タグ別アーカイブ: Modern Prog

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCALE THE SUMMIT : SUBJECTS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS LETCHFORD OF SCALE THE SUMMIT !!

“You Have To Diversify Your Income. The Days Of Musicians Making a Living Off Of Just Their One Band Is Long Over, It Was Over Even When We Started Our Band In 2005.”

DISC REVIEW “SUBJECTS”

「6枚のアルバムをリリースし、世界中でツアーを行ってきた。たけど楽器の演奏や作曲に少し飽きていたこと、バンドの規模が大きくなってきたこともあり、お気に入りのシンガーに声をかけてみようと考えるようになったんだ」
かつて、インストでなければ SCALE THE SUMMIT ではないとまで言い切った、ギター世界のミッシングリンク Chris Letchford は実際、彼の言葉通り LIQUID TENSION EXPERIMENT と ANIMALS AS LEADERS をつなぐインストゥルメンタルの覇道を突き進む数少ない才能の一人と目されていました。
シュレッドよりも楽曲にフォーカスし、プログ・メタルの標準的なクリシェを排除。ワイルドで目的のないシュレッドの代わりに、まるで弦が声であるかのように、冒険的でメロディックなリードを自らのジャガーノートとして積み上げてきたのです。一方で、Chris の中で、インストの商業的限界、壁を打ち破れない苛立ちとマンネリの幻影が日に日に膨らんでいたのも事実でしょう。
「8人の異なるシンガーを起用したことで、シンガーと本格的に活動していくことが自分のやりたいことだと気づくことができたんだ。音楽を作ることへの情熱が再び蘇ったんだよ」
前作 “In A World of Fear” で各楽曲にソリストを招聘し、新たな “色” を加える試みが一つの導火線となったのでしょうか。SCALE THE SUMMIT は遂にインストゥルメンタルの旗手という地位を捨て去り、新たな航海に出ることを決意します。船に乗り込むのは8人の多種多様なボーカリストたち。
アルバムは Mike Semeski(ex-INTERVALS)をフィーチャーした “Form and Finite” で幕を開けます。猛烈な勢いのギター・ストリームはそれだけで十分にプログで刺激的ですが、ボーカルが加わることでさらなる波が加えられ、最後に鬼才 Andy James がゲストとして花火のごとき流麗なリードを披露し、新生 SCALE THE SUMMIT号は完璧な条件での船出を迎えます。
Chris Letchford は、数年前にソロプロジェクト ISLANDS で、ボーカルとの婚姻を予見していました。アルバム “History of Robots” にはボーカル曲が2曲収録されていたのですが、そこで歌っていた REIGN OF KINDO の Joey Secchiaroli は “Subjects” でも崇高な “Jackhammer Ballet” に登場しています。煩雑なギターワークとジャジーなボーカルの蜜月。”Subjects” にはインストゥルメンタル・バージョンも存在しますが、STS の新章は、独創的なギターと各ボーカリストの優れたパフォーマンスの組み合わせで、ネクスト・レベルへと進化を遂げたのです。
HAKEN の Ross Jennings をフィーチャーした “Daggers and Cloak” で既存のファンの溜飲を下げる一方で、バンドは新たな海域にも進出していきます。今最も注目されているバンドの一つ、SPIRITBOX から Courtney LaPlante を呼び寄せた “The Land of Nod” は STS のヘヴィーとメロディック双方の最高到達点を更新したような珠玉。
「彼の死は本当に衝撃的だった。アルバムの完成後、Garrett とは誰もあまり話をしていなかったんだ。だからアルバムの発表日に SNS にみんながタグ付けして、その時にはじめて彼が亡くなったことを知ったんだよね。辛かったね…」
アルバムのハイライトは、Garrett Garfield をフィーチャーした “Don’t Mind Me” でしょう。Chris のトレードマークであるクリーントーンのタッピングが、Garrett のソウルフルな歌声とデュエットを繰り広げるような夢見心地。 残念ながら、Garrett は昨年11月に鬱に飲み込まれてこの世を去ってしまいました。Garrett の心の痛みや喪失感を反映した感情の灯火は、インストゥルメンタルでは到達できなかった境地なのかもしれませんね。「うつ病や不安、ストレスに悩んでいる人には食事と運動の改善をお勧めするよ。自分で調べてみるのが大事だよ!」
今回弊誌では、Chris Letchford にインタビューを行うことができました。「ミュージシャンを目指すなら、収入を多様化しなければならないよ。ミュージシャンが一つのバンドだけで生計を立てていた時代はとっくに終わったんだ。2005年に僕らがバンドをはじめた時には、すでに終わっていたんだから」二度目の登場。どうぞ!!

SCALE THE SUMMIT “SUBJECTS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOKONIS : ODYSSEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SIMON OHLSSON OF VOKONIS !!

“Opeth Is a Great Inspiration To Me, One Of My Favourite Heavy Bands Of All time. It’s Probably The First Time I Got Really Introduced To Prog Rock And Started My Journey There.”

DISC REVIEW “ODYSSEY”

「OPETH と並んで MASTODON も僕が高く評価しているバンドなんだ。THIN LIZZY のようなロック黎明期のバンドを参考にしているところが好きなんだよね。僕は THIN LIZZY の大ファンでもあるから。僕たちが目指していたのは、本当に君の言うようなものだったのかもしれないよね。メタリックな意味でのヘヴィー・ロックの再解釈という場所だよね」
例えば THIN LIZZY、例えば、DEEP PURPLE、例えば URIAH HEEP。先ごろ YOB が DEEP PURPLE のトリビュートへ参加を果たしたように、MASTODON の Troy が THIN LIZZY のライブに参加したように、クラッシック・ロックのメタリックな、もしくはヘヴィーな再解釈はドゥーム/ストーナー界隈にとって重要な通過儀礼の様相を呈しています。そんな割礼の真っ只中で一際存在感を放つヘヴィーアートの創造主こそ VOKONIS です。
「ELDER とは一緒にライブをしたこともあるし、いつも聴いている。ストーナー/ドゥーム・シーンの中で、彼らのような型にはまらないバンドをはじめて目の当たりにして、自分のバンドのクリエイティビティに対する考え方が大きく変わったんだ」
ELDER や KHEMMIS, PALLBEARER といった新世代のドゥーミストがプログレッシブな息遣いで地を這う重音にカラフルな知性を与える中、遅れてきた英雄 VOKONIS はトリオという牙城に RUSH の魂を込めてみせました。ただし、米国の新世代とは決定的に異なる点も存在します。それは、OPETH, SPIRITUAL BEGGARS, GRAND MAGUS といったプログやクラッシック・ロック再解釈の達人が遺した遺産、北欧スウェーデンの血脈です。
「特に長い曲では、彼がアルバムにまとまりをもたらしてくれたと思う。OPETH は僕に大きなインスピレーションを与えてくれるバンドで、今までで最も好きな “ヘヴィーバンド” のひとつだろうな。僕がプログレッシブ・ロックに出会ったのは、おそらく OPETH が最初で、そこから僕の旅が始まったんだよ」
アルバムには、OPETHプログ化の鍵となった鍵盤奏者 Per Wiberg が4曲にゲスト参加しています。同時に SPIRITUAL BEGGARS の顔でもあった渦を巻くハモンドの雄叫びは、長尺化複雑化多様化を志向する拡大する哲学に欠かせない要素となっています。メロトロンとハモンドは作品に荘厳な70年代プログの雰囲気を与え、バンドは瞑想的でゆるやかな時間とリフを中心としたハードなドライビング・パッセージを織り交ぜることが可能となったのですから。
幕切れの “Hollow Waters”と “Through the Depths” では、その効果が顕著に表れています。21分近いヘヴィーなプログ・ドゥームは、それでいて想像以上ににキャッチーかつ耳に残る偉業。古と未来の邂逅は時にメランコリックの極みを醸し出し、アレンジやアイデアの魔法はアートワークの火の鳥のごとく幻想的に楽曲を彩っていきました。ギルモアとジョン・ロードが流動するサイケデリックな探究心こそ至高。
一方で、ベースの Jonte Johansson が使い分けるクリーンとハーシュのボーカルスタイルはその両輪でカリスマ性を放ち、ギタリスト Simon Ohlsson のシャウトを加えたトリプルボーカルの嗎は、タイトルトラック “Odyssey” のキラーなギターリフとえも言われぬ核融合を果たしつつ、古の詩人ホメロスが想像だにしなかったディストピアの放浪記を描いていくのです。
今回弊誌では、Simon Ohlsson にインタビューを行うことができました。「僕は、人間が地球を適切に管理していないために、地球に害を与えていると考えているんだ。だけど、別の意味で、つまり人類が滅亡しても地球はこれからも生き続けると信じているんだよ。人間がいてもいなくてもね」 もしも乾燥した MASTODON の荒野に OPETH が実ったら?どうぞ!!

VOKONIS “ODYSSEY” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WRECHE : ALL MY DREAMS COME TRUE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN OF WRECHE !!

“I Think Within Black Metal, The Piano Opens Up Patterns Of Notes That Appear Like Tremolo Riffs, But Sustain a Greater Wealth Of Musicality – Also, Being That The Piano Notes Immediately Die Off After Being Played Unlike a Guitar That Has Sustain, The Athleticism Is Appealing.”

