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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOHINI DEY : MOHINI DEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOHINI DEY !!

“People Can Steal Everything But Not Your Art”

DISC REVIEW “MOHINI DEY”

「私はインド人で、カルナティック・ミュージックで多くのコナッコルを学んだわ。それをスラップ・ベースに取り入れ始めたら、みんなとても楽しんでくれたし、それがみんなにとってとても新鮮で新しかったのだと思うわ。私は様々に異なるスタイルやヴァイブをベースで表現するのが好きだから」
ムンバイ出身のかわいいとおいしいを愛する26歳のベーシスト、Mohini Dey は、Forbes Indiaによって “30歳未満で最も成功したミュージシャン” と評されています。9歳で世界への扉をこじ開けた Mohini は、それから18年間、類稀なる才能と努力で Steve Vai, Simon Phillips, Stanley Clarke, Jordan Rudess、Quincy Jones, Mike Stern, Marco Minneman, Gary Willis, Dave Weckl, Tony Macalpine, Stu Hamm, Plini, Guthrie Govan, Chad Wackerman, Chad Smith, Gergo Borlai, Victor Wooten など、本当にそうそうたるアーティストと共演を果たしてきました。日本のファンには、B’z との共演が記憶に新しいところでしょう。
インドは今や、ロックやメタル、プログレッシブにフュージョンの新たな聖地となりつつありますが、確実にその波を牽引したのは Mohini でした。そして音楽の第三世界がまだ眠りについていた当時、彼女がムンバイから世界への特急券を手に入れられたのには確固たる理由があったのです。
「並外れた存在になりたければ、並外れた時間を費やし、才能を磨く必要がある。才能は報酬ではない。報酬とは、才能を磨くために懸命に努力した結果、実りを得ることだから。人は何でも盗めるけど、あなたの芸術までは盗めないの」
アルバムには “Introverted Soul” “内向的な魂” という、Mohini が10年間にわたって温め続けた楽曲が収録されています。友達と遊ぶことも許されず、父の夢を背負いひたすらベースだけに打ち込んだ学生時代。そもそもがとても恥ずかしがり屋で、内向的だった彼女はしかし、音楽で抜きん出ることによってその世界を広げ、今では率直で社交的で経験が大好きな人として成長を遂げました。
才能は誰にでも与えられているが、磨かなければ意味がない。そんな父の教えと、彼女自身の弛まぬ努力が、いつしか彼女の世界を広げるだけでなく、インドの音楽シーン全体をも拡大する大きなうねりとなっていったのです。
「私のライブが終わると、たくさんの子供たちや若い女性ミュージシャンが私のところにやってきて、”Mohini は私のアイドルよ。あなたは私のインスピレーションの源で、私がベースを弾けるようになったのもあなたのおかげ” って伝えてくれるのよ。世界は変わりつつある。今の私の目標は、インドからもっと多くの女性奏者を輩出することなの」
同時に、性別や宗教、人種の壁に対する “反抗心” も Mohini の原動力となりました。インドを含む世界の多くの地域では、白い肌は依然として最も望ましいまたは美しいものとして祝われています。特にインドでは、女性は今でも肌の色について多くの差別を受けているのです。だからこそ、音楽を通して世界を旅した彼女は、あらゆる人種、宗教、文化の人々に会い、すべての文化の美しさを目にし、さまざなま壁を取り払いたいと願うようになりました。”Coloured Goddess” はそうした差別に苦しむ美の女神たちすべてに捧げた楽曲。
一方で、”Emotion” は Mohini 自身が受けてきた、女性であることに対する過小評価への反発です。”女性である私がどんな男性よりも上手にベースを弾くことが可能であることを世界に示したかった” と語る彼女は、幼い頃から、女性はベースを極めるのに力が足りない、強さがないという批判を浴び続けていたのです。
世界で羽ばたいた彼女は今や、そうした姿の見えない “批判者” たちに感謝の “感情“ さえ持っています。そうした批判がなければ、これほど練習することはなかっただろうと。怒りと感謝の入り混じった感情の噴火はすさまじく、ベースを弾き狂う中で彼女は後進たちに、語るよりも行動で示せとメッセージを放ちました。
「18年半の仕事を通じて、私は信じられないほど才能のある伝説的なミュージシャンに会ってきた。彼らと仕事をするとき、実は私は彼らに自分のアルバムに参加してもらうことを念頭に置いていたのよ。それぞれが自分の経験、声、旅を私の曲にもたらしてくれたの。だから、そうね!私は自分の多様な選択を非常に意識していて、各曲ごとに慎重に各ミュージシャンを選んでいったの」
そうした背景を湛え、彼女自身の名を冠したデビュー・フル “Mohini Dey”。この作品で Mohini は、まるで人種や性別、文化や宗教の壁を壊すかのごとく、世界のあらゆる場所に散らばるトップ・アーティストを集めて、前代未聞のカラフルな音の融合を生み出しました。Simon Phillips、Guthrie Govan、Marco Minneman、Steve Vai, Jordan Rudess, Gergo Borlai、Bumblefoot、Scott Kinsey、Narada Michael Walden、Gino Banks、Mark Hartsuch、Mike Gotthard…すべての名手たちは団結し、Mohini の音楽を通して愛と物語を表現していきました。
ここには、かつて WEATHER REPORT や MAHAVISHNU, Chick Corea が培った名人芸とエモーションの超一流二刀流がたしかに存在しています。ただし、彼女の夢は一番になることではなく、自分自身であり続けること。新たな世代を育てること。寛容と反発、そしてムンバイの匂いをあまりに濃くまとった “Mohini Dey” は彼女の決意を体現する完璧な意思表明でしょう。
今回弊誌では、Mohini Dey にインタビューを行うことができました。「B’z と活動した後、私は日本で多くの名声を得て、日本のファンから私の音楽性、ミュージシャン・シップをたくさん愛してもらえるようになった。それに、B’z のおかげでヘヴィなロック・ミュージックも大好きになったのよ」肉への愛を綴った “Meat Eater” や、カリフォルニアのダブルチーズバーガーと恋に落ちる “In-N-Out” など彼女の真摯な食欲もパワーの源だそう。どうぞ!!

MOHINI DEY “MOHINI DEY” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MATTEO MANCUSO : THE JOURNEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTEO MANCUSO !!

“A Good Advice Would Be To Shut Down The Phone, Laptop And Everything Around You, And Just Explore The Guitar.”

DISC REVIEW “THE JOURNEY”

「僕は指弾きを選んだというわけじゃなくてね。というのも、エレキギターを始めたばかりの頃は、ピックを使うということを知らなかったんだ!その後、ピックを “発見” したんだけど、フィンガー奏法に慣れすぎていたし、僕は(今もそうだけど)信じられないほど怠け者だったから、ピックの使い方を学ばなかったんだ。メリットとデメリットはあると思うけど、どちらが良いということはないとも思う。何をプレイしたいかによるんじゃないかな」
John Petrucci, Joe Satriani, Steve Vai, Tom Morello, Frank Gambale など、ギター・シュレッドの世界は実は、イタリア系のプレイヤーを中心に回ってきました。そしてここにまた、イタリアの赤、光速の、フェラーリ・レッドの血を引くシュレッダーが登場しました。驚くべきことに、Steve Vai, Al Di Meora, Tosin Abasi といったモンスター級のギタリストがこぞって “ギターの未来” と称するこの26歳のシチリア人 Matteo Mancuso は、かの Allan Holdsworth にも例えられる難解かつ超常的フレーズの数々を、指弾きでこなしています。
「僕は自分のことをジャズやロック、どちらかのプレイヤーだとは思っていないんだ。僕はただ、ギターを自分を表現する道具として使っているミュージシャンなんだ!だから、聴いたものすべてをミックスするのが好きなんだよ。その方が自然でのびのびと感じられるからね」
もちろん、Matteo のテクニックは誰もが驚くような、スペクタクルと知性、そして野生が溶け合うギターのイノベーションです。しかし、彼の本当の真価は “良い曲が書ける” ところにあります。ジャズ、フュージョン、ロックにメタルを咀嚼した Matteo の音世界を巡る旅路 “The Journey” は、ウェス・モンゴメリーから WEATHER REPORT、ジミヘン、さらに TOOL や Plini に至るまで、実に色彩豊かで奔放な、万華鏡の景色を届けてくれます。そこに Matteo のマジック・タッチがあれば、誰が言葉を必要とするでしょうか?
実際 Matteo は、インストは歌物よりも絶対的に数が少ないからこそ、ジャンルを超えて音源を探索し、そして様々な素養を身につけることができたと胸を張ります。そうしていつかは、Eric Johnson の “Cliffs of Dover” や Santana の “Europa” と肩を並べるほどに、雄弁なインスト音楽を創造したいと願うのです。
「パシフィカは、気軽に買えるストラトタイプの中でおそらく最高の入門機なんだ。それに、僕は良いギター・トラックをレコーディングするのにハイエンド・ギターは必要ないと思う!最も重要なことは、良いサウンドを求めるときの演奏の出来栄えだからね!」
加えて、うれしいことにこの新進気鋭のイタリア人は、YAMAHAのパシフィカを愛機として使用しています。もちろん、パシフィカはプロ御用達の “ハイエンド・ギター” ではありません。しかし、だからこそ Matteo はパシフィカを使用しているふしがあります。誰にでも手にすることのできるストラトタイプの王様であるパシフィカで魔法を生み出すことによって、Matteo はギターの敷居を下げ、裾野を広げていきます。
今回弊誌では、Matteo Mancuso にインタビューを行うことができました。「Allan Holdsworth はギターの数少ないイノベーターの一人で、僕はいつも彼をヘンドリックスやヴァン・ヘイレンと同列に並べていたんだ。彼は、ギターが多くの素晴らしい方法で演奏できることを教えてくれたし、彼のハーモニーのアプローチとボキャブラリーは、まさにこの世のものとは思えないものだったよ」 YouTubeで158kのフォロワーを獲得し、ギター・モンスターたちから称賛されたデビュー・アルバム “The Journey”。まさに新しい世界秩序の幕開けでしょう。どうぞ!!

