間もプレイする中で発見し、完成させたエトスです。WORMHOLE の変幻自在で不定形なスタイルは、そうしたビデオゲームの名作と同じく、オールマイティの狂気と挑戦を孕んでいます。テック、メロディ、ブレイクダウン、アトモスフェリック、不協和音…つまり彼らの “Almost Human” な “テック・スラム” は、暴力、ホラー、おどろおどろしいメタルのファンが求めるどんな空白も埋めることができるのです。
「”ルイージ・マンション” は、”Data Fortress Orbital Stationary” の曲の一部にインスピレーションを与えてくれたね。例えば、ルイージが吹く調子ハズレの笛とかね。遊戯王や、屍鬼のようなホラー・ミステリー系のアニメも大好きなんだよね。屍鬼は最高だ!」
そうして彼らのワームホールはメトロイドのみならず、アニメやカード・ゲームなど日本が生んだサブカルチャーをことごとく飲み込みながら、その不協和を巧みに調和させていきます。メトロイドのサウンド・トラックや世界観には、暗くて陰鬱な雰囲気の一方で、美しく幻想的なイメージも多く存在します。そして怪談から続く日本のサブカルチャーには、そうした恐怖と審美の二律背反が巧みに共存を続けてきました。そうした日本の審美眼に薫陶を受けた彼らは、アグレッシブで露骨なアプローチの曲の中で、その美しくも技巧的で、ある種突拍子もないサウンドを取り入れる方法を見つけたのです。
だからこそ、彼らの “テック・スラム” には、あまたのテクデスやスラムにはほんの少しだけ欠けている、成熟度、ニュアンス、オリジナリティが完璧に備わっています。ARTIFICIAL BRAIN や DYSRHYTHMIA の不協和なデスメタルに、NECROPHAGIST の卓越した技巧、そしてSFホラーのサウンド・トラックが三位一体となり共栄するメトロイドのメタルは、まさにメタルのバウンティ・ハンターとして恐怖の探索を担っていきます。
今回弊誌では、WORMHOLE の Kumar 兄弟にインタビューを行うことができました。「僕たちの福音だと言えるかもしれないよね。僕たちはテックが好きだし、スラムも好きだ。僕たちが本当に求めている、そうしたフレーバーの組み合わせを聴いたことがなかったから、それを作ろうとしたんだよ」 どうぞ!!

WORMHOLE “ALMOST HUMAN” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENTERRE VIVANT : 四元素】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ENTERRE VIVANT !!

“Our Music Has Dark Parts And Light Parts. “Two Become One” Is The Concept Of The Band. Music Made Together By One Person Living In France And One Person Living In Japan. A World That Mixes European And Japanese Culture. An Atmosphere That Mixes The Past And The Present…”

DISC REVIEW “四元素”

