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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ENTERRE VIVANT : 四元素】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ENTERRE VIVANT !!

“Our Music Has Dark Parts And Light Parts. “Two Become One” Is The Concept Of The Band. Music Made Together By One Person Living In France And One Person Living In Japan. A World That Mixes European And Japanese Culture. An Atmosphere That Mixes The Past And The Present…”

DISC REVIEW “四元素”

「今までうまくブラックメタルと日本をミックスしたバンドは少ない。少なすぎる。その中でも自分にとってレジェンドである 凶音 (MAGANE) のファースト・アルバムは最高です。復活してほしいな~。だから Enterre Vivant はずっと聴きたい音楽を作っていることになります。自分の毎日を見せている音楽。日本とブラックメタルです」
25年前、日本にやってきたフランスの若者は、日本を愛し、日本で暮らし、日本を見つめ、”本当の自分” を日本とブラックメタルの婚姻により描き出すことを決めました。それは Sakrifiss にとって、日常であり、自然に自らの内面から湧き出すもの。人生を着飾る必要はない。優れた人になる必要はないけれど、”本当の自分” でいて欲しい。Sakrifiss の人生という泉、もしくは黄泉メタルが生み出した願いは、結果として日本とブラックメタルを誰よりも自然に融合することとなりました。
「四元素。しかしこの作品は、風、火、水、土の話しだけではありません。人間、人生についてでもあります。たとえば、”水” という曲は過去と未来の話も含まれている。人間にも上流と下流があります。泉から生まれてそして水のように人生が流れていく。人生は滝のように、川のように、激しくなったり、弱くなったりします。でも最後は河口で旅が終わります。泉へ戻りたくても無理だ。流れていくしかない。あきらめた方がいいという意味じゃない。人間は自分は何ができる、何ができないかを知って生きるべきだという意味でしょう」
風、火、水、土。この世の全ては、 その4つ (ないしは5つ) の元素から成り立っているという考え方は、ヨーロッパにもアジアにも古くからありました。そして元素同士を結びつけるのが愛で、引き離すのが憎しみという考え方もそこには付随しています。フランスに住むフランス人と日本に住むフランス人が結びついた Enterré Vivant のアルバム “Shigenso” は、共通する自然哲学を媒介とした愛によって、欧州と日本を優しく結びつけました。
そうして、彼らのブラックメタルで歌われる4つの元素は、人生の様々な場面を構成していきます。流れに逆らわず、風の導きのまま、炎を宿して、土のように満ち足りた、弱さを認めた本来の自分であればきっとより良い明日になる。ケ・セラ・セラというフランス語、もしくは人間万事塞翁が馬というアジアの古事…そんな未来へ向けたポジティブで率直なメッセージがアルバムには込められています。
「”Enterré” は “うめる”、”Vivant” は “生きたまま”。つまり反対のイメージを持っている二つの単語です。”暗い” 言葉と “明るい” 言葉のミックスにしたかったからです。Enterré Vivant の世界にぴったりのチョイスだと思いました。私たちの音楽には暗いパーツがあって明るいパーツもあります。”二つが一つになる” がバンドのコンセプトなのです。フランスに住んでいる一人と日本に住んでいる一人が一緒に作った音楽。ヨーロッパと日本の文化をミックスした世界。昔と今を混ぜた雰囲気」
フランス語のモノローグと日本語のナレーション。日本の伝統楽器と西欧の現代楽器。日本古来のメロディと西欧のモダン・メタル。そして、日本の生き方と西欧の生き方。精神も、場所も、時間も超越して一つになった音世界がここにはあります。
反対のイメージを持ったものでさえ、固定観念にとらわれなければ、正直であればきっと一つになれる。鳴り響く美しきトレモロのメロディ、ブラックメタル特有の灼熱の叫び、プログレッシブな建築術、そして和の色彩を宿したあまりにも感動的なアトモスフェリック・ブラックメタルは、音の四元素の輪を輪廻のように展開しながら、メタルの寛容さを具現化していくのです。
今回弊誌では、Enterre Vivant にインタビューを行うことができました。Sakrifiss さんの回答はほぼ原文ママの日本語です。「18歳になって私は日本語と日本の文化の勉強を始めた。大学で日本の歴史のことももっと知るようになりました。凄く魅力的だったのは土偶、源氏物語、浄瑠璃、世阿弥、松尾芭蕉・・・昔の日本もとても面白いですが、もうちょっと最近なら1950年代と1960年代の映画も大好きです。三船敏郎様出演の映画も素晴らしいですが、一番好きなムービーは “ビルマの竪琴”。昔の日本が大好きだが、もっと最近ならやっぱり1990年代からのジャパニーズブラックメタルのファンでもあります」 どうぞ!!

ENTERRE VIVANT “四元素” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PENSEES NOCTURNES : DOUCE FANGE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LEON HARCORE A.K.A. VAEROHN OF PENSEES NOCTURNES !!

“Pensees Nocturnes Is Drinking a Glass Of Champagne On The Edge Of The Abyss, Where Everything Is Falling.”

DISC REVIEW “DOUCE FANGE”

「僕は音楽を優先し、バンドをケースバイケースで判断し、なるべくカタログ化しないようにしているからね。インターネットの発達により、国籍という概念は音楽においてもはや意味を持たなくなったと思う。だから、たとえフランスに強力なブラックメタル・シーンがあるように見えても、フランス人であることに特に誇りを持つことはないんだ」
メタルヘッズがブラックメタルを想像するとき、ノルウェーのフィヨルドや教会を思い浮かべるのか一般的でしょう。しかし、”実験好き” な人たちはその限りではありません。PLEBEIAN GRANDSTAND, DEATHSPELL OMEGA, BLUT AUS NORD, CREATURE, そして IGORRR。バゲットとエスカルゴとエッフェル塔の国は、確実に今、そのトリコロールに血と知の漆黒を加えつつあります。
それでも、PENSEES NOCTURNES の首謀者 Leon Harcore A.K.A Vaerohn は、音楽に国籍はないと嘯きます。レッテルを剥がす、固定観念を疑う、欺瞞の美を笑う。それこそが彼らの目的なのですから。ある意味、そのニヒリズムとシニシズムこそ、フランスらしいと言えなくもないでしょうが。とにかく、この夜想と不安の申し子は、圧倒的なブラックメタルの核を、オーケストレーション、ジャズ、フォーク、エキセントリックな装飾、そして皮肉にもセーヌの滸やルネサンス、それにアール・ヌーヴォーでコーティングした裏切りの饗宴を催しています。
「なぜ好きな楽器を使えるのに、3つや4つに楽器を限定してしまうんだい?PENSEES NOCTURNES はライブと違ってスタジオでは常にワンマンバンドとして活動しているから、好きなものを何でも試すことができるのさ」
常識を疑い、当たり前をせせら笑う PENSEES NOCTURNES にとって、”ノン・メタル” な楽器の使用はある意味至極当然。ヴァイオリン、フルート、クラリネット、アコーディオン、トランペット、トロンボーン、サックス、ディジュリドゥ、ティンパニー、コントラバス、ハーモニカなど雑多なオーケストラと通常のメタル・サウンドが混在するインストゥルメントの狂気は、あのシルク・ド・ソレイユさえも凌駕します。ただし、Leon のサーカスは安全と死の狭間を良く知っていて、様々な要素をバランスよく取り入れながら、地獄の綱渡りを渡り切って見せるのです。
「PENSEES NOCTURNES は明らかに唯物論的な音楽であり、今ここで聴くべき音楽だ。憂鬱でもなく、無邪気な喜びでもなく、美しくもなく、酷くもなく、現実的で悲劇的な人生のビジョンだから。むしろ、僕たちの存在に対するニヒリズムと笑いのシニシズム (慣習の否定。冷笑主義)なんだよ」
フランスを笑う狂気のブラックメタル・サーカス “Douce Fange” は人間大砲の音で開演し、”Veins Tâter d’mon Carrousel” ですぐさま狂騒曲の舞台を設定します。芝居がかった叫び声は同じフランスの IGORRR を想起させ、刻々と変化する音の曲芸は無限にアクロバティック。ブラスセクションで始まる “Quel Sale Bourreau” は、DIABLO SWING ORCHESTRA にも似て、曲芸師のように様々な演目を披露。IMPERIAL TRIUMPHANT 的なブラックメタルのカオスとオペラが戦う様は、まさにニューヨークとフランスの決闘。そうして次々に、無慈悲なピエロたちはジャンルの境界線を歪めながらメタル化したワルツを踊り、笑い笑われながら即物的な享楽を与え、漆黒のアトラクションを血と知に染めあげていきます。
「キリスト教が現世の死である以上、ブラックメタルは生でなければならない。つまり、ブラックメタルは物質主義的な快楽であるべきで、それ以上の何かを望むことなく、今あるわずかな人生を楽しむことだ。 神秘的、超越的な側面も、サタンも、神も、どんな信念もない。 ただ、現実が、可能性と限界を伴ってあるがままにある。 その観点からすると、PENSEES NOCTURNES は他のどのバンドよりもブラックメタルなんだ」
Leon にとって、ブラックメタルの反語はキリスト教。天国に行くという目的のために、現世における享楽を放棄して、真面目に粛々と生を全うするその教義は彼にとって全くのナンセンス。美しいとされる “人生を楽しまない” 生き方に Leon は疑いの目を向け、快楽と狂気と反骨の三色に染まったトリコロールの旗を振ります。ブラックメタルこそが生。重要なのは、一見、ふしだらで退廃的で危険で強欲にも思えるこのサーカスには、実のところ何の強制力もありません。
今回弊誌では、Leon Harcore A.K.A. Vaerohn にインタビューを行うことができました。「PENSEES NOCTURNES は、すべてが落ちていく深淵の縁でシャンパンを飲んでいる」名言ですね!タイトルはもちろん、シャルル・トレネの “優しいフランス” のオマージュで  “汚れたフランス”。どうぞ!!

PENSEES NOCTURNES “DOUCE FANGE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARPENTER BRUT : LEATHER TERROR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FRANCK HUESO OF CARPENTER BRUT !!

“Metal Music Was Boring Me, I Thought The Genre Was Going In Circles. Then One Day I Watched a Justice Live Show And It Was The Trigger. Why Not Push Electro To The Point That It Sounds As Powerful As Metal Music? So Carpenter Brut Was Born.”

