“I Want To Write Something That Stands The Test Of Time.”
TRUE POWER
失恋は個人の成長を促すとも言われています。I PREVAIL のボーカル Brian Burkheise は、2013年5月1日の夜の体験が、その言葉を裏付けていると証言します。
当時20歳の Brian は、その約束をデートだと思って出かけました。1925年にステート・シアターとしてオープンした伝説的な会場フィルモアに、PIERCE THE VEIL, MAYDAY PARADE, YOU ME AT SIX が出演するライブに若い女性を連れて行った時のこと。
PIERCE THE VEIL のセットの途中で Brian は、自分の夢を彼女と分かち合うことに決めます。「俺はいつかこれをやりたいんだ…」Brian は2,900人収容のハウスを満員にすることと、ライブの観客を魅了することを彼女に誓ったのです。
Brian は自身の言葉を固く信じていましたが、しかし彼の愛情の対象は彼の言葉をあまり信じてはいませんでした。
「彼女はにやりと笑い、絶対にありえないと思っているような目で俺を見ていた。ライブが終わると、彼女は別の男に会いに行ったんだ。自尊心を傷つけられたね」
落胆しながらも Brian は一人で家に帰る途中、自分の将来を考え始めます。
「起こったことはモチベーションの源となる。なぜ自分はこれほどハードにプッシュしなければならないのか、その理由にね。自分ならできる、夢は実現可能だということを人々に示すための力になると自分に言い聞かせたのを覚えているよ」
あの運命的な夜から10年。Brian と彼のバンド I PREVAIL に起こったことを考えれば、その言葉が真実であることを証明できるでしょう。2度のグラミー賞ノミネート、3枚のフル・アルバム、そしてモダン・メタルで最も鋭いキャリアの軌跡。それだけではありません。バンドのサード・アルバム “True Power” を引っ提げた北米ツアーのクライマックス、PIERCE THE VEIL の後に出演した彼らはフィルモアでヘッドラインを飾ったのです。それはまさに、ヘヴィ・メタルのレジリエンス、回復力、反発力を証明する出来事でした。
「自分が尊敬していた人たちとステージを共有できた。これからも、常に自分自身をプッシュしなければならないと感じさせるね」
Brian は現在、3年連れ添った妻 Caylin と暮らしています。彼女とは、苦渋を舐めたあの夜の数カ月後に知り合いました。では、彼を裏切った女性はどうなったのでしょう?
「あれから、彼女はレコードを出すたびにメールをくれるのがおもしろくてね。結婚してからは、メッセージは来なくなったよ」
Brian には、自信なさと生意気さが混在しています。ミシガン州南東部のランドマーク・アカデミーという “超小規模 “高校を40人クラスで卒業した彼は、ESCAPE THE FATE の曲を車の中で歌って仲間に声の強さを指摘されるまで、自分に才能があることに気づいてはいませんでした。両親は彼の願望を応援してくれましたが、一方で友人や家族からは、よく言えば非現実的、悪く言えばクレイジーだと思われ、それが彼自身へのプレッシャーを強めることにもなっていました。
しかし Brian はそのプレッシャーまでも反発力でモチベーションに変換しました。成功を収めるために彼は、歌や照明、アートワークや舞台裏の仕組みに至るまで、自分が関わりたいと思う世界を科学的に研究に研究を重ねたのです。Brian は、ミュージシャンであると同時にマーケッターの頭脳を持っていたおかげで、バンドという乗り物を “超分析” し、悪名や宣伝材料の不足など、将来の成功を阻むかもしれない要因を特定していったのです。
I PREVAIL が今日のように、自分たちの活動の細部にまで気を配り、それが全体的なゲームプランの中で果たす役割に気を配るようになったのは、まさに Brian の現実的な哲学が浸透していったから。あくまでも彼らは長期的な視野で活動していて、単に自分たちの事業の将来性を確保したいだけなのです。
「音楽が僕らの根源であるのと同じくらい、僕らはみんなビジネスマンなんだ。バンドは発展し、成長しなければならない。人脈を作り、可能な限り多くのことを学ばなければならない。30年後、僕らが60歳になっても、この仕事を続けていたいからね」
Brian とボーカルを分け合う Eric Vanlerberghe のインスタグラム・アカウントは彼のレコード・コレクションに捧げられています。
「自分が手掛けた作品が誰かの手元に届くというのは、特別なことなんだ。誰かがそのレコードをコレクションしていて、その友人や子供たちが、何年か後にそのコレクションを手にとって、僕たちが作ったものを発見するんだからね」