MATTEO MANCUSO “THE JOURNEY” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ZULU : A NEW TOMORROW】


COVER STORY : ZULU “A NEW TOMORROW”

“We Can’t Be Who We Want To Be”

A NEW TOMORROW

世界は分断されています。左対右、金持ち対貧乏人、私たち対彼ら。ソーシャルメディアやニュースをざっと見ただけでも、私たちの “違い” に関する言説が耳をつんざきます。そして、ヘヴィ・ミュージックのアーティストたちは、何十年もの間、この本質的な怒りと激情を音楽へと注ぎ込み、怒りをぶつけ、反乱を呼びかけてきました。しかし、人生の喜びや、世の中の良いことに焦点を当てたバンドはそれほど多くはありません。
そこでロサンゼルスのパワーヴァイオレンス・クルー、ZULU の登場です。デビューLP “A New Tomorrow” を発表した際、ボーカルの Anaiah Lei は「愛に焦点を当てたポジティブなレコードを作りたい」と語っていました。なぜそれが重要な決断だったのでしょうか。
「愛と希望は人生の主要な部分だから、それについて常に話したいと思っていたんだ。このジャンルでは、もちろん怒りを吐き出すのはクールだし、悩みを打ち明けるのは素晴らしいこと。ヘヴィ・ミュージックは、他の世界から排除され、慰めを求めている人たちが行く場所で、自分が経験したすべての問題を話し、ただそれを吐き出すための場所。歌っていても、ステージに上がっていても、ピットの中にいてもね」
物心ついたときから音楽とバンド活動に携わってきた Anaiah は、自分の発言をよく理解しています。特に ZULU は、2枚の EP とカオティックなライブでハードコア・シーンに衝撃を与え、デビュー・アルバムのプレッシャーと認知度は相当なものでしたから。彼は今度のアルバムについて、時の試練に耐えられるような “大きなステートメント” でありたいと述べています。
「怒りや攻撃性についてだけ語るのであれば、そうすることもできないわけではない。でも人生において、怒りや苦難だけでなく、人々に影響を与えたいとすれば、それは愛から来るものなんだ」

Anaiah は、私生活の変化が自分の考え方に直接影響を与えたといいます。レコード制作の途中で、自分がどうありたいかを自覚するような転換期があり、希望と幸福を見つけることに全力を注ぐことが容易になったというのです。
そして実際、”A New Tomorrow” にはアイデンティティ、連帯感、コミュニティといった概念と同様に、希望という概念が縫い込まれています。コミュニティとは、文字通り家の周辺から、Discordチャンネル、あるいは自分が働く業界など、人にとって様々で大きな意味を持つ存在。そして、そこでは必ずしもあなたが歓迎されるわけではありません。
「コミュニティで最も重要なのは、実際に一緒に何かを行い、お互いを巻き込むこと。ライヴやイベント、コミュニティ内の他のバンドをサポートすること。というのも、この社会では、俺たちはしばしば踏み絵に逆らって歩むことが多いからね。踏めないものを踏んでまで生きたくはない。だからこそ、俺たちのコミュニティは一緒にいて、調和し、団結して生きていくべきなんだ。
そうやって、同じことを考える人たちで、自分たちのシーンを形成したい。基本的には……変化し、良くなってきてはいるけれど、まだまだ先は長いし、それが現実だ。でも、人々がより団結するようになったことは、とてもうれしいことだよ。インターネットでは、簡単に人とつながることができるけど、それは自分のシーンから始まるんだ」

ハードコアへの熱狂的な情熱と、力強さと正義のメッセージにもかかわらず、Anaiah はコミュニティのある一角に受け入れられていると感じたことはなく、必要とされているとさえ思っていません。Soul Glo の Pierce Jordan をフィーチャーした “A New Tomorrow” の代表曲 “Where I’m From” で、彼はZULUのようなバンドに居場所を与えてくれない人々に対して “We can’t be who we want to be” “自分らしくいられねぇ” という言葉を突きつけました。
「あの歌詞が全てを物語っているような気がする。自分たちのシーンでさえ、自分らしくいられないんだ。ジャンルの門番たちにとって、ハードコアやメタルといった彼らが期待する音楽以外のジャンルのファンであろうとすることは奇妙なことで、他の音楽、”自分たちのものでない” 音楽を聴くこと自体が奇妙に感じられる。俺たちは見た目で人から期待されているからな。彼らは、私たちがただ一つの音楽に夢中になっていることを期待している。とんでもない諸刃の剣だよ。だって、外の世界では排除され、抑圧された人々が、逃げ込む場所のように思われているメタルやハードコアのシーンが、その空間の中ではまったく同じことをしているんだから。文字通り、邪魔されることなく、なりたい自分になることができないんだ」
この気の滅入るような皮肉は、Anaiahにとって耐えられないものです。彼は、ヘヴィ・ミュージックやハードコア・パンクに多くの人が惹かれる理由の本質として、多数派や社会に “馴染めない” “馴染みたくない” という考えを共有しています。しかし今、このシーンは “クラブのようになってしまった” と彼は言い、本来の趣旨に事実上反していると主張しているのです。
「だからこそ、ある閉鎖された集団の一部になりたいということではなく、自分のスペースを作り、自分たちのやりたいことをやり、自分たちと同じ波長の人たちと関わりたいと思うようになったんだ。もう、そういう空間には関わろうとしない。”自分たちで作るんだ”」

Anaiah は、貧富の差が激しく、悪名高いギャングの暴力や歴史的な人種間の緊張があるロサンゼルスで生まれ育ちました。幼少期には、ロサンゼルス市内のさまざまな場所に移り住む母親や父親のもとを転々とし、ゆえに “富める者” 以外の残りの半分がどのように暮らしているのかを知ることができたのです。
「郊外に住んでいて、隣人が誰かについて、誰もが異なる “議題 “を持っていた…俺は早い段階で人種差別を理解し始めたんだ。そして、ハードコア・シーンに黒人を歓迎しない雰囲気は今でもある。だから、黒人だけのバンドを作るのは大変だったよ。こういう音楽をやりたがる黒人ミュージシャンはそれほど多くないからね。シーンは主に白人が支配している。そのような場所で演奏するのは、ちょっと気が引けるんだ。だから、シーンに僕みたいなことをやっているミュージシャンが少ないというのはよくわかるよ」
しかし、どこに住んでいても音楽はありました。若い頃、Anaiah はレゲエ、ダブ、ソウルをよく聴いていましたが、やがてイギリスのポストパンクからLAのハードコアまで、よりヘヴィなサウンドに触れるようになります。何がきっかけでハードな音楽に目覚めたのかと聞かれると、「あまりに早い時期だったので思い出せないが、演奏の速さが魅力的に感じた」と笑います。
9歳のとき、Anaiah は兄の Mikaiahと THE BOTS というバンドを結成しました。2人組のガレージ・パンクは早くから注目され、12歳の時には Warped Tour でアメリカ全土を駆け巡るまでになります。10代の頃、友人たちが高校というホルモンに支配された地獄のような場所で過ごしている間、Anaiah はコーチェラやグラストンベリーに出演していたのです。
「あの若さで長い間ツアーをしたことで、音楽業界やツアーについて多くのことを学んだ…今知っていることはすべて、あのバンドで学んだことだ。まあだけど、子供の頃は、ただ成長するための試練や苦難を経験するものだけど、あのような環境で成長することは、期待と成長のバランスをどう取るかわからなかったからまさに異質だったね。どんな子供でも、そんな経験をする必要はないと思う」
Anaiah は、自分の経験をハリウッドの子役と同じように、望むよりも早く成長してしまったと認めています。しかし、そのおかげで、音楽が実際にどのように機能するのかを学び、ZULU に反映させることができたので、後悔はありません。

バンドが解散した後、Anaiah のソロ・プロジェクトとしてスタートした ZULU は、THE BOTS よりもはるかにヘヴィな存在だと言えます。低音のリフ、マシンガンのようなボーカル、パーカッションが飛び交う彼らの楽曲は、短く鋭い衝撃を与えるパワー・ヴァイオレンスで、ほとんどの曲が2分を超えることはありません。
前のバンドと明らかに違うのは、Anaiah がドラムキットの後ろではなく、前に出てマイクを持っていること。
「リズムを刻みながらバックグラウンドに存在し、バンドの他のメンバーをサポートする方がずっと簡単だった。でもね、”フロントにいるとき、自分は何を表現したいのか?” という疑問が浮かんできたんだ。前から見る世界は、自分にはどう見えるのだろう?ワクワクするんだよな。バンドのボーカルになるのは、とてもエキサイティングなことだと思う。それに、文字通り、ただドラムを叩くだけでないバンドをやりたかった。ギターを弾くのは好きなんだけどね。曲作りは今でもドラムからだけど、ますますギターの比率が高まっている。俺はいつもリアルで、自分自身に忠実でありたいと思っている。だから、ステージ上でもそれを伝えたいと思ったんだよ。手放しで音楽を感じなければならないと思った」
ZULU は GULCH や JESUS PIECE と似たような凶暴性を持っていますが、彼らのヘヴィネスというブランドは “全面戦争” というよりも、R&Bやソウル、ジャズの要素を取り入れ、Curtis Mayfield、Nina Simone、John Coltrane といった魂をその闘争に封じています。 たとえば、”Lyfe a Shorty Shun B So Ruff” では、Nina Simone  の”To Be Young, Gifted and Black” をサンプリングしています。この歌は、公民権運動の時代にアフリカ系アメリカ人を勇気づける重要な国歌。さながら今、内面の混乱の時代に自分たちが誰であるかを思い出すように促しているようです。
「彼らは俺たちが現在行っていることをしていた。彼らがいなかったら、俺たちはここにいなかっただろう」
“Music to Driveby” では、Curtis Mayfield  の “We People Who Are Darker Than Blue” が、コミュニティ内暴力についての Anaiah のリリックと皮肉に見事に呼応しています。Curtis の柔らかな軽快さは影の隠喩として機能し、救いは “彼ら” ではなく “私たち” によってのみ決定されるため、コミュニティは対立するのではなく協力しなければならないことを警告していること。” A New Tomorrow” でこうしたのサンプルに注がれた慎重な検討は、Anaiah が過去の世代の自由の闘士を認め、彼らの希望の賛歌を利用していることを示唆しています。
「このバンドはパワー・ヴァイオレンスとしてスタートしたけど、時を経て物事は変わるもの。将来的にはもっと変わるだろう。俺たちができること、俺たちが持っているスキルでできること、知っていることを制限したくはない。ジャンルを変え始めたりするのを見ると、人はいつも少し批判の目で見るけど、実際は誰がどう思うかなんてどうでもいいんだ」

