BRING ME THE HORIZON: WHEN LOVE AND HATE COLLIDE – STORY BEHIND “AMO”
WHEN LOVE AND HATE COLLIDE
ファンとの間の愛憎劇は、創造性を追求するアーティストならば誰もが背負う十字架なのかも知れません。とは言え、BRING ME THE HORIZON ほど荊の枷にもがき苦しみ、愛憎の海に溺れながら解脱を果たすミュージシャンは決して多くはないでしょう。
BRING ME THE HORIZON は新たなる宿業 “Amo” でラディカルな変革を遂げ、リスナーを文字通り地平線の向こうへと誘っています。それはロック、ポップ、エレクトロ、トランスにヒップホップをブレンドした野心極まる甘露。
しかし「15年経った現在でも、ヘヴィーじゃないとかブラストビートがないことが問題になる。そういった障害を壊し続けて来たんだけどね。」とフロントマン Oli Sykes が NME のインタビューで語った通り、確かにデスコア時代からのダイハードなメタルヘッドに “Amo” は堪え難い冒険だったのかも知れませんね。
実際、UK Billboard チャートで初の No.1 を獲得したとは言え、フィジカルのセールス自体はまだメタルの範疇にあった前作 “That’s the Spirit” と比較して75%も落ち込んでいます。もちろん、ストリーミングの大きな躍進は考慮するべきでしょうが、それにしても決して無視出来る数字ではありません。
“I think we’ve been ahead of some of the other bands. To Oli’s credit, he’s quite good at that. He has ideas before anyone else.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH WILL GARDNER OF BLACK PEAKS !!
“We All Started Collectively Listening To Lots Of Mastodon and Tool . Bands Like That . I Think Thats Where The Shift Started To Happen , Into The More Black Peaks Style Heavy Sound.”
DISC REVIEW “ALL THAT DIVIDES”
英国が今、沸騰しています。ARCHITECTS, TesseracT、そして SVALBARD や ROLO TOMASSI といった Holy Roar のロースター。真の意味での “プログレッシブ” を追求するエクレクティックでスリリングな冒険的アーティストが、かつて様々なムーブメントを創造した獅子とユニコーンの紋章の下へと集結しているのです。
ブライトンから顕現した BLACK PEAKS も、その大波を牽引する風雲の一つ。「様々な音楽ジャンルをミックスしているんだけど、主にロック、ハードコア、そしてプログが中心だね。」 と Will が語るように、荘厳と野蛮、洗練と無骨を併せ持つそのコントラストの烈風は、英国ニューウェーブの中でも一際カラフルなインパクトを与えているのです。
注目すべきは BLACK PEAKS が、一歩間違えれば “無節操” とも捉えられかねない “美味しいとこどり” の方法論を、臆せず真摯に追求している点でしょう。SHRINE 時代は自らが認めるように “マーズヴォルティー” すなはち THE MARS VOLTA のポストハードコアを追い求め、さらに改名後は 「僕たちは集まって、MASTODON や TOOL といったバンドを何度も聴いて研究し始めたのさ。そこから音楽性の変化が始まったと思うね。」 と語る通り、モダンプログレッシブの数学的アプローチや重量感を深く “研究” し、理想的な BLACK PEAKS のスタイルへと邁進し構築する。その研究者としての姿勢が、これまでありそうでなかったモダンでコンパクトな凛々しきプログの坩堝を精製することへと繋がりました。
例えばファーストシングル “Can’t Sleep” は、MASTODON のスラッジアタックと SYSTEM OF A DOWN の異国感がシームレスに融合したキメラでしょうし、”Electric Fires” には TOOL のマスマティカルな野心と BIFFY CLYRO のポップな精神が宿っているはずです。加えて湧き出でる OPETH や ELDER のエピカルな世界観。
ただし、その魅力的なフラスコに Will のボーカルが注がれると、BLACK PEAKS は触媒を得て劇的な化学反応を起こします。実際、スクリームからクリーンボイス、囁きからファルセットまで、英国らしい叙情、憂鬱、愁苦、そして悲憤を宿す Will の歌唱とメロディーは、異次元のエモーションを楽曲へと織り込んでいくのです。
フルスロットルの咆哮を縦糸に、ガラスのファルセットを横糸に織り上げたその退廃感は、母国の選択、ブレグジットに起因するものでした。「ここ数年イギリス人としてヨーロッパを旅する事で、実際に興味深い体験をして来たからなんだけどね。つまり、そうやって僕たちに降りかかる出来事に対して情動、怒り、フラストレーションなんかを感じたわけさ。」 そのダイナミズムの源は、例えば SVALBARD にも通じるやはり政治的なものでした。
そうしてアルバムは、THE DILLINGER ESCAPE PLAN のカオスや OCEANSIZE の耽美まで吸収した強欲な運命 “Fate Ⅰ&Ⅱ” でその幕を閉じます。ハードコアのアグレッションとプログレッシブのエレガンスが、自然と同じキャンパスに描かれるダイナミズムの DNA はきっと選ばれたものにしか与えられていないはずです。
今回弊誌では、新たなボーカルスター Will Gardner にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちはアルバムをレコーディングしている最中に ELDER “Reflections of a floating world” を頻繁に聴いていたんだ。」 どうぞ!!
