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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONJURER : PATHOS】


COVER STORY : CONJURER “PATHOS”

Me And Dan Have Always Talked About Wanting To Take That Extreme, Roadburn Sound, And Trying To Distil It Into Something More Accessible.

PATHOS

「すでにこのバンドは、僕らの誰もが可能だと考えていたよりも遠くに来ている…これは客観的に見て、今まで誰も作ったことのないベスト・アルバムだ。何が起こるか予想できるようなバンドにはなりたくないんだ」
メタル世界で今、最も謙虚で、しかし目覚ましい成長を遂げたバンドこそ CONJURER。誇りを込めて、彼らは自らの音の葉を “リフ・ミュージック” と呼んでいます。ロックダウンを経て、ドラマー Jan Krause の脱退を受け入れたミッドランドの英傑は、驚異的なセカンドアルバム “Páthos” で、”Neo-New Wave of British Heavy Metal” の旗手の座をたぐりよせました。過去2年半の残酷な現実の後、彼らは再び英国で最も需要のある輸出品 “ヘヴィ・メタル” の担い手として夢を生きているのです。
CONJURER は謙虚なバンドです。彼らは、1ミリも我慢できないロックスター志望者でもなければ、”自分のブランド” を築こうとする計算高いソーシャルメディア・パーソナリティでもありません。ただ、私たちと同じ、生粋のメタルヘッズというだけ。デビュー作 “Mire” が様々な媒体で満点の評価をさらったのは、センセーショナルで見出しを飾るようなハイコンセプト、ギミックのおかげではなく、その息苦しいほどドロドロした楽曲を地下室や裏部屋で何百回も演奏して練り上げたからこそ、メタルヘッズの心に響くものとなったのです。会場が大きくなり、世界中でブッキングされる今でも、ギタリストの Dan Nightingale はステージから降りると、その非現実的な光景を噛み締めます。
「僕らにはイメージもないし、裏話もないし、カルト的な人気もない。僕らはただメタルが好きな、信じられないほど退屈な4人組で、それでもどうにかここまで来た。もちろん、音楽に共鳴してくれなければ、こんなことにはならなかっただろうし、ファンにはとても感謝している。でも、裏を返せば僕らがやっていることだけを好きでいてくれる人たちがいて、そのおかげでこれほどの成果を達成できるなんて、今でも正気の沙汰とは思えないよ。だから、みんなに乾杯!変人たちよ!」

7月1日にリリースされた CONJURER のセカンド・アルバム “Páthos” は、メガレーベルNuclear Blast と契約して以来初の作品。そして、ベーシストの Conor Marshall と共に書いた初の楽曲群でもあります。言うまでもなく、2022年にリリースされるメタルの中で最も期待されている作品のひとつであることは間違いありません。フロントマンの Brady Deeprose は、まだそんなバンドの躍進を信じられないと語ります。
「”Mire” のマスターを提出したら、レーベルがアルバム・タイトル、ミュージック・ビデオ、アートワークを要求してきたのを覚えているよ。僕たちはただ “なんだ!?自分たちが何をやっているのか、まったくわからない!” って混乱していた。4年経って、地元のバンド、つまり仲間の何人かが集まったバンドから、正当なヘッドライン・アクトにステップアップすることがどういうことかやっとわかりはじめたよ。より大きな経験、成熟、認識。それが僕らの姿なんだ。つまり、僕たちは初めて正当なバンドになったようなものなんだ。これが始まりって感じだよ….」
ESOTERIC の Greg Chandler と共にバーミンガムの The Priory と、Excalibur Cottage と名付けたノーザンプトンの邸宅の間でレコーディングを完了させた CONJURER。3日間にわたるレコーディングは、マイクの不具合により中止となり、Brady はマイクの交換のためにロンドンに緊急帰郷することになりました。さらにドラマーの Jan Krause がその直後、すねを痛めてさらにレコーディングを遅らせることになったのです。2分半の “Suffer Alone” の収録を即座に変更したため、Conor はこのアルバムで最も難しい曲を暗記して、一晩でトラッキングを行わなければならなくなりました。さらに、ロックダウン中の出来事というプレッシャーも加味されます。ミキシングとマスタリングは、ハードコアのスーパー・プロデューサー、Will Putney を今日。彼らのゴリゴリとしたライブの質感をできるだけ引き出すことを目的に、アルバムをアメリカ国内に送り、彼の本拠地グラフィック・ネイチャーで完成させたのです。
アルバムの発売に際して、Brady にプレッシャーはあったのでしょうか?
「プレッシャーというより、初日から僕らをサポートしてくれた人たちに対する義務だね。ライヴに足を運んでくれたり、Tシャツを買ってくれたり、多くの時間とお金を投資してくれたレコード会社、何年も僕らと仕事をしてくれたブッキング・エージェントやPRなどのため、いい作品を作りたかった。しかし、最終的に僕たちが喜ばせようとしているのは、僕たち自身だけなんだ。この信条を守れば、逆に僕たちに投資してくれた人たちに対する義務を果たすことになる。もし、このレコードが気に入らない人がいたら?僕たちは “間違っていてもいいんだ” と言いたいね。僕たちは努力してこれを作り上げた。1年半かけて作ったんだ。もし気に入らなくても、もう少し努力して味方になってあげるべきかもね」

“Mire” のサウンドが、がその制作中に行った無数のショーによって定義されたとすれば、”Páthos” は CONJURER が全く演奏できなかった期間の落とし胤です。しかし、ギリシャ語で “苦しみ” と訳されるタイトルにもかかわらず、リスナーはパンデミックの経験についての鋭い考察を期待する必要はありません
「ライブで演奏することができなかったんだ。微調整やロードテストもできなかった。ただ、自分の家でじっくりと演奏して、それがアルバムに収録されるんだ。世界が再び開かれ、ギグが再び行われるようになった今になって、”Pathos” の曲をライブで演奏しようとしたら、”なんてこった!”って感じなんだよ」
“Mire” に伴うツアーでは “100万回” 演奏したと Brady は語ります。
「”Mire” では、週末に演奏して、ローカル・オープナーになって、週末にぶらぶらしてリフを書いてただけなんだ。でも、その後、フェスティバルや大きなバンドと一緒にちゃんとしたツアーをやるようになったから、このアルバムではその恩恵を受けることができるだろうね。GOJIRA やヘヴィな音楽をやりたいと思わせてくれたバンドをベースにしていたのが、今はもっと深みにはまり、他の影響を受け始めたところなんだ。”Mire” は、僕らが消費しているものやバンドの方向性と比べると、かなりベーシックな感じがするね。僕と Dan は、ロードバーンのようなエクストリームなサウンドを、より親しみやすいものにしたいといつも話しているんだ。今、”Mire” を聴くと、ただビッグで馬鹿みたいなリフがあるだけ。”Pathos” は間違いなく僕たちが目指しているものを凝縮しているんだ」
2020年にスタジオを訪れた際、Brady がバンドの昔のサウンドをビッグでクレイジーなリフがあるだけ” と表現したのはやりすぎかもしれませんが、”It Dwells” の変幻自在な巨人のリフ、”Those Years, Condemned” の陽気なフォークと角ばったマスロックの婚姻、”In Your Wake” の胃が潰れるほどのデスゲームを聴けば、その表現もあながち大袈裟ではありません。バンドによると、1曲目の “It Dwells” は、アルバム全ての個性を1曲のメタルで表現しているとのこと。GOJIRA や YOB、CONVERGE や ELECTRIC WIZARD といった、彼らのアイドルの影響も未だ残っていますが、それはこれまでよりもはるかに計算されたニュアンスで展開されています。さらに Brady は北米ポストメタル界の至宝 SUMAC の名前をインスピレーションの一つはに挙げていて、彼が取り込もうとしているメタルの “深み、先進性、無双、極限” の波を、オランダのアヴァンギャルド・メタル集会 “Roadburn” シーンとして要約することを好んでいます。
「いつか、ロードバーンのサウンドを、ダウンロード・フェスティバルのオーディエンスに親しみやすいものにしたいんだ。TRIVIUM, BULLET FOR MY VALENTINE, THE BLACK DAHLIA MURDER を聴いて育った人の感性で、IMPERIAL TRIUMPHANT のような作品をフィルタリングしたいんだよね。ダウンロードが好きな人たちはロードバーンのバンドを聴いて、”これで楽しかったら、10点満点になるのに” と言うでしょう?僕たちはそれができるバンドなんだ 」
Dan も同意して肩をすくめます。「ロードバーン・シーンには素晴らしいバンドがたくさんいるけど、あまり楽しくないよね」

ちなみに、2018年の時点で CONJURER がこれほどビッグな存在になるとは予想もしていなかった弊誌ですが、当時行ったインタビュー で Brady が興味深い言葉を述べています。
「僕にとっては GOJIRA と THE BLACK DAHLIA MURDER こそがスターティングポイントだった訳だからね。そして決定的な瞬間は YOB をライブで見た時だった。多くのバンドは一つか二つのメジャーな影響を心に留めながら作曲していると思うんだけど、僕たちはどの瞬間も30ほどの影響を考慮しながらやっているんだ。ギター/ボーカルの Dan Nightingale と僕は、当時同じようなフラストレーションを抱えて仲良くなったんだ。ローカルシーンがいかにクソになったか、メタルコアがいかに退屈かという鬱憤だよ」
ただし、その “楽しい” ことだけが “Páthos” の明らかなセールス・ポイントというわけではありません。マンチェスターのポストロッカー PIJN との2019年のコラボレーション “Curse These Metal Hands” と比較して、Brady は「”CTMH” が50パーセントのアルコールであるのに対し、”Pathos” はとてもシラフな体験だ」と言い切ります。それでもこのアルバムは、鬱と実存的な恐怖をブレンドした魂の叫びであり、特に残酷な二日酔いによく似ていると言えるのかもしれません。
例えば、ロンドン在住のヴォーカリスト兼作曲家 Alice Zawadzki の力強い歌声が響く “All You Will Remember” は、亡くなった祖母がアルツハイマー病と認知症と10年間戦う姿を見た Dan の実体験。
「いろいろな意味で、認知症は死の前の死だ。この曲は感情的だ。今年の初めに祖母が亡くなってから、この曲は間違いなく別の光を帯びている。祖母が亡くなった今、この曲を世に出すべきかどうか、自問自答しなければならないことがあるんだ。でも、それがこの病気の現実なんだよな。認知症を患った人がもうかつての愛する人ではないという考えと格闘しても、患者が心の奥底では自分に何が起こっているのか分かっているのだと思うと、胸が張り裂けそうになる」

ネット上の哲学者Rokoによる同名の思考実験にインスパイアされた “Basilisk” は、仮想の人工知能が、想像しながら実現するために働かなかった人を拷問する動機があるという “決定理論” と、そのシナリオが人間の自由意志に及ぼす影響についてとりあげています。この抽象的なコンセプトは、Google のエンジニアが同社のチャットボットに意識が芽生えたことを示唆したとして停職処分を受けたという最近のニュースを思い起こさせる一方で、完成した楽曲は、歌詞としてはあまりにも濃密で、その中心には “思考は破滅と似ているか” という問いがうっすらと漂っているのです。
「アルバムにコンセプトはなく、ただただ惨めな曲ばかり。認知症の影響についての曲もあるし、認知症になった人の愛する者として、また自分自身がそのような状況に陥るかもしれないという可能性、それに対処するための曲もある。本当に惨めで、鬱や不安といった内面的な葛藤や、それにどうアプローチしていくかというトラックもある。鬱や不安がどのように現れるかという二面性、そして本当の自分とネガティブな自分とのバランス。それから、ロボットが世界を征服してしまうという曲もある」
クローザー “Cracks In The Pyre” は、カーディフ・シティのサッカー選手であるエミリアーノ・サラが英仏海峡上空の飛行機事故で死亡し、彼の遺体が見つからなかったことを受けて Jan が胸中さらけ出したことに端を発しますが、すぐに悲しみと偉大な来世のためのより複雑なメタファーへと発展していきました。”かつて穏やかだった潮流は、今は苦しめ、思い出させるだけだ “あの世” の君を思い描こうとしても、君の優美さは見えないまま 僕は否定される”。Brady はこう説明します。
「僕たちは誰も宗教家ではないんだけど、宗教家が故人が “より良い場所” に行ったと信じることで得られる許しをうらやむという話をしていた。それを信じていなければ、誰かがいなくなったとき、彼らはただいなくなっただけになってしまう。この興味深い、感情的な、信じられないほど憂鬱なテーマが、熟考するきっかけになった」