実際、ハードコアやメタルのファン以外にも、ZULU は受け入れられています。
「ZULU のような活動をするのはとてもクールだよ。ハードコアにまったく興味のない人たちが  ZULU に夢中になっているのを見たことがあるからね。認めてくれて、気に入ってくれている。ジャンルが何であれ、クールなものはクールなんだ。俺はそれを疑問にも思わない。異なるタイプのショーや異なるタイプのラインナップで演奏でき、人々がそれをロックしてくれるのはクールなことだよ。24、25 トラックのアルバムを簡単に出すことはできるが、曲の長さが 1 分未満であっても、誰も 24、25 トラックのアルバムなんて聴きたがらない。 それに加えて、いくつかの曲を長くして息を吹き込む余地を与えたいと思っていた。だから最初に始めたとき、重要なのはテンポを少し遅くしたいということだった。 テンポを少し下げて、それほど複雑にならないよう。同時に、レコードを書いているときは、それに合うビジュアルについて考えている。 アルバムジャケットは俺にとってとても重要だから」
TURNSTILE に影響された部分もあります。
「俺たちは普通のハードコア・バンドとは違うことをやろうと思っているんだ。だから、ソウルもあり得るし、R&Bもあり得る。そして限界もある。TURNSTILE はコンテンポラリーなネオソウルや R&B でも少し遊び始めているように感じるけど、これはかなりポジティブな展開だと思うんだ。大好きなバンドのひとつだよ。彼らはドープなものを使って実験している。あのレコードは狂気の沙汰だった。アンタッチャブルだ。たくさんの障壁を打ち破ってくれる」
ブルックリンのアンダーグラウンドなヒップホップからの影響も。
「”Straight from Da Tribe of Tha Moon” だね。90年代にブルックリンで活動していたグループ、BLACK MOON。彼らの曲には “Slave” という曲がある。歌詞の中で、月の部族から来た人のことが出てくるんだ。でも、僕はこの歌詞を、黒人の人たちを指すのに使うことにしたんだ。そんな感じ。ただ、この歌詞を、ちょっとジャジーにアレンジしてみただけだよ。月が出てると暗いから、黒い人のためにあるってね」
“Abolish White Hardcore” 「白人のハードコアを廃止せよ」 と書かれたTシャツで物議を醸したことも。
「ハードコアのショーで白人を追い出すなんてことは言ってない。ただ、そういうショーは、とにかく白人が中心だよね。説明するのは好きではないんだけど、理解できない人たちのために……あまりに明白なことを説明しろというのは、ちょっと嫌な感じだね。とにかく、ハードコアは白人が支配する空間だ。そういうことなんだよ。それを指摘しただけなんだ。俺たちは誰かを排除しようとしているわけではない。ただ、みんなのために道を作りたいんだ。本当にそういうことなんだよ。この空間はみんなのものであるべきだ。白人が中心で、いつもそれを軸にしているという考え方は……もうやめなければならないね。それに文句を言う人がいるとしたら、その人はバカだ。俺は文字通り、そんな文句は気にしない」

ZULU は、Anaiah が彼のソウルフルで野蛮なサウンドを共有する手段であるだけでなく、考えを世界と共有する手段でもあります。この実に扇情的なデビュー・アルバムを通して、彼は自分のプラットフォームの上で、団結、銃の暴力、ブラックカルチャーの流用について語っています。しかし、アルバムのタイトルから、力強い詩の朗読 “Créme de Cassis” の歌詞に至るまで、物語の基盤は楽観主義であり、より良い未来、より良い世界への努力を歌っているのです。
インストゥルメンタルを中心とした2曲の後幕を開ける “Our Day Is Now” は、Anaiah が初日から音楽に込めたかった “一体感” と “力強さ” のアイデアを胸いっぱいに吸い込んでいます。
「この曲は、人々が人間に望んでいることの2つの側面について話している。人々は俺たちが分断することを望み、俺たちが怒ることを望んでいるんだ。つまり、時に人々は、俺たちが調和して生きることを望んでいないように感じることがあるんだよ。変な話だけど。でも、ちょっと待って。俺たちには、人々が見逃している別の側面がある。俺たちが発するたくさんの愛、たくさんの創造性、そしてたくさんの喜びがある。曲の中で言っているように、そうした人々は自分が見たいものしか見ていない。でも、俺たちにはそれ以上のものがある」
“A New Tomorrow” の核となるのは愛と希望ですが、これを弱さと混同してはいけません。なぜなら、Anaiah ほど決意に満ち、知的で、自分が何者であるか、何を目指しているかに自信を持った人はいないでしょうから。そしてこのアルバムは、彼のコミュニティのためだけでなく、外部の人々が彼らの経験を聞き、理解するために作られたのです。
“Music To Driveby” は、人々を分断させようとする銃やギャングの暴力だけでなく、分断を拡大させる社会のシステム的問題についてもコメントしています。
「ギャングの世界に生まれた人たちにとって、それが彼らの当たり前であり、それが彼らのすべてであり、それが彼らが日々直面しなければならない現実なんだ。だから、俺はそのことにほんの少し光を当て、誰にでも起こり得るいかに現実的なことかを伝えているんだよ。そして、それは銃による暴力や殺人だけでなく、精神的な分断も同様。洗脳や、白人至上主義が俺たちを分断させるという影響もある。それも、ドライブバイ (シューティング。車から射撃をする凶悪な犯罪) がそうであるように、どこからともなくやってくる」

そうして、Anaiah の人生に最も強く浸透しているのは、彼のスピリチュアルな部分かもしれません。彼はラスタファリアンとして育ちました。ZULU のグッズやアルバムの付録を見ると、アフロカリビアンやラスタファリアン文化の影響を強く受けており、歌詞の中にはジャマイカのパトワが散りばめられているのがわかります。彼は現在イスラム教徒ですが、彼らの音楽にはラスタの精神性が “根付いている” と言い、特にエンディングの “Who Jah Bless No One Curse”(タイトルは Bob Marley の曲から)はその典型的な例だと言います。
「ラスタで育ち、イスラム教徒であることは、俺の中において文化的にはさほど遠いものではなく、すべてがこのバンドが持つスピリチュアルな側面と結びついている。バンドの始まり、最初のレコードで、君はそれを聞くことができたし、すべての歴史を通して、そこには神の存在があるんだよ」
ただし、Anaiah は ZULU が宗教的なバンドでないことを熱心に指摘します。
「それは全く重要なことではなく、俺の人生の側面をそこに散りばめているだけなんだ。俺は、特にイスラム教徒として、他人が信じるか信じないかで誰かを非難するのは間違っていると考えている。誰もが自分の意思を持つ人間であり、自分自身の人生を歩む権利があるのだから。俺にできることは、イスラム教について話すことだけ。自分の現実について話すことだけで、それがこのアルバムでやっていることだ。音楽と俺の人生に影響を与えるものすべてを含めてね」
彼らはシーンをオープンにし、特定の人たちだけでなく、音楽を愛するすべての人のための空間にすることを目指しています。そして、世界は変わりつつあります。
「変化がある、変化があった、もっと変化がある。俺たちはずっとこうしてきたし、人々はずっと立ち上がり続けてきたし、これからもそうしていくだろう。俺は変化が起こること、起こり続けることを人々に知ってほしい。そして、準備をしてほしいんだ」

参考文献:KERRANG!ZULU: “People expect us to be angry, but there’s a lot of joy that we emit”

NPR:Zulu’s soul-sampling powerviolence shifts the pit toward love

NEW NOISE MAG:INTERVIEW: L.A. POWERVIOLENCE BAND ZULU

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MARBIN : DIRTY HORSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DANI RABIN OF MARBIN !!

“I Feel Like The Number One Problem With Fusion Music Today Is That People With The Groove Or The Chords First And Their Melodies End Up Being Something That Fits. A Melody Is The Center. Everything Else Should Be Bent To Fit It.”

DISC REVIEW “DIRTY HORSE”

