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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JUDAS PRIEST : INVINCIBLE SHIELD】


COVER STORY : JUDAS PRIEST “INVINCIBLE SHIELD”

“In The World Of Heavy Metal, The Band, The Fans, The Metal Community, It’s All About The Invincible Shield. It’s Defending The Faith. We’re Still Defending The Faith, All These Years Later.”

INVINCIBLE SHIELD


「でも、それがヘヴィ・メタルだろ?」
Rob Halford の口癖です。Rob にとっては、すべてがヘヴィ・メタル。正しくて、善良で、適切で、生命の活力に満ちたものはすべて。メタル・ゴッドであることは、そのクールな肩書きと同じくらい責任重大だと Rob は言います。ただそこに浸っているだけではダメなんだと。挑戦し続けろと。心配はいらない。メタルには困難や逆境を跳ね返す “回復力” が備わっているのだから。
「人生で困難に直面し、それを乗り越え、以前よりも強くなって戻ってくることができたとき、自分の中で何かが変わる。これは、世界中のパンデミックに巻き込まれた多くの人々に起こったことだと思う。私たちは皆、同じような経験をした。友人に会えず、家族に会えず、メタルのショーに行けないのはとても辛いことだった。音楽が私たちを生かしてくれた。みんな家で音楽を聴き、テレビを見たり、映画を見たりしていた。
もちろん、Richie の人生を変えるような心臓の病は、彼を人間として変えた。そして、おそらく私の癌も同じだった。どちらも人生を奪う可能性があるのだから。がんは命を奪い、心臓病は命を奪う。でも、素晴らしい医療チームや素晴らしい人たちが一緒に働いてくれているからこそ、まだここにいることができる。だから、このアルバムには、これまでになかったような要素が含まれているのかもしれない。たくさんの感情があって、”復讐の叫び” 以上に人生を少し違った形で理解できるようになったんだ。だから、JUDAS PRIEST というバンドにとって、私たちのメタルにとって、これはとても特別なことなんだ。”Invincible Shield” に収録されている曲の全てに、人生を上昇させる力を感じることができる」
Rob の出立ちはすでにメタルを体現しています。黒いシャツ、室内でサングラス、スキンヘッド、大きな白いサンタヒゲにピアス。しかし、それよりも彼の態度や物腰、そして哲学にこそ、メタルの何たるか、なぜ彼がメタル・ゴッドなのかが詰まっているのです。

JUDAS PRIEST のデビュー・アルバム “Rock-A-Rolla” から半世紀を経た72歳の Rob は、今でもヘヴィ・メタルに夢中です。
「今は SLEEP TOKEN に夢中なんだ。彼らは本当に面白いと思う。ネットで調べて、彼らが誰なのかとか調べたんだ。メタル・ゴッドと Vessel のセルフィーが撮りたいよ。音楽的にも、彼らを特定するのはとても難しい。彼らの音楽を聴いていると、ミュージシャンとして興味をそそられるんだ。いろいろなところに行っているし、それができるバンドは今のところメタル世界には他にいないと思う」
あとは今でも猫に夢中。
「今、猫のTシャツを100枚くらい持っていると思う。以前、ベンという美しい猫を飼っていたんだけど、長生きして、突然亡くなってしまったんだ。家族を失うような感じ。でも、いつも旅に出ていて、家には誰もいないから、飼うのはちょっと大変だった。
うちの猫は猫用のホテルがあまり好きじゃなかったんだ。だから、毎週土曜日に私のインスタグラムで猫のTシャツを着て、その埋め合わせをしているんだ。いつまで続くかわからないけどね。
メタルと猫には共通点があるよ。それは、自立心だ。それがわかったのは、特にメタル・ミュージシャンが猫と一緒に写っている写真集を見たときなんだ。本当に強い男たちが猫を飼っている。でもね、私たちは は自分の猫のことを知っていると思っているけれど、猫はもっと私たちのことを知っている。そして、彼らはとても個性的で、まるで “俺の能力を見ろ” と言っているかのようにこちらを見ている。まさにメタルだ。私はそれが好きなんだ。彼らは美しい生き物だよ」

“Stranger Things” でメタルが注目を集めたことにも、うれしさを隠せません。
「私は、2wo が Kate Bush が “Strangre Things” で弾けたような瞬間を迎えるのを待っている。TikTok世代の子供たちは、それがどこで作られ、何年前に作られたかなんて気にしない。素晴らしい曲だ。そして2wo のアルバムにも同じような本当に強い瞬間がいくつもある。私はボブ・マーレットと知り合った。彼は John Lowery (John 5) というギタリストのことを教えてくれた。私は彼に、”一緒に何かできないか?”と言ったんだ。あのデモは素晴らしいよ。
それから数週間後、私はニューオーリンズにいた。街を案内してくれる友人と一緒だった。彼は “あれが Trent Reznor のスタジオだよ。入って挨拶したら?”。それでスタジオに入った。そして Trent がやってきて、”ああ、最高だ!君に会えてよかったよ、僕はプリーストの大ファンなんだ!” って。一緒にお茶を飲んで、ケーキを食べて、話をした。
2wo のデモ音源をかけると、Trent が乗り気になってきた。アルバム全部を聴いて、彼が言ったんだ。”これをコピーして、僕に預けてくれないか?”
最終的なミックスを手にしたとき、私はただただ仰天したんだ。オリジナルのデモから確実に変化していた。”I Am A Pig”, “Leave Me Alone”, “Water’s Leaking”…これらは今でもいい曲だ。だからね、TikTokの瞬間を2wo にも持ってこよう!」
72歳となった Rob は、今でもこれだけ精力的に活動できるのは、メタルのおかげだと考えています。
「メタルは若さを保つ…それは真実だと思う。メタルの感情は、体にも心にも魂にも精神にも、とても大きな報酬を与えてくれる。そして、エネルギーに満ち溢れ、熱意に溢れ、闘志を燃やし続け、メタル信仰を維持し続ける。
私は幸運な男だ。50年以上もメタルを歌い続けてきたし、その声はいまだに、自分がやりたいと思う仕事をこなせるだけの能力を保っている。それでも、このアルバムでは、ファンに最高のヴォーカル・パフォーマンスを提供するために、本当に懸命に働いたんだ」

メタルには、宗教や人種、性別に文化の壁を越える生命力や感染力が秘められています。
「私たちは、メタルと共に世界中を旅する機会に恵まれている。とても感謝しているんだ。おそらく、最も最初のユニークな経験のひとつは、かなり昔に遡るが、初めて日本に行ったときだ。日本の文化について少しは知っていたけれど、実際に行ってみて、日本は伝統や文化がまだ非常に強力でありながら、この種の音楽が受け入れられていることのバランスを見ることは、とても特別で驚きだったんだ。JUDAS PRIEST は、日本に行った最初のバンドのひとつで、最初メタル・バンドだった。時は他のバンドはほとんど来日していなかった。私たちは日本のメタルの扉を開いたんだ。
子供の頃は夢物語でしかなかったような場所に実際に行ってみると、世界がいかに小さいかがわかる。そして、私たちはみんなつながっているんだということを教えてくれる。同じ言葉を話さないかもしれないけれど、私たちは皆、人生の中で似たようなことをたくさん経験し、それが私たち人類を結びつけている。浮き沈みがあり、笑いがあり、涙があり、葛藤があり、成功がある。世界のどこへ行っても同じだよ。
このことは、私が何年も前に刻んだ、偉大で美しい祝福のひとつ。この祝福によって、私は人生に対する理解を深め、人間に対する理解を深め、私たちは皆同じなのだということを理解することができた。宗教が何であるか、性的アイデンティティが何であるか、政治的信条が何であるか、それは問題ではないんだよ。私たちは皆、人間であり、この地球上にいる短い時間の中で、皆同じような人生を歩んでいる。だから、私たちはできる限りのことをしなければならないんだ。
だから、世界中を旅して、美しいメタル・マニアたちにたくさん会えることは喜びであることを表現できればと思うよ」
ロックの殿堂入りスピーチでは、メタルの寛容さと多様性、包容力を声高に主張しました。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」

メタル世界では、アーティストもファンを包容し、ファンもアーティストを包容します。
「ライブでファンとつながるのはいつだって大事なことだ。というのも、JUDAS PRIESTは最も古いメタル・バンドの一つだからね。だから、好きなバンド、JUDAS PRIEST を観に来るのは、ひとつのイベントなんだ。何度も言っていることだけど、私たちはファンなしでは何もできないんだ。どんなバンドでも、ファンなしには何もないという事実を忘れてはならない。PRIESTは50年以上もの間、そのつながりを作り続けてきたんだ。
そして完全な包容力というのは、私たちメタル・コミュニティの中でも大好きなところだ。どんなバンドにハマろうが、どんな外見だろうが、誰を愛していようが、何だろうが、どれだけお金を持っていようが、そんなことは関係ない。ここでは皆がメタルを愛しているのだから。その重要性は、音楽よりもずっと先まで及んでいる。もし君がメタル・ヘッズなら、メタル・ファンなら、より良い精神状態になるためのすべての特性を持っている。人生のあらゆる場面において、アーティキュレーションがより強く働くようになる。メタルは、私たちが人間であるための、とてもとてもパワフルな要素なんだ。
私がメタル・マニアを愛していると言うとき、それは本当に心から純粋に言っているんだ。なぜなら…… “ファミリー” という言葉を使うのは大げさだけど、それこそが私たちが作り出しているもので、ヘヴィ・メタル・コミュニティというファミリーを作り出しているんだ。バンドに関係なく、ファンひとりひとりと特別な関係があるんだよ。
何千人もの群衆を眺めるとき、私は君たち一人一人を見ている。なぜなら、君たちがこのバンドの音楽を自分の人生に取り込んでいることを知っているからだ。多くの PRIEST ファンにとって、自分の人生の物語は音楽と共にある。
うまく言えないけど、私が何を言いたいかわかる?このバンドと長く一緒にいて、私たちが “Breaking The Law” を演奏したら、突然80年代に戻り、”Painkiller” を演奏したら、突然90年代に戻る。こんなタイムマシンのような感動が共にあるんだ。そしてまた、そのことを私は忘れてはいない。だから、ファンを大切にし、ファンを見守るという責任は、どんなバンドに所属していても、本当に重要なことなんだよ」

徹頭徹尾ヘヴィ・メタルな JUDAS PRIEST 19枚目のアルバム “Invincible Shield” に関しては、熱意に加えて、大きなプライドも加わることになりました。
「自分を高みに置きたくないんだけど、アルバム・タイトルはいつも私が考えているんだ。ヘヴィ・メタルの世界では、バンド、ファン、メタル・コミュニティ、すべてが “Invincible Shield” “無敵の盾” なんだ。それは信念を守る “Defenders of the Faith” ことだ。私たちは、何年も経った今でも、そしてこれからも、信念を守っていく」
これは Rob 心からの本心。しかし、”Invincible Shield” は、どんな逆境にも決して引き下がらない、決して負けないという JUDAS PRIEST の価値観、メタルの回復力を如実に反映した作品でもあるのです。
2018年の “Firepower” でバンドはギタリストの Glenn Tipton がパーキンソン病を患っていることを発表しました。そして彼らはアルバムでの Glenn の仕事を称え、彼はフルタイムのツアーには参加しないが、ステージには随時参加すると付け加えました。
今でも Glenn がスタジオにおける殺戮機械の中心的存在であり続けていることは明らかな光。しかし、それだけではありません。現在に至るまで、Rob は前立腺がんの手術と治療を受けていて、一方、ギタリストの Richie Faulkner は、2021年にケンタッキー州で開催された Louder Than Life フェスティバルで演奏中に大動脈瘤で九死に一生を得ます。医師は、彼が生きているのはただただ幸運だと告げました。「彼の心臓は爆発し、メタル・ハートになった」と Rob は言います。

逆境に真っ向からぶつかり、今を全力で生きることを常にモットーとしてきた JUDAS PRIEST。”Invincible Shield” にはその哲学すべてが注がれています。古典的なメタルの繰り返しとは程遠く、すべてをバフアップし、アップデートし、全体を新素材で強化しています。
「死を免れたとき、人生観が変わるんだ。何が起こったのか、Richie とじっくり話したことはない。でも、私自身の個人的な経験から言うと、癌から命を救ってくれた素晴らしい人たちのおかげで、普通なら直面する必要のないような考え方が、自分の中で再調整されるんだ。このアルバムを書いているとき、その生存本能は、おそらくこれまでやったどのアルバムよりも強く働いている。
バンドをやっていると、自分の感情についてあまり語らないものだ。たぶん、それは男らしさとか、そういうものなんだろう。でも、演奏では確かに全員からその感情を感じることができる。みんな全力なんだ。みんないつも全力なんだけど、今回はただ感情的な言及があるんだ」
不屈の魂が間違いなく、”Invincible Shield” に異様なまでの重厚さとパワーを与えています。加えて、やはりメタルに対する愛と喜びがここにはあります。
「いつもまだやれるのか?と自問自答するよ。だけどね、レーベルが契約上、もう1枚アルバムを出せと言うからレコードを作っているんじゃない。もっとメタルを作りたいという、本物の愛と欲望のためなんだ」

Richie と Glenn の関係にも、Rob は目を細めています。
「彼らの関係は本当に美しい。ヨーダとルークを見ているようだった。これは、私が感じたことを表現しようとする滑稽な方法だけど、本当なんだ。プロデューサーの Tom Allom は大佐だから、Richie は Glenn のことをメタル将軍と呼び始めたんだ。これは、50年前の最初の瞬間から、”Invincible Shield” に至るまで、Glenn がヘヴィ・メタルに残した足跡への美しいオマージュだと思うんだ。
私は Richie が Glenn に育てられたのを見られたし、遂には Glenn が “どうやるんだ?そんなことをするギタリストは見たことがない” とまで言うようになった。だから、音楽的な意味でも、個人的な意味でも、2人の関係が発展していくのを見るのは、とても深く、とても感動的だった。パーキンソン病が Glenn の明瞭な表現を残酷なまでに奪ってしまった。だけど素晴らしいのは、彼がまだこのアルバムに参加していることだ。作曲という意味では、彼は初日から参加している。私たち3人ですべての曲を書いた。シンガーとギター2人の編成は、私たちにとってとてもうまく機能しているように思うし、今でもそうだ。そこから始まって、レコードを作るためのあらゆる障害を乗り越えていくんだけど、Glenn はそのすべての過程に立ち会ってくれるんだ」
2024年に、JUDAS PRIEST が存在する意味とは?
「今を生きている、”Relevant” であることだ。Relevant でなければ意味がない。昔はノスタルジーとか、ヘリテージ (遺産)・バンドとか、クラシック・メタルとか言われるのが大嫌いだったんだ。今はそれを受け入れている。なぜなら、それが自分たちの一部だからだ。たしかにそうした言葉はこのバンドに付けられるべきだ。でも、その言葉のリストの一番上にあるのは、”今を生きる” だと思う。このアルバムは2024年のメタルだ。人々は、このバンドがすべてであり、常に本当の目的と妥当性を求めてまだここにいる。それを管理することで、この言葉が現れる。それこそが今を生きることなんだ」

