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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RAGE : RESURRECTION DAY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PEAVY WAGNER OF RAGE !!

“I Was Very Productive With Rage Over The Last Nearly 40 Years. Its 28 Albums Incl Refuge & LMO. Why? Because I Can!”

DISC REVIEW “RESURRECTION DAY”

「そう、俺はこのほぼ40年の間、RAGE で非常に生産的だった。REFUGE と LMO を含めれば、残したアルバムは28枚。なぜそんなに作れるのかって?それはな、俺様ならやれるからだよ!はっはっはっ!(笑) 」
Peavy Wagner は “骨のある” 男です。ジャーマン・メタルの世界では、1980年代の全盛期から多くの才能が生まれては消えていきましたが、RAGE は独特のイヤー・キャンディーと捻くれたセンスの二律背反を共存させながら、粉骨砕身ただ実直にメタルを紡ぎつづけてきた気骨者に違いありません。
刻々と変化を遂げるトレンドの急流、ミュージック・インダストリーの大波にも屈しないストイックなメタルの骨巨人。Peavy が語るように、”Trapped”, “Missing Link”, “Black in Mind”, そして “XIII” と、1990年代メタルの荒野においてさえ彼らの作品はむしろその輝きを増し、さながら骨上げの喉仏のように貴重な存在となったのです。
「いやいや、ありえねーよ!Manni は忙しくて時間もねーし、プロフェッショナルなバンドでやる気ももうないだろうしな。Victor はいろいろあって俺が6年前にクビにしたんだぜ?ありえねーよ!」
Peavy は RAGE は決してメンバー・チェンジの多いバンドではないと強調しますが、それが決して少ないわけでもありません。ほぼ40年に渡る長い歴史の中には、何度もドラスティックな変化の刻が訪れました。そうやって、新陳代謝を繰り返しながら、RAGE は生き続ける意味を見出してきたと言えるのかもしれません。
逆にいえば、あくまで Peavy という屋台骨の支えられる範囲でですが、RAGE は加わるメンバーによってその音楽性をさながら脱皮のように変遷させていったのかもしれませんね。そして、ギター・プレイヤーはその脱皮を終えた肉体の色を司る、重要なファクターとなったのです。
Manni Schmidt は今でも “Ragers” に最も人気の高いギタリストかもしれませんね。フレーズやリフの源流が推測できないような突拍子もないギターの百鬼夜行、奇妙なグルーヴのうねりは、”Missing Link” の異常な耳障りの良さと結合し、ある意味初期 RAGE の終着駅となりました。
一方で、Victor Smolski の超絶技巧も近年の RAGE にとって絶対的な看板でした。特に凄腕 Mike Terrana を伴って完成を遂げた “Soundchaser” のプログレッシブで、クラシカルで、シンフォニックで、キャッチーで、途方もないスケール感を創出したテクニカルなメタルの叙事詩は、ラヴクラフトに負けず劣らずの濃密な奇々怪界をその身に宿していたのです。
では、それ以外の時期は RAGE にとって “狭間” の報われない時だったのでしょうか?ずっと RAGE を追い続けたファンならその問いに突きつけるのは間違いなく否。何より RAGE の歴史に燦然と輝く “Black in Mind” にその両者は絡んでいないのですから。
「実を言うと俺たちは、数年前から RAGE の歴史の中でこの4ピースの段階を目指していたんだよな。だから、ツインギターというソリューションに戻るのは自然なことだったんだよ」
人生を変えたアルバムに POLICE や RUSH を挙げていることからも、Peavy がスリー・ピースにこだわりを持ち、この形態でしか生み出せない何かを常に念頭に置いていたのはたしかでしょう。ただし、一つの場所にとどまらないのもまた RAGE のサウンド・チェイス。
現代的で多様な世界観を切り開くため、メタルをアップデートし選択肢を広げるためにツインギターを導入した 大作 “Black in Mind”。(ちなみにその次の “End of All Days” は逆に肩の力を抜いて聴けるこちらも名作) AXXIS から Stefan Weber を、ANGELINC から Jean Bormann を、”家が近い” という理由でリクルートした “Resurrection Day” には、たしかにあの傑作と同じ血、同じ哲学が流れています。
明らかに Peavy は Smolski を解雇して “The Devil Strikes Again” に取り組んで以来、ある意味定型的なネオクラシカル・ギター、シアトリカル過ぎる表現、そして10年以上使ってきたアトモスフェリックでオーケストレーションなタッチそのすべてを剥ぎ取り、より “簡潔” で “あるべき姿” の RAGE を取り戻そうとしているようにも思えます。さて、その試みは吉と出たのでしょうか?それとも…
「新石器時代になると、人間は自然と共に生きる遊牧民から、定住して農業を営み、自然に干渉して自然を操作するようになった。このことが、気候変動、戦争、人口過剰など、世界が抱える大きな問題につながっているんだよ。俺たちは今、この危機を良い形で乗り越えるか、悪い形で乗り越えるかを決めなければならない時期に来ているんだ。つまり瀬戸際なんだよ。そしてその決断の日こそ、俺たちの “復活の日” なんだ…」
常に人類の歴史、古の秘法、異世界などをテーマとしてその場所から現代に鋭くメスを入れてきた Peavy。人と自然の付き合い方、そして脱皮を続けるバンドの哲学、その両者をリザレクトさせるダブル・ミーニングのタイトルはまさに彼の真骨頂。実際、”Resurrection Day” で RAGE は “Black in Mind” と同様に、彼らのメタルをアップデートしここに来てさらなる新境地を開いています。
その象徴こそ、”Traveling Through Time” でしょう。近年の IRON MAIDEN に通じるようなメタルの時間旅行には、ツインギターでしかなし得ない古のハーモニーが響き渡ります。その趣向を凝らした勇壮は GRAVE DIGGER にも似て、しかしオーケストラの荘厳や Peavy のダミ・キャッチーな歌声で完全に RAGE の独壇場としてリスナーに歓喜を届けるのです。
一方で、Peavy がグロウルをお見舞いする “Arrogance and Ignorance” を筆頭に、メロディック・デスメタル的な作曲術も今作では際立ちます。さながら ARCH ENEMY のように疾走し蹂躙し慟哭を誘う劇的なリフワークとハーモニーの数々は、これもまたツインギターでしかなし得ないバンドの新境地に違いありません。
もちろん、かつてのスピード・スラッシャーを彷彿とさせる “Extinction Overkill”、アコースティックを巧みに施した “Man In Chains”、80年代を現代風に塗り替えた “Mind Control” などこれまでのファンを満足させる要素も満載されていて、何より “Resurrection Day” の旋律はそのすべてが RAGE でありながら一段魅力的な珠玉となっているのです。その証明こそ、タイトル・トラックから、”Virginity”, “A New Land” と畳み掛ける、血湧き肉躍るフック満載のメタル・ドラマの三連撃。よりキャッチーに、よりドラマティックに、よりエピカルに。RAGE が遂げた完全復活。
今回弊誌では、Peavy Wagner にインタビューを行うことができました。「骨のコレクションは膨大な量になっているぜ。今では本物の骨の博物館を所有しているくらいでね!」 どうぞ!!

