NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TERAMAZE : I WONDER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN WELLS OF TERAMAZE !!

ALL PHOTO BY KARINA WELLS

“I Like To Push My Self As a Musician So That Style Lets Me Do All The Styles That I Like To Write, We Fall In And Out Of Progressive Metal Its Anything Goes Really In Teramaze, Thats What Makes It Fun.”

DISC REVIEW “I WONDER”

「僕はミュージシャンとして自分をプッシュするのが好きだから、好きなスタイル全部を込めて作曲が出来るんだよ。プログレッシブメタルの中に出たり入ったり……TERAMAZE では何でもありで、それが楽しいんだ。」
PLINI, HIATUS KAIYOTE, KARNIVOOL, KING GIZZ, CALIGULA’S HORSE, VOYAGER, NE OBLIVISCARIS。オーストラリアが今、多様で真にプログレッシブなアーティストの桃源郷であることは疑う余地もありません。TERAMAZE の Dean Wells はインタビューてその理由を意味不明だと笑いましたが、実は彼自身が意識する “プログメタルに出たり入ったり”、自由自在何でもありのスピリットが彼の地には浸透しているのかも知れませんね。
「Tera とは何兆億もの道を指し、Maze は迷宮。だから、基本的に TERAMAZE とは平和への一つの道を通って自分の進む場所を見つけることなんだ。」
実際、 プログメタルというエニグマティックな迷宮においても、TERAMAZE が辿り到達した道の先は稀有なる特異点だと言えるでしょう。結成は1993年、デビュー作のリリースが95年ですから実はかなりのベテラン。当初はスラッシュメタルや PANTERA の影響色濃いアグレッシブなメタルをプレイしていましたが、2002年の解散、そしてリユニオンを経て、旋律の色彩を解き放つプログレッシブの昴として瞬き躍動しているのですから。
Dean が人生を変えたアルバムの一枚に SAVAGE GARDEN の “Affirmation” を挙げていることは、彼らを紐解く重要なヒントなのかも知れません。90年代を席巻した同郷オーストラリアのポップレジェンドは、たしかに TERAMAZE の遺伝子を改変しました。
メランコリーを帯びた官能的な歌声と旋律。洗練と無機の狭間で揺らぐ未来型シンセとドラムパターン。そんな二極を混淆して新世界への扉を開けた SAVAGE GARDEN の哲学は、そのまま TERAMAZE のエモーション極まるポップログメタルへと通じています。
「”Lake 401″ はたしかにサクスフォンととてもよく似ているよね。面白い話だけど、サックスは僕が初めて習った楽器で、正直嫌いだったんだ。(笑) でも今はそのサウンドが大好きだよ。実に歌っているようだからね。」
Dean の別プロジェクト、エクストリームな MESHIAAK のアルバムを聴けば、彼のテクニックが今まさに臨界へと達していることは明らかです。それでも、Dean が TERAMAZE でギターを捌くのではなく語らせるのは、ポリリズムやプログレッシブに潜む歌心を何よりも重視しているからでしょう。
そうして遂に Dean は最新作 “I Wonder” で自らが歌うことを選びました。バンドにとっては3作連続で異なるシンガーがフロントを務めることになりましたが、どうやら Dean の感傷的なソフトボイスは TERAMAZE の進化へと完璧に寄り添っているようですね。
アルバムには10分に迫る大曲が多数配置され、構成の妙やリズムの魔法で目眩く闇と祈りの絵巻物を象っていきます。それでも作品で最も印象に残るのは、”Lake 401″, “A Deep State of Awake”, “I Wonder” のような甘く切ないメロディーの輝き。逆に言えば、きっとポップソングは5分以内という常識を打ち破るのが何でもありの TERAMAZE なポップログ。
今回弊誌では、Dean Wells にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちを、信念に従い音楽を書こうとしている人間以外の何者でもないと思っているんだ…僕は自分の信念を持っているし、それが音楽に浸透していくこともあるんだけど…でも、俺たちはただの TERAMAZE なんだよ。どんなラベルも関係なくね。」 どうぞ!!

TERAMAZE “I WONDER” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【COUNTLESS SKIES : GLOW】2020’s OPETH FROM UK


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAMES PRATT OF COUNTLESS SKIES !!

“Maybe, Some Of The People Who Miss The Death Metal Elements Will Enjoy Glow. I Think If Nothing Else, It Has The Diversity That Was Found In Early Opeth.”