DISC REVIEW “ALL MY DREAMS COME TRUE”

「ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ」
“もしもブラックメタルで、トレモロ・リフを弾くギターの代わりにピアノを使ったら?” WRECHE の “All My Dreams Come True” は、そんな荒唐無稽でしかし好奇をそそる If の音夢を文字通り実現する物怪の幸いです。それだけではありません。アルバムにはピアノだけでなく、現実的な絶望苦悩に満ちたボーカル、シンセサイザーの神秘的で壮大なレイヤーが敷きつめられて、ブラックメタルでありながらブラックメタルの常識をすべて覆す、ジャンルにとって青天の霹靂ともいえる領域にまで到達しているのです。とはいえ、あくまでも手段は手段。儚さ、苦しみ、怒り、そして神秘的な体験という感情の肝は、たしかにこの場所に同居しています。
「僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ」
WRECHE の中心人物である John Steven Morgan は、Bandcamp ページにおいて、シュールレアリストであり、神秘主義者としても知られるヘンリー・ミラーの言葉を引用しています。”歌うためには、まず口を開かなければならない。肺があって、音楽の知識が少しあればいい。アコーディオンやギターを持っている必要はない。肝心なのは、歌いたいと思うこと。これが歌だ。私は歌っている”。今しかない、今はじめろ、今を生きろ。John がアルバムに込めたポジティブなメッセージは、音楽同様ブラックメタルの典型とは明らかに距離を置いていました。
「すべてが揃っていても、”歌いたい” という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。そしてそこから僕はミラーの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから」
隠喩としてだけではなく、音楽自体も “All My Dreams Come True” はヴォーカルに重きが置かれています。荒々しき “Schrezo” では、不協和なピアノラインに、苦悩に満ちた叫び声が重なります。ピアノの和音は絶えず背後で鳴り響き、ドラムのダーティーなシンバルは緊急事態を表現。この混沌とした状況の中で、トラックの大半をリードするのがスクリームであり、フィードバックとの相互作用が実に面白く、圧迫感のあるものとなっているのです。”肝心なのは歌いたいという気持ち”という言葉が、John の情熱と献身が、ハードコアの獰猛まで抱きしめたこのトラックを通して実によく伝わってきます。
一方で、アルバムの神秘性は、苦しみの裏返しとして、より “美しく” 儚い曲で伝えられていきます。”Mysterium” と名付けられた楽曲は、半音階的でハープにも似たドリーミーなピアノの音で幕を開け、万華鏡のピアノとシンセが楽曲の階段を駆け上がり、ブラックメタルが探求できる経験の底辺から、ブラックメタルが実現できる表現の高みまでを幻想的に描き切ります。
「僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね」
John はそう嘯きますが、醜さ狂気、暴力と同時に彼の鍵盤は神々しき美麗や荘厳、そして現実に残された一握りの希望までを的確に表現しています。暴力の天頂、宇宙の壮大、サイケデリックな夢、孤独、痛み、苦悩、悲しみ。対比というよりも、クラッシック、マスロック、ジャズ、ハードコアを通過したがゆえの多様な感情のスープでしょうか。そうして WRECHE は、ブラックメタルというジャンルの音楽的背景を、目を見張るような方法で変貌させ、拡張し、揺さぶり、前へと進めました。彼の言葉を借りれば、メタルに宿る無限の可能性を引き出したのです。
今回弊誌では、ほぼすべてを一人でこなす John Steven Morgan にインタビューを行うことができました。「クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね」 どうぞ!!

WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE” : 10/10

INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN

Q1: This is the first interview with you. So, at first could you tell us about yourself? What kind of music were you listening to, when you were growing up?

【JOHN】: Yeah! Thanks for having me here. I grew up in a small rural desert town in CA, USA. I really loved Beethoven as a child (well the more popular pieces like Moonlight Sonata), but the bread and butter for me was listening to bands like The Doors, Queen, Boston, ELO, The Beatles, and Led Zeppelin. My dad and I would listen to classic rock on the radio on the way to school or when we were working outside on the property. My first obsession in music was Pink Floyd in high school – especially their psychedelic albums (Piper thru Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother).

Q1: 本誌初登場です!まずはあなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【JOHN】: インタビューをありがとう。僕は、アメリカのカリフォルニア州にある小さな砂漠の田舎町で育ったんだ。子供の頃はベートーヴェンが大好きで(”月光” のような人気の高い曲も) 。僕にとっての糧は DOORS, QUEEN, BOSTON, ELO, BEATLES, LED ZEPPELIN みたいなバンドを聴くことだったね。
僕と父は、学校に行く途中や、外で敷地内の作業をしているときに、ラジオでクラシック・ロックを聴いていたんだよ。最初に音楽に夢中になったのは、高校時代に聴いた PINK FLOYD だったね。特にサイケデリックなアルバム(Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother)が好きだったよ。

Q2: You seem to be able to play a variety of instruments, how did you learn how to play them?

【JOHN】: I started piano at 15 and drums around the same time (playing on pots and pans), over time I just really loved to play and it was a great way to find respite from school or sports – then it became a full on passion by the time I turned 18 and started playing / improvising with Barret Baumgart. I just taught myself how to play the instruments and as time went on, I started self-study of Classical music, especially Beethoven. I both listened and read the scores to learn how they achieved certain effects and moods, and how they propelled the music forward through modulation.

Q2: あなたは様々な楽器を演奏できるようですね?

【JOHN】: 15歳でピアノを始め、同じ頃にドラムも始めたんだ。ドラムは鍋やフライパンで演奏していたんだけど。そのうちに演奏することが本当に好きになって、学校やスポーツの合間の息抜きになっていたね。18歳になって Barret Baumgart と一緒に演奏、即興演奏をするようになってからは、完全に音楽に対して情熱的になったんだよね。
楽器の演奏方法は独学で学んだんだけど、時間が経つにつれ、クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね。

Q3: What inspired you to start Wreche? What’s the meaning behind your band name Wreche?

【JOHN】: Well, Barret Baumgart and I started Wreche with our 2017 self-titled album – it was an extension of our 2008 band Architeuthis (which was also piano & drums, just instrumental). He went off to grad school and I was working on other things, but around 2015 we decided we wanted to do another project more in the metal vein. I also wanted to work in a genre that served my ambitions as a pianist and composer – and metal seemed pretty limitless, and still is in my opinion. The meaning behind the band name is “misery” – Wreche is the middle english spelling of wreak – as in to wreak havoc, or befell with great sadness/misery (from the Oxford English Dictionary). I was sad at the time I came up with it haha.

Q3: WRECHE を始めたきっかけを教えていただけますか?

【JOHN】: Barret Baumgart と僕は2017年のセルフタイトル・アルバムで WRECHE を始めたんだけど、これは2008年に活動していたバンド ARCHITEUTHIS(ピアノ&ドラムのインストゥルメンタル)の延長線上にあったんだ。
彼は大学院に行き、僕は他の仕事をしていたんだけど、2015年頃に、もっとメタルの流れを汲む別のプロジェクトをやりたいと思ってね。僕は、ピアニストや作曲家として自分の野心を満たすようなジャンルで仕事をしたいと思っていたんだけど、メタルはそういう意味でかなり無限の可能性を秘めていると思ってね。
バンド名に込められた意味は “不幸” だよ。 中世で Wreak は Wreche と綴られていて、「大混乱を引き起こす」「大きな悲しみや不幸に見舞われる」という意味を持っていたんだ。オックスフォード英語辞典からの引用だけど。この名前を思いついたとき、僕は悲しかったんだよ。

Q4: One of the unique aspects of Wreche is that you use the piano as your main instrument instead of the guitar, even though it’s black metal. Why did you go for such an idea?

【JOHN】: I really love metal, but I don’t play guitar! However, as Barret and I discovered over the years, my playing style really lends itself more to the metal genre than say jazz or classical. I love banging on the thing and I’m a pretty violent player.

Q4: WRECHE は、なんと言ってもブラックメタルにもかかわらず、ギターの代わりにピアノをメインの楽器として使用しているところが非常にユニークですよね?

【JOHN】: 僕はメタルが大好きなんだけど、ギターが弾けないからね!だけも、Barret と僕が長年にわたって発見してきたように、僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね。

Q5: In fact, guitar tremolo riffs are an iconic part of black metal, are you using the piano as an alternative or something completely new? Within the framework of black metal, is there something that can be expressed only with the piano?

【JOHN】: There’s a few sections in “Les Fleurs mov.2” where I purposefully emulate tremolo guitar riffs (as a sort of homage or quote to black metal). Otherwise, yeah it was difficult in some ways to adapt my playing further into the black metal style – especially in terms of subbing for tremolo riffs. I needed a way to create constant motion on the piano. I did this by implementing arpeggios and various triplet or quadruplet double hand patterns to create a moving base for the music to stand on, and to keep up with blast beats. I hope this hits people as completely new – I have never seen the piano used this way in metal before…usually it’s just for pretty little interludes or ballads. I think within black metal, the piano opens up patterns of notes that appear like tremolo riffs, but sustain a greater wealth of musicality – also, being that the piano notes immediately die off after being played unlike a guitar that has sustain, the athleticism is appealing. You have to keep moving to create vast clouds of energy. This is something the piano does that guitars cannot – each note is like a small shard of glass in a mosaic because of the nature of the instrument’s sustain.

Q5: 実際のところ、ギターのトレモロ・リフはブラックメタルの象徴とも言えますが、あなたはピアノをその代用としているのでしょうか?それともピアノならではの表現を模索しているのでしょうか?

【JOHN】: “Les Fleurs mov.2” では、ブラックメタルへのオマージュや引用として、意図的にトレモロ・ギターのリフを模倣した部分がいくつかあるね。ただ、それ以外の部分では、自分の演奏をさらにブラックメタルのスタイルに合わせるのは難しい面があったのは確かだよね。トレモロ・リフという意味ではね。
だから、ピアノに一定の動きを持たせる方法が必要だったんだ。そこで、アルペジオや3連、4連の両手のパターンを導入して、音楽の土台となる動きを作ったり、ブラストビートに合わせたりしたんだよね。今までメタルでこのようにピアノが使われたことはなかったよね。インタルードやバラード以外では。みんなが完全に新しいと感じてくれればいいな。
ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ。サスティーンがないからこそ、一音一音がモザイクの中の小さなガラスの破片のようになるわけさ。

Q6: The title “All My Dreams Come True” and the artwork of flowers are far from typical Black metal images, and also very impressive. Can you tell us about the concept of the album and the theme of the lyrics?

