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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CHANGELING : CHANGELING】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TOM “FOUNTAINHEAD” GELDSCHLÄGER OF CHANGELING !!

“Hans Zimmer Famously Said That His Music Is Not Original, But It Is The Sum-total Of All The Music That He’s Consumed In His Life – And That Is Also True For Me.”

DISC REVIEW “CHANGELING”

「Hans Zimmer の有名な言葉に、”自分の音楽はオリジナルなものではなく、人生で消費してきた音楽の総体である” というものがある。そしてその言葉は、僕にとっても真実なんだ。僕は若い頃からオーケストラ音楽に興味があり、10代で初めてレコーディングしたときから、さまざまな種類の楽器を重ねたりオーケストレーションしたりすることで、ロックバンドのサウンドを超えることを試みていた。まだ10代の頃に書いた曲を収録した僕の最初のソロ・アルバムでさえ、オーケストラ・パートや世界中のパーカッション・サウンドがあり、さまざまなジャンルや音楽の伝統から影響を受けている。それが僕の頭の中の音楽の聴こえ方なんだと思う」
“モダン・メタルの歴史上最高傑作のひとつ”。AMOGH SYMPHONY で共闘した Vishal J Singh は、戦友 Tom “Fountainhead” Geldschläger の新たな旅路をこう称賛しました。その言葉は決して大げさなものではありません。長年、艱難辛苦に耐え抜いたフレットレス・モンスターは、これまでの人生と音楽体験をすべて注ぎ込み、モダン=多様を完璧なまでに体現しためくるめくメタル・アートを遂に完成させたのです。
「メディアだけでなくギター業界も、僕のプロとしての全生涯を通じて僕の作品をほとんど無視してきたからね。そしてもちろん、世界各国のアルバム・チャートにランクインした “Akroasis” を通して、ようやく世界中の聴衆に僕の作品を聴いてもらえたというのに、OBSCURA のバンド・リーダーによって、”Tom のパートを再録音した”、”アルバムにはフレットレス・ギターがない”、”Tom はスタジオでギターのチューニングもできない” と嘘の中傷キャンペーンを展開されたときがその最たるものだったね。それだけでなく、僕のビデオはほとんど削除され、僕のソーシャルメディア・ページは何度もハッキングされ、いじめられたり、せっかく僕の活動に興味を持ってくれていたオーディエンスから切り離されたりするケースもたくさんあった。だから、そうした僕の旅路が “Changeling” でやっとメディアの注目を得ただけでね。このアルバムを聴いて、斬新だと思われるのはよくわかるけど、実は僕はもう20年くらいフレットレスでメタルやそれに関連するスタイルを演奏してきたんだ」
Fountainhead が正当な評価を得るのにここまで時間がかかったのは、あまりに遅すぎたとしか言いようがありません。そして皮肉なことに、その評価の妨げとなっていたのは他でもない、彼を世に送り出した OBSCURA の “Akroasis” だったのです。
実際、Fountainhead は OBSCURA の最も野心的な作品となった “Akroasis” の源泉でした。15分の “Weltseele” では東洋の影響と弦楽五重奏を加え、魅惑の実験的スタイルでアルバムを締めくくるなど Fountainhead の貢献、その大きさは誰の目にも明らかであったにもかかわらず、近年よりその人間性が疑問視される OBSCURA の首領 Steffen Kummerer によって彼の存在は抹殺されてしまったのです。しかし豊かな才能は決していつまでも草庵で燻るべきではありません。遂に臥薪嘗胆が報われる日が訪れたのです。まさにメタルの回復力。
「フレットレス・ギターの長所と短所だけど、普通のギターではできないことを実現してくれる。微分音、グリッサンド、ハーモニクスをスライドさせたり、指板を縦よりも横に動けたり…本当にとても楽しいんだ。ただし、コードとなるとできることには限界があって、高音域でのサスティーン、演奏性にも限界がある。また、僕がよく使うメタル・フィンガーボードとブラス・ピックを使っても、ハイエンドを出すには限界があるんだ。だから、”フレットのない普通のギター” ではなく、”ユニークな目的&シチュエーションのためのユニークな楽器” としてアプローチするのが一番効果的なんだよね」
まずこの作品を特別なものにしているのが、Fountainhead のトレードマークであるフレットレス・ギターでしょう。フレットのない耳が頼りの弦楽器は、当然その習熟により大きな労力と鍛錬を必要としますが、あの Bumblefoot に薫陶を受けた Fountainhead にとってこの楽器はむしろ水を得た魚。輝くメタル・フィンガーボードで、この音楽にとって異質な夢幻の世界をフレットレス・ベースと共に紡ぎ上げていきます。
「アルバムのオーケストラ・パートの99%は本物の楽器なんだ。そう、それはとても大変で長いプロセスだった。既存のオーケストラと協力して、大きな部屋ですべてを生録音する手段がなかったからだ。 その代わり、数年かけていろいろな楽器やラインをいろいろな場所で録音した。そのために、さまざまなプレイヤーを起用する必要があったんだ。このアルバムのコンセプトのひとつは、曲ごとにまったく異なる形のオーケストレーションにすることだったから」
とはいえ、フレットレスの異端でさえこの作品にとっては飾りのひとつに過ぎません。ALKALOID, FEAR FACTORY, VIPASSI, DEATH, CYNIC といった強力なメンバーを礎に、混成合唱から、チェロ、フルート、ホーン、ピアノ、チューバ、ヴァイオリン、ヴィオラなど、あらゆる楽器でデザインされたテクニカル・デスメタルの宮殿は、ジャズ・フュージョン、プログレッシブ・ロック、ワールドミュージックを融合してまだ見ぬメタル景色を映し出していきます。アルバムを通して何度も登場し、クライマックスで花開くモチーフの成長も見事。そして、野心という実験音楽における諸刃の剣をしっかりと制御し、地に足のついたメタル・アルバムとして完成させたバランス感覚もまた見事。
今回弊誌では、Tom “Fountainhead” Geldschläger にインタビューを行うことができました。「”Changeling” には日本文化から直接影響を受けた曲が1曲あってね。”Abdication” なんだけどこの曲は、僕が最も影響を受けた音楽家の一人である久石譲の和声言語とオーケストレーション・スタイルを取り入れたものなんだ」これまで何度も弊誌に登場してくれている Morean の声も素晴らしいですね。どうぞ!!

CHANGELING “CHANGELING” : 10/10

INTERVIEW WITH TOM “FOUNTAINHEAD” GELDSCHLÄGER

Q1: First of all, what kind of music did you grow up listening to?

【FOUNTAINHEAD】: My dad was in a blues-rock band in the 70s and 80s, so I grew up surrounded by the music he and his friends were listening to: blues, rock, pop and quite a bit of progressive rock. As a teenager, I discovered heavy metal and brought that into the household – so as early as age 13-16, I was listening to Dream Theater & Iron Maiden but also Death & Cynic. But I’ve also always had a knack for anything that was avant-garde and “different” and even in my teens I was interested in the methods of composers like Xenakis, industrial music like Merzbow, or free-jazz like John Zorn.

Q1: 本誌初登場です!ますは、あなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【FOUNTAINHEAD】: 父は70年代から80年代にかけてブルース・ロック・バンドをやっていたので、僕は父とその友人たちが聴いていた音楽に囲まれて育ったんだ。
ブルース、ロック、ポップス、そしてかなりのプログレッシブ・ロックがいつも周りにあったよ。 それからティーンエイジャーの頃、僕はヘヴィ・メタルに出会い、それを家に持ち込んだんだ。
13~16歳の頃には、DREAM THEATER や IRON MAIDEN はもちろん、DEATH や CYNIC も聴いていたね。でも、アヴァンギャルドで “異質 “なものにはいつも敏感で、10代の頃から Xenakis のような作曲家の手法や、Merzbow のようなインダストリアル・ミュージック、John Zorn のようなフリー・ジャズにも興味を持っていたよ。

Q2: What inspired you to start playing guitar? Who were your heroes at the time?

【FOUNTAINHEAD】: When I first started playing music, it was more my parents’ decision than my own and they had me take classical guitar lessons for a few years. But as these things tend to go, I got bored of having to practice every day and only learn music that I had no personal interest in at the time – and so I quit. But when I was around 12, a friend of my dad brought this mysterious looking CD into the house that I found myself magically drawn to – it was Joe Satriani’s “Time Machine” album. And I remember sneaking into the living room to listen to it, not being mindful of what the volume was, and when the first song came on, it literally blew my hair back because it was so loud. And that was the moment, when I suddenly knew: I want to play electric guitar and do THAT! Through Satriani, I then also got into Steve Vai, Eric Johnson (the first “G3 live” album came out around that time), Marty Friedman, Jason Becker & all the shrapnel-era shredders….but also David Gilmour, Jeff Beck, Terje Rypdal & Robert Fripp.

Q2: ギターを始めたきっかけは何だったんですか?当時のヒーローは誰ですか?