DISC REVIEW “GLOW”

「”Glow” では、プログの要素をより多く取り入れて、他の音楽からの影響も取り入れた。僕は今も自分たちのサウンドを保ちたいと願っているんだ。ただし、新たなダイナミックな方法でね。今は自分たちのサウンドを見つけ始めていると思う。」
メロディックデスメタルは多くのファンに愛されるジャンルですが、あまりにそのサウンドが明確なため、90年代初頭の予定調和が繰り返されるだけという側面も否めません。実際、21世紀以降、この場所に新鮮な空気を持ち込んだ異能は数少なく、DARK TRANQUILLITY, INSOMNIUM, OMNIUM GATHERUM といった創始者に近い英傑たちに進化を委ねるしかありませんでした。
「僕たちは BE’LAKOR の大ファンなんだ。彼らは、自分たちの良さの基本を守りながら、常に変化し、新しいサウンドを探求しているバンドだからね。彼らの最新アルバム “Vessels” は、音楽的にも非常に異なるものになっている。」
僅かな例外の一つが BE’LAKOR で、彼らのプログレッシブな旅路が多くの後続を勇気づけたことは間違いありません。北欧のメランコリーからかけ離れた高級住宅街、イングランドのハートフォードシャーに現れた COUNTLESS SKIES もそんなバンド一つです。BE’LAKOR の名作 “Stone’s Reach” のファイナルトラックをバンド名に戴き、彼らの最新作 “Vessels” と自らのデビューフル “New Dawn” のリリースデートを合わせこむ COUNTLESS SKIES の BE’LAKOR 愛は本物。ただし、受け継いだのは音楽性そのものではなく、挑戦者の哲学とスピリットでした。
「有能なバンドを際立たせているのは、メタルをはるかに超えたところから影響を受け取り入れる能力だと思うからね。プログメタルは、他のジャンルのように特定のサウンドに限定されていないから好きなんだ。僕たちはメロディックデスメタルの観点からプログレッシブメタルに取り組んでいるんだ。」
BE’LAKOR や INSOMNIUM に薫陶を受けたデビュー作はあくまでプロローグに過ぎませんでした。オペラティックな歌声、プログレッシブな楽曲構成、メタリックな感性を刺激するテクニカルな嘶き、そしてストリングスやクワイア、メロトロンの優雅で重厚なノンメタルな響き。その全てがタペストリーの如く、メロディックデスメタルの下地へと幾重にも重ねられていきます。
「今回はオーケストラの要素がとても楽しかったね。使用した楽器は、それぞれの曲のアイデンティティーの大きな部分を占めていると思う。」
英語には Glow と Grow Up を掛け合わせて「大きく変貌を遂げる」という意のスラング Glow Up が存在しますが、COUNTLESS SKIES の最新作 “Glow” はまさに Glow Up な傑作です。
ブラストビートに重なる ANATHEMA、メロデスの DEAFHEAVEN とでも形容したくなる鮮烈なオープナー “Tempest” は、”We’re Here Because We’re Here” と同種の希望やエナジーをもたらすオレンジの嵐。BLIND GUARDIAN のゴージャスさえ纏った “Summit” の一方で、INSOMNIUM 直系の獰猛とメランコリーを伝える “Moon” はエセリアルなピアノの響きと共にバンドの出自を示し、夕映えに佇む月の哀愁を物語るのです。
「デスメタルの要素を恋しく思っている人たちの中には、”Glow” が楽しめる人もいるかもしれないね。何より、初期の OPETH に存在した多様性を持っていると思うから。」
極め付けは、3楽章20分から成るタイトルトラックでしょう。メロトロンにストリングス、フォーキーなダンスに現代的アトモスフィア、エアリーなハーモニー、そのすべてを抱きしめ OPETH の哲学で裁縫した空の織物は間違いなく20年代を代表するプログエピックでしょう。プログメタルとメロデスが鬩ぎ合いながら幕を引くエンディングは鳥肌もの。もちろん現存するバンドですが、それでも2020年の OPETH と信じたいほどに遺産を気高くアップデートしているのです。
今回弊誌では、リードギタリストにしてコンポーザー James Pratt にインタビューを行うことができました。「BLMを公に支持している人々に対する反発が大きかったことを覚えているよ。ああいった混乱の時には、人々と関わることが大切だと思うね。偏屈な人は常に存在するけれど、中には誤った情報を持っている人もいて、なぜそれが重要なことなのか、きちんとした説明を必要としている人もいるんだから。」FORWARD. THINKING. METAL.は空に映える。どうぞ!!

COUNTLESS SKIES “GLOW” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【OCEANS OF SLUMBER : OCEANS OF SLUMBER】


COVER STORY : OCEANS OF SLUMBER

“I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

OCEANS OF SLUMBER

女性であること。黒人であること。ヘヴィーメタルには直結しない2つの特徴を持つ Cammie Gilbert は、OCEANS OF SLUMBER へと加入した2015年、自らに一握りの不安を抱えていました。
「メタルの世界に入った時、黒人女性であることや、必ずしもメタルのバックグラウンドばかりを抱えているわけではないことにかなり負い目を感じていたのはたしかね。」
バプテスト派の家庭で育ち、IRON MAIDEN や METALLICA より R&B やヒップホップが鳴り響く街並み。両親は教会の聖歌隊で出会い、プロのミュージシャンである父親が聖歌隊のリーダーを務めていました。”南部出身の黒人女性” としての経験をいかにメタルへと反映させるのか。しかし Cammie は自身のバックグラウンドが、思っていた以上にメタルと調和していることに気づきました。
「私はメタルから歌を教わったわけじゃない。だけど、私が歌を教わったゴスペル、ジャズ、ブルースのヴァイブやエッセンスはプログメタルが存在し成立するまさにその理由の一つなのよ。だから私はメタルが大好きなの。美学やアトモスフィアもそうだけど、エモーションや細部への拘りもね。」