挑戦的といえば、Rob は “Nostradamus” での挑戦が正当に評価される日を待ち望んでいます。
「”Nostradamus” は眠れる巨人だと感じている。本当にそう思う。私の頭の中では、この作品はクラシック・オペラとして創作された。交響楽器の演奏があってもいい。私の中では、シルク・ドゥ・ソレイユがノストラダムスの物語を語るサウンドトラックとして作られるのが見えている。こうしたチャンスはすべて、探求されるのを待っている。おそらく、私が死んだあとに実現するだろうね。素晴らしい。プリーストのレパートリーの中でも、非常に過小評価され、過小露出されている作品であり、真剣にもう一度見直す必要があると感じている。このアルバムは、私個人にとって、とても重要な意味を持つものだから。あのアルバムのボーカル・パフォーマンス、全員の演奏、アレンジ、制作したすべてのことが、とても楽しかった。傑作だよ。本当にそうだ。私は音楽について詳しいから、この言葉は滅多に使わないんだ。でも、メタル界における位置づけとしては、本当に重要な作品だ」
現在、アリゾナに本籍を置き、メタル界で最も知名度が高く象徴的な人物の一人である Rob Halford は、ある意味では英国ミッドランズ出身の一人の男にすぎない。英国訛りが残っていて、非常に英国的なユーモアのセンスだけでなく、彼は自分のやっていることを真剣に受け止め、他の誰かにやってもらうことを期待しない自他ともに認める職人なのですから。
「私が誰で、どこから来たのかという事実は、私の人生にとって絶対に欠かせないものだ。ウェスト・ミッドランズ、ブラック・カントリー、メタルの故郷。それは素晴らしい場所だ。ここにいて、キッチンに座っているだけで、こんな場所は他にない。LED ZEPPELIN, BLACK SABBATH, MOODY BLUES, DURAN DURAN など、ここから生まれた音楽は美しい。アメリカにいる時間は長いけど、家に帰るのが待ちきれないこともある。飛行機を降りると、ヒースロー空港まで迎えの車が来て、それに乗って荷物を置いて、チップス屋まで歩いて行って、ピクルス・エッグを買うんだ」
平凡もまた彼の、メタルの一部なのです。それでも平凡は決して長くは続きません。ヘヴィ・メタルの引力、興奮と冒険、生きている実感、そして時間を無駄にしたくないという感覚は、あまりにも強く強烈です。
「今日は “HOMES UNDER THE HAMMER” を観ようって思う日もあるんだ。年寄りがやるようなクソ映画をね。でも20分後には、早くスーツケースに荷物を詰めて旅に出たいと思うんだ。
スーツケースを取り出してドアに鍵をかけ、12ヵ月間戻ってこないということが、どれだけ恵まれているか、どれだけありがたいことか。それが自分の仕事に対する愛と情熱でないとしたら、何がそうなのか私にはわからない。私たちはまだバンに乗っている。ヘヴィ・メタル、それが私たちのやるべきことなんだ」


参考文献: KERRANG!:“When you’ve cheated death, it changes your outlook on life”: Rob Halford takes us inside Judas Priest’s powerful, emotionally real new album

STEREOGUM:We’ve Got A File On You: Judas Priest’s Rob Halford

GQ:Rob Halford: ‘I loved drinking and drugging… even though the end game was self-destruction’

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【METALLICA : 72 SEASONS】


COVER STORY : METALLICA “72 SEASONS”

“We’re All Really Average Players, But When You Put Us Together, Something Happens”

72 SEASONS

METALLICA の前作 “Hardwired… To Self-Destruct” から7年。数多の受賞歴があり、数百万枚の売り上げを誇るモンスター・バンドにとっても、11作目となる “72 Seasons” は、世界的なパンデミックの余波でまったく新しい状況の中の創造となりました。
パンデミックの坩堝の中で生まれた “72 Seasons” は、単なるニューアルバムではありません。コロナ以前に比べて、ポップカルチャーの中で、より大きな位置を占めるようになったバンドの再登場という意味合いが強いのです。その理由のひとつは、1986年の名曲 “Master of Puppets” が Netflix のレトロSFシリーズ “Stranger Things” で大きく取り上げられ、大きな後押しを受けたこと。もうひとつは、Lars Ulrich, Kirk Hammett, Robert Trujillo が昨年ブラジルのステージで、James Hetfield が観客に少し年をとって不安を感じていると認めた後に、3人でこのフロントマンを抱きしめたヴァイラル・ビデオの存在。METALLICA が Ozzy Osbourne とツアーを行い、テストステロンとビールを燃料とするスラッシュ・マシーンだった80年代には、こんなことは考えられませんでした。Lars Ulrich が振り返ります。
「バンド仲間をハグすることは、僕らの楽しみだよ。そして、お互いへの愛、40年以上経った今でもつまずきながらもやっていけることへの感謝をオープンにする。俺たちはそういう面をとても心地よく感じているんだ。俺たちは、お互いにオープンで透明な関係であろうとしている。30数年前、自分が20歳の時に “メタル・ロボット” であるため感情を持つことが許されなかった時代とは対照的だ。当時は、人間的な要素は、ある意味、置き去りにされていたんだ。ステージから降りたとき、俺たちはよく議論したものだ。 “あれは失敗した” “いや、俺のミスじゃない”。それは、ある種の完璧さを求める、狂気じみた、人間離れした努力だった…それが達成可能かどうかもわからない。でも今は、加齢に伴う自分たちの姿に満足し、”あの曲のあの失敗、面白かったよね?”と思えるようになった。今、俺たちは失敗を笑い、冗談にしているんだ。それでも俺たちは毎晩、ベストを尽くそうとする人間なんだよ」

つまり、結局のところ、2023年版の METALLICA はまったく別物なのでしょう。現在の彼らは、2004年に公開されたドキュメンタリー映画 “Some Kind of Monster” で見られるように、単に高額の精神科医を雇って創造性の違いを調整したり、バンド間の対立を仲裁したりすることはありません。彼らは実際に自分たちの感情について話しています。ステージ上でさえ。だからこそ、”72 Seasons” に収録された楽曲は、これまで以上にパーソナルなものになっているのです。以前のように必ずコンセプトや決まりごとから始まった作品ではなく、自らを曝け出し、初めて本音や伝えたいことをむき出しにしたアルバムなのかもしれませんね。
音楽的には、このアルバムはバンドの42年のキャリアを概観するような内容になっています。タイトル曲や “Shadows Follow”, “Too Far Gone?” は METALLICA 初期の熱狂的なスラッシュを蘇らせ、”You Must Burn!” は “Black Album” に収録されていたようなグルーヴを宿し、”Sleepwalk My Life Away” と “Chasing Light” では LORD/RELORD 時代のむき出しのロック・グルーヴを披露。一方、リードシングルの “Lux Æterna” は、METALLICA の初期のインスピレーション NWOBHM, 具体的には DIAMOND HEAD に向けたトリビュートのよう。11分のクローズ曲 “Inamorata” は、KYUSS と METALLICA 1986年のインストゥルメンタル曲 “Orion” の両方を呼び起こすことに成功しています。さて、このキャリアを包括するような新たな歴史の1ページは、いかにして生を受けたのでしょうか?
当初、バンドは毎週 Zoom ミーティングを行い、つながりを保ちながらアイデアを伝えていきました。遠隔地でのコラボレーション最初の試みは、2020年4月に各メンバーの自宅スタジオで録音された “Blackened” のアコースティック・バージョン(Blackened 2020)でした。そこからやがて、メンバー間の会話はより充実した音楽を作ることへと変わっていったのです。
Kirk Hammett が当時を振り返ります。
「ロックダウンが行われたとき、僕はかなりイライラしていた。両手を縛られたような気分だった。Rob(Trujillo) と “どうするんだ、このままじゃダメだ” っていう会話をしたのを覚えているよ!”こんなに時間を失うわけにはいかない!どうやってこの時間を取り戻すんだ!” とね。でも、Rob が言ったことがすごく心に響いたんだ。彼は “こんな時こそポジティブであれ。クリエイティブであれ” と言った。僕はそれを心に刻んだんだ。
今は、音楽的なアイデアがありすぎて、混乱してしまうくらいだ。そうして、ソロEP “Portals” の2曲を完成させることができたし、テクニックを鍛え、ずっとやりたかったギター・プレイに取り組むことができたんだ。時間が出来て、とても幸運だったと思えるよ。ロックダウンは、多くの人にさまざまな影響を与え、中には良くない影響を受ける人もいた。でも僕は Rob のおかげで、ポジティブに、要領よく、生産的でクリエイティブに過ごせたんだ」

そうして、4人の怪物たちは、何百ものアイデアを纏めるために選別し始めました。しかし、Zoom の喜びも束の間、何百、何千マイルも離れた場所にいる彼らは、これまで遭遇したことのない難題に直面しました。プロデューサーの Greg Fidelman がLAにいて、METALLICA のメンバーは西海岸に散らばっていたため、文字通りバラバラで、Lars はこの状況を “クラスター・ファック” と表現していました。
月日が流れ、世界が変わり始めた2020年11月、バンドは “All Within My Hands” のために集まり、実際に同じ空間で初めて新曲に取り組みます。それ以降、メンバーが家族の元に戻る前に会ったり、2021年にキャンセルされたライブを実現したりと、非常にストップ・アンド・ゴーなプロセスでしたが、ゆっくりと、しかし確実に、レコードが見えてきたのです。Lars がそのプロセスについて振り返ります。
「時には、より直接的で明白なビジョンが目の前に示されることもあれば、より本能的で言葉にならないこともある。2008年の “Death Magnetic” は、リック・ルービンと初めて組んだアルバムで、自分たちが何をしているのか、自分たちは何者なのか、これまでどこにいたのか、これからどこへ行くのか、アイデンティティや方向性について話し合うことがとても多かったんだ。こんな風に、各レコードは常に独自の旅であり、独自の存在なんだけど、このレコードはまるで偶然に突然出会ったようだった」
“音楽が現れた時、自分たちの方向に向かっているように感じた” と、Kirk は懐かしそうに振り返ります。
「これは僕らにとって初めてのことだよ。これまでは何度も、自分たちが考えるコンセプト通りに音楽を操作する必要があると感じていたんだけど、今回はそれがなかった。リフが現れて、一緒になって、僕たちはただ邪魔をしないようにするだけだった。音楽が飛び立つのを待つのが好きで、僕はその軌道を維持するためのガードレールに過ぎないんだ」
Lars の説明によると、具体的な目標や方向性に関する “ロッカールームでの会議” はなく、計画に関してはかなりルーズな感じだったと言います。パンデミックという外界の不確実性に囲まれていたため、より直感的に、考えすぎず、Kirk が言うように、音楽の流れに身を任せる必要があると感じていたようです。
「形にはなってきたけど、ゴールはなかった。というのも、創作活動でやっていることの大部分は、心臓や腸など、体の一部から生まれるものだと思うんだよな。もしそれが重くなりすぎたり、頭でっかちになったりすると、少し強引になってしまうし、過去に俺たちが頑張りすぎてしまったこともたしかにあった。だから “Hardwired” やこのアルバムは、曲作りのプロセスを可能な限り有機的なものにすることに重きを置いていると思う」

この自由で無秩序な作業方法と、作曲とレコーディングの過程でバンドに与えられた余分な時間は、音楽とそのクリエイターに余裕を与え、それまでとは全く異なるダイナミズムを植え付けました。Lars はそれは METALLICA にとって驚きだと言います。
「この2年間の制作期間中、誰かが声を荒げたり、議論や衝突があったとは思えない。40年も一緒にいれば、当然ぶつかることもあるし(笑)、それは過去によく語られてきたし、映画などでもよく記録されている。でもこれは、METALLICA がこれまでに作ったレコードの中で、断然、100パーセント、摩擦のないレコードだ。
結局のところ、俺らは自分たちがやっていることをとても愛しているし、自分たちが持っているものをとても大切にしているから、その道を旅するにつれてより大切にするようになるんだ。METALLICA を台無しにするようなことはしたくないから、もし何か問題が起きたら、すぐに手を引くんだ。今は互いにもっと共感できるようになったし、お互いを信頼して、すべての意見の相違が口論になる必要はないと思えるようになったのかもしれない。以前は、自分自身や全体像に対する信頼や信念が足りなかったから、あらゆることが喧嘩になったものだけど、今はそうではないんだよ。つまり、”過去” とは違う環境だ。このバンドにいて一番いいのは、安全な空間のように感じられることで、みんながそれに貢献している。みんながそれをとても大切にしているんだ」
James Hetfield は、METALLICA という “乗り物” があるからこそ4人が輝くと考えているようです。
「俺たち4人は個々でいると、マジで平均的なプレイヤーだよ。だが、4人が集まると何かが本当に起こるんだ。だから、基本的に他のミュージシャンとジャムるのは、俺にとって悪夢のようなものなんだ。俺はとてもシャイだから。1万人、2万人の前に立つよりも、誰かと1対1で座っている方がずっと不安なんだ」
Rob Trujillo も METALLICA の絆を感じています。
「METALLICA は家族なんだ。僕は家族に加わったんだよ。新しい兄弟を受け継いだ。ほとんどの人が知っているように、あるいは知っていてほしいのだが、特にこのようなバンドに参加するときは、責任が生じるんだ。もちろん、演奏できることは必要だし、信頼もパフォーマンスも必要だ。でも同時に、家族の一員として、その人の個性に合わせることも大切なんだ。METALLICA のメンバーはみんな違うし、同じではない。だから、物事を解決するためには、たくさんのコミュニケーションが必要なんだ。そして時には、自分の兄弟と同じように、完全に怒っている自分に気づくこともある。自分の家族と同じように、性格の違いを乗り越えていかなければならない。それと同時に、本当に大切なのはサポートだ。兄弟の誰かが落ち込んでいるとき、どうすれば彼を助けられるかを知っておかなければならないよ。METALLICA にいることは、そういうことなんだ」

METALLICA が闇を知らないわけではありません。”Master Of Puppets” での薬物中毒、 “One” での恐ろしいまでの孤独、”Fade To Black” での自殺願望など、彼らの作品は決して祝福と幸福に満ちたものではありませんでした。しかし、そんな中でも “72 Seasons” は、人間の大きな苦しみと不確実性を背景にした、彼らの最も暗い作品かもしれません。Kirk が説明します。
「ありきたりだけど、音楽は僕らの感情的、精神的、霊的な状態の反映なんだ。逆に言えば、”そうであってはならない” ということが理解できないんだ!僕たちはよく働くバンドだ。ロックダウンで閉じ込められたとき、僕らのエネルギーをどうやって取り除くんだ?僕たちはそれを音楽に注ぎ込む。だから、多くの音楽はとてもエネルギッシュなんだ。バラードがないのは、バラードが現れなかったからだ、兄弟。素敵で優しくて繊細な音楽はないんだ。この感情をカタルシスのある方法で吐き出したいんだ」
確かに、バラードはありません。77分という長い時間をかけて、”72 Seasons” は猛烈な勢いで駆け抜けていきます。このバンドは明らかに、自分たちの才能を誇示する気はなく、代わりに内なる猛り狂った地獄を共感させることを選んだのです。
しかし、この強烈なメタルの狂気は、”72 Seasons” の一つの側面に過ぎません。実際、James Hetfield はキャリアの中で最も露骨で脆弱な歌詞を残しています。人生の最初の18年間は、その後の人生に影響を与えるというコンセプトのもと、72 Seasonsはノスタルジア(”Lux Æterna”)、自傷行為(”Screaming Suicide”)、内省(”Room of Mirrors”, “Sleepwalk My Life Away”)など一見暗い内なるテーマを扱っています。Lars が説明します。
「このアルバムのテーマは、人生の最初の過程で経験したことが、いかに自分を形成し、自分が下す決断に影響を与え続けるか、そして自分が何者であるかを決めるということ。James は、人間のすべてが、最初の “72シーズン” で形作られるというコンセプトを持っていたんだ」

