“I Distinctly Remember Staring At My Boombox In Disbelief While Hearing Blackwater Park For The First Time, Learning That It Was Possible To Combine Such Beauty With Such Brutality So Seamlessly, And I Have Been Drawn To Attempting To Achieve That Myself Ever Since.”
DISC REVIEW “TEMPORA MUTANTUR”
「”Eidolon” は、僕の心の中で特別な位置を占めているのは確かだよ。Ryan が亡くなったとき、僕はバンドを続けるかどうかでずいぶん悩んだんだ。当時はまだスタジオ・プロジェクトで、僕たち2人が中心となって必死に取り組んでいたからね。だから、彼なしで続けるべきかどうか、あるいは続けることができるのかどうかさえも疑問に思った。言うまでもなく、僕は子供の頃からの親友の一人の死と向き合っていた。 そのとき、僕のその悲嘆の過程についてアルバムを書くというアイデアが閃いた。それは強く、力強く、感情的で、そう、彼の思い出を称えるものになると思った」
ヘヴィ・メタルは聴くものの痛み、悲しみ、孤独を優しく抱きしめる音楽です。そのメタルに宿る並外れた包容力と湧き出でる回復力の源泉は、きっと音楽を生み出す者もまた喪失や痛みを抱えた経験があるからに他なりません。
カリフォルニア州サクラメントを拠点とする LUNAR は、長年の友人である Alex Bosson(ドラムス/パーカッション)と Ryan Erwin(ギター/ヴォーカル)が2013年に結成したプログレッシブ・メタル・バンドでした。しかし、2018年の春に Ryan が突然他界。Alex は悲しみに暮れ、一時は LUNAR を終わらせることも考えましたが、Ryan の遺志を継ぎ、Ryan の偉業と思い出を称えるためにバンドの存続を決意しました。
「このリストは、僕の意見では、この世に存在する偉大なバンドやミュージシャンばかりだ。 また、僕が個人的に尊敬し、ファンであるバンドばかりだ。 だから、彼らの組み合わせと言われるのはとても名誉なことなんだ。 それに、僕にとってプログはすでに音楽全般の “るつぼ” なんだ。 だから、メルティング・ポットのメルティング・ポットになることは、僕にとって本当にクールなことなんだよ」
CALIGULA’S HORSE や WILDRUN のオペラ的な部分、HAKEN のトラディショナルでメロディアスな部分、TOOL や THANK YOU SCIENTIST の数学的な部分、BETWEEN THE BURIED AND ME の超絶テクニカルな部分、そのすべてを飲み込んだプログというメルティング・ポットの “メルティング・ポット”。そんな LUNAR の音楽を Ryan なしで再現するために Alex はまさにそうした敬愛するヒーローたちの力を借ります。
HAKEN, CALIGULA’S HORSE, LEPROUS, THANK YOU SCIENTIST, FALLUJAH…Ryan の思い出と共に人間の生と死を描いた “Eidolon” はそうして、メタルの包容力と回復力に魅せられた18人のゲストミュージシャンからなる一時間超の壮大なプログ・シアターとして多くの人の心を震わせたのです。
「OPETH の “Blackwater Park” を初めて聴いたとき、信じられない思いでラジカセを見つめたのをはっきりと覚えている。あのような美しさと残忍さをシームレスに融合させることが可能なのだと知り、それ以来、自分もそれを達成しようとすることに惹かれるようになった」
親友の死をも乗り越え、Alex がメタルを諦めなかったことで LUNAR は始祖 OPETH の血を受け継ぎながらも、よりシアトリカルでより多様なプログ・メタルの構築に成功します。もちろん、OPETH が生み出した美と残忍のコントラストはもはやプログ・メタル全体の基盤となっていますが、LUNAR はその場所にマス、オペラ、Djent といった新たな血脈、WILDRUN, CALIGULA’S HORSE, THANK YOU SCIENTIST の人脈を加え、そこにかの Peter Gabriel を想起させるプログレッシブ・ドラマを投影していきます。人生を四季に例えた “Tempora Mutantur” は、そうしてまさにプログすべての季節をも内包することとなったのです。
今回弊誌では、Alex Bosson にインタビューを行うことができました。「DREAM THEATER や GOJIRA のようなバンドがグラミー賞を受賞したことは、この音楽に対する世間の認識の変化をすでに示している。 今後もそうなることを願っているよ。
ただ、僕の考えでは、プログは常にミュージシャンのための音楽だ。 万人受けする音楽ではないよ。 ほとんどの人はシンプルな音楽を楽しんでいて、それはそれでいいんだけど、僕らがやっていることは一般的にもっと複雑なんだ」どうぞ!!