RAGE “RESURRECTION DAY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RUINS OF BEVERAST : THE THULE GRIMOIRES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER VON MEILENWALD FROM THE RUINS OF BEVERAST !!

“We Were Teenagers And Fairly Easily Manipulable, And an Extreme Movement Coming From Obscure Scandinavia, That Was Surrounded By Kind Of an Occult Aesthetic And an Almost Radical Anonymity And Secretiveness, Seemed Overwhelmingly Fascinating To Us.”

DISC REVIEW “THE THULE GRIMOIRES”

「自分がやっていることがブラック・メタルのルールに則っているかどうかは、あまり意識していない。もちろん、NAGELFAR 時代にもそうしていたんだけど、THE RUINS OF BEVERAST は最初から巨大な音の風景を構築することを目的としていたから、限界を感じるものは直感的に無視しようとしていたのだと思うな。そして、何よりもまず制限となるのは、ジャンルのルールだからね」
ジャーマン・ブラック・メタルの伝説。Alexander von Meilenwald の落とし胤 THE RUINS OF BEVERAST は、長い間メタルの海岸線を侵食しながらアンダーグラウンドの美学を追求してきました。ブラック、デス、ドゥームに、サイケデリックな装飾や多彩なサウンドスケープ、サンプルを宿しながら綴る、音のホラー小説。
デビューアルバム “Unlock the Shrine” の広大なアトモスフィアから、15世紀ドイツの異端審問を描いた “Blood Vault – The Blazing Gospel of Heinrich Kramer” のコンセプチュアルな作品まで、Alex の言葉を借りれば、自然や世界を聴覚的に表現する音楽はアルバムごとにそれぞれの独特な感性を備えています。
「俺はいつもゼロからのスタートなんだ。いつも、新しいアルバムのためのビジョンを描き、それが創造的なプロセス全体の地平線として設定される。そして、先ほど言ったように、それは以前の作品とは全く関係がないんだ。」
Alex の6度目の旅路 “The Thule Grimoires” は、これまでのどの行き先よりも楽曲を重視し、アイデアを洗練させ、多様であると同時に即効性のある目的地へと向かいました。スラッジの破壊と暗く壮大な混沌のドゥームを探求した “Exuvia” とは異なり、”The Thule Grimoires” は初期の生々しいスタイルを再度回収しています。では、Alex は過去の寄港地、ブラックメタルのルーツにそのまま戻るのでしょうか?それともトライバルでサイケデリックな領域をさらに旅し続けるのでしょうか?圧倒的で落胆に満ちたドゥーム・アルバム? メタルではなくアンビエントなテクスチャーに根ざした何か?答えはその全てです。
「ブラック・メタルが重要じゃないわけじゃないんだ。”Ropes Into Eden” の冒頭を聴いてみると、かなり古典的なブラックメタルのパートだけど、同時に見慣れない要素によって拡張されている。これはすべてオートマティックに起こることさ」
アグレッシブなテンポ、ブラスト・ビート、そしてトレモロ・リフに大きな重点を置きながら、美しく録音された作品には、フューネラル・ドゥームの深い感情を呼び起こすような、不安になるほど酔いしれた雰囲気が漂っています。ただし、テンポが速くなったことでこれまで以上に素早くシーケンスからシーケンスへと飛び移ることが可能となり、その結果、楽曲は様々な影響が回転ドアのように目まぐるしく散りばめられているのです。
「俺の音楽人生には何度か、必ずポップ、シンセウェーブ、ポスト・パンクの衝撃が戻ってきているんだ。NAGELFAR の “Srontgorrth” アルバムや、初期の THE RUINS OF BEVERAST のリリースでも、少なくともゆるやかには存在していたからね。ただこのアルバムでみんながこれほど “ノン・メタル” な影響を確認する主な理由は、クリーンなボーカルだと思うんだ」
アルバムは陰鬱なスペース・ロック、”Monotheist” 時代の CELTRC FROST、さらには80年代のゴス・ロック、ポスト・パンク、シンセ・ポップからも影響を受けています。しかし、すべてのスタイルを支えているのは、鼓動するブラックメタルの心臓。
例えば “Polar Hiss Hysteria” ではトレモロの嵐とサイケデリックなリードがバランスよく配置されており、膨らんだ緊張感はそのままドゥーム・メタルに身を委ねていきます。クリーン・ボーカルも、アルバム中盤のハイライト “Anchoress in Furs” の見事なコーラスのようにより強調され、不協和音のコーラス讃歌にサイケデリックなギター、Alex の奇妙に高揚したバリトン・ヴォイスが万華鏡のような泥沼を創造します。
「俺はあのバンドを心から尊敬しているし、Peter Steele は “俺たち” の音楽世界でら最も非凡で傑出した人物の一人だと思っているんだよ。彼の黙示録的な皮肉は独特で、彼の声も同様に独特だった。完全に他にはないものだったね。だからこそ、俺は彼の真似をしようとは思わなかったんだ。”Deserts To Bind And Defeat” の冒頭では、俺の声をできるだけ深いトーンで表現することにしたんだよ」 そしてもちろん、TYPE O NEGATIVE。
今回、弊誌では Alexander von Meilenwald にインタビューを行うことができました。「ブラック・メタルのムーブメントが始まったとき、俺たちはノルウェーについてできるだけ多くのことを知りたいと思った。突然、ほとんどすべての人が、スカンジナビアから生まれた創作物を賞賛することに同意したんだからね。俺たちはティーンエイジャーで、簡単に影響をうける年ごろだった。オカルト的な美学と、匿名性と秘密性に包まれた、無名のスカンジナビアから生まれた過激なムーブメントは、俺たちにとって圧倒的に魅力的なものだったんだ」 ブラックメタルが贈る審美の最高峰。どうぞ!!

