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THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2018 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2018 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1: GHOST “PREQUELLE”

昨年 “最も印象的だったアルバム” の記事にも記しましたが、近年、MASTODON, VOLBEAT, Steven Wilson, PALLBEARER, Thundercat、さらに今年も GODSMACK, ALICE IN CHAINS, DISTURBED, SHINEDOWN など様々なジャンルの旗手とも呼べるアーティストが “ポップ” に魅せられ、レガシーの再構築を試みる動きが音楽シーン全体の大きなうねりとして存在するように思えます。当然、邪悪とポップを融合させた稀有なるバンド GHOST もまさしくその潮流の中にいます。
「JUDAS PRIEST はポップミュージックを書いていると思う。彼らはとてもポップな感覚を音楽に与えるのが得意だよね。PINK FLOYD も同様にキャッチー。ちょっと楽曲が長すぎるにしてもね。」
と語るように、Tobias のポップに対する解釈は非常に寛容かつ挑戦的。さらにモダン=多様性とするならば、70年代と80年代にフォーカスした “Prequelle” において、その創造性は皮肉なことに実にモダンだと言えるのかもしれません。実際、アルバムにはメタル、ポップを軸として、ダンスからプログ、ニューウェーブまでオカルトのフィルターを通し醸造されたエクレクティックな音景が広がっています。
もちろん、シンセサイザー、オルガン、キーボードの響きが GHOST を基点としてシーンに復活しつつあることは喜ばしい兆候だと言えますね。同時に、サックス、フルート、ハグストロムギターまで取り入れたプログレッシブの胎動は “Prequelle” 核心の一部。Tobias はプログロックの大ファンで、作曲のほとんどはプログレッシブのインスピレーションが原型となっていることを認めています。伝統的なプログロック、プログメタルの世界が停滞を余儀なくされている世界で、しかしプログレッシブなマインドは地平の外側で確かに引き継がれているのです。
ウルトラキャッチーでフックに満ち溢れたカラフルなレコードは、数多のリスナーに “メタル” の素晴らしさを伝え、さらなる “信者” を獲得するはずです。
ただし、匿名性を暴かれた Tobias の野望はここが終着地ではありません。多くのゲストスターを揃えたサイドプロジェクトもその一つ。すでに、JUDAS PRIEST の Rob Halford がコラボレートの計画を明かしていますし、これからもスウェーデンの影を宿したメタルイノベーターから目を離すことは出来ませんね。何より、全ては彼の壮大な計画の一部に過ぎないのですから。

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2: YOB “OUR RAW HEART”

スラッジ、ドゥーム、ストーナーのプログレッシブで多様な進化はもはや無視できないほどにメタルの世界を侵食しています。中でも、オレゴンの悠久からコズミックなヘヴィネスと瞑想を標榜し、ドゥームメタルを革新へと導くイノベーターこそ YOB。バンドのマスターマインド Mike Scheidt は2017年、自らの終焉 “死” と三度対峙し、克服し、人生観や死生観を根底から覆した勝利の凱歌 “Our Raw Heart” と共に誇り高き帰還を遂げました。
「死に近づいたことで僕の人生はとても深みを帯びたと感じるよ。」と Mike は語ります。実際、”楽しむこと”、創作の喜びを改めて悟り享受する Mike と YOB が遂に辿り着いた真言 “Our Raw Heart” で描写したのは、決して仄暗い苦痛の病床ではなく、生残の希望と喜びを携えた無心の賛歌だったのですから。
事実、ミニマルで獰猛な2014年の前作 “Clearing the Path to Ascend” を鑑みれば、全7曲73分の巡礼 “Our Raw Heart” のクリエイティビティー、アトモスフィアに生々流転のメタモルフォーゼが訪れたことは明らかでしょう。
作品のセンターに位置する16分の過重と慈愛の融合 “Beauty in Falling Leaves” はまさに YOB が曝け出す “Raw Heart” の象徴でした。甘くメランコリックなイントロダクションは、仏教のミステリアスな響きを伴って Mike の迫真に満ちた歌声を導きます。それは嵐の前の静けさ。ディストーションの解放はすなわち感情の解放。ベースとドラムスの躍動が重なると、バンドの心臓ギターリフはオーバートーンのワルツを踊り、濃密なビートは重く揺らぐリバーブの海で脈動していくのです。バンド史上最もエモーショナルでドラマティックなエピックは、死生の悲哀と感傷から不変の光明を見出し、蘇った YOB の作品を横断するスロウバーン、全てを薙ぎ倒す重戦車の嗎は決して怒りに根ざしたものではありませんでした。
結果として YOB は THOU や KHEMMIS と共にドゥームに再度新風を吹き込むこととなりました。例えば CATHEDRAL の闇深き森をイメージさせるオープナー “Ablaze” ではジャンルのトレードマークにアップリフティングでドリーミーなテクスチャーを注入しドゥームの持つ感情の幅を拡大しています。
そうしてアルバムは僅かな寂寞とそして希望に満ちた光のドゥーム “Our Raw Heart” でその幕を閉じます。人生と新たな始まりに当てた14分のラブレターは、バンドに降臨した奇跡のマントラにしてサイケデリックジャーニー。開かれたカーテンから差し込むピュアな太陽。ポストメタルの領域にも接近したシネマティックでトランセンドな燦然のドゥームチューンは、彼らとそしてジャンルの息災、進化を祝う饗宴なのかも知れませんね。

