THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2022: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2022: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. MEGADETH “The Sick, The Dying…And The Dead!”

「人生は厳しい。勝ち組になるか、そうでないか。人は敗者と呼ばれるべきではないと思う。でもな、2位になろうとすることは、敗者ではないんだよ。常に自分を高めようと努力する限り、完走した者は勝者なんだ。それはとても簡単なこと。人生を1%改善するだけで、3ヶ月ちょっとの短い努力で、仕事ぶりでも、大切な人に対してでも、子供に対してでも、まったく違う人間になることができる」
MEGADETH は復讐と共にある。苦難の度に強くなる。長年 MEGADETH と Dave Mustaine を追い続けたリスナーなら、そうした迷信があながち世迷いごとではないことを肌で感じているはずです。METALLICA からの非情なる追放、薬物やアルコール中毒、Marty Friedman の脱退、バンドの解散、Drover 兄弟を迎えた新体制での不振…実際、厄災が降りかかるたびに、MEGADETH と Dave Mustaine は研ぎ澄ました反骨の牙で苦難の数々をはね退け、倍返しの衝撃をメタル世界にもたらし続けています。
逆に言えば、MEGADETH という船が順風満帆であることは稀なのですが、2016年の “Dystopia” 以降の期間は、彼らの波乱万丈の基準からしても、非常に荒れた展開であったと言えるでしょう。まず、”Dystopia” でドラムを担当し、当初はアルバムをサポートするためにバンドとツアーを行っていた Chris Adler が、2016年半ばに当時は本職であった LAMB OF GOD とのスケジュールの兼ね合いで脱退せざるを得なくなります。後任には元 SOILWORK の Dirk Verbeuren がヘッドハントされました。
そうして2019年、次のアルバムの制作が始まった矢先、Dave Mustaine は咽頭癌と診断され、50回以上の放射線治療と化学療法を余儀なくされます。無事、寛解にはいたったものの、その後 Covid-19 の大流行が起こり、アルバムの進行はさらに遅れます。決定打は2021年春。長年のベーシストで Mustaine の右腕であった David “Junior” Ellefson が、”性的不祥事” を起こしてしまうのです。バンドで最も品行方正、神父にして良い父親と思われていた Ellefson の性的なスキャンダル。その影響は大きく、バンドはすぐに解雇という判断を下します。そうして、TESTAMENT などで活躍を続けるフレットレス・モンスター Steve Di Giorgio が彼のパートの再レコーディングを行うこととなりました。
このアルバムの制作にまつわるトラブルや苦悩の山を考えれば、MEGADETH のリベンジが倍返し以上のものであることは、ファンにとって容易に想像できるでしょう。そうして実際、Dave Mustaine は逆境をものともせず、12曲のスリリングで知的で瑞々しい破壊と衝動の傑作を携え戻ってきました。MEGADETH のリーダーのレジリエンス、驚異的な回復力、反発力を再度証明しながら。
「私はゲイのメンバーだ。性的アイデンティティが何であろうと、見た目がどうであろうと、何を信じていようと信じていまいが、すべてを受け入れるヘヴィ・メタル・コミュニティと呼ばれる場所で。ここでは誰もが歓迎されるんだ!」
メタル・ゴッド、Rob Halford のロックの殿堂入りスピーチです。Rob の言葉通り、ヘヴィ・メタルは抑圧された人たちの、孤独を感じる人たちの、社会から疎外された人たちの美しき、優しき逃避場所に違いありません。ただし、そうしてコンフォート・ゾーンにとどまるだけがメタルではないでしょう?ヘヴィ・メタルは進化し続ける音楽でもあります。冒険する音楽でもあります。
失敗を恐れて、快適さに呑まれて、MESHUGGAH がスラッシュ・メタルにとどまっていたら? ARCH ENEMY が女性ボーカルを起用しなかったとしたら?DEAFHEAVEN がピンクのアルバムを作らなかったとしたら? ZEAL & ARDOR が自分の出自に興味がなかったとしたら? きっと、メタルは今ほど色とりどりな世界ではなかったでしょう。
MEGADETH と David Mustaine が昨年証明した “ヘヴィ・メタルの回復力” は、もっと言えばメタルに宿った失敗をも抱擁してくれる寛容さです。そうやって失敗を重ねて、回復力を養って、前へと進んでいくこと。それはきっと、この暗くて、狭くて、息苦しい2020年代において、心の “ユースアネイジア” を防ぐ仄かな光なのです。

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2. FELLOWSHIP “The Saberlight Chronicles”

「僕たちにとってパワーメタルは、人々の気分を高揚させ、やる気を起こさせるのにとても有効な音楽なんだ。スピード感があって、エネルギーがあり、勇気や野心といったテーマも語れるから、世界に僕たちが望む変化を起こすには最適なジャンルだったんだよ」
皆さんはメタルに何を求めるでしょうか?驚速のカタルシス、重さの極限、麻薬のようなメロディー、華麗なテクニック、ファンタジックなストーリー…きっとそれは百人百様、十人十色、リスナーの数だけ理想のメタルが存在するに違いありません。
ただし、パンデミック、戦争、分断といった暗い20年代の始まりに、これまで以上にヘヴィ・メタルの “偉大な逃避場所” としての役割が注目され、必要とされているのはたしかです。MUSE を筆頭に、メタルへのリスペクトを口にする他ジャンルのアーティストも増えてきました。暗い現実から目をそらし、束の間のメタル・ファンタジーに没頭する。そうしてほんの一握りの勇気やモチベーションを得る。これだけ寛容で優しい “異世界” の音楽は、他に存在しないのですから。
「正直なところ、僕たちは自分たちが楽しめて、他の人たちが一番喜んでくれるような音楽を演奏しているだけなんだ。たしかに、パワーメタルには新しいサウンドを求める動きがあるんだけど、僕らの場合、曲作りは何よりもメロディが重要なんだ。結局、技術的なことって、ただミュージシャンとしての自分たちをプッシュしているだけの自己満足だからね」
特に、”逃避場所” として最適にも思えるファンタジックなパワーメタル。UK から彗星のごとく登場した FELLOWSHIP は1枚の EP と1枚のフルアルバムだけで、そのメタル世界の “モチベーター” としての地位を確固たるものとしました。2022年における、パワー・メタルとスラッシュ・メタルの華麗なる “回復劇”。それは、きっと時代に対するモチベーター、反発力としての役割を帯びているのでしょう。
そうして FELLOWSHIP は、このジャンルをただ無鉄砲に覆すのではなく、過去のパワー・メタルと現代のパワー・メタル最良の面を融合させ、未曾有の寛容で親しみのあるポジティブな波動を生み出しているのです。

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3. BLOODYWOOD “Rakshak”

「BLOODYWOOD の初日から俺たちは言っているんだが、メタルは楽しいものなんだ。いつも怒っている必要はないんだよ。よく、メタルは人生だと言われている。だから、喜んだり、悲しんだり、冷静になったりしてもいいんだよ。
俺らの曲が好きだという人からメッセージをもらったんだけど、そこには “でも、同性愛嫌悪や女性嫌悪に対するあなたの立場は?”って書いてあったんだ。俺はただ、”好きな人を好きになればいい” と言ったんだ。俺たちは、基本的にとてもオープンなんだよね。そういうメッセージを発信したいんだ」
BLOODYWOOD の広大な多様性の感覚は、”Rakshak” で完璧に捉えられています。ヒンディー語と英語の混じった歌詞、そして常に変化し続けるサウンドで、このバンドを特定することは非常に困難。彼らは亜大陸の民族音楽(といっても北部パンジャブ地方が中心)を使うだけでなく、メタルの様々な要素を取り込んでいるのですから。彼らの曲の多くには明確に Nu-metal のグルーヴが存在しますが、時にはスラッシュやウルトラ・ヘヴィなデスコアの攻撃をも持ち込みます。
「俺らを特定のジャンルに当てはめるのは難しいよ。曲ごとにサウンドが大きく変わるから、インドのフォーク・メタルというタグに固執するのは難しいんだ。ジャンルが多すぎて特定できないけど、インドのグルーヴと伝統的なインドの楽器、そしてもちろんヒップホップを取り入れたモダン・メタルというのが一番わかりやすいかな。ワイルドなアマルガムだよ。俺らは東洋と西洋の影響、その間のスイートスポットを探しているんだ。これは様々な香辛料を配合したマサラ・メタルなんだよ(笑)」
90年代、絶滅が近いとも思われたヘヴィ・メタル。しかし21世紀に入り、そのメタルの生命力、感染力、包容力が世界を圧倒し、拡大し、包み込んでいます。より良い世界へ近づくために。
様々なジャンルを飲み込み、あらゆる場所に進出し、どんな制約をも設けない。一見攻撃的でダークなヘヴィ・メタルに宿る優しさや寛容さが世界中、あらゆる場所のあらゆる人にとっての希望の光となっている。メタルには崇めるべき神も、虐げられる主人も、壁となる国境も存在しない。年齢や人種、宗教や信条を問わずすべての人々と分かち合える。そんな現代の理想郷をメタルは育んでいると、きっと多くの人が感じているはずです。
「より良い世界への希望を象徴する人々、そして信念を守ることを歌っているんだよ。対立する政治をなくすことでも、性的暴行をなくすことでも、腐敗したジャーナリストの責任を追及することでも。何でもいい。大事なのはその希望の感覚を守ることなんだ。俺たちは、プライベートでも仕事でも、より良い世界への希望を与えてくれる多くの人々に出会ってた。俺たちが音楽を作る理由のひとつは、音楽が変化の触媒になり得ると信じているからなんだ」

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4. LORNA SHORE “Pain Remains”

今、地球上で最も沸騰するエクストリーム・バンドの一つ LORNA SHORE は、意外にも、2010年の結成以来、この場所までにかなりの長い道のりを歩んできました。そんなバンドにとって、不運や困難、悲しみは決して遠い存在ではありません。むしろ、ずば抜けた “反発力” でマイナスをプラスにかえながら、ここまで進んできたのです。
「ネット上の憎悪が渦巻く中で、虐待疑惑の CJ と別れた瞬間、みんなのシナリオは “このバンドはもう終わりだ。このバンドはもうだめだ、最悪だ” だったからな。残されたメンバーの心に火がつき、世間が間違っていることを証明することになったんだ」
しかし、2020年に虐待疑惑が発覚してバンドを脱退した CJ McReery の後任として Will が加入して以来、LORNA SHORE のストリーミング配信数は爆発的な伸びを見せています。
LORNA SHORE の快進撃は、近年 “デスコアは死んだ” と嘯くリスナーを黙らせるに十分な衝撃、これまで以上にハードでヘヴィでパワフルな死の予感を叩きつけます。TikTokで Will Ramos の気の遠くなるようなピッグ・スクイールに何百万人もの人々が我を忘れて熱狂して以来、今では最大級の観客を召喚する、メタルの最も注目すべきバンドとなったのです。
LORNA SHORE に対する教育・医学的な関心も高まっています。
「実は僕の声帯が科学の本に載ることがわかったんだ。世界のどこかで、誰かが声の解剖学の授業を受け、そして僕の声帯を研究する。 いいね、僕は本の中にいるよ!」
1時間強のアルバムでこの獰猛な5人組は、その黒々とした魂の奥底から、地獄のサウンドを次から次へと引き出していきます。機械仕掛けのテクニックと抑えきれないカオスが交錯し、ブルータリズムの不協和音にリスナーは息つく暇もありません。ギターソロとパーカッションが頭蓋骨に風穴を開ける一方で、Will のボーカルは終始主役を張っています。彼の喉仏をカメラで撮影し、声帯を変形させながら呻き声や悲鳴を上げる映像は誰もが目にしたことがあるでしょうが、”Pain Remains” ではそれ以上に喉仏が酷使されているのです。痛みと悲しみのために。
「僕は多くのボーカリストとは全く異なるサウンドを持っている。たくさんの感情があるけれど、それは怒りに満ちた感情じゃないんだ。悲しいんだ。このジャンルではあまり感じないことだし、だから多くの人が僕らの新しいアルバムを気に入ってくれると思うんだ」