【JOHN】: Yes! They are distant from standard black metal imagery. I’m not that into the fantasy/escapist side of black metal, even if I did put flowers on the cover. I really wanted to express what was around me in the city (and even the US) on this album – the widespread poverty and despair, people being tricked by their religious leaders and the politicians backing them, all while there’s tent cities everywhere, abject cruelty. It is so sad. The flowers were a gift to me and I took the photo years before the album was finished. However, the more I thought about life, the more I saw it in relation to the flowers. They live and die, they are put on your grave as a final statement, they grow from last year’s dead detritus every spring as a sign of new life. It was a perfect metaphor for the past/present/future – the cycle of life. The title reflects this – rather than waiting for the afterlife, or some invisible future, it is an urge to see what is in front of you, to be present in your surroundings. It is easy these days with social media to feel so isolated, un recognized – as if your dreams and goals are constantly further away from you because of the comparisons you may make to other people’s successes – all right in your face 24hrs/day. It is a call to throw out fantasy/future planning for some distant plain of transcendence, merely existing for the next day, and realize that this earth, this time we have here, is both heaven and hell. There is no afterlife. Only now. All my dreams came true because I am here..

Q6: アルバムのタイトルである “All My Dreams Come True”、それにこのアートワークはブラックメタルの典型的なイメージとは程遠いですよね?

【JOHN】: そうなんだよ!標準的なブラックメタルのイメージとはかけ離れているよね。ジャケットに花をあしらったとしても、僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ。とても悲しいことだよ。
この花は僕がもらったもので、アルバムが完成する何年も前に撮影したんだ。その間に、人生について考えれば考えるほど、この花との関連性が見えてきたんだよね。花は生きて死に、最後の意思表示として墓に供えられ、毎年春になると去年の枯れた残骸から新しい生命の証として成長していく。それは、過去・現在・未来、つまり生命のサイクルを表す完璧なメタファーだったんだ。死後の世界や目に見えない未来を待つのではなく、自分の目の前にあるものを見て、世界の中に存在したいという衝動が、このタイトルには込められているんだよ。
SNS が発達した昨今では、自分が孤立しているように感じたり、認識されていないように感じたりすることがよくあるよね。他人の成功と比較することで、自分の夢や目標が常に遠くにあるように感じてしまうんだ。
これは、空想や将来の計画をどこか遠くの超越した場所に投げ捨て、ただ次の日のために存在するだけで、この地球、この時間が天国でもあり地獄でもあることを理解するように呼びかけるアルバムだ。死後の世界なんてないよ。今しかない。僕がここにいるからこそ、すべての夢が叶うんだ。

Q7: At Bandcamp, you quoted Henry Miller’s words. It seems to imply the importance of vocal and lyrics in your mind, would you agree?

【JOHN】: In a lot of ways yes, but I meant it more in terms of making art. The lyrics are very important to me because they voice best what I want to say about the world and my place in it – my personal experiences and observations. The quote for me (which isn’t the objective meaning of course), puts importance on the will to do something less the requisite materials. You could have everything, but if the “want to sing” isn’t there, it means nothing. Also, I see that quote in terms of how something is to be started, or manifested as a work of art, or anything in life for that matter – you simply begin and then it becomes.

Q7: Bandcamp のページであなたはヘンリー・ミラーの言葉を引用していますよね?あなたの中の、歌や歌詞の重要性を隠喩しているように感じました。

【JOHN】: いろいろな意味でまあそう取れるよね。だけど、僕はアートを作るという意味でより多くのことを考えたんだ。歌詞は僕にとって非常に重要なもので、世界とその中での自分の居場所について言いたいこと、つまり個人的な経験と観察を最もよく表しているからね。
僕にとってミラーのこの言葉はもちろん客観的な意味ではないけれど、必要な材料がなくても何かをしようとする意志を重要視しているんだよ。すべてが揃っていても、「歌いたい」という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。
そしてそこから僕はこの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから。

Q8: With the emergence of Alcest and Deafheaven, black metal has continued to spread and diversify. You are one of such a new generation, what does the first generation of Inner Circle and evil legends mean to you? Have you ever seen the movie “Lord of Chaos” ?

【JOHN】: Definitely haha! The movie was pretty good. The documentary “until the light takes us” is pretty good too. To me, some of the music still holds up and is really good, but ultimately , they were for the most part (with exceptions like that guy Gaahl) a bunch of suburbia kids running around causing mayhem spreading neo polytheistic, and for some – racist, and homophobic ideas; burning down churches to reclaim their heritage from the crusading Jesus pushers back in 1200AD. Not sure if those bloodlines still run, but I do understand how horrific the christian crusades were – erasing entire cultures in order to replace their history with the Bible’s history, and they did it all over the world. Still, the music was great, the atmosphere was great, though I think kids like that are/would have been diametrically opposed to people like me. One thing I do agree with is the anti-capitalist sentiment.

Q8: 映画 “Lord of Chaos” はご覧になりましたか?
ALCEST や DEAFHEAVEN の登場でブラックメタルは多様化と拡散を続け、あなたもそういったアーティストの1人ですが、第1世代のインナーサークルや狂気にかんしてはどう感じていますか?

【JOHN】: もちろん見たよ!ハハハ! 映画はかなり良かった。ドキュメンタリー映画の “Until the Light Take Us” もいいよね。
僕にとっては、いくつかの当時の音楽は今でも残っていてとても良いと思うんだ。だけど結局のところ、Gaahl のような例外はあるにしても彼らは、新多神教を広めて騒乱を起こしながら走り回る郊外のキッズ集団であり、一部の人にとっては人種差別的で同性愛嫌悪的な考えであり、西暦1200年に十字軍に参加したイエスの押し売りから自分たちの伝統を取り戻すために教会を焼き払っていたわけだよね。
もちろん、その血筋が今も続いているかどうかはわからないけど、キリスト教の十字軍がどれほど恐ろしいものだったかは理解しているよ。彼らの歴史を聖書の歴史に置き換えるために、文化全体を消し去り、それを世界中で行ったんだからね。
音楽は素晴らしかったし、雰囲気も良かった。でも、あのようなキッズたちは、僕のような人間とは正反対だったと思うよ。一つだけ同意できるのは、反資本主義的な感情かな。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED JOHN’S LIFE

HELLA “HOLD YOUR HORSE IS”

THE BAD PLUS “SUSPICIOUS ACTIVITY?” “PROG”

PINK FLOYD “MEDDLE”

ULCERATE “VERMIS”

BEETHOVEN “SONATAS”

MESSAGE FOR JAPAN

Thank you so much for reading this! It has been my desire to reach people in Japan ever since 2007 – I was very much into Hella and they toured Japan and made a DVD called Homeboy/Concentration Face. I could not believe the enthusiasm for such a strange band! In America, Hella shows were not packed, but in Japan they were. It made me respect the culture and the open minded approach to life and art. I thought that maybe one day, I can get my music out there because I think people will give it a chance. So, I hope you all enjoy the new record and I hope to get out there to play live one day.

読んでくれて、本当にありがとう。2007年に HELLA に夢中になり、彼らが日本をツアーして “Homeboy/Concentration Face” という DVD を作ったときから、日本の皆さんに僕の音楽を届けたいと思っていたんだ。
ああいった奇妙なバンドが熱狂的な支持を受けるなんて信じられなかった。アメリカでは、HELLA のショーは満員ではなかったけど、日本では満員だった。それを見て、僕は日本の文化や、人生や芸術に対するオープンマインドなアプローチを尊敬したんだよ。いつか自分の音楽を世に出せるかもしれない、そうすれば日本の人々はチャンスを与えてくれるだろうと思ったんだ。
だから、みんなが新譜を楽しんでくれることを願っているし、私もいつか日本でライブをしたいと思っているよ。

JOHN STEVEN MORGAN

WRECHE Official
WRECHE Bandcamp
DIES IRAE WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE”

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WHEEL : RESIDENT HUMAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SANTEI SAKSALA OF WHEEL !!

“Tool Is One Of The Greatest Bands Of All Times And Being Compared To Them Doesn’t Feel Bad At All. Being Their Successor Or Not, That Is For The People To Decide, We Will Just Keep Making Music!”

DISC REVIEW “RESIDENT HUMAN”

