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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WALTARI : GLOBAL ROCK】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KÄRTSY HATAKKA OF WALTARI !!

“Let’s Keep The Rock Tradition Alive And Reform It In a Brand New Way Suitable For 2020, And The People Living This Life Here And Now!”

DISC REVIEW “GLOBAL ROCK”

「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。そしてしばらくすると、突如として、”ポストファーストメタルタイム” のバンドたちは “ベーシックメタル” のバンドたちを後方に残し、素晴らしく花開いたんだ。」
メタルが多様なスペクトルに枝葉を伸ばし始めた90年代初頭、フィンランドから示現した WALTARI の千変万化でカメレオンの虹彩はまさにポストファーストメタルタイムの象徴でした。
同じアルバムは2枚作らないと語るように、WALTARI はレコードを通じて様々な冒険を行っていきました。”Yeah! Yeah! Die! Die” ではオーケストラとデス/スラッシュメタルの完璧なる邂逅を持たらし、”Space Avenue” ではエレクトロインダストリアルに振り切ったサウンドで周囲を圧倒。素晴らしき “Blood Sample”, “Release Date” といった近年の比較的、普遍なモダンメタルへと接近した作風の中にさえ、煌めくような驚きの瞬間は星の数ほど散りばめられているのですから。
「ロックの伝統を生かしながら、2020年に適した形でリフォームしようじゃないか、だって僕たちは今この時を生きているんだから!それこそがロックに活力を与え、僕たち全員にとって意味のあることなんだ。ロックのアティテュードとは、オープンマインドかつ予測不可能な純粋さだからね!」
あの眩しきメタル革命から30年。WALTARI の首領 Kärtsy Hatakka の主張は今でも一貫しています。端的に言えば温故知新のスピリット。伝統を守りながら時代に即した再構築を促し、自らが先頭に立って “オープンマインドで予測不能な” ロックの純粋なアティテュードを体現しているのです。
「実は、僕たちはいつも自らの音楽がとても “アニメ的” だと感じていたんだよ。だから、日本ツアーの後に Tomo を見つけることができたのはとても素晴らしい出来事だったね。何せ彼女はとても才能があるからね!」
自らの音楽を “アニメ的” と形容したのは、そのやはり予想不可能かつ非現実的な音の葉ゆえでしょうか。最新作 “Global Rock” には、日本のアーティスト Tomo Kataoka の手によるアニメ的なアートワークが採用されています。メンバーが輪になって、「世界各地の人々や伝統と繋がる」その青々としたイメージは、レコードのスピリットを完膚なきまでに反映しているのです。
既存の “ポストロック” のイメージとは遠く離れた、サウンドエフェクトと重低音のメロディックな邂逅、WALTARI 流 “Post Rock” で幕を開けるアルバムは、実際、メタルとロックを基盤にパンク、ファンク、テクノ、ポップ、ヒップホップ、カントリー、エスニックで世界を巡る旅路です。
“Metal Soul” で自らの出自とシュレッドのギター爆撃を敢行したバンドは、コンテンポラリーなヒップホップを抱きしめる “Skyline” や、Post Malone のオマージュと言及する “Boots” で Kärtsy 語るところの “ジェネリックポップ” が大多数のリスナーを惹きつける理由を探求していきます。それはまさしく音故知新。生き残るために再構築し、現代の水で磨きあげたロックのニューチャプター。BRING ME THE HORIZON の “Amo” を愛聴している事実も象徴的ですね。
一方で、FAITH NO MORE のオルタナティブをメタル的に解釈する “The Way” や “No Sacrifice”、カントリーとエクストリームミュージックの不可思議なキメラ “Orleans”、さらに CANNED HEAT のカバーまで、彼らはクロスオーバーの源流としてその誇らしき多様の旗を空高く掲げつつ、勇敢な音のメルティングポットを見せつけていくのです。
「この世界で生き残るためには、僕たち全員が力を合わせなければならないから。」厄災の時代に WALTARI は、奇しくも時空を超えて世界と音楽で繋がりました。
「金銭的には、僕のようなすべてのフリーランサーにとってまさに地獄だよ。何しろ、稼ぎの元であるライブができないんだからね。だけど、自然には祝福されているように感じるね。だから、この危機からポジティブな面を見つけていかなければならないよね。」
音の百鬼夜行にばかり注目が集まりがちな WALTARI ですが、不安や孤独、現代社会に対する嘆きを独自のアイロニーを交えつつ珠玉の旋律へと変換する Kärtsy は旋律と宣律を誰よりも巧みに操るフロントマンです。彼が見つけた道を切り開く方法とは、きっと繋がり進み続けること。今回弊誌では、鬼才に2度目のインタビューを行うことができました。「日本人はロックの再構築を常にかなりよく理解していて、いつもプログレッシブになりたいと考えている。BABYMETAL のような (アイドル的) アクトについてさえね!」どうぞ!!

WALTARI “GLOBAL ROCK” : 9.9/10

INTERVIEW WITH KÄRTSY HATAKKA

Q1: First of all, it’s really hard time now due to corona virus, especially musical industry. As a musician, and as a person, how do you spend your corona crisis days?

【KARTSY】: Hi! Well yeah it’s very strange times. Anyway we are talking now about the much bigger picture, something which is far out of our hands. This is something we just have to live with now. Moneywise this is hell for every free lancer like me, no money gig in sight, and all the sick people who can’t get any help cause the hospitals are full! Crazy! But, the nature feel blessed, and we also must just find all the positive sides about this what we just ever can.
I’ve been spending a lot of time in my working room. I’m scrolling thru all the possible half-way solo projects from the last years, I’ve been continuing with them and trying to finish them. Also I started to plan already some next moves for Waltari then..this was not how this spring was supposed to go, we were planning to move on with the new album touring this week, but no, so what can we do! The only place you can now work is at your working computer and with your instruments at your home..anyway I haven’t become any bored yet. There are still lots of things to do inside, you just need to use the imagination. I have been meditating too etc..and waiting of course this bloody situation to go over.

Q1: コロナウイルスの影響で、特に音楽産業にとっては厳しい時が続いています。ミュージシャンとして、一人の人間として、このクライシスをどう過ごしていますか?

【KARTSY】: やあ!うん、とてもおかしな時期だよね。とにかく、僕たちは今、大局について話しているわけだよ。僕たちのの手には余るようなね。それでも何とか対処して生きていかなければならないからね。金銭的には、僕のようなすべてのフリーランサーにとってまさに地獄だよ。何しろ、稼ぎの元であるライブができないんだからね。
それに、病院が満員だから病気にかかっても診察さえしてもらえないんだ!クレイジーだよ!だけど、自然には祝福されているように感じるね。だから、この危機からポジティブな面を見つけていかなければならないよね。
僕は自分のワーキングルームで長い時間を過ごしているよ。ここ数年のすべての中途半端なソロプロジェクトを吟味し可能性を見定めているところさ。その作業を続けて、完成させようとしているんだ。
同時に、すでに WALTARI の次の動きをいくつか計画し始めているんだ…当然これは今春の予定ではなかったんだけどね。今週からニューアルバムのツアーを始めるつもりだったけど、潰れてしまったから!
現在唯一作業できるものは、コンピューターと自宅の楽器だけだよ。それでも僕はまだ退屈していないさ。自分の中ではまだやることがたくさんあるからね。想像力を駆使するだけで十分さ。瞑想もしているしね。もちろん、この血まみれの状況が終わるのを待ちながらね。

Q2: So, how was your Japan tour 2017? What do you like Japanese culture and people?

【KARTSY】: The touring in Japan is always like the best Christmas present to any musician, haha. The last touring was great, great shows places were packed and your general hospitality akso was overwhelming. Your country is sooo great! Beautiful, exotic and very interesting. And now, our new album will be released there in next month, by Ward Records!

Q2: 一昨年には、初の来日を果たしました。日本の文化や人々にはどの様な印象を持ちましたか?

【KARTSY】: 日本ツアーはどんなミュージシャンにとってもクリスマスプレゼントみたいなものだよ!(笑) 素晴らしいツアー、ショウ、ライブハウス、ホスピタリティーも極上だったね。
日本は本当ーーーに素晴らしい国だよ!美しくてエキゾチック、そしてとても興味深い。そして4/17には、Ward Records から “Global Rock” の日本盤もリリースされるんだ!

Q3: Regarding Japan, the artwork of “Global Rock” is painted by Japanese artist Tomo Kataoka, right? What inspired you to use her anime-esque art for your new record?

【KARTSY】: We started alrrady with the anime-theme in our previous album You Are Waltari. We have always found our music very cartoonlike, and now we finally have decided to bring this aspect into flesh with our last two albums. And finding Tomo after the Japan tour was such a great thing. She is very talented!

Q3: 日本といえば、”Global Rock” のアートワークは日本人アーティスト Tomo Kataoka さんが手がけていますね?

【KARTSY】: アニメ的なスタイルは前作 “You Are Waltari” から取り入れていたよね。実は、僕たちはいつも自らの音楽がとても “アニメ的” だと感じていたんだよ。そうして遂に、その要素をこの2枚のアルバムで取り入れることに決めたんだ。
だから、日本ツアーの後に Tomo を見つけることができたのはとても素晴らしい出来事だったね。何せ彼女はとても才能があるからね!

Q4: From that artwork, album title, and really eclectic music, it seems you focused on “Musical Globalization” in this new record. Do you think you capsuled world wide music in “Global Rock”?

【KARTSY】: Anyway, there is also an social aspect, we all need to join forces if we want to survive in this world. Same can be targeted to the world of rock music. It needs to be totally remormed and polished in order to survive. You Japanise have for example understood this always pretty well, you always want to be progressive and that is what it is all about, even talking about the acts like Babymetal! Move forward, join forces and don’t look back. There can be many good things waiting for us also in the future!