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5. GOSPEL “The Looser”

「僕はハードコアもプログもハイ・エナジーな音楽だと思うんだ。だから、プログをパンクのようにルーズに速く演奏したり、パンクをプログのように変則的なコードとスケールで演奏するのは理にかなっていると思う。それに、僕らには4人で演奏しているときにのみ機能する、非常に特殊な演奏スタイルがある。僕たちの楽器が僕たちの個性を反映しているようなものでね。GOSPEL とはこの4人が一緒に演奏しているときの音なんだ」
ダンボールに殴り書きされた “敗者” の文字は、彼ら自身のことなのでしょうか? 少なくとも、長い間待ちわびていたリスナーにとって、”The Loser” はすべての期待に応えた傑作であり、GOSPEL は再び勝者の地位へと返り咲いたにちがいありません。
「バンドが一度終わったのは、自分たちが燃え尽きてしまったからだよ。一生懸命やってもうまくいかなかった。当時のリスナーは今とは違って、このバンドを好きではなかったんだ。喧嘩も多かったし、ツアーやいつも一緒にいることにも疲れていたんだ。若い頃は問題を解決できるほど成熟していなかったし、みんな生活の安定を望んでいた。だから、一度バンドが終わると、また演奏できるようになるまで GOSPEL を振り返ることはなかったんだ」
敗者から勝者への見事な “回復”。”The Loser” はレトロスタイルのオルガンと薄暗い電子ピアノの爆音へ果敢に挑み、その幻想的な広がりとハードコアな獰猛との間でえもしれない緊張感を醸し出すことに成功しています。彼らのルーツである70年代のプログ・ロック は、CITY OF CATERPILLAR や CIRCLE TAKES THE SQUARE のようなポストロックを抱いたスクリーモが使用するパレットよりもさらに直接摂取するのが難しく、ひとつ間違えばピント外れでダサい音楽にもなりかねません。しかし17年前に私たちが目にした、知的に濁った陽気な騒動はかくも完璧に研磨され、洗練され、本来あるべき姿の完成品として届けられたのです。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=17750

6. SIGH “Shiki”

“Shiki” は SIGH の真骨頂であると同時に、新しい魅力を披露した作品でもあります。それはこのアルバムが、川嶋がこれまで制作してきたアルバムの中で最もパーソナルなものであり、これまでバンドのジャンルを超えた冒険心を刺激してきたファンタジックな衝動から、実存的な真実へと向かった作品でもあるからです。
「コンセプトはとてもシンプルだ。SIGH はずっと死をテーマにしてきたんだが、20代、30代の頃は、その死というものがホラー映画のようなファンタジーでしかなかったんだ。だけど、50歳を過ぎた今、残念ながら友人たちが亡くなり始めた。だから、死は私にとって厳しい現実となってきたんだよ。ゆえに、死に対する恐怖を、素直に、赤裸々に表現したかったんだ」
そのために川嶋は、死と同時に今まで挑んだことのない行為に向き合う必要がありました。それは、日本語だけで歌ったり、叫んだりすること。バンドは初期から日本語のフレーズやイメージ、テーマを使ってきましたが、ご承知の通り、これまで歌詞はほとんど英語だったのです。
「自分の気持ちを100%表現したいのに、英語で歌ってはダメだと思ったんだ。今回は母国語で歌うしかなかった」
そう今、日本のメタルは世界で沸騰しています。”Shiki” は海外各誌で大絶賛状態。今回の SIGH はアートワーク、歌詞、音楽、そのすべてが “和” を中心としたアルバムとなっていて、その世界観がこれまで以上にメタル世界で愛されているのです。日本語で歌い、和楽器を奏で、百人一首と怪談を諳んじる。海外の人にとって、そんな “日本らしさ” “伝統文化” が今ではヘヴィ・メタル最高の “スパイス” になっているのでしょう。
加えて、IMPERIAL CIRCUS DEAD DECADENCE, 明日の叙景、ZEMETH といったアートワーク、リリック、メロディー、世界観にモダンな日本らしさを加えたバンドも海外で非常に高く評価されています。ある者はアニメや同人に厨二心を、ある者は小説や映画を、ある者はV系の血統を、ある者は空気や叙景を個性の一つとして、自らの音楽やアトモスフィアに織り込み、現代日本を投影したメタルは、そのクオリティと相まって、憧れを伴って世界中の欲しがりなリスナーの心を捉え、好奇心をくすぐっているのでしょう。

https://note.com/marunouchimuzik/n/n70f03392e694

7. ABOUT US “About Us”

「インド北東部の丘陵地帯。そこに位置するナガランドには、誇り高きナガ族が住んでいる。過去には、両者の間に紛争があったけど、時代は変わりつつあるよ。和平プロセスは進行中で、正しい方向に向かっていると思う。誰もが平和と調和の中で暮らしたいと思っているんだから。インドは広大な国で、どの地域にも独自の宗教、伝統、文化、アイデンティティが存在する。つまり、インドの強さは “多様性の中の統一” なんだよ」
インドがヘヴィ・メタルやハードロックの新たなエルドラド、黄金郷であることはもはや疑う余地もありません。フジロックの活躍も記憶に新しい BLOODYWOOD を筆頭に、DYMBUR, KRYPTOS, DEMONIC RESURRECTION, SKYHARBOR, GRISH & THE CHRONICLES など、彼の地には才能溢れるバンドがひしめいています。
重要なのは、それぞれがそれぞれの個性を大切に羽ばたいていること。広大なインドの多様なアイデンティティーは、カラフルな万華鏡のごとく、そのままメタル世界にも投影されているのです。
一方で、どこかユニークで、絢爛で、大仰なスタイルやサウンドは彼らの共通項にも思えます。それこそが、ABOUT US 語るところの、”多様性の中の統一” なのかもしれません。そう、インド北東部、ナガランドに住むナガ族 ABOUT US は非常にインドらしくなく、そしてインドらしいバンドなのです。
「僕たちナガ族の社会は、腐敗や犯罪の多いインドとはまったく違うんだ。ナガ族は、家族が何よりも優先され、誰もが尊敬される緊密な社会なんだよ。男性、女性、老いも若きも、お互いに気を配って生きている。汚職や腐敗がまったくないわけではないけれど、ナガ族の社会は基本的に寛容な社会なのさ。そうして、僕たちはシンプルな人間に育ったから、さまざまな希望や夢、願いを持って生きていて、それが僕たちの歌詞にも反映されているわけだよ」
バンドの言葉を借りれば、謎に包まれ、文化や伝統を守りながら生きるナガ族。その暮らしは、エネルギッシュで活気に満ち、一方で犯罪や人権の蹂躙、汚職が蔓延る都市部のインドとは大きく異なります。自然と人の優しさに育まれた ABOUT US は、そうして夢や希望をのせた美しくも爽快なメロディック・ハードロックに行き着きました。
彼らのメッセージはシンプルです。”決してあきらめるな”。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18366

8. WORMROT “Hiss”

「グラインド・コアには様々な見方があると思うんだ。ただ、多くの人はグラインド・コアに対して厳格なガイドラインを持っていると思うんだけど、僕にはそのガイドラインがないんだよね。
僕にとってグラインド・コアはエクストリーム・ミュージックの中で最もフリーフォームなもの。僕は “タフガイ” や “怒れる音楽” という概念に挑戦しようとしているんだよ。グラインド・コアやメタルを聴くのに “タフガイ” である必要はないんだ。最大限のディストーションも必要ない。パンクのジャケットも必要ない。自由でいいんだ。でも、正直でなければならない。なぜなら、結局リスナーは “たわごと” を嗅ぎつけることができるから」
グラインド・コアは、新規に参入するバンドが注目を集めることが難しいジャンルかもしれません。すでに目的地に到達したと分析するリスナーも多く、基本的に同じような系統の、激しく楽しく怒れるバンドが何百と存在する場所。シンガポールの英雄 WORMROT は、そんなグラインド・コアのガイドラインを破壊し、ジャンルの “門番” たちを一掃しようとしています。
6年ぶりとなるアルバム “Hiss” は、バイオリニストの Myra Choo が暗闇で跳梁し、Arif の歌声は千変万化、ジャズやポスト・メタルの領域まで探求した、気高き創造性の塊。その裏には、メタルに古くから存在する “マッチョイズム” ひいては、保守的なステレオタイプに対する反抗が潜んでいたのです。
「今回、”Hiss” で梶芽衣子と “女囚サソリ:701号恨み節” にオマージュを捧げたのは、アルバムのテーマに合っていて意味があると思ったからだよ。日本の音楽は、Boris、324、Four Get Me A Nots、Casiopea、杏里、中森明菜などなど、いろいろ聴いているよ」
この音楽的な自由と拡散を “セルアウト” と断じることは簡単です。しかし、そもそも Rasyid には、日本の映画や音楽から受けた濃密な養分が備わっていました。BORIS, CASIOPEA, 中森明菜。そのどれもが実は、”Hiss” の重要なパズルの欠片。むしろ、原点に立ち返り “正直” になった Rasyid にとって、グラインド・コアとは真っ白なフリーフォームのキャンパスだったのでしょう。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18009

9. AN ABSTRACT ILLUSION “Woe”

「EDGE OF SANITY の “Crimson” からは大きな影響を受けた。もちろん、INSOMNIUM の “Winter’s Gate” からも影響を受けているよ」
1996年、スウェーデンの鬼才 EDGE OF SANITY が、40分1曲で構成されたアルバム “Crimson” をリリースしました。それは、アルバム全体を1曲で構成するというアイデア以上に、繰り返される説得力のあるテーマや作品の多様性が白眉で、エクストリーム・メタルという文脈において非常に特異なものに感じられたものです。
それから20年。同じスウェーデンの INSOMNIUM が同様に1曲のみの傑作 “Winter’s Gate” をリリースしました。彼らに共通するのは飽くなき知への探求と境界を押し広げる冒険心。幸運にも当時弊誌では、彼らにインタビューを行うことができました。
「アルバムには 90年代のスカンジナビアンメタルの雰囲気が多分に存在するね。僕たちが10代の頃に愛していたようなマテリアルだよ。EMPEROR, EDGE OF SANITY, DISSECTION, OPETH といったようなね」
スカンジナビアにはやはり、純黒で物憂げでプログレッシブな雪の結晶が眠っています。さらに5年以上が経過し、今度はスウェーデンの新鋭 AN ABSTRACT ILLUSION が、7つの章から成る60分1曲の壮大なエピック “Woe” で、メランコリックな美狂乱を披露します。
「今回は、AN ABSTRACT ILLUSION のよりアトモスフェリックなサウンドを追求したかった。今はそのスタイルがより心地よく感じられるようになり、だからこそ注目度も高まっているんだろう。ANATHEMA はもちろん、Brian Eno, HAMMOCK, Ólafur Arnalds からも影響を受けているんだ」
しかし、このアルバムが特別なのは、奇抜な方法論や、メタリックとメロディック、過激と難解、冷静とカタルシス、激情と友愛といった異なる要素をすべて対比させつつ使用していることだけではありません。それらはただはめ込むだけのパズルのピースではなく、さながら弧を描くように循環し、シームレスに、流れ込むよう注意深く織り込まれているのです。その画期的な手法は、大曲のまとまりのなさを解消するだけではなく、過去に彼らが比較されてきた OPETH や NE OBLIVISCARIS でさえ迷い込む “定型化” の迷宮からの脱出にも大きく寄与しています。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18303