他の曲でもソングライターたちは、悲しみを自らに語らせることに喜びを感じています。”It Dwells” と “Rot” は、精神疾患がもたらす対照的な影響について歌い、”Suffer Alone” では、苦痛に満ちた孤独を力強く反芻。”In Your Wake” では、拒絶と喪失の影響を扱っています。Brady と Dan は過去に不安やうつ病の経験を公言していますが、それでも “Pathos” は CONJURER がこれまで見せたどの作品よりも親密で、思いやりと希望に満ちているように感じられます。
「個人的な歌詞を書くとき、自分にとってトラウマになるようなこと話したくないという思いが常にあったんだ。でも、人生にはいろいろなことが起こるから、それを話さないわけにはいかないんだ。ロックダウンが僕らに影響を与えなかったと言うのは愚かなことだ。このアルバムは、僕たちがこれまでで最もつながりが薄かった時代の、つながりと共感について書かれたもの。もし、別の時期に制作していたら、もっとハッピーなアルバムになっていたかもしれない。でも、同じように聴こえたと思いたいね」
“Páthos” の物語は、音楽だけでは終わりません。2021年3月に最終マスターを受け取ってから15ヶ月後にリリースされるまでの遅れは、ハードコアなファンにアナログ盤の素晴らしさを味わってもらうために、リリース日にフィジカルレコードを届けたい(または供給が不安定な現状では可能な限りそれに近づけたい)という CONJURER の希望によるものでしたが、そのおかげでパッケージ全体の完成度を高めることができました。
ペイントされたアートワークのアイデアは “Mire” の頃からありましたが、今回、時間とリソースを追加したことで、バンドはフランスのアーティスト Jean-Luc Almond に依頼することができました。彼は、油絵の抽象画に落ち着いたポートレートを重ねた独特のスタイルを持ち、アルバムの変幻自在の悲しみと共鳴しています。特別に依頼され、額装された彼の作品は、パッケージ用に両面撮影されました。Brady は興奮を抑えられません。「音楽とビジュアルは同じものなんだ!」
Dan にとって、この印象的なビジュアルは、曲の中で表現されている個人的な目覚めと完璧に呼応しています。ロックダウンの末に自閉症であることが判明し、それまで苦しんでいた断絶を理解し対処できるようになったことで、痛みから解放されたのです。
「僕が今まで感じていたけれども表現できなかったことをすべて表現しているんだ。両手で頭を抱えながら、顔の奥底から大きな色の塊が出ている人のイメージは、僕が心の中に抱え込み、話すことができないと感じたすべてのものを象徴しているんだよ」

一方、Jan にとっては、昨年の夏が一つの区切りとなりました。6月19日に開催されたDownload Pilot のメインステージで演奏した後、重要なソングライターであり、スタジオでの事実上の芸術監督でもある創設者のドラマーは、バンドメンバーにスティックを置くことを告げたのです。
「本当に悲しいよ」と Brady は嘆息します。「結婚して数日後、母親、妻、義理の両親と一緒に食事をしているときに、メッセージを受け取ったんだ。携帯電話を見て、”Jan がバンドを辞めた!” って言いながら見返したんだ。レコードのスクラッチみたいな感じ。どう処理していいかわからなかったよ!少しの間、本当に怒っていたよ。Jan は10歳の頃から少なくとも2つのバンドを同時にやっていて、一時期は6つもやっていた。誰よりも多くギグをこなしてきた。彼はツアーが嫌いだと公言していたが、かつてはステージ上の30分に価値があると感じていた。最初のアメリカ・ツアーが始まって2週間目に、彼はもう演奏するのは楽しくないと言ったんだ。そして、ダウンロード・パイロットのとき、彼は広報担当者にキレて、自分の機嫌の悪さが自分を悪い人間にしていることに気づいたんだ。彼にとっては、このバンドは自分には合わないと悟った瞬間だった。彼はこのバンドを辞めただけでなく、所属していた全てのバンドを辞めたんだ。そして、恐ろしいことではあるけど、離れてみることは彼の精神衛生上とても良いことだった。最近彼に会って、僕の好みからすると不穏にハッピーに近い感じだな!って思ったんだ」
空いたスツールは、新鮮な出会いも与えてくれました。ギルフォードのハードコアクルー POLAR の Noah Seeが、CONJURER の新しいドラマーとして登場したのです。昨年11月以来、代役を務めてきた彼は、思わず笑みがこぼれる。
「Janはこのバンドでとても重要な役割を担っていたけど、僕たちは音楽的にも個人的にもとてもうまくいっているんだ。このメンバーで新しい経験をし、外に出て、人々に自分の印象を与えることを楽しみにしているんだ」
新鮮なエネルギーは、これほど重いアルバムを世に送り出す上で極めて重要なものです。
「Noah が加入したことで、バンドとしてどうあるべきか、どうありたいかを再確認することができた」と Conor は思っています。「Noah に参加してもらった後、彼は僕らにバンドの本当のゴールは何かと聞いてきたんだ。これはただ4人の仲間で、ちょっと手に負えなくなったギグをやるだけなのか、それとも本当にやりたいことをやるのか?ってね。ということです。パンデミックによって元気を取り戻したように、今は4人目のメンバーが本当にここにいたいと思ってくれている。彼のおかげで、自分たちのやりたいことに気づけたんだ」
そして、もし “Páthos” がファンから同じような熱意を引き出すことができたら?それは最高の喜びだと Dan は強調します。
「アルバム全体が、つながりを求めているんだ。このアルバムは、僕たちみんなが経験していること、感じていることを理解するためのものなんだ。リフを聴くだけなら、それはそれでいいんだ。でも、”Mire” の時以上に僕らとつながってくれたら、それは素晴らしいことだよ」

CONJURER はブリティッシュ・メタルの未来なのでしょうか?Conor は慎重です。
「トリッキーだね。一方ではとても親切なことであり、人々が僕らのバンドを聴いてそのように感じ、わざわざインターネットに載せるということは正気の沙汰とは思えないほど。でも、一方で、僕たちは4人のバカなバンドマンなんだ、ということも少しはある。自分たちが作る音楽が好きで、明らかに自分たちのために第一に作っていて、他のみんなにも気に入ってもらえたらいいなと思っているような。だから、みんなが気に入ってくれるのはとても嬉しいんだけど、でも、本当にそうかな?僕たち?僕たちがブリティッシュ・メタルの未来なのか?でも、ここ数年、みんなが僕らについて良いことを言ってくれていることには感謝している。EMPLOYED TO SERVE や PALM READER といったバンドとは本当に良い友達になれたよ。Heriot のシャツを着ていて、彼らは次の大物という感じがする。ブリティッシュ・メタルの未来について語るなら、彼らは今まさに台頭してきて、シーンを席巻しているバンドのひとつだと思うんだ。でも、この5~7年の間に、素晴らしいバンドが次々と現れて、僕らもその一員になれて、肩を並べられることを光栄に思っているんだ」
「これは有機的に成長することなんだ」 と Brady は結論付けています。
「クレイジーなマーケティングやお金の後押しはいらない。ただ、僕らの音楽に情熱を感じてくれる人たちとつながり続ける機会を持ちたいし、僕らが再び訪れるたびに、それぞれの都市にもう少し多くの人が集まってくれるようにしたいんだ。そう、このケーキはすでにチェリーで覆われている。でも、このアルバムのサイクルが終わる頃には、80パーセントのチェリーと20パーセントのケーキの割合にしたいんだ….」

参考文献: KERRANG!:Conjurer talk new album Páthos: “I don’t want to be the sort of band where people can anticipate what’s going to happen”

KERRANG!:Conjurer: “Already, this band has come further than any of us thought was possible…”

Could Conjurer be “the future of British metal”?

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAPANGU : HOLOCENO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAPANGU !!

“Northeastern Brazilian Music Made a Huge Impact On Me Ever Since I Was a Kid. Being Influenced By This Kind of Music Is One Of The Main Aspects Of Our Music, Because I Think There Aren’t That Many Rock Or Metal Bands With That Sort Of Influence.”

DISC REVIEW “HOLOCENO”

「ブラジル北東部の音楽は、子供の頃から僕に大きな影響を与えてきた。そうした音楽に影響を受けたことは、僕たちの音楽の大きな特徴の一つなんだよね。だって、そこから影響を受けたロックやメタルのバンドはそれほど多くはないと思うから。ただ、ブラジルの文化には音楽だけでなく、詩や文学、映画それらすべてから大きな影響を受けているよ」
メタルの生存能力、感染力はコロナウィルスをも上回っているのではないか。そしてこのパンデミックで荒廃した地球に光をもたらすのはメタルなのではないか。そう思わざるを得ないほど、ヘヴィ・メタルは21世紀において世界のあらゆる場所に根付き、人種、宗教、文化を乗り越えあらゆる人たちの希望としてその輝きを増しています。
「ANGRA や SEPULTURA が巨大すぎて、自分たちの違いというか個性を捨ててまでその音を追求しようとするバンドが出てきてしまうんだよね。それ自体は悪いことではないし、結局人は自分がやりたいと思うことをやるべきだと思うんだけど、それでもせっかくの音の多様性が損なわれてしまっているように感じるね」
メタルが世界に拡散したことで受ける恩恵は様々ですが、リスナーにとって未知の文化や言語、個性といった “違い” を楽しめることは大きな喜びの一つでしょう。そして、ブラジルから登場した PAPANGU は、その “違い” を何よりも大切にしています。もちろん、ブラジルは世界でも最もメタルの人気が高い場所の一つで、ANGRA, SEPULTURA といった巨大なバンドをいくつか生み出してはいますが、ペルナンブーコの伝統的モンスターの名を冠した PAPANGU はブラジル北東部のリアルな音や声を如実に反映することで、メタルの感染力をこれまでより格段に高めることに成功しました。
「スラッジ、プログ、ブラジル北東部の音楽をミックスしたものが、今のところ僕たちのサウンドのDNAになっている」
プログ世界の問題児 MAGMA が率いた無骨でメタリックな Zeuhl。そのウルトラ・ジャジーで壮大なリズムは間違いなく “Holoceno” の根幹となっています。もちろん、KING CRIMSON の変幻自在でアグレッシブな音選びの妙、スタッカートと休符の呼吸も。ただし、このアルバムの全体的なサウンドは非常に暗く、怒りに満ちていて、時には嘆きさえ溢れています。悲しみと怒りの音楽を表現するのに、あの分厚くてファジーでスラッジーな MASTODON の実験性以上に適した方法があるでしょうか? 例えば、MASTODON と MAHAVISHNU ORCHESTRA が全力でせめぎ合うジャム・セッションが実現したとすれば PAPANGU のようなサウンドかもしれませんね。そうして彼らは、そこにブラジル北東部、ノルデスチの風を運びます。
アルバムでも最もカオティックでアヴァンギャルドな “São Francisco” は現在の PAPANGU を象徴するような楽曲。ファンキーで強烈なラテンのグルーヴから、身体を噛み砕くようなプログ・メタルの妙技、そしてサウダーヂにも通じるダークで美しいメロディアスなセクションへとシームレスにつながり、”プログレ” らしい構築美とは遠く離れた MARS VOLTA 以降の官能性とリビドーを全面に押し出していきます。それは “恐れのないプログ” の鼓動。
「僕たちがノルウェーのロック/メタル/プログのアーティストをたくさん聴いて楽しんでいるから、このつながりが生まれたんだよね」
PAPANGU の “恐れのなさ” は、現在メタル世界で最も革新的な場所の一つ、ノルウェーとのつながりをも生み出しました。LEPROUS, Ihsahn, ENSLAVED, SHINING, ULVER など挙げればキリがありませんが、”違い” を何より重んじるノルウェーの水は PAPANGU のやり方とあったのでしょう。SHINING の Torstein がドラムを叩き、SEVEN IMPALE の Benjamin がサックスを吹き、実力派エンジニアの Jorgen がミキシングを施した “Holoceno” は最先端のモダン・メタルとして完璧なサウンドと野心までをも宿すことになりました。
「右翼政治の現状を厳しく批判しているんだ。ボルソナロと彼の政府は、憎しみと破壊と無謀な愚かさという、最悪の政治の最も身近な代表者と言えるね。人類はすでに多くの問題を抱えていて、世界は有害な気候変動とその自然や社会への影響で下り坂になっている。ボルソナロやトランプ、トルコのエルドアンのような人物は、終末を必要以上に近づけようとしているように見えるんだ」
ポルトガル語で歌われる歌詞は多くの人が理解できないかもしれませんが、それでも彼らはポルトガル語で歌う必要がどうしてもありました。自分たちの言葉で歌わなければ、”真実” も “ウソ” になってしまう可能性を彼らは知っていたからです。失われるアマゾンの自然、パンデミックの脅威に対して手をこまねくばかりか悪化させ続け、私腹を肥やす大企業や政治家。ブラジル北東部の悲しみや怒りは、ポルトガル語でなければ表現不能なサウダーヂなのですから。
今回弊誌では、PAPANGU にインタビューを行うことができました。「PAPANGU という名前は、最初の曲を作り始めたときに思いついたもので、僕たちの地域、人々、住む人の苦悩、そして僕たちの物語について語りたいと思ったのがきっかけだよ」どうぞ!!

