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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NYTT LAND : SONGS OF THE SHAMAN】 JAPAN TOUR 25′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANATOLY PAKHALENKO OF NYTT LAND !!

“Throat singing is a real treasure, the heritage of our indigenous peoples. We use throat singing in our music quite actively, as it is an incredible magic and it is our connection with our ancestors.”

DISC REVIEW “SONGS OF SHAMAN”

「私たちにとってシベリアで暮らすのは、世界のどの地域よりもずっと簡単なんだ。 ここは私たちの祖国であり、祖先の土地であり、自分たちのルーツを大切にして、伝統を守ることが重要なんだよ。 私たちはアジア人で、ライフスタイルの面では非常に保守的だ。 フランス、ノルウェー、セルビアなど、他の国や大都市への移住を何度も勧められよ。でも、私たちはそんなことはしたくない。 どこまでも続く美しい草原、山々、森といった生まれ育った土地を離れることは、私たちにとって大きなストレスになる。 ここが私たちの人生のすべてであり、私たちが生まれた場所であり、先祖が生まれた場所であり、私たちの一部であり、だからこそ私たちはここに住んでいるのだよ」
シベリアの大地に深く根を張る NYTT LAND の作品は、2021年の “Ritual” を皮切りに、北欧のフォーク・ミュージックからシベリアの伝統をより深く表現するダークな音楽へと徐々に移行し、最新アルバム “Songs Of The Shaman” で頂点を極めました。
満州・ツングース民族のシャーマニズム的な歌や呪文を、彼ら自身の言語と伝統楽器を用いて解釈することで NYTT LAND は自らの古代文化を守り、より幅広いオーディエンスに届けることを目指しています。NYTT LAND の音楽を聴けば、かつてシベリアに広がっていた風景や営みが心に深く刻まれるような感覚を覚えます。それは、まさに太古の昔からもたらされた音のささやき。 これはもはや、地球上で最も古い文化を巡る魅力的な旅。そして、”Songs Of The Shaman” でその旅路の鮮やかさは一段と際立っています。
「ホーミーはシベリアとモンゴルの先住民の伝統的な歌唱法なんだ。こうした伝統的な歌い方は、世界中のどこを探しても見つからない。もし誰かが、バイキングの間でのどを使った歌い方があったという話をしたら、その人の顔にツバを吐いてもいいだろう。現在では、喉歌をヨーロッパ民族のものとすることが非常にポピュラーになっているけど、これはまったくのナンセンスだよ。喉歌は、先住民族の遺産であり、真の宝なんだ。私たちが非常によく喉歌を使うのは、喉歌が信じられないような魔法であり、祖先とのつながりでもあるからなんだ」
伝統的なシャーマニズムの歌と呪文を解釈した NYTT LAND の音楽。すべての曲は原語で録音され、喉歌や太鼓などの非常に古い音楽技法が用いられています。そうして彼らは、イントネーションとリズムからも生まれる魔法の力を逃さないようにしています。降霊術、呪文、祝福…古代の魔法は、慎重に選択され、有害な呪いは意図的に排除されていきました。NYTT LANDは聴く者すべてを、精霊たちが今も支配し、神々でさえも恐れる時空の秘境、音楽の旅へと誘います。
そうしてこの音の旅は、原始的な人間性に対する理解を何よりも深めてくれるはずです。真っ暗な草原の夜空の下、焚き火のそばに座り、シャーマンが祖先、星々、そこに宿る神々、そしてこの極寒の地を形作る岩や川についての物語を紡ぐのをただ聞いている。そしてシャーマンが炎の中で喉歌を歌い踊る姿に目を奪われる…そこに広がるのは民俗神話の荘厳なる世界。
そう、NYTT LAND こそ古の草原を旅する真の音楽遊牧民。そしてもちろん、この原始と神話、古代の再来は、NYTT LAND が祖先、土地、ルーツと伝統を心から大切にしてきたからこそ成り立っているのです。
今回弊誌では、Anatoly Pakhalenko にインタビューを行うことができました。妻 Natalia とのユニット。「私たちはメタルを演奏するのではなく、伝統的な儀式のフォークロアとその音楽における解釈を研究しているんだ。 そう、私たちの聴衆の一部は間違いなくメタル・ヘッズで、それはクールなことだ。 これは、私たちの音楽がすべての人の魂に触れ、ある種の感情を呼び起こすことを意味している」 ARKONA との来日も決定。どうぞ!!

NYTT LAND “SONGS OF THE SHAMAN” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEAFHEAVEN : LONELY PEOPLE WITH POWER】


COVER STORY : DEAFHEAVEN “LONELY PEOPLE WITH POWER”

“If Power Is Influence, We Have a Responsibility To Be As Understanding, Empathetic And Knowledgeable As Possible”

LONELY PEOPLE WITH POWER

第二次世界大戦の冷酷と殺戮の後、アメリカの心理学者グスタフ・ギルバートは悪の本質について何年も考え続けました。そして1947年に出版された “ニュルンベルク日記” の中で、生き残ったナチスの指導者たちとのインタビューについて書いた彼は、悪の本質を見つけたと信じていました。 悪、すなわち戦犯たちを結びつける一つの特徴は、弱者や少数派の苦境に関わることができない、あるいは関わろうとしないことであると。悪とはつまり、共感の欠如であったのです。
「国民が戦争したがるように仕向けるのは簡単。国の危機を宣伝し、平和主義者を非難すればいいだけ。これはどんな体制でも同じ」
80年後、グスタフの教訓は忘れ去られようとしています。世界中のポピュリスト政治家たちが、再び人間の自己中心性を食い物にしているから。 弱者蔑視と外国人憎悪を武器に足場を固め、富裕で影響力のあるオリガルヒに屈服し、自分たちの今でも計り知れない富がさらに膨れ上がるのであれば、喜んで工作に協力する。
「西洋文明の根本的な弱点は共感であり、共感搾取である」と、世界一の大富豪イーロン・マスクは最近CNNで説き、非正規移民に基本的な医療を提供することが、公的資金配分の誤りだと主張しました。 マスクは弱者や少数派への共感を西洋文明の “バグ” だとして、そこから犠牲を強いられる “集団” を救うとさながら英雄のように強弁したのです。非常に怖い話です。
George Clarke は、DEAFHEAVEN の素晴らしき6枚目のアルバム “Lonely People With Power” で、西洋社会の右傾化について特に語っているわけではありません。 実際、常に冷静で知的なこのフロントマンは、アルバムに込められたアイデアを解き明かす際、政治的な対立をむしろ避けようとしています。しかし、マクロ的なレベルでは、個人的な出世や富のために共同体を捨てるというコンセプトは、まさにこの暗い現代に対するアンチテーゼといえるでしょう。
「私は万能で慈悲深い世界の創造主など信じていない。このレコードに関連して “力” について語るとき、私は本当に影響力について話しているんだ。 視点を形作る力、世界観を形作る力、それに伴う責任についてだ。 彼らのような富と影響力を手に入れるためには、周囲のものを手放すことが必要なんだよ。彼らは孤独な目的を追い求めている。それは、隣の人の幸福など気にも留めないほど圧倒的なシニシズムと虚無感がなければ達成できないものだから。”孤独” は時に無知やナルシシズムや精神の空虚さの代用品となる。そうやって、共感を捨てて得た冨や影響力は、逆に精神的な空虚さを表している」

ウィリアム・ランドルフ・ハーストは1951年8月14日に亡くなりました。DEAFHEAVEN の本拠地サンフランシスコで生まれたこの新聞王は、米国のセンセーショナルなタブロイド紙の先頭に立ち、1900年代を通じてニューヨーク州知事選、ニューヨーク市長選、合衆国大統領選に出馬して落選しました。当初は進歩的な政治を支持していたハーストでしたが、20世紀に入ると保守的で孤立主義的な政策を採用。1930年代には、ナチス・ドイツを声高に支持した人物です。
多くの点で、ウィリアム・ランドルフ・ハーストは George の語る典型的な孤独な権力者だといえました。
「ハーストのメディアの巨人としての時代は、今日私たちが目にしている多くのことの先駆けのように感じられる。ああした人たちは常に熾烈で、嘘をつくことも誇張することも厭わず、道徳的な境界線というものをまったく理解していない。ハーストの人間関係は、刹那的で執着的な傾向があったにもかかわらず、決して人間的ではなかった。ハーストは、人間や、世界が動くより大きなメカニズムにまったく関心がなく、非常に利己的だった。それは奇妙な二律背反だった。支配欲を満たすためには、寛大さもヒューマニズムもなく、他人を蹴落とし周囲の世界から皮肉なまでに切り離される必要があるんだよ。
コミュニティーの欠如、自己孤立、自己保存、利己的な動機はすべて、人が支配力を集め、権力を獲得するために必要なもので、単にその権力が他よりも価値があると見なすために必要なものだ。 政治や産業界ではよく見られることだ」
サイコパスと呼ばれようが、ソシオパスと呼ばれようが支配欲が満たされれば関係ないのでしょう。
「最も多くの富を蓄え、最も多くの人々を支配するためには、反コミュニティである必要がある。普通の人なら困惑するだろう。10億ドルを与えられて、それで何をしたいかと聞かれても、僕にはわからない。率直に言って、そのような目標を追い求めるなら、仲間とつながる時間はなくなってしまう。だから莫大な物質的なものを追い求めることに、共感する余地はないんだ」

ソーシャルメディアは、ハーストの新聞全盛期以来、金と影響力の最も明白な混同を生み出しました。DEAFHEAVEN でさえ、その引力から逃れることはできません。彼らは1月27日のアルバム発表から3月28日のリリースまでの間に、ミュート・ウィドウズが監督した各曲の一連のショート・クリップを公開。それは最終的に包括的な物語に結びついていて、アルバムの前後の素晴らしさをより明確に描き出しています。
芸術的な深みを加えながらリスナーに届くという点でその手法は優れていて、フェイスブックやインスタグラム、XやTikTokの否定的な側面とは対極にあるようにも思えます。George は、SNS の隆盛で名声と富を求めるキッズたちのゴールポストが変わったと見ています。
「セレブ文化は常に存在し、華やかさはその性質上魅力的だ。しかし、以前は成功しないかもしれないと思いながら多くの犠牲を払わなければならなかったもの、今はコメントや “いいね!”、そしてマネタイズによって “成功” の度合いが小さくなっている。かつては一部の人にとっての大きな夢であったことが、ビジネスになってしまったんだ」
しかし、陰湿なアルゴリズム、ねじ曲がったデジタル・リアリティ、死んだような目をしたSNSのオーナーたちは、結局はかつての新聞王以上にその支配力を際限なく拡大させています。
「前例のない瞬間を生きていると思うか?と聞かれることがある。私はそうは思わない。メディアが存在する限り、人々はそれを形作ることに憧れてきた。しかし、テクノロジーがそれを変えたのは確かだ。ソーシャルメディアには即効性があり、中毒性がある。即効性があり、すべてを飲み込むように感じられ、負の感情を強調しようとする勢力がある。常に恐怖を煽り、悪いニュースの嵐だ。人々はリラックスすることを許されない」
そうして、テクノロジー業界の億万長者たちが、アメリカ大統領就任式で選挙で選ばれた人たちが座るはずの最前列の席を占拠しているのです。
「私は歴史家ではない。でも、ちょっと馬鹿にされているような気がしないでもない。これって、製薬会社のCEOが薬物中毒のジャンキーたちの部屋に入り込むようなものだと思っている。この時点で、彼らは笑っているだけだ。まあ終わったことは終わったことだ。彼らの影響力はあまりに強く、人々はその中で迷い込んでしまう」