DISC REVIEW “LEATHER TERROR”

「Bret Halford は、POISON の Bret Michaels と JUDAS PRIEST の Rob Halford を混ぜた名前で、主人公が好きなグラム・ロックとヘヴィ・メタルという二つの音楽ジャンルにオマージュを捧げる私なりのやり方だった」
“若き科学者 Bret Halford は、恋愛が苦手な男。学校のチアリーダーである運命の女性は、すでにいじめっ子のひとりと付き合っている。ロックスターに扮した Bret は、Leather Teeth と名乗り彼女を口説こうとするが、大事故に巻き込まれ大やけどを負ってしまう。同じ頃、ミッドウィッチでは謎の殺人鬼 “ブギーマン” が街をうろついていた。この街では殺人、カニバリズム、暴力が進行中だ”
これは2018年の “Leather Teeth” で、フランスが誇るシンセウェーヴの天才 CARPENTER BRUT が書き起こした、ヘヴィ・メタルとホラーのレトロフューチャーな怪綺譚、3部作のサウンドトラック、その第1幕。CARPENTER BRUT の頭脳である Franck Hueso は、ギターをほとんど持たず、ボーカル曲も数曲のみであるにもかかわらず、”ターミネーター”、”エルム街の悪夢”、”バトルランナー” の完璧にデザインされた電子音楽を、華やかなヘアメタル、ディスコ風味、鋲付き革ジャンの光沢で鮮やかに彩ってみせました。Carpenter の名は伊達ではありません。
「僕はミュージシャンではないから、楽器を演奏するのは難しかった。でも一方で、僕は機械やプラグなどを扱う方法を知っていて、それを扱うのが好きなんだよね。自分が何をしているのか、どんな結果が得られるのか、よくわからないまま何時間もシンセサイザーをいじっていると本当に面白いし、”ハッピー・アクシデント” が発生して、思いがけない結果が得られることもあるんだよ」
第二幕 “Leather Terror” は、Bret が第一幕で受けた屈辱を晴らすため、復讐の鬼となるストーリー。興味深いことに、”Leather Teeth” の4年後にリリースされた “Leather Terror” は、その舞台設定も1987年から1991年、つまり4年後へと移行しています。”Serpence Albus” から “Black Album” へ。奇しくもそのストーリー・ラインと呼応するかのように、CARPENTER BRUT の音楽もまた、ナイフと血とレザーが織りなすダークでアグレッシブな領域へとより深く歩みを進めています。Franck のノスタルジアとは冷たく、硬く、しかしどこか居心地のよい恐怖。
「僕はポップスのフォーマットで、シンプルでキャッチーな曲も好きだし、A点からZ点まで、いろいろなムードを持った伸びていくような楽曲も両方好きなんだ。だから、ロックやポップスの音楽的な構成でありながら、すべてシンセサイザーで行う。人々が慣れ親しんでいる構造を保ちつつ、あまり馴染みのない音を使うという二律背反を多用しているのさ。そうやって様々な音楽をミックスしているよ」
シンセウェーヴ、インダストリアル、ダークウェーヴ、EDM、そしてメタルの境界線を曖昧にした “Leather Terror” は、80年代のホラー映画のような構成の魔法で、過去と現在、そして未来までも曖昧にします。不気味で威嚇的なリズム、反復の美学、重厚なサウンドスケープとアンセミックなメロディー、静謐で暗がりのムードにいたるまで、Franck はその武器化された電子機器でメタルとシンセウェーヴの華麗な “戦争” を “麻薬的” に描いているのです。
「メタルは退屈で、このジャンル自体が堂々巡りだと思っていたんだよ。そんなある日、JUSTICE のライブを観た。あれが引き金となったね。エレクトロもメタルと同じくらいまでパワフルなサウンドにできないか?…エレクトロを最もダンス的な方法で押し出し、メタルのパワーとクロスオーバーさせたいという欲求が生まれたんだ。それで CARPENTER BRUT が誕生したんだよね」
ギターを1本もフィーチャーしていないのに、私たちの望む荒々しいリフやメタリックな音像が生み出される奇跡。実はその根底には、メタルとディスコに共通する “パワー” や “エナジー” の底流がありました。陰と陽の音楽的な掛け算は殺人鬼のダンスホールを産み落とし、クリエイティブな自由を与えられた “ゲスト・ダンサー” ならぬゲスト・シンガーたちは、その場所で思いのままにトラックをハックし、恐怖に独自の色を加えていきます。
GUNSHIP の Alex Westaway、THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Greg Puciato、CONVERGE の Ben Koller、TRIBULATION の Johannes Andersson、SYLVAINE の Kathrine Shepard、ULVER など、多数のゲストが踊る死の舞台は、あの時代の空気感を呼び覚ますだけでなく、多様なボーカル体験をも再現しています。つまり CARPENTER BRUT はメタルではない “電子音楽” であるけれど、メタルと同じくらい暗く、豊かで、感情的で、エクレクティックな音楽。ミュージシャンじゃなくてもミュージシャンにはなれる。CARPENTER BRUT のすべては楽しい二律背反が原動力なのです。
今回弊誌では、Franck Hueso にインタビューを行うことができました。「”北斗の拳” や “マッド・マックス” などのように、僕が特に大好きなポスト・アポカリプス的な精神に基づく “AKIRA” の世界観は、もちろん大好きさ。”ポスト・アポカリプティック” (終末論的) は、次のアルバムのテーマにもなっているからね」 GHOST の Tobias によると、Franck はあの DEATHSPELL OMEGA にも関わりがあるとかないとか…それにしても、PERTURBATOR といい、DAN TERMINUS といいフランスのダークウェーヴ恐るべし。どうぞ!!

CARPENTER BRUT “LEATHER TERROR” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOONSHINE OVERSIGHT : THE FRAME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOONSHINE OVERSIGHT !!

“Drummers Are The New “Guitar Heroes”! The World Deserves More Bands Like Mastodon. With Strong Drums, The Songs Lead To a More Groovy Sound.”

DISC REVIEW “THE FRAME”

「たしかに80年代や90年代、フランスのバンドの扱いは良いものじゃなかった。John Lennon がこんな皮肉を言ってたのを思い出すよ。”フランスのロックはイギリスのワインみたいなもの” ってね。だけど、それから時間が経って、新たなフランス音楽革命が勃発している。世界からもリスペクトされながらね。おそらく、イギリスのワインもちょっとはマシになったんだろう (笑)」
背に音雷を纏ったメタルの怪獣 GOJIRA が強烈な導火線だったのでしょう。フランスのメタル世界に今、プログレッシブ革命が勃発しています。IGORRR, 6:33, ALTESIA, HACRIDE, HYPNO5E, SYMBIOSIS…エレクトロニカからdjentまで華麗に乱れ咲いた複雑怪奇の自由意志は、英米主導のロック封建制を破壊して音に国境がなくなったことを晴れやかに訴えているのです。重要なのは、彼らの一つとして典型的なプログ・メタルの方法論を踏襲していないこと。DREAM THEATER を祖父とすれば、HAKEN や LEPROUS といったその息子の世代から影響を受けた “DREAM THEATER の孫” が鮮烈な才能を現し初めているのです。
「僕たちの目指すところは、ハード・ロックやメタルのエナジーをプログの多様性や自由さに混ぜ合わせることだから」
LEPROUS, HAKEN, CALIGULA’S HORSE, TesseracT といった “息子” の世代に共通するのが、胸の奥を素手で直接握られるような、感情の堰が決壊するような、研ぎ澄まされた叙情の旋律。そして彼らの発する魅惑のメロディーには、”ポスト”・ロックや OPETH, POPCUPINE TREE に端を発する空間的なアトモスフィアが付随していました。逆に言えば、”メカニカル” や “テクニカル” から距離を置きながら、いかにプログレッシブを表現するのか。そんな命題が “息子” の世代には課せられていたのかもしれませんね。先日インタビューを行った “孫” 世代、ALTESIA がそんな新叙情世界を無数の “ジャンルの劇中劇” でさらに深化させていたのは記憶に新しいはず。では、今回の主役、同じく “孫” 世代の MOONSHINE OVERSIGHT はいかにしてプログレッシブを推し進めているのでしょうか。キーワードは有機的で衝動的なロックのエナジー。
「ドラムの領域は、新たな “ギター・ヒーロー” の分野だよ!世界は MASTODON のようなバンドをもっと必要としている。強力なドラムで、楽曲をグルーヴィーに引っ張るようなバンドがね」
例えば、MASTODON をプログレッシブ・メタルと称する人は多くはないでしょう。TOOL にしても、プログレというよりはオルタナと呼ばれる方が確実に多いはず。とはいえ、彼らの千変万化や複雑怪奇を初めて耳にした際、私たちは心のどこかで “プログレッシブ” という言葉を思い浮かべているはずなのです。ただ、クラシックな “プログレ” と距離が離れすぎているためプログレッシブも呼べないだけで。つまり、真のプログレッシブがプログレではないという本末転倒がずっと幅を利かせてきた不思議な現象。狂気の監視者たる MOONSHINE OVERSIGHT はまさにそこに目をつけました。
オープナー “Eyes of Sorrow” を聴けば、MOONSHINE OVERSIGHT の叙情が “息子” 世代のそれと比べても何ら引けを取らない感情の大渦であることが伝わるはずです。ただし、彼らはその場所に手数とオカズを存分にしたためたドラムの激動、有機的な数学教室を封じることを決意します。まさに嵐のようなダイナミズム。つまり彼らは、プログの伝統を受け継ぐ LEPROUS や HAKEN のアトモスフィアと、プログの異端者である MASTODON や TOOL, そして同郷の偉大な先達 GOJIRA の荒れ狂う数の暴力を、大胆に引き合わせることに成功したのです。つまり、ロックのエナジー、メタルのアグレッション、さらにはフォークの繊細さまでを咀嚼して、パワフルで内省的という二律背反のプログレッシブ・ワールドを実現したと言えば伝わりやすいでしょうか。OPETH と ALICE IN CHAINS が奇跡の共演を果たしたような “Remembrance” は、陰陽道を駆け抜ける彼らの “陰” を突き詰めた絶佳の名演ではないでしょうか。もちろん、”Ghosts” のギターソロを聴けばロックらしいギターヒーロの遺伝子も存分に感じるはず。
今回弊誌では、MOONSHINE OVERSIGHT にインタビューを行うことができました。「僕はドラゴンボールで育ったし、今は進撃の巨人にハマっている。ゲームだと、Final Fantasy シリーズが大好きで、特にⅦ が好きだったな。つまり僕は少年ジャンプの、正義、友情、勝利を信じているんだよ」 どうぞ!!

MOONSHINE OVERSIGHT “THE FRAME” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【6:33 : FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES – DOME】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLORENT CHARLET OF 6:33 !!

“We Were Stunned (As We Tried To Pay Tribute On The Album’s Artwork) By “Cyberpunk” Animes Such as Akira, Ghost in the shell ou Gunnm, And Some Of Their OST. Nicko Is a Huge Fan of Yoko Kanno.”

