THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2017 : MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE
1. STEVEN WILSON “TO THE BORN”
「最も大きなチャレンジは、楽曲重視のレコードを作ることだよ。メロディーにフォーカスしたね。」 モダン/ポストプログレッシブの唱導者 Steven Wilson はそう語ります。モダン=多様性の申し子である世界最高の音楽マニアが、至大なる野心を秘めて放った5作目のソロワーク “To The Bone” は、自身が若き日に愛した偉大なるポップロックレコードの瑞々しいメロディー、その恩恵を胸いっぱいに浴びた新たなる傑作に仕上がりました。
Steven は “To The Bone” のインスピレーションを具体的に挙げています。Peter Gabriel “So”, Kate Bush “Hounds of Love”, TALK TALK “Colour of Spring”, TEARS FOR FEARS “Seeds of Love”, そして DEPECHE MODE “Violator”。勿論、全てが TOP40を記録したメインストリーム、知的で洗練されたポップロックの極み。
同時に彼は自身のプログレッシブなルーツも5枚提示しています。TANGERINE DREAM “Zeit”, Kate Bush “Hounds of Love”, THROBBING GRISTLE “The Second Annual Report”, PINK FLOYD “Ummagumma”, ABBA “Complete Studio Albums” (全てのスタジオアルバム)。
非常に多様で様々なジャンルのアーティスト、レコードが彼の血肉となっていることは明らかです。ポップサイドでも、フックに溢れた音楽的な作品を、プログレッシブサイドでも、難解なだけではなくサウンドスケープやメロディーに秀でた作品を撰するセンス。両者に含まれる Kate Bush の “Hounds of Love” はある意味象徴的ですが、レコード毎にその作風を変化させるマエストロが今回探求するのは ナチュラルにその二者を融合させた “プログレッシブポップ” の領域だったのです。
実際、ポップと多様性は2010年以降のプログレッシブワールド、延いては音楽シーン全体においてエッセンシャルな要素のようにも思えます。奇しくも2011年からレコーディング、ツアーに参加し続けているロングタイムパートナー、チャップマンスティックの使い手 Nick Beggs はこの稀有なるレコードを “クロスオーバー” でそれこそが SW の探求する領域だと認めています。そしてその “違い” こそが様々な批判、賛美を生んでいることも。
「プログレッシブロックのオーディエンスって、実は最もプログレッシブじゃないように思えるんだ。プログレッシブミュージックは、プログレッシブな考え方であるべきなんだよ。」 盟友の心情を代弁するかのように Nick はシーンのあるべき姿をそう語ります。
いとも容易くミッドウイークの UK チャートNo.1を獲得したアルバムは、決して “プログレッシブロックの逆襲” “プログの帰還” などというシンプルな具象ではなく、イノベーターの強い意志が生んだシーンの新たな道標なのかもしれませんね。
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2. MASTODON “EMPEROR OF SAND”
アトランタのメタルジャイアント MASTODON が “The Hunter”, “Once More Round the Sun” で舵を切ったメインストリームへの接近、ラジオフレンドリーなアプローチは、確かに新たなリスナーを獲得する一方で、それ以上に長年バンドへ忠誠を捧げてきたダイハードなファンを失う結果となりました。
一握りの称賛と山ほどの批判を背に受けてリリースしたコンセプトアルバム “Emperor of Sand” は、結果としてメインストリームとルーツ、ポップとプログレッシブの狭間で揺蕩う完璧なバランスを実現することとなりました。多様性の海に溶け込むイヤーキャンディー。それは奇しくも Wilson が取ったアプローチと同じ方角を向いています。
アルバムは、砂漠のスルタンに死刑を宣告され逃走する男の物語。実際、ライティングプロセス中にギタリスト Bill が母を亡くしたことにより、作品はダークなトーンとコンセプトを兼ね備えることとなったのです。
バンド史上最もバラエティーに富んだレコードで、特に前半部分はアンセミックな楽曲が並びます。”Show Yourself”, “Steambreather” で見せる究極のポップネス、アクセシブルなアプローチは、ドラマー Brann Dailor のボーカリストとしての成長と共にバンドの新たな可能性、MASTODON のロックエボリューションを提示しています。
一方で、アルバム後半では “Blood Mountain” で実現した躍動感と複雑性の融合に心ゆくまで再び浸ることが可能です。”Word to the Wise”, “Andromeda”, そして “Scorpion Breath” を聴けば Brent と Bill のモダングレーテストが放つダイナミックな反復の魔術、さらに Troy Sanders の獰猛なグロウルとベースラインは今でも MASTODON の心臓だと強く確信出来るでしょう。傑作 “Crack the Skye” を手掛けたプロデューサー Brendan O’Brien の復帰も間違いなく功を奏しました。
バンドは変化を遂げ成長を続けて行くものです。MASTODON は確かな進化の証を刻みつつ、バンドが失ったかに思われたロマンを取り戻すことに成功しました。それ以上に重要なことがあるでしょうか?ロックの根幹はロマンなのですから。
3. LEPROUS “MALINA”
“皇帝” の庇護から脱却し、独自のプログレッシブワールドを追及するノルウェーの先覚者 LEPROUS がリリースした最新作 “Malina” は、ジャンルという鳥籠から遂にブレイクスルーを果たしたマイルストーン。
プログメタル、アヴァンギャルド、オルタナティブにポストハードコアと作品ごとにフォーカスするサウンドテーマを変転させつつ、巧みに Djent やポスト系、ブラックメタルの要素も取り入れ多様なモダンプログレッシブの世界観を構築して来たバンドは、しかし同時に Einar の絶対的な歌唱を軸とした仄暗く美麗なムードをトレードマークとして近年掲げています。
2010年代最高のプログメタルオペラとなった “Coal” の後、彼らはより “硬質” でデジタルな作品 “The Congregation” をリリース。そしてメタリックな音像、正確性と複雑性を極めたバンドが次に見据えた先は、よりオーガニックでナチュラルなサウンドとジャンルの破壊でした。
「アルバムの “全てのインフォメーション” を直ちに伝える」 と Baard が語るように、アルバムオープナー “Bonneville” はまさに変化の象徴です。ジャズのリズムと繊細なギタートーンに導かれ、Einar は朗々と官能のメロディーを歌い紡いで行きます。比較するならば彼が敬愛する RADIOHEAD やMUSE でしょうか。
インテリジェンスとエモーションが有機的に溶け合った切なくも美しいそのサウンドスケープは、メタルやプログレッシブという狭い枷からバンドを緩やかに解き放ち、アーティスティックで “ロック” な新生 LEPROUS を主張します。
「僕たちは典型的な所謂 “ビッグメタルサウンド” を求めていなかったんだ。」 様々な要素、テクニックが “オーガニック” というキーワード、そして哀切のストーリーに注がれた純然たる “ロック” の傑作は、同時にキャッチーなメロディーと複雑でスタイリッシュなコンポジションを両立させた時代の象徴でもあります。
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4. ELDER “REFLECTIONS OF A FLOATING WORLD”
