COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONVERGE : BLOODMOON I】


COVER STORY : CONVERGE “BLOODMOON I”

I Asked If We Could Do a Telepathic Meeting, Where We All Stopped And Closed Our Eyes At The Same Moment — No Matter Where We Were Doing — And Channeled Our Energies Into The Center Of This Project

BLOOD MOON

パンデミックにより、バンド・メンバーがアメリカの両端で隔離されている場合、どのようにコラボレートするのがベストでしょうか? インターネットは互いの距離を縮める強力なツールですが、コラボレーターの一人が Chelsea Wolfe のようにゴシックな要素を抱えている場合は、より形而上的な方法で意味のあるつながりを見いだすことになります。
「私は、テレパシー会議ができないかと尋ねたの。アメリカのどこで何をしていようと、全員が同じ瞬間に立ち止まって目を閉じ、エネルギーをこのプロジェクトの中心に注ぎ込むというものよ。私たちはそれを “テレパシー・ズームコール “と呼ぶことにしたのだけも、これはとても面白いと思うわ」
そのプロジェクトとは “Bloodmoon”。ハードコアの先駆者 CONVERGE の4人、Jacob Bannon, Kurt Ballou, Nate Newton, Ben Koller, マルチ奏者 の Ben Chisholm、CAVE IN のフロントマン Stephen Brodsky、そして Wolfe のジョイント・プロジェクト。
「テレパシーでそれぞれが異なる経験をしたわ。Ben Koller は、ステージで曲を演奏している私たちを想像していた。Stephen Brodsky は、ニューヨークの街を歩きながら曲を聴き、立ち止まって私たち全員の努力に感謝していた。私は瞑想をして、私たちが円になって座っているところを想像していたわね…。それはちょうど、心の中の甘い出会いのようなものだったわ」
CONVERGE のヴォーカリスト、Jacob Bannon は、”スピリチュアルでソウルフルな” Wolfeについて、「彼女は、世界の物事が白か黒かだけではないことをとてもよく理解している人だ」と語っています。
「彼女の軽やかなアプローチは、CONVERGE が慣れ親しんできたものとは全く異なるものだ。俺たちはそういったものを嫌っているわけではないけど、パンクのバブルの中で生きているから、肉や骨ではないもの、目の前にないすべてのものを拒絶している。だから、そういったスピリチュアルなものに触れることもあまりないんだよね」
一方の Wolfe は CONVERGE との融合をどう捉えているのでしょうか?
「CONVERGE は、音楽的に自分たちの道を切り開く、そんな世界に存在しているわ。もちろん、ハードコアに根ざしていることは確かだけど、彼らはそれを使って独自の道を歩んで、自分たちの領域のリーダーになったの。私自身のプロジェクトは、常にさまざまなジャンルでやっぱり独自の道を歩んできたように思うわ。ロックの世界が基本だけど、エレクトロニクスを試したり、フォークミュージックを取り入れたりしてきた。つまり、私たちは自分たちのやり方を試すことに前向きで、ある意味、音楽的な感性がうまく融合したんだと思うの。2016年のショーのために初めて集まってセットを作り始めたとき、その相性の良さは明らかだった。いとも簡単に融合したの」
Wolfe は自身の歌声と Bannon の叫びを陰と陽に例えます。
「最終的な結果という意味では、陰と陽の関係になったわね。それが面白いところよ。というのも、私たちは CONVERGE の確立されたサウンドと存在感を知っているから。それは私にとって魅力的で、その逆もまた然り。この二つの世界を融合させたいと思ったわ。でも同時に、私たちがやっていることをもっと浄化したり、少なくとも深みやダイナミクスを加えたりしたいとも願ったの」

哲学的にも、音楽的にも、あるいはラインナップの充実からも、”Bloodmoon: I” は、CONVERGE にとって、ユニークで、大きな変化をもたらすアルバムとなりました。まさにブラッド・ムーンを仰ぐ部分月食の11月19日に発売されたこの作品は、90年代初頭からバンドが磨き上げてきた、メタリック・ハードコアの唸りや地響きをバイブルに、スパゲッティ・ウエスタン・ゴス(”Scorpion’s Sting”)、コーラルでメランコリックなプログレッシブ(”Coil”)、空想的なサバティアン・スラッジ(”Flower Moon”)といった “部外者” との多様なケミストリーも頻繁に顔をのぞかせます。LED ZEPPELIN の遺伝子をひく “Lord of Liars”のようなクラシック・ロック回帰も含めて。CONVERGE 本体とコラボレーターとの間の相乗効果はシームレスで、作品をビーストモードでアップ・グレードしています。もちろんCONVERGE の幅広いディスコグラフィーは常にハードコア以上のものを示唆してきましたが、”Bloodmoon.I” で赤の月の軌道は拡張され、最もその異変を如実に知らしめます。つまりこのアルバムは、CONVERGE の “何でもあり” のアプローチを、最も贅沢に表現した作品なのです。
「俺たちはダイナミックなバンドで、そのサウンドには様々なものがあるんだが、主に、翼竜をバックにしたチェーンソーのようなサウンドで知られている(笑)」
Bannon の言葉通り、このフロントマンは作品の中で最も人間離れした悲痛な遠吠えを持っているに違いありません。Wolfe も Bannon に対して同様に原始的な印象を持っており、彼のボーカルを「虚空に向かって叫ぶ朽ち果てた頭蓋骨」と表現していますが、これは二人の共同ボーカルに対する完璧なメタル的表現でしょう。しかし、何十年にもわたってその力強さを維持することは、Bannon 自身も認めるように、肉体的な犠牲を伴います。
「この30年間、叫び続けてきたことで自分自身に大きなダメージを与えてきたんだけど、今でもやってきたことはやれるぜ。喉に瘢痕組織がたくさんあるから、気持ちよく歌える音やコントロールできる音はほんの一握りしかないし、混乱しているけどな。俺には広い声域はないし、長い時間をかけて研ぎ澄まされ、調整された筋肉でもないだけど、全く別のものがあるから、俺はそれで満足しているんだ。俺はラウドなボーカリストだけど、ラウド・ボーカルは他のスタイルに比べてインパクトやパーカッションとの関係が深いんだよな。というのも、一般的にはビートに合わせて歌うことになるし、音声的にも、自分の中から何かを引き出すために強く押し出さなければならないから硬くなってしまう。だから、伝統的なボーカリストのように、コミュニケーション・ツールというよりは楽器になってしまう。まあ、Chelsea も、やりたいときには残忍なことをやっているし、Stephen はもちろん、Kurt も Ben も時には歌っている。俺たちはこのダイナミクスに賭けていて、レコードの中でいろいろなところを行ったり来たりしているわけさ」
Bannon は “Bloodmoon.I” での自らのパフォーマンスを過小評価しているようです。しかし、自分の限界を知ることには強さにつながります。Bannon がこの作品を “全員が自らのエゴを封印した” と語るように、限界を知り、自分一人では到達できなかったであろうメロディーを、コラボレーターである Wolfe と Brodsky に委ね、彼らが具現化してくれたことに感謝しているのです。
「俺の頭の中では、いつも Ronnie James Dio のためにボーカル・メロディーを書いているんだけど、俺は彼のように歌うことはできないからな。Ronnie James Dio の知り合いでもなかったし、彼は死んでしまった。だから、Stephen Brodsky に任せたんだ」