PAPANGU “HOLOCENO” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【CONVERGE : BLOODMOON I】


COVER STORY : CONVERGE “BLOODMOON I”

I Asked If We Could Do a Telepathic Meeting, Where We All Stopped And Closed Our Eyes At The Same Moment — No Matter Where We Were Doing — And Channeled Our Energies Into The Center Of This Project

BLOOD MOON

パンデミックにより、バンド・メンバーがアメリカの両端で隔離されている場合、どのようにコラボレートするのがベストでしょうか? インターネットは互いの距離を縮める強力なツールですが、コラボレーターの一人が Chelsea Wolfe のようにゴシックな要素を抱えている場合は、より形而上的な方法で意味のあるつながりを見いだすことになります。
「私は、テレパシー会議ができないかと尋ねたの。アメリカのどこで何をしていようと、全員が同じ瞬間に立ち止まって目を閉じ、エネルギーをこのプロジェクトの中心に注ぎ込むというものよ。私たちはそれを “テレパシー・ズームコール “と呼ぶことにしたのだけも、これはとても面白いと思うわ」
そのプロジェクトとは “Bloodmoon”。ハードコアの先駆者 CONVERGE の4人、Jacob Bannon, Kurt Ballou, Nate Newton, Ben Koller, マルチ奏者 の Ben Chisholm、CAVE IN のフロントマン Stephen Brodsky、そして Wolfe のジョイント・プロジェクト。
「テレパシーでそれぞれが異なる経験をしたわ。Ben Koller は、ステージで曲を演奏している私たちを想像していた。Stephen Brodsky は、ニューヨークの街を歩きながら曲を聴き、立ち止まって私たち全員の努力に感謝していた。私は瞑想をして、私たちが円になって座っているところを想像していたわね…。それはちょうど、心の中の甘い出会いのようなものだったわ」
CONVERGE のヴォーカリスト、Jacob Bannon は、”スピリチュアルでソウルフルな” Wolfeについて、「彼女は、世界の物事が白か黒かだけではないことをとてもよく理解している人だ」と語っています。
「彼女の軽やかなアプローチは、CONVERGE が慣れ親しんできたものとは全く異なるものだ。俺たちはそういったものを嫌っているわけではないけど、パンクのバブルの中で生きているから、肉や骨ではないもの、目の前にないすべてのものを拒絶している。だから、そういったスピリチュアルなものに触れることもあまりないんだよね」
一方の Wolfe は CONVERGE との融合をどう捉えているのでしょうか?
「CONVERGE は、音楽的に自分たちの道を切り開く、そんな世界に存在しているわ。もちろん、ハードコアに根ざしていることは確かだけど、彼らはそれを使って独自の道を歩んで、自分たちの領域のリーダーになったの。私自身のプロジェクトは、常にさまざまなジャンルでやっぱり独自の道を歩んできたように思うわ。ロックの世界が基本だけど、エレクトロニクスを試したり、フォークミュージックを取り入れたりしてきた。つまり、私たちは自分たちのやり方を試すことに前向きで、ある意味、音楽的な感性がうまく融合したんだと思うの。2016年のショーのために初めて集まってセットを作り始めたとき、その相性の良さは明らかだった。いとも簡単に融合したの」
Wolfe は自身の歌声と Bannon の叫びを陰と陽に例えます。
「最終的な結果という意味では、陰と陽の関係になったわね。それが面白いところよ。というのも、私たちは CONVERGE の確立されたサウンドと存在感を知っているから。それは私にとって魅力的で、その逆もまた然り。この二つの世界を融合させたいと思ったわ。でも同時に、私たちがやっていることをもっと浄化したり、少なくとも深みやダイナミクスを加えたりしたいとも願ったの」

哲学的にも、音楽的にも、あるいはラインナップの充実からも、”Bloodmoon: I” は、CONVERGE にとって、ユニークで、大きな変化をもたらすアルバムとなりました。まさにブラッド・ムーンを仰ぐ部分月食の11月19日に発売されたこの作品は、90年代初頭からバンドが磨き上げてきた、メタリック・ハードコアの唸りや地響きをバイブルに、スパゲッティ・ウエスタン・ゴス(”Scorpion’s Sting”)、コーラルでメランコリックなプログレッシブ(”Coil”)、空想的なサバティアン・スラッジ(”Flower Moon”)といった “部外者” との多様なケミストリーも頻繁に顔をのぞかせます。LED ZEPPELIN の遺伝子をひく “Lord of Liars”のようなクラシック・ロック回帰も含めて。CONVERGE 本体とコラボレーターとの間の相乗効果はシームレスで、作品をビーストモードでアップ・グレードしています。もちろんCONVERGE の幅広いディスコグラフィーは常にハードコア以上のものを示唆してきましたが、”Bloodmoon.I” で赤の月の軌道は拡張され、最もその異変を如実に知らしめます。つまりこのアルバムは、CONVERGE の “何でもあり” のアプローチを、最も贅沢に表現した作品なのです。
「俺たちはダイナミックなバンドで、そのサウンドには様々なものがあるんだが、主に、翼竜をバックにしたチェーンソーのようなサウンドで知られている(笑)」
Bannon の言葉通り、このフロントマンは作品の中で最も人間離れした悲痛な遠吠えを持っているに違いありません。Wolfe も Bannon に対して同様に原始的な印象を持っており、彼のボーカルを「虚空に向かって叫ぶ朽ち果てた頭蓋骨」と表現していますが、これは二人の共同ボーカルに対する完璧なメタル的表現でしょう。しかし、何十年にもわたってその力強さを維持することは、Bannon 自身も認めるように、肉体的な犠牲を伴います。
「この30年間、叫び続けてきたことで自分自身に大きなダメージを与えてきたんだけど、今でもやってきたことはやれるぜ。喉に瘢痕組織がたくさんあるから、気持ちよく歌える音やコントロールできる音はほんの一握りしかないし、混乱しているけどな。俺には広い声域はないし、長い時間をかけて研ぎ澄まされ、調整された筋肉でもないだけど、全く別のものがあるから、俺はそれで満足しているんだ。俺はラウドなボーカリストだけど、ラウド・ボーカルは他のスタイルに比べてインパクトやパーカッションとの関係が深いんだよな。というのも、一般的にはビートに合わせて歌うことになるし、音声的にも、自分の中から何かを引き出すために強く押し出さなければならないから硬くなってしまう。だから、伝統的なボーカリストのように、コミュニケーション・ツールというよりは楽器になってしまう。まあ、Chelsea も、やりたいときには残忍なことをやっているし、Stephen はもちろん、Kurt も Ben も時には歌っている。俺たちはこのダイナミクスに賭けていて、レコードの中でいろいろなところを行ったり来たりしているわけさ」
Bannon は “Bloodmoon.I” での自らのパフォーマンスを過小評価しているようです。しかし、自分の限界を知ることには強さにつながります。Bannon がこの作品を “全員が自らのエゴを封印した” と語るように、限界を知り、自分一人では到達できなかったであろうメロディーを、コラボレーターである Wolfe と Brodsky に委ね、彼らが具現化してくれたことに感謝しているのです。
「俺の頭の中では、いつも Ronnie James Dio のためにボーカル・メロディーを書いているんだけど、俺は彼のように歌うことはできないからな。Ronnie James Dio の知り合いでもなかったし、彼は死んでしまった。だから、Stephen Brodsky に任せたんだ」

“Bloodmoon” プロジェクトが本格的に始動したのは2016年のこと。当時、CONVERGE は Wolfe、Chisholm、Brodsky の3人に声をかけ、ハードコア・グループのカタログの中で、よりムードのある、あまり知られていない部分を強調するため短期間のヨーロッパ・ツアーを行い、オランダの Roadburn Festival で今では伝説となっているセットを披露しました。Bannon が Wolfe との出会いを振り返ります。
「彼女のセカンド・アルバム “Apolaklypsis” を手にしたのは2009年くらいだったと思うけど、すっかり魅了されてしまったね。すばらしいレコードだと思った。その後、俺たちがツアーに出ているときに会うことになったんだが、シアトルか、少なくともシアトルの近くで Chelsea も Ben もそのあたりにいて、ライブに来てくれたんだ。それ以来、さまざまな形で連絡を取り合っていた。Ben とはいくつかのプロジェクトで一緒に仕事をしたし… CONVERGE でもっと広がりのあるダイナミックな活動をして自分たちの世界を広げていくには、他の創造的な声を持ったミュージシャンと一緒に演奏することが必要だと常に考えていたんだ。そんな話をしていたら、二人と一緒に仕事をするというアイデアが頻繁に出るようになった。2009年から今まで、ずいぶん長い時間が経ったように感じるけど、人を集めるにはスロー・バーンが必要なんだよな。2016年にはヨーロッパでいくつかのショーを行ったけど、そのうちの1つがイギリスのロンドンで “Converge Bloodmoon” として行ったもの、これが本質だ。CONVERGE の曲をベースにアイデアを膨らませたもので、幸運にも Ben と Chelsea 、そして Stephen Brodsky がその最初のライブに同行してくれたんだ。相性はとても良くて、みんなとても仲良くなれた。だから、その後も続けていきたいと思えたんだ」
Brodsky をメンバーに加えたのは、彼がすでに CONVERGE ファミリーの一員であったことから、自然な流れでした。Brodsky は、1998年に発表された CONVERGE のアルバム “When Forever Comes Crashing” でベースを担当しており、さらに2009年に発表された “Axe to Fall “では、CAVE IN と CONVERGE のメンバーが合体して大規模なレッキングクルーとなり2曲を演奏しています。さらに Brodsky は、CONVERGE のメンバーと他にも2つのバンドで共演しています。Koller との MUTOID MAN と、CAVE IN。長年ベーシストであった Caleb Scofield の死後、2018年に Newton を招き入れたのです。Bannon が回想します。
「Stephen とは10代の頃からの付き合いだよ。俺の意見では、彼は俺が知っている中で最も才能のある、自然なプレーヤーの一人だと思う。それは、彼が技術的なスキルを磨いてきたからで、一見すると何の苦労もないように見えるけど、実際には10代の頃にベッドルームで100万時間も練習を重ねていたから。 実は彼は、90年代後半に CAVE IN が活動を休止していたときに、初期の段階で俺たちのバンドにベースで参加していたんだ。彼が CAVE IN の活動を再開したことで、俺たちは別々の方向に進んだよ。でもずっと仲が良くて、彼は俺たちのドラマー Ben Koller とも親しくしていた。それに彼は、Kurt の昔のルームメイトでもあり、Nate と一緒にバンド活動をしているんだ。Stephen はこのプロジェクトにとてもパワフルな音楽的感性をもたらしてくれた。彼のリフやメロディのアイデアは、とてもパワフルだよ。このバンドでも、彼の他のすべての活動でも、特別な線で俺とつながっている。まあ俺は彼のただのファンだから、彼と一緒に仕事ができたことは本当に特別なことだったよ」
Chisholm も同様に、数年前から CONVERGE の近くにいて、”Revelator” という名前で、Bannon のポストロック・プロジェクト WEAR YOUR WOUNDS とのスプリット7インチをリリースしています。また、Chisholm は過去10年間に Wolfe と共演したり、アルバムを制作したりもしていて、彼女に CONVERGE の音楽を紹介した人物でもあるのです。
さらに、Wolfe と MUTOID MAN がともに Sargent House Records と契約していたこともあり、Wolfe はパーティーやフェスティバルで何度も Brodsky と遭遇していて、プラハの街を歩き回っている時、彼と意気投合したこともありました。
「ビートルズが演奏したこともあるアリーナに忍び込んで、Stephen に METALLICA の曲か何かを歌ってもらったの。あの時の音は最高だったわ」