「今までうまくブラックメタルと日本をミックスしたバンドは少ない。少なすぎる。その中でも自分にとってレジェンドである 凶音 (MAGANE) のファースト・アルバムは最高です。復活してほしいな~。だから Enterre Vivant はずっと聴きたい音楽を作っていることになります。自分の毎日を見せている音楽。日本とブラックメタルです」
25年前、日本にやってきたフランスの若者は、日本を愛し、日本で暮らし、日本を見つめ、”本当の自分” を日本とブラックメタルの婚姻により描き出すことを決めました。それは Sakrifiss にとって、日常であり、自然に自らの内面から湧き出すもの。人生を着飾る必要はない。優れた人になる必要はないけれど、”本当の自分” でいて欲しい。Sakrifiss の人生という泉、もしくは黄泉メタルが生み出した願いは、結果として日本とブラックメタルを誰よりも自然に融合することとなりました。
「四元素。しかしこの作品は、風、火、水、土の話しだけではありません。人間、人生についてでもあります。たとえば、”水” という曲は過去と未来の話も含まれている。人間にも上流と下流があります。泉から生まれてそして水のように人生が流れていく。人生は滝のように、川のように、激しくなったり、弱くなったりします。でも最後は河口で旅が終わります。泉へ戻りたくても無理だ。流れていくしかない。あきらめた方がいいという意味じゃない。人間は自分は何ができる、何ができないかを知って生きるべきだという意味でしょう」
風、火、水、土。この世の全ては、 その4つ (ないしは5つ) の元素から成り立っているという考え方は、ヨーロッパにもアジアにも古くからありました。そして元素同士を結びつけるのが愛で、引き離すのが憎しみという考え方もそこには付随しています。フランスに住むフランス人と日本に住むフランス人が結びついた Enterré Vivant のアルバム “Shigenso” は、共通する自然哲学を媒介とした愛によって、欧州と日本を優しく結びつけました。
そうして、彼らのブラックメタルで歌われる4つの元素は、人生の様々な場面を構成していきます。流れに逆らわず、風の導きのまま、炎を宿して、土のように満ち足りた、弱さを認めた本来の自分であればきっとより良い明日になる。ケ・セラ・セラというフランス語、もしくは人間万事塞翁が馬というアジアの古事…そんな未来へ向けたポジティブで率直なメッセージがアルバムには込められています。
「”Enterré” は “うめる”、”Vivant” は “生きたまま”。つまり反対のイメージを持っている二つの単語です。”暗い” 言葉と “明るい” 言葉のミックスにしたかったからです。Enterré Vivant の世界にぴったりのチョイスだと思いました。私たちの音楽には暗いパーツがあって明るいパーツもあります。”二つが一つになる” がバンドのコンセプトなのです。フランスに住んでいる一人と日本に住んでいる一人が一緒に作った音楽。ヨーロッパと日本の文化をミックスした世界。昔と今を混ぜた雰囲気」
フランス語のモノローグと日本語のナレーション。日本の伝統楽器と西欧の現代楽器。日本古来のメロディと西欧のモダン・メタル。そして、日本の生き方と西欧の生き方。精神も、場所も、時間も超越して一つになった音世界がここにはあります。
反対のイメージを持ったものでさえ、固定観念にとらわれなければ、正直であればきっと一つになれる。鳴り響く美しきトレモロのメロディ、ブラックメタル特有の灼熱の叫び、プログレッシブな建築術、そして和の色彩を宿したあまりにも感動的なアトモスフェリック・ブラックメタルは、音の四元素の輪を輪廻のように展開しながら、メタルの寛容さを具現化していくのです。
今回弊誌では、Enterre Vivant にインタビューを行うことができました。Sakrifiss さんの回答はほぼ原文ママの日本語です。「18歳になって私は日本語と日本の文化の勉強を始めた。大学で日本の歴史のことももっと知るようになりました。凄く魅力的だったのは土偶、源氏物語、浄瑠璃、世阿弥、松尾芭蕉・・・昔の日本もとても面白いですが、もうちょっと最近なら1950年代と1960年代の映画も大好きです。三船敏郎様出演の映画も素晴らしいですが、一番好きなムービーは “ビルマの竪琴”。昔の日本が大好きだが、もっと最近ならやっぱり1990年代からのジャパニーズブラックメタルのファンでもあります」 どうぞ!!

ENTERRE VIVANT “四元素” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【虚极 (BLISS-ILLUSION) : 森羅万象】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DRYAD OF 虚极 (BLISS-ILLUSION) !!

“I Personally Believe That Black Metal Is a Very Special Form Of Music, With Themes Given To It By People. I Don’t Care About These Things, I Love Black Metal Very Much, But I Won’t Be Limited To My Love For It.”

