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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ARCHITECTS : THE CLASSIC SYMPTOMS OF A BROKEN SPIRIT】


COVER STORY : ARCHITECTS “THE CLASSIC SYMPTOMS OF A BROKEN SPIRIT”

“Music Is an Escape For People. You Can Have Very Traumatic Experiences And Come And Enjoy Our Music And Listen To The Songs That Are About These Situations. But I Also Want You To Be Able To Come And Switch Off And To Let Us Be Your Saturday Night, Even If It’s On a Tuesday Or Wednesday, Come And Have a Good Time With Us And To Forget About The Stresses Of The Modern World.”

a classic symptoms of a broken spirit

アウトサイダーを自認する ARCHITECTS の Sam Carterは、期待という名の束縛から解き放たれ、ついに自分のありたい姿を受け入れられるようになりました。ARCHITECTS は10枚目のアルバムに伴い、ファンのプレッシャーから離れ、純粋に創造の自由への道を見つけようとしているのです…
「このアイラインのおかげで、何も苦しまずに済んだんだ…」
ARCHITECTS は、自分たちのファンが最も厳しい批評家であることに慣れています。ただ、彼らの軌跡とストリーミングの数字が不動の上向きであるとしても、メタルの世界で新しい何かに挑戦することは、決して簡単ではありません。Sam が戸惑ったのは、アウトサイダーが集まりがちなこの世界で、アイラインを引いた(実際にはとてもクールに見える)ことが、罪になっていることでした。
「メタルは、オープンでウェルカムな場所だと思っていたんだ。僕たちは皆、学校でヘヴィ・ミュージックを聴いていて、そのせいで小便をかけられたようなキッズだった。変わり者だと思われていたんだよね。だから何年もの間、ジーンズとノースリーブのTシャツを着てきたけど、ようやく今、長い間着たくても着れなかったものを着るようになったんだ。
それで、メタルのファンからちょっとバカにされたような気がしたんだよね。でも、僕はそれを恥ずかしがるような人間じゃないから、すぐに倍返ししてやるってもっと着るようになったよ。だってそうでしょ?アイラインをひいたオジーを見て “なんだこりゃ!” とは思わないだろ?彼はちょうどメイクアップ・シリーズを発表したところだ」
Sam は以前からバンドのライブに演劇的な要素を加え、メイクアップや衣装で “自分を表現したい” と思っていましたが、特定のファンからの反発を恐れてたのです。悲しいことに、彼は正しかったことが証明されました。
「そんなに悪くないはずだと思ったんだ。でもみんなの反応はひどかった。でも、ここはオルタナティブ・シーンであるべきだと思う。その中でみんながクリエイティブで自由であることをサポートすべきなんだ」
しかし最終的に、批判はバンドのレジリエンス、回復力、反発力を強めるだけでした。
「自分の直感と心と頭を信じるしかないんだ。多くの門番がいる。でもメタルはドラムと歪んだギターがあるだけのファッキン・ミュージックだ。考えすぎちゃいけないんだ。ここでは誰も “White Album” なんて書いていないんだから。
なあ、”Lost Forever…”, “All Our Gods”, “‘Holy Hell” いうメタルコアの “ホーリー・トリニティー” は常に存在し続けるんだ。これらの曲は常に僕たちのセットの中にある。でも、僕たちには10枚のアルバムがあるし、そのリフを真似ている他のバンドもたくさんいる。だから僕たちは新しいものに挑戦してみたいんだ」

“壊れた精神の典型的な症状”。Sam は不安を感じた時、David Bowie のビデオを見ます。このビデオは、ミュージシャンに対して、常に自分の直感に従い、決して引き下がらないようにと励ましているのです。
「David Bowie は、アーティストの最高の作品は、足が底につかず、水の上に浮かんでいる瞬間だと言っている。もし安全すぎて足が床についていたら、正しい仕事をしているとは言えないんだよ」
Sam は、Bowie の助言を確かに心に刻みました。ARCHITECTS はパンデミックに見舞われる前に、すでに世代を超えた最高のUKメタル・バンドとしての地位を固めていました。2015年の “Lost Forever // Lost Together”、2016年の “All Our Gods Have Abandoned Us”、2018年の “Holy Hell” はすべて、先進のテクニカル・メタルコアのスタンダードとなるものだったのです。しかし、バンドがその荒涼としたブルータリティの限界を押し広げ始めたとき、物事は変化を始めました。昨年の “For Those That Wish To Exist” でブライトンの5人組は、よりクリーンでメロディックな音の時代を切り開くことになったのです。
ARCHITECTS のニューアルバム “the classic symptoms of a broken spirit” の作曲とレコーディングの際に Sam は、Bowie の知恵を取り戻しました。”For Those That Wish to Exit” のようなシネマティックなピークやストリングスはなく、代わりに巨大なリフ、ダーク” はギター、そしてスタジアムでも通用するフックが使われています。Sam はこのアルバムを “殺伐としたパーティー・アルバム” と表現しています。
「新作の構想はダーティーでインダストリアル。新しい ARCHITECTS や古い ARCHITECTS も入っているけど、全てを通してこのテーマがあるんだ。僕たちはインダストリアルなバンドを全く知らないんだけど、それでもやっていこうと思ってるんだ」

ARCHITECTS は常に変幻自在です。このアルバムを例え聴いていなくても、メタルバンドはこうあるべきというステレオタイプからは明らかに外れています。白を基調としたシンプルなアートワーク、小文字で書かれたタイトル。そこから、悪魔崇拝やメタルらしいファンタジーは微塵も感じられないのですから。
そして音楽を聴けば、以前はストリングスや広がりのあるパッセージで感情表現をしていた ARCHITECTS が、この作品ではさらにエレクトロニクス、インダストリアルの世界をバンドのレパートリーとして取り込んでいることに気づくはずです。グリッチ風味のシンセサイザーによるサウンドが、彼らが20年近くかけて完成させたサウンドにさらなる深みを加えています。
エレクトロニクスを積極的に取り入れた現代のメタルバンドなら、シーンをリードする BRING ME THE HORIZON との比較は避けられません。特にオープニングの “deep fake” はシンセの使い方とヴォーカルの表現が彼らに似て秀逸。”Sempiternal” の影は10年近く経った今でもメタルコアの亡霊として影を落としますが、ここではそれ以上のものがあります。もちろん、RAMMSTEIN の面影を宿す “tear gas” にも。
“burn down my house” は静電気を帯電したよりスローでムーディーな曲で、一方 “living is killing us” はシンセウェーブのビートが深く刻まれた未来的な都市景観。アルバム全体を通して何層にも重ねられた挑戦的な建築物は、一つのアイディアに固執することはありません。
バンドが自分たちのサウンドを進化させ続けることが重要だと Sam は言います。2016年にギタリスト兼ソングライターの Tom Searle(ドラマーの Dan の双子の兄)が28歳で癌で他界した後、ARCHITECTS はメタル・コミュニティの “悲しみ” を背負うことになりました。多くのファンは、起こったことの意味を理解しようとしたアルバムである2018年の “Holy Hell” に溢れた悲しみにカタルシスを見出しました。しかし ARCHITECTS は、芸術のために自分たちの痛みの中で生きることが、不健康になりつつあることに気づいたのです。
「”グリーフ・コア” か何かのようなジャンルにならないことが重要だったと思う。Tom は僕らが常に痛みに耐えて、毎晩トラウマになるような経験を持ち出すことを望んではいないはずだ。インダストリアル・バンドになるなんてとんでもないことだが、僕たちはそれに挑戦するつもりなんだ」

つまり、ARCHITECTS の今日の状況はバラ色です。このビデオは、10枚目のアルバム、”the classic symptoms of a broken spirit” は大好評。あの BIFFY CLYRO と共にツアーに出る予定で、ロンドンのThe O2にも初上陸する手筈。前作 “For Those Wish To Exist” はチャートで1位を獲得し、The Official Charts Company からトロフィーが授与されています。
「あの出来事は、レスターがプレミアリーグで優勝したようなものだ。誰もがそんなことは起こらないとタカをくくっていた」
しかし、岡崎のチームと同様に、ARCHITECTS は狂ったオッズをはねのけて優勝しました。そして、ARCHITECTS はこれまでで最大の UK ツアーを敢行。それから彼らは昨年末、ロンドンの伝説的なアビーロード・スタジオで、オーケストラとレコーディングを行いました。
「最初のテイク “Black Lungs” をやったとき、僕は何も歌えなくなったんだ。完全にパニックになって、部屋を出なくちゃいけなかった。マネージャーからジンを渡され、涙ぐんでいた僕は指揮者のサイモン・ドブソンに慰められたんだ。彼は僕を抱きしめて、”一緒に乗り越えよう” と言ってくれた。”他のことは気にしないで、自分ことだけに集中して” と。そして、それはうまくいったんだ」
ビートルズに傾倒するフロントマンは、これを “聖書のような体験” と呼び、パンデミックがまだすべてを終わらせる恐れがある中でコストとリスクを秤にかけつつ、結局次のアルバムを書くことにしたのです。
「ロックダウンという、何もしない退屈な時間の中で、作曲だけが唯一意味のあることだったんだ。自分がミュージシャンであること、これが自分の仕事であることを再認識させてくれた。僕は犬の散歩が得意なんだけど、あとは本当にそれくらいしかできないんだ。だから、何か集中できるものがあってよかったし、みんなのコミュニケーションも保てた。一緒にスタジオにいなくても、アルバム制作のために、常に連絡を取り合っていたからね」

もしあなたが、Sam がビデオでメイクをしていることや、シングル “tear gas” が2007年の “Ruin” よりもさらに RAMMSTEIN 的なインダストリアルな香りがすることに腹を立てているとしても、歌詞の内容を知るまでその怒りは収めるべきでしょう。すべてが小文字のタイトルが物語るのは、傷ついた精神の典型的な症状です。”living is killing us”, “doomscrolling”, “a new moral low ground”, “be very afraid”, “born again pessimist” など、収録されている曲のタイトルがまさにそれを物語っています。Sam は、このような荒涼とした表現には “Very Architects” ARCHITECTS らしい胆力のあるユーモアがあると言いますが、気候変動や、持てる者と持たざる者の残酷な格差社会、そして自分自身の精神状態にかんする率直な分析といったセンシティブなテーマを扱うときには、まさにそのユーモアと胆力が必要なのだと言います。
「そうでなければ、いつも泣きながら歩いていることになる。人々の逃避場所になりたいんだ。自分の音楽は、人々が一緒になって、この国や世界の状況に対する疲労や弱さを共有できる場所でありたいと思うんだ。暖房費も気候変動も心配だけど、僕たちにはそれを話し合える相手がいるし、バンドで歌うこともできる。でも、そういった場所がない人もいるわけで。彼らは本当に心配しているのに、友人たちはそんなこと気にも留めていなかったりしてね。だから、こういうことを話せるバンドがいて、身を乗り出して、”クソみたいな話だよな” と言えるのはいいことだと思うよ」
ARCHITECTS のようなバンドがいることは、もちろん良いことでしょう。今のイギリスは、実際、”クソみたいな話” ばかりなのですから。イギリスの政府は、この数ヶ月で4人目の財務大臣となるジェレミー・ハントを発表。彼は、NHS を解体し、そこで働く人々の士気を破壊することによって売却のための下準備をしているように見えました。食べ物を買う余裕がないとか、凍死しないか?とか、基本的な生命の尊厳が脅かされているのです。さらに、前首相のリズ・トラスはよりクリーンな代替案ではなく、環境の破壊が進むべき道であると主張し続けていました。
同じ週、Just Stop Oil のキャンペーン参加者2人がロンドンのナショナル・ギャラリーに入り、ゴッホの “ひまわり” にスープの缶を投げつけ、壁に貼り付ける様子を撮影しました。芸術と命、どちらが大切なのか。絵画を守ることと、地球と人間を守ることのどちらが大事なんだ?と。その後、彼らの主張よりもその手法が話題になったのは当然ですが残念なことでした。イギリスは自国の気候変動目標の達成にさらに遅れをとっています。