Eric は昔ながらのロマンチックな音楽鑑賞を愛していますが、ストリーミングがもたらす影響にもしっかりと気を配っています。I PREVAIL は2022年に182カ国で2億4690万回のストリーミングを得ています。
「誰かが自分の音楽に人生の多くを捧げているのを目の当たりにするのは…正気の沙汰じゃない。A DAY TO REMEMBER の “Homesick” や MY CHEMICAL ROMANCE の “Black Parade” を聴きながら、自分の人生のどれだけの時間を過ごしたか、過去に戻って確かめたいものだよ」
Eric の足には “Black Parade” のタトゥーがあり、CDを聴きすぎて “燃え尽きて” しまったのだといいます。ゆえに、MY CHEMICAL ROMANCE がヘッドライナーを務めた “When We Were Young” フェスティバルに出演することは Eric にとって光栄以外の何物でもありませんでした。彼が初めて行ったライブは FALL OUT BOY で、すぐにカリフォルニアのデスコア・アウトフィット、CARNIFEX が続きました。エモもデスコアも同時に包容するのが彼らのやり方。
「この前のツアーでは、SLAYER の “Raining Blood “をカバーしたんだ。毎晩、みんなを驚かせるためにね。特に、みんなが演奏するとは思っていないような曲を演奏したいよね。I PREVAIL が SLAYER を演奏すると思うかい?」
I PREVAIL がデビューEP、2014年の “Heart vs. Mind” を準備していた頃、最初の注文は1,000枚にすべきだという提案に反対したのも Eric でした。「そして今、僕たちはここにいる」それ以来、彼らは目標を常に “高い” ものに再設定し、常にハングリーで追い求める姿勢を崩していません。
彼らの成功の雛形は LINKIN PARK の影響によるものです。重いリフをポップなフックと融合させ、寛容にさまざまな形に変化させながら、音楽ファンがヘヴィ・ミュージックへの愛を発見する “門” として重要な役割を果たした Nu-metal 界のレジェンド。ただし、”入門バンド” には入門バンドの苦悩もあります。I PREVAIL もテイラー・スウィフトの曲をカヴァーしたことで、早い時期にジャンルの “門番” たちから大きな非難を浴びています。
「気にしてないよ。誰かが僕らを “入門バンド” だと言っているコメントを読むと、侮辱のつもりで言っているんだろうけど笑ってしまう。でも、僕たちは人々をメタルに引き込んでいるんだ。いいかい? 人々は自分を引き込んでくれたバンドを、この先何年もの間、いつも近くに置いておくものだ。METALLICA は、僕にメタルとは何かを教えてくれた最初のバンドだった。そこから SLIPKNOT、Underøath、SYSTEM OF A DOWN と続き、2年も経たないうちにデスメタルやグラインドコア、その他諸々を聴くようになった。メタルに対する飽くなき渇望があったんだ。だけど、そうやって世界が広がった今でも、最初に僕をメタルに引き込んでくれたバンドやアルバムは大好きなんだ」
Brian がステージから I PREVAIL の観衆を見渡すと、彼らを見に来た多くのファンの傾向を確認できます。彼らはたいてい6~8人のグループでやってくる、かつて LINKIN PARK や A7X のようなバンドを見に行った年月を懐かしむ30~35歳の兄弟たち。とはいえ、それだけではありません。
「僕らは誰でも聴くことのできるバンドになりたいんだ」 ラッパーのジョイナー・ルーカスとコラボしたトラック “DOA” や、EDM界の大御所 Illenium とコラボしたシングル “Feel Something” など、I PREVAIL は外部からの影響を幅広く取り入れ続けていることを誇りに思っています。
「僕たちが常に目指しているのは、どんな年齢、どんな人種、どんなジャンルの人でも聴いてインスピレーションを得られるバンドであることだからね。”True Power” はロックでありメタルであり、これまでで最もヘヴィなアルバムだと感じているけど、それでも非常に多様なサウンドが収録されている。そのおかげで、じっくりと腰を据えてこのアルバム全体を見渡すことができたと思う。”これまでにやったことのないことで、やってみたいことや、既成概念にとらわれないアイデアは何だろう?” ってね。振り返ってみて、とてもクリエイティブで、いろいろな側面を持つことができて、とても楽しかったんだ」
Eric はこの作品が時の試練に耐えうる “True Power” を有していると胸を張ります。