興味深いことに、Cammie の人生に最も早く寄り添ったメタルは、Layne 逝去のあと、黒人ボーカリスト William DuVall と共に前へと進む ALICE IN CHAINS でした。
「初めてロックやオルタナティブを聴き始めた時、ALICE IN CHAINS の “Dirt” が私を揺さぶったの。KORN や SLIPKNOT は激しすぎて家では聴かせてもらえなかったんだけどね。感情が込められているのよ。悲しみや痛み、ヘヴィーな感情を理解するのはあの頃の私にとって未知のことだったのよ。」
Layne Staley や Chris Cornell のソウルフルが彼女のルーツと共鳴したのです。
「当時、私の周りにはロックやメタルにハマっている黒人の子供はあまりいなかった。だから少し孤立していたの。でも、それが私が感じていた音楽だったから。大学まではちょっとした一匹狼だったわ。大人になってライブに行けるようになるまでは、メタルやロックシーンのコミュニティの感覚を得られなかったわね。」

数年後、Cammie は自らロックバンドで歌っていました。彼女が所属していたバンドは、ある日ヒューストンで開催された OCEANS OF SLUMBER のショーのオープニングを務めました。
「私はルーサー・ヴァンドロスを聴いて育ったから、ウォームアップとしてメロディックでビッグな曲を演奏していたの。駐車場で叫んでいたら、Dobber の友達が私を見ていたわ。私はこのショーで唯一の黒人の女の子で、鮮やかなエレクトリックブルーのドレスを着ていたから、かなり目立っていたのよ。私たちがパフォーマンスをしたとき、Dobber たちが真顔で私たちの前に立っていたのを覚えているわ。私は『彼らは私たちを嫌っている』と思ったわ。(笑) でも、そんなことはなかったわね。後日、彼らは私に連絡してきたの。」
バンドは Cammie に何曲か歌ってほしいと頼み、2014年にオリジナル・シンガーの Ronnie が脱退した際、彼女が後任となりました。今では CammieとDobber が OCEANS の舵取りを行い、Dobber が楽曲の「85~90パーセント」を書き、Cammie が作詞を担当しています。そして彼女が加入した後、二人の関係は音楽を超えてロマンチックなものへと発展していきました。


2人を繋ぎ合わせた TYPE O NEGATIVE の “October Rust” も彼女、そしてバンド全体にとって重要なレコードです。
「Peter Steele が大好きなの。私たちは TYPE O NEGATIVE が大好きで、彼らのアルバムは何枚も持っているけど、私にとってはこの作品がメインよ。”Cinnamon Girl”、”Be My Druidess”、そして “Wolf Moon”。Dobber は一度彼らのライブを見たことがあるのよ。うらやましいわ。私は Peter の自伝を読むことで埋め合わせなければならなかったの。バンドに関するメディアならは何でも買っているわ。彼らの曲を聴くのは経験になるのよ。Peter はとても賢い作詞家だから。聴いている音楽の中で一番面白い音楽だと思う。エネルギーを高めてくれるし、幸せな気分にさせてくれるわ。」
ANATHEMA, KATATONIA, SWALLOW THE SUN といった Peaceville 由来のゴシックドゥームな音モスフィアも当然 Cammie の養分です。
「ラブシックな音楽よね。クルーナー的な意味ではなく、切ない憧れとストーリー性を持った、かなりロマンティック。甘くて切なくて、夜にピッタリな音楽だわ。」
EVERGREY のプログレッシブな音の葉は OCEANS OF SLUMBER のスピリットと切っても切り離すことはできません。
「全員 EVERGREY の大ファンなの。”The Storm Within” は私の心を掻き毟り、彼らのエネルギーとボーカル Tom S. Englund が語る経験に引き込まれるわ。彼は信じられないほどソウルフルなのよ。OCEANS は彼らに比較的似ていると感じているの。素晴らしくとてもヘヴィなアルバムよ。」

つまり、メタルは他の何ものにも出来ない方法で人と人を絡み合わせると彼女は信じているのです。
「目を閉じていると、彼らの現実が、経験が伝わるのよ。私はいつも身体の外に出るような体験を探しているから。一瞬、私たちは完全に歌と一体となり、楽曲の書き手と一体となる。」
音楽的にも、プログ、ジャズ、R&B、ドゥームにゴシック、デス、ブラックといくつもの垣根を取り払ったセルフタイトル “Oceans Of Slumber” において、Cammie はそうやって文化や人種の壁も取り払いたいと切に願っています。Dan Swano のミキシングとテキサスヒューストンの組み合わせもその主張を実践していますね。
「ドラマーで私のパートナーでもある Dobber がこのレコードで君のことを語ろうと言ってくれたの。南部に住む黒人女性としての私の気持ちをもっと大きなスケールで OCEANS の音楽に反映させようってね。それってメタルコミュニティにはまだあまり浸透していない視点なの。だから、彼の言葉は、自分の人生の中で感じている怒りやズレ、混乱、葛藤などを、本当に深く掘り下げていくための青信号になったわね。私たちは、明らかにいつも存在し、常に問題となっているものを探求し始めたの。長い間、ある種のカーペットの下に押し込められていた問題をね。」
ジョージフロイド氏が殺害され、Black Lives Matter が世界を揺るがした時、Cammie の発したステイトメントは胸を打ちました。

