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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SIGN OF THE WOLF : SIGN OF THE WOLF】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY CAREY OF SIGN OF THE WOLF !!

“In The Original Era, 60s, 70s, and 80s, The Music Was New And The Style Was Being Invented. It’s Now 50 Years Later For Me – I Joined Rainbow In 1975 – And The Bands I Hear Today Aren’t Inventing Anything. That’s The Difference.”

DISC REVIEW “SIGN OF THE WOLF”

「Ronnie の声?まさに最高の一人だよ。人として?彼は僕より14歳年上で、叔父さんのような存在だった。Ronnie も Wendy Dio も素晴らしい人たちだったし、彼は僕と同じアメリカ人だったからね。僕はイギリス人ミュージシャンと仕事をしたことがなかったから、バンドにもう一人アメリカ人がいたことは大きな助けになったんだよ」
70年代/80年代を象徴するハードロックについて語るとき、RAINBOW の “Rising”、BLACK SABBATH の “Heaven And Hell”、DIO の “Holy Diver” が挙がることは間違いないでしょう。共通項はもちろん、伝説のボーカリスト Ronnie James Dio の存在。彼の歌声、彼の魔法、彼のファンタジーが失われて久しい2025年の暗闇に虹をかけるような傑作が、Ronnie を愛する人々の手によって生まれました。SIGN OF THE WOLF。彼の掲げるメロイック・サインに集いし者たち。
「オリジナルの時代…60年代、70年代、80年代は、音楽が新しく、スタイルが発明がどんどん発明されていった。僕は1975年に RAINBOW に加入したんだ。それから50年が経って…今僕が耳にする新しいバンドは何も発明していない。それが違いだと思うよ」
この美しいプロジェクトは、Firework Mag の Bruce Mee の発案で始まりました。”Tarot Woman” のイントロ、Tony Carey の幽玄神秘なキーボードが彼をハードロックに引き込み、Ronnie の圧倒的な歌声に忠誠を誓いました。そうして長年音楽業界に身を置く中で、今回のインタビューイ Tony Carey と同く、現代のハードロックにどこか物足りなさを感じるようになったのです。かつての、個性的で、音楽の発明が各所に散りばめられた壮大なるメロディの園を甦らせたい。そうして彼は Tony Carey をはじめ、温故知新で才能豊かなアーティストを集めることに決めたのです。
「このプロジェクトにはたくさんの才能があるし、僕はとにかく、Doug Aldrich と Vinnie Appice と一緒にやってみたかったんだ」
ドラム・キットの後ろには、”Mob Rules” や “Holy Diver” など数多のマイルストーンでエンジンとなった Vinnie Appice が鎮座し、Chuck Wright や Mark Boals といった名手とタッグを組みます。リード・ギターは Doug Aldrich。ご承知の通り、WHITESNAKE に再び魂を込め、DIO を復活に導いたカリスマにして、真のギターヒーロー。
もちろん、Ronnie James Dio の歌声は誰にも代えられませんが、ここでは全曲に Andrew Freeman が参加。Vivian Campbell が DIO を受け継ぐ LAST IN LINE (“Ⅱ” の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい) でボーカルを務める Andrew の実力は本物。良い意味で “ジェネリック・ディオ” ともいえる彼のキャッチーな力強さは、SIGN OF THE WOLF の音楽に真のフックと重厚さを与えています。そこに、Doug や Vinnie と演奏をしてみたかったと語る RAINBOW のレジェンド Tony Carey が合流。絶対的なハードロックの金字塔がここに誕生しました。
「”Rising” がこんなに長く愛されていることに驚いているよ。たいていのレコードは2~3年で忘れ去られてしまうものだからね。”Rising” はほとんど50年も人々の記憶に残っているんだから」
実際、Tony の参加した “The Last Unicorn” や “Rage of Angels” では、まさに “Tarot Woman” や “Stargazer” が放っていた神秘的で荘厳なロックの魔法が降臨しています。まだ鍵盤がロックの中心にいた虹色の時代。ただし、アルバムは RAINBOW のみならず、”Arbeit Machat Frei” では THIN LIZZY を (まるで Doug の BAD MOON RISING の3rd のようでもある)、”Silent Killer” では DIO を、そして壮大なタイトル・トラックではあの名曲 “Heaven and Hell” をも探訪して、ロックやメタル、その革命の炎を今でもあかあかと燃やせることを証明するのです。Steve Mann や Steve Morris, Mark Mangold の美学が炸裂するメロディックな楽曲もまた素晴らしい。
今回弊誌では、Tony Carey にインタビューを行うことができました。「実は、RAINBOW のライブは、スタジオでの RAINBOW とはまったく違っていたんだ。コンサートではハモンドをたくさん弾いたけど、レコードではほとんど弾かなかった。”Rising” と “Long Live Rock and Roll” のレコードは、ハモンドの代わりにギターのオーバーダブがほとんどだったんだ。だから僕たちのライブ・サウンドはスタジオとはとても違っていて、そのライブ・サウンドこそが僕にとっての RAINBOW だったんだ」本物にしか作りえない本物のハードロック・アルバム…Dio といえば “Dehumanizer” の再評価も進んで欲しいと祈りながら…どうぞ!!

SIGN OF THE WOLF “S.T.” : 10/10

INTERVIEW WITH TONY CAREY

Q1: “Sign of the Wolf” is one of the best hard rock albums of the century for me! It’s really masterpiece! This project started as a project of Bruce Mee of Firework Mag, would you agree?

【TONY】: I was asked by somebody else to play on two songs, I don’t know Bruce Mee personally. I’m happy that you like it so much…. there’s a lot of talent in this project, and I wanted to work with Doug Aldrich and Vinnie Appice anyway.
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Q1: “Sign of the Wolf” は、私にとって今世紀最高のハードロック・アルバムのひとつですよ!本当に傑作ですね!このプロジェクトは、Firework Mag の Bruce Mee のプロジェクトとして始まったそうですね?

【TONY】: Bruce Mee とは個人的には面識がないんだ。でも、君がとても気に入ってくれて嬉しいよ。このプロジェクトにはたくさんの才能があるし、僕はとにかく、Doug Aldrich と Vinnie Appice と一緒にやってみたかったんだ。

Q2: Many of the band members are associated with Ronnie James Dio. In a way, is it a tribute to him?Also, what was Dio’s voice and person like for you?

【TONY】: I hadn’t thought of it as a tribute to Ronnie. Ronnie’s voice? One of the very best. As a person? I loved the guy, he was 14 years older than me and more like an uncle. I never had any sort of problems with Ronnie or Wendy Dio, they were great people and Ronnie was American, like me.
I had never worked with British musicians and having another American in the band was a great help.

Q2: バンド・メンバーの多くは Ronnie James Dio と関係がありますよね。ある意味、彼に対するトリビュートのような意味合いもあったのですか?また、あなたにとって Ronnie はどんな存在でしたか?

【TONY】: Ronnie へのトリビュートとは考えていなかったよ。Ronnie の声?まさに最高の一人だよ。人として?彼は僕より14歳年上で、叔父さんのような存在だった。Ronnie も Wendy Dio も素晴らしい人たちだったし、彼は僕と同じアメリカ人だったからね。
僕はイギリス人ミュージシャンと仕事をしたことがなかったから、バンドにもう一人アメリカ人がいたことは大きな助けになったんだよ。

Q3: When your keyboard sound echoed in the introduction of “The Last Unicorn,” it was as if Rainbow had returned. In fact, your keyboards were indispensable on “Rising” and “On Stage”.
What did you think at the time about the keyboard’s place in Rainbow, with the absolute presence of Ritchie Blacbmore?

【TONY】: Rainbow live was very different than Rainbow in the studio. I played a LOT of Hammond in concert, and (almost) none on the records. The ‘Rising’ and ‘Long Live Rock and Roll’ records were mostly guitar overdubs instead of Hammond. Our live sound was very different and THAT was Rainbow for me.

Q3: “The Last Unicorn” のイントロであなたのキーボードの音が響いたとき、まるであの RAINBOW が戻ってきたかのように感じましたよ。実際、”Rising” と “On Stage”, そして “Long Live Rock’n’ Roll” の一部ではあなたのキーボードが RAINBOW にとって不可欠な存在となっていました。
Ritchie Blackmore が絶対的な存在として君臨していた RAINBOW におけるキーボードの役割について、当時どのように考えていましたか?

【TONY】: 実は、RAINBOW のライブは、スタジオでの RAINBOW とはまったく違っていたんだ。コンサートではハモンドをたくさん弾いたけど、レコードではほとんど弾かなかった。”Rising” と “Long Live Rock and Roll” のレコードは、ハモンドの代わりにギターのオーバーダブがほとんどだったんだ。
だから僕たちのライブ・サウンドはスタジオとはとても違っていて、そのライブ・サウンドこそが僕にとっての RAINBOW だったんだ。

Q4: Back then, there were many keyboard heroes like you, Keith Emerson, and Jon Lord in the hard rock world, but there are few of them in the rock and metal world today. Why is it so hard to develop keyboard heroes?

【TONY】: Well, I’m not a hard-rock keyboard player, I’m a singer-songwriter. I played what I thought the band wanted to hear in Rainbow, and that was my only hard-rock band ever. MY influences are Matthew Fischer, Richard Wright, Ray Manzarek… NOT Emerson or Lord. Hard rock keyboards are out of style and there is a very small audience for retro bands who play 70s and 80s style. There are MANY, MANY fantastic keyboard players playing other genres of music. I’ve played with Cory Henry a lot, he’s a mix of jazz, Gospel, Blues – Cory might be the best player I’ve ever worked with, and one of the best I’ve ever heard. He’s 35 years old and he’s not interested in hard rock. And honestly, neither am I, although when I get offered a session like ‘Sign of the Wolf’, I’m happy to do it if I like the songs and arrangements.

Q4: 当時、ハードロック界にはあなたや Keith Emerson, Jon Lord のようなキーボード・ヒーローがたくさんいましたが、今のロックやメタル世界にはほとんどいなくなってしまいました。なぜキーボード・ヒーローは少なくなってしまったのでしょうか?