DISC REVIEW “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES”

「バンドが誕生したのが長いクレイジーな夜のパーティーの後、午前6時33分だったから 6:33 なんだ。バンドの名前を決めるのは往々にしてとても複雑で、何か意味があるのか、何かを参照しているのかといろいろ探したり、メンバー全員が別々の自分の考えを持っていたりする……だから僕たちは、単純に、効率的に、深い意味はなく、ただ楽しい名前を選んだんだ」
6:33 を “楽しいプログ・バンド” と位置づけている。そんな Florent の言葉通り、フランスのイカれた変態集団 6:33 は、複雑難解で何事にも意味や哲学を求める傾向のプログ世界を “楽しい” に変える破天荒の確信犯。
「音楽スタイルの多様性についてだけど、僕は、うまくいって、楽しくなるならば何でもすぐにそれを実行するんだよ。僕たちのこういった音楽スタイルの変化は、ユーモアのようなもので、悲しみから喜びへと瞬く間にジャンプするんだよね」
ファンク、スウィング・ジャズ、ヒップホップ、R&B、ポップス、サウンドトラック、ワルツ、サーカス、スカ、ゴスペル、チャーチオルガン、チューブラー・ベル、80年代のシンセ・ウェイブ、ブラス・バンド、オーケストラ….世界で最も多様なメタル・バンドとしてあの DIABLO SWING ORCHESTRA と双璧をなす 6:33 のパレットには、ありとあらゆる音の色彩が用意されています。
例えば、やたらとメニューの多い中華屋に入って肝心の味に閉口する。6:33 の料理にそんな杞憂は必要ありません。まさになんでもあって心から楽しめる一流の料理店。これをプログと呼んでいいのでしょうか?それともプログメタル・アルバム?いえ、”Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” はそのすべてであり、それ以上のものなのかもしれません。
「僕たちは、若いアーティストがスターになるために巨大な都市(ドーム)に引っ越してくるという、ある種のオルタナティブ・ワールドを作りあげたんだ。そこで彼は色とりどりの人々と出会い、自分の中の声(頭の中の奇妙な虫のようなものの声)に心を動かされるんだ。そして、彼は自分の目標に突き進んでいく」
“Feary Tales For Strange Lullabies – The Dome” は、全11曲、53分10秒の “オペラ・コミック”。日本の “サイバーパンク・アニメ” に影響を受けた近未来のダークな物語を、アートの粋を集めながら、直接的に楽しく語ります。率直で境界線のない変態集団は、ウルトラ・キャッチーなメロディー、それにエネルギーに満ちたシンガロングを作り出すコツを心得ていて、最高にプログレッシブでありながら、ヘッドバンキングしたり、足を踏みならしたり、指でどこかを叩いたりすることが宿命づけられた “踊れるプログミュージック” を完成へと導いたのです。
オープナー “Wacky Worms” は、アルバムの縮図となるような一曲。あえて言えばこのアルバムの中で最も “メタル” な楽曲ですが、6:33 らしくあらゆるものが含まれていながら、それぞれが自然にシームレスに接続されているため、一層豊かな音楽の乗り心地に身を委ねることができるのです。それはまさに彼らが6年をかけて目指したもの。さらに 男女ツインボーカル、ダブル・キーボードという新たな編成を得てはじめて、音楽に真の鼓動が脈打ち始めました。プログラミングされたドラムスも、ついに新メンバーが加わり、以後ライブでは ”生” で再現されていきます。
1枚のアルバムの中で、これほどまでに多様なスタイルが次から次へと飛び交い、しかもそれが自然な流れの中で巧みに織り込まれている作品がどれだけあるでしょう?QUEEN, THE BEATLES, GENESIS, FAITH NO MORE, ブロードウェイ、シンセウェイブ、ディスコ、トランス、そしてもちろんメタル、まさに Devin Townsend の音の壁がグランドピアノの音に宿り壮大に幕を閉じる “Prime Focus”。これでほんの一曲。常軌を逸しています。
“Party Inc.” では、子供たちの合唱団まで登場します。これ以上ないほどシアトリカルですが、同時に遊び心があり、生き生きとしていて、都会の地下に巣食う粗野で殺伐とした未来のリアルにリスナーは贖うことができません。そうして到達する “Hangover”。Flow が師匠と呼ぶ Mike Patton が乗り移ったかのような千変万化なパフォーマンスに我々は声を失います。降り注ぐ拍手とスタンディング・オベーション。しかしきっとこれで終わりではありません。名演にはアンコールがつきものです。
今回弊誌では、ボーカリスト Florent Charlet にインタビューを行うことができました。「思春期の僕たちは、Akira、攻殻機動隊、銃夢といった “サイバーパンク” アニメや、それらのOST(バンドのギタリスト兼コンポーザーである Nicko は、菅野よう子の大ファン)に衝撃を受けたんだよね。アルバムのアートワークも日本のサイバーパンクに敬意を表しているんだよ」どうぞ!!

6:33 “FEARY TALES FOR STRANGE LULLABIES” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALTESIA : EMBRYO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALTESIA !!

“Dream Theater Is Not Really an Influence For Me When I Compose, And Indeed, I Feel Closer To Bands Like Haken, Between The Buried And Me, Wilderun, Opeth, Caligula’s Horse.”

DISC REVIEW “EMBRYO”

「実際のところ、DREAM THEATER は僕が作曲するときに影響を受けているバンドではないね。HAKEN, BETWEEN THE BURIED AND ME, WILDERUN, OPETH, CALIGULA’S HORSE みたいなバンドに近いと思っているよ」
2019年、”Paragon Circus” でプログ・メタルの世界に登場した ALTESIA は、HAKEN の壮大、LEPROUS の荘厳、OPETH の邪悪を DREAM THEATER の技巧でつなぐ奇跡のニュー・カマーとして驚きと賞賛を集め、フランス・メタル・アワードで五位という衝撃のデビューを果たしました。重要なのは、彼らが DREAM THEATER の “息子” ではなく “孫” だという点でしょう。
「僕たちは、長いシュレッドのソロや、テクニックのためのテクニックなど、プログ・メタルの “決まり文句” を避けようとしているんだ」
予測不可能でジャンルを超えた音建築、印象的なインタルードの数々、テクニカルでエキサイティングな楽器の魔法、20分を超える巨大なプログの要塞、荘厳なコーラスを伴うメロディックな歌声、魅惑の変拍子。おそらく、プログ・メタルのリスナーが求めるものをほぼすべて備えながら、ALTESIA の音楽からこのジャンルの巨星 DREAM THEATER が創造した “クリシェ” を感じることはそう多くはありません。それよりも、DREAM THEATER を聴いて育った “息子” 世代のモダン建築を手本として、さらなるプログの更新を目指しているのです。
マイナー・キーの楽曲を基盤としながら、よりアップビートで煌びやか、明快な荘厳は LEPROUS や HAKEN, CALIGULA’S HORSE が開拓した新たなプログの道筋。シンセサイザーは夜空に瞬く星座のように降り注ぎ、バックのシンフォニーは天の川のようにシルキーで滑らか。Clément のヴォーカル・メロディーは、さながらクワイアのようなコーラスの濁流に身を委ねながら、リスナーの琴線に触れ激しく胸を締め付けます。
「このアルバムは、57分間に様々な感情が渦巻く、とても繊細な作品だと思っているよ。でも、それは僕たちが目指していることでもあるんだよね。観客を驚かせるために、そして自分自身に挑戦するために、非常に多様でダイナミックなレコードをリリースすることでね」
彼らの実験が興味深いのは、大きな楽曲の枠組みの中に小さな楽曲を複数用意しているところかもしれませんね。言ってみれば、劇中劇のようにビッグテーマの内側で、Djenty なブレイクダウン、ブラストビート、ヴァイオリンやアコーディオン、サックスのダンス、古典的なファンクやジャズ、欧州のフォーク・ミュージック、さらに1800年代のパーラー・ミュージックのような世界観までカラフルな小曲が時代を超えて渦巻きます。このアルバムにおける千変万化なダイナミクスはプログ世界においても前人未到の領域かもしれませんね。
「このアルバムは、基本的に僕たちがより良い人間になるにはどうしたらよいかをテーマにしているんだ。もし僕たちが正しい質問を自分自身に投げかけ、集団的な方法で良心を高めようとするならば、世界は大きく変わるだろうと僕は思っていてね。許すこと、直観に従うこと、自分に忠実であること、自分のための人生を生きることなどテーマは様々さ」
政治的腐敗、富の不平等、地球汚染などサーカスのような運命を背負ってしまった人類破滅の物語 “Paragon Circus” の重苦しさから一転、”Embryo” はその暗い宿命をいかにして変えていくか、そんな命題を宿しています。だからこそ、その音楽もよりブライトで希望を湛えた濃密へと移り変わっていきました。
バンド名 ALTESIA は架空の木の名前。雄大な大木も一粒の種から始まっています。社会のあり方を変えようとするならば、まずは一人一人が内省し、自分を見つめなおし、愛を抱き、ALTESIA の音楽のように心を澄ませること。それこそが世界を変える第一歩なのかもしれませんね。
それにしても終幕の叙事詩、21分の祝祭 “Exit Initia” は言葉に表せないほどの絶景です。プログ世界の大曲には、しばしば退屈だったり、ただ何かを詰め込んだだけだったり、不器用に混線していたりする悪手が見られますが、”Exit Initia” には21分という長尺の意味がしっかり存在しています。そして、楽曲全体で大きな感情を創出する手法は、実は彼らの “祖父” DREAM THEATER が “Octavarium” で見せつけたプライドとよく似ていました。やはり、血は争えませんね。
今回弊誌では、ボーカル/ギターの Clement Darrieu とキーボードの Henri Bordillonにインタビューを行うことができました。「ビデオ・ゲームの音楽は、80年代のジャパニーズ・フュージョンに大きく影響を受けていて、その中には僕が大好きな Casiopea のようなバンドがいたんだよね。あとこれは秘密の話なんだけど、”Exit Initia” の一部はアレンジの段階で “Attack on titans” “進撃の巨人” のオープニングに似すぎているという理由で変更しているんだよね」 どうぞ!!

ALTESIA “EMBRYO” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ESOCTRILIHUM :DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH】


COVER STORY : ESOCTRILIHUM “DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH”

“It’s a Kantele, a Finnish Instrument. This Stringed Instrument Is Really Incredible, Because There Is Clearly a Mystical Character In The Frequencies Emitted By This Instrument! Actually, I Discovered The Kantele In a Very Surprising Way.”