“I Think Our Views On Colonization Are Pretty Clear. For Example, Raupatu Is About Massive Land Confiscations. The Colonial Government In New Zealand (And In Many Other Countries) Did a Lot Of Unjust Things, And The Result Still Affects Our Society Today.”
DISC REVIEW “Tū”
「僕たちは、メタルの聖火を未来に向けてずっと掲げ続けることが出来ればと願っているんだ。そして、その炎はオリジナルのメタルバンドたちと、世界中のファンに向けたリスペクトから生まれているんだよ。」脈々と継承されるメタルのスピリット。ニュージーランドのヤングガンズ ALIEN WEAPONRY は、受け継ぐ燈火を一際高々と世界へ向けて掲げます。
Lewis de Jong (ギター/ボーカル), Henry de Jong (ドラムス) の De Jong 兄弟が8歳と10歳の若さで結成した ALIEN WEAPONRY。Ethan Trembath (ベース) を加えて16歳が2人と18歳の高校世代トリオとなった彼らは、Napalm Records からリリースした超高校級のデビューフル “Tū” で文字通り世界を震撼させました。
実際、古のスラッシュの波動から、Nu-metal のグルーヴ、洗練されたモダンメタルの息吹き、理知的でプログレッシブなデザインにピュアなメタルのメロディーまで、ワイドな視点で綴られたアルバムの中でも、自らの背景であるマオリの文化を投影する試みはあまりにユニークで独創的です。
誇り高きマオリ、Ngati Pikiāo と Ngati Raukawa 族の血を引く De Jong 兄弟は、1864年に1.700人の英国兵に230人で対抗しその命を投げ打った伝説の戦士 Te Ahoaho の子孫にあたります。そしてその勇敢なる遺伝子は克明に若きメタルウォーリアーズの中にも刻まれているのです。
「植民地化についての僕たちの見解は実に明快だよ。ニュージーランドの植民地政府は (他の植民地政府も同様だけど) 多くの不当な行為を行ったね。そしてそのツケは、今の僕たちの社会にまで及んでいるんだ。」と語る De Jong 兄弟。マオリ語で “神々の闘い” をタイトルに冠したアルバムで、彼らは当時の列強諸国が行った不当な搾取を告発し、メタルのジャスティスで断罪していきます。
何より誇りを重んじるマオリの民は、現在でもイギリス、西欧に踏み躙られた一族の尊厳を、”Whakamā” “深い恥” の言葉とともにトラウマとして引きずっています。故に、例えメタルに惹かれたとしても、その気持ちを一族の中で明かすことは今でも簡単ではありません。だからこそ、ALIEN WEAPONRY はマオリとメタルを繋ぐ架け橋を目指しているのです。
事実、マオリの言葉 “Te Reo Māori” をフィーチャーしたトライバルなイントロダクション “Waikōrero”、そしてアイコニックなワーダンス “Haka” を前面に押し出した “Rū Ana Te Whenua” はアルバムのスピリットを決定づけています。
もちろん、ALIEN WEAPONRY の方がより多様でコンテンポラリー、時に LAMB OF GOD, GOJIRA をも想起させるほど理知的ですが、メタルのヘヴィーグルーヴに民族の血やリズムを沈めるという意味では SEPULTURA や SOULFLY との比較が多数を占めるのも頷けますね。
「マオリの言葉はニュージーランドでも日常生活で幅広く使われている訳じゃないからね。だから習得の努力を続けるのは簡単ではないよ。逆に言えば、”Te Reo Maori” で歌うこともあの言葉と繋がる一つの方法なんだ。」世界では今も二週間に一つの言語が “消失” しています。そして、”Te Reo Maori” も実は国連から絶滅が危惧されている言語の一つです。ニュージーランドのヒーローは、”Te Reo Maori” で歌うことで言語の存続にまで大きな力を貸しているのです。
アートワークに描かれたマオリの戦士が全てを象徴するレコード。今回弊誌では、メンバー全員にインタビューを行うことが出来ました。「僕たち兄弟は Kura Kaupapa Maori に通っていたんだ。没入法を取り入れたマオリの学校だよ。毎朝のルーティンとして、学校で歌ってハカを踊っていたね。だからメタルとハカをミックスするのはいたって自然なことだったんだ。」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BASTIAN THUSGAARD OF SOILWORK !!