THE RUINS OF BEVERAST “THE THULE GRIMOIRES” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PANZERBALLETT : PLANET Z】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAN ZEHRFELD OF PANZERBALLETT !!

“Planet X Were The First Band I’ve Heard With This Special Blend Of Low-Tuned Heavy Guitar Riffs, Dark Atmospheres, Jazz Harmony, Precision And Virtuosity. “Planet Z” Could Be Understood As My Vision Of a Sequel To That.”

DISC REVIEW “PLANET Z”

「私の愛する2つの異なった音楽世界を融合させるつもりだった。このバンド名を見つけることが出来てラッキーだったよ。とても良くコンセプトを表現しているからね。ヘヴィーな鋼鉄とソフトなダンス。両方とも深く気を配る必要があるというのが共通点だね。戦車は精密なエンジニアリングを要求されるし、バレーは舞踏術をマスターした独創性に基づくからね。」
ドイツが誇る PANZERBALLETT は、ヘヴィーとソフト、精密と独創、複雑と明快を股にかけ、重音舞踏会を華麗に駆け抜ける高性能ジャズ式重戦車。その異様と壮観には5つの掟が定められています。
「音楽とテクニックでリスナーに感動を与える」「多面性を持って音楽的にフレッシュでいる」「音楽の予測性と非予測性をバランス良くミックス」「高い知的レベルを保ちながらアグレッションを持つ」「リスナーの期待に沿わないで挑発する」
実際、PANZERBALLETT はこれまで、新鮮なアイデアと予想外の行動でリスナーに驚きを与え続けてきました。
Frank Zappa, WEATHER REPORT, ABBA といった多様な泉から涌き出でるカバーの数々、”Take Five” や “ピンクパンサーのテーマ” を自らのセットリストに組み込むその貪欲、そしてサックスはもちろん、インドの伝統楽器にタイプライター、果ては Mattius Eklundh まで “使用” する大胆奇抜まで、常軌を逸した PANZERBALLETT の辞書に不可能の文字は存在しないのです。
「PLANET X は低音のヘヴィーなギターリフ、ダークな雰囲気、ジャズのハーモニー、正確さ、そして名人芸の特別なブレンドを持っていたね。こんなバンドは聴いたことがなかったよ。だから、”Planet Z”は、”Planet X” の続編のような作品を作ってみたいという願望のあらわれなんだ。」
テクニシャン・オブ・テクニシャンを結集した PANZERBALLETT ですが、それでも Jan Zehrfeld という大佐の乗り物であることは疑いの余地もありません。そして、最新作 “Planet Z” は、Zehrfeld の頭文字を頂くように以前よりさらにソロアルバムの性質が高まった作品と言えるのです。
The Brecker Brothers, TRIBAL TECH, MESHUGGAH といった異能に影響を受けてきた Jan ですが、そのヘヴィーメタルビバップな魂を最も喚起したのが PLANET X でした。
キーボードの VAN HALEN こと Derek Sherinian が名手 Virgil Donati と立ち上げたインストフュージョンプロジェクト。Tony MacAlpine, T.J. Helmerich, Brett Garsed, Alan Holdsworth, Billy Sheehan, Dave LaRue などなど奇跡的なメンバーを集めて、メタルとジャズの交差点を探った早すぎたバンドです。
異端は異端を知る。そんな宇宙人の魂を継ぐように、アルバムは Virgil Donati のドラムスをフィーチャーした格好のジャズメタル “Prime Time” でその幕を開けます。
「彼らは皆私に影響を与えていて、特に Virgil からは大きな影響を受けている。だからまず、彼に声をかけたんだ。でも素晴らしい出発点になったよ。なぜなら、彼が参加していることで他の一流のドラマーたちにも参加を了承してもらうことができたからね。」
今回のゲストを大勢招くそのやり方も、PLANET X を見習ったものかも知れませんね。Virgil, Marco Minnemann, Morgan Agren, Gergo Borlai, Hannes Grossmann, Andy Lind。OBSCURA で多忙な Sebastian Lanser の休養と共に自らが愛するドラマー6名を招くことで、アルバムはさらにソロ作品の色を濃くしていきます。
「クラッシック作曲家の中でワーグナーは、おそらく最も “メタル” な音楽性を持った一人だから。」
その言葉通り、鬼才ワグナーのワルキューレはメタルの五重奏へと堂々進化し、ウニとタコの壮絶な戦いを複雑怪奇な音楽で表現し、遂には SOS のモールス信号をそのまま楽曲へと組み込んでしまう。Jan の爆発する芸術は “Planet Z” という遠く離れた宇宙の星で目一杯花開いたのです。
今回弊誌では、Jan Zehrfeld にインタビューを行うことが出来ました。「この15年の間に、PANZERBALLETT は独自の音楽領域を作り上げてきたね。音楽を作る時は、その領域に飛び込んでいるんだけど、それって自分の “惑星” に引きこもっていると言えるかもしれないよね。」 前回のインタビューと合わせてどうぞ!!