マサチューセッツからストーナー/ドゥームの翼を広げるアートロックバンド ELDER がリリースした、新作 “Reflections Of A Floating World” はロックアートの革命です。
ファジーでスロウ。シンプルなストーナーアクトとしてスタートした ELDER は、プログ/ヘヴィーサイケの方角へと舵を切り、今や最もクリエイティブでアーティスティックなヘヴィーロックバンドと称されています。リスナーに豊潤なアドベンチャーやストーリーを喚起するあまりにシネマティックな作品と、ジャンルを縦横無尽に横断する精神性はその確かな証拠だと言えますね。
”The Falling Veil” はバンドの新たな地平を提示します。PINK FLOYD のムードを存分に浴びてスタートする楽曲は、クラッシックプログ、クラウトロック、インディーなどの影響がシームレスに芽生える、カラフルで多彩な浮世草子と言えるかも知れません。
レトロとモダン、ヘヴィネスとアトモスフィア、シンプルとマスマティカルを行き来する楽曲のコントラスト、ダイナミズムはまさに唯一無二。インタビューで語ってくれた通り、「より複雑でプログレッシブ」となったアルバムを象徴する起伏に富んだ楽曲は、「音楽を聴いている時、頭の中にストーリーを描けるようなサウンド」として完成を見たのです。
ジャンルのマスターマインドである MASTODON がメインストリームによりフォーカスした今、ELDER の切り開く新たなフロンティアはシーンにとって掛け替えのない財産となっているのかも知れませんね。
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5. PALLBEARER “HEARTLESS”
アーカンソーのドゥームカルテット PALLBEARER は、セカンドアルバム “Foundations of Burden” で鬼才 Billy Anderson と出会った瞬間、有望な若手の一団から突如としてフォワードシンキングなシーンのペースセッターへと進化を果たしました。バンドのトラディショナルでカルトなコンポジションはより洗練され、現代的なアトモスフィアをプログレッシブなセンスに添えて具現化する先進的なドゥームバンドへと変化を遂げたのです。
大きな期待を受けてリリースされた最新作 “Heartless” は、これまた奇しくも Wilson, MASTODON とも共鳴する、キャッチーでポップなメロディーの洪水に重なるよりプログレッシブな世界観となりました。
アルバムオープナー、”I Saw the End” からシンガー Brett Campbell の伸びやかでエモーショナルな歌声は全開です。驚く程に透明な彼の声質は、叙情味溢れるツインリードと一つになってドゥームの新たな扉を開きます。中盤の静謐なるアトモスフィア、複雑なタイムストラクチャーを潜り抜け辿り着く、メロディーが幾重にもレイヤーされた荘厳なる世界は神々しさすら纏ってリスナーに恍惚を届けます。
より静と動のコントラストが耳を惹く “Thorns” を経て到達する “Lie of Survival” は、フォーキーなメロディー、ハーモニーを前面に押し出した THIN LIZZY を想起させる哀愁のエピック。続く11分の “Dancing in Madness” に至っては PINK FLOYD の遺伝子まで深々と宿しているのですから、バンドが持つ “狂気” の多彩さが伝わるはずです。それでいて楽曲の骨格はしっかりとドゥームで形成されている彼らのコンポジションは、まさしく異端であり脅威です。
壮大で重厚ながら強い希望と安寧を感じさせる12分のクローサー “A Plea for Understanding” はドゥーム史上に残る奇跡、光明なのかも知れませんね。
6. CONVERGE “THE DUSK IN US”
ボストンのマスコアレジェンド CONVERGE は、四半世紀に渡って不安と恐怖、そして怒りをその獰猛な音楽に封じ込めその強固な影響力を保ち続けています。そして勿論、そのキャリアの前半では、数学的なブルータリティーを存分に発揮しましたが、しかし近年ではグルーヴやアトモスフィアを発見し、よりインテンスと多様性を備えたようにも思えます。
5年振りの帰還となった最新作 “The Dusk In Us” で、バンドはかつてのクラッシックサウンドをキャプチャーしながら、アーティストとして更なる進化を遂げています。彼らの中に映る “Dusk” “夕暮れ” とは、おそらくバンドとしての成熟を示唆しているとも解釈出来ますね。ブルータルでしかし美しきモンスターレコードは、闇と希望、不快感と恍惚、そしてカリスマティックな威厳をリスナーへと運ぶのです。
Bannon が、”僕たちはとても人間味のあるバンドで、楽曲はいつだって現実の経験に基づいているんだ。”と語る通り、勿論 CONVERGE はリアルなハードコアバンドです。
“初めて君を抱いた時、生き残らなければならないことを知ったんだ。” 親になることで備わる強さを歌ったオープナー、”A Single Tear” から “こんなにも冷酷な社会に生まれちまった。何とか生き抜かなきゃな。” と嘆き突進する”Cannibals” 、そして7分間の陰鬱でスロウしかし美麗な建造物 “The Dusk in Us” まで彼らはそのアグレッションとグルーヴに自らが感じた複雑な世界への嘆き、危機感、そして覚悟を忍ばせます。
“Thousands of Miles Between Us” で究極の寂寞を示した後、バンドは “Reptilian” の奇妙な美しさとダイナミズムで希望を残しつつアルバムの幕を閉じます。WEAR YOUR WOUNDS, OLD MAN GLOOM, MUTOID MAN 等の課外活動、さらには Kurt のプロデューサーとしての成功が導いた包容力は、存外この傑作の肝なのかも知れませんね。
7. BELL WITCH “MIRROR REAPER”
シアトルに居を置くベース/ドラムスのドゥームデュオ BELL WITCH がリリースした、1曲83分の暗重なる叙事詩 “Mirror Reaper” は生と死を投影する難解なるあわせ鏡。
Dylan が 「誰にでも簡単に作れるようなレコードにする必要は全くないと決めたんだよ。楽曲を別々に分けてしまうと、説得力が失われる気がしたんだ。」 と語るように、48分の “As Above” と35分の “So Below” が自然と連続して織り成す構成の進化、常識の破壊は、より妥協のない緻密なコンポジション、Adrian の死に手向けるメランコリックな花束と共に、生と死の安直でステレオタイプな二分法へ疑問を投げかけ、”死のメディテーション” を指標しているのです。
紫煙のヘヴィートリオ SLEEP が1曲が一時間にも及ぶスロウでアトモスフェリックな反芻の集合体 “Dopesmoker” をリリースして以来、ドゥーム/スラッジ/ドローンのフィールドはメタルの実験性を最も反映する先端世界の一つとして、創造性のリミットを解除し、定石を覆しながらその歩みを続けて来ていました。
勿論、JESU や BORIS のエピカルな長編も、ジャンルの音楽性とは対極に位置する瑞々しくも天真爛漫なムードを追い風に創造された濃厚なサウンドスケープであったに違いありませんね。それでも、BELL WITCH の新たなチャレンジ、1曲83分の野心は想像を遥かに超えるサプライズ。
ランニングタイムの大半はラウドでもブルータルでもなく非常にオープンでスペーシー。6弦ベース、ドラムス、ボーカルにハモンドB3が生み出すその空間に巣食うは巨大な絶望、悲哀と、全てを掻き集めても片手で掬い取れるほど希少なる希望。それでも溢れ出る崇高なるメランコリー、哀しみの影は、亡き前ドラマーへ手向ける花束なのかも知れませんね。
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8. CHON “HOMEY”
インストゥルメンタルミュージックの未来を切り開く時代の寵児。サンディエゴのジャズ/マスロックトリオ CHON がリリースした最新作 “Homey” はまさにバンドの “ホーミー” である南カリフォルニアの太陽、空気、夏の匂いを一身に浴び、望外なまでにチルアウト、ジャンルに海風という新風を吹き込んでいます。