【TONY】: まあ、僕はハードロックのキーボード・プレイヤーではなく、シンガー・ソングライターだからね。RAINBOW ではバンドが聴きたいと思うものを演奏したし、それが僕にとって唯一のハードロック・バンドだった。僕が影響を受けたのは、Matthew Fischer, Richard Wright, Ray Manzarek であって、Emerson や Lord じゃなかったからね。
今やハードロックのキーボードは流行遅れだし、70年代や80年代のスタイルを演奏するレトロなバンドのリスナーはとても少ない。でもね、他のジャンルの音楽を演奏する素晴らしいキーボード奏者はたくさんいるんだよ。ジャズ、ゴスペル、ブルースをミックスしたような Cory Henry とはよく一緒に演奏したね。今まで仕事をした、聴いてきた中でも最高のひとりだよ。彼は35歳で、ハードロックには興味がない。正直なところ、僕もそうだ。”Sign of the Wolf” のようなセッションのオファーを受けたときは、曲とアレンジが気に入れば喜んで引き受けるけどね。

Q5: “Rainbow’s End” is a really great song, but in a way it is an iconic title. Is it about Rainbow as a band?

【TONY】: Sorry, I don’t know the song.

Q5: “Rainbow’s End” はまた実に素晴らしい曲ですが、ある意味象徴的なタイトルですね。バンドとしての RAINBOW のことを隠喩しているのでしょうか?

【TONY】: ごめんね、その曲についてはよく知らないんだ。

Q6: However, the album is not only about Rainbow, but also about Dio, Black Sabbath (Dio&Martin Era), Thin Lizzy, and other great hard rock bands. How do you feel about the difference between that era and today’s hard rock and metal scene?

【TONY】: In the original era, 60s, 70s, and 80s, the music was new and the style was being invented. It’s now 50 years later for me – I joined Rainbow in 1975 – and the bands I hear today aren’t inventing anything. That’s the difference.

Q6: それにしても、このアルバムは RAINBOW だけでなく、DIO, BLACK SABBATH (Dio&Martin 時代) , THIN LIZZY, その他の偉大なハードロック・バンドを包括したような素晴らしさです!
あの時代と現在のハードロックやメタル・シーンの違いについて、あなたはどう感じていますか?

【TONY】: オリジナルの時代…60年代、70年代、80年代は、音楽が新しく、スタイルが発明がどんどん発明されていった。僕は1975年に RAINBOW に加入したんだ。それから50年が経って…今僕が耳にする新しいバンドは何も発明していない。それが違いだと思うよ。

Q7: The music industry has changed dramatically since the 1970s.The music world, which used to be about buying physical music and enjoying it album by album for a long time, has now changed to one of free and instant enjoyment through streaming and cut-out videos on social networking sites. Listeners’ attention spans have become shorter, and some young people cannot even listen to a song through. How do you see these changes?

【TONY】: It is what it is. I hate it. Everything has to be one minute long – like TikTok – and then the listener moves on to the next thing. All of the mystery is gone, and all of the magic. I was lucky enough to be active in the 70s-90s. The music business fell apart around 2000 and will never be the same.
That’s what I mean with ‘it is what it is’, there’s no going back.

Q7: 音楽業界は1970年代から劇的に変化を遂げました。かつてはフィジカルを購入し、アルバムごとに長い時間をかけて楽しむのが当たり前だった音楽界は、今ではストリーミングやSNSでの切り抜き動画を通じて無料でインスタントに楽しむものへと変化しました。
リスナーの注意力も短くなり、1曲通して聴けない若者も少なくありませんね。こうした変化をあなたはどう見ていますか?

【TONY】: “仕方がない”。それがすべてだよ。僕は今のそうした風潮が嫌いだ。すべてが TikTok のように1分でなければならず、リスナーはすぐに次のことに移ってしまう。音楽にミステリーもマジックもなくなってしまった。僕は幸運にも70年代から90年代にかけて活動することができた。音楽ビジネスは2000年頃に崩壊し、決して元には戻らないだろう。
それが僕の言う “仕方がない” で、つまりもう後戻りはできないんだ。

Q8: Cozy Powell, Ronnie James Dio and Jimmy Bain have all passed away, leaving you and Ritchie Blackmore as the only surviving members of “Rising”… Still, it’s great that an album made almost 50 years ago created the template for hard rock and metal and is still loved by so many people today! Looking back now, What does “Rising” mean to you?

【TONY】: I’m amazed at how long it’s held up. Most records are forgotten in 2-3 years. ‘Rising’ is almost 50 years old. A lot of people think I’m a hard-rock legend, but I’m not. I’m a musician and I’ve recorded and produced in many genres of music. Still, those were amazing times, I was 21 years old and went around the world… so no complaints.

Q8: Cozy Powell, Ronnie James Dio, Jimmy Bane の3人が他界し、”Rising” の存命メンバーはあなたと Ritchie Blackmore だけとなりました…それにしても、約50年前に作られたアルバムがハードロックやメタルの雛形を作り、今も多くの人に愛されているのは素晴らしいことです!
今振り返って、あなたにとって “Rising” とはどんな存在ですか?

【TONY】: こんなに長く愛されていることに驚いているよ。たいていのレコードは2~3年で忘れ去られてしまうものだからね。”Rising” はほとんど50年も人々の記憶に残っているんだから。
あの作品のおかげで、多くの人が僕のことをハードロックのレジェンドだと思っているけど、実はそうじゃないんだ。僕はミュージシャンで、さまざまなジャンルの音楽をレコーディングし、プロデュースもしてきた。それでも、あの頃は最高だったよ。21歳で世界中を回ったんだから…なにも文句はないよ。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED TONY’S LIFE!!

Miles Davis ‘Bitches brew’, Bob Dylan (anything from his early work), The Doors, Creedence Clearwater Revival, Joni Mitchell, Elton John, Janis Joplin, Jimi Hendrix… there’s a very long list of artists who influenced me. I woudn’t say that any record ‘changed my life’, though.

MESSAGE FOR JAPAN

日本のみんな、こんにちは! 僕は今、ソロ・ライヴ(ピアノとギターと僕の声、たった一人でステージに立つ)のシリーズを企画しようとしているんだ!2026年の後半に、また日本に行けたらいいね!

Hello, Japan! I’m trying to organise a series of solo shows (a piano, a guitar, and my voice, all alone on stage) and I hope to see you all again later this year or in 2026!

TONY CAREY

ESCAPE MUSIC

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TC.KYLIE : RE:BIRTH よみがえり】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TC. KYLIE !!

“Just As Dream Theater Layers Contrasting Musical Ideas To Build Tension And Release, I Often Blend Jazz Fusion With Cinematic Storytelling, As Seen In My Reinterpretation Of Merry-Go-Round of Life.”

DISC REVIEW “RE:BIRTH よみがえり”

「今日のジャズは、伝統と革新の両方を取り入れた、境界を押し広げ、進化し続ける芸術なの。 チェット・ベイカーやオスカー・ピーターソンのようなクラシック・ジャズの伝説がその基礎を築いた一方で、モダン・ジャズはニュージャズ、ジャズトロニカ、フュージョンにまたがり、ヒップホップ、エレクトロニック、ファンクといったジャンルを融合させている。 ミュージシャンたちは現在、それぞれの文化的遺産をジャズに注入し、ユニークなサブジャンルを生み出している。 例えば、日本のアシッド・ジャズは、Jabberloop, Toconoma といったバンドに見られるように、複雑なグルーヴ、映画のようなハーモニー、躍動的なブラス・アレンジを披露する。Fox Capture Plan のようなバンドは、ストリングス・アンサンブルやオーケストラを加えることも得意としているよね」
モダン・メタルは今や多様性とローカルな文化の融合を謳歌する一大ムーブメントとなっていますが、ジャズの世界にもそうした伝統と多様性の蜜月が訪れているようです。TC.KYLIE は、香港、日本、イギリスの文化を融合させたデビュー・アルバムでまさに最先端の音楽的哲学と共鳴して、ダイナミックなジャズ・フュージョンを生み出しました。日本のジャズ・ロックを象徴するキーボードとシンセ・キーターで、カントンポップとUKジャズの息吹を纏い、ダイナミックにステージをリードする TC. KYLIE には、それができるだけの人間的深みがあります。
「ロンドンに移り住んだことは、私の人生における新たな一歩で、人生の自由、創造的な自由、そして芸術的な探求を意味する。香港はかつてイギリスの植民地だったから、この2つの都市の歴史的なつながりは私にとって深い意味を持つのよ。私はフルタイムで音楽を追求する前は、香港でニュース・ドキュメンタリー・ジャーナリストとして働き、複雑な政治的風景の中で人間の物語を紡ぐことを専門としていたの。この経験は、ストーリー・テリングと文化的アイデンティティに対する私の深い認識を形成し、現在、私の作曲とアレンジに浸透している要素ともなっているの」
TC. KYLIE が生まれ育った香港からロンドンへと旅だったのは自由を手にするためでした。それは、人生の自由であり、創造的な自由でもあります。ジャーナリストとして働いていた香港時代、彼女は生まれ育った故郷の複雑な政治的背景を思うように綴れない状況に悩みます。そして、彼の地に住む人々が、香港の魂であるカントンポップと故郷の悲喜交々を関連付けて生き抜いていることにも気づかされます。自分の愛するジャズだって文化を綴るハーモニーだ。ならば、ジャズでもカントンポップのように地元と密着したストーリー・テリングができるのでは?
「音楽の旅が進むにつれ、私は日本のアシッド・ジャズに傾倒し、そのハイエナジーなグルーヴ、シンコペーションのリズム、躍動的なブラス・アレンジに魅了されたのよ。Fox Capture Plan, Jabberloop, Toconoma, Jizue, Bohemianvoodoo といったバンドの熱心なフォロワーとなり、それぞれがこのジャンルにユニークな個性をもたらしていることを知ったの」
そんな TC. KYLIE の背中を押したのが日本と日本の文化でした。彼女は2020年、パンデミックでジャーナリストの仕事を諦め、自身の健康と情熱を大切にするため、無期限の休養を取ることを決意します。そして青森の十和田湖にあるジャズ喫茶とホステルに滞在。ジャズ愛好家だったホステルのオーナーに勧められ、TC. KYLIE はピアノの前に座り、政治・社会部記者時代に耐えてきたことを表現するために、思索し、散らばった音を弾き紡ぎました。何年も音楽から遠ざかっていた彼女はそうして、再び生活の中に音楽を取り入れることに喜びを感じるようになります。ジブリの名曲 “人生のメリーゴーランド” をカバーしたのはきっとそんな日本での出来事が、彼女のメリーゴーランドを回すきっかけになったから。それだけではなく、toe のようなポスト/マスロック、Fox Capture Plan のようなジャズ、そしてソニックのようなゲーム音楽まで、彼女の再生 “Rebirth 重生” の多くは日本の文化が根っことなって支えているのです。
今回弊誌では、TC. KYLIE にインタビューを行うことができました。「DREAM THEATER の “The Count of Tuscany” や “Illumination Theory” などのオーケストラ・アレンジは、私の作品に壮大なストリングスやホーン・セクションを取り入れるきっかけになったね。ジャズのハーモニーを映画のようなテクスチャーと融合させ、没入感のある感情豊かなサウンドスケープを創り出すのが好きなんだ」 どうぞ!!