DISC REVIEW “森羅万象”

「僕たちの音楽テーマは “雰囲気” という多くの概念を統合したもので、言葉で表現するのは難しいんだ。個人的には、ロマンティックで神秘的な色彩にとても敏感だよ。僕たちの音楽作品に対する理解が固定化されないことを、ただ願っているだけだよ」
中国名の虚极とは古代の書物 “道德经”(TaoTeChing)に出てくる言葉で、この言葉は非現実と現実の間に似た状態を表しています。中国・北京出身の虚极(Bliss-Illusion)は、文字通り、現実と非現実の間にあるメタルを奏でているようです。彼らの現実であるアトモスフェリックなポスト・ブラックのサウンドは、エモーショナルで瞑想的、そして純粋に美しいアートです。しかし、それ以上に際立っているのは、彼らの非現実、スピリチュアルなテーマでしょう。仏教的な歌詞の内容、中華的なイメージ、そしてそれらを具現化した音のパレットは暗黒の烙印を押されがちなこのジャンルにおいて、独特の新鮮な風を吹き込んでいます。
「僕は個人的に、ブラックメタルは人によって異なる与えられたテーマを持つ、とても特別な音楽形態だと信じている。つまり、悪魔崇拝とかそんなことはどうでもよくて、僕はブラックメタルをとても愛しているんだよ。でも、その愛に縛られるつもりはないんだ」
原始的なブラックメタルがそのイメージやリリシズムに至るまで、悪魔崇拝を根底に置いていることは否定できない事実でしょう。そして、その背景は Bliss-Illusion のスピリチュアルなアイデンティティとは対極にあるようにも思えます。しかし、彼らはブラックメタルを近年の流れと同調しながら、より自由に、より多様にその神秘性を追求する器として使用しています。
ただし、ブラックメタルと仏教には共通項も存在します。両者には天国と地獄があり、神秘的な生け贄の儀式も存在します。さらに仏教にはサタンに似た “悪魔” 波旬(ボー・シュン)が存在しますがこれは、六道の魔王、六波羅蜜の主、天魔の主、あるいは自己変容の主として様々な苦悩をもたらすもの。こうした共通の概念は、Bliss-Illusion の仏教ブラックメタルにに無限の可能性を与えているのです。つまり、白と黒の表現が違うだけで、核心は不変。
「僕自身は、仏教は宗教ではなく、普遍的な法則であり、非常に賢明な哲学だと信じているんだ。音楽は人が創り出すもので、それは無限なんだ。宇宙よりも広いのは、僕たちの想像力、それだけだからね」
Bliss-Illusion の宇宙には、仏教だけでなく、道教や儒教の哲学も含まれています。ゆえに、ここに伝統的な意味でのブラックメタルは存在しません。しかし、伝統的な中国人の意識に沿った宗教哲学をブラックメタルで表現したいという彼らの熱意、挑戦心こそ、本来ブラックメタルに備わっていた反骨でしょう。そしてその長江の流れのように瞑想的で、悠久で、オリエンタルな彼らの音楽は、まずは欧州から世界へと羽ばたこうとしています。
今回弊誌では、仏教に改宗したボーカリスト Dryad にインタビューを行うことができました。「僕はゲーム機を集める筋金入りのハードコア・プレイヤーなんだ。ブックオフ、ゲオ、スーパーポテトによく行くよ。4歳からゲームをしていて、たくさんのゲーム機を集めているんだ!アタリ、ゲームウォッチ、GB、FC、SFC、N64、NGC、MD、ドリームキャスト、SS、NDS、3DS、PSP、PSV、ワンダースワン、ゲームギア、WiiU、PSなどなどだね!」 どうぞ!!

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【TesseracT : WAR OF BEING】VR GAME FIRST MEETS METAL


COVER STORY : TesseracT “WAR OF BEING”

“There Are a Lot Of Gamers In The Progressive Following We Have And In Metal In General.”