CHON が2015年にリリースしたファーストフルレングス、 “Grow” はバンドのユニークな才能や感受性を見せつける素晴らしきショーケースとなりました。ソフトでカラフルなコードワーク、デリケートでピクチャレスクなリードプレイ、ダイナミックに研ぎ澄まされたバンドサウンド。高度な知性と屈託のない無邪気さが同居する、オーガニックかつテクニカルなその世界観はまさしく唯一無二で、スメリアンの秘蔵っ子から一躍シーンのサウンドアイコンへと飛躍を果たすことになったのです。
バンドのホームタウン、カリフォルニアにインスパイアされ制作された最新作 “Homey” は、”Grow” で見せた圧倒的な光彩はそのままに、その鋭敏な感性が掴まえたエレクトロニカ、アンビエント、ハウスなど所謂チル系のトレンドを大胆に咀嚼し、トロピカルで新鮮なムードとテクニカルなマスロックを共存させることに成功していますね。
「自分たちが気に入るサウンドの楽曲を書き続けて、叶うならファンも僕たちの音楽を好きになり続けてくれることだね。その過程で、さらに新たなファンも開拓出来たら良いな。」
世界最高峰のエレクトロポップを創造するビートメーカー、Giraffage A.K.A. Charlie Yin との共演にも言えますが、既存のファン層からある程度の反発を見越しても、より幅広いマスリスナーへとアピールし、音楽的なチャレンジを続けることこそがバンドのゴールだと Erick は認めています。そして CHON の掲げる、その本来の意味でのロックスピリットは必ず報われるべきだと感じました。
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9. GALNERYUS “ULTIMATE SACRIFICE”
日本が誇るシネマティックメタルの英姿 GALNERYUS。究竟の証 “Under The Force of Courage” の真秀なる続編としてリリースした “Ultimate Sacrifice” は前作の壮大かつ勇壮な世界観を威風堂々受け継ぎながら、さらにスケールアップを果たした雄渾無比なメタル活劇。もはや世界でも最高峰のクオリティーを誇ります。
UNLUCKY MORPHEUS, THOUSAND EYES 等で名を馳せる FUMIYA を新たなダイナモに迎えて制作された “Ultimate Sacrifice” は事実、マイルストーンとなった前作の完成度、構成美に、瑞々しい躍動感や生命力が織り込まれた作品です。
歌劇、メタルオペラ “Heavenly Punishment” の目も眩むような絢爛さ、圧倒的な造形美はすなわち GALNERYUS の真骨頂。息子の慟哭を封じ込めた悲傷の旋律は狂おしいまでにリスナーの胸を打つのです。実はバンドが得意とする、中盤の DREAM THEATER 的なメカニカルなデザインも楽曲を見事に引き締めていますね。終盤にはクワイアで一際高揚感を掻き立てます。
前作から続く畳み掛けの美学。さらにスピードを増した “Wings of Justice” を聴けば、新たな血がバンドのスピリットにしっかりと溶融したことが伝わるでしょう。SYU のファストなリフワークをランドマークに、破綻スレスレでバンド全体をごっそりと加速させる FUMIYA のアクセルワークは実にエキサイティング。
新たな血とバンドの信念が溶け合ったマスターピースは、メンバー各自の能力を最大限に発揮して、同時に次なる傑作を予感させながらその幕を閉じます。エクレクティックを理念に掲げる弊誌ですが、勿論メタルを貫き通す強い意志にもまた大きな喝采を贈りたいと心から思います。
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10. ENDON “THROUGH THE MIRROR”
エクストリームミュージックの光彩にして特異点。東京から世界を見据えるノイズの狂信者 ENDON がリリースした最新作 “Through the Mirror” は、シーンに “救い” という名の不可逆性をもたらすマスターピース。
「ENDON はメタルという言葉でイメージする音楽の領域を拡大する役目の一端を担っていると思います。言い換えれば私にはメタルの延命措置に関わっているという認識があります。」 と語る彼らの欲望は、残酷なまでに率直です。
ボーカル、ギター、ドラム、そして2名のノイズマニュピレーターを擁する ENDON。ノイズをその多様なソングストラクチャーへ大胆不敵に織り込む彼らの方法論は、エクストリームミュージックの最先端にあると言えます。
罪深きノイズの使徒 CODE ORANGE, ハードコア/グラインドのハイブリッドエクストリーム FULL OF HELL、そして ENDON。奇しくも等しくその最新作を CONVERGE の巨匠 Kurt Ballou に委ね、ノイズというキーワードで繋がる三傑は、創造性という核心において他の追従を許してはいませんね。
中でも ENDON が特異点であるべきは、インタビューにもあるように、彼らがノイズを “主人公” として扱っている部分だと言えるでしょう。
ENDON にとってノイズとは “有機性” の象徴なのかも知れません。つまり、音符や調に囚われないノイズは自由な胎動、母性。逆に緻密な楽曲の構築、音楽的な束縛は父性。二性の融合によりフォーカスした『THROUGH THE MIRROR』は、ENDON という稀代のバンドが産み落とした寵児だと言えるのではないでしょうか。
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11. ULVER “THE ASSASSINATION OF JULIUS CAESAR”
実験性、プログレッシブな精神とポップの融合という文脈で見れば、今年 ULVER がリリースした “The Assassination of Julius Caesar” を忘れる訳にはいかないでしょう。世界で最も予測不能なノルウェーの異端児は、遂に自身の中に住まう “ポップ” を作品へ本格的に注入することとなりました。
バンドが不吉な13枚目のテーマに選んだのは、暗殺と陰謀論。アルテミスとアクテオンの神話とダイアナ妃の事故を共鳴させより深く思索する試み、歴史的な飛躍は、物理的な法則に決して縛られない ULVER の音楽宇宙ならでは。
実際、ヨーロッパのカテドラルで奏でられる PINK FLOYD & DEPECH MODE といった音楽性は、神話、歴史、そしてポピュラー・カルチャーをこれまでよりもさらに密接にリンクさせたアルバムに相応しいデザインだと言えるでしょう。
今回、ニューウェーブ/エレクトロニカを特別掘り下げたのは、幼年期への追憶が為だと Kristoffer Rygg は語ります。それが彼らのポップなのだとも。しかし、仄かな記憶と漂うロマンの中に、しっかりとオルタナティブやジャズ、プログレッシブな風を吹き込むバンドはやはり挑発的な野心家です。
12. CODE ORANGE “FOREVER”
かつて CODE ORANGE KIDS と名乗ったバンドは、すでに “Kids” ではありません。タフなツアーを経て成長を遂げたピッツバーグの若武者は、ハードコアのアンダーグラウンドからロックのメインステージへと駆け上がります。
今年、CONVERGE の名将 Kurt Ballou が手掛けた “ノイズ三部作” とも言える、ENDON, FULL OF HELL, そして CODE ORANGE の作品の中で、最も普遍的な魅力を備えるのが本作なのかも知れませんね。実際、彼らはそれ程大胆なアプローチを志向している訳ではありません。ハードコアとメタルのクロスオーバーらしく、細やかにテンポチェンジ、ストップ&ゴーを繰り返す強烈なリフワーク。シャウト、グロウル、そして女声のトリプルボーカルが生み出すカオスの濁流。不穏や無慈悲なアトモスフィアを演出するエレクトロノイズはあくまで隠し味。
しかし、そういったバンドがデフォルトとするデザインは、非常に豊富なアイデアと深く練られたコンポジションによりフックと中毒性に満ち溢れた音の暴力へと形を変えるのです。彼らの予測不能な危険は、有機体のようなしなやかさとインテリジェンスを備えます。