Bloodmoon の最初のライブはステージ上のエネルギーがあまりに強烈で、ライブが無事に終わった後、7人のミュージシャンはオリジナルのアルバムを録音することに合意します。以降何年にもわたって、さまざまなデモや曲のアイデアが彼らの間を行き来していましたが、2020年初頭にマサチューセッツ州セーラムにある Kurt Ballou の GodCity レコーディング・スタジオに集結する時間がようやく全員にできたとき、パンデミックが発生しました。ゆえに東海岸のプレイヤーたちには集まる機会があった一方で、Wolfe は北カリフォルニアの自宅スタジオで大部分の楽曲をレコーディングしました。
ソロアルバムではロック、ドゥーム、フォークなど幅広いジャンルのテクスチャーを使用してきた Wolfe にとって、2016年最初に CONVERGE とリンクしたことは、他人の技術を創造的に熟考する良い機会となりました。
「それまでにかなりの数のツアーを経験していたけど、それは常に自分のバンドで、私が指揮をとり、ほとんどを決定していたわ。だから Bloodmoon は、一歩下がってバンドの一員となり、他の人が書いたパートを学ぶチャンスだったの。ミュージシャンとしての成長には役立ったと思うんだけど当時の私はもっとシャイで…ただ背景に消えて、CONVERGE を輝かせようとしていたのよね。私にとって長くてゆっくりとした旅のようなものだったわ。始めたばかりの頃は、人に顔を見られたくなかったから、ビクトリア朝の喪服のようなベールをステージ上で被っていたくらいで。でも今では、そこに自分がいても構わないと思えるようになったのよ」
Wolfe の自宅スタジオは、2019年に発売された “Birth of Violence” をレコーディングするために、パンデミック前にすでに設置されていました。ゆえに自宅で歌い、ギターを弾いているときは、完全に本領を発揮しています。ただし、そのセッション中に予期せぬ個人的な変化が起こりました。インフラが整い、新しい曲を歌えるようになった彼女は、Bloodmoon の曲を、断酒への道を歩み始める “精神的・霊的な調整” を行うための道標として活用したのです。
「禁酒を始めたばかりの頃は、当然ちょっとした苦労があったわ。このプロジェクトは、そんな時期の私にとって、アルコールの影響を受けずに得られた考え方を表現する、とても素晴らしいはけ口になったの。起きてから何時間も楽曲に取り組み、没頭しながらも、とてもクリアな気分になれるという、最高のグルーヴ感を得ることができたのよ。パンデミックがはじまって最初のうちは、クリエイティブでなければならないというプレッシャーがあったと思うの。ヨーロッパでのツアーが中止になり、ショーもせずに飛行機で帰国しなければならなかったし…その後、1月初旬に禁酒を決意したんだけど、ちょうどその頃、CONVERGE の曲を掘り下げ始めたの。私の場合、今の新たな明晰な精神状態が楽曲に反映されていると思うわ。同時に、このボーカルや曲をみんなと一緒に作ったことで、自分の創造性を取り戻すことができた。このプロジェクトの中で、私は本当に自由になれたと感じているの。みんながお互いのアイデアを受け入れていったから。これは本当に楽しい経験だったわ。パンデミックの闇の中の喜びと言ってもいいかもしれないわね。そして、夏にみんなで集まったときに、本当に命が吹き込まれたの」

CONVERGE のメンバーにとって、”Bloodmoon.I” への長き道のりは数十年に及びます。Ballou と Bannon は10代でバンドを結成し、90年代前半に活動していたメタルコア・シーンの硬直した攻撃性に、SLAYER を愛しながら難解なひねりを加えていきました。特筆すべきは今年20周年を迎えた、あの時代を象徴するような “Jane Doe”。その混沌の中に、ピックアップを腐食させるようなノイズ、破壊的な爆音、そして奇妙なフックが詰め込まれたゲーム・チェンジャー。Bannon が女性のストイックな顔を描いた ハイコントラストなジャケットイメージは、最近ではフランス人モデルのオードリー・マルネイの写真を部分的に使用していることが確認されていますが、MISFITS の “Crimson Ghost” と並んで、パンクやメタルのパンテオンに数えられています。
“Bloodmoon: I” では、そんな CONVERGE の定石に数多くの変化が加えられ、万華鏡のように華麗な体験が可能となりました。Bannon の叫び声は、Wolfe の陰鬱でメランコリックなビブラートと溶け合い、Brodsky の生々しいメタリックな叫びに巻き付いていきます。Wolfe も過去に、”Apopkalypsis” の “Primal/Carnal” でエクストリームなボーカルを試したことがありますが、”Bloodmoon: I” のタイトル・トラックは、彼女のヴォーカル・トーンをさらに極端なものにするチャンスでした。
「この1年間、ホラー映画の音楽制作に取り組んできたんだけど、その多くは非常に悪魔的な音を出していたの。Bloodmoon の曲と同じ時期に取り組んでいたから、ちょっとしたクロス・オーバーみたいな感じでね。”Blood Moon” という曲で私は、うなり声のような新しいボーカルに近づいたんだけど、それに触発された Jacob がその部分を引き継いでさらに発展させたのよ」
3人のキー・ボーカリスト以外では、Newton がオークのような悲鳴を上げて、アルバム全体に頻繁に登場します。しかし、Bloodmoon のメンバー全員をその没入感のある重厚なサウンドに導いたと Wolfe と Bannon が認めたのが Ballou で、彼は特に衝撃的な “Viscera of Men” の歌詞を書きました。この曲は、何年にもわたる人間同士の争いが “散らばり、飛び散る” 様子を表現しています。Wolfe はこの曲に、暴力についての彼女自身の “時に戦争がまったく理解できないことがある” という考えを付け加えています。構造的には、CONVERGE が何十年にもわたって必要としてきた武器化された D-Beatに向かって進んでいきますが、すぐにChisholm のシンセ・ブラスのファンファーレに支えられて、恐ろしく、憂鬱な雰囲気に変わります。しかし、この変化に富んだ道のりも、Bannon にとっては CONVERGE らしさの一つ。
「俺がリスナーとして好きなレコードは、LED ZEPPELIN の “Houses of the Holy” だよ。バラエティに富んでいるけど、それでも ZEP らしさは失われていない。俺は自分のバンドを MELVINS や ZEP、METALLICA のカタログと比較したことはない。自分たちの領域を知っているから、俺はそれで構わないんだ。でも、比較とかではなく、このレコードには、彼らのような興味深いサウンド・ボイスが幅広くすべて含まれている。それが俺にとってとてもクールなことなんだ」

ビジュアル・アーティストとしての Bannon は、このプロジェクトのグラフィック・デザインにも同様に幅を持たせています。CONVERGE らしい傷ついた顔が真紅とコバルトの色調でアートワークの左上に描かれていますが、バンドの最も象徴的なイメージを使用しながらここには顔の半分しか描かれていません。これは、CONVERGE のクラシックなラインナップが、”Bloodmoon: I” の全体像の一部にしか過ぎないことを暗示しています。そして中央には、輝くような、統一された陰陽のシンボルが月のようにぶら下がっています。Bannon は “前進することを重視” して、自分のバンドのレガシーについて深く考えることを躊躇していますが、2004年の “You Fail Me” は罰当たりな “Hanging Moon” で締めくくられ、2012年の “All We Love We Leave Behind” のアートワークでは月の周期の位相を表現するなど、その作品群に月のイメージが浸透していることを認めています。
「このアートワークを “トロピカル” と呼ぶ人がいるかもしれないけど、俺にとっては視覚的にも比喩的にも共感できるものだ。人間は皆、さまざまな形でそれぞれの暗闇をかかえている。ある人にとっては月がその象徴となるだろうし、別の人にとっては、月が真っ暗な時間の中で輝く光の象徴になるだろう。この比喩をどう捉えるかは君次第なんだ。それに、この作品の歌詞には蛇のイメージが多く含まれているから、それを取り入れたいと思った。CONVERGE のレコードのような雰囲気を出しつつ、異世界のような雰囲気を出したかったんだ。その構成やアイデアを構築するのに時間がかかったけどね」
音楽とビジュアル・アート、そして私生活の関係についてはどう考えているのでしょうか?
「俺にとって、音楽とアートは同じ芸術空間から生まれてくる。とはいえ、これは俺の仕事でもあるから、本当に好きな面もあれば、疲れてしまう面もある。音楽やアート以外では、海の近くで過ごしたり、家族や子供たちと過ごしたりすることが多いね。先週末、2人の息子を連れて森の中の小道を歩いていたら、偶然にも鹿に出会ったんだよ!あと、俺は子供の頃、1988年か1989年頃まで大のプロレスファンでね。俺がプロレスに夢中になったのは、1983年、7歳か8歳のとき。ロード・ウォリアーズがテレビに出てきて、”Iron Man” に合わせて登場したのを初めて見たときは、圧倒されたよ。思春期の少年にとっては、最高にタフでクールなものだったんだ。今でもサバスの “Iron Man” を聴くと滾るよね」
Wolfe はこの月食の到来を過酷な戦いの終わりになぞらえています。残酷なパンデミックの中でのレコーディング、断酒への道、そして、5年という長い時間をかけた共同創作。
「このアルバムには、赤いエネルギーがたくさん詰まっているの。私にとって “Blood Dawn” という曲は、この旅の終わりのようなもの。血の月から日の出まで続く戦いで、あなたは自分の手に残った血を見ているのよ。私は、戦いの後、太陽が昇る浜辺に座っている全員の姿を想像しているわ。アルバムの曲ができあがってくると、神話的な雰囲気を感じるようになったのよ。大きなテーマ、巻きついた蛇のような古代のシンボル、戦いの後の血まみれの日の出。曲を作りながら、頭の中でそんな神話的なテーマをイメージするようになっていったわ」