2019年10月、フロントマンは依存症をめぐる問題で2度目のリハビリ施設に入りました。”72 Seasons”のコンセプトは、人生の形成期である18年間と、それが最終的にどのように自分自身のあり方へと影響を与えるかだと説明した James 自身は、厳格なクリスチャンの家庭で育ち、13歳の時に両親が離婚。16歳のとき、母親はがんで亡くなっています。James は “大人は誰しも子供時代の “囚人” という言葉を使っています。
「James は、自分が経験してきた多くのことを、とてもオープンにし、透明にしているように感じるんだ。その多くが歌詞に現れていて、彼が歌詞を使ってコミュニケーションをとることをとても支持している。彼の口を塞ぎたくはないんだよ」
歌詞を読み解くと、憂鬱、逃れられない闇、誘惑、分裂、救済への願望など、明確なテーマがあり、その根源は魂の探求と隠れた悪魔との対峙に費やした結果だろうと読み取れます。しかし、 Lars は James の言葉にポジティブなものも見出しているのです。
「James は闇と光のコントラストを表現しているんだ。一歩引いて、歌詞や James が今回持ってきたテーマを見てみると、光と闇の両側面や両者の相互作用についてとてもよく感じられる。自分探しや、自分の弱さ、可能な限り透明であろうとすることなど、多くの要素に取り組んでいるんだ」
Kirk も Lars に同意します。
「歌詞が暗いとは思わない。彼は本当に暗いテーマに明るい光を当てているという事実において、非常にポジティブだと思う。それは必ずしも悪いことではなく、誰も触れようとしないようなパーソナルでタブーなテーマにアプローチすることで、みんなに大きな奉仕をしているんだ。そうやって、自分自身を世界に示しているんだ。もちろん、とても勇気のいることだよ。物事のネガティブな面を見ることは、世界で一番簡単なことなんだ。人は3秒でネガティブになれるが、ポジティブになるにはもう少し努力が必要だ。時間が経つにつれて、ポジティブでいること、みんなの幸福を拾い上げることだけでも努力する価値があると気づくだろう。James はこの歌詞をポジティブに捉えているんだ。KING DIAMOND のように究極の終末を語るわけでもなく、デスメタルのようなものでもなく、James は希望について歌っているんだ」
James も光を認めます。
「俺の人生、キャリアにはたくさんの暗闇があった。しかし、常に希望の感覚を持ち、暗闇の中に光を持ってきた。暗闇がなければ光はないのだから。人生には良いことがたくさんある。それに集中するんだよ。そうすることで、人生のバランスをとることができるんだ。誰もが自分の人生に何らかの希望や光を持っているんだ。明らかに、音楽は俺のもの。”Lux Æterna” では特に、コンサートに集まった人たちのことを歌っているんだ。ライブでは音楽から生まれる喜び、生命、愛、そして家族を見ることができ、ただただ高揚する感覚を味わうことができる」

Lars が James と出会ったのが、ちょうど17の時でした。ある意味、原点に戻るような意図もあったのでしょうか?
「バンドの原点を振り返るというより、俺ら自身のストーリーを振り返るということだと思う。長い間活動していると、その境界線は本当に曖昧になるからな。俺は17歳のときから METALLICA に参加しているから、人生のほとんどすべてを METALLICA の出来事と関連付けている。James と俺が出会ってバンドを始めたのが17歳の時だった。その2、3ヵ月後に18歳になったんだ。だから、人生のタイムラインは、基本的にバンドのタイムラインと連動しているんだよ。この2つを別々の軌跡として切り離すことはできないんだ。
もちろん、仲間と一緒に座って、昔話や喧嘩の話などをすることもあるだろう。旅先での話や、さまざまなおかしないたずらについて話すこともある。でも俺は過去にはあまり時間を割かないんだ。むしろ、未来に時間を割きすぎていて、現在には十分な時間を割いていないのかもしれないよな。でも、過去、現在、未来の間で、俺は間違いなくほとんど未来にいる」
ただし、リード・シングルの “Lux Æterna” に初期の METALLICA、もっと言えば NWOBHM の影響を見る人は多いでしょう。
「”Lux Æterna” を書いているとき、DIAMOND HEAD の話は出てこなかったと思う。でも、曲の中で James が “Lightning the Nations” (DIAMOND HEADのデビュー作) と言ったのは、明らかに意識していたよな。正直なところ、歌詞について彼に聞くことはあまりないんだ。でも、 “NWOBHMみたいだ” とか “DIAMOND HEAD みたいだ” とか言われると、なるほどと思うことがあるのは、俺らのことをよく知っているからだろう。専門的なことを言えば、あのリフのキーはAで、NWOBHM の曲の多くもAだった。俺らの曲の大半はEかF#のどちらかだからな。そこまで分解するのは嫌いだけどね」
セカンドシングルの “Screaming Suicide” をYoutubeで見ようとすると、”この曲は自傷行為について話しています” という警告があり、同意する必要があります。その下には自殺ホットラインの番号が書かれています。
「まあ、それは後からついてきたものだ。作っている最中は、どう解釈されるかなんて考えている暇はない。でも、このテーマ、この歌詞の土台であれば、免責事項や情報をパッケージにしたほうが役に立つと思い、選択したんだよ。そして、それは俺にとって本当に、本当に感情的なことだった。発売から1、2日後にコメントをチェックしたのだけど、ファンからのフィードバックには、自分の家族、親戚、友人など、どれだけの人がこのテーマに影響を受けているのかが書かれていて、ただただ驚かされるばかりだったよ。YouTubeのコメントを読んでいると、3つ目か4つ目のコメントには、身近な人の自殺や自殺願望に関するエピソードが書かれていたんだ。俺は涙を流しながら、この感想を読んでいたよ」

40年のキャリアに11枚のアルバム、そして4人のメンバー全員が60歳代を迎えた METALLICA。暖炉の周りに座って自分たちの遺産について反芻していても不思議ではありませんが、実際の彼らは正反対。METALLICA のタンクにはまだ燃料があり、成し遂げるべきことがはるかに残されているのです。ポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーン、DEEP PURPLE などを例に挙げ、Lars は 「彼らが最高レベルでキャリアを続けていることは刺激になるだけでなく、何が可能かを示している」と言います。
「バンドの精神は長く続けることで、僕らはこれを本当に楽しんでいるんだ。この5年、10年の間に、自分たちの境界線と限界を理解し、どれだけ自分を追い込むべきかを理解できるようになった気がする。でも、膝や首、背中、肘、喉など、いろいろなガタがくるのは、これからだよ(笑)。ステージに上がると、やはり疲労が蓄積するから、健康を祈るばかりだよ」
Rob にとっては、”72 Seasons” こそがバンドの最高傑作です。
「僕らにとっての祝福と呪いのひとつは、新しい音楽的なアイデアがたくさんあって、レコードを作るのが楽しいということ。METALLICA のように長く活動しているバンドの多くは、ある時点で行き詰まりを感じたり、高いレベルで創作することが難しくなったりするものだけどね。でも、僕たちはたくさんのアイデア、たくさんのリフ、たくさんの音楽を持っているバンドなんだ。Kirk のリフのストックなんて、何百もあるみたいだしね。だから、僕らが持っているすべてのアイデアを実現するほど十分なアルバムをまだ作っていないんだよ。だから、想像するに、そう、僕らは新しい音楽を作り続けるんだろう。この作品は、僕がバンドをやってきてから一番いい作品だと思う。だから、これからも新しい音楽には事欠かない。ただ、それをやるための時間があるかどうかだ。それは全く別の話だ」
しかし、METALLICA にはまだ野望があるのだろうか?彼らは地球上のほとんどすべてのフェスティバルでヘッドライナーを務め(今秋にはカリフォルニアで開催される大規模フェスティバル Power Trip に出演予定)、7大陸すべてで演奏した唯一のバンドであり、1億2500万枚以上のアルバムを販売し、ビールやウィスキーの自社製品も持っています。さらに、レコードのプレス工場も購入したばかりです。Lars が答えます。
「よし、まだ月でライブをしたことがないから、その方法を考えてイーロン・マスクに電話しようみたいなチェックリストはないんだ。俺にとっては、自分たちを更新し続けることが重要だ。これからの数年間は、自動操縦に陥らず、自分に挑戦し続けるという適切なバランスを見つけることが大切なんだ」
Kirk は METALLICA の音楽の未来について、たとえ自分たちがこの世から去ったとしても遺せるものがあると信じています。
「ロックンロール・バンドの歴史を見れば、僕らはとっくに解散しているはずなのに、解散していないんだ! なぜそうしなかったかというと、僕たちが真の兄弟だからだ、お互いに離れられないと心から思っている。それに音楽が一番大事なんだ!僕たちはいつか死ぬし、賞味期限があるけど、音楽にはそれがない。音楽は生き続ける。楽曲は何年も何年も存在し続けて、聴かれ、発見されるのを待つ。100年後、誰かが “Seek & Destroy” を発見して、何だこれは?となっても、誰も僕たち4人のことまでは気にしないよ!”うわー、あいつら誰だ?長髪の男たち?でも、Enter Sandman” はクールだ”。レガシーとは、エゴの旅であり、ある意味無駄なものなんだよ」

アルバムのタイトルにもあるように、人生の最初の72シーズン (18年) は、その人のあり方を決定づけます。ある人は、子供の頃が本当に自由だった最後の時期だと振り返り、現実の生活に埋没する前に人生の最高のものを経験したと考えます。一方で、幼少期は過去として残し、明日は前よりも良い日であると考える人もいるでしょう。James は親となる事で、そのどちらをも肯定するようになりました。”過去は終わった” と認めることで希望が生まれる。混沌とした子供時代は避けられなかったかもしれませんが、それも過去であり、未来は自身が作るもの。
「人生最初の72シーズンがどんなもので、それが今どんな意味を持つかは、人それぞれだ。ただ、子供を持つことは、自分の子供時代や両親が経験したことを理解するのに役立つのは間違いない。どちらかというと俺は後者だね。親である俺は、”みんな、勘弁してくれよ。俺はただの人間なんだ” って感じだけど、子供のころは、親を神様のように尊敬していた。親は悪いことをしないし、親が言うことは何でも正しいと崇拝していた。でも親も人間だったんだ。世代を超えて、親として、本当に、俺がやりたいことは、自分の親がやったことより、もう少しうまくやることかもしれない。それが、自分に求めたいことだね。努力しなければならないこともあれば、完全に忘れなければならないこともあるし、見つけなければならないこともある。ただ、あれやこれやと親を責めるのはもうやめにしたいんだ。一つ言えるのは、誰にでも幼少期がある。それが良かったか悪かったかは、人生の後半で決めればいい。子供時代を変えることはできないが、子供時代の概念や今の自分にとっての意味は変えることができるから」
黄色のパッケージを選んだのにも理由がありました。
「俺にとっての黄色は、光。光なんだ。善の源なんだよ。だから、黒に対して、本当にポップな光の作品なんだ。俺のビジョンは、もともとこのアルバムを “Lux Æterna” (永遠の光) という名前にすることだったんだ。そして、俺は名前決めの投票に負けたんだけど、これは素晴らしいことだよ。”72 Seasons” は、より噛み砕きやすい曲であることは間違いない。それが何であるかを理解することができる。もう少し掘り下げて、噛み砕いてみてほしいね。でも、あの色は “Lux Æterna” から生まれたものなんだ」

METALLICA のメンバーにとって、72シーズンは複雑な旅路でしたが、最終的には、今日まで存在するメンバー共通の情熱、すなわちヘヴィ・Fuckin’・メタルを発見したことがすべてでした。Kirk が振り返ります。
「僕は機能不全な子供時代を過ごしていた。18歳になる頃には、頭が真っ白になっていたよ。都会で育ったから、あまりにも多くのものを、あまりにも早くから見すぎたんだ。だから、言いたくはないが、50回目のシーズンにはすでに傷物になっていたんだ(笑)。でも、72シーズンという短い期間の中で、いろいろな音楽を聴くことができたのは、僕にとって大きな財産になった。ベイエリアの音楽、ソウル、ファンク、R&B、ラップ、サルサ、ジャズ、クラシックなど、たくさんの音楽を聴いて育ったからね。ハードロックに目覚めたのは12歳か13歳のときで、KISSというバンドは好きだし、LED ZEPPELIN も好き、PINK FLOYD も好き…と思い、そこから始まったんだ。15歳のときに NWOBHM に出会い、JUDAS PRIEST や MOTORHEAD を知り、IRON MAIDEN のファースト・アルバムが発売され…そういったことはすべて72シーズンのうちに起こったことだ!その間に音楽的な情報を得て形成されたものが、今の僕の人生の音楽なんだ。どんな音楽も好きだけど、ヘヴィーでアグレッシブでエネルギッシュでダークな音楽を演奏するのは、心の底から好きなんだ。メタルが僕の72の季節を映し出す鏡であり、実際に過去に戻らなくても、あの頃のメタルを聴けばそこに行くことができる。それは健全なことだ」
Lars はどうでしょう?
「テニスをする家庭で育ったから、自分の中ではテニスで生きていくと思っていた。デンマークで育ち、テニス選手として国のトップ10にランクされたのに、ロサンゼルスでは、自分が住んでいる通りのベスト10に入ることもできないなんて、思いもよらぬ衝撃だった。だから、音楽の世界に飛び込んで、IRON MAIDEN, DIAMOND HEAD, TYGERS OF PAN TANG といった、バンドが、”音楽をやるのは楽しいかもしれない” と思わせてくれたんだ。それが目標だったんだ。James と俺が音楽を作り始めると、自分たちが求めていたものと同じようなもの、つまりメタルに没頭することを求めている人たちがもっといることに気づいたんだ。当時は世界の仕組み上、誰も知らなかったけど、俺らと同じようなはみ出し者や不適合者、権利を奪われた一匹狼が世界中に何百万人もいて、同じものを探していたんだよ!」

ヘヴィ・メタルは Lars にとって外の世界に初めてできた “家” でした。
「俺は一人っ子なんだ。バンドをやっているのは、他の人と一緒にいたいからなんだよ。幼いころは確かに一匹狼で、仲間はずれにされ、大きなクラブに所属したこともなく、注目の的だったこともない。いつも1人で外をウロウロしていたんだ。テニスをしていたけど、テニスは孤独なスポーツだ。俺は多くの時間を壁に向かってプレーしたり、ボールマシンでプレーしたりしていたからな。学校へは、他の子供たちと一緒にバスに乗るよりも、自転車で通うことにしていた。だから、バンド、グループ、集団、ギャング……どんな呼び方でもいいけど、俺は常に帰属意識を持ちたかったんだ。
昔は不器用で孤立した一匹狼の子供だったけど、バンドという環境に飛び込んだ。だから、ミート&グリートや、人と一緒にいること、昔はパーティーなど、社会的な要素はすべてその後に生まれたものだ。同じ志を持ち、抑圧されたメタル・ヘッズたちと一緒にいることで、”うわ、俺たちはこんなにたくさんいるんだ” と感じたんだよ。バンドを結成した当初は南カリフォルニアで、俺と James、そしてごく初期に一緒に演奏した数人のメンバーでスタートしたんだ。その後、サンフランシスコに移り、そこのスラッシュ・シーンの一員となった。そこから、メインストリーム以外のミュージシャンやメタル・ファンにどんどん出会っていった。人とのつながりを求めるのは、間違いなく俺の道だ。それは、一人っ子であることから始まった。でも、誰にでも自分なりの道があるものだよ。君にもきっと、自分なりの道があるはずだ」
Lars は、まだクラブで演奏していたころの PANTERA と知り合い、その仲を深めてきました、
共演も控えています。
「”Ride The Lightning” のツアーで兄弟に会って、友達になったんだ。ダラスでのことだよ。二人とも大好きで、テキサスには仲間もいて、テキサスを通るときはいつも会っていたよ。バンドがロック的な雰囲気から、クリエイティブでユニークな力へと進化していくのを、俺たちは何年もかけて見てきたんだ。だから、何十年も彼らとの関係を保ってきたんだ。”Walk” が好きでね。彼らが PANTERA の音楽と魔法を祝うという考えは……人々がそれを支持するかどうかについて、コミュニティで多くの話があるのは知っている。でも、俺はグレン・ヒューズが DEEP PURPLE のセットで演奏したいと言ったら、それを支持するタイプなんだ。だから、PANTERA の再結成はいいことだと思うんだ。Charlie が参加するのも素晴らしいことだ」
そして約40年後の今、ベイエリア出身のはみ出し者たちが、何百万人もの世界中のオーディエンスに接続され、真っ暗な闇の中から希望と光のメッセージを語っているのです。METALLICA の軌跡は、二度と繰り返すことのできない伝説であり、世代を超えたものでありながら、今だに1981年にバンドを始めた10代の若者たちの血と汗と涙が燃料となっているのです。
さて、Lars は72シーズンを終えた18歳の自分にどんなアドバイスをするのでしょうか?
「長髪を楽しめ。30代になったら前髪は消えてしまうし、あの大きなデニッシュのおでこは、一生目立つビジュアルになるんだから!」