PANZERBALLETT “PLANET Z” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE HIRSCH EFFEKT : KOLLAPS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ILJA JOHN LAPPIN OF THE HIRSCH EFFEKT !!

“Plain, Aggressive Music With Odd Time Signatures Would Probably Be Boring For Us In The End, If We’d Only Stick To That Kind Of Music. Allowing Different Moods And Genres To Come In Has Kept Such Music Interesting And Exciting”

DISC REVIEW “KOLLAPS”

「結局、奇妙な拍子記号があるだけのプレーンでアグレッシブな音楽は、そこに固執するのであればおそらく僕たちにとって退屈だろうな。異なるアトモスフィアやジャンルを取り入れることは、そんなテクニカルな音楽を面白く刺激的なものにしてくれたんだ。」
自らを “Indielectropostpunkmetalmathcore” と称するハノーファーの異分子トリオ THE HIRSCH EFFEKT は、目眩くジャンルの島々を巡りメタルの多音美を実現する挑戦的な吟遊詩人です。
「このレコードの大半は、フライデーフォーフューチャーと世界の気候変動問題について扱っているんだ。よりドキュメンタリータッチで、客観的にね。グレタ・トゥーンベリに触発され、彼女のスピーチからいくらか派生した楽曲もあり、引用として使用している部分もあるよ。だからスウェーデン語のタイトルなんだ。」
THE DILLINGER ESCAPE PLAN から LEPROUS, 果てはストラヴィンスキーまで、無限にも思える音のパレットを備えた THE HIRSCH EFFEKT にとって、その言語的な多様性も彼らの絵音を彩る重要な筆に違いありません。
自らのバンド名が象徴するように、母国語であるドイツ語の響きでユニークな異国情緒を奏でながら、最新作 “Kollaps” において、楽曲にスウェーデン語のタイトルを冠することで若き環境活動家の蒼を観察者としての視点から紡いで見せるのですから。
「典型的な3ピースとしての、ベース、ギター、ドラムのバンドサウンドの退屈さを感じた時、僕たちはひらめいたんだ。バンドのサウンドから遠ざかり、ストリングスセクション、合唱、ホーンなどのクラシック音楽の要素を組み込んだり、モチーフやバリエーションのメソッドを拝借したら、もっとエキサイティングな楽曲になるんじゃないか?ってね。」
興味深いことに、メンバー3人のうちギター/ボーカルの Nils とインタビューに答えてくれたベーシスト Ilja は、ドイツの音楽大学で幅広い教育を受けています。ゆえに、典型的なロックサウンドに飽き足らず、クラッシックやエレクトロニカ、ノイズにジャズと、その好奇と冒険の翼を果敢に難解に広げることはある意味必然でした。
ゆえに、THE DILLINGER ESCAPE PLAN や BETWEEN THE BURIED AND ME との比較は避けがたい運命とも言えるでしょう。実際、”Noja” を聴けば彼らのアグレッシブでカオティックな奇数拍子の猛攻が、OPETH の知性とブラックメタルの咆哮を介しながらも、TDEP のスタイルをある程度基盤としていることに気がつくはずです。そこに絡み合う異質なアルペジオと英語のスポークンワードが重なることで、世界は不可思議な胎動を始めるのです。
ただし、THE HIRSCH EFFEKT はただリズミックにのみ実った果実ではなく、ハーモニックにも芳醇な甘い実をつけました。MESHUGGAH と SikTh の重音異端が流麗に花開く “Declaration”、LEPROUS の狂気を煮詰めた “Domstol”、NINE INCH NAILS の内省的シネマを投影した “Bilen”。さらにアルバムを締めくくる “Agera” には、Steven Wilson にも通じるメロディーの哲学と感情の絵画が広がります。
これほどの多様性、色彩を備えながら一つのアートとして完成したアルバムは、まさに Ilja が語る通り、”美術館のアートギャラリーを歩くような” 芸術的広がりを有しているのです。
今回弊誌では、Ilja John Lappin にインタビューを行うことができました。「”The Fragile” は実は僕のフェイバリットレコードの1つで、作詞作曲のみならず、プロダクション、サウンド、ジャンルの多様性に関するオルタナティブロックやメタルの重要かつ広く認識されたランドマークだよね。 」どうぞ!!

THE HIRSCH EFFEKT “KOLLAPS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MEKONG DELTA : TALES OF A FUTURE PAST】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RALF HUBERT OF MEKONG DELTA !!

“Sergej Prokoviews 1st Movement Out Of His 2nd Symphony In D Minor Was The First I Noticed How Close An Orchestra With Heavy Brass Comes To An Metal Group And Some Times Even Sounds Harder.”