「私はアメリカの黒人女性で、奴隷の曾孫娘。それは写真の中だけの記憶。幼い頃、私は奴隷の生活を想像しようとしたわ。だけど今起こっている現実は、私の子供じみた想像力の裏にある謎を解き明かしてくれたの。南北戦争ドキュメンタリーの古い写真を見ると、彼らの顔が見えるわ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに触発された行進の映像を見ると、彼らの顔が見える。そして今、ソーシャルメディアにサインインして、催涙ガスをかけられているデモ参加者を見ると、彼らの顔を見ることができる。そして今は私の顔も見えるのよ。
黒人の上院議員、市長、有名人、勇敢な人々がネット上でこの国の欠点に対する不満を共有しているとき、私はもう怒りの涙を抑えられないの。全国放送のテレビで、これまで以上に多くの黒人が泣いているのを見てきたわ。自分の歴史が壊れたような気がするし、この国が壊れたような気がする。ジョージ・フロイドは転機となった。新世代が「もういい加減にしろ」と言うきっかけになった。彼の人生を奪った紛れもない冷酷さを無視することはできなかったの。彼の死がビデオに撮られたことは、感情的にはぐちゃぐちゃになっていて居心地が悪いけれど、それでも幸運だと思っているわ。それはついに世界に、何十年もの間、ネイティブアフリカンのアメリカ人が注意を喚起しようとしてきたことを、自らの目で見る機会を与えてくれたから。物事はまだ壊れている。とても、とても、壊れている。
アメリカの歴史を考えてみると、白人でない者に良いことはほとんどないの。それが真実よ。色々な情報を鵜呑みにすると胸に空洞感が残るのよ。この国は何かを直しているのではなく、何かを手放しているのだと気づくわ。壊れ始めたのは、間違った方法で、間違った土台と間違った考え方で始まったから。始める前に対処することを選んだ。他者への抑圧を維持することで強さを維持することを選んだ。楽な道を選んだその同じ道が常に足かせになることに気づかずに。もはや息を止めたり、憎しみや抑圧のためのスペースを確保したり、安易な道を選んだりすることはできないわ。国家として、私たちは最も脆弱で最も問題を抱えた人々や地域社会に思いやりとケアを示さなければならないの。彼らを奮い立たせれば、私たち全員が奮い立つでしょう。彼らを貶めるものが我々を貶めるのと同じように。コミュニティに属することは意味があることに気づくのが早ければ早いほど、私たちは前に進み、すべての人のために真の変化を起こすための連帯感を見つけることができるのだから。
抗議活動の勢いを持続させ、前進させるためにはどうすればいいのだろうか。これは、すべての人が反省するための時間。自分の信念が自分の人生をより良いものにしてきたのだろうか?私の信念は、私の周りの人々の生活をより良いものにしただろうか?正直に答えて、よく考えて欲しい。私たちの未来は、それにかかっているから。」

音楽的に、アルバムは以前よりもその壮大さを増しています。Cammie の言葉を借りれば「Dobber は存在しない映画のサウンドトラックのように作曲している」。そうしてこれまで OCEANS の旅は、より内省的なものでしたが今回のセルフタイトルでは、より広い社会的なトピックや過去からインスピレーションを受けていることに気がついたのです。さながら、壊れた世界のサウンドトラックの如く。
「1年ほど前に第二次世界大戦の映像をカラー化した『第二次世界大戦 HDカラー』が公開されたんだけど、Dobber は大の歴史好きだから見に行ったんの。カラーで見ると物凄いわ。とても現代的に見えるから、頭の中では違った感覚になるのよね。戦争の原因となったもの、文化の分派、社会学、心理学を学んだわ。ヒトラーの台頭や、彼がいかに上手くやったのかを。パターンが見えてきて、それが今の時事問題とどのように関係しているのかが分かるようになる。新しいことは何もないことに気づくの。私たちは第一次世界大戦からベトナムまで、戦争と国際関係の深い穴に入っていったのよ。
そのあと『どうやってみんなに歴史を伝えればいいのだろう?みんなこの歴史を知っているのだろうか?!』と思ったわ。人々は歴史を知らないし、それが今の状況にどれだけ影響を与えているかも知らないような気がしたのよ。もしあなたが精神疾患を持っていたら、心理学者はあなたがどのように育ったのか、どこから来たのかを尋ねるでしょう?社会として、文化として、自分の歴史を見なければならないのよ。」