“Bloodmoon” プロジェクトが本格的に始動したのは2016年のこと。当時、CONVERGE は Wolfe、Chisholm、Brodsky の3人に声をかけ、ハードコア・グループのカタログの中で、よりムードのある、あまり知られていない部分を強調するため短期間のヨーロッパ・ツアーを行い、オランダの Roadburn Festival で今では伝説となっているセットを披露しました。Bannon が Wolfe との出会いを振り返ります。
「彼女のセカンド・アルバム “Apolaklypsis” を手にしたのは2009年くらいだったと思うけど、すっかり魅了されてしまったね。すばらしいレコードだと思った。その後、俺たちがツアーに出ているときに会うことになったんだが、シアトルか、少なくともシアトルの近くで Chelsea も Ben もそのあたりにいて、ライブに来てくれたんだ。それ以来、さまざまな形で連絡を取り合っていた。Ben とはいくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしたし… CONVERGE でもっと広がりのあるダイナミックな活動をして自分たちの世界を広げていくには、他の創造的な声を持ったミュージシャンと一緒に演奏することが必要だと常に考えていたんだ。そんな話をしていたら、二人と一緒に仕事をするというアイデアが頻繁に出るようになった。2009年から今まで、ずいぶん長い時間が経ったように感じるけど、人を集めるにはスロー・バーンが必要なんだよな。2016年にはヨーロッパでいくつかのショーを行ったけど、そのうちの1つがイギリスのロンドンで “Converge Bloodmoon” として行ったもの、これが本質だ。CONVERGE の曲をベースにアイデアを膨らませたもので、幸運にも Ben と Chelsea 、そして Stephen Brodsky がその最初のライブに同行してくれたんだ。相性はとても良くて、みんなとても仲良くなれた。だから、その後も続けていきたいと思えたんだ」
Brodsky をメンバーに加えたのは、彼がすでに CONVERGE ファミリーの一員であったことから、自然な流れでした。Brodsky は、1998年に発表された CONVERGE のアルバム “When Forever Comes Crashing” でベースを担当しており、さらに2009年に発表された “Axe to Fall “では、CAVE IN と CONVERGE のメンバーが合体して大規模なレッキングクルーとなり2曲を演奏しています。さらに Brodsky は、CONVERGE のメンバーと他にも2つのバンドで共演しています。Koller との MUTOID MAN と、CAVE IN。長年ベーシストであった Caleb Scofield の死後、2018年に Newton を招き入れたのです。Bannon が回想します。
「Stephen とは10代の頃からの付き合いだよ。俺の意見では、彼は俺が知っている中で最も才能のある、自然なプレーヤーの一人だと思う。それは、彼が技術的なスキルを磨いてきたからで、一見すると何の苦労もないように見えるけど、実際には10代の頃にベッドルームで100万時間も練習を重ねていたから。 実は彼は、90年代後半に CAVE IN が活動を休止していたときに、初期の段階で俺たちのバンドにベースで参加していたんだ。彼が CAVE IN の活動を再開したことで、俺たちは別々の方向に進んだよ。でもずっと仲が良くて、彼は俺たちのドラマー Ben Koller とも親しくしていた。それに彼は、Kurt の昔のルームメイトでもあり、Nate と一緒にバンド活動をしているんだ。Stephen はこのプロジェクトにとてもパワフルな音楽的感性をもたらしてくれた。彼のリフやメロディのアイデアは、とてもパワフルだよ。このバンドでも、彼の他のすべての活動でも、特別な線で俺とつながっている。まあ俺は彼のただのファンだから、彼と一緒に仕事ができたことは本当に特別なことだったよ」
Chisholm も同様に、数年前から CONVERGE の近くにいて、”Revelator” という名前で、Bannon のポストロック・プロジェクト WEAR YOUR WOUNDS とのスプリット7インチをリリースしています。また、Chisholm は過去10年間に Wolfe と共演したり、アルバムを制作したりもしていて、彼女に CONVERGE の音楽を紹介した人物でもあるのです。
さらに、Wolfe と MUTOID MAN がともに Sargent House Records と契約していたこともあり、Wolfe はパーティーやフェスティバルで何度も Brodsky と遭遇していて、プラハの街を歩き回っている時、彼と意気投合したこともありました。
「ビートルズが演奏したこともあるアリーナに忍び込んで、Stephen に METALLICA の曲か何かを歌ってもらったの。あの時の音は最高だったわ」

Bloodmoon の最初のライブはステージ上のエネルギーがあまりに強烈で、ライブが無事に終わった後、7人のミュージシャンはオリジナルのアルバムを録音することに合意します。以降何年にもわたって、さまざまなデモや曲のアイデアが彼らの間を行き来していましたが、2020年初頭にマサチューセッツ州セーラムにある Kurt Ballou の GodCity レコーディング・スタジオに集結する時間がようやく全員にできたとき、パンデミックが発生しました。ゆえに東海岸のプレイヤーたちには集まる機会があった一方で、Wolfe は北カリフォルニアの自宅スタジオで大部分の楽曲をレコーディングしました。
ソロアルバムではロック、ドゥーム、フォークなど幅広いジャンルのテクスチャーを使用してきた Wolfe にとって、2016年最初に CONVERGE とリンクしたことは、他人の技術を創造的に熟考する良い機会となりました。
「それまでにかなりの数のツアーを経験していたけど、それは常に自分のバンドで、私が指揮をとり、ほとんどを決定していたわ。だから Bloodmoon は、一歩下がってバンドの一員となり、他の人が書いたパートを学ぶチャンスだったの。ミュージシャンとしての成長には役立ったと思うんだけど当時の私はもっとシャイで…ただ背景に消えて、CONVERGE を輝かせようとしていたのよね。私にとって長くてゆっくりとした旅のようなものだったわ。始めたばかりの頃は、人に顔を見られたくなかったから、ビクトリア朝の喪服のようなベールをステージ上で被っていたくらいで。でも今では、そこに自分がいても構わないと思えるようになったのよ」
Wolfe の自宅スタジオは、2019年に発売された “Birth of Violence” をレコーディングするために、パンデミック前にすでに設置されていました。ゆえに自宅で歌い、ギターを弾いているときは、完全に本領を発揮しています。ただし、そのセッション中に予期せぬ個人的な変化が起こりました。インフラが整い、新しい曲を歌えるようになった彼女は、Bloodmoon の曲を、断酒への道を歩み始める “精神的・霊的な調整” を行うための道標として活用したのです。
「禁酒を始めたばかりの頃は、当然ちょっとした苦労があったわ。このプロジェクトは、そんな時期の私にとって、アルコールの影響を受けずに得られた考え方を表現する、とても素晴らしいはけ口になったの。起きてから何時間も楽曲に取り組み、没頭しながらも、とてもクリアな気分になれるという、最高のグルーヴ感を得ることができたのよ。パンデミックがはじまって最初のうちは、クリエイティブでなければならないというプレッシャーがあったと思うの。ヨーロッパでのツアーが中止になり、ショーもせずに飛行機で帰国しなければならなかったし…その後、1月初旬に禁酒を決意したんだけど、ちょうどその頃、CONVERGE の曲を掘り下げ始めたの。私の場合、今の新たな明晰な精神状態が楽曲に反映されていると思うわ。同時に、このボーカルや曲をみんなと一緒に作ったことで、自分の創造性を取り戻すことができた。このプロジェクトの中で、私は本当に自由になれたと感じているの。みんながお互いのアイデアを受け入れていったから。これは本当に楽しい経験だったわ。パンデミックの闇の中の喜びと言ってもいいかもしれないわね。そして、夏にみんなで集まったときに、本当に命が吹き込まれたの」