デビューから15年、DEAFHEAVEN は “Sunbather” のように再び自分たちを定義できるようなアルバムを作る必要性を感じていました。そうして伝説的なメタル・レーベル、ロードランナーとのレコード契約を受け、新たなスタートを切ったのです。KNOCKED LOOSE や INTERPOL など様々なアーティストと共演し、自分たちを証明してくれる潜在的な新しいファンの川は深く流れていました。
「”Infinite Granite” が楽しくて必要なアルバムであり、私たちがあのアルバムを誇りに思っているのと同じくらい、私たちのヘヴィ・ミュージックへの愛に再び火をつけたのは、あの作品の曲をツアーする過程だった。 長い間、あのメロウな音楽を演奏していたから、もっとヘヴィな曲を演奏したかったんだ。 それに、”Sunbather” のアニバーサリー・ライヴをやる機会もあったし、KNOCKED LOOSE とのツアーも楽しかった。 速くてハードな演奏をするという精神が復活したんだ。 特に Kerry にとっては、これが自分の好きな音楽なんだという個人的な気づきにつながった。 彼は、このレコードがまだ DEAFHEAVEN らしいものであるという条件付きで、スピードと重厚さを取り戻すという真のビジョンを持っていた。 一つの方向には向かっていないんだ」
“Lonley People With Power” の野心的なアプローチについて、George はこう説明しています。
「DEAFHEAVEN はバンドとして十分な年月が経っているので、自分たちが以前に何をしてきたかを参考にすることができる。今までのアルバムや一緒に経験したことを通して、このバンドが一体何なのかを消化し始めることができる。それを抽出しようと試みることさえできる… このバンドのDNAには、ちょっとした貧乏根性が埋め込まれていると思う。 私たちは2人とも、一生懸命やっても誰も気に留めないようなバンドに何年も在籍していた。 だからこのバンドのDNAに深く刻み込まれているのは、オーバーワークなんだ。すべてが完璧だと感じられない限り、十分な働きはできない。私たちは泡銭、家のお金で遊んでいるようなもので、本当はここにいるべきでないようなもの。だから、それを最大限に活用しないのは、宇宙に対して失礼なことだと思う」

かつてポーザーと呼ばれていたのが馬鹿らしいほど、彼らはもはやメタルを代表する存在となりました。
「何年もの間、みんなが DEAFHEAVEN を “ポーザー “と呼びたがっていたのに、今ではその話題もなくなってしまった。我々のバンドを支持する人も嫌いな人も、それが退屈な会話だということに同意して握手していると思う。 DEAFHEAVEN のことを嫌っている人たちでさえ、”ああ、クールだ、新譜が出たんだ” と思えるくらい、私たちは長く活動してきた。
メタルがここ数年、大きな盛り上がりを見せていることが救いだ。 多くの素晴らしいバンドが誰でも簡単にアクセスでき、ツアーを行い、常に素晴らしいショーを行っている。 私たちは皆、その方がいいと思う」
NINE INCH NAILS, St. Vincent, THE MARS VOLTAといったアーティストを手がけるベテラン・プロデューサー、ジャスティン・メルダル=ジョンセンは、”Infinite Granite” に参加して、そのアルバムのソフトなエッジに驚かされました。そして今回、彼は期待をさらに上回る驚きを “Lonely People With Power” に感じました。
「初めて彼に “Revelator” を聴かせたときのことを覚えているよ。彼は、”ワオ、これは私が期待していたヘヴィネスを満たしているだけでなく、それをはるかに超えている… “という感じだった。
それは、私たちが以前やっていたやり方を引き継いだものだ。 そう、”Magnolia” は音楽的にかなり攻撃的だ。そして、このアルバム全体を通して、似たようなサウンドの部分がある。 確かに “Lonely People With Power” には獰猛さがあるが、DEAFHEAVEN は常にエモーショナルな核を維持し、物事を特異なレンズを通して見ないことを目指してきた。 その意味で、このアルバムの多くは、赦すこと、あるいは自分自身を含む権力の力学を認識することをテーマにしている。 そう、怒りがある。 しかし、決意、許し、認識もある。 そして、それらは均整のとれた音のパレットで表現されている」

激烈な “Magnolia” の後、セカンド・シングル “Heathen” は、彼らのアヴァンギャルドでポスト・メタル的な傾向を再び紹介するための意識的な努力のように感じられます。
同時に、事実上のオープニング曲 “Doberman”, 前述の “Revelator”、そして変幻自在の叙事詩 “Winona” で、George が2013年の名作 “Sunbather” の流れを汲む痛快なブラストビート・ブラックメタルに回帰していることも否定できないでしょう。
実際、”Sunbather” のジャケットであえてピンク色を使い、メタル全体に衝撃を与えたことから、前作 “Infinite Granite” ではメタルをほぼ完全に排除したことまで、あらゆる決断がバンドをこの瞬間へと導いたように感じらます。 ブラックメタルはその本質的な暗さにもかかわらず、多くの新しいリスナーを輝かせるチャンスがあることを証明する大作に仕上がりました。
「今は獰猛さにインスパイアされるんだ。もっと獰猛になりたくなる。自分たちのサウンドを抽出したいという欲求があったのと同じように、歌詞のテーマも抽出したいという衝動に駆られた。家族、アルコールと中毒の個人的な経験、自殺願望、友人との関係、女性との関係は、バンドにとって常に試金石だった。自分たちらしさを最大限に発揮しようとすることが、自分にとって何を意味するのかを考えた。それは、そうした考えやテーマに対してより直接的であることを意味する。これまではかなり抽象的だった。でもこのアルバムでは、私は自分の足で歩いている」
実際、George はこのレコードを作るにあたって、ヘヴィな世界を再発見していました。
「WOE の大きな世界を再発見した瞬間があった。僕らの新曲を聴いて SPEATRAL WOUND のことを言う人もいて、それは間違ってはいないんだけど、彼らが好きなバンドは我々も好きなんだ。DARKTHRONE, EMPEROR の鍵盤とベル、IMMORTAL も少し。
それに影響を受けたバンドが宇宙みたいにたくさんいる。 ウォー・メタルもあった。”Revelator” を聴いてみると、リフの背後にあるのは、DEAD CONGREGATION をもっと PORTISHEAD のコードに置き換えたらどうなるだろう、というような試みだった」

そうやって焦点を絞ることで、”Lonely People With Power” のよりパーソナルな側面が明らかになります。George は常に、両親や教師のような影響力を持つ人々からの影響について考えてきました。 アルバム “Sunbather” は、”私は父の息子/私は誰でもない/愛することはできない/それは私の血の中にある…” という嘆きで幕を閉じました。”Magnolia” にも同じような慰めの感覚が内包されています。タイトルは、 George の父の実家があるミシシッピ州の州花にちなんだもので、そこは叔父の葬儀に参列した場所でもあります。歌詞は、George の父と共通の特徴である、叔父のアルコール中毒とうつ病を問い、共有された遺伝と、新たな発見と温かさと受容とともに受け継がれた教訓を受け止めています。”私の愛は果てしない/あなたのすべてが私/一歩一歩が墓場へ向かう/私たちが与えられたのは肉と血だけだったのだろうか?”
“孤独” は “無知” の代名詞でもあると George は考えています。
「両親のような人々について話すとき、彼らのほとんどは自分が何をすべきかわかっていないように感じる。 このアルバムには、両親や教師が自分の人生において欠点やハンディキャップを抱えているにもかかわらず、それでも最善を尽くしていることが多いということを認識するんだよ。寛容の要素が含まれているんだ」
アートワークは、車の助手席の子供を挟んで話す両親と見ることもできますが、あまり健全でないことで道行く女性に寄っていく父親と見ることもできます。
「それは人々が自分で決めることだ。 運転する大人、窓際の女性、助手席の子供。 それをどう思うかは人それぞれだ。 しかし、人々は常に答えを得るよりも多くの疑問を見出すものだ。 私たちにとって、それは重要なことだよ」
切迫して脈打つような “Body Behaviour” では、年上の男性が、若い男の子にポルノグラフィーを見せて絆を深めるという “伝統” を描いています。そこに悪意はないと George は考えています。不気味でもない。ただ、知識を共有するための奇妙な試みなのだと。ある世代から次の世代へと受け継がれる、歪んだ通過儀礼のひとつなのかもしれません。そう歪んだ…
「正直なところ、私が知っている男たちは皆、父親や叔父、年上のいとこ、あるいは誰であろうと、そのような話を何バージョンか持っている。これは現代社会の “症状” であり、現在の男同士の関係の基準なんだ…」

このような話題は気まずく不快なものですが、それに立ち向かう姿勢は DEAFHEAVEN に信念を貫く勇気があることの証でしょう。ポピュリズムとインフルエンサー・カルチャーが有害な行動を強化し、有意義な人間関係を腐食させている世界において、男らしさ、”男はこうあるべき” という古い固定観念についての力強い議論とオープンな自己検証は、言うべき意味があります。
「どんな理由であれ、メタル・ミュージックでは “男らしさ” をアップデートするようなトピックは今でもタブーとされることが多い。それはとても奇妙なことだと思う。異なる視点を提供し、状況を打破し、”若い頃、こんなことがあったんだ。それは奇妙なことだった。そして、それがその後の人生にどう影響したかを知ることができる…” それが、感情的に健康な人間になるために必要なことなんだ。同時に、私は、周囲の世界からの逃避の方法として、空想的な主題に満ちた音楽を演奏するバンドを批判したくないと思っている。私も含め、多くのリスナーはそのような手の込んだストーリーテリングに惹かれるものだから」
ソーシャル・メディアの一角に身を置くと、多くの若者にとって不穏なロールモデルを見つけることができるでしょう。パトリック・ベイトマン。ブレット・イーストン・エリスが1980年代のヤッピー・アメリカのナルシシズムを風刺するために生み出したキャラクター、このアメリカン・サイコそのものが、一匹狼の “シグマ・メール” (アルファ・メール(勝ち組男性) と同程度の成功を収めているイケメン男性だけど、群れない人。頭もよく、見た目もよく、お金もあるけど、一匹狼) の憧れの的として再利用されています。裕福。怒りっぽい。周囲の人々から完全に切り離されている…2000年に映画化されたメアリー・ハロンの名作からのクリップをシェアしている人たちの中には、このジョークに乗っかっている人もいるでしょう。しかし、パトリック・ベイトマン自身が執着する対象であるドナルド・トランプがホワイトハウスに座っている現実では、出世のために喜んで絆を断ち切ろうとする人が現実に多く出現しているのです。
George は、ステージ上でベイトマンになりきっていたかもしれない初期のツアーを思い起こしながら、あの冷淡な離人感にはいつも魅了されてきたと過去の自分を振り返ります。
「あのキャラクターが好きなのは、自分自身の中にそれを見たからでもある。それは、パフォーマンスを魅力的なものにする大きな要素だ。少し深く掘り下げ、自分の中にあるものを見つけ、それを見世物のために裏返すのだ。
友人に聞けば、僕らの関係はより “リアル “になったと言うだろうね。若いうちは、受け入れられようとするあまり、見栄を張ってしまう。AからBに行くために、きれいごとやパフォーマンス的な習慣を身につける。仮面をはがすこと、本当のつながりに必要な弱さを見せることは、かつての私にとって難しいことだった。年を重ねるにつれて、正直でいることができるようになった。でも、それは目的地ではなく、むしろ旅路なんだ」