Sam は、自分が答えを持っていないことを最初に認めます。そして、個人として、たとえ彼のような熱心な人間であっても、全体の “ゲーム” が地球に対して不正に操作されている間は、ほとんど何をやっても無駄に近いと理解しています。ARCHITECTS の音楽には、こうした不安も織り込みながら、悩みを他人と共有し、何ができるかを考えようとしているのです。
「誰のせいでもなく、僕たちにできることはあまりない。僕たちの社会におけるより大きな問題は、おそらく世界の炭素排出量の80パーセントを担っている約13の企業にかかっているのだから。環境に配慮している人は、リサイクルのやり方を間違えると、何かを殺してしまったような気がして、イライラしながらベッドに入ることになる。でも大丈夫。それは結局、企業の責任なんだ。もちろん、環境問題は自分の手を離れたわけではないし、毎日、環境のため、自分のため、周りの人のために、より良いことをしようと努力している。でも、時には、それが彼らの責任であることに気づかなければならないんだよ。問題は、誰も大企業にそうした質問をしないこと。みんな、こうした企業が提供するすべてを必要なものとして見なしているから、誰も踏み込めないんだよ。本当にクソ難しい問題なんだ。
僕たちはいつも、世界で何が起こっているのかを、虫眼鏡で見て、”これが本当の姿だ” と話してきた。今のイギリスは生活費や暖房費に苦しんでいる人たちが多いから、すごく暗いんだ。それってもちろん、僕たちにとっても恐ろしいことだけど、人工呼吸器をつけたまま寝ている老婦人にとってはもっと、本当に恐ろしいことだからね」

このアルバムでは、同じように厳しい視線を内側にも向けています。”burn down my house” では、Dan Searle の歌詞が精神的な健康について語りかけます。この2、3年、パンデミックに対する恐怖と怒りが、人との接触がかろうじて合法となったことで増幅されました。自分自身の葛藤の重さだけでなく、精神の病が現実的な健康問題とはなぜ見なされないのかという疑問符をこの曲は描き出します。
「この曲はすごく暗い曲なんだ。僕と Dan の精神的な健康について歌っているんだけど、社会的な状況に昇華できるオープンな曲だと思う。精神衛生についての議論や、チャリティ活動みたいに、人々が何かをすることはあるけど、この問題は思うほどにはまだ現実味がない。実際にきちんとした会話になっていないんだ。”大丈夫じゃなくてもいいんだよ” って言うだけで、”本当に大丈夫なのだろうか?” 答えは “ノー” だ」
ギタリスト、Tom Searle が2016年に亡くなる1年前から、Sam は抗うつ薬を服用するようになっていました。パンデミックにかけて、世界がいつもより混乱する中、彼は服用量を倍増させていきました。抗うつ薬はたしかに、暗いものを閉じ込めておくのに役立ちましたが、それ以外のものも同様に閉じ込めてしまったのです。うつ病の代わりに、彼は何も感じなくなりました。
「抗うつ剤が悪いとは思わないよ。抗うつ剤がなかったら、僕はここにいないだろうから。だけど、服用量を2倍にしたとき、僕はやり過ぎてしまった。喜びも悲しみも、まったく感じられなくなったんだ。全く何も感じない。喜びも悲しみがまったくないんだ。悲しみを感じたい、感情を持ちたいと思っていたよ」
Sam の友人たちが、彼と彼の婚約者に、娘の名付け親になってほしいと頼んだ瞬間が転機でした。その時、婚約者は涙を流しましたが、Sam 自身は、依頼されたことを光栄に思い、嬉しく思っていたが、何も感じなかったといいます。その瞬間に彼は、「もう薬はやめよう、もっと自分を見つめ直そう」と思ったのです。
「あまりに急に断薬するのは危険なので、時間をかけて断薬していったんだ。でも、その間は気が狂いそうだった。断薬するのはとても大変だったんだ」
同時に、サムは自分自身と自分の人生をより徹底的に検討し始めました。バンドが公の場で気高く Tom の死という悲しみを乗り越えてきたように、彼はより静かで個人的なケアも必要だと気づいたのです。

「実際にすべてを眺めてみると、”そうか、自分が対処しなければならないこと、話して癒さなければならないことがたくさんあるんだ” と気づいたんだ。僕と Dan は同じ時期にそれを経験していたんだと思う。Tom が亡くなった後、僕らはそのままツアーに出て、その状況についてレコードを録音した。ステージでも毎晩、彼のことを話したよ。それは本当にすべてを包み込むようなもので、本当に大変だった。
24時間365日、自分のトラウマをみんなに開放するのは簡単なことではないからね。かなり疲れるし、本当にただただ悲しかった。ステージに上がるたびに、Tom の話をするんだけど、同じ話ばかりするわけにはいかない。台本を読んでいるように聞こえるのが嫌だったから。だからこそ、毎晩 Tom の話をしているうちに、トラウマになるような思い出に入り込んでいくんだけど、それがすごくいい思い出だったり、すごくつらい思い出だったりする。
でも、僕本当のことを話していたんだ。Dan と話したんだけど、明らかに僕がステージでこの話をするのがどれだけ大変かを見ていて、”嫌ならこれ以上心を開く必要はない”, “もし君が多くを語らず、ショーを乗り切って楽しい時間を過ごし、ここにいることに感謝する必要があるなら、そうすべきだ” と言ってくれた。
だから、スタジオに入ったときも、今回は、今あるこの瞬間を本当に楽しもうという感じだったね。Tom が僕らにしてほしいと思っていることをやろう、つまり、悲しんでみじめに座っているのはやめようと決めた。Tom が望んでいるのは、悲しんだり惨めになったりすることではなく、自分の人生を精一杯生きて、すべての瞬間を楽しむことだから。
だから、自分の中に戻ってみると、”一人で乗り越えなきゃいけないんだ。みんなの前で僕が乗り越えるんじゃないんだ” って気づくんだ。僕はすでにカウンセラーに会っていたんだけど、最優先って感じじゃなかった。パブで大金を使ったり、ずっと欲しかったレコードを買ったりすること…カウンセラーの優先順位はその下にあるものだったんだよね。だけど、その転機で僕は、できる限り最高のカウンセラーに相談し、お金を貯めて、自分自身をケアするためにお金を使おうと思ったんだ」

結局、ステージから降りればアーティストも普通の人間です。
「チェスター・ベニントンや彼が経験した苦悩を見れば、スーパースターであるかどうかは関係ないんだ。みんな毎日を過ごして、学んで、お互いのために頑張るしかない。僕たちは、他の人たちと同じように、人生や家族、子供、浮き沈み、不安、長所、短所を持った普通の人間だ。僕は少し前に、なぜ怒りの音楽に惹かれるのかに気づいたんだ。他の多くの人と同じように、僕も自分の怒りのための健全なはけ口を持っていなかったから。実際、僕はそれを “許容できる” 方法で表現する方法をまったく知らなかったけど、ヘヴィー・ミュージックは、他の何にもできないときに、その感情を表現する場所を与えてくれたんだ。
今日、僕は18歳ではなく34歳で、自分の怒りのすべてを理解しているわけではないけど、音楽を作るときに表現することを求める感情はそれだけではないし、それはこのバンドのメンバー全員にも当てはまる。そう、怒る理由はたくさんあって、その感情はこの作品に表現されているけれど、もっと複雑な感情もここにあるんだ」
Sam はファンから受けるフィードバックをあまり気にかけてはいません。ARCHITECTS 初期の作品を特徴づけていた破砕的なヘヴィネスが失われたことを嘆く否定的なコメントなどを軽く笑い飛ばし、気にしない。メイクアップのことも、そこまで大した問題ではありません。唯一、本当に気になるのは、バンドが Tom と一緒にいたときとは違うという不満を持つ人たち。そこに Sam は恐怖や嫌悪感を感じています。
「最近はファンの声が大きい。インスタや Twitter を得て皆が突然、音楽評論家になった。だからどうでもいいんだ。良いものも悪いものも読まないよ。ただ若者の作品がその声に影響されるのは嫌だ。音楽を出すだけで怒られるのは辛いからね。
バンドにいるから、楽な人生だろうと思われているような気がする。でもね。毎日、毎秒、Tom のことを考えているんだ。ARCHITECTS という言葉を聞けば、彼のことを考えずにはいられない。Tom ならこれを恥じるだろう、Tom ならこのレコードを嫌うだろう、Tom ならこうしただろう、Tom の遺産に泥を塗るな、と言う人をたくさん見てきた。だけど、オマエは Tom の何を知っているんだ? 名前を口にするのもおこがましいって言いたいよ。
Tom はメインソングライターで、今はみんなが ARCHITECTS でソングライターとしてのあり方を学んでいる。僕たちはこの作品を作るために一生懸命働いてきた。”Tom なしではもう無理だ” と言う方がよっぽど簡単だっただろう。もうこれ以上できない。Tom の真似はできないよってね。つまり、僕たちは親友の音楽をパクってるわけじゃないんだ。後任のギタリスト Josh Middleton に Tom のようなリフを書いてくれなんて頼めないよ。それがどれだけ侮辱的なことかわかる?」
そうして Sam は “大丈夫じゃなくても大丈夫” の件に戻ります。
「SNS のヤツらは、今の僕らが気に入らないからと言って、僕の人生の中で最もトラウマになった瞬間を持ち出してもいいと思っているんだ。そのことで何度も泣いたし、何度も傷ついた。人がこんなに卑屈になれるなんて信じられない。そんなこと言うヤツは狂ってるよ。”大丈夫じゃなくても大丈夫” なんて言われるのは腹立たしいよ。だから、僕たちはお互いに話し方に気をつける必要があるんだよ。Tom がいた頃と比べられるのが僕は恐ろしいから。
新しい ARCHITECTS を好きになれとは言わない。音楽は完全に主観的なものだから。多くのファンは、僕のビートルズの “Revolver” のB面が最高だという話は聞きたくないと思うんだ。わかるよ。嫌いなら嫌いでいい。ただ、そこで僕を侮辱したり、僕のベストメイトを持ち出したりする必要はないんだよ」

“the classic symptoms of a broken spirit” を聴いていると、すべての挫折した感情の結び目が大きく書き込まれています。Sam が言うように、これは共有されることを意図したものでもあり、平易な言葉はそれを聞いて感じる必要のある人々に届く方法として使われているのです。そうして Sam は、自分のバンドがカタルシスの源となり、人々が暗闇の中に光を見出すことができるようにと願っているのです。
「ライヴでは、水曜日の夜を金曜日の夜に変えたいんだ (笑)。現代社会のストレスを忘れて欲しい。音楽は、人々にとって逃避の場だから。大きなトラウマになるような体験をしても、僕たちの音楽を楽しみに来て、トラウマをその時だけは忘れられる。
君がお金をかけて僕たちに会いに来てくれる時、僕たちは君のためにショーを行っているんだよ。君のお金は、僕たちのパフォーマンスという形で君に還元され、君を世の中のストレスから解放するということを知ってほしいんだ。
今の僕たちはオルタナティヴ・アリーナ・メタルだよ。よくわからないけど。つまるところ、僕たちはただのロックンロール・バンドなんだ」
最近の曲は実際にそうしたステージのために作られたもの。Sam は “Animals” をライブで演奏するときの興奮を、”大勢の人が巨大でシンプルなリフに押しつぶされる” という言葉で表現します。そして、疑うことを知らない BIFFY ファンは、英国で最も優れたメタル・バンドのひとつに初めて遭遇するのです。
「”これは一体何なんだ?”と思ってくれる人がいるといいんだけどね。面白くなりそうだ。楽しみだよ。僕はいつも打ち負かすことを楽しんでいる。観客の中にいる誰かを見て、激怒しているその一人に集中して、考えを変えようとする…そのチャレンジが好きなんだ」
何より今、Sam Carter は幸せです。彼は人生に満足し、自分のバンドの新しいアルバムに喜びを感じ、ようやく友人たちとツアーに出られるという見通しも立ちました。今の彼は自分自身をきちんとケアしていて、以前との違いを目の当たりにしているところです。そして、アルバムに収録されている音楽と同じくらい Sam の人生は、彼が人々と共有し、絆を深めたいと考えているものなのです。
「これが僕の人生だなんて、信じられないよ。”信じられない”! みんなにそれが伝わればいいな。それは、とても大切なこと。まるで、誰かが僕の口の中に LSD を入れたみたいだ」
壊れた精神?建築家はそれをリフォームする方法を知っています。

参考文献: KERRANG!Architects: “You want your music to be an escape for people. You want to be a place where people can come together…”

NME:Architects: “We’re not afraid to try new things, and I don’t think anybody should be

LOUDWIRE:How Architects Are Still Celebrating Tom Searle With Upbeat New Album Read More: How Architects Are Still Celebrating Tom Searle With Upbeat Album

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AETERNAM : HEIR OF THE RISING SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AETERNAM !!