この作品はほとんどが別の場所で録音されましたが、今年の6月にミュージシャン全員が GodCity に集まり、最終ミックスと最後の調整を行いました。パンデミックが始まって以降、全員が同じ部屋に集まったのは初めてのことです。Bannon は隔離され音楽に打ち込めるロックダウンが、必ずしも創造性にはつながらないと感じていました。
「Chelsea も同じかどうかはわからないが、パンデミックの影響でクリエイティブな人たちが変な方向に行ってしまったんだよな。誰もがクリエイティブでなければならないと思っていて、俺はそれをかなり息苦しく感じていた。俺はそんな仕事はしたくない。何かを作りたいと思えるようになるまでには、しばらく時間がかかったんだよ。そんな俺にとって、Bloodmoon にはとても素晴らしいサポート体制があった。俺たちは仲間で、互いを思いやり、アーティストとして尊敬し合っている。だから、こんなに大きくて手の込んだことをする自信はなかったけれど、7人の仲間が安心してサポートしてくれるから、誰もが何かを作るときに抱く芸術的な疑問を払拭することができたんだ。そのために俺は、自分のアイデアをもっと自由にしなければならないと感じていた。ひとつひとつのアイデアを延々と練るのではなく、とにかく出してみる。普通のレコードでは考えられないような方法でね。
バンドを続けていると、焼き直しとは言わないまでも、自分たちに合ったやり方を見つけることになる。内面的な力関係とか、どんな曲を作るかとか、そういったことも含めてね。 俺たちはこれまでも、そしてこれからも、さまざまなサイド・プロジェクトをやるんだけど、つまりそれは CONVERGE のサウンドを成長させたいと常に思っているから。その思いは90年代後半にさかのぼる。Kurt と俺は、自分たちがより良いプレイヤーになり、より大きくて幅広い音楽的アイデアを持つようになったら、異なる楽器を取り入れてみてはどうだろうかと話し始めていたんだ。最終的には、このバンドの延長線上にある、ルールがなく、やりたいことが何でもできるようなコラボレーションができたら、すごくいいんじゃないかと思っていたよ」
そもそも、Bloodmoon は CONVERGE の作品と言えるのでしょうか?
「これはバンドの延長線上にあるものだ。CONVERGE は木のようなもので、これはその木の大きな枝のようなものなんだ。俺たちが中心となる4人という意味では関連性があり、CONVERGE と同じ精神を持っているが、新たな協力者を得て、7人組の大きなバンドとして一緒にサウンドを広げているんだ。このアルバムでは、全員が歌詞を書き、曲を作り、レコーディングや編集の過程で全員が何らかの形で発言し、それがとてもポジティブな経験となった。だから、俺たちは CONVERGE のレコードだと、そう考えているよ。バンドの延長線上にあるものとしてね」
CONVERGE の4人のメンバー、ボーカルのJacob Bannon、ベースの Nate Newton、ドラマーの Ben Koller、ギタリストの Kurt Ballou、メタル/フォークの歌姫 Chelsea Wolfe、彼女のバンドメンバーであり作曲家でもある Ben Chisholm、そしてニューイングランドの伝説 CAVE IN の Stephen Brodsky。まさにマグニフィセント・セブン。そして、このアルバム・タイトルは、いずれ “Bloodmoon.II” が作られることを示唆しています。しかし、Bannon と彼のバンドがこれからどこに向かおうとも、ヴォーカリストは CONVERGE の次の進路にいつも興奮しています。
「他の多くのバンドは、大抵、練りに練ったアルバムを作った後、次のレコードではコアな部分に戻っていく。俺は、特に10代で築いたものに柔軟性を持たせるという考え方が好きなんだ。とにかく、これまでにやったことのない、まったく奇妙なことをやってみよう……そして、また次のレコードを作ろう!」

参考文献:REVOLVER:TELEPATHY, SOBRIETY, WARFARE: HOW CONVERGE AND CHELSEA WOLFE ECLIPSED EXPECTATIONS WITH BLOODMOON

KERRANG!:Jacob Bannon and Chelsea Wolfe take you inside Bloodmoon

MANIACS:INTERVIEW – JACOB BANNON OF CONVERGE GOES DEEP ON ‘BLOOD MOON: I’

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KAYO DOT : MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOBY DRIVER OF KAYO DOT !!

“It Was Mindblowing To Me When I Discovered That There Were Bands That Blended Death Metal With Sludge And Atmospheric Keyboards, Such As Tiamat, Disembowelment, My Dying Bride, Anathema, And Many Others. That Became My Favorite Style Of Music.”

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE”

「パンデミックの影響で、私は街から離れ、友人や他のミュージシャンとも離れて孤立せざるを得なかった。すべての作品を孤独の中で作らなければならなかったんだよ。当時は精神的にかなり参っていたけど、振り返ってみると、あれは私にとってまさに必要な休暇だったと思えるね。都会の喧騒や過酷な生存競争に巻き込まれることなく、自分自身で大きく成長することができたからね」
メタル/プログレッシブの世界で異端の道を歩み続ける修道僧、KAYO DOT の Toby Driver。彼は、パンデミックの影響により都会から離れ、自然豊かな地元コネチカットの田舎の暮らしで自身を見つめ直すことになりました。そこで再訪したのが、高校時代に愛した Toby のルーツとも言えるレコードたちでした。
「TIAMAT, DISEMBOWELMENT, MY DYING BRIDE, ANATHEMA みたいに、デスメタルにスラッジやアトモスフェリックなキーボードを加えた音楽を知ったときは、驚かされたよね。そして、それが私のお気に入りの音楽スタイルになったんだ」
当時、アメリカの田舎町でヨーロッパのゴシック・ドゥームメタルを愛聴していた若者がいったい何人いたでしょう?さらに、それを聴きながら幽体離脱の瞑想をしていたというのですから、Toby Driver という人物の超越性、異端児ぶりには恐れ入ります。
時は90年代初頭。メタルが遂に “多様性” を手に入れ始めたカラフルな時代の息吹は、青年だった Toby の音楽形成、境界を破壊する才能に大きく寄与することとなります。そうして、MAUDLIN OF THE WELL というプログレッシブ・メタルから始まった彼の音旅は、KAYO DOT でのアヴァンギャルド、ポスト・メタル、アトモスフェリック、チェンバー、エレクトロニカの寄港地を経て再びゴシック・ドゥームの地へと舞い戻りました。
「90年代に活躍したバンドを思い浮かべると、たしかにあの頃のミュージシャンたちは皆とても若くて、音楽に成熟したものを期待することはできなかったよね。私は、あのゴシック・ドゥームという音楽が、成熟していて、経験を積んでいて、しかもまったく新しいもののようにエキサイティングだとしたら、どのように聞こえるだろうかと自問したんだ」
しかし、Toby のその長旅は、すべて最新作 “Moss Grew on the Swords and Plowshares Alike” の養分となり、未成熟で不器用だったあのころのゴシック・ドゥームを完成させるパズルのピースとなりました。言ってみればこのアルバムは、過去への感謝の念を抱いた自由意志の結晶。
「今回は、アーティストとして意味のある音楽を演奏するだけでなく、私たちが所属している Prophecy Productions というレーベルにマッチした音楽を演奏して、お互いに成長できるようにしたいと思っているんだ」
レーベルに合わせて音楽を書く。そんな試みもまさしく前代未聞ですが、それを実現できるのが日本ツアーであの平沢進までカバーした音楽の図書館こと Toby Driver。”The Knight Errant” はそんな KAYO DOT の “錬金術” を象徴する絶景。欧州に根差すブラック・メタルの激しい敵意とゴシックの耽美、さらに LYCIA のようなアメリカのシューゲイズ、そして ULVER や THE CURE といった Toby の “お気に入り” が調合された謎めいたアンチマターは、非常に “Prophecy 的” でありながら純粋で、驚きを秘め、感情を雷鳴のように揺さぶります。KAYO DOT の哲学には明らかに、野蛮とエレガントの巧妙な天秤が設置されていて、どちらか一方に傾くことはありません。
“Eternity” 時代の ANATHEMA を想起させる “Void in Virgo (The Nature of Sacrifice)” を聴けば、よりメタルだったころの Toby を喚起した MAUDLIN OF THE WELL のメンバーを招集した意味も伝わるはずです。シンコペーションとギターのアルペジオが彩る “Necklace” はまさにあのころのゴシックの申し子でしょうが、それよりも自由と伝統の共存、まさに90年代のゴシック・ドゥームの美学を KAYO DOT の豊富な “スペクトル” で調理した “Spectrum of One Colour” にこそこの作品の本質があるのかもしれませんね。
北欧神話や一神教を表のテーマとしながら、実際は世界に蔓延するヒーロー気取りの愚か者を断罪する。それもまた自由と伝統の共存なのでしょう。
今回弊誌では、Toby Driver にインタビューを行うことができました。「私は彼の音楽がとても好きで、東京にある “Shop Mecano” (中野ブロードウェイ) というプログレのレコード店にも足を運んだんだよね。ここは都内でも平沢さんの音楽を扱う主要な業者のひとつなんだろうか?沢山あったからDVDを何枚も買ってしまったよ (笑)」4度目の登場。もはやレギュラーですね。どうぞ!!

KAYO DOT “MOSS GREW ON THE SWORDS AND PLOWSHARES ALIKE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MASTODON : HUSHED & GRIM】


COVER STORY : MASTODON “HUSHED & GRIM”

“It Feels Like Someone Has To Die For Us To Make An Album. I Hate This Feeling. But, When Loved Ones Close To Us Pass, We Feel Obligated To Pay This Tribute To Them Musically For Some Reason.”

HUSHED & GRIM

2018年9月にバンドマネージャーで親友の Nick John が亡くなったことは、MASTODON にとって深い傷となりました。アトランタの巨匠はその痛みを、驚愕の2枚組 “Hushed & Grim” の中へ、生と死、悲しみと偉大な来世についての壮大なタペストリーとして織り込みました。
「”Gigantium” という曲の “mountain we made in the distance, those will stay with us” の一説は、亡くなった元マネージャーの Nick Johnに、俺たちが一緒にやってきたこと、それが彼がいなくなっても残っているということを伝えている。”Gigantium” の最後の部分は、エンディングにふさわしいサウンドだと思う。俺たちはいつも、どのアルバムでも壮大なエンディングを探しているんだよな。”Leviathan” の “Hearts Alive” のように、大きな、長い、別れの曲をいつも探しているんだ。”Gigantium” のエンディングのリフを見つけたときには、”これが何になろうとも、とにかくエンディングを手に入れた” と思ったよ」
2018年の夏の終わりに MASTODON が大親友の Nick John に電話をかけたとき、彼らはその後の訪問が最後になることを知っていました。バンドの “5人目のメンバー” とも呼ばれた長年のマネージャーが、膵臓がんとの勇敢な闘病生活の終わりに近づいている事実は深く心に刻まれ、4人は苦しい別れを覚悟してロサンゼルス行きの飛行機に乗り込んだのです。
しかしその覚悟も虚しく、ドアを開けてニックの家に入るとそこには在宅ホスピスケアの器具が散乱した空間が広がっていて、魂が揺さぶられるような無力感、ささやきかけるような諦め、はらわたが煮えくり返るような恐怖の雰囲気が、バンドの集合的な記憶に刻み込まれることになります。ギタリストの Bill Kelliher がその時の心情を振り返ります。
「心の準備ができていないような感覚だった。もちろん、電話や Facebook で亡くなった人の話を聞くと悲しい気持ちになる。だけど、実際に部屋で人の最期の瞬間に立ち会うと、死が具体的なものになるんだよ。人生の短さ、不公平さ、厳しさを実感する。気まずい思いをすることもある。誰も何を言ったらいいのか、何をしたらいいのかわからない。悲しみ、無力感、落ち込み、不安、怒り、人生そのものにたいする思考など、さまざまな感情が湧いてくるんだ」