WAR OF BEING


今年、英国プログ・メタルの英雄 TesseracT は突然ギアをトップに入れました。最後のスタジオ・アルバム “Sonder” からはすでに5年が経っていて、ファンはもうあの37分の作品だけでは満たされない体になっていました。誰もが彼らの “声” をもっと聴きたがっていました。
バンドは可能な限り大げさなやり方で戻ってきました。彼らはこの10年間で最長の楽曲、11分に及ぶ “War of Being” をシングルとして発表したのです。同時に、9月にリリースする待望の新作が1時間のコンセプト・アルバムとなること、2024年5月までの全公演を一挙に発表しました。
ギタリストの James Monteith は、TesseracT にはこうしたビッグなカムバックが必要だったと語っています。
「できるだけ大きな形で戻って来て、大きな声明を出す必要があった。長い曲、素晴らしいビデオ、世界中どこでも演奏すること。僕らの旅の次のステージをスタートさせる意思表明が必要だった!」
すでに TesseracT の旅は、充分に波瀾万丈の物語です。2003年、ギタリスト Alec “Acle” Kahney がベッドルームで MESHUGGAH にインスパイアされたリフを刻むところから始まった TesseracT は、今や英国プログ・メタルの金字塔。2011年のデビュー・アルバム “One” は、SikTh や PERIPHERY のシンコペーションとスクリームを踏襲しながらも、メロディックなブレイクとポストロック的なスペーシーさが、その正八胞体サウンドを新たなレベルへと押し上げました。

以来、TesseracT はフェスティバルのヘッドライナーを務め、世界中をツアーしていますが、彼らの音楽が停滞することはありません。セカンド・アルバム “Altered State” は15分の組曲を含む “プログレッシブ”、”Polaris” は メロディック、そして飾り気のない “Sonder” は “ストレート” というように、彼らの立体は様々な面を際立たせながら回転を続けていたのです。そして今回の “War of Being” に関しては、”包括的” という言葉がシックリとくるのかもしれませんね。
「”One”, “Altered State”, “Polaris”, “Sonder” を統合しようと意識的に決めたわけではないんだ。でも、全員が同じ部屋にいて、スタジオで生ドラムでレコーディングするという決断は間違いなくあった。ファースト・アルバムでは本物のドラムを使ったけど、1日か2日で急いで録った。このアルバムでは、ジャム、レコーディング、実験に集中するために、1ヵ月という最高の時間があった。するとどういうわけか、どのアルバムにも似たようなサウンドに仕上がったんだ」
リリカルな “War of Being” は、TesseracT 初のロック・オペラです。その物語は、宇宙船 “ザ・ドリーム” が不時着した後、この見知らぬ土地で離れ離れになった2人の人物、エクスとエルを描くもの。2人の探検家は、”ザ・フィアー” という存在に導かれ、内面を見つめ、自分たちの存在そのものに疑問を抱きながら、この隔絶された世界をナビゲートしなければならないのです。
雰囲気のある “Natural Disaster” の冒頭から、 “War Of Being” がリスナーの全神経を集中させる哲音の旅であることが伝わります。Dan の声の豊かで幽玄な重なりは、バンドの技術力と難なく融合し、魅惑的なサウンド体験を生み出していきます。

そうして TesseracT 自身の包括的な世界へと旅は超越します。”Legion” は、混沌としていながらも破壊的に構築され、これまでに経験したことのない次元へと浮遊していきます。Dan は、絶叫し、ファルセットを響かせ、リスナーの知らない高みに到達するヴォーカル・パフォーマンスを披露。まさに傑出した瞬間でしょう。
ソフトでデリケートな “Tender” が静寂のひとときを作り出し、11分に及ぶ巨大なタイトル・トラックがフューチャリスティックなサウンドで耳の穴の奥深くまで探訪。超高速で宇宙船エンタープライズ号からリフが転送されたような “Sacrifice” でアルバムは幕を閉じます。
このアルバムが卓越しているのは、メロディーや親しみやすさを犠牲にすることなく複雑さを提供している点でしょう。”War Of Being” は徹頭徹尾、リスナーを内省的な旅へと誘い、何度でもこの乗り物への扉を開きます。
このロック・オペラは非常にプログレッシブな物語で、Amos が人生において人が経験する内的葛藤のメタファーとしてこのコンセプトを考案しました。ベーシストはまた、アルバムのストーリーを基にした小説を書きたいとも考えています。
「歌詞が複雑でクレイジーであればあるほど、オタクはそれを愛するだろう」