CONVERGE のメンバーにとって、”Bloodmoon.I” への長き道のりは数十年に及びます。Ballou と Bannon は10代でバンドを結成し、90年代前半に活動していたメタルコア・シーンの硬直した攻撃性に、SLAYER を愛しながら難解なひねりを加えていきました。特筆すべきは今年20周年を迎えた、あの時代を象徴するような “Jane Doe”。その混沌の中に、ピックアップを腐食させるようなノイズ、破壊的な爆音、そして奇妙なフックが詰め込まれたゲーム・チェンジャー。Bannon が女性のストイックな顔を描いた ハイコントラストなジャケットイメージは、最近ではフランス人モデルのオードリー・マルネイの写真を部分的に使用していることが確認されていますが、MISFITS の “Crimson Ghost” と並んで、パンクやメタルのパンテオンに数えられています。
“Bloodmoon: I” では、そんな CONVERGE の定石に数多くの変化が加えられ、万華鏡のように華麗な体験が可能となりました。Bannon の叫び声は、Wolfe の陰鬱でメランコリックなビブラートと溶け合い、Brodsky の生々しいメタリックな叫びに巻き付いていきます。Wolfe も過去に、”Apopkalypsis” の “Primal/Carnal” でエクストリームなボーカルを試したことがありますが、”Bloodmoon: I” のタイトル・トラックは、彼女のヴォーカル・トーンをさらに極端なものにするチャンスでした。
「この1年間、ホラー映画の音楽制作に取り組んできたんだけど、その多くは非常に悪魔的な音を出していたの。Bloodmoon の曲と同じ時期に取り組んでいたから、ちょっとしたクロス・オーバーみたいな感じでね。”Blood Moon” という曲で私は、うなり声のような新しいボーカルに近づいたんだけど、それに触発された Jacob がその部分を引き継いでさらに発展させたのよ」
3人のキー・ボーカリスト以外では、Newton がオークのような悲鳴を上げて、アルバム全体に頻繁に登場します。しかし、Bloodmoon のメンバー全員をその没入感のある重厚なサウンドに導いたと Wolfe と Bannon が認めたのが Ballou で、彼は特に衝撃的な “Viscera of Men” の歌詞を書きました。この曲は、何年にもわたる人間同士の争いが “散らばり、飛び散る” 様子を表現しています。Wolfe はこの曲に、暴力についての彼女自身の “時に戦争がまったく理解できないことがある” という考えを付け加えています。構造的には、CONVERGE が何十年にもわたって必要としてきた武器化された D-Beatに向かって進んでいきますが、すぐにChisholm のシンセ・ブラスのファンファーレに支えられて、恐ろしく、憂鬱な雰囲気に変わります。しかし、この変化に富んだ道のりも、Bannon にとっては CONVERGE らしさの一つ。
「俺がリスナーとして好きなレコードは、LED ZEPPELIN の “Houses of the Holy” だよ。バラエティに富んでいるけど、それでも ZEP らしさは失われていない。俺は自分のバンドを MELVINS や ZEP、METALLICA のカタログと比較したことはない。自分たちの領域を知っているから、俺はそれで構わないんだ。でも、比較とかではなく、このレコードには、彼らのような興味深いサウンド・ボイスが幅広くすべて含まれている。それが俺にとってとてもクールなことなんだ」

ビジュアル・アーティストとしての Bannon は、このプロジェクトのグラフィック・デザインにも同様に幅を持たせています。CONVERGE らしい傷ついた顔が真紅とコバルトの色調でアートワークの左上に描かれていますが、バンドの最も象徴的なイメージを使用しながらここには顔の半分しか描かれていません。これは、CONVERGE のクラシックなラインナップが、”Bloodmoon: I” の全体像の一部にしか過ぎないことを暗示しています。そして中央には、輝くような、統一された陰陽のシンボルが月のようにぶら下がっています。Bannon は “前進することを重視” して、自分のバンドのレガシーについて深く考えることを躊躇していますが、2004年の “You Fail Me” は罰当たりな “Hanging Moon” で締めくくられ、2012年の “All We Love We Leave Behind” のアートワークでは月の周期の位相を表現するなど、その作品群に月のイメージが浸透していることを認めています。
「このアートワークを “トロピカル” と呼ぶ人がいるかもしれないけど、俺にとっては視覚的にも比喩的にも共感できるものだ。人間は皆、さまざまな形でそれぞれの暗闇をかかえている。ある人にとっては月がその象徴となるだろうし、別の人にとっては、月が真っ暗な時間の中で輝く光の象徴になるだろう。この比喩をどう捉えるかは君次第なんだ。それに、この作品の歌詞には蛇のイメージが多く含まれているから、それを取り入れたいと思った。CONVERGE のレコードのような雰囲気を出しつつ、異世界のような雰囲気を出したかったんだ。その構成やアイデアを構築するのに時間がかかったけどね」
音楽とビジュアル・アート、そして私生活の関係についてはどう考えているのでしょうか?
「俺にとって、音楽とアートは同じ芸術空間から生まれてくる。とはいえ、これは俺の仕事でもあるから、本当に好きな面もあれば、疲れてしまう面もある。音楽やアート以外では、海の近くで過ごしたり、家族や子供たちと過ごしたりすることが多いね。先週末、2人の息子を連れて森の中の小道を歩いていたら、偶然にも鹿に出会ったんだよ!あと、俺は子供の頃、1988年か1989年頃まで大のプロレスファンでね。俺がプロレスに夢中になったのは、1983年、7歳か8歳のとき。ロード・ウォリアーズがテレビに出てきて、”Iron Man” に合わせて登場したのを初めて見たときは、圧倒されたよ。思春期の少年にとっては、最高にタフでクールなものだったんだ。今でもサバスの “Iron Man” を聴くと滾るよね」
Wolfe はこの月食の到来を過酷な戦いの終わりになぞらえています。残酷なパンデミックの中でのレコーディング、断酒への道、そして、5年という長い時間をかけた共同創作。
「このアルバムには、赤いエネルギーがたくさん詰まっているの。私にとって “Blood Dawn” という曲は、この旅の終わりのようなもの。血の月から日の出まで続く戦いで、あなたは自分の手に残った血を見ているのよ。私は、戦いの後、太陽が昇る浜辺に座っている全員の姿を想像しているわ。アルバムの曲ができあがってくると、神話的な雰囲気を感じるようになったのよ。大きなテーマ、巻きついた蛇のような古代のシンボル、戦いの後の血まみれの日の出。曲を作りながら、頭の中でそんな神話的なテーマをイメージするようになっていったわ」