“Every Prog Band Worth Their Salt Really Should Do a Double Album, Shouldn’t They?”
LIFE IN THE WIRES
「価値のあるプログ・バンドは皆、ダブル・アルバムを出すものだし、出すべきだよね」
FROST* とその心臓 Jem Godfrey は、この切り抜きやプレイ・リストのストリーミング全盛のインスタントな時代に、90分2枚組の巨大なエピック “Life in the Wires” を作り上げました。それだけではありません。このアルバムは前作2021年の “Day and Age” のコンセプトとリンクしながら、同時に初期の作品、特に画期的なデビュー・アルバム “Milliontown” のサウンドを見事に取り込んでいるのです。2024年にこれだけ “布石” のあるプログらしいプログを手に入れられるとは思えません。
「新しいアルバムの最初のトラックは、”Day and Age” の最後の曲 “Repeat To Fade” の終わりから始まるんだ。”Day and Age” を作ったときに、未来のためのちょっとした布石としてこの曲を入れたのを覚えているよ。
新しいアルバムの舞台に映画の世界のようなものを作り上げたんだ。 John と私が “Day and Age” を書いていたとき、私は音楽に関してかなり視覚的に考えていたんだ。曲を書いていると、その人たちがいる世界が見えてくる。”Day and Age” の世界観はとても映画的で、さまざまな場所や、メガホンを持った5人の紳士が象徴的なアルバム・ジャケット、そしてその世界観など、私にはとても映画的に感じられた! それで、”Day and Age” の最後、”Repeat to Fade” という曲の最後に、曲がフェードアウトして訪れる静寂の中で、”Can you hear me? “という声を入れた。それが新しいアルバムの始まりなんだ。”ジェームス・ボンドが帰ってくる” みたいな感じかな。 そういうアイデアがとても気に入ったんだ」
その映画のような世界観は、ビデオゲームともリンクしています。
「私の頭の中では、ビデオゲームの “グランド・セフト・オート” のような、ひとつの街でドライブしながら何かをするような世界が舞台になっている。 でも、その気になれば、車に飛び乗り、橋を渡って別の街に行くことができ、そこでは別の世界が繰り広げられているみたいなね。”Day and Age” の世界と “Life in the Wires” の世界は同じ世界の別の場所なんだ。 でも、物事は同時進行している。
“Day and Age” の世界では、”Terrestrial” や “The Boy Who Stood Still” のような登場人物たちがいて、同じように “Life in the Wires” にも登場人物たちがいて、それが同時に起こっている。 すべてが同じ宇宙を舞台にしているというアイデアがとても気に入ったんだ。その結果、ビジュアル面でも音楽面でも、ハウス・スタイルを確立するのはとても簡単だった」
だからこそ、ダブル・アルバムが必要でした。
「”Life in the Wires” のストーリーは、2枚組のアルバムが正義だと思えるほど、十分な物語があったと思う。たしかに怖さはあったよ。長くてつまらない迷走しているプログ・バンドだと評価されるほど最悪なことはないからね。 だから私たちは、以前は60分のCDというフォーマットの枠の中で十分に語ることができると思っていた。
でもこのアルバムでは、4面のレコードを作りたいと強く思ったんだ。 その結果、最適な音質を得るために、ヴァイナルの1ビットが約20分(片面)という制約が生まれた。 不思議なことに、86分と言われるととても長く感じる。 でも、20分のヴァイナル盤を4面分と言われれば、頭の中ではそれほど大変なことだとは感じない。
ダブルアルバムのアイデアはずっとやりたいと思っていた。 2枚組アルバムという素晴らしいプログのクリシェをやるのにちょうどいいタイミングだと思ったんだ!」
“Our Music Combines Influences From Turkish, Bulgarian, North and South Indian Styles With Jazz And Fusion, And Then We Filter It Through Our Own Heavy, Rock and prog sounds and approaches.”