“We Do Think Of War As Part Of Human History And Mainly a Great Way To Learn That Violence Is Never The Answer To Resolving Any Conflict. There’s Nothing Positive In Death Of Innocents That Benefits Humanity At Large.”

DISC REVIEW “HEIR OF THE RISING SUN”

「歌詞を読んでみると、この作品がただの歴史の授業ではなく、詩的で、時には出来事の完全な説明というより、もっとテーマを喚起するような内容になっていることに気がつくと思うんだ。中世ビザンツ帝国の時代は北米じゃ軽視されがちだけど、歌詞の内容的にも音楽的にも大きな可能性を秘めた、取り組むべき興味深い題材だと思った」
大砲が何発も何発も都市の城壁に打ち込まれる中、ダミアヌスは深く動揺しながらも、矢を手に城壁の上に立つ。彼はすぐに聖母に祈りを捧げた後、弓を包囲者たちに向けて放つ。埃が空中に舞い上がり、大砲を操るオスマン軍の将を左に数センチ外してしまう。パニックの中、ダミアヌスは選択を迫られる。先祖の土地を捨てて去るべきか、それとも戦って死ぬべきか?ダミアヌスが戦うことを決断した数分後、大砲の弾が命中し、彼の手足は引き裂かれ骨は粉々になった。おそらく神は帝国の滅亡を望んでおられるのだろう。コンスタンティノープルの街のあちこちが限界点に達し、ノヴァローマの富を手に入れるため、オスマン帝国はついに征服不可能な都市に突入した。
「実は、この曲はウクライナ戦争が始まるずっと前に作られたものなんだ。とはいえ、僕たちは戦争を人類の歴史の一部と考え、暴力がどんな争いも解決するための答えには決してならない、そのことを学ぶために最適な方法だと考えているんだ。罪のない人々の死が、人類全体の利益となるなんてことは絶対にない。戦争にポジティブなことは何もないのだから」
この “The Fall of Constantinople” “コンスタンティノープルの陥落” は、AETERNAM の5枚目のアルバム “Heir of the Rising Sun” を締めくくる、ビザンツ帝国の終焉を描いた壮大な楽曲です。この歴史的、音楽的なクライマックスに到達するために、AETERNAM は SEPTICFLESH の映画的シンフォニー、WILDERUN の知の陶酔、AMORPHIS の旋律劇、ORPHANED LAND の異国の香りを見事に混交しています。リスナーはこのレコードで時を超え、オスマンとビザンツの時代に旅をしながら、”永遠” の名を持つバンドが提起する人類永遠の課題 “戦争” を追体験するのです。この物語は遠い昔の話しでありながら、実は過去の遺物ではありません。そろそろ私たちは、ほんの少しでも歴史から何かを学ぶべきでしょう。
「”Kasifi’s Verses” の冒頭にあるトルコ語のちょっとしたナレーションを入れると、実は5つあるんだよね。 それは、曲の中で僕たちが語る人々に対する言葉でのオマージュと見ることができるだろうね」
“Heir of the Rising Sun” で AETERNAM はアグレッシブ・メロディアスなリフの合間に、中東・北アフリカの風を受けたギターリードがオスマン帝国の誇りを見せつけ、”征服者” がコンスタンティノープルを手にするため力をつけていく様を描いていきます。もちろん、その絵巻物の情景は、モロッコに生まれ育った Achraf の歌声が肝。
そうしてアルバムは、1453年5月29日が近づくにつれそのオリエンタルなテンションを増していきます。”Beneath the Nightfall” や “Where the River Bends” におけるブラックメタルの激しい旋律、荘厳に勝利を響かせる “Nova Roma”。
一方で、”The Treacherous Hunt” では、東洋の水にグレゴリオ聖歌とシンフォニック・ブラックメタルの構造を無理なく融合させて、ビザンツ帝国の側からもストーリーを肉付けしていきます。戦争に正義などありませんし、完全に善と悪で割り切れるものでもないでしょう。AETERNAM は侵略者、被侵略者、両方の物語を描く必要があることを知っていました。英語、ギリシャ語、トルコ語、ノルウェー語、ラテン語という5つの言語を使用したメタル・アルバムなど前代未聞。しかし、それはこの壮大な “教訓” をリアルに語るため、絶対に不可欠な要素だったのです。
フィナーレにしてクライマックスのクローザーでは、大胆なメロディとスタッカート主体のリフ、ドラムが大砲のように鳴り響き、オスマントルコの攻撃を演出。しかし、途中から勇壮なギター・リフに移り変わり、ビザンツ兵の視点が強調されます。逃げ出すか、このまま街に残って死ぬか。彼は嘆きながらこう決心するのです。
「もし神の意志で街がこの夜に滅びるのなら 私は命を捧げた戦士たちの側に倒れよう」
今回弊誌では、魂のボーカル&ギター Achraf Loudiy と、創始者のドラマー Antoine Guertin にインタビューを行うことができました。「Achraf と僕が出会ったとき、彼は AETERNAM の曲にもっと東洋的なメロディーを取り入れるというアイディアを持っていたんだ。 彼はモロッコでそうしたメロディーを聴いて育ったし、彼の母親が素晴らしいシンガーであることも重要だった。家系的にもそうなんだよね」 どうぞ!!

AETERNAM “HEIR OF THE RISING SUN” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【LORNA SHORE : PAIN REMAINS】


COVER STORY : LORNA SHORE “PAIN REMAINS”

“This Kind Of Music Can Be Very Punch-you-in-the-face All The Time. But I Love Stuff Like In Flames Where There’s a Lot Of Inner Conflict.”

PAIN REMAINS

かつてデスコアは、マイスペースでブレイクした JOB FOR A COWBOY と ALL SHALL PERISH を旗頭に、エクストリーム・ミュージックの最新かつ最も賛否両論を浴びる若い音楽として登場しました。彼らは、デスメタルの悪魔的な強さとメタルコアの乱暴なブレイクダウン、そしてニュースクールのプロダクションを組み合わせていたのです。その後数年の間に、2008年 WHITECHAPEL の代表作 “This Is Exile” や 2009年 SUICIDE SILENCE のヒット作 “No Time to Bleed” といった画期的なレコードが、デスコアをワープ・ツアーのステージや若いメタルヘッズのTシャツの棚へ導きました。
しかし、2010年代半ばになると、このジャンルの新時代的な魅力は頭打ちになり、このスタイルは再びアンダーグラウンドに戻りました。ただし、ニッチではありますが熱狂的なファンベースによって育まれ、最近では、15秒間のクリップを共有できる Tik-Tok を中心としたプラットフォームのおかげで再び外界に広がりはじめています。今現在、LORNA SHORE はこのデスコアの新しい波の中で最も大きく、目立つ存在であり、モダンなプロダクションと10年分のジャンルの歴史のおかげで、”Pain Remains” は10年前のどのレコードよりも重く、スマートで、音楽的にダイナミックなサウンドを実現しているのです。
実際、LORNA SHORE の快進撃は、近年 “デスコアは死んだ” と嘯くリスナーを黙らせるに十分な衝撃、これまで以上にハードでヘヴィでパワフルな死の予感を叩きつけます。TikTokで Will Ramos の気の遠くなるようなピッグ・スクイールに何百万人もの人々が我を忘れて熱狂して以来、今では最大級の観客を召喚する、メタルの最も注目すべきバンドとなったのです。

1時間強のアルバムでこの獰猛な5人組は、その黒々とした魂の奥底から、地獄のサウンドを次から次へと引き出していきます。機械仕掛けのテクニックと抑えきれないカオスが交錯し、ブルータリズムの不協和音にリスナーは息つく暇もありません。ギターソロとパーカッションが頭蓋骨に風穴を開ける一方で、Will のボーカルは終始主役を張っています。彼の喉仏をカメラで撮影し、声帯を変形させながら呻き声や悲鳴を上げる映像は誰もが目にしたことがあるでしょうが、”Pain Remains” ではそれ以上に喉仏が酷使されているのです。
ちなみに、実はこの “喉仏カメラ” がきっかけで、LORNA SHORE に対する教育・医学的な関心も高まっています。
「実は僕の声帯が科学の本に載ることがわかったんだ。世界のどこかで、誰かが声の解剖学の授業を受け、そして僕の声帯を研究する。 いいね、僕は本の中にいるよ!」

一方で、この “痛み” には合唱のモチーフや温かみのあるストリングス・セクションが随所に盛り込まれ、圧倒的なカタルシスと陶酔感が内包されています。さらには、”Into The Earth” の勝利の高揚感、”Apotheosis” の血管を流れる生き生きとしたアドレナリン、”Pain Remains I” のワイルドな奔放さ。そうして彼らは、デスコアのルーツを “Dancing Like Flames” でより大きく、ポジティブな翼で羽ばたかせます。
LORNA SHORE の2021年のシングル “To the Hellfire” は、YouTube でマエストロと評判だった Will Ramos を新しいフロントマンとして紹介した楽曲です。この曲が予想外のバイラル・ヒットとなったのは、Will の動物的な咆哮と、撲殺的なブレイクダウンでにおける鬼気迫る叫び声によるところが大きく、このグループが持つデスコアのナット&ボルト、つまりブレイクダウンとねじれたメロデスのリフ、そしてシンフォニックなブラックメタルのアトモスフィアに痛々しい感情が混ざり合うユニークなスタイルにさらなる新鮮味が加わったからでしょう。Will Ramos は言います。
「僕は多くのボーカリストとは全く異なるサウンドを持っている。たくさんの感情があるけれど、それは怒りに満ちた感情じゃないんだ。悲しいんだ。このジャンルではあまり感じないことだし、だから多くの人が僕らの新しいアルバムを気に入ってくれると思うんだ」
3年前、LORNA SHORE は自分たちに未来があるかどうかさえ分かりませんでしたが、”Pain Remains” でその運命を封印しました。そんな彼らの命の咆哮は、いかにして生まれたのでしょう。
今、地球上で最も沸騰するエクストリーム・バンドの一つ LORNA SHORE は、意外にも、2010年の結成以来、この場所までにかなりの長い道のりを歩んできました。そんなバンドにとって、不運や困難、悲しみは決して遠い存在ではありません。むしろ、ずば抜けた “反発力” でマイナスをプラスにかえながら、ここまで進んできたのです。