“What Can Be Tricky At Soilwork Shows Is That The Majority Of The Songs Are In a Decent Mid-Tempo And Then The Few Fast Songs Are Like Super Fast. It Happens That We Play 5-6 Songs In a Row That Are Very Easy Tempo-wise And Then One Super Fast Song After. It Feels Like Going From 0-100 In a Second And Sometimes That Can Be Tough.”
DISC REVIEW “VERKLIGHETEN”
昨年デビュー20周年を迎えたスウェーデンの巨人 SOILWORK は、絶対の信頼が置けるバンドです。
その真価は、幾度ものメンバーチェンジを乗り越える約20年間で11枚というその旺盛な制作意欲はもちろん、衝動と叙情の “Steelbath Suicide” から、Rob Halford をしてメタルの未来と言わしめた “A Predator’s Portrait”、洗練極まる “Stabbing the Drama”、そして2枚組のエピック “The Living Infinite” まで、エクストリームな精神とメロディーを常に共存させながら、リスナーの好奇心を刺激するフックと新機軸を織り込み続けている点にあります。冒険と安定感の絶妙なバランスとも言えるでしょうか。
3年半振りに届けられた最新作は、スウェーデン語で “現実” を意味する “Verkligheten” をタイトルに冠していました。スウェーデン遠郊のメランコリー、彼の地の悲哀を帯びた旋律は、苦悩に満ちた日常からの逃避を誘います。もしかすると、長年大黒柱として存在した名手 Dirk Verbeuren を MEGADETH に引き抜かれたトラウマも、バンドが現実からの逃避を題材とした理由の一つだったのかも知れませんね。
ただし SOILWORK は新たなドラムマイスター Bastian Thusgaard と共に再び歩み始めます。ダークで思慮深く、リピートを促すレコードにおいて、高揚感を伴う煌めきのメロディーが運ぶ絶佳のコントラストこそ作品の妙。その風情は、ロマンチシズムと言い換えても良いでしょう。さらに Bastian は、そのロマンを現実逃避に対するセラピーとまで表現し、バンドの新たな旅路を飾るポジティブな意思表明へと繋げているのです。
「”The Living Infinite” というダブルアルバムを書くことで、SOILWORK は遂に自分らしい場所を見つけたと思うんだ。」 そう Bastian が語るように、音楽的には確かにあの壮大なエピックこそがバンドにとっての転換点でした。
実際、Bjorn “Speed” Strid も最新のインタビューで、”The Living Infinite” こそが SOILWORK にとって新たな時代の幕開けだったと認めています。同時に、”Verkligheten” ではそのドラマ性に、クラッシックなメタルや80年代の雰囲気をより多分に封入したことも。
インタビューで Bastian も認めているように、Bjorn & David が牽引するノスタルジックな別バンド THE NIGHT FLIGHT ORCHESTRA の活発化が SOILWORK の方向性に影響を与えたことは確かです。
そしてこのノスタルジー溢れるロマンチックなセラピーに最も貢献したのは Bjorn の驚異的にワイドなボーカルレンジでしょう。”Full Moon Shoals” “Witan” で爽快壮美なハーモニーを披露する一方で、”When The Universe Spoke” では研ぎ澄まされたスクリームを投げかけます。過去のどの作品より自然に、シームレスに繋がる適材適所な歌唱の美学は、そうして AMORPHIS の Tomi Joutsen をフィーチャーした “Needles and Kin” のメタル劇場へと完璧に結実していくのです。