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3: SVALBARD “IT’S HARD TO HAVE HOPE”

女性の躍動と、多様性、両極性を旨とする HOLY ROAR RECORDS の台頭は2018年のトピックでした。越流するエモーションをプロテストミュージックへと昇華し、英国ブリストルから咆哮を貫く至宝 SVALBARD はまさにその両者を象徴する存在です。熾烈なメタル/ハードコアにポストロックの叙情と風光、ポストメタルの思索と旅路を織り込みさらなる多様化の波動を導いた新作 “It’s Hard to Have Hope” はシーンの革新であり、同時に閉塞した世界が渇望する変化への希望となりました。
確かに “It’s Hard to Have Hope” は怒れるアルバムで、中絶、性的暴力、リベンジポルノ、インターンシップの無賃雇用など不条理でダークな社会問題をテーマとして扱っています。
さらには、「このアルバムは、ステージに女の子が立つことにネガティブなコメントを寄せる人たちに対する私からの返答よ。”女性をメタルから追い出せ!” と言うような人たち、コンサートで女性にハラスメント行為を行う人たち。これは彼らに対する私からの恐れなき怒りの返答なの。」と語るように、女性フロントマンとして Serena が長年メタルシーンで苦しんできたハラスメント行為の数々も、作品の持つ怒りの温度を “フェミニストのメタルアルバム” の名の下に上昇させていることは明らかです。
とはいえ、この類稀なる感情と表情の結晶が、唯一怒りにのみ根ざすわけではないこともまた事実でしょう。実際、Serena はこの作品の目的が “人々にこういった社会的不公平を伝えるだけではなく、なぜそういった問題が起き続けるのか疑問を投げかけることだった” と語っています。「誰が正しいのか互いに主張し合うのを止めてこう尋ねるの。一緒に前進するために何ができるだろう?より良き変化のためお互い助け合えないだろうか?とね。」とも。
そうして世界のターニングポイントとなるべくして示現した “It’s Hard to Have Hope” に、一筋の光明にも思える尊きアトモスフィア、荘厳なる音の風景がより深く織り込まれていることはむしろ当然の進化だと言えるでしょう。
CULT OF LUNA や MY BLOODY VALENTINE のイメージこそ深化の証。そうしてポストブラックの激しさと光明を背負った彼女は悲痛な叫びを投げかけます。「いったい誰が女性を守ってくれるの?」

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SKELETONWITCH : DEVOURING RADIANT LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SCOTT HEDRICK OF SKELETONWITCH !!

“Any Time My Writing Wanders Near The Territory Of “Ambient” Or “Cinematic”, Ryuichi Sakomoto Is Going To Be An Influence.”

DISC REVIEW “DEVOURING RADIANT LIGHT”