【FOUNTAINHEAD】: 僕が最初に音楽を始めたとき、それは自分自身の決断というよりも両親の決断だったね。クラシック・ギターのレッスンを数年間受けさせてくれたから。ただ、こういうことはよくあることだけど、毎日練習することに飽きたし、当時は個人的に興味のない音楽しか習わなかったから、一度辞めてしまったんだ。 でも、12歳くらいのとき、父の友人が家に持ってきた不思議なCDに魔法のように惹かれて、Joe Satriani の “Time Machine” というアルバムを聴いたんだ。 そして、こっそりリビングルームに忍び込んで聴いたことを覚えている。でもボリュームを気にしていなかったから、最初の曲がかかると超ラウドで度肝を抜かれたよ!そしてその瞬間、突然確信したんだ…エレキギターを弾きたい、これがやりたかったことだ!ってね。
Satriani を通して、Steve Vai, Eric Johnson, (その頃、最初の “G3” ライブ・アルバムが出た)、それから Marty Friedman, Jason Becker といったシュラプネルのシュレッダーにもハマっていったね。同時に、David Gilmour, Jeff Beck, Terje Rypdal, Robert Fripp にもね。

Q3: Not a few people in the bass world use fretless, but very few people use fretless on guitar. But, It’s a great way to express your personality! What made you decide to use a fretless? What are the pros and cons of this instrument?

【FOUNTAINHEAD】: It was more or less a “happy accident” that started my fretless journey: I had been playing my a few local shows with my first ever band – I must have been 18 or 19 – and my only (and very cheap) guitar at the time broke during a show. I had been abusing the whammy-bar so much that it ripped right out of the guitar’s body. I couldn’t just buy another guitar right away because my family was pretty poor, but what I could do was to bring it to a guy in my little seaside-town in the north-east of Germany that I knew who fixed and customized instruments. And at the time, I had just discovered a guitar player called Bumblefoot (a.k.a. Ron Thal), who had just made his very first recordings with a fretless guitar, which had left a huge impression on me. So when I brought the guitar to my friend and asked him to fix the bridge, I also asked him to make it fretless. And as they say: the rest is history.
As for pros & cons of the instrument… it does enable me to do things that I can’t do on a regular guitar, of course – the microtonality, the glissandi, sliding harmonics around, moving more horizontally than vertically on the fretboard… all of that is so much fun. However, there’s a limit to what you can do when it comes to chords, a limit to sustain and playability in the upper register, and a limit to the amount of high-end it can produce, even with the metal fingerboards and brass picks that I tend to use. So it reallyworks best if you approach as a unique instrument for unique purposes & situations, rather than “a regular guitar without frets”.

Q3: ベースの世界でフレットレスを使う人は少なくありませんが、ギターでフレットレスを使う人はほとんどいません。しかしあなたのフレットレス・ギターは、あなたの個性を表現する最高の方法ですね! なぜフレットレスを使おうと思ったのですか? この楽器の長所と短所はどこでしょう?

【FOUNTAINHEAD】: 僕のフレットレス・ジャーニーの始まりは、多かれ少なかれ “幸福な事故” だった。18歳か19歳だったはずだけど、初めてのバンドで何度か地元のライヴに出演したことがあってね。そのとき唯一持っていた(しかもとても安物だった)ギターが、ライヴ中に壊れてしまったんだ。ワミー・バーを酷使しすぎて、ギターのボディから裂けてしまったんだ。僕の家はかなり貧しかったから、すぐに別のギターを買うことはできなくて、僕にできることは、ドイツ北東部の小さな海辺の町で楽器の修理やカスタマイズをしている知り合いのところに持っていくことだけだった。
当時、僕は Bumblefoot(Ron Thal)というギタリストを知ったばかりで、彼はフレットレス・ギターで初めてのレコーディングを行ったばかりだった。その音楽が僕に大きなインパクトを与えていた。だから、そのギターを友人のところに持っていってブリッジの修理を頼んだとき、同時にそのギターをフレットレスにしてくれと頼んだんだ。そして、諺にもあるように、後は歴史が語る通りさ。
この楽器の長所と短所だけど、普通のギターではできないことを実現してくれる。微分音、グリッサンド、ハーモニクスをスライドさせたり、指板を縦よりも横に動けたり…本当にとても楽しいんだ。ただし、コードとなるとできることには限界があって、高音域でのサスティーン、演奏性にも限界がある。また、僕がよく使うメタル・フィンガーボードとブラス・ピックを使っても、ハイエンドを出すには限界があるんだ。だから、”フレットのない普通のギター” ではなく、”ユニークな目的&シチュエーションのためのユニークな楽器” としてアプローチするのが一番効果的なんだよね。

Q4: What is great about Changeling is that it is a metal band where not only guitars (Even though you also uses a fretted guitar) but also basses are fretless. This is truly unprecedented. Can you tell us about the possibility of metal without frets on all stringed instruments?

【FOUNTAINHEAD】: Well, actually it’s not unprecedented. I did exactly that on the Obscura “Akroasis” album back in 2016 – and even before that my first solo album “Fear Is The Enemy” in 2012 had both fretless guitars and fretless bass at the same time. It’s just that the media as well as the guitar industry has mostly ignored my work for my entire professional life. And of course, the lowest point of that was when I finally a global audience did hear my work through “Akroasis” – which entered the album charts in many countries around the world – only to having to battle a smear-campaign against me by the bandleader of Obscura, who claimed to have re-recorded my parts, that there was no fretless guitar on the album and that I “couldn’t even tune my guitar in the studio”. Not only that, but most of my videos got deleted, my social media pages got hacked multiple times and many more cases of being bullied and cut off from the audience that was interested in what I do. So you see, it has been quite the journey to now finally get some press attention with “Changeling” – I totally understand that people hear this album and think that this all very novel, but the truth is that I have been playing metal and related styles on fretless instruments for about 2 decades now.
But that being said, what you have to consider about playing metal on fretless instruments is that this is the genre of power-chords and distortion. And to properly intonate a powerchord with heavy distortion on a fretless guitar takes a lot of work and dedication, so I understand why it’s not a common thing. However, I do think that it opens up a ton of interesting possibilities for cool dissonances and new idea & sounds.

Q4: CHANGELING が素晴らしいのは、ギターだけでなく(普通のギターも使用はしますが)ベースもフレットレスというメタル・バンドであるところですよ。これは本当に前例がないですよね。 すべての弦楽器にフレットがないメタルの可能性について教えていただけますか?

【FOUNTAINHEAD】: 前例がないわけではないよ。2016年にリリースした OBSCURA のアルバム “Akroasis” がまさにそうだったし、それ以前にも2012年にリリースした僕のファースト・ソロ・アルバム “Fear Is The Enemy” ではフレットレス・ギターとフレットレス・ベースが同時に演奏されていた。
ただ、メディアだけでなくギター業界も、僕のプロとしての全生涯を通じて僕の作品をほとんど無視してきたからね。そしてもちろん、世界各国のアルバム・チャートにランクインした “Akroasis” を通して、ようやく世界中の聴衆に僕の作品を聴いてもらえたというのに、OBSCURA のバンド・リーダーによって、”Tom のパートを再録音した”、”アルバムにはフレットレス・ギターがない”、”Tom はスタジオでギターのチューニングもできない” と嘘の中傷キャンペーンを展開されたときがその最たるものだったね。それだけでなく、僕のビデオはほとんど削除され、僕のソーシャルメディア・ページは何度もハッキングされ、いじめられたり、せっかく僕の活動に興味を持ってくれていたオーディエンスから切り離されたりするケースもたくさんあった。だから、そうした僕の旅路が “Changeling” でやっとメディアの注目を得ただけでね。このアルバムを聴いて、斬新だと思われるのはよくわかるけど、実は僕はもう20年くらいフレットレスでメタルやそれに関連するスタイルを演奏してきたんだ。
とはいえ、フレットレスの楽器でメタルを演奏する際に考えなければならないのは、このジャンルの基本がパワー・コードとディストーションのジャンルだということだよ。そして、フレットレス・ギターでパワーコードとヘヴィなディストーションを適切にイントネートするには、かなりの労力と献身的な姿勢が必要で、だからこそこの楽器が一般的でない理由も理解できる。しかし、クールな不協和音や新しいアイデア&サウンド、そのための興味深い可能性がたくさん広がるのも確かなんだ。

Q5: What’s even more amazing about Changeling is that the various instruments participate in a realistic way, not programming, as if it were an orchestra! It is truly a piece of metal history! It must have been really hard to complete such a project, why did you gather so many instruments and their players?

【FOUNTAINHEAD】: Aw, thank you so much for saying that! Yes, 99% of the orchestral parts on the album are real instruments. And yes, it was a very hard and lengthy process, as I didn’t have the means to work with an existing orchestra and record it all live in a big room. Instead, I recorded all the different instruments and lines in many different places over the course of several years – which then made it necessary to bring in many different players, as one of the concepts for this album was also to have completely different forms of orchestration on each song.
As for “why”….well, why not? Hans Zimmer famously said that his music is not original, but it is the sum-total of all the music that he’s consumed in his life – and that is also true for me. I’ve been interested in orchestral music since a young age and even on my very first recordings as a teenager I was already experimenting with going beyond the sound of a rock band by layering and orchestrating many different types of instruments. Even my first solo album, which contains music that I wrote when I was still in my teens, has orchestral parts, percussion sounds from around the world and influences from many different genres and musical traditions. That’s really just the way that I hear music in my head, I guess.