例えばブラックメタルがナチスの問題を抱えるように、メタル世界にも取り払うべき差別の壁は存在します。
「メタルコミュニティの中から、私の視点にこんなにも多くの支持が寄せられていることに驚いたわ。身近な友人の輪の中から、波紋が広がって、まさか共有するとは思ってもいなかった人たち(メタル界の白人男性)が、『俺たちはこれを乗り越えたいんだ。俺たちは解決すべき問題を抱えているし、変化が起こるべき正しい側にいたいんだ。』なんて言葉が寄せられるなんてね。明らかに、ここには多様性があるべきなの。すべてのミュージシャンはその生い立ちや文化ではなく、音楽性に基づいてチャンスが与えられるべきなのよ。その外見ではなく、音楽性でチャンスを与えるべき。そうすれば、音楽だけでなく、バンドのメンバーも多様化して、様々な人たちが集まることになるはずなのよ。」
パンデミックからBLM運動まで、これまでの2020年の出来事を考えると、Cammie の歌詞は今の時代にあまりに符合しています。
「今振り返ってみて、何が私たちをこれほどまで時代と関連性のあるアルバムを作らせたのか、その軌跡を見ようとしているの。私は偶然を信じない。実際、他の人たちも同じような軌跡をたどっていたと思う。人々は今、その歴史や、認識や制度がどのように彼らの周りの世界を形成してきたかに注目しているわ。一度真実とすべての情報を知ると、それを見逃すことはできないの。」

Cammie の作詞へのアプローチは思慮深く、創造的です。”Pray For Fire” では、再生と破壊両方のための火の対照的な機能を探求しています。つまり人々と土地を守るため、国有林での制御された燃焼と、戦闘での火炎放射器の使用。
ファーストシングル “A Return To The Earth Below” では、自身の鬱病との闘いを、より幅広い社会のパターンとともに考察しています。「私は自分自身を助けるために、集中して前を向いて努力し続けなければならないと感じているの。誰にでも対処することや克服しなければならないことがあるわ。それをもう一度紐解いてみると、社会がいかに悪いパターンに陥っているかがわかるのよ。物事がうまくいっているように見えても、ヒトラー・ユーゲントのように、ゆっくりと、誰も気づかないうちに追い越されてしまうこともあるんだから。」
Cammie の文章には遊び心もあります。クローザー “The Red Flower” は女性としての葛藤と矛盾についての曲で、TYPE O NEGATIVE の “Wolf Moon” カヴァーが続きます。
「”The Red Flower” は女性らしさを歌った曲で、Peter Steele の超ロマンティックなラブソングが続くのよ。(笑) 彼は愛に溢れた男で、彼女のストレスを少しでも和らげたいと思っているのよ!あの曲を女性としてカバーするのはちょっと生意気だと思ったけどね。」

Cammie は将来、特に次世代に希望を持っています。
「子供たちは私たちが生きてきた頃よりも多くの情報を目にするようになってきていて、それが良い意味で彼らを形作っていくのは間違いないと思う。これからの世代は、情報に精通し、賢く、感情的に賢い世代。私は彼らが行動を起こして、過ちのいくつかを元に戻すと信じているわ。私は長い目で見て希望を持っているの。」
アメリカの会場が安全に再オープンし、OCEANS OF SLUMBER のツアーが許可されれば、Cammie は、旅を通して経験するすべての景色、匂い、味の感覚をまた満喫したいと語ります。
「会場に到着して、荷物を降ろして、街に繰り出す瞬間が恋しいわ。まだ開場していないし、皆が荷物を積み込んで、サウンドチェックをして、そして会場のドアから飛び出して外に出て、日の光に目を慣らしながら外に立ち、どこの街でも、どこの国でも、賑やかな通りを見て、すべてを受け入れるの。そして、オープン前の小さな探検の時間を過ごすのよ。地元のおやつ屋さんを見つけたり、コーヒーや食べ物を買いに行ったり。それが一番懐かしいわ。戻ってくるかどうかもわからない何かを待っている気分よ。例えば、飼い猫が逃げてしまった時のように。内向的な自分が思っていた以上にステージが必要なの。人が必要なの …ほとんど誰にも会わなかったこの期間で、思っていた以上に人や観客、ビジネスを失ったことは間違いない。ステージに立って、自分の歌を熱心に聴いてくれている人たちが受け止めてくれていることほど素晴らしいことはないの。それこそが繋がりよ。もう二度とそれを経験できないという考えは、心の中の何かを破壊してしまうのよ。」

参考文献: KERRANG!:OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT: “I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

KERRANG!: OCEANS OF SLUMBER ARE THE SOUNDTRACK TO A BROKEN WORLD

HOLLYWOOD LIFE: OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT

LOUDERSOUND : 10 ALBUMS THAT CHANGED CAMMIE’S LIFE

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COVER STORY + INTERVIEW 【CEMICAN : IN OHTLI TEOYOHTICA IN MIQUIZTLI】AZTEC METAL SHAMAN FROM MEXICO


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OF XAMAN-EK & TLIPOCA OF CEMICAN !!