TC.KYLIE “RE:BIRTH よみがえり” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【UTOPIA : SHAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN BAILEY OF UTOPIA !!

“Allan Holdsworth Is My Biggest Musical Influence By a Long Way. I Studied Allan’s Music Eligious For Many Years. I Actually Had a Tribute Quartet And We Used To Go Out Playing Allans Music Round The UK.”

DISC REVIEW “SHAME”

「SikTh は大好きだったよ。よく聴いていたよ。THE DILLINGER ESCAPE PLAN のほうが中心だったけど。彼らの暴力性と攻撃性は本当に僕に語りかけてきたし、そのヴァイヴと僕のジャズの知識を融合させようとしたんだ」
“実験的” という言葉は、ヘヴィ・ミュージックのテクニカルな側面においてよく使用される言葉です。ただし、ただ速く、複雑なフレーズを乱立することが本当に “実験的” な音楽なのでしょうか?むしろ、ジャンルの殻を破るような破天荒にこそ、実験という言葉は相応しいようにも思えます。そうした意味で、メタル・コア、プログ・メタルの殻を完全に突き破った SikTh は実に実験的なバンドでした。四半世紀の時を経て、SikTh の志を継ぐ UTOPIA は、同じ UK の鬼才 Allan Holdsworth の遺伝子をも取り入れて、世界に再び実験の意味を問います。
デスメタル、グラインドコア、ドゥーム・メタル、ハードコア、プログレッシブ・ロック、ジャズ、そして時には “謎” としか言いようのないものまで、多様性のモダン・メタルを象徴する楽園 UTOPIA は、実際あまりにも前代未聞です。
「Allan Holdsworth は、僕の音楽的な最大の影響者だ。僕は何年も Allan の音楽を熱心に研究した。実際にトリビュート・カルテットを持っていて、イギリス中で彼の音楽を演奏していたんだ。彼のソロを書き写したり、彼の曲を学んだりするのに、文字通り何千時間も費やしたよ。 同時に、Pat Metheny, Mike Morenom Julian Break, Kurt Rosenwinkel, Nelson Veras, Jonathan Kreisberg も僕に大きな影響を与えているんだ」
Allan Holdsworth の影響を受けたメタルといえば、もちろん真っ先に MESHUGGAH が浮かぶはずです。ただし、彼らの場合はどちらかといえば Fredrik Thordental のソロイズムに Allan の影を見ることのほうが多かったような気がします。一方で、プロのジャズ・ギタリストでもあり、Holdsworth 研究に何千時間も費やしてきた UTOPIA のギタリスト John Bailey はソロのみならず、アトモスフィアやリズムの意外性にまで大きく踏み込んでいます。
それは、MESHUGGAH 的なポリリズミック、整合を不整合に見せるテクニックではなく、まさに奇想天外、青天の霹靂なオフキルター、不穏と破綻の一歩手前、ズレたリズムの面白さ。
「最近は、人々が僕らを発見しようがしまいが、本当にどうでもいいんだ。僕個人としては、自分たちのアウトプットにとても満足しているし、みんながそれを気に入ってくれるなら最高だけど、僕にも尊厳があるし、ソーシャルメディアやインスタント・カルチャーに自分の音楽人生をどう構成するかを左右されるようなことはしたくない。君のような人たちが僕らにメールをくれたり、インタビューを申し込んでくれたりするのは、とても個人的なことなんだ。それを聴いて気に入ってくれる人が何人かでもいれば、それは僕にとって素晴らしいことなんだ」
フィレンツェの哲学者マキャベリについて考察したオープナー “Machiavelli” は、そんな破綻寸前のスリルを醸し出す UTOPIA の真骨頂。デスメタルとハードコアで即座に惹きつけ、段階を踏んで展開し、不協和音のギター・ワーク、フレットレスの魔法、様々な拍子、そしてクジラの鳴き声に似たリラックスした不気味なアンビエント・インタールードまで、その破天荒は破綻寸前。だからこそ面白い。
目的のためには手段を選ばない、力の信奉マキャベリズムは、政治から人々の個人的な生活にまで広げることができる興味深い概念です。それはおそらくほとんどの人の中に存在し、権力や影響力のある地位にしがみつくために道徳的な行動や才能を堕落させます。UTOPIA の “実験性” はそんなマキャベリズムとは真逆の場所にいて、自分たちの才能ややりたい音楽だけを信じて邁進し続けるのです。だからこそ尊い。
今回弊誌では、John Bailey にインタビューを行うことができました。「15年間は、ほとんどジャズとクラシック音楽一筋だったんだ。ジャズの修士号を取得し、さまざまなジャズ・アンサンブルを結成した。クラシック・ギターのツアーも何度かやったし、ジャズのライブもたくさんやった」 どうぞ!!

UTOPIA “SHAME” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LOWEN : DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NINA SAEIDI OF LOWEN !!

“The Government Of Iran Does Not In Any Way Represent Iranian People And Culture, Their Suppression Of The Arts And Oppression Of Women Goes Against Everything In Iranian culture. Our Culture Has Celebrated Women And The Arts For Millennia Prior To The Dictatorship.”

DISC REVIEW “DO NOT GO TO WAR WITH THE DEMONS OF MAZANDARAN”

「シャーナーメは、多くの寓話や物語を含む魅力的なテキストで、今日の世界で起きていることと非常に関連性があると感じるのよ。世界の舞台であれ、個人的なレベルであれ、このテキストに登場する王や悪党たちの愚行や戯れは、生き生きとした現代的なものに感じられる。この本は、色彩豊かで大げさな方法で人間性を表現した見事な作品であり、私はそれを私たちの音楽で取り入れたいと思ったの」
ペルシャの叙事詩 “シャーナーメ: 王書” は、創造と征服、勝利と恐怖に満ちた、10万行にも及ぶ広大な詩。ロンドンのプログレッシブ・ドゥーム集団 LOWEN の素晴らしき第二幕 “Do Not Go To War With The Demons Of Mazandaran” にインスピレーションを与えているのは、その中に収められている Mazandaran の悪魔の頭領 Div-e Sepid の物語。強大な力と熟練した魔術を持つ巨大な存在で、王の愚かさを懲らしめるため彼の軍隊を破壊し、失明させ、地下牢に幽閉する。
「このアルバムは、それを聴く人々への警告なの。戦争には絶対に勝者などいないし、戦争で利益を得る人間が最大の悪党となる。私はいつも、ウィリアム・ブレイクのような予言的人物に魅了されてきた。彼らは詩や芸術を使って、近未来の可能性について人々に警告を発している。このアルバムが歴史を変えることはないとわかっているけど、私たちの周りで起こっていることの愚かさを鮮やかな色彩で浮き彫りにせざるを得ないと感じている自分がいるのよ」
そう、このアルバムは戦争をけしかける愚かなる王、支配者、権力者たちへの芸術的な反抗であり、英雄に引っ張られる市民たちへの警告でもあります。いつの時代においても、戦争に真の勝者はなく、そこにはただ抑圧や痛みから利益を貪るものが存在するのみ。ただし、LOWEN の歌姫 Nina Saeidi には、そうした考えに至る正当な理由がありました。
「中東の最近の歴史は、100年以上にわたる不安定化と植民地化によって、悲劇的で心が痛むものになってしまった。今のイラン政府はイランの人々や文化を代表するものではなく、芸術の弾圧や女性への抑圧はイラン文化のすべてに反するものだと思っているわ。私たちの文化は、独裁政権以前の何千年もの間、女性と芸術を祝福してきたのだから」
イラン革命の亡命者の娘として産まれた Nina にとって、現在のイランのあり方、独裁と芸術や女性に対する抑圧は、本来イランやペルシャが培ってきた文化とは遠く離れたもの。本来、女性や芸術は祝福されるべき場所。そんな Nina の祖国に対する強い想いは、モダン・メタルの多様性と結びついてこのアルバムを超越的な輝きへと導きました。
何よりその音楽的ルーツは、彼女の祖先の土地に今も深く刻み込まれていて、ゴージャスで飛翔するような魅惑的な歌唱は、パートナーのセム・ルーカスの重戦車なリフの間を飛び回り、大渦の周りに蜃気楼を織り成していきます。”クリーン” な歌声が、これほどまでにヘヴィな音楽と一体化するのは珍しく、また、奈落の底への冒険をエキゾチシズムと知性で表現しているのも実に神秘的で魅力的。多くのメタル・バンドがアラブ世界のメロディを駆使してきましたが、LOWEN のプログレッシブ・ドゥームほど “本物” で、古代と今をまたにかけるバンドは他にいないでしょう。
今回弊誌では、Nina Saeidi にインタビューを行うことができました。「日本から生まれたプログは世界でもトップクラスよね!喜多島修と高中正義は、私の最も好きなミュージシャンの一人なの。もちろん、スタジオジブリの映画のファンでもあるし、『xxxホリック』や『神有月の子ども』など、日本の民話や神話を取り入れたファンタジーやアニメのジャンルも大好きよ。『ヴァンパイア・ハンターD』も、若い頃に好きだったアニメ映画のひとつね。ゴシック映画の傑作。
ビデオゲームでは、私はゼルダの大ファンなの。Wiiのゲームはプレイする機会がなかったけど、N64とSwitchのゲームは今でもプレイする機会があればヘビーローテーションしているの」 どうぞ!!