NINE INCH NAILES や RAMSTEIN の登場に例える識者が多いことにも納得ですね。
13. BORIS “DEAR”
結成25周年を迎えた日本のヘヴィーロック神 BORIS がリリースした最新スタジオ・アルバム “DEAR”。絶え間なく動き続け、先鋭であり続ける BORISの‘今現在’がこの “DEAR” にはありました。
本作も自らの息遣いや空気の振動まで封じ込めるセルフ・レコーディングで吹き込まれ、長年パートナーシップを続ける中村宗一郎氏(坂本慎太郎、OGRE YOU ASSHOLE 他)がミックスとマスタリングを担当。サウンド・プロデュースは直近2作同様に成田忍氏が手掛けています。
さらにアートワークは、大友克洋氏や多数のアパレル・ブランドとのコラボレーションで知られるコラージュ・アーティスト/グラフィック・デザイナー河村康輔氏の手に依ります。
さらに、4月の『After Hours』にヘッドライナーの一角として登場した際には、殆どが本作から演奏され、ライヴ映えする楽曲と世界観は大きな評判を呼びました。
冒頭を飾る “D.O.W.N” や “DEADSONG” のヘヴィ&ドローンはBorisのシンボルともいえるスタイルですが、メロディックなヴォーカルと多幸感を呼ぶ音の壁は、沈み込むヘヴィさとは一線を画すもの。ヘヴィを射抜いた先に拡がる音を体感可能。
“Absolutego” は直感的反応を呼ぶロック・アンセム。ライヴ時にはアコーディオンもフィーチュアして聴かせる “Kagero” でも新しい表情が伺えます。そして、はかなさや切なさをまとった “Biotope” や “Dystopia” もまた Boris の真骨頂ですね。
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14. THUNDERCAT “DRUNK”
Kendrick Lamar, Kamasi Washington, FLYING LOTUS 等の作品で名演を残してきた Jazz The New Chapter の申し子 Thundercat も、音楽界の大きな流れに身を委ねた一人なのかもしれません。コンプレッサーを効かせた軽快なトーンでブレッドボードを行き来するベースの達人は、しかし己のソロ作品でポップとジャズ/プログレッシブを見事に融合しコンパクトで意義深いアートをデザインすることに成功しています。
さらに深く掘り下げれば、アルバムには70年代から80年代のフュージョン、ソウル、R&B, AOR を下地としたレトロフューチャーな世界観が広がっていることに気づくはずです。そして最早お気づきの通り、これまで挙げて来た多くのアーティストが、モダンな多様性、コンテンポラリーなアトモスフィアと共に Thundercat が象徴するレトロフューチャーなイメージを作品へ投影していることは明らかです。ロマンとルーツ、音楽はいつだって繋がっています。
15. ICHICA “FORN”
Toshin Abasi 以来の衝撃!クリスタルのように清廉なサウンドと研ぎ澄まされた感性で ichika は日本のみならず海外からも高い注目を集める新たなギターマエストロ。想像力を掻き立て感情を揺さぶる瑞々しい楽曲の数々は、フレッドボードを駆け巡る独創的で絢爛たる奇跡のテクニックから生み出されます。
Instagam, Twitter など SNS における圧倒的な動画の視聴数、シェア。さらに Tosin Abasi, Jason Richardson といった海外のモダンギターヒーローから注がれる熱い視線を追い風に受けリリースした待望のデビューEP “forn” はまさにインストゥルメンタルシーンに新たな時代の幕開けを告げるエポックメイキングな作品に仕上がりました。
アルバムのフォルムは想像を遥かに超えたものでした。おそらく多くのファンが思い描いた作品は、バンド形態の Instru-metal アルバムだったのではないでしょうか?しかしリスナーの元に届いた “forn” のサウンドは、ギター一本、清澄で無垢なクリーントーンが奏でる水晶彫刻のような崇高な美景、世界観だったのです。
ただ、ichika が今回弊誌に語ってくれた「人生を変えた5枚のアルバム」を念頭に置き、存慮すればこのディレクションは深く頷けるものだと思います。”Waltz for Debby”。彼が志向しデザインしたこの透徹した美意識によるスペクトルは、孤高のジャズピアニスト Bill Evans がかの歴史的傑作で提示したアーティスティックな表現世界と真に深く通じていたのです。
ichika の旅路、音楽的探求は “forn” で遂にその幕を開けました。少なくとも、今まで日本のアーティストに欠けていた世界で戦うに充分なオリジナリティー、インテリジェンス、そしてアピアランスを備えていることは確かです。今年リリースされた別プロジェクト AMONG THE SLEEP も同様にオススメ。”have a nice dream”、応援しましょう。
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16. DEAD CROSS “DEAD CROSS”
“SLAYER のようにアグレッシブで、FANTOMAS のように奇妙”。Dave Lombardo ( ex-SLAYER, FANTOMAS ), Mike Patton ( FAITH NO MORE, FANTOMAS ), Mike Crain ( RETOX ), Justin Pearson ( THE LOCUST, RETOX ) というエクストリームミュージックの重鎮が集結した新バンド DEAD CROSS がリリースした衝撃のデビュー作はあまりに熾烈かつ迫真です。
SLAYER での鬼神たる Dave Lombardo、FAITH NO MORE での異形たる Mike Patton については今さら多くを語るまでもないでしょう。勿論、その2人がタッグを組んだアヴァンギャルドで “アンチアート” な “Dada-Metal”、FANTOMAS についても。過去に Lombardo は、「もしピカソがミュージシャンだったら FANTOMAS のような音楽を創造しただろう。」 とさえ述べています。
一方で、THE LOCUST はグラインドコア、パワーバイオレンス、ノイズロックをハードコアのフォーマットへと落とし込んだ多様かつ複雑でダイナミックな音楽を信条としており、さらに THE LOCUST の美学こと Justin Pearson が新たに立ち上げた RETOX はハードコアパンクのエキサイティングな新鋭です。
インタビューで Justin は、「ジャンルは実に厄介なもので、自分の目的はリスナーを無関心にしないこと」 だと語ってくれましたが、彼らのキャリアと独自性を見れば、DEAD CROSS という奇跡の化学反応がそのイメージを叶えることは確かなようにも思えます。
実際、”Dead Cross” は期待以上にカオスでエクストリーム、ゲームチェンジングなレコードです。「みんなの音楽に対する感じ方を変えたいし、もっと言えば壊したいと思っているんだよ。」 と語る Justin の野心は、比類なきメンバーと類希なるシンパシーを得て遂に達成されたと言えるのかも知れませんね。「全てのクリエイティビティーに感謝を。」
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17. POWER TRIP “NIGHTMARE LOGIC”
2017年、IRON REAGAN と共に大きな話題を攫ったクロスオーバーツインズの片割れ POWER TRIP が “Nightmare Logic” で残した印象は強烈でした。スラッシュメタル、ハードコア、パンクを股に掛け、正々堂々と正面突破を挑むそのアティテュードはあまりにエキサイティング。
麻薬中毒や製薬業界のスキーム、宗教的汚職など様々なトピックに本気で中指を立てながら、歌詞のパワーを楽曲のエネルギー、突進力へと伝導するバンドの気概にはただただ脱帽です。
18. DIABLO SWING ORCHESTRA “PACIFISTICUFFS”
COMING UP NEXT! INTERVIEW WITH DIABLO SWING ORCHESTRA!!