Q4: アルバムのタイトルやエクレクティック極まる音楽性を考慮すれば、”Global Rock” が音楽のグローバリゼーションを意識した作品のようにも思えます。

【KARTSY】: まあこのタイトルには社会的な側面もあるよね。この世界で生き残るためには、僕たち全員が力を合わせなければならないから。同じことがロックミュージックの世界にも言えるだろう。つまり、生き残るために完全に再構築され、磨かれる必要があるわけさ。
たとえば、日本人はこれを常にかなりよく理解していて、いつもプログレッシブになりたいと考えている。BABYMETAL のような(アイドル的) アクトについてさえね!
前進し、力を合わせ、振り返らないで欲しい。そうすればきっと、未来にはたくさん良いことが待っているよ!

Q5: “Metal Soul” is typically, I feel this is your most metallic, also melodic record to date. Of course, it’s really modern, diverse album, but do you think you explored your metallic side. rock spirit in this record?

【KARTSY】: Well, we do have had metallic elements in our music always, especially in the albums like Below Zero or Release Date from the last zero decade (to us this album is 2018 album, it was then when we collected the material for the album).
Metal do has been inseparable part of our music, always. And that was the scene who took us into its lap in the early 90s, when the started to find our audience. We were personally thinking this as an album away from the metal a bit. But, it’s in the eyes of the watcher, and it’s only good exactly like that! Everybody can see and feel the music in the way he or she wants!

Q5: “Metal Soul” は典型的てすが、この作品は最もメタリックな WALTARI 作品の一つだと感じました。同時に、とてもメロディックでモダン、多様なアルバムですが。

【KARTSY】: そうだな…だけど僕たちはいつもメタリックな要素を保持してきたし、00年代には特に “Below Zero” とか “Release Date” といったメタリックなアルバムを製作しているからね。まあ “Global Rock” のマテリアルは2018年に集められたんだけど。
つまり、メタルとはいつも僕たちの音楽と切っても切り離せないものなんだ。そしてメタルシーンこそが、90年代初頭にリスナーを集め始めた僕たちの受け皿となってくれたわけだからね。
ただ、個人的には “Global Rock” は少しメタルから離れた作品だと考えていたんだ。ただ、まあそれは聴く人によるだろうからね。そうとってくれても全然構わないよ!誰にだって好きなように音楽を感じる権利があるんだから!

Q6: It seems album opener, “Post Rock” doesn’t mean existing Post-rock meaning, right?
In our previous interview, you said “We want to bring rock music back to its original meaning: mind blowing revolutionary music.”. Yeah, I love your “Keep on Rockin” scream on “Boots”! I feel your “Post Rock” reflects and embodies that spirit, do you agree that?

【KARTSY】: Yes, and also is referring to my vocal parts in the song, influenced by Post Malones song Paranoid, haha. But you got the point! Apart from connecting peoples and traditions, we have playing around a lot in this album with an idea of connecting the different times of rock music, old and new:).

Q6: オープナー “Post Rock” とは既存のポストロックの意味合いで使用しているわけではないですよね?
前回のインタビューであなたは、「ロックミュージックを革命的で心震わすオリジナルの形に戻したい」 と語っていましたし、今作の “Boots” では “Keep on Rockin!” と高らかに叫んでいます。そういった真のロックスピリットを取り戻すことが “Global Rock” の目的だったのでしょうか?

【KARTSY】: そうだね。それに “Boots” のボーカルパートは Post Malone の “Paranoid” に影響されているんだよ(笑)
まあだけど、君は核心を突いているね!各地の人々や伝統と繋がることとは別に、僕たちは異なる時代のロックミュージックを様々に鳴らそうと考えていたわけさ。温故知新だね。

Q7: “Skyline” reflects modern day’s hip hop sound, I feel. Actually, musical industry is dominated by hip hop and electro music. Do you think such genres are sometimes more adventurous and challenging than rock & metal realm?

【KARTSY】: Definitely. Rock has been eaten by generic pop throughout during the last decade, being much innovative these days, meaning much more to kids nowadays than traditional rock, which in its old form is turning into very concervative, unforunately!

Q7: “Skyline” では現代的なヒップホップサウンドを聴くことができますね?
実際、近年ヒップホップやエレクトロニカは音楽産業を席巻しているわけですが、そういったジャンルは時にメタルやロックより冒険的だと思いますか?

【KARTSY】: 間違いないね。ロックはこの10年間、非常に革新的な “ジェネリックポップ” に食われているよね。
ジェネリックポップは今日の子供たちにとってクラッシックロックより遥かに意味をもっているんだよ。ロックは非常に保守的になってしまっている。残念ながらね!

Q8: In our previous interview, I really love your words “It was a post-first-metal-wave-time, and all the Scandinavians added a bit more crazyness to their metal after starting to listen more wider spectre music. Suddenly then all these metal bands started to bloom leaving all the “basic-metal” bands behind for a while.”
OK, nearly 30 years have passed since “Post first metal wave time”. I believe “Global Rock” is great opener of 2020’s, and how do you think metal and rock will evolve and open new chapters?

【KARTSY】: Sky is the limit! There are ways as many as there are makers! This is the adventure of real rock attitude I will say, and I do hope that many many new ways and waves will be found!

Q8: 前回のインタビューであなたは、「スカンジナビアのバンドたちは、より幅広いスペクトルの音楽を聴くことで、メタルに “クレイジーさ” を加えていったんだ。そしてしばらくすると、突如として、”ポストファーストメタルタイム” のバンドたちは “ベーシックメタル” のバンドたちを後方に残し、素晴らしく花開いたんだ。」 と語ってくれました。
さて、そのポストファーストメタルタイムから30年近くの月日が経ちました。”Global Rock” は素晴らしき2020年代のオープナーですが、さてメタルやロックは20年代に再度新たな章を開くことが可能でしょうか?

【KARTSY】: メタルやロックに限界なんてないよ!製作者の数だけリミットを突破する方法は存在するんだからね! それこそが真の冒険的ロックアティテュードってものさ。そしてどんどん新たな方法や波が発見されることを願っているよ!

KARTSY’S RECENT FIVE FAVORITE ALBUMS

GREEN DAY “FATHER OF ALL”

JACKBOYS (TRAVIS SCOTT) “JACKBOYS”

LED ZEPPELIN “THE SONG REMAINS THE SAME”

BRING ME THE HORIZON “AMO”

CAGE THE ELEPHANT “CAGE THE ELEPHANT”

MESSAGE FOR JAPAN

Let’s keep the rock tradition alive and reform it in a brand new way suitable for 2020, and the people living this life here and now! This is the way to keep rock music alive and meaningful to all of us. Rock as an attitude (of life too) would then make good for all of us when its pure, with its openmindness and being unoredictable! Keep on rockin, it’s the only way to go!:)

ロックの伝統を生かしながら、2020年に適した形でリフォームしようじゃないか、だって僕たちは今この時を生きているんだから!それこそがロックに活力を与え、僕たち全員にとって意味のあることなんだ。
ロックのアティテュードとは、オープンマインドかつ予測不可能な純粋さだからね!Keep on Rockin, それが前へ進む唯一の道さ!

KÄRTSY HATAKKA

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MY DYING BRIDE : THE GHOST OF ORION】


COVER STORY : MY DYING BRIDE “THE GHOST OF THE ORION”

“Tired Of Tears Was Exactly How I Felt. They Had Been Flowing Freely From Me For Months And I Was a Shadow Of My Former Self. It Is Sad That This Will Continue For Many Others. Innocent People. So Very Tired Of Tears.”

HOW GOTHIC DOOM LEGEND TURNS DARKNESS INTO LIGHT

PARADISE LOST の “Gothic” こそがゴシックメタルの幕開けを告げたレコードであることに異論の余地はないでしょう。
以来、ミルトンの失楽園に啓示を受けた荘厳耽美の象徴は、”Icon”, “Draconian Times” とメランコリーの金字塔を重ねることとなりました。そうして、90年代というメタルの実験室は多種多様なゴシックの重音楽を創造することになるのです。
ゴシックメタルの総本山 Peaceville Records は、その PARADISE LOST, ANATHEMA, そして MY DYING BRIDE の通称 “Peaceville Three” を世紀末の世界へと送り出しました。さらにデスメタルから分岐した SENTENCED や TIAMAT、しめやかな女声をメインに据えた THEATER OF TRAGEDY, THE GATHERING と漆黒に広がる色彩の中でも、ヴァイオリンとクラシカルに沈む暗海 MY DYING BRIDE のゴシックメタルは飛び抜けてドゥーミーな陰鬱だったと言えるでしょう。

30年のキャリアで12枚の仄暗くしかし豊潤な旅路を歩んできた死にゆく花嫁が、自らの音の葉を超える悲劇に見舞われたのは、”Feel the Misery” リリース後2017年のことでした。中心人物 Aaron Stainthorpe の5歳の娘が癌と診断されたのです。Aaron は愛娘を襲った病を 「神の最も残酷な、愛のない創造物の1つ」 と断じ嘆きました。
「2017年9月、5歳になった美しい娘が癌と診断された。心配と混乱のブラックホールが目の前に広がったよ。この恐ろしい病気を取り巻く恐怖は、現実的で残忍で容赦ないものだった。化学療法と二度の手術をくぐり抜け、幸運にも娘は癌を克服した。それでも彼女は、残りの人生を再発と潜在的合併症の恐怖と戦いながら過ごさなければならない。だから私はただ自分が墓に向かう時、彼女が強く率直な女性として生きていて欲しいとそればかり願っているよ。」
娘の罹患は Aaron の人生観、そして未来を大きく変えました。
「彼女が病気になる前は単純で愚かなことにイライラしていたけど、本当に深刻な何かに対処しているとそれが非常に取るに足らないものに思える。例えば昔ならプリンターが上手く働かなければばらばらに叩き壊しただろう。だけど今の私はただ、新しいのを買おうと言うだけさ。私を苦しめ、ストレスを与えるだろう愚かな些細なことは、もはや存在しない。人生に変化があったんだよ。私は変わった。もっとリラックスして落ち着いた人になったのさ。」