この作品はほとんどが別の場所で録音されましたが、今年の6月にミュージシャン全員が GodCity に集まり、最終ミックスと最後の調整を行いました。パンデミックが始まって以降、全員が同じ部屋に集まったのは初めてのことです。Bannon は隔離され音楽に打ち込めるロックダウンが、必ずしも創造性にはつながらないと感じていました。
「Chelsea も同じかどうかはわからないが、パンデミックの影響でクリエイティブな人たちが変な方向に行ってしまったんだよな。誰もがクリエイティブでなければならないと思っていて、俺はそれをかなり息苦しく感じていた。俺はそんな仕事はしたくない。何かを作りたいと思えるようになるまでには、しばらく時間がかかったんだよ。そんな俺にとって、Bloodmoon にはとても素晴らしいサポート体制があった。俺たちは仲間で、互いを思いやり、アーティストとして尊敬し合っている。だから、こんなに大きくて手の込んだことをする自信はなかったけれど、7人の仲間が安心してサポートしてくれるから、誰もが何かを作るときに抱く芸術的な疑問を払拭することができたんだ。そのために俺は、自分のアイデアをもっと自由にしなければならないと感じていた。ひとつひとつのアイデアを延々と練るのではなく、とにかく出してみる。普通のレコードでは考えられないような方法でね。
バンドを続けていると、焼き直しとは言わないまでも、自分たちに合ったやり方を見つけることになる。内面的な力関係とか、どんな曲を作るかとか、そういったことも含めてね。 俺たちはこれまでも、そしてこれからも、さまざまなサイド・プロジェクトをやるんだけど、つまりそれは CONVERGE のサウンドを成長させたいと常に思っているから。その思いは90年代後半にさかのぼる。Kurt と俺は、自分たちがより良いプレイヤーになり、より大きくて幅広い音楽的アイデアを持つようになったら、異なる楽器を取り入れてみてはどうだろうかと話し始めていたんだ。最終的には、このバンドの延長線上にある、ルールがなく、やりたいことが何でもできるようなコラボレーションができたら、すごくいいんじゃないかと思っていたよ」
そもそも、Bloodmoon は CONVERGE の作品と言えるのでしょうか?
「これはバンドの延長線上にあるものだ。CONVERGE は木のようなもので、これはその木の大きな枝のようなものなんだ。俺たちが中心となる4人という意味では関連性があり、CONVERGE と同じ精神を持っているが、新たな協力者を得て、7人組の大きなバンドとして一緒にサウンドを広げているんだ。このアルバムでは、全員が歌詞を書き、曲を作り、レコーディングや編集の過程で全員が何らかの形で発言し、それがとてもポジティブな経験となった。だから、俺たちは CONVERGE のレコードだと、そう考えているよ。バンドの延長線上にあるものとしてね」
CONVERGE の4人のメンバー、ボーカルのJacob Bannon、ベースの Nate Newton、ドラマーの Ben Koller、ギタリストの Kurt Ballou、メタル/フォークの歌姫 Chelsea Wolfe、彼女のバンドメンバーであり作曲家でもある Ben Chisholm、そしてニューイングランドの伝説 CAVE IN の Stephen Brodsky。まさにマグニフィセント・セブン。そして、このアルバム・タイトルは、いずれ “Bloodmoon.II” が作られることを示唆しています。しかし、Bannon と彼のバンドがこれからどこに向かおうとも、ヴォーカリストは CONVERGE の次の進路にいつも興奮しています。
「他の多くのバンドは、大抵、練りに練ったアルバムを作った後、次のレコードではコアな部分に戻っていく。俺は、特に10代で築いたものに柔軟性を持たせるという考え方が好きなんだ。とにかく、これまでにやったことのない、まったく奇妙なことをやってみよう……そして、また次のレコードを作ろう!」

参考文献:REVOLVER:TELEPATHY, SOBRIETY, WARFARE: HOW CONVERGE AND CHELSEA WOLFE ECLIPSED EXPECTATIONS WITH BLOODMOON

KERRANG!:Jacob Bannon and Chelsea Wolfe take you inside Bloodmoon

MANIACS:INTERVIEW – JACOB BANNON OF CONVERGE GOES DEEP ON ‘BLOOD MOON: I’

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY ROW : UNCHAINED】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKAEL SALO OF THY ROW !!

“What Always Drew Me Into Japanese Music Was The Melodies – I Feel That Japanese Metal Bands Always Keep The Focus On The Melody, Like a Redline Running Through The Song. This Is Extremely Important To Me Also In My Own Music.”

DISC REVIEW “UNCHAINED”

「僕が日本の音楽に惹かれたのは、メロディーなんだ。日本のメタル・バンドは、曲の中を走る赤い線のように、常にメロディーに焦点を当てていると感じるよ。これは、僕自身の音楽においても非常に重要なことなんだ」
才能溢れる多くのバンドを抱えながら、さながら鎖国のように世界への輸出を拒んできた日本の音楽世界。イメージや言語、そして理解されない珠玉メロディーなどその理由はさまざまでしたが、近年はそんな負の連鎖から解き放たれつつあります。アニメやゲームといった日本のコンテンツが抱擁されるにつれて、永久凍土に見えた音の壁が緩やかに溶け始めたのかもしれません。そして、フィンランドの THY ROW は衝撃のデビュー・アルバム “Unchained” において、日本の音楽が持つクリエイティブな可能性とその影響を惜しみなく解放しています。
「歌を録音することはとても負担が大きく、感情的なプロセスで、歌い終えた後はいつも疲れてしまう。でも、もし誰かの心をどこかに動かし、その曲の意味やストーリーを感じてもらうことができたら、ボーカリストとしての目標は達成できたと思うんだよ」
枚方に一年間留学し、日本語や日本文化、そして感情の機微を胸いっぱいに吸い込んだボーカリスト Mikael Salo は、THY ROW の音楽へと日本の空気を思い切り吐き出しました。
坂本英三、森川之雄。こぶしの効いた浪花節を思わせる、すべてが熱く “Too Much” な二人の歌声は Mikael の心を動かし、憑依し、アルバムに感情の津波を引き起こすことになりました。おそらくは、ANTHEM がこれまで世界にあまり受けいれられなかったのも二人の歌唱が、メロディーが、きっとあまりに “日本的” だったからで、その部分が雪解けとなった20年代では、Mika のようなユーロと日本のハイブリッドの登場もある意味では当然でしょう。ANTHEM は何十年も、ただ最高のメタルを作り続けているのですから。
「”Burn My Heart” や “Destiny” は完璧なパワー・メタルだけど、”Still Loving You” や “Destinations”のような曲は、彼らのスタイルの多様性を示していて、息を呑むような音楽性によってパワー・メタルの曲作りのルールを曲げているよね。驚きだよ!」
THY ROW に影響を与えた日本の音楽は ANTHEM だけではありません。GALNERYUS や X JAPAN の “パワー・メタル” の枠だけには収まらない千変万化の作曲術も、THY ROW にとって不可欠な養音となりました。そうして彼らは、ロックとメタルの境界線の間でバランスを取りながら、メロディーに重点を置き、時折ラジカルなギターソロとマジカルな展開を交え、ビッグなコーラスによって感染力の高い楽曲を完成させてきたのです。
「制作面では、ミキシング・エンジニアの Jussi Kraft(Starkraft Studio)と一緒に、AVENGED SEVENFOLD のアルバム “Hail To The King” を参考にしたんだよね。音楽的には、モダンな影響ならブラジルのバンド ALMAH や、アメリカのバンド ADRENALINE MOB みたいなバンドが思い浮かぶね」
重要なのは、彼らが過去の亡霊に囚われてはいないこと。手数の多いドラムの騒然は MASTODON の嗎に似て、耳を惹くオルタナティブなフレーズは INCUBUS の異端にも似て、クランチーなリフワークとサウンドは QOTSA のエナジーにも似て、THY ROW の音楽を80年代と20年代の狭間に力強く漂わせるのです。冒頭、”Road Goes On” や “The Round” といった真のアンセムを誇示する一方で、アルツハイマーをテーマとしたダークでプログレッシブな “The Downfall” 三部作でアルバムを閉める構成力も素晴らしいですね。
今回弊誌では、Mikael Salo にインタビューを行うことができました。「当時、間抜けなティーン・エイジャーだった僕は、兄にかなり失礼な質問をしてしまったんだよね。”ヘヴィ・メタルって、ドラッグをやったり、タトゥーを入れたりしている人たちのものじゃないの?”って。でも賢明な兄はこう答えたんだ。”そんなことはないよ、美しくて情熱的な音楽だから、ぜひチェックしてみて!”」THY ROW の音楽も十二分に美しく、そして情熱的です。どうぞ!!