LOWEN “DO NOT GO TO WAR WITH DEMONS OF MAZANDARAN” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【FROST* : LIFE IN THE WIRES】


COVER STORY : FROST* “LIFE IN THE WIRES”

“Every Prog Band Worth Their Salt Really Should Do a Double Album, Shouldn’t They?”

LIFE IN THE WIRES

「価値のあるプログ・バンドは皆、ダブル・アルバムを出すものだし、出すべきだよね」
FROST* とその心臓 Jem Godfrey は、この切り抜きやプレイ・リストのストリーミング全盛のインスタントな時代に、90分2枚組の巨大なエピック “Life in the Wires” を作り上げました。それだけではありません。このアルバムは前作2021年の “Day and Age” のコンセプトとリンクしながら、同時に初期の作品、特に画期的なデビュー・アルバム “Milliontown” のサウンドを見事に取り込んでいるのです。2024年にこれだけ “布石” のあるプログらしいプログを手に入れられるとは思えません。
「新しいアルバムの最初のトラックは、”Day and Age” の最後の曲 “Repeat To Fade” の終わりから始まるんだ。”Day and Age” を作ったときに、未来のためのちょっとした布石としてこの曲を入れたのを覚えているよ。
新しいアルバムの舞台に映画の世界のようなものを作り上げたんだ。 John と私が “Day and Age” を書いていたとき、私は音楽に関してかなり視覚的に考えていたんだ。曲を書いていると、その人たちがいる世界が見えてくる。”Day and Age” の世界観はとても映画的で、さまざまな場所や、メガホンを持った5人の紳士が象徴的なアルバム・ジャケット、そしてその世界観など、私にはとても映画的に感じられた! それで、”Day and Age” の最後、”Repeat to Fade” という曲の最後に、曲がフェードアウトして訪れる静寂の中で、”Can you hear me? “という声を入れた。それが新しいアルバムの始まりなんだ。”ジェームス・ボンドが帰ってくる” みたいな感じかな。 そういうアイデアがとても気に入ったんだ」

その映画のような世界観は、ビデオゲームともリンクしています。
「私の頭の中では、ビデオゲームの “グランド・セフト・オート” のような、ひとつの街でドライブしながら何かをするような世界が舞台になっている。 でも、その気になれば、車に飛び乗り、橋を渡って別の街に行くことができ、そこでは別の世界が繰り広げられているみたいなね。”Day and Age” の世界と “Life in the Wires” の世界は同じ世界の別の場所なんだ。 でも、物事は同時進行している。
“Day and Age” の世界では、”Terrestrial” や “The Boy Who Stood Still” のような登場人物たちがいて、同じように “Life in the Wires” にも登場人物たちがいて、それが同時に起こっている。 すべてが同じ宇宙を舞台にしているというアイデアがとても気に入ったんだ。その結果、ビジュアル面でも音楽面でも、ハウス・スタイルを確立するのはとても簡単だった」
だからこそ、ダブル・アルバムが必要でした。
「”Life in the Wires” のストーリーは、2枚組のアルバムが正義だと思えるほど、十分な物語があったと思う。たしかに怖さはあったよ。長くてつまらない迷走しているプログ・バンドだと評価されるほど最悪なことはないからね。 だから私たちは、以前は60分のCDというフォーマットの枠の中で十分に語ることができると思っていた。
でもこのアルバムでは、4面のレコードを作りたいと強く思ったんだ。 その結果、最適な音質を得るために、ヴァイナルの1ビットが約20分(片面)という制約が生まれた。 不思議なことに、86分と言われるととても長く感じる。 でも、20分のヴァイナル盤を4面分と言われれば、頭の中ではそれほど大変なことだとは感じない。
ダブルアルバムのアイデアはずっとやりたいと思っていた。 2枚組アルバムという素晴らしいプログのクリシェをやるのにちょうどいいタイミングだと思ったんだ!」

4面を扱えることで、ストーリーの幅も広がります。
「その通りだよ。前半の第1幕で登場人物を紹介する。そして次の第2幕で旅が始まる。 そして第3幕で寓話が語られ、4幕で教訓が語られる。 音楽的にも、そういった形式に対応できる十分な素材があったんだ。全曲がつながっているんだ。 だから、組曲のようなものなんだ」
かつてプログレッシブ・ロックのレコードにはそうした組曲やつながりのある作品が多く存在しました。
「”The Wall” は連続した作品で、”The Lamb” もその多くがリンクしていた。だからそうするのが自然だと思ったんだ。 もし “CDを作るんだ” と考えていたら、違ったものになっていたと思う。 でも、私の頭の中では、4面のレコード盤ということになっていて、そう思えた……よくわからないけど、今回は完璧に自然に思えたんだ」
“Life in the Wires” のストーリーは、主人公のナイオを中心に展開します。ナイオは、A.I.が運営する世界で、意味のない未来に向かう無目的な子供でした。しかし彼は、かつて母親からもらった古いAMラジオで年老いたDJの声を聞き、信号の発信源をたどって “ライブワイヤー” を見つけ、より良い未来がそこにあるかどうかを確かめようと決心します。しかし、”オール・シーイング・アイ” “全てを見通す瞳” はこの独立した思想に感心せず、攻撃を始めます。
やがてナイオは、ライブワイヤーの故郷を突き止め、自由を得ようとしますが国中を追われることになっていきます。
それでももちろん、多くのコンセプト・アルバムがそうであるように、このアルバムを楽しむために音楽の背景にあるストーリーを完全に受け入れる必要はありません。たとえナイオの旅が頭の上を通り過ぎたとしても、このアルバムは約90分、CD2枚組、またはレコードの伝統的な4面にわたる、多様で革新的、そして非常に楽しい曲のコレクションであることに変わりはないのです。

「ELO の “Out of Blue” は名盤だが、それ以上に “Time” のような作品を作りたかった」
Godfrey の ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA に対する愛情はこの作品にもヒシヒシと感じ取れます。彼はまるで Jeff Lynne のように、メロディックなソングライティング、見事なプロダクション、ポピュラーでありながら知的なアプローチを持つレコードを作りあげました。”Life in the Wires” もまた ELO の作品と同様、プログレッシブでありながら何度も聴かないと理解できないレコードではないのです。
「このアルバムはよりプログレッシブな雰囲気とアレンジになっているから、今回はルールを設けないのが賢明だと思ったんだ。 だから私たちは演奏できるし、ちょっとしたソロもできる。それにさまざまなムードや雰囲気をカバーしている。 ソロを弾いたり、楽器的に自分を表現したりする能力を奪ってしまうと、86分間という時間の中で、自分自身に楽しみがなくなってしまう。このジャンルやミュージシャンの楽しみのひとつは、開放的になれることだと思う。 バンドの中でそれを許容するために、ちょっとした光と影を持つことは公平だと思った。 味わい深いものであることを願うよ!」
Godfrey が12曲を書き、さらにあとの2曲は John Mitchell とのセッションから生まれたもの。”Day and Age” では Mitchell がリード・ボーカルを多く取っていましたが、今回はキーボードの巨匠がリード・ボーカルにしっかりと戻り、シンセもより前面に出ています。
「なぜそうしたかというと、このアルバムの大半を私が書いているから。自分ひとりで書いた曲が多いから、歌うことに意味があったんだ。 私がこれを歌って、John に何か歌ってもらおう” というよりはね。 彼は私よりも音域が広いんだ。 例えば、”Day And Age” では、私が実際に歌っていた曲のうち、John が歌うことになったものが何曲かあった。”Skywards” とかね。
私は “Milliontown” の全曲を歌っていたから、こうしてある種の輪が完成したんだ。 マイクの前に戻って歌を歌うグリーン・パスがもらえたと思ったんだ。 いい機会だと思ったよ」

しかし、FROST* は誰ひとり欠けても FROST* にはならないと Godfrey は主張します。
「John は、彼独特の “Johnular” なアティテュードをもたらしてくれる! 彼はユニークなギター・トーン、ユニークなサウンドを持っている。 人々が音楽を色として見るならば、彼の個性はネオンパープルになるんだ! なぜだろう? エキゾチックというか、ちょっとイタリックというか! とにかく、彼には独特の魅力があって、素敵なんだ。 彼がプレーすると、物事に高価な光沢がもたらされる。それが彼の持ち味なんだ。 それに、彼の声はたしかなものだ。 アルバムの最後、”Starting Fires” で彼が歌っているのがわかるだろう。 彼が、”We’re star…” と歌うだけで、”ああ、John だ!”と思うんだ。
Craig Brundell は、明らかに子犬のような熱意を何にでも持ってくる! 彼はずっと、”ハロー、目が覚めたよ”って感じなんだ。 子犬のように走り回るんだ。 これは何?これは何?ってドラム・グルーヴを歌う。彼はバックビートに素晴らしいエネルギーをもたらしてくれるね。
そして Nathan King は、バンドの父親みたいな存在だ! 彼は信じられないほど冷静で、禅の心を持っている。 彼はバンドの中で最も才能のあるミュージシャンで、鍵盤も弾けるし、歌も歌えるし、ベースもギターも弾ける! そして、彼はいつも音楽を覚えている。 だから私たちはいつも、”Nate、これどうやるの?”って言ってるんだ。 彼は私たちを見渡して、みんなを一直線に導いてくれる。
そういう点で、この関係はとても興味深い。 私は基本的に、みんなに指示を出す一番前のうるさいやつなんだ」

