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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PHASE TRANSITION : THE OTHER SIDE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FERNANDO MEIA OF PHASE TRANSITION !!

“Fado Is More Than Music; It’s Emotion. It’s About Longing, Destiny, Melancholy… Feelings That Resonate Deeply. That Emotional Weight Definitely Finds Its Way Into Our Songs.”

DISC REVIEW “THE OTHER SIDE”

「深みに飢えている人がいるのだと思う。世の中にはたくさんのコンテンツがありすぎて、つながりがないままスクロールして通り過ぎてしまうのが簡単で当たり前となっている。しかし、複雑な音楽は集中力を要求し、その代わりに豊かでエモーショナルな体験を与えてくれるんだ。ツイートではなく小説を読むようなもので、時間はかかるけど見返りは大きい。それがプログを生かし続けているんだよ」
画面をスクロールして5秒立ち止まり、またスクロールして5秒立ち止まる。コンテンツは無限にあって、私たちはその宇宙の中で “消費” というあまりにも無味乾燥かつ一方通行な言葉によって、すべてを理解し堪能した気持ちになっています。しかし、まるでそのスーパーの試食コーナーだけを回るような無料の巡回で心が満たされることはあるのでしょうか?
ポルトガルのプログ・メタル新人類 PHASE TRANSITION は、感情の起伏を山のように織り込んだ長く複雑な楽曲によって、そうしたインスタントな世界を変えたいと望んでいます。GOJIRA や DREAM THEATER のグラミー受賞はその “フェイズ移行” のきっかけとなるでしょう。結局、どれだけもっともらしいことを150字で呟いたとしても、どれだけ印象的な演奏を15秒で残したとしても、それは “作品” ではなく “コンテンツ” にすぎません。私たちにはきっと、こちらも疲れ果ててしまうような、集中力と思考力要する “作品” が今、必要なのかもしれません。
「DREAM THEATER は大好きだけど、決してクローンにはなりたくなかった。このバンドのメンバーはそれぞれ違うものを持ちよっている。Sofia はクラシックの強力なバックグラウンドを持っているし、”Dark Side of the Moon” や “Kid A” を聴いて育った。僕はモダン・メタルからEDM、シティ・ポップからフュージョンまで、何でも好きだ。僕たちは自分たちを限定することはないと信じている。PHASE TRANSITION の音楽は、そうしたすべてのテイストを反映しているんだ」
大学在学中に心酔する DREAM THEATER のカバーを演奏したのが始まりで、ドラマー Fernando Meia、ギタリスト Luis Dias、ヴァイオリニスト/ヴォーカリストの Sofia Beco を擁する PHASE TRANSITION のラインナップが完成しました。しかし、”The Other Side” を聴いて DREAM THEATER のフォロワーなどと揶揄する人はいないでしょう。キーボーディストはもちろん、ベーシストもいない、伝統的な楽器編成を回避した事実からも、彼らのエクレクティックなプログレッシブ・メタルの美学が非常に意外でユニークなものであることを証明しています。
「ファドはまさに音楽というよりもエモーションなんだ。憧れ、運命、メランコリー…深く心に響く感情なんだよ。その感情的な重みは、間違いなく僕たちの曲にも表れている」
“Veil of Illusions” や “Becoming” のような楽曲にはゴシック・メタルの雰囲気が織り込まれ、もし EVANESCENCE やアンネケ時代の THE GATHERING が PERIPHERY や TesseracT と融合したら…という極上のIFサウンドを具現化していきます。この魅惑のハイブリッドの背景には、サウダージとメランコリーを根源とするポルトガルの伝統音楽ファドの血が存在し、Sofia の幽玄な歌声とヴァイオリンが Luis のウルトラ・テクニカルなギタリズムと混ざり合うことで、未曾有の温故知新、未曾有のエモーションが完成をみるのです。きっと誰もが、この壮大な音楽を5秒でスクロールすることはできません。
今回弊誌では、リーダーでドラマー Fernando Meia にインタビューを行うことができました。「音楽的には、日本のフュージョンやシティポップ、Casiopea や T-SQUARE が好きなんだ。 日本には、情緒と技術的な素晴らしさがミックスされた素晴らしいものがあり、僕は深く敬服している」 どうぞ!!