ニュージャージーという狭い地域出身の彼らにとって、LORNA SHORE は人生の成功か失敗かの分岐点とも言えました。しかし、初期の EP “Maleficium” で特徴的なブラック・デスコアの感覚を加えた後、彼らはプロデューサーからミックスを受け取るのに1年も待つこととなり、リリース日を延期し続けなければなりませんでした。同時に、バンドは地元のプロモーターの間で “煩い奴ら” と評判になり、地元での演奏が難しくなり、誰も彼らのことを知らない州外で演奏することを余儀なくされました。
ライブで演奏することの難しさと、新曲を後回しにしなければならないことの狭間で、2つの仕事を掛け持ちしてバンドに資金を提供していた Adam は、”Maleficium” が伝わらないなら、バンドを辞めて次の学期からバークリーの学校に行こうと決心していました。
「このままでは LORNA SHORE が終わってしまうというストレスの多い時期だったな」
しかし、2013年12月に “Maleficium” がドロップされると、リード・シングル “Godmaker” のビデオはYouTubeの塹壕の中で猛烈なヒットとなり、突然バンドには数ヶ月前に彼らを無視した同じマネージャー、予約エージェント、レーベルからメールが押し寄せるようになったのです。
かつては、あの CHELSEA GRIN にボーカルを “寝取られ” たこともあります。
“Flesh Coffin” と Summer Slaughter の成功で LORNA SHORE の状況がかつてないほど明るく見えたとき、暗雲が立ち込めます。2017年末、バンドはジャンルの巨頭である CHELSEA GRIN とヨーロッパ・ツアーを行いましたが、CG ボーカルの Alex Koehler は健康上の問題に苦しみ演奏することができなかったため、LORNA SHORE のボーカル Tom Barber を含む他のシンガーに、様々なセットで代役を務めてもらっていました。帰国すると、Barber はその後まもなくLORNA SHORE を脱退し、Alex の後任のボーカリストとして静かに求婚していた CHELSEA GRIN に加入したのです。
「女の子とデートしているときに、その子が “この人、ずっと私を口説いてるけど、私は興味ないわ” って言ってるようなもんだよ。そしたら結局、隠れて不倫してたみたいなね!」と Adam は笑います。
二人はその後、仲直りしたといいます。しかし、当時の彼の突然の脱退は、LORNA SHORE の高揚感を破壊し、すでに予約していたスタジオ・セッションを前に、ボーカリスト不在のまま空回りすることにもなりました。バンドは先行きの見通しが立ちませんでしたが、それでも彼らは Barber の脱退を、バンドを続けるための原動力としたのです。
Adam は、”このままではいけない” と思ったといいます。実際、Barber が脱退しなければ、彼らは今、”バンドとして成立していなかった” と考えています。
「残されたメンバーの心に火がつき、世間が間違っていることを証明することになったんだ」

今年の8月は Bloodstock への出演が大幅に遅れました。彼らはその週末で最も期待されたアクトの一つで、彼らを見るために非常に多くの観客が集まっていたにもかかわらず…
「”プライベート・ライアン” で、ノルマンディーでボートが開いて、みんなが急いで外に出るシーンがあっただろ?あれは、まさに俺たちがバスから降りて、すべての荷物を抱えてステージに駆け上がったのと同じだよ。地獄のように暑かったから、何が起こっているのかまったくわからなかった」
2021年には、新シンガー、Will Ramos がライブデビューのベルリンで、アメリカのコンセントと電圧が違うことを理解せずイヤモニをヨーロッパのコンセントに差し込み、壊してしまったこともありました。ステージ上ではマイクも壊れ、大変な1日になりました。
PARKWAY DRIVE とのツアーでは、不幸は少なくとも、何らかの警告を与えるという礼儀を備えていた。ドラムの Austin Archey が、背中の病気を抱え、ニュージャージーの自宅で療養中。そのため、ベーシストの Michael Yager が代わりにドラムを演奏しています。
しかし彼らは、そんな不運の数々を生贄にするかのように、今現在、最も爆発的な飛躍を遂げているメタルバンドとなりました。ニュージャージーのデスコア・バンドがこれほの成功を収めると想像した人はいないはずです。ロンドンでは、250人収容の Boston Music Room からカムデンの Electric Ballroom まで、3回以上大きな会場に変更されていきました。当初の予定より1,250枚も多いチケットを売り上げることとなったのです。バンドの首謀者 Adam De Micco は、PARKWAY DRIVE のサポート・バンドである自分たちには、20人くらいの観客しか集まらないと予想していました。しかし実際は、LORNA SHORE のシャツを着たファンは寒さの中、長い列を作って4時間もの間辛抱強く待っていたのです。

この急成長中のバンドを取り巻くエネルギー、熱意、そして注目度を考慮すれば、LORNA SHORE を駆け出しのバンドと勘違いしてしまう人は多いでしょう。しかし、この衝撃的な瞬間は、2010年の結成以来、ニュージャージーのクルーが経験してきたいくつかの再出発のうちのひとつに過ぎないのです。過去10年以上にわたって、LORNA SHORE は弱小バンドなら潰れてしまうような存亡の危機を何度も乗り越えてきました。2年前にも、彼らはボーカリスト不在のまま無情にも解散し(2度目)、デスコアの “コメンテーター” たちからは一様に、彼らの時代は終わったと見なされていたのです。しかし、今、彼らは新たに再生し、これまでで最も強固なラインアップで生まれ変わり、このジャンルの新しい顔となるべく邁進しています。そのブレイクに何よりも驚いているのは、実はバンド自身なのかもしれませんが。
「ネット上の憎悪が渦巻く中で、虐待疑惑の CJ と別れた瞬間、みんなのシナリオは “このバンドはもう終わりだ。このバンドはもうだめだ、最悪だ” だったからな」
しかし、2020年に虐待疑惑が発覚してバンドを脱退した CJ McReery の後任として Will が加入して以来、LORNA SHORE のストリーミング配信数は爆発的な伸びを見せています。昨年の “And I Return To Nothingness EP” に収録されている “To The Hellfire” は、現在 Spotify で2,500万回近く再生されているのですから。公開からまだ短い期間しか経っていない “Pain Remains” からのシングル曲 “Dancing Like Flames” でさえ、すでに約300万の再生回数を記録しています。
「10年経って、何かが起きているんだ」と Adam は笑います。「始めて10年も経てば多くの人が成功を諦めてしまうかもしれないけど、俺は諦めない。俺たちのために集まってくれる人たちを見ていると、毎日、”よし、彼らが来てくれるのには理由があるんだ”と思うから」
ただし、Adam De Micco は、LORNA SHORE の大成功を夢見て始めたわけではありません。
「単なるローカル・バンド以上の存在になりたいとはずっと思っていたんだ。だけど、”大物” みたいになりたいとか、そういう目標ではなかったんだ。いつでもツアー中のバンドになりたかった。そのために必要なことは何でもするつもりだった」
もちろん、同時に若者らしい理由もありましたが。
「もっとクールな話があればいいんだけどね!16歳のとき、あることがきっかけで彼女と別れたんだけど、再会したとき、彼女は別のバンドをやっている男に夢中だったんだ。それで、”よし、Adam、お前もバンドを始めなきゃ” と思ったんだ」
最初の問題は、彼が楽器を弾けないことでした。
「ボーカルなりたかったんだ。だけど、叫ぶことも、歌詞を書くこともできなかった。ドラムに挑戦してみたけど、すぐに自分はドラムを叩く人生には向いていないことに気づいた。それから、ギターを手にし、食料品店で働いた最初の給料でついに自分のギターを買ったんだ」

残念なことに、Adam の恋は実りませんでした。しかし、音楽を始めたことで、UNEARTH, LAMB OF GOD, KILLSWITCH ENGAGE など、自分と同じようなバンドに夢中になっている人たちに “出会う” ことができたのです。そうして、地元のハードコア・シーン(メタルはそれほどメジャーじゃない)でショーを行うことが Adam の新たな目標となりました。
「ニュージャージーは小さな州だから、小さな場所で演奏するのが普通で、ニューヨークやペンシルヴァニアでも演奏するんだけど、すごく大変だった。とにかく、小さなホールなどで演奏することが多かったね。ありがたいことに、インターネットがツールとして使われるようになったから、そこから抜け出すことができたんだ。というのも、もし地元での小さなライヴに頼るしかなかったら、こうした形でブレイクできたかどうかわからないからね。20~30人規模のライブに慣れていたから、そこから外に出るのは大変だったんだ」
そうして、Batman のコミックに出てくるマイナー・キャラの名を冠した LORNA SHORE は、米国デスコアの王 CARNIFEX のツアーに招待されます。やっとパーティーに招待されたような感じだったと Adam は回想します。
「地元のライブで毎日誰もいないところで演奏していると、”本物” だと感じるのは難しいんだ。でも、あのツアーでは、本物の会場で、本物の人たちの前で演奏していた。そのとき初めて、俺らが本物だと感じた瞬間だった。あのような本物のツアーをすることは、常に俺の頭の中にあった。これが俺のやりたかったことなんだとね」
Adam の中には、目標に負けることなく物事をやり遂げようとする粘り強さがあります。しかし、薄気味悪い信念や、世界征服の大義名分を口にすることはありません。むしろ、この親しみやすく、集中力のある34歳を一言で表すとしたら、”現実主義者” でしょう。つまり、人生には何が起こるかわからないが、その解決策を見つけ、立ち上がるのは結局自分自身であるということを Adam は理解しているのです。
「ロッキーの見すぎかもしれないね (笑) このバンドは殴られることには慣れているんだ。ロッキーの前提は、彼が最後まで殴られ続けること。もしそれで、”これは最悪な状況だ、何もできない、荷物をまとめて家に帰ろう” と彼が思っていたら、この作品は存在しなかっただろう。顎で受け止め、自分を奮い立たせ、”何とかしよう” と言うからロッキーは凄かったんだ!」
Will Ramos の加入は、そうした問題の解決策の一つでした。LORNA SHORE のマイクを握るのは、実は Will が4人目。当初は一時的な代役としてツアーを行っていましたが、2020年に COVID がすべてをひっくり返します。新たなラインナップの探求が難しくなったバンドは、慎重に、新しい若者との水際を試すように、Will Ramos と一緒にEPを作ります。”And I Return To Nothingness” “そして私は無に帰る”。
「俺が心配していたのは、バンドが外部から信頼されていないことだった。ボーカリストを交代してから1年経っていたけど、情報も出てこないし、本当に何も出てこない感じだったから。みんな喪失感を感じていたと思うし、そんな中で、このバンドはどこにも行かないんだという何かを発信したかった。一度 EP をレコーディングしたら、そうした不安はそれほど影響しなくなったよ」
リードトラックの爆発的なストリーミングを経て、Adam が興奮するのも無理はない、濃密なフルアルバムがここに完成しました。どんな困難や不幸に見舞われても、必ずそれ以上の成果を掴み取る、まさにロッキーのようなレジリエンス。偉大なる回復力と反発力。一方、PARKWAY DRIVE とヨーロッパのアリーナやメガホールを回るこのツアーは、Adam の言葉を借りれば “ビッグで本物のアーティスト、ポップやロックのレジェンド” が演奏する場所を自らが体験する別の “興奮” の機会となります。
「クラブでは、俺たちはもう天井に到達している。だからこのツアーは PARKWAY DRIVE のような本物のバンドが巨大な会場で本格的なプロダクションを行うのを見ることができる、全く別の世界があるんだ、という感じだ。別の次元にいるようで、俺にとってはエキサイティングなことなんだ。同じようなルーツを持つメタル・バンドがこうしたレベルに到達するのを見るのは、俺たちにとっても新たな可能性を示しているから。そう言いながらも、俺は物事が少しうまく行きすぎていると思っている。俺はいつも疑っているんだ。次の不幸はどこから来るんだろう?とね」

ギタリストが自分の運が尽きないように警戒しているとすれば、Will Ramos は自分の運を信じることしかできない様子です。誰もが Will をすぐに好きになり、ほとんど無邪気な熱意とエネルギーにあふれ、彼は、思慮深いアダムの陰に対して自由奔放でその場しのぎの陽のような存在。
バンドの他のメンバーからそれほど離れていないところで育った彼は、ギターを弾くことで音楽の世界に入り、クラシック・ロックに夢中になりました。
「Ozzyの “Crazy Train” を初めて聴いたとき、”これは世界で一番クールな曲だ!”と思ったのを覚えているよ」
友人たちが彼に LAMB OF GOD, CRADLE OF FILTH, ESCAPE THE FATE といったヘヴィなサウンドを聴かせようとしましたが、当初はうまくいかなかったようです。
「ああ、WHITECHAPEL を聴いて ”こんなの好きじゃない!” って思ったのを覚えてるよ (笑)。でも、聴き続けているうちに、だんだん好きになるんだ。今、そのことを考えるととても面白いね。だって僕らがやっていることは、そういったバンドよりもずっとダークでヘヴィーなんだから!」
Will の好みは、彼が言うところの “悲しくて歌心のある音楽” で、初期のお気に入りは AFI、最近のお気に入りは SLEEP TOKEN です。
「僕は “シーン・キッド” だったんだ。毎日、髪をストレートにしていたよ。髪を超黒く染めて、顔にピアスもした。唇に4つのピアス…昔はそうだった。最高だったよ!」
音楽的にも、やがて何かが見えてきました。
「それからボーカルに夢中になって、世界で最もハードなボーカルを聴きたくなったんだ。”誰が一番クレイジーなことができるんだろう?” と思い、バンドに参加したかった」
その代わり、彼はニューヨークで映画の仕事に就きます。
「勤務時間が非常識で、クールじゃなかった。自分のために何かをする時間なんてない。プロダクションのオフィスで、電話をかけ、10億通のメールを送り、撮影現場をよく手伝った。でも、それはとても疲れることでね。自分の中では、嫌でも、給料がいいから続けようと思っていたんだ」