たしかに、このアルバムではバンド全員を再び解き放つことで、抑えきれないほどの喜びが表出しています。
「”Day and Age” では、ソロを省いて巧みなアレンジをするということを明確にしていたね。でも今回は、その立場を少し変化させてもいいんじゃないかと思ったんだ」
その素晴らしい例が “Moral & Consequence” でしょう。まさに “足かせ” が外されたのがわかります。ソロにソロを重ねたこの曲は、様々な意味で前作に対するアンチテーゼとなり、それでもとてもキャッチーです。Godfrey のそのポップ・センスは出自によるところも大きいようです。
「私が音楽に目覚めたのは、7歳くらいのときにテレビでブライアン・イーノを見たのがきっかけだった。彼は1970年代の “ドクター・フー” に出てくるエイリアンの悪役みたいな格好をしていて、EMSのVCS3を弾いていた。私の関心はそれだけだった。
それから14年後、私は結局、金持ちで有名なポップ・スターにはなれないということをようやく受け入れ、ロンドンのヴァージン・ラジオでアシスタント・プロデューサーとして働くことになった。そしてそれから2年後、BBCラジオ1にヘッドハンティングされ、オンエアのイメージング・チームに加わることになったんだ」
そしてポップが花開いた80年代はまさに Godfrey の音を形作りました。
「80年代は私の10年だった。私は 1984 年にティーンエイジャーになったからね。シンセサイザーに夢中になっていた。それはキーボード奏者にとって完璧な嵐だったよ。すべてが可能であり、すべてが現実を超えていた。私たちは70年代の終わりイギリスのとても憂鬱な数年間から抜け出して、率直に言って休憩が必要だった」

ELO はもちろん、ABBA や敬愛する Tony Banks の GENESIS, RADIOHEAD に QOTSA まで様々な影響を織り込んだアルバムにおいて、彼らは重さ軽さではなく、推進力と静寂のペース配分で作品にダイナミズムを生み出しました。当然、あの傑作 “Milliontown” の焼き直しをやるつもりはありません。
「私は純粋に、人々が私たちについて良いとか悪いとか言うのを読まない。もし私がレストランを経営していたら、評判をとても気にするだろうけど、レストランを経営している人とは違って、誰かがクソだと言ったからといって、急いでスタジオに戻ってアルバムを書き直したり、リミックスしたりはしない。誰かが良いと言ってくれたとしても、自分の最新作を聴きながら鏡に映る自分を愛おしそうに見つめ、自分に酒を注ぐようなことはしないんだよ」
そうして Godfrey はこの光のプログレッシブ・ロックで世界を良くしていきたいと願います。
「最近、プログの世界でもメタルギターが多く、叫んでいるように見える。皆、何事にも腹を立てているようだ。カメラに向かってにらみを利かせ、”Lung-Ripper IV- The Death Nexus “という曲を歌う。そんな気分になるのはIKEAにいるときだけだ。プログにはもうユーモアはないようだ。私の時代はもう少し上品だった。今でもFrostのフォーラムを覗いてみると、最近の激論はマーマイト (イギリスのペースト) についてだった。トランプについてはどうすることもできないが、マーマイトについては何人かに落ち着くように言うことができる。このように小さなことからだけど、私たちは世界をより良い場所にしたいんだよ」


参考文献: TPA: Frost* – Life In The Wires

PROGARCHY :Jem Godfrey of Frost*: The Progarchy Interview

THE PROG MIND :TEN QUESTIONS WITH JEM GODFREY

FROST 弊誌インタビュー!

日本盤のご購入はこちら。SONY MUSIC

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN SEARCH OF SUN : LEMON AMIGOS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM LEADER OF IN SEARCH OF SUN !!

“I Think The Whole ‘Angry Looking Metal Band’ Is Getting a Bit Stale In General.”

DISC REVIEW “LEMON AMIGOS”

「”怒っているように見えるメタル・バンド” というのは、一般的に少し古臭くなってきていると思う。”Virgin Funk Mother” は間違いなく、自分たちの個性を探求し、殻を破り始めたアルバムだ。典型的なメタルではないアイデアを持ち込むことを恐れなくなった」
かつて、ヘヴィ・メタルといえば、そのイメージの中心に “怒り” が必ずありました。それは、隣の家のババアが凍るくらい寒いスイスの冬に向けられた怒りかもしれませんし、親のクドクドしたお説教に突きつける “Fuckin’ Hostile” かもしれませんし、ド悪政に対して売りつける喧嘩歌舞伎なのかもしれません。もちろん、そうやって怒りを吐き出すことで、アンガーマネージメントを行い、心の平穏を保つこともできました。つまり、メタルの中にはネガティブな怒りと、ポジティブな怒りが常に同居していたのです。
しかし、多様なモダン・メタルの開花とともに、メタル=怒りという単純な方程式は崩れつつあります。喪失や痛みを陰鬱なメタルで表現するバンドもあれば、希望や回復力を光のメタルで提示するバンドもいます。
そして、BULLET FOR MY VALENTINE, FUNERAL FOR A FRIEND, TWELVE FOOT NINJA といった大御所ともステージを共にしてきたロンドンの新たな才能 IN SEARCH OF SUN は、明らかに “高揚感” をそのメタルの主軸に据えています。典型という概念さえ時代遅れとなりつつある今、人生にもメタルにも、愛、幸福、悲しみ、怒りといったあらゆる感情が内包されてしかるべきなのかもしれませんね。
「本当に単純なことなんだけど、僕らはいろんな音楽が大好きで、みんなグルーヴに夢中なんだ!それがいつも僕らの曲作りに現れていて、それが僕らの音楽にファンキーな雰囲気を加えているんだと思う。グルーヴがなければ、音楽はただのノイズだからね!」
パッション・イエローの背景に、輪切りの悪魔的レモン。そのアートワークを見れば、IN SEARCH OF SUN がメタルの典型を一切気にしていないことが伝わります。もちろん、悪魔こそここにいますが、ではトヨタのロゴマークを悪魔に模した車すべてが真性の悪魔崇拝者なのでしょうか?むしろ、ここには甘酸っぱいエモンの果汁や、ちょっとしたユーモア、そして踊り出したくなるような楽しい高揚感で満たされています。
もしかすると、例えば、最強の魔法ゾルトラークがほんの10年ちょっとで誰にでも使える一般攻撃魔法になってしまったように、メタルの怒りや過激さ、凶悪な音、そんなヘヴィのイタチごっこにも限界があるのかもしれません。だからこそ、グルーヴがなければ音楽なんてただのノイズだと言い切る彼らの、冒険を恐れない多様性、典型を天啓としない奔放さ、そして何より、メインストリームにさえ挑戦可能な豊かで高揚感のあるリズムとメロディの輝きは、メタルの未来を託したくなるほどに雄弁です。
今回弊誌では、Adam Leader にインタビューを行うことができました。「ファースト・アルバムの中に “In Search Of Sun” という曲があるんだけど、この曲は内なる葛藤と、自分が一番愛しているものを掴みに行くための世界との戦いについて歌ったものなんだ。この曲は、決意と自分自身を決してあきらめないことについて歌っている。僕たち全員がそのような姿勢を共有しているから、自分たちを真に定義するような名前に変えるのは正しいことだと思ったんだ」 PANTERA や Djent, BON JOVI とMJと、UKポップス、UKガレージ、ダンス・ミュージックが出会う刻。どうぞ!!

IN SEARCH OF SUN “LEMON AMIGOS” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AZURE : FYM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AZURE !!

“I Was Introducing Chris To Hunter X Hunter While We Were Writing The Storyline For The Album, So I’m Sure There Was Some Sort Of Indirect Inspiration Going On There.”

DISC REVIEW “FYM”

「物語や音楽、芸術、文化のない世界は実に退屈だろう。僕たちがやっていることは単なるエンターテインメントかもしれないけど、喜びや美的体験には価値があるし、プログレッシブ・ミュージックやパワー・メタルが持つ力、現実からの逃避力と回復力はとても意味がある。利益のため、AIの助けを借りて芸術という名の心なきまがいものが冷笑的に生み出される世界では、本物の人間による創造性と魂がさらに必要とされているんだ」
みなさんはメタルやプログレッシブ・ミュージックに何を求めるでしょうか?驚速のカタルシス、重さの極限、麻薬のようなメロディー、複雑怪奇な楽曲、華麗なテクニック、ファンタジックなストーリー…きっとそれは百人百様、十人十色、リスナーの数だけ理想のメタルが存在するに違いありません。
ただし、パンデミック、戦争、分断といった暗澹たる20年代において、これまで以上にヘヴィ・メタルの“偉大な逃避場所”としての役割が注目され、必要とされているのはたしかです。暗い現実から目をそらし、束の間のメタル・ファンタジーに没頭する。そうしてほんの一握りの勇気やモチベーション、”回復力”を得る。これだけ寛容で優しい“異世界”の音楽は、他に存在しないのですから。そして、英国の超新星AZUREは、その2020年代のメタルとプログレッシブ・ミュージックのあり方を完璧に体現するバンドです。
「自分たちを“アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ”と呼ぶこともあるし、友人たちから“フェアリー・プログ”と呼ばれることもある。全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っている。そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的な内容もあるんだよね」
ヴァイやペトルーシも真っ青の驚嘆のギター・ワーク、デッキンソンとクラウディオ・サンチェスの中道を行く表情豊かなボーカル、チック・コリアを思わせる綿密な楽曲構成、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。まさに冒険を聴く体験。
AZUREの音のアドベンチャーは、まるで日本のRPGゲームさながらの魅力的なプロットで、リスナーの好奇心をくすぐり、ファンタジー世界へと誘います。それもそのはず。彼らのインスピレーション、その源には日本の文化が深く根づいているのですから。
「このアルバムの最初のコンセプトは、”ダンジョン・クローリングRPG”をアルバムにしたものだった。そこからコンセプトが進んでいったのは明らかだけど、僕らが幼少期にプレイした日本のRPGゲームは、このアルバムの音楽構成や美学に大きな影響を与えている」
影響を受けたのは、ゲーム本体からだけではありません。
「日本のゲーム作曲家もこのアルバムに大きな影響を与えた。ファイナル・ファンタジーの植松伸夫、ゼルダの近藤浩治、そしてダークソウルの桜庭統。彼のプログ・バンドDEJA-VUも大好きだよ」
そうして AZURE の日本に対する憧憬は、サブカルチャー全般にまで拡大していきます。
「日本にはクールなサブカルチャーがたくさんあるから、影響を受けないのは難しいよ!僕たちはJ-Rockバンドや、そのシーンの多くのプロジェクトに大きな愛着を持っているんだよね。高中正義やIchikoroは素晴らしいし、ゲスの極み乙女や Indigo La End など、僕たちが好きな他のバンドともリンクしている。あと、日本のメタル・シーンにも入れ込んでいて、MONO、SIGH、GALNERYUS、Doll$Boxx、UNLUCKY MORPHEUSが大好きなんだ!」
そうしたAZUREの好奇心にあふれた眼差しこそ、21世紀のメタルやプログを紐解く鍵。寛容で多様、生命力と感染力、そして包容力を手にしたこのジャンルは、国や文化、人種、性別、宗教、そして音楽の檻に閉じこもることはありません。
音楽ならつながれる。だからこそ、AZUREの音楽は多くのパワー・メタルやプログレッシブ・ミュージックのステレオタイプな楽観主義とは一線を画しているのです。だからこそ、人間的で、憂鬱に閉ざされたリスナーの心に寄り添えるのです。ここでは、想像上の脅威に対する輝かしい勝利について歌うだけでなく、登場人物たちがクエストに奮闘している音楽、寄り道で一喜一憂する音楽、パーティー内の人間関係の感情を投影した音楽まで描かれます。
そうした情景描写に多くの時間を費やしているのは、リスナーに”Fym”の世界へとより没入してほしいから。ひと時だけでも浮世の痛みを忘れ、逃避場所で回復力を養ってほしいから。今を生きるメタルやプログの多様さに抱かれてほしいから。さあ旅に出よう。まだだれも聴いたことのない冒険が君を待っている!