PHASE TRANSITION “THE OTHER SIDE” : 10/10

INTERVIEW WITH FERNANDO MEIA

Q1: First of all, what kind of music did you grow up listening to?

【FERNANDO】: When I was a kid, I was surrounded by the music my dad loved―bands like Pink Floyd, Jean-Michel Jarre, Kraftwerk, and of course, Michael Jackson. That mix of atmospheric and rhythmic music really shaped my ears early on. Then came my teenage rebellion phase―Metallica and Megadeth were everything to me! My first dive into prog was Animals as Leaders, but it was during my university years that I truly got hooked. That’s when I discovered Dream Theater. The first thing I heard was their live performance in Budokan, and man, that concert blew my mind. Still gives me chills!

Q1: 本誌初登場です!まずは、あなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【FERNANDO】: 子供の頃は、父が大好きだった PINK FLOYD、 , Jean-Michel Jarre, KRAFTWREK, そしてもちろん Michael Jackson といった音楽に囲まれていたね。雰囲気があってリズミカルな音楽が僕の耳を早くから形成してくれたんだ。その後、10代の反抗期がやってきた。METALLICA と MEGADETH が僕のすべてだったよ!
プログの世界に最初に飛び込んだのは ANIMALS AS LEADERS がきっかけだったけど、本当に夢中になったのは大学時代だった。DREAM THEATER に出会ったときだよ。最初に聴いたのは武道館のライブだったんだけど、あのコンサートには度肝を抜かれたよ。今でもゾクゾクするね!

Q2: What inspired you to start playing an instrument? Who were your heroes at the time?

【FERNANDO】: Funny story―drums weren’t even the plan. I started playing Guitar Hero: Legends of Rock when it came out, and that was my gateway into music. I began guitar lessons at 13, just for fun. That Christmas, my sister asked our dad for Band Hero, and we played together like a real band. That’s when I tried the drums… and never looked back.
At the time, I was deep into Metallica, and Lars Ulrich was the reason I started learning their songs. Controversial drummer out there, but his role in the band and energy? Unmatched. That lit the fire in me.

Q2: 楽器を始めたきっかけはなんだったんですか?当時のヒーローは誰でしたか?

【FERNANDO】: 変な話だけど、ドラムを始めるのは予定になかったんだ。Guitar Hero: Legends of Rock が発売されたときにプレイし始めたのが、音楽への入り口だったんだ。13歳でギターのレッスンを始めたよ。その年のクリスマス、妹が父にバンドヒーローを買ってきてくれと頼んで、本物のバンドのように一緒に演奏したんだ。そのとき、僕は初めてドラムに挑戦したんだ…そして、それ以来、ギターに戻ることはなかったね。
当時、僕は METALLICA にのめり込んでいて、Lars Ulrich がきっかけで彼らの曲を覚え始めたんだ。彼はたしかに物議を醸すドラマーだけど、バンドにおける彼の役割とエネルギーは他の追随を許さない。それでドラム熱に火がついたんだ。

Q3: How was Phase Transition formed? What’s behind the band name?

【FERNANDO】: Before writing our own music, we were playing covers―Dream Theater, Metallica, Megadeth. At that time, Sofia only played violin, so she would reinterpret the vocal melodies on her instrument. We played our first show at a local festival, and after that, something clicked. We didn’t just want to play what others had written―we wanted to tell our own stories.
That switch from covers to original compositions felt like a real transformation… a “Phase Transition.” That’s where the name came from. It’s about change, evolution, and stepping into our own sound.

Q3: PHASE TRANSITION はどのようにして結成されたのですか?バンド名の由来は何だったんですか?

【FERNANDO】: 自分たちで曲を作る前は、DREAM THEATER, METALLICA, MEGADETH などのカバーを演奏していた。当時、Sofia はヴァイオリンだけを弾いて歌っていなかったから、ボーカルのメロディーを自分の楽器で解釈し直していたんだ。地元のフェスティバルで初めてライヴをやったんだけど、そのあと、何かがひらめいた。他の人が書いたものをただ演奏するのではなく、自分たちのストーリーを語りたくなったんだよ。
カバーからオリジナル曲への転換は、真の変容のように感じられた…つまり “フェイズ・トランジション” フェイズが移行したんだ。それがバンド名の由来だった。変化、進化、そして自分たちのサウンドへのステップアップを意味しているんだよ 。

Q4: Speaking of metal in Portugal, Moonspell and more recently Gaerea are really popular. Are there any influences from these local bands or scenes?