“We Believe That Ritual Sacrifices Represent a Mystical Part Of Pre-Hispanic Mexico, Which Could Not Be Left Out Of The Show.”

AZTEC ROOTS, PRIDE AND RITUAL

「ここ数年、ラテンアメリカでメタルは本当に強力なんだ。まあ世界中でそうなんだが。メキシコ人はアグレッシブなサウンドを愛しているから、メタルは我々の文化を拡散するのに最適な方法なんだよ。」
ヘヴィーメタルとフォークミュージック、伝統音楽の絆はあまりに深く強靭です。スカンジナヴィア、欧州、アジア、北米。もちろん、1996年、SEPULTURA がマトグロッソの先住民族シャヴァンチと共存した “Roots” を見れば、古のラテンアメリカとヘヴィーメタルにも時を超えた親和性があることに気づくでしょう。
「CEMICAN とは同じ意味の中で生と死全体を表す言葉であり、それはこれまですべての時の間に学んだすべての知識と知恵を統合しているんだよ。」
2006年、メキシコに示現した生と死の二元性を司るアステカのメタル司祭にとって、Xaman-Ek の加入は大きな出来事でした。アステカの文化や言語ナワトルに精通するステージのシャーマンによって、CEMICAN はプレヒスパニック文化やアステカの神話をメタルのアグレッションや知性へと昇華させる唯一無二へと変貌したのです。
伝統的な管楽器や打楽器を、装飾としてでなく、勇気を持って楽曲の中心に据える戦士の魂こそ CEMICAN の原点。そうして彼らはアステカの伝統に敬意を表しながら、ボディーペイント、羽毛や骨の頭飾り、甲冑を身につけてステージに立つのです。
「ナワトル語は我々の祖先が使用していた言葉だからな。彼らは自然の力とコミュニケーションを取るためにも使用していたんだ。ナワトル語は、今でもいくつかの地域では話されているんだよ。」
ステージ名やアルバムのタイトル、時には楽曲やその歌詞にもアステカやインディオの先住民の言語を使用する CEMICAN。ただし、唸りをあげる歌詞の大半はスペイン語で書かれています。今でもメキシコ公用語の一つで、170万人の話者を持つと推定されるナワトル語ですが、それでも理解が出来るのはごく一部の人たちだけ。CEMICAN はアステカの文化を世界に運ぶため、より柔軟でグローバルな視点も有したバンドなのです。
「我々は全員が伝統音楽からメタルまで、様々に異なる影響を受けてきた。しかし常に我々の文化とフォルクローレは必ず心に留めているのだよ。」
Xaman-Ek はスラッシュとパンク、Tecuhtli はデスメタルやシンフォ、ブラックメタル、Tlipoca はクラッシックなメタルとスラッシュ、Ocelotl は Nu-metal。多様な影響を咀嚼したメタルの万華鏡も CEMICAN の魅力です。何より、シンセサイザーとプレヒスパニックの楽器を融合させたエレクトロニカの先鋭 Jorge Reyes が、メキシコに点在する様々な遺跡で行ったコンサートは CEMICAN の心臓部に深く刻まれる刻印となりました。
ナワトル語で “死者の神秘的な道” を意味する最新作 “In Ohtli Teoyohtica In Miquiztli” はバンドのディスコグラフィーにおいて最も洗練を極める、世界を見据えたモジョの道。古代のドラム、笛、フルート、クレイオカリナ、貝殻、女性ボーカルの巧みな配列は、異様な高揚感を伴いながらアステカに育まれる第五の太陽を導きます。一方で、時に DEATH や CYNIC, ATHEIST, MEGADETH にも通じる神秘的な攻撃性は、その太陽へ捧げられる生贄の残酷でしょうか。もちろん、生と死の二元性という CEMICAN の名が物語るように、彼らのステージにも不可欠な、太陽の力を得るため心臓を捧げ人肉を啜る神聖な生贄の儀式は残酷の一言で片付けられるほど単純なものではありませんでしたが。難問は現代の音階とズレが生じる不安定な伝統楽器の揺らぎでした。
「最初は正しい調性、音階を見つけるのに苦労したものさ。だけど遠く離れた古の職人の楽器でも、馴染みのある現代の音階に近い音色を持たせることに成功したのさ。」
CEMICAN はドイツの Wacken Open Air やフランスの Hellfest といった大規模なイベントにも出演し、メキシコ国外でのオーディエンスを増やすために努力を重ねています。メキシコ第三の都市モンテレイより、フランスでの演奏回数の方が多いという実績は、まさに彼らがケッアルコアトルのドラゴンである証明でしょう。
「ヨーロッパはバイキングやケルトといった古代文化に根ざし、もちろんバイキングメタルも有名だけど、メキシコの古代文化には馴染みがないんだよ。 すべてがボディペイントで、頭には火と羽がついているから目と口を大きく開けて怖がったり、驚いたりする。だけど3~4曲目には、ステージ上で起こっていることを理解し、愛してくれるようになるんだ。」
今回弊誌ではアズテックメタルで儀式を担当するパフォーマー Xaman-EK と、創始者でドラマー Tlipoca にインタビューを行うことが出来ました。日本の祭囃子にも通じる不思議。今や世界のどこにでもメタルは存在します。それこそがメタルに備わる包容力の証明。第三世界の逆襲。どうぞ!!