同様に、DEAFHEAVEN 自体も、彼の血管の中にある氷の単なるはけ口から、それを処理するための重要なツールへと変貌を遂げました。
「初期のころは、これが他の方法ではできない自己表現の方法だと感じていた。今は、セラピーのようなものだ。ツアーから離れることで、外に出ることがどれだけ自分の幸せにとって重要かがわかる。旅行や演奏だけでなく、新しい人々に会い、新しい文化を体験し、自分のバンドをよりよく知り、自分を違った形で知ることができるんだ!」
DEAFHEAVEN のオーラの中で、ブラック・メタルらしい危険や脅威はいまだに大きな役割を果たしています。それを今も維持し続けるのは難しいことなのでしょうか?
「ステージにいると、大きなパワーを感じる。エゴの塊だよ。ある程度の誇大妄想もある。私は今でもその極悪非道なキャラクターに傾倒するのが好きなんだ。大観衆の前での瞬間が、日常生活といかに違うかを目の当たりにし、私は自分の分身を掘り続けることを選ぶ。今の自分をどう見ているかの違いは、自己認識が深まったことと、そのキャラクターがとても優しく、共同的で人間的な瞬間のために、今の自分を壊すことを許されるようになったことだ。観客の中に入って誰かを抱きしめたり、バリアの上で泣いているファンに寄り添ったり。私の音楽は、私が最も傷つきやすいときのもの。パフォーマンスは、私が最もパワフルな時のものだ。キャラクターが壊れるとき、私は最も自分らしくなる。もし人々が本当に DEAFHEAVEN のシンガーと瞬間を共有し、歌詞を歌い、あるいは歌詞にしがみついているとしたら、それは Georgeと瞬間を共有していることになる…」

創作、パフォーマンス、個人的な経験の相互関係を分析することで、どのアーティストも、少なくともある程度は、力を持つ孤独な人間であるという気づきを George は得ました。
「パワーが影響力であるならば、私たちは皆、ある程度のパワーを持っている。インタビューはその典型的な例だ。誰かが私の発言を読み、それが彼らの意見を形成するかもしれない。だから私たちには、できるだけ理解し、共感し、知識を持つ責任がある。どうすれば誰かの教師になれるのか、と自問自答する。でも、それは常に進化する謎なんだ」
“Lonely People With Power” の最も難しい教訓は、まさにその最後に訪れる。ジャン・ウジェーヌ・ロベール=ウーダンの悪名高い19世紀の複雑な錯視にちなんで名づけられた “The Marvelous Orange Tree” “驚異のオレンジの木” は、自殺について歌った厳しくも美しい曲。”この病気と一緒に生きて/震える肌を見せながら/あなたと一緒に、私の終わりのない病気で/私の終わりのない病気で/暗闇の中を歩いていく” という表向きは絶望的なセリフで締めくくられています。しかしこれは、奈落の底へ転落するのではなく、常に足元に気をつけるようにという戒めなのです。
「物事には終わりがある。自分の中の悪魔を見極めているとき、”もう心配ない!” とか “もう終わったことだ!” と言うのは難しい。ドアは常に開いていると認識することが重要だ。それは、負けるとか屈するという意味ではない。ただ、本は決して閉じられていないということを知ることだ。
人は何かを打ち負かしたと思ったり、無視することを選んだりすると、思いもよらない形で再び忍び寄ることがある。この曲は、そのような負の感情がいつもまだ存在し、これからも存在し続けるということを認めている曲なんだ。死にたくなったことを話したくなったら、話すべきだし、そうしている。それを放棄することで起こりうる驚きに直面したくない。結局のところ、このアルバムは共感と許しが中心となっている。他人の欠点に対しても、自分自身の欠点に対しても。それはすべて、認識と理解に関係している。”Amethyst” の歌詞で歌ったように、ここには非難するようなものは何もない….」


参考文献: KERRAMG! :Deafheaven: “If power is influence, we have a responsibility to be as understanding, empathetic and knowledgeable as possible”

KERRANG! :https://www.kerrang.com/deafheaven-new-album-lonely-people-with-power-george-clarke-interview

LOUDWIRE

NEW NOISE MAG

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLOOD INCANTATION : ABSOLUTE ELSEWHERE】


COVER STORY : BLOOD INCANTATION “ABSOLUTE ELSEWHERE”

“A Lot Of People Would Say, ‘I Don’t Even Listen To Any Metal At All, But This Record Somehow Does It For Me,’ Which I Found Amazing”

ABSOLUTE ELSEWHERE

「PINK FLOYD をどう説明する?彼らはサウンドトラックを作った。他のこともやっていた。”彼らはメタルやロック、プログのバンドだ” と言われるのではなく、ただ “バンドの名前だ” と言われるような立場にいることは、とてもクールなことだと思う。そして、僕らもその段階に差し掛かりつつある。BLOOD INCANTATION はただ BLOOD INCANTATION なんだ」
一見、BLOOD INCANTATION の作品はとっつきにくいように思えるかもしれません。デンバーの実験的デス・メタル・バンドは、過去10年間、音楽的挑戦だけでなく、一見不可解で幻覚的なイメージも包括する世界に肉薄してきました。その哲学は、彼らの歌詞だけでなく、アルバムのアートワークにも浸透しています。
つまり、BLOOD INCANTATION を完全に理解するには、エイリアンやピラミッド、オベリスクの意味を理解しようとする必要があるのです。CANNIBAL CORPSE が “スター・ウォーズ” なら、BLOOD INCANTATION は “2001年宇宙の旅”。
難解な音楽を披露するバンドにもかかわらず、彼らは幅広く多様な聴衆を惹きつけることに成功しています。2016年に発表された初のフルアルバム “Starspawn” は、バンドの土台を築き、より壮大でプログレッシブな野心を示す、最初の突破口となりました。しかし、扉を大きく開けたのは2019年の “Hidden History Of The Human Race” でしょう。その代表曲は18分ものサイケ・エピック “Awakening From The Dream Of Existence To The Multidimensional Nature Of Our Reality (Mirror Of The Soul)” であるにもかかわらず、”Hidden History” は2010年代で最も幅広く評価されたメタル・アルバムの1枚となりました。そうして、ブルース・ペニントンの象徴的なアルバム・ジャケット(グレーのエイリアン、淡いブルーの空、謎の浮遊物)をあしらったTシャツは、インディ・ロックのライヴで見かけるくらいに有名になったのです。
ギタリストの Morris Kolontyrsky は、「多くの人が、”私はメタルをまったく聴かないのに、このレコードはなぜか聴いてしまう” と言うんだ」 と目を細めます。

めまいがするほど広大な3枚目のLP “Absolute Elsewhere” を発表する準備中、彼らは増え続けるファンベースに対して過激なまでにオープンな姿勢をとりました。アルバムの発表と同時にDiscordチャンネルが開設され、そこでバンドはリスナーとたわむれたり、たわごとを言い合ったりしています。
彼らは、アルバムを構成する2曲のロング・トラックのうちの1曲目、”The Stargate” のMVを兼ねたショート・フィルムのプレミアに出席し、ベルリンの伝説的なハンザ・スタジオでのセッションを詳細に描いたドキュメンタリーの制作を監督しました。メイキング・ドキュメントのタイトルは、ハンザでミックスされた CAN の名曲から引用した “All Gates Open” “全ての扉は開いている”。ドラマー Isaac Faulk はその意味を説明します。
「このドキュメンタリー、そしてアルバムのエトス全体がオープンであることなんだ。自発性に対する開放性、コラボレーションに対する開放性。積極的に指示したり、箱の中に押し込めようとするのではなく、僕たち全員が波に乗っていたこの相互の創造的衝動。だから、すべての門が開かれているんだ」
BLOOD INCANTATION には最初から、濃密でクレイジーなアイディアが詰まっているけれど、そこにリスナーを招き入れたいんだ。隠された神秘的なものになろうとしているのではない。純粋なレベルで人々に関わってもらいたいんだ」
ハンザ・スタジオを訪れ、POWER TRIP や自身のバンド、SUMERLANDS のプロデュースで知られる Arthur Rizk とレコーディングを行った BLOOD INCANTATION。彼らがデビュー以来テーマとしてきたのは、人類の進歩に対する地球外からの影響と、すべての生命の相互関連性でした。ハンザの異質な環境に身を置くことは、新しいレコーディングの雰囲気を形成するのに役立ちました。
「壁には香のようなものが染み込んでいて、何十年も何十年もそこでレコーディングしてきた人たちの何かがそこにあるんだ」
ハンザのスタジオはまさに “Hidden History” でした。彼らは、ブライアン・イーノがデヴィッド・ボウイのエンジニアリングをしていたときに、ミキシング・デスクの脇の壁に自分の名前を書き込んだ場所を見ます。ボウイのレコーディングで使われたピアノがスタジオに残っていて、その音はアルバムに収録されました。TANGERINE DREAM が使用したマイク(おそらく現在では35,000ユーロの価値がある)は、”クローゼットの中” だったと、彼らはまだ信じられない様子で言います。そして BLOOD INCANTATION はそのすべてを “Absolute Elsewhere” に注ぎ込み、さらに9,000ユーロ相当のシンセサイザーを追加購入したのです。