LORNA SHORE のシンガーに空席ができたとき、実際、同じ時期、同じ州で、Will は同じような音楽的危機を迎えていました。彼は、過去10年間、いくつかのバンドで経験を積んだものの、いずれも上手くはいかず、彼が望むようなキャリアを積むことはありませんでした。うまくいかないバンドを追って工学部を3年生の時に退学した Will は、”これは最後の砦だ” と自分に言い聞かせたのを覚えています。同時に彼はこの空席を手に入れるのは “15,000人に1人” の倍率で厳しいだろうと考えました。しかし、バンドは Will の人気となった演奏動画をチェックしていて、彼にチャンスを与えました。早速、Will は映画の仕事を辞め、LORNA SHORE に加入します。
「でも、バンドは、ただ代役を募集していただけで、長続きするとは思っていなかった。だから、大好きなバンドと何かクールなことをちょっとだけやって、それから何が起こるか見ようと準備してたんだ」
ツアー、EP、その他すべてがコミットメントなしに行われたにもかかわらず、Will は明らかに適任でした。しかし、完全に “固まった” と感じたのは、新しいアルバムの完成まで待たなければなりませんでした。Will はここで、LORNA SHORE に自分のスタイルを持ち込み、可能な限り悲しい歌詞を書こうとしたのです。そこから、悲しみをテーマにした3部構成の組曲 “Pain Remains” が生まれました。そう、彼らが目指す場所は “ロマンティック・デスコア” の頂き。
「車の中で一人でいるときに一緒に歌ったり泣いたりできる音楽が大好きなんだ!僕は悲しい曲が好きなんだ。悲しい曲は二度と聞きたくないと思うようなことは、人生にはないだろう。でも、それってすごく病んでいるよね。その自分なりのバージョンを書く必要があったんだ。この種の音楽は、基本的に常に顔面を殴るようなものだ。怒りが根っこにある。でも、僕は IN FLAMES のような、内面的な葛藤がある音楽が好きなんだ。痛みがあるけど、圧倒的な喜びも享受できるようなね。この3部作を作るきっかけになったのは、スタジオでアルバムを書いているときに、マリファナをやめることを強く意識したことかな。大麻を吸うと、あまり夢を見なくなる。レム睡眠が止まってしまうんだ。でも、お茶を飲んで休憩すると、すぐに夢を見るようになった。夢の中で恋に落ち、目が覚めたときに、それが現実ではなかったという感覚を歌にしようとしたんだよね。君がそういう夢を見たことがあるかどうかはわからないけど、僕は間違いなくある。目が覚めたら悲しくなっていて、夢ではなく現実だったらいいのに、と思うような夢を見たことがあるよ。もっと眠っていればよかった…って」
偽りの場所にある願い、幸せ。それが手に入らない悲しみ。
「そんなところかな。僕は “ああ、君は最高だ。愛してる。君が誰なのかさえ知らないのに……” って夢をよく見る。その人が誰なのかわからないこともあるよ。知っている人なのか、知らない人なのか、わからない。そして、もう二度と会うことはない。でも僕は、そのシルエットの背後にある顔を見たいんだ。だって、”君が誰だかわからないけど、この感じはわかる。君をもっと知りたい” って思うから。でも、それ以上知ることはないんだよ…」

“Pain Remains” の “夢” を軸としたコンセプトは、あのバンドの新作にも通じています。
「このアルバムはコンセプト・アルバムだ。MACHINE HEAD の Robb Flynn が新譜 “Øf Kingdøm And Crøwn” のインスピレーション源として同じようなことを話していたよね。彼とはポッドキャストで共演もしているんだ。今いる場所が好きではない人、他の場所に行きたい人…とにかく彼らにとって自由になれる場所は夢の中なんだ。すべての曲は、この人物が夢を見、明晰になり、夢をコントロールできるようになり、やがてどんなことにも意味がないことに気づき、ほとんど全能の人物のようになるまでを描いている。物語のクライマックスは、さながら船を作り、その船が自分と共に沈んでいくのを見たい” そんな観念なんだ」
Will は哲学が好きで、”人はそれぞれ違った考えやイデオロギーを持っている” というコンセプトを愛しています。
「だから、この作品は循環するんだ。あるところから始まって、この世界の現実から逃れたいと思い、そして、最終的に現実から逃避し、別の場所に行き着いたところでこのアルバムは終了する。でもそれは始まりでもあるんだ。結局、夢想家は、神のような全能感に飽きる。疲れて、飽きる。全能の神では充実感を得られないんだ。そして、その世界は終わる。誰かが、世界の終わりのサウンドトラックのようなものだと言っていたけど、その通りかもね」
Adam と Will は完全に違う人間ですが、共通の目標を持っています。そのシンクロニシティでついに事態は好転し、LORNA SHORE がすべてを完璧に同期させ、上昇が始まりました。Adam は今のバンドを誇らしく思っています。
「今の状況は信じられないほど素晴らしい。パンデミックの時は、戻ってきても同じようにはいかないんじゃないか、バンドが地盤沈下しているんじゃないか、と思ったこともあった。でも今は、何か素晴らしいことをするチャンスがあると、とても刺激を受けているんだよ。今、俺たちは小さな魚のようなもので、完全に巨大な池の中にいる。メタル・バンドが通常演奏しないような場所で演奏している。ここの階段の壁には、俺らのジャンルとは全く関係のない様々なアーティストが同じ場所で演奏している写真がある。それで、どこまでやれるかワクワクしてきたんだ」
Will にも同じような信念があります。
「2年半前、2022年に僕はどこにいるだろう?聞かれたら、こことは言えなかっただろうね。いや、きっと残りの人生、ずっとパソコンの前で働くんだ “と思っていただろうね。でも今は、もっと上に行きたいんだ」

参考文献: KERRANG!:Lorna Shore: “Things are unbelievable right now… we’re excited to see how far we can take this”

REVOLVER:HOW LORNA SHORE BEAT THE ODDS TO BECOME THE NEW FACES OF DEATHCORE

WALL OF SOUND: Virtual Hangs: Will Ramos of Lorna Shore ‘Writing Lorna Shore’s Romantic Deathcore Ballad’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RELIQA : I DON’T KNOW WHAT I AM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MONIQUE PYM OF RELIQA !!

“A ‘Relic’ Refers To Something Old, Like an Artefact. A Lot o Of People Say This Contradicts Us a Bit, And We Agree, Because One Of Our Goals As Musicians Is To Create Sounds That Are Contemporary And New.”

DISC REVIEW “I DON’T KNOW WHAT I AM”

「深い意味合いでは、バンド名の元となった “relic” とは古い人工物のようなものを指すの。だから、多くの人が矛盾していると言うわ。なぜなら、私たちのミュージシャンとしてのゴールのひとつは、現代的で新しいサウンドを作り出すことだから (笑)」
シドニーの現代的なプログレッシブ集団 RELIQA。その名前は実は不適切で矛盾をはらんでいると言わざるを得ません。RELIQA というバンド名は過去の遺物、アイテム、工芸品を連想させますが、そのサウンドと音楽は未来を見据えた全く異なるイデオロギーに満ちているのですから。
もちろん、そんな異変に気づく賢明なリスナーなら、第二の異変、この EP のタイトルにも明らかな矛盾を感じるはずです。”I Don’t Know What I Am”。”自分が何者なのかわからない”。しかし、このバンドは間違いなく、自分たちが何者であるか、自分たちの方向性は何か、音楽的に何を達成したいのかを、正確かつ的確に把握しているのですから。そしてそれは、過去ではなく、現在と未来の超越的にプログレッシブでヘヴィな音の葉を創造すること。
「自分たちに対して正直であることが重要なのよ。それが何であれ、”自分たち” らしさを感じる音楽を作る。それが大事。確かに少し奇抜ではあるけれど、自分たちの音楽をわかりやすく、まとまりのあるものにするために積極的に取り組んでいるわ」
ヘヴィ・プログの常識を破る女性がフロントに鎮座したパフォーマンス、きらびやかで最先端のプロダクション、そしてダイナミックで驚きと楽しさに満ちた不可解な楽曲をさながら現代建築のごとく巧みに組み立てる想像力など、このバンドの意識は前時代の慣習すべてを置き去りにするほどモダンで先鋭的。
そのサウンドは、90年代以降に芽吹いた音の新芽を沸騰した鍋に投入し、轟音とともにかき混ぜ、完璧な味付けをほどこし、カラフルでありながら逆説的に首尾一貫まとまった形で仕上げられた、耳なじみの良いプログのオージー料理。
一見、バラバラな要素が組み合わされ、完成するはずのないパズルが完成してしまう。”Safety” のメタル好きにはたまらないヘヴィネスはもちろん、ストリングスとピアノが導く甘く高揚感のあるバラード “Second Naure”、実験的インスト曲 “blip”、ポップなボーカル、ラップにエレクトロニカ、果てはエスニックで東洋的な瞬間など、実際、この6曲入り EP にはあまりに多くのアイデアが滝のように密集して流れ落ちているのです。
個々の技術、曲作りの技術、そしてそれらを分かりやすく聴きやすいパッケージに落とし込む技術に長けた異能の集団。その料理の腕前は あの GOJIRA や SYSTEM OF A DOWN を彷彿とさせるほど。
「長い間男性に支配されてきたこの業界で、周りの女性たちと支え合うネットワークを形成できることは、とても “神聖” なことだと思っているの。だからこそ、SPIRTBOX の Courtney が “Good For A Girl” “女の子のために” というポッドキャストを始めたとき、彼女の目的がいかに素晴らしいものであるかということがよくわかったのよね」
10代後半から20代前半の若者が葛藤しながら向き合い、探し出す自分。そんな魂とアイデンティティの探求をテーマとした作品で、バンドのボーカリスト Monique は女性であることにも対峙しました。今やメタル世界のカリスマとなった SPIRTBOX の Courtney LaPlante。彼女と連帯することで、Monique の物語はさらに深い色を帯びていきます。
女性の学びの経験やエンパワーメント、女性らしさについて、ヘヴィ・メタルを牽引する女性たちがポッドキャストで配信する。そのネットワークや配信自体、そして、ポッドキャストや YouTube チャンネル、SNS のようなプラットフォームを開拓することがいかに重要で、抑圧された人たちを解放する力となるのか。彼女たちは自らを研ぎ澄まし、語り合い、支え合い、成長し、表現することで伝えようとしています。
「オージー・バンドのミュージックビデオを見ていると、YouTube のコメント欄には必ず “オーストラリアの水には何かがある!” と書かれているのよ。私もその通りだと思う。本当にたくさんの素晴らしい才能がここは存在している。そういう背景があるから、今、彼らの多くとステージを共有し、オーストラリアのプログレッシブ・メタルの新たな新興世代の一員となったことが、どれほど特別な気分か想像できるでしょ?」
オーストラリアがヘヴィ・ミュージックやプログレッシブのエルドラドであることを隠さなくなった10年ほど前から、数多のバンドが “急成長中” や “新星” というレッテルを貼られ、期待を寄せられていますが、一方でその中の大半はひっそりと消え行く南半球の仇星となったのが実情。
しかし、RELIQA は、例えば SPIRTBOX の Courtney LaPlante から賛辞を送られたり、MAKE THEM SUFFER の Sean Harmanis が作品に参加したりと、大器の片鱗をすでに見せています。彼らが正しい行動さえとれば、プログレッシブ・ヘヴィの未来は約束されているのです。
今回弊誌では、Monique Pym にインタビューを行うことができました。「ミュージシャンとしての私たちが自分たちが何者で、どこに属しているのかよくわからないのと同じように、人間としての私自身も、まだ自分が何者で、周囲の世界の中で自分のアイデンティティは何なのかを見極めようとしているところなのよ」Z世代の苦悩と葛藤、そして光。どうぞ!!