10.STANDARDS “Fruit Town”

「僕も、今世界で起こっている出来事に対して、精神的に迷うことはあるんだ。だけど、それでも僕たちが一緒になって楽しめる音楽が世界に存在できるように、作り続けていこうという気持ちになるんだよ」
クロス・タップのギタリスト Marcos Mena のキュートで陽気なメロディーに導かれ、LAのデュオ STANDARDS は、情熱のリフと白熱のドラムスを緻密なインストゥルメンタル・マス・ロックのパレットへと描き出していきます。一見、無節操なパリピの音楽にも思える “Fruit Town”。しかし、そんな LA の太陽の裏側には、マスロックを明るい日差しのもとに連れ出したい、そして世界を覆うネガティヴをポジティブな日焼けで覆いたい、そんな想いが潜んでいるのです。
「このバンドは、本当にギターリフひとつとドラムに単純化できると思うんだ。ドラムの友人と一緒に演奏するときに、ギターリフだけをカバーしたのが始まりだったと思う。ベースやボーカルがいないと物足りない部分もあるんだけど、一方でギターとドラムのシンプルさを楽しむこともできる。最近は、曲の要素をどんどん増やしているんだけど、ギターとドラムが中心であることは変わりないよ」
インストゥルメンタルでプログレッシブであるにもかかわらず、このバンドのモットーは常にキャッチーで歌いやすくあるべし。そうして、リスナーをフルーツのマスコットが踊り狂う果物の街へと誘います。新鮮で多種多様な果実の味わいや匂いは、そのまま彼らのカラフルな個性につながっているのです。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18028

11. WHITE WARD “False Light”

ウクライナの実験的なブラックメタル集団 WHITE WARD は、6月に新譜 “False Light” をドロップしました。これはロシアがウクライナに侵攻してからちょうど4ヶ月目にあたります。4月にアルバムのリリースをアナウンスした際、彼らはこう語っていました。
「現在、ロシアの侵攻によりウクライナでは沢山の悲劇が起こっている。それでも、僕たちは新しいアルバムをリリースすることに決めたんだ。このアルバムが、より多くの人々をサポートし、ここウクライナでロシア軍が犯している犯罪をより効率的に広めるのに役立つだろう、そう信じてね。このソリッドな作品を完成させるのに2年以上かかったんだ。
そして、今、僕たちの国やその周りで起こっているすべてのことを受け止めながら、僕たちはこの作品を世界と共有することに決めた。僕たちは、音楽が困難な状況にある人々を助けると信じているから。音楽がどれほど強力な癒しの力を持っているかを知っているから。だから、もう待てないんだ。
この写真は、戦争が始まる数週間前に、僕らの友人 Sergii Kovalev によって撮られたもの。自然の写真家、ビデオグラファーである彼は、そうして今、僕たちの国で起こっている出来事を記録し、世界に示し始めている」
ロシアによるウクライナへの侵略は、昨年最も世界を震撼させたトピックでした。ヘヴィ・メタルはそんな状況下においても、決して白旗を掲げることはありません。戦時中という最もありえない場所で、WHITE WARD の芸術と創造性は生き残る道を見つけました。
「このアルバムは、戦争というトピックには触れていないけど、僕にとって非常に重要なもの。現代のウクライナの歴史に関連する多くの問題だけでなく、いくつかの深い内面の考察や経験をカバーしているからね…アルバムのコンセプトは、現代のウクライナの歴史の様々な出来事に基づいているんだ。だからこそ、祖国を覆う炎と破壊から生まれるウクライナ文化にリンクしているんだよ」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18388

12. VOIVOD “Synchro Anarchy” “Ultraman EP”

「今世界には、気候、戦争、政治など常に緊張感がある。日本はそれをよく理解しているはずなんだ。SF は時に僕たちが考えるよりも現実に近い。だからこそ、僕たちは皆、テレビの中のウルトラマンが勝利を収めることを望んでいたんだよね。そこに現実世界を重ねているから」
ピコン・ピコン・ピコン・ピコン…私たちは皆子供の頃、ウルトラマンの胸で輝くカラータイマーの点滅が加速するたび、スリルと心配で手に汗を握り、勝利を願いながらテレビにかじりついたものでしょう。もちろん、頭では “これは現実ではない” と理解していても、あの SF 怪奇大作戦に心がのめり込むのは “もしかすると現実でも起こり得る” そんな潜在的な不安と恐怖、そして共感をウルトラマンの巧みな設定やストーリー、そして音楽が掻きたてたから。そして、SF メタルの第一人者 VOIVOD は、今、この暗い時代にこそウルトラマンが必要だと誰よりも深く理解しているのです。
「僕たちは皆、ケベック州(カナダのフランス語圏)で翻訳されたフランス語版のウルトラマンを見て育ったんだ。オリジナル・シリーズ、音楽、怪獣、ベータ・カプセル…カラータイマーがどんどん早くなる時の緊張感…など、ウルトラマンはここケベックで知るものとは全く違っていて、新しい種類の冒険に心を開いてくれたんだよ」
なぜ今、VOIVOD がウルトラマンに着目し、テーマソングをカバーすることに決めたのか。理由は大きく二つ。一つは子供の頃からのヒーローだから。VOIVOD のメンバーはカナダ出身ですが、全員がフランス語圏のケベックで育ちました。日本の特撮やアニメの需要が高いフランス語圏において、彼らがウルトラマンやキャプテン・ハーロック、グレンダイザーをヒーローとして育ったことはある意味自然な成り行きでした。音楽産業がパンデミックや戦争で危機に瀕した時、ウルトラマンの登場を願うことも。
メンバーの中でも特に日本通、Dan “Chewy” Mongrain にとって、コロナ・ウィルスは怪獣に見えたのです。そして、ウルトラマンがその “怪獣コロナ” を一撃必殺のスペシューム光線で粉砕することを願いながら、ウルトラマンのテーマをアレンジしていったのです。そう、VOIVOD にとって光の戦士はまさに希望の象徴でした。
「一緒にメタルを歌おうよ! メタルは最もオープンなコミュニティーの一つだ。人はここに集まり、楽しみ、そしてつながっていく! 僕たちは皆、自分なりの方法で誰かのウルトラマンになろうと努力できるし、お互いに助け合うことができるんだよ!」

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18582

13. CRESTFALLEN DUSK “Crestfallen Dusk”

「このアルバムのテーマは、アメリカや南部の神話的な記憶の中にある遠い場所を呼び起こし、ブラックメタルとブルースの正当なクロスオーバーが可能だと思われる場所で、歌詞的にも視覚的にも両者を融合させるというものだった」
モダンメタルを多様性と定義し、メタルに備わった寛容さを追い求めてきた弊誌。サブジャンルと文化の掛け算によるメタルの細分化、そしてその可能性はまさに無限大です。ただし中には、その可能性を逆手に取ったセルアウトの野心が見え隠れすることも事実。それでもなお、いくつかの新しいバンドは、夜の丘に立つ灯台のように、宇宙に瞬く一等星のように光り輝いています。
「ヴィンテージ・ギターも使って、いつものメタルらしいギターサウンドを排除して、古くて埃っぽいけどむせ返るような風景を想起させ、僕のアイデアがまだしっかり自立しているかどうかを確認しようとしたんだ。ブラックメタルとブルースの対比を際立たせ、ユーモアたっぷりにするため、ギター以外は基本的にすべて歪ませたんだよね」
ブラックメタルとブラック・ミュージックを融合させた魅力的な音楽といえば、おそらく多くのリスナーが ZEAL & ARDOR を想像するはずです。ただし、ZEAL & ARDOR a.k.a. Manuel Gagneux の場合は、ブラックメタルと、アメリカ南部を中心としながらも黒人の音楽全般という幅広いコンセプトが先にありました。
CRESTFALLEN DUSK の Ryan Clackner の場合は、そもそも大学でアメリカ南部の音楽と歴史を研究し、出発点がブルース、ジャズ、アメリカ南部の古いカントリー/フォーク音楽にあります。よって、このバンドではまずあの山と森と砂と埃と酒と音楽のアメリカ南部、ミシシッピの悪魔を召喚しつつ、その場所にブラックメタルの狂気を加えていくことにしたのです。
つまり Ryan の言葉を借りれば、「このアルバムは、他のブラックメタル・プロジェクトに広く見られるカントリーやフォークの影響から離れ、ジュニア・キンブローやR.L.バーンサイドのような巨人の影響を受けた強いヒルカントリー・ブルースでブラックメタルを再創造しようとする試み。全てのリズムギターは1958 Fender Musicmaster で録音されている」
つまり、もっと狭い場所の音楽をとことんまで深く追求してブラックメタルで煮詰めた地域密着、ど田舎のどニッチなブラックメタルと言えるのです。

http://sin23ou.heavy.jp/?p=18132

14. ANARCHY “Sentience”

「僕ら二人は Anarchÿ の他にも音楽活動をしているけど、HeXeN, VOIVOD, VEKTOR のようなメロディックかつプログレッシブなバンドのように、本当に痒いところに手が届くスラッシュ・アーティストをほとんど見たことがないんだよ。だからこそ、僕たちはできるだけ多くの音楽、特にクラシック音楽からインスピレーションを得ることにしたんだ」
スラッシュ・メタルはヘヴィ・メタルの改革にほとんど最初に取り組んだジャンルかもしれません。しかしながら、ここ20年ほど、質の高いスラッシュ・バンドはそれほど多く現れていないのが実情でしょう。80年代半ばから90年代初頭にかけての素晴らしい作品は今でもその輝きを失うことはありません。しかし、2020年代においても、絶賛されるスラッシュ作品のほとんどがあの時代のカルト・ヒーローという現状は決して健康的とは言えないはずです。
弊誌でも、今年取り上げたスラッシュ・バンドは VOIVOD, BLIND ILLUSION, TOXIK などあの時代の英雄ばかり。VEKTOR の偉業はむしろ青天の霹靂でした。では、スラッシュ・メタルを牽引する若い力はもう顕現することはないのでしょうか?
「音楽的に何も新しいものをもたらさない新たなスラッシュ・バンドは本当にたくさんいる。僕はどんな種類のスラッシュも好きだからそれはそれでいいんだけど、今後、もっとユニークなものを作る努力をしてほしいと願うばかりだよ。つまりね、SLAYER は素晴らしいけど、これ以上 SLAYER のクローンは全く必要ないんだ」
心配は無用。スラッシュ・メタルの無政府主義者 Anarchÿ がいます。セントルイスを拠点とするボーカルとマルチ奏者の2人組。彼らのデビューフル “Sentïence” はプログレッシブ・スラッシュの痒いところに手が届く意外性と独自性の塊。アートワークやてんこ盛りのウムラウトも、このジャンルが百花繚乱だった頃を思い起こさせる素晴らしい出来栄え。ジャンルの垣根を取り払い、様々な音楽的影響を融合させたこのアルバムは、スラッシュやメタルを基盤としながらその堅苦しい建物の外に出て、人間の経験や謎めいたテーマに触れながら、神秘的なリスニング体験を届けてくれます。