DISC REVIEW “TALES OF A FUTURE PAST”

「僕の意見では、現実は常にファンタジーを打ち負かしているよ。若くて歴史を知らない人たちのために記すけど、メコンデルタって名前はベトナム戦争を象徴しているんだ。最も残忍な戦いと虐殺(マイライ)のいくつかはこの川の近くで行われたからね。」
例えば Yngwie Malmsteen, 例えば ACCEPT, 例えば BLIND GUARDIAN。クラッシックやフォークをメタル世界へ伝播した華美流麗なファンタジーの裏側で、MEKONG DELTA はリアリティーと恐怖、そして複雑怪奇をただ純粋に培養していきました。
例えばムソルグスキー、例えばハチャトリアン、例えばヒナステーラ。総帥 Ralf Hubert がメタルワールドに種を蒔き育てたのは、耳馴染みの良い伝統の音楽ではなくコンテンポラリーな現代音楽とその実験精神だったのです。
「1984年の終わりか1985年の初めだったかな。Jorg Michael は当時誰も知らなかった METALLICA のデモを持ってスタジオに来たんだ。彼は何より “Fight Fire With Fire” を気に入って流していたね。この曲には、当時メタルでは珍しかったリズミカルな変速が含まれていたんだよ。それが彼に深い感銘を与えたんだ。僕も面白いと思ったね。」
興味深いことに、Ralf の創造的破壊は当時メタル世界の異端者だったスラッシュメタルの凶暴と共鳴し溶け合いました。1989年の傑作 “Dances of Death (And Other Walking Shadows)” の冒頭を飾る19分のタイトルトラック、死の舞踏に込められたエキセントリックな血と知の共演はまさしく MEKONG DELTA の哲学そのものだったと言えるでしょう。
「ラブクラフトは、恐怖を明確に説明しない数少ない人物の1人だね。彼は恐怖を描かずに、心の中で成長させるんだよ。物語を読んで鳥肌が立つんだ。”The Color from Space” はその良い例だね。」
スラッシュメタルと現代音楽こそが、メコンの源流。Jorg Michael, Peavy Wagner, Uli Kusch, LIVING DEATH といったドイツの綺羅星がバンドの音流を支え、ラブクラフトの名状しがたい恐怖が遂には異端を濁流へと変えました。以降、MEKONG DELTA はオーケストラとの共演、そしてしばしの休息を境とするように、スラッシュメタルからプログレッシブメタルへとその進化の矛先を向けていきます。
6年ぶりの新作となった “Tales Of A Future Past” は文字通りバンドの過去と未来を紡ぐ作品なのかも知れませんね。猟奇的なアグレッションと奇数の美学はそのままに、プロダクションと演奏の質を現代水準へと高めたレコードは、同時にオーセンティックなメタルらしい耳馴染みの良さまで備えています。
Bruce Dickinson が憑依した Martin LeMar のダイナミックなボーカルは、奇数拍子に力強く踊り、ギターの両翼は不協和を流麗に駆け抜けます。シンガロングさえ誘う “Mental Entropy” や、”A Farewell to Eternity” の胸を打つメロディー、アトモスフェリックなホラー映画 “When All Hope Is Gone” は初期の MEKONG DELTA には存在し得なかった要素でしょう。
一方で、アルバムに散りばめられた “Landscape” 組曲ではオーケストラの荘厳壮大を血肉に、名状しがたき闇の景色、歓喜の狂気を惜しげも無く物語るのです。挑戦と訴求、難解と容易のバランスは間違いなく過去最高。
今回弊誌では、ベースからクラッシックギターまで何でもこなす巨人 Ralf Hubert にインタビューを行うことができました。「最も重要なものは、15, 6歳のときに偶然聞いたオーケストラ作品だね。Sergej Prokoviews の交響曲第ニ番の第一楽章、コンポーザーとしての彼を確立した “鋼鉄の歩み” だよ。ブラスを伴ったオーケストラがメタルバンドにどれほど近いのか、時にはよりハードな音を出すと気づいた最初のクラッシック作品だったね。」 どうぞ!!

MEKONG DELTA “TALES OF A FUTURE PAST” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREEDOM CALL : M.E.T.A.L.】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS BAY OF FREEDOM CALL !!

“We Just Used The Word “Metal“ For This Common Threat. In This Moment We Got This Vision. If All People Around The World Would Be Metal Fans…We Would Have Peace On Earth!”

DISC REVIEW “M.E.T.A.L.”