創立メンバーで出戻りの Calvin Robertshaw とドラマー Shaun Taylor-Steels がレコーディングの直前にバンドを離れました。
「もっと重要なこと、娘の治療に気を取られていたから、メンバーの離脱を気にかけている暇はなかったね。だから Andrew が Calvin がまた辞めたと言ってきても正直どうでも良かったんだ。幸運にも早めに出て行ってくれたから “The Ghost of Orion” のための彼の素材はそんなに残っていなかったんだけど、後からお金を請求されても嫌だから Andrew が全て書き直したよ。ギタリストなら自分のリフが全て採用されるほうが幸せってもんだ。前のアルバム “Feel the Misery” も Hamish Glencross がレコーディング前に辞めたから同じ状況だった。あのアルバムのレビューはこれまでよりポジティブだったから、Andrew が素晴らしいソングライターであることはすでに証明されているからね。
Shawn の場合、エンジニアの Mark が ex-PARADISE LOST の Jeff Singer を知っていて、僅か2週間で全てを覚えて素晴らしいドラミングを披露してくれたんだ。
もちろん、過去にメンバーが去った時は少しイラついたかもしれない。だけど今回私は別の次元にいたからね。ある意味 MY DYING BRIDE との繋がり自体、少し希少になっていたから Andrew はストレスが溜まっただろうな。メンバーが去ったと慌てても、私は肩をすくめて知らないよと言うだけだったから。」

レコードで最も荘厳にエモーショナルに織り上げられた “Tired Of Tears” は文字通り娘の罹患に枯れ果てた涙の結晶。
「この楽曲は僕の人生で、最も恐ろしくストレスが溜まった時期を扱っている。唯一の子供が死に近づいたんだから。これまでも落ち込んだことはあったけど、これほどではなかったよ。真の暗闇でどう対処して良いのか全くわからなかった。それでも全力を尽くして戦おうと決めたんだ。涙が枯れ果てたとはまさに私が感じていた気持ちだ。何ヶ月も涙が自然と溢れ続けたんだ。」
結局、MY DYING BRIDE のあまりに長く、思索を誘う悲嘆のセレナーデは現実という葬儀の行進を彩る葬送曲です。Andrew によると、「悲惨な楽曲は現実の生活に対処するための準備でありカモフラージュ」なのですから。
MY DYING BRIDE は Peaceville Records と最も長く契約したバンドでしたが、”The Ghost of Orion” で袂を分かち Nuclear Blast と新たに絆を結びました。
「Peaceville を離れたのは時間が理由だったと思う。彼らは私たちのために出来得る限り全てをしてくれたし、完全なる芸術的自由を与えてくれたね。だけど私たちはもっと多くのものを提供したかったし、コミュニティーにおける存在感もさらに高められると感じていたんだ。Peaceville はその渇望を満たすことが出来なかった。Nuclear Blast ほどの巨大なレーベルなら実現が可能だからね。
新たなレーベルと契約し、新たなメンバーを加えて、私は MY DYING BRIDE が蘇ったように感じているんだ。新鮮な空気を吸い込みセカンドチャンスが与えられたようにね。”The Ghost of Orion” は最高傑作に仕上がったと思うし、再びエネルギーを充填して、より大きく、より素晴らしい音楽を生み出すバンドを目指していくんだよ。」

“The Ghost of Orion” は MY DYING BRIDE 史上最もキャッチーでアクセシブルだとメンバー、リスナー、評論家全てが評しています。その変化は存在感を高めるため?それともレーベルの影響?もしくは娘の回復が理由でしょうか?
「全ては意図的に行われた変化だよ。Peaceville 時代の後期からすでによりレイドバックした “イージーリスニング” なアプローチは検討されていたんだ。過去の私たちがそうであったように、若いころは強い印象を与えようとするからね。私たちも4回リフを繰り返して自然に他のパートへ移行する代わりに、ただ驚かせるためだけに同じリフを7回半ひたすらプレイしたりしていた。技術的に優れていることも証明したかったんだと思う。だけど、それはもう過去にやったことだ。今は何も証明する必要もない。
だからこのアルバムにはギターとボーカルのハーモニーがたっぷり含まれているんだ。ダブル、トリプル、時には4重にも重ねてね。さらにコーラスも存分に取り入れて聖歌隊の雰囲気を与えたよ。
ただ、あくまで MY DYING BRIDE 流のコマーシャルさ。だってシングル曲 “The Old Earth” にしたって10分あるんだからね。一般的なコマーシャルとはかけ離れている。それでも、耳に優しいのは確かなようだ。メタルに詳しくない友人が “Your Broken Shore” を褒めてくれたのは嬉しかったよ。つまり新たなファンを獲得しているってことさ。
もちろん、リッチなコーラスに不満を言うファンはいるだろう。でも私たちは新たなチャレンジを楽しみ、前へと進んでいるんだからね。」

新たな挑戦と言えば、チェロ奏者 Jo Quail と WARDRUNA の女性ボーカル Lindy-Fay Hella がゲスト参加しています。チェロはバンド史上初、女声も “34.788%…Complete” 以来初の試みです。
「アルバムを制作していくうち、特別な作品へ発展していることに気づいたんだ。それで私たちだけで仕上げるよりも、他の質の高いミュージシャンを加えて最高のアルバムに仕上げるべきだと思ったのさ。真に際立った2人の女性が、その才能で素晴らしいパートを加えてくれたんだよ。」
今や様々な分野のアーティストに影響を与える立場となった MY DYING BRIDE。では Aaron Stainthorpe その人はどういった芸術家からインスピレーションを受けているのでしょうか? CANDLEMASS と CELTIC FROST は彼にとっての二大メタルバンドです。
「”Nightfall” の暗闇は私の中で生き続けるだろうね!実に巧みに設計されていて、最初から最後まで過失のないレコードだよ。特にボーカルがね。CELTIC FROST なら “Into The Pandemonium” だよ。このバンドが支配するアンビエンスと真の狂気は私にとって純粋に詩的なんだよ。アートワークも素晴らしいよね。」
同時に DEPECHE MODE と DEAD CAN DANCE も当然彼の一部です。
「DEPECHE MODE を愛するメタルヘッドは決して少なくないよ。だって終わりのない落胆と陰鬱が存在するからね。私はアルバムだけじゃなく、12インチ7インチを出来る限り購入していたね。ファンクラブのメンバーにも入っていたくらいだから。
DEAD CAN DANCE で私が最初に聴いた CD は “The Serpents Egg” で、これは長年にわたって個人的なお気に入りなんだ。新しい歌詞や詩を書きたい時に聴きたくなるね。 モダンで厳格な心持ちから、望んでいる温かく創造的な雰囲気に変化させてくれる。このLPは、そうして “言葉の食欲” が落ち着くまで繰り返されるわけさ。」
さらには SWANS まで。「Michael Gira の心は複雑で、その創造的な成果は特に SWANSに現れている。Michael の提供する複雑なリリックと楽曲は、時に不快だけど喜びで価値があるものだ。何が起こっているのかわからないけど、魅力的で戸惑うほど美しい。」

そうした Aaron の才能はいつか小説や映画を生み出すのかもしれません。
「いつか映画を撮るかもしれないね。大きな映画館じゃ上映されないような作品さ。2020年のベストフィルムは “The Lighthouse” だよ。4K やフルカラーで撮影されなければ映画じゃないように思われているかもしれないけど、実際はそうじゃない。」
今年はバンドにとって3枚目のアルバム、マイルストーン “The Angel and The Dark River” の25周年です。興味深いことに、名曲 “The Cry of Mankind” は僅か2時間半で全てが完成した楽曲です。
「Calvin が適当にギターを触っていて、残りのメンバーは無駄話をしていた。でも彼のフレーズの何かが私たちの耳を捉えたんだ。そこから全員で一気呵成に仕上げていったね。こうやって自然と出てくる曲はそれほど多くはないよ。通常は誰かが「私に3つのリフがある。さあここから他の楽器で装飾し楽曲を作ろう」って感じだから、何もないところから作られて絶対的なリスナーのお気に入りになったのは最高だよ。ファンがその曲を愛しているんだから、すべてのギグで演奏しなければならないと思う。」
Aaron と Andrew は唯一のオリジナルメンバーで、その付き合いは30年を超えています。
「私たちは老夫婦のようなものさ。 両方とも同じものを望んでいる。それに私だけがオリジナルメンバーではないのが嬉しいんだよ。親愛なる人生のために、他の誰かがまだそこに留まっているのは素晴らしいことだからね。 もし Andrew が辞めたら、私もタオルを投げるだろうな。彼も同様のことを言っているがね。なぜなら私たちは自分からは辞めると言いたくないんだよ。だから長く続くかもしれないね!私はまだもう10年は続けられると思う。」

PERFECT GUIDE TO MY DYING BRIDE

“AS THE FLOWERS WITHERS” (1992)

MY DYING BRIDE 初のフルレングスは、シンフォニックなイントロダクションでその幕を開けます。たしかに、”Sear Me” で披露するシンセサイザーとヴァイオリンの響きはギターと仄暗きバロックのポリフォニーを形成し、後の耽美なゴシックサウンドを予感させますが、それでもアルバムを通して登場する性急な場面転換や破壊的な突進、響き渡る Aaron のグロウルを聴けば、枯花が最もオールドスクールデスメタルの影響下にあるレコードで未だサウンドを模索中のようにも思えます。
バンドのアイデンティティーを司るヴァイオリン/キーボードの Martin Powell もセッションミュージシャン扱い。それでも、実験性やメロディーに輝きは散りばめられ、疾走する “The Forever People” は今でもファンから愛される佳曲です。

“TURN LOOSE THE SWANS” (1993)

