NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THOU & EMMA RUTH RUNDLE : MAY OUR CHAMBERS BE FULL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRYAN FUNCK OF THOU !!

“I Think Most Folks Who Identify As “Metalheads” Or Whatever Probably Have a Lot More Nuance Than They Let On. I Just Wish They Would Embrace More Of a Balance Than Clinging To a Very Strict Set Of Rules. I Think That’s Why, As a Forty-Year-Old Man, I Still Identify As a Punk Or a Hardcore Kid.”

I STILL IDENTIFY AS A PUNK, OR HARDCORE KID

「”メタルヘッズ” と名乗る人たちの多くは、公平にみてもおそらく自分たちが言うよりもずっと多くの音楽的なニュアンスを持っていると思うよ。だから厳格なルールにしがみつくのではなく、バランスを取ってほしいと願うばかりだね。俺はしっかりバランスを取っているからこそ、40歳になった今でも、パンクやハードコアキッドなんだと思う。頭の中では、そういった概念がより曖昧で広がりを持っているように思えるからね。」
スラッジ、ドゥーム、メタル、ハードコア、グランジ。ルイジアナの激音集団 THOU はそんな音楽のカプセル化に真っ向から贖う DIY の神話です。
「ここ数年で培った退屈なオーディエンスではなく、もっと反応の良い(しかし少なくとも多少は敬意を払ってくれる)オーディエンスを獲得したいからなんだ。 堅苦しいメタル野郎どもを捨てて、THE PUNKS に戻る必要があるんじゃないかな!」
15年で5枚のフルアルバム、11枚の EP、19枚のスプリット/コラボレーション/カバー集。THOU の美学は、モノクロームの中世を纏った膨大なカタログに象徴されています。THE BODY を筆頭とする様々なアーティストとの共闘、一つのレーベルに拘らないフレキシブルなリリース形態、そしてジャンルを股にかける豊かなレコードの色彩。そのすべては、ボーカリスト Bryan Funck の言葉を借りれば “金儲けではなく、アートを自由に行う” ためでした。
2018年、THOU は自らのアートな精神を爆発させました。3枚の EP とフルアルバム、計4枚の4ヶ月連続リリース。ドイツのサイレント映画 “カリガリ博士” に端を発するノイズ/ドローンの実験 “The House Primodial”、Emily McWilliams を中心に女性ボーカルを前面に据えた濃密なダークフォーク “Inconsolable”、ギタープレイヤー Matthew Thudium が作曲を司りグランジの遺産にフォーカスした “Rhea Sylvia”、そしてスラッジ/ドゥームの文脈で EP のカオスを具現化した “Magus”。一般的なバンドが4,5年かけて放出する3時間を僅か4ヶ月で世界に叩きつけた常識外れの THOU が願うのは、そのまま頑ななステレオタイプやルールの破壊でした。
実際、Raw Sugar, Community Records, Deathwish, Sacred Bones とすべての作品を異なるレーベルからリリースしたのも、境界線を破壊し多様なリスナーへとリーチする自由な地平線を手に入れるため。自らが獲得したファンを “退屈” と切り捨てるのも、主戦場としてしまったメタル世界の狭い視野、創造性の制限、クロスオーバーに対する嫌悪感に愛想が尽きた部分はきっとあるのでしょう。
「このバンドはグランジの源流であるパンクのエートス、プログレッシブな政治的内容、メランコリックなサウンドから絶対的な深みへと浸っている。 間違いなく、10代の頃に NIRVANA, SOUNDGARDEN, PEARL JAM, ALICE IN CHAINS を聴いていたことが、音楽制作へのアプローチや、ロックスターのエゴイズムを避けることに大きな影響を与えている。」
“The Changeling Prince” の MV でヴァンパイアのゴシックロッカーを気取ってみせたように、THOU にとってはロックスターのムーブやマネーゲームよりも、音楽世界の常識を覆すこと、リスナーに驚きをもたらすことこそが活動の原動力に違いありません。そのスピリットは、パンク、そしてグランジに根ざす抑圧されたマイノリティーの咆哮が源流だったのです。全曲 NIRVANA のカバーで構成された “Blessings of the Highest Order” はまさにその証明。
「メンタルの病の個人的な影響を探求することがかなりの部分染み込んでいて、それは無慈悲なアメリカ資本主義の闇とは切っても切り離せないものだと思うんだ。」
THOU が次にもたらす驚きとは、10/30にリリースされる、ポストロック/ダークフォークの歌姫 Emma Ruth Rundle とのコラボレーション作品です。90年代のシアトル、オルタナティブの音景色を胸一杯に吸い込んだ偉大な反抗者たちの共闘は、壊れやすくしかしパワフルで、悲しくしかし怖れのない孤立からの脱出。精神の疾患や中毒、ストレスが容赦なく人間を押しつぶす現代で、灰色の世界で屍に続くか、希望の代わりに怒りを燃やし反抗を続けるのか。選択はリスナーの手に委ねられているのかも知れませんね。
今回弊誌では、Bryan Funck にインタビューを行うことができました。「大きな影響力とリソースを持っているレーベルの多くが、自分たちがリリースする音楽やリリースの方法に関して、リスクを負うことを最も嫌がっているように見えるのは本当に悲しいことだよ。彼らの成功により、クリエイティブな決定を下す自由がより広く与えられるはずだと思うんだけど、それは逆のようだね。」2度目の登場。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CONFESS : EAT WHAT YOU KILL】BLOOD & PRIDE OF IRANIAN METAL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NIKAN KHOSRAVI OF CONFESS !!