新しいアイデアの登用とともに、”War of Being” でのギターの扱いは試行錯誤の連続でした。Acle は、作曲の過程でも音楽的な体現者であり、アルバムのリフはすべて自分でレコーディングしました。James は、TesseracT の常として、後からパートを学んでいくのです。
「昔は、すべて耳で聴いていた。でも今は、Acle がとても親切にビデオを送ってくれる。新しいアルバムで一番難しいリフは、面白いことに、”War of Being” の一番最初の部分だった。あのベンドをチューニングから外れないようにするのは本当に難しいんだ!」
Acle は、”War of Being” で信頼する Mayones Setius AK1 の7弦シグネチャーを使用しました。「ある種のギターには魔法がかかっていることがあるんだ。僕にはその魔法の機材があるんだ」
Acle はまた、常に荒々しいポリリズムを扱っていますが、音楽の数学的要素について考えることはほとんどないと言います。
「僕はただグルーヴと流れに身を任せ、それがどう聞こえるかを感じるだけだ。数学的なことが出てくるのは、Jay の脳内で何かがうまくいかず、16分の1ずつ何かを変えなければならないときだけだ。そうなると混乱してしまうんだ。だから、すべて耳で聞いているんだ」

最も重要なのは、TesseracT にとって、音楽を作って売るだけではもはや十分でも成功でもないことでしょう。
“War of Beingのプロモーションのため、TesseracT のボーカル、Dan Tompkins を含む小規模な開発チームは、アルバムのテーマと連動し、音楽に没入できる一人称視点のSF VR探索ゲームをデザインしました。同じく “War of Being” というタイトルのこのゲームは、Steamでアクセス可能で、VRでも非VRでもプレイできます。
これまで、こうした没入型のゲームと音楽のタイアップはあまり行われてきませんでしたが、TesseracT はさらにプレイを促すため、ゲーム内でシングル “The Grey” をリリースしました。
「音楽を消費してもらうための新しいメディアを作るという意味合いが強い」 と Dan は語っています。
ゲーム “War of Being” は、”What Remains of Edith Finch” のようなナラティブ・アドベンチャー・ゲームのような展開で、探索とパズルに重点が置かれています。プレイヤーは、各レベルに散らばっているバンドの5人のメンバーを探し出し、”The Grey” の全コンポーネントをアンロックしなければなりません。するとプレイヤーは、TesseracT が得意とするキャッチーなリフとグルーヴに溢れた6分間の大曲をフルで聴くことが可能に。斬新なアイデアを、プレイヤーは新鮮な方法によって探求することができるのです。
Dan によれば、TesseracTは伝統的なアルバム・サイクルに不満を感じていたといいます。それはつまり、レコードを書き、ミュージック・ビデオをリリースし、ツアーを行い、またそれを繰り返すというミュージシャンの円環。

「ああいうサイクルと自分の理想にギャップを感じ、新たなチャレンジを実現したいと思ったんだ。エキサイティングで、新しいオーディエンスを開拓できるようなことは何だろう?ってね」
ビョークの “Vulnicura VR” は、TesseracT に最も近いパラレル体験かもしれませんが、”War of Being” はそれ以上に従来のビデオゲームのように感じられます。それは偶然ではありません。
「でも、曲を聴くためだけに10時間もプレイさせることで、非ゲーマーをイライラさせたくはなかった。どのタイプの人にも合うようにしたかったんだ。ゲームをしない人たちにも楽しんでもらおうと思っていた」
それが、”War of Being” が1時間ほどで完遂できる、6ドルの商品である大きな理由でしょう。
「バンドの音楽を探求することが大前提だけどね。ゲームを楽しみながらレコードを買うようなもの。だから手頃な値段にしたいんだ」
もちろん、メタル世界は伝統的にゲームとの親和性が高いジャンルです。
「プログレッシブのファンやメタル全般にゲーマーがたくさんいることも知っている。その最良の例の 1 つは、”DOOM” (2016)とミック・ゴードンが作成したサウンドトラックからの反応だ。人々がこの作品にどれほど情熱を注いでいるかがわかるし、この作品のクロスオーバーの可能性も伝わる。これまでにもそれに手を出したバンドは間違いなく他にも存在し、”Hellsinger”(2022)のような音楽ゲームを制作したさまざまなプロジェクトも数多く存在し、マイケル・ジャクソンとムーンウォーカーを制作したときのように80年代にまで遡ることもできる。それでも、バンドが本格的な VR ゲームを制作している例は見つからないよね」