もちろん、David Andersson と Sylvain Coudret のギターチームもさらに充実を遂げています。もはや定型化したメロデススタイルを封印し、スウェーデンのメランコリーを封じた創造的なパッセージと、”The Nurturing Glance” が象徴するデュエルのスリルでカタルシスを喚起していきます。
そうして、スーパーファストなブラストビートから、トライバルなリズムまで変幻自在な新加入 Bastian のスティックワークを最後のピースとして、プログレッシブとさえ言える夢幻のメタルワールドは完成を迎えたのです。あの YES を彷彿とさせるアートワークも偶然ではないでしょう。
今回弊誌では、新加入 Bastian Thusgaard に自己紹介も兼ねたインタビューを行うことが出来ました。日本の THOUSAND EYES にも共鳴するような、より広義の血湧き肉躍る浪漫メタルレコード。「いくつかの楽曲はメタルらしい音数の多さから離れて、よりアクセシブルに仕上がったね。僕の考えでは良いことだと思うよ。」どうぞ!!
女性の躍動と、多様性、両極性を旨とする HOLY ROAR RECORDS の台頭は2018年のトピックでした。越流するエモーションをプロテストミュージックへと昇華し、英国ブリストルから咆哮を貫く至宝 SVALBARD はまさにその両者を象徴する存在です。熾烈なメタル/ハードコアにポストロックの叙情と風光、ポストメタルの思索と旅路を織り込みさらなる多様化の波動を導いた新作 “It’s Hard to Have Hope” はシーンの革新であり、同時に閉塞した世界が渇望する変化への希望となりました。
確かに “It’s Hard to Have Hope” は怒れるアルバムで、中絶、性的暴力、リベンジポルノ、インターンシップの無賃雇用など不条理でダークな社会問題をテーマとして扱っています。
さらには、「このアルバムは、ステージに女の子が立つことにネガティブなコメントを寄せる人たちに対する私からの返答よ。”女性をメタルから追い出せ!” と言うような人たち、コンサートで女性にハラスメント行為を行う人たち。これは彼らに対する私からの恐れなき怒りの返答なの。」と語るように、女性フロントマンとして Serena が長年メタルシーンで苦しんできたハラスメント行為の数々も、作品の持つ怒りの温度を “フェミニストのメタルアルバム” の名の下に上昇させていることは明らかです。
とはいえ、この類稀なる感情と表情の結晶が、唯一怒りにのみ根ざすわけではないこともまた事実でしょう。実際、Serena はこの作品の目的が “人々にこういった社会的不公平を伝えるだけではなく、なぜそういった問題が起き続けるのか疑問を投げかけることだった” と語っています。「誰が正しいのか互いに主張し合うのを止めてこう尋ねるの。一緒に前進するために何ができるだろう?より良き変化のためお互い助け合えないだろうか?とね。」とも。
そうして世界のターニングポイントとなるべくして示現した “It’s Hard to Have Hope” に、一筋の光明にも思える尊きアトモスフィア、荘厳なる音の風景がより深く織り込まれていることはむしろ当然の進化だと言えるでしょう。
CULT OF LUNA や MY BLOODY VALENTINE のイメージこそ深化の証。そうしてポストブラックの激しさと光明を背負った彼女は悲痛な叫びを投げかけます。「いったい誰が女性を守ってくれるの?」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTER ESPEVOLL & DAVID HUSVIK OF AZUSA !!
“I Think The Whole Metal Genre Needs An Alteration, And The Domination Of Male Energies Comes With Certain Limitations And Lacks Dynamics. In General, We Need More Females Involved.”