参考文献: KERRANG! :Metallica: “In the past every single thing had to be fought over… now the band is a safe space and everyone is very protective of it”

REVOLVER:INSIDE ’72 SEASONS’: METALLICA’S JOURNEY FROM “METAL ROBOTS” TO OPEN-HEARTED FAMILY

CONSEQUENCE SOUND : Letter from the Editor: The Metallica Consequence Cover Story

COVER STORY + NEW DISC REVIEW【PUSSY RIOT : PUNISH】


COVER STORY : PUSSY RIOT

“I Honestly Think Putin Is Digging His Own Grave Now”

I’LL PUNISH YOU

ニューヨークの会場Terminal 5で、PUSSY RIOT の Nadya Tolokonnikova は自由を謳歌しています。クラブ風のエレクトロポップをセクシーに、SM的なセンスで演奏し、またしても10年前と同様に、まだロシアの大統領である男に対して声を上げました。
「私は戦争が嫌い。平和を愛しているの。私はウクライナを支持するわ。プーチンはクソだ!早く死んでほしい!」

Nadya は何年も前から培った自身の美学を大切にしています。
「この美学は何年も前から、本当に自分のためだけに培ってきたもの。キュートなものと危険なものを組み合わせるのが好きなの。音楽ではメタルとポップを組み合わせているのよ。私は、この厳しいけれど明るいという組み合わせにとても惹かれるのよね。
服もお手製よ。今は、自分がやっていることを他の人にも伝えたいと思っているわ。刑務所で警察官の制服を縫わされていなかったら、服を作ろうとは思わなかったでしょう。幼いころは自分がデザイナーになるなんて考えもしなかった。ロシアは現代の奴隷制度だから、政治的抑圧、性差別、家父長制、監獄制度に反対する服を作る必要があるわ。アナーキストとして育った私は、服にこれほど意味があるとなんて思ってもいなかった」
Nadya は「プーチンと仲良くなることは絶対に無理。彼は狂っている。彼は自分の国民にさえ発砲するかもしれないの」と訴え続けてきました。
かつて反プーチンの “パンクの祈り” を歌ったためにシベリアの刑務所で2年間を過ごしたロシアのアーティストは、独裁者と戦うために NFT を利用し、5日間で700万ドルを集めました。このような時、正気を保てるのはアクティビズムだけだと彼女は主張します。
Nadya Tolokonnikova は非公開の場所で、PUSSY RIOT のTシャツを着用し、目的意識と意欲と一途さをもって活動を続けています。2011年に PUSSY RIOT を結成して以来、彼女のフェミニスト・プロテスト・アートは、真剣そのものです。無許可のゲリラライブ、そして彼女が追訴されたイベント、モスクワの救世主ハリストス大聖堂で “母なる神よ: プーチンを追い払いたまえ” を歌うまで、その遊び心に世界は酔いしれていました。そうちょうど10年前、PUSSY RIOT の5人のメンバーは、モスクワの大聖堂でカラフルな目出し帽をかぶり、聖母マリアに “パンクの祈り” を捧げ、ロシアのプーチン大統領を “追い払って” ほしいと懇願したのです。
しかし、その結果は常に厳しいものでした。Nadya は、PUSSY RIOT の他の2人のメンバーとともに、2012年にフーリガン行為で2年の刑を宣告され、幼い子どもたちと引き離され、ハンストを行い、想像を絶する過酷な状況に耐え、最終的にアムネスティ・インターナショナルから良心の囚人に指名されたのです。

Nadya は自分は “生まれつきの遊牧民” だと語ります。
「この惑星が私の家。私はいつも無政府主義者なの。国境や国家はあまり好きではないのよね」
しかし、その抽象的な言葉の下には、具体的な危険が潜んでいました。彼女は12月にクレムリンから “外国人工作員” と認定され、出所後に設立した独立系報道機関 Mediazone も同様に危険視されています。
「プーチンは、ウクライナの戦争について議論しただけでも15年の懲役を科すという法律にサインしたばかりよ。あれを戦争とさえ呼べない。特別軍事作戦と呼ばなければならないの」
ロシア反体制派として認知されることの危険性は、ここ数十年で最も大きくなっています。そして、1989年生まれでペレストロイカを覚えていない Nadya は、そのことを誰よりも痛感しているのです。
しかし、彼女の関心は、決して自己防衛ではありません。2月24日にプーチンがウクライナに侵攻したとき、彼女と暗号通貨世界の協力者は、ウクライナDAO(分散型自治組織)を立ち上げました。それはウクライナの国旗の1/1非可溶性トークン(NFT)で、この画像の集団所有のために入札を募り、5日間で710万ドルを調達したのです。
「私や暗号通貨の友人たちは、あの侵略に何とかして反応しなければならないと感じていたの。私は個人的に、このような状況では、アクティビズムが正気を保つことができる唯一のものであると確信しているわ。侵略、災害、悲劇をただ見て、それに対して何もしないことは、世界にとって本当に有害であるだけでなく、徐々に自分を破壊し、無力感を与えることになるのだから。このお金は、2014年からウクライナ軍に医療、弾薬、訓練、防衛分析などの支援を動員している組織 “Come Back Alive” にすでに分配されているの。プーチンのような独裁者と戦うなら、死ぬ覚悟があることを示さなければならない…そして、私はそうしたわ」

なぜ、”Come Back Alive” と共にウクライナの人たちにお金を届けようと思ったのでしょうか?
「私はウクライナに友人がたくさんいるの。ウクライナ人は非常に勇敢で、美しく、アグレッシブで、インスピレーションを与えてくれる人たちだと思っている。アナーキストから大臣まで、街角の人々から国会議員まで、たくさんの人々を知っているのよ。だからお金を入れるのに最も適した財団が何なのか、かなりよく理解できているの。私や DAO の他の人たちと連絡を取っているウクライナ人のほとんどは、”Come Back Alive” が今貢献するのに最適な財団だと言っているわ。暗号の利点は、国境がなく、無許可であること。たとえ戦場であっても、誰も止めることができないの。インターネットにアクセスできれば、資金にアクセスできるのだから」
ウクライナの友人とはどんな話をしているのでしょう?
「ウクライナの人々は、侵略という災害に直面しても、実にポジティブ。2014年にプーチンがクリミアを併合したとき、プーチンがウクライナ東部で戦争を始めたとき、私が見たのはそういう人たちよ。戦争を経験した人たちをたくさん知っているけれど、明らかにトラウマを抱えていながらも、彼らは普通の生活を送っている。私が会った人たちは、非常に回復力があるの。そして、彼らはプーチンに対して本当に怒っているのだと思うわ。ロシア人全員がプーチンを支持しているわけではないことを理解してくれている。なぜなら、多くのロシア人が自分たちの自由と生活を取り戻すために抗議し、街頭に立っているのだから。
ウクライナ人の最も魅力的な部分は、決してあきらめないというところ。多くのウクライナ人が、プーチンはウクライナの支配を自分に譲ることを期待していたと言っている。しかし、そうはならなかった。彼らはただ、”ここは我々の国だ” という精神を持っているの。ウクライナのゼレンスキー大統領は、本当によくやっていると思う。彼はキエフを離れることを拒否し、”私たちはキエフを守るだけだ “と言った。そして、驚くべき成果を上げている」
Nadya はウクライナへの侵攻に心が打ちのめされています。
「パニック状態で、毎日泣いているわ。ある意味、必要なことでも、論理的なことでもなかったと思う。起こるべくして起こったことではないのに、何千人もの人々の人生を終わらせる大惨事を起こしてしまった。パニックになったわ」

彼女には、そらみたことか、プーチンは何をしでかすかわからないと言ったじゃない?と自己満足する余裕はなかったのです。
「国際社会は極めて矛盾していたわ。その理由は2つある。プーチンの政治、野党への弾圧、プーチンが始めた戦争(これは決して最初の戦争ではない)を支持しないと表明する人たちがいた。しかし、同時に、彼らはプーチンのビジネスを続けていたわ。ロシアからやってきた “オリガルヒ” (ロシアの新興財閥) が、ヨーロッパやマイアミでどのようにして莫大な富を手に入れたのか、誰も金の流れを追おうとはしなかった。
もう一つはね、バカだから。これが2つ目の理由。人々は独裁者がどれほど危険かを過小評価しているの。2014年、私たちはイギリスの議会で演説し、アメリカの上院で演説し、多くの人からプーチンとどう話すべきか、どう会話を組み立てるべきかと聞かれたんだけど、私はいつも “できる限り厳しくするべきだ” とアドバイスしたものよ。”プーチンと仲良くすることはできない” と。この知恵は、薄情な指導者を怒らせて逮捕されたことよりも、獄中で勝ち得たもの。独裁者は刑務所の看守とよく似た行動をとるの。優しさを弱さとみなしてしまうのよ。
プーチンは自分の墓穴を掘っていると、正直そう思うわ」
Nadya は服役中、そして2014年の釈放後、歴史上の政治犯のような方法でキャンペーンを行いました。まず、ハンガー・ストライキ。
「ハンガー・ストライキを始めたとき、私は死を覚悟していた。独裁者と戦うなら、最後まで戦う覚悟があることを示さなければならない。ウクライナは、いくつかの都市を失うかもしれないが、最後まで戦う意志がある」
彼女は、マドンナやヒラリー・クリントンといった著名人から、世界的な支持を得るようになりました。スロベニアの哲学者スラヴォイ・ジジェクとの手紙のやり取りが始まり、それが “同志の挨拶” という本になりました。

彼女が今思い出すのは、刑務所の状況に具体的な影響を与えたこと。ハンガーストライキを始めて1週間後、プーチンの人権担当の右腕が獄中の彼女に直接電話をかけてきて、彼女が抗議している残酷な状況について話し合ったのです。18時間労働、6週間に1日しか休みがない、睡眠時間が短い、看守や他の受刑者からひどい暴力を受ける。
「これはかなり非常識なことだったのよ。私は社会的地位の最も低い人間だったけど、彼は私を呼び出さなければならなかったのだから」
その後、この奴隷労働システムの構築者である刑務所長ユーリー・クプリヤノフは、この件で有罪判決を受け、執行猶予付きの2年の刑に服しました。
「ロシアの矯正本部は声明を出さなければならなかった。彼らは私を名指しして、私が正しかったと言ったのよ。私がやっていることはすべて、プーチンにとってより大きな痛手となることなの」
しかし、Nadya の受けた刑は、今でも彼女に酷い痕跡を残しています。
「私は刑務所がトラウマになってしまった。出所したときには、人としてほとんど機能していなかった。2014年には本当にひどいうつ病にかかったの。PTSD によるうつ病で、今も薬を飲んでいるわ」。
服役中に引き離された娘は、現在14歳。「彼女は社会民主主義者よ」 と Nadya は皮肉を込めつつも、承認するように話します。「彼女の世代では、人々はより大きな平等を望んでいるの」

その彼女の娘の友人も、反戦のデモで危険な目にあっています。
「今、ロシアで反戦を訴えるのは極めて危険なの。この4日間で何千人もの人々が逮捕、しかも残忍な方法で逮捕されている。殴られたりしてね。
例えば、私の娘には14歳の友人がいるんだけど、見た目は10歳くらいに見える。彼女は父親と一緒に抗議に行ったけど、警官が彼女を殴って逮捕しようとしたのよ!彼女の父親は、”何をするんだ?私の娘だ。まだ子供なんだ!” と。警察は彼女に外傷を負わせ、彼女は包帯を巻いているわ。病院に行って治療しなければならないほどの酷いトラウマよ。警察は少女を逮捕する代わりに、彼女の父親をターゲットにして、彼を地面に投げつけたわ。彼は殴られ、2、3日前から逮捕されている。だから、本当に難しいの…
北米とは、抗議することの代償がまったく違うわ。ここでは、抗議しても、たいていの場合、1日か2日で解放されるけど、私の国ではそうはいかない。抗議活動に参加するだけで、あるいはツイッターでつぶやくだけで、簡単に5年間は刑務所行きになってしまう。私はソーシャルメディアの投稿で2件の刑事事件を起こしている。抗議活動に行かなくても、YouTubeやTwitter、Instagram で口を開くだけで捕まってしまう。彼らは私たちのInstagramのストーリーでさえ追っているの」

プーチンは、ナショナリズムの高まりを期待しているのでしょうか?
「ナショナリズムというより、帝国主義でしょうね。帝国というより、一つの大きな国家を築き上げるということ。彼はそれを望んでいるんだけど、人々が戦争に飢えていないため、それを達成できるとは思えない。
2014年には、人々はもっと飢えていた。そしてプーチンは本当にすぐに成功を収めたのよ。だけど、プーチンの対外的な軍事的冒険が、制裁を引き起こし普通のロシア市民にさらなる問題をもたらすことに気づいたとき、戦争へ欲求は本当にすぐに消えてなくなったのよ。彼らは苦しんでいる。プーチンは苦しまない。彼は大金持ちよ。だから、彼の生活の質には影響しないけど、一般人には影響するわけで、それは本当に悲しいことよ。
第二に、私たちは世界で良い顔をされていない。ロシアのパスポートで旅行すると、人から見下されるの。私はロシアのパスポートで旅行しているんだけど、嫌な思いをするわ。侵略者代表なんだから」
ウクライナ侵攻に関して、アメリカ政府やEU諸国に望むことは何でしょう?
「度胸を決めて、何かしてくれればいい。プーチンが危険な独裁者でしかないのは明らかで、止めなければならない。彼は自国の人々にとって危険なだけでなく、世界の平和にとっても危険な存在よ。多くの人が冗談半分で、この侵略が第三次世界大戦の引き金となると話している。だけど、これはヨーロッパでの戦争なの。冗談では済まされない。本格的な戦争なのよ
アメリカ政府やEUはこの事態を十分に深刻に受け止めていないと思う。この戦争は、プーチンのクリミア併合に対する国際的な反応の結果でもあると思っているの。彼は、基本的にヨーロッパの一部である隣国で簡単に戦争を始めることができ、それによってそれほど大きな被害を受けないということを学んだのだから。
だから、何か行動を起こすべき時だと思うのよ。制裁の対象はクレムリンであるべきで、一般のロシア市民はすでに苦境に立たされている」

これまでの様々な経験は彼女の活動を鈍らせることなく、今やテクノロジーの可能性、その最前線に集約されています。彼女は当初、暗号通貨は金持ちの技術者のおもちゃに過ぎないと考えていました。しかし、中央銀行や政府から独立し、企業の買収を受けないという暗号通貨のその活動家としての可能性に2021年初めに気づき、それ以来、資金調達を行ってきました。
「それ以来、さまざまな慈善活動のためにかなりの金額を集めているわ。家庭内暴力の被害者のためのシェルターのために資金を集めたし、ロシア国内の本当に危険な場所から、何十人もの女性をロシア国外に移動させることができたの。昨年の8月には、ロシアの政治犯のために募金を行ったしね」
それ以外にも、今日彼女は、女性や LGBTQ+ のアーティストの作品を購入することをミッションとした暗号基金 “UnicornDAO” の立ち上げに協力しています。
「単に彼らの作品を買い上げるだけでなく、彼らと共に働き、安定した持続可能なキャリアを持つために様々な支援をする予定なの」
ユニコーンの最初の買い取り作品は、ロシア出身でニューヨーク在住のアーティスト、オリーブ・アレン。
「NFT の世界はお金の再分配には最適だと感じているわ。だけどこの世界でも、古いパターンが繰り返されているのを目の当たりにしているの。女性差別は結局、デジタル作品にも移行するだけ。NFT の売上に占める女性の割合はわずか5%なの。あなたがたまたま女性だった場合、あなたの言葉に価値があることを証明するのはとても難しいのよ…」