参考文献: Daily Bandcamp

CEMICAN “IN OHTIL TEOYOHTICA IN MIQUIZTLI” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PALLBEARER : FORGOTTEN DAYS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOSEPH D. ROWLAND OF PALLBEARER !!

“I Do Have a Great Love For The Bands Who Shifted Into Something Not Quite Prog, Not Quite AOR. Asia, And 80s Rush Are a Great Example Of That.”

DISC REVIEW “FORGOTTEN DAYS”

「KING CRIMSON や URIAH HEEP, MAGMA といったバンドは、たしかに現在のドゥームに通じている部分があると思う。そして重要なのは、個人的に僕は今日のどんなバンドより遥かに大きなインスピレーションを、そういったバンドから継続的に得ていることなんだ。」
多様化、細分化が進行するモダンメタルの時代において、フューネラルドゥーム、エピックドゥーム、ドゥーム/ストーナー、ゴシックドゥームとその陰鬱な墓標を拡散するドゥームメタルの新たな埋葬は大きなトピックの一つです。
中でも、PALLBEARER 以前、PALLBEARER 以降とまで区分けされるモダンドゥームの棺付き添い人は、愛する70~80年代のプログロックから受け継いだ仄暗き哀愁や知性を伴いながら、プログレッシブドゥームの扉を開けました。
「僕たちは常に変化と進化を第一の目標の一つとして進んできたよ。だから、純粋な続編となるような、似たようなレコードは一つもないはずなんだ。」
PALLBEARER が2017年にリリースした “Heartless” はプログレッシブドゥームのまさに金字塔でした。さながら幾重にも織り込まれた闇のタペストリーが寄り集まるように、繊細で複雑で装飾豊かに設計されたドゥームの聖堂では、その荘厳故に幾度も訪れることを義務付けられたプログとドゥーム、オルタナティブ、そしてクラシカルの宗派を超えた礼拝を司っていたようにも思えます。ただし、真のプログレッシブとは一箇所に留まらず、変化と進化を重ねること。
「僕たちは複雑さや装飾性を自分たちが納得するまで追求してきたんだけど、その領域を離れてもっと広い意味でのエモーショナルなもの、自分たちにとっては違うインパクトのあるものを作りたかったんだ。」
バンドの中心 Joseph D. Rowland は、デビュー作 “Sorrow & Extinction” 製作時に愛する母を失いました。その感情の解放は、10年という時を経て家族をテーマとした “Forgotten Days” に降り注ぐこととなりました。
母の死という喪失が自らをどう変化させ、形成したのか。山ほどの後悔と内省、そして人生における選択の重さをドゥームに認めた作品は、明らかに以前よりダイレクトで、生々しく、そして重苦しく、エモーショナルです。
「僕はね、完全にプログレではなく、完全にAORでもないものにシフトしていったバンドをとても愛しているんだよ。ASIA や80年代の RUSH はまさにその良い例だと思う。」
壮大な組曲の後に素知らぬ顔でポップソングを収録する。クラッシックロックにシンセサイザーや電子の実験を持ち込んでみる。Joseph の言葉を借りれば、プログレッシブから芸術的なやり方で王道に回帰する。過渡期のロック世界に花開いた得体の知れない徒花は、エリック・サティーやグレゴリオ・アレグリといったクラッシックの音楽家と同様に Joseph の内側へと浸透しています。典型からの脱出。そもそもロックとは得体の知れない何かを追い求めることなのかもしれませんね。
実際、これまで交錯した音の樹海を旅してきた PALLBEARER にとって、このレコードは “Asia” であり、”Big Generator” であり、”Moving Pictures” なのかも知れません。オープニングを司る “Forgotten Days” は王道のドゥーム世界へと回帰しながら、即効性と中毒性の高いキャッチーな旋律でリスナーを憂鬱のノスタルジアへと誘います。一方で、KING CRIMSON の “Fallen Angel”, “Starless”, そして “Epitaph” の叙情をドゥームへ繋げた “Silver Wings” はバンドのプログレッシブな哲学を伝えますが、それでも以前より実にオーガニックかつ濃密です。
SUNN O))) や EARTH を手がけた Randall Dunn のアナログでライブ感重視のセンスが、PALLBEARER の新たな旅路のコンパスとなったことは確かでしょう。ハイライトは閉幕の2曲。凍てつくような厳寒に美麗を織り交ぜた “Rite of Passage” では、Brett Campbell が Geddy Lee と Alex Lifeson の一人二役をこなしながらエピックドゥームの進化を提示し、DEPECHE MODE のポストパンクを咀嚼した “Caledonia” を自らの進化の証とするのです。
今回弊誌では、Joseph D. Rowland にインタビューを行うことができました。「YES の楽曲 “Big Generator” には信じられないほどヘヴィーなギターリフが入っているんだ!もちろん、プロダクションの選択やサウンドの中には、今では少し時代遅れと思われるものもあるかもしれないけれど、僕は PALLBEARER とこの曲の間にとても親近感を覚えているんだよ。」 どうぞ!!