ALL PICS BY Camilla Therese

“Of Course Harsh Sentences Weren’t Convenient But I Took Pride For That! Cause It Meant That My Music And My Lyrics Are So Strong And Truthful That They Could Scare a Whole Regime. But At The Same Time It Was Stepping To The World Of Unknowns.”

GIVE BLOOD FOR THE MUSIC

「ポジティブな話をしようじゃないか。もちろん、過去も重要だけど新たなアルバム、新たなツアー、未来について話したいんだ。」
イランで不敬罪に問われノルウェーへと亡命したメタルソルジャー。CONFESS の魂 Nikan Khosravi とのコンタクトはそうして始まりました。Nikan と同様の状況に立たされた時、それでもあなたは過去よりも未来を見つめ、希望を捨てずにいられるでしょうか?
「被告を懲役12年、鞭打ち74回の刑に処す。」2017年、テヘランの裁判官は、冒涜的な音楽を作ったとして政権に起訴されたイランの有名メタルデュオ、CONFESS 2人のメンバーに判決を言い渡しました。特にシンガーでリードギタリスト Nikan “Siyanor” Khosravi(27歳)は、”最高指導者と大統領を侮辱した”、”反体制的な歌詞と侮辱的な内容を含む音楽を制作し世論を混乱させた”、”野党メディアのインタビューに参加した” として非常に重い量刑を受けることとなったのです。
“告白” と題されたデュオの “違法” なレパートリーは、イラン政府の反体制派に対する極端な不寛容さを狙撃する “Encase Your Gun “や、”ファック” をリベラルに使用した “Painter of Pain”、刑務所での地獄を綴る “Evin”など。
2014年、”In Pursuit of Dreams” をリリースした彼らはアルバムが出た数日後、イスラム革命防衛隊(IRGC)のエージェントに逮捕されました。罪状は? “冒涜、悪魔崇拝的なメタルやロックを扱う違法なアンダーグラウンドレーベルの結成と運営、反宗教的、無神論的、政治的、無政府主義的な歌詞を書いたこと”。
2人はイラン最凶の刑務所エヴィンに送還され、10日間独房で過ごした後、一般棟に移されました。解放されたのはそれから数ヶ月後、Nikan の両親が2人の保釈金として自宅を担保に差し出したのです。そして数年後、彼らは裁判にかけられ冒頭の判決が読み上げられました。
「実は最初は強制的に出国させられたんだ!そしてもう一つの理由は、目を覚まさせる率直な暴言というか意見を吐いたアーティストという理由だけで、10年以上も刑務所にいるのはフェアではないと感じたからだよ。どんなやり方でも、僕は刑務所の外にいた方が多くの人の役に立つことができると感じていたしね。」