NFT の探求は、文化的な変化を促進し、資金を集め、次は国家から独立した民主的な機関を作ろうとするものです。それがどのようなものかは決して明らかではないものの、Nadya のロシア政治に対する読みと、変化を強いるために必要なことは、今でも完全に現実的なものでしょう。
「大規模な反乱。何百万人もの人々が街頭に出て、プーチンがいなくなるまで立ち去らないこと。それは明らかに、非常に危険なことよ。プーチンは正気ではないから、自国民にさえ発砲するかもしれない。だからなぜ皆が街頭に出てこないのか、私にはよく理解できるのよ。
それと並行して、プーチンのクローズド・サークルから、もう一つの変革の力が生まれるかもしれないわね。正直言って、プーチンは今、自分の墓穴を掘っていると思う。彼と親しいオリガルヒのうち、公にウクライナを支持し、プーチンに立ち向かっている人の数は相当なもので、そんなことは20年来なかったことだから」
彼女は、野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイが、プーチンの後継者にふさわしい人物と見ています。
「社会保障の充実、再分配、これらはすべて彼のプログラムの一部よ。私は2007年から彼を知っているんだけど、彼のプラットフォームがどんどん社会民主主義的になっていくのを目撃するのは本当に興味深いことよね。彼はレッテルを貼らないの。それは賢明なことだと思うわ。彼は人々を分裂させたくないのよ」
Nadya は、ナワリヌイが今も牢獄に閉じ込められていることを忘れてはいけないと訴えます。 彼はYouTubeで1億回以上再生された調査ドキュメンタリー番組を発表しています。プーチンの腐敗した取り巻きや宮殿を暴いたもので、驚くべきスパイ映像や彼が黒海に建設した10億ドルの秘密の宮殿についてのレポートが公開されたのです。
「そう、ナワリヌイといえば、彼のチーム全体を指していることを忘れてはいけないわ。素晴らしい活動家や才能ある人々のネットワークがあり、女性政治家もいます。彼の妻であるユリアとか彼のチームでプロデューサーとして働いている素晴らしい弁護士とかね。ナワリヌイと彼の調査チームは、絶えずビデオをリリースし、ニュースを配信している。率直に言って、彼はすごいわ。なぜなら、毎年、彼はどうにかして、あらゆる場面でプーチンを出し抜いているから。彼は毒まで飲まされたけど、生き延びたのだから。私は、彼をモスクワから医療専用機で移送するのを手伝った一人なの。残念ながら、私は夫が毒殺された経験があり、だからこそ同じルート、同じ人たちを通じて迅速にナワリヌイを移送できたのよ。そして、彼は生き延びただけではなかったの。ナワリヌイはその後、調査団体 “ベリングキャット” とともに、自らの暗殺について驚くべき調査を行い、彼の殺人未遂を担当した人物を指摘したの。自分の殺人犯となる人物に電話をかけ、電話で話をしたのよ!そして、計画すべてを認めさせたの! 」

結局、クレムリンが最も恐れているのは、優れた指導者に率いられた民衆の蜂起です。
「政府は、それを阻止するためにあらゆる手段を講じているの。集会に行く予定があると疑われたら、事前に逮捕して、疫学衛生犯のようなもので告発するのよ。コロナウイルスを理由に、家から出てはいけない、家から出たら刑事罰を受けることになると言われるの。この法律は普通の人が家を出るときには使われないわ。活動家だけよ。しかし、政府はいわゆる一般人の機関を本当に見くびっている。彼らは本当に怒っていて、政府がいくら逮捕しても無駄なのよね。私の友人のマーシャは、PUSSY RIOT の活動家で、私と一緒に2年間刑務所で過ごしたけど、今まさに刑務所にいて、さらに2年の刑期が待ちうけている。ナワリヌイの妻のユリアと、私の大親友である弟のオレグも牢屋に入っているわ。彼女の場合は逮捕されたので出馬できないの。犯罪歴があると、ロシアでは10年間は政治家になれないから」
プーチンのやり方は、いつも暴力と恐怖です。
「政府の主な手法は恐怖心。国民の意識にできるだけ恐怖心を植え付けようとしてきたの。活動家の予防的逮捕は別として、彼らは匿名のブロガーを使って、集会で大量殺戮が予想されるという偽情報をたくさんばらまいている。ロシアの機動隊が全員を射殺する命令を受けたという偽情報を流しているけと、正気の沙汰ではないわ!そんなことをしたら、プーチンは数時間以内に失脚するだろうね。人々はもう暴力を容認していない。だから、そう、彼らは恐怖を利用しようとしている。しかし、それはきっとうまくいかないの」
あまりに高いリスクを負いながらも、恐怖や暴力に負けず彼女たちは戦いを続けます。
「ロシアでも芸術を続けてもいいのよ。特にあなたの芸術が本質的に政治的であるならね。今日歌ったのは、警察国家はいらないとか、多くの曲は警察の弾圧や独裁政治に捧げられたものなの。メッセージから目をそらしてはいけないと思う。そうやって、反戦、反権威主義に貢献しているのよ」

参考文献: THE GUARDIAN :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova: ‘You cannot play nice with Putin. He is insane. He might open fire on his own people’

ROLLING STONE :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova: ‘Fuck Putin. I Hope He Dies Soon’

VOUGE :Pussy Riot’s Nadya Tolokonnikova On The Protests in Russia – And Why the Opposition Isn’t Going Anywhere

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TONY MARTIN : THORNS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY MARTIN !!

“My Voice Isn’t Same As It Was When I Was In Black Sabbath. It’s Actually Five Notes Down From Where I Was With Black Sabbath. That’s an Age Thing As It Happens The Singers, But What You Have To Do Is Try And Work With a Voice You’ve Got.”

DISC REVIEW “THORNS”

「もし、私のバージョンの “Heaven and Hell” と、Dio のバージョンを並べて演奏して同じように聞こえなかったとしたら、それは2つの異なる声だから当たり前のことだ。だけど、良い方法でそれを表現することならできる。私はそうしようとしたんだ」
伝説的なバンドが象徴的なボーカリストを新たなフロントマンに交代するとき、不安は必ずつきまとうものです。JUDAS PRIEST, IRON MAIDEN, VAN HALEN, ALICE IN CHAINS。様々なバンドが様々な理由でバンドの顔をすげ替えてきました。その結果はもちろん千差万別。ただし、多くの場合、後任の新たな顔は前任者の呪いに苦しむこととなります。
「私の声は BLACK SABBATH にいたときと同じではないんだ。サバスにいたときよりも5音下がっているんだよ。これはどんなシンガーにも起こり得る年齢的なもので、しかたがないことだよ。だけど、シンガーならその今ある声で仕事をこなしていくべきなんだ。どうやら上手くいっているようだし、満足しているよ。自分の声の “キャラクター” を保てているし、それが一番大事なことだから」
BLACK SABBATH に関するフロントマンの議論は、一般的に Ozzy Osbourne と Ronni James Dio に二分されていて、Ian Gillan や Glenn Hughes はもちろん、バンドで二番目に長くフロントを務めた Tony Martin でさえ、その議論の机上にあがることはほとんどありません。Tony の BLACK SABBATH に対する貢献は多くの人に見過ごされ、否定されてきましたが、彼のパフォーマンスや楽曲は必ずしも公正に評価されてきませんでした。神話を語り、ドラマ性を極めた美しき “エピック・サバス” の首謀者であったにもかかわらず。
しかし、例えば TYR のような後続が Tony Martin 時代の素晴らしさを語り、さらには “エピック・サバス” のリイシュー、ボックスセットのリリース決定により潮目は確実に変わりつつあります。そうして、2005年の “Scream” 以来17年ぶりにリリースされた Tony のソロアルバム “Thorns” は、その再評価の兆しを声という “キャラクター” で確かなものへと変える茨の硬綱。
「BLACK SABBATH のことは考えていなかったし、このアルバムはすべて Tony Martin だけのものなんだ。私の頭の中では、それはそれは呪いのような、悪夢のような、様々な種類の音楽が様々な音や楽器で鳴っている。それを具現化するのが私のやるべきことなんだ。だから、これは私が何の制約もなく自分らしくいられるように許された作品なんだよ」
かつて5オクターブを誇ると謳われたその歌唱の輝きはいささかも鈍ることはありません。年齢の影響で5音を失ったとは信じられない表現力とパワー、そして声域が Tony Martin その人の華麗なる帰還を告げます。サバスは関係ないと言うものの、これも呪いでしょうか。アルバムは Cozy Powell や Neil Murray を擁した伝説の “Tyr” と Geezer Butler が復帰して骨太のドラマを聴かせた “Cross Purposes”、その中間にあるようなエピック・メタルを展開していきます。”When Death Call” の雷鳴轟く “As the World Burns” に涙し、”Book of Shadows” の呪術的な荘厳に歓喜するファンは少なくないでしょう。
ただし、”なんの制約もなく” という言葉を裏付けるように、作品は “エピック・サバス” よりも現代的かつ実に多様です。PANTERA を崇拝する Scott McClellan のギタリズムは非常にアグレッシブかつメタリック。62歳になる Tony のエンジンとなり、アルバムのアグレッションを司ります。元 HAMMERFALL のベーシスト Magnus Rosen のテクニカルなボトムエンドは “Black Widow Angel” が象徴するように秀逸で、VENOM の Danny Needham と結合して SABBATH の影を振り払っていきます。
“Crying Wolfe” における叙情とマカロニウエスタン、”Damned By You” におけるカタルシスとヴァイオリン、”Nowhere to Fly” における哀愁とドゥーム、そして “This is Your Dammnation” から “Thorns” に貫かれるアコースティックとブルースとメタルの混沌は、明らかに Iommi の世界ではなく、1971年にプログに人生を変えられた Tony Martin の多様です。
ある意味、これまでずっと重い十字架を背負い続けてきた歌聖。”Cross of Thorns” からその十字架を取り去った “Thorns” は、まさに Tony Martin 本来の情熱と存在感を際立たせるアルバムとなるはずです。「Iommi に、バンドにいるんだから自分が歌いたいようには歌うなよとよく言われていたから、そうしようとしたんだ (笑)。それは上手くいったし、別に嫌じゃなかったよ。とても楽しかった。だからそんなにプレッシャーを感じてたわけじゃないんだ。私は大丈夫だったよ」Tony Martin です。どうぞ!!

TONY MARTIN “THORNS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PLUSH : PLUSH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MORIAH FORMICA OF PLUSH !!

“I Taught Myself How To Play Guitar By Taking My Dad’s Aerosmith CD’s And Not Coming Out Of My Room Until I Learned a Song.”

DISC REVIEW “PLUSH”

「父の AEROSMITH の CD でギターを学んでいったわ。曲を覚えるまで、自分の部屋から出ないくらいのめりこんだのよ」
ロックは死んだ。そんなクリシェが囁かれるようになって、どれ程の時が過ぎたでしょうか。今のところロックは息をしていますし、メタルに至ってはより生命力をみなぎらせながらその重い鼓動を刻んでいるようにも思えます。それでも、黎明期、全盛期を支えてきたレジェンドたちが次々と病に倒れる中、私たちロック・ファンは潜在的にロックが消え去る日の恐怖を抱えながら生きているのかもしれません。ただし、そんな心配は結局、杞憂となるはずです。PLUSH の登場によって。
「6歳からギターを始め、10歳からライブ活動をしているの。16歳のときには NBC の “The Voice” シーズン13に出演したわ」
世界を変えるようなファースト・アルバムをリリースすることができるバンドは決して多くはありません。古くは LED ZEPPELIN, THE DOORS, BLACK SABBATH, 時が満ちて VAN HALEN のファーストはロック・ギターに革命を起こしましたし、GUNS N’ ROSES のデビューは文字通り破壊衝動を封じられていた若者たちの “食欲” を解放しました。さらに、SLIPKNOT や KORN の登場はメタルの在り様を変え、EVANESCENCE は女性がメタル世界に進出するきっかけとなりました。そして、PLUSH のセルフ・タイトルも同様に、世界を変えるようなファースト・アルバムとなるはずです。
「性別は関係なく、誰でもいいから探してみようと思ったんだけど、そんな時に Lzzy Hale がSNS でシェアしてくれて、Bella に出会うことができた。だから、最初の目標は女性だけのバンドを作ることではなかったんだけど、結果的にはそうなってよかったわね」
EVANESCENCE がメタルの門を女性に大きく解放してから18年の月日が経ちました。少しづつ、少しづつ、ボーイズ・クラブだったメタル世界も変化を遂げ、ついに21歳以下の女性4人が世界を震わせる時が訪れたのです。
もちろん、セクシーであること、キュートであること、”女性らしく” あることを求める人たちは今でも少なからず存在し、SNS で場違いなコメントを振りかざしています。ただし、PLUSH が勝負している土俵は、女性として “ホット” であるかどうかではなく、音楽が “ホット” であるかどうか。「女の子ばかりなのにあんなに上手いとは思わなかった、みたいな無邪気なコメントもあるわね」 という Moriah の言葉通り、ただロック/メタル・バンドとして、PLUSH は最高峰の実力と楽曲を兼ね備えているのです。
「Brooke は GODSMACK や TOOL みたいなヘヴィなバンドに大きな影響を受けている。一方、私はクラシック・ロックやメタルが好きなんだけど、同時に最近のポップスも大好きなのよ。レディー・ガガが大好き!Ashley は独自の雰囲気を持っていて、幅広いジャンルの音楽を愛しているんだけど、ALICE IN CHAINS は大好きみたいね。Bella はクラシック・ロックだけじゃなく、Joe Satriani をはじめとする伝説的なギタープレイヤーも愛しているわ。そうやって、私たちは皆、自分が影響を受けたものを演奏や作曲に取り入れているんだと思う」
重要なのは、PLUSH が AEROSMITH に端を発するアメリカ的なアリーナ・ロックを受け継ぎながら、70年代から現代に連なる様々なロックの色彩を野心的に、大胆に調合している点でしょう。例えば、オープナーの “Athena” には HEART の壮大さ、HALESTORM の熱量、LED ZEPPELIN の野心が混ざり合い存分に五感を刺激しますし、”傷つけられた。幸せでいて欲しくない。でもそんなあなたをまだ欲しがる私が大嫌い” と負の感情をぶちまける “Hate” にはたしかに ALICE IN CHAINS の暗がりが宿ります。
“Better off Alone” のダイナミックなリフワークには TOOL や GODSMACK のインテンスが封入され、一方で “Sober” や “Sorry” には Alanis Morrisette の知的で内省的な面影が見え隠れ。”Bring Me Down” で Gaga や Pink のモダンなポップスに接近したかと思えば、”Don’t Say That” では AEROSMITH 仕込みのパワー・バラードを披露。
PLUSH はロックの教科書を熟読しつつ、強烈な個性を誇る Moriah の絶唱と、バークリー仕込みの Bella のシュレッド、そして DISTURBED や ALTER BRIDGE, MAMMOTH WVH にも通じるダークでスタイリッシュなアメリカン・モダン・ハードを三本柱に、強力で未知なるアリーナ・ロックを完成させたのです。DISTURBED や STAIND を手がけた Johnny K の仕事も見事ですね。NWOAHR だけでなく、ENUFF Z’NUFF や MEGADETH もプロデュースしているだけあって、メロディーや曲想の陰陽が立体的。そうして “ぬいぐるみ” と名付けられたバンドには命が吹き込まれ、敬愛する EVANESCENCE, HALESTORM とツアーに出ます。
それにしても、ドーピングした Ann Willson の表現が完璧にハマるほど、Moriah の歌唱は絶対的。James Durbin にも圧倒されましたが、それ以上の逸材かもしれません。アメリカのオーディション番組恐るべし。
今回弊誌では、Moriah Formica にインタビューを行うことができました。「私たちがよく経験するセクシズムは、ソーシャルメディアでのコメントよ。正直なところ、ライブでは経験したことがないのよね。だけど、SNS は無知や愚かな行為がチェックされず、まかり通る場所でもあるのよね」どうぞ!!