1.The Azdinist // Den of Dawns
2.Fym
3.Mount, Mettle, and Key
4.Sky Sailing / Beyond the Bloom / Wilt 11:07
5.Weight of the Blade
6.Kingdom of Ice and Light
7.The Lavender Fox
8.Agentic State
9.Doppelgänger
10.The Portent
11.Trench of Nalu
12.Moonrise
Bonus Track
13.Spark Madrigal
14.Demon Returns
Chris Sampson – Vocals, Electric Guitar, Mandolin
Galen Stapley – Electric Guitar, Nylon String, Theremin
Alex Miles – Bass
Shaz D – Keyboards, Grand Piano
Andrew Scott – Drums
Adam Hayes – Bongos, Congas, Fish Guiro on tracks 1, 7, and 11
Nina Doornenstroom – Trumpets on track 3
Camille De Carvalho – Oboe D’amore, Clarinet, and Basson on tracks 4 and 6

日本盤は5/22にMarquee/Avalonからリリース!私、夏目進平によるライナーノーツ完全版とともにぜひ!!

前作リリース時のインタビュー!

AZURE “FYM” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【ASIA : THE HEAT OF THE MOMENT TOUR 24】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HARRY WHITLEY OF ASIA !!

“I Really Don’t See It As Replacing John Wetton – Nobody Can, Ever. I’m Here To Keep The Music Alive And Let The Fans Come Together And Enjoy Hearing The Music Live And Loud!”

TIME AGAIN

「鍵となる重要なメンバーが抜けた後、新たにバンドに入る人を見つけるのはとても難しいことだよね。僕は絶対に John の代わりにはなれないと思っているよ。それはね、誰も決してできないことだよ。だけど僕は ASIA の音楽を存続させ、ファンが一緒になって大音量で生の演奏を楽しめるようにするためにここにいるんだ!」
Dimebag Darrell と Vinnie Paul の Abott 兄弟が亡くなった時、誰もが PANTERA は終わったと思ったはずです。実際、彼らはバンドの屋台骨で、心臓で、カリスマで、決して替えのきく存在ではありませんでした。それでも、PANTERA は蘇りました。私が実際に見た PANTERA。それはまちがいなく PANTERA でした。そう、彼らは不可欠な心臓を情熱と愛情、そして使命感で補っていたのです。
鍵となるメンバーが亡くなったり、引退したり、袂を分つことで継続が困難となるバンドは少なくありません。特に、年齢層が高くなったメタルやプログ世界ではなおさらのこと。もちろん、綺麗な思い出だけを封印して大事にしまっておくのもひとつの考え方でしょうが、それでは若い世代が実体験することも叶いません。きっと大事なのは、愛情と尊敬、そして情熱をもって音楽の灯火をつないでいくこと。そして今回、ASIA、そして John Wetton の炎をつなぐこととなった Harry Whitley は、その使命に文字通り燃えています。
「John Wetton はまさに天賦の才を持っていた。素晴らしいボーカリストであり、雷鳴のようなベーシストであり、天才的なソングライターだった。John が残してくれた遺産を引き継ぐのは大変な仕事だけど、喜んで引き受けるよ!オリジナルに敬意を払いつつ、その素材を探求し、自分のものにすることにとても興奮しているんだ」
Zakk Wylde にしても、Harry にしても、決して亡きカリスマのかわりになろうとしているわけではありません。そもそも、人は誰かのかわりになることなどできません。なぜなら、きっとそれぞれの個性は唯一無二の “True Colors” だから。それでも、先人の遺志に敬意を払い、愛情と情熱をそそぎ、自分なりのやり方で美しき灯火を受け継いでいくことならできるはずです。だからこそ、あの素晴らしき John Wetton の声、そしてベースをメンターとして育った Harry Whitley は、新たな ASIA の顔として相応しき人物に違いありません。
「John の後を継ぐというのはかなり大変なことだけど、Geoff は僕に任せてくれているし、ファンやジョンの妻リサ・ウェットンを含め、みんなが応援してくれている。もし ASIA が新しいアルバムをレコーディングするとしたら、再結成アルバムに近いものになると思うけど、もう少しロック的なエッジの効いたものになると思うよ」
実際、新たな ASIA にあるのは、ノスタルジーだけではありません。Al Pitrelli, Guthre Govan, Bumblefoot, Sam Coulson など、以前からわりあい “攻めた” 人選を続けている Geoff Downes ですが、今回はドラムに Virgil Donati, 歌えるギタリストに FROST や IT BITES で知られる John Mitchell を抜擢。非常にエッジの効いたラインナップを揃えてきました。ただ、紙芝居のように歴史を語るだけではなく、歴史を未来へと繋いでいく。そんな気概も見え隠れしますね。
「プログはいつも僕の心の近くにある!なぜなら僕はチャレンジが好きだから。挑戦的な音楽はやっぱり楽しいよ!だからただ出ていって、ただ流れに身を任せるようなことはしたくない。それはファンに対してフェアじゃないからね。プログの世界には面白い音楽がたくさんあるし、それは聴かれるべきものだから、YouTube で作ったビデオを通してプログの世界を新しいリスナーに紹介することにベストを尽くしている。そしてこれからは、ASIA の灯火をつないでいかなければならないんだ」
ASIA の “Sole Surviver” となった Geoff Downes。John Wetton という盟友が “Without You” となっても、彼は “Wildest Dreams” の “Time Again” を諦めてはいません。そして、Harry Whitley という新たな “Voice of ASIA” と出会った Geoff はその夢に “One Step Closer” したはずです。”Open Your Eyes” で “Phoenix” の復活、プログの “Tomorrow the World” を見届けましょう。その行く末はきっと “Only Time Will Tell”…
今回弊誌では、Harry Whitley にインタビューを行うことができました。「ボーカルでは、”The Smile Has Left Your Eyes” が一番難しいかな。ただ歌うだけではダメなんだ!歌詞のひとつひとつに意味があり、そこに感情を込めて歌わなければ魔法はかからないからね」 どうぞ!!

INTERVIEW WITH HARRY WHITLEY

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALBION : LAKESONGS OF ELBID】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOE PARRISH OF ALBION !!

“I Prefer To Go Back To The Source Itself, As In The Original Folk Songs And Melodies Themselves, Rather Than The Versions Of That Sound Found In Rock Or Metal Music.”

DISC REVIEW “LAKESONGS OF ELBID”

「僕が ALBION のために書こうとしている音楽は、基本的には精巧でありながら、できれば本物のフォーク・ミュージックをモダンな楽器で演奏し、アレンジにクラシックのアプローチを取り入れたものにしたい。最近のロックやメタルによくあるバージョンではなく、オリジナルの民謡やメロディーのように、起源そのものに立ち返ることを好んでいるんだ」
ある時点で、メタルのトレンドに躍り出た欧州のフォーク・メタルが、徐々にその輝きを失っていったのは、明らかに飽和と画一化が理由でした。それもそのはず。先達のフォーク・メタルから拝借したようなフレーズを満載したフォーク・メタルは、すでに伝統音楽の色香さえ失っていたのですから。その間に、インドや中東、アフリカ、アジア、南米、南太平洋の各地で、メタルの感染力は猛威をふるい、その生命力と包容力で世界中の日常を捉えた “フォーク・ミュージック” と融合を果たしていきました。
では、欧州のフォーク・メタルは消えゆく運命にあるのでしょうか?否。あの JETHRO TULL で薫陶を受け、完全復活の立役者となったギタリスト Joe Parrish 率いる ALBION がその流れを変えつつあります。彼らの音楽は、まがいものではなく、真のフォーク・ミュージックと当時の風景、日常、神話、そしてリュートやフルートのような楽器に根ざしているのですから。
「60年代や70年代のロック・ミュージシャンの多くは、細部まで考えすぎるのではなく、直感的な情熱のようなもので、短期間に多くのこと(ライヴ、アルバム、曲)をやり遂げ、アイデアにコミットする…そんな自信のようなものを持っていたと思う。Ian と一緒に仕事をし、彼とレコーディングをしたことで、僕はただアイデアにコミットし、物事を本当にやり遂げることができるようになったんだ。準備しすぎたり、細かなことで自分を苦しめて最終的な完成を遅らせるのではなく、もう少し自分の直感を信じることができるようになった。芸術の世界では、クリエイティブで多くのアイデアを持っている人の割合が高いが、そのアイデアにコミットし、実現までやり遂げる人の割合はかなり少ないからね」
さらに、ALBION にはかつての偉大なミュージシャンに備わっていた直感力を兼ね備えています。Joe が JETHRO TULL を離れたのも、まさにそれが理由。狂気のフラミンゴこと Ian Anderson と仕事をする中で学んだ、直感のアイデアを具現化する力。そうして彼はビッグ・バンドを離脱して、アーサー王伝説とその時代をプログ・メタル、フォーク・メタルに投影するアイデアを、完成させる道を選んだのです。
「逃避という側面は極めて重要なものだ。すべての素晴らしい芸術は、何らかの形で “トランスポート” する能力を持っている。よく、つらい時や状況を乗り切るために、特定の曲や音楽のことを口にする人がいるけど、それはよくわかるよね。ある曲や作品に惚れ込んだとき、その曲や作品によって日々の感情や経験が大きく変わることがある。それがアートや音楽の “変容力” なんだ!」
そうして完成を見た “Lakesongs of Elbid” には、アートに込められた “変容力” が備わっています。JETHRO TULL に傾倒した OPETH のような、現代的なリフワークに目覚めた BLIND GUARDIAN のような、その新鮮なフォーク・メタルの息吹は、リスナーの憂鬱や喪失を抱きしめながら、その感情をポジティブに変容させ、そして歴史上のめぐるめくファンタジーへと誘います。ALBION にとっての “聖杯” とは、リスナーの心を変容させる音の葉のこと。そうして彼らは、プログレッシブでフォーキーなメタルの王位継承を目指し、邁進していくのです。
今回弊誌では、Joe Parrish にインタビューを行うことができました。「自分たちが聴きたくなるような音楽を作っているだけさ。それがアーティストとしての誠実さを保つ唯一の方法なんだ。他人をなだめたり、アピールしたり、迎合したりするようなことを始めた時点で、アーティストではない。いやまあ、アーティストなんだろうけど、不誠実極まりない人間になる。それは、作品にあらわれるよね」 どうぞ!!