プレイボタンをおして9分30秒間、ディストーションギターが登場しないメタルレコードがいったい何枚存在するでしょうか? しかし、その事実こそ MY DYING BRIDE が自らの陰鬱耽美なゴシックドームを確立した証でした。
“Sear Me” の再考と “Black God” は、魂のナレーション、ピアノとヴァイオリンで構築されたゴシックアンビエントのブックエンドとして、漆黒の迷宮に残された微かなセーブポイント。
残りの楽曲は深い森に潜む底なしの洞窟、絶望のダンジョン。ただし、リスナーは何度も探索を重ねるうちその立ち昇る死の妖気、重鬱なギターの責め苦にさながらマゾヒストの出で立ちで魅了されていくのです。
中でも、”Your River” の協和と不協和、旋律と非旋律、奇数と偶数で組み立てられたゴシック建築のドゥームは圧倒的に不気味を極めた狂気でしょう。
ゴシックエレメントが勃興し、ノンメタルな Martin Powell の存在感、プログレッシブとも表現可能な実験性が増したにもかかわらず、”TURN LOOSE THE SWANS” は死と運命に両足を埋めてています。

“THE ANGEL AND THE DARK RIVER” (1995)

ゴシックドゥームの最高到達点。Aaron がデスグロウルを棄て去り、Martin のヴァイオリンと鍵盤のアレンジが際立つ作品で MY DYING BRIDE はその陰鬱な美の皮肉を完成させました。
インスピレーションの源は、地元ノースイングランドの城、霧、冷気。バンドにとって最も重要な楽曲の一つ、”The Cry of Mankind” はまさにそのサウンドスケープを体現します。
Aaron はこの楽曲について、「宗教に疑問を呈する楽曲。より高次元な精神的存在について歌っている。忘れられないメロディーが楽曲のほぼ全体を支配して、君たちの魂を誘う。君たちを迎えに行き、熟考と誠実な考えの場所に運ぶんだ。 」と語ります。
曇天に鳴り響く孤独なフォグホーン、反復の中毒的ギターリフ、バリトンボイスの洗脳。一方で、”A Sea to Suffer In” の重厚なリフと劇的なテンポチェンジは、ヴァイオリンの美麗と重なり英国のロマンを運びます。
イングランドのトラッドフォークを苦痛と寒さで歪ませた “Two Winters Only” は全ディスコグラフィー中でも Aaron のフェイバリットソングですが、驚くべきことにこの楽曲は彼がいつか子供を持ち難病で失うという当時の予感をしたためたものでした。ライブでは歌わないと決めているそう。

“LIKE GODS OF THE SUN” (1996)

“For My Fallen Angel” の哀れで落胆したシェイクスピアのスポークンワード、青々として美しいマイナーなコード進行、悲しげなバイオリン。実存的な恐怖、憂鬱、孤独を運ぶレクイエムは、アクセシブルな音の葉を増し、後の量産的なゴシックメタルに接近する危険を打ち払う救世曲でした。
この楽曲について Aaron は、「恋人を失うことは悲劇の中でも群を抜いて悲愴だ。だからこそ、私たちは MY DYING BRIDE と名乗っているんだろうな。人生の残りを一緒に過ごしたかったという希望は冷酷に彼らの人生から永遠に取り除かれようとしている。願わくば涙を流すために肩を貸せる友人や家族がいればいいんだけど。」 とバンドのアイデンティティーであることを表明しています。
Martin と Rick にとって最後のレコードとなった事実はある種の啓示でしょうか。実際、アポロンの恩恵を受けたアクセシブルでキャッチーなレコードは、以前のめくるめく壮大さや狂気の実験性をいささか欠いているようにも思えます。
それでも、今でもセットに不可欠な “A Kiss To Remember” は象徴的ですが、アルバムのテーマである罪、官能、罪悪感、抑圧された欲望を物語る美しく、暗く、悲しく、ヘヴィーな MY DYING BRIDE イズムは、単調な反復の中にも蠢いています。Aaron のフェイバリットレコードの一つだそう。

“34.788%…COMPLETE” (1998)

KORN の “Follow the Leader” と同年にリリースされた MY DYING BRIDE のレコードは、ヴァイオリンの不在も相まっておそらく多くのファンにとって悪夢でした。悪名高い “Heroin Chic” を筆頭に、Nu-metal や Aaron が敬愛する PORTISHEAD がしたためた耽美とは程遠い無節操な世界観が広がります。
ブレードランナーにインスパイアされたオープナー “The Whore、The Cook and the Mother” や “Under Your Wings and Into Your Arms” といった楽曲は以前のファンにもアピールする可能性を秘めますが、それでも以前の悪夢とは一線を画す、このガラスを引っ掻くようなリアルな不快の波、無機質な電子の攻勢に魅了されるリスナーは多くはないでしょう。ただし、実験>停滞を掲げる向きにとっては必ず一聴の価値はあるはずです。

“THE LIGHT AT THE END OF THE WORLD” (1999)

34.778%の無残な実験失敗の後、ギタリスト Calvin Robertshow を “追放” したバンドは世紀末に灯す仄かな光で “帰還” を果たします。ヴァイオリンの欠如は別として、6年ぶりにグロウルを復活させた Aaron の目的は白鳥の魔法を取り戻すことだったのかも知れませんね。
実際、全ての魔法を思い出した訳ではないでしょうが、”Heroin Chic” を大惨事と捉えた向きには歓迎の方針転換だったはずです。
幻想的でアンビエントな “She is the Dark” は今でもファンのトップ10リストに入る佳曲ですし、オリエンタルなエピック “Edenbeast” もリスナーのインスピレーションを刺激します。
孤独な生涯に一筋の愛を見出すタイトルトラックは安っぽい感動とは無縁の壮大なモノクロームフィルム。そうしてバンドは “Sear Me III” でゴシックの古典を再訪しトリロジーを終わらせました。「”Sear Me” で探求したのは生涯において純粋で完全に征服される愛を見つけること。そうやってソウルメイトが見つかり、運命と永遠が綴られていることを知ると、涙が自然に零れ落ちるんだよ。」
キーボードは BAL-SAGOTH の Johnny Maudling が担当。

“THE DREADFUL HOURS” (2001)

“The Return of the Beautiful” で古美への再訪が実現したように、”As the Flower Withers” 以来最もヘヴィーな楽曲が収録されたレコードかも知れません。特に、オープニングの三連撃は強烈です。
緩やかに幕を開けるタイトルトラックのクリーンギターはいつしか濃密なグルーヴを携えたドゥームの神殿へと到達します。
Aaron の激情と静謐が最も際立つアルバムにおいて、”The Raven and The Roses” の流麗なピアノセクションから “My fucking god is my want” と全ての感情を解放するクライマックスの対比は群を抜いています。そうして印象的なメロディーの残り香は “My Hope The Destroyer” へと引き継がれるのです。ポストパンキッシュなリズムセクションと重厚なメロディーの調和が意味深な “La Figlie Della Tempesta” も白眉。

“SONGS OF DARKNESS, WORDS OF LIGHT” (2004)

キーボード奏者の Sarah Stanton, ギタリスト Hamish Glencross が加入し再度バンドとしての足固めが行われた作品です。
不気味に迫り来る闘いのリズムと Aaron の鬼気迫る唸り声でスタートする “Wreckage of My Flesh” の絶望感、魂の喪失は圧倒的。Sarah の加入を告げながら鳴り響く教会のオルガンがメランコリーなギターの旋律へと浸透を始めると、リスナーの背筋は悪寒に震えるでしょう。抑鬱された審美と重量感のバランスは際立ち、荘厳の丘で黒の信徒は届かぬ祈りを捧げます。
メロトロンの導入で不気味なムードを加速させる “The Scalet Garden”、さながらドゥーム版月下の夜想曲 “The Prize of Beauty” など新たな鍵盤奏者が魔法をもたらしたレコードでしょう。

“A LINE OF DEATHLESS KINGS” (2006)

シンプル&アクセシブルという観点で見れば、時に “Like Gods of the Sun” を想起させる作品かもしれません。アルバムは実に力強く始まります。ダークでヘヴィなリフの応酬、クリーンとグロウルを股にかけるボーカリゼーション、そしてコーラスを携えた美麗なメロディーモチーフ。感情と音楽スタイルの両方を多分に網羅しながら、わずか6分で簡潔に描写した “To Remain Tombless”はアルバムの明らかなハイライトです。
トレードマークのハーモナイズされたギターと、暗い叙情的なシンセサウンドが交差する “Thy Raven Wings” も傑出しています。

“FOR LIES I SIRE” (2009)

ファンの望む MY DYING BRIDE が完全に帰還したレコードかも知れません。13年ぶりにヴァイオリン奏者が戻り、耽美の設計図は再び完成をみます。
Katie Stone はそのストリングだけでなく、鍵盤でも Martin Powell の幻影を追いかけます。事実、荒廃した音世界に降り注ぐ耽美なギターハーモニー、シンプルでしかし耳を惹くボーカルライン、そして流麗なヴァイオリンのアクセントと MY DYING BRIDE に求める全てを内包したオープナー “My Body, A Funeral” は絶佳のオープナーにしてハイライトでしょう。
Aaron はこの作品について 「おそらく確かなことだが、我々がこれまで作った作品で最も陰鬱だろう。」 と語っています。その判断は各リスナーに委ねられるはずですが、呪詛とデスメタルの不穏で構成された “A Chapter in Loathing” の漆黒は明らかにもう一つのハイライトです。

“A MAP OF ALL OUR FAILURES” (2012)

本編にも記した通り、Aaron は意外なほどに野心家です。ヴァイオリンを取り戻したことも、ある程度はより大きな成功を見据えた結果であるはずです。そうして、彼の野心はデビュー作から20年を経て新たなマイルストーンを打ち立てました。デスメタルの邪悪、ゴシック様式の耽美、Aaron の反復する虚無声、そして新たに加わった Shawn Macgowan のヴァイオリン。ここには死にゆく花嫁の旅路全てが詰まっているのですから。さらに、名作 “The Angel&The Dark River” で多少フラットに思えた鍵盤の響きはより立体感を増して、現代的なサウンドを提供しています。
「昔ながらのやり方で新たなライティングスタイルを模索した。」と前作から加入したベーシスト Lena Abe は語っていますがまさに言い得て妙なのかも知れませんね。
タイトルトラックは実に陰鬱。「肉体的にも精神的にも崩壊を迎える楽曲。私たちのほとんどが経験するだろうことだからこそ、チャレンジングだ。つまり “苦い終わり” だよ。どこかでベッドに一人横たわり、もう何も理解することさえできないかもしれないね。 大きな鎌を持った黒い男が角を曲がり近づいてくる。しばらく一緒に座って…」