DEMONS, DESPAIR, AND MADNESS

ESOCTRILIHUM は、今日活動しているブラックメタル・プロジェクトの中でも最も特異で、クリエイティブで、多作なプロジェクトのひとつへと急速に成長を遂げました。6枚のフルアルバムと1枚のEP を4年の間にリリースし、このフランスのワンマン・ユニットは、冷酷でありながらエモーショナルで奇々怪界なメタルの百鬼夜行を続けています。
ESOCTRILIHUM は、Asthâghul の不気味で無限とも思える野心と創造性でメタル・アンダーグラウンド内部で一手に賞賛を集めています。例えば、DIMMU BORGIR や BAL-SAGOTH のような90年代のシンフォニック・ブラックメタルの華やかなゴージャスを、生々しいローファイの攻撃で表現するような、例えば、OPETH に端を発するプログレッシブな知性を多種多様なジャンルとアーティストで細切れにして煮込んだような。そんな唯一無二の音の審美は、奇妙に魅力的なアートワークたちに吸い込まれ、リスナーの後退を許さなくします。
根底にキャッチーさとフックを常に配する Asthâghul の魅力的なリフ・スタイルは、1970年代と1980年代のクラシック・メタルから明らかにヒントを得ています。そんな謎めいたイヤーキャンディーに恐ろしく巨大なドラムとベースのインタープレイが加わり、彼のプロジェクトは堂々たるオーラと強烈な印象を纏うのです。そんな混沌とダイナミズム、 サウンドテクスチャーの申し子 Asthâghul が、はじめて買ったレコードは奇しくも OPETH の “Blackwater Park” でした。
「とても特別なアルバムで、忘れられない思い出があるよ。ある種の苦悩があり、明らかに本物の何かを反映している。子供の頃に最もよく聞いたアルバムは他には、PARADISE LOST の “One Second”, Björkの “Debut”, CATAMENIA の “Halls Of Frozen North” だろうな。この3枚は最高の思い出だよ」
一人ですべてを手がける Asthâghul。音楽制作(ミキシング、プロダクション、パフォーマンス)について最も勉強になったアルバムは何だったのでしょう?
「長年の間に直観的に学んだ技術もある。例えば、私は常に自分の無意識から何かを回収することで、自分自身の宇宙を作り出そうとしてきたからね。ただ、もし、2枚のアルバムを選ぶとしたら、GOJIRA の “The Link” と、SHAPE OF DESPAIR の”Illusion’s Play” だろうな。この2枚のアルバムは、私にとって特別なものだよ。”Illusion’s Play” にはたくさんのメランコリーと悲しみが詰まっている。このアルバムをどれだけ愛しているかを語る言葉はないけれど、全体のアトモスフィアが多くの感情を呼び起こし、その感情は永遠に私の中に刻まれることだろうね。私たちを心の奥底に連れて行き、失われた感情を呼び覚ましてくれる音楽だ。”The Link” については、この明らかに非典型的な側面が私は好きなんだ。GOJIRA は、壮大なアバンギャルド・メタル作品の中に、多くの影響をミックスしている。 非常に実験的であり、テクニカルでもあるよね。メロディーは、時に拷問のようで、時に非常に柔軟だ。 彼らは常に、パワーを失わないギターテクニックを重要視しているからね」
最近最も衝撃を受けたのは T.O.M.B. の “Fury Nocturnus” です。
「非常にパワフルな暗黒の流れを生み出しているアルバムだね。音楽を聴くという単純な事実が、非常に暗い存在を引き寄せ、呼び起こすと言ってもいい。すべての曲は、非常に謎めいていて、しかし非常に明白な何かへの頌歌となっている。私はこういった二面性がとても好きなんだ。こういった音楽が私たちの精神に与える影響を過小評価してはいけないよ。この作品はダーク・ミュージックの傑作だね。この種の傑作は、別の次元への扉を開く。マスターの波動は、複雑でユニークな魔法の音システムを作ることができる」
レビューを気にすることはあるのでしょうか?
「好きなアーティストのレビューを気にしたことはない。アルバムをとても気に入ったときは、インターネット上のネガティブなレビューを気にすることはないし、他人が私の意見を壊すこともない。LEVIATHAN の “Massive Conspiracy Against All Life” のようなアルバムだよ。私にとって、このアルバムは真の宝石で、贈り物。とにかく素晴らしいねこれほどまでに聴き込んだアルバムは他にないよ。プロダクションはこのプロジェクトのメンタリティを反映していて、すべてが本物。憎しみ、痛み、絶望があり、それらがとてもうまく混ざり合っている。このアルバムは過小評価されているね。ある曲が文脈から外れていると言う人もいるけど、私にとっては全くの誤りだね。全ての曲がまとまっていて、非常に特殊な世界に対応しているよ」

メタルを奏でる必然性についてはどう考えているのでしょうか?
「ブラックメタルとの相性については、説明するのが少し難しいんだけど、私が悪魔や密教に惹かれていたことがすべての始まりだったね。私は常に邪悪なものを好んでいたから、ブラックメタルとの出会いで、私の音楽的指向が明らかになったんだ。だけど、今日の私には異なるビジョンがあって、私の人生もこのプロジェクトを始めた頃とは異なっている。ただし、私の嗜好は常に不明瞭なものに向けられているがね。私がこの種の音楽に惹かれたのは、ごく自然なことだよ。というのも、暗闇というのは常に私が経験したい側面だったから。実際、ESOCTRILIHUM の前には、バンドで演奏したことはなかったんだけど、ファーストアルバム “Mystic Echo From A Funeral Dimension”を発表する前には、すでに多くの音楽を作っていたんだ」
様々な楽器をこなす才能は、今や現代的で DIY なブラックメタル・プロジェクトには欠かせない要素にも思えます。それでも、Asthâghul が織り込むする楽器の量は異常です。
「ESOCTRILIHUM のすべての楽器は私が担当している。最初に手にした楽器はギターだったよ。最初はギターで練習していたんだが、すぐにこの楽器との相性の良さに気づいたよ。最初の頃は、自分のアイデアすべてをタブ譜に書き込んでいたんだ。それは、いつか他の楽器をマスターして、組み合わせることができると確信していたからなんだけどね。私はいつも一人で学んでいる。誰も隣にいない方が効率的だからね。
実際、ギターを習ってすぐに、個人の音楽室でドラムを演奏する機会があり、何時間もかけてこの楽器をマスターするためのトレーニングをしたんだ。一つ一つのテクニックを学ぶことは快感で、まだ私には動揺の魔物は現れていなかったからね。ただ、当時の私は録音ソフトを持っていなかった。でも、私は心の底から “いつかプロジェクトを作る” と思っていたんだ。ヴァイオリンとカンテレに興味を持ったのは、数年後のことだよ。この2つの楽器は、音楽の別の次元を探求するために非常に特殊な周波数を探求することができる素晴らしい楽器だ。ギターを弾けるようになると、バイオリンも簡単に弾けるようになるよ。ピアノ、トランペット、オーボエ、オーケストレーションなどの残りの楽器は、MIDIキーボードで作業している。いずれにしても、それぞれの楽器の演奏方法を習得するには時間がかかったけど、新しいサウンドを追加することができて良かったよ」
世界には膨大な数のバンドが存在しています。ストリーミングの普及により山ほどの作品を聴いていると自負していても、それでも世の中にあるメタルの10%さえ私たちは耳にしていません。つまり、アーティストは熾烈な競争を勝ち抜かなければまず一聴を促すことさえままならないのです。その中で、傑出した自分のスタイルを確立することが聴いてもらうことへの近道かもしれません。今では、リスナーが夢中になり、次のリリースにも足を運んでくれる作品を提示するためには、巨大な存在感とユニークな音は必須。

ESOCTRILIHUM にとつて、”Inhüma” から “Eternity of Shaog” への道のりはまさにその巨大な存在感を身につける糸口になったはずです。よりメロディックで、ムーディーで、アトモスフェリックで、エモーショナル。”Eternity of Shaog” には嫌になるほど長いタイトルに加えて、ラヴクラフト的な宇宙、さらにメロディやリフの構造の多くに東洋的、あるいはメソポタミア的な色合いが見られます。 LEVIATHAN メンバーの手によるジンのような怪物がそびえ立つアートワークが示すように。
「古代文明では、例えばファラオの墓のように、世界に偶然開かれた扉を媒介にして、目に見えないものとコンタクトをとっていたという話をよく読むよね。クラーク・アシュトン・スミスも参考にしているんだ。彼はラヴクラフトと同様に、ある種族の秘密を知っていて、その知識を伝えるためにさまざまな形や名前を取ることにした作家さ。あとは、H.P.ブラヴァツキーの著作も参考にしているね。彼女が下層と上層の地球を理解していることは驚くべきことだよ。
意図的に東洋的なものを作ろうと思ったわけではないんだよ。”Telluric Ashes” のように、ベースにカンテレを入れたかっただけなんだけど、よくよく考えてみると、確かに東洋的な方向性を感じさせる音になっているよね。望んでいたものではないんだけど。
テーマとしては、悪魔、絶望、地球の理論、狂気、地獄の盟約など、秘密にしておくべきものから影響を受けている。これは私の考えを反映したものさ」
“Eternity of Shaog” の構成は以前と比べ、もう少し鮮明ですっきりしていて、全体的に明るく広々としているようにも見えます。冒頭の “Exh-Enî Söph” ですぐに確立されたこの雰囲気は、アルバム全体で維持され、壮大を増していきます。研磨された硬質なサウンド、以前のクランチーな雰囲気から一歩引いて、歪みのないメロディーを自由に飛び回らせて、音楽にダイナミズムとインパクトを与えているのです。
“Eternity of Shaog” にはシンフォニックな傾向が顕著に現れていて、シンフォニック・ブラックメタルというレッテルを貼るのもあながち間違いではなさそうにも思えます。 しかし、大げさでドラマチックな、ややサーカスに近いタイプではなく、むしろ1990年代後半のシンフォニック・ブラックメタルに親和性を感じます。 暖かみがあり、広がりがあり、曲の構成にはオーケストラのような雰囲気が存在。
「メロディックな部分は、私のオーケストレーションへの情熱と、ファンタジー文学作品の中のパラレルワールドへの情熱から生まれたものなんだ。昔はシンフォニックなサウンドを作ることができるいくつかのソフトウェアを使って遊んでいたんだけど、プロジェクトが進むにつれて、こういったシンフォニックな要素を自分の音楽に取り入れるようになった。謎めいているように見えるかもしれないけど、カンテレの練習はシンフォニックなサウンドを生み出すためのアプローチにおいて、私を後押ししてくれたんだ。そして、いくつかの楽器やメロディーの層を同時に組み合わせることが、シンフォニックな側面を作り出すことになった。ESOCTRILIHUME は、最初はシンフォニックなものを目指していなかったけど、時間の経過とともに状況が変わっていったんだよね」
実際、カンテレは “Eternity of Shaog” にとって不可欠な楽器となっています。
「カンテレはフィンランドの楽器なんだ。この弦楽器は本当にすごいよ。この楽器が発する周波数は、明らかに神秘的だ。実は、私がカンテレに出会ったのは、とても意外な場所だった。だからある存在に導かれて、必要に迫られて手に入れたのだと思う。ある意味、自分の考えと現実をつなぐ架け橋のようなもの。新しい楽器を手に入れなければならないことはわかっていたんだけど、どれが最初に心に届くのかはまだわかっていなかったからね。今では頻繁に使っているよ。すべての場面で使えるわけではないけど、なるべく直感的に使えるようにしているのさ」