THE STARE
CONSIDER THE SOURCE の音楽は、70年代フュージョン、伝統的な中東や中央アジアのスタイル、プログの難解とメタルの激しさを巧みにミックスしたものです。ギタリストの Gabriel Marin は、並外れたシュレッド、複雑なタイム感、伝統的スケールの博士号、稀有なるフレットレス・ギターの流暢さ、そしてエフェクトを操る多才すぎる能力を誇ります。そして、3機のペダルボード、17個のペダル、2台のギター・シンセサイザー、2台のアンプ、そして異形のカスタム・ダブルネックを持ってツアーする筋金入りの機材ジャンキーでもあるのです。
ニューヨーク出身の Marin はピアノから始め、16歳でギターを手に入れました。1年半後には Yngwie Malmsteen の “Far Beyond The Sun” を体得。ハンター・カレッジでクラシック音楽の学士号を取得し、インドの巨匠デバシシュ・バッタチャリヤの弟子となり、デヴィッド・フィウジンスキーに師事しました。OPETH や RADIOHEAD の傑出したカバーを披露する一方で、彼はまた、バ・ラマ・サズ、カマンチェ、ドンブラ、ドター、タンブール、ダン・バウなど、伝統的なアコースティック楽器の演奏法も会得しているのです。
「バンドを始めた当初はロックに傾倒していたけど、常に違う世界のものにも興味を持っていた。最初はグランジやシュレッダーから影響を受けた。Jerry Cantrell と Billy Corgan はグランジ系だった。10代の頃は Yngwie Malmsteen, John Petrucci, Steve Vai も好きだった。そういうプレイを学ぶことで、たくさんのギター・チョップを身につけることができた。僕は17歳で、ギターを始めて1年半くらいだったんだけど、イングヴェイの “Far Beyond the Sun” を弾けたんだ。”ああ、僕は何でも弾けるんだ!” って感じだったよ(笑)。
でもその後、2ヶ月の間にジョン・コルトレーンの “A Love Supreme” と John McLaughlin を聴いて、自分の音楽がすっかり変わってしまった。テクニックはそこそこだったけど、それ以上の意味があるように思えたんだ。コルトレーンが速いラインを弾いているとき、それは “この速いラインを弾いている私を見て” ではなかった。スピリチュアルな音の爆発だった。
僕は、”よし、これが自分のやりたいことだ” と思った。僕はいつも、顔で弾いたりギターを変な持ち方をしたりするような、ショー的なシュレッダーが苦手だった。それは僕には理解できなかった。でもそのふたりは一音一音に真剣で、超高速で演奏しているにもかかわらず、一切無意味なでたらめさがなかった」
オリエンタルな伝統音楽にのめり込んだのはなぜだったんでしょうか?
「その後すぐに、伝統音楽をギターで演奏する方法を見つけたいと思うようになり、インド、トルコ、ペルシャの音楽にのめり込んでいった。幸運なことに、偉大なミュージシャンと一緒にこうしたスタイルを学ぶことができた。僕はフレットレス・ギターを弾くので、伝統音楽のフレージングや装飾を正確に表現できるんだ。
僕は伝統的な楽器を使ってトルコやペルシャの古典音楽を演奏するために時々雇われるんだけど、そんな時でもフレットレス・ギターを持って行く!フレットレス・ギターをそのような場に持ち込むのはクールなことだ。CONSIDER THE SOURCE では、超未来的なサウンドを作るのが好きなんだ。僕らはトルコ、ブルガリア、北インド、南インドのスタイルからの影響をジャズやフュージョンと組み合わせ、それを独自のヘヴィ・ロックでプログなサウンドやアプローチでろ過しているんだ!」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREAS WETTERGREEN OF THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN !!
“We Think It’s Sad If Someone Wants To Live And Express Themselves Only Through «New Formulas» And Dogmatic Only Seek To Do Something That No One Has Done Before. Then You Forget History And The Evolution Of Things, Which In Our Opinion Is At The Core Of Human Existence.”