“FEEL THE MISERY” (2015)

“34.778%” 以来初めて Calvin Robertshow がバンドに復帰。ただし Hamish が去った世界線でメインソングライターは Andrew が務めます。奇しくも “The Light at the End of the World” とは逆の状況となりましたが、当時よりも Andrew は随分上手く対応したように思えます。
リフドライブとギターハーモニーの狭間で Aaron の原始的なボーカルが映えるオープナー “And My Father Left Forever” は典型的な MDB のやり方。ピアノとオルガンでヴィンテージな色合いを醸し出すタイトルトラックでは Shawn の存在感が際立ちます。
もちろん、”Within a Sleeping Forest” で聴くことのできるヴァイオリンとギターの相互作用はバンドのトレードマーク。”I Almost Loved You” では失われた恋愛を歌います。「ちょっとした誤解と勇気のなさで別々の道を歩んでしまうことは、誰にだって起こり得る。時には不器用な純朴さよりも、大胆に抱き寄せてキスを奪うことだって必要かもね。」近年でも彼らは佳作を連発しています。

“THE GHOST OF ORION” (2020)

新たなクラッシックにして新たな時代の幕開け。チェロとヴァイオリンの二重奏を携えながらアルバムは芸術に振れすぎず、非常に洗練されたサウンドを誇ります。
娘の闘病に着きそう Aaron。突然説明もなしにバンドを再度辞めた Calvin、ドラマー Shaun Taylor-Steelsもスタジオに入る直前離脱。ベーシストの Lena Abe は産休。故にギタリスト Andrew にアイデアを相談する相手はおらず、アルバムはほぼ彼単独で書かれました。にもかかわらず、結果は驚くべきものでした。ただしいつもとは若干その音景色が異なります。
もちろん、バンドはまだ悲惨なドゥームを演奏していますが、Aaron が語ったようにアクセシブルで “耳に優しい” 音の葉を目標としたのは確かです。とはいえ、メインストリームに接近したわけでは当然なく、アルバムはそれでも地獄のように重く、ブラックホールのように暗く、ドゥームの憂鬱に浸っています。
緩やかな楽曲は耳を惹く音の葉の宝庫です。”The Solace” は、WARDRUNA のゲストスター Lindy-Fay Hella の風変わりで抑圧的で、しかし印象的なフォークインスパイアなボーカルが牽引します。”Tired of Tears” の肉感的でシャープな Jeff Singer の現代的ドラムパフォーマンスも聴きどころの一つでしょう。
タイトルトラック “The Ghost Of Orion” から “The Old Earth” の15分でバンドはゴシックドゥームの真髄を語ります。クリーンギターのプレリュードに始まり、巧妙で耽美なリード、アーロンの落ち着いた低音が散りばめられていきます。そうしてクラッシックな MDBのリフワークは Aaron の肺を引き裂く悲鳴とともに重厚なミドルセクションへと誘います。そうしてエンディングでは、ヴァイオリンとギターがせめぎ合うクレッシェンドの魔法を古の地球に描くのです。
悲劇とストレスの鎮座する制作環境はむしろ悲劇を描くバンドにとっては正の要素だったのかも知れません。これは死にゆく花嫁の新たな旅立ちであり、新たな金字塔です。

参考文献:INVISIBLE ORANGE:Pressing Forward: My Dying Bride’s Aaron Stainthorpe Talks “The Ghost of Orion” and the Trials of Life 

METAL INJECTION:MY DYING BRIDE’s Aaron Stainthorpe: The Artists That Made Me

STEREOBOARD:Tired Of Tears: How My Dying Bride Overcame Adversity To Make ‘The Ghost Of Orion’

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NOVENA : ELEVENTH HOUR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HARRISON WHITE OF NOVENA !!

“We Felt That Ross & Gareth, The Two Tones They Created Were Distinct, Rich And Balanced Each Other Out Nicely. It Really Gave Us a Wide Palette Of Colours To Paint With On This Album. We Love Playing With That Duality Of Light/Dark, Fragile/Destructive etc.”

DISC REVIEW “ELEVENTH HOUR”

「僕たちはあらゆる種類の音楽が大好きだからね。どのジャンルが何であるかは僕たちにとってそれほど重要ではないんだよ。すべての音楽に価値があると信じているからね。」
HAKEN, SLICE THE CAKE, THE HAARP MACHINE, RAVENFACE, SLUGDGE, そして BLEEDING OATH。21世紀のプログレッシブ世界において最重要と言える綺羅星の住人が集結した NOVENA は文字通りのスーパーグループです。そうして彼らが創り上げたデビューフル “Eleventh Hour” は、その多様性と劇場感、旋律の煌めきで10年代最高峰のモダンプログ作品となった HAKEN の “The Mountain” と同等のエピックワールドを宿していたのです。
「死は僕たち全員をつなぐものだけど、それについて話すことはしばしば非常に難しいようにも感じられる。ただし、この作品が不健全で悲観的なレコードになることは望んでいなかったんだ。僕たちの本当の目的は、人生で最後の章に入った人々のストーリーを取り上げ、彼らの経験がどのようなものかを探ることだったからね。」
“Eleventh Hour”, 23時とは、人生を24時間に例えたライフクロックにおける残り1時間、まさに終焉の刻。その僅かな時間の光度や色彩、流速はきっと千差万別でしょう。NOVENA はそんな終幕の舞台を73分、10の顔で演じきり、単色に思われた悲壮な死のイメージをカラフルに塗り替えて見せたのです。
「Ross と Gareth、ボーカルの2人が NOVENA で創造した2つのトーンは明確で、豊かで、 互いにバランスが取れていたんだ。このアルバムにペイントする色彩豊かなパレットを提供してくれたんだよ。つまり僕たちは、明/暗、脆弱/破壊といった二重性をプレイするのが大好きなんだ。」
モダンプログ世界において、LEPROUS の Einar Solberg と共にエセリアルを一手に引き受ける Ross Jennings の存在により、たしかに NOVENA と HAKEN の比較は避けがたいものとなっています。しかし、声の片翼に SLICE THE CAKE の鬼才 Gareth Manson を配置することで、NOVENA の可能性はエピックの空高く舞い上がることとなりました。
その NOVENA の独自性を証明するのが、ジャズの深淵を探求した “Sail Away” からシアトリカル極まる “Lucidity” への流れでしょうか。時の流れをしめやかに紡ぐ Ross の美麗の一方で、激烈なグロウルからクリーントーンのコーラス、そして感情を湛えるスポークンワードまで多様に演ずる Gareth の才気は完璧なコントラストを運び、まさに死を眼前に見据える複雑な明と暗、穏と激を見事に描写します。
そうして芽生えたダイナミズムの炎は、”Corazon” でエスニックに燃え上がります。「単なる断片的な音楽じゃなく、物語を語り ‘楽曲’ を書くことは、作曲の過程が常に重要であり、僕はそのストーリーの伝達に最も役立つと思われるあらゆるツールを試して使用したいと思っているんだ。だからキューバの2人のキャラクターを追った “Corazon” のような楽曲の場合、そのストーリーを伝えるにはその国の音を含める必要があると感じたんだよ。」
フラメンコからボレロにルンバ、女声にハンドクラップまで、Harrison の言葉通りあらゆるツールを使用してドラマティックに構成した8分のカリブ劇場は、あまりにエモーショナルで胸を打ちます。
もちろん、”Indestructible” で見せるポップとデスコア、言わば STYX と WHITECHAPEL の共存は実に新鮮ですし、DREAM THEATER と Djent をメズマライズに並列に並べた15分を超えるクローサーの “Prison Walls” も見事の一言。
今回弊誌では、Harrison White にインタビューを行うことが出来ました。「Djent の定義? アートフォームの先駆者が客観的な意味で独自のスタイルを定義することはほとんどないんだから。そういった議論は後に人々が振り返り、その周りで起こった流れの文脈の中でアートを見て、物事を分類し始めるときに起こるんだよ。」 すでにシーンの同胞から絶賛を浴びている本作。プログメタル世界随一の変態ベーシスト Moat にも要注目。どうぞ!!

NOVENA “ELEVENTH HOUR” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【POPPY : I DISAGREE】


COVER STORY: POPPY “I DISAGREE”

ALL PHOTO BY ERIKA ASTRID

“I Think I Just Get Bored Really Easily And Also I View Things In Eras,David Bowie Is a Big Influence And Inspiration To Me, And I Know That He’s Very Famous For His Different Eras And Stages And Evolutions. I Think It’s Kind Of An Artist’s Responsibility To Evolve Constantly.”