Q5: “Changeling” でさらに素晴らしいのは、プログラミングではなく、さまざまな楽器がオーケストラのようにリアルに参加していることですよ! まさにメタルの歴史に残りますね! こうしたプロジェクトを完成させるのは本当に大変だったと思いますが、なぜこれほど多くの楽器とその奏者を集めたのですか?

【FOUNTAINHEAD】: そう言ってくれてありがとう!そう、アルバムのオーケストラ・パートの99%は本物の楽器なんだ。そう、それはとても大変で長いプロセスだった。既存のオーケストラと協力して、大きな部屋ですべてを生録音する手段がなかったからだ。 その代わり、数年かけていろいろな楽器やラインをいろいろな場所で録音した。そのために、さまざまなプレイヤーを起用する必要があったんだ。このアルバムのコンセプトのひとつは、曲ごとにまったく異なる形のオーケストレーションにすることだったから。
“なぜ?” かというと……そう、なぜか? Hans Zimmer の有名な言葉に、”自分の音楽はオリジナルなものではなく、人生で消費してきた音楽の総体である” というものがある。そしてその言葉は、僕にとっても真実なんだ。僕は若い頃からオーケストラ音楽に興味があり、10代で初めてレコーディングしたときから、さまざまな種類の楽器を重ねたりオーケストレーションしたりすることで、ロックバンドのサウンドを超えることを試みていた。まだ10代の頃に書いた曲を収録した僕の最初のソロ・アルバムでさえ、オーケストラ・パートや世界中のパーカッション・サウンドがあり、さまざまなジャンルや音楽の伝統から影響を受けている。それが僕の頭の中の音楽の聴こえ方なんだと思う。

Q6: You also have guest appearances by Jason Gobel and Andy Laroque, big names from Cynic and Death who created the very progressive death metal! Are you inspired by the creativity of that era?

【FOUNTAINHEAD】: Yes, very much so – both of these bands blew my mind as a teenager and have continued to inspire me ever since then. Both bands have released groundbreaking music that changed the course of metal as a whole – and have continued to evolve as time went on. That blueprint is something I’ve tried to honor and live up to since day one.

Q6: Jason Gobel や Andy Laroque といった大物もゲスト参加していますね。彼らは CYNIC と DEATH で、非常にプログレッシブなデスメタルを作り上げました! やはり、あの時代のクリエイティビティにインスパイアされているのですか?

【FOUNTAINHNAD】: この2つのバンドは、10代の僕の度肝を抜き、それ以来ずっと僕にインスピレーションを与え続けている。どちらのバンドも、メタル全体の流れを変えるような画期的な音楽をリリースし、時が経つにつれて進化し続けてきた。その青写真は、僕が最初から尊重し、生かそうとしてきたものだよ。

Q7: Can you tell us about the story, concept, and message being told in this epic album?

【FOUNTAINHEAD】: The main musical concept of “Changeling” was to build a musical journey from the past of the genre to the future. From the 4 chapters of the album, the first one is dedicated to paying tribute to the past – to my own past contributions to the genre in the form of mainly “Akroasis”, but also to the bands that inspired me the most in the context of (progressive) death metal. From chapter 2 onward, we then go more and more into what I can offer as a new vision for the genre, with new sounds, new techniques, new song- structures, new combinations of sounds. Then there’s smaller concepts, like having a rock-solid “core band” for all the main songs, but different kinds of orchestration on every piece of music – until they all come together on the final song “Anathema”.
Lyrically, it details a very intense psychedelic experience from a first-person perspective Over the different songs, the protagonist is going through many different stages of the trip, all the way to ego-death and complete dissolution of physical reality in “Abyss”.
From that point on, the protagonist re-emerges with a fresh new perspective and a broadened sense of what “reality” means.

Q7: この壮大なアルバムで語られるストーリー、コンセプト、メッセージについて教えていただけますか?

【FOUNTAINHEAD】: “Changeling” の主な音楽的コンセプトは、このジャンルの過去から未来への音楽の旅を構築することだった。このアルバムの4つの章から、最初の章は過去へのオマージュに捧げられている。主に “Akroasis” という形でこのジャンルに貢献した僕自身へのオマージュであると同時に、(プログレッシブ)デス・メタルの文脈で僕に最もインスピレーションを与えてくれたバンドへのオマージュでもある。
第2章以降では、新しいサウンド、新しいテクニック、新しい曲の構成、新しいサウンドの組み合わせなど、このジャンルの新しいビジョンとして僕が提供できるものにどんどん踏み込んでいく。例えば、すべての主要な曲で揺るぎない “核となるバンド” を起用し、すべての曲で異なる種類のオーケストレーションを使用する、といったような小さなコンセプトがあり、最終曲の “Anathema” でそのすべてが集約されるんだ。
リリックでは、一人称の視点から非常に強烈なサイケデリック体験を詳述している。さまざまな曲の中で、主人公はトリップのさまざまな段階を経て、”Abyss” では自我の死と物理的現実の完全な溶解に至る。
その時点から、主人公は新鮮な新しい視点と、”現実” が意味するものについての拡大された感覚をもって再登場するんだ。

Q8: You have performed wonderfully in such prestigious bands as Pitts/Minnemann, Obscura, and Amogh Symphony. Which of your works are you especially proud of?

【FOUNTAINHEAD】: Oh, that’s a difficult question to answer, as I always try to give 120% effort with everything that I do. I think I would say that I’m the most proud of doing all of those things in the first place– coming up as a traumatized teenager and young man with with deep anxiety and confidence issues, later as an adult with 2 kids and a PTSD-diagnosis.
All of the works that you mentioned were very important to me, but what’s even more important is that I showed up and gave it my all every time, regardless of any insecurities and anxieties that were telling me “you can’t do this – you’ll never be good enough.”

Q8: あなたは Pitts/Minnemann, OBSCURA, AMOGH SYMPHONY など名だたるバンドでプレイしてきましたが、振り返って最も誇れる作品はどれでしょう?

【FOUNTAINHNAD】: ああ、答えるのが難しい質問だね。僕はいつも、自分のすることすべてに120%の力を尽くそうとしているからね。 まず誇れるのは、そうした作品をやり遂げたことだ。なぜなら、僕はトラウマを抱えたティーンエイジャー、深い不安と自信の問題を抱えた青年として育ち、その後、2人の子供を持つ大人になり、PTSDと診断された人間だから。
君が挙げたすべての作品は、僕にとってとても重要なものだった。しかし、それ以上に重要なのは、”君には無理だ” という不安や心配の心の声に打ち勝って、毎回全力を尽くしたことなんだ。

Q9: Dream Theater and Gojira began to win Grammy awards. In an age when listeners’ attention spans are so short and instant content is so easily consumed, why is music that is complex, long, and requires practice beginning to be reevaluated?

【FOUNTAINHEAD】: Hmm, I wish I had better answer for this, but as I never have had any mainstream success in my 2 decades in the music business, it would be dishonest of me to talk about how complex music like that has been gaining more of a platform – because, honestly, if it has, I’ve never felt part of that movement and never felt like I have personally profited from that so far.

Q9: DREAM THEATER や GOJIRA がグラミー賞を受賞し始めました。リスナーのアテンション・スパンがこれほど短く、インスタントなコンテンツが簡単に消費される時代に、複雑で長く、練習を必要とする音楽が再評価され始めているのはなぜだと思いますか?

【FOUNTAINHEAD】: うーん、これに対してもっといい答えがあればいいのだけど、僕は音楽業界で20年間、メインストリームで成功したことがないから、そのような複雑な音楽がより多くのプラットフォームを獲得していることについて話すのは不誠実だろう…正直なところ、もしそうだとしても、僕はそのような動きの一部を感じたことはないし、これまで個人的にそこから利益を得たと感じたこともないからね。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED FOUNTAINHEAD’S LIFE!!

Mike Oldfield “Ommadawn”

King Crimson “Discipline”

Devin Townsend “Ocean Machine”

Death “Symbolic”

Squarepusher “The Ultravisitor”

MESSAGE FOR JAPAN

Oh yes, I’ve been fascinated by and interested in japanese culture since I was a kid. Anime, manga & japanese movies were a big part of my formative years and I always dreamed of going to and performing in japan some day. Actually, there is one song on “Changeling” that takes a very direct influence from japanese culure: “Abdication”, which channels the harmonic language and orchestration style of Joe Hisaishi, who I consider to be one of my greatest musical influences.
Dear music fans of japan – thank you so much for giving “Changeling” a chance! And thank, Sin, for giving me this opportunity to engage with your audience! If anybody in Japan is willing to help bring me over for shows or master-classes in the future, I would be beyond grateful for that – I have been wanting to come to your fascinating country for my entire life and would love so much to finally get an opportunity to do so.