ブラックメタル、メロディックデスメタルを獰猛な原衝動、スラッシュメタルに奉呈し、”ブラッケンド-スラッシュ” の峻路を切り拓くオハイオの妖魔 SKELETONWITCH。
バンドの発するクリエイティブな変幻の瘴気は、メタル伏魔殿の魑魅魍魎を遥かな幽境へと誘います。
2004年からエピカルなメロディーと凶猛な響骨を混交し、エクストリームメタルの超克を多様に牽引し続ける変異体は、2014年にキャリアの重大な分岐点を迎えました。
アルコールの乱用を要因とする素行の悪化に堪え兼ねたバンドが、ボーカリスト Chance Garnette を解雇したのです。ギタリスト Nate の兄弟でもある創立メンバーが引き起こした問題は、徐々に存在感を増しつつあった SKELETONWITCH に暗い影を落とすかのようにも思われました。
しかし、元 VEIL OF MAYA、現 WOLVHAMMER のフロントマン Adam Clemans を迎え入れた彼らは、アトモスフェリックなブラックメタル、アンビエント、プログレッシブなどその多様性を一際研ぎ澄まし、地殻変動に端を発するネクストレベルのクリエイティビティーへと到達することになったのです。
バンドのロゴやアートワークの方向性まで変更しリリースした “Devouring Radiant Light” は、実際 “再発明” のレコードです。
アルバムオープナー “Fen of Shadows” は過去へのレクイエムにして未来へのファンファーレ。バンドのトレードマーク、クラッシックメタルのフックやメロデスのメランコリーは確かに耳孔の奥へと沈み行き、一方で幾重にもレイヤーされたポストブラックのギターオーケストラ、中盤の荘厳なるアトモスフィア、そしてプログレッシブなグランドデザインは破天荒な背教者をレコードへと招き入れるのです。
事実、「アルバムには大きく分けて二つのスタイルが存在していると思う。」と Scott は語ります。そして Nate は直線的でスラッシー、Scott は重厚でプログレッシブ。コンポジションの棲み分けを念頭に置けば、”Devouring Radiant Light” は Scott の遺伝子をより多く受け継いだ麒麟児の光明だと言えるでしょう。
切迫するトレモロの嗎とブラストの喧騒でダーク&メロディックなブラックメタルの深淵を探求する “Temple of the Sun”、PALLBEARER や MASTODON のキャッチーなドゥーム/スラッジにも共鳴するエピック “The Vault” と拡大を続ける SKELETONWITCH の魔境。
Kurt Ballou, Fredrik Nordstorm のドリームチーム、さらに JOB FOR A COWBOY, BEHEMOTH との仕事で知られるゲストドラマー Jon Rice の推進力もサウンドの深化に華を添えます。
中でも “最もバンドの進化を示している” と語るタイトルトラック “Devouring Radiant Light” は文字通り熾烈な光彩。NEUROSIS, ULVER, OPETH, さらにはカスカディアンブラックの陰影と実験性までも胸いっぱいに吸い込んだブラッケンド-スラッシュの革新的な波動は、光と闇のダイナミズムを携えながらエモーショナルなダンスを踊るのです。
“Sacred Soil” は作品の終幕、結論に相応しきインテンスの断末魔。エレガントなハーモニーとブルータルなリズムのカコフォニーは魔女の帰還と新たな旅路を祝う地下室の祝祭なのかもしれませんね。
今回弊誌では、ギターチームの片翼 Scott Hedrick にインタビューを行うことが出来ました。「坂本龍一氏はまさに僕の作曲面に多大な影響を与えているんだよ。」どうぞ!!

SKELETONWITCH “DEVOURING RADIANT LIGHT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SATYRICON : DEEP CALLETH UPON DEEP】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FROST OF SATYRICON !!

“Black Metal Is All About Attitude, Spirit And Feeling, Pretty Much Like Punk And Blues. It Doesn’t Have To Be Connected To One Very Particular Philosophical Direction. Claiming That Is Has To Be Satanic Is Simply Childish.”

DISC REVIEW “DEEP CALLETH UPON DEEP”

ブラックメタル第二の波として、EMPEROR, DARKTHRONE, ENSLAVED, IMMORTAL, MAYHEM 等と共闘しシーンを確固たるものとしたノルウェーの重鎮 SATYRICON。9年振りに決定した来日公演で、常に進化を続けるバンドのスピリットは鮮明になるはずです。
獰猛でファストな典型的ブラックメタルからは久しく距離を置く SATYRICON。確かに “Now, Diabolical” はゲームチェンジングなブラックメタルレコードでしたが、”Deep Calleth Upon Deep” で辿り着いた境地はまさしく前人未到です。
「僕はね、ブラックメタルにおけるスピードの重要性は過大評価され、大きく誤解されていると思うんだ。スピードは音楽にインテンスと極端さを持ち込む多くの方法の一つに過ぎないんだよ。」と Frost が語るように、SATYRICON の “今” を表現するブラックメタルは究極にダークで不吉なアトモスフィアをただ徹頭徹尾追求する、複合的なアート。
不穏なヴィンテージロック、ゴス、ドゥーム、アバンギャルドをブラックメタルの深淵に落とし込むダイナミックで豊かな表現性のパレットは、ある意味オリジネーター CELTIC FROST の方法論、スピリットにもシンクロしながらリスナーの酩酊を誘い、エクストリームメタルに内包された贖い難い中毒性を再確認させてくれますね。
それは乱歩の世界や百鬼夜行にも通じる複雑怪奇な狂気の乱舞、スロウバーン。
今回弊誌では FROST にインタビューを行うことが出来ました。「ブラックメタルは、パンクやブルースと同様にアティテュード、スピリット、そしてフィーリングが全てなんだよ。だから、必ずしもある特定の哲学と繋がっていなければならない訳ではないんだ。サタニズムに拘る姿勢は、単純に子どもじみているよ。」どうぞ!!

SATYRICON “DEEP CALLETH UPON DEEP” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONJURER : MIRE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRADY DEEPROSE OF CONJURER !!

“Dan And I Bonded Over Our Mutual Frustration With How Shit The Local Scene Had Become And How Bored We Were With Metalcore. Conjurer Ended Up Being The Product Of This.”