MASTODON の広大な8枚目のアルバム “Hushed And Grim” は、死の瞬間の記念碑であり、その後数年間に渡る喪失感の抽象的なクロニクルでもあります。まずこのタイトルは、1939年の映画大作 “風と共に去りぬ” の間奏部分から引用されています。この作品は、アメリカ南北戦争における彼らの故郷アトランタを舞台にした永遠の名作であり、映画のテーマである失恋と社会的・政治的分断が、アルバム全体にサブリミナル的に封入されています。ドラマーの Brann Dailor は、”かなりひどい個人的なこと” を経験したと語ります。
「コロナによって失われた何百万人もの命の亡霊が、アルバムに宿る無数の暗い隅につきまとっている。ただ、最終的には個人的な思い出と死についての熟考というアルバムのメッセージを確立できたんじゃないかな。”Hushed And Grim” はムードなんだ。悲しみや罪悪感を表現している。友達があんなに苦しんでいるのを見ながら、自分には何もできないってのは本当に酷いことだ。分かる人には分かると思うけど..」
MASTODON が愛する人の死をテーマとしたアルバムを制作するのは、今回が初めてではありません。2002年のデビューLP “Remission” と2009年の “Crack The Skye” の大半には、Brann の14歳で亡くなった妹、その記憶と格闘している様子が描かれています。2011年の “The Hunter” は、狩猟旅行中に亡くなったギタリスト Brent Hinds の弟 Brad へのトリビュート作品です。”Once More ‘Round The Sun” は、Brann の母親が昏睡状態に陥ったことを受けて書かれたもので、さらに2017年の “Emperor Of Sand” は、ベーシスト Troy Sanders の妻が患った癌と、レコーディング中に他界した Bill の母親について認めています。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…」
Brent の言葉です。芸術作品を作ることは、失われた愛する人への完璧なトリビュートとなるのでしょうか。MASTODON のジャム・セッションでは、愛と喪失、生と死についての率直な議論が30分に渡って行われますが、それでも彼らにはより大きな声でより深い真実を語る必要性がありました。Bill が説明します。
「俺たちは男だから感情的なところを見せにくい部分はある。言いたいことほど言わないというかね。だから、言わずに伝える方法は音楽を通してだけなんだ。年をとると、人がいなくなり始める。俺たちは喪失のプロになってきたんだと思う。”誰かを失ったから同情してくれ” という感じじゃなくてね。生から死への道を正面から向き合うことが出来るようになった」
一方で他のバンドメンバーとは異なり、Troy にとってNick の死は彼にとって初めての悲しみの体験だったと言います。
「このアルバムの作曲とレコーディングは、俺にとっては悲嘆や喪失のカウンセリングのようなもだった。最初は恐ろしい気持ちになったけど、最終的には素晴らしい気持ちに落ち着いたよ。もっと幸せなアルバムを作りたいと思っていても、それは不可能だった。俺たちのバンドはそんな風に嘘はつけない。闇をすべてかき分けて、すべてが素晴らしかったと言うことはできないんだから」
Brent が続けます。
「アルバムを作るためには、誰かが死ななければならないような気がするよ…俺はこの感覚が嫌いなんだ。でも、身近な人が亡くなると、なぜか音楽でその人に敬意を払わなければならないような気がするんだよな…俺たちはこれまでに多くのレコードを出しているけど、その大半は亡くなった友人へのオマージュなんだ。多くの人と同じように、俺たちもつらい経験をしてきた。そうして俺たちは、世界の中で永遠の場所と感じられるもの、そんな大切な場所を作るために時間をかけることを選んだんだ。亡くなった人のことを音楽にすると、その人がまだ生きているように感じられるから…」

最終的に、悲しみから抜け出す唯一の方法は通過することかもしれません。前に向いて進むことが唯一の方法。Troy は2020年の後半に GONE IS GONE と KILLER BE KILLED で優れたアルバムをリリースしたように、ここ数年間の多作によって若返り、音楽的な視野を広げ、”本命” である MASTODON で “さらに上を目指す” 準備を行ってきました。
友人から “ロック界一の働き者” と呼ばれる Bill は、カスタムメイドのシルバーバーストESP Sparrowhawk を片手にリフ・マスターとしての地位を再確認していますが、同時に彼の “不動産” の手腕もアルバムには不可欠でした。
2017年にオープンした Ember City Studios は、MASTODON だけでなく、何十人もの地元ミュージシャンに貴重なリハーサルスペースを提供してきました。Bill は、長年エンジニアとして活躍してきた Tom Tapley と協力して、Ember City の地下室を設備の整ったレコーディングスタジオ West End Sound に改装し、バンドに創作の自由をもたらしました。「自分たちのスタジオだから、時計の針が動いているようには感じられないし、金銭面でも助かるよ」と彼は微笑みます。
MASTODON のライティング・プロセスは、常に興味深いイメージやアイデアを収集し “リフバンク” に預金を繰り返すというやり方でしたが、アルバムナンバー8をまとめるプロセスはスタジオが2019年後半にオープンするのとほぼ同時に始まりました。ロックダウンが始まる前から、創造性のために真っ白なキャンバスを用意していたのです。
2020年のコンピレーション “Medium Rarities” に収録された “Fallen Torches” は、この場所で初めてレコーディングされた楽曲です。ロックダウンが始まったとき、このスペースは彼らの思考を集約するための避難所となりました。さらにピーター・ガブリエル、KING CRIMSON, TOOL, MUSE といったプログレッシブ・アイコンを手がけ、その TOOL のスティックマンである Danny Carey が強く推薦したカナダの伝説的プロデューサー、 David Bottrill を起用することで最終的なビジョンが見えてきたのです。
「彼の血統は俺たちの好みにピッタリだった」と Brann は語ります。
「俺たちが同意したのは、”明瞭さ” という言葉だった。俺たちは、1つのトラックにすべてのものを詰め込んで、作曲を混乱させる傾向がある。サイケデリックで音の壁があるようなヘヴィー・ロックを今でも目指しているけど、それだけでなくすべての小さな音をも聞き取れるようにしたいと考えていたからね」

ディテールと同様に重要だったのがスコープです。15曲、88分にも及ぶ “Hushed And Grim” の最終的な設計図はそれまで MASTODON が試みてきたものをはるかに超える、複数のパートからなる巨大なサーガでした。ストリーミング時代において “ダブル・アルバム” というタグは、かつてのような本質的な威信を持ち合わせていないかもしれませんが、この作品における膨大な広がりと複雑さは、子供時代の Brann が影響を受けた叙事詩たちを呼び起こします。GENESIS の “The Lamb Lies Down on Broadway”、LED ZEPPELIN の “Physical Graffiti”、PINK FLOYD の “The Wall” …アルバムは、ロック、サイケデリア、パンク、メタル、オルタナティブ、プログなどの音の風景を、4人の熟練したミュージシャンの天性の表現力でつなぎ合わせた15曲。これまでで最も意欲的な作品で、同時に、3人のカタルシスに満ちたボーカルからは、非常にリアルな喪失感、孤独感、そして救済の雰囲気が漂っています。
「家で聴いていたら、この15曲がうまく調和しているように思えたんだ。クレイジーだとは思うけど、2枚組のアルバムを出して、1時間半の長さにするというアイデアを考えてみたらどうかなと思ったことを覚えている。誰かが俺を非難するだろうとも思ったけどね。俺は、このアルバムに与えられたスペースを気に入っているよ。静かな瞬間も、アトモスフェリックなものもね」
ただし、彼らの最新作を二枚組の超大作と予想していた人はほとんどいなかったでしょう。MASTODON はリリースのたびに未知の領域に針路を定めており、ファンの間ではアルバム8では “Emperor of Sand” のカウンターとしてより荒々しいサウンドスケープと奇妙な潮流を横断することになるだろうという暗黙の了解がありました。それでも、”Hushed And Grim” には気が遠くなるような、時には圧倒されるような聴きごたえがあります。
奇妙に絡まるオープニング “Pain With An Anchor” のスパイラルで悲嘆のプロセスへと誘い、7分近いフィナーレの “Gigantium” で浄化する。その激しいムードと結びついたモチーフを真に理解し始めるには、何度も聴く必要があるはずです。
「死後の世界の神話。その新しいバージョンのようなものかな」と Brann はこのアルバムの “ゆるやかな” 全体的なコンセプトを語り、印象的なアートワークに結びつけていきます。
「死んだら魂は生きている木の中心に宿る。そして木が1年を通してそうしているように、じっとして、四季を経験しなければならないんだ。それが自然界に別れを告げる方法なんだよ。その中で、自分が生きてきた人生の柱を振り返るわけさ。自分がしてきたことを償わなければならないんだよ」
喪に服す人から喪に服される人へ、死のトラウマから死の必然性へと巧みに焦点を移し、同時に生きている人には手遅れになる前に自分のことをよく考えようと誘う、魅力的なテーマです。
崇高で不気味な “Sickle And Peace” では、Tom Tapley の娘が怪しげな声で登場し(’Death comes and brings with him sickle and peace’)苦しんでいる人々に死がもたらす慈悲をあえて認めています。一方、フックの効いたハイライト曲 “Teardrinker”(’Leaving you behind / is the hardest thing I’ve done’)や巨大な “More Than I Could Chew”(’Say when / And I’ll be running back’)のような楽曲には、取り戻せない後悔の心の痛みが漂っています。

プロデューサーの David は、語法と発音を重視することですべての感情を強調し、それまでディストーションを防御手段として使っていたボーカリストたちに隠れる場所を与えませんでした。
「彼は、俺たちが書いた歌詞は俺たち、それに周りの人たちにとって重要なものだからちゃんと聞かせよう言ってくれたんだ。これまでの俺たちは、歌を隠す傾向があったと思う。詩を批評されることを恐れて、表に出すことができなかったんだ」
Troy も同意します。
「長いアルバムだしたくさんの曲があるけど、くだらないものを排除して要点をつかむのがうまくいったと思う。曲を作っているときは多くの場合、脂肪を削ることについて話していた。俺たちはアルバム全体でそれを行えたんだ」
Bill は、最初は “新しいこと” に挑戦する気はなかったが、David の貢献により、このレコードは本当に特別で、他とは違う、次元が違う作品となったと認めます。
「サウンドの多くの方向性を決めるのに、David は大いに貢献してくれた。良いプロデューサーかどうかの90%は、心理学の学位を持っているかどうかだと思うんだ。俺たちはバンドマンであり、ミュージシャンであり、音楽的なリフに心と魂を注ぎ込んでいるから、それは俺たちにとって大きな意味を持つんだ。もし誰かに、あのリフは好きじゃない。そのリフは最悪だ。曲には入れないよ!なんて言われたら、胸が痛むよね。そんな人とはやれないよ。
でも彼は、MASTODON の大ファンで、最高のレコードを作りたいと言ってくれた。彼は誰かの創造性を侮辱することなく、実に巧みに言葉を操ることができたんだ。俺たちは基本的にすべてのことを試してみた。彼は、何かを試すことに問題はない。やりたいことがあれば、熱意を持って取り組み、とにかくやってみることだ。誰かが、ここで歌ってみたい、ここでソロを弾いてみたいと思ったら、やってみようよ。もしかしたら合わないかもしれないけど、やってみないとわからないからって感じでね。だから、全員がオープンマインドで臨んだ結果、素晴らしいものになったんだ。これまでの作品の中で、最も充実した、ビッグなサウンドのレコードになったんだよ」
インストゥルメンタルの部分でも、この死の領域を超えた旅を表現するためには新たな発明が必要でした。YES, GENESRS, RUSH, THIN LIZZY, MELVINS, Björk といった古の影響。その車輪の再発明を促しつつ、NEUROSIS, ISIS のスロウ・バーン、そしてミニマルな要素を有効的に活用しています。

Brann が “ファミリー” と呼ぶ、友人や親戚、尊敬する仲間たちとのコラボレーションは、冷たくて暗いイメージの中に温かみと切なさをもたらしています。THE CLAYPOOL LENNON DELIRIUM のキーボーディストJoão Nogueira が魅せる “Skeleton Of Splendour” の驚異的なシンセサイザーのクレッシェンドは衝撃的。新進気鋭のブルース・ギタリスト、Markus King は、変幻自在な “The Beast” で B-Bender の影響を受けたブルーグラスのイントロを担当。さらに MUNICIPAL WASTE の Dave Witte(Brann が15歳の頃からの友人)は、”Dagger” でトライバルなドラムを披露し、MASTODON がこれまでに作り出したことのないエキゾチックなサウンド・スケープの構築に貢献しました。
「MELT BANANA, BLACK ARMY JACKET, DISCORDANCE AXIS。さまざまなバンドに参加してきた Dave とは、長年にわたって常に連絡を取り合ってきた。彼は現存する最高のグラインドコア・ドラマーの一人だよ。彼が TODAY IS THE DAY のギグに連れて行ってくれた。もし Dave が俺にそのギグに行くように勧めてくれなかったら、今の自分はなかったかもしれない。彼のことは大好きだ。”Dagger” でトライバルなドラムワークのために彼を迎え入れる場所を見つけられた。2枚組のアルバムを作ると、少しずつ活動の幅を広げることができる。親友であり、尊敬してやまない彼を、たとえクールなドラムパートのためだけだとしても、呼ぶことができたのは、素晴らしいことだよ」
“Had It All” は、Troy が GONE IS GONE でセッションしたときの曲のようにも聞こえますが、このバンドにとってのバラードであり、その非常に感動的なコーラス(You had it all / Tomorrow’s never fine / The peace we lost in ourselves are nevev)は、 SOUNDGARDEN の大御所 Kim Thayil のスコールのようなソロや、トロイの母親  Jody のフレンチホルンを伴って感情を最高潮まで高めます。
つまり、”Hushed And Grim” は何よりも、リスナーが慰めと共感を求めて掘り下げられるレコードなのです。「ファンが MASTODON にたどり着くということは、薬にたどり着くということだ」と Bill は説明します。彼はファンからの手紙をすべて読み、自分の歌には治療効果があると自負しています。それでもこのレコードの最終的な譜面と歌詞を見たとき、彼は驚きを隠せませんでした。
「なんてこった、これは俺たちにとって真のステップアップだ!と思ったね。まあでもそうだよな。俺たちは年齢を重ね、より多くの経験を積み、常に自分たちの仕事をより良くしている。そして俺たちには、ファンとパーソナルなつながりを築く義務があり、それがこのアルバムのすべてなんだよ。それは、悲しみや苦しみだけではなく、ファンと一緒に乗り越えようとすることなんだ」