「WHEEL (車輪) という言葉が僕たちのアート制作のイデオロギー全体を表しているように感じたんだよね。それは、継続的でありながら、常に過去だけでなく未来にも目を向けているという意味でね。音楽においても、人生全般においても、新しい領域やアイデアを探求するムーブメントの象徴だからね。頻繁に出発点に戻ってくるけど、それでも僕たちは常に前に進んでいる」
技術の進歩により、音楽はお手軽に作られ、お手軽に聴かれる時代になりました。制作にもリスニングにも異様な労力を消費するプログレッシブ・ミュージックは、いまや風前の灯火です。
かつて世界を作ったプログ・ロックの巨人たちは次々に鬼籍へと入り、労力以上の見返りなど得られるはずもない現状に新規参入者、新たなリリースは目に見えて減っています。そんな中、フィンランドの4人組 WHEEL には、”車輪の再発明” を通してエンジンを生み出すほどに前向きなエナジーと才能が備わっているようです。
「北欧のプログ・メタルと僕たちに共通しているのは、新しい領域を開拓し、自らの道を見つけようとする意欲があるところだと思う。だから当然だけど、WHEEL にとってインスピレーションの源となっているよ。例え、直接的な影響を受けたわけではないとしてもね。OPETH は独自の道を歩み、期待に屈しないことで音楽的な強さを見出した素晴らしいお手本だよ」
メロデスやヴァイキング・メタルが深く根差した北欧にも、OPETH, PAIN OF SALVATION, SOEN といったプログメタルの孤高は存在します。他とは違う道を歩む確固たる意志を胸に秘めつつ、やはりその背後には北欧の暗く美麗な空気を纏いながら。
TOOL の正当後継者と謳われる WHEEL にも、当然その血脈は受け継がれています。そうして彼らは、自らの “カレリアン・シチュー” に KARNIVOOL の知的なアトモスフィア、さらに青年期に影響を受けた SOUNDGARDEN や ALICE IN CHAINS の闇をふりかけ、コトコトと煮込んで熟成させたのです。
「僕たちは、作曲家として、ミュージシャンとして、そしてバンドとして、自分たちを成長させ続けたいと思っていたし、これまでにやったことのないことを今回もやりたかったんだ。”Moving Backwards” には満足しているけど、同じアルバムを繰り返し作ることはしたくなかったんだよ」
ただし、彼らは成功を収めたデビュー作 “Moving Backwards” の場所に留まり続けてはいません。WHEEL 2度目の旅路 “Resident Human” を聴けば、そのオーガニックで生々しいプロダクションに驚くはずです。そしてその変化は、そのまま Aki & Santeri が構築するリズムのパーカッシブな飛躍へと繋がりました。もちろん、その手法を取ることで彼らは、TOOL, RIVERSIDE, KATATONIA, DEAD SOUL TRIBE といった現代プログ変異種の影響を、より存分に咀嚼し、養分とすることが可能だったはずです。
さらに紐解けば、骨太でダイナミズムを重視したその音像は、RUSSIAN CIRCLES のようなポスト・メタルの鼓動ともシンクロし、奇しくも “プログ” “オルタナ” という同じ根を持つ DIZZY MIZZ LIZZY の最新作 “Alter Echo” の目指す先へと歩みを進めていきます。
「基本的には、何も声を上げないないのが最悪だと思っている。1枚のアルバムや1人のアーティストが、今の世界の仕組みを変えることはできないと思うけど、意見を発信するたびに少しは変化が生まれ、物事を良い方向に変えることができるはずだよ」
陰鬱な雰囲気が漂い、パーカッシブなエッジが際立ち、非常にシリアスなアルバムは、過去12カ月間に起こった出来事に大きな影響を受けています。パンデミック、BLM、気候変動。もう私たちは無関心な幸せのままではいられません。
“Resident Human” に収録されている7曲は、現代社会とそこに巣食う闇、分断に纏わる人の感情を的確に表現しています。”Dissipating” の怒りやフラストレーションも、”Hyperion” の親しみやすさも、”Old Earth” のメランコリーと後悔も。
今回弊誌では、ドラマーで中心人物 Santei Saksala にインタビューを行うことができました。「TOOL の後継者であるかどうか、それは人々が決めることで、僕たちはただ音楽を作り続けるだけだよ」 どうぞ!!

WHEEL “RESIDENT HUMAN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GENGHIS TRON : DREAM WEAPON】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HAMILTON JORDAN OF GENGHIS TRON !!

“I Think We Have Known For a Long Time That We Wanted Our Third Album To Have More Sonic Space, And More Atmosphere, And To Create a World That Is More Warm And Hypnotic, Instead Of Being Claustrophobic And Abrasive.”

DISC REVIEW “DREAM WEAPON

「僕は今でも “ブルータル” な音楽が大好きだけど、今の僕たちの生活の中では、そういった音楽は正直な気持ちで書けるものではないし、自分たちの音楽として聞きたいと思っていたものでもないんだよね。だから少なくとも、このアルバムにお決まりのブルータルは存在しないのさ」
“Board Up the House” から13年の時を経て届けられた “Dream Weapon”。パンデミックの喧騒に、人類と地球の “重さ” を天秤にかけるレコードで彼らが戻って来たのは、きっとある種の運命でしょう。
さながら列車の分岐器のように、時おり流れを変えるレコードがレールの上へと現れますが、まさに “Board Up the House” はそういった類の作品でした。エクストリーム・メタルとエレクトロニカ究極のアマルガム。グラインドコアに絡みつくコンピューターの鼓動。反復を重ねるドゥームとシリアスなメロディーまで血肉としたこのアルバムが、以降の重音と電子音という両極端の甘やかな婚姻に果たした役割は決して少なくありませんでした。
「”Dream Weapon” のヘヴィネスは、ダークなメロディー、ヒプノティックなリズム、歌詞の内容といったソングライティングそのものから来るもので、プロダクション・スタイルから来るものではないんだよね」
13年という時間はバンドの多様性を洗練へと導き、サウンドの大きな変化をもたらしました。ただし、GENGHIS TRON がソフトになったという評価はおそらく間違いでしょう。彼らはただ、ヘヴィーの真理を追求しながら、没入感のある音楽世界という当初からの目標へとまた一歩近づいたに過ぎないのですから。実際、”重さ” とはこの夢見がちな武器のキーワードです。そして Hamilton Jordan は美しいメロディーが時にブラスト・ビートやシュレッド・ギターより遥かに重く腹に突き刺さることを認めています。
「10年前に好きだったバンドやアルバムは今でもすべて好きだけど、好みが広がって他の影響を受けているってことかな。新しい音楽にも素晴らしいものはたくさんあるけど、僕が最近聴いているのは、Peter Gabriel, TEARS FOR FEARS, KING CRIMSON, YES, CHAMELEONS。THE BEATLES でさえ聞いているよ」
メタルとエレクトロニカという一義的なジャンルの交配から距離を置くことも重要でした。10年で養った、クラッシック・ロックの素養は優しく、オーガニックに、二面性だけで語られがちなバンドの音像を嫋やかに立体へと変えていったのです。
ロックダウンの影響により別々の場所で録音されながら、Kurt Ballou は今回もそのアイコニックな手腕でバンドの進化を支えました。むしろリモートワークは作品にとってプラスにさえ働いたのかも知れませんね。おかげでミキシングとプロダクションに時間をかけることができ、「ヘヴィーのためのヘヴィー」ではなく、楽曲そのものから生じる重さ、忍び寄るようなクリーンで繊細なアプローチを Kurt に依頼することが可能となったのですから。
「初めて Nick のパフォーマンスを見たとき、僕は圧倒されたね。2017年にカリフォルニア州バークレーで行われた SUMAC のライヴだったんだけど、彼の演奏は実にパワフルでありながらニュアンスがあって、ダイナミック。本当に面白いドラムパターンを演奏していたんだ。 その頃から、もしドラマーと一緒に演奏するなら、Nick がいいなと思うようになってね。」
もちろん、 BAPTISTS や SUMAC で鳴らした Nick Yacyshyn という界隈きってのドラマーがもたらす “重さ” もGENGHIS TRON の進化にとって重要なファクターです。これまで打ち込みのドラムスで表現されていた絵画のパレットは、Yacyshyn のダイナミックなビートで有機的な三次元の広がりを見せました。
ファースト・シングルに選ばれたタイトル・トラック “Dream Weapon” はまさに彼らの現在を具現化した夢の武器でしょう。
サイケデリックでリフ主導のエクスペリメンタル・メタルは、ノイジーでフィードバックを多用したミニマルな珠玉。意図的に繰り返しを行うことで緊張感を生み出し、思うがままにダイナミズムの罠を張り巡らせます。Sochynsky のプログラミングとシンセ全ては Jordan のカラフルで質感を纏うリフへと溶け込み、機械に挑戦を挑む Yacyshyn の強烈なグルーヴは、変拍子も、もう一人の新メンバー Tony Wolski の甘くメロディックなヴォーカルラインもすべてを受け止め鼓動を刻みます。
機械が天使を遣わしたかのようなインダストリアル・ポップロック “Pyrocene”、80年代のSci-fiイメージを優しく封じたレトロ・フューチャー “Alone In The Heart Of The Light”、MESHUGGAH の哲学を電子の世界に込めた”Single Black Point”。アルバムは現代社会の苦悩、人間の醜悪と、その業が取り除かれる遥か先の夢見がちな地球両者を、時に対比させ、時に融解させながらリスナーの本能へと投影していきます。決して悪夢や暴動がひたすら押し寄せるようなレコードではありません。それでも胸に鋭く突き刺さる、機械獣の重い牙。
聴くたびに新たな発見のある作品を創生したい。”ヘヴィー” の意味を問う作品を創生したい。RUSSIAN CIRCLES や Chelsea Wolfe の生々しくも新鮮なスピリットと共鳴しながら2つの世界を描ききる “Ritual Circle” は、そうして人類と音楽に残されたわずかな希望の灯火となるはずです。人類の終わりは地球の終わりではなく、私たちの地球は再生して、前進するだろう。だから、未来を恐れるのではなく、愛をもって受け入れるべきなんだと。
「人類の終焉と世界の終焉を同一視する人がいるようだけど、それは全くの別物だ。 気候変動であれ、パンデミックであれ、小惑星や核戦争であれ、人類が終わりを迎えれば、地球は次の段階に進むんだよ。それはたしかに悲しいことなんだけど、同時に僕たちはその事実に安心感を覚えるんだよね」
日本盤はボーナストラック追加で Daymare Recordings から4/14リリース。ライナーノーツは私。どうぞ!!

GENGHIS TRON “DREAM WEAPON” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IOTUNN : ACCESS ALL WORLDS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JESPER GRAS OF IOTUNN !!

“The Immense Exploration That Was So Essential To Rock Music In The 60’s And 70’s Are Now an Essential Part Of Big Parts Of Metal Music, I Think That Makes The Coming Years And Decades Of Metal Music Extremely Exciting.”