DISC REVIEW “MIRE”

2015年、英国ミッドランズに突如として現れた魅力的なエクストリームミュージックの醸造所 CONJURER は、刺激に飢えたメタル中毒者を酔わせ、瞬く間に熱狂の渦を巻き起こしています。
スラッジ、ドゥーム、ハードコア、プログ、そしてブラック&デスメタル。香り高き金属片の数々をエクレクティックに調合し精製する芳醇なるアマルガムは、Holy Roar 主導で進められる Neo-New Wave of British Heavy Metal の象徴として踏み出す大胆で鮮烈な一歩です。
「僕にとっては GOJIRA と THE BLACK DAHLIA MURDER こそがスターティングポイントだった訳だからね。そして決定的な瞬間は YOB をライブで見た時だった。」
インタビューで Brady が語ってくれた通り、CONJURER が創成したのは圧倒的に面妖で不穏なスラッジ成分、神秘と思索のプログ成分に、相隔相反するファストで激烈なメタルコアの獰猛を配合した超俗の美酒 “Mire”。その崇高なる多様性の香気は、レーベルの理念とも完璧にシンクロしながら厳かに新時代の幕開けを告げています。
アルバムオープナー “Choke” は、この混沌と斬新を見渡す眺望。濾過以前の純粋な憤激。あまりにハングリーなテンポチェンジの妙。
GOJIRA と NEUROSIS の遺伝子を纏った野太くもエッジーな唸りは、不協和音の沼沢、閉所恐怖症のハーモニーを彷徨いながら瞬時にファストで狂乱のブラックメタルへとその色を変えていきます。さらにその底流は Frederik Thordendal のプライドとも合流し、ただ陰鬱で悲惨な音景を表現するためのみに結束を強くするのです。
実際、泥と霧に覆われた不気味で不透明な原始沼をイメージさせる “Mire” というタイトルは、明らかに限られたリスニングエクスペリエンスでは全貌を掴めない、繰り返しの再生を要求するアルバムの深みと間口、そして芸術性を象徴していますね。
「多くのバンドは一つか二つのメジャーな影響を心に留めながら作曲していると思うんだけど、僕たちはどの瞬間も30ほどの影響を考慮しながらやっているんだ。」との言葉を裏付けるように、バンドは様々な風景をリスナーの脳裏へと刻み続けます。
“Hollow” で示されたドゥーミーなメランコリー、クリーントーンの旋律はポストロックの景観さえ抱きしめた、陰鬱なアルバムに残る微かな希望。しかしその幽寂なるサウンドスケープは、やがて宿命の如く地の底から襲い来るブラッケンドハードコアの波動、濁流に巻き込まれ押し流されてしまうのです。その落差、静と動、速と遅が司るダイナミズムの効果はまさしく無限大。
それにしてもバンドの落差を支えるリズム隊は破格にして至妙。特に様々なリムショットを華麗に使い分け、楽曲のインテンスを高める Jan Krause のドラムワークは新たなヒーローの名に相応しい創造性に満ちていますね。
“Thankless” で敬愛する MASTODON に感謝なき感謝を捧げ、”The Mire” で再びホラー映画のテンポチェンジをショッキングに見せつけた後、アルバムは終盤にハイライトを迎えます。
静謐の谷と激情の山脈を不穏に繰り返し行き来する “Of Flesh Weaker Than Ash” で 「GOJIRA はデス/ブラックメタルの要素を作曲に活用しながら、ヘヴィーな音楽を実にキャッチーに変化させることが出来ると教えてくれた訳さ。」の言葉通りエクストリームメタルのフック、イヤーキャンディーを張り詰めたテンションの中で実現し、SLEEP のファズサウンドをフューネラルドゥームの寂寞とプログスラッジのエピックに封じた “Hadal” でレコードは新世界への扉を開きながらは威風堂々その幕を下ろすのです。
今回弊誌では、ギター/ボーカル Brady Deeprose にインタビューを行うことが出来ました。「ギター/ボーカルの Dan Nightingale と僕は、当時同じようなフラストレーションを抱えて仲良くなったんだ。ローカルシーンがいかにクソになったか、メタルコアがいかに退屈かという鬱憤だよ。」 どうぞ!!

CONJURER “MIRE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENSLAVED : E】JAPAN TOUR 2018 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IVAR BJØRNSON OF ENSLAVED !!

“We Knew The Style Of Music Would Be Related To The Black And Death Metal Movement, But We Also Knew That Our Lyrical Content And Concept Would Have To Be Different From These Genres.”