そうしてたどり着いた約80分に及ぶ “Dy’th Requiem for the Serpent Telepath”。ESOCTRILIHUM は長いアルバムを出すことで知られていますが、最新作はこれまでの最長のレコードです。”Xuiotg” のように凶暴なブラックメタルで猛威を振るう瞬間もあれば、”Craanag” のようなアンビエントな曲も存在します。深みを増したシンセの魔法とアヴァンギャルドな哲学に窺えるのは、相互作用と実験への意欲。
“Dy’th Requiem for the Serpent Telepath” は、3曲ずつの4つのセクションで構成され、Serpent Telepath の死、変容、再生という壮大なストーリーを描いています。Serpent Telepath とは ESOCTRILIHUM が描いた恐ろしい世界に生息する強力な存在の1つ。物語は、拷問のようなイメージと精神的な闘争の間で引き裂かれる叙事詩のように展開します。幽体離脱と精神的な不安というテーマは深淵で、レコードに込められた邪悪な呪文にさらなる次元を加えています。エクストリーム・メタルと言うよりも、より正確にはエクストリーム・ミュージックでしょう。ブラック・メタルやデス・メタルのレコードであると同時に、Asthâghul は自信を持ってノイズ、アンビエント、プログレッシブ、ポスト・パンク、ゴシック・ロック、クラシカルの領域へと大胆に踏み込んでおり、曲の中で彼が選択したどの道においても、その道のプロにも匹敵する卓越した能力を発揮しているのです。この美しき混沌は一人のクリエイターが閉所で孤独に作ったものですが、その地平線は遥か彼方まで広がっています。
Asthâghul がその音の葉以上に公表していることはあまりなく、彼の音楽は彼の喚起的で異世界的なサウンド同様謎に包まれています。ブラックメタルの歴史の中には、BLUT AUS NORD のように顔を出さずに挑戦的な作品を作る特異なアーティストは少なくありません。しかし、ESOCTRILIHUM は何か異質で、まるで人間の目には見えない冥界からの超自然的な周波を発しているようにも感じられることがあるのです。そんな密教的創造に反して作品もプロジェクトもその規模を拡大していく中、ESOCTRILIHUM が他の音楽家を加えることはあるのでしょうか?
「私は最後まで一人でいるつもりだよ。正直なところ、誰も私と一緒に演奏することはできないんだ。というのも、私と他の人との間の伝達の流れを何かがブロックしていて、コラボレーションとなると全く上手くいかないんだ。私は一人でいる方が好きだよ。自分の作品をよりコントロールできるからね。それに、人脈を作ることも私にはできないんだ」

ブラックメタルは一人ですべてをこなすアーティストが多い印象です。
「ブラックメタルは、孤独や孤立と完全に調和しているスタイルだからね。なぜなら、孤立しているからこそ、自分の精神状態を完璧に反映したものを作ることができるから。それに孤立することは、目に見えないものと触れ合うための最良の方法でもある。一人で作業をしていると、アイデアが早く浮かび、必要に応じて無意識の力を借りることができるんだ。誰かのために何かをすることを強制されないという事実は、仕事をより興味深いものにしてくれるよ」
フランスは古くから、非常に革新的で先鋭的なブラックメタルを生むことで知られています。
「確かにフランスには様々なグループがあって、オカルト的なテーマを有しているよね。でも ESOCTRILIHUM は誰とも関係していまないんだ。なぜなら、私はコラボレーションを完全に拒否してこのプロジェクトを作ったから。この音楽を作るには一人でなければならないし、正直なところ一緒に音楽を作れる人を知らないんだ。つまり、すべては私の “創造したい” という一心から始まったと考えていいだろうね」
それにしても短期間であまりに膨大なリリースです。創造性は尽きないのでしょうか?
「自分の音楽的な衝動を信じ、その衝動が現れたときに仕事をしているだけなんだ。すべてを同時にリリースすることだって可能だけど、それは賢明ではないよね。私の中にはまだ充分情熱があるので、活動的であり続けていられる。精神が求めるときに、すぐに選ばれた楽器を演奏して自分自身の内面を映し出さなければならない。音楽的な衝動が頻繁に現れることもあれば、何も起こらずに長く待たされることもある。これは非常に暗いテーマだよ。なぜなら、私は物事の進展を説明できないことがあるから。ESOCTRILIHUM を管理することは苦しみであり、苦悩でもあるから、いつかは終止符を打たなければならないと思っている。私はすでにすべてをプログラムしているんだよ」

参考文献: METAL STORM: ESOCTRILIHUM INTERVIEW

THE WAR INSIDE MY HEAD: INTERVIEW ESOCTRILIHUM

ESOCTRILIHUM BANDCAMP

COVER STORY + NEW DISC REVIEW【GOJIRA : FORTITUDE】


COVER STORY : GOJIRA “FORTITUDE”

“The Point Of Fortitude Is To Inspire People To Be The Best Version Of Themselves And To Be Strong No Matter What. It’s Easy To Despair And To Lose Faith. But At Some Point You’ve Got To Figure Out Where You Stand. You’ve Got To Ask What Your Attitude Will Be If This Is The End Of The World As We Know It.”

NATURE IS HURTING

フランスからメタル世界の巨人となった GOJIRA は、そのキャリアにおいて、常に無関心や無知と戦ってきました。そして、待望の7枚目のアルバム “Fortitude” が文字通りゴジラのように地平線の彼方に現れる刻、フロントマンの Joe Duplantier は、人類が自滅へのスパイラルに向かい合う必要性をこれまで以上に強調したのです。
Joe は、子供のころからある記憶が頭から離れません。家族で見ていたテレビ。点滅する画面の前に座ると、静寂の中から理性の声が現れ多くの人が気にも留なかった状況の緊急性を訴えかけていました。フランス系カナダ人の宇宙物理学者であるヒューバート・リーブスは核合成の研究でよく知られていますが、あの運命の夜、彼は人類の自滅は原子の炎の中などではなく、冷たく静かな自己満足の中で起こる可能性が高いと説きました。
GOJIRA のフロントマンは、あのとき驚くほど明快にこう思いました。
「彼はただちにやり方を変える必要があると言っていた。僕たちはゴミやCO2の排出量を減らす必要があるとね。排出量を減らさなければならない、リサイクルをしなければならない。注意を払わないと、50年後には大変なことになってしまう。テレビに出ている人が言っているのだから、状況はすぐに変わるだろうと思ったことを覚えているよ」
しかし残念ながら、30年以上経った今でも状況はほとんど変わっていません。

Joe と弟の Mario は、メタル界で最も率直な暴れん坊の2人にしては意外にも、穏やかで牧歌的な環境で育ちました。スケッチ・アーティストの父とヨガ教師の母の間に生まれた兄弟は、フランスの西海岸にある人里離れたコミューン、オンドルで育ちました。彼らの家はあまりにも田舎だったので、あるジャーナリストが訪れたとき、「庵」と表現したほど。しかし、フォークからマイク・オールドフィールドまで、常に音楽が流れていました。詩人や画家が泊まりに来て、大人たちが国際的な哲学を語り合っているときだけ、音楽は止み子供たちは話に耳を傾けたのです。
兄弟二人はよく浜辺で時間を過ごしました。Joe は木や石を集めていて、家に帰ると手が原油で真っ黒になっていました。一方、Mario はサーフィンをしているときにビニール袋が顔に張り付きました。おとぎ話のような平穏な暮らしにも、現代社会のヒビが入っていたのです。
「自然を傷つけてばかりなんだから、自然に傷つけられるのは当たり前だ」
創造性に囲まれた青春時代を過ごしたにもかかわらず、Joe と Mario はメタル世界の英才教育を受けたわけではありません。彼らの両親がラジオで流さなかったのは、唯一ハードロックだけだったのですから。兄弟のいとこが、当時12歳の Joe に強引に METALLICA を聴かせたことがきっかけで、彼らは METALLICA に夢中になります。
「振動、音色、ドラムの叩き方が神秘的だったんだ。メタルは敏感な人を惹きつけるんだと思うよ。僕は生まれつき敏感で、学校ではいじめられっ子だった。人間が嫌いだったんだ。METALLICA のテーマは非常に感情的で、トラウマになっているような面があり、そこに惹かれたんだよね」
学校での怒りは、2人にヒーローを模倣するエネルギーを与え、Joe はギターを手にしてシンガーになりました。
「僕にとって、音楽は説教やメッセージありきではないんだよね。腹の底から出てきたものを、マイクに向かって叫ぶだけなんだ。叫ぶことで大事な言葉が出てきたんだよ。最後に食べたピザについて叫ぶつもりは毛頭ないけどね」
情熱的で外向的な性格のマリオは、ドラムの虜になりました。
「学校の友達はみんなラグビーをやっていたけど、僕は好きじゃなかった。ドラムが僕のラグビーだったんだ」
兄弟は、そうしてエクストリーム・メタルのカルテット GOJIRA で、その傷を訴えていきました。荒々しく複雑な音楽性だけでなく、環境保護を訴えることも彼らのアイデンティティーとなったのです。

GOJIRA が結成されたのは1996年で、2人が DEATH に影響を受けたミュージシャンを募集する広告を出したのがきっかけでした。そこに2人目のギタリスト、Christian Andreu が加わり、後にベーシストの Jean-Michel Labadie が加わりました。当初、4人は自分たちのことを “GODZILLA” と呼んでいました。火を噴く怪獣ほどメタルなものはないでしょう。
2001年にデビュー作 “Terra Incognita” を自主制作。このタイトルは、兄弟が子供のころに聞いていた会話から生まれたもので、ヒンドゥー教の神話を暗示しています。具体的には、ブラフマーが、その力を乱用した人類から神を隠した未知の場所を意味しているのです。2003年に発表された次作 “The Link” は、同様に形而上学的な内容で、復活、瞑想、苦しみによる悟りについて考察しています。
「最初はもっとスピリチュアルな音楽だった」と Mario は回想します。「2005年に “From Mars to Sirius” をリリースしたときは、詩的な表現を続けていたんだけど、”Global Warming” のような曲は、僕たちの環境に対するメッセージにとって本当に重要なものだったね」
人類が地球を枯渇させ、新たな故郷を探すというSF的なストーリーを持つ “From Mars to Sirius” は、ゴジラにとって初めての気候危機をテーマにした作品で、世界的なブレイクへの第一歩となりました。デスメタルをより大胆に取り入れたこの作品は、ブレイクダウンを多用した “Backbone”(現在でも最もヘヴィーな楽曲のひとつ)のような大作と、穏やかなボーカルで構成されたゆらぎの叙事詩で見事にバランスが取れていました。
「僕たちは世界を征服する準備ができていたんだ!」と、Joe は叫びます。「エネルギーがあり、怖さも疲れも退屈も存在しなかった。10年間の努力と苦労を経て、僕たちは燃えていたし、新しいオーディエンスと出会う期待と飢えがあったんだ」
この野心は、サウンドに磨きをかけた “The Way of All Flesh” と “L’Enfant Sauvage” に反映されていきました。バンドは頻繁にアメリカとヨーロッパをツアーしていましたが、毎晩自分たちのビデオを見返して、細心の注意を払ってライブショーを完成させています。「それってすべてのミュージシャンがやるべきことだろ?」と Mario は嘯きます。