THY ROW “UNCHAINED” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST FRAGMENT : GLOIRE ETERNELLE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PHIL TOUGAS OF FIRST FRAGMENT !!

“Japanese Power Metal Bands Like Saber Tiger, Galneryus, Versailles, etc Sing In Their Own Language And It Fits Their Music Much Like Quebec French Fits Our Own Music Best. We Will Continue To Do So.”

DISC REVIEW “GLOIRE ETERNELLE”

「ARCHSPIRE の音楽は、正確で、数学的で、冷たく、残忍で、容赦なく、人間離れした速さで、怒りに満ちていて、極めてよく計算されている。対して FIRST FRAGMENT の音楽は、折衷的で、有機的で、時に緻密で、時に即興的で、陽気で、時に楽しくて痛快で、時に悲劇的でメランコリックなんだ。だから私は FIRST FRAGMENT を “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” と呼び、ARCHSPIRE を”テクニカル・デスメタル” と呼んでいる」
現在、メタル世界で最高峰のテクニック、そしてシュレッド・ファンタジーをもたらす場所がカナダであることは疑う余地もありません。先日インタビューを行った ARCHSPIRE がメカニカルな技術革新の最先端にいるとすれば、FIRST FRAGMENT はシュレッドのロマンを今に伝える黄金の化石なのかもしれませんね。奇しくも同日にリリースされた “Bleed The Future” と “Gloire Éternelle” は、正反対の特性を掲げながら、テクニカルなエクストリーム・メタルの歩みを何十歩、何百歩と進めた点でやはり同じ未来を見つめています。
「2007年のことを思い出してほしい。ケベック州のモントリオール地域では、デスメタル、ブラック・メタル、デスコアが主流だった。今でもそうだけど、その時期はさらにその傾向が強かったんだよね。だから私のようなエッジの効いた矛盾した人間にとっては、フラストレーションの溜まる時代だったよ」
VOIDCEREMONY, EQUIPOISE, ETERNITY’S END, FUNEBRARUM, ATRAMENTUS…。おそらくメタル世界でも最も多忙なギタリストとして知られる Phil Tougas は、MARTYR, CRYPTOPSY, AUGURY などが闊歩するテクデスの聖地ケベックに生まれ、だからこそ別の道を進むことを決意します。91年生まれ、まだ30歳にもかかわらず、Yngwie Malmsteen, RACER X, CACOPHONY, Tony Macalpine, Joey Tafolla (!!) といったシュラプネルの綺羅星にどっぷりと浸かりながらそのギターの鋭利を研ぎ澄ませていきました。
一方で、同世代に同じ趣味のプレイヤーがいなかったことから、MORBID ANGEL や NECROPHAGIST といったエクストリームの涅槃にも開眼し、FATES WARNING や ELEGY (!!) のプログ・パワーまで吸収した Phil は、FIRST FRAGMENT で “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” を創造するに至ります。グロウルを使えばデスメタルなのかい?という問いかけとともに。
「私たちのリフはすべて、ネオクラシカルなパワーメタルのコード進行で構成されている。デスメタルは砕け散り、重く、邪悪で残忍だ。FIRST FRAGMENT はインテンスの高い音楽だけど、これらの特徴はどれも持っていないし、その気もないんだよね。ゆえに、デスメタルではない」
バロックやロマン派のクラシック音楽から、フラメンコ、ジャズ、スウィングやファンク、ネオクラシカルなパワーメタル、デスメタル、プログレッシブ・メタル.。ジャンルを踊るように融合させ、大きなうねりを呼び起こすという点で、FIRST FRAGMENT の右に出るバンドはいないでしょう。そしてその華麗な舞踏会を彩るのが、Phil Tougas, Nick Miller, Dominic “Forest” Lapointe のシュレッド三銃士。
「ソロ・セクション自体は、通常のツイン・ギターではなく、私が “トリプル・リード・アタック” と呼んでいるものなんだ。このアルバムでは、ベースがギターの役割を果たし、ベースがギタリストと同じ数のソロを演奏し、合計30のベース・ソロを演奏するという、メタル・バンドの中でも珍しいことを成し遂げている」 の言葉通り、すべての弦楽器が平等に、鮮やかに、驚異的な指板のタップダンスを踊り尽くします。特筆すべきはリードが放つ揺らぎやエモーション、そしてサプライズで、近年大半を占めるレールの上を滑らかに進むようなソロイズムとは明らかに一線を画しています。例えば、RACER X や CACOPHONY が絶対的な楽曲、リード、プロダクションばかりを誇っていたかと言えば答えは否かもしれません。しかし、あの時代のギタリズムには予測不能のびっくり箱が無数に用意されていました。FIRST FRAGMENT にも宿る同様のシュレッド・ファンタジーは、アルバムのテーマと同じく音の輪廻転成を信じさせるに十分でしょう。
「SABER TIGER, GALNERYUS, VERSAILLES といった日本のパワーメタル・バンドは日本語で歌っていて、それはケベックのフランス語が私たちの音楽に一番合っているように、彼らの音楽にも合っているよね」
アルバム全編をフランス語で歌うエクストリーム・メタルという意味でも、FIRST FRAGMENT は文字通り “はじめてのカケラ” だと言えます。彼らの母語に潜む哀愁とラテンの響きは、アルバムの根幹をなすフラメンコとクラシカルな響きと絶妙に混ざり合い、ELEGY が “Spanish Inquisition” で成し遂げた夢幻回廊の奇跡を現代のメタル世界へと呼び戻すのです。
今回弊誌では、Phil Tougas にインタビューを行うことができました。「Tony MacAlpine, Joey Tafolla, ELEGY の Henk Van Der Laars。この3人のギタリストは今でも私の最大のヒーローだと思う」まさにメタル温故知新の最高峰。エルドラドならぬシュレッドラド。どうぞ!!