DISC REVIEW “E”

聳え立つ九つの頭首。中央の頭は不死、他の八つは一撃を受けると増殖して生え変わる。ENSLAVED は神話のヒドラを想起させる骨太のリビドーで、メタルシーンを闊歩する規格外の怪異です。
90年代初頭、ノルウェーの地下ブラックメタルシーンから這い出た幻妖は、シンセサウンドを吸血した異端のシンフォブラックでシーンに顕現し、徐々に知的で濃密なプログレッシブサウンドへと傾倒していきました。
インタビューにもあるように、骨子となるブラックメタル初期の原衝動を護持しつつ、バンドが遭遇し見渡す百色眼鏡の影響を次々と抱きしめ新たな “首” へと挿げ替えていく様は、まさに不滅なるヒドラの所業として唯一無二の存在感を放っていますね。
“Axioma Ethica Odini”, “RIITIIR”, “In Times”。そうして近年、ブラックメタルのエトス、モノクロームのパレットに百花繚乱のカラフルな配色と明暗を導き、精彩で前衛的な雄編を提示し続ける ENSLAVED が辿り着いたアバンギャルドの極み、ヤマタノオロチの多様性こそが最高傑作とも謳われる最新作 “E” なのです。
ENSLAVED の頭文字とも重なるアルファベット “E” は、同時にゲルマンの古い文字体系ルーン文字で “ehwaz” 家畜としての馬、転じて “共生” を象徴しています。
アートワークの “M” こそがそのルーン文字 “E” であり、”M” が馬の姿に似ていることから浸透していった考え方だと言いますが、このタイトル自体がサタニズムを元にした既存のブラックメタルとは全く異なり、自然やスピリチュアル、そして北欧神話やバイキングの遺産を題材とする ENSLAVED の本質を端的に示しているのでしょう。
事実、インタビューで Ivar は 「僕たちの音楽的なスタイルがブラック/デスメタルのムーブメントに関係していることは分かっていたんだ。他の音楽からの影響も散りばめられてはいたけどね。同時にその頃僕たちは、歌詞の内容やコンセプトがブラック/デスメタルとは異なるだろうことも理解していたんだよ。」 と語ってくれています。
まさにその自然との共生をイメージさせる鳥の囀り、そして “馬” の嘶きに幕を開けるオープナー “Storm Son” は、バンドが到達したエピカルかつアバンギャルドな森羅万象を提示します。
PINK FLOYD を彷彿とさせるサイケデリックで緩やかな時間は、新加入 Håkon Vinje の神々しくも美しき多層のクリーンボーカルへと進展し、一方で Grutle Kjellson がグロウルの黒雲を呼び込むと一天にわかにかき曇り、メロトロンやオリエンタルなフレーズを織り込んだ狂気の嵐が巻き起こるのです。
実際、前任者 Herbrand に比べて Mikael Akerfeldt に近い Håkon のオーガニックな声質は、エクストリームミュージックの野望と、複雑怪奇でアバンギャルドなプログロックの至福を全て抱きしめた人類の進化を映したこの11分の絵巻物で、以前にも増したダイナミズムを創出することを嫋やかに宣言していますね。
“Sacred Horse” で降臨する煌びやかな Keith Emerson の鍵盤捌き、アシッドにブルースのパターンを組み込んだ “Axis of the World”, そしてコンテンポラリーなドゥームの嘆きにサックスの躍動を込めた “Hiindsiight” など、Grutle が 「あらゆる既存の枠組みや境界線、ルールを取り払った。」 と証言する作品の中でも、”Feathers of Eolh” は至高の驚きでした。
ヒプノティックでミニマル、Steve Reich とジャズのエッセンスを抽出し、ドリーミーなクリーンボイスとフルートを旋律にブラックメタルの枠組みの中で “ヘラジカの羽” を描き出す想像以上の冒険は、いつの日にもチャレンジを恐れずブレイクスルーを続けるバンドの偉大なスピリットが滲み出しているように感じました。
今回弊誌では創立メンバーでコンポーザー/ギタリスト Ivar Bjørnson に2度目のインタビューを行うことが出来ました。前回は Loud Park 16での初来日直前。そして今回は、直後に日本ツアーが決定しています!!バンドと繋がりの深い SIGH や Vampillia との共演は見逃せません。さらに初期3作からプレイするスペシャルなワンマンセットも予定。
「新しいバンドの大半は過去のバンドを真似たり、張り合ったりしてその呪いにかかっていたように思うんだ。だけど結局、そのやり方では全てが逆戻りして、進化もなく後退してしまうだけなんだよ。」 どうぞ!!

ENSLAVED “E” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SVALBARD : IT’S HARD TO HAVE HOPE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SERENA CHERRY OF SVALBARD !!

Definitely, It’s Hard To Have Hope Now, But Svalbard’s Protest Music Represents a Turning Point In This Dark World !!