DISC REVIEW “HEAVY YOKE”
Kate Bush がフロントウーマンの SLAYER。Chelsea Wolfe 擁する THE DILLINGER ESCAPE PLAN。もしくは Joni Mitchell と CYNIC の邂逅。
ネイティブアメリカンの透明な少女、ヒーラーの名を冠する AZUSA は、様々な “If” を浄化と知恵、調和と変化のダイナミズムで実現しながら、飛躍するフィーメールフロンテッドの潮流を一層確かなものとします。
多国籍のスーパーバンド AZUSA の始まりは、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Liam Wilson が EXTOL に送った一通のメールでした。昨年終焉を迎えたカオティックハードコアの首謀者を牽引したベースマンは、明らかにノルウェープログメタルの至宝に激しく惹かれていました。
一方はヴィーガンでヨガを嗜む探求者。一方はキリスト教の中でも特に精霊の加護を掲げる一派で育った、クリスチャンメタルの求道者。もしかすると、両者の間には “スピリチュアル” という共通項が存在したのかも知れませんね。
そして David が「男性のエナジーがシーンを支配することで、リミットやダイナミクスの欠如が生まれていると思う。だから一般的に、僕たちはもっと女性を取り込んで行く必要があるんだよ。」と語る通り、AZUSA の更なる独自性は女性ボーカル Eleni Zafiriadou の加入で決定的なものとなりました。
ハードコアを経由し、現在はインディーポップデュオ SEA + AIR で魅惑の歌声を響かせる Eleni の、ブルータルからドリーミー、そしてポップを行き来する万華鏡のアプローチは、それでも未だ男性が大半を占めるエクストリームの声に鮮やかな新風を吹き込んでいます。
もう一つの重要なトピックは、EXTOL から袂を別ったギタリスト Christer Espevoll がドラマー David Husvik と再度邂逅を果たしたことでしょう。
CYNIC や DEATH の知性と神秘のアグレッションを、北欧からキリスト世界のイメージと共に発信していた EXTOL の異能。ボーカル Peter の兄弟で、そのデザインを支えていた Christer が従兄弟である一族の David と再び創作を始めたことは、バンドやシーンにとって実に歓迎すべき出来事であるはずです。
実際、アルバムオープナー “Interstellar Islands” で2人のケミストリーは、瞬く間にかつての輝きを取り戻します。メロディックにリズミカルに、思慮深く構築される Christer の幾何学的ギターワークは、15年の時を超え David の放つ正確無比なグルーヴと見事に交差し調和していきます。もちろん、複雑に連なるオッドタイムの基幹となるは Liam のベースノート。
「特に Liam と Eleni が AZUSA に加わってから僕たちは全く異なる場所にいると言えるだろうね。実際、”Heavy Yoke” の作曲とレコーディングのプロセスは、思いもしなかった場所に僕たちを誘ったんだ。僕たち2人が始めた時は想像もつかなかったような場所にね。」 と Christer が語る言葉は真実です。
スラッシュの凶暴からサイケデリックワルツ、そして甘やかなポップをシームレスに接続し、刻々とタイムワープを繰り返すスリリングな楽曲で、Eleni の魔法は冴え渡ります。
そうしてそのエクレクティックな才能は、入り組んだ迷宮のような “Heavy Yoke”、一方でよりストレートなハードコア賛歌 “Heart of Stone”、そして初期 CYNIC のアトモスフィアを纏った “Spellbinder” までリアルタイムで適応し、バンドの目的地である美しき不協和、メタルホライゾンの向こう側を煌々と照らすのです。
相互に織り成す人間関係のより暗い側面、現実に蔓延る感情的な重さへと焦点を当てたアルバムで、Eleni は 「私の夢を一瞬で踏みにじる準備は出来た?」 と唄います。シーンは彼女の叫びにどう反応するのでしょうか?
今回弊誌では、元 EXTOL の Christer と現 EXTOL の David にインタビューを行うことが出来ました。「僕たち2人がハードロックやメタルを聴き始めたのは12, 13歳のころだったね。僕等の両親はその行為にとても懐柔的だったんだけど、ただしクリスチャンロック、クリスチャンメタルのバンドはキリスト教の教えを歌詞に盛り込んでいるから許されていたんだよ。」 どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANTHONY LUCERO OF CULT LEADER !!
“I Do Feel The Weeping Skull Represnts The Concept Of The Album. Musically And Lyrically We Want The Band To Be An Expression Of The Negativity In Our Lives.”