しかし、センセーショナルな判決を受けたメタル世界の心配はある意味杞憂に終わりました。イランの政権も世界が監視する中で、この言論信教の自由に対する侵害をこれ以上大ごとにする気はなく、政権に牙を剥く狼への抑止力として象徴的な量刑を得られればそれでよかったのかもしれません。
そもそも、Nikan も語っているように、イランではたしかにヘヴィーメタルは禁止された違法な音楽ですが、それでもライブの許可が降りるバンドは存在しているのです。つまり、背教的で違法なメタル代表として迫害を受けたように思われた CONFESS ですが、その実は判決の通り政権への反抗と批判こそが真の迫害理由だったのでしょう。政権に擦り寄るか否かで決定される天国と地獄は、たしかに神の所業ではありません。
ただ、どちらにしても、イランが国民の表現の自由を厳しく制限していることは明らかです。ジャーナリストは今でも逮捕され続けていますし、公共の場で踊ったり顔を隠さなかっただけの女性も酷い罰を受けているのですから。つまり、抑圧的なイランの現政権にとって、芸術を通して自己や思想を表現する CONFESS のようなアーティストは格好の標的だったのです。
「僕は逮捕されたことを誇りに思っていたんだよ! なぜならそれは、僕の音楽と歌詞が非常に強力で真実味があることを意味していたからね。政権全体を脅かすことができたんだから。でも同時に、それは未知の世界に足を踏み入れることでもあったんだ。 」
そんなある種のスケープゴートとされた Nikan ですが、自らのアートが真実で政権に脅威を与えたことをむしろ誇りに思っていました。人生は常にポジティブであれ。そんな Nikan の哲学は、偶然にも彼を迫害されるアーティストの移住を支援する ICORN によってメタルの聖地ノルウェーへと導くことになったのです。
「僕らは今までスラッシュ、グルーヴ、デス、メタルコア、ニューメタル、ハードコアなどと呼ばれてきたけど、すべてを書いている僕自身でも自分たちが何者なのかよくわからないし、正直なところ何のレッテルを貼るべきなのかもわかっていないんだ。今でも新たな場所に行くための新たな要素を探しているからね!どんな楽曲でも、自分をより良く表現するための新しい “追加の” サウンドを今も探しているんだよ。」
ノルウェーで新たなメンバーを加えた Nikan は各メタル誌にて絶賛を受けた新曲 “Eat What You Kill” をリリース。激動のストーリーだけでなく、楽曲にもこれほど説得力を持たせられるのが CONFESS の凄みでしょう。SLIPKNOT も HATEBREED も PANTERA もすべてぶちこんだこの激音の黒溜まりはあまりに強烈。常に前を向き、新たな光を追い求める無神論者。血と誇り、そして文字通り人生すべてをかけたニューアルバム “Revenge At All Costs” の登場は目前です。すべてを賭けた復讐は、きっと過去を完全に断ち切る決意の叫び。
「僕が人間として2015年から今日まで経験してきた全てのことを書いていると言えるね。その期間に起こった全てのこと、会った全ての人について語っているんだ。このアルバムは間違いなく物語を語るアルバムであり、もちろん政治的なアルバムでもあるよ。」独占インタビュー。どうぞ!!