「時の試練に耐えるものを書きたかった。子供たちが10年後にこのレコードを聴いても、友達みんなに見せてくれるようなバンドになりたい。でも僕は、聴いてくれる子供たちにどんな概念も押し付けたくはない。彼らが音楽の旅の中で経験したことを、いつか自分の音楽に置き換えることができるような、音楽との深いつながりを与えたいんだよ。オープンエンドな性質、アトモスフェリック、容赦ないヘヴィネス、そして新鮮なアイデア…」
多くの熱心なミュージシャンがそうであるように、Eric は “良いものなら何でも聴く” 音楽愛好家。具体的には、FIT FOR AN AUTOPSY, SLIPKNOT の “Iowa”、PANTERA の “Vulgar Display Of Power” を最近でもよく聴いています。
「”時代を超越した音楽” というのは、まさにそういうことなんだ。20年後に聴いても、その音楽のエネルギーや怒りを感じることができる」
I PREVAIL は明らかに、自身の継続的な成功のためではなく、ヘヴィ・ミュージック全体が音楽の他の大物と同じテーブルに座ることを願い、シーンのためになりたいと思っています。2020年に I PREVAIL がグラミー賞に出席した際、ロック部門は生放送されませんでした。
「BRING ME THE HORIZON と僕たちは、お互いに顔を見合わせたんだ。そうして、10年後にまたグラミーに戻ってくることができるように、そしてロックが再び大きく受け入れられて、かつてのようにテレビの生放送で放送されるようにやっていこうと誓ったのさ」
彼らの創造性、情熱、そして意志の強さを宿した音楽は、様々なリスナーの人生を変えています。最近、あるファンが Brian に、大事故で骨折して入院していたことを話しました。彼は、”True Power” を聴くことで、最低の瞬間や耐え難い痛みを乗り越える力が湧いてきたと Brian に伝えました。「それが僕たちにとっての成功なんだ」
共同ボーカル Brian と Eric のダイナミックな関係もまた、I PREVAIL の中心軸となっています。
Brian が語ります。
「僕たちは偶然出会ったんだ。ロックの神様かメタルの神様か、どう呼ぼうと勝手だけど、僕らをペアにすることに決めてくれてラッキーだったよ。僕ら2人がいなかったら、このバンドは成り立たなかったと思うし、彼もそう言うと思う。安っぽいかもしれないけど、僕たちは兄弟のようなものなんだ。兄弟のような関係というのは、お互いのことを一番に考えているということ。特に初期の頃は、2人のボーカルがいることで、外部の影響によって、関係が難しくなりそうになったこともあったからね」
Eric は、ツアー中の混沌とした生活の中で、チームのメンバーのように4人の仲間と、じっくりと一杯の酒を味わうことほど好きなことはありません。
「もしお互いを信頼し、自分たちのやり方でやっていなかったら、今の自分たちはなかっただろう。僕たちは確かに個人だが、それでも、I PREVAIL が人々の記憶に残る名前になることを全員が望んでいるんだ」
今のところ、彼らはかなりいい仕事をしています。
“You Do Have To Be “A Deadman” To Have a “Great Gig in the Sky”, no? Haha! But Yes, You Caught Me Red-Handed, I’m a Huge Pink Floyd Fan And There’s Definitely Pink Floyd DNA Sprinkled Throughout The Whole Of The Album.”
Vocals by Sylvain Auclair
Drums by James Christopher Knoerl
Keyboards and Synthesizers by Andy Tillison
Guitar and Lead Guitar by Leo Estalles
Bass by Eduard Levitsky
THE ANCHORET “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS” : 10/10
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PER NILSSON OF SCAR SYMMETRY !!
“Meshuggah Let Me – Even Insisting On – Play My Own Solos In The Songs, Not Copying Fredrik’s Solos, And I Had a Lot Of Fun With That. I Improvised Every Solo So That Every Night, I Could Try Something New.”