PALLBEARER “FORGOTTEN DAYS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCARDUST : STRANGERS】SONIC STARDUST FROM ISRAEL


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SCARDUST !!

“The Name Holds Two Opposites. The Scar Dust Is The Trauma, It Is Ugly And It Hurts. But When You Join Both Words Together It Sounds Like Stardust, Which Is Something Ethereal And Beautiful.”

DISC REVIEW “STRANGERS”

「イスラエルには小さいながらもとてもパワフルで、最高のメタルバンドが集まっているのよ。ORPHANED LAND, WALKWAYS, SUBTERRANEAN MASQUERADE といった有名なバンドは氷山の一角に過ぎないの。」
米国と欧州、そして中東の交差点イスラエル。時に火薬庫にもなり得る複雑なその地で、音を宗教とするアーティストたちは、現実社会よりも容易に文化間の距離を縮めています。
デビューフル “Sands of Time” があの Prog 誌から “Extraordinary” という絶賛を浴びた SCARDUST も、イスラエルが生んだ極上の架け橋の一つ。世界に散らばるインスピレーションの結晶を集めながら、プログメタル無限の可能性を追求していくのです。
「僕はシンフォニックメタルというのは、プログロックの歴史を紐解けばその延長だと考えることが出来ると思っているんだ。」
バンドの専任コンポーザー、アレンジャー Orr Didi は、クラッシックとロックの甘やかな婚姻から始まったプログロックの起源が、現在のシンフォニックメタルへと続いている、そう主張します。実際、SCARDUST の音楽は荘厳なクワイアやストリングスのクラシカルな響きを抱きしめながら、メタルに宿るアグレッション、複雑な不合理、そしてテクニックの洪水をもしっかりとその身に受け止めているのです。
「優れたテクニックを持つことは、このジャンルには不可欠な要素だと思っているの。」
中でも、驚異的なハイトーンからグロウル、ラップにスキャットまで、ありったけの情趣を注ぎながら自由を謳歌する Noa Gruman の千変万化な詩情はあまりに独特に、楽曲の表情をコントロールしていきます。
実際、Russell Allen と Floor Jansen, そして Whitney Huston がディズニーの魔法で溶け合ったその歌の万華鏡は、JINJER の Tatiana Shmaylyuk に匹敵するほどユニークを極め、”テクニックとは肉体的なプロセスでありながら、心、身体、魂、表現を一つに結びつけ、感情的な側面を最終的な形に持っていくことを目的としているんだ” のギタリスト Yadin の言葉を実践しています。
「イスラエルに最高のオーディエンスがいることは確かなんだけど、その人数は決して多くないから母国よりも遠く遠く離れた世界を対象に音楽を演奏し、作らねばならないと理解しなきゃいけないんだよ。それがある意味もどかしい部分ではあるんだけどね。」
アートとエモーションの粋を極めた絶佳のメタルオペラを創造していながら、母国以外での活動に力を入れなければバンドを維持できないもどかしさ。その中で感じた疎外感や孤独は乗り越える野心を伴って最新作 “Strangers” へと投影されました。
散りばめられた楽曲の断片を組み込みながら驚異のテクニックでレコードへと導く “Overture For The Estranged”。そこから描かれる10曲のプログメタルドラマは、DREAM THEATER や SYMPHONY X の迷宮組曲に EPICA や NIGHTWISH のシンフォニーを集成した新世界。興味深いことに、その10曲はそれぞれが対になるパートナー曲を有して、5つの魅惑のストーリーを裏と表から語り尽くしていくのです。
ORPHANED LAND を手がけた Yonatan Kossov と Jens Bogren のプロダクションチームも、ドイツのハーディーガーディー奏者 Patty Gurdy も、40人の学生コーラス隊も、ダンスを誘う煌びやかなアンサンブルも、すべてはこの耽美でしかしゴージャスなメタル交響曲を嫋やかに彩ります。特に、SYMPHONY X から LANA LANE へとバトンが渡る “Tantibus Ⅱ” の扇情力は筆舌に尽くしがたい秘宝。
今回弊誌では、Noa, Yadin, Orr の3人にインタビューを行うことが出来ました。「SCARDUST には2つの相反するものが込められているの。スカーとダスト (傷の結晶) はトラウマで、醜くて痛いわよね。だけどこの2つの言葉を一緒にすると、スターダストのように聞こえて、それはエセリアルで美しい何かへと変化するのよ。」 どうぞ!!

SCARDUST “STRANGERS” : 10/10

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