バンドは、市内にある練習場で、9日間かけてアルバムの曲を40〜50回通しでリハーサルしました。ハンザ入りする前の週末、彼らはオリンピアシュタディオンで行われた DEPESCHE MODE のギグに8万人の観客とともに参加しましたが、このイギリスのシンセ・ポップ・グループも3枚のアルバムををハンザで制作していたのです。
“Absolute Elsewhere” の核心には、BLOOD INCANTATION の核心と同じように二律背反が存在します。一見、このアルバムは近寄りがたく、謎めいた作品でしょう。曲は2曲だけで、両者とも3つの楽章に分かれており、そのそれぞれが20分を超えています。そして BLOOD INCANTATION の過去のどのリリースよりも、デスメタルの攻撃性にクラウト・ロック、ダーク・アンビエント、70年代プログからの大胆なアイデアを加えており、作品の最も密度の高い部分では、アイデアからアイデアへと奔放に自由気ままに飛躍していきます。
その一方で、ギター・パートは、エクストリームであっても豊かなメロディーを奏で、かつてはミックスの奥深くに埋もれていた Paul Riedl のボーカルは鮮明。そのフレージングとアーティキュレーションを重視した彼の歌は、間違いなく BLOOD INCANTATRON 史上初めて、キャッチーを極めています。そして Riedl はクリーン・ボーカルを多く披露もしています。つまり、”Hidden History” が、ほとんど偶然に広く一般的なファン層を見出したとすれば、”Absolute Elsewhere” は、さらに多くの人々に届く態勢をしっかりと整えているのです。
「”Absolute Elsewhere” のサウンドは断固としてブルータルで、これまでのどの作品よりも飛躍的にテクニカルでプログレッシブだ。ただ、その過激さとは裏腹に、よりメロディアスでキャッチーで親しみやすい。この巨大で残酷なものの泥沼の中で、キャッチーな部分があればそれでいい。BLOOD INCANTATION の影響範囲は常に外に向かっているのだから。だから、僕たちが最初の範囲から外れたのものから学び始めることは避けられないし、常にそれらを大きな血の呪文のピラミッドに組み込んでいくんだよ」
BLOOD INCANTATION の誰もが、2022年にリリースされたアンビエント作品 “Timewave Zero” なくして “Absolute Elsewhere” はあり得なかったと信じています。4人のメンバー全員が典型的なギターとドラムの代わりにヴィンテージのシンセサイザーを演奏していたアルバムを、気に入った人も批判した人もいました。しかし、バンドにとって “Timewave Zero” は、自分たちのサウンドのパラメーターを広げる手段であり、同時に創造性の奥行きを広げる方法でもあったのです。”Timewave Zero” の経験は、バンドが “こうあるべき” という既成概念を打ち砕きました。
「メンバーと、異なる方法で、異なる言語で、一緒に音楽を演奏する方法を学んだ。僕たちはそして、”Timewave Zero” を通してより親密な友人にもなれたんだ」Kolontyrsky は言います。「”Absolute Elsewhere” では、その感性が発揮されたのだと思う。僕たちの絆はとても強いから、誰かの最悪のアイデアでも、誰も敬遠したり馬鹿にしたりすることはないんだ。
僕らはメタル・バンドが非メタルのレコードを作るのが好きなんだ。10代の頃、エクストリームでアンダーグラウンドなブラックメタルやデスメタルに夢中になっていて、CORRUPTED のようなバンドが大好きだった。あるいは ULVER のようなバンドは、すぐにアコースティックになり、その後、これまで以上にハードになって戻ってくる。そうしたバンドはすべて、サウンドスケープやアトモスフィアを取り入れている。彼らはそれをまったく恐れていない。彼らは逆張りをするためにやっているのではない。自分たちの音楽がいかに高尚かどうかを証明しようとしたわけでもない。彼らはただ、自分たちの旅路をたどるアーティストであり、僕たちのような若く多感な人々に、メタルにノンメタルを取り入れることが完全に可能であることを示しただけなんだよ。物理的に可能なことなんだ」

そう、彼らはモダン=多様性という、モダン・メタルの方程式を完全に理解しています。そして、もうひとつの重要なステップは、バンドが昨年秋にリリースした両A面シングル “Luminescent Bridge” でした。デスメタルのルネッサンスについて、まだ知らない人は多いかもしれませんが、しかしそれはアンダーグラウンドの洞窟でますます大きく鳴り響いています。CANNIBAL CORPSE や OBITUARY が活動を続け、会場の規模をアップグレードしているのと同様に、このサブジャンルの新しい形態もまた台頭してきているのです。そのひとつがコズミック・デス・メタルで、人体の切断を歌った曲を避け、人間存在に関するより広い形而上学的な問いを探求することを好んでいます。
昨年9月15日、コズミック・デス・メタルの先駆者2組が新曲を発表しました。トロントの TOMB MOLD が発表した “The Enduring Spirit” は、90年代のスピリチュアルな先達、CYNIC のサイケデリックな洗練に大きく傾倒した驚異的な作品で、最終曲の “The Enduring Spirit Of Calamity” は、クリスタルのようなギター・ソロと長く繰り返されるリフレインを含み、デスメタルに対する既成概念を大きく変えました。
同日、デンバーの BLOOD INCANTATION が12インチ・マキシ・シングル “Luminescent Bridge” をリリースしました。タイトル・トラックは、シンセとクリーン・ギターによるマントラのような作品で、2022年のアルバム “Timewave Zero” のアンビエントな実験性を引き継いでいましたが、A面の “Obliquity Of The Ecliptic” では、地球を震撼させるアルバムのメタリックな炎を宿しながらメロディックに飛び立ちました。
つまり、”Absolute Elsewhere” の鼓動するメロディックなハートは、”架け橋” のおかげでここまで完全に露わになったのです。「”Luminescent Bridge” の両面は、”Hidden History” よりもメロディーを取り入れやすくなっている」と Riedlyは言います。「”Obliquity Of The Ecliptic” の最後に巨大でヘヴィーなメタル・ギター・ソロがある。高揚感があって、メロディアスで、勝利的なんだ。それから “Luminescent Bridge” はほとんどメロディックなパートばかりだ。不協和音は最初と最後のスペース・サウンドだけ。それ以外はすべて、繰り返しのギター・リフ、繰り返しのギター・メロディ、そして大きく舞い上がるカラフルなメロディがある。でも、とてもシンプルなんだ」

BLOOD INCANTATION のサウンドスフィアでは、時間は平坦な円となり、まるで、彼らが長年にわたって発表してきたすべての音楽が、独自の次元に同時に存在しているかのよう。既知の音楽宇宙のはるか彼方への彼らの旅は、私たちの現実を構成する最も小さな粒子、存在の大きな理論、そして私たちの意識そのものを探求するもの。Issac Foulk は言います。
「僕はよく、多くのバンドは自分たちのサウンドにこだわりすぎると、その輪を自ら小さくしてしまうと言ってきた。でも僕らは、自分たちのサウンドを追求していくうちに、輪が大きくなり、さらにいろいろなものが加わっていくような気がするんだ」
BLOOD INCANTATION は、彼らの愛するビデオ・ゲームで例えれば、RPGでキャラクターがレベルアップするように、スキルツリーを通してレベルアップしているように思えます。レコードを出すたびに、バンドはXPを獲得し、新しいスキルをアンロックしていくようです。
「リリースのたびに、僕たちはハードウェアの能力を最大限に引き出している」とフレットレス・ベースの使い手 Jeff Barrett は言います。「そしてうまくいけば、僕たちは学び、次のリリースでハードウェアを拡張して、さらにその学びをプッシュすることができる」
BLOOD INCANTATION が “Absolute Elsewhere” に望んでいたのは、Faulk に言わせれば、「大きくて、壮大で、自由で、境界のない、超越した存在」になることでした。
“The Stargate” では、激しいリフが残響の多いダブのようなセクションへと進み、PINK FLOYD の “Echoes” のジャム・セクションを想起させるパッセージへと展開します。そして彼らは、あからさまに David Gilmoure 風のギター・ソロを聴かせます。そして嵐の前の静けさ、シンセサイザーとアコースティックの波の音。
「BLOOD INCANTATION は当初から、デスメタル以外のエクストリーム・メタル(特に90年代と2000年代)が、いかに様々な方向に突き進む音楽であるかに興味を持っていた」と Faulk は証言します。
“The Stargate” は、無限の宇宙に奉仕する儀式的な肉体の破壊を描いています。「すべての生命は一時的なものであり、永続するものは意識である」

一方で、Riedl と Kolontyrsky の音楽的応答が、アルバムのB面 “The Message” です。”The Stargate” が BLOOD INCANTATION のこれまでのビジョンの集大成だとすれば、”The Message” は彼らが向かっている “絶対的な別の場所”。
この曲は、エクストリーム・メタル内部の戦争をシミュレートしているかのよう。恍惚としたブラックメタルのセクションが近年最高のスラッシュ・メタル・リフと競い合う至高。彼らはその高尚な音楽性ゆえに、狙った場所にハンマーを振り下ろすことができるのです。
Faulk がこの曲の中でサイケ・ロック・セクションと表現している部分は、彼にとって特別な挑戦でした。小節のタイミングがとても奇妙だったので、彼はリハーサルの間中、コンピューターで曲を追いかけ、躍起になってタイミングを捕まえようとしていました。
“The Message” の歌詞は、バンドの哲学的な水域に深く潜り込み、瞬間の陶酔状態を認めていきます。それは Faulk が「強烈な明晰さ、一体感、ありのままを受け入れること」と表現するもの。
「僕たちの音楽がやろうとしていることのひとつは、ジャンルだけでなく、バンドがなりうるもの、バンドができることの境界線を押し広げること。僕らは10年以上前にもこのようなことを話していた。これは、BLOOD INCANTATION の大きなテーマだった。自分たちがどこから来たのか、何者なのか、自分たちの深い信念を再考すること……。世界史や人類の起源に地球外生命体が影響を及ぼしている可能性。
それは、哲学とアイデアのイースト・ミーツ・ウエスト(東洋と西洋の融合)だ。意識とは、西洋科学がそうみなしたもの、つまりニューロンがたまたま発火しているだけで、もっと深いものがあるわけではない。でも、もっと深く掘り下げていくと、もっと多くのことがあるように思えてきて、すべての意識とすべての生命との間には、もっと深いつながりがあるように思えてくるんだ」

“Absolute Elsewhere” は、キーボーディスト兼フルート奏者の Paul Fishman が結成した70年代のプログレッシブ・ロック・バンドにちなんで名づけられました。彼はエーリッヒ・フォン・デニケンの1973年の著書 “In Search Of Ancient Gods” にインスパイアされたコンセプト・アルバムをレコーディングするためにそのグループを結成。最も注目すべきは、KING CRIMSON の Bill Bruford がセッション・ミュージシャンとしてそこでドラムを叩いていたことでしょう。
奇妙な偶然ですが、ABSOLUTE ELSEWHERE の長らく行方不明だったセカンド・アルバム “Playground” が今年リリースされたばかり。BLOOD INCANTATION がアルバム・タイトルにこのバンドを引用し、Robert Fripp がボウイやイーノとハンザでレコーディングしたときと同じ空間を巡ったことで、宇宙の閉塞が解け、ABSOLUTE ELSEWHERE の作品が再び物質的に存在するようになったかのようにも思えます。
そして実際、”All Gates Open” のドキュメンタリーは、ハンザがこの作品のための適切な実験場であったことを明らかにしています。ハンザは、デヴィッド・ボウイとイギー・ポップがベルリンで重なり合った時代の中心にあったスタジオで、”Timewave Zero” に唯一最大の影響を与えた TANGERINE DREAM はこの場所でアルバム “Force Majeure” をレコーディングしていました。彼らはハンザでの大規模なセッションでそのすべてを活用することができたのです。Riedl がその喜びを語ります。
「同じ芸術的な道に身を置くだけでなく、僕たちが聴いてきたレコードで彼らが使ったのと全く同じ機材や回路を使うことで、僕たちがインスパイアされた伝説的な人々を解明することができた。ほとんどの場合、誰かがこの機材を持っていたとしても、貴重すぎて触ることはできないだろう。でも、スタジオ全体がそうだからね。スタジオには、展示されているのに使えない機材はなかった。すべて、使ってレコーディングするためにあったんだ」