「今日の世界において全ての元凶の一つは、全員が共通の価値観やバランスの上で生きていないことなんだ。異なる興味、宗教間の行き違い、そして政治家は金の亡者さ。だから僕たちは “メタル” という言葉を共通点に提案したんだ。もし世界中全ての人たちがメタルファンだったら…きっと世界に平和をもたらすことができるはずさ。」
白砂糖に蜜を敷きつめたウルトラブライトなメロディー、劇画的王道ファンタジーな世界観、そしてディフォルメを加えたユーモアの精神。FREEDOM CALL は自らが掲げる “ハッピーメタル” のクルセイダーとして20年ものキャリアを積み上げてきました。
十字軍の魔法は、マスターマインド Chris Bay の演奏者、メロディーメイカー、そしてプロデューサーとしての卓越した能力を三叉撃として発動しています。
例えば SAXON 中期の快作 “Metalhead” のキーボードを聴けば Chris のマルチな才能と音算能力が伝わるはずです。さらに、根からはオールドスクールを、葉脈からはコンテンポラリーを吸収したポップの大樹 “Chasing the Sun” で花開いた光の音の葉は、メロディーの騎士に相応しい壮麗と華美を誇っていたのですから。
「”車輪の再発明” を行うつもりはないんだよ。音楽において最も重要な部分は、リスナーを心地よくすることなんだから。例え1人でも FREEDOM CALL の楽曲を聴いて幸せになってくれる人がいるなら、僕は完全に満足なんだ。」
ポジティブに振り切れたハッピーメタルの真髄は全てがこの言葉に集約しています。メタルをただキャッチーの極みへと誘う Chris の大願は、そうして10枚目の記念碑 “M.E.T.A.L.” で完璧に実現へ至ることとなりました。
メタルの数字である “666” を敢えて避け、エンジェルナンバー “111” をタイトルへと掲げたメタルとゴスペルの白き調和 “111 – The Number of the Angels” で FREEDOM CALL はリスナーを “ハッピーメタル” の領域へと巧みに誘い込みます。
記念碑としてリアルなメタルアルバムを目指した作品において、タイトルトラック “M.E.T.A.L.” はまさにメタルの予想可能性、完成された様式を現代的に具現化した楽曲でしょう。Brian May の遺伝子を引き継いだギターの魔法はクラッシックな隠し味。実際、「新曲を全部シンガロングするのが聴きたいね。」 という Chris の言葉は伊達ではありません。一聴しただけで全て口ずさみたくなるほど、”M.E.T.A.L.” の “11” 曲は突き抜けてキャッチー&ハッピーです。
ただし、人生を変えたアルバムに ELP, SUPERTRAMP が含まれていることからも、楽曲の豊富なバラエティーやフックが他の平面的なメタルレコードとは異なることが伝わるはずです。「ただメタルを書いて生み出し続ける “メタルマシーン” みたいにはなりたくないからね。」 “Sail Away” を筆頭に、キーボードやシンセサイザーのエフェクトが醸し出す音の風景も時に神々しい奇跡、無類のドラマを演出します。
そして何より、ソロアルバムの影響は絶大でした。”The Ace of the Unicorn” などは特に顕著ですが、「おそらく、両方の感覚があるんだろうな。僕は間違いなくオールドスクールなソングライターなんだけど、同時にモダンな音楽にも合わせていこうとしているからね。」 の言葉が示す通り、メンバーの変遷と共に再生を果たした FREEDOM CALL のポップセンスはモダンにアップデートされていて、典型的なロック/メタルのイヤーキャンディーにメインストリームの計算された洗練を巧みに練り込んでいるのです。
もちろん、FREEDOM CALL に宿る “光” の正体とは、”Keeper” を継ぐ者の使命であるメジャーキー、メジャーコードの完璧なる支配でしょう。陽光と哀愁のコントラストこそドイツの誇り。ダーク&シンフォニックに統一された前作 “Master of Light” はむしろ異端でした。しかしそれ以上にコンテンポラリーな音の葉までも抱きしめるポジティブなスピリットこそが核心なのかもしれませんね。
それにしても、FREEDOM CALL 然り、MAJESTICA 然り、FROZEN CROWN 然り、GLORYHAMMER 然り、TWILIGHT FORCE 然り、今年は推進力と旋律の二重奏が革命的なメロディックパワーメタルの快作が多数降臨していますね。
今回弊誌では、Chris Bay にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは “ハッピーメタル” の十字軍で、自らが光の…マスターなんだから。」どうぞ!!

FREEDOM CALL “M.E.T.A.L.” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ARISTOCRATS : YOU KNOW WHAT…?】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARCO MINNEMANN OF THE ARISTOCRATS !!

“All I Can Say In Retrospect Is That We Had a Great Chemistry And I Guess It Shows And After All I’m Still In Touch With DT And Collaborate With Jordan On Many Projects And Also Was Planning To Do Something With John Petrucci For a While. I Was Just Personally The Right Fit. I Listened To Completely Different Kind Of Music And Never Heard DT Songs Or Owned Their Albums. That Was The Biggest Deal For Them.”

DISC REVIEW “YOU KNOW WHAT…?”

「”You Know What…?” で僕らはソングライター、ミュージシャンとして互いにインスパイアし、バンドとして未踏の領域を目指したよ。バンドはその親密さを増し、互いを深く知ることが作品の限界を広げる結果に繋がったね。それでもこれは完全に THE ARISTOCRATS のアルバムだよ。だからこそ、これまでの作品で最高にクールなんだ。」
プレスリリースにも示された通り、”You Know What…?” は THE ARISTOCRATS が追求する “ミュージシャンシップの民主主義” が結実したインストライアングルの金字塔です。
Guthrie Govan, Bryan Beller, Marco Minnemann。ギター、ベース、ドラムスの “特権階級” “最高級品” が集結した THE ARISTOCRATS は、その圧倒的な三頭ヒドラの無軌道な外観に反してデモクラシーをバンドの旨としています。実際、これまでのレコードでも彼らは、それぞれが各自の特色を内包した3曲づつを持ち寄り、全9曲の和平的 “カルチャークラッシュ” を巻き起こしてきたのですから。
「僕たちは全員が異なるスタイルを持っているね。だけどその互いの相性が THE ARISTOCRATS を形成しているんだ。」Marco の言葉はその事実を裏付けますが、ただし “You Know What…?” を聴けば、バンドのコンビネーションやシンクロニシティー、共有するビジョンが互いの個性を損なうことなく未知なる宇宙へ到達していることに気づくはずです。
オープナー “D-Grade F**k Movie Jam” は彼らが基盤とするジャズロック/フュージョンの本質であるスポンティニュアスな奇跡、瞬間の創造性を体現した THE ARISTOCRATS ワールドへの招待状。
眼前に広がるは真のジャムセッション。徐々に熱量を増していく新鮮な Guthrie のワウアタック、極上のグルーヴとメロディーを融合させる Bryan のフレットレスベース、そしてソリッドかつアグレッシブな手数の王 Marco。時に絡み合い、時に距離を置き、ブレイクで自在に沸騰する三者の温度は Beck, Bogert & Appice をも想起させ、ただゲームのように正確に譜面をなぞる昨今のミュージシャンシップに疑問を呈します。
トリッキーな6/8の魔法と両手タッピングからマカロニウエスタンの世界へと進出する “Spanish Eddie”、サーフロックとホーダウンをキャッチー&テクニカルにミックスした “When We All Come Together” はまさに THE ARISTOCRATS の真骨頂。ただし、70年代のヴァイブに根ざした刹那のイマジネーション、インプロの美学は以前よりも明らかに楽曲の表層へと浮き出てきているのです。
KING CRIMSON のモンスターを宿す “Terrible Lizard”、オリエンタルな風景を描写する “Spiritus Cactus” と機知とバラエティーに富んだアルバムはそうして美しの “Last Orders” でその幕を閉じます。Steve Vai の “Tender Surrender” はギミックに頼らず、トーンの陰影、楽曲全体のアトモスフィアでインストの世界に新たな風を吹き込んだマイルストーンでしたが、”Last Orders” で彼らが成し得たのは同様の革命でした。
それはインタープレイとサウンドスケープ、そしてエモーションのトライアングル、未知なる邂逅。さて、音楽というアートはそれでも正しいポジション、正しいリズムを追求するゲームの延長線上にあるのでしょうか?
今回弊誌では、Marco Minnemann にインタビューを行うことが出来ました。DREAM THEATER のドラムオーディションには惜しくも落選したものの、マルチプレイヤーとしてソロ作品もコンスタントにリリースし、近年では Jordan Rudess, Steven Wilson, RUSH の Alex Lifeson とのコラボレートも注目されています。
「個人的には完璧に DREAM THEATER にフィットしていたと思うよ。ただ僕は彼らとは完全に違う感じの音楽を好んでいるし、DREAM THEATER の楽曲を聴いたこともなければアルバムも持っていなかったからね。それがオーディションの中で彼らにとって大きな意味を持ったんじゃないかな。」日本のサブカルチャーを反映したTシャツコレクションも必見。二度目の登場です。どうぞ!!