「実は数年前から、人類の未来に悲観的になっていたんだ。真実に目覚めて、多くの人が自分を高めようとしているにもかかわらず、世界は逆行しているような気がするんだよね。テレビで(元)アメリカ大統領が『地球温暖化が本当かどうかわからない』と言っているのを見たり、高校で教えている友人から生徒の中にはヒトラーが映画の中の人物なのか、実在した人物なのかよくわからない子がいるいう話を聞いたりすると、ものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ。だからパンデミックが起こったとき、僕は『いいだろう。燃えてしまえばいい。地球に寄生している僕たち人類にとって、これは実際、終わりなのかもしれない』と思っていたんだよね」
自分の無能さを隠そうと必死になっている政治家や権威が、何ヶ月にもわたってくだらない話をしてきた後で、厳しい真実を語る聡明な頭脳に出くわすのは新鮮なことでしょう。
テレビの前で目を輝かせていた少年時代から、Joe は、年間7,500億トンの氷が海に溶け、毎週2,300平方キロメートルの熱帯雨林が伐採され、毎日150種もの生物が絶滅しているという、数字が物語るはず脅威と、その対局にある人々の無知さに慣れていました。だからこそ、コロナで234万人が亡くなり、数え切れないほどの人々が貧困やうつ病に陥っているという現在のデータに贖いトンネルの先には光があると主張する先導者を信じません。COVID-19の危機が1年を超えた今、人類は大きな灰色の未知の世界に直面しているのというのがまがいの無い現実です。
しかしだからこそ、GOJIRA 7枚目のアルバム “Fortitude” が登場するのに、これ以上のタイミングはないでしょう。世界はかつてリーブス博士が呼びかけていたのと同じように、困難に正面から立ち向かう勇気ある心の強さ、”不屈の精神” を求めているのですから。
「不屈の精神こそ、僕たちが示すべきものだ。抱きしめるべきものだよ。近い将来のことでさえもすべてが不確かな世界の中で、僕たちがどうあるべきかということだよね。僕たちはバンド結成当初から、競争と対峙する思いやり、そして憎しみと対峙する愛情をテーマに活動を続けてきた。”Fortitude” のポイントは、最高の自分であること、そして何があっても強くあることを人々に促すことなんだ。朝起きて、また生活に追われるのはつらいことだけど、僕たちの態度や捉え方、自分や人類の未来をどう描くかによって、変化をもたらすことができる瞬間がたしかにあるんだよ。絶望したり、信念を失ったりするのは簡単だ。だけど、ある時点で自分の立ち位置を把握しなければならないんだよ。これが僕たちの知る世界の終わりであるならば、君はどんな行動を起こすんだい?」

私たちはもはやポイント・オブ・ノー・リターン、帰れないところまですでに到達してしまったのでしょうか?もしかしたら私たちは終末に向かって勇敢に行進しなければならないのでしょうか?
「人類がこの地球上に存在する価値があるのかないのか、という具体的な文脈で考えている。僕は友人とよく哲学的な話をするけど、僕は楽観的なんだ。人間だから、もちろん人類の成功を見たいと思っているよ。だけど同時に、僕はたちはこの惑星や他の種族にとって問題であると考えざるを得ないよね。他の種族が、本を書いたり、美術館に行ったり、コーヒーを飲んだりしないからといって、この地球上で生きていく権利がないわけではないんだよ。僕たちが他の動物を扱う方法には、憤慨し、ショックを受けているよ。人間は『動物だから、動物を食べるのは当たり前だ』と言う。でも、他の動物が工場を持っているかい?考えるべきことだと思うよ。僕の友人たちの中には、『私たちはどうせ消えていくものだ。楽しもうよ。すべてを台無しにしてしまおう。どうせ死ぬんだから、そんなの関係ないよ。40億年後には太陽が地球を破壊するんだから』って人もいる。楽観的な人間になるのが正しいのか、それとも悲観的な人間になって皮肉を言うべきなのか。その中間の存在になることはできないね。それは君が眠っているということだ。人間について何か意見や感じたことはあるかい? 僕は楽観的な人間になり、人々を揺さぶり、自分自身を揺さぶって、もっと思いやりを持ち、もっと与え、大統領や政府に頼るのではなく、この地球の問題にもっと問いかけることを選んだ。そして、たとえ僕たちが滅ぶことを運命づけられていたとしても、たとえ僕たちの文明が消滅することになっていたとしても、少なくとも、消滅する前に意識と美の最後の輝きを放ち、魂を高めることができるんだ」
Joe は捕鯨に反対の立場をとっていますが、というよりも動物全体の痛みを当たり前に受け止めているだけでしょう。
「君は諦める?『世の中が汚染されているから、もっと汚染してやる。みんなが盗みをするから、俺はもっと盗むんだ』。僕たち一人一人が世界を作り、僕たちの環境を作っているんだよ。政府や支配者層の話をするときに、『彼ら』と言う人がいる。しかし、『彼ら』は『僕たち』なんだ。あなたも人々の一員なのだから、もう少し努力すれば、変化をもたらすことができるんだ。僕たちは何の制限もなく環境を強姦し、汚染し、破壊する。そのことに腹を立てない人はいなはずさ。なぜ人は、それが簡単に無視できることだと思うんだい?」
昨年8月5日にリリースされたシングル “Another World” は、ファンにとって初めての “Fortitude” の実質的な予告となりました。”もうひとつの世界、もうひとつの場所” を求めるこの曲は、すでにコロナ禍のはじまりから数ヶ月が経過した地球と見事に共鳴。ただし、マキシム・ティベルギアンとシルヴァン・ファーヴルが制作した素晴らしいアニメーション・ビデオに出てくる「The virus is spreading(ウイルスが蔓延している)」というセリフは、実は COVID が制作者の頭の中をよぎるずっと前に完成していたのです。
「コロナのアルバムになるまでは、コロナのアルバムではなかったんだよ。フランスに戻る前には、レコードのミキシングを終えていたから。クレイジーで、まるで世界的な電波に影響されたような感じだよね。”Another World” は僕たちの癇癪が爆発したものだ。別の世界が欲しい、この世界をファックしたい…ああ、でももちろんこれは僕たちの世界だ、これは手にしている唯一のものだ・・・。 これしかないんだ。動物への接し方は何か間違っている。多くの種が絶滅したことは、僕たちの負の遺産の一つになるだろう。これらの種を作るのに何十億年もかかったのに、40年後には何千、何万という種が僕たちのせいで絶滅してしまうんだから」

アルバムの本格的な制作は、2018年初頭に始まりました。2016年の6枚目のレコード “Magma” は、プログレッシブ・デスメタルの可能性にアクセシブルな高い光沢を飾り付け、GOJIRA の評判を一気に引き上げたレコードでした。これまでの不屈のライフスタイルが、”Magma” を形作ったと言えるのかもしれません。
「ミュージシャンになると、ツアーが人生の90%を占めるんだ 」と Mario は言います。「何週間も、毎晩叫んで、体が元に戻ろうと必死なんだ。世界で最高の仕事であると同時に、最も苦しい仕事でもあるんだよね。それは作曲方法にも大きな影響を与える。狂ったような、暴力的な、やたらと速い演奏は永遠にはできないだろうから」
“Magma” の楽曲は非常にシンプルで、それぞれが1つか2つのリフを中心に構成されていました。Joe の声の繊細な可能性がさらに強調され、より瞑想的なムードが作り出されながら。 制作中には、兄弟の母が亡くなります。
「 “Magma” のすべてが母の死から生まれたわけではないけれど、もちろん深い影響があったよね」と Joe は振り返ります。「僕たちの心の中で、精神的にとても大きな出来事だった。ちょうど曲を書いているときに亡くなったから、影響を投影しないのは不可能だよ。アルバム全体に言えることだけどね。僕たちの母はいつもこう言っていた。死は人生の一部。それを受け入れなければならない』とね。生まれてきて死ぬ、それが人生の輪。だから、誰かが死ぬとみんなが泣いて黒い服を着るのが、子供心にもよくわからなかったんだよね」
その結果、”Magma” は完全な哀歌ではなく、死の先にあるものを同時に探求する作品となりました。冒頭の “The Shooting Star” では、母パトリシアが星座を通して死後の世界への道を示しています。”Between the bear and the scorpion, you’re getting close.”
タイトル曲では、輪廻転生とについて言及し、”Low Lands” は、墓の向こうにあるものについての知識をパトリシアに求めています。
2017年のグラミー賞では、ベスト・ロックアルバムとベスト・メタル・パフォーマンスにノミネートされ、同年末にはメタリカの “WorldWired” ツアーでオープニングを務める栄誉を手にします。自分たちの譲れないものを守りながら、次のステップに進むための基盤が整ったのです。そうして、堅苦しい青写真ではなく、彼らの中のゆるやかな優先順位が形成されていきました。Mario が語ります。
「”Fortitude” の最終的な目標は、自分たちのダークな部分を取り除くことだったと思うけど、それはとても難しいプロセスだった。”Magma” で僕たちは母を亡くして、それがけっこう大きな痛手となっていたんだ。”Fortitude” を書いているときは、星の配置が完璧だった。バンドの成功は最高潮に達していて、ツアーもうまくいっていたから、僕たちはただ曲を書くだけだったんだよ。”Magma” の時のように、感情的に苦しい立場に置かれていたわけではなかったんだ」

Duplantier 兄弟の母、パトリシア・ローザの死を受けて完成した “Magma” は、悲しみと憂いの深い灰色に彩られたレコードで、もちろん悲しみ一辺倒ではないにせよ、ある種居心地の悪さを感じさせた作品でもありました。ゆえに7枚目のアルバムは、より明るく、よりポジティブなものにする必要があったのです。”Magma” が親密で内なるものだったのに対し、”Fortitude” はより外に向かって、パンチの効いた、政治的なアルバムへと意図的に反転させられました。そうして、粗野でブルージーな “Yellow Stone”, 荒涼とした雰囲気の “Liberation” のように、新たな音楽的モチーフを取り入れながらも、彼らの鋭いシグネチャー・サウンドの探求と拡大には、さらに大きな「自由」が必要だったのです。
「ルールはない!」
Joe は、イギリスの過激なオルタナティブ・ロックバンドである PORTISHEAD や RADIOHEAD を引き合いに出し、予想外のサウンドを自由に展開するためのインスピレーションを得たと宣言します。さらに、伝統的なロック、ブルース、アメリカーナの再評価をも提案。これは、MASTODON のギタリスト、Brent Hinds との深い対話によって、子供の頃に受けた影響が再認識されたものでした。
「僕にとっては、いつも不協和で奇妙で攻撃的であることが重要だったんだ。でも、ロック、ブルース、プログレッシブなど、長い間見下していた音楽のエネルギーは、他のメンバーや自分が年を重ねるごとに、その良さがわかってきたんだよね。だからこのアルバムでは、もっと積極的に、もっと派手に、もっと楽しく、何か違うものを表現したいと思うようになった」
“Magma” の “エネルギー” から、バンドのサウンドを前進させたいと語る Joe。アメリカで過ごした10年間で、二重国籍の英雄はその発音も少し変化しました。そして彼の Silver Cord スタジオに流れる作品は、ロングアイランドのマスコア・マニアック CAR BOMB, パリジャン・メタルコアの新星 RISE OF THE NORTH STAR, マサチューセッツのヒップホップ・ロック HIGHLY SUSPECT など、さまざまなバンドへと幅が広がり彩られています。Joe は、2019年にリリースされた HIGHLY SUSPECT のクールなトラック “SOS” にゲスト参加したことが、変化の契機だったと証言しています。
「繊細であったり、”泣き虫 “であったりしてもいいんだということを教えてくれたからね。最初は恥ずかしいと思っていたけど、妻に聴かせたら『あら、セクシーね』と言ってくれたんだよね」