「僕たちは常にメロディから始めるんだ。コードやハーモニーはフレームだけど、結局メロディーを生み出さないとキャンバスの形がわからないからね。今のフュージョン音楽で一番問題なのは、グルーヴやコードが先にあって、メロディがその場しのぎで終わってしまうことだと思う。でもそうじゃないだろ?メロディーは中心だよ。それ以外のものは、メロディーに合わせていかなければならないんだ」
MAHAVISHNU ORCHESTRA や WEATHER REPORT, そしてもちろん Miles Davis など、かつて “エレクトリック・フュージョン” が革命的で、刺激的で、しかしキャッチーな音楽の花形だった時代は確実に存在しました。日本でも、Casiopea や T-Square がマニア以外にも愛され、運動会で当たり前に流されるという “幸せな” 時代がたしかにあった訳です。
なぜ、エレクトリック・フュージョンは廃れたのか。あの Gilad Hekselman や Avishai Cohen を輩出したジャズの黄金郷、イスラエルに現れた MARBIN のギタリスト Dani Rabin は、率直にその理由を分析します。変わってしまったのは、”メロディーだ” と。
「ファラフェル・ジャズ (ファラフェルとは中東発祥の揚げ物) と呼ばれるものは、イスラエルの音楽を戯画化し、わざわざ最大の “決まり文句” を取り上げて音楽の中に挿入し、人工的に一種のエキゾチックな雰囲気を作り出すもので、僕はいつも軽蔑しているんだ。イスラエルは人種のるつぼで、様々なバックグラウンドを持った人々が集まっている。僕は作曲家として、自分の中にある音楽をそのまま出していけば、民族的なスタンプが有機的に、そしてちょうど良い形で自分の音楽に現れてくると感じているからね」
最近のフュージョンの音楽家が思いついたメロディにコミットできないのは、それが自分を十分に表現できていないメロディだから。そう Dani は語ります。たしかに、近年ごく僅かとなったジャズ・ロックの新鋭たち、もしくはフュージョンの流れを汲んだ djent の綺羅星が、予想可能で機械的なお決まりの “クリシェ” やリズムの常套句を多用しているのはまぎれもない事実でしょう。テクニックは一級品かもしれない。でも、それは本当に心から出てきたものなのだろうか? MARBIN は “Dirty Horse” で疑問を投げかけます。
オープニングの “The Freeman Massacre” で、MARBIN の実力のほど、そして彼らが意図するメロディーの洗練化は十二分に伝わります。Dani とサックス奏者 Danny Markovitch はともに楽器の達人で、バンドはグルーヴし、シュレッドし、卓越した即興ソロを奏でていきます。フュージョンの世界ではよくワンパターンとかヌードリングという言葉を聞くものですが、彼らの色とりどりのパレットは退屈とは程遠いもの。
何より、この複雑怪奇でしかし耳を惹くメインテーマは、”ビバップは複雑なメロディとソロのシンプルなグルーヴで成り立っている。それが正しい順序” という Dani の言葉を地でいっています。”Donna Lee” ほどエキサイティングで難解なテーマであれば、ジャコパスも安心して浮かばれるというものでしょう。
一方で、二部構成のタイトルトラック “Dirty Horse” では、バンドのロマンティックな一面が浮き彫りになります。Dani と Danny のユニゾン演奏は実に美しく、目覚ましく、そして楽しい。両者が時に同調し、時に離別し、この哀愁漂う異国の旋律で付かず離れず華麗に舞う姿は、エレクトリック・フュージョンの原点を強烈に思い出させます。
さらに二部構成の楽曲は続き、”Sid Yiddish” のパート1でバンドは少しスローダウンしながら、Danny の長いスポットライトで彼らの妖艶な一面を、チベットの喉歌で幕を開けるパート2で多彩な一面を印象づけます。能天気なカントリー調から急激に悲哀を帯びる “World Of Computers” の変遷も劇的。正反対が好対照となるのが MARBIN のユニークスキル。
驚くことに、このアルバムは2021年8月にスウィートウォーター・スタジオにおいて、たった3日でレコーディングされています。これほど複雑怪奇で豊かな音楽を3日で仕上げた事実こそ、MARBIN がフュージョンの救世主であることを物語っているのかも知れませんね。MAHAVISHNU のようなレジェンドのファンも、THANK YOU SCIENTIST のような新鋭のファンも、時を超えて手を取り合い、共に愛せるような名品。もちろん、メタル・ファンは “Headless Chicken” でその溜飲を下げることでしょう。
今回弊誌では、日本通の Dani Rabin にインタビューを行うことができました。「僕がイスラエルのサウンドで本当に好きだったのは、東欧の影響とショパンのような和声進行がミックスされている音楽なんだ。というか、僕の好きな世界中の音楽には、そうした共通点が多くあるんだよね。 Piazzolla や Django Reinhardt と、僕が好きなイスラエルの音楽は、ある意味、思っている以上に近いんだよね」 どうぞ!!

MARBIN “DIRTY HORSE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【WHITE WARD : FALSE LIGHT】


COVER STORY : WHITE WARD “FALSE LIGHT”

“You Feel Tension—Music Helps To Release It. You Feel Sad—Music Helps You Feel a Little Bit Happier. You Feel Anger And Pain—Creativity Is Also Your Savior. You Only Need How To Push The Negative Feeling Into a Creative Direction.”

FALSE LIGHT

ウクライナの実験的なブラックメタル集団 WHITE WARD は、6月に新譜 “False Light” をドロップしました。これはロシアがウクライナに侵攻してからちょうど4ヶ月目にあたります。4月にアルバムのリリースをアナウンスした際、彼らはこう語っていました。
「現在、ロシアの侵攻によりウクライナでは沢山の悲劇が起こっている。それでも、僕たちは新しいアルバムをリリースすることに決めたんだ。このアルバムが、より多くの人々をサポートし、ここウクライナでロシア軍が犯している犯罪をより効率的に広めるのに役立つだろう、そう信じてね。このソリッドな作品を完成させるのに2年以上かかったんだ。
そして、今、僕たちの国やその周りで起こっているすべてのことを受け止めながら、僕たちはこの作品を世界と共有することに決めた。僕たちは、音楽が困難な状況にある人々を助けると信じているから。音楽がどれほど強力な癒しの力を持っているかを知っているから。だから、もう待てないんだ。
この写真は、戦争が始まる数週間前に、僕らの友人 Sergii Kovalev によって撮られたもの。自然の写真家、ビデオグラファーである彼は、そうして今、僕たちの国で起こっている出来事を記録し、世界に示し始めている」

WHITE WARD はオデッサ出身で、当時はちょうどロケット弾の連射が新たな不安要素となっていた頃。ボーカルの Andrii Pechatkin は、5月に戦況についてこう語っていました。
「事態は急速に変化している。あらゆることに対応できるようにしなければならない。生き残るために柔軟でなければならない。新しい状況を受け入れなければならない。強くあり続け、団結しなければならない。僕たちの未来のために戦う必要があるんだよ」
コンポーザーでギタリストの Yurii Kazarian がこう付け加えます。
「僕は今、物質的な価値と “精神的な” 価値をかなり真剣に見直しているところなんだ。戦後、物質的な価値観は少し後退するかもしれないと理解している。僕も世界も2022年初頭のようになることは絶対にありえないのだから。大きな変化が今起きているんだ。あらゆる、それも最も恐ろしいシナリオに備えなければならない」
世界は変わってしまった。Pechatkin はさらに、反抗のための原動力について言及します。
「唯一の問題は、この戦争において自分の居場所はどこなのかということだった。僕たちには、勝利の瞬間を加速させるために戦う、守るべきものがあった。だから重要なのは、その場所を見つけ、それを最大限に活用することだったんだ」
Kazarian はこう付け加えます。
「僕は、自分の国や周りの人々をどれだけ愛しているかを実感することで、ウクライナ人であることについてどう感じているか、自分にとって明確で最終的な答えを得ることができたんだ。人前ではあまり感情を表に出さないのだけど、戦争が始まってからは、一人になると目に涙が溢れてくることがある。こんな気持ちになったのは初めてだよ。だから、新しい価値観の理解という話をしたんだよ。戦争が始まってから、僕の価値観は大きく変わってしまった」

具体的に、戦争はウクライナの人々をどう変えたのでしょうか? Pechatkin が答えます。
「戦争で起こった恐ろしい出来事は、僕自身の文化、隣人との関係、日常生活など、多くの問題に目を向けさせることにもつながった。戦争中は、毎日が最後かもしれないと思うようになったからね。僕たちにとって、人生はより貴重で強烈なものになったんだ」
Pechatkin はフィクサーとして、BBC のジャーナリストをコーディネートしました。
「戦争が始まってから3ヶ月間、僕たちはウクライナの南部を回ってきた。とても魅力的な仕事で、さまざまな問題を考え直すきっかけにもなったんだ。1ヵ月前、僕たちはさらに10日間仕事に出た。僕たちがミコライフにいたのは、最も激しい砲撃の時で、一晩に40~50回の砲撃を耐え抜いていたんだ。2014年から働いているメイン・フィクサーがいてね。彼は捕虜の解放を手伝い、膨大な経験を積んだ男。最初の砲撃が行われたとき、外に出ると、彼が微笑んでいるのが見えた。この8年間は、1秒1秒が最後の1秒になりかねなかった。だから、彼はすべての瞬間を楽しんでいたんだよ」
大都市キーウと地方の間には温度差があると Pechatkin は考えていて、その “違い” は今回の作品に大きく反映されています 。
「キーウは巨大な機械のようなもので、多くのものを与えてくれる代わりに、多くのエネルギーや感情を奪ってしまう。あの “肉挽き機” の中で自分をどのように認識し、生き延びようとするかだよね。20階建てのビルに住んでいると、エレベーターの中でスマホを見ている人たちに出会う。彼らは、そうして他人と接触しないように最善を尽くしているんだよね。こうした距離感と親密さは、さまざまな問題で出くわす。社会的なストレスが大きければ大きいほど、笑顔で接する気力も失われていくのだろう」

Pechatkin の故郷オデッサにも変化がありました。
「街では、ウクライナ語を話す人の声が多く聞かれるようになった。僕が住んでいる建物でも、すでに5~6人がウクライナ語を話しているね。戦前は、女性一人しかウクライナ語を話さなかったのに。
つまり、ロシア語は過去であり、ウクライナ語は現在であり未来であることに、人々が気づいているんだよ。僕たちは現在を築き、未来の到来を後押ししなければならないんだ。だんだんみんなウクライナ語を話すようになってきた。割合が非常に多いとは言わないけれど、戦前と比べればね…。
もちろん、今でも親ロシア派はいるよ。オデッサがドイツから解放された記念日には、広場に花束を運び記念碑にウォッカをかける男がいた。彼は、 “ロシアのためではなく、ソ連のためだ。あの頃はよかった、3コペックでソーセージが食べられた” と叫んでいたね。これはまさに、親ロシア派の立場を示しているよ。ロシア的世界観が崩壊したから、自分たちをソ連時代につなげようとしているんだろうな」
オデッサの自宅について Pechatkin はここにいるのは比較的安全だと言います。
「ロケット弾の攻撃や砲撃を何度か経験したね。しかし、検問所や対戦車防御、軍隊を除けば、生活はいつもと変わらないよ」
Kazarian は、「僕にとってオデッサにいることは、戦争と恐怖の大鍋の中で、人生が自分の道を進もうとするレマルクの小説のように感じることがあるんだ。空襲の中、夏のレストランの敷地内でコーヒーを飲む人々、そんなパラドックスを感じるね」と付け加えました。
それでもやはり、戦争は恐ろしくて残酷なもの。Pechatkin は同胞の安否を憂慮します。
「人間の残酷さには限りがない。ブチャをはじめとするウクライナの都市や村で起こった出来事がそれを物語っている。残念ながら、まだ多くの情報は得られていない。だから、より残酷な残虐行為の証拠がこれから明らかにされるかもしれない」
Kazarian も同意します。
「僕たちは、歴史からもっと恐ろしいことの例をたくさん知っているんだ。だから、今見ているすべてのものは、すでに極端な残酷さの例であるにもかかわらず、始まりに過ぎないのかもしれないよね。だからこそ、一刻も早く、この戦争を止めなければならないんだよ」