機材だけでなく、バンドはゲスト・ミュージシャンも自由に起用し、アルバムの限界をさらに押し広げました。2005年から TANGERINE DREAM を率いている Thorsten Quaeschning は、”The Stargate” の第2楽章に瑞々しいシンセ・サウンドスケープを提供し、SIJJIN と NECROS CHRISTOS の Malte Gericke は絶叫するような死のうなり声と話し言葉のボーカルを母国語のドイツ語で加えました。しかしおそらく最も重要なのは、HALLAS のキーボーディスト Nicklas Malmqvist が名誉メンバーとしてバンドに加わり、ピアノ、シンセサイザー、メロトロンのパートを重ねることで、このアルバムの70’sプログへの傾倒を顕在化させたことでしょう。BLOOD INCANTATION のメンバー4人だけで構想・実行された “Timewave Zero” とは異なり、”Absolute Elsewhere” のシンセ・パートはメタル圏外から提供されたのです。そして、それが重要でした。
「メタル系の人がアンビエントを作ると、ある種特定のサウンドになる」と Riedl は認めます。「でも Nicklas の耳は “メタルっぽさ” から完全に切り離されていて、だからメロトロン・フルートのようなクレイジーなアイデアをたくさん持ってくるんだ。ドキュメンタリーの中で、彼が “あまりヒッピーっぽいサウンドにはしたくない” と言っているのがわかる。でも、それが僕たちの望みなんだ!僕たちは20年以上メタル・バンドをやってきたから、ヒッピー・サウンドにはできない。彼の頭脳はもっと自由だから、そういうインスピレーションを取り入れることができるんだ」
バンドがデスメタルの繭の外に出てハンザでレコーディングしたり、メタル外の人たちと共演したりするのは、メタルヘッズに一見異質な分野が織り成す成果を示し、明確なつながりを作るためでもあります。Riedl は、BLOOD INCANTATION が人々に示したいことの例として、クラウトロックのパイオニア Conrad Schnitzler が MAYHEM の “Deathcrush” に提供したイントロ、”Silvester Anfang” を挙げました。
「この巨大なタペストリーは、影響と創造性の連続体における僕らの位置を示している。僕たちは、リスナーに対して、自分たちがこの異世界に参加していることだけでなく、そうやって広がる “輪” が、彼らが想定しているよりもずっと近くて大きいものであることを説明しようとしているのさ」
「つまり、最もカルト的でアンダーグラウンドでブルータルなブラック/デスでありながら、同時に高尚なエレクトロニック・ミュージックや70年代のプログ・スタイルのレトロ・バンドの世界にも入り込めるということを示している」と Kolontyrsky は付け加えます。「このバンドが成長するにつれて、そうしたすべてのコーナーに同時に進出していく。このバンドが成長するにつれて、ニッチで小さなもののひとつひとつに突き進んでいくんだ」

Steve. R. Dodd のアートワークもこのアルバムに欠かせないピースのひとつ。
「アートワークは僕らの包括的な美学の一部であり、それぞれが全体的なコンセプトの段階的な拡大に貢献している。僕たちのリリースを見れば、”ああ、これは明らかに BLOOD INCANTATION だ” とすぐに見分けることができる。さまざまなアートワークに描かれたそれぞれの風景が、理論的には同じ宇宙内の新しい場所となりうるという意味で、僕らの視覚的宇宙の発展にとって重要なんだよね」
Riedl の “Absolute Elsewhere” の歌詞には、BLOOD INCANTATION のディスコグラフィ全体にも言えることでしょうが、そうした考え方が反映されています。神秘主義やオカルト、古代のエイリアンやシュメール神話へのベールに包まれた言及の下で、Riedl は根本的に人間のつながりについて、つまり、理解しているかどうかにかかわらず、私たちは皆、集合意識の中に組み込まれていると語っているのです。MAYHEM と CAN、TIMEGHOUL と TANGERINE DREAM を結びつけるのと同じ絆が、私たち一人ひとりを互いに結びつけるのです。
「ダンスの中で自分の居場所を認識すること/己のビートを時間内に知り、どこからステップを踏むべきか知ること” と、Riedl は “The Message” の中で歌っています。そのダンスを学べば、BLOOD INCANTATION の見かけの不可解さは消え去るはずです。
「リスナーに直接語りかけたかったんだ。僕が話そうとしていることを理解するため、その人が戦わなければならないようなことはしたくなかった。BLOOD INCANTATION を聴いているとき、彼らもまた僕たちの一部なのだということを、暗黙のうちに理解してほしかった。それは巨大な、つながった相乗効果で、彼らがどこにいようと、僕たちがどこにいようと、両者をつなぐ心の橋なんだ。いわば、リスナーは僕らに侵入するようなものさ」


参考文献: STEREOGUM:Opening The Gates With Blood Incantation

THE QUIETUS:Expanding the Circle: Blood Incantation Interviewed

WESTWORD:Blood Incantation Is Taking Death Metal to New Frontiers

ANTICHRISTMAG:Interview with Paul Riedl of BLOOD INCANTATION

弊誌インタビュー2019

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ZULU : A NEW TOMORROW】


COVER STORY : ZULU “A NEW TOMORROW”

“We Can’t Be Who We Want To Be”

A NEW TOMORROW

世界は分断されています。左対右、金持ち対貧乏人、私たち対彼ら。ソーシャルメディアやニュースをざっと見ただけでも、私たちの “違い” に関する言説が耳をつんざきます。そして、ヘヴィ・ミュージックのアーティストたちは、何十年もの間、この本質的な怒りと激情を音楽へと注ぎ込み、怒りをぶつけ、反乱を呼びかけてきました。しかし、人生の喜びや、世の中の良いことに焦点を当てたバンドはそれほど多くはありません。
そこでロサンゼルスのパワーヴァイオレンス・クルー、ZULU の登場です。デビューLP “A New Tomorrow” を発表した際、ボーカルの Anaiah Lei は「愛に焦点を当てたポジティブなレコードを作りたい」と語っていました。なぜそれが重要な決断だったのでしょうか。
「愛と希望は人生の主要な部分だから、それについて常に話したいと思っていたんだ。このジャンルでは、もちろん怒りを吐き出すのはクールだし、悩みを打ち明けるのは素晴らしいこと。ヘヴィ・ミュージックは、他の世界から排除され、慰めを求めている人たちが行く場所で、自分が経験したすべての問題を話し、ただそれを吐き出すための場所。歌っていても、ステージに上がっていても、ピットの中にいてもね」
物心ついたときから音楽とバンド活動に携わってきた Anaiah は、自分の発言をよく理解しています。特に ZULU は、2枚の EP とカオティックなライブでハードコア・シーンに衝撃を与え、デビュー・アルバムのプレッシャーと認知度は相当なものでしたから。彼は今度のアルバムについて、時の試練に耐えられるような “大きなステートメント” でありたいと述べています。
「怒りや攻撃性についてだけ語るのであれば、そうすることもできないわけではない。でも人生において、怒りや苦難だけでなく、人々に影響を与えたいとすれば、それは愛から来るものなんだ」

Anaiah は、私生活の変化が自分の考え方に直接影響を与えたといいます。レコード制作の途中で、自分がどうありたいかを自覚するような転換期があり、希望と幸福を見つけることに全力を注ぐことが容易になったというのです。
そして実際、”A New Tomorrow” にはアイデンティティ、連帯感、コミュニティといった概念と同様に、希望という概念が縫い込まれています。コミュニティとは、文字通り家の周辺から、Discordチャンネル、あるいは自分が働く業界など、人にとって様々で大きな意味を持つ存在。そして、そこでは必ずしもあなたが歓迎されるわけではありません。
「コミュニティで最も重要なのは、実際に一緒に何かを行い、お互いを巻き込むこと。ライヴやイベント、コミュニティ内の他のバンドをサポートすること。というのも、この社会では、俺たちはしばしば踏み絵に逆らって歩むことが多いからね。踏めないものを踏んでまで生きたくはない。だからこそ、俺たちのコミュニティは一緒にいて、調和し、団結して生きていくべきなんだ。
そうやって、同じことを考える人たちで、自分たちのシーンを形成したい。基本的には……変化し、良くなってきてはいるけれど、まだまだ先は長いし、それが現実だ。でも、人々がより団結するようになったことは、とてもうれしいことだよ。インターネットでは、簡単に人とつながることができるけど、それは自分のシーンから始まるんだ」

ハードコアへの熱狂的な情熱と、力強さと正義のメッセージにもかかわらず、Anaiah はコミュニティのある一角に受け入れられていると感じたことはなく、必要とされているとさえ思っていません。Soul Glo の Pierce Jordan をフィーチャーした “A New Tomorrow” の代表曲 “Where I’m From” で、彼はZULUのようなバンドに居場所を与えてくれない人々に対して “We can’t be who we want to be” “自分らしくいられねぇ” という言葉を突きつけました。
「あの歌詞が全てを物語っているような気がする。自分たちのシーンでさえ、自分らしくいられないんだ。ジャンルの門番たちにとって、ハードコアやメタルといった彼らが期待する音楽以外のジャンルのファンであろうとすることは奇妙なことで、他の音楽、”自分たちのものでない” 音楽を聴くこと自体が奇妙に感じられる。俺たちは見た目で人から期待されているからな。彼らは、私たちがただ一つの音楽に夢中になっていることを期待している。とんでもない諸刃の剣だよ。だって、外の世界では排除され、抑圧された人々が、逃げ込む場所のように思われているメタルやハードコアのシーンが、その空間の中ではまったく同じことをしているんだから。文字通り、邪魔されることなく、なりたい自分になることができないんだ」
この気の滅入るような皮肉は、Anaiahにとって耐えられないものです。彼は、ヘヴィ・ミュージックやハードコア・パンクに多くの人が惹かれる理由の本質として、多数派や社会に “馴染めない” “馴染みたくない” という考えを共有しています。しかし今、このシーンは “クラブのようになってしまった” と彼は言い、本来の趣旨に事実上反していると主張しているのです。
「だからこそ、ある閉鎖された集団の一部になりたいということではなく、自分のスペースを作り、自分たちのやりたいことをやり、自分たちと同じ波長の人たちと関わりたいと思うようになったんだ。もう、そういう空間には関わろうとしない。”自分たちで作るんだ”」