DISC REVIEW “IT’S HARD TO HAVE HOPE”

越流するエモーションをプロテストミュージックへと昇華し、英国ブリストルから咆哮を貫く至宝 SVALBARD。熾烈なメタル/ハードコアにポストロックの叙情と風光、ポストメタルの思索と旅路を織り込みさらなる多様化の波動を導いた新作 “It’s Hard to Have Hope” はシーンの革新であり、同時に閉塞した世界が渇望する変化への希望です。
2015年にリリースしたデビューフル “One Day All This Will End” でアグレッション極まるメタル/ハードコアに仄かなアトモスフィアを帯同したバンドは、新作までの道程で困難な時を経験します。Serena がインタビューで語ってくれた通り、メンバー間の恋愛が終焉を迎え、それに伴う心身の病、さらにはベーシストの離脱と、一時は同じ部屋で過ごすことですら苦痛を伴うほどにバンドの状況は崩壊していたのです。
しかし、メンバーのバンドに対する強い愛情は見事に SVALBARD を死の淵から救いました。見方を変えればバンドには、希望を持つことすら困難な世界に対して果たすべき重要な仕事が残っていたとも言えるでしょう。
確かに “It’s Hard to Have Hope” は怒れるアルバムで、中絶、性的暴力、リベンジポルノ、インターンシップの無賃雇用など不条理でダークな社会問題をテーマとして扱っています。
さらには、「このアルバムは、ステージに女の子が立つことにネガティブなコメントを寄せる人たちに対する私からの返答よ。”女性をメタルから追い出せ!” と言うような人たち、コンサートで女性にハラスメント行為を行う人たち。これは彼らに対する私からの恐れなき怒りの返答なの。」と語るように、女性フロントマンとして Serena が長年メタルシーンで苦しんできたハラスメント行為の数々も、作品の持つ怒りの温度を “フェミニストのメタルアルバム” の名の下に上昇させていることは明らかです。
とはいえ、この類稀なる感情と表情の結晶が、唯一怒りにのみ根ざすわけではないこともまた事実でしょう。実際、Serena はこの作品の目的が “人々にこういった社会的不公平を伝えるだけではなく、なぜそういった問題が起き続けるのか疑問を投げかけることだった” と語っています。「誰が正しいのか互いに主張し合うのを止めてこう尋ねるの。一緒に前進するために何ができるだろう?より良き変化のためお互い助け合えないだろうか?とね。」とも。
そうして世界のターニングポイントとなるべくして示現した “It’s Hard to Have Hope” に、一筋の光明にも思える尊きアトモスフィア、荘厳なる音の風景がより深く織り込まれていることはむしろ当然の進化だと言えるでしょう。
勇敢にリベンジポルノの卑劣に怒り、勇敢にハードコア、ブラックメタル、そしてポストロックをブレンドした “Revenge Porn” はまさにその光と陰を見事に体現した楽曲です。バンドが近年注目されるネオクラストの領域を通過していることは明らかです。
静謐なイントロダクションから一転、バンドは正々堂々とハードコアの強さで怒りの鉄槌を下していきます。突如降臨する Serena の慈愛に満ちた歌声はさながら蜘蛛の糸でしょうか。CULT OF LUNA や MY BLOODY VALENTINE のイメージこそ深化の証。そうしてポストブラックの激しさと光明を背負った彼女は悲痛な叫びを投げかけます。「いったい誰が女性を守ってくれるの?」
一方で、もちろんよりストレートな激情も彼らの魅力。何より、無給で酷使されるインターンの憤怒を代弁するオープナー “Unpaid Intern” では、Serena と Liam のボーカルデュエルが牙の鋭さで迫り、沸騰する千変万化なギターリフ、ブラッケンドのリズムセクションを従えてポストハードコアとブラックゲイズの境界を恍惚と共に熔化させていくのですから。
とはいえ、やはりアルバムの肝は Serena が創出する神々しきアトモスフィアと激情の稀有なるコントラストです。アルバムを締めくくるエピック “Try Not To Die Until You’re Dead” でバンドは再びその陰影を鮮明に浮き上がらせた後、美しきインストゥルメンタルのブックエンド “Lorek” で負の感情のみを綺麗に洗い流し、リスナーに思考の為の優しき残余を与えました。
今回弊誌では、ボーカル/ギターのフロントウーマン Serena Cherry にインタビューを行うことが出来ました。メッセージとエモーション、そして音楽がこれほどまでに融解しシンクロする作品はまさしく珠玉。そしてぜひ真摯な彼女の言葉に耳を傾けてください。「感情こそが私たちにとって最も重要なものだから。」リリースは MØL と同じく Holy Roar Records から。どうぞ!!

SVALBARD “IT’S HARD TO HAVE HOPE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN VAIN : CURRENTS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHNAR HÅLAND OF IN VAIN !!

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Norwegian Progressive Extreme Metal Outfit, In Vain Has Just Released More Polished, More Varied, And More Intelligent Dynamic New Chapter “Currents” !!