EVEN IF GENRE IS DEAD, POPPY IS DANCING ON IT’S GRAVE

「美は痛みであり、痛みはキャラクターを構築する。」 Poppy が毎朝目覚めてまず自分に語りかける言葉です。それこそが Poppy の持つミステリアスな部分でしょう。実際、その日その日に生まれる審美の痛みにより、彼女のルックスや役割、それに音楽性は猫の目のように豹変を続けます。
ポップスター、俳優、監督、アンビエント音楽の作曲家、宗教指導者、DJ、コミックキャラクター、YouTuber、パフォーマンスアーティスト…Poppy の天職はいったいいくつ存在するのでしょうか?
さらに Poppy の YouTube チャンネルは彼女のキャッツアイを見事に伝えています。まるで隣の女の子のように Gwen Stefani の流儀で陽気なポップソングを歌ったかと思えば、Diplo のダンスビートでロボティックなバービーを演じてみせ、さらにはメタルリフのハンマーでリスナーの精神を打ちつける死の天使にさえ変化するのですから。
ほぼ全てのMVが100万視聴を超え、”デジタルラビットホール” の中枢に位置し、”ASMR 人間” とまで称される Poppy。なるほど、音楽を作り始める前にその人気とペルソナをオンラインで確立したという点で彼女はまさに21世紀の “現象” そのものでしょう。

現在20代半ばの Poppy こと Moriah Pereira は、2010年代中盤に Titanic Sinclair 監督がタクトを振るう奇妙な一連のビデオ作品で世界に登場しました。Poppy が “I’m Poppy” と繰り返すだけのクリップや、Charlotte というマネキンにインタビューされ植物にインタビューするシュールな世界観は大きな波をポップカルチャーにもたらす予感を植えつけました。
そうして Sinclair、カナダのヒットメーカー Simon Wilcox との創作を始めると MV の予算は劇的に増加し、オートクチュールのワードローブからおとぎ話の衣装に、日本の “Kawaii” 美少女スタイルまでその音楽性同様色とりどりのファッションで世界を魅了し始めたのです。ただしオンラインのスターダム、そして完璧なポップスターのイメージは彼女が目指す場所ではありませんでした。
「自分自身をポップスターとしてではなく、単なるアーティストやクリエーターだと思っていたの。永遠に同じでいるなんてつまらないわ。私はすぐに退屈してしまうし、物事を時代を通して見てしまうのよ。David Bowie には大きく影響されているし、とてもインスピレーションを受けているわ。何より彼は時代ごとに大きく異なることで有名だし、ステージ共々常に進化を遂げていたわ。常に進化を続けることはアーティストの義務だと思っているの。」

もちろん、David Bowie は1973年に自らの幻想、別人格である Ziggy Stardust をハマースミスオデオンのステージ上で葬りました。メタルへと舵を切った Poppy も、以前のバージョンの Poppy を意図的に葬ったと言えるのでしょうか?
「間違いないわね。Poppy ver.0、Poppy ver.1 は Poppy ver. X によってアップデートされているわ。私が “X” をリリースした時、みんなとても気に入っているように思えたわ。そして始めて私は自分の音楽を聴いて再度インスパイアされたの。」
“Poppy.Computer” と “Am I a Girl?” が日本の “Kawaii” 文化と未来派をクールとする新世代をターゲットに制作されたことは明らかでした。”I Disagree” には一方で悪魔の角が備わっています。時にスラッシー、時にチャギーなリフアタックはキュートでポップな Poppy のイヤーキャンディーとプログレッシブに溶け合います。きっとアメリカの特定の層にとって、今や日本の “Kawaii”, “Otaku” そしてメタルはヒップなカルチャーなのでしょう。

カルトフォークとヘヴィーな音の葉をミックスした “Am I a Girl?” のクローサー “X” によって Poppy がメタルに移行したと決めつけるのは簡単です。ただし、Poppy 自身は自らをメタルアーティストだとは思っていないようです。
「メタルに傾倒しているかって? 答えは #Idisagree よ (笑)。もちろん、間違いなくメタルからの影響は存在するわよ。だってアルバムを作っている時、私たちが聴いていた音楽こそメタルなんだから。ただ、アルバム全体を聴けば、よりプログに傾倒している場所もあるはずよ。当然、未だにポップな部分もあるわ。だけどもう一番の要素じゃないわね。三番目ね。」
法的な闘争や Grimes とのいざこざ、悪質なレコード契約によって溜まった鬱憤を晴らすカタルシスがメタルだったという側面もあるようです。
「全ての怒りを私のアートに注ごうとしたのよ。だけど自然なことよ。”Am I a Girl?” を書いている時、私はスタジオまで運転する車でヘヴィーな音楽ばかり聴いていたのよ。蝶々や虹の曲を書きながらね。全然繋がってないって思ったわ。」

メタルに目覚めたのはごく最近のことなのでしょうか?
「いいえ。私はメタルを聴いて育ったから、またちょうど戻ってきたって感じね。聴く音楽は日によって違うんだけど、NINE INCH NAILS と Gary Numan はずっと好きだったわ。だけど同時に、ダンスのバックグラウンドも持っているし、ポップミュージックも愛しているの。だから当時、自分の音楽でダンスやポップを探求するのは理にかなっていたのよ。逆に今は自分の感情を発信するのにメタルが適してるって感じかな。」
Poppy にとってエクストリームミュージックへの入り口は MARILYN MANSON でした。
「幼い私の目を引いたのは、MARILYN MANSON 全ての衝撃値だったわ。キッズが彼のTシャツを着ていると、道行く人は二度見をしていたわ。最初はそれがとても魅力的だったの。それから音楽にハマっていったの。だけど私は結局、彼の創造した文化こそがマジカルだったと思うの。素晴らしかったわ。そしてある種彼はその魔法を利用していたと思う。」
Poppy が目指すのもまさにその魔法。つまり、カルチャーの想像力を長期的に捉える能力。Trent Reznor もその能力に秀でていると Poppy は考えています。もちろん Beck も。いつか Poppy がコラボレートを果したい偉人たちです。
「自分の成長を通して、リスナーも共に成長してくれることを望んでいるのよ。」

ただし、彼女の路線変更は既存のファンを犠牲にする可能性を孕んだギアチェンジでもあります。実際、”I Disagree” のオープナー “Concrete” には、”快適と不快を行き来する” “よく分からない” “双極性障害の曲” といった批判的なコメントも寄せられてています。
「SLIPKNOT, BABYMETAL, QUEEN, THE BEACH BOYS が一緒に作曲したみたいなんてコメントもあったわね。嫌いじゃないわ。」
Poppy の進化には今のところ、確かにメタルが含まれます。ただしそれ以上に重要なのは、”I Disagree” が彼女が音楽を作り始める以前に YouTube で構築した自身のペルソナから一歩踏み出したことでしょう。
「”I Disagree” は私のファーストアルバムのように感じているの。以前リリースした2枚のアルバムは、私の YouTube チャンネルのストーリーラインに沿っていたから。だから自分の足で立つことが出来たこの新たな音楽はまるで旅立ちね。他のアルバムは YouTube のコンテクストにある Poppy だったのよ。」

以前の作品と “I Disagree” の違いはそれだけではありません。初期の彼女のリリックは、間違いなく現代を覆う倦怠感を中心に展開されていました。SNS によって引き起こされる不安と、容赦のない情報の攻勢。彼女のペルソナ同様、そのリリックが音楽より先行していた一面は確かにあるはずです。”I Have Ideas” と題された YouTube 動画でかつて彼女はこうマントラを繰り返していました。
「携帯を充電するたび、新たな命を吹き込むわ。そして携帯が私を定義するようになるの。携帯が死ぬ時、私も死ぬわ。」
ダブステップで魂を吸い上げる “Bloodmoney” で宗教的な抑圧を、Madonna と Manson の落とし胤 “Fill the Crown” で個人主義とエンパワーメントをフォーカスした Poppy の旅路は以前よりも確実に多様です。
“Sit / Stay” は90年代の PRODIGY? 緊張と緩和を突き詰めたオペラティックなプログメタルエピック “Don’t Go Outside” での幕引きも完璧。JELLYFISH までふわふわと漂うアルバムにおいて、もちろん、トリップホップと Nu-metal の狭間で「私はあなたに同意しません」と大衆が共有しない予想外の世界を望むタイトルトラック “I Disagree” は進化の象徴。
「歌詞のテーマは間違いなく制作中に感じたことよ。他人や自分に根ざしたフラストレーションによってね。”Nothing I Need” は一番大切な曲よ。初めて、欲しいものは全てここにあるけどそれでも前へ進んで大丈夫だって感じられたの。今が十分幸せでも何かを追求して構わないんだって楽曲なのよ。」

同時に、英国のポップ感覚、Billie Eilish のビート、メタルリフの猛攻に NINE INCH NAILS のダークリアルムを内包するアルバムは近年のチルなポップミュージック、さらに自らのヒットシングル “Lowlife” とも何光年もの隔たりがあるようにも思えます。
「私が愛してきた全てを注ぐことができたわ。完全に自由になって、アルバムが完成するまで他人に意見を述べることを許さなかったから。例え意見を受けたって、実際に考慮したりはしなかったわ。自分にとって幸せで誇りに思うものを作ったばかりだけど、ツアーでアルバムの曲を聴いてみたいともう思っているの。全てが正しいと感じているから。」
クリエイティブパートナー、Titanic Sinclair との別れはまさに破壊からの自己再生。その回復力と新たな自由を享受する Poppy の生命力には目を見張ります。
「私を封じようとする、押さえ込もうとする人たちに対抗する力を再び取り戻したのよ。」

ロボットよりもカウボーイとカントリーミュージック、田舎の仕来たりが未だ根強いナッシュビルで生まれ育った Poppy がアウトサイダーとして見られたことは容易に想像出来るでしょう。ダンサーを目指しながら彼女は幼少期の大半をベッドルームで過ごしています。公立学校に馴染めず、ホームスクールで勉強を続けました。
「意図的に様々なことから距離を置いていたのよ。公立学校に良い思い出はないわね。ほとんど喋らなかったから、からかいの対象になっていたの。痩せっぽっちで静かなヤツだってね。」
故にある程度オンラインの世界で育ったことは Poppy も認めています。
「インターネットが先生だったの。それにファーストアルバム “Poppy.Computer” の中で、”私はあなたのインターネットガール” って歌っているしね。だけど自分の人生全てをオンラインに委ねている若い子たちと比較すれば、私は自分自身をどのように提示して、何をオンラインにするか賢明に選択していたわ。それは幸運だったと思うの。インターネットだって永遠ではないわ。そのことを真剣に受け止めている人が少なすぎると思うのよ。」

実際 Poppy は “I Disagree” でオンライン世界についてよりも、個人的な経験を多く語っています。SNS に費やす時間も過去に比べて大きく減少しているのです。
「前とは違うやり方でやっているわね。基本的に Instagram を使っているの。Twitter は全く使わないから Instagram がファンと交流する場所になっているのよ。だけどファンのコメントを読むのは最初にポストした時だけ。時間をおいて考えすぎた人のコメントを読むのは危険だわ。タフな世界だけど、私はそれを認識して敬意を払うようにしているわ。もちろん、スーパーコンピューターにもね。」
SNS 自体の在り方も変化していると Poppy は考えています。
「SNS も最初は良かったのよ。でも最近では、悪意と怒りとモブと誤情報に溢れている。振り子のようなもので、きっと良い時もあれば悪い時もあるのね。できればその中間で落ち着いて欲しいのだけれど。そうでなければ、新たなインターネットを作るしかないわね。きっと出来るわ。」