DISC REVIEW “ACCESS ALL WORLDS”

「このアルバムは僕にとって創造性にフォーカスした作品だ。真に探求し自由であろうとする創造性は、文明や社会、人間の生活に光を当てるもので、逆に言えばそういった場所からこそ創造性は生まれるんだ。つまり、すべては生命で、共に呼吸しているんだからね」
デンマーク、フェロー諸島の雄大な自然、神秘的な伝承、豊かな感情に囲まれて育った IOTUNN のメンバーにとって、音楽とは変化を続ける人生を表現する手段です。その逆もまた真なり。滴り落ちる音の雫には、表現者の絶え間ない営みが宿っているのです。
「デンマークのメタルシーンは非常に良い状態にあり、常に動き続けているから、そこに参加していて本当に楽しいんだよ。MYRKUR は、僕にとってこの波を象徴するアーティストなんだ。彼女は、音楽をこれまでのデンマークのメタルアーティストが到達したことのないような場所までに持っていこうとしたんだよ。そして、音楽と自然、時間軸を超えた物語、感情を結びつけることの重要性を示したと思うね」
Lars Ulrich のルーツにして KING DIAMOND の母国デンマークは、古くから様々なメタルの交差点でした。PRETTY MAIDS, DIZZY MIZZ LIZZY, ARTILLERY, SATURUNAS, MANTICOLA。彼らが纏った、常に変化を誘う自然と空間、時間、感情の多様な繋がりは、今、VOLBEAT, MYRKUR, VOLA, MOL といったデニッシュ・メタル新たな波へと増幅されながら引き継がれているのです。
「IOTUNN とは、古ノルド語で “巨人” を意味する言葉なんだ。僕にとってこの言葉は、絶え間ない変化と変革を強いる自然と宇宙の力を表していて、それによって人間の謙虚さ、好奇心、そして人生や創造性における開放性をも表そうとしているんだよ」
遅れてきたデンマークの巨人は、デビューフル “Access All Worlds” で文字通り、メタルに根差すすべての世界へとアクセスし、変化を恐れず表音力の限界を突破します。巨人に似つかわしい巨大なサウンド。アグレッションの畏敬からアトモスフェリックな没入感まで、グルーヴとメロディーの多彩な感情に彩られたレコードは、壮大と荘厳を極めながらリスナーを宇宙と自然、そして人生の旅路へと誘います。BARREN EARTH や HAMFERD で世代最高の歌い手と評される Jon Aldara が紡ぐ旋律を、美しき星の導きとしながら。
「60年代、70年代のロックに不可欠だった膨大な探求心は、今ではメタルの大部分にとって不可欠な要素となっているよ。だから、多様性はメタルのこれからの数年、数十年を本当にエキサイティングなものにしていくと思う」
62分のレコードの中で、バンドはプログ・メタルの再構築、再発明に挑みました。CYNIC のスペーシーなプログ・デス、KATATONIA の仄暗きアトモスフィア、ENSLAVED の神話のブラック・メタル、INSOMNIUM の知的なメロディック・デスメタル、MASTODON の野生、それに NE OBLIVISCARIS のモダンで扇情的な響き。
重要なのは、心に響くメロディーであれ、流麗なギターソロであれ、重厚なデスメタルの力であれ、IOTUNN は先人の生きた足跡を噛み締めつつ、フェロー諸島という環境、そして自らの人生で養った表現力を遺憾なく発揮して前人未到のスピリチュアルな境地へとメタルを誘った点でしょう。その彼らの創造性という飽くなき好奇心は、アルバムを締めくくる14分、神話とSFが出会う場所 “Safe Across the Endless Night” に凝縮しています。
今回弊誌では、ギタリスト Jesper Gras にインタビューを行うことができました。「創造的に正しいと思うことは何でも行うという自由。この自由の中で僕たちは、世界で常に提示され、強制されているすべての境界線を破ろうという意思表示なんだ」 どうぞ!!

IOTUNN “ACCESS ALL WORLDS” : 10/10

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【OPETH : BLACKWATER PARK 20TH ANNIVERSARY】PROG MUSIC DISC GUIDE RELEASE SPECIAL !!


OPETH “BLACKWATER PARK” 20TH ANNIVERSARY

WHEN TWO MODERN PROG GIANTS COLLIDE

“Blackwater Park” という言葉は、多様なモダン・プログが話題になる時、さまざまな文脈で必ず出現します。
「 このレコードは、”Blackwater Park” のようにデスメタルとプログを交配しているね?」
「彼らの新作は好きだよ。”Blackwater Park” ではないけど、新しいサウンドで前進している」
Mikael Akerfeldt と Steven Wilson。モダン・プログの二巨星が初めて出会った場所。OPETH にとって5枚目のアルバムが、最も決定的で完璧に構成されたレコードであるという考えに反論するのは困難でしょう。このアルバムが当時のプログレッシブ・メタル界に与えた影響の大きさに反論することも不可能に近いはずです。今日に至るまでこのアルバムは、現代の大半のリリースとの比較対象であり続け、現代のプログレッシブ・ミュージックの重鎮たちが最も高く評価しているレコードでもあるのです。
しかし、21世紀の変わり目にせめぎあったメタルバンドの群れの中で、このアルバムを際立たせたものは何だったのでしょう?なぜこのアルバムはモダン・プログの名盤の一つとして崇められているのでしょう?それを知るためには、千年紀の変わり目、ヨーロッパの重苦しい風景に戻らなければなりません。SNSのナルシスト的な強迫観念や、ブログの前の時代で、新聞が本物のニュースソースであり、CDの売り上げが本物の指標であった時代。

90年代後半、METALLICA がスラッシュのルーツから脱却したことで、メタルの曲作りとイメージ両方に対するアプローチは変化が生じていました。楽曲はより短く、ラジオで流れやすいものに。Nu-metal はMTVを席巻し、ドレッドとトラックパンツがトレンドに。KORN, SLIPKNOT, LIMP BIZKIT, LINKIN PARK といったバンドは、ヒップ・ホップとメタルを融合させたエクストリーム・ミュージックの新たな巨匠となり、テレビやラジオを席巻したのです。
簡単に言えば、プログは完全に過去のものになりました。
1992年に DREAM THEATER が発表した “Images and Words” の成功は、ある種偶然のようなもので、PORCUPINE TREE, SYMPHONY X, MESHUGGAH といったアンダーグラウンド・コミュニティ最高の秘密は、まだ無名のまま。プログは、70年代、80年代の遺産を大事に食い潰しながら生き永らえていたのです。
一方で、厳しい冬のスカンジナビアでは、1990年代半ばに IN FLAMES, AT THE GATES などのメロディックなデスメタルが開花し、80年代半ば、メタルのピーク時から残っていた少数の人々により速く、より重い出口を提供しました。この時期の北欧は、メタルを多様に進化させた鬼才の花園でした。しかし、世紀が変わる頃には、ブラスト・ビート、グロウル、ギター・ソロが時の試練に耐えられず、メロデス自体は世間の目から下降線を辿り始めます。さらに、ダイナミクスの欠如、テーマの同一性、反復性の強調などが相まって、90年代後半にはすでにこのジャンルに対する不満も高まっていたのです。

この逆風ともとれる環境の中で、Mikael Akerfeldt はメロディック・デスメタルとプログレッシブ・ミュージックの実験を始めました。80年代後半から90年代にかけてまずスカンジナビアから勃興した新たなメタルの波。OPETH, MESHUGGAH, AMORPHIS, IN FLAMES, EMPEROR といった傑物を輩出し、WALTARI の Kärtsy Hatakka が “ポストファーストメタルタイム” と呼んだそのムーブメントは、メタルの転換期にして、モダンメタルと現在のメタルシーンにとって架け替えのない重要なピリオドとなりました。
「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。」
Kärtsy が語るように、ある者は複雑なリズムアプローチを、ある者はグルーヴを、ある者はプログレッシブロックを、ある者はデスメタルを、ある者はエクストリームな残虐性を、ある者はフォルクローレを “ベーシック” なメタルに加えることで、彼らはモダンメタルの礎となる多様性を築き上げていったのです。そして OPETH は最初から、驚きをリスナーに提供していました。
「僕たちは1990年に、IRON MAIDEN に影響を受けたメロディックなスウェディッシュ・メタルバンドとしてスタートしたんだ。デビューアルバム “Orchid” では、確かにそのようなサウンドだった。だけどその後、僕たちはすべてを投げ出し、音楽的な意味で一からやり直したんだ。2枚目のアルバム “Morningrise” では、そのアプローチの変化をはっきりと感じることができた。その頃には、最近僕たちのトレードマークとなっているプログレッシブやサイケデリックの影響が自分たちのものになり、曲もずっと長くなったね。スウェーデンで同じようなことをやっていたのは、EDGE OF SANITY と KATATONIA だけだったと思うな」
1994年の “Orchid” と1996年の “Morningrise”。最初の2枚のアルバムは、ブラック・メタル、デス・メタルとフォークを融合させた不可思議な作品で、Allmusic は後者を「驚くほどユニーク」と評しています。この2枚のアルバムは、獰猛と知性、そして抽象的音楽を愛する人たちに新しいスターを提供し、次のレコード “My Arms, Your Hearse” は、そのスタイルをさらに消化しやすいフォーマットに凝縮していきました。Thinking Man’s Metal などと称され始めたのも、この頃です。
「”Thinking man’s metal”という言葉は大嫌いだ。まるで僕たちが優越的な感じに聞こえる。他のどのメタルバンドよりも知的だみたいにね。この言葉を思いついた人は良かれと思って使うのかもしれないけど、実際には僕たちに害を与え、人々を遠ざけているかもしれないよ。だから、このことは忘れよう!」