FIRST FRAGMENT “GLOIRE ETERNELLE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KAYO DOT : MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOBY DRIVER OF KAYO DOT !!

“It Was Mindblowing To Me When I Discovered That There Were Bands That Blended Death Metal With Sludge And Atmospheric Keyboards, Such As Tiamat, Disembowelment, My Dying Bride, Anathema, And Many Others. That Became My Favorite Style Of Music.”

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE”

「パンデミックの影響で、私は街から離れ、友人や他のミュージシャンとも離れて孤立せざるを得なかった。すべての作品を孤独の中で作らなければならなかったんだよ。当時は精神的にかなり参っていたけど、振り返ってみると、あれは私にとってまさに必要な休暇だったと思えるね。都会の喧騒や過酷な生存競争に巻き込まれることなく、自分自身で大きく成長することができたからね」
メタル/プログレッシブの世界で異端の道を歩み続ける修道僧、KAYO DOT の Toby Driver。彼は、パンデミックの影響により都会から離れ、自然豊かな地元コネチカットの田舎の暮らしで自身を見つめ直すことになりました。そこで再訪したのが、高校時代に愛した Toby のルーツとも言えるレコードたちでした。
「TIAMAT, DISEMBOWELMENT, MY DYING BRIDE, ANATHEMA みたいに、デスメタルにスラッジやアトモスフェリックなキーボードを加えた音楽を知ったときは、驚かされたよね。そして、それが私のお気に入りの音楽スタイルになったんだ」
当時、アメリカの田舎町でヨーロッパのゴシック・ドゥームメタルを愛聴していた若者がいったい何人いたでしょう?さらに、それを聴きながら幽体離脱の瞑想をしていたというのですから、Toby Driver という人物の超越性、異端児ぶりには恐れ入ります。
時は90年代初頭。メタルが遂に “多様性” を手に入れ始めたカラフルな時代の息吹は、青年だった Toby の音楽形成、境界を破壊する才能に大きく寄与することとなります。そうして、MAUDLIN OF THE WELL というプログレッシブ・メタルから始まった彼の音旅は、KAYO DOT でのアヴァンギャルド、ポスト・メタル、アトモスフェリック、チェンバー、エレクトロニカの寄港地を経て再びゴシック・ドゥームの地へと舞い戻りました。
「90年代に活躍したバンドを思い浮かべると、たしかにあの頃のミュージシャンたちは皆とても若くて、音楽に成熟したものを期待することはできなかったよね。私は、あのゴシック・ドゥームという音楽が、成熟していて、経験を積んでいて、しかもまったく新しいもののようにエキサイティングだとしたら、どのように聞こえるだろうかと自問したんだ」
しかし、Toby のその長旅は、すべて最新作 “Moss Grew on the Swords and Plowshares Alike” の養分となり、未成熟で不器用だったあのころのゴシック・ドゥームを完成させるパズルのピースとなりました。言ってみればこのアルバムは、過去への感謝の念を抱いた自由意志の結晶。
「今回は、アーティストとして意味のある音楽を演奏するだけでなく、私たちが所属している Prophecy Productions というレーベルにマッチした音楽を演奏して、お互いに成長できるようにしたいと思っているんだ」
レーベルに合わせて音楽を書く。そんな試みもまさしく前代未聞ですが、それを実現できるのが日本ツアーであの平沢進までカバーした音楽の図書館こと Toby Driver。”The Knight Errant” はそんな KAYO DOT の “錬金術” を象徴する絶景。欧州に根差すブラック・メタルの激しい敵意とゴシックの耽美、さらに LYCIA のようなアメリカのシューゲイズ、そして ULVER や THE CURE といった Toby の “お気に入り” が調合された謎めいたアンチマターは、非常に “Prophecy 的” でありながら純粋で、驚きを秘め、感情を雷鳴のように揺さぶります。KAYO DOT の哲学には明らかに、野蛮とエレガントの巧妙な天秤が設置されていて、どちらか一方に傾くことはありません。
“Eternity” 時代の ANATHEMA を想起させる “Void in Virgo (The Nature of Sacrifice)” を聴けば、よりメタルだったころの Toby を喚起した MAUDLIN OF THE WELL のメンバーを招集した意味も伝わるはずです。シンコペーションとギターのアルペジオが彩る “Necklace” はまさにあのころのゴシックの申し子でしょうが、それよりも自由と伝統の共存、まさに90年代のゴシック・ドゥームの美学を KAYO DOT の豊富な “スペクトル” で調理した “Spectrum of One Colour” にこそこの作品の本質があるのかもしれませんね。
北欧神話や一神教を表のテーマとしながら、実際は世界に蔓延するヒーロー気取りの愚か者を断罪する。それもまた自由と伝統の共存なのでしょう。
今回弊誌では、Toby Driver にインタビューを行うことができました。「私は彼の音楽がとても好きで、東京にある “Shop Mecano” (中野ブロードウェイ) というプログレのレコード店にも足を運んだんだよね。ここは都内でも平沢さんの音楽を扱う主要な業者のひとつなんだろうか?沢山あったからDVDを何枚も買ってしまったよ (笑)」4度目の登場。もはやレギュラーですね。どうぞ!!

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【RIVERS OF NIHIL : THE WORK】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRODY UTTLEY OF RIVERS OF NIHIL !!

“It Is Absolutely Possible To Have The Singular Focus Of Your Idealized Art, You Just Have To Be Willing To Put Off All Of The Things That We’ve Been Raised To Believe Are Necessary Components Of What Makes a Life Fulfilling And Meaningful.”

DISC REVIEW “THE WORK”