Anaiah は、貧富の差が激しく、悪名高いギャングの暴力や歴史的な人種間の緊張があるロサンゼルスで生まれ育ちました。幼少期には、ロサンゼルス市内のさまざまな場所に移り住む母親や父親のもとを転々とし、ゆえに “富める者” 以外の残りの半分がどのように暮らしているのかを知ることができたのです。
「郊外に住んでいて、隣人が誰かについて、誰もが異なる “議題 “を持っていた…俺は早い段階で人種差別を理解し始めたんだ。そして、ハードコア・シーンに黒人を歓迎しない雰囲気は今でもある。だから、黒人だけのバンドを作るのは大変だったよ。こういう音楽をやりたがる黒人ミュージシャンはそれほど多くないからね。シーンは主に白人が支配している。そのような場所で演奏するのは、ちょっと気が引けるんだ。だから、シーンに僕みたいなことをやっているミュージシャンが少ないというのはよくわかるよ」
しかし、どこに住んでいても音楽はありました。若い頃、Anaiah はレゲエ、ダブ、ソウルをよく聴いていましたが、やがてイギリスのポストパンクからLAのハードコアまで、よりヘヴィなサウンドに触れるようになります。何がきっかけでハードな音楽に目覚めたのかと聞かれると、「あまりに早い時期だったので思い出せないが、演奏の速さが魅力的に感じた」と笑います。
9歳のとき、Anaiah は兄の Mikaiahと THE BOTS というバンドを結成しました。2人組のガレージ・パンクは早くから注目され、12歳の時には Warped Tour でアメリカ全土を駆け巡るまでになります。10代の頃、友人たちが高校というホルモンに支配された地獄のような場所で過ごしている間、Anaiah はコーチェラやグラストンベリーに出演していたのです。
「あの若さで長い間ツアーをしたことで、音楽業界やツアーについて多くのことを学んだ…今知っていることはすべて、あのバンドで学んだことだ。まあだけど、子供の頃は、ただ成長するための試練や苦難を経験するものだけど、あのような環境で成長することは、期待と成長のバランスをどう取るかわからなかったからまさに異質だったね。どんな子供でも、そんな経験をする必要はないと思う」
Anaiah は、自分の経験をハリウッドの子役と同じように、望むよりも早く成長してしまったと認めています。しかし、そのおかげで、音楽が実際にどのように機能するのかを学び、ZULU に反映させることができたので、後悔はありません。

バンドが解散した後、Anaiah のソロ・プロジェクトとしてスタートした ZULU は、THE BOTS よりもはるかにヘヴィな存在だと言えます。低音のリフ、マシンガンのようなボーカル、パーカッションが飛び交う彼らの楽曲は、短く鋭い衝撃を与えるパワー・ヴァイオレンスで、ほとんどの曲が2分を超えることはありません。
前のバンドと明らかに違うのは、Anaiah がドラムキットの後ろではなく、前に出てマイクを持っていること。
「リズムを刻みながらバックグラウンドに存在し、バンドの他のメンバーをサポートする方がずっと簡単だった。でもね、”フロントにいるとき、自分は何を表現したいのか?” という疑問が浮かんできたんだ。前から見る世界は、自分にはどう見えるのだろう?ワクワクするんだよな。バンドのボーカルになるのは、とてもエキサイティングなことだと思う。それに、文字通り、ただドラムを叩くだけでないバンドをやりたかった。ギターを弾くのは好きなんだけどね。曲作りは今でもドラムからだけど、ますますギターの比率が高まっている。俺はいつもリアルで、自分自身に忠実でありたいと思っている。だから、ステージ上でもそれを伝えたいと思ったんだよ。手放しで音楽を感じなければならないと思った」
ZULU は GULCH や JESUS PIECE と似たような凶暴性を持っていますが、彼らのヘヴィネスというブランドは “全面戦争” というよりも、R&Bやソウル、ジャズの要素を取り入れ、Curtis Mayfield、Nina Simone、John Coltrane といった魂をその闘争に封じています。 たとえば、”Lyfe a Shorty Shun B So Ruff” では、Nina Simone  の”To Be Young, Gifted and Black” をサンプリングしています。この歌は、公民権運動の時代にアフリカ系アメリカ人を勇気づける重要な国歌。さながら今、内面の混乱の時代に自分たちが誰であるかを思い出すように促しているようです。
「彼らは俺たちが現在行っていることをしていた。彼らがいなかったら、俺たちはここにいなかっただろう」
“Music to Driveby” では、Curtis Mayfield  の “We People Who Are Darker Than Blue” が、コミュニティ内暴力についての Anaiah のリリックと皮肉に見事に呼応しています。Curtis の柔らかな軽快さは影の隠喩として機能し、救いは “彼ら” ではなく “私たち” によってのみ決定されるため、コミュニティは対立するのではなく協力しなければならないことを警告していること。” A New Tomorrow” でこうしたのサンプルに注がれた慎重な検討は、Anaiah が過去の世代の自由の闘士を認め、彼らの希望の賛歌を利用していることを示唆しています。
「このバンドはパワー・ヴァイオレンスとしてスタートしたけど、時を経て物事は変わるもの。将来的にはもっと変わるだろう。俺たちができること、俺たちが持っているスキルでできること、知っていることを制限したくはない。ジャンルを変え始めたりするのを見ると、人はいつも少し批判の目で見るけど、実際は誰がどう思うかなんてどうでもいいんだ」

実際、ハードコアやメタルのファン以外にも、ZULU は受け入れられています。
「ZULU のような活動をするのはとてもクールだよ。ハードコアにまったく興味のない人たちが  ZULU に夢中になっているのを見たことがあるからね。認めてくれて、気に入ってくれている。ジャンルが何であれ、クールなものはクールなんだ。俺はそれを疑問にも思わない。異なるタイプのショーや異なるタイプのラインナップで演奏でき、人々がそれをロックしてくれるのはクールなことだよ。24、25 トラックのアルバムを簡単に出すことはできるが、曲の長さが 1 分未満であっても、誰も 24、25 トラックのアルバムなんて聴きたがらない。 それに加えて、いくつかの曲を長くして息を吹き込む余地を与えたいと思っていた。だから最初に始めたとき、重要なのはテンポを少し遅くしたいということだった。 テンポを少し下げて、それほど複雑にならないよう。同時に、レコードを書いているときは、それに合うビジュアルについて考えている。 アルバムジャケットは俺にとってとても重要だから」
TURNSTILE に影響された部分もあります。
「俺たちは普通のハードコア・バンドとは違うことをやろうと思っているんだ。だから、ソウルもあり得るし、R&Bもあり得る。そして限界もある。TURNSTILE はコンテンポラリーなネオソウルや R&B でも少し遊び始めているように感じるけど、これはかなりポジティブな展開だと思うんだ。大好きなバンドのひとつだよ。彼らはドープなものを使って実験している。あのレコードは狂気の沙汰だった。アンタッチャブルだ。たくさんの障壁を打ち破ってくれる」
ブルックリンのアンダーグラウンドなヒップホップからの影響も。
「”Straight from Da Tribe of Tha Moon” だね。90年代にブルックリンで活動していたグループ、BLACK MOON。彼らの曲には “Slave” という曲がある。歌詞の中で、月の部族から来た人のことが出てくるんだ。でも、僕はこの歌詞を、黒人の人たちを指すのに使うことにしたんだ。そんな感じ。ただ、この歌詞を、ちょっとジャジーにアレンジしてみただけだよ。月が出てると暗いから、黒い人のためにあるってね」
“Abolish White Hardcore” 「白人のハードコアを廃止せよ」 と書かれたTシャツで物議を醸したことも。
「ハードコアのショーで白人を追い出すなんてことは言ってない。ただ、そういうショーは、とにかく白人が中心だよね。説明するのは好きではないんだけど、理解できない人たちのために……あまりに明白なことを説明しろというのは、ちょっと嫌な感じだね。とにかく、ハードコアは白人が支配する空間だ。そういうことなんだよ。それを指摘しただけなんだ。俺たちは誰かを排除しようとしているわけではない。ただ、みんなのために道を作りたいんだ。本当にそういうことなんだよ。この空間はみんなのものであるべきだ。白人が中心で、いつもそれを軸にしているという考え方は……もうやめなければならないね。それに文句を言う人がいるとしたら、その人はバカだ。俺は文字通り、そんな文句は気にしない」

ZULU は、Anaiah が彼のソウルフルで野蛮なサウンドを共有する手段であるだけでなく、考えを世界と共有する手段でもあります。この実に扇情的なデビュー・アルバムを通して、彼は自分のプラットフォームの上で、団結、銃の暴力、ブラックカルチャーの流用について語っています。しかし、アルバムのタイトルから、力強い詩の朗読 “Créme de Cassis” の歌詞に至るまで、物語の基盤は楽観主義であり、より良い未来、より良い世界への努力を歌っているのです。
インストゥルメンタルを中心とした2曲の後幕を開ける “Our Day Is Now” は、Anaiah が初日から音楽に込めたかった “一体感” と “力強さ” のアイデアを胸いっぱいに吸い込んでいます。
「この曲は、人々が人間に望んでいることの2つの側面について話している。人々は俺たちが分断することを望み、俺たちが怒ることを望んでいるんだ。つまり、時に人々は、俺たちが調和して生きることを望んでいないように感じることがあるんだよ。変な話だけど。でも、ちょっと待って。俺たちには、人々が見逃している別の側面がある。俺たちが発するたくさんの愛、たくさんの創造性、そしてたくさんの喜びがある。曲の中で言っているように、そうした人々は自分が見たいものしか見ていない。でも、俺たちにはそれ以上のものがある」
“A New Tomorrow” の核となるのは愛と希望ですが、これを弱さと混同してはいけません。なぜなら、Anaiah ほど決意に満ち、知的で、自分が何者であるか、何を目指しているかに自信を持った人はいないでしょうから。そしてこのアルバムは、彼のコミュニティのためだけでなく、外部の人々が彼らの経験を聞き、理解するために作られたのです。
“Music To Driveby” は、人々を分断させようとする銃やギャングの暴力だけでなく、分断を拡大させる社会のシステム的問題についてもコメントしています。
「ギャングの世界に生まれた人たちにとって、それが彼らの当たり前であり、それが彼らのすべてであり、それが彼らが日々直面しなければならない現実なんだ。だから、俺はそのことにほんの少し光を当て、誰にでも起こり得るいかに現実的なことかを伝えているんだよ。そして、それは銃による暴力や殺人だけでなく、精神的な分断も同様。洗脳や、白人至上主義が俺たちを分断させるという影響もある。それも、ドライブバイ (シューティング。車から射撃をする凶悪な犯罪) がそうであるように、どこからともなくやってくる」