PLUSH “PLUSH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY ROW : UNCHAINED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL SALO OF THY ROW !!

“What Always Drew Me Into Japanese Music Was The Melodies – I Feel That Japanese Metal Bands Always Keep The Focus On The Melody, Like a Redline Running Through The Song. This Is Extremely Important To Me Also In My Own Music.”

DISC REVIEW “UNCHAINED”

「僕が日本の音楽に惹かれたのは、メロディーなんだ。日本のメタル・バンドは、曲の中を走る赤い線のように、常にメロディーに焦点を当てていると感じるよ。これは、僕自身の音楽においても非常に重要なことなんだ」
才能溢れる多くのバンドを抱えながら、さながら鎖国のように世界への輸出を拒んできた日本の音楽世界。イメージや言語、そして理解されない珠玉メロディーなどその理由はさまざまでしたが、近年はそんな負の連鎖から解き放たれつつあります。アニメやゲームといった日本のコンテンツが抱擁されるにつれて、永久凍土に見えた音の壁が緩やかに溶け始めたのかもしれません。そして、フィンランドの THY ROW は衝撃のデビュー・アルバム “Unchained” において、日本の音楽が持つクリエイティブな可能性とその影響を惜しみなく解放しています。
「歌を録音することはとても負担が大きく、感情的なプロセスで、歌い終えた後はいつも疲れてしまう。でも、もし誰かの心をどこかに動かし、その曲の意味やストーリーを感じてもらうことができたら、ボーカリストとしての目標は達成できたと思うんだよ」
枚方に一年間留学し、日本語や日本文化、そして感情の機微を胸いっぱいに吸い込んだボーカリスト Mikael Salo は、THY ROW の音楽へと日本の空気を思い切り吐き出しました。
坂本英三、森川之雄。こぶしの効いた浪花節を思わせる、すべてが熱く “Too Much” な二人の歌声は Mikael の心を動かし、憑依し、アルバムに感情の津波を引き起こすことになりました。おそらくは、ANTHEM がこれまで世界にあまり受けいれられなかったのも二人の歌唱が、メロディーが、きっとあまりに “日本的” だったからで、その部分が雪解けとなった20年代では、Mika のようなユーロと日本のハイブリッドの登場もある意味では当然でしょう。ANTHEM は何十年も、ただ最高のメタルを作り続けているのですから。
「”Burn My Heart” や “Destiny” は完璧なパワー・メタルだけど、”Still Loving You” や “Destinations”のような曲は、彼らのスタイルの多様性を示していて、息を呑むような音楽性によってパワー・メタルの曲作りのルールを曲げているよね。驚きだよ!」
THY ROW に影響を与えた日本の音楽は ANTHEM だけではありません。GALNERYUS や X JAPAN の “パワー・メタル” の枠だけには収まらない千変万化の作曲術も、THY ROW にとって不可欠な養音となりました。そうして彼らは、ロックとメタルの境界線の間でバランスを取りながら、メロディーに重点を置き、時折ラジカルなギターソロとマジカルな展開を交え、ビッグなコーラスによって感染力の高い楽曲を完成させてきたのです。
「制作面では、ミキシング・エンジニアの Jussi Kraft(Starkraft Studio)と一緒に、AVENGED SEVENFOLD のアルバム “Hail To The King” を参考にしたんだよね。音楽的には、モダンな影響ならブラジルのバンド ALMAH や、アメリカのバンド ADRENALINE MOB みたいなバンドが思い浮かぶね」
重要なのは、彼らが過去の亡霊に囚われてはいないこと。手数の多いドラムの騒然は MASTODON の嗎に似て、耳を惹くオルタナティブなフレーズは INCUBUS の異端にも似て、クランチーなリフワークとサウンドは QOTSA のエナジーにも似て、THY ROW の音楽を80年代と20年代の狭間に力強く漂わせるのです。冒頭、”Road Goes On” や “The Round” といった真のアンセムを誇示する一方で、アルツハイマーをテーマとしたダークでプログレッシブな “The Downfall” 三部作でアルバムを閉める構成力も素晴らしいですね。
今回弊誌では、Mikael Salo にインタビューを行うことができました。「当時、間抜けなティーン・エイジャーだった僕は、兄にかなり失礼な質問をしてしまったんだよね。”ヘヴィ・メタルって、ドラッグをやったり、タトゥーを入れたりしている人たちのものじゃないの?”って。でも賢明な兄はこう答えたんだ。”そんなことはないよ、美しくて情熱的な音楽だから、ぜひチェックしてみて!”」THY ROW の音楽も十二分に美しく、そして情熱的です。どうぞ!!

THY ROW “UNCHAINED” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【IRON MAIDEN : SENJUTSU】


COVER STORY : IRON MAIDEN “SENJUTSU”

Photo copyright by JOHN McMURTRIE

“You Only Have To Look At Those Top Comments To Find Out How Fractured People’s Psychologies Are. This Is Not a Political Issue, I Think It’s a Psychological Issue. There’s a Collective Schizophrenia In The World And The Internet Is Feeding It And Fueling It.”

戦術 -THE ART OF WAR-

Bruce Dickinson は、メタル世界の異端児です。イギリスの巨人、IRON MAIDEN のフロントマンである Bruce は、63歳にもかかわらず今でも旗を振りながら大声で叫び、バンドのマスコットであるエディと剣戟を交わし、若いころといささかも変わらぬ情熱を持ってステージを飛び回っています。背景が変わり、炎が上がると、彼は愛してやまない世界の歴史からインスピレーションを得た古来の衣装を着て、芝居がかった派手な演出で聴衆を釘付けにするのです。
Bruce は、レコーディング・アーティストとして、ライブ・パフォーマーとして、メタル世界最高のボーカリストの一人として当然広く知られています。ただし、同時に彼は、メタル世界においてレジリエンス (心理学における外力による歪み、ストレスを跳ね返す力) の第一人者としても長く記憶されるに違いありません。
2016年、Bruce は舌癌を克服した数ヶ月後に “The Book of Souls World Tour” に参加し、IRON MAIDEN は6大陸で100回以上の公演を行いました。Bruce Dickinson の声は、癌を克服し恐ろしいことにその強靭さを増しています。
「ツアーを3、4ヵ月やってみて…すべてオリジナルのキーで、40年前に使っていたのと同じ音を出している。声のトーンは少し太くなったし…。より頑丈になった。俺は確かにテナーの音域にいるけど、テナーにはさまざまなタイプがある。俺が好きなテナーの一人が、Ronnie James Dio だ。Ronnie は一種のハイブリッドで、年を重ねるごとに彼の声はより頑強になっていったよね。初期の作品、特に RAINBOW 以前の作品に “Butterfly Ball(and the Grasshopper’s Feast)” というアルバムがあってね。彼はゲストとして参加し、DEEP PURPLE の Roger Glober が多くの曲を書き、プロデュースしている。その中に “Love Is All” という曲があるんだけど、彼の声はガラスのようなんだ。とても透明感があって、素晴らしいんだよね。この曲は、アルバムではなくライブでカバーしたいと思っていたんだよ。
11月にハンガリーで Roger と一緒にオーケストラ演奏をすることになっているんだ。去年、ケベック・シティでオーケストラとやったのと同じで、2晩かけて Jon Lord の “Concerto for Group and Orchestra” を演奏して、最後にパープルの曲を5曲演奏したんだ。ハンガリーでも同じことをやるだろうね。
とても楽しいし、オーケストラと一緒に仕事をするチャンスもあるからね。指揮者のポール・マンが他のこともやってみたい?と聞くから、俺は、”メイデンの “Empire of the Clouds” という絶対にやらない曲があるんだけど、これはオーケストラのために作られていて…” と言ってみた。彼はその曲を聴いて、”ああ、これは素晴らしい!” と感動していたよ」

2019年に後に “Senjutsu” となる2枚組の新作アルバムをレコーディングした際には、アキレス腱を痛めながら、手術の翌日にはボーカルを撮り終えました。Bruce はその時のことを、ブーツを履き、松葉杖をついてスタジオに入り、足は “クソ風船” のようになっていたと語っています。そこから彼はツアーに戻り、キャリアを網羅した “Legacy of the Beast World Tour” を継続。毎晩、戦略的にステージを歩き回り、医師がかかとを縫い合わせた直後にもかかわらず懸命に動き回って聴衆を鼓舞しました。
「動き回っていたけど、違う動き方をしていたんだよ。ふくらはぎの筋肉を使わずに動くことを覚えたんだよね。これがなかなか難しくて、従来のやり方ではできないんだ。だから、ジャンプもできないし、走ることもできないし、早く歩くことも問題だった。でも、カニのように歩けば大丈夫だったんだ!」
IRON MAIDEN は、コロナウイルスの流行により、レガシーツアーの残りを2022年に延期することを余儀なくされましたが、さらに Bruce 自身もこの “Senjutsu” リリースの大事なタイミングで軽度のCOVID-19に感染してしまいました。しかし、機長でありレジリエンスの達人はもちろんその心を折られてはいません。
「とても素晴らしいレコードだから、これ以上座って待っているわけにはいかないからね。人々はロックンロールの棚から何かが落ちてくるのを待っていたんだ。だから、このアルバムをリリースするのは、ある意味素晴らしいタイミングだと思うんだ。
体調は全く問題ない。COVIDに感染したから、10日間の自宅隔離を余儀なくされているが。ちょうど1週間前に陽性反応が出たんだ。症状としては、2~3日前から少し気分が悪くなり、少し汗をかき、少し鼻が詰まって、俺の場合は小さな咳が出て、嗅覚も鈍っていたけど、今は少し戻ってきているね。
感染したからといって、ワクチンには全然懐疑的になっていないよ。2回とも接種したし、もし誰かにもう2回接種してほしいと言われたら、真っ先にその列に並ぶだろうな。俺とパートナーは、俺がファイザー、彼女はアストラゼネカのワクチンを接種し、二人とも感染した。でも、彼女はそれを乗り越えたし、基本的に俺も今、かなり克服しているよ。
ワクチンを打っておいたから、症状が軽かったんだろうな。それに、俺の知り合いでワクチンを接種した人は皆、副作用がとても軽いんだよ。ワクチンを接種していない人でコロナになった人を何人か知っているけど、彼らは相当酷い目にあっているよ。たとえ死ななかったとしても、その後かなり長い期間、体調が優れないんだよな。これは50歳以上の人だけではなく、30歳以下の若い人たちにも言えることなんだ」
家に閉じこもるのは退屈で、”Netflixをすべて見てしまった” と告白する Bruce にとって、メイデンの世界に戻ることは、普通の生活に戻ることを意味しています。
「世界が早く常識的なものに戻れば、誰にとっても良いことだよな。俺たちは、その一環として “Maiden is Back” を求めているんだよ」

80分以上という壮大な長さで、最後の2曲だけで30分近くかけてレコードの片面を占める。そんな型破りな音楽とテーマは IRON MAIDEN だけが実現可能な魅力的なメタルドラマでしょう。プログ、フォーク、ブルース、サウンド・トラックなどの影響が随所に現れる、41年の歴史を持つメイデンのタペストリー。”Senjutsu” はそんな匠の伝統に独自の挑戦の形を刻んでいます。
パリのギョーム・テル・スタジオ( “Brave New World” や “The Book Of Souls” を制作したのと同じ場所)で長年のプロデューサーであるケヴィン・シャーリーと再度タッグを組んだ “Senjutsu” の創作過程は、このような全能感に満ちた聴きごたえのある作品にしては、非常にゆるやかなものでした。
「2枚組というのも、自分たちの手の中にあるものに気づくまで、実際には計画されていなかったんだよ。このように濃密で時折挑戦的な作品を作ることが、歴史的なツアーの強壮剤になるという指摘さえも、さりげなく受け流していた。本当に、”アルバム” 以外の計画はなかったんだ。何か決まったアイデアや先入観を持って臨んだわけではないんだよ。
Steve は文字通り2、3日家に閉じこもっていて、その間俺たちはみんなでピンボールをしている。そして彼はこう言うんだ。”おーい!みんなスタジオに来てくれ!” ってね。
Adrian と一緒に作った曲は、もう少しオーソドックスなものだったな。何かができたと思うまで、ギターを弾いたり歌ったりしていたんだ。それからリハーサルをして、そのまま曲にした。言ってみれば、もっとオーガニックなんだよね。逆に Steve は、かなり細かいところまでこだわる傾向がある」
実際、Bruce はこのアルバムで Adrian Smith とのみ楽曲を書いています。
「彼と一緒に書いていると、すぐに物事がうまくいくんだよ。そういう意味では、彼は一緒に作曲するのにとても適した人だよね。彼は、歌いやすいコード構造を考えてくれるし、そこには音楽的な色が含まれているので、俺の頭の中で絵を描き、その上に言葉や曲を書くのも簡単なんだ。
時には、少しずつ入れ替えていくこともある。彼がコーラスだと思っていたものが、途中で何かに変わるかもしれない。コーラスだと思っていたものがギターになるかもしれないけど、それはアイデアを出し合っているうちにわかることさ。Adrian はテニスの名選手なんだけど、彼と一緒に曲を作るのは、ボールを前後にノックするようなものだ。良いラリーになると、”これは良い!” “あれはクリエイティブだ!” となる。実際、エイドリアンとの曲作りはまさにそんな感じなんだよ。
でも、別に Janick と共作しなかったからって意図的なことじゃない。Steve はスポンテニュアスにやるのが好きじゃない。”サプライズだ!俺が全部仕上げた!”というのが彼のやり方なんだ。俺たちは40年以上も一緒に仕事をしているから、お互いの仕事のやり方や長所、短所などを理解しているんだ。
俺と Adrian は、”The Writing on the Wall” 作ったとき、とても驚いたんだよ。彼は、”これは1曲目にするべきだ!” と言った。この曲は俺たちにとっては異色だよ。ある意味では、もう少しメインストリームで、クラシック・ロックのようなものだからな」

JETHRO TULL のような感じもあります。
「JETHRO TULL や DEEP PURPLE みたいな、子供の頃に着ていた “服” を “着せ替え箱” の中から掘り出して、何年も経ってから表に出しているんだよ。俺がバンドに参加していなかった頃の “Prodigal Son” を聴いてみるといいよ。ちょっと待った!と思うだろうね。とても JETHRO TULL 的だから。
俺と Steve は JETHRO TULL の大ファンだけど、好きなアルバムはそれぞれ違うんだよね。俺は初期のフォーク・ロックのファンだけど、彼は “Thick as a Brick” やプログレッシブなものが好きなんだ。あとは “Passion Play” とか。俺はそれほど好きじゃないんだよね。短い曲の方が好きだ。
彼は GENESIS の大ファンなんだけど、Phil Collins の GENESIS ではなく、Peter Gabriel の初期を好んでいる。一方、俺はどちらかというと Peter Gabriel のソロのファンでね。GENESIS を離れてからの彼の作品はよりエッジが効いていると思うからね。”Peter Gabriel III” は、なんて素晴らしいアルバムだろう。”Intruder”, “No Self Control” みたいな不吉さがいい。
あと、俺は VAN DER GRAF GENERATOR というイギリスのプログ・バンドの大ファンでね。彼らは GENESIS と同時代のバンドだったけど、彼らほどビッグではなかったんだ。VDGG はもっとプログレッシブでアート・ロックなタイプなんだけど、俺は彼らと Peter Hammill から歌詞の面で大きなインスピレーションを受けているよ。
まあつまり、俺たち2人の間には、かなりの量の “プログレ” が潜んでいるんだ。ここ数枚のアルバムにはそれが表れているよね」