マルチ・インストゥルメンタリスト兼コンポーザーの Mykola Lebed(GHOST CITIES)は、WHITE WARD に前作 EP “Debemur Morti” から参加して、アルバムにとって非常に重要なローズ・ピアノとピアノを披露しています。
「ピアノの音は壮大で、優しく、そして美しい。ピアノの音は、いつも音楽にこうした雰囲気を与えてくれる。さらに、サスティンペダルの倍音で、より美しく響く。一方、ローズ・ピアノは、よりファンシーでノワールな印象。どちらの楽器を選ぶかは、どんなフィーリングを表現したいかによるんだ。WHITE WARD の場合、自分のパートをあまり壮大に聴かせないことが重要なんだよね」
ゲストという立場からみて、Lebed にとって WHITE WARD の音楽はどのように響いているのでしょうか?
「嵐が激しくなってきているときに、山の中の森を散歩しているような感じかな。すべては自分の内側で起きていることなんだよね。彼らの歌詞のテーマは、僕の心にとても響いている。個人的な感情を歌ったものであったり、自然の恵みについてであったり、ケルソンの活動家カテリーナ・ハンジウク(現在占領中で、間違っていなければ Pechatkin の元々の故郷)のことであったり。”False Light” だと、”Phoenix” に思い入れがあるね。歌詞の中に、”決して脇目もふらず” という重要なテーマが存在するからね。
同じ現実を生き、同じ問題に直面し、このような状況だからこそ、僕たちはこれまでよりも繋がっているとも言える。WHITE WARD のメンバーの一部は何年も前から知っているし、彼らの他のバンド、SIGNALS FEED THE VOID や GRAVITSAPA、ATOMIC SIMAO の古いアルバムは絶対にチェックする必要があると思うよ」

Lebed にも、”False Light” を通して伝えたいメッセージがあります。
「この2ヶ月間、僕は全国をツアーで回り、時には前線に非常に近いオデッサやドニプロで演奏したんだ。オデッサとドニプロは、(毎日砲撃を受けているミコライフとハルキウとは別に)戦場に最も近い2つの都市だ。それに、キーウでの公演は、ロシア軍がロケット弾で住宅を攻撃する前日だったから、目が覚めたとき、街の中心部で焼けて破壊された家々をこの目で見たよ。
僕はキーウに数年住んでいて、前回攻撃された地区で多くの時間を過ごしたんだけど、自分の家が燃やされて破壊されるのを見るのはかなりつらいことだった。ウクライナでの生活は決して楽ではないし、今は本当に精神的に辛い。今、ウクライナに安全な場所はない。前線からどんなに離れていても、ロケット弾はほとんどの大都市を襲い、ショッピングモールや文化センター、病院、住宅などを直撃しているからね。住民は不安になり、眠れなくなり、欠乏症になりつつある。毎日直面する恐怖の数々に、ただ無感覚になり、完全に疲れ果てる。安心感もなく、警報が聞こえたら防空壕に行くべきか、それとも気にせず自分の仕事を続けるべきか、常に迷い続けていることに気づくんだ。
僕のツアーは、西から東へ、北から南へ、10都市を回った。家に閉じこもって、個人的な問題に直面していることに疲れ果てていたんだよ。戦争は僕たちの生活を一変させ、愛する人は逃げ出し、国境を越えることもできず、男であるがゆえにいつでも軍隊に召集される可能性がある。そうして、自分には今日しかないのだと理解し始める。だから、今日やりたいことは、音楽をやること、そしてツアーに出ることだと思ったんだよね。ツアーは僕にとって、いつも癒しのようなものだから。
僕のツアーは、すべてチャリティー・ツアー。会場やブッカーからは一切報酬をもらわず、集められた資金はすべて軍やボランティアに寄付したよ。それが主なメッセージさ。僕たちは “脇目も振らず”、どんな形であれ戦うべきで、強く、自分たちのやっていることをやり続けるべきだ。ロシアは奴隷国家で、ウクライナは常に自由な国だ!」

WHITE WARD の10年にわたるキャリアは、厳粛なブラックゲイザー、悪魔の森の吟遊詩人、そしてジョン・ゾーンに見出されたジャズクラブのハウスバンドが一体となった奇異なものでした。バンドが次にどうなるのか全く予想がつかないため、彼らの “ツアー” は当初から非常に刺激的だったとも言えるでしょう。それでも、”Love Exchange Failure” の明らかにメトロポリタンなブラックメタルから “False Light” の “田舎” “自然” への軸足の移動は意外な感じもしますが、そこには理由がありました。彼らは、”False Light” において、そのブラックメタルという土台を拡大し、ブラックゲイズとノワールというサウンドの土台を強化するために、新たな影響を与える決断を下したのです。
Kazarian が語るように、無名の主人公は都会の風景を超え、より良い生活を求め、大都市の外でこそ “幸福” を見つけることができると信じています。陰鬱なアメリカーナの刺激は、そのテーマを実現へと導きました。例えば、”Salt Paradise” はゴシック・ウェスタンのような、映画的でありながら穏やかなアコースティックが支配する楽曲で、バンドのメタル的な要素から完全に切り離されたトラックでありながら、メタルに劣らず重みを感じるよう設計されています。”Cronus “では、ゲストボーカルの Vitaliy Havrilenko の淡々とした語り口が、ポストパンクのような弾むような演奏によく合っており、曲の後半ではメタリックなサウンドが炸裂。
しかし、そうしたスモーキーなサックス・ソロやアコースティックな演奏がアルバム全体に散りばめられているにもかかわらず、WHITE WARD は依然としてメタル・バンドであり、”False Light” ではその “主軸” をも徹底的に追求していることが分かります。タイトル・トラック “False Light” は、露骨な咆哮とギターを多用し、現代のデスメタル・レコードも一切引けを取らない獰猛さを誇ります。つまり、このアルバムはより包括的な作品で、ブラックメタルよりもエクストリーム・メタルという言葉がふさわしい作品なのかもしれません。

とはいえもちろん、都会的で現代的なジャズとブラックメタルの要素を見事に融合させてきた WHITE WARD が、バンドの矜持を完全に放棄したわけではありません。13分という途方もない長さの “Leviathan” は、ブラックメタルの激しいリフから、ブラスと優しいパーカッションに彩られた美しいコンポジションまで、WHITE WARD すべてを注いだ渾身のオープナー。ジャズとメタル、2つのジャンルのマスターは、アクロバティックなパーカッションから万華鏡のリフ・ワークまで、音楽のすべてがジャズ演奏者のような正確さと熱意をもって演奏されながらも、メタルとして必要な即時性と攻撃性を犠牲にすることは決してありません。苛烈と気品、都会と田舎、血と知の対比は、ここにきて一層深まり、その落差が聴く者の心を惹きつけるのです。この楽曲は、Kazarian のお気に入りの一つでもあります。
「この曲は、僕たちが3rdアルバムのために最初に取り組み始めた曲の一つなんだ。アルバムの残りの部分のムードとスタイルを決定づけたよ。この曲を完成させるのにかかった時間を正確に覚えているわけではないけど、制作には何十もの段階を経て、多くのバリエーションと修正があったことは確かだ。
作曲のプロセスはいつもと同じで、まず僕がリフのほとんどと曲の構成とリズムを作り、それからバンドとして細部にこだわり、曲のさまざまな部分に新しいアイデアを導入していった。この曲をアルバムのオープニングにすることは、僕にとっては当然のことだった。僕は音楽を作るとき、特定の曲がアルバムの中でどのような位置を占めるべきかを、すでに感じ、分かっているからね。だから、一貫したプランニングというよりも、ほとんど常に自発的なプロセスなんだよ」
“False Light” は、ウクライナの作家 Mykhailo Kotsubinsky による1908年の印象派小説 “Intermezzo” や、作家 Jack Kerouac や精神分析医 Carl Jung の作品からインスピレーションを受けています。そうして、政府が認可した殺人事件、差し迫った環境破壊、警察の残虐行為、家庭内虐待、都市の精神的空虚、現代の主流文化の虚偽性、過剰消費による悪影響といった、ウクライナが抱えていた “現代病”、都会の空虚さについてアルバムは語っているのです。そう、我々に降り注ぐネオンは “偽物” の光。

ただし、戦時中という最もありえない場所で、WHITE WARD の芸術と創造性は生き残る道を見つけました。 Pechatkin が作品のテーマについて語ります。
「このアルバムは、戦争というトピックには触れていないけど、僕にとって非常に重要なもの。現代のウクライナの歴史に関連する多くの問題だけでなく、いくつかの深い内面の考察や経験をカバーしているからね…アルバムのコンセプトは、現代のウクライナの歴史の様々な出来事に基づいているんだ。だからこそ、祖国を覆う炎と破壊から生まれるウクライナ文化にリンクしているんだよ」
Kazarian が続けます。
「新しいアルバムと WHITE WARD は、今でも僕にとって非常に重要なもの。このリリースに取り組むことは、前進するための未来への希望をさらに与えてくれたんだ」
Pechatkin の最後の言葉が大きく響きます。
「創造性や音楽は、現実から逃避するための方法のひとつであり、傷を癒し、あらゆる障害を克服するための機会を与えてくれる普遍的な治療法なんだ。戦争によって人々が、学ぶことに消極的になり、コンフォートゾーンに留まりたがることになれば残念だよ。もし、人々が自己改善や継続的な学習にもっと注目し、時間をかければ、もっと自分自身に疑問を持つようになるはずなんだから。
この厳しい時代に、創造性は精神的な崩壊やその他の問題から多くの人を救ってくれる。もし君が緊張を感じていても、音楽がそれを解放するのに役立つ。もし君が悲しいと感じていたら、音楽は少し幸せに感じるのに役立つ。そしてもし君が怒りや痛みを感じていたとしても、創造性はまた、君の救世主だ。ただ、否定的な感情を創造的な方向へ押しやる勇気さえあればいいんだよ」

参考文献: NEW NOISE MAG :INTERVIEW: WHITE WARD’S ANDRII PECHATKIN AND YURII KAZARIAN: MUSIC, WAR, AND LIFE

Debemur Morti:WHITE WARD – INTERVIEW WITH MYKOLA LEBED

SLUKH MEDIA:White Ward Band were interviewed for the Antipodes show. We picked the best

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【IMPERIAL TRIUMPHANT : SPIRIT OF ECSTASY】


COVER STORY : IMPERIAL TRIUMPHANT “SPIRIT OF ECSTASY”

“I Got Into Learning About Rolls­-Royce As a Company And Learning About These Ultra Luxury Product Companies Like Rolex And Such. The Rolls-Royce Has This Hood Ornament That Is Known As The Spirit Of Ecstasy.”