THE ARISTOCRATS “YOU KNOW WHAT…?” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSCURA : DILUVIUM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LINUS KLAUSENITZER OF OBSCURA !!

“I Am Missing Innovation a Lot In The Tech Death Scene. When a New Tech Death Album Comes Out, It’s Mostly a Rip Off Of Something That Was There Before. Actually I Prefer The Term Of “Progressive Death Metal” More. “

DISC REVIEW “DILUVIUM”

哲学するプログレッシブデスメタルの巨塔 OBSCURA は、アルバム4枚にも及んだ悠遠かつ考究のコンセプトサイクルを最新作 “Diluvium” で遂に完結へと導きます。Schopenhauer, Goethe, Schelling といった母国ドイツの哲学者にインスピレーションを得た、実存の真理を巡るコスモジャーニーは “Cosmogenesis” のビッグバンから “Diluvium” で迎える終焉まで生命の存在意義を思慮深く追求し描くのです。
或いは、もはや OBSCURA を “Tech-death” という小惑星へと留めることは烏滸の沙汰だと言えるのかも知れませんね。「僕は Tech-death シーンにはイノベーションがとても欠けていると感じていたんだ。実際、僕は Tech-death というタームより “プログレッシブデスメタル” の方を気に入っているからね。」と Linus が語るように、赤と黒が司る終末の物語は皮肉にもバンドに進化を促す未曾有の翼を与えることとなりました。
変化の兆しはオープニングから顕著です。”Clandestine Stars” でバンドは自らのシグニチャーサウンドである複雑にデザインされたポリリズミックなストラクチャー、ハイテクニック、デスメタルのファストなアグレッションと地を這うグルーヴに、エセリアルなメロディーとアトモスフィアを降臨させることに成功しています。
続く “Emergent Evolution” はより顕著にメロディックでキャッチーなバンドの新機軸を投影します。CYNIC のボコーダーをイメージさせる神秘のコーラスワークは、身を捩る狂おしさとひりつく感傷をまとってリスナーの感情へダイレクトに訴えかけるのです。新加入 Rafael Trujillo のロマンティックで時空を架けるリードプレイも作品のテーマやムードと見事にシンクロしていますね。
「今回、僕は本当にバンド全員が同じだけ “Diluvium” の作曲に貢献したと思っているんだよ。だから当然その事実は多様性へと繋がるわけさ。」と Linus が語るように、ある意味バンドのマスターマインド Steffen が一歩引いて民主化を進めることで “Diluvium” の充実度、多様性は飛躍的に上昇したと言えるのかもしれませんね。
Rafael とドラマー Sebastian が共作した “Ethereal Skies” はその確固たる証でしょう。シーケンシャルなクラシカルフレーズが流麗に冒頭を飾る楽曲は、リズムの実験を交えつつテクニカルにエセリアルに深淵から光を放射し、彷徨える空へと救済をもたらすのです。
ブルータルなグロウルと荘厳なるコーラスのコール&レスポンスはすなわち死と生を表現し、Rafael のストリングスアレンジメントはさながら天空へと続く螺旋の階段なのかも知れません。何より OBSCURA のニューフロンティアを切り開くシンフォニックな感覚、鬼才 V.Santura との共同作業は、瑞々しさに満ちています。
さらに終盤、バンドは “The Seventh Aeon” で OPETH の濃密なプログレッシブを、”The Conjuration” でブラックメタルの冷徹なる獰猛を抱きしめ、拡大する可能性をより深く鮮やかに提示して見せました。特に前者で Linus が繰り広げるフレットレスベースの冒険、陰陽の美学は白眉で、アルバムを通してユニークな OBSCURA サウンドを牽引するリードベースマンの存在感を改めて浮き彫りにしていますね。
アルバムは “無限へのエピローグ” でその幕を閉じます。OBSCURA がこの4連作で培った全ての要素はきっとここに集結しているはずです。救済者で破壊者、宇宙の始まりから見守り続けた神と呼ばれた存在は、そうして恒久にも思われた世界が虚無に飲まれるまでを見届けたのでしょうか。一筋の希望、魂の栄光を祈りながら。
今回弊誌では、シーンきってのベースヒーロー Linus Klausenitzer にインタビューを行うことが出来ました!インタビューには弟の話がありますが、実は彼の父は著名なヴァイオリニスト、指揮者の Ulf Klausenitze で今作にもゲスト参加を果たしています。「アドレナリンが身体中を駆け巡り、その感情をオーディエンスとシェアする瞬間は何物にも変えがたいんだよ。」本誌2度目の登場です。どうぞ!!