すべての人にすべてのものを提供しようとすることは不可能で、実りのない追求です。結局、誰も満足しないまま終わってしまうはずですから。とはいえ、”Hushed and Grim”は、ある意味、すべての MASTODON ファンのための MASTODON による MASTODON のレコードであると言えるでしょう。 “Teardrinker” と “More Than I Can Chew” は、ドラマーの Brann が3人目のリード・ボーカルとなりプログ・メタル、そしてスラッジ・メタルの頂点に立った彼らの重大な転機 “Crack the Skye” を思い起こさせます。初期からのファンにとっては、”Pushing the Tides” と “Savage Lands” が、”Remission” がまだ新鮮で、MASTODON の存在自体もまだ新鮮だった頃を思い出させてくれるでしょう。つまり逆説的にいえば、この作品は MASTODON が最も自分自身に影響を受けたレコードなのでしょうか?Brann が答えます。
「どうだろう。ただ、出てきたものだよ。通常、俺たちは筮竹(占いの竹ひご)のようなバンドで、良い音がするものには何でも従って、出てきたものを演奏するだけなんだ。俺たちはバンドになってからずっと、自分自身を掘り下げてきた。リフが出てきたら、シンプルに “これが好き、これがいい、これをやろう” って感じでね。
俺たちは何も恐れていない。新しいサウンドや異なるサウンドが現れたときは少し興奮するよ。”The Beast” という曲では、ブルース・シャッフルのようなものがあるし、この曲の最初にはちょっとしたカントリー・リックもある。”Sickle and Peace” の冒頭のセッションは、これまでよりも70年代風のプログレッシブなサウンドになっているね。俺たちはただ時間をかけて仕事をし、そこに座って何時間も何ヶ月もかけてリフを作っていたんだよ」
“The Beast” のカントリー・リックは “Leviathan” の “Megalodon” を想起させます。
「あれはすべて Brent のスタイルなんだ。彼はいろいろな面からギターを弾くのが好きなんだけど、俺はいつも彼の演奏の側面、つまりカントリー・ハイブリッド・ピッキングを取り入れたいと思っているんだ。彼が何かクールなことを思いついたら、それを使ってみたいし、取り入れてみたい。俺は10代の頃、スラッシュ・メタルにしか興味がなく、カントリーはまったく好きじゃなかった。南部出身の Brent と Troy と一緒にバンドを組んで、”The Fart Box “というバンに乗っていたときは、運転してるヤツがステレオをコントロールできた。当時のステレオからは、Wille Nelson がよく流れていた。最初の頃は、お互いの音楽コレクションを知ることが目的だったよ。逆に俺が車を運転しているときに、”Lamb Lies Down on Broadway” をかけると、彼らは “Woah!”と言うんだ。それがきっかけで、カントリーに対する意識が変わったよな。あの “Megalodon” のリック、最初は突拍子もなくて躊躇したんだけどね。それが “Master of Puppets” のようなサウンドの部分にぶつかったとき、とてもうまくいったんだよ」
実際、Brann の歌を手に入れて、バンドはさらに成熟を遂げました。そして今回、さらに Brann の “歌手” としての仕事は増えています。
「俺は、バンドで歌いたいと思ったことは全くなかったんだよな。バンの中でスティービー・ワンダーをかけたり、ジューダスやオジーをかけたりして、運転中に大声で歌っていたから、メンバーからプレッシャーをかけられていたんだよ。彼らは、”お前、歌えるのか!?” と言ってきてね。俺は歌いながらドラムを叩くなんて、絶対に嫌だと思ったよ。本当に難しいことだし、俺の仕事はドラムだけでも十分大変なんだから。俺は自分を窮地に追い込みたくなんてなかった。でも今は大丈夫なんだ。
以前は、歌詞を書いて、貢献しようとしていた。特に初期の段階では、叫び声のような歌詞やボーカルは、もうひとつのパーカッシブな楽器のような役割を果たしているからね。それで俺はいつも、自分が書いた歌詞の上に重ねるカデンツや何かのアイデアを持っていてね。それを Brent と Troy が再現していた。”Crack the Skye” でも二人が再現してくれることを期待して、自分のアイデアを歌ったんだけどね。Brent は、俺の声にとても好きな音色や響きがあると強く主張していてね。プロデューサーの Brendan とも相談して、俺のボーカルを残すべきだという意見で一致したんだよ。それがきっかけで、俺が歌うことになった。俺たちのファンの中には否定的な人たちもいて、それにはある程度うんざりしているけど、まあべつにいいよ」

バンドとして21回目の “誕生日” を迎えた MASTODON は、嬉々として皮肉を込めたヴィネットを SNS に公開しました。4人のメンバーはバーに入り、パーティーハットをかぶり、不機嫌な笑みを浮かべ、特大の運転免許証を持って、”ビール1本” を注文します。そして、酔っぱらった状態で楽しい時間を過ごします。節目を迎えた彼らは心の奥底で、21世紀メタル世界の旗手、そんな自分たちの時間、遺産、地位についてどう考えているのでしょうか?
「時々、頭の中で計算することがあるんだ」と Brann は茶目っ気たっぷりに話します。
「例えば、2004年に SLAYER のツアーに参加したとき、彼らはバンド結成から21年が経過していた。彼らは21年目のバンドだった。彼らのことは大好きだったけど、”ああ、昔のバンドだな……” という感じだったんだよ。そして今、俺たちはその時点での彼らと同じくらいの年齢になっているんだ。だからたぶん、今の子供たちは、MASTODON が本当に古い、クラシックなバンドだと思っているんじゃないかな。だけど仕事に打ち込んでいて、自分がやっていることを正直に愛していれば、レガシーの問題は自ずと解決するんだけどね」
Brent は、最先端のメタルの過激さには単純に勝てないと主張しています。同時に彼は、MASTODON や BARONESS のようなバンドが、クラシック・ロックのカテゴリーに入る時代が来ると考えているのです。
「それでいいんだよ。俺たちは皆、50歳に近づいている。だから怒りはないけど、リフがあって、かっこいいドラマーがいて、それだけで十分なんだよな」
たしかに、彼らの淡々とした内向きの集中力が、現在の MASTODON を特徴づけ、熱心なファンを多く獲得しているのは間違いありません。ロックン・ロールの世界で重要なのは、独自のニッチを切り開くこと。それが永続的な使命。

ロックダウンの不確かな静寂がアルバムにもたらしたものも存在すると Brann は語ります。
「失って初めて、自分が何を持っているのかがわかる。MASTODON は数ヶ月間活動を停止して、いつ戻って来られるのかわからなかった。それが俺たちをひとつにしてくれたし、当たり前がいかに貴重なものであるかを再確認させてくれたんだ」
Bill も同意します。
「もう二度とバンドの存在を軽視するようなことはしない。俺たちには素晴らしいバンドがあり、100万人の素晴らしいファンがいる。彼らは俺たちの演奏を見たくてたまらないし、俺たちも彼らのために演奏したくてたまらない。できる限り多くのショーをやろうと思っているよ」
もちろん、他の多くのグループが分裂したり、消えていく中で、MASTODON を四半世紀近くにわたって結びつけてきたのは、お互いの目的以上のものでしょう。プライド、経済的な必要性、そして互いの創造性と美徳への称賛などがその役割を果たしているはずです。ただし、最も重要なのは自由であることだと彼らは言います。最もワイルドな音楽的アイデアを表現し、必要なときにはバンドの生活から離れることができる。兄弟のように、カルテットは風に乗って散らばることができ、同時に運命が彼らを呼び戻すのに時間はかからないという安心感があるのです。
「俺たちはまだお互いを笑わせることができる」とBrent は言います。
「まだまだお互いを怒らせることができる。俺たちはまるで兄弟のようなんだ。だけど、兄弟はしばらくすると話をしなくなるものだが、俺たちにはこの音楽を人々の生活に届けるという非常に重要な使命がある。そしてこれは子供や若者の頃から望んでいたことなんだ。手に入れたからにはそれを維持したい。最近では、長くやっていることもあって、まるでギャングのようにつながっているよ」
「MASTODON は、今も昔も自分の家だ」と Troy はうなずきます。
「”Hushed And Grim” は俺たちにとって最も協力的な作品になった。ソングライターやリリシストは一人もいない。全員が貢献し、全員が執筆し、全員がリスクを取ることに専念したわけさ。それはまさに “バンド” という言葉を象徴している。17年前、俺たちは “白鯨” についてのアルバムを書くというリスクを冒した。今は2枚組のアルバムでやはりリスクを冒している。正しいと思えば、それをやるだけだ」
Brann が纏めます。
「ありきたりな言葉だけど、俺らは一緒にたくさんのクソを経験してきたし、そのクソのすべてがアルバムの曲に込められている。俺たちが解散するには、よほどのことが必要だと思うぜ。これまで、たくさんの衝突や喧嘩、傷ついた感情や怒りの瞬間を経験してきたけど、話し合いで解決できないことはないんだよ。Troy や Brent、Bill を見ていると、俺たちは最初から最後まですべてを共に経験しているように思えるね。他の人とはそんな長い共通の歴史を持っていないよね。だからこそ、この関係を維持しなければならない。お互いに維持していかなければならないんだ」

参考文献: KERRANG!:How collective grief shaped Mastodon’s most grandiose, gut-wrenching album ever

SPIN:Mastodon Are Inspired By Themselves On Hushed And Grim

BLABBERMOUTH: MASTODON Guitarist Talks ‘Amazing’ New Album: ‘It’s The Fullest-‘ And ‘Biggest-Sounding Record We’ve Done So Far’

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THOU & EMMA RUTH RUNDLE : MAY OUR CHAMBERS BE FULL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRYAN FUNCK OF THOU !!

“I Think Most Folks Who Identify As “Metalheads” Or Whatever Probably Have a Lot More Nuance Than They Let On. I Just Wish They Would Embrace More Of a Balance Than Clinging To a Very Strict Set Of Rules. I Think That’s Why, As a Forty-Year-Old Man, I Still Identify As a Punk Or a Hardcore Kid.”