DISC REVIEW “THE SONGS & TALES OF AIROEA – BOOK Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ“
「最初は若いワインのように最初は有望で実り豊かなバンドだったけど、やがて複雑さを増し、私たち集団の心の奥底にある濁った深みで数年間熟成され、エレジオンの森のオーク樽で熟成されたとき、ついにそのポテンシャルを完全に発揮することになったのさ」
アルバムの制作に長い時間をかけるバンドは少なくありませんが、それでも30年を超える月日を作品に費やすアーティストはほとんど前代未聞でしょう。ノルウェー・プログの粋を集めた THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN は、ロビン神父の数奇なる物語に自分たちの人生や経験を重ね合わせ、四半世紀以上かけてついに壮大な3部作を完成させました。
「90年代に親が着ていた70年代の古着に身を包み、髪を伸ばし、1967年から1977年の音楽ばかりを聴いていたんだ。当時のポップ・ミュージックやポップ・カルチャー・シーンにはとても否定的で、RUSH や YES, そして DOORS の音楽は、例えば RED HOT CHILLI PEPPERS や RAGE AGAINST THE MACHINE, NEW KIDS ON THE BLOCK など他のバンドが聴いている音楽よりもずっと聴き応えがあると、パーティーで長い間議論していたほどでね。私たちは、自分たちが他人よりより高い位置にいると確信し、できるだけ多くの “失われた魂” を救おうとしていたんだ。だけどそれからしばらくして、私たちは他人がどう思うかとか、彼らが何に夢中になっているかということに疲れ、ただ自分たちの興味と、ミュージシャンとして、バンドとしての成長にエネルギーを集中させていくことにした」
70年代が終焉を告げて以来、プログレッシブ・ロックはつねに大衆から切り離された場所にありました。だからこそ、プログの世界に立ち入りし者たちはある種の特権意識に目覚め、あまつさえ大衆の啓蒙を望む者まで存在します。90年代のカルチャーに馴染めなかった TCOFR のメンバーたちも当初はカウンター・カルチャーとしてのプログに惹かれていましたが、しかしワインのように熟成され、長い年月を重ねるにつれて、ただ自分たちが夢中になれる音楽を創造する “道” へと進んでいきました。
3部作のコンセプト最初の芽は、民話、神話、幻想文学、サイケデリア、冒険的な音楽に共通の興味を持つ10代の仲間から生まれ、最新の発見を紹介し合ううち、徐々にノルウェーの仲間たちは独自の糸を紡ぎ、パッチワークやレンガのように新たな色彩や経験を積み重ねるようになりました。それは30年もの長きにわたる壮大なブレイン・ストーミング。
「確かに、私たちはプログ・ロックの穴を深く這いずり回ってきたけど、クラシック・ロック、フォーク・ロック、サイケ、ジャズ、クラシック音楽、エスニック、ボサノヴァ、アンビエント・エレクトロニック・ミュージックなどを聴くのをやめたことはない。たとえ自分たちが地球上で最後の人間になったとしても、こうした音楽を演奏するだろう。私たちは、お金や “大衆” からの評価のために音楽をやったことはない。もちろん、レコードをリリースして夢を実現できるだけのお金を稼ぎたいとは思っているけど、どんなジャンルに属するものであれ、音楽を通じて自分たちの考えや感情を顕在化させることが最も重要であり、これからもそうあり続けるだろう。そしてそれこそが、極めてプログレッシブなことだと私たちは考えているんだ」
WOBBLER, WHITE WILLOW, Tusmørke, Jordsjø, IN LINGUA MORTUA, SAMUEL JACKSON 5など、ノルウェーの実験的でプログレッシブなバンドのアーティストが一堂に会した TCOFR は、しかしプログレッシブ・ロックの真髄をその複雑さや華麗なファンタジーではなく、個性や感情を顕在化させることだと言い切ります。
とはいえ、プログの歴史が積み重ねたステレオタイプやクリシェを否定しているわけではありません。学問もアートもすべては積み重ねから生まれるもの。彼らは先人たちが残したプログの書を読み漁り、学び、身につけてそこからさらに自分たちの “クロニクル” を書き加えようとしているのです。
表現力豊かな和声のカデンツ、絶え間なく変化するキーボードの華やかさ、ジャンキーなテンポ、蛇行するギター・セクションの間で、TCOFR の音楽は常に注意力を翻弄し、ドーパミンの過剰分泌を促します。ここにある TCOFR の狂気はまちがいなく、ノルウェーにおける温故知新のプログ・ルネサンスの成果であり、大衆やトレンドから遠すぎる場所にあるがゆえに、大衆やトレンドを巻き込むことを期待させるアートの要塞であり蔵から発掘された奇跡の古酒なのです。
今回弊誌では、WOBBLER でも活躍する Andreas Wettergreen にインタビューを行うことができました。「芸術の発展は、決して1969年の “In The Court of the Crimson King” やバッハのミサ曲ロ短調から始まったわけではない。芸術と芸術を通した人間の表現力は非常に長い間続いており、それは何世紀にもわたって展開し続けている。イタリアの作曲家カルロス・ゲスアルドは、16世紀に複雑で半音階的な難解な合唱作品を作ったが、一方で今日作られるもっとシンプルな合唱作品も美しく興味深いものである。両者は共存し、決して競い合うものではない。
心に響くなら、それはとても良いスタートだ。それが知性も捉えるものであれば、なおさらだ。音楽と芸術はシステムの問題ではなく、感情と気持ちの問題なんだよ。最も重要なことは、良い音楽に限界はないということだ」 ANEKDOTEN, ANGLAGARD に追いつけ、追い越せ。どうぞ!!
THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN “THE SONGS AND TALES OF AIROEA” : 10/10
“I Was Introducing Chris To Hunter X Hunter While We Were Writing The Storyline For The Album, So I’m Sure There Was Some Sort Of Indirect Inspiration Going On There.”
1.The Azdinist // Den of Dawns
2.Fym
3.Mount, Mettle, and Key
4.Sky Sailing / Beyond the Bloom / Wilt 11:07
5.Weight of the Blade
6.Kingdom of Ice and Light
7.The Lavender Fox
8.Agentic State
9.Doppelgänger
10.The Portent
11.Trench of Nalu
12.Moonrise
Bonus Track
13.Spark Madrigal
14.Demon Returns
Chris Sampson – Vocals, Electric Guitar, Mandolin
Galen Stapley – Electric Guitar, Nylon String, Theremin
Alex Miles – Bass
Shaz D – Keyboards, Grand Piano
Andrew Scott – Drums
Adam Hayes – Bongos, Congas, Fish Guiro on tracks 1, 7, and 11
Nina Doornenstroom – Trumpets on track 3
Camille De Carvalho – Oboe D’amore, Clarinet, and Basson on tracks 4 and 6
“Brave” は、実際に5人で書いた初めてのアルバムだったと Rothery は言います。
「コンセプト・アルバムであったからこそ、このアルバムは、私たちにとって、とても重要な作品となった。コンセプト・アルバムだったから、他のメンバーも私たちがやろうとしていることを理解しやすかった。私が思うに、今回はレコードを作るか、傑作を作るかのどちらかだ。だから、どうしてほしいか言ってくれとね。それでみんな、”傑作を作ろう” となった」
作業を進めるにつれて、曲は焦点が定まり始め、包括的なコンセプトも定まっていきました。橋の上の少女についての直接的な物語というよりは、彼女がそこにたどり着くまでの一連のスナップショット。さらに Hogarth によれば、歌詞の多くには自伝的な要素が薄っすらと隠されていたといいます。”Living With The Big Lie”, “Brave itself” そして特に “The Hollow Man”。
「私は動揺していた。外見はますますピカピカになり、ジャン・ポール・ゴルチエを身にまとっていた。小さな子供2人の父親でありながら、それに向いていない、そう感じていた。そのすべてのバランスを取りながら、バンドの運命を復活させるような素晴らしい作品を作り上げようとしたんだ」
すべての曲がコンセプトに合っていたわけではありません。”Paper Lies” の脈打つハード・ロックは、レーベルの強い要望でアルバムのムーディーな音楽の流れに刺激を与えるために収録されたもの。もともとは悪徳新聞王ロバート・マクスウェルの死にインスパイアされたもので、後付けで既存の物語に組み込んだに過ぎません。この曲の主題である、ヨットからの転落事故で謎の死を遂げたロバート・マクスウェルにちなんで、この曲は巨大な水しぶきで終わります。「この曲には VAN HALEN からの影響があるかもしれないね」
“完成したときでさえ、それが何なのかわからなかった” そう Hogarth は言います。