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15. AZURE “Of Brine and Angel’s Beaks”

「IRON MAIDEN と GENESIS を聴いて育ったから、プログレッシブ・ミュージックがすぐに好きになり、ギタリストの Galen Stapley と出会う頃には、キャッチーなコーラスがたくさん入ったクレイジーでハイエナジーなプログを作る準備がお互いに整っていたんだよね」
プログレッシブ・メタルは、興味深い二面性を持っています。その血統からサウンドもテーマもダークであることが要求され、荒々しく、千変万化の野獣を召喚していく一方で、かつてプログの巨人たちが纏っていた光、希望、平和、喜びのファンタジーをも当然しなやかに受け継いでいます。この二面性を今、最も巧みに表現するのが、昨年の英 Prog Magazine 読者投票で最優秀 “未契約” バンドの座を勝ち取った英国の蒼、AZURE です。
「自分たちを “アドベンチャー・ロック”、”アート・ロック”、”ファンタジー・プログ” と呼ぶこともあるし、友人たちからは “フェアリー・プログ” と呼ばれることもある。これらのレッテルは全て良い感じだよ! 僕たちは冒険に行くための音楽を作っていて、そこにはたくさんの魔法が関わっているし、それでも現代的で個人的なものもあるんだよね」
Steve Vai や John Petrucci も真っ青の驚嘆のギター・ワーク、Bruce Dickinson と Claudio Sanchez の中道を行く表情豊かなボーカル、そして大量のポップなメロディーと豊かなシンセが組み合わされ、彼らの冒険的で幻想的なプログ・メタルは完成します。冒険に付き物の闘い、呪い、毒殺など、時に暗い物語、ダークなトーンを扱っているにもかかわらず、彼らの音楽には、ドラマと芝居が重なるブライトで煌めくような個性が宿っています。そして、その二面性は彼らにとって “プログ” の定義である多様性、音の正十二面体によって構成されているのです。
「僕たちは “プログ” を、IRON MAIDEN のドラマチックなファンタジーの物語とギター・ハーモニーであろうと、Steve Vai のそそり立つシュレッドのメロディであろうと、The 1975 の甘く弾けるエネルギーでさえ、何でも起こりうるジャンルとして捉えているんだよね」

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16. CAVE IN “Heavy Pendulum”

「Caleb が命を吹き込んだ曲を演奏することで、この2つのバンド (CAVE IN と OMG) 全員が彼の思い出を一緒に祝うことができて、とても感慨深いものがあったんだ。そして、あのイベントを企画し、参加してくれたすべての人々から受けたサポートは、とても心地よく、僕たちが創造性を前進させ続けるべき理由を思い出させてくれたんだよね」
マサチューセッツのヘヴィ・ロック・カルテット CAVE IN は、度重なる活動休止、ラインナップの変更、そして長年ボーカル/ベースを務めた Caleb Scofield の急逝など、重く苦しい経験と戦い続けてきました。Caleb の死をきっかけにリリースされ、彼がバンドのため最後に尽力した2019年の “Final Transmission” がそれでもバンドのほろ苦いスワンソングとならなかったのは、CAVE IN が養ってきた強さと共に、世界が彼らを求め、喪失の苦しみを共有し、サポートしたからに他なりません。
「”Heavy Pendulum” の制作では、20年代の暗い世界を尋常ないほど意識していたんだ。このアルバムのタイトルには、そうした苦難を乗り越えるために時間をどう使うかを決める、そんな意味もあるんだろうね。人生における物事の重みが増せば増すほど、振り子の揺れは重くなるのだから」
“重い振り子” と名付けられたアルバムには、苦闘と革新を続けてきた CAVE IN の折れない心、粘り強い才能が見事に投影されています。人生は振り子のようだ。良い時もあれば、悪い時もある。多くのトラウマに耐えた後、これほどの傑作で “幸福” に振り戻すことは決して容易ではないでしょう。巨大なリフとアンプを最大限活用した純粋なヘヴィ・ロックは、優雅と複雑のサブリミナル効果を活用しながら、悲しみと喪失があふれる世界に一筋の光を投げかけます。
「このレコードでは、2017年、 “Final Transmission” となった作品のスタート時に、Caleb が僕たちに勧めたビジョンを完全に具体化したかったんだ。だからある意味、借りを返すというか、約束を果たす意思こそがバンドが今回、より高いレベルに昇りたいと思う原動力となったんだ」

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17. LORDS OF THE TRIDENT “The Offering”

「パワー・メタルのジャンルやコミュニティーをバンドや人々にとってポジティブな場所にすることができれば、人と人とのつながりが生まれ、友情が生まれ、最近の暗い時代と戦うことができるのではないかと思うからね。僕が日本でホストファミリーと過ごした短い時間のように、誰かの人生を良い方向に変えるのに、それほど多くの時間は必要ないんだよ。ほんの少しの優しさが、完全に世界を変えるんだ!」
茨城県阿見町。霞ヶ浦を抱く人口4万5000の小さな町の優しさが、遂には北米のパワー・メタル世界を大きな愛で一つにしようとしています。
「実は高校生のとき、茨城県阿見町の家庭でホームステイをしたことがあるんだ。日本に渡り、素晴らしい人たちと一緒に過ごしたことが僕の人生を変えたんだ。彼らはあまり英語を話せないから、日本語でお礼と日本での体験がいかに重要だったかを伝えたいと思った。それで、大学に進学して、3つの専攻のうちの1つを日本語にしたんだ。
日本語の授業でアキ(日本人のハーフだけどアメリカで育ったから言葉は通じない)と出会い、一緒にバンドを結成したよ。また、妻ともその日本語の授業で出会ったんだ。ホストファミリーと過ごした短い時間、そしてホストファミリーのアメリカ人の高校生に対する優しさが、僕の人生を完全に変えてくれたんだ。彼らのおかげで、僕は今ここにいるんだよ」
米国ウィスコンシン州のスーペリア市と姉妹都市である阿見町。その縁もあって、高校生の Fang VonWrathenstein A.K.A. Ty Chritsian はホームステイで阿見町にやってきました。日本の田舎町で受けた歓待、そしてどこの馬の骨かもわからぬ自分に向けられた家族のような温かい優しさは、Ty の人生を完全に変えました。RIP SLYME や GLAY を発見し、日本語を学び、日本語の授業で妻やバンドの盟友 Aki Shimada と出会い、日本のゲームやアニメ、コスプレと共鳴するメタル・バンド LORDS OF THE TRIDENT を結成。日本の優しさから生まれた日本への愛情は、そうしていつしか北米のパワー・メタル世界を優しさで一つにしていきます。

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18. KARDASHEV “Liminal Rites”

「基本的に僕たちは、ブラックメタルよりもデスメタルやデスコアの要素が強いと思っている。例えば、歌メロにしても、メタルコアとは明らかに違うからね。それに、アトモスフェリックな要素もあるけど、アトモスフェリックなブラックメタルとは違っている。最終的に、少なくとも僕にとって KARDASHEV は、デスメタルのリフやドラムワークとシューゲイザーのカスケード・リバーブを組み合わせたものだと判断し、”Deathgaze” “デスゲイズ” と呼ぶことにしたんだ」
KARDASHEV は、デスメタルとシューゲイザーの婚姻を祝いつつ、様々なフレーバーの独特なコンビネーションを生み出し、リリースごとに革命的な進化を遂げてきました。その名に仰ぐガルダシェフ・スケールでいえば、さながらメタルのタイプⅢ、銀河文明と言えるでしょうか。セカンド・フル “Liminal Rite” で彼らは、メタルの境界線をさらに押し広げ、極端にヘヴィでありながら、繊細で壊れやすい、不可能にも思える二律背反の音楽でとめどない感情の頂きに至ったのです。
「ナレーションには、リスナーが実際に向かい合う現実の認知症の人物とストーリーをつなぐ役割を果たし、アルバムを抽象的ではなく、より現実的なものにする役割があるんだよ。若い人たちは、祖父母、叔父、叔母、親など、身近な人の認知機能が衰えていくのを必ず目にするはずで、その瞬間をアルバムに収めたいと思った」
KARDASHEV は、”デスゲイズ” という独創的なジャンルの創始者であるだけでなく、歌詞の面でもヘヴィ・メタルの常識を覆します。その高齢化とは裏腹に、これまで多くのメタル戦士が避けて通ってきた “加齢” “認知症” という重さの種類が異なるテーマを、KARDASHEV は深々と掘り下げているのです。

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19. MESSA “Close”

「私はジャズやブルース、そして70年代のロックが好きなんだよね。それが私の主なバックグラウンド。もちろん、MESSA ではこれらの要素はすべてコントラストとして、あるいは私たちが自由に使える音のパレットを広げるための方法として使っているんだ。対比は、私たちの音楽にとってとても重要なことだから」
モダン・メタル世界に育まれる金の卵は途切れることがありません。その並外れた生命力と感染力によって、世界中どんな場所からも多様な才能は産声をあげ続けています。
ポスト・メタル、プログ・メタル、ドゥーム、ジャズ、クラシック・ロックが地中海を駆け巡る MESSA も、メタル以上にプログレッシブ・ロックで名を馳せたイタリアからの意外な天啓です。彼らの登場で、メタルにおけるエレガンスと力強さは対極にあるのではなく、真に両立するものだという仮説がついに証明されたのです。
「私たちがナクのことを知ったのは、E・M・シュッツが撮影した1930年代の写真を見つけたのがきっかけだった。その写真から、私たちが “Close” で表現したい気持ちが強く伝わってきたから、あの写真をアルバムのジャケットにすることにしたの。このダンスはとても魅力的で、強烈で、一目惚れしたのよね。”Pilgrim” のビデオにナクのパフォーマンスを入れるのも自然な流れだったわ」
一際目をひくアートワーク。アルジェリア/チュニジアの女性が踊る躍動感あふれる伝統的なダンス “ナク” の写真は、自らを “地中海人” と名乗る MESSA にとって素晴らしい名刺代わりとなりました。芸術は世界中の誰もが自身の受け止め方で等しく鑑賞でき、等しく制作できるべき聖域。私たちは思うよりも “近い” 存在だから。
そんな想いが込められたアルバム “Close” には、彼らの基盤であるヨーロッパだけでなく、アフリカ、アラブ、地中海を囲むすべての地域のアートが “壁” を超えて見事に落とし込まれているのです。

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20. RIPPED TO SHREDS/ HOUKAGO GRIND TIME “JUBIAN”