19. AMENRA “MASS Ⅵ”
アントワープに聳える大聖堂の如き凛々たる威厳を放つ、ベルギーのポストメタル-ルミナリエ AMENRA。5年振りとなる最新作 “Mass Ⅵ” は、2017年、DREADNOUGHT や CELESTE が先陣を切った、ポストメタル、ドゥーム、スラッジ、そしてアンビエントなポストハードコアを融合させる “スロウメタル” の快進撃を決定付けました。
1999年にフランスとの境、ベルギーのコルトレイクで、ボーカル Colin H. van Eeckhout とギタリスト Mathieu Vandekerckhove によって結成された濃密なるファイブピース AMENRA。偉大な NEUROSIS の血脈を受け継ぎつつ、メタルよりもオールドスクールハードコアの色濃きリフエイジと、ユニークにスラッジとドゥーム、アンビエント、時にブラックメタルやゴシックフォークまでをもミックスするその多様なるポストメタルの脈流、独自の進化を続ける鬼才集団が扱うテーマは、人生の悲痛で陰惨たる圧倒的にダークな一面です。
AMENRA のレコードは全てが “Mass” の名の下にナンバリングされています。”ミサ” の名を冠したバンドの最も重要な典礼儀式は、”ピュアな感情に掻き立てられ” “バンド全員がパワフルな個人的理由を得るまで” 行われることはありません。故に、ある意味祈りを宿した究極にパーソナルな “自己反映” “自己反省” のプラットフォームこそが “Mass” シリーズの正体だと言えるかも知れませんね。
「両親の死、両親や子供の病気、関係の終焉、愛の喪失と剥奪。全てが存在を空虚にしてしまうような経験だよ。」 実際、バンドのマスターマインド Colin は 、今回の “Mass Ⅵ” を制作するきっかけについてそう語ってくれました。”Mass” シリーズで最もヴィヴィッドかつ群を抜いてダイナミックなレコードは、人間の避けがたき悲痛と喪失を深く探求、そして埋葬する41分間なのかも知れません。「真の感情には国境はないんだよ。」
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20. MUTOID MAN “WAR MOANS”
CONVERGE, CAVE IN, ALL PIGS MUST DIE のメンバーが集結した突然変異のスーパーグループ MUTOID MAN が放った奔放かつ不遜、バッダースな新作 “War Moans”。キャッチーなロックン・ロールのイメージを獰猛なメタルのアグレッションに投影した、チャーミングかつタイトなレコードはシーンの大いなる期待に応えて余りある一撃となりました。
シリアスで暗色調なアティテュードが枢軸となるコンテンポラリーなメタルシーン。狂気やユーモア、風刺を宿す MUTOID MAN のシアトリカルで本来のメタルらしいコンセプトは、実際異端で新鮮なカウンターとして際立っています。
インタビューにもあるように、”War Moans” は “セクシャリティ”、性行為や性的欲求にフォーカスした作品です。アートワークやタイトルが示すように、性的指向、欲求が日増しに暴走する現代社会を、戦争という極限状態へと投影しある意味戯画化することで、現代の異様さ “倒錯性” “変態性” を浮き彫りにしているのかも知れませんね。実際、バンドは “War Moans” を “Perverted” 変態的なレコードだと断言しています。そしてその柔軟なユーモアはポップセンスに、辛辣な毒気はアグレッションに姿を変えて作品の音楽性に反映されているのです。
マーティーさんによれば、「新しいアルバムはエグい ! クッソかっこいい ! メタルかロックかパンクか分からないけど、とにかく生々しいヘヴィ・ミュージック ! コイツらはホンモノだ、保証付き !!」 だそうですよ。
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21. PERTURBATOR “NEW MODEL”
“メタルファンのためのエレクトロニカ” とも評される、フランスのシンセウェーブ開拓者 PERTURBATOR がリリースした最新作は、自身とジャンル双方の文字通り “ニューモデル” となるマイルストーン “New Model”。PERTURBATOR a.k.a. James Kent が描き出す、テクノロジーへと過度に依存し衰退する人類の未来、ダークで陰鬱なディストピアは、現代のポップカルチャーに対する嫌悪感さえ孕みつつ、シンセウェーブを新たな領域へと誘います。
現在、シンセウェーブムーブメントがビッグでシリアスな “波” として音楽シーンに押し寄せていることは確かでしょう。80年代の風を受け、レトロな SF 映画やアニメ、ゲームのムードとモダンな手法、サウンド、アトモスフィアを融合させるレトロフューチャーなその視点は、ミュージックシーンのみならず、”King Fury” や “Drive”, “Far Cry” のような映画やゲームの分野にまで強く波及していますね。
2000年代後半、COLLEGE や Kavinsky によって産声をあげた追憶と清新を内包する瑞々しき異端の音楽、領域で、PERTURBATOR はまさにフロントランナーの位置にいます。実際、ポップテイストとライトなトーンにフォーカスした眩いばかりの “Sexualizer” EP から、実験的で新たなジャンルの創設にも思えた “Dangerous Days” まで PERTURBATOR は先鋭で孤身の旅路に身を置き続けてきました。そして、彼が “New Model” で辿り着く先は、まさに未開の地と呼ぶに相応しき前人未到のディストピアです。
硬質で頑健なファクトリーを写実的に描いたモノクロームのアートワークは、アルバムを紐解く鍵と言えるのかも知れませんね。ここには典型的なレトロウェーブらしい煌びやかなネオンも、グラマラスな女性も、サイバーパンクのギミックすらも存在せず、むしろ相反する冷徹でマシナリーなムードが作品を支配しているのです。
「CULT OF LUNA こそが、今日のメタルシーンで最も重要なバンドの一つだと信じている。」と語る James。神の領域へと到達し、ヒューマンに啓示をもたらす AI シナプスのストーリーは、確かにポストメタルの大胆かつ繊細なデザイン、アトモスフィアを内包しています。
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22. IGORRR “SAVAGE SINUSOID”
Igorrr とは誇り高きフランスのコンポーザー/マルチプレイヤー Gautier Serre のソロプロジェクト。ブレイクコア、グリッチホップ、トリップホップ、バロック、クラシカル、ワールドミュージック、サイバーグラインド、デスメタル、ブラックメタルなど百花斉放、極彩色のインスピレーションを濃縮し、時代もジャンルも超越したそのサウンドスケープは即ち規格外のモンスターだと言えるかもしれませんね。そして、インタビューにもあるように Gautier は、その至高の怪物を各ジャンルのスペシャリストを招集することで制御し、自らの意のままに操っているのです。”Savage Sinusoid” のアートワークに描かれた結合のスフィアは、まさにそのシンボルだった訳ですね。
ムーブメントとしての djent が終焉を迎えシーンに定着した中で、Igorrr の”Savage” と “Sinusoid” を融合させる時代も空間も超越したユーフォリアは EDM や hip-hop が席巻する現在の音楽シーンだからこそ、新たなトレンドとしてモダンメタルをさらに前進させる可能性を多分に孕んでいます。インタビューでも語ってくれた通り、少なくともこのジャンルは未だに進化を続けているのですから。
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23. CHELSEA WOLFE “HISS SPUN”
ダークでスピリチュアルな崇高美を追求する、ノースカリフォルニアの堕天使 Chelsea Wolfe が、そのゴシカルなイメージをスラッジメタルの世界へと解き放つ最新作 “Hiss Spun”。審美のダークサイドを司るエクストリームアートの女王は、至上の環境、チームを得てより鮮明にその印象を増しています。
近年、Chelsea と彼女の右腕 Ben Chisholm の冒険は、出自であるゴシックフォークの枠を容易く超越し、ドゥームの翳りを宿すインダストリアル、エレクトロニカ、ノイズ、ドローンにまでアプローチの幅を拡げて来ました。陰鬱にして甘美、アーティスティックで創造性豊かなそのジャンルの邂逅は、Chelsea の幽美なビジュアルやスピリチュアルな一面とも共鳴しながら、この混沌とした世界に安寧を喚起するメディテーションの役割を果たして来たのかも知れませんね。
“Spun” の凄艶なディストーションサウンドでスラッジーに幕を開ける “Hiss Spun” は、リスナーの思念、瞑想にある種の直感性を差し伸べる、よりヘヴィーで正直なアルバムです。「これは、ヘヴィーなレコードでロックソングを求めていたの。」 実際、Chelsea はそう語っています。