メガ・レーベル Roadrunner Records が、GOJIRA の “独立性と経験” を信頼してくれたことで、Silver Cord は2年間のクリエイティブな「繭」となれました。エンジニアのヨハン・マイヤー(彼らのライブ・サウンドも担当)がすべての段階でバックアップし、同じ空間でデモとレコーディングができるという快適さもあって、これまでにないほど多くのアレンジが試みられ、楽曲が書かれたのです。
「ソロも弾いているんだよ。だけど、アルバムから追い出された2曲にはキラー・ソロが入っていて、”ふざけやがって!”と思ったね」
さらに、SLAYER の “Reign In Blood”, NIRVANA の “Nevermind”, LIMP BIZKIT の “Chocolate Starfish…” などを手がけた伝説のプロデューサー、Andy Wallace がミックスを完成させました。
アルバムの制作は Joe にとって楽しめるものなのでしょうか?
「95%の確率で、惨めな気持ちになる。史上最高の曲を書こうとしているのに、それが実現しない。僕たちは自分の悪魔に直面している。自分のエゴに直面しているんだよ。失望や自己嫌悪にね。人生の中で、アルバムを作ることを選択したその時期には、自分のベストを尽くさなければならないんだ。多くの場合、それは苦痛だけど、正しいリフの組み合わせや良い歌詞を見つけたときには、とても報われることもある」
当初、サプライズ・リリースの時期は、2020年6月とされていました。しかし、ロックダウンが続いたため、9月に延期。ステージへの復帰が差し迫っていないことが明らかになると、さらにそのスケジュールは延期されました。リリースの前提としてツアーを行うという従来の考え方から脱却するには時間がかかりましたが、最終的には、エネルギーと衝動を抑えることができなくなったのです。
「今、僕たちは違った見方ができるようになった。ツアーをしてもしなくても、何があっても作品をリリースするんだ」
“Fortitude” は、まさに自由になることを求めるレコードです。Joe が目標とした解放感が脈々と流れ、完成した作品はポジティブなパワーと肯定的な暖かさに輝いています。GOJIRA のトレードマークであるテクニカルとヘヴィネスの光沢、狂った拍子記号と決定的なシンコペーションはもちろんすべての源流として存在しますが、個々の楽曲はよりオープンに進化を遂げ、時折、推進力のあるエネルギーをポスト・メタルやスタジアム・ロックの領域に向けて走らせることさえあるのですから。
重要なのは、”Flying Whales” の底知れぬグルーヴや、”Born In Winter” の氷のような壮大の中で、”Fortitude” の広範なコンセプトが生と死、自然とスピリチュアリティというテーマに沿って解き明かされ、音楽とテーマとの刺激的な交わりがあるということです。

モダン・メタルの多様性は、何もその音楽のみに範囲を限定するわけではありません。その思索や哲学も実に多様で包容力に満ちています。「消えてしまうことへの原始的な恐怖/虚空で幽霊になること…」実存主義者の亡霊が死の本質を探るオープニング曲 “Born For One Thing” は、完璧な入り口のように感じられます。2008年にリリースされた “The Way Of All Flesh” で徹底的に追求されたテーマは、ブリュッセルにある壮大な中央アフリカ王立博物館で撮影された変幻自在のミュージック・ビデオに匹敵するほどの躍動感をもって進行し、高められていきます。
「僕たちは皆、死ぬんだから、生の手放し方を人生で学ぶ必要がある。死は大きな意味を持ち、誕生と同じように人生の一部だけど、タブーだよね。でも夜が昼になるのと同じように、僕たちは死や衰えの概念とわかり合う必要があるんだよ。自分の体がある日突然機能しなくなるという考えに平安を感じることができれば、より寛大で思いやりのある人間になることができ、”必要のないものを持ち続けない” ことができるだろう。仏教では、7つ以上の物を所有すると苦しみ始めると言われている。これには何か意味があるんだろうな」
印象的なのは、”The Grind” “砕く” というテーマが複数のトラックに浸透していることです。最初の「I’ve been grinding and grinding…」「どんどん砕かれていく」という嘆きは、巨大なクローザーである “Grind” の「surrender to the grind」「俺は砕かれない」という宣言によって反転し、解消されます。この一見逆説的な歌詞の対比は、もちろん冒頭の 「世界にものすごくがっかりしてしまう。僕は少し疲れてしまったんだ」という発言に通じ、物事を先延ばしにしたり、頭を砂の中に埋めたりしないようにとの戒めともなっています。
「人間としての自分に身を任せる必要があるんだ。規律の中にこそ、自由がある。毎晩、寝る前に皿洗いをしておけば、朝になっても汚れた皿は残っていなだろう?人生には終わりがあるという考えに平安を感じることができれば、より幸せに生きることができるだろうね」
死と折り合いをつけることの重要性。それ以外にも、”Fortitude” には世界を旅するような冒険心が存在しています。”Amazonia” は、SEPULTURA の “Roots” のようなトライヴァルな雰囲気を醸し出していますが、これは Joe が2000年代後半にCAVALERA CONSPIRACY のベーシストとして活動していたことにも関係しています。ただし、森林伐採に対する環境保護のメッセージ(「This fire in the sky… The greatest miracle is burnings to the ground」「空を火が覆う。最高の奇跡が焼け落ちてしまう」)は、まさに GOJIRA そのもの。不屈の精神とは、先住民のコミュニティーにたいする敬意の表れでもあるのです。
“Sphinx” は、エジプトの巨像に敬意を表し、切り出された石灰岩のように重く、デスメタルの伝説である NILE も誇りに思うような野蛮さを誇っています。イギリスからの影響も顕著で、”Hold On” では、後期 IRON MAIDEN のような壮大なプログレッシブ絵巻が意図的に展開されています。一方で、”The Trails” は、ピーク時の DEFTONES のように、不気味で囁くような神秘的な雰囲気を醸し出しています。

しかし、音楽的にもコンセプト的にも、明らかに中心となるのは “The Chant” でしょう。インストゥルメンタルのタイトルトラックと並んで、ブルース、ゴスペル、アメリカーナを組み合わせたこの曲は、リスナーに「自分を取り戻し、上に立つ…強くなるんだ!」とリスナーを励ますシンプルな歌詞の組み合わせがこれまでの GOJIRA とは全く異なるものです。Joe が強調するように、この曲は “Fortitude” のコンセプトを究極に凝縮したものであり、ショーが再開されたときに忘れられない夜になることをファンに約束する誓いの手紙でもあるのです。
「通常、僕たちは観客を破壊するために曲を作る (笑) だけどこれは、彼らを一つにするための試みだったんだ」
アルバムのインスピレーションを得るために、Mario は兄にいくつかの絵画や芸術作品を見せました。その中には、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1898年に描いた “パラス・アテナ” も含まれていました。
「美しい絵だよね。彼はさらに戦士や騎士の例をいくつか見せてくれて、最終的には円卓の騎士と先住民族の文化をミックスしたアートワークになったんだ。アルバムの精神を表しているよ。言葉とビジュアルの相性がとても良いんだ」
ある意味で、”Fortitude” は芸術家の息子としての幼少期への頌歌でもあり、気候危機のトラウマだけでなく、それ以上のものを探求しています。”Born for One Thing” は、両親が愛したタイやチベットの哲学を参照しており、”The Trails” は子供のころ流れていたメランコリックとさえ言えるプログポップにも通じ、故郷のラジオから聞こえてきてもおかしくはないでしょう。
「両親が THE BEATLES や PINK FLOYD を聴いていたとき、僕たち兄弟はとても楽しい時間を過ごしていた。だから、その要素を少し加えたいと思ったんだよね」
“Born for One Thing” で提示されている “集団的昏睡” というアイデアは、現代社会の象徴である消費主義というテーマと結びついています。
「消費する方法を変えることは、物事を変える力につながる。例えば、僕は8年ほど前にヴィーガンになったんだけど、その理由は動物を虐待していることに気づいたから。これを人に言うと、「何を言っているんだ?牛乳の箱には “牛は外で育てられている” と書いてあるだろ?工場で飼われている動物じゃないんだから」と言われたりする。でもね、ミルクを作ってくれるおばあちゃんがいて、名前のある牛を飼っていて、その牛を愛情を込めてペットにしているなら、それはそれでいいと思うよ。でも、市販のミルクはそうじゃない。人は事実から逃れるために物語を語り、責任を感じなくて済むようにしたいものだ。僕たちは、自分の手で責任を取る必要があると思うよ。何かを買うときには、少なくとも自分が世界に与える影響を意識したいものだよね。
物事を変えるためには、正しい人に投票すればいいというのは幻想だよ。まずは、自分から始まる集団的な努力が必要なんだ。個人の目覚めこそが、唯一成功する革命なんだよ。このアルバムには市民的不服従の考えが根底にあるけど、行間を読まなければならないよ。市民的不服従とは、ルールに盲目的に従わないこと。クールになるために法律を破る必要はもちろんない。だけど、僕が言いたいのは “自分で考えろ ” ということなんだ。周りを見渡して、自分が世界に与える影響を考える。これこそが僕たちの持つ大きな武器なんだ。ただ、シンプルな選択と日々の習慣が世界を変えていく」