「僕は、自分が感情移入できないもので芸術を作るのは好きではないんだよ。だから、音楽を作るときは、特に作詞作曲や映像のデザインをする場合はいつでも、自分が情熱を傾けられるような題材でなければならないんだ。僕は音楽を通してアニメへの愛を表現したいし、教養のあるリスナーには僕が萌えアニメとゴア・グラインドを等しく愛していることが分かると思う」
愛するものを、自らのアイデンティティを、自然に自由にアートへと昇華する。言うは易く行うは難し。特に、音楽が金銭と直結しにくくなった現代において、理想のハードルは以前よりも高くそびえ立っています。
しかし結局は、案ずるより産むが易し。台湾からアメリカに移住したアジア系アメリカ人の Andrew Lee は、HOUKAGO GRIND TIME ではアニメに対する愛と情熱を、RIPPED TO SHREDS では自らの出自である中国/台湾のアイデンティティで “自らの声” を織り込み、二足のわらじで “嘘のない” アートを実現しています。
「エンターテイメントとは、そのエンターテイメントが市場の需要に応えるという意味で、それを生み出す社会の反映なんだ。エンターテイメントが社会から排除された人たちにオアシスを提供するのは良いことだけど、だからそのエンターテイメント自身が資本主義によって作られた “製品” に過ぎないように感じることがよくあるんだよね」
もしアニメ “けいおん!” の放課後ティータイムがグラインド・コアをやっていたら…そんな荒唐無稽を想像させるような夢のある地獄のグラインドコアが HOUKAGO GRIND TIME。グラインドコアもアニメの世界の一角も、荒唐無稽で大げさでそこそこに不真面目であるべきで、だからこそ、その両者を併せ持った HOUKAGO GRIND TIME の音には説得力が二倍となって宿ります。
さらに言えば、メタルもアニメも社会から時に抑圧され、時に無視される “オタク” にとっての拠り所、逃避場所、心のオアシスで、その両者を併せ持つ HOUKAGO GRIND TIME の寛容さももちろん二倍。重要なのは、Andrew の精神や目的が資本主義の欺瞞から最も遠く離れた場所にあることでしょう。ゆえに、ここには逃げられる、心を許せる、心底楽しめる。

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21. ELEPHANT GYM “Dreams”

「台湾人として、私たちは毎日恐怖の中で生活している。恐怖は私たちの潜在意識に溶け込んでいるんだ。時には、日常生活を送るために、私たちの意識はそうした恐怖を忘れて、否定しなければならないこともあるくらいにね。戦争が起これば、私たちは戦場に行かなければならないんだ。だから、銃ではなく、楽器を持っていることが幸せなんだよ。憎しみではなく、愛を表現していることを幸運に思うんだよ」
2012年に “マスロック” に対する至上の愛を共有し結成された Elephant Gym。2年後にリリースしたファーストアルバム “Angle” で彼らは、”数学のロック” に共通する複雑な拍子記号やテクニカルな演奏によって、幾何学的な音楽のタワーを見事に構築しました。もちろん、10年の時を経た今でもそうした無機的な音の伏魔殿は彼らの一部として存在をしていますが、より柔軟に世界を広げた台湾のトリオは、音楽という方程式に対する解法をいくつも手に入れたようです。憎しみではなく、愛を表現するために。
「”夢” は、Elephant Gym にとって “音楽のインスピレーションはどこから来るのか” という問いに対する答えなの。眠りについた後、脳は今までに経験したすべてのことをバラバラにして、非常に変わった方法で混ぜ合わせ、再編成するの。これは実は、音楽を作るプロセスと非常によく似ていてね。過去に記憶した音を独自の方法で現在に再編成し、一つ一つが特別な夢であるのと同じように、それぞれの特別な曲となっていくから」
Elephant Gym にとって “夢” とは、現実に溶け込む恐怖からの退避場所であり、音楽のインスピレーションの源であり、マスロックという狭い檻から超越するための手段でもあります。冷淡で機械的とも捉えられかねない理系のロックに、夢見がちでエモーショナルなポストロックの文学性を注ぎ込んだ彼らは、ロックの力強さも、ジャズの知性も、クラシックの優美もすべてをパズルのピースとして使用し、最新作 “Dreams” で想像力や表現力の境界を越えたのです。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ELEPHANT GYM : DREAMS】

22. SAIDAN “Onryo Ⅱ”

「当初はバンド名に、宗教的な意味合いから英語の “Altar” (祭壇) を使おうと考えていたんだ。でも、その名前を使ったバンドはすでにたくさんあるし、日本をテーマにしたものを書き始めていたから、”Saidan” の方がしっくりくるかなと思ったんだよね」
ナッシュビルから登場した USBM の雄、SAIDAN のメンバー Saidan と Shadosai は、日本文化への大きな愛と興味を持ち続けています。例えば、TRIVIUM の Matt Heafy がそうであるように、日本の神話、芸術、大衆文化において恐怖の概念がどのように表現され、それがいかに西洋の手法、恐怖と異なるのかに彼らもまた着目しているのです。
もちろんこれまでも、日本のフォルクローレ、その表層をテーマとした海外のバンドは少なからず存在しました。しかし、Matt の IBARAKI や アルゼンチンの IER、そして SAIDAN のように、日本の民俗的伝承や日常の深層までふみこんで音に委ねるアーティストが近年増えています。これぞメタル好奇心の生命力と感染力のたまもの。
「アメリカはかつて、日本の有名なホラー映画をリメイクすることに執着していたよね。でも、僕にとってそれは決して怖いものではなかったんだ。だから、日本のホラーを際立たせ、より怖くしているのは、おそらく僕たちを取り巻く環境と文化の違いだと思うんだ」
人間が持つ恐怖の感情は、おそらくその対象が未知のものであればあるほど増大する。そういった意味からも、およそ恐怖や狂気、死を描くブラックメタルのテーマとして西洋には馴染みの薄い日本の怪談を選ぶことはなるほど、理にかなっています。ただし、興味深いことに SAIDAN は、精神疾患や社会病質といった見えざる恐怖を引き起こす日本の悪霊、幽霊、妖怪、呪いと西洋の魔女を恐怖のスープでコトコトと煮込んで混交させているのです。
「BALZAC, LOUDNESS, DOG inThe PWO, X Japan、ANTHEM, 神聖かまってちゃんといったバンドにね。そして、Mrs.GREEN APPLE、DISH//、PassCode、Dizzy Sunfist、YOASOBI みたいな新しいグループにも影響を受けている。その他にもたくさんの日本のアーティストが、僕の作品作りに大きな影響を与えてくれているよ」
驚くべきことに、SAIDAN の異文化交流は恐怖だけではありません。まさに日本との架け橋となるべく、彼らは日本のロックやポップス、メタルからの影響まで大胆に料理して、鍋の中へと放り込みました。それはさながら恐怖を際立たせるためのイヤー・キャンディー。それとも生への渇望でしょうか。”Onryo” のサウンドや構成はブラックメタルであるにもかかわらず、生き生きとした、喜びさえ感じさせる多幸感のスパイスが用意されているのです。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SAIDAN : ONRYO Ⅱ: HER SPIRIT ETERNAL】

23. BLACKBRAID “Blackbraid I”

「自然に対する尊敬の念は、僕の人生の中で大きな部分を占めている。だからそれは、僕の音楽にも大きく反映されているよ。僕は自然を敬い、神聖な方法で人生を送れるよう最善を尽くしているんだ。 BLACKBRAID は、日常的に自然を体験する機会に恵まれていない人々に、自然からのメッセージや体験を届ける手助けをする方法なんだよね」
近年、ブラックメタルに携わる者は皆、自身の中から湧き出るテーマや意図を持っているように思えます。反差別、反暴力、反ファシズム。
このジャンルを築いたいくつかのバンドが持っていた右翼的で人種差別的なニュアンスを考えれば、それはまさしく革命的な変化であると言えるでしょう。ただし、BLACKBRAID はそういった新しい波とも少し距離を置いているように見えます。首謀者 Sgah’gahsowah はただ、自身のブラックメタルを聴いて、外に出て、自然と対話してほしいと願っているのです。
「そう、僕はネイティブ・アメリカンだよ。人生の大半をニューヨーク州北部に住んで過ごしてきた。若いころは少し引っ越しもしたけど、長い間この地域、アディロンダックに住んでいるんだ」
Sgah’gahsowah のあり方は、今日の世界に蔓延する絶対悪や政治を無視していると主張する人もいるかもしれませんが、地球の状態や気候問題を見れば、もっとシンプルに、自然の中に身を置いてみることの重要性が伝わるはずです。人生の大半を大自然の中で過ごし、日焼けをし、狩り、釣り、剥製など、スピリチュアルで伝統的な生き方を貫く Sgah’gahsowah。
窓の外には3万エーカーの山々が広がり、今は人里離れた場所で24時間365日自然とつながる彼はただ、ハイキングをしたり、山を見たり、小川で泳いだりすることを知らない人々に、音楽を通してそれを伝えたいだけなのです。大都会の高級ブランドならいくつでも名前を挙げられる人が、鳥の名前や魚の名前は一つも挙げることが出来ない。それは果たして “自然” なのか?Sgah’gahsowah はそんな現実を憂い、自分の見ている世界を音楽によって見せたいのです。そこから、何かが変わるかもしれないと仄かな期待を寄せながら。
「僕たちの祖先は、ヘヴィ・メタルが存在する何千年も前からこの方法で顔にペイントしてきたんだよ。だからこそ、僕たちはメタルをやる時に、先祖と同じように顔にペイントを施すことが誇りなんだ。フルートや他の先住民の楽器を使うときも同じで、こうした伝統を自分のブラックメタルに取り入れることができるのは名誉なことなんだ」

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BLACKBRAID : BLACKBRAID I】

24. Fire-Toolz “I Will Not Use The Body’s Eyse”

「私は自分の音楽を、天使と悪魔の融合とは思っていない。私にとってはすべて天使的なものなんだ。悪魔的なものは、私自身の悪魔について論じるときに題材として登場するだけでね。意図的にダークな音楽を作ろうとはしていないんだ。ダークな音楽は好きだけど、私にとって自分の音楽は虹のように聞こえるだけ。時にはギザギザに突き刺さるような虹もあるんだけど、それでも虹なんだよ」
ご存知の通り、ヘヴィ・ミュージックが無味乾燥で一義的な場所であるというのは、完全なる誤解です。とはいえ、殺風景で無彩色なスタイルの持ち主がたしかに多いのも事実。しかし、そういったアーティストと同じくらい、ヘヴィ・ミュージックを色鮮やかなアートの爆発として扱う人たちも同様に多いのです。シカゴの Fire-Toolz は、ヘヴィネスに宿る無限の色彩を提案するインターネットの虹。Fire-Toolz A.KA. Angel Marcloid は、プログレッシブ、ブラックメタル、ジャズ・フュージョン、インダストリアル、AOR, グラインドコア、さらには日本のシティー・ポップの要素までスリリングなプロキシを通して屈折させ、スタイルの境界を創造のピクセルで消してしまうのです。
「どんなジャンルの音楽にも、男っぽいとか、女っぽいとか、固有のジェンダー・アイデンティティや表現があるとは思えないよ。ここアメリカの私たちにしても、他の文化にしても、そうした関連付けや決めつけをしてしまうのは残念なことだよ。ただ、私はそうしたレッテル貼りが一般的であることも理解しているんだ。私がそんな風に物事を見たことがないたけでね。境界が曖昧になることは、ほとんどの場合、良いことだと思うんだ。制限を取り払い、規範を解体し、自由を活用することは、とても重要なことだから」
ここ数十年にわたるポスト・モダニズム思想の定着は、ステレオタイプを曖昧で不安定なものとし、ジャンルや形式といった制約を過去の遺物と見なす新しい文化を精製しました。Fire-Toolz の最新作、”I will not use the body’s eyes today” は、この新世界の芸術的アプローチをある意味で体現しているのです。その主眼は、音楽の “脱構築” にあります。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRE-TOOLZ : I WILL NOT USE THE BODY’S EYES TODAY】