子供の頃から日本文化に魅了され、興味を持っていたんだ。 アニメや漫画、日本映画は僕の形成期の大部分を占めていたし、いつか日本に行って演奏するのが夢だった。 実際、”Changeling” には日本文化から直接影響を受けた曲が1曲あってね。”Abdication” なんだけどこの曲は、僕が最も影響を受けた音楽家の一人である久石譲の和声言語とオーケストレーション・スタイルを取り入れたものなんだ。
日本の音楽ファンのみんな、”Changeling” にチャンスを与えてくれて本当にありがとう! そして
Sin、日本のオーディエンスにリーチする機会を与えてくれてありがとう! もし日本の誰かが、将来僕をショーやマスタークラスで呼んでくれるとしたら、とてもありがたいことだよ。
日本という魅力的な国にずっと行きたいと思っていたので、ついにその機会を得られるとしたらとても嬉しいことだね。

TOM “FOUNTAINHEAD” GELDSCHLÄGER

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Fountainhead Official

CHANGELING Bandcamp

SEASON OF MIST

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ANCIENT DEATH : EGO DISSOLUTION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JERRY WITUNSKY OF ANCIENT DEATH !!

“Pink Floyd’s My Biggest Influence. I Picked Up a Guitar When I Was 4 Years Old Because Of David Gilmour From Watching Pink Floyd Live at Pompeii. So My Natural Style Is Just Things I Picked Up From Listening And Watching Him.”

DISC REVIEW “EGO DISSOLUTION”

「ATHEIST, CYNIC, DEATH…ANCIENT DEATH はこれらのバンドなしでは存在しなかっただろう。僕がそうした “グループ” を知ったのは、10歳か11歳の頃だった。当時クールだった “トレンド” の枠を超えて、より傷つきやすく内省的なところから曲を書くことで、個人として、ミュージシャンとして、自分らしくいられることを教えてくれたんだ。その体験は文字通り、僕の世界を変えた。僕は今年28歳になるけど、彼らは今でも当時と同じくらい僕にとって重要な存在だよ」
真の芸術は時の試練をものともせず、時代を超え、そして受け継がれる。メタルコアや Djent 直撃世代の Jerry Witunsky は、そのトレンド以上に探求すべきプログレッシブなデスメタルの審美と人間味に魅了され、情熱を注ぎ、ついには日本で愛するバンド ATHEIST の一員としてライブを行うという夢を叶えようとしています。その夢の実現のために大きな助けとなったのが、彼の世界観を体現した ANCIENT DEATH だったのです。
「”Ancient Death” という名前は僕らにとって実に意味があるんだ。それは、僕らの曲 “Voice Spores” の歌詞にある。ここで基本的に語っているのは、今は否定が否定を生み、それが僕たちを互いに分断しているということ。僕たちの見解では、否定性こそが人と人とのつながりにおける古き良き “古代の死” なんだよね」
憂鬱、悲しみ、心の平和、自己成長といったテーマを探求することで、ANCIENT DEATH は、人々がやがて自分自身にも他人にももっと優しく、寛容となり、共感できることを願っています。SNS では他者を否定し、断罪し、攻撃して溜飲をさげる行為が当たり前となった現代。彼らはそんな時代を古き良き “古代の死” と命名しました。デスメタル世界の “つながり” によって夢を叶えた Jerry は、心と魂のつながりの強さを信じています。つい最近、地球上で最も影響力のある人物が共感は “西洋文明の根本的な弱点” だと言及したばかりですが、だからこそ彼らのデスメタルはそうした合理主義に反旗を翻していきます。
「PINK FLOYD に一番影響を受けたっていうだけなんだ。彼らの “Live at Pompei” を見て、David Gilmour の影響で4歳のときにギターを手にしたんだからね。だから僕の自然なスタイルは、彼の演奏を聴いたり見たりして得たものなんだ。また、サウンドトラックの大ファンで、特に宮崎駿監督の映画は大好きで、1作を除いてすべて久石譲が手掛けているよね。僕にとって音楽とは、解放の場なんだ。誰かに何かを “感じさせて”、違う場所に連れて行く…それこそが美しいことだよ」
ANCIENT DEATH の音楽は、メタルを別次元に誘った80年代後半から90年代前半の、プログレッシブで実験的なデスメタルの鼓動を宿しています。しかし、オールドスクールなデスメタルに正直で真っ直ぐでありながらも、決して過去の焼き直しだけには終わりません。音楽を先に進めることこそ、彼らが先人から受け継ぐ美学。彼らがほんの数秒前まであった場所とは全く違う方向へと聴く者を連れて行くような、豊かなサウンドの雰囲気を作り出した時の驚きは、決してあの BLOOD INCANTATION に負けるとも劣らず。
90年代、DEATH や CYNIC が開拓したデスメタルの実験は、オフキルターなリズム、脈打つベースライン、幻覚的なギターの響きで、さながら THE DOORS や PINK FLOYD が見せる精神的な深みへと移行していきます。時折歌われるクリーンな祈りは、濃い瘴気の中で聴く者に手を差し伸べる静寂の声。
常に移り変わるムード、複雑なドラム・パターン、不可解な拍子記号がジグソーパズルのように組み合わさったアルバムは、それでも “Ego Dissolution” エゴを捨て去りすべてをアートとデスメタルのためにのみ捧げられています。だからこそ彼らは、ゴア描写や反宗教的な歌詞にこだわるのではなく、デスメタルらしい安っぽさや陳腐さを感じさせることもなく、私たちの感情の内面や魂の本質を探る、より深いトピックに踏み込んでいくことができたのです。
今回弊誌では、Jerry Witunsky にインタビューを行うことができました。「Rand Burkey は、僕にとってメタル界で最も影響を受けたギタリストだろう。彼のソロとメロディーは他のギタリストにはないものだった!14歳の頃、寝室で彼のパートをかき鳴らし、まるで自分が書いた曲のように人前で演奏することを夢見ていた僕が、実際にステージに立って彼らとまさに同じ曲を演奏しているなんて!デスメタル世界の心とつながりは、とてもパワフルなものだよね」 どうぞ!!

ANCIENT DEATH “EGO DISSOLUTION” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DAWN OF OUROBOROS : BIOLUMINESCENCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY THOMAS OF DAWN OF OUROBOROS !!

“We All Grew Up Near The Coastline Of California So The Pacific Ocean Has Been a Major Theme Across All Of Our Music. In The Case Of Bioluminescence, Chelsea Felt It Was a Theme She Found Beautiful, And Wanted To Express Her Admiration Of It Through The Music.”

DISC REVIEW “BIOLUMINESCENCE”

「僕たちはみんなカリフォルニアの海岸線の近くで育ったから、太平洋は僕たちの音楽すべてに共通する大きなテーマなんだ。”Bioluminescence” の場合は、Chealsea が美しいと感じたテーマで、音楽を通して生物発光の素晴らしさを表現したかった。主にアルバムのタイトル曲でね」
“Bioluminescence”(生物発光)とは、生物の体内で起こる化学反応が光を生み出すことを表します。これは、カリフォルニア州オークランドの DAWN OF OUROBOROS、その自らの尾を飲み込む円環の音蛇を実に的確に比喩した言葉なのかもしれません。様々に異なる曲作りの技法を組み合わせた彼らの虹色の輝き、それはまさにブラックメタルの生物発光。
重要なのは、彼らがそうしたインスピレーションを、自らが生まれ育った太平洋の海岸線、美しき海原と生命の神秘から受けていることでしょう。もちろん、今日ブラックメタルはその出自であるサタニズムの手を離れて、自然崇拝や少数派、弱者の代弁、スピリチュアリズムなど様々な分野に進出していますが、彼らも自らのアイデンティティを余すことなくブラックメタルに注いでいます。メタルにおける自己実現。それはきっと、とても尊いこと。
「作曲を始めるときは、いろいろなドラムのアイデアに合わせてギターを弾き、気に入ったものが出てくるまでその上で即興演奏するんだ。だから、インプロビゼーションを通して自然に生まれるものなんだよ。でも、僕たちのサウンドが人々の心に響くのは、イントロ部分の Chelsea の歌のおかげだよ。彼女もそのボーカルの多くを即興で歌うので、曲に自然なジャズ・フィーリングが生まれたんだ」
そうして唯一無二の方法で育まれた DAWN OF OUROBOROS の音楽は、当然ながら他のブラックメタルとは一線を画しています。現代的なブラックメタルとデスメタルが巧みに混ざり合う “Bioluminescence” の世界には、さながら深海を探索するようなポスト/プログのアトモスフィアが漂います。発光生物の多くが海に生息しているように、DAWN OF OUROBOROS の音色は明らかに水中のイメージを想起させ、ボーカルとギターのメロディーにはオワンクラゲのごとくみずみずしき浮遊感が存在します。
一方で、リズム・セクションが津波のようなシンセ・ラインとともに脈動し、激しいうなり声や叫び声が大空から轟いてくることもあり、この太平洋の神秘と荒波の二律背反こそがウロボロスの夜明けを端的に表しているに違いありません。
「僕たちは自分たちが好きな音楽を作ること以外を目指したことはなかったから、他のバンドがよくやること、当たり前なことなんて考えたことはなかったんだ。それに、Chelsea の声はそれ自身で彼女がいる意味を物語っていると思うし、何より彼女はハーシュ・ヴォーカルもクリーン・ヴォーカルも、他のヴォーカリストよりもうまくこなせるんだ」
そうした DAWN OF OUROBOROS の両極性を増幅させるのが、Chelsea Murphy の多面的なボーカルでしょう。ドリーミーな歌声と生々しい叫び声を瞬時に切り替える彼女の類まれな能力は、ROLO TOMASSI の Eva Korman を想わせるほどに魅力的。
“Slipping Burgundy” ではスムースでジャジーに、”Fragile Tranquility” では荒く、ほとんど懇願するようなトーンでリスナーの感情を刺激します。 先程までラウンジで歌声を響かせた歌姫が、まるで燃え盛るマグネシウムのまばゆい輝きのように耳を惹き、ハリケーンのように畏敬の念を抱かせるスクリームで世界を変える瞬間こそ圧巻。バスキングと威嚇を繰り返すウロボロスの円環はあまりにも斬新です。
今回弊誌では BOTANIST でも活躍する Tony Thomas にインタビューを行うことができました。「最近では、ALCEST や DEAFHEAVEN, 明日の叙景、LANTLOS, HERETOIR のようなポスト・ブラックメタルや、COMA CLUSTER VOID, ROLO TOMASSI, ULCERATE のようなプログレッシブ・メタルを探求しているね」 どうぞ!!