かつて AI アンドロイドを気取った彼女の主張にはテクノロジーへの恐れも含まれています。FEVER 333 をフィーチャーした “Scary Mask” は AI についての楽曲。
「もうちょっとみんなに考えて欲しいのよ。だって最終的に AI は人類を凌駕し、きっと滅ぼしてしまうわ。だから毎日 AI に餌をやる前に少し考えてみて欲しいの。そうすれば、そのプロセスを遅らせることは出来るはずよ。」
新たなステージへと到達した Poppy ver. X はジェンダーの観点からも変化を見せ始めています。”Am I a Girl?” で少女でいることを楽しんでいた Poppy の姿はもうそこにはありません。
「作品をシネマティックで美しく、怒っていてエモーショナルにしたかったの。ジェンダーに関係ない方法で力を受け取って欲しいのよ。」
きっと、2020年の “名声” には2つの層が存在しています。1つは、伝統的な俳優、テレビスター、ポップスター。もう1つ、世界が無視出来なくなっている新たな名声こそ、フォロワー数百万を誇る SNS スターや YouTube セレブでしょう。もちろん、これまでと異なる出自の後者の実力には懐柔的な見方も存在するのは確かです。しかし、そのポスターガールと言える Poppy の成長、多様性、アーティストとしてのクリエイティブなビジョンを見れば、20年代さらにインターネットからトップスターが飛び出すことは決定的と言えるでしょう。

参考文献:REVOLVER MAG:POPPY: INSIDE THE SHAPE-SHIFTING, METAL-EMBRACING WORLD OF “YOUR INTERNET GIRL”

NME:The Big Read – Poppy: Human After All

DIY: JUST A GIRL: POPPY

KERRANG!:POPPY: “I’VE NEVER SAID MY MUSIC IS METAL… WE’RE TURNING A NEW PAGE”

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY CATAFALQUE: NAIV】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TAMAS KATAI OF THY CATAFALQUE !!

“I Realized That What I Do Is Very Similar To What Naïve Painters Do. They Lack Formal Training And They Have This Childlike, Dreamy Attitude, Some Pureness And Instinctivity Unlike Trained Artists’ Professional And Practical Approach.”

DISC REVIEW “NAIV”

「常に他の多くのジャンルも聴いてきたから、メタルが僕を完全に独占したことはないんだけど、それでも僕の人生にとってとても重要な部分だと言えるね。ただ、故に僕はメタルに何かを組み込むことや、メタルを音楽の一部としてのみ考慮し音楽の根源、ベースとしないことを恐れることがないだけなんだ。」
モダンメタルに住まうバンドの多くが、メタルとアウトサイドメタルの音の葉を掛け合わせながら、サブジャンルという枝葉を無限に伸張させています。ただし、そこに誠実さや純粋さ、敬意を深々と込めるアーティストは決して多くはないでしょう。
ハンガリーを始点とし、Tamás Kátai のライフワークとも言える THY CATAFALQUE は、メタルから遠く離れた次元の音楽にさえ、鋭く一切の妥協なしに向き合いながら真の意味での豊かな多様性を模索しています。
「僕がやっていることは、ナイーブアートの画家の創造と非常に似ていることに気づいたんだ。彼らは絵画の正式なトレーニングを受けていない。だから訓練された芸術家の専門的かつ実践的なアプローチとは異なり、子供っぽく夢のようなアティテュード、純粋さと本能を持っているからね。」
最新作 “Naiv” は “ナイーブアート” からインスピレーションを得て制作されたと Tamas は語ります。音楽制作を始めた時点でギターを所持さえしていなかった鬼才は、「僕はトレーニングを受けたミュージシャンじゃないし、限界も明らかだからね。」 と語る通り楽器のスペシャリストと言う訳ではありません。ただしそれ故に、ナイーブアートとシンクロする境界のない純粋で本能的な音色をレコードというパレットに描き出すことが可能なのかも知れませんね。
「様々な楽器を使って様々なアイデアを試し、友人を招待したんだ。彼らの貢献はマテリアルを実に豊かにし、僕をさらに刺激し、ある種創造の触媒のような感じだったな。新鮮な声、新鮮な楽器は、僕とっても、ゲスト参加者にとっても、オーディエンスにとっても、音楽を新鮮で刺激的なものにしてくれる。僕はそれが “win-win” な状況だと思っている。」
エゴに囚われない Tamas の姿勢はそうして11人のミュージシャンと多種多様な楽器の躍動をレコードに刻み込むこととなりました。3人のボーカル、語り部、フレットレスベース、ウード、チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリン、クラッシックギター、トロンボーン、サックス、フルート。カロチャ刺繍のごときカラフルな音素材の群れがボーカル、ギター、ベース、キーボード、プログラミング、ダラブッカ、ツィターをこなす Tamas の才能と出会うとき、”Naiv” に宿るドナウの雄大にも似た音流は無限の広がりを見せるのです。
「僕はナイーブアートの純粋さとフォークロアの純粋さを共にキャッチし、それらを刺激的で未来的な文脈に組み入れることを目指していたんだ。」
実際、”Naiv” はオールドスクールなブラックメタル、奇々怪界なプログレッシブ、TIAMAT や MY DYING BRIDE のダークゴシック、ハンガリアンフォーク、魅惑的なフィーメールボイス、ジャズベースのホーンセクション、クラシカルストリングス、レトロフューチャーなシンセウェーブがシームレスに流れ行く創造性の大河だと言えるでしょう。そうして、THY CATAFALQUE の冒険心に満ち、時に夢見がちな船旅は、ハンガリーの音楽家がハンガリー語で紡ぐことによりさらにその哀愁と叙情の影を濃くするのです。
今回弊誌では Tamás Kátai にインタビューを行うことが出来ました。「ハンガリーはそもそも大きな国ではないからね。国の規模や人口に比べて、メタルバンドの数はかなり多いと思うよ。80年代には、TORMENTOR と POKOLGEP、2つの国際的に有名なメタルバンドがあったけど、両方とも今日でも活躍しているしね。彼らはハンガリーの多くの若者がギターを手に取ってメタルをプレイする後押しをしたんだ。」 どうぞ!!

THY CATAFALQUE “NAIV” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FEN : THE DEAD LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE WATCHER OF FEN !!

“I Am Huge Advocate Of a Lot Of The 60s/70s Prog Scene – Yes, Genesis, King Crimson, Rush, Pink Floyd, These Sorts Of Acts And Many More Are a Big Influence On My Approach To Song/Riff-Writing.”

DISC REVIEW “THE DEAD LIGHT”

「僕が育ったかつては湿地帯だった荒野。この風景とそれが体現する感覚の両方を伝えようとすることが、僕の音楽に真のフィーリングと信憑性をもたらす唯一の方法だったんだ。FEN の音楽は大部分がこの特別な雰囲気をリスナーに届けるためのメカニズムで、彼らを荒涼として風にさらされた冷たい旅に誘うんだ。」
古い修道院、朽ちた電信柱、鄙びた風力タービンが唯一人の存在を感じさせる不毛の湿地帯フェンズ。イングランド東部の仄暗い荒野を名前の由来とする FEN は、キャリアを通してその白と黒の景色、自然の有り様と人の営みを伝え続けて来ました。そして奇妙な静けさと吹き付ける冷厳な風、くぐもった大地の荒涼を音に込めた彼らのダークな旅路は、”The Dead Light” に集約しています。
「当時は本当に小さなシーンだったな。僕たち、Neige のプロジェクト、ALTAR OF PLAGUES, それからおそらく LES DISCRETES。数年間は小さなままだったけど、ALCEST がより有名になるとすぐに爆発したね。 彼らのセカンドアルバム “Ecailles De Lune” は、ジャンルの認識を本当にターボチャージさせたと思うね。」
今では飽和さえ感じさせるポストブラック/ブラックゲイズの世界で、FEN は最初期からジャンルを牽引したバンドの一つです。ALCEST に親近感を覚え敬意を抱く一方で、DEAFHEAVEN には少々辛辣な言葉を投げかける The Watcher の言葉はある種象徴的でしょう。
なぜなら、FEN の心臓である “シューゲイズ、ポストロック、ブラックメタルの意識的な融合” は、決して奇をてらった “クレバーなマーケティング” ではなく、フェンズを表現するための必然だったのですから。
「僕は60年代/​​70年代のプログレシーンの強力な支持者なんだ。YES, GENESIS, KING CRIMSON, RUSH, PINK FLOYD といったバンドは、僕のソング/リフライティングに対するアプローチに大きな影響を与えているよ。ほとんど僕の作曲 DNA の本質的な部分と言っても過言ではないね。」
FEN がその ALCEST や他のポストブラックバンドと一線を画すのは、自らの音の葉にプログレッシブロマンを深く織り込んでいる部分でしょう。
実際、”The Dead Light” は PINK FLOYD のスロウダンスを想わせるドゥームの質量 “Witness” でその幕を開けます。ポストロックのメランコリーとプログレッシブなサイケデリアは、2部構成のタイトルトラック “The Dead Light” へと引き継がれ、メタリックな星の光を浴びながら ENSLAVED や VOIVOD にも迫るアグレッシブな酩酊のダンスを誘います。
「光が人間の目に届くまでに消滅した天体だってあるよ。つまり地球から遠い過去への窓を見ているようなもので、光子の量子が空虚を通して力を与え、最終的にアルバムタイトルのまさに “死の光” “長い死” のイメージを届けるんだ。」
もしかすると今、瞳に映る輝きはもはや存在しない死んだ星雲の残像なのかも知れない。そんな空想を巡らせるに十分なロマンチシズムと荘厳さを併せ持つ “Nebula” の魔法でポストブラックに酔いしれたリスナーは、”Labyrinthine Echoes” でプログレッシブとブラックメタルが交差する文字通り宇宙の迷宮へと迷い込み、そうして “Breath of Void” で遥かな天空から荒野の虚無を体感するのです。
もちろん、蒼く冷たい失血のロンド “Exanguination” はきっと彼の地に住まう人々の苦難、喪失、孤立、そして誇りを体現しているはずです。
今回弊誌ではフロントマン The Watcher にインタビューを行うことが出来ました。「ブラックメタルシーンは生き生きとしていて、魅力的な作品を作成する熱意を持ったアーティストで溢れているんだ。全くエキサイティングな時代だよ!」 冷厳でしかしロマンチックなブラックメタルファンタジー。どうぞ!!