「ロックダウンは、閉じこもって腰を据え、これまで以上にクリエイティブな作業に没頭する絶好の機会となったんだ。当時、世界で起こっていたすべてのことを考えると、もう二度とバンドとして一緒に音楽を演奏することはないだろうと思えてね。だから、ある意味では最後のアルバムになると思って書いていたのかもしれないよね」
ペンシルバニア RIVERS OF NIHIL は、本質的な意味でのプログレッシブな要素と、付け焼き刃とは正反対のクリーンな歌唱を着実に取り入れ、シーンの中で傑出した存在となったエクストリーム・メタル・アンサンブル。2018年の “Where Owls Know My Name” でプログレッシブ・デスメタルの最先端を書き換えた彼らは、最期を意識し不退転の決意で臨んだ “The Work” においてまさに堅忍不抜、パンデミックという冬の情景を誰よりも克明に、さながら名作映画ように深々と映し出してみせました。
「”The Work” は間違いなく四部作の終わりを告げる作品なんだ。僕たちのこれまでの4枚のレコードは、それぞれ季節を表していてね。”The Conscious Seed of Light” は春、 “Monarchy” は夏、”Owls” は秋、そして “The Work” は冬なんだよ。冬というのは心の状態も表している。長い間、落ち込んだり、絶望したり、不安になったりする心の状態は、アメリカの北東部で経験する冬とよく似ているんだ」
最も困難で予測不能な季節。冬に託されたそんなイメージは、そのまま “The Work” の音楽にも当てはまります。冷たく機械的な極端さと、有機的な暖かさや適切に配置されたメロディが絶妙に混交した “Owls” がある意味万人受けする秋だとすれば、野心的で、瞑想的で、変化に富んだ超越的な “The Work” はすべてを受け入れるために時間を要する冬の難解そのものなのかも知れません。厳しくて冷たい不可解な世界。しかし最後に到達するのは肉体的、精神的、感情的な満足感です。
「自分の理想とする芸術に集中することは絶対に可能だよ。ただ、自分の完璧な芸術的ビジョンにすべてを捧げたいのであれば、人生を充実させ、意味のあるものにするために必要であると信じられてきたすべてのものを喜んで捨てなければならないんだ」
アルバムに込められたメッセージは、リスナーに内省を促し、人生をより本質的な価値のある、意味のあるものにしていくこと。”The Work” “仕事” とはいったいなんのための仕事なのか。自分の人生を生きるという、簡単なようで実に難しい不可能にも思える命題こそ彼らの魂。それがパンデミックであれ、大統領選であれ、アートワークの分断された世界においても、黙々と光の中で音楽を作り続けたのがインタビューの回答者である Brody Uttley であり、RIVERS OF NIHIL でした。つまり、パンデミック、冬という厳しい季節においても、不撓不屈の精神さえあれば心の充足、魂の浄化は必ず得られるのです。
「多くのバンドが、よりプログレッシブなサウンドに向かうにつれて、ヘヴィーな瞬間、その激しさを失っていく傾向があると思うんだ。でもその要素を完全に捨ててしまうのは愚かなことだよ。というのも、僕たちはヘヴィーな要素を “絵画” の “色” として使うことに長けているからね。僕たちは “プログレッシブ” というものを自分たちのやり方で表現したかったんだ」
冒頭の “The Tower (Theme from The Work)” は、そのテーマと音楽の両方で、アルバムの本質を伝えます。荘厳で幽玄なピアノに始まり、悲しくも不吉な歌詞が寒々としたジャズ・メタルの世界を彩ります。アレンジにも工夫が施され、サックスやパーカッションといった “アウトサイド・メタル” な音色が心に残る響きを加えていきます。ボーカリスト Jake Dieffenbach が、最終的にトレードマークであるグロウルへ到達するまでの RIVERSIDE にも似た穏やかな不安感が、何よりもこの冬のアルバムを完璧に表現しているでしょうか。
実際、このアルバムには穏やかに、緩やかに、内省的で多面的なダイナミズムの断片が散りばめられています。ほとんどラジオ・フレンドリーと言えるほどポップで、ストレートなリズムにクラシック・ロックのギターソロまで認めた “Wait”、AYREON や PINK FLOYD のサイケデリックな宇宙に “Tower 2″ のアコースティックな響き。一方で、”Dreaming Black Clockwork” や “Focus” には NINE INCH NAILS を想起させるインダストリアルで凶暴な冷酷と混沌が封じられています。
クライマックスはアルバムの最後を飾るトリロジー。繊細で、ミニマルで、アンビエントで、爆発すれば荘厳壮大、咽び泣く音の壁、ディストピア的邪悪なノイズの連射。Brody が最近の愛聴盤に MOGWAI や DEAFHEAVEN, RADIOHEAD を挙げているのは、アルバムを紐解くためのちょっとしたヒントなのかもしれません。ポスト・ロックやポスト・メタルをデスメタルの側から解釈したようなダイナミズムと激情の26分は、このバンドがどれほどすべてを投げ打ってアートに捧げているのか、変化を恐れない人間たちなのか、それを証明するに十分な音のメッセージだと言えるでしょう。
今回弊誌では、リード・ギタリストでキーボードもこなす Brody Uttley にインタビューを行うことができました。「典型的な人生の青写真に従わない人は真のヒーローで、僕にとって常に刺激的な存在なんだ」 二度目の登場。どうぞ!!

RIVERS OF NIHIL “THE WORK” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN LAMB OF ARCHSPIRE !!

“As a Band We Always Try To Write Music That Is About 10% Above Our Abilities, So That Means Everyone Is Constantly Pushing Themselves To Improve.”

DISC REVIEW “BLEED THE FUTURE”

「”Stay Tech” という言葉は、僕たちのバンドが目指すものをすべて体現している。だから、”Stay Tech industries” という想像上の会社名からこの言葉を残して、クールなロゴを作ってもらったんだよ。今ではバンド全員がこの言葉をタトゥーにしているし、同じタトゥーを入れている人にもあちこちで会うんだよ!」
STAY TECH!テクニカルでいようぜ!をモットーとするカナダのテクデス機械神 ARCHSPIRE。世界で最も速く、世界で最もテクニカルで、世界で最も正確無比なこの “メタル” の怪物をシーンのリーダーに変えたのは2017年の “Relentless Mutation” でした。アルバムのリリースを終え、OBSCURA の日本ツアーに帯同した ARCHSPIRE。口をあんぐり開けて立ち尽くし、彼らを見つめていた多くの観客を筆者は目撃しています。それはまさに、新時代の到来を告げる啓示といった類のライブ・パフォーマンスでした。
「バンドとして、僕たちは常に自分たちの能力の10%くらい上のレベルの音楽を書こうとしているんだ。つまり、このバンドでは誰もが常に自分を高めようとしているんだよ」
そうして、名優ジェイソン・モモアを含む何万もの新たなファンを獲得し、地球上をツアーしてきた ARCHSPIRE は、あの画期的なアルバムをさらに先鋭に研ぎ澄まし、別の次元へと到達させました。”Bleed The Future”。文字通り、血反吐を吐くようにして紡ぎ出した彼らの未来は、目のくらむようなテクニックと、複雑怪奇をキャッチーに聴かせるバンドの能力が光の速さで新たなレベルへと達しています。
「僕にとって8弦ギターはほとんど6弦と同じにしか見えないから、コード・シェイプやスケールはすべて10代の頃に学んだものを流用している。相棒の Tobi も8弦を弾くようになったから、僕たちは完全に “音域の広い” バンドになったんだ」
“Bleed The Future” という無慈悲な殺戮マシンの心臓部は、Tom Morelli と Dean Lamb の8弦ギター。雪崩のように押し寄せるブラスト・ビートと、ワープ・スピードで飛び交うテクニカル・エクスタシーを背に、5足と5足の超速スパイダーはアクロバティックにメロディックに指板の宇宙を踊り狂います。二人にとって、きっと6弦の指板は窮屈すぎるのでしょう。一方で、趣向を凝らしたクリーンなパッセージも秀逸。ともかく、他のバンドが2つの音を出す間に、彼らは少なくとも5つの音を繰り出します。
「デスメタルは非常に過激な音楽だから、リスナーが疲れずに “多くのもの” を聴くことは難しいと考えているんだ。だから僕たちの意見では、32分くらいがちょうどいいんだよね」
32分という短さに、想像を絶するスピードで、長い歌詞を含めて様々なものが詰め込まれた “Bleed The Future”。Tech-metal の世界では非人間的なテンポで演奏するバンドも少なくありませんが、さすがにこれは別物です。クラシックの美麗美技と獰猛超速のメタロイドを行き来する “Drone Corpse Aviator” がアルバムの招待状。BPM360 のタイトルトラック “Bleed The Future” で、ボーカリスト Oli Peters がさながら Busta Rhymes のように重たい言葉の弾丸を正確に連射すれば、モダン・メタルメタル界最速ドラマーの一人として知られる Spencer Prewett は、”A.U.M” で BPM を400まで到達させるだけでなく、千手観音の威光を纏いながら Gene Hoglan や Tomas Haake と同等の才能を証明します。
“A.U.M”, “Reverie on the Onyx” といった楽曲の、サンプリングやクラシカルなマテリアルをメインストリームやヒップホップのやり方で吸収し、デスメタルに昇華させる ARCHSPIRE の哲学は実に新鮮で傑出していますね。”Abandon The Linear’ で炸裂する Jared Smith のクラシカルかつグルーヴィーなベースソロも極上。そうやって彼らはフックやキャッチーな音の葉を多種多様に盛り込んでいくのです。
カナダはこれまでにも優れたテクデスの綺羅星を産み落としてきました。CRYPTOPSY, GORGUTS, BEANEATH THE MASSACRE, BEYOND CREATION…その中でも APCHSPIRE は最高傑作にして、テクデス・ルネサンスの最先端に位置しているように思えます。現時点で、彼ら以上のリーダーは存在しないでしょう。威風堂々、この威厳。この異次元。
今回弊誌では、ギター・マスター Dean Lamb にインタビューを行うことができました。「僕たちのスタイルにラップを加えることは、最初からの計画だったんだ。僕たちは皆、Tech N9ne をはじめとするスピード系ラッパーが大好きだから、2009年に Oli をバンドに誘ったときにラップに影響を受けたデスメタルというスタイルにしたいという話をしたんだよね」 Dave Otero のプロダクションも完璧な一枚。”メロディックなボーカルなんて絶対にやらない”。どうぞ!!