DAWN OF OUROBOROS “BIOLUMINESCENCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FROGG : ECLIPSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SKY MOON CLARK OF FROGG !!

“Obviously I LOVE Tech Death, But Yes, One Has To Admit There’s a Formulaic Approach To Both Production And Songwriting In The Genre.”

DISC REVIEW “ECLIPSE”

「特定のサブジャンルにこだわる必要なんてなくて、どんなアイデアも排除したくなかったんだ。 だから “Eclipse II” にはメタル・コア、Djent、フュージョンの要素があり、Will が演奏した何十種類もの楽器を使ったギター・ソロ・セクション、特にファースト・ソロで目立つタブラの妙技、そして黒く染まったシンフォニック・デスメタルのアウトロまでがある。 まさにそれが僕たちが感じていたものだった」
“Frogging the Horses” という SikTh の狂った名曲がありますが、Frogg の二つ名はプログ世界にとってはどうやら僥倖。”どんなアイデアも排除しない” という意味で、明らかにニューヨークのセンセーション FROGG はあの SikTh の魂を受け継いでいます。いや、SikTh だけではありません。00年代、SikTh と “カオス” の覇権を激しく争った PROTEST THE HERO の高鳴るギター・メロディ。ANIMALS AS LEADERS の超重低音とシステマティックな陶酔。BETWEEN THE BURIED AND ME の驚異的で雑多な構成力。NECROPHAGIST の性格無比な超速暴威。そうした21世紀を代表するプログ・メタルを養分として蓄えた巨大なカエルが今、メタルの境界をすべて飲み込みます。
「間違いなく Alexi Laiho だね。 僕がギターを弾き始めたのは高校1年生のときで、かなり後発組だった。 でも、ギター中毒になってしまって、ギターを弾くのを止められなかったよ。僕はPCゲーマーだったから、ネットで独学する方法を知っていたんだ。 Ultimate Metal Forums と sevenstring.org は、当時ギターを学ぶのに人気のサイトだった。まだYoutubeのコンテンツが豊富ではなかったから、フォーラムとギター・タブが主流だったね。僕は地元でフルタイムのインストラクターを雇う余裕がなかったから、Guitar Proが最初の先生だったよ」
そうした21世紀の多様性に FROGG はギター・ヒーローの魂を持ち込んでいます。奔放でカラフル、まるでメインストリームのポップ・ミュージックのように光り輝く “Wake Up” においても、Alexi Laiho から受け継いだ高速の “ピロピロ” がメタルの証を主張します。
実際、”フロッゲンシュタイン” などと例えられるパッチワークな FROGG の音楽において、Sky Moon Clark と Brett Fairchild のシュレッドがすべてを縫い合わせている、そんなイメージさえリスナーは感じることになるでしょう。Alexi Laiho と Guitar Pro の遺産が実りをもたらす時代になりました。”Double Vision Roll” なんて実に COB ですよね。
そうして紡ぎ出されるのは、テクニカル・デスメタルらしからぬスケール感と意外性、そしてお洒落なムード。空想的なメロディ、短いポップなブレイク、奔放な音楽的ショーマンシップに自由を見出した薔薇色のメタル。今の時代、”テック” だけでメタル世界の水面に波紋を広げることはできません。しかし、FROGG の棲む水面にはステレオタイプに飽きたリスナーが渇望する、ぞわぞわとしたカタルシスとカエルが舌を伸ばすようなお茶目な驚きと遊び心が混じった何かが渦を巻いています。まさに新時代のメタル両生類。
今回弊誌では、ボーカルも務める Sky Moon Clark にインタビューを行うことができました。「Will(ドラマー)はこのアルバムのもう一人の主要なソングライターで、BTBAM や SikTH に影響を受けている。 THE FACELESS, COB, SCAR SYMMETRY にはもっと影響を受けたと思う。 FFO (For Fans Of) にBTBAMに入れたのは、彼らが DIABLO SWING ORCHESTRA や UNEXPECT と並んで Will に大きな影響を与えたからなんだ」 UNEXPECT!!ARSIS の名盤を挙げているのも嬉しい。また Emma のショルキーが最高よね。どうぞ!!

FROGG “ECLOPSE” : 10/10

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MASTERPIECE REVIEW + INTERVIEW 【ATHEIST : PIECE OF TIME, UNQUESTIONABLE PRESENCE】 JAPAN TOUR 25′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KELLY SHAEFER OF ATHEIST !!

“In My Opinion, Death Has Zero To With The Pioneering Aspect Of Tech-metal, That Title Belongs To Atheist.”

DISC REVIEW “PIECE OF TIME” “UNQUESTIONABLE PRESENCE”

「もともとプログレッシブ・バンドや複雑な音楽が好きだったし、エクストリーム・メタルも好きだったから、そのふたつを組み合わせるのは自然なことだった。でも、それは決して意図的なものではなく、他の誰かになりたかった訳でもないんだよ。ただ自分たちがそうでありたかっただけで、でもありがたいことに、人々は私たちのユニークなアプローチを徐々に認めてくれるようになった。そして、私たちは自分たちの道を見つけたんだ。人々が最終的にそれを理解するまでには何年もかかったけどね」
デスメタルはその黎明期においてさえ、骨子である過激さに忠実であると同時に、境界を押し広げ、さまざまなサウンドを探求するジャンルとして進化を模索していました。それは、フロリダを一挙にデスメタルのメッカへと押し上げた MORBID ANGEL, OBITUARY, CANNIBAL CORPSE といった黎明期の偉人からの伝統。彼らにしても十二分に異様な音楽を叩きつけていましたが、それでも殻を破るバンドはいつの時代も出てくるものです。
特に90年代初頭には、デスメタルをそのコンフォート・ゾーンから脱却させ、よりプログレッシヴでテクニカルな道へと押し進めようとするバンドの波が押し寄せました。DEATH, CYNIC, PESTILENCE, NOCTURNUS といったバンドが、この奇抜でしかしあまりにも好奇心を誘う音楽の中心にいました。そして、そうしたバンドの “パイオニア” と自負するバンドこそ、ATHEIST です。
「CYNIC は私が契約するのを手伝ったバンドで、私は彼らのデモを Scott Burns と一緒に作った。Paul Masvidal と私は今でも数十年来の素晴らしい友なんだよ。
私の意見では、DEATH はテック・メタルのパイオニアという側面とは全く関係がない。そのタイトルは ATHEIST にこそ相応しい。DEATH は違う種類のメタルのパイオニアであり、プログレッシブになったのは CYNIC の私の子たちが Chuck Schuldiner と一緒になってからだ。それ以前の Chuck はとてもベーシックなプレイヤーだったからね」
もはや伝説となった CYNIC の Paul Masvidal や DEATH の Chuck Schuldiner をこのジャンルにおいては “ひよっこ” 扱いする ATHEIST の心臓 Kelly Shaefer。しかしその言葉に異論を唱える人は誰もいないでしょう。それだけ、ATHEIST と Kelly の功績はずば抜けていました。
「私にとってのお気に入りは、”Unquestionable Presence” だね。このアルバムでプレーしているすべての音を誇りに思う。でも、そうだね、4枚ともまったく違うアルバムだ。 そうなるべきだったんだ。だって、誰も同じアルバムを何度も聴きたくはないだろう。 でも、ATHEIST の雛形は “Unquestionable Presence” だと思うよ」
今年35周年を迎えた ATHEIST のデビュー・アルバム “Piece Of Time” は驚異的なテクニカル・スラッシュとデスメタルの要素をミックスした、オールドスクールでありながら破天荒、非常に狂暴なアルバムで、テクニカルな華やかさとプログレッシブな屈折がふんだんに盛り込まれた名品でした。
それでも ATHEIST の最高傑作に次の “Unquestionable Presence” を推す声が多いのは、おそらくプログレッシブ・デスメタル、テック・メタルというジャンルそのものの雛形を作り上げたから。この作品で彼らはオールドスクールなスラッシュ、デスメタルから離陸し、ジャズ/フュージョンがメタルといかに親密になれるかをその一音一音で証明していきました。
とはいえ、ソリッドなリフと辛辣なヴォーカルは健在。迷宮の中を浮遊して探索するような音楽の中で、リフはより複雑に、ギター・ソロは巧みさを増し、ベースとドラムは以前より遥かに印象的になりました。まだ Kelly はその巧みなギターを弾くことができましたし、ベーシスト Roger Patterson は悲劇的な死を遂げる寸前、このアルバムのためにベース・パートを書きあげていました。そうして、Roger の後任、CYNIC, PESTILENCE, ATHEIST を渡り歩いた稀代のベースマン Tony Choy の独特の音色はこのアルバムを真に特別なものへと昇華したのです。
今回弊誌では、Kelly Shaefer にインタビューを行うことができました。「テック・メタルは私たちから始まったのだけど、多くの人が私たちのアプローチを取り入れ、複雑な新天地へと進んでいったんだ。残念なことに、ジャズ・フュージョンとメタルを最初に激しく融合させたという点で、私たちが評価されることはほとんどないのだけどね」テック・メタルの起源、奇跡の初来日決定。どうぞ!!