このコンセプトは、Dan が Twitch でChatVR を使ってファンのためにパフォーマンスをしていたときに生まれました。そして最終的には、彼のスタジオをバーチャルに再現し、ラウンジや映画館、ライブの体験も呼び起こすマーチャンダイズ・エリアも設置することになりました。そうして “War of Being” のアルバム・コンセプトが進化するにつれ、VR体験のアイデアも自然とまとまっていったのです。
「もし僕たちが、すべてのファンが集えるメタヴァースを最初に作ったバンドのひとつになれたら、素晴らしいことだと思わない?」 そこから、コンセプトは “ゲーム” のアイデアに発展していきました。しかし、経験の浅い開発者にとって、このアイデアを実現するのは至難の業でした。
「僕はこのためにすべてを投げ出した。これを実現することだけに集中し、1年分の収入を失ったんだ。僕は歌手だけどゲーマーで、ゲームを開発した。僕たちは控えめなメタルバンドだ。資金も手段も豊富な SLIPKNOT のようなバンドではないんだよ。だから、僕らにとっては大きなリスクなんだ」
そのリスクは報われたようで、”War of Being” は現在 Steam で Very Positive の評価を得ています。
TesseracT は、より多くの視聴者に対応するため、非VR版も作成したが、トンプキンスによれば、これにより実質的に作業量は倍増したといいます。
「多くの人はVRを持っていないので、自然とデスクトップに移行していくだろう。僕たちは(VR以外の)体験のレベルを、VRで行っていることに匹敵するように引き上げようとしているんだ。VRは少し小康状態にあり、非常に高価で、まだ成熟途上のメディアだけど、将来、費用対効果が上がり、改善されれば、より多くの人が使いたいと思うようになると感じているよ」
“War of Being” はどのようにプレイするにしても、その広大なレベルと没入感のあるデザインのおかげで、随所に陰謀が散りばめられ、注意を払うことを要求される雰囲気のある体験になっています。

「僕は子供の頃からゲーマーで、サイレント・ヒルやバイオハザード シリーズ全体、さらには DOOM のような一人称シューティングゲームに没頭してきた。素晴らしいビジュアルを伴う美しく雰囲気のある音楽を聴くと、グラフィックが年々向上しているのがわかるし、ゲームは本当にさまざまな意味でインスピレーションを与えてくれるよ。視覚的にも音楽的にも刺激を受け、あらゆる種類の感情やアイデアを呼び起こすことができるから」
TesseracT は “War of Being” の将来について、ゲームの範囲を拡大する可能性も含めて、大きな計画を持っています。Dan は、いつの日か “大きなインベントリ・システム” を搭載し、プレイヤーが素材を集めて武器やその他のアイテムを作るようになることを望んでいるのです。”ザ・フィアー” はこのゲームの主な敵役で、プレイヤーは最終的にフィアーを倒す必要があります。
「なぜゲームが必要だったのか。それはこのアルバムが、究極の比喩として、知識と恐怖という2人のキャラクターを中心にしているから。フィアーからゲームでマスクを剥がして彼を倒し、知識のロックを解除する必要がある。そしてそれは、人々が真実や人生の真実を受け入れず、知恵や知識に対してオープンでないことの比喩だと思う。多くの場合、人生のさまざまな場面でそれは恐怖によって覆い隠されているが、恐怖を克服することで知識が解放されると感じているんだ。それがこのゲームの大前提だと思うよ」
“War of Being” の将来がどうなるにせよ、Dan は、このゲームを作った経験は “贅沢” であり、音楽産業のルーティンに大胆な発言をする機会となったと胸を張ります。
「人生という存在は多くのカーブボールを投げてくる。僕はもう何年も前のことだけど、警官だったんだ。18歳でノッツ警察に入って8年間。それから初めてレコード契約を結んだから、音楽一筋になるために辞めたんだ。今こそ、最高のものを作る時だ」