【FERNANDO】: Absolutely. Moonspell were pioneers―they were the first Portuguese metal band to break into the international scene. That’s a big deal, and their work paved the way for so many others.
As for Gaerea, they’re doing amazing things right now. I’m lucky to know Diogo, their drummer―he’s a good friend and such a dedicated artist. Seeing their growth is super inspiring and proves that Portuguese metal has a lot to say.

Q4: ポルトガルのメタルといえば、MOONSPELL や最近では GAEREA がとても人気があります。こうした地元のバンドやシーンから影響を受けた部分はありますか?

【FERNANDO】: もちろん。MOONSPELL はパイオニアで、ポルトガルのメタル・バンドとして初めて国際的なシーンに進出した。これは大きなことで、彼らの活動は他の多くのバンドに道を開いたんだ。
GAEREA に関しては、彼らは今素晴らしいことをやっている。彼らのドラマーである Diogo と知り合えたのは幸運だった。彼らの成長を見るのはとても刺激的で、ポルトガル・メタルが多くのことを語れることを証明している。

Q5: When I think of Portugal, I feel this deep, emotional music like fado with saudade. Sometimes your music gives me that same vibe. Would you agree?

【FERNANDO】: That means a lot―thank you. Fado is more than music; it’s emotion. It’s about longing, destiny, melancholy… feelings that resonate deeply. That emotional weight definitely finds its way into our songs.
You can hear some references in “Your Guide,” and our upcoming song “Dichotomy” but they were not made on purpose.

Q5: また、ポルトガルといえばファドですが、そのサウダージような深くてエモーショナルな雰囲気があなたたちの音楽にはありますよね?。

【FERNANDO】: ありがとう。ファドはまさに音楽というよりもエモーションなんだ。憧れ、運命、メランコリー…深く心に響く感情なんだよ。その感情的な重みは、間違いなく僕たちの曲にも表れている。
“Your Guide” や次に発表する “Dichotomy” では、ファドからいくつかの引用を聴くことができるよ。

Q6: You started with Dream Theater, but your style now includes djent, acoustic parts, classical violin, and more. Was it important for the band not to just follow in Dream Theater’s footsteps?

【FERNANDO】: We love Dream Theater, but we never wanted to be a clone. Each of us brings something different to the table. Sofia brings a strong classical background―she also grew up listening to Dark Side of the Moon and Kid A. Luís adds jazz influences to the mix. As for me, I’m into everything from modern metal to EDM, city pop to fusion. We don’t believe in limiting ourselves. Our music reflects all those flavors―structured, but free.

Q6: DREAM THEATER のカバーから始まったバンドが、今では Djent、アコースティック・パート、クラシック・バイオリンなど、様々なスタイルを取り入れています。バンドにとって、DREAM THEATER の呪縛から解き放たれることは重要でしたか?

【FERNANDO】: DREAM THEATER は大好きだけど、決してクローンにはなりたくなかった。このバンドのメンバーはそれぞれ違うものを持ちよっている。Sofia はクラシックの強力なバックグラウンドを持っているし、”Dark Side of the Moon” や “Kid A” を聴いて育った。僕はモダン・メタルからEDM、シティ・ポップからフュージョンまで、何でも好きだ。僕たちは自分たちを限定することはないと信じている。PHASE TRANSITION の音楽は、そうしたすべてのテイストを反映しているんだ。

Q7: Prog metal is known for its deep lyrics and concepts. What is “The Other Side” about?

【FERNANDO】: “The Other Side” dives into the mystery of death and how we perceive mortality―something we all think about but rarely talk about out loud.
The track features Ricardo Pereira from Moonshade and balances haunting female vocals with intense growls. Add in solos from violin, guitar, and drums―and it all crescendos into an epic chorus. It’s heavy, it’s emotional, and it’s exactly what we wanted it to be: a powerful, melodic take on progressive metal.