RELIQA “I DON’T KNOW WHAT I AM” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【WHITE WARD : FALSE LIGHT】


COVER STORY : WHITE WARD “FALSE LIGHT”

“You Feel Tension—Music Helps To Release It. You Feel Sad—Music Helps You Feel a Little Bit Happier. You Feel Anger And Pain—Creativity Is Also Your Savior. You Only Need How To Push The Negative Feeling Into a Creative Direction.”

FALSE LIGHT

ウクライナの実験的なブラックメタル集団 WHITE WARD は、6月に新譜 “False Light” をドロップしました。これはロシアがウクライナに侵攻してからちょうど4ヶ月目にあたります。4月にアルバムのリリースをアナウンスした際、彼らはこう語っていました。
「現在、ロシアの侵攻によりウクライナでは沢山の悲劇が起こっている。それでも、僕たちは新しいアルバムをリリースすることに決めたんだ。このアルバムが、より多くの人々をサポートし、ここウクライナでロシア軍が犯している犯罪をより効率的に広めるのに役立つだろう、そう信じてね。このソリッドな作品を完成させるのに2年以上かかったんだ。
そして、今、僕たちの国やその周りで起こっているすべてのことを受け止めながら、僕たちはこの作品を世界と共有することに決めた。僕たちは、音楽が困難な状況にある人々を助けると信じているから。音楽がどれほど強力な癒しの力を持っているかを知っているから。だから、もう待てないんだ。
この写真は、戦争が始まる数週間前に、僕らの友人 Sergii Kovalev によって撮られたもの。自然の写真家、ビデオグラファーである彼は、そうして今、僕たちの国で起こっている出来事を記録し、世界に示し始めている」

WHITE WARD はオデッサ出身で、当時はちょうどロケット弾の連射が新たな不安要素となっていた頃。ボーカルの Andrii Pechatkin は、5月に戦況についてこう語っていました。
「事態は急速に変化している。あらゆることに対応できるようにしなければならない。生き残るために柔軟でなければならない。新しい状況を受け入れなければならない。強くあり続け、団結しなければならない。僕たちの未来のために戦う必要があるんだよ」
コンポーザーでギタリストの Yurii Kazarian がこう付け加えます。
「僕は今、物質的な価値と “精神的な” 価値をかなり真剣に見直しているところなんだ。戦後、物質的な価値観は少し後退するかもしれないと理解している。僕も世界も2022年初頭のようになることは絶対にありえないのだから。大きな変化が今起きているんだ。あらゆる、それも最も恐ろしいシナリオに備えなければならない」
世界は変わってしまった。Pechatkin はさらに、反抗のための原動力について言及します。
「唯一の問題は、この戦争において自分の居場所はどこなのかということだった。僕たちには、勝利の瞬間を加速させるために戦う、守るべきものがあった。だから重要なのは、その場所を見つけ、それを最大限に活用することだったんだ」
Kazarian はこう付け加えます。
「僕は、自分の国や周りの人々をどれだけ愛しているかを実感することで、ウクライナ人であることについてどう感じているか、自分にとって明確で最終的な答えを得ることができたんだ。人前ではあまり感情を表に出さないのだけど、戦争が始まってからは、一人になると目に涙が溢れてくることがある。こんな気持ちになったのは初めてだよ。だから、新しい価値観の理解という話をしたんだよ。戦争が始まってから、僕の価値観は大きく変わってしまった」

具体的に、戦争はウクライナの人々をどう変えたのでしょうか? Pechatkin が答えます。
「戦争で起こった恐ろしい出来事は、僕自身の文化、隣人との関係、日常生活など、多くの問題に目を向けさせることにもつながった。戦争中は、毎日が最後かもしれないと思うようになったからね。僕たちにとって、人生はより貴重で強烈なものになったんだ」
Pechatkin はフィクサーとして、BBC のジャーナリストをコーディネートしました。
「戦争が始まってから3ヶ月間、僕たちはウクライナの南部を回ってきた。とても魅力的な仕事で、さまざまな問題を考え直すきっかけにもなったんだ。1ヵ月前、僕たちはさらに10日間仕事に出た。僕たちがミコライフにいたのは、最も激しい砲撃の時で、一晩に40~50回の砲撃を耐え抜いていたんだ。2014年から働いているメイン・フィクサーがいてね。彼は捕虜の解放を手伝い、膨大な経験を積んだ男。最初の砲撃が行われたとき、外に出ると、彼が微笑んでいるのが見えた。この8年間は、1秒1秒が最後の1秒になりかねなかった。だから、彼はすべての瞬間を楽しんでいたんだよ」
大都市キーウと地方の間には温度差があると Pechatkin は考えていて、その “違い” は今回の作品に大きく反映されています 。
「キーウは巨大な機械のようなもので、多くのものを与えてくれる代わりに、多くのエネルギーや感情を奪ってしまう。あの “肉挽き機” の中で自分をどのように認識し、生き延びようとするかだよね。20階建てのビルに住んでいると、エレベーターの中でスマホを見ている人たちに出会う。彼らは、そうして他人と接触しないように最善を尽くしているんだよね。こうした距離感と親密さは、さまざまな問題で出くわす。社会的なストレスが大きければ大きいほど、笑顔で接する気力も失われていくのだろう」

Pechatkin の故郷オデッサにも変化がありました。
「街では、ウクライナ語を話す人の声が多く聞かれるようになった。僕が住んでいる建物でも、すでに5~6人がウクライナ語を話しているね。戦前は、女性一人しかウクライナ語を話さなかったのに。
つまり、ロシア語は過去であり、ウクライナ語は現在であり未来であることに、人々が気づいているんだよ。僕たちは現在を築き、未来の到来を後押ししなければならないんだ。だんだんみんなウクライナ語を話すようになってきた。割合が非常に多いとは言わないけれど、戦前と比べればね…。
もちろん、今でも親ロシア派はいるよ。オデッサがドイツから解放された記念日には、広場に花束を運び記念碑にウォッカをかける男がいた。彼は、 “ロシアのためではなく、ソ連のためだ。あの頃はよかった、3コペックでソーセージが食べられた” と叫んでいたね。これはまさに、親ロシア派の立場を示しているよ。ロシア的世界観が崩壊したから、自分たちをソ連時代につなげようとしているんだろうな」
オデッサの自宅について Pechatkin はここにいるのは比較的安全だと言います。
「ロケット弾の攻撃や砲撃を何度か経験したね。しかし、検問所や対戦車防御、軍隊を除けば、生活はいつもと変わらないよ」
Kazarian は、「僕にとってオデッサにいることは、戦争と恐怖の大鍋の中で、人生が自分の道を進もうとするレマルクの小説のように感じることがあるんだ。空襲の中、夏のレストランの敷地内でコーヒーを飲む人々、そんなパラドックスを感じるね」と付け加えました。
それでもやはり、戦争は恐ろしくて残酷なもの。Pechatkin は同胞の安否を憂慮します。
「人間の残酷さには限りがない。ブチャをはじめとするウクライナの都市や村で起こった出来事がそれを物語っている。残念ながら、まだ多くの情報は得られていない。だから、より残酷な残虐行為の証拠がこれから明らかにされるかもしれない」
Kazarian も同意します。
「僕たちは、歴史からもっと恐ろしいことの例をたくさん知っているんだ。だから、今見ているすべてのものは、すでに極端な残酷さの例であるにもかかわらず、始まりに過ぎないのかもしれないよね。だからこそ、一刻も早く、この戦争を止めなければならないんだよ」

マルチ・インストゥルメンタリスト兼コンポーザーの Mykola Lebed(GHOST CITIES)は、WHITE WARD に前作 EP “Debemur Morti” から参加して、アルバムにとって非常に重要なローズ・ピアノとピアノを披露しています。
「ピアノの音は壮大で、優しく、そして美しい。ピアノの音は、いつも音楽にこうした雰囲気を与えてくれる。さらに、サスティンペダルの倍音で、より美しく響く。一方、ローズ・ピアノは、よりファンシーでノワールな印象。どちらの楽器を選ぶかは、どんなフィーリングを表現したいかによるんだ。WHITE WARD の場合、自分のパートをあまり壮大に聴かせないことが重要なんだよね」
ゲストという立場からみて、Lebed にとって WHITE WARD の音楽はどのように響いているのでしょうか?
「嵐が激しくなってきているときに、山の中の森を散歩しているような感じかな。すべては自分の内側で起きていることなんだよね。彼らの歌詞のテーマは、僕の心にとても響いている。個人的な感情を歌ったものであったり、自然の恵みについてであったり、ケルソンの活動家カテリーナ・ハンジウク(現在占領中で、間違っていなければ Pechatkin の元々の故郷)のことであったり。”False Light” だと、”Phoenix” に思い入れがあるね。歌詞の中に、”決して脇目もふらず” という重要なテーマが存在するからね。
同じ現実を生き、同じ問題に直面し、このような状況だからこそ、僕たちはこれまでよりも繋がっているとも言える。WHITE WARD のメンバーの一部は何年も前から知っているし、彼らの他のバンド、SIGNALS FEED THE VOID や GRAVITSAPA、ATOMIC SIMAO の古いアルバムは絶対にチェックする必要があると思うよ」

Lebed にも、”False Light” を通して伝えたいメッセージがあります。
「この2ヶ月間、僕は全国をツアーで回り、時には前線に非常に近いオデッサやドニプロで演奏したんだ。オデッサとドニプロは、(毎日砲撃を受けているミコライフとハルキウとは別に)戦場に最も近い2つの都市だ。それに、キーウでの公演は、ロシア軍がロケット弾で住宅を攻撃する前日だったから、目が覚めたとき、街の中心部で焼けて破壊された家々をこの目で見たよ。
僕はキーウに数年住んでいて、前回攻撃された地区で多くの時間を過ごしたんだけど、自分の家が燃やされて破壊されるのを見るのはかなりつらいことだった。ウクライナでの生活は決して楽ではないし、今は本当に精神的に辛い。今、ウクライナに安全な場所はない。前線からどんなに離れていても、ロケット弾はほとんどの大都市を襲い、ショッピングモールや文化センター、病院、住宅などを直撃しているからね。住民は不安になり、眠れなくなり、欠乏症になりつつある。毎日直面する恐怖の数々に、ただ無感覚になり、完全に疲れ果てる。安心感もなく、警報が聞こえたら防空壕に行くべきか、それとも気にせず自分の仕事を続けるべきか、常に迷い続けていることに気づくんだ。
僕のツアーは、西から東へ、北から南へ、10都市を回った。家に閉じこもって、個人的な問題に直面していることに疲れ果てていたんだよ。戦争は僕たちの生活を一変させ、愛する人は逃げ出し、国境を越えることもできず、男であるがゆえにいつでも軍隊に召集される可能性がある。そうして、自分には今日しかないのだと理解し始める。だから、今日やりたいことは、音楽をやること、そしてツアーに出ることだと思ったんだよね。ツアーは僕にとって、いつも癒しのようなものだから。
僕のツアーは、すべてチャリティー・ツアー。会場やブッカーからは一切報酬をもらわず、集められた資金はすべて軍やボランティアに寄付したよ。それが主なメッセージさ。僕たちは “脇目も振らず”、どんな形であれ戦うべきで、強く、自分たちのやっていることをやり続けるべきだ。ロシアは奴隷国家で、ウクライナは常に自由な国だ!」