曲作りの面では、TesseracT が始まりの場所、ベッドルーム時代から大きく飛躍したわけではありません。Acle はバンドを10代の若者のプロジェクトとしてスタートさせました。当時所属していたバンド、FELLSILENT ではテクニカルすぎるオフ・キルターなメタル・リフを録音し、マイスペースにアップロードしていました。
ギタリストのアイデアが SNS という駆け出しの領域で注目されるようになると、彼は ENTER SHIKARI のライヴでサポート・バンドとして演奏していた Jay に感銘を受け、彼を引き抜きました。そして、古いラップ・メタルの衣装で FELLSILENT とステージを共にした James とAmos を TesseracT のメンバーに組み込んだのです。James が当時を振り返ります。
「2004年だったんだ。FELLSILENT のサウンドチェックを見て、”なんてこった!これは MESHUGGAH みたいだ!こいつらは最高だ!” って。僕たちは明らかに、あの種の音楽をお互いに楽しんでいたんだ」.
ミルトン・キーンズのプロモーターから Acle を紹介された Dan Tompkins は、2009年にバンドに加わりました。その時点で、TesseracT はすでに先代のヴォーカリスト、Abisola Obasanya とともにアンダーグラウンドで名を馳せていました。2007年のデモには、すでに “One” の楽曲 “Concealing Fate Part I: Acceptance”, “April”, Sunrise” の初期ヴァージョンが収録され、ネット上で口コミで話題となっていたのです。この注目により、バンドはブリティッシュ・メタル界で最高の無名アーティストの1つと呼ばれるようになり、ワシントン・ポスト紙に特集され、2008年には2万人収容のブラッドストック・オープン・エアのセカンド・ステージのヘッドライナーを務めました。

2010年になると、もはや TesseracT に対するインターネット上の喧騒は無視できないものとなり、バンドはメジャー・レーベルのセンチュリー・メディアにピックアップされます。センチュリー・メディアから “Concealing Fate EP” をリリースした後、”One” 、そして(シンガーの Ashe O’hara が一時的にフロントを務めていた)”Altered State” をリリースします。そして今日、 “Sonder” と “War of Being” の間に5年の空白があるにもかかわらず、5人組は依然として新たな人気を獲得し続けています。彼らは2022年の ArcTanGent フェスティバルのヘッドライナーを務め、1万人を動員し、”War of Being” のビデオは公開から24時間以内に10万回以上視聴され、YouTube のトレンド・タブにまでランクインしたのです。Acle が振り返ります。
「バンドを始めたときやりたかったのは、フェスティバルで演奏することだけだった。だけどそれ以来、TesseracT はいい意味でゆるやかに成長してきた。Download や Hellfest でいきなり4万人の観客の前に立たされたことはない。
ティーンエイジャーの頃と数十年後とでは、野心は全く違う。誰もが偉大になり、成功したバンドになりたいと思っているが、成功が何を意味するのかよく分かっていないんだ。あのころは、成功とは何かを理解する経験もなく、ただギグを演奏して楽しんでいただけなんだ」
Acle と James は、”War of Being” に求める成功とは、TesseracT の継続的な成長だと話しています。秋から9ヶ月の間に4大陸を回るツアーで、それはすでに実現しているようですが、ある意味 Acle にとって、TesseracT がこれほど大きな存在となることは驚き以外の何者でもないのです。
「僕やろうとしていたのはそんなことじゃない!って時々思うね。当時はただ MESHUGGAH からパクりたかっただけなんだから!」


参考文献:  GAME OBSERVER :How TesseracT Created Their Own VR Game: Interview with Singer Daniel Tompkins

How a Metal Band Is Using Gaming to Redefine How We Experience Music

GUITAR.COM:Tesseract on why they needed to “come back and make a big statement”