25. POLYPHIA “Remember That You Will Die”

「中学2年生の時にマリファナを吸い始めた。それが僕の人生の中で大きな意味を持つようになったんだ。テキサスに住んでいたから麻薬所持で逮捕されたけど、それが僕のキャリアに火をつけたようなもの。僕は保護観察中で、1年間、学校に行って、家に帰るだけだったんだ。人を呼ぶことも、友達の家に行くことも許されなかった。それで、ギターを本当に、本当に、本当に上手になろうと思ったんだ」
16歳になった POLYPHIA の Tim Henson は薬物所持で2度、法に触れてしまいました。テキサス州のように薬物犯罪が特に重く処罰される州では、尚更居場所を失います。今、28歳の Tim は、「毎日マリファナを吸える仕事に就いたんだ」と皮肉を込めて話します。「でも、”言霊” ってあるんだよね。小学校6年生のとき、”僕は Tim Hendrix。大きくなってロックスターになるんだ” って、みんなに宣言して、本当にそう思っていたんだ。だからね、意識の顕在化、決意表明。その力が本当に重要だと思うんだよ」
麻薬所持の罪で、Tim は保護観察や外出禁止処分となり、一人でいることが多くなりました。しかし、その時間をすべて使ってギターの練習を続け、貪欲に最高のミュージシャンを目指したのです。中国からの移民である母親は、息子がアメリカで得られるチャンスを最大限に生かすことを決意します。3歳のときから Tim はヴァイオリンのレッスンを受け始め、幼少期に長時間の練習に対する耐性を養いました。間違うと先生に弓で手を叩かれることもあり、決して楽しいものではありませんでしたが、彼はこの経験に感謝しています。
「多くの移民が、アメリカはチャンスの国だと考えている。だから、若いうちから何かを始めさせる親が多いんだ。乱暴な先生で、当時はかなり嫌だったけど、今思えばおかげで規律を学べたし、集中し、鍛錬し、練習することで、何事も上手になることを理解できたんだ」

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26. JUDICATOR “The Majesty of Decay”

「個人的には、パワー・メタルとフォーク・メタルが遂に米国内で人気を博しているという事実に興奮しているよ! そして嬉しいことに、僕がこの素晴らしいジャンルのファンになったきっかけは、アメリカのパワーメタル・バンド NOVAREIGN だったことを君に伝えられる」
SAVATAGE, MANOWAR, ARMORED SAINT。パワー・メタルの黎明を彩ったエピックの巨人を擁しながら、90年代以降、北米大陸にパワー・メタルやフォーク・メタルのファンタジーと追憶が本格的に根付くことはありませんでした。それは、伝統の欠如が理由でしょうか? それとも、革新的で現実的で合理的な国民性? もしくは、多民族ゆえの多様性によるもの? しかし、そんな疑念を払拭するかのように、近年の北米はパワー・メタルの一大拠点へと変貌を遂げました。先日、日本ツアーを盛況のうちに終えた LORDS OF THE TRIDENT, カナダの一撃 UNLEASH THE ARCHERS, 激烈な SEVEN KINGDOMS など血湧き肉躍る無敵のメタル・ファンタジーは今、北米にあります。そして、その魔方陣の重要な一角を成すのが JUDICATOR。
「もし僕が彼らの作品から1枚だけ選ぶとしたら、2003年のアルバム “Live” だね。あのアルバムを聴きながら、いつも自分がステージに立つこと、あるいは BLIND GUARDIAN のコンサートに参加することを空想していたからね。ミキシングがとても良く、演奏も素晴らしく、アルバムの曲も多彩なんだよね」
BLIND GUARDIAN のコンサートで運命的に結成された JUDICATOR は、彼らの描く物語や音景への憧れを曝け出しながらも、決してトリビュート・バンドの役割を買って出ることはありません。これは LORDS OF THE TRIDENT にも言えますが、JUDICATOR はアメリカン・サウンドとヨーロッパ・サウンド、そのどちらかに寄ることなく巧みに融合させ、さらにプログレッシブやエクストリームな要素を加えた新たなパワーメタルの挑戦者となってきました。そして今回の “The Majesty Of Decay” で彼らが操るパワー・メタルの純粋な船は、プログレッシブな風を一層その帆に受けながら、未知の世界へ嬉々として疾走していきます。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【JUDICATOR : THE MAJESTY OF DECAY】

27. SUMERLANDS “Dreamkiller”

Arthur Rizk はモダン・メタルの秘密兵器でしょう。もし彼の名前を知らなくても、メタルヘッズなら彼の仕事は必ず知っているはずです。2006年以来、プロデューサー、ソングライター、エンジニア、マルチ奏者として300を超える実績を誇る Arthur のキャリアは、ダラス生まれのニューカマー POWER TRIP のデビューフル “Manifest Decimation” を2013年に手がけたことで飛躍的な成長を遂げました。SOULFLY, KREATOR, CAVALERA CONSPIRACY, CRO-MAGS, SACRED REICH, CODE ORANGE, PRIMITIVE MAN, TURNSTILE, SHOW ME THE BODY といったバンドは、Arthur 独特の専門知識から恩恵を受けていますが、これは表面上の話に過ぎません。最近では、ジャンルを超えたラッパー、ソングライター Ghostemane のメジャー・デビュー作を手がけ、90年代のヒップホップへの愛を全開にしたのですから。
「ETERNAL CHAMPION と SUMMERLANDS では、ほとんどメタル以外のものからしか影響を受けていない。僕が本当に好きなのはメロディックなものばかりなんだ。THE EAGLES, Lionel Richie, TANGERINE DREAM といったムードのね。もっとメロディックなものが僕の曲作りのスイッチになるし、そこから何かアイデアを得て、それをメタルとして書くだけなんだ、基本的にね。僕の作品はすべて、メタル以外のものから影響を受けている」

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SUMERLANDS : DREAMKILLER】

28. DREAM UNENDING “Song of Salvation”

「僕たちはドゥームのもっとゴシックな側面、例えば THE GATHERING のようなバンドがとても好きなんだ。彼らも ANATHEMA のようにサウンドを進化させ続け、プログや PINK FLOYD のような領域に踏み込んでいったバンドなんだ。だから、このアルバムではクリーン・シンガーが何人か加わって、そういう部分を強調することができた。僕は成長を見るのが好きなんだ。フランク・ザッパが好きなら、その人はいろいろなテイストの音楽をたくさん聴くことができる。でも、フランク・ザッパが半分しか作品を出さなかったら?僕はアーティストの旅路を見るのが好きなんだよ。
メッセージやフィーリングを伝えるには、クリーン・ボーカルの方がずっと簡単なんだよ。スポークンワードのパートを使うのも同じで、より感情的なトーンを設定することができる。その点では、僕たちはより良い作品を作ることができたと思うな。”Tides” の出来が悪かったというわけではなくて、もっとコントロールできた気がしたんだ。
もうひとつ、僕らがよく話すバンドで、DREAM UNENDING の精神的なコンパスが KINGS Xなんだ。僕たちは彼らのようにクリスチャンではないけれど、彼らが話していることの多くは、”ある曲を聴くとその曲を聴く前よりも100倍も気分が良くなる” というもの。音楽にそんな力があるなんて驚きだよね。僕は音楽が高揚感をもたらすという考え方が好きで、それが DREAM UNENDING の方向性を決めるのに役立っていると思うんだ。ドゥームというジャンルは、特に最近は気分を悪くさせるように作られているから不思議なんだけど、僕たちは “それもいいけど、ちょっと違う方向にも行ってみようかな” と思っているんだ。
だからこのアルバムを作っている間は、あまりドゥーム・メタルを聴いていなかったと思う。ドゥーム・メタルの中で唯一聴いたのは ANATHEMA の “Silent Enigma” だと思うけど、それよりも “Alternative 4” と “Judgement” を聴いていたね。ESOTERIC よりも Bruce Hornsby を聴いていたかもしれない」
DREAM UNENDING の “高揚感” はより深く、よりスピリチュアルな側面を見出していきます。
「自分を大いなる力に委ねる必要はなく、もっと自分の中にあるもの、自己発見、自己改善という考え方に基づいたスピリチュアルな側面がこのバンドにはあると思う。人によっては、より良い人間になるための道として、宗教的な経験や啓示を得ることがあるかもしれないし、僕はそういったものをとても興味深く感じている。僕の周りには信仰を持つ人がいて、人生全般について話をするのが好きだし、彼らの視点が好きなんだ。
アルバム “Song of Salvation” は、自分自身を見つめて、”何かを変えなければならないのなら、変えるのは自分でなければならない” “何かを追い求めて自分を向上させなければならないことを受け入れる” 、そんな作品だと思う。それはとても重要なことで、僕たちはなかなか口にできないけど、大切なことなんだ」

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29. GHOST “Impera”

「再建のためには破壊しなければならないが、だからといってすべてを砂利に均してしまう必要はない」
闇。分断。差別。戦争。非道な指導者たちによって、世界はひとつの巨大な “ゴースト” と化しているように見えます。最新作 “Impera” で Tobias Forge は、ヴィクトリア時代に思いを馳せながら、現代とあの時代に類似したものを見出すのです。欧州の暗黒時代を舞台にした “Prequelle”。そのネズミ、疫病、罪人に続くのは、大きな変化が進行しているヴィクトリア朝であるべきだという信念もまた、”Impera” の舞台設定を確立していきました。
「あの時代には多くの変化があった。死ぬかもしれない危険な仕事の多くが、機械でできるようになり、生活が少し楽になったんだ。しかし、それから100年の後、私たちはすべての仕事で人間を段階的に減らしている。そして人間は誰も必要とされなくなっていく。ヴィクトリア時代の多くは、工業主義が人間を段階的に減らしていくという意味で、今私たちが経験していることと似ていると思うんだ
私たちは今、歴史は過去のものであり、現在の生活とこれからの生活はすべて永遠であると信じて生きている。だけどそれは真実ではないよ。もしかしたら、私たちはしばらくの間は機能する社会の基盤を持っているかもしれない。だけど残念ながら、歴史を振り返ると、社会が構築され、そして完成され、完成しつくされるという自然のサイクルがあるんだよね。そして、たいていは崩壊してしまう。
独裁的な社会もまた、崩壊する。独裁者がいるところ、体制があるところはどこでも、しばらくするとたいてい崩壊するんだ。なぜなら、人々は常に自分の立っているところに建物を建てようとするから。そして、大きくなりすぎた塔や高くなりすぎた塔は倒れてしまうだろ?その繰り返しなんだよね。だから、ある意味で、再建のためには破壊しなければならない。でも、だからといって、すべてを砂利に帰してしまわなければならないわけではないんだよ」
“Prequelle” から数百年後の時間軸では、Ghost(新しいスチームパンク風の Nameless Ghouls)が、産業革命、変化、そして崩壊した世界で大活躍しています。宗教的な不寛容、不正、腐敗、殺人が跋扈する一方でまた、楽しい時間、希望、ある種の悟りの追求も花開きました。そしてその光景は、実は今を生きる私たちにとっても見覚えのある風景です。
「この2,3年で、私たちは激しく後退している。過去に起きたこと、遠い昔のことを歌っているような歌詞の内容、ほとんどフィクションのように感じていたことの多くが、今では当たり前のように起きている。人々は、なぜか進歩を破壊し、最終的には精神的な進化を何百年も後退させるタイムマシンを作るためにあくせく努力しているんだ。ようこそ、命令と強制の時代、インペラへ」