DISC REVIEW “THE SINGULARITY (PHASE Ⅱ)”
「MESHUGGAH のツアーで数年間は忙しかったし、NOCTURNAL RITES のアルバム制作とツアー、KAIPA との数枚のアルバムのレコーディング、他のバンドのプロデュースやミックスの仕事、セッションの仕事、2019年には父親になったし、世界的なパンデミックも起きた。だから、私生活でも仕事でも世界全体でもいろいろなことがあったんだよ!でも、アルバムがついにリリースされ、ファンが本当に気に入ってくれているようで、今は本当に素晴らしいと感じているよ!」
スウェーデンの近未来知的創造体 SCAR SYMMETRY がバンド結成20年のメモリアルに華々しい復活を遂げようとしています。主役はもちろん、あの MESHUGGAH で鬼才 Fredrik Thordendal の代役を長く務めたギターマスター Per Nilsson。紆余曲折のあったバンドですが、中心メンバーであった Christian Älvestam と Jonas Kjellgren が去って Per の創造性を心臓に据えた北欧の特異点は、メロデスのカタルシスとプログレッシブな冒険心を絶妙な “対称性” で律する最高の SF エピックを紡ぎ出しています。
「3部作の各章は、3部作の音楽世界の一部とつながり、感じられる必要がある一方で、僕は各フェーズが独自のものであることも望んでいたからね。だから、”Phase II” では、メロディや先進性を犠牲にしてでも、”Phase I” よりもかなりヘヴィでアグレッシヴなものにする必要があったんだ」
2014年に始まった SCAR SYMMETRY の “The Singularity” 三部作。キャリア・ハイとなった “Phase I” は、トランス・ヒューマニズム (科学技術で人間の身体や認知を進化させる思想) を軸としたSF コンセプト・アルバムで、精巧であると同時にバンドの歴史上最もキャッチーな作品でした。一般の人間と、金に物を言わせて自身を強化したエリート集団 “ネオ・ヒューマン” との階級闘争、そして戦争に発展する未来社会の物語。Per Nilsson 率いるスウェーデンの5人組は、9年後の “Phase Ⅱ” においても変わらず自信に満ち、強力で、自分たちの “シンギュラリティ” を完全にコントロールしているように見えます。
「近い将来、僕たちは AI に、僕たちが望み、体験したい芸術を創作するよう促すことができるようになるだろう。例えば、モーツァルトとポール・マッカートニーが作曲し、ボブ・ロックがプロデュースとレコーディングを担当し、ベースはクリフ・バートンに、ボーカルはエルトン・ジョンに……といったような曲を AI に作らせることができるようになる。もし、その結果に満足できなければ、AI に指示をして微調整してもらえばいいだけだろう」
とはいえ、2004年、境界のない新しいタイプのデスメタルを作ろうと結成されたバンドには、もはや AI の助力や指図は必要ないでしょう。巨大なシンセサイザーと、本物のデスメタルの嗎、官能的なクリーン・ボーカルはシームレスに組み合わされて、対称と非対称の狭間にある天秤のバランスを巧みに釣り合わせていきます。
FEAR FACTORY や SOILWORK も真っ青なメタル・ディストピアの残酷さに唖然とさせられた刹那、そこにメロディーが生まれ、エピックが兆し、プログパワーのような雄々しさとメロハーのようなエモーションが乱立していきます。深慮遠謀のリフワークに、天高く舞い上がる緻密な音のホールズワース階段こそ Per Nilsson の真骨頂。Jacob Collier や Tim Miller, Tigran Hamasyan まで咀嚼したメタル世界のエイリアン、最高のサブジャンルとギター・ナードの組み合わせは、すべてがユニークで予測不可能なサウンドを生み出すためにブレンドされているのです。
叫び声を上げるもよし、激しく頭を振るもよし、エアギターを達者に気取ってみるもよし、空を見上げながらメロディを口ずさむもよし。あらゆる形態のメタル・ファンにとってあらゆる条件を満たすアルバムがここに完成をみました。もしかすると、Per Nilsson はすでに、人工知能を宿したトランス・ヒューマンであり、このアルバムこそが “シンギュラリティ” を超えた未来なのかもしれません。
今回弊誌では、Per Nilsson にインタビューを行うことができました。「”Future Breed Machine”、”Rational Gaze”、”Bleed” といった僕のお気に入りの曲を演奏できた。そして観客が熱狂するのを見ることができた。彼らは、Fredrik のソロをコピーするのではなく、自分自身のソロを曲の中で演奏させてくれたんだ。僕は毎晩、何か新しいことに挑戦できるように、すべてのソロを即興で演奏したよ」 どうぞ!!
SCAR SYMMETRY “THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH)” : 10/10