WHITE WARD の10年にわたるキャリアは、厳粛なブラックゲイザー、悪魔の森の吟遊詩人、そしてジョン・ゾーンに見出されたジャズクラブのハウスバンドが一体となった奇異なものでした。バンドが次にどうなるのか全く予想がつかないため、彼らの “ツアー” は当初から非常に刺激的だったとも言えるでしょう。それでも、”Love Exchange Failure” の明らかにメトロポリタンなブラックメタルから “False Light” の “田舎” “自然” への軸足の移動は意外な感じもしますが、そこには理由がありました。彼らは、”False Light” において、そのブラックメタルという土台を拡大し、ブラックゲイズとノワールというサウンドの土台を強化するために、新たな影響を与える決断を下したのです。
Kazarian が語るように、無名の主人公は都会の風景を超え、より良い生活を求め、大都市の外でこそ “幸福” を見つけることができると信じています。陰鬱なアメリカーナの刺激は、そのテーマを実現へと導きました。例えば、”Salt Paradise” はゴシック・ウェスタンのような、映画的でありながら穏やかなアコースティックが支配する楽曲で、バンドのメタル的な要素から完全に切り離されたトラックでありながら、メタルに劣らず重みを感じるよう設計されています。”Cronus “では、ゲストボーカルの Vitaliy Havrilenko の淡々とした語り口が、ポストパンクのような弾むような演奏によく合っており、曲の後半ではメタリックなサウンドが炸裂。
しかし、そうしたスモーキーなサックス・ソロやアコースティックな演奏がアルバム全体に散りばめられているにもかかわらず、WHITE WARD は依然としてメタル・バンドであり、”False Light” ではその “主軸” をも徹底的に追求していることが分かります。タイトル・トラック “False Light” は、露骨な咆哮とギターを多用し、現代のデスメタル・レコードも一切引けを取らない獰猛さを誇ります。つまり、このアルバムはより包括的な作品で、ブラックメタルよりもエクストリーム・メタルという言葉がふさわしい作品なのかもしれません。

とはいえもちろん、都会的で現代的なジャズとブラックメタルの要素を見事に融合させてきた WHITE WARD が、バンドの矜持を完全に放棄したわけではありません。13分という途方もない長さの “Leviathan” は、ブラックメタルの激しいリフから、ブラスと優しいパーカッションに彩られた美しいコンポジションまで、WHITE WARD すべてを注いだ渾身のオープナー。ジャズとメタル、2つのジャンルのマスターは、アクロバティックなパーカッションから万華鏡のリフ・ワークまで、音楽のすべてがジャズ演奏者のような正確さと熱意をもって演奏されながらも、メタルとして必要な即時性と攻撃性を犠牲にすることは決してありません。苛烈と気品、都会と田舎、血と知の対比は、ここにきて一層深まり、その落差が聴く者の心を惹きつけるのです。この楽曲は、Kazarian のお気に入りの一つでもあります。
「この曲は、僕たちが3rdアルバムのために最初に取り組み始めた曲の一つなんだ。アルバムの残りの部分のムードとスタイルを決定づけたよ。この曲を完成させるのにかかった時間を正確に覚えているわけではないけど、制作には何十もの段階を経て、多くのバリエーションと修正があったことは確かだ。
作曲のプロセスはいつもと同じで、まず僕がリフのほとんどと曲の構成とリズムを作り、それからバンドとして細部にこだわり、曲のさまざまな部分に新しいアイデアを導入していった。この曲をアルバムのオープニングにすることは、僕にとっては当然のことだった。僕は音楽を作るとき、特定の曲がアルバムの中でどのような位置を占めるべきかを、すでに感じ、分かっているからね。だから、一貫したプランニングというよりも、ほとんど常に自発的なプロセスなんだよ」
“False Light” は、ウクライナの作家 Mykhailo Kotsubinsky による1908年の印象派小説 “Intermezzo” や、作家 Jack Kerouac や精神分析医 Carl Jung の作品からインスピレーションを受けています。そうして、政府が認可した殺人事件、差し迫った環境破壊、警察の残虐行為、家庭内虐待、都市の精神的空虚、現代の主流文化の虚偽性、過剰消費による悪影響といった、ウクライナが抱えていた “現代病”、都会の空虚さについてアルバムは語っているのです。そう、我々に降り注ぐネオンは “偽物” の光。

ただし、戦時中という最もありえない場所で、WHITE WARD の芸術と創造性は生き残る道を見つけました。 Pechatkin が作品のテーマについて語ります。
「このアルバムは、戦争というトピックには触れていないけど、僕にとって非常に重要なもの。現代のウクライナの歴史に関連する多くの問題だけでなく、いくつかの深い内面の考察や経験をカバーしているからね…アルバムのコンセプトは、現代のウクライナの歴史の様々な出来事に基づいているんだ。だからこそ、祖国を覆う炎と破壊から生まれるウクライナ文化にリンクしているんだよ」
Kazarian が続けます。
「新しいアルバムと WHITE WARD は、今でも僕にとって非常に重要なもの。このリリースに取り組むことは、前進するための未来への希望をさらに与えてくれたんだ」
Pechatkin の最後の言葉が大きく響きます。
「創造性や音楽は、現実から逃避するための方法のひとつであり、傷を癒し、あらゆる障害を克服するための機会を与えてくれる普遍的な治療法なんだ。戦争によって人々が、学ぶことに消極的になり、コンフォートゾーンに留まりたがることになれば残念だよ。もし、人々が自己改善や継続的な学習にもっと注目し、時間をかければ、もっと自分自身に疑問を持つようになるはずなんだから。
この厳しい時代に、創造性は精神的な崩壊やその他の問題から多くの人を救ってくれる。もし君が緊張を感じていても、音楽がそれを解放するのに役立つ。もし君が悲しいと感じていたら、音楽は少し幸せに感じるのに役立つ。そしてもし君が怒りや痛みを感じていたとしても、創造性はまた、君の救世主だ。ただ、否定的な感情を創造的な方向へ押しやる勇気さえあればいいんだよ」

参考文献: NEW NOISE MAG :INTERVIEW: WHITE WARD’S ANDRII PECHATKIN AND YURII KAZARIAN: MUSIC, WAR, AND LIFE

Debemur Morti:WHITE WARD – INTERVIEW WITH MYKOLA LEBED

SLUKH MEDIA:White Ward Band were interviewed for the Antipodes show. We picked the best

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GAEREA : MIRAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GAEREA !!

“We Put On Our Different Daily Masks To Deal With Co-workers, Our Loved Ones Or Other Members Of Society. We Want To Be Able To Be Someone Different In Every Situation In Order To Be Or Feel Accepted. These Masks Represent Mostly That.”

DISC REVIEW “MIRAGE”

「僕たちは、人間、希望や夢、そして荒廃した悲惨な人生にどう対処していくかに、ほとんどの部分がインスパイアされているんだよ。今の世界の状況は、現実を観察し、吸収するのに非常に面白い時期だとは思うのだけど…」
ファンタジーよりも現実を。暴力よりも夢や希望を。悲しみには前向きな力を。ポルトガルに登場した仮面のブラックメタル GAEREA は、”Mirage” “蜃気楼” と題されたアルバムでごく普通の人々の人生や現代生活の困難さについての物語を叙情的に探求しています。
多くのモダンなブラックメタルがそうであるように、GAEREA にとってもかつてこのジャンルの骨子であった “アンチ・クライスト” や “暴力と怒り” はもはやそれほど重要な議題ではありません。ブラックメタルの最前線は、人間、日常生活とその苦悩を扱う領域へと移行しつつあります。鬱病や自殺に抗し、解放感や幸福の追求こそ彼らのテーマ。今の時代は、個々の人間が人間としてどう感じるかにフォーカスするべきだと GAEREA は考えているのです。
「人は仲間の中にいるとき、本当の意味でリアルであるとは言えないと思う。僕たちは、一人きりの孤独な環境で、自分の感情や希望、絶望がようやく自分を包み込んだり、苦しめたりできるときにだけ、自分自身に正直になれるんだよ。
僕たちは、同僚や恋人、社会の人々と接するために、日々さまざまな仮面をかぶっているよね。僕たちはそうやって、社会に受け入れてもらうために、状況によって違う人になりたいと思っているんだよ。僕たちのマスクは、そうした事柄をあらわしているんだ」
たしかに、奇抜なマスクをかぶることは、名を売るための一つの方法かもしれません。ただし今となっては、正体を隠したバンドの存在はもはや目新しいものではなく、”イロモノ” から脱却し、羽ばたくためには音楽にさらなる重点を置く必要もあるでしょう。
それほどのリスクを犯してまで GAEREA がシンボルマークの描かれたマスクをかぶるのは、匿名性と神秘性以上に “真の自分” を守るため。”真の自分” にたどりつくため。結局、GAEREA だけではなく、すべての人間は社会生活のために様々な仮面をかぶって生活しています。ただし、そんな仮面の裏側の心の奥底に触れられるのは自分だけ。GAEREA は “記号” のような自分の状態を受け入れ、そこから進化して、真の個性を解き放っていく勇気を持っているだけなのです。
「ファドは僕たちの一部だよ。結局、僕たちの感性にはポルトガルの文化が刻まれているのだから。”サウダージ” を感じることは、僕たちの一部であり、言葉にはできないけれど、もちろん、音楽としてそれを不滅に刻むことはできるからね」
ただし、この謎めいたアーティストは、顔や素性を隠しているかもしれませんがその分、彼らの感情や情熱は、溢れ出るように開放的で、逞しく、カタルシスに満ちています。不協和なノイズと、メロディーと優雅さの驚くほど幽玄なスペクタクル。ここには定型的なものは何もなく、オーガニックで、自然で、激しく、冷ややかで、しかし美しく、親しみやすく、高揚感を誘うのです。
例えば、”Arson” はギターの美しく雄大なリードと、邪悪なブラストビートに重なる苦しげな絶望の叫びがまさに人間の持つ二面性を反映していますし、”Mantle” は攻撃的でありながら、リフの背後にある悲しみを痛いほどに表現しています。そして、エンディングの大作 “Laude” のメジャー感は、これまでの曲にはない感覚をもたらし、リスナーに仄かな希望の糸を垂らしてくれるのです。
そうして、私たちは冒頭 “Memoir” の物悲しき内省、帰属への憧憬にポルトガルのサウダージを発見します。明らかにこの寂寞、閉所恐怖症の美しさはファドに根ざした DNA のなせる技。GAERNA の欲する孤独、奥底から湧き上がる真の自分は、ここに呼吸し、解き放たれました。”The Satanist” 以来、ブラックメタルのアルバムがこれほどまでに精彩を放ったことはないでしょう。体験してください。これは蜃気楼ではないのですから。
今回、弊誌では GAEREA にインタビューを行うことができました。「MOONSPELL をこの国が到達した金字塔と考えるなら、僕たちはまったくもって、最大のポルトガル・メタル・バンドではないよ。30年以上もの間、初期から変わらない情熱を持って活動してきた彼ら素晴らしきジェントルマンたちには、計り知れない尊敬の念を抱いているんだ」 どうぞ!!

GAEREA “MIRAGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CALLOUS DAOBOYS : CELEBRITY THERAPIST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARSON PACE OF THE CALLOUS DAOBOYS !!

“The Non-metal Elements Are Way More Important, That’s What Sets Us Apart. We Would Be Playing To 5 People At Local Shows Once a Month If We Didn’t Think Outside Of The Box And Push Ourselves To Be More Than Just a Heavy Band.”