ATHEIST “PIECE OF TIME” “UNQUESTIONABLE PRESENCE” : 10/10

ATHEIST ARE: Kelly Shaefer – lead vocals (1987–1994, 2006–present), guitars (1987–1994)
Dylan Marks – drums (2023-present)
Yoav Ruiz Feingold – bass (2019–present)
Jerry Witunsky – guitars (2023–present)
Alex Haddad – guitars (2023–present)

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COVER STORY 【DEATH : SYMBOLIC】 30TH ANNIVERSARY !!


COVER STORY : DEATH “SYMBOLIC” 30TH ANNIVERSARY !!

“I Feel, As a Fan, Not Even As a Musician, But As a Metal Fan, That I -Do- Have a Responsibility To Keep Metal Going And Alive And Do Whatever I Can Do.”

SYMBOLIC

Chuck Schuldiner は、脳腫瘍との闘病の末、2001年に他界しました。しかし、デスメタルのゴッド・ファーザーとして知られる彼の音楽的才能と革新的なビジョンは、メタルヘッズの心に永遠に残るでしょう。
物静かで物腰が柔らかく、動物も人間もこよなく愛する Chuck は、その死から四半世紀を経た今でもデスメタルの革新者として称賛され続けています。実際彼が残したもの、特に DEATH の後半においては、通常このジャンルによくある攻撃的で暴力的なテーマとは対照的でした。チャーミングで茶目っ気たっぷりのフロントマンは、しばしば同業者の悪魔的なイメージを否定し、インタビューでは子猫の飾りがついたシャツを着るほどでした。彼は最終的に、象徴的な DEATH のロゴのデザインを変更し、オリジナルの逆十字架を排除して、宗教的(または神聖な)慣習から自身を切り離しまでしたのですから。
加えて今日、私たちはエクストリーム・メタルの話題にプログレッシブな音楽性やアティテュードを取り入れることを当然と感じていますが、20数年前のアンダーグラウンドはそうではありませんでした。CANNIVAL CORPSE のようなバンドが “Orgasm Through Torture” のようなトラックで名を馳せていた一方で、Chuck のような穏やかな人物が、リリックを通して無毒な男性性を模範的に示すことは、純粋に先進的だったのです。
同時代のアーティストと比べると、Chuck には必ずしも典型的なデスメタルのネタではない歌詞で社会問題に取り組む意識がありました。”Spiritual Healing” の “Altering The Future” では、中絶といういまだに議論されているトピックを取り上げました。
「もし僕が女性だったら、子供を産むか産まないかの選択をしたいと思うに違いない。アメリカでは、多くの新生児が望まれなかったために殺されている。女性が妊娠に気づき、子供を望まない場合は、すぐに中絶を選んだほうが救われるんだ」

“Scream Bloody Gore” のホラーへの偏執から、後の作品で見せた超越的なスタイルへの進化。しかし初期においてさえ、”Zombi Ritual” のような曲で彼は哲学的な傾向を示していました。苛烈な慟哭の中の自虐の悪夢、そして暗い誘惑。ゾンビの呪われたゴブレットから酒を飲むことに投影された淫らな憧れ。Chuck は最初から教えてくれていました。人間の意識は渦巻き、暗く、複雑で、それを響かせる音を求める者もいるのだと。
「僕たちは皆、死に魅了され、怖れを抱き、自分が死んだ後に一体何が起こるのか誰もわからない。できることなら永遠に生きていたいよね」
音楽的にも、哲学的にも、典型的なデスメタルから完全に脱皮を果たし、Chuck が望んだ “不老不死” をメタル世界で実現したアルバムこそ、今から30年前にリリースされた “Symbolic” でした。本作は間違いなくChuck と彼のアンサンブルの、いや数あるヘヴィ・メタル作品の中でも最高傑作だと言えるでしょう。そして、30年の月日を経てもいささかも色褪せることのないその魅力。
90年代初頭から中盤にかけては、グランジの台頭によりメタルの多様化が始まり、モダン・メタルの基礎を作り上げた競争の時期でした。特に1995年は、革命的なアルバムの当たり年で、CARCASS の “Heartwork” が50万枚、PAPADISE LOST の “Draconian Times” が30万枚、AT THE GATES の “Slaughter of the Soul” が20万枚を売り上げる中、ロードランナーに移籍を果たした DEATH の “Symbolic” は25万枚を売り上げ名実ともに新時代のメタルを牽引する存在となりました。
明らかに “Symbolic” は、初期の作品 “Leprosy” や “Scream Bloody Gore” の狂気と、プログレッシブな “Human” や “Individual Thought Patterns” の技巧に、研ぎ澄まされた旋律の美しさを組み合わせた新たなステップでした。”Spiritual Healing” から始まった進化の息吹は、”Symbolic” において絶対的な完成度に達したのです。

まず、目を惹くのが歌詞の成熟でしょう。特に “Human” や “Individual Thought Patterns” では、哲学性を帯びながらも音楽ビジネスや元メンバーとの関係に関する歌詞が多かったのに対して、”Symbolic” では社会的なテーマが明らかに増えました。当然、初期のデスメタル・ファンタジーはもうここにはありません。そして驚くべきことに、当時 Chuck の考えていたことはさながら予言書のように30年後の未来を見通していました。
「”Crystal Mountain” というタイトルはある意味ファンタジーのように聞こえるけど、実際はフロリダの元隣人とのトラブルについて歌っているんだ。彼らは宗教狂信者で、偏屈で、ある意味 “クリスタル・マウンテン” と呼ばれる “クリスタルのような完璧な世界” に住んでいて、あらゆるものに反対していた。周囲のすべてのものを否定し、批判した。宗教は確かに悪いものではないが、他人を傷つけて気分を良くし、日曜の朝には教会に行って神に許しを請う……というようなものだとしたら、あまりうまくはいかないだろうね(笑)。だから “Crystal Mountain” は確かにいいタイトルだったけど、ファンタジーとはまったく関係ない。
“Symbolic” には僕にとって重要な歌詞がもっとあるんだ。”1000 Eyes” は犯罪の増加について歌っている。これは世界的な問題だけど、ここアメリカではおそらく最悪だ。最近、テレビでドキュメンタリーを見たんだけど、数年後には各通り、各家、各アパート、各トイレ、あらゆるところにカメラが設置され、すべてを管理し、法の目として機能するようになるだろうと言われていた。そして、もし僕たちがそれに対して何もしなければ、この “何千もの目 ” が僕たちを狩ることになるだろう!プライバシーなんてなくなってしまう。でも、ここフロリダでは、車を盗むために誰かに殺されるのを恐れなければならない。これが最新の “ファッション” だ!車のために誰かに殺されるなんて、本当に正気の沙汰とは思えない!」