SPIRIT OF ECSTASY

2012年のデビュー以来、IMPERIAL TRIUMPHANT の Zachary Ilya Ezrin (vocals, guitars), Steve Blanco (bass, vocals, keys, theremin), Kenny Grohowski (drums) にはニューヨークの中心部に深く入り込むというミッションがあり、彼らの Bandcamp には “NY の最上階の豪華さから地下の腐ったような場所まで” と優雅に表記されています。
「ニューヨークの音の風景と、そのさまざまなダイナミクスを具現化しようとしているんだ。ニューヨークの風景には視覚的に大きな影響を受けているし、この街ならではのものだよね。この街はとても密度の高い場所だから、いろいろな意味でインスパイアされるものがたくさんあるんだ。音楽的な血統からインフラまで、あらゆる分野で歴史がある。
それに、ニューヨークには何か国家的なナショナリズムのようなものがある。移住してきた人たちも、ニューヨーカーであることを誇りにしているんだ。何が自慢なんだ?棺桶の中に住んでるんだぞ!?とか言われるけどね。ニューヨークという街に対して、みんなすごく興奮しているだよね。その中で、曲のコンセプトが生まれる。大都会のプライドと自己達成のヴェールは、探求するにはとても興味深いコンセプトだよ」

そして、メジャーからの最初の作品 “Alphaville” をリリースした後、最上階の豪華さについての考え方は、さらに深まりました。Trey Spruance (Mr. Bungle) がプロデュースし、Colin Marston が Menegroth Studios で録音した “Alphaville” は、壮大なスケールで、これまでで最大のサウンド・プロダクションとなっていたのです。メタル・コミュニティーの中でのこのレコードの評判は非常に大きく、アールデコの影響を受けた不可思議なトリオは、地元の人気者からメタルのアーカイブスにその地位を刻むまでになったのです。Century Media から2枚目のリリースとなる “Spirit of Ecstasy” でIMPERIAL TRIUMPHANT は、その場所から音楽におけるより細かい部分に焦点を当てるために、音を十分に減らすことを決めました。
「ライブでは、僕の彼女と弟の彼女にマントを着てもらって、観客にマスクを配っていた。当時、僕らの音楽でモッシュする人はいなかったから、ブルックリンの人たちがじっと見ているクラシックな雰囲気よりも、もっと良い雰囲気になる方法はないかと考えていたんだ。全員がマスクをしていれば、グループの儀式になるし、僕らもその一員になれると思ったんだよね。今はモッシュピットも増えてきたけど、それでもマスクをかぶって来る人はいて、ライヴのために華やかなコスチュームに身を包んでくれる人もいる。ライブが単なるパフォーマンスではなく、みんなで参加する儀式のようなものだと感じてもらえたらうれしいね」
弊誌2020年のインタビュー で彼らはあのマスクについてこう説明してくれました。
「あのマスクは20世紀前半のニューヨークで育まれたアールデコ運動と密接に関係しているんだ。そのムーブメントは数千年前にさかのぼり、過去と深遠で神秘的な多くのつながりを持っている。そしてそれは、かつて僕たちの一部であったものがここにあると悠久に想いを馳せる、時を超えた夢の形でもあるんだよ。つまり歴史的意義のある魅力的な美学なんだ」

栄光と黄金のマスクを手にする前に、IMPERIAL TRIUMPHANT は2005年にフロントマン Zachary Ilya Ezrin のハイスクール・プロジェクトとしてスタートしました。そして2012年、このプロジェクトは、テクニカルとメトロポリタンをベースにしたテーマを掲げ、後にその特徴的な不協和音のデスメタル・スタイルとなる何かを形成し始めたのです。トレモロピックとディミニッシュ・セブンスを支えるブラスト・ビートから、金メッキを施したアールデコ調の豪華なイメージまで、IMPERIAL TRIUMPHANT のすべては極端。 不協和音のハイゲイン、悪夢のようなサウンドスケープ、強烈なポリリズムからなるアールデコの仮初めは、今にも全世界が崩壊しそうな感覚を与えます。
2006年に “ごく普通のブラックメタルバンドとして” 結成された彼らは、さまざまな不協和やジャズの要素を取り入れて進化してきました。近年流行りの “ディソナンス系” の一歩も二歩も先を行く凄みは、3人のメンバーの音楽的背景と、より協力的なユニットになったことによる自然な結果。このサウンドの開発以来、 Ezrin は、プロジェクトの寿命と鮮度を保つものは、コラボレーションであると感じています。
「自分の中で一貫しているのは、オープンマインドを保つことだ。コラボレーションをすればするほど、より良い音楽が生まれるんだ」

そうしてニューヨークの美学をさらに追求した Ezrin は、ニューヨークの建築物とフリッツ・ラング1927年の名作映画 “メトロポリス” からインスピレーションを得ることになります。この新たな着想は、トリオのターニングポイントとなり、今や象徴的な存在となったあのコスチュームを作るきっかけとなりました。
「全てはアールデコから始まったんだ。59丁目、セントラルパーク・サウスを歩いていたら、アールデコの古い建物がたくさんあるんだよ。アールデコはニューヨークに限ったものではないけど、もともとニューヨーク的な感じがするし、ヘヴィ・メタルでは使われない。そういうものに飛び込んで、IMMORTAL やブラックメタルが冬にやったことをアールデコでやってみたらどうだろう?って考えたのさ。Steve Blanco がマスクを思いつき、そのコンセプトを発展させ、さらに追加していったんだ」
Ezrin のペダルボードには必要なものしかストックされておらず、Victory amps の V4 Kraken で身軽に移動可能。
「それは IMPERIAL TRIUMPHANT とニューヨークの音楽が一般的に持つ、身軽で包括的な性質の一部だと思う。でも、このアルバムは特に、深夜のダウンタウンのジャズ・バー、そんな場所のジャムに入り込んだような、みんながリラックスして座っているような感じにしたかったんだ」
ニューヨークは夢と現実が共生している場所。
「この街には極端な二面性があり、超高音と超低音がある。最も裕福な人々が住む場所であり、最も貧しい人々が住む場所でもある…そして、それらは互いにほんの数ブロックしか離れていないんだ。音楽的には、IMPERIAL TRIUMPHANT はニューヨークの音にインスパイアされていると言える。通りを歩いていて、サイレンが鳴り響いたり、地下鉄に乗ったり、列車が文字通りトンネルをすり抜ける音を聞いたことがあるだろう。そういうものからインスピレーションを受けて、 “ああ、これをギターで弾いてみよう” と思うんだ。なんでわざわざサンプリングするんだ?自分のギターで弾けばいいんだから」

アールデコを基調とした大都市の風景というテーマは、自然とより大きなスケールで、いわば摩天楼の高みに到達することを切望していきました。そこで、メジャーなメタル・レーベル、Century Media と手を組むことになったです。
「僕たちはかなり野心的なバンドで、その野心をサポートしてくれるレーベルが必要だったんだ。彼らは俺たちに大きなリスクを負ってくれた。ただ、僕たちがアリーナで売れまくって、金儲けしたいっていうのとは違うんだ。彼らはまず芸術的なことを考えてくれるから、結果的に彼らのリスクが報われたと言えるね」
そうして生み出された “Alphaville”はメタル世界で賞賛を浴びましたが、それは決して偶然ではありませんでした。IMPERIAL TRIUMPHANT は何年もかけて自分たちのスタイルを確立し続け、”Alphaville” はまさにその積み重ねの結果。「少しの運と多くの努力があれば、すべてのチャンスは次のチャンスにつながるんだ」
“Alphaville” が IMPERIAL TRIUMPHANT の能力のマクロに焦点を当てたことで、トリオは次の作品を書く時には何か違うことをしようと決めていました。
「”Spirit of Ecstasy” は、まずその名前にとてもインスパイアされている。ロールス・ロイスという会社について学ぶうちに、ロレックスのような超高級品会社について学ぶようになったんだ。ロールス・ロイスには、”スピリット・オブ・エクスタシー” と呼ばれるフードオーナメントがある (ボンネットに装着するエンブレム) 。ロールス・ロイスの製品には、そうしたユーザーの体験や製品のメカニズムに役立つような小さなディテールがたくさんあるんだよね。面白いコンセプトだと思ったから、そのメンタリティーを音楽に応用してみたらどうだろうと考えたのさ」