DISC REVIEW “CURRENTS”

闇深きノルウェーの森から獰猛なる知性を叫喚する、プログレッシブエクストリームの至宝 IN VAIN がシーンの “潮流” を左右するマイルストーン “Currents” をリリースしました!!神々しきメランコリーと邪悪なブルータリティが融解するその奇跡の眺望は、古の摂理に贖ってリスナーを魂の冒険へと誘います。
IN VAIN にとって、前作 “Ænigma” における Jens Bogren との邂逅は、運命にして僥倖でした。暗騒と調和を司る音響の魔術師との出会いは、バンドに備わる神秘のメロディーや豊潤なコンポジションを一際研ぎ澄まし、多様で濃密なプログレッシブワールドへの扉をしめやかに開いたのです。
鍵盤奏者でクリーンボーカルの Sindre Nedland は “Currents” を “キャッチーでインテンスに満ち、そして普通ではない” レコードだと評しています。実際、バンドは “Ænigma” でついに発見したバンドの個性、対比と実験が生み出す魔法の緊張感を “Currents” で決定的なものへと昇華し、エクストリームメタルの頂きに鋭く光る知性の剣を突き立てたと言えるでしょう。
アルバムオープナー、”Seekers of the Truth” はバンドのルーツであるエクストリームサイドを探求したリフの覇道。ギターチーム Johnar Håland と Kjetil Domaas Petersen の繰り出す魔手は、プログレッシブメタルコアの猟奇性、ブラックメタルの中毒性、メロディックデスメタルの即効性、そして流麗で夢見るようなプログロックのリードプレイを操り、Andreas のスクリームを纏って怪しく疾駆します。
Johnar はアルバムのテーマである “潮流” について 「人々はまさに大陸や国境、さらに世代をも越えて移動しているんだよ。つまり、文化は融合しているんだ。」 と語ってくれました。米国、英国、北欧を股に掛けるワイドな “真実の探求” は、この多様な作品のオープナーに相応しい説得力を誇っていますね。
一方で、”Soul Adventure” はバンドのエセリアルな一面に特化した荘厳の極み。シャープでマスマティカルなリフワークは、ノルウェーに心酔する Matt Heafey のボーカルとも確かにシンクロし、重なり合うコーラスを携えて ENSLAVED にも匹敵する神々しきエピックフィールドを創造しています。
全面参加を果たした LEPROUS のドラマー Baard Kolstad の実力には今さら触れるまでもないでしょうが、それでもコーラスの最中に突如倍テンでブラストをお見舞いする迫真の瞬間には才能の煌めきを感じざるを得ませんね。
極上の対比で幕を開けたアルバムは、”Blood We Shed” では Johanar が近年バンドはブラックからデスメタルへと接近したと語るように OBITUARY の這いずる邪心と賛美歌を悪魔合体へと導き、さらにアルバムの肝であるハモンドが牽引する “En Forgangen Tid (Times of Yore Part II)” では SWALLOW THE SUN の持つドゥームの美意識を70年代のプログ性と溶融しながら対比の頂点 “Origin” まで、劇的なエクストリームミュージックを奏で続けるのです。
アルバムは7分のエピック “Standing on the Ground of Mammoths” でその幕を閉じます。シンセ、ストリングス、ブルーズギター、サックスを組み込み織り成すシネマティックな一大ドラマは、バンドの70年代への憧憬が遂に結実した楽曲なのかも知れません。
溢れ出すノスタルジックなエモーションとシアトリカルなイメージは、時代の “潮流” を飲み込み GENESIS の創造性ともリンクしてバンドを遥かなる高みへと到達させるのです。
今回弊誌では、Johnar Håland にインタビューを行うことが出来ました!初めてリリースされる日本盤には、”And Quiet Flows the Scheldt”, “Ghost Path” 2曲のロングエピックが追加され1時間を超えるランニングタイムでこの傑作をより深く楽しむことが可能です。インタビュー後にも、日本のみんなに僕の日本愛を伝えて欲しいと熱く語ってくれた Johnar の熱意が伝わるようなプレゼントですね。どうぞ!!

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IN VAIN “CURRENTS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AKERCOCKE : RENAISSANCE IN EXTREMIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAVID GRAY OF AKERCOCKE !!

Photo by Tina Korhonen © 2017, all rights reserved.
Photo by Tina Korhonen © 2017.

UK Extreme Legend, Akercocke Returns For The First Time In A Decade! “Renaissance In Extremis” Delivers Euphoric Force And Mind-boggling Weirdness !!

DISC REVIEW “RENAISSANCE IN EXTREMIS”