ALBION “LAKESONGS OF ELBID” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JUDAS PRIEST : INVINCIBLE SHIELD】


COVER STORY : JUDAS PRIEST “INVINCIBLE SHIELD”

“In The World Of Heavy Metal, The Band, The Fans, The Metal Community, It’s All About The Invincible Shield. It’s Defending The Faith. We’re Still Defending The Faith, All These Years Later.”

INVINCIBLE SHIELD


「でも、それがヘヴィ・メタルだろ?」
Rob Halford の口癖です。Rob にとっては、すべてがヘヴィ・メタル。正しくて、善良で、適切で、生命の活力に満ちたものはすべて。メタル・ゴッドであることは、そのクールな肩書きと同じくらい責任重大だと Rob は言います。ただそこに浸っているだけではダメなんだと。挑戦し続けろと。心配はいらない。メタルには困難や逆境を跳ね返す “回復力” が備わっているのだから。
「人生で困難に直面し、それを乗り越え、以前よりも強くなって戻ってくることができたとき、自分の中で何かが変わる。これは、世界中のパンデミックに巻き込まれた多くの人々に起こったことだと思う。私たちは皆、同じような経験をした。友人に会えず、家族に会えず、メタルのショーに行けないのはとても辛いことだった。音楽が私たちを生かしてくれた。みんな家で音楽を聴き、テレビを見たり、映画を見たりしていた。
もちろん、Richie の人生を変えるような心臓の病は、彼を人間として変えた。そして、おそらく私の癌も同じだった。どちらも人生を奪う可能性があるのだから。がんは命を奪い、心臓病は命を奪う。でも、素晴らしい医療チームや素晴らしい人たちが一緒に働いてくれているからこそ、まだここにいることができる。だから、このアルバムには、これまでになかったような要素が含まれているのかもしれない。たくさんの感情があって、”復讐の叫び” 以上に人生を少し違った形で理解できるようになったんだ。だから、JUDAS PRIEST というバンドにとって、私たちのメタルにとって、これはとても特別なことなんだ。”Invincible Shield” に収録されている曲の全てに、人生を上昇させる力を感じることができる」
Rob の出立ちはすでにメタルを体現しています。黒いシャツ、室内でサングラス、スキンヘッド、大きな白いサンタヒゲにピアス。しかし、それよりも彼の態度や物腰、そして哲学にこそ、メタルの何たるか、なぜ彼がメタル・ゴッドなのかが詰まっているのです。

JUDAS PRIEST のデビュー・アルバム “Rock-A-Rolla” から半世紀を経た72歳の Rob は、今でもヘヴィ・メタルに夢中です。
「今は SLEEP TOKEN に夢中なんだ。彼らは本当に面白いと思う。ネットで調べて、彼らが誰なのかとか調べたんだ。メタル・ゴッドと Vessel のセルフィーが撮りたいよ。音楽的にも、彼らを特定するのはとても難しい。彼らの音楽を聴いていると、ミュージシャンとして興味をそそられるんだ。いろいろなところに行っているし、それができるバンドは今のところメタル世界には他にいないと思う」
あとは今でも猫に夢中。
「今、猫のTシャツを100枚くらい持っていると思う。以前、ベンという美しい猫を飼っていたんだけど、長生きして、突然亡くなってしまったんだ。家族を失うような感じ。でも、いつも旅に出ていて、家には誰もいないから、飼うのはちょっと大変だった。
うちの猫は猫用のホテルがあまり好きじゃなかったんだ。だから、毎週土曜日に私のインスタグラムで猫のTシャツを着て、その埋め合わせをしているんだ。いつまで続くかわからないけどね。
メタルと猫には共通点があるよ。それは、自立心だ。それがわかったのは、特にメタル・ミュージシャンが猫と一緒に写っている写真集を見たときなんだ。本当に強い男たちが猫を飼っている。でもね、私たちは は自分の猫のことを知っていると思っているけれど、猫はもっと私たちのことを知っている。そして、彼らはとても個性的で、まるで “俺の能力を見ろ” と言っているかのようにこちらを見ている。まさにメタルだ。私はそれが好きなんだ。彼らは美しい生き物だよ」

“Stranger Things” でメタルが注目を集めたことにも、うれしさを隠せません。
「私は、2wo が Kate Bush が “Strangre Things” で弾けたような瞬間を迎えるのを待っている。TikTok世代の子供たちは、それがどこで作られ、何年前に作られたかなんて気にしない。素晴らしい曲だ。そして2wo のアルバムにも同じような本当に強い瞬間がいくつもある。私はボブ・マーレットと知り合った。彼は John Lowery (John 5) というギタリストのことを教えてくれた。私は彼に、”一緒に何かできないか?”と言ったんだ。あのデモは素晴らしいよ。
それから数週間後、私はニューオーリンズにいた。街を案内してくれる友人と一緒だった。彼は “あれが Trent Reznor のスタジオだよ。入って挨拶したら?”。それでスタジオに入った。そして Trent がやってきて、”ああ、最高だ!君に会えてよかったよ、僕はプリーストの大ファンなんだ!” って。一緒にお茶を飲んで、ケーキを食べて、話をした。
2wo のデモ音源をかけると、Trent が乗り気になってきた。アルバム全部を聴いて、彼が言ったんだ。”これをコピーして、僕に預けてくれないか?”
最終的なミックスを手にしたとき、私はただただ仰天したんだ。オリジナルのデモから確実に変化していた。”I Am A Pig”, “Leave Me Alone”, “Water’s Leaking”…これらは今でもいい曲だ。だからね、TikTokの瞬間を2wo にも持ってこよう!」
72歳となった Rob は、今でもこれだけ精力的に活動できるのは、メタルのおかげだと考えています。
「メタルは若さを保つ…それは真実だと思う。メタルの感情は、体にも心にも魂にも精神にも、とても大きな報酬を与えてくれる。そして、エネルギーに満ち溢れ、熱意に溢れ、闘志を燃やし続け、メタル信仰を維持し続ける。
私は幸運な男だ。50年以上もメタルを歌い続けてきたし、その声はいまだに、自分がやりたいと思う仕事をこなせるだけの能力を保っている。それでも、このアルバムでは、ファンに最高のヴォーカル・パフォーマンスを提供するために、本当に懸命に働いたんだ」

メタルには、宗教や人種、性別に文化の壁を越える生命力や感染力が秘められています。
「私たちは、メタルと共に世界中を旅する機会に恵まれている。とても感謝しているんだ。おそらく、最も最初のユニークな経験のひとつは、かなり昔に遡るが、初めて日本に行ったときだ。日本の文化について少しは知っていたけれど、実際に行ってみて、日本は伝統や文化がまだ非常に強力でありながら、この種の音楽が受け入れられていることのバランスを見ることは、とても特別で驚きだったんだ。JUDAS PRIEST は、日本に行った最初のバンドのひとつで、最初メタル・バンドだった。時は他のバンドはほとんど来日していなかった。私たちは日本のメタルの扉を開いたんだ。
子供の頃は夢物語でしかなかったような場所に実際に行ってみると、世界がいかに小さいかがわかる。そして、私たちはみんなつながっているんだということを教えてくれる。同じ言葉を話さないかもしれないけれど、私たちは皆、人生の中で似たようなことをたくさん経験し、それが私たち人類を結びつけている。浮き沈みがあり、笑いがあり、涙があり、葛藤があり、成功がある。世界のどこへ行っても同じだよ。
このことは、私が何年も前に刻んだ、偉大で美しい祝福のひとつ。この祝福によって、私は人生に対する理解を深め、人間に対する理解を深め、私たちは皆同じなのだということを理解することができた。宗教が何であるか、性的アイデンティティが何であるか、政治的信条が何であるか、それは問題ではないんだよ。私たちは皆、人間であり、この地球上にいる短い時間の中で、皆同じような人生を歩んでいる。だから、私たちはできる限りのことをしなければならないんだ。
だから、世界中を旅して、美しいメタル・マニアたちにたくさん会えることは喜びであることを表現できればと思うよ」
ロックの殿堂入りスピーチでは、メタルの寛容さと多様性、包容力を声高に主張しました。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」