FEN “THE DEAD LIGHT” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCHAMMASCH : HEARTS OF NO LIGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH C.S.R OF SCHAMMASCH !!

“To Me, The Question For The Source Of Inspiration Is The Same Question As “Where Does Life Come From?”. My Answer For Both Questions Would Be “The Cosmic Energy That Creates All And Destroys All”

DISC REVIEW “HEARTS OF NO LIGHT”

「スイスがいかに本当に小さな国であるかを考慮すれば、僕たちの国には初期のエクストリームメタルシーンとその進化にインパクトを与えたバンドがかなり存在したんだよ。」
バーゼルに居を構えるスイスメタルの灯火 SCHAMMASCH は、内省的でスピリチュアル、多義性に富んだトランセンドブラックメタルで CELTIC FROST, SAMAEL, CORONER といった同郷の巨人たちの偉大な影を追います。
「”Triangle” は、恐怖心から解放された心の状態へと導く道を切り開く試みだったね。それを悟りの状態と呼ぶイデオロギーもあるだろう。」
SCHAMMASCH がメタルワールドの瞠目を浴びたのは、2016年にリリースした “Triangle” でした。3枚組、16曲、140分の壮大極まるコンセプトアルバムは、様々な恐怖、不安から解脱し悟りと真の自由を得るためマスターマインド C.S.R にとって避けては通れない通過儀礼だったと言えるでしょう。
もちろん、彼らが得た自由は音楽にも反映されました。ポストロック、プログレッシブ、オーケストラル、さらにはダウンテンポのエレクトロニックなアイデアまで貪欲に咀嚼し、広義のブラックメタルへと吐き出した怪物は、BATUSHKA, LITURGY, BLUT AUS NORD, SECRETS OF THE MOON などと並んで “アウトサイドメタル” へと果敢に挑戦する黒の主導者の地位を手に入れたのです。
「ULVER はもしかしたら、長い間どんなメタルの要素も受け継がずに、それでもメタルというジャンルから現れたバンドだろうな。だから、彼らの現在の姿はとても印象的だよ。」
実際、初期に存在した “具体的” なデスメタリック要素を排除し、ある意味 “抽象的” なメタル世界を探求する SCHAMMASCH が、概念のみをメタルに住まわせる ULVER に親近感を抱くのは当然かも知れませんね。そして最新作 “Hearts of No Light” は、”Triangle” の多義性を受け継ぎながらアヴァンギャルドな音の葉と作品の完成度を両立させた二律背反の極みでしょう。
ブラッケンドの容姿へと贖うように、ピアニスト Lillan Lu の鍵盤が導くファンファーレ “Winds That Pierce The Silence” が芸術的で実験的で、しかし美しく劇的なアルバムの扉を開くと、狂気を伴うブラックメタリックな “Ego Smu Omega” がリスナーへと襲いかかります。
プリミティブなドラミングと相反するリズムの不条理は暗闇の中を駆け抜けて、レイヤードシンセと不穏でしかし美麗なギターメロディーの行進を導きます。悪魔のように囁き、時に脅迫するボーカルと同様に楽曲は荘厳と凶猛を股にかけ、リスナーに社会の裏と表を投影するのです。
故に、一気に内省と憂鬱のアンビエント、ピアノと電子の “A Bridge Ablaze” へ沈殿するその落差はダイナミズムの域さえ超越しています。”Ego Smu Omega” や “Qadmon’s Heir” の壮大劇的なプログレッシブブラックを縦糸とするならば、”A Bridge Ablaze” や “Innermost, Lowermost Abyss” の繊細でミニマルなエレクトロピースはすなわち “光なき心” の横糸でしょう。
そうして静と動で織り上げた極上のタペストリーは、さらにゴスとポストロックの異様なキメラ “A Paradigm of Beauty” のような実験と芸術のパッチワークが施され SCHAMMASCH をブラックメタルを超えた宇宙へと誘うのです。その制限なきアヴァンギャルドな精神は、32年の時を経て再来する “Into the Pandemonium” と言えるのかも知れませんね。
今回弊誌では、ボーカル/ギター C.S.R にインタビューを行うことが出来ました。「僕にとってインスピレーションの源に関する質問は、「人生はどこから来たのか?」と同じ質問なんだよ。そしてその両方の質問に対する答えは、「すべてを創造し、すべてを破壊する宇宙エネルギー」からなんだ。」 どうぞ!!

SCHAMMASCH “HEARTS OF NO LIGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSEQUIAE : THE PALMS OF SORROWED KINGS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TANNER ANDERSON OF OBSEQUIAE !!

“For Example, Satyricon’s “Dark Medieval Times” Does Not Have Medieval Riffs. And That’s The Point. Metal Often Alludes To These Themes Without Actually Using Them. I Want To Use Them. And That’s The Difference.”

DISC REVIEW “THE PALMS OF SORROWED KINGS”

「SATYRICON の “Dark Medieval Time” には中世のリフなんて含まれていないよ。そこが重要なんだ。メタルはしばしば、中世の音楽を使用することなく、そのテーマを仄めかして来た訳さ。僕は実際に中世の音楽を使用したい。そこが違いさ。」
黒死病の蔓延、階級社会、厳格なキリスト教倫理、貧困、多産多死。”Near-Death Times”、死の香りや足音があまりに身近であった暗美な中世ヨーロッパを現代へと映し出す “古城メタル” OBSEQUIAE は、メタルお得意のメディーバルな世界観、ドラゴンのファンタジーをよりリアルに先へと進めます。
「多くのメタルバンドが中世のイメージやテーマを扱っている。だけど、ほとんどの人はリアルな中世の音楽がどんなサウンドなのか知らないよね。例えばそれはケルティック音楽でも、多くの映画で流れるファンファーレでもないんだよ。音量がとても小さくなる危険を孕んでいるけど、もっと複雑でやり甲斐のある音楽なんだ。」
“歌う宗教” とも例えられるキリスト教を基盤とし、1000年の悠久をへて単旋律から複旋律へと進化を遂げた中世西欧音楽は、現代の音楽家にとって未だ探索の余地に満ちた白黒写真だと OBSEQUIAE のマスター Tanner Anderson は語ります。故にアーティストは自らのイマジネーションやインスピレーションを色彩に描きあげることが可能だとも。
「あの時代の音楽にはまだまだ発見すべき余地が沢山残されているからね。今日僕たちが音楽を記すように記されていた訳じゃないし、拍子だってなかったんだからとても “自由” だよね。」
リュートやハープ、ダルシマーを画筆として中世の音景に命を吹き込む “The Palms of Sorrowed Kings” で OBSEQUIAE はリスナーの “不思議” をより鮮明に掻き立てました。
「実のところ、僕は OBSEQUIAE をブラックメタルだなんて全く考えたこともないんだよ。僕の影響元は、SOLSTICE (UK), WARLORD (US), FALL OF THE LEAFE, EUCHARIST, OPHTHALAMIA みたいなバンドだからね。」
メロディックブラックメタル、メディーバルブラックメタルと称される OBSEQUIAE の音楽ですが、城主の思惑は異なります。
「トラディショナルなメタルに自らのインスピレーションを加えるようなアーティストは尊敬するよ。」
DARK TRANQUILLITY や IN FLAMES といった “最初期の” メロディックデスメタルに薫陶を受けた Tanner は、トレモロやアトモスフィアといったブラックメタルのイメージを抱きながらも、むしろ兄弟と呼ぶ CRYPT SERMON, VISIGOTH と共にトラディショナルメタルのリノベーション、”メタルレコンキスタ” の中心にいます。
「僕はギターのレイヤーとテクスチャーに重量感をもたらしたいんだ。そして、多くの場合、メロディーのフレージングは “声” として聴こえてくるんだよ。」
“In The Garden of Hyasinths” を聴けば、輝きに満ちたギターのタペストリーが十字軍の領土回復にキリストの奇跡をもたらしていることを感じるはずです。その福音は “伴奏、即興、編曲、演奏のテクニック、モードの変曲、リズムなどに関しても多くの考え方が存在する” 中世音楽の独自性を基に構築され、そうして咲き乱れる在りし日のヒヤシンスの庭を蘇らせるのです。
前作 “Aria of Vernal Tombs” に収録されていた4曲のメディーバルインタルードの中でも、”Ay Que Por Muy Gran Fermousa” のミステリアスな美麗は群を抜いていましたが、5曲と増えた今作のインタルードでもメディーバルハーピスト Vicente La Camera Mariño の描き出す耽美絵巻は浮世の定めを拭い去り、リスナーを中世の風車たなびく丘陵へと連れ去るのです。
クリーンボーカルの詠唱がクライマックスを運ぶタイトルトラックや “Morrigan”で、新たに加わったドラムス Matthew Della Cagna の Neil Part を想わせるプログレッシブなスティック捌きが楽曲にさらなるダイナミズムをもたらしていることも付け加えておきましょう。
今回弊誌では、Tanner Anderson にインタビューを行うことが出来ました。「情報も音楽も全てが利用可能なんだから、当時の “アンダーグラウンド” な感覚は感じることが出来ないよ。僕の成長期には、こういった音楽を作っている人について知ることは全く出来なかったからね。時には名前や写真さえないほどに。」 どうぞ!!

OBSEQUIAE “THE PALMS OF SORROWED KINGS” : 10/10

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