OBSCURA “DILUVIUM” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SUBSIGNAL : LA MUERTA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MARKUS STEFFEN OF SUBSIGNAL !!

German Progressive Innovator, Subsignal Walk Toward More Melodic Path And Open To New Influences With Their New Record “La Muerta” !!

DISC REVIEW “LA MUERTA”

ジャーマンプログメタルの唱道者、SIEGES EVEN の血を受け継ぐ嫋やかなる残映。SUBSIGNAL がリリースした最新作 “La Muerta” は、サンタ・ムエルテの名の下にプログシーンの信仰を集め新たな拠り所、守護者となるはずです。
「当時起こったことはとても単純で、個人的な相違だったんだ。最終的にバンドは、Arno と僕、Oliver と Alex の二つに割れてしまったんだよ。」と Markus がインタビューで語った通り、80年代から活動を続ける巨星 SIEGES EVEN が長年の内なる闘争の末2008年に解散の道を選んだニュースは、プログメタルシーンに衝撃をもたらしました。
名手 Wolfgang Zenk がフュージョンに特化した支流 7for4 へと移行し、オリジナルメンバーの Markus が復帰。Andre Matos や Jens Johansson との実験場 Looking-Glass-Self の果てに邂逅したバンド史上最高のボーカリスト Arno Menses を得た 00年代のSIEGES EVEN。
そうして2005年にリリースした8つの楽章から成る “The Art of Navigating by the Stars” が、SIEGES EVEN 独特の世界観に研ぎ澄まされたメロディーが初めて重なり、FATES WARNING の “A Pleasant Shade of Gray” にも比肩し得る壮大なマイルストーンとなった事を鑑みれば、尚更バンドの消滅がシーンにとってどれ程の損失であったか推し量れるはずです。
しかし、Arno と Markus のメロディーとプログレッシブが奏でるケミストリーの二重奏はしっかりと SUBSIGNAL の音に刻まれています。
アルバムが相応に異なる風合いを醸し出していたように、SIEGES EVEN のスピリットはまさに実験と挑戦の中にありました。故に、二人が描く新たな冒険 SUBSIGNAL のサウンドが、プログレッシブワールドのトラディショナルな壁を突き破ることは自明の理だったのかも知れませんね。
キーワードはアクセシブルとエクレクティックでしょう。実際、「Arno と僕は他の異なるジャンルにも興味を持っていてね。」「僕にとって最も重要なのはメロディーなんだ。」と Markus が語るように、遂に本格化した SUBSIGNAL の最新作 “La Muerta” には近年のモダンプログレッシブが放つ波動とシンクロする瑞々しき血潮が注ぎ込まれているのです。
バンドのデビュー作 “Beautiful & Monstrous” 収録の “The Sea” が指針となったように、SUBSIGNAL は知性の額縁とプログレッシブなキャンパスはそのままに、よりソフィスティケートされた筆を携えドラマとエモーション、時にメランコリーをカラフルな多様性と共に一つの絵画、アートとして纏め上げて来ました。
ダンサブルなイントロダクション “271 Days” に導かれ示現するアルバムオープナー “La Muerta” は、バンドのトレードマークを保ちつつ、よりアクセシブルなメインストリームの領域へと舵を切る野心のステートメントです。
Steven Wilson の “To The Bone” を核として、HAKEN, FROST*, TesseracT, iamthemorning といったコンテンポラリーなプログレッシブロースターは恐れる事なくポップを知性や複雑性、多様性と結びつけモダンプログレッシブの潮流を決定的なものとしています。タイトルトラック “La Muerta” で示されたビジョンはまさにそのうねりの中にありますね。
Markus のシグニチャーサウンドであるコード感を伴うシーケンスフレーズは RUSH や THE POLICE のレガシー。現代的な電子音とマスマティカルなリフワークの中で舞い踊る Arno のメロディーは、眠れる John Wetton の魂を呼び覚ましたかのようにポップで優美。コーラスに華開く幾重にも重なるメランコリーは、暗闇から聖人へと向けられた全ての切実な祈り、請われた赦しなのかも知れませんね。
トライバルでシンフォニックな “Every Able Hand”、Markus の主専攻クラッシックギターから広がる雄大な音景 “The Approaches”、一転ブルースやカントリーの郷愁を帯びた “When All The Trains Are Sleeping” など Markus が語る通り実にエクレクティックなレコードで、全ては “Even Though the Stars Don’t Shine” へと収束していきます。
奇しくも Wilson の最新作とリンクするニューウェーブ、シンセポップの胎動、TEARS FOR FEARS や DEPECHE MODE の息吹を胸いっぱいに吸い込んだ楽曲は、同時にリズムのトリックやシーケンシャルなフレーズが際立つプログポップの極み。アルバムに貫かれるは旋律の躍動。
そうして “La Muerta” は iamthemorning の Marjana を起用し、荘厳なる Arno とのデュエット “Some Kind of Drowning” で平等に赦しを与えその幕を閉じました。
一片の無駄もなく、ただ日によってお気に入りの楽曲が変化する、そんな作品だと思います。ピアノからシンセ、エレクトロニカまで自由自在な Markus Maichel の鍵盤捌き、Dirk Brand の繊細極まるドラムワーク、そして RPWL の手によるクリアーなサウウンドプロダクションが作品をさらに一段上のステージへと引き上げていることも記しておきましょう。
今回弊誌では、ジャーマンプログメタルの開祖 Markus Steffen にインタビューを行うことが出来ました。「80年代に SIEGES EVEN を立ち上げたんだ。おそらくドイツではじめてのプログメタルアクトだったと思うよ。」どうぞ!!

SUBSIGNAL “LA MUERTA” : 10/10

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