“Spirit of Ecstasy” は “Alphaville” よりもシンプルなサウンドですが、しかし、よりミクロで、彼らの細部へのこだわりは繰り返し聴くことでより一層、聴き応えを与えてくれます。
「構造的には、”Alphaville” よりもさらにシンプル。僕らは次のステップに進むために、自分たちのミクロなニッチをさらに開拓し、狭い穴にさらに入り込んで、そう、ソングライティングもさらに向上させようとしたんだ。混沌の中にある明晰さの瞬間を人々に与えようとしたんだ。僕たちは曲をすべて書き上げてから、それらをいじくりまわして、非常に細かい部分まで綿密に調べていった。すべてがあるべき姿であることを確認するために、1秒1秒レコードを見直したんだ」
こうしてニューヨーカーの努力は、異様に録音されたボーカル、サックスとギターのデュエル、風の吹くサンプルなど様々な要素を加えるという形で実を結び、すべてが特定の場所に配置され、独自の “フードオーナメント” を掲げて、”Spirit of Ecstasy” がラグジュアリーな “高級ブランド” の産物であることを示すことになりました。
「Max G (Kenny G の息子) は親しい友人で、以前は IMPERIAL TRIUMPHANT のメンバーだった。一緒にニューヨークで小さな会社を経営しているんだ。ある日の午後、ランチを食べているときに、彼にこう聞いたんだ。”僕たちの新譜にこんなパートがあるんだけど、ギターがサックスと戦うというか踊るようなデュアルソロの状況を想像している。君と君のお父さんはこのパートに興味がある?”ってね。彼はイエスと答え、父親に尋ね、父親も同意し、そして彼らは絶対的な傑作を作り上げて帰ってきてくれた。僕たちのやっていることを理解してくれる人たちと一緒に仕事をすると、より強い作品ができるんだ。彼らのような演奏は、僕には決してできないからね。ゲストを招くのは結局、音楽のためであり、他の人の才能に信頼を置くことでもある。Kenny G はモンスター・プレイヤーで、Max G はモンスター・シュレッダーだということを知らない人がいるかもしれないけどね。
僕たちのドラマーの Kenny は Alex Skolnick とフリー・インプロヴァイズのカルテットで演奏している。だから、彼にはかなり簡単に依頼できたよ。VOIVOD の Snake は、彼らも Century Media に所属しているから、”Alphaville” のためにやった VOIVOD の “Experiment” のカヴァーを彼らが気に入っていることが分かったんだ。だから、Century Media は、もし僕らがゲストを望むなら、コネクションを作ることができると言ってくれたんだ。IMPERIAL TRIUMPHANT が決してやらないことは、名前だけのゲストをアルバムに迎えること。どんなに有名な人が来ても、その人がもたらすものは、何よりもまず音楽のためになるものでなければならない。それ以降のことは、すべて飾りに過ぎない」

一方で、Ezrin のギターに対するアプローチは、それ自体が興味深いもの。クラシックからジャズ、スラッシュからブルースまで、様々なスタイルを研究してきた Ezrin は、伝統的な手法と非伝統的な手法を融合させ、既成概念にとらわれないものを作り上げています。
「例えば、チャールズ・ミンガスのような演奏スタイルからインスピレーションを得て、そこから盗むことが多いんだ。彼は指板の上で弦を曲げたり外したりして、エフェクトをかけるんだ。完璧に音を出すことにこだわらなくなれば、いくらでもクールなことができる。アンプを通さない状態でヘヴィーでファッキンなサウンドなら、ゲインたっぷりのアンプで弾くと超ヘヴィーに聞こえるはずだよね。
プレイヤーとして、ある種のパラメーターを持つことはとても楽しいことなんだ。例えば、僕のギターはEスタンダードなんだけど、それよりずっと低い音で演奏するんだ。ワミーバーを使って、ローEのずっと下の音でメロディーを作るんだ。そうすることで、より深く考え、よりクリエイティブになることができる」
IMPERIAL TRIUMPHANT は、リスナーが “Spirit of Ecstasy” を掲げたロールス・ロイスでディストピアの荒野を走り抜けるようなイメージを追求しました。スラッシュ・ヒーローの VOIVOD TESTAMENT のメンバー、そして伝説のサックス奏者 Kenny G を加えたトリオは、不協和音のデスメタルに新たなラグジュアリーと高級感を付与し、55分の長さの中でリスナーにさらなる探究心を抱かせるきっかけとなりました。
「このアルバムは、聴けば聴くほど好きになるようなレコードの一つだと思うんだ。それは非常に挑戦的なことだけど、非常にやりがいのあることだ」

参考文献: BROOKLYN VEGAN : IMPERIAL TRIUMPHANT TALK ART-DECO INSPIERD DEATH METAL

Imperial Triumphant’s Zachary Ezrin on his wild approach to guitar: “There’s tons of cool stuff you can do when you stop caring about hitting the note perfectly”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ELEPHANT GYM : DREAMS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ELEPHANT GYM !!

“We Feel Lucky That We Are Holding Instruments Rather Than Guns. We Feel Lucky That We Are Expressing Love Rather Than Hatred. We Feel Even More Lucky That Our Music Is Able To Connect People From Japan, China, USA And Other World”

DISC REVIEW “DREAMS”

「台湾人として、私たちは毎日恐怖の中で生活している。恐怖は私たちの潜在意識に溶け込んでいるんだ。時には、日常生活を送るために、私たちの意識はそうした恐怖を忘れて、否定しなければならないこともあるくらいにね。戦争が起これば、私たちは戦場に行かなければならないんだ。だから、銃ではなく、楽器を持っていることが幸せなんだよ。憎しみではなく、愛を表現していることを幸運に思うんだよ」
2012年に “マスロック” に対する至上の愛を共有し結成された Elephant Gym。2年後にリリースしたファーストアルバム “Angle” で彼らは、”数学のロック” に共通する複雑な拍子記号やテクニカルな演奏によって、幾何学的な音楽のタワーを見事に構築しました。もちろん、10年の時を経た今でもそうした無機的な音の伏魔殿は彼らの一部として存在をしていますが、より柔軟に世界を広げた台湾のトリオは、音楽という方程式に対する解法をいくつも手に入れたようです。憎しみではなく、愛を表現するために。
「”夢” は、Elephant Gym にとって “音楽のインスピレーションはどこから来るのか” という問いに対する答えなの。眠りについた後、脳は今までに経験したすべてのことをバラバラにして、非常に変わった方法で混ぜ合わせ、再編成するの。これは実は、音楽を作るプロセスと非常によく似ていてね。過去に記憶した音を独自の方法で現在に再編成し、一つ一つが特別な夢であるのと同じように、それぞれの特別な曲となっていくから」
Elephant Gym にとって “夢” とは、現実に溶け込む恐怖からの退避場所であり、音楽のインスピレーションの源であり、マスロックという狭い檻から超越するための手段でもあります。冷淡で機械的とも捉えられかねない理系のロックに、夢見がちでエモーショナルなポストロックの文学性を注ぎ込んだ彼らは、ロックの力強さも、ジャズの知性も、クラシックの優美もすべてをパズルのピースとして使用し、最新作 “Dreams” で想像力や表現力の境界を越えたのです。
「Lin Sheng Xiang は、私たちの音楽に対するアティテュードにかんして大きな影響を与えた人なんだ。彼と音楽の仕事をするのは、私たちの目標の一つだった。私たちと Lin の音楽の異なる美学を共存させ、互いのバランスを見つけることは、挑戦的でありながら非常に興味深いことだよ」
狭い場所にとどまらず、柔軟性を保ち、表現の解法を多く探るため、Elephant Gym は様々なアーティストとのコラボレーションを積極的に進めてきました。ブレイク中のネオソウル・アーティスト9m88、客家のフォークシンガー Lin Sheng Xiang、そして日本の若獅子 chilldspot の比喩根。奇しくもアルバムには、北京語、英語、客家語、日本語という台湾の人たちが話す言葉が集結することとなりました。
マスロックのルーツを提示するため、日本の鬼才 Toe の “Two Moons” を “Go Through The Night” にサンプリングする一方で、CHIO-TIAN FOLK DRUMS & ARTS TROUPE 九天民俗技藝團とのコラボレーションでは、”Deities’ Party” の直感的な轟音に到達します。客家との共演もそうですが、伝統的なアジアの音楽には、彼らが演奏するのと同じ奇妙な拍子記号がありながらも、音符では表現不可能な直感的ニュアンスが存在しています。だからこそ、伝統的なサウンドとの共存は、彼らの世界を一度破壊して、夢のように再構築するための最高のスパイスとなったのです。
そうして彼らは、”Dear Humans” のダーウィンや、”Witches” のシェイクスピアで映画やミュージカルの世界まで広く見据えることになりました。すべては、音楽に境界はない、世界に境界はないという想いから。自分と反対側、別世界を受け入れ、尊重することで世界はもっと面白くなるから。多様性は許容し愛することから生まれるから。解へとたどり着く道は、決して一つではないのですから。
今回弊誌では、Elephant Gym の3人にインタビューを行うことができました。「私たち人間の血には暴力が根付いていて、戦争は私たちの集合意識の中にある、劣等感と圧倒的な混乱の結果なんだろうな。でも私たちは、たとえ宣戦布告をした相手であっても、誰も悪者とは見なさないよ。なぜなら、彼らはもっともっと心に痛みを抱えていたはずだから」 どうぞ!!

Elephant Gym 『Dreams』
Release Date:2022.05.11 (Wed.)
Label:WORDS Recordings
Tracklist:
1. Anima
2. Go Through The Night
3. Shadow feat. hiyune from chilldspot
4. Witches
5. Dreamlike
6. Wings feat. Kaohsiung City Wind Orchestra
7. Happy but Sad
8. Shadow feat. 9m88
9. Deities’ Party feat. Chio Tian Folk Drums And Art Troupe
10. Dear Humans -Japanese ver.-
11. Gaze At Blue -Album ver.-
12. Fable
13. Dream of You feat. Lin Sheng Xiang

各種配信リンク:https://linkco.re/h8bAYE2f

ELEPHANT GYM “DREAMS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OU : ONE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANTHONY VANACORE OF OU !!

“I Am The Only Non-Chinese In The Band, But We Are a Chinese Band Through And Through. So For There To Be Chinese Lyrics And Some Chinese Sensibilities In The Music Is Just Natural.”