DISC REVIEW “A PATIENT MAN”
ソルトレイクに兆すエクストリームミュージックの胡乱なニューリーダー。異端の唱道者 CULT LEADER が掲げる教義は、陶酔を誘う魔性のカオスとノワールです。
グラインドコアとスラッジの蜜月を象徴したバンド GAZA の解散は、アンダーグラウンドの世界にとって二重の意味でショッキングな出来事でした。鋭利で野放図なその独創性が途切れることはもちろん、当時のボーカリストが起こしたスキャンダルもまた、リスナーの大きな落胆を誘ったことは確かでしょう。
しかし障害の根源を断ち切り、ベーシスト Anthony をボーカルに据えて再始動を果たした CULT LEADER のある種麻薬的で、妖気振りまく夜叉の佇まいは、GAZA の悲劇を振り払って余る程に鮮烈かつ混沌です。
もちろん、2014年のデビュー EP “Nothing for Us Here” 以来、CULT LEADER はメタリックでブルータルなハードコアの鼓動に、プログレッシブやドゥーム/スラッジの息吹と悲哀の情操を投影し、カオティックで多様な宇宙を創造して来ました。
実際、インタビューで Anthony も 「もし僕たちがある特定のジャンルに限定されてしまったら、もはやバンドとして機能しないとさえ思うんだ。それほど僕たちの音楽性は多岐に富んでいるんだよ。」 と語っています。
ただし、それでも黒の指導者が提示する新たなバイブル “A Patient Man” は、敬虔な信者にこれまで以上の圧倒的驚愕とカタルシスをもたらす大いなる預言書、もしくは洗礼だと言えるでしょう。
CONVERGE と Chelsea Wolfe, Nick Cave の薄幸なる婚姻。涙するスカルをアートワークにあしらったこの作品を、端的に表せばこういった表現になるでしょうか。
言い換えれば、ランニングタイムのおよそ半分はグラインドとハードコアのカオス。一方で残りの半分はバリトンボイスで紡がれるデリケートなノワールへと捧げられているのです。
ブラストビートに導かれ、ポリリズミックなメロディーと無節操なブレイクダウンが花開くオープナー “I Am Healed” や、不協和のシャワーとスラッジのスロウバーンがしのぎを削る “Isolation in the Land of Milk and Honey” が慣れ親しんだ CULT LEADER の経典だとすれば、連続する “To: Achlys”, “World of Joy” の2曲はさながら新経典でしょうか。
Nick Cave, Chelsea Wolfe, DEAD CAN DANCE のプリミティブでノワールな世界観。NEUROSIS の放射線状にも位置する13分間の穏やかなフューネラルは、哀しみと闇、美しき孤独と終焉を反映しながら、ダークアメリカーナにフォークやゴスまで内包し作品に傑出したデュエル、コントラストをもたらしました。
「音楽的にも詩的にも、僕たちはこのバンドを人生におけるネガティブな部分の代弁者としたいんだよ。」と Anthony が語るように、黒雲の途切れないアルバムにおいて、ただ “テンション” という素材を主軸としてこれほどの落差、ダイナミズムを創出するレコードは極めて稀だと言えるでしょう。
「頼むから俺を癒してくれ。」Anthony の咆哮、絶唱はリアルな苦痛、苦悶を掻き立てるマスターの所業。一方で、「愛に満ちた光が世界中の人間に注いでも、俺の下には来ないだろう。」と孤独を綴るその声は、全てを受け入れ語りかけるような慰めと寂寞のトーンでした。
孤高の唱道者は墓標の上で踊る。もしかすると、彼らの新たな教義は、THOU や CONVERGE の最新作とも根底ではシンクロしているのかも知れません。Kurt Ballou のプロダクション、リリースは Deathwish Inc. から。
今回弊誌では、Anthony Lucero にインタビューを行うことが出来ました。「自分たちのコンフォートゾーンの外へと冒険することを、僕たちはいつも心掛けているんだよ。」どうぞ!!
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRADY DEEPROSE OF CONJURER !!
“Dan And I Bonded Over Our Mutual Frustration With How Shit The Local Scene Had Become And How Bored We Were With Metalcore. Conjurer Ended Up Being The Product Of This.”