Q7: プログ・メタルに深淵なる歌詞とコンセプトはつきものですが、”The Other Side” にはどのようなメッセージが込められていますか?

【FERNANDO】: “The Other Side” は、死の謎と、僕たちが死をどのように受け止めているかという、誰もが考えてはいるが口に出して話すことはめったにないような話題に踏み込んでいるよ。
タイトル・トラックは MOONSHADE の Ricardo Pereira をフィーチャーし、心を揺さぶる女性ボーカルと激しいグロウルのバランスをとっている。ヴァイオリン、ギター、ドラムのソロが加わり、壮大なコーラスへと一気に盛り上がる。ヘヴィで、エモーショナルで、まさに僕たちが望んでいたもの、プログレッシヴ・メタルのパワフルでメロディアスな理想型なんだよ。

Q8: Dream Theater and Gojira won Grammy Awards. In this fast-consumption era, why is complex music getting more attention again?

【FERNANDO】: I think some people are hungry for depth. There’s so much content out there―it’s easy to scroll past things without connecting. But complex music demands focus, and in return, it gives you a rich, emotional experience. It’s like reading a novel instead of a tweet―it takes more time, but the reward is bigger. That’s what keeps prog alive.

Q8: DREAM THEATER と GOJIRA がグラミー賞を受賞しました。この消費スピードの速い時代に、なぜ複雑な音楽が再び注目されるようになったのでしょうか?

【FERNANDO】: 深みに飢えている人がいるのだと思う。世の中にはたくさんのコンテンツがありすぎて、つながりがないままスクロールして通り過ぎてしまうのが簡単で当たり前となっている。しかし、複雑な音楽は集中力を要求し、その代わりに豊かでエモーショナルな体験を与えてくれるんだ。ツイートではなく小説を読むようなもので、時間はかかるけど見返りは大きい。それがプログを生かし続けているんだよ。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED FERNANDO’S LIFE!!

Michael Jackson “Thriller”

Metallica “Black Album”

Pink Floyd “The Dark Side of the Moon”

Dream Theater “Metropolis Pt. 2: Scenes from a Memory”

Haken “Vector”

MESSAGE FOR JAPAN

子供の頃からアニメが大好きだった。 キャプテン翼や進撃の巨人などは、僕の想像力を完全に形作ってくれた。Luis がゼルダのような日本のビデオゲームの大ファンであることも知っている。音楽的には、日本のフュージョンやシティポップ、Casiopea や T-SQUARE が好きなんだ。 日本には、情緒と技術的な素晴らしさがミックスされた素晴らしいものがあり、僕は深く敬服している。
日本文化は、数え切れないほど僕たちにインスピレーションを与えてくれたんだ。いつか日本でライブをすることを夢見ているよ。聴いてくれてありがとう。これからも、みんなの心と体を動かす音楽を届けられるよう頑張るね。ありがとうございます!

I’ve loved anime since I was a kid. Shows like Captain Tsubasa and Attack on Titan totally shaped my imagination. I know that Luís is a huge fan of Japanese video games like Zelda. And musically, I really like Japanese fusion and city pop―Casiopea and T-Square. Japan has this incredible mix of emotion and technical brilliance that I deeply admire.
Message to Japan:
Your culture has inspired us in more ways than we can count. We dream of playing live in Japan one day. Until then―thank you for listening. We’ll keep doing our best to bring music that moves both your mind and your heart. ありがとうございます!

FERNANDO MEIA

PHASE TRANSITION Facebook

PHASE TRANSITION Official

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GAEREA : MIRAGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GAEREA !!

“We Put On Our Different Daily Masks To Deal With Co-workers, Our Loved Ones Or Other Members Of Society. We Want To Be Able To Be Someone Different In Every Situation In Order To Be Or Feel Accepted. These Masks Represent Mostly That.”