ARCHSPIRE “BLEED THE FUTURE” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【6:33 : FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES – DOME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLORENT CHARLET OF 6:33 !!

“We Were Stunned (As We Tried To Pay Tribute On The Album’s Artwork) By “Cyberpunk” Animes Such as Akira, Ghost in the shell ou Gunnm, And Some Of Their OST. Nicko Is a Huge Fan of Yoko Kanno.”

DISC REVIEW “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES”

「バンドが誕生したのが長いクレイジーな夜のパーティーの後、午前6時33分だったから 6:33 なんだ。バンドの名前を決めるのは往々にしてとても複雑で、何か意味があるのか、何かを参照しているのかといろいろ探したり、メンバー全員が別々の自分の考えを持っていたりする……だから僕たちは、単純に、効率的に、深い意味はなく、ただ楽しい名前を選んだんだ」
6:33 を “楽しいプログ・バンド” と位置づけている。そんな Florent の言葉通り、フランスのイカれた変態集団 6:33 は、複雑難解で何事にも意味や哲学を求める傾向のプログ世界を “楽しい” に変える破天荒の確信犯。
「音楽スタイルの多様性についてだけど、僕は、うまくいって、楽しくなるならば何でもすぐにそれを実行するんだよ。僕たちのこういった音楽スタイルの変化は、ユーモアのようなもので、悲しみから喜びへと瞬く間にジャンプするんだよね」
ファンク、スウィング・ジャズ、ヒップホップ、R&B、ポップス、サウンドトラック、ワルツ、サーカス、スカ、ゴスペル、チャーチオルガン、チューブラー・ベル、80年代のシンセ・ウェイブ、ブラス・バンド、オーケストラ….世界で最も多様なメタル・バンドとしてあの DIABLO SWING ORCHESTRA と双璧をなす 6:33 のパレットには、ありとあらゆる音の色彩が用意されています。
例えば、やたらとメニューの多い中華屋に入って肝心の味に閉口する。6:33 の料理にそんな杞憂は必要ありません。まさになんでもあって心から楽しめる一流の料理店。これをプログと呼んでいいのでしょうか?それともプログメタル・アルバム?いえ、”Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” はそのすべてであり、それ以上のものなのかもしれません。
「僕たちは、若いアーティストがスターになるために巨大な都市(ドーム)に引っ越してくるという、ある種のオルタナティブ・ワールドを作りあげたんだ。そこで彼は色とりどりの人々と出会い、自分の中の声(頭の中の奇妙な虫のようなものの声)に心を動かされるんだ。そして、彼は自分の目標に突き進んでいく」
“Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” は、全11曲、53分10秒の “オペラ・コミック”。日本の “サイバーパンク・アニメ” に影響を受けた近未来のダークな物語を、アートの粋を集めながら、直接的に楽しく語ります。率直で境界線のない変態集団は、ウルトラ・キャッチーなメロディー、それにエネルギーに満ちたシンガロングを作り出すコツを心得ていて、最高にプログレッシブでありながら、ヘッドバンキングしたり、足を踏みならしたり、指でどこかを叩いたりすることが宿命づけられた “踊れるプログミュージック” を完成へと導いたのです。
オープナー “Wacky Worms” は、アルバムの縮図となるような一曲。あえて言えばこのアルバムの中で最も “メタル” な楽曲ですが、6:33 らしくあらゆるものが含まれていながら、それぞれが自然にシームレスに接続されているため、一層豊かな音楽の乗り心地に身を委ねることができるのです。それはまさに彼らが6年をかけて目指したもの。さらに 男女ツインボーカル、ダブル・キーボードという新たな編成を得てはじめて、音楽に真の鼓動が脈打ち始めました。プログラミングされたドラムスも、ついに新メンバーが加わり、以後ライブでは ”生” で再現されていきます。
1枚のアルバムの中で、これほどまでに多様なスタイルが次から次へと飛び交い、しかもそれが自然な流れの中で巧みに織り込まれている作品がどれだけあるでしょう?QUEEN, THE BEATLES, GENESIS, FAITH NO MORE, ブロードウェイ、シンセウェイブ、ディスコ、トランス、そしてもちろんメタル、まさに Devin Townsend の音の壁がグランドピアノの音に宿り壮大に幕を閉じる “Prime Focus”。これでほんの一曲。常軌を逸しています。
“Party Inc.” では、子供たちの合唱団まで登場します。これ以上ないほどシアトリカルですが、同時に遊び心があり、生き生きとしていて、都会の地下に巣食う粗野で殺伐とした未来のリアルにリスナーは贖うことができません。そうして到達する “Hangover”。Flow が師匠と呼ぶ Mike Patton が乗り移ったかのような千変万化なパフォーマンスに我々は声を失います。降り注ぐ拍手とスタンディング・オベーション。しかしきっとこれで終わりではありません。名演にはアンコールがつきものです。
今回弊誌では、ボーカリスト Florent Charlet にインタビューを行うことができました。「思春期の僕たちは、Akira、攻殻機動隊、銃夢といった “サイバーパンク” アニメや、それらのOST(バンドのギタリスト兼コンポーザーである Nicko は、菅野よう子の大ファン)に衝撃を受けたんだよね。アルバムのアートワークも日本のサイバーパンクに敬意を表しているんだよ」どうぞ!!

6:33 “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES” : 9.9/10

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