CONFESS “EAT WHAT YOU KILL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WITHIN DESTRUCTION : YOKAI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUKA VEZZOSI OF WITHIN DESTRUCTION !!

“I Believe The Metal Scene Is Slovenia Is Quite Strong But There Are Practically No Bands That Break Through Internationally Cause Nobody Has The Guts To Do That Important Step Of Saying “Fuck My 9-5 Job, I Wanna Do This For My Living”. You Need a Different Mindset If You Want Your Band To Succeed Internationally.”

DISC REVIEW “YOKAI”

「明らかに僕らは将来的にメインストリームにも進出したいと思っているから、トラップの要素を取り入れてよりメジャーな曲作りをすることは、その方向への第一歩だったんだ。もちろん、僕たちのようにやるには肝が座ってなきゃダメだけどね。人がどう思うかなんて気にしない。 自分たちがやっている音楽が好きであればそれで十分なんだ。」
東欧の小国スロベニアからスラミングデスの残忍王へと上り詰めた WITHIN DESTRUCTION は、バンド名が物語るように激烈な破壊衝動をその身に宿したまま、メインストリームの恍惚へと挑戦しています。
「スロベニアのメタルシーンは非常に強力だと思うんだけど、国際的にブレイクするバンドがほとんどいないんだ。それはね、『9時から5時の仕事なんてもうどうでもいい、メタルで生計を立てていくんだ!』ってガッツを誰も持っていないからなんだ。バンドで国際的に成功したいと思うなら、違う考え方、心の持ちようが必要なんだよ。当然、ハードな努力が必要で、経済的にも社会的にも多くの犠牲を払わなければならないんだよ。」
WITHIN DESTRUCTION に備わった無垢なる狼の精神は、人口200万の世界の狭間に生を受けたその運命と深く関連していました。ここから国際的にブレイクを果たすことがいかに難しいか熟知しているからこそ、WITHIN DESTRUCTION はその暴虐な世界を奔放に拡大していくのです。
「”Yokai” は大部分が日本の幽霊/悪魔である妖怪についてだね。平安末期に鳥羽上皇の寵姫であったとされる伝説上の人物、狐の化身 “玉藻の前” についての楽曲なんだ。彼女の美しさ、知性、そして狡猾さに焦点を当てているよ。あと、”Alone” はファイナルファンタジーの世界をベースにした楽曲なんだ。」
Unique Leader を離れ自らのレーベルを設立し、POLARIS のブレークにも一役買ったプロデューサー Lance Prenc を招聘したのは決意の現れでしょうか。メインストリームなデスコアサウンドやエレクトロニカ、トラップ、プログなどを加えスラミングデスメタルの領域を拡大する一方で、日本やアジアの伝統文化、アニメ、ゲーム, “Kawaii” からの影響を調合することにより、最新作 “Yokai” は邪悪と奇妙を両立させる文字通りエクストリームメタルの妖怪として魑魅魍魎の魅了を手にすることとなりました。
エレクトロニックでジャポネスクな “Yomi” は完璧なる冥府への入り口。そうして続くタイトルトラック “Yokai” で、メタルコアのリフにデスコアのヴァース、残忍なスクリームのコーラス、オリエンタルなメロディーと電子音の洪水を纏って新生 WITHIN DESTRUCTION に漂う妖気を存分に見せつけます。
ラッパーを起用した自殺志願のデスコアパーティー “Harakiri”、ニューメタリックな和の舞踏 “Hate Me” と、任天堂化した WITHIN DESTRUCTION のトラップメタルは彷徨う荒魂が浄化されるが如くバンドの狂骨へと浸透していきます。
そうしてアートの域まで高められたトラップメタルの百鬼夜行は、日本のヒップホップクルー Tyosin, Kamiyada+ が参加する “B4NGB4NG!!!” を皮切りに怪奇映画の終幕へ向けて進軍を始めます。インストゥルメンタルの “Sakura “では、プログメタルのイマジネーションで日本への憧憬を煽り、エレクトロニクスがアンビエントに鳴り響く “Tokoyo-No-Kuni “で文字通りリスナーは古代日本で信仰された不老不死の理想郷 “常世の国” へと導かれました。
今回弊誌では、バンドの心臓でドラマー Luka Vezzosi にインタビューを行うことが出来ました。「僕はゲームやアニメが大好きだから、ツアーで日本にいるときはいつも出来るだけ多くのオタクショップに行っているよ。日本には知られていないような小さなお店がたくさんあって、存在すら知らなかったようなものを見つけることができるからね。唯一の問題は、買ったものをどうやって飛行機で家に持ち帰るかということなんだ。」 どうぞ!!

WITHIN DESTRUCTION “YOKAI” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INGESTED : WHERE ONLY GODS MAY TREAD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JASON EVANS OF INGESTED !!

“The Problem Before Is That a Lot Of The Bands That Were Around When Ingested Started Just Didn’t Stick It Out Through The Bad Times, The Years When Metal Wasn’t Quite As Popular. It’s Nice To See The Scene Flourishing Again, When The UK Metal Scene Is In Full Swing, It’s One Of The Best In The World.”

DISC REVIEW “WHERE ONLY GODS MAY TREAD”