1999年、OPETH は “Still Life” をリリース。このアルバムでは、デス・メタルとアコースティックな要素を融合させ、プログレッシブな精神をより深く浸透させています。しかし OPETH にとって4枚目のアルバムは、優れたコンセプト・アルバムであったにもかかわらず、彼らが費やした努力と希望に報いるまでの注目は集めることができませんでした。それでも、Peaceville Records と契約しツアーの機会が増えたことで、マスターマインド Mikael Åkerfeldt とメンバーは、大きなブレークがすぐそこまで来ているという希望を感じていました。
その予感は期待を超えて的中します。2001年に発表された “Blackwater Park” は、このスウェーデンのグループにとって大きなステップストーンとなっただけでなく、エクストリーム・メタル全体にとっても大きな飛躍となったのですから。
「最終的に、音楽を店頭に並べ、より多くの人々に届けてくれるレーベルと関わることができて、とても嬉しかったな。それまで僕たちの存在を知らなかったメディアからも注目されるようになり、ついにはきちんとしたツアーに出て、あちこちで演奏できるようになったからね。僕たちにとって重要な時期だったよ。だから外側から見れば、”Blackwater Park” が僕たちにとって大きな変化をもたらしたという感覚があるのも理解できるよ」
その理由の一つは、OPETH がステップアップとなった Peaceville を離れてさらにビッグな Music for Nations に移籍することとなり、流通やプロモーションの見通しが広がったことにありました。当初、 Åkerfeldt はこの義務的な移動に不満を抱いてい増したが、すぐにそれが最善であることに気付きました。Music for Nationsには、プロとしての態度、豊富なスタッフ、運営のためのロジスティック能力が備わっていました。この新しいパートナーシップにより、OPETH はÅkerfeldt とギタリストの Peter Lindgren が敬愛する PORCUPINE TREE の Steven Wilson をプロデューサーとして迎えることができたのです。

「僕たちが抱えていた問題は、ビジネス上のものだった。最初の10年間で4枚のアルバムをリリースしたけど、ツアーは1回しか行わなかった。10年間でツアーは1回だけ! 僕たちの作品を聴いてくれる人がたくさんいることはわかっていたけど、所属していたレーベルが外に出してくれないことに不満を感じていたんだよ。だけど”Blackwater Park” では、イギリスのMusic For Nationsと契約したことで、その状況が一変したんだ。だけど音楽的には、このアルバムはまったく変化していないと思う。注目されているからそう見えるのかもしれないけど、前のアルバム “Still Life” を聴いても、同じスタイルなんだよ」
Wilson は Åkerfeldt にメールを送り、”Still Life” の巧みなスタイルが彼のメタル愛を再活性化させたと伝えていましたが、それでも Åkerfeldt は当初 Wilson の名声と博識に怖気づいていました。しかし、ロンドンのカムデンにあるタコスバーで出会った二人は意気投合し、Wilson は “Blackwater Park” の制作に参加することになりました。
「僕たちは、”Still Life” “My Arms Your Hearse” の両方で、Fredrik Nordstrom というスウェーデン人エンジニアとコラボレーションしていた。メタルシーンでは有名で、多くのバンドをプロデュースしていて、ヨーテボリに自分のスタジオ(Studio Fredman)を持っていたからね。彼は、僕たちが外部のプロデューサーを起用するならば、自分が第一候補になるだろうと常に考えていたんだろう。しかし、残念ながらそうじゃなかった。
Wilson のことを Nordstrom に伝えたとき、彼は少し傷ついていたね。怒りはしなかったけど、明らかに動揺していた。幸いなことに、彼とスティーブンは一度会うととても仲良くなって、スタジオで問題が起こることはなかったね。お互いに理解し合い、素晴らしいパートナーシップを築くことができた。最終的に、僕たちは Nordstrom にアルバムのミキシングを任せたんだ。みんな彼を信頼していたし、仕事も素晴らしかった」

“Book of Opeth” の中でWilson は「当初は、自分に何ができるかもわからず、メタルのこともよく知らないのに、メタルバンドをプロデュースすることに不安を感じていた」と認めています。
「1995年にリリースされたアルバム “The Sky Moves Sideways” を聴いて以来、Wilson のファンだったんだ。一緒になったのは、ほとんど偶然だったけどね。”Still Life” が発売された頃、僕はようやくインターネットを始めたんだ。驚いたことに、最初に受け取ったメールの1つが Wilson からのもので、僕たちの作品をどれだけ愛しているかを綴っていたんだ。とにかく、彼に会うためにガールフレンドと一緒にイギリスに飛んで行って、食事をして、最後に僕たちをプロデュースしてくれないかと頼んだね。そして彼は、僕と同じように熱心に取り組んでくれたんだ」
OPETHのファンを満足させなければならないというプレッシャーと、バンドが必要とする冒険的スタイルも不安の要因となりました。しかし幸いなことに、Wilson は Åkerfeldt の夢の実現に最適な人物でした。熟練したプロデューサーとしての役割と、真に進化的なパフォーマーとしての役割を併せ持つ Wilson は、 “Blackwater Park” をプログレッシブ・デスメタルの歴史において、驚異的に洗練された、不可欠なパートのみで構成された、時代を超えた作品に仕上げたのです。そしてこの作品においての彼の仕事は、OPETH を後の”Deliverance” や “Damnation”、そして PORCUPINE TREE を2002年の “In Absentia” や2005年の “Deadwing” といった場所へと導くことになりました。
「多くのファンが、僕たちがメタル系のプロデューサーと仕事をしていないことを知って心配したことは知っている。だけど、彼は僕たちのサウンドを変えるのではなく、強化してくれたんだ。メタルの世界で、他の人と同じようなビッグネームを起用しても意味がなかっただろうな。僕たちは、リスクを冒したかったんだ。なぜなら、そうすることで、楽曲から最高のものを引き出すことができるからね」

ドキュメンタリー番組 “Making of Blackwater Park” では、ベーシストのMartin Méndez とドラマー Martin López が、これまで以上に集中してアルバムを作り上げたと語っています。この時点で Åkerfeldt は明らかに OPETH の中心でしたが、それでも López とMéndez と可能な限り共闘しプッシュしました。その結果、リズミカルなデュオは、より”繊細さ” と “自信” を持って演奏することを学びながら、自らの声がいかに重要であるかを感じとっていました。
制作に関して、OPETH はスウェーデンのイエテボリにあるスタジオ・フレッドマン(”Still Life” や “My Arms, Your Hearse” を制作した場所)に戻り、2000年8月から10月にかけてレコーディングを行っています。 Åkerfeldt は、このレコードがそこまで音楽的に劇的な進化を遂げているとは思っていませんでしたが、歌詞の内容は別で、これまでよりかなり自伝的で厭世的な内容になっています。ドキュメンタリー番組の中で彼は「世の中にはおかしな人がたくさんいると思うし、俺だってバカに嫌がらせを受けることもある。そういうことがあって、自分がいかに人を嫌っているかということを歌詞にしたんだ。そして、それをもっと病んだものにするため、さらにスパイスを加えたんだよ!」とコメントしています。
“Blackwater Park” のレコーディングでは、最小限のリハーサルでスタジオに入り、ほとんど歌詞を書いていない状態で制作にとりかかりました。
「”Bleak”, “Blackwater Park”, “Harvest”, “The Leper Affinity” の4曲はほぼ完成していたと思うけど、それらもスタジオで変わっていった。残りの曲は、スタジオで一生懸命、創造的に作業をしながら作ったものさ。ヨーテボリに移動する前に、バンド全体で新曲のリハーサルを3回行ったことを覚えているけどね」

バンドと Wilson はスタジオの狭い部屋に2週間寝泊まりしたあと、DARK TRANQUILLITY の Mikael が所有していたアパートに居を移しました。
「窮屈に見えたかもしれないけど、僕たちの頭の中には音楽のことしかなかったから。気が散るものは何もなく、僕たちは曲で結ばれていたんだよ。それがとても重要だった。家から遠く離れた場所(バンドはストックホルムを拠点としていた)にいると、気が散って仕方がないからね」
アルバムのオープニングを飾る “The Leper Affinity” は、当時 OPETH が得意としていた獰猛で幕を開けますが、楽器の上でボーカルがまさに唸りを上げる姿は、この曲をネクスト・レベルに引き上げています。洗練された激しさの中に、ほろ苦いフォーク・ロックの側面があり、最後には Wilson のアイデアによる哀愁を帯びたピアノのモチーフまで登場。
「Steven Wilson を感動させようとしていたんだ。彼はそれまでメタルバンドをプロデュースしたことがなかった....だから少し緊張していたと思う。俺たちが思いついたアイデアはすべて、彼に使えるかどうか尋ね、修正してもらったね。彼自身も奇妙なアイデアを出してきて、僕たちはそれを気に入り、結局使用することになった」
Akerlfedt は、ウィルソンとの共同作業がバンドのサウンドを「向上」させたと述べ、この決断がもたらしたポジティブな結果についてさらに詳しく説明しています。
「彼は、レコーディングの途中で面白い角度からのアイデアを沢山思いついた。彼のちょっとした仕事が、最も大きな影響を与えたんだ」
そういったアイデアは、Wilson が全曲で演奏したピアノのラインにも見られます。中でも、アルバムの最後に収録されている2分間のアコースティックな小曲 “Patterns In The Ivy” は圧巻です。この曲は、真のデスメタルファンの琴線に触れ、このレコードの奥底に存在する暗く冷たい「ブラック・ウォーター」な感情を象徴しています。