DISC REVIEW “ONE”

「中国、特に北京の音楽シーンは豊かで多様性に富み、活気に満ちているよ。だけど OU は政治には関与しないんだ」
北京のジャズ・シーンで育まれた OU(オー)は、定型化した現代のプログ世界、その停滞したエネルギーに真っ向から歯向かうデビュー作 “One” でメタル異世界のルール無用を叩きつけました。
「中国に来て10年になる。私に言えることは、(このバンドの3人のメンバーも含めて)私にはここに心から愛する友人がたくさんいて、彼らは私にとってまさに家族のような存在だということなんだ」
作曲家で偉大なジャズ・ドラマーでもあるニューヨーク出身の Anthony Vanacore は、大規模な中国ツアーをきっかけに、彼の地の文化や言語に惚れ込み移住を決断します。杭州に移り、”客” ではなくその場所の人間として暮らすうち、彼は外国からみれば統制や不自由の中で暮らす人々の本来備わった人間味や優しさに触れていきました。文化が違えど、人は、個人個人はそんなには違わない。それは音楽も同じです。
「O はバンドの4人の血液型がO型だからで、その後 OU に変えたんだ。ピンイン(中国語のローマ字表記)では O と同じ発音で、”謳” という漢字が対応していて、それには “唱える” という意味があるから、このバンドにはとても合っているんだよ」
中国の “人” と触れ合いはじめた Anthony は北京音楽シーンの素晴らしさにも気づきます。そうして、クラブや本職の音楽教師から仲間を募り、数年の歳月を経て、それぞれのメンバーが特別な調味料を加える複雑な音の中華料理 OU が完成します。
目まぐるしくも自由自在のリズムから幽玄なアルペジオの残響、そして催眠術のように正直で率直なヴォーカル・パフォーマンスまで、この驚くべき料理 “One” にはプログとアンビエント、そしてメタルの旨味が詰まっています。もしかしたら、三国志を終焉に導いたのは彼らなのでしょうか。陽気さ、静謐さ、獰猛さを見事 “一つ” に調和させた OU は、さながら蒸してもよし、焼いてもよし、揚げてもよしの餃子を3000年の歴史から進化させる抜きん出た料音人だと言えるでしょう。
「私はバンド内で唯一の非中国人だけど、それでも私たちは根っからの中国のバンドなんだよね。だから、中国語の歌詞や中国的な感性が音楽に入っているのは、ごく自然なことなんだよ」
OU は、現代的なプログレッシブ・アクトへの強い愛情を示しながらも、彼ら独自のサウンドを切り開いてきました。ハイパー・ポップな HAKEN のように、OU は “Farewell 夔” や “Prejudice 豸” の重く複雑怪奇なグルーヴに、常に嫋やかで優雅なシンセの絹地を織り込んでいきます。まさに張飛、針に糸を通す。この泰山と長江のような美しくも悠久の対比は Devin Townsend や THE GATHERING のキネティックな作品にも匹敵し、さらに貂蝉のように美しく舞うしなやかな Lynn Wu の呪文はこの静謐でしかし刺激的なアートにえもいわれぬ独自性を加えています。
「アジアの伝統音楽には、欧米ではあまり知られていない、未開発の感情や質感がたくさん備わっていると思うんだ。アジアの伝統音楽が、アジア以外の国の音楽にもどんどん浸透していくのは時間の問題だと思っているよ」
実際、中国らしい Lynn の抑揚とゆらぎのある音は、OU を Inside Out のようなメジャーに引っ張る原動力となったはずです。聳え立つ “Mountain 山” では、Lynn の声をマルチトラックで聴かせながら、トラックごとに感情をエスカレートさせる絶妙なマルチバース空間を創造。一方で、”Ghost 灵” “Light 光” の幽玄なセクションで彼女のノイズは言葉ですらなく、最小限の伴奏として存在し、ビョークのような実験的アーティストの手法に似た推進力として扱われています。
他にも例えば、OU を聴いて、Enya, LEPROUS, LTE, RADIOHEAD, PORTISHHEAD, MASSIVE ATTACK といったバンドの姿が目に浮かぶのは自然な感性でしょうが、それだけでは十分ではありません。ここには東洋的な無調や不協和が西洋のモダンなポリリズムと織りなす、シルクロードのタイムマシンが洋々と乗り入れています。
もちろん、熟練したジャズ・ミュージシャンである、Anthony とベーシスト Chris Cui によるリズムのバックボーンは、タイトで整然としながらも混沌としたロックの側面を自在に謳歌。ギタリスト Jin Chan の神秘的な舞踏は二人のタクトで華麗に舞い上がります。まさに指揮者を失った兵ほどみじめなものはない。
老齢化したプログの巨人たちがいつまでも黄忠でいられる保証はありません。OU は国際的な聴衆から切り離されがちな中国にありながら、いやむしろあったからこそ、復権を願うプログ世界の、そしてアジアの希望となりました。中国では食事を少し残すのが礼儀とされていますが、”One” の音楽を一欠片でも残すことは大食漢のプログマニアには実に難しいミッションとなるでしょう。
今回弊誌では、Anthony Vanacore にインタビューを行うことができました。「私はニューヨークのフラッシングに住んでいたんだけど、この街にはかなり大きな中国人コミュニティがあってね。ツアーから戻るとその場所と交わりながら、自分の生活環境に新たな視点が生まれ、中国の文化や言語にますます魅了されるようになっていったんだ」 どうぞ!!

OU “ONE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PESTILENCE : EXITIVM】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PATRICK MAMELI OF PESTILENCE !!

“It Is Not a Secret I love Allan Holdsworth, Tribal Tech, Chick Corea And Steve Coleman. They Opened Up My Musical Horizons.”

DISC REVIEW “EXITIVM”

「私はどのカテゴリーにも属したくなかった。ありとあらゆるルールで自分を制限してしまうからね。DEATH がテクニカルだったのは、Sean と Paul がバンドに加わった時だけだよね。加えて私たちも、決して “スーパー・テクニカルだとは思われていなかったけど、このジャンルに新しいスタイルを生み出したのはたしかだよ」
DEATH, CYNIC, ATHEIST, NOCTURNUS, ATROCITY, GORGUTS, DEMILICH。80年代後半から90年代初頭にかけて、デスメタルやスラッシュメタルを独自の牙で咀嚼し、突然変異の魔物を生み出す “奇妙な” メタルの波がエクストリーム・ミュージックの歴史を変えました。
POSSESSED に端を発した彼らの異端は、決して現代のいわゆるテクニカル・デスメタル “Tech-metal” のように、レールに乗ったシュレッドが飛び交う狂喜乱舞の硬質な宴ではなく、存在自体が阿鼻叫喚で突拍子も無いアイデアを現実にしてしまう魑魅魍魎の無礼講だったのです。そこにルールは存在しませんでした。
「私が Allan Holdsworth, TRIBAL TECH, Chick Corea, Steve Coleman を愛しているのは秘密でもなんでもないよ。彼らが私の音楽的な地平線を広げてくれたんだ」
オランダから新たなメタルの感染爆発を呼んだ疫病 PESTILENCE の無礼講は、実に粋な演出でした。そして彼らはその “傾奇者” の精神を今に至るまで貫き通しています。ジャズとメタルの蜜月といえば、まず CYNIC を思い浮かべるファンも多いでしょう。しかし、89年にリリースされた PESTILENCE の2ndアルバム “Consuming Impulse” を聴けば、奇抜なリフの発明のそばにジャズや現代音楽の知性が投影されていることに気づくはずです。その場所から、シンセサイザーやインタルードを活用したシアトリカルとも言える傑作 “Testimony of the Ancients”, アトモスフェリックなホールズワース・イズムを継承した “Spheres” と彼らの世界は広がっていきました。
「私が過去に一緒に仕事をしたほとんどの音楽家たちは、他に自分のバンドやプロジェクトなどに専念していることを理解してほしいと思うんだ。彼らは、1枚のアルバムと1回のツアーのためこのバンドに滞在し、その後は自分の仕事をするために去っていくというわけさ」
それでも PESTILENCE をソロプロジェクトではなくバンドであると断言する奇才 Patrick Mameli。実際、流動的なメンバーを利用しながら休止と再開を繰り返すペストの脅威は、時を経るごとに増しているようにも感じられます。15年の眠りから目覚めプログデスの威厳を示した “Resurrection Macabre”、8弦ギターの導入で難解と異端を極めた “Doctrine”、ファンの長年の忠誠に報いた “Hadeon”。ex-CYNIC の Tony Choy, DARKANE の Peter Wildore, 長年の相棒 Patrick Uterwijk といった達人たちの恩恵にも恵まれて、PESTILENCE に聴く価値のない作品など一枚たりとも存在しないのです。
「たしかに、シンセやサウンドスケープの使い方は “Testimony of the Ancients” と似ている部分もあるかもしれない。だからといって同じような音楽だとは言えないだろうな。私が今使っているシンセやコードは、あの時よりより進化していて、音楽的な有効性が高いのだから」
そんな彼らの現在地が “Exitivm”。ラテン語で “破壊” と名づけられたアルバムは、再度過去を破壊して新たな音の葉を紡ぎ出す再創造の楽典。”Testimony of the Ancients” で選択されたギターの歪みとキーボードを多用したアプローチの質感、”Spheres” のアトモスフェリックなコード・ヴォイシングを受け継ぎながら、楽曲をコンパクトでグルーヴィーに保ち、その偏執的でしかし弾力に満ちた不安の塊は、環境破壊、精神の破壊、民主主義の破壊を扱った “Exitivm” なテーマと素晴らしく調和していくのです。ex-GOD DETHRONED のドラマー Michiel van der Plicht によるシャープでブルータルなドラミングが、このソリッドな作品の本質を代弁していますね。
今回弊誌では、Patrick Mameil にインタビューを行うことができました。「ようやく、政府がクリエイティブな人々、音楽家、画家、表現者に対してどれほど無関心であるかを悟ったよ。私たちはかなり長い間、資金援助も何もない状態で監禁されていたんだからね。Chuck (Schuldiner) が言うように、まさに彼ら権力の “Secret Face” (DEATH の楽曲、”Human” 収録) 秘密の顔を示していたと思うよ」 どうぞ!!

PESTILENCE “EXITIVM” : 9.9/10

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