I STILL IDENTIFY AS A PUNK, OR HARDCORE KID

「”メタルヘッズ” と名乗る人たちの多くは、公平にみてもおそらく自分たちが言うよりもずっと多くの音楽的なニュアンスを持っていると思うよ。だから厳格なルールにしがみつくのではなく、バランスを取ってほしいと願うばかりだね。俺はしっかりバランスを取っているからこそ、40歳になった今でも、パンクやハードコアキッドなんだと思う。頭の中では、そういった概念がより曖昧で広がりを持っているように思えるからね。」
スラッジ、ドゥーム、メタル、ハードコア、グランジ。ルイジアナの激音集団 THOU はそんな音楽のカプセル化に真っ向から贖う DIY の神話です。
「ここ数年で培った退屈なオーディエンスではなく、もっと反応の良い(しかし少なくとも多少は敬意を払ってくれる)オーディエンスを獲得したいからなんだ。 堅苦しいメタル野郎どもを捨てて、THE PUNKS に戻る必要があるんじゃないかな!」
15年で5枚のフルアルバム、11枚の EP、19枚のスプリット/コラボレーション/カバー集。THOU の美学は、モノクロームの中世を纏った膨大なカタログに象徴されています。THE BODY を筆頭とする様々なアーティストとの共闘、一つのレーベルに拘らないフレキシブルなリリース形態、そしてジャンルを股にかける豊かなレコードの色彩。そのすべては、ボーカリスト Bryan Funck の言葉を借りれば “金儲けではなく、アートを自由に行う” ためでした。
2018年、THOU は自らのアートな精神を爆発させました。3枚の EP とフルアルバム、計4枚の4ヶ月連続リリース。ドイツのサイレント映画 “カリガリ博士” に端を発するノイズ/ドローンの実験 “The House Primodial”、Emily McWilliams を中心に女性ボーカルを前面に据えた濃密なダークフォーク “Inconsolable”、ギタープレイヤー Matthew Thudium が作曲を司りグランジの遺産にフォーカスした “Rhea Sylvia”、そしてスラッジ/ドゥームの文脈で EP のカオスを具現化した “Magus”。一般的なバンドが4,5年かけて放出する3時間を僅か4ヶ月で世界に叩きつけた常識外れの THOU が願うのは、そのまま頑ななステレオタイプやルールの破壊でした。
実際、Raw Sugar, Community Records, Deathwish, Sacred Bones とすべての作品を異なるレーベルからリリースしたのも、境界線を破壊し多様なリスナーへとリーチする自由な地平線を手に入れるため。自らが獲得したファンを “退屈” と切り捨てるのも、主戦場としてしまったメタル世界の狭い視野、創造性の制限、クロスオーバーに対する嫌悪感に愛想が尽きた部分はきっとあるのでしょう。
「このバンドはグランジの源流であるパンクのエートス、プログレッシブな政治的内容、メランコリックなサウンドから絶対的な深みへと浸っている。 間違いなく、10代の頃に NIRVANA, SOUNDGARDEN, PEARL JAM, ALICE IN CHAINS を聴いていたことが、音楽制作へのアプローチや、ロックスターのエゴイズムを避けることに大きな影響を与えている。」
“The Changeling Prince” の MV でヴァンパイアのゴシックロッカーを気取ってみせたように、THOU にとってはロックスターのムーブやマネーゲームよりも、音楽世界の常識を覆すこと、リスナーに驚きをもたらすことこそが活動の原動力に違いありません。そのスピリットは、パンク、そしてグランジに根ざす抑圧されたマイノリティーの咆哮が源流だったのです。全曲 NIRVANA のカバーで構成された “Blessings of the Highest Order” はまさにその証明。
「メンタルの病の個人的な影響を探求することがかなりの部分染み込んでいて、それは無慈悲なアメリカ資本主義の闇とは切っても切り離せないものだと思うんだ。」
THOU が次にもたらす驚きとは、10/30にリリースされる、ポストロック/ダークフォークの歌姫 Emma Ruth Rundle とのコラボレーション作品です。90年代のシアトル、オルタナティブの音景色を胸一杯に吸い込んだ偉大な反抗者たちの共闘は、壊れやすくしかしパワフルで、悲しくしかし怖れのない孤立からの脱出。精神の疾患や中毒、ストレスが容赦なく人間を押しつぶす現代で、灰色の世界で屍に続くか、希望の代わりに怒りを燃やし反抗を続けるのか。選択はリスナーの手に委ねられているのかも知れませんね。
今回弊誌では、Bryan Funck にインタビューを行うことができました。「大きな影響力とリソースを持っているレーベルの多くが、自分たちがリリースする音楽やリリースの方法に関して、リスクを負うことを最も嫌がっているように見えるのは本当に悲しいことだよ。彼らの成功により、クリエイティブな決定を下す自由がより広く与えられるはずだと思うんだけど、それは逆のようだね。」2度目の登場。どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HELMS ALEE : NOCTILUCA】JAPAN TOUR 2020 SPECIAL !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HOZOJI MATHESON-MARGULLIS OF HELMS ALEE !!

“And These Days, Pretty Much Every Single One Of My Best Female Friends Is An Extremely Talented And Active Musician. Many Of Them Play In Heavy Rock Bands. So The Feeling Of Imbalance Is Shifting To An Equilibrium In My World. I Can Say With Confidence That I Feel Accepted And Valued By The Male Musicians In My Community.”

DISC REVIEW “NOCTILUCA”

「”Noctiluca” とは特定の生物発光藻類のラテン語訳で、一般的に “海の輝き” として知られているの。」
海の輝きが “Noctiluca” ならば、HELMS ALEE はさしずめ重の輝きでしょう。彼らがシアトル特有の、深憂なレンズを通して支配する時間と空間。それはまるで深海のごとく暗闇に囲まれながら、差し込む光線に反射する艶やかな色彩、そして栄養価の高い深層音を備えているのですから。
比較の対象はもっぱら MELVINS, KYLESA, BIG BUSINESS でしょうか。もちろん、スラッジーなリフの猛攻とノイジーな実験のラボラトリーは HELMS ALEE のトレードマークですが、同時にリズムのトリックに重きを置いたセクシーなアプローチを考慮すれば、一方でこの海洋トライアングルこそコンテンポラリーな RUSH と言えるのかも知れませんね。
「このアルバムのために私たちは、これまで以上にボーカルのコラボレートを進めたわ。それに今回のプロデューサー/エンジニア (R.E.M. を手がけた Sam Bell) はとてもボーカルに心血を注ぐ人物だったの。」
3つの異なる声を持つ HELMS ALEE。ベースの Dana James, ドラムスの Hozoji Matheson-Margullis, そして青一点ギターの Ben Verellen が織りなすボーカルの輪舞は、さながらウミウシのごとく柔軟性と色彩を纏った “Noctiluca” において完全に花開き、重の輝きを一際煌びやかに染めました。
「私は海とそこに住んでいる微生物こそが、私たち人間の日常に見られるよりも生命があることを思い出させてくれると思うのよ。人間の行動や日々の政治を観察すると悲しくなりがちだから。」
Hozoji にとって生物発光藻のビーカーこそがランプであり、灯台の光です。マジカルで神秘的で、仄暗い現代社会に光をもたらす微かな希望。そしてそのイメージは確かに “Noctiluca” の音の葉へと反映されているのです。
“Interachnid” のオープニングはさながら海底火山の目覚めでしょうか。ダイナミック極まるマグマのリズムは、RUSSIAN CIRCLES の最新作にも似て圧倒的な命の躍動を伝えます。フレキシブルに、フリーダムに、イカの虹色のごとく刻々とその表情を変える Hozoji と Dana のシンクロニシティーは、まさしく HELMS ALEE の心臓。一方、続く “Beat Up” でわずか半音の違いを駆使してメジャーとマイナーを不思議に行き来する Ben のギターワークは頭脳なのかも知れませんね。
メタルからハードコア、スラッジ、グランジ、プログレッシブの狭間を漂う海月たちは、そうしてバリトンからソプラノまで時に独唱し、時に合唱し、感情の揺らぎを響かせます。”Spider Jar” で聴かせる荘厳のタペストリーは、その輝きに歌心を加えた HELMS ALEE の現在を如実に伝えています。
「私たちの音楽はライブセッティングでこそ最高の印象を与えるようなものなのよ。なぜなら、ライブパフォーマンスにおける多くの感情の力によって、私たちの歌が意図した通りになっていくと信じているからなの。」
4月に始まる日本ツアーの招聘元、Daymare Recordings 濱田氏が放った 「ライヴを観る前と観た後で決定的に印象が変わるバンド」 の言葉を受けて、Hozoji はライブハウスでバンド、そしてオーディエンスから生じ対流する感情の力をキーワードにあげました。そしてその幾層にも重なるエモーションの潮目は、Endon, alley, BB を巻き込んで一つの大きなうねりを創造するはずです。
今回弊誌では、Hozoji Matheson-Margullis にインタビューを行うことができました。「最近では、ほとんどの女性の親友一人一人が非常に才能があり活動的なミュージシャンなの。彼女たちの多くはヘヴィーロックバンドで演奏しているわ。だから、不均衡の感覚は少なくとも私の世界においては均衡へと移行しているの。私は自分のコミュニティの男性ミュージシャンに受け入れられ、評価されていると自信を持って言うことができるから。」
これまでの女性アーティストはまた一味違った視点、経験を持つミュージシャンでしょう。どうぞ!!

HELMS ALEE “NOCTILUCA” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCTIC SLEEP : KINDRED SPIRITS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KEITH D OF ARCTIC SLEEP !!

“So Much Metal Out There These Days Just Sounds Like a Bunch Of Random Riffs Pasted Together, With No Concern For Melody Or Song Structure Or Dynamics. It’s Just Not Memorable And So Much Of It Sounds The Same To Me.”

DISC REVIEW “KINDRED SPIRITS”

「僕は自分の音楽を表現する時、”ビタースイート” って言葉をよく使うんだけど、それは僕の音楽が憂鬱や悲しみと、心地よさや慰めのコンビネーションだからだと思う。」
“プログレッシブアトモスフェリックドゥーム”。ARCTIC SLEEP の音楽は、その耳慣れないラベルに反して実に雄弁です。スロウ&ドゥームとプログレッシブ&ビューティフル。相反する真逆の理念を見事に調和させるパラドックスの具現化は、ARCTIC SLEEP が結成当時からビッグテーマとする “生と死” を投影した対比の美学を源流としています。
ミルウォーキーのマルチ奏者 Keith D のソロプロジェクトとして2005年に産声をあげた ARCTIC SLEEP は、バンドとなり様々な紆余曲折、メンバーチェンジを繰り返して今再び Keith の手中へと戻ってきました。
ボーカル、ギター、ベース、チェロ、キーボード、ジャンベ、パーカッションなど多種多様な楽器をほぼ一人でこなす鬼才は、もはや人事やコミュニケーションに割く時間すらも惜しみながら荘厳壮大なエピックの建築を続けています。
「僕と愛猫 Yoda はとても強い絆で結ばれていたんだ。その絆がアルバムに影響を及ぼしているね。ただ、このテーマを世界中で “喪失” に苦しんでいる全ての人に届けたいという思いもあるんだよ。」
そうして完成をみた7枚目のフルアルバム “Kindred Spirits” は、亡き Keith の愛猫 Yoda に捧げられた作品であり、”喪失” に苦しむ全ての人々へ差し伸べられた救いの精神。そして、彼の根幹である “生と死” を再度見つめ直すレコードに添えられたアートワークの崇高美は、そのまま音の景色へと反映されているのです。
「僕はスロウでヘヴィーな音楽を愛している。だけど同時に、メロディックでキャッチーなソングライティングも愛しているんだ。」 暗くドゥーミーに沈み渡るリフの波、雲間をかき分け差し込むメロディーの光明、荘厳なるチェロの響き、そして押し寄せるハーモニーの洪水。バンド史上最も “聴きやすい” と語るアルバムにとって、明確なコントラストとフックを宿すオープナー “Meadows” は完璧な招待状となりました。
ANATHEMA の多幸感と KATATONIA の寂寞を同時に抱きしめるタイトルトラックで独特の牛歩戦術を披露して、OPETH の静謐を深々と “Connemara Moonset” に委ねたバンドは、8分のエピック “Cloud Map” でアートワークの黒烏と美姫の逢引を素晴らしく音で描いてみせました。それは例えば PORCUPINE TREE と ALICE IN CHAINS の理想的な婚姻。幽玄でどこか危うく、美麗でしかし憂鬱な交わりの音の葉は、全てを黒と白に決して割り切ることのできないあやふやで愛すべき世界の理をも投影しながらリスナーの感情を穏やかに喚起するはずです。
今回弊誌では、Keith D にインタビューを行うことができました。「最近は沢山のリフをランダムにコピペしたようなメタルバンドが多いけど、彼らはメロディーや構成、ダイナミズムには無関心だよ。だから記憶に残らないし、僕にとっては全部同じように聴こえるんだ。」 どうぞ!!

ARCTIC SLEEP “KINDRED SPIRITS” : 10/10

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