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【GHOST : IMPERA】

30. OBSIDIOUS “Iconic”

「OBSCURA の Steffen と違って、Javi はギターと歌を同時に演奏する必要がない。だから、もう複雑さにも限界はないんだよ。アルバムのプロダクションはとてもモダンで、音楽の中の情報がよりクリアに伝わってくる。それに、僕たちはパワー・メタルの要素を取り入れているのも特徴だ。テクデスとパワー・メタルのミックスはあまり見かけないものだし、プレイしていて楽しかったね」
Linus Klausenitzer, Rafael Trujillo, Sebastian Lanser, Javi Perera。OBSCURA, ALKAROID, ETERNITY’S END, JUGGERNAUT といったプログレッシブ/テック・メタルの綺羅星から集結した4人。これまでも、複雑かつテクニカルなメタルの迷宮で存分に好き者たちを魅了してきた英傑たちは、それでも飽き足らずに複雑の限界を越えようとしています。ただし、黒曜石でできた新たな惑星 OBSIDIOUS はこれまでの星々とは全く別の美しさを誇ります。”Iconic” と名付けられた集合体の象徴は、ウルトラ・テクニカルでありながら敷居の高い堅苦しさとは無縁。このアルバムは、炎のようなインテンスを保ちながら、耳を捉えて離さないメロディーの洪水に満たされています。さながら、溶岩と濁流がクラッシュして黒曜石が生まれる奇跡の瞬間のように、OBSIDIOUS はパワー・メタルとデスメタルをテクニカルな化学反応で一つにしていくのです。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSIDIOUS : ICONIC】

31. BLIND GUARDIAN “The Gods Machine”

「長い間、僕らの思考を支配してきたオーケストラ・アルバムの後に、僕らが何か声明を出したかったのは確かだ」と Hansi は言います。「今、僕たちはやりたいことを何でも自由にできるようになったんだ。”The God Machine” は、解き放たれたブラインド・ガーディアンなんだ」
“解き放たれた” という言葉は、”The God Machine” にとって完璧な言葉でしょう。少なくとも “A Twist in the Myth” 以来、あるいはそれ以前から、BLIND GUARDIAN のアルバムの中で最もヘヴィな作品なのですから。このアルバムは、”Deliver Us from Evil”, “Damnation” という2曲の強烈なスピード・メタルで幕を開けます。その後に続く “Secrets of the American Gods” は7分間の音の迷宮で、”The God Machine” の中で最も叙事詩に近いもの。この曲は、Marcus のリズムギターを軸に、アレンジが螺旋状の回廊を下っていくようなうねりを伴っています。Marcus、ドラマーの Frederik Ehmke、ベーシストの Barend Courbois は André や Hansi と同様にアルバムのサウンドにとって重要な存在であることは言うまでもないでしょう。
「久々にバンドとしてリハーサルを再開したんだ。そして、”Legacy of the Dark Lands” に取り組んでいる間、ずっと見逃していたバンドのエネルギーとヘヴィネスを感じたんだ。それは僕らが再び速く、よりハードになった理由のひとつだ」
“The God Machine” はコロナ時代の BLIND GUARDIAN 最初のアルバムですが、彼らの曲は世界的な大災害よりもエルフや魔法使いについての曲の方が未だに多いのはたしかです。ただし、このアルバムは André が今の世界の “世相” と呼ぶものを捉えているようです。
「世界全体が厳しくなったように感じた。人々がお互いにどのように話しているのかがわかった。10代の頃のイライラした気持ちに近いものがあった。そして、それが “The God Machine ” の感覚だった。フラストレーションを全部吐き出して、エネルギーを全部込めたんだ。もっとスピード・メタルなんだ。もっとハードでファストな感じ。僕にとって、それは今の時代を反映しているもので、常に重要なこと。そしておそらく、僕がこの時代に抱いた感情を解消するのに役立つのであれば、それは他の人々にも役立つかもしれない」
今回、BLIND GUARDIAN の挑戦は “スピード・メタル 2022” です。

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【BLIND GUARDIAN : THE GOD MACHINE】

32. WILDERUN “Epigone”

WILDERUN の快進撃を阻んだものこそパンデミックでした。Evan が陰陽の関係と語るレコーディングとライブ。どちらかが欠けても立ち行かないバンド運営の根源、その一つが失われた結果、彼らはアルバムの成果をファンと祝い分かち合うこともできず、暗闇に立ち止まることとなります。闇は孤独と挫折感を生みます。一人になった Evan Berry は自信を失い、自らと芸術の関係性を省みて、自分には創造性が欠けているのではないか、自己が生み出す音楽は “Epigone” なのではないか、そんな疑念を抱いたのです。
「芸術や創造性に関して言えば、自由意志はどこにあるのかわかりにくいものだ。だけど自分のものか他人のものかわからないアイデアはどんどん出てくるし、そこから新しいものを生み出そうと頑張るしかないんだよね。だから結局、僕たちが作るものは、必然的に先人の無数のアイデアによって形作られている。そんなことを、僕は自分の至らなさや独創性のなさを感じたときに、思い出すようにしているんだよ」
“Epigone” とは、優れた先人のアートを安易にパクる人たちのこと。たしかに、独創と模倣の境界は曖昧です。芸術にしても学問にしても、ゼロから何かを生み出す超人などは存在するはずもなく、私たちは先人たちの積み木の上に少しづつ積み木を継ぎ足して新たな何かを創造します。目や耳、五感が知らないうちに何かを吸収して、そこから自らの創作物が解き放たれることもあるでしょう。とはいえ、正直に思い悩み、告白した Evan Berry の音楽はあまりに “Epigone” とは程遠い、10年に一度の傑作です。
「僕は多くの点で WILDERUN をメタル・バンドと呼ぶことに抵抗を感じているんだ。確かにメタルは大好きだし、僕ら全員にとって重要な要素だよ。だけど、音楽を創るという意味では、メタルは土台というより道具だといつも思っているんだ」

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WILDERUN : EPIGONE】

33. GAEREA “Mirage”

「僕たちは、人間、希望や夢、そして荒廃した悲惨な人生にどう対処していくかに、ほとんどの部分がインスパイアされているんだよ。今の世界の状況は、現実を観察し、吸収するのに非常に面白い時期だとは思うのだけど…」
ファンタジーよりも現実を。暴力よりも夢や希望を。悲しみには前向きな力を。ポルトガルに登場した仮面のブラックメタル GAEREA は、”Mirage” “蜃気楼” と題されたアルバムでごく普通の人々の人生や現代生活の困難さについての物語を叙情的に探求しています。
多くのモダンなブラックメタルがそうであるように、GAEREA にとってもかつてこのジャンルの骨子であった “アンチ・クライスト” や “暴力と怒り” はもはやそれほど重要な議題ではありません。ブラックメタルの最前線は、人間、日常生活とその苦悩を扱う領域へと移行しつつあります。鬱病や自殺に抗し、解放感や幸福の追求こそ彼らのテーマ。今の時代は、個々の人間が人間としてどう感じるかにフォーカスするべきだと GAEREA は考えているのです。
「人は仲間の中にいるとき、本当の意味でリアルであるとは言えないと思う。僕たちは、一人きりの孤独な環境で、自分の感情や希望、絶望がようやく自分を包み込んだり、苦しめたりできるときにだけ、自分自身に正直になれるんだよ。
僕たちは、同僚や恋人、社会の人々と接するために、日々さまざまな仮面をかぶっているよね。僕たちはそうやって、社会に受け入れてもらうために、状況によって違う人になりたいと思っているんだよ。僕たちのマスクは、そうした事柄をあらわしているんだ」

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【GAEREA : MIRAGE】

34. THE CALOUS DAOBOYS “Celebrity Therapist”

「真の “ダークサイド” なんて存在しないんだよ。少なくとも、君や僕が同意しない側にいる人々にとって、彼ら自身はまったく “ダークサイド” ではないんだから。彼らは自分を社会ののけものとか殉教者だと思っているかもしれないけど、少なくとも自分から見て悪意ある行動をとっているわけではなくてね。真摯に話せる友人がいないから間違った道に進んでしまう」
ジョージア州アトランタのメタルコア・ハイブリッド、THE CALLOUS DAOBOYS。彼らはマスコア、ソフトジャズ、ボサノバ、オルタナティブ、ラジオ・ロック、エフェクトで歪んだヴァイオリンなど複雑なサウンドの嵐を生成し、メタル世界で大きな注目を集めています。そしてその台風の目には、Carson Pace がいます。
ステージ上のエネルギーレベルは桁外れで、PUPIL SLICER とのコラボレートや GREYHAVEN とのツアー、そしてバンドの待望のセカンド・アルバム “Celebrity Therapist” のリリースで、彼らの知名度は飛躍的に向上しました。重要なのは、世界に解き放たれたことで Pace が対話を始める機会を多く得られたということ。彼の叫びはなぜか、陰謀論やカルトに囚われた人たちにも素直に届きます。それはきっと、頭ごなしに否定から入ることをしないから。”ダークサイド” だと見下し、馬鹿にして、間違っていると断言することで、囚われの勇者たちはむしろ、自分が正しいと確信してしまうのですから。
「安倍晋三は去った。それが僕の公式見解だよ。右と左の争いについては、グッドラック!としか言えないよね。僕たちはその解決策をまだ見つけられていないけど、まあ解決策を探す人たちには幸運を祈るよ」
しばしば謎めいた歌詞のアプローチにもかかわらず、Carson は THE CALLOUS DAOBOYS にその生来のストーリーテラー、語り部の感覚を持ちこむことに成功しています。Carson の声は、パワーハウス的な叫びから、Mike Patton や Greg Puciato のような筋張った歌声へとドラマティックに変化して、ストーリーを紡ぎます。”Celebrity Therapist” における Carson のリリックは、盲目の愛国心、陰謀論、アルコール依存症、有名人の崇拝などを点と線で結びつけ、人は皆いずれかの悪徳に陥っていると主張しているのです。

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CALLOUS DAOBOYS : CELEBRITY THERAPIST】