この「暗さ」は OPETH 初期のトレードマークですが、”Blackwater Park” では、リスナーがただ純粋に悲しみを感じられるような形で表現されています。”Benighted” のような温かくも陰鬱なアコースティック・オードが展開される “Harvest”。そのケルト・ダンスは、表面的には陽気に見えますが、痛みと不安が微かに入り混じるノスタルジックな感情へと変わり、物事が単純だった過去の世界を切望する遠い記憶を喚起します。
このレコードのすべての感情と芸術性が生きてくるのは、”The Drapery Falls” でしょう。
最初の2分間で OPETH は、プログレッシブ=変拍子や難解なギターソロという定説を覆します。メロディの力は楽器の技巧をはるかに凌駕し、穏やかなアコースティックの歌声から、心に染み入るようなギターのリード、Akerlfedt のデス・グロウルによるクライマックスまで、この曲は静寂と残忍の見事なバランスを保ち続けます。
実際、静寂と残忍の知的な組み合わせは、OPETH サウンドのバックボーンとなり、”Blackwater Park” の骨子にもなっています。”例えば “The Funeral Portrait” では、滝のように流れるアコースティック・サウンドがいつしか野太いギター・グルーヴへと変化し、葬儀の光景を複雑怪奇に進んでいきます。
Akerlfedt がアルバムで最も気に入っている “Bleak” は、前半のダークな不協和音が、悲痛を極めたアコースティックに変わっていくことで、静寂と残忍の理論が完成されています。中近東の旋律を取り入れながら、悪夢のような怒号とジャズ的な癒しの交錯に魅惑的なリード・メロディーを配し、フィナーレはこのレコードで2回使用したうちの1回、Lopez のダブルキックが炸裂。
OPETH のライブを一度でも経験していれば、タイトル・トラック “Blackwater Park” が解き放たれた刹那、会場内で起こる現象を思い浮かべることができるでしょう。不協和のギターリードから、ヘッドバンギングの波を引き起こす雷鳴のようなマーチへ。曲の中盤には、混沌と残虐を約束する不気味な間奏が訪れ、最後の強烈なダブルキックとデス・グロウルの降臨。レコードで最も速いテンポを刻んでいきます。

OPETH はサウンド・デザインの第一人者です。二人の巨匠がプログ・メタル世界に持ち込んだサウンド・デザインとは、音楽全体をマクロ的に捉え、それぞれの楽器や音が一つのまとまりとなって成立するという概念。”Blackwater Park” や “Damnation” のようなアルバムが、映画のような別世界のようなクオリティを持っているのはそのためでしょう。楽器やサウンドは、細心の注意を払って選択され、ミックスされます。アルバムのクレジットには「苦心して構想した」という一言が添えられていました。
「ちょっとかっこよく見られたかったんだ (笑)。アーティストは、自分の音楽を世に出すのに苦労していると思われたいんだよね。それにもし、このレコードを『簡単に思いついた』と書いていたら、少し傲慢な印象を与えたかもしれないだろ?
まあ実際のところ、どんなレコードも簡単には作れないものさ。常に一定のプレッシャーとストレスがある。とはいえ、2003年に”Damnation” と “Deliverancet’ の2枚のアルバムを同時に制作したときには悪夢のような出来事があったけど、”Blackwater Park” では約6週間でうまく収まったね」
OPETH はこれまでで最大規模のツアーを開始し、NEVERMORE, AMORPHIS, KATATONIA といった時代の戦友とともに、何週間にもわたって世界を廻りました。プレスのレビューは一様に好意的で、The Village Voice、AllMusic、Exclaim! といった非メタル系のメディアでさえ、このアルバムを大きく賞賛していました。”Blackwater Park” は、そのオーガニックで冒険的なプロダクション、展翅とした楽器編成、卓越したソングライティング、そして残忍さと美しさの完璧なハイブリッドによって、特別な作品であり続けています。
以降 OPETHは、このサウンドを3枚のアルバムでさらに追求することになります。破砕機のように重い”Deliverance”、キャッチーで美しい “Ghost Revelries” 、そして暗く実験的な “Watershed”。しかし、”Blackwater Park” で達成した完璧なバランスを超えることは不可能でした。2010年にリリースされた “Heritage” でバンドが突如方向転換したのは、まさにこの感情が一因となっていました。ある意味、この変化はバンドを救ったとも言えます。”Blackwater Park” の完璧な壮大さと美麗は、例えば “Reign In Blood” を発表した SLAYER のように分岐点であり、もうそれ以上探求不可能な領域なのかも知れませんから。

“Blackwater Park” は重さが感激を与えられること、対比の魔法の素晴らしさ、そして混沌の技術嵐に陥ることなく10分の曲を作ることが可能であることをメタル世界に刻みました。”Still Life” でほのめかした理想は、”Blackwater Park” で実現したのです。
純粋なメタルでなければ聴かないというファンはたくさんいるよね。僕はそれって本当に心が狭いと思う。だから、”Blackwater Park” で達成したかったのは、人々の音楽鑑賞の幅を広げること。僕の場合は、Steven Wilson と一緒に仕事をしたことで、作曲やレコーディングの方法に新たなアプローチが生まれ、音楽的な意味で何が可能なのかをより意識することができたんだ。そして、僕たちに刺激を受けて他の音楽をチェックするようになった多くのファンがいると思いたいんだよね。これは僕にとって非常に重要なことだよ。お説教するつもりはないけど、もし君が一つのタイプの音楽に留まっていたら、多くの世界や景色を見逃していると思うんだ。だから、”Blackwater Park” にメッセージがあるとすれば、それなんだよね」
“Blackwater Park” 完全再現のライブ・コンサートを期待するファンも多いでしょう。
「インストゥルメンタルの “Dirge For November” はステージ上でやるにはちょっと奇妙すぎるかもしれないよね。実際にアルバム全体を順番に演奏するのは…とても難しいなあ。ライブでやると、このアルバムを特別なものにしている神秘性が損なわれるかもしれないしね」

さて、その Mikael と Steven が導火線となったモダン・プログを中心に扱った書籍 PROG MUSIC DISC GUIDE が本日発売となりました。Marunouchi Muzik Magazine 編集長 Sin こと私、夏目進平も執筆で参加しております。弊誌読者様にはかならず訴えかける内容だと思います。お手にとっていただければ幸いです。

http://www.ele-king.net/books/008079/

参考文献:Killyourstereo:Remembering The Bleakness & Beauty Of Opeth’s ‘Blackwater Park’

Consequence of Sound: Opeth Blackwater Park Anniversary

LOUDERSOUND: Story Behind Blackwater Park

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TURBULENCE : FRONTAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALAIN IBRAHIM OF TURBULENCE !!

“I Wouldn’t Say That The Lebanese Background Is Reflected Directly In Our Music. Because You Know, Rock And Metal Is Rebel Music, And Growing Up, Listening To Western Music Was Our Escape.”

DISC REVIEW “FRONTAL”

「特に “Metropolis Pt.2” が、バンドメンバー全員に与えた影響は否定できないね。このアルバムを聴いた時はまだティーンエイジャーだったんだけど、それがただプログへの愛を増幅させたんだ。あの名作を初めて聴いた時に感じた気持ちを誰かに感じてもらえれば、それはとても嬉しいことだと思うよ。」
DREAM THEATER の後継者と呼ばれるバンドは十指で足らぬほどに登場し、おそらく大半はその大役を果たせずにいます。とはいえ、プログメタルの感染力が増幅し、世界中で逞しく花開いた21世紀の状況に悲観することはないでしょう。これまでプログやメタルの第三世界と思われていた場所にも、魅惑の新緑が咲き乱れているのですから。現在プログメタルが燃え盛る灼熱の中東、レバノンから現れた TURBULENCE は、ジャンルの地図にどんな足跡を記すのでしょうか?
「レバノン人としてのバックグラウンドが直接、僕らの音楽に反映されているとは言わないけどね。みんなも知っているように、ロックやメタルは反抗的な音楽で、洋楽を聴いて育ってきた僕たちにとって、メタルはある意味そうした母国の文化からの逃げ場になっていたんだからね。」
中東や北アフリカといえば、ORPHANED LAND や MYRATH のオリエンタルでエキゾチックなプログメタルを想像するリスナーも多いでしょう。しかし、TURBULENCE の本質はそこにはありません。例えば、日本でも邦楽と距離を置き洋楽にアイデンティティーを求める音楽ファンが少なからず存在するように、TURBULENCE にとって母国の文化に反抗し自らの個性を確立する手段が西欧のメタルだったのでしょう。
「特に西洋の人たちにとっては中東の音楽はエキゾチックで魅力的なんだよね。純粋に商業的な観点から考えれば、僕たちも間違いなくそちらに惹かれると思うんだよ。でも、今は自分たちの音楽のコンセプトやストーリーを第一に考えて、それを提供したいんだ。」
そうして、DREAM THEATER のカバーバンドからはじまった TURBULENCE は、ただ真っ直ぐに己が信じる純粋無垢なプログメタル道を突き進むことになりました。TURBULANCE とはきっと “Six Degrees of Inner Turbulence” から受け継いだ勲章。2作目となった “Frontal” には、DREAM THEATER をはじめとするプログメタルの偉人にだけ許された “コンセプトアルバム” の誇りと血潮、そしてスケール感が宿っています。
「”Frontal” “前頭葉” は、建設作業員のフィニアス・ゲイジの実話に基づいているんだ。彼は、鉄の棒が頭を完全に貫通し、左 “前頭葉” の大部分が破壊され、永遠に肉体的にも精神的にも変化を残した事故を生き延びた。僕たちは、日常の生活が不測の事態に対していかに脆いのか、そこに焦点を当てたんだ。」
QUEENSRYCHE がいかにも気に入りそうな、人間の強さと弱さを同時に描いたアルバムにはプログメタルの現在、過去、未来すべてが収められています。ほとんどの曲が7分から10分程度、時間をかけたイントロダクション、意味深な歌詞、奇妙なリズムやアイデア、競い合う楽器のダンスにテクニカルな大円団。たしかに、TURBULENCE はプログメタルの家系図にしっくりとハマるパズルのピースです。
「僕たちのサウンドをユニークにしているのは、伝統的なストーリーテリングと現代的なモダンプログのリズムやサウンドを融合させて、限界を押し広げようとしている部分だと思うんだ。」
ただし、その場所にとどまらない第三世界の生命力と包容力は実に偉大で、時折見せるテクノ・ビートやテクニカルなチャグ、djentyなリフリズム、そしてクライマックスで漂う異国の風、オリエンタルメロディーは明らかにジャンルの未来を見据えています。
「それでも、僕らの音楽には、東洋的でオリエンタルな背景から生まれたいくつかの特徴が確実に反映されていると思うな。」
現代的なアトモスフィアを蓄えながら内省と高揚を行き来し、音数で楽曲を破壊する暴挙を許さぬ感情の深み。Ray Alder や Einar Solberg を想起させる Omar El Hajj のソウルフルな歌唱も独自性の構築に一役買っていますし、何よりあの Kevin Moore に薫陶を受けた Mood Yassin の温もりに満ちた鍵盤が絶妙。”Crowbar Case” や “A Place I Go To Hide” の表現力、ダイナミズムはまさに現代の “Awake” でしょう。
そして今回弊誌では、中東の Petrucci こと Alain Ibrahim にインタビューを行うことができました。実に流暢で、ジャジーなフレーズが巧みなギターヒーロー。
「”In The Name of God” はとてもパワフルで時代を超越した楽曲で、個人的には DREAM THEATER 屈指の名曲だと思っているんだ。」P-Vineから3/12にリリースされる日本盤には、DREAM THEATER の大曲カバーがボーナストラックとして収録。どうぞ!!