90年代後半から漆黒の創造性でシーンを牽引する英国のアーティスティックなノイズメイカー AKERCOCKE が、10年の時を超え完璧なる復活祭 “Renaissance in Extremis” をリリースしました!!背徳には恍惚を、暴虐には知性を、混沌には旋律を、等しく与える “死のルネッサンス” でバンドはその邪悪を崇高の域にまで昇華します。
生々しき衝動のラフダイアモンド、”Rape of the Bastard Nazarene” でエクストリームシーンに登壇した突然変異のモンスター AKERCOCKE。デスメタル、ブラックメタル、プログ、アヴァンギャルドをその身に浴び降誕した凶暴なるカオスは、”Words That Go Unspoken, Deeds That Go Undone” を頂点とするトリロジーで、美麗なる異端の響き、クリーンパートまでをも宿し唯一無二の存在と化しました。
さらに、バンドの第一章を閉幕するシグナルとなったより実験的な2007年の “Antichrist” では、BBC 北アイルランドのディベート番組出演を騒動のピークとする “アンチクライスト” 論争を巻き起こすなど、その存在感もアンダーグラウンドメタルシーンのアイコンとして群を抜いていたのです。
しかし、残念ながらバンドのその際立つ個性も、長い沈黙の中で、まるで月が闇夜に欠けて行くかの如く徐々に忘れられて行きました。「本当は、僕たちは2012年に解散した訳ではないんだ。線香花火のようにフェイドアウトしていったような感じだね。」 と David が語るように、実際のところ、その仄かな月明かりはただ暗闇へと溶け込み潜伏していただけでしたが。
雌伏の時を終え、Jason Mendonça, David Gray, Paul Scanlan というオリジナルメンバーを軸に帰還を果たし、遂にリリースした “Renaissance in Extremis” は紛うことなきフルムーン、エクストリームメタルの新教典。”初めて制作したサタニックではないアルバム” と語る通り、バンド史上最もコントラストが際立ったワイドで濃密なレコードは、再びリスナーの記憶を呼び覚まし、確実にジャンルのランドマークとなるはずです。
DEATH の遺伝子を宿すメカニカルなイントロダクションが印象的な “Disappear” はバンドの帰還を高らかに告げるキラーチューン。フェンリルのようなデスメタルの獰猛さに、ミッドガルドの冬景色、冷徹なるアトモスフィアを抱きしめる諸行無常のオープナーは、トレイルブレイザーとしての威厳、凄みを見せつけるに充分なクオリティーを誇り、リスナーをあの素晴らしきトリロジーの時代へと誘います。
変化の兆し、ルネッサンスの予兆は “Unbound by Sin” で現れます。トレードマークであるサタニックなコンセプトから離れ、改めて内省的な痛みや苦しみに焦点を当てたアルバムは、ボーカリスト Jason Mendonca をより生々しい、絶望と儚さが同居する類希なるストーリーテラーへと仕立てあげました。実際、ガテラルにグロウル、狂気と正気のクリーンに詠唱まで巧みに使い分ける Jason のシアトリカルな歌唱、対比の魔法は “Theatre of Akercocke” のまさに主役です。
特にこの極めてプログレッシブな楽曲で、Jason の変貌を巧みに反映したメジャーキーのヒプノティックなクリーンパートはあまりに創造的でインプレッシブ。”One Chapter Ends For Another to Begin” にも言えますが、例えば ENSLAVED がしばしば生み出す至高の神々しさと同等の強烈なエモーションがここにはあります。
同時に、ギタリストでもある Jason のクラシカルなシュレッドと、復帰を果たしたスケールの魔術師 Paul Scanlan のホールトーンを旗印とした鮮烈のリードプレイ、Neal Peart のフィルインを受け継ぐ David Gray の繊細かつ大胆ななドラミング、勿論ボーカルを含め全てがスケールアップを果たし “足枷” を解かれた音楽の罪人は、よりフックとキャッチー、そしてインテリジェンスを携えてリスナーの五感を刺激するのです。
バンドの新たな容貌、アルバムのハイライトは5曲目に訪れます。「僕が今まで聞いた他の歌手とは違って、感情的な反応を誘発する、魂に響くシルヴィアンのボーカルはあまりに魅力的。」 インタビューで David は敬愛する JAPAN と David Sylvian への愛情を隠そうとはしませんでした。そして、耽美と実験性を纏った究極なる幽玄、”Familiar Ghosts” は確かに JAPAN のスピリットで幕を開けます。
同時に、DEATH のリフワーク、OPETH のデザイン、EMPEROR のアヴァンギャルドを7分の楽曲に無駄なく梱包した極上のエクストリームジグソーパズルは、シンセ、ストリングスを伴って、遂に David の野心を須らく投影した奇跡のアートとして語り継がれるに違いありません。
アルバムは、9月の英国をイメージさせるニヒルな混沌 “A Particularly Cold September” で幕を閉じます。 Paul のサックスを大胆に起用した、深く陰鬱でサイケデリックな9分間は AKERCOCKE の成熟を物語るショーケースとして完璧なアンビエンスを宿すクローサーと言えるでしょう。
一度死の淵に臨んだバンドは、進化という名のルネサンスに臆することはありません。今回弊誌では、バンドの創立メンバーでドラマー David Gray にインタビューを行うことが出来ました。取材は、アルバムのミキシングを担当した伝説的スタジオマスター Neil Kernon の協力の下行われました。当然ながら、彼の素晴らしい仕事にも拍手を。どうぞ!!

Akercocke-RenaissanceCD

AKERCOCKE “RENAISSANCE IN EXTREMIS” : 10/10

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