そして確かにヘヴィーでスラッジーなアルバムですが、同時に “Twin Fawn”, “Two Spirit” のような自身のアイデンティティー、ゴシック/フォークにフォーカスした楽曲や、近年養って来たインダストリアル/ノイズ要素を分断に盛り込むことで、作品は Chelsea の多面的な才能を映す鏡、ある意味集大成的な意味合いも保持しています。そして勿論、女性としての一面も。
アルバムは、魔女の如き甲高い歌声が印象的な “Scrape” で幕を閉じます。様々な怒りやヘヴィーな祈りが込められたアルバムには、当然 Chelsea の一人の女性としての怒りも封じられています。あの禍々しき魔女裁判が行われたセイラムでレコーディングが行われたことも、偶然ではないのかも知れませんね。
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24. AYREON “THE SOURCE”
オランダを代表するコンポーザー、マルチプレイヤー、シンガー、そしてプロデューサー、Arjen Anthony Lucassen のメタルオペラプロジェクト AYREON。2枚組90分の一大スペクタクル “The Source” は、AYREON の宇宙を再び拡大し、過去最高とも思えるクオリティーを備えたよりギターオリエンテッドな絶佳なる現代のスペースオペラとしてシーンに君臨するでしょう。
“Forever” サーガと称される AYREON のストーリーは、時代も時空も超越した壮大なるSFファンタジー 。まるで “Star Wars” と “The Lord of the Rings” が共鳴し溶け合ったかのような知的かつファンタジックな物語は、実際ロック史に残るエピックとして海外では絶大な人気を誇るのです。
あなたがもしクラッシックロックのファンならば、アルバムを聴き進めるうちに JETHRO TULL, STYX, PINK FLOYD, Kate Bush, さらには同郷の FOCUS などを想起させる場面に出くわしニヤリとすることでしょう。しかし同時に Arjen の巧みで見事過ぎるコンポジションにも気づくはずです。
多弦ギターやエレクトロニカなどモダンな要素も吸収し、インタビューにもあるようにフォーク、メタル、アトモスフィア全てを調和させメロディーとフック、そしてダイナミズムに捧げたアルバムはまさにエピカルなメタルオペラの金字塔として後世に語り継がれていくはずです。
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25. THRESHOLD “LEGENDS OF THE SHIRES”
結成は1988年。1993年にデビュー作をリリースした不朽のプログメタルアクト THRESHOLD がリリースした、”モンスターレコード”の名に相応しきダブルアルバム “Legends of the Shires” 。デビュー当初、”英国からの DREAM THEATER への回答” と謳われし希少なる生残の先駆者は、四半世紀の時を超え遂に至純なる “アンサー” を提示しています。
海外のプログメタルシーンでは、信頼出来るビッグネームとして揺るぎない地位を築いて来た THRESHOLD。一方で、残念ながら日本ではおそらく、 “スレショルド” “スレッショウルド” “スレッシュホウルド” 等、今一定まらない名前の読みづらさと、サーカスライクの派手なプレイに頼らない楽曲重視の音楽性に起因する無風、凪の状況が長く続いてきました。しかし、”Legends of the Shires” は間違いなく日本のファンにとって THRESHOLD への素晴らしき “Threshold” “入口” となるはずです。
アルバムのハイライトは、”Stars and Satellites” で訪れます。DREAM THEATER がハイテクニカルで、圧倒的なある種数学的視点によりプログメタルを捉えたのに対して、FROST*, VANDEN PLAS, そして THRESHOLD 等はプログレッシブロックの精神性やコンセプトによりフォーカスしているのかも知れませんね。
Richard が影響を受けたアルバムに、KING CRIMSON や YES ではなく PINK FLOYD, GENESIS を挙げているのは象徴的かも知れません。このスーパーキャッチーで、聴く度に心が踊るポップな宇宙は、逆に DREAM THEATER が決して到達し得ないプログレッシブポップ領域のはずです。
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26. heaven in her arms “白暈 / WHITE HALO”
トリプルギターが映し出す濃密なシネマと、アーティスティックで詩的なリリックが交錯する東京のポストハードコアアクト heaven in her arms がリリースした実に7年ぶりとなる待望のフルレングス “白暈” 。アートワークにも顕在する “White Halo”、白く差しそめし光芒の暈は、バンドの黒斑を侵食し遂にはその枷をも解き放ちました。
「今回は”黒い”イメージを脱却したかった」 と Kent が語るように、闇と絶望を宿した黒を基調とするバンドの色彩に仄かな燐光をもたらしたのは、7年間の集大成とも言える “終焉の眩しさ” だったのかも知れません。
COHOL とのスプリットに収録された “繭” と “終焉の眩しさ” を融合し再録したこの名編は、狂気と正気を行き来する壮大な表現芸術です。Katsuta が「heaven in her arms ってどんなバンド?と聞かれた時に “終焉の眩しさ”はその答えとして分かりやすい」 と語るようにまさにバンドを象徴する名曲は、静と動、光と闇、絶望と救済が混淆するダイナミックな激情のドラマとして中軸に据えられ作品の趨勢を決定づけているのです。
“終焉” の先に見据えたものは何でしょう?ブラックゲイズの領域へと侵入したアルバムクローサー、11分のマボロシ “幻霧” では、儚き祈り、悲痛な叫びが霞む海霧の中、確実に希望という一筋の光がリスナーの元へと届くはずです。ワルツで始まりワルツに終わる45分。しかしどこか冷ややかな”光芒の明時” と “幻霧” の仄かな光明を比較した時、そこに更なる深淵が現れるのかも知れませんね。
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27. MAMMAL HANDS “SHADOW WORK”
COMING UP NEXT! INTERVIEW WITH MAMMAL HANDS!!
28. SOEN “LYKAIA”
スウェーデンが誇るモダンプログスーパーグループ SOEN が自らのアイデンティティー確立に挑みリリースした3rdアルバム “Lykaia”。プログレジェンド OPETH のドラマーとして名を馳せた Martin Lopez 率いる腕利き集団は、常に比較され続けてきた自らの出自 OPETH や TOOL の影から離れるのではなく新たな要素を導くことでバンドの進化を鮮やかにに見せつけています。
デビュー作 “Cognitive” と前作 “Tellurian” で明らかな違いが存在した SOEN。”Cognitive” が強く TOOL を意識したオルタナティブかつアトモスフェリックスなアプローチ、精神世界に重点を置いていたのに対し、”Tellurian” は OPETH を想起させるよりプログレッシブで綿密な方向性、哲学世界に接近していたのは明らかでしょう。
“Lykaia” はその2つが自然に溶け合い、さらに新たな色として70年代のオーガニックでサイケデリックなサウンド、暖かみや哀愁のエモーションが加わることでバンドのマイルストーンとして燦然と輝くレコードに仕上がりました。実際、PINK FLOYD と KING CRIMSON のハイブリッドのような叙情味豊かで有機的なサウンドはアルバムを紐解く重要な鍵となっていますね。
極めつけは KING CRIMSON “Fallen Angel” と同種の悲哀、耽美、プログ性を湛えたイマジネイティブな楽曲 “Lucidity” でしょう。Lake / Wetton / Akerferdt 直系の深みと粋を秘めた情感豊かな Joel の歌唱はここに来て遂に独特のオーラ、威容を誇るようになり、バンド全体に透徹した凛とした美意識も相俟って2017年ベストチューンの可能性すら保持した名曲が生み出されたのです。
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29. WOBBLER “FROM SILENCE TO SOMEWHERE”
70年代初頭のプログレッシブワールドを現代に再構築する、ノルウェーのレトロマイスター WOBBLER がリリースした素晴らしき追憶のメモリーレーン “From Silence to Somewhere”。プログレッシブの新聖域から創生する全4曲47分、あの時代の天真爛漫な空気を再現した濃密なエピックは、改めてクリエイティブの意味を伝えます。
90年代後半から活動を続けるプログクインテット WOBBLER は、前作 “Rites at Dawn” で本格化を果たしたと言えるでしょう。新たに加わったボーカル/ギター Andreas Wettergreen Strømman Prestmo が醸し出す Jon Anderson にも似た多幸感は、より緻密で繊細なコンポジション、瑞々しい北欧シンフォニックの息吹、飛躍的にグレードアップしたプロダクションとも相俟って、バンドを一躍シーンのトップコンテンダーへと位置づけることになりました。