コロナで始まった2020年代。それだけではなく、IRON MAIDEN に加入したころとはさまざまなことが大きく変化しています。
「今までとはまったく違う方法でプロモーションを行っているよ。リリースの告知には、インターネット上で、イースターエッグ・ハントのようなものを用意したんだ。それに、ミニムービーのようなアニメーション・ビデオもある。
アニメーションは音楽に匹敵するよ。バイクが通ると音がする、人が銃をロックしたりロードしたりすると音がする。男がヤギに変身すると、ベロベロと音がして、バリバリと壁に叩きつけられる。大きなサウンドシステムを使えば、それは素晴らしい音になる。映像に命が吹き込まれたように感じるんだ」
長い間、話題になるようなビデオを作っていないので、人々が想像できないような壮大なものを作りたいと考えていた Bruce を駆り立てたのはドイツのあるバンドでした。
「メイデンのマネージャーであるロッド・スモールウッドに、”RAMMSTEIN の “Deutschland” のビデオを見たことがあるか?”と言ったんだ。あれは、俺にとっては画期的なビデオでね。驚くべきことだよ。俺たちは RAMMSTEIN ではないから、同じことを提案しているわけではなかったんだ。でも、同じくらいのインパクトを与えることができるものが欲しかったんだよ。
画期的なビデオを作りたかった。俺はアニメーターではないからすべてを担当したわけではないけど、ストーリーを書き、元ピクサーのマーク・アンドリュースとアンドリュー・ゴードンが事実上のエグゼクティブ・プロデューサーとして、全体に深く関わっているんだよ」
かつて “トイ・ストーリー” を手がけた人物が、今は IRON MAIDEN のマスコット、エディが政治家の首を切るシーンを書いているのも驚きです。
「俺が脚本を考えたとき、マークはガイドとしてフルカラーの美しい絵コンテを8枚描いてくれた。特に気に入っているのは、最後のシーンでエディがアダムとイブをキャデラックに乗せて、4人のバイカーにエスコートされているところだね。背景にはスタンリー・キューブリックや “ドクター・ストレンジラブ” へのオマージュが描かれていて、まさに俺がこのラストシーンを書いたかのようだった。すぐに、”この仕事をするのにふさわしい人たちだ ” とおもったね。
最初の会議で、マークは “聞いてくれ、僕は勝手にこのオープニングシーンを考えたんだが、バイカーたちはもっと早く登場するべきだと思うんだ。たぶん、ハゲタカのように旋回しているんじゃないかな” と言った。俺は “ロード・オブ・ザ・リングのナズグルだな” と思ったよ。素晴らしいね。
クリエイティブな人たちと一緒に仕事をしていると、すぐに理解しあえるのがとても楽しいんだ。大虐殺で人々を排除する方法を検討していたとき、”実際にどんな銃を持つべきか” というディテールにまでこだわったよ。武器のマイクロデザインをしていたんだよね。
四頭身の死神のようなバイクの男たちが、有害廃棄物の中を走り、逆さまになったアメリカ国旗が、大食いで身なりの悪い政治家を乗せた車に掲げられている…おそらくドナルド・トランプだろうな。まあトランプである必要はないんだけど。これは一般的な比喩だから」

そして、その後ろにはお尻を出したイギリス人の男たちがいます。
「彼らは顔のない公務員で、まだ大英帝国があると思っている愚か者だ。ズボンからお尻を出しているけど、誰も教えてくれないんだよね。
その背後には、明らかに核ミサイルを突き出した中国のドラゴンのようなものがある。多くの人に聞かれるのは、一番上の皇帝が実際に何を持っているのかということなんだ。というのも、(中国の)習近平国家主席が一時的に不人気になったとき、地元の人たちが習近平の外見をくまのプーさんに例えたんだよね。その結果、習近平は “くまのプーさん” を中国で禁止することにしたんだよ。わかるかい?
このビデオには小さなイースター・エッグがたくさん潜んでいるんだ。特定の政治体制を支持するものではないよ。善人はいない、悪人ばかりだ。最初の絵コンテでは、大虐殺が終わり、エディが黙示録のバイカーに護衛されて走り去り、爆弾が爆発するところまでしか描いていなかったんだ。でも、実際には、吸血鬼の王様(試験管の中に入れられた死体の汁で生き返る男)は生き延びて這い回り、闘技場の外ではヤギになっていたんだ。ネブカドネザル2世がしたとされるように、地面に伏せて草を食べている。というのも、彼は気が狂ったようになって錯乱し、自分が獣になったと思い、外に出て、草の中で草を食べていたんだよね。傲慢の罪でね。
そして、彼がロバに目をやると、ロバが “おい、あれは俺の草だぜ “と言ったんだ。王様はロバと同じレベルになってしまった。すべてが滅んだ後、エディがサタンになって、実際彼はサタンではないけど、新しいリンゴを作ってしまうというのはいいアイデアだよね。
ポジティブな結末が必要だったから、最後にアダムとイヴをビデオに挿入したんだよ。スタンリー・キューブリック監督の映画 “Dr.ストレンジラブ” を意識したようなエンディング。エディはただ世界を終わらせるだけで、何もしないの?最後にアダムとイヴが必要で、エディは彼らにリンゴを与えるんだ。
良いことかもしれないし、悪いことかもしれないけど、確実に人間はそれを食べることになる。もしかしたら、また同じことを繰り返してしまうかもしれないけど、どうなるだろうね」
重要なのは、これが “Alexander the Great” のようなメイデンお得意の歴史大作ではなく、現代のアポカリプスな物語だということでしょう。
「これは歴史ではなく、現代の悪夢なんだ。国家が行うゲームの寓意なんだよ」

Bruce の中には難解な歴史の教科書と、スター・ウォーズやロード・オブ・ザ・リングが同時に存在しています。だからこそ、リスナーに届きやすいのかもしれません。
「そうだね。でも、そういった娯楽作品がアイデアをどこから盗んで来たと思うかい?ほとんどはシェイクスピアが作ったもので、その前はギリシャ人が作っていたね。その前には、聖書をそのまま引用したものもたくさんあるし。すべてがリサイクルされて、同じ巨大なメディアの洗濯機に入り、新鮮な状態でマーベル・コミックになって出てくるんだ。
俺は神話が好きだよ。特に、ある程度の寓話性があって、今の時代の良き参考書となるようなものがね。邪悪な帝国が常に勝利するわけではないという希望を人々に与えるようなね。救いを得ることができるのだから」
“Death of the Celts” は、1998年のメイデンの楽曲 “The Clansman” には関連性があるようにも思えますが。アイルランドとスコットランドという違いはあるにせよ。
「スカートをはいた男性のことはよくわからないんだけど、Steve (Harris) にはそういうところがあるんだよね (笑)。 “Death of the Celts” は Steve の曲だけど、彼は部族のアイデンティティを脅かすような人たちの曲を書くのがとても好きなんだよね。彼は以前にもネイティブ・アメリカンや少数民族についての曲を書いている。アイデンティティを脅かされているグループに親近感を持っているんだろうな。そして、自分たちが脅かされているときには、変化するよりも死んだほうがましだと思っている。その考え方は、ある意味ではとてもロマンティックだけど、同時にそれがどれほど歴史的なものなのかはわからないよね。なぜなら、実際に一夜にして死滅する民族はいないから。恐竜もそうだった。何が起こるかというと、人々が吸収されるんだよ。バイキングは絶滅したわけではないけれど、吸収され、同化された。最終的には、イングランド北部に住む、金髪で青い目をした人たちになったんだ」

Adrian Smith と共作した “Darkest Hour ” は、息子を埋葬した男たちの話や、浜辺に流れる血といった暗く陰鬱な楽曲です。
「この曲は、うつ病に苦しんでいたウィンストン・チャーチルの頭の中を少しだけ覗いてみようという試みだった。彼は明らかに天才的な人物だったけど、それだけではなかった。アルコール依存症で、うつ病で、彼が “黒い犬” と呼んでいたものに悩まされていたんだよね。それは彼なりの “うつ病” の表現方法だったんだ。
だけど、彼がいなければ自由世界は基本的に自由ではなかっただろうな。ヨーロッパに関する限り、世界は現在のような形では存在しなかっただろう。もし、彼が頑固な年寄りではなかったら、ヒトラーだけでなく、ヒトラーと和解しようとしていた自分の党の人々にも立ち向かうなんてことはしなかっただろうから。
英国の政治家にしてみれば、面倒なことになるだけだからね。”ヨーロッパのことはナチスに任せておけばいい、我々のことは放っておいてくれれば何をしてもいい” というわけさ。ヒトラーはイギリスの帝国やその他のものに大きな憧れを抱いていたから、その考えに納得していたんだ。
つまり、ヒトラーはイギリスを追い出したいのではなく、実際にはイギリスと同盟を結びたかったんだけど、チャーチルが立ちはだかってこう言ったんだよ。”あなたは野蛮人だ。あなたは文明を破壊し、我々が価値があると考えているすべてのものを破壊するだろう” とね。だから俺たちはチャーチルに大きな感謝の念を抱いている。だけど、その過程で何百万人もの人々が亡くなってしまった…アメリカ人もだけどね。
この曲は浜辺で始まるんだ。冒頭の浜辺は、ダンケルクの浜辺で、基本的には逃げなければならなかった撤退戦の場面なんだ。そして、曲の最後には再び血が赤く染まるんだが、今度はD-Day (ノルマンディー上陸作戦を行った1944年6月6日) のビーチで、俺たちが戻ってきたときのことなんだよ。
その間に語られるのは、基本的には圧倒的に不利と思われる状況下で、ある国が「いや、お前なんかくそくらえ!」と立ち上がった物語なんだよ。第二次世界大戦のバストーニュ(ベルギー)でのアメリカ軍の司令官だったと思うけど、ドイツ軍からの降伏勧告に単純に4文字の言葉で、”Nuts” “おバカさん” と返したんだ。
チャーチルの反応もよく似ていて、”我々は降伏するつもりはない。海岸でも戦う。浜辺でも、丘でも、何を使ってでも戦い抜く” と断言した。これにはナチスも困惑したと思うよ。何を言っているんだ?我々を止めることはできない、我々は圧倒的な力を持っている!のにって感じだっただろうな。しかし、そうはならなかった。これは、一人の人間が作ることのできる違いなんだよ。それが、この曲のテーマなんだ」

今アメリカでは、自分のチームや教団に属すると思われる人たちに対して反対の声を上げることを、人々はとても恐れています。
「世界全体が二極化しているのを見るとがっかりするね……いや、二極化どころではないね。AとB、左と右、北と南…分断されているんだよな。
それが無責任なソーシャルメディアによって増幅されているんだよ。ソーシャルメディアは自分自身を、”そうか、我々は実際にこの怪物を生み出し、事実上制御不能にさせてしまったが、それは我々のせいではない、それがインターネットなのだ、それが進歩なのだ” と考えてしまっている。
だけど、これは制御可能であり、人々は責任を取ることができるんだよ。小さな小さな極端な意見をメガホンで叫んだところで、SNS と同じようには広がっていかないだろうね。だけどメガホンで叫んだほうが、イデオロギー間の対立ではなく、実際の言論を可能にするかもしれないよね。イデオロギーとは、政治的なイデオロギーではなく、事実に基づくイデオロギーのことだよ。
例えばある人は、”チーズはマインドコントロールの方法である” という信念を持っているかもしれない。それをインターネットで公開すれば、バカな男たちがそれを信じるんだよ。なぜなら、それに対抗する反応がないからね。
かつては、新聞社や信頼できる情報源に行って、”チーズについての本当の話は何か?微生物が私たちの脳に侵入するように再プログラムされたのか、それともただのチーズなのか?” といった具合にソースを確認することができた。だけど、それはますます難しくなっている。俺たちのビデオ “The Writing on the Wall” につけられたコメントを見ればわかるよ。興味深いことに、このビデオは左翼から右翼まで、そしてその間のあらゆる意見からさまざまな主張を受けている。
誰かが “これは終わりの時に関するものだ!”といえば、聖書に詳しい人たちは “そうだ、これはイエス・キリストのことで、彼が我々を救うために戻ってくるんだ” と言い、他の人たちは “いや、これは悪の帝国のことだ” “これはトランプのせいだ” “ああ、これはバイデンのせいだ” “ああ、これはワクチンに関わることだ “とさまざまなコメントがあるんだよね。
正直言って、信じられないことだけど、人々は自分なりの解釈で意見を押し付けていくんだ。これらのトップコメントを見れば、人々の心理がいかに分裂しているかがわかるだろう?これは政治的な問題ではなく、心理的な問題だと思うよ。世界には集団的な統合失調症があり、インターネットがそれに拍車をかけているんだよね」
“Hell on Earth” という曲は、まさにそんな地獄のような世界を反映しているようにも思えます。
「どうだろう。それは Steve の歌詞だからね。彼は俺が言うことを気にしていないと思うけど、ちょっとした象徴主義者なんだよね。彼は主流にはならないんだよ。もしかすると、彼は厄介な集団の一員であるかもしれない。彼は俺が信じていないことも信じているけど、人は自分の信じたいことを信じることができ、それが自由な世界と呼ばれるゆえんだからな。だから “Hell on Earth” で彼は明らかに世界を見てこう言っている。”俺が死んでこの世を去ったら、別の世界に戻ってきて、すべてが悪い夢だったと思えるかもしれない。もう一度やり直せるかもしれない。でも、それまでの間、地球上の地獄にいなければならない” とね」

新しいアルバムのタイトルに日本語の “戦術” を選んだ IRON MAIDEN。これは、相手がどこに力を注いでいるかを見極め、それを利用して勝利のための対応策を構築するという考え方です。Bruce が言うように、”サムライ・エディ” と繋がっているのも重要なポイントです。
「Steve が最初の曲を考えて、”Senjutsu” という曲だと言ったんだ。彼は、日本語で “戦争の術 “という意味だと言った。俺は本当かな?と思ってグーグル検索で調べてみたら、いくつかの異なる意味があるみたいだった。俺らはその中から “The Art of War” でいくことにしたんだ。
何の戦争なのかはよくわからない。歌詞を見て、”これは誰かがゲーム・オブ・スローンズを見まくっているみたいだ!” と思ったんだ。草原から北方民族が降りてきて、そこには壁があって、彼らは何としてもその壁を守らなければならない…」
“Senjutsu” のジャケットには、鎧に身を包んだエディが描かれています。つまり、Bruce にはステージ上で鎧を着たり、サムライ・エディと戦ったりする可能性があるということなのでしょうか?
「国際フェンシング連盟は、特にフランスを中心とした西洋のフェンシング連盟で、ライトセーバーの国際的な競技会を公認しているんだ。冗談ではなく、ライトセーバーの大会だよ。彼らのトレーニングを1、2回見たことがあるんだが、実際に競技用のライトセーバーを持っていて、それが最高にかっこいいんだよ。ジュニアフェンシング用のライトセーバーを買ったんだけど、これが地球上で最もクールなものでね。完全な戦闘用ライトセーバーなんだ。徹底的に叩きのめすことができる。壊れることもないしね。
これをホテルのロビーに持ち込んで、ロビーでライトセーバー合戦をしたことがあるんだけど、誰も止めなかったんだよ。だから、ステージ上でサムライ・エディとライトセーバーで決闘するというアイデアは、ぜひ実現したいね!」
IRON MAIDEN が孤高であり続けられる秘訣。Bruce は最後にそのヒントを語ります。
「IRON MAIDEN は、デビューから41年、17枚のアルバムをリリースしてきたけど、いまだに挑戦し続け、人とは違うことをしたいと思っているし、ファンに対して知的に接したいと思っているんだ。それには根性が必要だし、自分の仕事に信念を貫く勇気も必要だ。このアルバムをライブで全曲演奏したいと思っている。それはかなり野心的かもしれないね。しかし、実際のところ、2枚組アルバムをライブで演奏することによる驚きは、それほど大きな提案ではないんだよ。それは、メイデンがメイデンらしく、反抗的に、確実にやっているだけなんだよね。
驚くようなことをするための鍵は、人々を驚かせようとすることではなくてね。むしろ、IRON MAIDEN であろうと意識するときに、危険が生じる。俺たちが情熱を持ってやっていることは、定義上、すべて IRON MAIDEN になる。しかし、それを考えすぎてしまうと、自分自身を窮地に追い込み、自分自身の決まり文句を再利用してしまう危険性があるんだよ。それはカラオケバンドに任せておけばいい」

参考文献: FORBES:Iron Maiden Singer Bruce Dickinson Chats New Album ‘Senjutsu’ And Society’s Great Psychological Divide

LOUDWIRE:INTERVIEW – IRON MAIDEN’S BRUCE DICKINSON DIVES INTO ‘SENJUTSU,’ TIME TRAVEL DESTINATIONS + MORE

KERRANG!:The Way Of The Samurai: Uncover the secrets of Iron Maiden’s new album, Senjutsu

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLAZE BAYLEY : WAR WITHIN ME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BLAZE BAYLEY !!