35. ASHENSPIRE “Hostile Architecture”

「僕たちがやりたかったのは、西洋の階級力学に関する観察を拡大し、その背後を注意深く探り、後期新自由主義資本主義の根本的な動機とメカニズムが、社会のあらゆるレベルに飽和してしまっていることを示すことだった。結果として、労働者階級の劣悪な居住環境は、より広い問題の徴候に過ぎず、僕たちはそのことに注意を促したかったんだ」
大都市に住んでいれば、ホームレスや劣悪な居住環境で暮らす労働者の存在を切り離すことはできません。公園のベンチの真ん中に作られた鉄のレール、日よけの下にあるスパイク、絶え間なく点滅するライトなど、持たざる者に対する “敵対的な建築” は現代の都市デザインの主流となっていて、公共の建築物は一時的なシェルターとなるどころか、多くの人を抑圧しています。
スコットランドの建築メタル ASHENSPIRE は、そうしたモダンで冷徹な建築物を現代社会を観察するレンズとして、富の不平等、階級闘争を取り巻く様々な問題を映し出していきます。2017年の “Speak Not of the Laudanum Quandary” で、これまであまり議論されてこなかった歴史の残虐行為に焦点を当てた ASHENSPIRE。しかし、私たちはそれでもまだ学べず、また同じ過ちを犯しているのでしょうか?敵対的な建築物は、今、この瞬間も、リアルタイムで抑圧の甍を叫んでいます。
「資本主義リアリズムとは、労働者階級や疎外されたコミュニティといった社会から恩恵を受けるべき人々の想像力を制限することで、そうやってアメリカはこの不平等な秩序を維持している。
そうやって労働階級や抑圧された者たちが皆、この世界(後期新自由主義資本主義世界)が可能な限り最高の世界だと信じさせられているから、それを変えるために戦うのではなく、単に抑圧に耐えようとし、それを “世の中の流れ” あるいは “あるべき物事のあり方” として受け流し、最終的に彼らを搾取する側に利益をもたらす態度をとってしまうんだ。このような状況から抜け出すのは大変なことだと思う」

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ASHENSPIRE : HOSTILE ARCHTECTURE】

36. TOXIK “Dis Morta”

「レーベルは METALLICA と SLAYER の波を利用することばかり考えていたみたいだけど…特にアメリカではね。純粋に僕たちは早すぎたんだ。たしかに TOXIK はスラッシュの波に乗ったけど、これってスラッシュなの??それが完璧な例えだよ。初期の TOXIK の75%は超高速でシンコペーションしたテストステロンで、残りの25%はメロディとダイナミクスだったから。スラッシュはみんなの中にある最も近い定義だっただけなんだと思う」
80年代半ばにギタリスト Josh Christian によって結成されたアメリカのスラッシュメタル・バンド TOXIK はメタルにとって早すぎた “毒気” であり、勇気ある開拓者でした。デビュー作 “World Circus” の無慈悲な猛攻で MEGADETH や ANTHRAX, それに SANCTUARY といった猛者たちを震えあがらせた彼らは、続く “Think This” でメタルの羽化を促しました。例えば、CORONER が、例えば WATCHTOWER が、例えば MEKONG DELTA が、例えば ARTILLERY がそうであったように、TOXIK もまたメタルのスピードとスリルを奇想天外な知と魑の世界に誘いました。中でも、彼らの精巧な技巧とプログレッシブな創造性は群を抜いていました。
「自分の限界を知るため挑戦することは魅力的だからね。そうすることが、僕たちをアーティストたらしめているとも言える。”Think This”…これは無謀で純粋な芸術的主張だった。レーベルはそれを好まず、ファンは “奇妙だ” と言った…だから当時は崖から飛び降りたようなものだったけど、今となってはこのレコードが多くの人にとってベンチマークとなっているのだから、振り返ってみると正しいことだったように思えるね」

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37. ITHACA “They Fear Us”

「私たちは他の誰よりも何マイルも進んでいると思う。それをどう受け止めるか。傲慢?そうかもしれない。それは本当なのか?そうおもう、たぶん… 今、こんなことをやっている人は誰もいないと思う。音楽的な面でも、特にイギリスでは、私たちは私たちのようなバンドとは比較にならないくらい、豊かで多様な影響を受けている。このレコードは、私たちが作るような音楽を作る多くの人が、達していないような創造性と繊細さを示しているの。だから、私たちは他の誰よりも優れていると思う…傲慢に聞こえるわよね?でも事実は事実よ (笑)」
ITHACA のギタリスト、Sam Chetan-Welsh も、彼女の意見に同意しています。
「人によっては傲慢だと思うかもしれないね。でも、自分がそう思っていなければ、構わないんだよ」
とはいえ、今 ITHACA の言葉を傲慢と捉える人はほとんどいないでしょう。この大言壮語は、少し皮肉っぽく聞こえるかもしれませんが効果的で、二人が言っていることは間違いなく真実なのです。
“They Fear Us” は、意味と深みに富んだヘヴィ・ミュージック作品です。Sam は慎重に “プログ・ハードコア” という表現を使いながら、比較対象として ROLO TOMASSI を挙げていますが、実際このレコードは感情的で知的で創造性に富み、DEFTONES, CONVERGE からジャネット・ジャクソンやプリンスまで、幅広い影響を完璧に消化しているのです。当然、ジャンルに縛られることは Djamila が最も忌みきらうこと。
「私はジャンルに縛られるのが好きではないけど、私たちが様々なカテゴリーに当てはまることはとてもうれしいわね。これは、私たちが自分たちのためにしか音楽を書いてこなかったという証。自分たちがハッピーになれる音楽を書いて、それを好きになってくれる人がたくさんいるのは本当にラッキーなことよ。だから、メタルコア・アルバムとかブラッケンド・ハードコア・アルバムとか、そういうものをハナから書くつもりで座っている人たちが本当に不憫。なんてつまらないんだろう」

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38. IMPERIAL TRIUMPHANT “Spirit of Ecstasy”

2012年のデビュー以来、IMPERIAL TRIUMPHANT の Zachary Ilya Ezrin (vocals, guitars), Steve Blanco (bass, vocals, keys, theremin), Kenny Grohowski (drums) にはニューヨークの中心部に深く入り込むというミッションがあり、彼らの Bandcamp には “NY の最上階の豪華さから地下の腐ったような場所まで” と優雅に表記されています。
「ニューヨークの音の風景と、そのさまざまなダイナミクスを具現化しようとしているんだ。ニューヨークの風景には視覚的に大きな影響を受けているし、この街ならではのものだよね。この街はとても密度の高い場所だから、いろいろな意味でインスパイアされるものがたくさんあるんだ。音楽的な血統からインフラまで、あらゆる分野で歴史がある。
それに、ニューヨークには何か国家的なナショナリズムのようなものがある。移住してきた人たちも、ニューヨーカーであることを誇りにしているんだ。何が自慢なんだ?棺桶の中に住んでるんだぞ!?とか言われるけどね。ニューヨークという街に対して、みんなすごく興奮しているだよね。その中で、曲のコンセプトが生まれる。大都会のプライドと自己達成のヴェールは、探求するにはとても興味深いコンセプトだよ」
“Spirit of Ecstasy” は “Alphaville” よりもシンプルなサウンドですが、しかし、よりミクロで、彼らの細部へのこだわりは繰り返し聴くことでより一層、聴き応えを与えてくれます。
「構造的には、”Alphaville” よりもさらにシンプル。僕らは次のステップに進むために、自分たちのミクロなニッチをさらに開拓し、狭い穴にさらに入り込んで、そう、ソングライティングもさらに向上させようとしたんだ。混沌の中にある明晰さの瞬間を人々に与えようとしたんだ。僕たちは曲をすべて書き上げてから、それらをいじくりまわして、非常に細かい部分まで綿密に調べていった。すべてがあるべき姿であることを確認するために、1秒1秒レコードを見直したんだ」

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39. MESHUGGAH “Immutable”

「”不変” って僕らのバンドとしての位置づけにぴったりだ。俺たちは年を取った。ほとんどのメンバーが50代になり、自分たちが何者であるかということに納得している。ずっと実験をしてきたけれど、それは初日から変わらない。物事へのアプローチの仕方や、なぜ今でも新しいアルバムを作るのか、なぜ今でも自分たちの音を出すのか、それは不変のものなんだ。人間性も不変だよ。人類は何度も何度も同じ間違いを犯す。結局僕たちも不変なんだ」
MESHUGGAH には作詞家としての Haake、作曲家演奏家としての Haake、つまり二人の Tomas Haake がいます。
「脳の異なる部分を使っているのは確かだよ。以前は、歌詞は年に1回とか、2年に1回とか、掘り下げて書くようなものだったんだ。でも、ここ2枚のアルバムでは、音楽の雰囲気がわかると、その音楽に合わせて書くことが多くなったかもしれないな。トピックとしては、自分の周りで起こっていることに対する社会的なコメントがほとんどだけど、時には純粋なフィクションで、音楽から感じた雰囲気を強めていこうとすることもある。でも、多くの場合、僕の歌詞は社会的なものだよ」
Haake が現代社会に伝えたいことはたくさんあります。
「ソーシャルメディアがいかに多くの点で馬鹿馬鹿しいツールになっているか、偽情報のツールになっているか、さらには政治的なツールになっているかということだよね。”Light The Shortening Fuse” の歌詞は、まさに “Immutable” のために書かれたもので、より具体的にそのことについて話しているんだ。”Phantoms” のような曲は、人生を歩む上での後悔について歌っている。自分が言ったこと、やったことを後悔して、それがずっと自分の中に残っていてついて回る。幽霊や幻のようなものだよ」
彼の白い手袋は、2年前から手の内側にできてしまった湿疹を治すためのものだといいます。「手の中に湿疹があるんだ。全ての指にテープを貼り手袋をしなければ叩けない。だから1年近くドラムを叩いていないことになる。生活もままならないけど前を向いているし、ツアーではなんとか叩こうと思うよ」

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MESHUGGAH : IMMUTABLE】

40. ZEAL & ARDOR “Zeal & Ardor”

「すべてクロスオーバーしているんだ。全く違う分野での経験や視点が、別の分野での新しいアプローチにつながることも多いんだよね。それは私のクリエイティビティにとても役立っているよ」
Manuel Gagneux は、あまり考えることが好きではありません。というより、考えすぎることが嫌いなのです。物事の仕組みに興味を持ち、一時期は物理学を専攻し現在は VR の開発に携わるほど知的な人物であるにもかかわらず。ただし、異なる視点や異なる考え方を受け入れることが創造性をふくらませ、人が “傲慢” になることの抑止力であることを知っています。Manuel はすべてにおいて、傲慢が人類の敵であることを本能的に知っているのです。
「これほどの人気になるとは思ってもみなかったよ。見ていて楽しいバンドと一緒にツアーができたことは、この上ない成果なんだ。すべてが私たちにとって驚きなんだよ」
Manuel は、ZEAL & ARDOR の成功が “滑稽” だと語っています。なぜなら、成功は彼が求めていたものではなかったから。バンドを始めようさえとしたわけでもありません。というのも、このバンドは、ウェブ・フォーラムで、一緒になるはずのないジャンルをミックスするという奇抜なアイデアを募集したのがきっかけだったから。ZEAL & ARDOR は、抑圧された黒人奴隷の歌とブラックメタルを混ぜようという提案から生まれたものです。しかし、それは彼にとって多くの音楽的実験のひとつでした。
「”成功 “が定義される限り、音楽はポピュラリティに過ぎない。そして、人気というのは永久に続くものではないんだ。それが、私がずっと前に理解したこと。だから、私はそれを考えないことにしている。そして、人気はいつ崩れ落ちるかもしれないし、長い時間をかけて消えていくかもしれないことも承知している」

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ZEAL & ARDOR : ZEAL & ARDOR】

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