TURBULENCE “FRONTAL” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RETICENT : THE OUBLIETTE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS HATHCOCK OF THE RETICENT !!

“I Wanted To Make An Album That Confronted The Horror Of The Alzheimer Illness But Also The Cruel Way We Often Treat Those That Suffer With It.”

DISC REVIEW “THE OUBLIETTE”

「アルツハイマーが生み出す地獄。僕は家族と一緒にその光景を目の当たりにしたんだ。アルツハイマーは高齢者が大半を占めているから、病気を主張できないことが多く、社会的には見捨てられ、忘れ去られてしまうことだってよくあるんだ。僕はこの病気の恐ろしさと同時に、この病気で苦しむ人たちへの残酷な接し方にも向き合うアルバムを作りたいと思ったんだよ。」
65歳以上の6%が何らかの影響を受けるアルツハイマー病。ゆっくりと、しかし確実に重症度が増していく慢性的な神経変性疾患です。ゆるやかに自分自身を失っていく恐ろしい病。
プログメタルプロジェクト THE RETICENT の首謀者 Chris Hathcock は実際にその恐怖を目の当たりにし、その視点と経験を音の書へと綴ることを決意したのです。
「絶望と鬱を永続的に克服する道を知っていればいいのにと心から思うよ。僕たちの多くにとって、それはある意味生涯をかけた戦いになるからね。」
THE RETICENT は音楽に仄暗い感情を織り込む天才です。2016年の “On The Eve of a Goodbye” では、幼馴染だったイヴが自ら死を選ぶまでの悲愴を、すべてを曝け出しながら綴りました。徐々に近づいていく決断の刻。湧き出るような感情と共に迎えるクライマックス “Funeral for a Firefly” の圧倒的な光景は、聴くものの心激しくを揺さぶったのです。
「こんな悲しいテーマのアルバムを書いたのは、アルツハイマー病や認知症についての音楽がほとんどないからだよ。一般的に、多くの人は特に後期の段階でアルツハイマー病がいかに衰弱を強いる残酷な病気であるか、完全に認識していないよね。患者は記憶を失うだけでなく、さらに話すことも、移動することも、食べることも、飲み込むことさえ出来なくなるんだよ。」
そして THE RETICENT は再度真っ暗な感情の海へと旅立ちました。”The Oubliette” はアルツハイマーの7つの進行状況を7つの楽曲へと反映したコンセプトアルバムです。オープニングで、病院で自分の病状にさえ気付かず至福の時を過ごす主人公ヘンリーを紹介されたリスナーは、彼の静かな戦い、容赦のない悪夢を追体験していきます。
「僕はいつも、伝えたいことの感情に合ったサウンドを見つけようとしているんだ。それは伝統的なバンド(ギター、ベース、ドラム)のセットアップであることもあれば、ジャズのコンボやダルシマー、あるいはブラックメタルのようなワイルドな異なるジャンルへの挑戦の時もあるね。」
実際、ほぼすべての楽器を1人でこなす Chris のコンポジションとリリックは完璧に噛み合っています。OPETH のアグレッション、PORCUPINE TREE のアトモスフィア、RIVERSIDE のメランコリーに NEUROSIS の哲学と実験を認めた多様な音劇場は、エセリアルなメロディーやオーセンティックなジャズの響きに希望を、激烈なグロウルとメタルの方法論に喪失を見定めて進行していきます。亡き妻の生存を信じながら、時に彼女の死を思い出す動揺は、天秤のようなコントラストの上で悲しくも描かれているのです。挿入されるスポークンワードやトライバルなパーカッションも、ストーリーの追体験に絶妙な効果をもたらしていますね。
クライマックスにしてタイトルトラック、Oubliette とはヨーロッパ中世に聳え立つ城郭の秘密の地下牢。高い天井に一つの窓。ヘンリーはその唯一の出口、すなわち死を絶望的な懇願と共に迎えるのです。ただし今際の際に垣間見るは遂に訪れた平穏。
「それは複雑で “勝ち目のない” 状況と言えるだろうな。だからこそ、このアルバムが病気の現実に対する認識を高め、病気を経験している人やこれから経験するかもしれない人たちに小さな慰めを提供できたらと願っているんだよ。」
THE RETICENT はアルツハイマー病の認知度を高めるために、そして病と戦う患者や家族のために、またしても悲哀を呼び起こす感情的な傑作を創造しました。Chris Hathcock は音楽でただ寄り添い、世界へ訴えかけるのです。
今回弊誌では、その Chris にインタビューを行うことができました。「この病気で苦しんでいる人たちの世話をする人たちは、真のヒーローだよ。実に困難な仕事だからね。時にはほとんど不可能なくらいに。心が痛むし、イライラするし、意気消沈するし、とにかく絶え間ない葛藤が続くんだ。このアルバムで僕は、そんなヒーローたちにそれでも誰かが理解してくれるとメッセージを直接伝えたかったんだ。」 Jamie King のプロデュースはやはりプログメタルに映えますね。どうぞ!!

THE RETICENT “THE OUBLIETTE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TERAMAZE : I WONDER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN WELLS OF TERAMAZE !!

ALL PHOTO BY KARINA WELLS

“I Like To Push My Self As a Musician So That Style Lets Me Do All The Styles That I Like To Write, We Fall In And Out Of Progressive Metal Its Anything Goes Really In Teramaze, Thats What Makes It Fun.”

DISC REVIEW “I WONDER”

「僕はミュージシャンとして自分をプッシュするのが好きだから、好きなスタイル全部を込めて作曲が出来るんだよ。プログレッシブメタルの中に出たり入ったり……TERAMAZE では何でもありで、それが楽しいんだ。」
PLINI, HIATUS KAIYOTE, KARNIVOOL, KING GIZZ, CALIGULA’S HORSE, VOYAGER, NE OBLIVISCARIS。オーストラリアが今、多様で真にプログレッシブなアーティストの桃源郷であることは疑う余地もありません。TERAMAZE の Dean Wells はインタビューてその理由を意味不明だと笑いましたが、実は彼自身が意識する “プログメタルに出たり入ったり”、自由自在何でもありのスピリットが彼の地には浸透しているのかも知れませんね。
「Tera とは何兆億もの道を指し、Maze は迷宮。だから、基本的に TERAMAZE とは平和への一つの道を通って自分の進む場所を見つけることなんだ。」
実際、 プログメタルというエニグマティックな迷宮においても、TERAMAZE が辿り到達した道の先は稀有なる特異点だと言えるでしょう。結成は1993年、デビュー作のリリースが95年ですから実はかなりのベテラン。当初はスラッシュメタルや PANTERA の影響色濃いアグレッシブなメタルをプレイしていましたが、2002年の解散、そしてリユニオンを経て、旋律の色彩を解き放つプログレッシブの昴として瞬き躍動しているのですから。
Dean が人生を変えたアルバムの一枚に SAVAGE GARDEN の “Affirmation” を挙げていることは、彼らを紐解く重要なヒントなのかも知れません。90年代を席巻した同郷オーストラリアのポップレジェンドは、たしかに TERAMAZE の遺伝子を改変しました。
メランコリーを帯びた官能的な歌声と旋律。洗練と無機の狭間で揺らぐ未来型シンセとドラムパターン。そんな二極を混淆して新世界への扉を開けた SAVAGE GARDEN の哲学は、そのまま TERAMAZE のエモーション極まるポップログメタルへと通じています。
「”Lake 401″ はたしかにサクスフォンととてもよく似ているよね。面白い話だけど、サックスは僕が初めて習った楽器で、正直嫌いだったんだ。(笑) でも今はそのサウンドが大好きだよ。実に歌っているようだからね。」
Dean の別プロジェクト、エクストリームな MESHIAAK のアルバムを聴けば、彼のテクニックが今まさに臨界へと達していることは明らかです。それでも、Dean が TERAMAZE でギターを捌くのではなく語らせるのは、ポリリズムやプログレッシブに潜む歌心を何よりも重視しているからでしょう。
そうして遂に Dean は最新作 “I Wonder” で自らが歌うことを選びました。バンドにとっては3作連続で異なるシンガーがフロントを務めることになりましたが、どうやら Dean の感傷的なソフトボイスは TERAMAZE の進化へと完璧に寄り添っているようですね。
アルバムには10分に迫る大曲が多数配置され、構成の妙やリズムの魔法で目眩く闇と祈りの絵巻物を象っていきます。それでも作品で最も印象に残るのは、”Lake 401″, “A Deep State of Awake”, “I Wonder” のような甘く切ないメロディーの輝き。逆に言えば、きっとポップソングは5分以内という常識を打ち破るのが何でもありの TERAMAZE なポップログ。
今回弊誌では、Dean Wells にインタビューを行うことができました。「僕たちは自分たちを、信念に従い音楽を書こうとしている人間以外の何者でもないと思っているんだ…僕は自分の信念を持っているし、それが音楽に浸透していくこともあるんだけど…でも、俺たちはただの TERAMAZE なんだよ。どんなラベルも関係なくね。」 どうぞ!!

TERAMAZE “I WONDER” : 9.9/10

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