“If You Are Weak You Can Grow Strong. If You Are Broken You Can Mend. If You Are Different You Are Not Alone.”

DISC REVIEW “WAR WITHIN ME”

「良い時も困難な時も、俺のファンは俺と一緒にいてくれたからね。俺が自分自身を信じられなくなったときだって、彼らは俺のことを信じてくれたんだから。絶望的な気持ちになったときには励ましてくれた。だから、ファンが俺に作曲やレコーディング、演奏を求めてくれる限り、俺はやり続けるだろうな」
Blaze Bayley は、世界最大のメタルバンド IRON MAIDEN で5年という決して短くない時間を過ごしました。ミッドランドの小規模バンド WOLFSBANE からまさかの加入。誰もが羨むシンデレラ・ストーリー。しかし、そんな栄光の裏側で Blaze は一人、もがき苦しんでいました。偉大なる万能のシンガー、前任者 Bruce Dickinson の後任という重圧。がむしゃらが力となった WOLFSBANE よりも、丁寧に音程を追わねばという不自由な足枷。鳴り止まぬファンからのバッシング。
「当時、メイデンのファンの多くは俺を嫌っていたし、25年経った今でも嫌っている人は多いと思う。でも、この2枚のアルバムでは素晴らしい曲が書けたと思うし、この2枚はメイデンを語る上で重要な意味を持っているんだ」
25年の月日を経た現在でも、Blaze の中に巣食う仄暗い感情は拭い去れてはいないようです。それでも、Blaze があのバンドにいた意味はきっとありました。たしかに、”X-Factor” はアルバムの暗い荘厳と Blaze の不安定な音程がミスマッチの感はありましたが、”Virtual Ⅺ” のよりキャッチーでカラフルな音使いは彼のガッツやエナジーと調和を見せ始めていましたし、Steve Harris の奮戦も相俟って現在の大作化した “エピック・メイデン” への礎を築いたようにも思えます。実際、今 “Virtual Ⅺ” を聴けばメイデンのプログサイドとキャッチーサイドが完璧に交わった快作以外の感想が出てきませんし、仮に Bruce が歌っていたとしたら壮大になりすぎて別物の作品となっていたはずです。
「俺のファンが落ち込んでいるとしたら、このアルバムは彼らに力を与えるものでなければならない。俺がメタルを続けるため自分自身に言い聞かせていることの一部をファンに伝えたかった。もし君が弱っていても、強くなって戻ってこられる。もし君が壊れてしまっても、治すことはできる。もし君が他の人と違っていても、決して一人ではないんだよ」
あれから四半世紀。Blaze Bayley はただひたすらその人生を、ピュア・メタルとファンのために捧げ続けてきました。そんな英国のメタル侍の姿はある意味、Blaze にとっての恩返しでもあります。批判を浴びても決して自分を無下に扱わなかった IRON MAIDEN への恩返し。苦しい時も自分を信じてサポートを続けてくれたファンへの恩返し。そうして Blaze は、このコロナ禍で苦悶の時を過ごすファンのために最大の恩返しとなる “War Within Me” を贈りました。
「”War Within Me” の制作を始めたとき、俺たちは興奮と自由を感じたんだ。10曲ができあがった。10曲が互いに関連している必要はなかったけれど、残忍で力強く、真実を示していて、俺たちが作れる最高の曲でなければならなかった。そして楽曲のアレンジは、それぞれのストーリーに忠実なものでなければならなかった。妥協なく、勇気と誠実さを示さなければならなかった」
Blaze Bayley が IRON MAIDEN から巣立って25年。その歩みの結晶こそ “War Within Me”。内なる葛藤を乗り越えた侍の逆襲には、メタルのすべてが詰まっています。Blaze にとって作曲のパートナーであり卓越したギタリストでもある Chris Appleton との出会いは、さながらそのエンジンにハイオクとナイトロを搭載したようなものでした。ACCEPT のように勇壮で、IRON MAIDEN のように知的で、MEGADETH のようにテクニカルで、MOTORHEAD のように粗暴。これほどメタルらしいメタルをしたためるアーティストが今日どれほど存在するでしょうか。それにしても素晴らしいギタープレイヤーですね。
インタビュー中では Tim “Ripper” Owens に向けたシンパシーについて言及していますが、もしかすると、Blaze Bayley にとって目指すべきは Udo Dirkschneider なのかもしれませんね。特異すぎるその声、勇壮を体現したかのような容姿、そして時に本家を凌ぐような凄まじい楽曲とパフォーマンス。さらに、ウィリアム・ブラックのSFトリロジーにしても、チューリング、テスラ、ホーキンスの科学者をテーマとした組曲にしても、さながら “Aces High” のような303部隊の攻防にしても、Blaze Bayley は何よりメタルのロマンを誰よりも深く理解しています。インタビューでは Blaze の、意外なほどの知への探究心を感じられるでしょう。
18歳のころ、清掃の夜勤をこなしながらホテルで “The Number of the Beast” を聴いていた少年は夢を叶え、今度は叶えさせてくれたファンのためにメタル道を突き進んでいきます。今回、弊誌では Blaze Bayley にインタビューを行うことができました。「実は、彼らが俺を選んだことにとても驚いたんだ。彼らが電話をかけてきて、俺が選ばれたと言ったんだけど、あの時俺はショックを受けたんだ。嬉しいけど、ショックだった」 どうぞ!!

BLAZE BAYLEY “WAR WITHIN ME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JAZZ SABBATH : JAZZ SABBATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MILTON KEANES (ADAM WAKEMAN) OF JAZZ SABBATH !!

“They Basically Made It Simpler, So Anyone With a Guitar And Half a Brain Could Play It. Yes It Appealed To The Masses, But Generally I Like To Think My Original Version Was More Intellectual.”

DISC REVIEW “JAZZ SABBATH”

1968年、バーミンガムの4人の青年、Tony Iommi, Bill Ward, Geezer Butler, Ozzy Osbourne が結成した BLACK SABBATH はヘヴィーメタル始まりの地として絶対的な信頼を得てきました。ただし、世界はその認識を覆すべきなのかも知れません。なぜなら、彼らの楽曲は完全なる “盗品” だったのですから。
60年代から70年代初頭にかけて、英国ジャズの新たな波を牽引していた JAZZ SABBATH。リーダーの凄腕ピアニスト Milton Keanes は将来を嘱望されていましたが、心臓の病で倒れ入院を余儀なくされてしまいます。
おかげで1970年にリリースを予定していたデビュー作の発売は延期となり、退院した Milton はまさかの事態に愕然とします。なんと BLACK SABBATH という見ず知らずのバンドが、彼の楽曲をヘヴィーメタルの雛形にアレンジして世に出してしまっていたのです。
「ちょうど入院していて、退院したら何が起こったのか全てを理解したよ。もちろん激怒したね。だけど真実を語る僕の言葉には誰も耳を傾けなかったし、信じてもくれなかった。」
Milton の怒りはもっともでしょう。その事件によって彼は以後50年間も辛酸を舐め続けることとなったのですから。
ただし、遂に真実を伝えるチャンスが巡ってきました。紛失していた JAZZ SABBATH のマスターテープが現在になって奇跡的に発見されたのです!!
「信頼できるアーティストたちを集め、このバンドを再開し、真実を伝えるのにこれほど長くかかってしまった。」
それでも魅力的な JAZZ SABBATH の音楽が、時の狭間へと埋もれずに済んだ事実は僥倖でした。世界中で何百万もの人々が崇拝しているヘヴィーメタルの教祖が、実際には音楽的なシャルラタンにすぎず、入院した寝たきりの天才から音楽を盗んだことの確かな証としても。
「彼らは基本的に僕の楽曲をよりシンプルにしていたね。だからギタープレイヤーなら誰でも、脳みその半分でプレイすることができたね。まあ、だからこそ大衆にアピールしたんだろうな。だけど、僕は自分のオリジナルバージョンの方がより知的だったと考えているよ。」
実際、JAZZ SABBATH のイービルなジャズは決して脳みそ半分で演奏可能なほどシンプルではありません。ウォーキングベースにピアノのインプロヴァイズ、4ビートのドラム。60年代のビバップスタイルが JAZZ SABBATH の基本です。
“Children of the Grave”, “Evil Woman” のようにドゥーミーな原曲に近いものもあれば、もとい BLACK SABBATH がわりと忠実にコピーを果たしたような楽曲もあれば、”Iron Man” のように突拍子も無いエアリーなアレンジで後のメタルへの移行が信じがたいような楽曲も存在します。
何より、名曲 “Changes” の神々しきピアノの調べ、コードの魔法は、いつ何時誰が演奏をしたとしても圧倒的な陶酔感と得も言われぬノスタルジアを運んでくれるのです。
今回弊誌では、このクソ下らない架空の物語を生み出した Milton Keanes こと Adam Wakeman にインタビューを行うことができました。
「僕が幼い時…いやゴメン、Adam が幼い時…というかきっと彼は父の影を少なからず追っていたと思うんだよね。だけど自分の足で立ち、自らの道を歩み出すときっと父に対して誇りと賞賛の気持ちしかなくなるはずなんだ。」BLACK SABBATH, Ozzy Osbourne との共演、さらに父はあの YES の心臓 Rick Wakeman です。どうぞ!!

JAZZ SABBATH “JAZZ SABBATH” : 66,6/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DIAMOND HEAD : THE COFFIN TRAIN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRIAN TATLER OF DIAMOND HEAD !!

“Once I Had Heard Some Of The Other NWOBHM I Usually Thought We Were Better. We Compared Ourselves To The Biggest Rock Bands In The World Not Just To The Bands In This New Movement. Even Now I Try To Write a ‘Great’ Song.”

DISC REVIEW “THE COFFIN TRAIN”

「今でも俺は “偉大な” 楽曲を書こうとしている。過去の焼き直しを行わず、ダイナミズムをアレンジに持ち込もうとしているんだ。」
来年、自主制作のデビューアルバム “Lightning to the Nations” リリース40周年を迎える NWOBHM レジェンド DIAMOND HEAD は、ほぼ半世紀の活動を経てもその創造性、野心、チャレンジングスピリットに陰りを見せず進化を続ける稀有なるバンドです。
70年代後半、世界を支配していたパンク/ニューウェーブへのカウンターとして勃興した NWOBHM。しかし、”オールドウェーブ” として追いやられていたハードロック/メタルの圧倒的な逆襲には、振り返ると “典型的” なメタルサウンドを掲げるバンドは少なく、重金属のユニークなおもちゃ箱の様相を呈していたようにも思えます。
IRON MAIDEN のプログレッシブな感性、DEF LEPPARD のメジャーなセンス、ANGEL WITCH, WITCHFINDER GENERAL のドゥームな息吹、そしてエクストリームミュージックの雛形となった偉大なる VENOM。ムーブメントに兆したメルティングポットの理念は、今日のモダンメタルの地平まで受け継がれています。
あの Steve Harris をして “Next Zeppelin” と言わしめた DIAMOND HEAD の才能は、新たな波においても抜群の光芒と独自性を放っていました。Lars Ulrich も認める “スラッシュのオリジネーター” Brian Tatler が生み出すヘヴィーなリフの数々は 「俺自身はプログバンドの大ファンだった」 と語る通り BUDGIE のごとく見事に屈折し、Sean Harris のオジーが ZEP をソウルフルに歌ったような不思議な歌唱と不思議にマッチすることで、メタル本来のミステリアスでダークなカタルシスを創生していたのです。
ブームの終焉と共に消えてしまったバンドは、METALLICA によるクールなカバーと Dave Mustaine の助力により復活を遂げます。オリジナルメンバーは Brian のみとなってしまいましたが、ポジティブに新たな血を取り入れ最高傑作とも言える “The Coffin Train” を2019年に完成へと導きました。
バンドのトレードマークであるエキサイティングな暴走特急 “Belly of the Beast” で発車する “柩列車” はしかしタイトルトラック “The Coffin Train” でその色を変えます。
「Ras のおかげで DIAMOND HEAD は新たな地平を拡大して、よりモダンなサウンドを得ることができたんだ。この作品は、言ってみれば21世紀のための DIAMOND HEAD さ。」
そう、Brian が語るようにこれは21世紀の NWOBHM そのものです。デンマークに生まれロンドンを拠点とする加入2作目のシンガー Rasmus Bom Andersen の類稀なる才能と Brian のプログレッシブな理想はここで奇想天外に噛み合いました。
ダークでムーディー、そして重くプログレッシブな曲調は、Ras の Chris Cornell を想起させる卓越した歌唱を導き絶大なるエモーションを創出します。実際、Ras が披露するレンジの広さと豊かな声量、込められた感情の素晴らしさ、さらにコンポーザー&プロデューサーとしての高い技量は Chris の正当後継者として完璧な資質を備えていますね。
「俺はこういった、70年代のクラッシックロックにインスピレーションを得たエピックを愛しているし、DIAMOND HEAD がデビュー以来やり続けてきたことでもあるね。俺は “Kashmir”, “Child in Time”, “Victim of Changes”, “Xanadu”, “Watcher of the Skies” といったエピックを聴いて育ったんだから。」
事実、”The Coffin Train” はエピックの宝庫です。オーケストレーションを施した “The Sleeper”、”Until We Burn” のフックに満ちた英国のドラマ性、叙情性は筆舌に尽し難く、その陰影のダンスは Brian が楽曲に最も求めるダイナミズムを濃密に映し出しているのです。
さらに、オリエンタルな “Shade of Black”, グランジーな “Serrated Love” では、オルタナティブやインディーまで新鋭のサウンドもしっかり受け止める Brian の包容力と、瑞々しい感性で SOUNDGARDEN, Chris を愛する Ras のモダンな感覚が完璧に融合し、NWOBHM のユニークな精神を現代へと昇華することに成功しています。
偉大なバンドの偉大なレコード。今回弊誌では、伝説 Brian Tatler にインタビューを行うことが出来ました。「NWOBHM は DIAMOND HEAD にとって便利なムーブメントだった。当時他の NWOBHM バンドを聴くと、俺は大抵俺らの方が良いなと思っていた。と言うよりも、あの新たなムーブメントの中にいるバンドより、世界でもビッグなバンドと比肩していると考えていたんだよな。」 どうぞ!!

DIAMOND HEAD “THE COFFIN TRAIN” : 10/10

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