「今の UK シーンには本当に才能があって努力しているバンドがたくさんいるからね。英国において問題だったのは、INGESTED が始まった頃にいたバンドの多くが、メタルがそれほど人気がなかった悪い時代を乗り越えようと頑張らなかったことなんだ。」
LOATHE, VENOM PRISON, EMPLOYED TO SERVE, SVALBARD。2020年。デスメタルの強烈なカムバックを支え、デスコアの鋭き毒牙を研ぎ澄ますのは、疑問の余地もなく英国の若武者たちです。そうして様々な手法で音楽のリミットを解除し、境界線を排除する重音革命を最前線で牽引するのが INGESTED だと言えるでしょう。
「”デスコア” でも “スラム” でも何でもいいんだけど、僕たちはもう自分たちを狭いジャンルに押し込めたいとは思わないんだ。ただ、僕たちのアルバムがデスメタルのジャンルの多さを物語っているのは間違いないと思う。このアルバムにあるのはどんなエクストリームメタルのファンでも何かしら愛せる部分を見つけられる影響ばかりなんだから。」
たしかに、かつて “UK のスラムキング” と謳われた4銃士がここ数年で遂げたメタモルフォーゼの華麗さには、眼を見張るものがありました。特に、アトモスフィア、ブラッケンド、そしてメロディーのロマンチシズムを吸収したEP “Call of the Void” には次なる傑作の予感が存分に封じられていたのです。
「子供時代は完全に SLIPKNOT キッズだったんだ。”Iowa” は僕の時代で、僕の子供時代全てなんだ。FEAR FACTORY や LAMB OF GOD, PANTERA, CHIMAIRA なんかが大好きだったけど、中でも SLIPKNOT は僕の人生を変えてくれたバンドで、”Iowa” を聴いてからずっとメタルバンドになりたいと思っていたのさ。」
完成した最新作 “Where Only Gods May Tread” は予感通り、メタル世界の誰もが認めざるを得ない凄みを放っています。結局、INGESTED がメタルに再び人気を取り戻し進化へ導くための努力、多様性の実現、言いかえれば彼らの底なしの野心は、自らの心臓が送り出す凶暴な血潮をより赤々と彩るドーピングの素材にしかすぎませんでした。まさに摂取。まさに消費。真実は、根幹である暴力と狂気に対する圧倒的心酔、ルーツへの忠誠こそ、バンドの信頼性を極限まで高めているのです。
実際、オープナー “Follow the Deciever” からその無慈悲な残虐性はなんの躊躇いもなくリスナーへと襲い掛かります。ただし、INGESTED の拷問方法、地獄の責め苦は非常に多岐に渡り周到。知性際立つグルーヴの氾濫、唸り吸い叫ぶ声色の脅威、アコースティックやオリエンタルで演出するダイナミズムの落とし穴。つまりリスナーは、全身に猛攻を浴びながらも、常に新たな被虐の快楽に身を委ねることができるのです。
それでも、CROWBER/DOWN の Kirk Windstein が歌心の結晶を届ける “Another Breath” に対流するメロディーのきらめきは INGESTED にとって新たな出発点の一つでしょうし、なによりプログレッシヴで紆余曲折に満ち、ビートダウンの猛攻が蠢く過去とより思慮深くメロディックにアトモスフェリックに翼を広げる未来とのギャップを見事に埋める9分のエピック “Leap of the Faithless” はモダンメタルの可能性を完璧なまでに証明する一曲となりました。
今回弊誌では、七色のボーカル Jason Evans にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちは、音楽であれ、メディアであれ、映画であれ、人生経験であれ、周りのあらゆるものに影響を受けているよね。これらのものは、人としての自分、バンドとしての僕ら、そして自分たちが作る音楽そのものを形作っているんだ。だけど、これらのものはまず消費されなければならなくて、”摂取” されなければならないんだよ。」 どうぞ!!

INGESTED “WHERE ONLY GODS MAY TREAD” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AVATAR : HUNTER GATHERER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHANNES ECKERSTROM OF AVATAR !!

“On One Hand It Is Obviously True We Do Things In a Very Theatrical And Bombastic Manner. On The Other The Most ipmportant Asset to Any Stage Performer Is His Eyes. We Never Want To Lose Focus On The Humanity On Stage And In The Interaction With The Audience.”

DISC REVIEW “HUNTER GATHERER”