そうして、Anaiah の人生に最も強く浸透しているのは、彼のスピリチュアルな部分かもしれません。彼はラスタファリアンとして育ちました。ZULU のグッズやアルバムの付録を見ると、アフロカリビアンやラスタファリアン文化の影響を強く受けており、歌詞の中にはジャマイカのパトワが散りばめられているのがわかります。彼は現在イスラム教徒ですが、彼らの音楽にはラスタの精神性が “根付いている” と言い、特にエンディングの “Who Jah Bless No One Curse”(タイトルは Bob Marley の曲から)はその典型的な例だと言います。
「ラスタで育ち、イスラム教徒であることは、俺の中において文化的にはさほど遠いものではなく、すべてがこのバンドが持つスピリチュアルな側面と結びついている。バンドの始まり、最初のレコードで、君はそれを聞くことができたし、すべての歴史を通して、そこには神の存在があるんだよ」
ただし、Anaiah は ZULU が宗教的なバンドでないことを熱心に指摘します。
「それは全く重要なことではなく、俺の人生の側面をそこに散りばめているだけなんだ。俺は、特にイスラム教徒として、他人が信じるか信じないかで誰かを非難するのは間違っていると考えている。誰もが自分の意思を持つ人間であり、自分自身の人生を歩む権利があるのだから。俺にできることは、イスラム教について話すことだけ。自分の現実について話すことだけで、それがこのアルバムでやっていることだ。音楽と俺の人生に影響を与えるものすべてを含めてね」
彼らはシーンをオープンにし、特定の人たちだけでなく、音楽を愛するすべての人のための空間にすることを目指しています。そして、世界は変わりつつあります。
「変化がある、変化があった、もっと変化がある。俺たちはずっとこうしてきたし、人々はずっと立ち上がり続けてきたし、これからもそうしていくだろう。俺は変化が起こること、起こり続けることを人々に知ってほしい。そして、準備をしてほしいんだ」

参考文献:KERRANG!ZULU: “People expect us to be angry, but there’s a lot of joy that we emit”

NPR:Zulu’s soul-sampling powerviolence shifts the pit toward love

NEW NOISE MAG:INTERVIEW: L.A. POWERVIOLENCE BAND ZULU

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IMMORTAL GUARDIAN : PSYCHOSOMATIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH IMMORTAL GUARDIAN !!

“Now It’s The Only Way I Play Music. I Feel Naked When I Only Have Just One Of The Guitar Or The Keyboard On Me. It’s How I Think And How I Express Myself The Best Musically.”

DISC REVIEW “PSYCHOSOMATIC”

「ギターとキーボード、どちらか片方だけを持っていると半裸になったような気分になるんだ。それが僕の考え方で、音楽的に最高の自分を表現する方法なんだよね。」
ダブルネックの16弦ギター、モンゴルのホーミーと伝統楽器、アステカの笛に骨のマイク。弊誌ではこれまで、奇想天外なアイデアとメタルの融合をいくつも報じてきました。
どんな突飛な発想とも真摯に向き合うメタルの包容力は、そこから驚くほどドラマティックで獰猛なキメラを多数輩出してきたのです。馬鹿らしさを馬鹿らしさだけで終わらせないメタルの神秘。それでも、ギターとキーボードを同時に演奏という曲芸じみた異能に挑戦する戦士は Gabriel Guardian がはじめてでしょう。
「この2つの楽器を組み合わせることで多くのことが実現できる。音楽的に多くの表現ができるし、そこに無限の可能性を秘めていることも気に入っているよ。」
実際、Gabriel は例えば Alexi Laiho と Janne Wirman の役割を一人で同時にこなすことを究極の目標としている節があります。そのためには、もちろん、基本的にはギターをピッキングなし左手のタップだけでプレイする必要がありますし、鍵盤は右手だけ。ただし、その欠点を補ってあまりある視覚的なインパクト、そしてユニゾンやコード、リズミックなアイデアの広がりがあることは明らかでしょう。他人と意思疎通することなく、自由自在に掛け合いができるのですから。
「僕は昔からメタルにおけるクラシック音楽が好きだったんだ。若い頃はクラシックを聴いていたけど、それからは正直あまり聴いていなかった。だからクラシックの影響というよりも、自分の曲にクラシックの影響を取り入れているメタルバンドから多くの影響を受けたんだ。」
“Read Between The Line” を聴けば、Gabriel の “ギターボード” という発想がメタルとクラッシックのさらなる融合に一役買っていることに気づくはずです。彼はクラシカルなメロディーをその異能で立体的に配置し、構成する技能に優れていますがクラッシックの教育は受けていません。しかしだからこそ、難解複雑な理論よりも、メタル者が欲する “クラシカル” の海へと音楽を没入させることが可能なのでしょう。
「僕たちの曲はパワーメタルで、クラシカルなシュレッドギター/キーを使っているけど、ドラマーとベーシストのリズムセクションはモダンでテクニカルなメタルに傾倒している。この融合が素晴らしくて、このジャンルの名前を思いついた人をまだ見たことがない。」
シンガロングの麻薬 “Phobia” は象徴的ですが、リズムセクションが牽引する djenty なリフワークとパワーメタルの婚姻も想像以上に鮮烈な化学反応をもたらします。フラスコには、メキシコ、ブラジル、カナダ、テキサスの多様な背景、文化がしたたり、メタル革命を指標する “スーパーメタル” が誕生しました。間違いなく、OUTWORLD や HEAVEN’S GUARDIAN で知られる Carlos Zema の強靭な歌声は革命のハイパーウェポンでしょう。
「今回のパンデミックで世界中の人々が受けた心身への影響を目の当たりにして、このアルバムのテーマが思い浮かんだ。その結果、ソリッドでヘヴィで革新的なアルバムになった。今、世界で起きていることと密接に関連している。」
“Psychosomatic”、心身症と名付けられたアルバムは、その名の通りパンデミックが引き起こしたロックダウンや自己隔離といったストレスにより、心や身体に異常をきたす非日常の2020年代をビッグテーマとしています。一時は “Candlelight” 蝋燭の灯で悲しみに沈んだアルバムは、それでも “New Day Rising” の希望に満ちたプログレッシブなパワーメタルで新たな日々の到来を焦がれるのです。
今回弊誌では、Gabriel Guardian, Carlos Zema にインタビューを行うことが出来ました。「欠点は、2つの楽器を常に練習しなければならないこと。2つの楽器を使いこなすために、他のミュージシャンの2倍の練習をしなければならないんだ。2つの楽器をセットアップして、ケアをしなければならないのもめんどうだよね。」 不死の守護者によるメタル革命のはじまり。どうぞ!!

IMMORTAL GUARDIAN “PSYCHOSOMATIC” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【OCEANS OF SLUMBER : OCEANS OF SLUMBER】


COVER STORY : OCEANS OF SLUMBER

“I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

OCEANS OF SLUMBER

女性であること。黒人であること。ヘヴィーメタルには直結しない2つの特徴を持つ Cammie Gilbert は、OCEANS OF SLUMBER へと加入した2015年、自らに一握りの不安を抱えていました。
「メタルの世界に入った時、黒人女性であることや、必ずしもメタルのバックグラウンドばかりを抱えているわけではないことにかなり負い目を感じていたのはたしかね。」
バプテスト派の家庭で育ち、IRON MAIDEN や METALLICA より R&B やヒップホップが鳴り響く街並み。両親は教会の聖歌隊で出会い、プロのミュージシャンである父親が聖歌隊のリーダーを務めていました。”南部出身の黒人女性” としての経験をいかにメタルへと反映させるのか。しかし Cammie は自身のバックグラウンドが、思っていた以上にメタルと調和していることに気づきました。
「私はメタルから歌を教わったわけじゃない。だけど、私が歌を教わったゴスペル、ジャズ、ブルースのヴァイブやエッセンスはプログメタルが存在し成立するまさにその理由の一つなのよ。だから私はメタルが大好きなの。美学やアトモスフィアもそうだけど、エモーションや細部への拘りもね。」

興味深いことに、Cammie の人生に最も早く寄り添ったメタルは、Layne 逝去のあと、黒人ボーカリスト William DuVall と共に前へと進む ALICE IN CHAINS でした。
「初めてロックやオルタナティブを聴き始めた時、ALICE IN CHAINS の “Dirt” が私を揺さぶったの。KORN や SLIPKNOT は激しすぎて家では聴かせてもらえなかったんだけどね。感情が込められているのよ。悲しみや痛み、ヘヴィーな感情を理解するのはあの頃の私にとって未知のことだったのよ。」
Layne Staley や Chris Cornell のソウルフルが彼女のルーツと共鳴したのです。
「当時、私の周りにはロックやメタルにハマっている黒人の子供はあまりいなかった。だから少し孤立していたの。でも、それが私が感じていた音楽だったから。大学まではちょっとした一匹狼だったわ。大人になってライブに行けるようになるまでは、メタルやロックシーンのコミュニティの感覚を得られなかったわね。」

数年後、Cammie は自らロックバンドで歌っていました。彼女が所属していたバンドは、ある日ヒューストンで開催された OCEANS OF SLUMBER のショーのオープニングを務めました。
「私はルーサー・ヴァンドロスを聴いて育ったから、ウォームアップとしてメロディックでビッグな曲を演奏していたの。駐車場で叫んでいたら、Dobber の友達が私を見ていたわ。私はこのショーで唯一の黒人の女の子で、鮮やかなエレクトリックブルーのドレスを着ていたから、かなり目立っていたのよ。私たちがパフォーマンスをしたとき、Dobber たちが真顔で私たちの前に立っていたのを覚えているわ。私は『彼らは私たちを嫌っている』と思ったわ。(笑) でも、そんなことはなかったわね。後日、彼らは私に連絡してきたの。」
バンドは Cammie に何曲か歌ってほしいと頼み、2014年にオリジナル・シンガーの Ronnie が脱退した際、彼女が後任となりました。今では CammieとDobber が OCEANS の舵取りを行い、Dobber が楽曲の「85~90パーセント」を書き、Cammie が作詞を担当しています。そして彼女が加入した後、二人の関係は音楽を超えてロマンチックなものへと発展していきました。


2人を繋ぎ合わせた TYPE O NEGATIVE の “October Rust” も彼女、そしてバンド全体にとって重要なレコードです。
「Peter Steele が大好きなの。私たちは TYPE O NEGATIVE が大好きで、彼らのアルバムは何枚も持っているけど、私にとってはこの作品がメインよ。”Cinnamon Girl”、”Be My Druidess”、そして “Wolf Moon”。Dobber は一度彼らのライブを見たことがあるのよ。うらやましいわ。私は Peter の自伝を読むことで埋め合わせなければならなかったの。バンドに関するメディアならは何でも買っているわ。彼らの曲を聴くのは経験になるのよ。Peter はとても賢い作詞家だから。聴いている音楽の中で一番面白い音楽だと思う。エネルギーを高めてくれるし、幸せな気分にさせてくれるわ。」
ANATHEMA, KATATONIA, SWALLOW THE SUN といった Peaceville 由来のゴシックドゥームな音モスフィアも当然 Cammie の養分です。
「ラブシックな音楽よね。クルーナー的な意味ではなく、切ない憧れとストーリー性を持った、かなりロマンティック。甘くて切なくて、夜にピッタリな音楽だわ。」
EVERGREY のプログレッシブな音の葉は OCEANS OF SLUMBER のスピリットと切っても切り離すことはできません。
「全員 EVERGREY の大ファンなの。”The Storm Within” は私の心を掻き毟り、彼らのエネルギーとボーカル Tom S. Englund が語る経験に引き込まれるわ。彼は信じられないほどソウルフルなのよ。OCEANS は彼らに比較的似ていると感じているの。素晴らしくとてもヘヴィなアルバムよ。」