ファンタジーとインテリジェンスの魅力的な交差点は、21分の劇的なタイトルトラックで幕を開けます。メタモルフォシスやアルケミー。バンドが以前から追求する超自然のテーマは、彼らの奥深きヴィンテージサウンドへとより深く融合し、同時にダークでミステリアスな翳りは光と影のコントラストを際立たせる結果となりました。
実際、このプログロックの完璧なるジグソーパズルは、カラフルなムーグとハモンド、オーガニックなギターリック、リッケンバッカーの骨太なベースライン、ダイナミズム溢れるドラムスといったヴィンテージのピースを集約し、メロトロンの温かな額縁でつつみこむように構成され、“Prog is not Dead” と世界に宣言しているのです。
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30. TRICOT “3”
日本のマスロック/ポストロックのランドマークとなった歴史文化都市、京都から世界へと進出し快進撃を続けるガールズトリオ tricot が時代を切り拓く一撃 “3” をリリース。ポップ、パンク、そしてプログまで取り込んだ前人未到の方程式は世界を驚かせるに充分なインパクトを纏っています。
日英米同時リリースとなった最新作 “3” は、インタビューにもあるようにバンドが最も自由を謳歌した「何でもアリ」な作品に仕上がりました。
勿論、変幻自在なリズム、マスマティカル(数学的)な変拍子の洪水がシンボルとなり、特に海外では “マスロック” “Math-rock” と称される tricot の音楽ですが、多彩を極めるのはリズムだけではありません。”3″ で確かに実現したカラフルで鮮やかな楽曲群、世界観はしなやかにバンドの成熟、進化を伝えています。
事実、アルバムは、シンプルにスタートし徐々にコーラスやセブンスコードが重ねられて行く不思議で魅力的なポップチューン “メロンソーダ” でその幕を閉じます。人生を変えたアルバムを見れば分かる通り、貫かれるポップセンスは3人にとって不可欠で、そしてあまりに当然のものとして常に存在しているのでしょう。
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31. PERSEFONE “AATHMA”
フランスとカタルーニャの狭間に位置する欧州の小国アンドラから示現した、プログメタルの俊傑 PERSEFONE がリリースした待望の新作 “Aathma”。ギターチームの片翼とドラマーを刷新し、音楽性、テーマ、リリック共に陶冶され深みを増したアルバムは、CYNIC の英雄 Paul Masvidal の参加を得て、2017年のモダンプログメタルシーンを代表する作品に位置づけられました。
2013年にリリースした前作 “Spiritual Migration” は、技巧とロマンチシズム、幻想とアグレッションを巧妙に対置させた Tech/Prog Death Metal の佳篇であり、バンド史上最良の成功を収めたマスターワークとなりました。奔流となって押し寄せる、過密なまでに濃厚なサウンドの粒子が印象的な作品でしたね。
日本、アジアを含む長期のツアーを経て、4年という熟成期間が宿した結晶 “Aathma” は、”Spiritual Migration” に比べて、よりスピリチュアルで空間的。英俊 Jens Bogren のタクトの下、アートとしての完成度、統一感を精髄まで突き詰めた、ニューフロンティアへと到達しています。
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32. GIZMODROME “GIZMODROME”
ロック四半世紀の時を刻む、四人の傑出したミュージシャンが集結したスーパーグループ GIZMODROME が唯一無二の色彩を放つデビュー作 “Gizmodrome” をリリース。マエストロが紡ぐ多彩かつユニークな “パンクプログ” “プログレッシブポップ” の造形は、ある種定型化したシーンに贖いがたい魅力的な誘惑を放ちます。
THE POLICE の大黒柱 Stewart Copeland を中心として、鍵盤の魔術師 PFM の Vittorio Cosma、LEVEL 42 のスラップキング Mark King、そして KING CRIMSON のギターイノベーター Adrian Belew が参集。GIZMODROME はパンク、ポップ、ニューウェーブが花開いた80年代初頭の風をプログレッシブのテクニックに乗せて運ぶ素晴らしき “Gizmo” “仕掛け” の体現者だと言えるでしょう。
「レコーディングの鍵は素早さだったね。長々と時間をかけることなく、ただ楽しんで行ったんだ。」 と Adrian が語る通り、アルバムは音楽本来のワクワク感、楽しさ、多幸感に満ちています。
さらに勿論、バンドはポップパンク、ロック、ジャズファンク、プログレッシブという異なるジャンルから一名づつ選抜されたハイブリッドな “多音籍軍”の 顔を持ちます。そしてその4人の選ばれしヴァーチュオーソは究極に楽しみながら、ユーモラスなまでにエクレクティックな音楽のショーケースを披露しているのです。
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33. KREATOR “GODS OF VIOLENCE”
ジャーマンスラッシュの帝王、”憎悪の象徴” KREATOR がリリースした最新作 “Gods of Violence” は、結成35周年、14枚目の作品にしてバンドの最高峰を更新したかにも思えるマスターピース。信念と革新を併せ持った作品は2017年を代表するメタルレコードとなりました。
2016年は Thrash Metal リバイバルの機運が高まった年でした。METALLICA の新作を筆頭に、TESTAMENT, DEATH ANGEL, DESTRUCTION, SODOM などベテラン勢の奮起は頼もしく、同時にジャンルの限界を取り去った新鋭 VEKTOR の “Terminal Redux” がシーンに与えた衝撃も計り知れません。そしてその潮流を決定的なものたらしめるのが “Gods of Violence” かも知れませんね。
2012年の “Phantom Antichrist” 以来5年振りに届けられた KREATOR の新作は、究極にブルータルでアグレッシブ。しかし同時に、彼らが10年にも及ぶ音楽的実験の旅を終え本流へと回帰した2001年の “Violent Revolution” 以来最もメロディックな作品に仕上がったのです。
アルバムは、リスナーが期待する狂気の KREATOR 像を忠実に再現し正しくスラッシュが成されながら、並行してファンの想像を超えるキャッチーで幻想的なサウンドをも内包しています。
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34. FULL OF HELL “TRUMPETING ECSTACY”
メリーランド、ペンシルベニアのカルテット、破壊者 FULL OF HELL。日本が誇るノイズゴッド MERZBOW, アヴァンギャルドノイズデュオ THE BODY とのコラボレート、さらには NAILS, PSYWARFARE とのスプリットを血肉としてリリースした最新作 “Trumpeting Ecstacy” は、要となる自身のルーツを軸としつつ、同時にエクストリームミュージックの領域を一際押し広げる重要なレコードとなりました。
実験的な作風にシフトするかとも思われた “Trumpeting Ecstasy” は、意外にもストレートな楽曲が軸となり押し寄せる暗く激しい11曲23分となりました。インタビューにもあるように、サウンド、リフワークなど、確かにバンドはよりメタルの領域に接近したようにも思えますし、楽曲が”密着”していると語るのも頷けます。
しかし、勿論彼らの野心が一所に留まるはずもなく、レコードは同時にパワーバイオレンス、ノイズ、スラッジ、インダストリアルといった多様なアイデアを見事に昇華しコンテンポラリーなブルータリティーを散りばめたハイブリッドなエクストリームミュージックとして仕上がったのです。
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35. DispersE “FOREWORD”
“Heart of Europe”、ポーランドに降臨した、モダンプログシャイニングスター DispersE がリリースしたジャンルの枷を解き放つ新たなマイルストーン “Foreword”。”Progressive” というワードの真意について再考を促すような意義深き作品は、鮮やかなポップセンスとミニマルなサウンドを研ぎ澄まし、規格外のアウトラインを提示しています。
「メタルは少々平坦に思えてきた。」 インタビューで Jakub が語る通り、このレコードには獰猛なグロウルも、Chug-Chug とした定常的なギターリフも存在しません。貫かれるのは “Progressive-Pop” とも描写可能なノスタルジックで情味のある、しかし同時に創造的なモダニズムが溢れる崇高な世界観。