「ミックスを聴いて、とても緊張したのを覚えている。興奮すると同時に、”これは THE WHO の “Quadrophenia” か何かに似ている。みんなにどう評価されるかわからない” って思ったね」
地平線には他にも嵐が立ち込めていました。EMIは、MARILLION が “Brave” の制作に要した時間の長さに良い印象を抱いていませんでした。この 生々しい アルバムは、数ヶ月遅れで、しかも決して安くはなかったからです。Rothery は言います。
「その7ヶ月が終わるころには、レーベルとの関係には壁が立ちはだかっていた。素晴らしいレコードを作ったことが、この莫大な出費とレーベルとの関係の悪化を正当化できるほど成功することを願わなければならなかった」
EMIの失策。それはリスニング・パーティーで起こります。彼らは、さまざまなジャーナリストやラジオの重役を招待し、聴いているのが誰なのかを知らせないというやり方をとりました。
「あれはEMIの大失態だった。EMIは人々に PINK FLOYD の新しいアルバムだと思わせようとした。そうすれば、より多くの人がプレイバックを聴きに来てくれると思ったからだ」
しかし長い間、批評家の捌け口となってきたグループにとって、”Brave” は驚くほど好評でした。”Q” 誌は、このアルバムを “ダークで不可解” と絶賛。Hogarth はその表現にほほえみます。「私はそれが気に入った。褒め言葉だよ」
しかし、”ダークで不可解 “は、伝統的に商業的な成功とはイコールではありません。”Brave” は、ギリギリのところでUKトップ10に食い込みましたが、ファーストシングルの “The Hollow Man” は30位。続いてリリースされた軽快な “Alone Again In The Lap Of Luxury” はトップ50にすら入りませんでした。
ただ公平に見て、”Brave” のタイミングは最悪でした。”Brave” がリリースされたのは、ブリットポップ・ムーヴメントが花開き始めた頃。自殺願望のある少女をテーマにした70分のコンセプト・アルバムは、BLUR や OASIS の前では常に苦戦を強いられることになりました。
「即効性がないことはわかっていた。私たちはただ、人々がこのアルバムに一日の時間を与え、彼らの中で成長することを望んでいた」
ツアーでバンドはアルバムを最初から最後まで演奏し、Hogarth は Peter Gabriel 流に曲の登場人物を演じました。ある時は、髪をおさげにして口紅をつけ、女の子自身を演じます。これは意図的な挑戦でした。
「コンサート会場の雰囲気は、”クソッタレ、これは何だ?”という感じだった。アンコールで “Brave” 以外の曲を演奏したときは、まったく違うショーになった。人々が安堵のため息をついているのが体感できたよ」
ツアーもアルバムも、MARILLION のオーディエンスを増やす、あるいは維持することにはあまり貢献しませんでした。”Brave” のセールスは30万枚ほどで、今となっては良い数字ですが、5年前の “Seasons End” の半分以下だったのです。セールス的には、確かに以前より落ち込んでいました。
“Brave” が長引いたことと、明らかに成功しなかったことは、所属レーベルのトップも気づいていました。少なくとも次のアルバムではより速く仕事をすることを考えるべきだとバンドは認め、そのアルバム “Afraid Of Sunlight” は、”Brave” のちょうど1年後にリリースされました。しかし、すべては遅すぎました。彼らの予想通り、レーベルは間もなく彼らを切り捨てました。
「メディアから嫌われるバンドに戻ってしまった。メインストリームの音楽メディアを見る限り、私たちは生きる価値がなかった。いつも通りのね」
“When We Came Up With The Band Name, We Did Have a Video Game Main Menu Screen Running In The Background. So Yeah, The Name Really Came From That Whole Idea Of Pressing a Button To Enter a Virtual World.