メタル世界では、アーティストもファンを包容し、ファンもアーティストを包容します。
「ライブでファンとつながるのはいつだって大事なことだ。というのも、JUDAS PRIESTは最も古いメタル・バンドの一つだからね。だから、好きなバンド、JUDAS PRIEST を観に来るのは、ひとつのイベントなんだ。何度も言っていることだけど、私たちはファンなしでは何もできないんだ。どんなバンドでも、ファンなしには何もないという事実を忘れてはならない。PRIESTは50年以上もの間、そのつながりを作り続けてきたんだ。
そして完全な包容力というのは、私たちメタル・コミュニティの中でも大好きなところだ。どんなバンドにハマろうが、どんな外見だろうが、誰を愛していようが、何だろうが、どれだけお金を持っていようが、そんなことは関係ない。ここでは皆がメタルを愛しているのだから。その重要性は、音楽よりもずっと先まで及んでいる。もし君がメタル・ヘッズなら、メタル・ファンなら、より良い精神状態になるためのすべての特性を持っている。人生のあらゆる場面において、アーティキュレーションがより強く働くようになる。メタルは、私たちが人間であるための、とてもとてもパワフルな要素なんだ。
私がメタル・マニアを愛していると言うとき、それは本当に心から純粋に言っているんだ。なぜなら…… “ファミリー” という言葉を使うのは大げさだけど、それこそが私たちが作り出しているもので、ヘヴィ・メタル・コミュニティというファミリーを作り出しているんだ。バンドに関係なく、ファンひとりひとりと特別な関係があるんだよ。
何千人もの群衆を眺めるとき、私は君たち一人一人を見ている。なぜなら、君たちがこのバンドの音楽を自分の人生に取り込んでいることを知っているからだ。多くの PRIEST ファンにとって、自分の人生の物語は音楽と共にある。
うまく言えないけど、私が何を言いたいかわかる?このバンドと長く一緒にいて、私たちが “Breaking The Law” を演奏したら、突然80年代に戻り、”Painkiller” を演奏したら、突然90年代に戻る。こんなタイムマシンのような感動が共にあるんだ。そしてまた、そのことを私は忘れてはいない。だから、ファンを大切にし、ファンを見守るという責任は、どんなバンドに所属していても、本当に重要なことなんだよ」

徹頭徹尾ヘヴィ・メタルな JUDAS PRIEST 19枚目のアルバム “Invincible Shield” に関しては、熱意に加えて、大きなプライドも加わることになりました。
「自分を高みに置きたくないんだけど、アルバム・タイトルはいつも私が考えているんだ。ヘヴィ・メタルの世界では、バンド、ファン、メタル・コミュニティ、すべてが “Invincible Shield” “無敵の盾” なんだ。それは信念を守る “Defenders of the Faith” ことだ。私たちは、何年も経った今でも、そしてこれからも、信念を守っていく」
これは Rob 心からの本心。しかし、”Invincible Shield” は、どんな逆境にも決して引き下がらない、決して負けないという JUDAS PRIEST の価値観、メタルの回復力を如実に反映した作品でもあるのです。
2018年の “Firepower” でバンドはギタリストの Glenn Tipton がパーキンソン病を患っていることを発表しました。そして彼らはアルバムでの Glenn の仕事を称え、彼はフルタイムのツアーには参加しないが、ステージには随時参加すると付け加えました。
今でも Glenn がスタジオにおける殺戮機械の中心的存在であり続けていることは明らかな光。しかし、それだけではありません。現在に至るまで、Rob は前立腺がんの手術と治療を受けていて、一方、ギタリストの Richie Faulkner は、2021年にケンタッキー州で開催された Louder Than Life フェスティバルで演奏中に大動脈瘤で九死に一生を得ます。医師は、彼が生きているのはただただ幸運だと告げました。「彼の心臓は爆発し、メタル・ハートになった」と Rob は言います。

逆境に真っ向からぶつかり、今を全力で生きることを常にモットーとしてきた JUDAS PRIEST。”Invincible Shield” にはその哲学すべてが注がれています。古典的なメタルの繰り返しとは程遠く、すべてをバフアップし、アップデートし、全体を新素材で強化しています。
「死を免れたとき、人生観が変わるんだ。何が起こったのか、Richie とじっくり話したことはない。でも、私自身の個人的な経験から言うと、癌から命を救ってくれた素晴らしい人たちのおかげで、普通なら直面する必要のないような考え方が、自分の中で再調整されるんだ。このアルバムを書いているとき、その生存本能は、おそらくこれまでやったどのアルバムよりも強く働いている。
バンドをやっていると、自分の感情についてあまり語らないものだ。たぶん、それは男らしさとか、そういうものなんだろう。でも、演奏では確かに全員からその感情を感じることができる。みんな全力なんだ。みんないつも全力なんだけど、今回はただ感情的な言及があるんだ」
不屈の魂が間違いなく、”Invincible Shield” に異様なまでの重厚さとパワーを与えています。加えて、やはりメタルに対する愛と喜びがここにはあります。
「いつもまだやれるのか?と自問自答するよ。だけどね、レーベルが契約上、もう1枚アルバムを出せと言うからレコードを作っているんじゃない。もっとメタルを作りたいという、本物の愛と欲望のためなんだ」

Richie と Glenn の関係にも、Rob は目を細めています。
「彼らの関係は本当に美しい。ヨーダとルークを見ているようだった。これは、私が感じたことを表現しようとする滑稽な方法だけど、本当なんだ。プロデューサーの Tom Allom は大佐だから、Richie は Glenn のことをメタル将軍と呼び始めたんだ。これは、50年前の最初の瞬間から、”Invincible Shield” に至るまで、Glenn がヘヴィ・メタルに残した足跡への美しいオマージュだと思うんだ。
私は Richie が Glenn に育てられたのを見られたし、遂には Glenn が “どうやるんだ?そんなことをするギタリストは見たことがない” とまで言うようになった。だから、音楽的な意味でも、個人的な意味でも、2人の関係が発展していくのを見るのは、とても深く、とても感動的だった。パーキンソン病が Glenn の明瞭な表現を残酷なまでに奪ってしまった。だけど素晴らしいのは、彼がまだこのアルバムに参加していることだ。作曲という意味では、彼は初日から参加している。私たち3人ですべての曲を書いた。シンガーとギター2人の編成は、私たちにとってとてもうまく機能しているように思うし、今でもそうだ。そこから始まって、レコードを作るためのあらゆる障害を乗り越えていくんだけど、Glenn はそのすべての過程に立ち会ってくれるんだ」
2024年に、JUDAS PRIEST が存在する意味とは?
「今を生きている、”Relevant” であることだ。Relevant でなければ意味がない。昔はノスタルジーとか、ヘリテージ (遺産)・バンドとか、クラシック・メタルとか言われるのが大嫌いだったんだ。今はそれを受け入れている。なぜなら、それが自分たちの一部だからだ。たしかにそうした言葉はこのバンドに付けられるべきだ。でも、その言葉のリストの一番上にあるのは、”今を生きる” だと思う。このアルバムは2024年のメタルだ。人々は、このバンドがすべてであり、常に本当の目的と妥当性を求めてまだここにいる。それを管理することで、この言葉が現れる。それこそが今を生きることなんだ」

挑戦的といえば、Rob は “Nostradamus” での挑戦が正当に評価される日を待ち望んでいます。
「”Nostradamus” は眠れる巨人だと感じている。本当にそう思う。私の頭の中では、この作品はクラシック・オペラとして創作された。交響楽器の演奏があってもいい。私の中では、シルク・ドゥ・ソレイユがノストラダムスの物語を語るサウンドトラックとして作られるのが見えている。こうしたチャンスはすべて、探求されるのを待っている。おそらく、私が死んだあとに実現するだろうね。素晴らしい。プリーストのレパートリーの中でも、非常に過小評価され、過小露出されている作品であり、真剣にもう一度見直す必要があると感じている。このアルバムは、私個人にとって、とても重要な意味を持つものだから。あのアルバムのボーカル・パフォーマンス、全員の演奏、アレンジ、制作したすべてのことが、とても楽しかった。傑作だよ。本当にそうだ。私は音楽について詳しいから、この言葉は滅多に使わないんだ。でも、メタル界における位置づけとしては、本当に重要な作品だ」
現在、アリゾナに本籍を置き、メタル界で最も知名度が高く象徴的な人物の一人である Rob Halford は、ある意味では英国ミッドランズ出身の一人の男にすぎない。英国訛りが残っていて、非常に英国的なユーモアのセンスだけでなく、彼は自分のやっていることを真剣に受け止め、他の誰かにやってもらうことを期待しない自他ともに認める職人なのですから。
「私が誰で、どこから来たのかという事実は、私の人生にとって絶対に欠かせないものだ。ウェスト・ミッドランズ、ブラック・カントリー、メタルの故郷。それは素晴らしい場所だ。ここにいて、キッチンに座っているだけで、こんな場所は他にない。LED ZEPPELIN, BLACK SABBATH, MOODY BLUES, DURAN DURAN など、ここから生まれた音楽は美しい。アメリカにいる時間は長いけど、家に帰るのが待ちきれないこともある。飛行機を降りると、ヒースロー空港まで迎えの車が来て、それに乗って荷物を置いて、チップス屋まで歩いて行って、ピクルス・エッグを買うんだ」
平凡もまた彼の、メタルの一部なのです。それでも平凡は決して長くは続きません。ヘヴィ・メタルの引力、興奮と冒険、生きている実感、そして時間を無駄にしたくないという感覚は、あまりにも強く強烈です。
「今日は “HOMES UNDER THE HAMMER” を観ようって思う日もあるんだ。年寄りがやるようなクソ映画をね。でも20分後には、早くスーツケースに荷物を詰めて旅に出たいと思うんだ。
スーツケースを取り出してドアに鍵をかけ、12ヵ月間戻ってこないということが、どれだけ恵まれているか、どれだけありがたいことか。それが自分の仕事に対する愛と情熱でないとしたら、何がそうなのか私にはわからない。私たちはまだバンに乗っている。ヘヴィ・メタル、それが私たちのやるべきことなんだ」


参考文献: KERRANG!:“When you’ve cheated death, it changes your outlook on life”: Rob Halford takes us inside Judas Priest’s powerful, emotionally real new album

STEREOGUM:We’ve Got A File On You: Judas Priest’s Rob Halford

GQ:Rob Halford: ‘I loved drinking and drugging… even though the end game was self-destruction’

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