DISC REVIEW “MIRE”
2015年、英国ミッドランズに突如として現れた魅力的なエクストリームミュージックの醸造所 CONJURER は、刺激に飢えたメタル中毒者を酔わせ、瞬く間に熱狂の渦を巻き起こしています。
スラッジ、ドゥーム、ハードコア、プログ、そしてブラック&デスメタル。香り高き金属片の数々をエクレクティックに調合し精製する芳醇なるアマルガムは、Holy Roar 主導で進められる Neo-New Wave of British Heavy Metal の象徴として踏み出す大胆で鮮烈な一歩です。
「僕にとっては GOJIRA と THE BLACK DAHLIA MURDER こそがスターティングポイントだった訳だからね。そして決定的な瞬間は YOB をライブで見た時だった。」
インタビューで Brady が語ってくれた通り、CONJURER が創成したのは圧倒的に面妖で不穏なスラッジ成分、神秘と思索のプログ成分に、相隔相反するファストで激烈なメタルコアの獰猛を配合した超俗の美酒 “Mire”。その崇高なる多様性の香気は、レーベルの理念とも完璧にシンクロしながら厳かに新時代の幕開けを告げています。
アルバムオープナー “Choke” は、この混沌と斬新を見渡す眺望。濾過以前の純粋な憤激。あまりにハングリーなテンポチェンジの妙。
GOJIRA と NEUROSIS の遺伝子を纏った野太くもエッジーな唸りは、不協和音の沼沢、閉所恐怖症のハーモニーを彷徨いながら瞬時にファストで狂乱のブラックメタルへとその色を変えていきます。さらにその底流は Frederik Thordendal のプライドとも合流し、ただ陰鬱で悲惨な音景を表現するためのみに結束を強くするのです。
実際、泥と霧に覆われた不気味で不透明な原始沼をイメージさせる “Mire” というタイトルは、明らかに限られたリスニングエクスペリエンスでは全貌を掴めない、繰り返しの再生を要求するアルバムの深みと間口、そして芸術性を象徴していますね。
「多くのバンドは一つか二つのメジャーな影響を心に留めながら作曲していると思うんだけど、僕たちはどの瞬間も30ほどの影響を考慮しながらやっているんだ。」との言葉を裏付けるように、バンドは様々な風景をリスナーの脳裏へと刻み続けます。
“Hollow” で示されたドゥーミーなメランコリー、クリーントーンの旋律はポストロックの景観さえ抱きしめた、陰鬱なアルバムに残る微かな希望。しかしその幽寂なるサウンドスケープは、やがて宿命の如く地の底から襲い来るブラッケンドハードコアの波動、濁流に巻き込まれ押し流されてしまうのです。その落差、静と動、速と遅が司るダイナミズムの効果はまさしく無限大。
それにしてもバンドの落差を支えるリズム隊は破格にして至妙。特に様々なリムショットを華麗に使い分け、楽曲のインテンスを高める Jan Krause のドラムワークは新たなヒーローの名に相応しい創造性に満ちていますね。
“Thankless” で敬愛する MASTODON に感謝なき感謝を捧げ、”The Mire” で再びホラー映画のテンポチェンジをショッキングに見せつけた後、アルバムは終盤にハイライトを迎えます。
静謐の谷と激情の山脈を不穏に繰り返し行き来する “Of Flesh Weaker Than Ash” で 「GOJIRA はデス/ブラックメタルの要素を作曲に活用しながら、ヘヴィーな音楽を実にキャッチーに変化させることが出来ると教えてくれた訳さ。」の言葉通りエクストリームメタルのフック、イヤーキャンディーを張り詰めたテンションの中で実現し、SLEEP のファズサウンドをフューネラルドゥームの寂寞とプログスラッジのエピックに封じた “Hadal” でレコードは新世界への扉を開きながらは威風堂々その幕を下ろすのです。
今回弊誌では、ギター/ボーカル Brady Deeprose にインタビューを行うことが出来ました。「ギター/ボーカルの Dan Nightingale と僕は、当時同じようなフラストレーションを抱えて仲良くなったんだ。ローカルシーンがいかにクソになったか、メタルコアがいかに退屈かという鬱憤だよ。」 どうぞ!!