SNS時代を見越したような楽曲も存在します。
「”Perennial Quest” は人生における幸福感、その永遠の探求について。僕たちは常に何かを求めていると思う。しかし、それを阻むさまざまな障壁がある。例えば、嫉妬、評判、世間体、欺瞞などだ。これらはすべて、人が純粋に望むものに到達するのを妨げる害悪だ。僕は自分の人生を生きたいし、生活費を払い、犬や猫に餌を与えたいだけだ。誰にも迷惑をかけず、かけられず、ただ望むように生きていたい。僕の人生は終わりのない探求なんだ。
“Without Judgement” もそうだね、世論について歌っているんだ。アメリカでは音楽業界もメディアも噂で溢れている。一生を通じて、誰かが君に対して何らかの意見を持ったり、批評したがったりしていると思う。でもね、髪が長かろうが、小柄だろうが、背が高かろうが関係ないじゃない。自分の人生を生きろよ。多くの人は自分を批判しないけど、他人を批判したり批評したりするのには熱心なんだよな。
“Empty Words” はまさにそんな奴らが吐く空っぽの言葉について。人生の義務、特に人生そのものへのコミットメントや信頼の欠如は、しばしばその言葉の意味を知らない人々によって攻撃される。彼らは何の責任もなく何も知らないことをしゃべりまくるだけなんだよ。僕はそういう無責任な奴らに “Zero Tolerance” まったく我慢ができないんだ」
もちろん Chuck が愛する動物への言及も。
「”Sacred Serenity”。この曲は動物について歌っている。僕にとっては特に犬や猫だ。彼らは命の終わりについて何も知らないし、とても自由奔放だ。僕たちは自分の命がいつ終わるのかを疑うかもしれないけど、彼らは何の疑問も抱かず、自分の人生を分析することもなく、ただ純粋に生きている。だからこそ、僕にとっては動物たちが気持ちよく、幸せであることがとても重要なんだ」
そうした様々な Chuck Schuldiner の集大成的なアルバムゆえにタイトルは “Symbolic” に落ち着きました。
「タイトル曲 “Symbolic” の歌詞は回顧的なもので、僕のこれまでの人生に対する振り返り。無邪気な子供がどのように世界を見ていたのか、それを大人の僕がどのように見ているのか、自分がどのように意見を変えてきたのか、どのように音楽を始めたのか、この音楽がどのように進化してきたのか等々。Symbolic(象徴的)という言葉は、アルバム全体のタイトルをつけるのに十分な力を持っていると思った。”Symbolic” の歌詞はすべて現実について歌っていて、そのためか前2作のような怒りや邪悪さはない。この2枚のアルバムでは、僕は苛立ちや複雑な感情を振り払おうとしていたんだ」

中絶(”Altering the Future”)、末期患者の闘い(”Suicide Machine”)、死ぬ権利(”Pull the Plug”)といった重要なテーマに取り組んでいた Chuck は、デスメタルの音楽と歌詞が邪悪で、悪魔的で、全速力でプレイすることだけが目的になってしまったことに苦言も呈していました。
「今の (90年代中盤の) デスメタルは僕が夢中になっているものとは全く違う。基本的に僕の生き方は、周りに良い人がいること。動物も好きだし。普通のことが大好き。ビーチに行くのも好き。すべてが普通。世の中には、人が転げ落ちたり、人生でうまくいかなくなったりするのを見たがる人がたくさんいることに悩まされる。他人の人生をくよくよ考えている暇はない。世の中には、何もしない人がたくさんいる。噂を立てたり、人の悪口を言ったりしてね。僕はネガティブなことには興味がないんだ。今のアメリカのメタルの状況は、とても歪んでいる。音楽的に安易な道を選び、みんなお互いにコピーし合っている。このアルバムは、みんなの真ん中に投げ入れて、”ほら、これを持っていけ!”と言うのにちょうどいいアルバムだと思う」
歌詞が変わったのは、派手なショービジネスに向かない Chuck がそれでもファンの力を得て、人生が良い方向に変わったからでした。
「生活のすべてが整理され、誰に頼ればいいのか、誰を頼んではいけないのかがわかるようになった。特に90年代の始めはそうではなかったし、僕自身もバンドも、二度と繰り返したくないような状況を経験してきた。例えば、あるファンからの手紙には、僕についてマスコミに何を書かれ、何を言われても気にしない、ただ僕の音楽が好きだから続けてほしい、と書いてあった。それは僕にとってもバンドにとってもとても助けになったんだ」

DEATH はメンバーの入れ替わりが激しいバンドでしたが、ドラムに Gene Hoglan, ベースに Steve Di Giorgio、ギターに Andy LaRocque, ツアー・メンバーに Ralph Santolla, FORBIDDEN の Craig Locicero を擁した “Individual Thought Patterns” 期を推す声が多いようにも思われます。しかし、”Symbolic” のラインナップも素晴らしいものでした。
「新しいラインナップも天才的だ。Craig はもちろん素晴らしいギタリストで、ヨーロッパ・ツアーでは完璧な関係を築けたし、とても楽しかった。でも、新しいギタリストの Bobby Koelble もクールだ。どちらが優れているとは言いたくない。2人ともギターのスタイルが比較的似ていて、大のトラディショニストだし、僕のコンセプトに完璧にフィットしている。新しいベーシストの Kelly Conlon も同じだ。彼ら2人には、他の活動の脅威はないし、DEATH 以外の仕事もない。二人ともプログレッシブ・ハード・ミュージックを演奏していた地元のバンド出身なんだ。だから、DEATH にとっては最高の条件なんだ。新しいバンド仲間を探すにあたって、Gene と僕は大物や偉大な名前には興味がなかった。僕らにとってモチベーションを与えてくれる人、そして僕らとうまくやっていける人を探していたんだ。ふたりとももオーランドとその近郊の出身で、とても近いから、遠くへ行く必要はない。それは大きなアドバンテージだ」
中でも、Gene Hoglan への信頼は特別なものでした。
「Gene はいい奴だし、同じバンドで一緒にプレイするのは本当に素晴らしいことだ。僕たちには多くの共通点がある。Gene は DARK ANGEL でプレイしていた時、最も好きなドラマーの一人だった。僕と一緒にいてくれて、”Symbolic” で彼が自分の楽器に自由を与えてくれたことを嬉しく思っているよ。今、僕は音楽についての考えを共有してくれる男を味方につけた。ドラムは僕らの音楽にとってとても重要な楽器だし、音楽的にも個人的にも Gene との良好な関係が “Symbolic” を素晴らしいアルバムにしていると思う」

“Individual” のサウンドではベースが大きな役割を果たしていましたが、”Symbolic” ではギターがより支配的です。フレットレス・モンスターの不在が影響していたのでしょうか?
「そんなことはないよ。Kelly も Steve と同じくらい有能だし……ギターが支配的になった最大の理由は、新しいプロデューサーの Jim Morris だ。彼が僕らのサウンドを “オープン” にしてくれたんだ。”Individual” のギターは少し泥臭く聴こえ、ベースがサウンド全体で重要な役割を果たしたのはそのせいかもしれない。”Symbolic” では、ギターはより率直で、ストレートで、シャープになった。このテーマについては、スタジオ・ワークが始まる前にジムと話していて、僕たちがどのようなサウンドにしたいかを伝え、彼はあらゆる面でそれを理解してくれた。ドラムの音も同じだった。それまではどのアルバムでも、ドラムの音はそれほど良くなかったし、明るくもなかった。それが改善されたのはジムの経験と関係していると思う。Jim は、ポップ、ロック、ブルース、コマーシャル・ハードロック、メロディック・メタルなど、まったく異なるスタイルの音楽を演奏するバンドと何度も仕事をしてきた。彼の経験は、僕たち、ひいては “Symbolic” を大いに助けてくれたね。 “Symbolic” 制作当時、前任者の Scott Burns は他のバンドをプロデュースしていた。彼は僕らのために時間を割いてくれなかった。Jim との協力については以前から考えていて、可能性が出てきたときにチャンスをつかんだんだ。必ず次のアルバムのプロデュースをしてくれると思っていたので、本当に嬉しかった!」アコースティック・ギター、シンセサイザー、よりメロディアスなリフやソロ、歌いアジテートするボーカル・テクニックなど、物理的にも DEATH は典型的なデスメタルから進化を続けていました。
「まず、アルバム “Human” に収録されている “Cosmic Sea” と比べると、”Symbolic” ではシンセサイザーが一切使われていない。アルバムのレコーディング中、Jim には “みんなシンセサイザーだと思うだろうね”と言ったんだけど、その通りだった(笑)! そしてメロディよルーツは70年代や80年代の音楽、クラシック・ロックやメタル・バンドにある。”Symbolic” は僕らにとって自然な進化の結果であり、ルーツを裏切ることのない進化なんだよ」