“Foreword” は DispersE、さらにはプログレッシブワールドにとって新たなチャプターの幕開けとなるでしょう。実際、プログレッシブロックとは様式ではなく概念であるべきです。インディーロックとクラブミュージックを巧妙にクロスオーバーさせた Bonobo は、バンドにとって或いは象徴かも知れません。自らのアイデンティティを保持したまま、TYCHO や TAME IMPALA のフレッシュな感性、インパクトを血肉とした DispersE のインテリジェントな手法は全面的に肯定されるべきだと感じました。余談ですが、Jakub が今年リリースした二枚のソロ EP も出色の出来。
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36. AKERCOCKE “RENAISSANCE IN EXTREMIS”
90年代後半から漆黒の創造性でシーンを牽引する英国のアーティスティックなノイズメイカー AKERCOCKE が、10年の時を超えリリースした完璧なる復活祭 “Renaissance in Extremis”。背徳には恍惚を、暴虐には知性を、混沌には旋律を、等しく与える “死のルネッサンス” でバンドはその邪悪を崇高の域にまで昇華します。
生々しき衝動のラフダイアモンド、”Rape of the Bastard Nazarene” でエクストリームシーンに登壇した突然変異のモンスター AKERCOCKE。デスメタル、ブラックメタル、プログ、アヴァンギャルドをその身に浴び降誕した凶暴なるカオスは、”Words That Go Unspoken, Deeds That Go Undone” を頂点とするトリロジーで、美麗なる異端の響き、クリーンパートまでをも宿し唯一無二の存在と化しました。
そして10年という長い雌伏の時を終え、Jason Mendonça, David Gray, Paul Scanlan というオリジナルメンバーを軸に帰還を果たし、遂にリリースした “Renaissance in Extremis” は紛うことなきフルムーン、エクストリームメタルの新教典。”初めて制作したサタニックではないアルバム” と語る通り、バンド史上最もコントラストが際立ったワイドで濃密なレコードは、再びリスナーの記憶を呼び覚まし、確実にジャンルのランドマークとなるはずです。
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37. NOVA COLLECTIVE “THE FURTHER SIDE”
“新たな集合体” の名を冠するインストゥルメンタルスーパーバンド NOVA COLLECTIVE がリリースした、超越的でモニュメンタルなデビュー作 “The Further Side”。既成観念の “向こう側” へと辿りついた彼らの音風景は、リスナーを永遠の旅路、ミュージカルジャーニーへと誘うことでしょう。
Dan Briggs (BETWEEN THE BURIED AND ME), Richard Henshall (HAKEN), Matt Lynch (TRIOSCAPES, ex-CYNIC), Pete Jones (ex- HAKEN) というまさにモダンプログレッシブを象徴する賢哲が参集した NOVA COLLECTIVE。彼らが宿した清新なる息吹は、音楽が最も革新的で創造的だった70年代の空気を濃密に吸い込み、芸術のあり方を純粋に示しています。
確かにメンバーは全員が超絶技巧の持ち主ですが、アルバムにエゴを感じさせる陳腐な曲芸は一切存在しません。存在するのは、楽曲の一部と化したエレガントで流麗なリードパートとアンサンブルのみ。各自が秘める、描かれた設計図をグレードアップさせるようなインテリジェンス、即興の妙こそがまさに一流の証明だと感じました。
勿論、クラッシックなフュージョンサウンドが基幹を成している “The Further Side” ですが、”State of Flux” を聴けばバンドが “新たな集合体” を名乗った意味が伝わるでしょう。MESHUGGAH と同等の緊張感、ヘヴィネス、リズムの錯綜が、エレピを核とするレトロなフュージョンサウンドを伴って再現される Tigran Hamasyan も驚愕のニューフロンティアがここにはあります。70年代には存在し得なかった、正確無比なシュレッド、硬質でDjenty なリズム、そして Jamie King による極上のプロダクションは “フュージョン” の極地、最先端を提示し、彼らの存在意義を強くアピールしていますね。
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38. CyHra “LETTERS TO MYSELF”
IN FLAMES の崇高と誉を築いた二人の英傑、Jesper Strömblad と Peter Iwers が再び鼓動を重ね共闘を決意した新バンド CyHra。さらに ex-AMARANTHE の Jake E、ex-SHINING の Euge Valovirta、LUCA TURILLI’S RHAPSODY の Alex Landenburg で集成したバンドは、メンバーの過去と未来を率直に投影した “Letters to Myself” でその鮮烈なる月明かりを世界へと注ぎます。
Jesper と Peter の再結集に、あの慟哭と扇情の “メロデス” サウンドを期待し望むファンも多いでしょう。しかし、グロウルの存在しない CyHra は当然 “メロデス” ではありません。
勿論、時に Jesper のトレードマークである重厚でメロディックなギターハーモニー、トーン、リフワークは “Colony”/”Clayman” さらにはよりコンテンポラリーな傑作 “Come Clarity” の面影を効果的に感じさせますが、バンドの本質は Jake の伸びやかでエモーショナルな歌声を軸としたウルトラメロディックなモダンメタルに在るのです。
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39. SONS OF APOLLO “PSYCHOTIC SYMPHONY”
古今無双の勇士達が肝胆相照らすメタル/ロックシーンのドリームチーム SONS OF APOLLO がリリースした、威風堂々たるデビュー作 “Psychotic Symphony”。夢劇場のロックサイドを司り、そして幽寂に退場した Portnoy, Sherinian、二人のソウルメイトを軸として紡がれる類まれなるシンフォニーは、芸術の神アポロンの遺伝子を稠密なまでに引き継いでいるのです。
アルバムはオリエンタルなイントロが印象的なオープナー “God of The Sun” で早くも一つのクライマックスを迎えます。Jeff の雄々しき歌唱と Mike のシグニチャーフィルが映える11分のエピックにして三部構成の組曲。まさにファンがバンドに待ち望む全てを叶えた濃密なるプログメタル絵巻は、静と動、美麗と衝動、プログレッシブとメタルをすべからく飲み込み卓越した技術と表現力でリスナーの心を酔わせます。
とは言え、アルバムを聴き進めれば、SONS OF APOLLO の本質がプログメタルよりもルーツであるクラッシックなハードロックやプログロックに一層焦点を当てていることに気づくでしょう。
「確かにオリジナルコンセプトはプログメタルだったんだ。だけど作曲を始めると、完全に異なる方向へと進んでいったね。僕たちのクラッシックロックやハードロックからの影響が前面に出て来て、それに従うことにしたんだよ。新たなサウンドを創造したと思う。」
そう Derek が語るように、SONS OF APOLLO は “Psychotic Symphony” でプログメタルを切り札、エッセンスの一つとして、よりマスリスナーへとアピールする普遍的でオーガニックな “ロック” を追い求めたと言えるでしょう。
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40. VEIL OF MAYA “FALSE IDOL”
スメリアンの巨人、プログレッシブデスコアの先導者 VEIL OF MAYA がリリースした、メタルの領域を拡大しエクレクティックに羽ばたく新作 “False Idol”。オーガニックかつ複雑な、アートロックやアヴァンギャルドの世界へとより接近した真なるメタルアイドルは、その偉大なる変革を推し進めて行きます。
電子の海で揺蕩うコズミックなイントロ “Lull” に導かれ幕を開けるオープナー “Fructure” はバンドのクリエイティブな進化の象徴です。”Unbreakable” を再訪するかのようなクリケットを活かしたマスマティカルでグリッチーなギターリフと、アトモスフェリックなシンセサウンドの奇想天外な融合は、メタルからの Kendrick Lamar や Flying Lotus への回答とも言えるほどに瑞々しく創造的です。
「実際、僕は最近はあまりメタルを聴いていないんだよ。だから君がコンテンポラリーなジャズや、Hip Hop、エレクトロニカなんかの影響を発見して言及してくれたことは嬉しいね。」 Marc はそう語ります。「少なくとも僕は、新たな要素を加えることは、メタルの進化を促す良い方法だと感じているよ。」 とも。
確かにアルバムには、現代的なジャンルのクロスオーバー、音楽のモダニズムを感じる場面が多く存在します。同時にそれは、すでに “Djentrain” を降りたバンドの新たなる目的地なのかも知れませんね。