DISC REVIEW “CELEBRITY THERAPIST”

「真の “ダークサイド” なんて存在しないんだよ。少なくとも、君や僕が同意しない側にいる人々にとって、彼ら自身はまったく “ダークサイド” ではないんだから。彼らは自分を社会ののけものとか殉教者だと思っているかもしれないけど、少なくとも自分から見て悪意ある行動をとっているわけではなくてね。真摯に話せる友人がいないから間違った道に進んでしまう」
ジョージア州アトランタのメタルコア・ハイブリッド、THE CALLOUS DAOBOYS。彼らはマスコア、ソフトジャズ、ボサノバ、オルタナティブ、ラジオ・ロック、エフェクトで歪んだヴァイオリンなど複雑なサウンドの嵐を生成し、メタル世界で大きな注目を集めています。そしてその台風の目には、Carson Pace がいます。
ステージ上のエネルギーレベルは桁外れで、PUPIL SLICER とのコラボレートや GREYHAVEN とのツアー、そしてバンドの待望のセカンド・アルバム “Celebrity Therapist” のリリースで、彼らの知名度は飛躍的に向上しました。重要なのは、世界に解き放たれたことで Pace が対話を始める機会を多く得られたということ。彼の叫びはなぜか、陰謀論やカルトに囚われた人たちにも素直に届きます。それはきっと、頭ごなしに否定から入ることをしないから。”ダークサイド” だと見下し、馬鹿にして、間違っていると断言することで、囚われの勇者たちはむしろ、自分が正しいと確信してしまうのですから。
「安倍晋三は去った。それが僕の公式見解だよ。右と左の争いについては、グッドラック!としか言えないよね。僕たちはその解決策をまだ見つけられていないけど、まあ解決策を探す人たちには幸運を祈るよ」
しばしば謎めいた歌詞のアプローチにもかかわらず、Carson は THE CALLOUS DAOBOYS にその生来のストーリーテラー、語り部の感覚を持ちこむことに成功しています。Carson の声は、パワーハウス的な叫びから、Mike Patton や Greg Puciato のような筋張った歌声へとドラマティックに変化して、ストーリーを紡ぎます。”Celebrity Therapist” における Carson のリリックは、盲目の愛国心、陰謀論、アルコール依存症、有名人の崇拝などを点と線で結びつけ、人は皆いずれかの悪徳に陥っていると主張しているのです。
例えば、”Title Track” では、彼は “有名人だと威張って話すリードシンガーの不条理さ” を論じていますが、この内観は逆説的に自己矛盾を抱えていることを自覚しています。つまり、Carson がハマってしまった “カルト” とはナルシズム。自分たちが FOO FIGHTERS ではないにもかかわらず押し寄せるエゴイズム。そう、陰謀論やカルトは決して他人事、宇宙人の話ではないのです。
「THE DILLINGER ESCAPE PLAN も MR. BUNGLE も僕の大好きなバンドだからね。でも、先日イギリスのインタビュアーが、僕らを90年代の Madonna と比較していたんだけど、あれは最高にクールだったね。僕はヘヴィーな音楽よりもポップスやエレクトロニック・ミュージックをよく聴くんだけど、それが間違いなく曲作りに反映されていると思うんだ」
カルトといえば、彼らの “アート・メタル” もカルト的なファンを集めています。”Celebrity Therapist” に収録されたよりプリズム的で、常識はずれな楽曲の数々は、流動性と万華鏡の輝きを保ちながら、常にメタルの常識を疑っています。つまり、彼らの教義とは、疑うこと。エレベーター・ミュージックをモチーフにした轟音スラッシュ “The Elephant Man in the Room”、ポップでロックなファンク・ベースと組み合わされたサイコなバイオリン “Beautiful Dude Missile”、サックスが冴える理路整然なポップとグロテスク・デス・モッシュ “What Is Delicious? Who Swarms”。そうした異端と驚きの数々は、メタルらしさ、メタルの定形を疑うことから生まれ落ちたのです。
今回弊誌では、Carson Pace にインタビューを行うことができました!「僕たちにとってはメタル以外の要素の方がずっと重要で、それが僕らを際立たせているんだ。もし、メタルという狭い箱から出なかったとしたら、自分たちを単なるヘヴィー・バンド以上の存在に押し上げなかったとしたら、月に一度、地元のライブでたった5人を相手に演奏することになっていただろうからね」 どうぞ!!

THE CALLOUS DAOBOYS “CELEBRITY THERAPIST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AN ABSTRACT ILLUSION : WOE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AN ABSTRACT ILLUSION !!

“We Take Influences From Anathema, But Also From Brian Eno, Hammock And Ólafur Arnalds.”

DISC REVIEW “WOE”

「EDGE OF SANITY の “Crimson” からは大きな影響を受けた。もちろん、INSOMNIUM の “Winter’s Gate” からも影響を受けているよ」
1996年、スウェーデンの鬼才 EDGE OF SANITY が、40分1曲で構成されたアルバム “Crimson” をリリースしました。それは、アルバム全体を1曲で構成するというアイデア以上に、繰り返される説得力のあるテーマや作品の多様性が白眉で、エクストリーム・メタルという文脈において非常に特異なものに感じられたものです。
それから20年。同じスウェーデンの INSOMNIUM が同様に1曲のみの傑作 “Winter’s Gate” をリリースしました。彼らに共通するのは飽くなき知への探求と境界を押し広げる冒険心。幸運にも当時弊誌では、彼らにインタビューを行うことができました。
「アルバムには 90年代のスカンジナビアンメタルの雰囲気が多分に存在するね。僕たちが10代の頃に愛していたようなマテリアルだよ。EMPEROR, EDGE OF SANITY, DISSECTION, OPETH といったようなね」
スカンジナビアにはやはり、純黒で物憂げでプログレッシブな雪の結晶が眠っています。さらに5年以上が経過し、今度はスウェーデンの新鋭 AN ABSTRACT ILLUSION が、7つの章から成る60分1曲の壮大なエピック “Woe” で、メランコリックな美狂乱を披露します。
「今回は、AN ABSTRACT ILLUSION のよりアトモスフェリックなサウンドを追求したかった。今はそのスタイルがより心地よく感じられるようになり、だからこそ注目度も高まっているんだろう。ANATHEMA はもちろん、Brian Eno, HAMMOCK, Ólafur Arnalds からも影響を受けているんだ」
しかし、このアルバムが特別なのは、奇抜な方法論や、メタリックとメロディック、過激と難解、冷静とカタルシス、激情と友愛といった異なる要素をすべて対比させつつ使用していることだけではありません。それらはただはめ込むだけのパズルのピースではなく、さながら弧を描くように循環し、シームレスに、流れ込むよう注意深く織り込まれているのです。その画期的な手法は、大曲のまとまりのなさを解消するだけではなく、過去に彼らが比較されてきた OPETH や NE OBLIVISCARIS でさえ迷い込む “定型化” の迷宮からの脱出にも大きく寄与しています。
「”Woe” という単語には “大きな悲しみや苦悩” という意味があるんだけど、このアルバムの全体的なムードを表現するのに適していると思ったんだ。アートワークでは、女性が美しい花輪を身につけているんだけど、同時に茨の冠のように血を流しているのが見えるよね。この美と痛みの対比は、僕たちの音楽の大部分に当てはまることなんだ」
幽玄で崇高で孤高。アルバムには数多くの山と谷があり、繰り返される音楽テーマとその再演、そしてアトモスフィアのうねりはポスト・メタルやクラシックのダイナミズムを連想させ、60分の絵巻物にたしかな連続性を与えています。メインテーマとなるメロディーは非常に多くの変容を遂げ、そのすべてを把握することは不可能に近いでしょう。
さらに、インターバルの変化、3拍子の解釈、コード進行やトランスポーズなど、純粋に音楽だけをとっても飽きることのない面白さがここには秘められています。大きなテーマの違いが提案されたときに章は移り変わり、幕間はオーケストラやコーラス、電子音がちりばめられたインタルードがつないでいきます。すべては、花と血のために。
まさに “Woe” は、考える人のためのアルバムでしょう。科学と演劇の両方に対応し、その巧妙な対位法と劇的な性質によって驚きと畏怖を見事に両立しています。その核となる音楽はアトモスフェリック・デスメタルですが、このジャンルでおなじみの不協和音は影を潜め、定形を排除することで、彼らは KING CRIMSON や YES に対する挑戦権を得たのです。ツンドラからの賛美歌によって。
今回弊誌では、AN ABSTRACT ILLUSION にインタビューを行うことができました。「僕たちの音楽はメタルに支配されているわけではなくて、それがサウンドにも反映されているんだよ。メタルという制約に縛られている感じは全くないんだ」 どうぞ!!

AN ABSTRACT ILLUSION “WOE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLACKBRAID : BLACKBRAID I】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH Sgah’gahsowah OF BLACKBRAID!!

“Our Ancestors Have Been Painting Their Faces In This Way For Thousands Of Years, Long Before Metal Existed, So We Honor Them By Painting Our Faces In The Same Ways.”

DISC REVIEW “BLACKBRAID I”

「自然に対する尊敬の念は、僕の人生の中で大きな部分を占めている。だからそれは、僕の音楽にも大きく反映されているよ。僕は自然を敬い、神聖な方法で人生を送れるよう最善を尽くしているんだ。 BLACKBRAID は、日常的に自然を体験する機会に恵まれていない人々に、自然からのメッセージや体験を届ける手助けをする方法なんだよね」
近年、ブラックメタルに携わる者は皆、自身の中から湧き出るテーマや意図を持っているように思えます。反差別、反暴力、反ファシズム。
このジャンルを築いたいくつかのバンドが持っていた右翼的で人種差別的なニュアンスを考えれば、それはまさしく革命的な変化であると言えるでしょう。ただし、BLACKBRAID はそういった新しい波とも少し距離を置いているように見えます。首謀者 Sgah’gahsowah はただ、自身のブラックメタルを聴いて、外に出て、自然と対話してほしいと願っているのです。
「そう、僕はネイティブ・アメリカンだよ。人生の大半をニューヨーク州北部に住んで過ごしてきた。若いころは少し引っ越しもしたけど、長い間この地域、アディロンダックに住んでいるんだ」
Sgah’gahsowah のあり方は、今日の世界に蔓延する絶対悪や政治を無視していると主張する人もいるかもしれませんが、地球の状態や気候問題を見れば、もっとシンプルに、自然の中に身を置いてみることの重要性が伝わるはずです。人生の大半を大自然の中で過ごし、日焼けをし、狩り、釣り、剥製など、スピリチュアルで伝統的な生き方を貫く Sgah’gahsowah。
窓の外には3万エーカーの山々が広がり、今は人里離れた場所で24時間365日自然とつながる彼はただ、ハイキングをしたり、山を見たり、小川で泳いだりすることを知らない人々に、音楽を通してそれを伝えたいだけなのです。大都会の高級ブランドならいくつでも名前を挙げられる人が、鳥の名前や魚の名前は一つも挙げることが出来ない。それは果たして “自然” なのか?Sgah’gahsowah はそんな現実を憂い、自分の見ている世界を音楽によって見せたいのです。そこから、何かが変わるかもしれないと仄かな期待を寄せながら。
「僕たちの祖先は、ヘヴィ・メタルが存在する何千年も前からこの方法で顔にペイントしてきたんだよ。だからこそ、僕たちはメタルをやる時に、先祖と同じように顔にペイントを施すことが誇りなんだ。フルートや他の先住民の楽器を使うときも同じで、こうした伝統を自分のブラックメタルに取り入れることができるのは名誉なことなんだ」
もちろん、自然への尊敬と崇拝は、ネイティブ・アメリカンの祖先を敬うことにもつながります。”Sacandaga” や “As the Creek Flows Softly By” を聴けば、彼がネイティブな楽器の音、そして魂をブラックメタルに受け継ぐことを一切恐れないことが伝わります。同時に、始まりの場所、”Barefoot Ghost Dance on Blood Soaked Soil” のような楽曲では、USBM, 特に WOLVES IN THE THRONE ROOM や PANOPTICON といった自然崇拝のカスカディアン・ブラックに対する憧憬をも隠そうとはしません。敬うべきを敬い、敬意に値しない価値観は捨て去る。さらにその場所からも一歩進んで、郷愁を誘うアコースティック・フォーク “As the Creek Flows Softly By”、そしてアコースティックとエレクトリックの二重奏で相互作用を喚起する “Warm Wind Whispering Softly Through Hemlock” と BLACKBRAID は自身に与えられた “ギフト” を存分に見せつけていくのです。
「ブラックメタルが持つ反キリスト教的な思想に共感するのは確かだけど、自然や闇に対する畏敬の念も大きな部分を占めていて、ブラックメタルは僕の音楽にとって完璧なメディアだと思っているんだ」
WAYFARER, UNTAMED LAND, DARK WATCHER のようなアメリカ西部をテーマとするバンドが活躍する中で、USBM には明らかに先住民の声が欠けていました。それはもちろん、ブラックメタルの根元にあったアンチクライストという考え方が、キリスト教に冷酷に弾圧され抑圧された先住民にとって親和性が高いから。しかし、Sgah’gahsowah はそれでも誰かを責めるよりも、闇や自然を敬っていたいのです。政治は彼にとってあまりにも不純な闇だから。争いからは何も生まれないことを知っているから。
今回弊誌では、Sgah’gahsowah にインタビューを行うことができました。どうぞ!!

BLACKBRAID “BLACKBRAID I” : 10/10

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