DISC REVIEW “FROM MIRROR TO ROAD”
「実はバンド名を考えていたとき、後ろでビデオゲームのメインメニュー画面が開いていたんだ。だから、ボタンを押せば、ワクワクするようなバーチャルな世界に入れるという発想がバンド名の由来になった。僕らの場合、その世界は音楽のサウンドスケープなんだけどね」
ビデオ・ゲームで育った世代なら、”Press Enter” の文字を見るだけで血湧き肉躍るに違いありません。カートリッジを装着して、未知なる冒険へと繰り出すその入り口こそ、”Press Enter” なのですから。ゲームの中で私たちは、いつも無敵で全能でした。
同様に、未知なるバンドの始まりのリフやメロディが天高く、もしくは地響きのようにアルバムの幕開けを告げる瞬間はいつもワクワクするものです。どんな音がするのだろう?想像を絶するスリルやサスペンス、もしくは狂気はあるのだろうか?歌われるのは希望?それとも絶望?内なる五感を熱くさせるのだろうか?…おもちゃ箱をひっくり返したようなデンマークのプログレッシブ・トリオ PRESS TO ENTER は、そのワクワク感、ロックやメタルの全能感を何よりも大事にしています。
「HAKEN の “1985” という曲と、彼らが現代のプログレッシブ・ミュージックに80年代のサウンドを使っていることにすごくインスパイアされたんだ。それに、Dua Lipa はそういったオールドスクールなサウンドをとてもうまく料理して、新しい新鮮な方法で使っている。面白いことに、僕たちは80年代に直接インスパイアされるというよりも、80年代にインスパイアされたサウンドを使う現代のアーティストに影響を受けているんだと思う」
PRESS TO ENTER の音楽には、ゴージャスで全能感が宿っていた80年代の世界から飛び出してきたような高揚感と華やかなポップネスが蔓延しています。ただし、彼らのアルバム “From Mirror to Road” はただ過去の焼き直しではなく、モダンな Djent のセオリーや洗練されたプロダクション、ネオ・ファンクやネオ・フュージョンのグルーヴ、それに21世紀の多様性を胸いっぱいに吸い込んだごった煮の調理法で、独自の個性と哲学をデビュー作から披露していきます。あの ARCH ECHO 肝入りの才能に納得。
「私は不安症と身体的苦痛障害と呼ばれるものを抱えていて、4年前に顎の手術を受けることになったの。その後、長い間落ち込んでいて、しばらく歌うこともやめていたの。Lucas と Simon が “Evolvage” のボーカルに誘ってくれたとき、私は新たな希望を得たわ。あの曲をレコーディングしたとき、私は本当に音楽とつながることができた。自分にとって自然な感じだったし、新しい方法で自分を表現する機会を与えてくれたのよ。私のボーカルは、このバンドの音楽に新しい色を加え、特別な味わいを与えていると思う」
PRESS TO ENTER がこの暗澹たる2020年代にロックの全能感と期待、そして希望を蘇らせたのは、自らも一度は傷つき不安と共にあったから。他人と自分を比べることで鬱状態に陥り、極度の不安を抱えていたボーカルの Julie は、自らの歌声がこの奇抜で好奇心に溢れたプログレッシブ・メタルに命を吹き込むことを知り、前へと進み始めました。実際、マドンナから始まり、アギレラ、ペリー、レディ・ガガの系譜につながる彼女のポップで力強い歌声は、プログの世界にはないもので、だからこそ輝きを放ちました。
「僕らの曲 “Cry Trigger” のアンビエント・セクションは、”バイオハザード・ゼロ” のテーマ ”Save Room” に非常にインスパイアされているんだ。それに僕は、日本のアニメの大ファンでもある。”ワンパンマン” や “進撃の巨人” は大好きな作品だよ。僕らの曲 “Frozen Red Light” の一部は、間違いなくアニメ音楽の影響を受けている。あと日本の音楽では、CASIOPEA と彼らの昔のベーシスト、櫻井哲夫が大好きなんだ。彼は僕のベースプレイに大きなインスピレーションを与えてくれた。それに、RADWIMPS も大好きだよ」
最後のピースとして、PRESS TO ENTER は日本の文化を隠し味に加えました。それは、日本のアニメやゲーム、音楽の中に、失われつつあるワクワク感が存分に残っているから。そうして PRESS TO ENTER の軽快で複雑でポップな世界は、視覚的にも広がりを得て3次元の立体感を得たのです。もちろんそれは、彼らが敬愛する地元の英雄 DIZZY MIZZ LIZZY と同じトリオだからこそ、得られた自由。
今回弊誌では、PRESS TO ENTER にインタビューを行うことができました。「DIZZY MIZZ LIZZY の Tim Christensen、Tosin Abasi, Plini が僕のスーパー・ヒーローだね。彼らをたくさん聴いたことで、自分のサウンドや音楽におけるクリエイティブな考え方が形成された気がする」 Tosin というより、かの Manuel Gardner Fernandes 直伝のスラッピング、それに曲中の魔法のようなテンポ変化が実にカッコいいですね。どうぞ!!