つまり、メタルは他の何ものにも出来ない方法で人と人を絡み合わせると彼女は信じているのです。
「目を閉じていると、彼らの現実が、経験が伝わるのよ。私はいつも身体の外に出るような体験を探しているから。一瞬、私たちは完全に歌と一体となり、楽曲の書き手と一体となる。」
音楽的にも、プログ、ジャズ、R&B、ドゥームにゴシック、デス、ブラックといくつもの垣根を取り払ったセルフタイトル “Oceans Of Slumber” において、Cammie はそうやって文化や人種の壁も取り払いたいと切に願っています。Dan Swano のミキシングとテキサスヒューストンの組み合わせもその主張を実践していますね。
「ドラマーで私のパートナーでもある Dobber がこのレコードで君のことを語ろうと言ってくれたの。南部に住む黒人女性としての私の気持ちをもっと大きなスケールで OCEANS の音楽に反映させようってね。それってメタルコミュニティにはまだあまり浸透していない視点なの。だから、彼の言葉は、自分の人生の中で感じている怒りやズレ、混乱、葛藤などを、本当に深く掘り下げていくための青信号になったわね。私たちは、明らかにいつも存在し、常に問題となっているものを探求し始めたの。長い間、ある種のカーペットの下に押し込められていた問題をね。」
ジョージフロイド氏が殺害され、Black Lives Matter が世界を揺るがした時、Cammie の発したステイトメントは胸を打ちました。

「私はアメリカの黒人女性で、奴隷の曾孫娘。それは写真の中だけの記憶。幼い頃、私は奴隷の生活を想像しようとしたわ。だけど今起こっている現実は、私の子供じみた想像力の裏にある謎を解き明かしてくれたの。南北戦争ドキュメンタリーの古い写真を見ると、彼らの顔が見えるわ。マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに触発された行進の映像を見ると、彼らの顔が見える。そして今、ソーシャルメディアにサインインして、催涙ガスをかけられているデモ参加者を見ると、彼らの顔を見ることができる。そして今は私の顔も見えるのよ。
黒人の上院議員、市長、有名人、勇敢な人々がネット上でこの国の欠点に対する不満を共有しているとき、私はもう怒りの涙を抑えられないの。全国放送のテレビで、これまで以上に多くの黒人が泣いているのを見てきたわ。自分の歴史が壊れたような気がするし、この国が壊れたような気がする。ジョージ・フロイドは転機となった。新世代が「もういい加減にしろ」と言うきっかけになった。彼の人生を奪った紛れもない冷酷さを無視することはできなかったの。彼の死がビデオに撮られたことは、感情的にはぐちゃぐちゃになっていて居心地が悪いけれど、それでも幸運だと思っているわ。それはついに世界に、何十年もの間、ネイティブアフリカンのアメリカ人が注意を喚起しようとしてきたことを、自らの目で見る機会を与えてくれたから。物事はまだ壊れている。とても、とても、壊れている。
アメリカの歴史を考えてみると、白人でない者に良いことはほとんどないの。それが真実よ。色々な情報を鵜呑みにすると胸に空洞感が残るのよ。この国は何かを直しているのではなく、何かを手放しているのだと気づくわ。壊れ始めたのは、間違った方法で、間違った土台と間違った考え方で始まったから。始める前に対処することを選んだ。他者への抑圧を維持することで強さを維持することを選んだ。楽な道を選んだその同じ道が常に足かせになることに気づかずに。もはや息を止めたり、憎しみや抑圧のためのスペースを確保したり、安易な道を選んだりすることはできないわ。国家として、私たちは最も脆弱で最も問題を抱えた人々や地域社会に思いやりとケアを示さなければならないの。彼らを奮い立たせれば、私たち全員が奮い立つでしょう。彼らを貶めるものが我々を貶めるのと同じように。コミュニティに属することは意味があることに気づくのが早ければ早いほど、私たちは前に進み、すべての人のために真の変化を起こすための連帯感を見つけることができるのだから。
抗議活動の勢いを持続させ、前進させるためにはどうすればいいのだろうか。これは、すべての人が反省するための時間。自分の信念が自分の人生をより良いものにしてきたのだろうか?私の信念は、私の周りの人々の生活をより良いものにしただろうか?正直に答えて、よく考えて欲しい。私たちの未来は、それにかかっているから。」

音楽的に、アルバムは以前よりもその壮大さを増しています。Cammie の言葉を借りれば「Dobber は存在しない映画のサウンドトラックのように作曲している」。そうしてこれまで OCEANS の旅は、より内省的なものでしたが今回のセルフタイトルでは、より広い社会的なトピックや過去からインスピレーションを受けていることに気がついたのです。さながら、壊れた世界のサウンドトラックの如く。
「1年ほど前に第二次世界大戦の映像をカラー化した『第二次世界大戦 HDカラー』が公開されたんだけど、Dobber は大の歴史好きだから見に行ったんの。カラーで見ると物凄いわ。とても現代的に見えるから、頭の中では違った感覚になるのよね。戦争の原因となったもの、文化の分派、社会学、心理学を学んだわ。ヒトラーの台頭や、彼がいかに上手くやったのかを。パターンが見えてきて、それが今の時事問題とどのように関係しているのかが分かるようになる。新しいことは何もないことに気づくの。私たちは第一次世界大戦からベトナムまで、戦争と国際関係の深い穴に入っていったのよ。
そのあと『どうやってみんなに歴史を伝えればいいのだろう?みんなこの歴史を知っているのだろうか?!』と思ったわ。人々は歴史を知らないし、それが今の状況にどれだけ影響を与えているかも知らないような気がしたのよ。もしあなたが精神疾患を持っていたら、心理学者はあなたがどのように育ったのか、どこから来たのかを尋ねるでしょう?社会として、文化として、自分の歴史を見なければならないのよ。」

例えばブラックメタルがナチスの問題を抱えるように、メタル世界にも取り払うべき差別の壁は存在します。
「メタルコミュニティの中から、私の視点にこんなにも多くの支持が寄せられていることに驚いたわ。身近な友人の輪の中から、波紋が広がって、まさか共有するとは思ってもいなかった人たち(メタル界の白人男性)が、『俺たちはこれを乗り越えたいんだ。俺たちは解決すべき問題を抱えているし、変化が起こるべき正しい側にいたいんだ。』なんて言葉が寄せられるなんてね。明らかに、ここには多様性があるべきなの。すべてのミュージシャンはその生い立ちや文化ではなく、音楽性に基づいてチャンスが与えられるべきなのよ。その外見ではなく、音楽性でチャンスを与えるべき。そうすれば、音楽だけでなく、バンドのメンバーも多様化して、様々な人たちが集まることになるはずなのよ。」
パンデミックからBLM運動まで、これまでの2020年の出来事を考えると、Cammie の歌詞は今の時代にあまりに符合しています。
「今振り返ってみて、何が私たちをこれほどまで時代と関連性のあるアルバムを作らせたのか、その軌跡を見ようとしているの。私は偶然を信じない。実際、他の人たちも同じような軌跡をたどっていたと思う。人々は今、その歴史や、認識や制度がどのように彼らの周りの世界を形成してきたかに注目しているわ。一度真実とすべての情報を知ると、それを見逃すことはできないの。」

Cammie の作詞へのアプローチは思慮深く、創造的です。”Pray For Fire” では、再生と破壊両方のための火の対照的な機能を探求しています。つまり人々と土地を守るため、国有林での制御された燃焼と、戦闘での火炎放射器の使用。
ファーストシングル “A Return To The Earth Below” では、自身の鬱病との闘いを、より幅広い社会のパターンとともに考察しています。「私は自分自身を助けるために、集中して前を向いて努力し続けなければならないと感じているの。誰にでも対処することや克服しなければならないことがあるわ。それをもう一度紐解いてみると、社会がいかに悪いパターンに陥っているかがわかるのよ。物事がうまくいっているように見えても、ヒトラー・ユーゲントのように、ゆっくりと、誰も気づかないうちに追い越されてしまうこともあるんだから。」
Cammie の文章には遊び心もあります。クローザー “The Red Flower” は女性としての葛藤と矛盾についての曲で、TYPE O NEGATIVE の “Wolf Moon” カヴァーが続きます。
「”The Red Flower” は女性らしさを歌った曲で、Peter Steele の超ロマンティックなラブソングが続くのよ。(笑) 彼は愛に溢れた男で、彼女のストレスを少しでも和らげたいと思っているのよ!あの曲を女性としてカバーするのはちょっと生意気だと思ったけどね。」

Cammie は将来、特に次世代に希望を持っています。
「子供たちは私たちが生きてきた頃よりも多くの情報を目にするようになってきていて、それが良い意味で彼らを形作っていくのは間違いないと思う。これからの世代は、情報に精通し、賢く、感情的に賢い世代。私は彼らが行動を起こして、過ちのいくつかを元に戻すと信じているわ。私は長い目で見て希望を持っているの。」
アメリカの会場が安全に再オープンし、OCEANS OF SLUMBER のツアーが許可されれば、Cammie は、旅を通して経験するすべての景色、匂い、味の感覚をまた満喫したいと語ります。
「会場に到着して、荷物を降ろして、街に繰り出す瞬間が恋しいわ。まだ開場していないし、皆が荷物を積み込んで、サウンドチェックをして、そして会場のドアから飛び出して外に出て、日の光に目を慣らしながら外に立ち、どこの街でも、どこの国でも、賑やかな通りを見て、すべてを受け入れるの。そして、オープン前の小さな探検の時間を過ごすのよ。地元のおやつ屋さんを見つけたり、コーヒーや食べ物を買いに行ったり。それが一番懐かしいわ。戻ってくるかどうかもわからない何かを待っている気分よ。例えば、飼い猫が逃げてしまった時のように。内向的な自分が思っていた以上にステージが必要なの。人が必要なの …ほとんど誰にも会わなかったこの期間で、思っていた以上に人や観客、ビジネスを失ったことは間違いない。ステージに立って、自分の歌を熱心に聴いてくれている人たちが受け止めてくれていることほど素晴らしいことはないの。それこそが繋がりよ。もう二度とそれを経験できないという考えは、心の中の何かを破壊してしまうのよ。」

参考文献: KERRANG!:OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT: “I FEEL LIKE MY HISTORY IS BROKEN, I FEEL LIKE AMERICA IS BROKEN”

KERRANG!: OCEANS OF SLUMBER ARE THE SOUNDTRACK TO A BROKEN WORLD

HOLLYWOOD LIFE: OCEANS OF SLUMBER’S CAMMIE GILBERT

LOUDERSOUND : 10 ALBUMS THAT CHANGED CAMMIE’S LIFE

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