DISC REVIEW “MIRAGE”

「僕たちは、人間、希望や夢、そして荒廃した悲惨な人生にどう対処していくかに、ほとんどの部分がインスパイアされているんだよ。今の世界の状況は、現実を観察し、吸収するのに非常に面白い時期だとは思うのだけど…」
ファンタジーよりも現実を。暴力よりも夢や希望を。悲しみには前向きな力を。ポルトガルに登場した仮面のブラックメタル GAEREA は、”Mirage” “蜃気楼” と題されたアルバムでごく普通の人々の人生や現代生活の困難さについての物語を叙情的に探求しています。
多くのモダンなブラックメタルがそうであるように、GAEREA にとってもかつてこのジャンルの骨子であった “アンチ・クライスト” や “暴力と怒り” はもはやそれほど重要な議題ではありません。ブラックメタルの最前線は、人間、日常生活とその苦悩を扱う領域へと移行しつつあります。鬱病や自殺に抗し、解放感や幸福の追求こそ彼らのテーマ。今の時代は、個々の人間が人間としてどう感じるかにフォーカスするべきだと GAEREA は考えているのです。
「人は仲間の中にいるとき、本当の意味でリアルであるとは言えないと思う。僕たちは、一人きりの孤独な環境で、自分の感情や希望、絶望がようやく自分を包み込んだり、苦しめたりできるときにだけ、自分自身に正直になれるんだよ。
僕たちは、同僚や恋人、社会の人々と接するために、日々さまざまな仮面をかぶっているよね。僕たちはそうやって、社会に受け入れてもらうために、状況によって違う人になりたいと思っているんだよ。僕たちのマスクは、そうした事柄をあらわしているんだ」
たしかに、奇抜なマスクをかぶることは、名を売るための一つの方法かもしれません。ただし今となっては、正体を隠したバンドの存在はもはや目新しいものではなく、”イロモノ” から脱却し、羽ばたくためには音楽にさらなる重点を置く必要もあるでしょう。
それほどのリスクを犯してまで GAEREA がシンボルマークの描かれたマスクをかぶるのは、匿名性と神秘性以上に “真の自分” を守るため。”真の自分” にたどりつくため。結局、GAEREA だけではなく、すべての人間は社会生活のために様々な仮面をかぶって生活しています。ただし、そんな仮面の裏側の心の奥底に触れられるのは自分だけ。GAEREA は “記号” のような自分の状態を受け入れ、そこから進化して、真の個性を解き放っていく勇気を持っているだけなのです。
「ファドは僕たちの一部だよ。結局、僕たちの感性にはポルトガルの文化が刻まれているのだから。”サウダージ” を感じることは、僕たちの一部であり、言葉にはできないけれど、もちろん、音楽としてそれを不滅に刻むことはできるからね」
ただし、この謎めいたアーティストは、顔や素性を隠しているかもしれませんがその分、彼らの感情や情熱は、溢れ出るように開放的で、逞しく、カタルシスに満ちています。不協和なノイズと、メロディーと優雅さの驚くほど幽玄なスペクタクル。ここには定型的なものは何もなく、オーガニックで、自然で、激しく、冷ややかで、しかし美しく、親しみやすく、高揚感を誘うのです。
例えば、”Arson” はギターの美しく雄大なリードと、邪悪なブラストビートに重なる苦しげな絶望の叫びがまさに人間の持つ二面性を反映していますし、”Mantle” は攻撃的でありながら、リフの背後にある悲しみを痛いほどに表現しています。そして、エンディングの大作 “Laude” のメジャー感は、これまでの曲にはない感覚をもたらし、リスナーに仄かな希望の糸を垂らしてくれるのです。
そうして、私たちは冒頭 “Memoir” の物悲しき内省、帰属への憧憬にポルトガルのサウダージを発見します。明らかにこの寂寞、閉所恐怖症の美しさはファドに根ざした DNA のなせる技。GAERNA の欲する孤独、奥底から湧き上がる真の自分は、ここに呼吸し、解き放たれました。”The Satanist” 以来、ブラックメタルのアルバムがこれほどまでに精彩を放ったことはないでしょう。体験してください。これは蜃気楼ではないのですから。
今回、弊誌では GAEREA にインタビューを行うことができました。「MOONSPELL をこの国が到達した金字塔と考えるなら、僕たちはまったくもって、最大のポルトガル・メタル・バンドではないよ。30年以上もの間、初期から変わらない情熱を持って活動してきた彼ら素晴らしきジェントルマンたちには、計り知れない尊敬の念を抱いているんだ」 どうぞ!!

GAEREA “MIRAGE” : 10/10

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