「僕たちがやっていることにはある種の二面性があるということじゃないかな。一方では、非常に芝居がかっていて、大げさなやり方でやっている。それは明らかな事実だよ。 でもその一方で、舞台のパフォーマーにとって最も重要な財産は自分の目なんだ。舞台上においても、人間性にフォーカスすることや、観客との対話を決して失いたくはないからね。」
RAMMSTEIN からリック・フレアー、果てはスタンリー・キューブリックまで、芸術における “シアトリカル” を濃縮したメタルのライジングスター AVATAR は、そのエピックを敷き詰めたステージにおいても人間を見つめる “目” の価値を忘れることはありません。
70年代に Alice Cooper がロックと演劇を一体化させて以来、KING DIAMOND, MARILYN MANSON とそのシアトリカルな血脈は絶えることなく受け継がれ続けています。20年近くに及ぶキャリアの中で、ゆっくりと、しかし確実にメタル世界で最も創造的かつ興味深く、予測不可能な集団の一つに成長した5人のクラウンは、そのショックロックの遺伝子にジョーカーの狂気を継ぎ足して北欧からジャンルや境界線の予定調和を打ち破ってきました。
「”Mad Max” は、たしかに僕たちが今向かっている道の一つかもしれないね。だけど “スタートレック” のシナリオだって存在するはずなんだ。強い意志があって、一時的な犠牲を払う覚悟があれば、この問題を解決できる可能性はある。僕たちの歌に描かれる、世界全体を通して繰り返し起こる大きな問題は、僕たちの道に立ちふさがっている。でも最終的には、誰も僕たちの正しい行動を止めることはできないんだよ。」
確かな “目” を備えた AVATAR にとって、この呪われた2020年に “Black Waltz” のサーカスや、”Avatar Country” の幻想的な旅路を再現することは不可能でした。かつて完全に想像の産物であった世界の終末、ディストピアを肌で感じた現代のアバターは、そうして破滅のシナリオを回避するためのレコード “Hunter Gatherer” を世に送り出したのです。
たしかに、虹やドラゴン、聖剣の妄想で現実から逃れることは難しくありません。しかし、マッチの炎が消えた暗闇には冷徹な現実が残されます。AVATAR はそれよりも、闇に直面し、闇を受け入れ、世界をあるがままに受け入れる道を選びました。彼らのトレードマークでもある毒舌家で生意気なアティテュードも、ダークで怒りに満ちた人間性をシニカルに表現するレコードとピッタリ符号しました。
「この不確かな時は、僕たちが近年の自分たちよりも (闇や権力との) 対決姿勢を深めた理由にも繋がるんだよね。その対決姿勢は過去から現在までのメタルアルバムたちにも言えることだと思うんだ。僕たちメタルバンドはみんな、様々な方法で闇を探求し、闇に立ち向かう傾向があるから、暗い時代において僕たちの音楽は重要な役割を果たすわけさ。」
つまり、2020年の呪いはメタルが解くべきなのでしょう。Devin Townsend の “Deconstruction” の邪悪なグルーヴと THE HAUNTED の暴走がシンクロするオープナー “Silence in the Age of Apes” でテクノロジーの盲信に唾を吐き、GOJIRA のグルーヴにシンガロングを誘うビッグなコーラスを織り込んだ “Colossus” でディストピアの悪夢を描く “Hunter Gatherer” のワンツーパンチはいかにもシニカルです。
マカロニウエスタンな Corey Tayler の口笛からパンキッシュに疾走する “A Secret Door” はまさに AVATAR を象徴するような楽曲でしょう。ステージにおいてシアトリカルであることを指標する彼らにとって、物語りの豊かさは切っても切り離せない能力です。60年代のストーリーテラー Leonard Cohen, Willie Nelson のカントリーフォークとダイナミックなメタルはそうして AVATAR の胎内で出会いました。もちろん、インタビューに答えてくれた Johannes が敬愛する BLIND GUARDIAN にしても、ストーリーを大仰に伝える才能は群を抜いていましたね。
かつてデスメタルの本質は凶暴なリフやスピードよりもグルーヴと語った Johannes の本領が発揮された “God of Sick Dreams” はパワーメタルと結びついてバンドの新たなアンセムとなり、一方で “Justice” の叙情と哀愁は日本のファンにも大いにアピールするセレナーデでしょう。
極め付けはレコードで最も多様な “Child” で、マーチングバンドから激烈なメタル、求心的なコーラスにカオティックなジャムとアコースティックなアウトロそのすべては、ロボトミー手術が正当だと信じられていた時代の悲哀と愚かさを演じるためだけに存在します。時を経た2020年、常識と情報、そのすべては盲目に信じられるものなのでしょうか?
今回弊誌では、稀代の演者にしてボーカリスト Johannes Eckerström にインタビューを行うことが出来ました。「鳥山明から黒澤明、村上春樹からタイガーマスク、上原ひろみから tricot まで、日本からの多くの創造的な衝動が、僕の個人的でクリエイティブな旅を形作ってきたんだ。」Babymetal との US ツアーでも話題に。ギター隊の常軌を逸したハイテクニックも見逃せませんね。どうぞ!!

AVATAR “HUNTER GATHERER” : 10/10

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