例えば、OPETH の “Heritage” のような大きな変革をもたらした作品と言えるのかもしれません。
「そう思う。アルバムのセッションを始める前に、僕は2ヶ月間、自分たちの曲の書き方やアレンジの仕方を深く分析したんだよね。”Fortitude” 以前の僕たちは、曲作りの公式を考えたことがなかったんだ。つまり、実際には何の構造もなく、ただ何となく組み合わせていただけなんだよね。例えば、良い曲には最低でも3つのコーラスが必要だし、過去の僕たちの音楽の扱い方は非常に実験的なアプローチだった。まあつねに、明白なパターンを避け、ルールの外にある音楽を作り出そうと努力していたからなんだけど。”Toxic Garbage Island” を例にとると、この曲には構造がないんだよね。コーラスもない…何もない! だから、”Fortitude” では、すべてをもう少しバランスよくしたいという気持ちがあって、Joe にこのアルバムでは、コーラスとヴァースを確立したいと言ったんだよね。これが作品全体に大きな力を与えていると僕は考えているよ」
“The Trails” で Joe の歌声は、グロウル、クリーンを経てさらにもう一つの大きなジャンプ、メロディアスへの移行が感じられます。弟はその変化について敏感に感じ取っていました。
「”Magma” の “Shooting Star” や “Lowlands” から始まった試みだと思うけど、この10年間 Joe は自らのボーカルを向上させることに真剣に取り組んできたんだ。僕たちは、さまざまなタイプの音楽を聴いて育ったからね。メタルから THE BEATLES, MASSIVE ATTACK, PORTISHEAD など…真の音楽好きなんだ。ジャムるときは、ファンク・ロックのようなものを演奏してしまうことだっめあるんだよ。 最近の多くのバンドのように、他にサイドプロジェクトを持っているメンバーもいない。つまり僕たち4人にとって、GOJIRA は唯一の音楽活動の場だから、自分たちの個性の すべての側面を表現する必要があるんだよ。僕たちは皆、”メタル・ヘッズ” ではあるんだけど、音楽を愛する者でもあるんだよ。だから、Joe にとっては、自分が自然にやりたいと思ったこと、必要としたことに向かって進化していくしかなかったんだよね。今、彼はシンガーとしてこれまで以上に自信を持っているよ」

GOJIRA の未来に目を向けるためには、過去の栄光を振り返るべきでしょう。2018年、Bloodstock Open Air のヘッドライン・ショーは、雨に打たれた2万人の観客がダービーシャーの泥の中に叩き込まれただけでなく、2006年の英国でのデビューからフェスティバルでの初のヘッドラインに至るまで長い道のりを歩んできたバンドにとっても画期的な出来事でした。
自分が聴いて育ったバンド CANNIBAL CORPSE がオープニングを務めるというスリル、経験は、これから起こるであろうもっと素晴らしい夜に向けての “食欲” を存分にそそるものでした。
“Fortitude” の完成から、その欲求は高まる一方です。しかし、今後の展望について、Joe は希望に満ちている一方で、大げさな表現には躊躇しています。
「ミュージシャンの人生は必ずしも楽ではない。僕たちは今、副業をしなくてもやっていける状況にある。これは素晴らしいことだけど、それでも金持ちには程遠い。大きな家や莫大な銀行口座を持つロックスターではないんだよ。今は家さえ持っていない」
大きな舞台や多額のギャラへの憧れが、芸術的な目的に影響を与えることはあるのでしょうか?
「答えは、イエスでもありノーでもある。人生では、自分がなぜそうするのか、100%はわからないものだよ。頭の中や心の中で起こっていることを、僕がとやかく言うことはできないんだ。曲を作るとき、もちろん売れることを願っているよ。だけど、それだけじゃなく、僕たちはアーティストであり、人間であり、哲学者であり、多くのことを考えている。僕は、自分が書いた言葉1つでも妥協する必要はないと思いたいし、すべての音楽的なアイデアは心の中からまっすぐに出てくるものだと信じている。それが僕たちのコンパスなんだ。音楽には生きている実感が必要だ。共鳴する必要があるんだよ。たとえ誰かが100万枚売れると言ったとしても、僕たちにとって魅力的な要素がなければ、それはゴミ同然のものなんだ」

サイクルとレガシーというテーマを掘り下げてみましょう。GOJIRA は24年後、そしてブレイクした3rdアルバム “From Mars To Sirius” から約16年後に、より広いメタル・ファミリーの一部として自分たちをどのように見ているのだろうか。新世代のバンドが彼らのアイデアを拾い上げて使用しています。
「人生は短いし、あっという間に過ぎてしまうから、今あるものに集中したほうがいい。僕は、自分たちより速いバンドやクールなバンドのことはあまり気にしない。流行に敏感でありたいと思っているけど、自分たちの芸術的センスは非の打ち所がないと自信を持っているからね。音楽的にもビジュアル的にも、僕たちは自分たちの世界を持っているんだ。長い間、この領域、つまり自分たちが開発しているこの芸術と実体の完全性に取り組んできたんだ。この作品には価値があると確信しているよ。まるで鉱山を見つけて、それをまだ掘り続けているようなものさ。あと数枚のレコードを作るための燃料は確実に残っている。僕たちのビジョンはまだ完全には達成されてはいないからね」
つまり今のところ、 Joe は未来に向かって努力することと、1つ1つの勝利を大切にすることだけを考えています。これまではバンドのために犠牲になっていた家族との “素晴らしい瞬間” を大切にしながら。このアルバムを、長い間待っていてくれた多くのファンに届けることは、重要なこと。そして、GOJIRA が再び脚光を浴びることで、Joe の中にある正義の焔が再び燃え始めるのは必然に違いありません。
「僕は自分を活動家だと思っている。文章やアイデアで誰かを感動させるたびに、誰かが同意するたびに、価値のあるプロジェクトが日の目を見るたびに、僕は活性化されるんだ。僕の中には、決してあきらめない、屈しない、絶望しないというセーフティネットがある。それは、音楽や思考、一体感やコミュニティを通して、人間性の美しさを感じているから。僕たちの中には、とてつもなく大きな力があるよ。僕はそれを信じているし、そのために戦うことを決してやめないんだ。歌を通して、会話を通して、インタビューを通して、芸術を通して」
GOJIRA は最後まで信じられるバンドです。興奮と皮肉を込めて自分たちの未来を見つめています。
「長く愛されるバンドでありたいと思っているけど、同時にそうは思っていない。人類は大きな問題を抱えている。解決しなければならない問題をね」

参考文献: KERRANG!: Inside Gojira’s new metal masterpiece… and their fight for our future 

THE GUARDIAN:‘Nature is hurting’: Gojira, the metal band confronting the climate crisis

SPIN:Gojira on New LP Fortitude, Escaping Our ‘Collective Coma’

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – GOJIRA “THE ULTIMATE GOAL WAS TO GET RID OF OUR DARKER SIDE!” MARIO DUPLANTIER

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MAGMA : ZËSS】JAPAN TOUR 2019 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRISTIAN VANDER OF MAGMA !!

“ZËSS Is The Culmination Of a Great Cycle Including All My Previous Compositions. It Opens To a New Space And Other Perspectives. What I Had Sensed For Many Years: Multidirectional Music. It’s Another Way Of Feeling, Of Living Music.”

DISC REVIEW “ZËSS-Le Jour Du Néant”

「”ZËSS” は過去私の全ての作曲の中でも最高到達点と言えるだろうね。新たな場所や別の価値観へのドアを開いたよ。”ZËSS” によって私は “無限” へと歩み始めたんだ。音楽がそうさせたんだよ。」
結成50年。フランスに兆した異端の音楽組織 MAGMA の主宰にして、偉大なるドラマー/コンポーザー Christian Vander は未完の大曲 “ZËSS” が、自らの理想である複数の音楽性を持つ “マルチディレクショナルミュージック” への素晴らしき入り口であったことを認めました。
ジャズとロックの蜜月に、オペラやクラッシック、アヴァンギャルド、そしてミニマリズムの玄妙を封じた邪教 MAGMA は、Christian が天啓を受けたというコバイアの宇宙奇譚と仮想言語によりその禍々しき中毒性を一際増しています。
もちろん、MAGMA がメインストリームに位置することはありませんでしたが、そのカルトな表現方法はハードコアなマニアを生み続けています。ドキュメンタリー “To Life, Death And Beyond: The Music Of Magma” を見れば分かる通り、Trey Gunn, Jello Biafra, Robert Trujillo といった卓越したミュージシャンも実はバンドの熱烈な信徒なのです。
Christian も認めるように、MAGMA が “ズール” と呼ばれるその音楽スタイルを完成させたのは、3rdアルバム “Mekanik Destruktiw Kommandoh” 通称 “M.D.K.” でした。ベーシスト Jannick Top の加入により世界最高峯のスキルと “圧” を備えたリズムセクションを宿したバンドは、さらにコーラスの “圧”、複雑怪奇の “圧”、コバイアの “圧” で圧倒的なパワーとエナジーを纏う独創性を確立したのです。ズール “Zeuhl” とはすなわち “振動する音楽” の意。
Christian は時代を先取っていたと語ってくれましたが、甲高い狂気の叫びと入り乱れる無慈悲な拍子記号、そしてアヴァンギャルドな音楽性のコンビネーションは、もはやクラッシックロックの枠組みに対する破壊からの再創造であったとも言えるでしょう。
Christian が “ZËSS” の発想を得たのは1977年 “Attahk” のセッションにおいてだと言われています。それはファンク/ソウル色を増し、よりキャッチーなボーカリゼーションへと向かい始めた変革の時期でした。故に、Christian の言葉通り多様で自由な世界へのドアを開ける重要な鍵こそが “ZËSS” であったのは確かでしょう。ただし、楽曲はしばしばライブで披露されライブアルバムにも収録されましたが、スタジオアルバムに収録されることはなく故に未完成の伝説と語られるようになったのです。
「スタジオでレコーディングされていない最重要の音楽が “ZËSS” だったね。そして私たちは過去にリリースした “ZËSS” のライブバージョンとは全く異なるスタジオテイクを成し遂げたかったんだ。」
2019年、遂にベールを脱いだ38分のズールエピックは、シンフォニックでとめどなくスピリチュアルな有機的実験でした。序盤、Christian のナレーションが響き渡る反復の呪術を聴けば、彼の敬愛する John Coltrane が “Love Supreme” で世界に届けた深き瞑想と至上の愛を想起するファンも多いでしょう。
ただし、徐々にインテンスを増して、コーラスハーモニーとピアノのコード、シンコペーションのリズムにオーケストラのスペクタクルが複雑な糸のごとく絡まりあうと、カール・オルフやリチャード・ワグナーの虚影と共に様々な情景やエモーションがマグマのように溢れ出していきます。
光と影、天と地、想像と現実、歓喜と悲哀。それは恍惚を誘う魂の精神世界、形而上の峰。そうして、クラッシック、スピリチュアルジャズ、ゴスペルにソウル、そしてミニマルな舞台背景に踊るズールのダンスは、あまりに壮大なスペースオペラとして伝説の伝説たる所以を威風堂々提示するのです。さてこの作品は彼らのスワンソングとなるのでしょうか?少なくとも、信徒はきっとアンコールを望むはずです。
今回弊誌では、Christian Vander にインタビューを行うことが出来ました。「本当に勧めたいのはバンドのライブを見ることなんだ!!!私たちのパワーやエナジーを理解するためには、MAGMA のライブを見に来る必要があるよ!!もちろん、”Magma Live” アルバムもそうやってこのバンドを理解する良い方法だと思うね!」”50年後” と銘打たれた9月の来日も間近。どうぞ!!

MAGMA “ZËSS-Le Jour Du Néant” : 10/10

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