Chuck は DEATH の進化の過程、そのすべてを抱擁していました。
「どのアルバムにも満足しているよ。どのアルバムも、その時の僕の音楽と人生に起こっていることを表現している、とても重要なアルバムだった。とても原始的なデビュー・アルバム “Scream Bloody Gore” を聴いていると、何も偽りのないアルバムで、今の DEATH のベースになっていると言わざるを得ない。当時の僕たちが何に悩み、どう表現し、どう考えていたのか、何が僕たちにとって重要だったのか、そして年月を経てどれだけ基準が変わったのか、微笑ましく思わざるを得ない。
“Leprosy” は間違いなく一歩前進だった。よりテクニカルで、僕たちが将来どこに向かっていくかはすでに明らかだった。”Spiritual Healing” は、主にプロダクションの面で非常に進歩的で、しかも Scott Burns との初めての共同作業だった。”Human” は、これまでのアルバムよりもアグレッシブでプログレッシブ、しかもとてもダークなアルバムになった。
そこからまた、”Individual Thought Patterns” は一歩前進したアルバムだった。僕は、バンドがほとんど同じアルバムを2枚続けてリリースすること以上悪いことはないと言っている。僕の好きなバンドもこういう感じだよ。すでに聴いたことがあるようなことを繰り返したいと思ったことはない。”Symbolic” ではその心配はないと思う」
DEATH はもはや Chuck にとって、”ライフワーク” のような存在となっていました。
「このバンドを離れることは絶対にない!DEATH での仕事に支障が出ないなら、プロジェクトやサイド・バンドに入る準備はできているけどね。例えば、DIO の次のアルバムでギターを弾くというようなオファーがあれば受けるだろう。クラシックのヴォーカリストと仕事をしたいとも思うし、それは僕にとって楽しいことだ。でも DEATH を放っておくわけにはいかないんだ!」
最終作 “The Sound of Perseverance” でプログレッシブとメロディのさらなる高みを目指したのち、CONTROL DENIED で新たな地平を開拓。そうして、2001年に悪性の脳腫瘍であまりにも短かすぎる34年の人生に幕を閉じました。バンド名 DEATH の由来には、兄フランクの若くしての死が影響しているといわれています。そう、死は結局、誰もが行き着く場所。特別なことではありません。Chuck の才能と功績、そして早すぎる死によって彼は伝説となり、神格化されましたが、あくまでも本人は “普通の” Chuck Schuldiner でいたかったのです。

「余暇はペットと遊ぶのが好きなんだ。海辺を散歩したり、釣りをしたり、友達と会ってハンバーガーを作ったり、ビールを飲んだり、映画を観たり、ビデオを観たり…ファンの中には、”邪悪な” 余暇の過ごし方を期待している人もいるかもしれないけど、今は誰も失望させていないことを願っているよ (笑)。僕たちは皆、動物と自然が好きな普通の幸せな男たちだ。それがこの多忙なビジネスにおいて最も重要なことだ!自分を名声に溺れさせず、普通の生活を送ることが大切なんだ」
メタルに関しても、いつまでも “ファン” の目線を失うことはありませんでした。
「変に聞こえるかもしれないけど、僕はただ自分の道を進んで、自分のことをやって、どんなものが出てきてもみんなが喜んでくれればいいという感じだ。一人のファンとして、ミュージシャンとしてではなく、一人のメタル・ファンとして、僕にはメタルを存続させ、生かし、できることは何でもする責任があると感じている。それはミュージシャンとしての僕よりも、ファンとしての僕の側面だ。僕は今でもファンであり、人々はそのことを忘れているかもしれないと思う。多くのバンドマンはファンになることをやめてしまう。大物バンドのレコードを聴けば、彼らがメタルのファンをやめてしまったことがわかる。METALLICA のようなバンドが、自分たちはもうメタル・バンドではないし、メタル・バンドと呼ばれたくもないと言っているのは残念だよ。メタルで大成功を収めたのにね (笑)」
実際、Chuck はあまりにも謙虚で、自らの素晴らしい功績にもまったく無頓着で気がついていませんでした。Gene Hoglan が振り返ります。
「Chuck はとても穏やかで、動物とガーデニングが大好きだった。音楽業界は好きではなく友人が大好きだった。デスメタルの父で偉大なシェフ。美味い料理を沢山作ってくれたんだ。俺に音楽的な手錠をかけることは一度もなかった。彼の遺産は生き続けるよ。でも Chuck はデスメタルの”ゴッドファーザー”と見なされることにいつも不快感を感じていたね。自分はその称号に値しないと感じていたようだね。先人達に譲ろうとしていたよ」

最後に、弊誌のインタビューで Chuck について言及してくれたアーティストたちの言葉を置いておきましょう。
「Chuckとの思い出は僕を笑顔にしてくれるんだ。彼が充実した作品とインスピレーションを、次の世代に残してくれたことが嬉しいからね。Chuck はその人生を音楽に捧げ、いつも新たなことを学ぶ意欲を持ち、自身のアートを広げていったんだ。そういう点がアーティストとしての僕たちを結びつけたんだと思う。きっと彼は僕の中にも、創造的な精神を見つけていたんだろうな – Paul Masvidal (CYNIC)」


「君の演奏を見て、デスメタルの話ばかりしていたあの頃が懐かしいよ。君はまだ誰も気づいていない頃から POSSESSED の革命性を理解してくれていた。君のお陰でメタルの世界はより良い場所になったんだよ。天国で会おう! -Jeff Becerra (POSSESSED) 」


「Chuckは偉大な男で、プロデューサー、エンジニアだったね。素晴らしい時間を過ごしたよ。実に創造的なね。僕がフロリダに着いた時、すでにリズムギターのレコーディングはほぼ終わっていたから、僕は自分のソロパートに集中することができたね – Andy LaRocque (KING DIAMOND)」


「政府がクリエイティブな人々、音楽家、画家、表現者に対してどれほど無関心であるかを悟ったよ。私たちはかなり長い間、資金援助も何もない状態で監禁されていた。Chuck が言うように、まさに彼ら権力の “Secret Face” “秘密の顔”を示していたと思うよ – Patrick Mameli (PESTILENCE)」

参考文献: COC : DEATH Interview

EMPTY WORDS ORG.

KERRANG! :Life After Death: The romantic legacy of Chuck Schuldiner

REVOLVER :DEATH’S CHUCK SCHULDINER REMEMBERED

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INGURGITATING OBLIVION : ONTOLOGY OF NOUGHT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FLORIAN ENGELKE & NORBERT MULLER OF INGURGITATING OBLIVION !!

“I Find The Now “Industrially” Standardized Production And Songwriting In Metal Music Boring And Annoying. It’s Become Boring As Hell.”

DISC REVIEW “ONTOLOGY OF NOUGHT”

「メタル・ミュージックは、今や “工業的に” 標準化されたプロダクションとソングライティングが退屈で腹立たしいものになった。地獄のようにつまらなくなった。こういう図式化された大量生産物の一部にはなりたくない。プログ・メタルの50%でさえ、画一化されている。もちろん挑戦すれば、ボツになったり、プロダクションを台無しにするリスクは常にあるけど、それを跳ね返していきたいんだ」
その並外れた生命力と感染力で世界中に種を蒔き、芽吹かせてきたヘヴィ・メタル。しかし、これほど裾野が広がった世界においても、真に挑戦的な音楽を志すアーティストは決して多くはありません。それはある意味当たり前のことでしょう。アーティストも我々と同じ人間です。普通に生活して人気を得、承認欲求を満たすためにはある程度 “アート” を犠牲にしてでも認知され売れることが必要だから。しかし、INGURGITATING OBLIVION にそんな “打算的” 考えは毛頭ありません。
「僕が常に心がけているのは、何よりもまず自分が好きで、個人的に満足できる音楽を作ることだ。それはアーティストの特権だ。僕たちは、ただ共有するのではなく、音楽を録音し、ある時点で発表/共有することを選んだ。これはもちろん、批判や嘲笑を浴びるリスクを伴う。信じてほしいのだけど、僕はメタル・シーンやそれ以外の世界で、僕たちのバンドをうっとうしい、気取っている、つまらない、長い、はっきりしない……何でもありだと心から思う何百人もの人々に会ってきた。幸いなことに、それでも僕はあまり気にしていない。僕たちの蛇行した複雑な音楽表現を楽しんでくれている素敵な人たちの輪があるから」
書籍を出版するほどの本物の哲学者 Florian Engelke 率いる INGURGITATING OBLIVION は、ただ自分たちが満足できる音楽と哲学のみを “Ontology of Nought” に記録しました。だからこそ、パターンも、手がかりも、建築的根拠も、どこにも見つからない。まったく脈絡がないままに、しかし壮大な迷宮が完成していく。デスメタルを名乗るものにこれほど迷わされ、興味をそそられたことは未だかつてありません。
不協和音、途切れ途切れのリズム、漆黒のインテンシティ、テクニカルなアルペジオ、フレットレスの夢幻、スポークンワード、呪術的なアトモスフィア、凶悪なノイズが結びついたアヴァンギャルドな地下大迷宮は1時間15分近くに及ぶ5曲からなり、さまざまな楽章に分かれています。忍耐強く、有機的に、しかし盲人が盲人を導くような意図と方向性をもって彼らの “バベルの図書館” は刻々と変化していきます。
「僕に言わせれば、人は形成期というものを経験する。僕の場合、それは MORBID ANGEL, OBITUARY, DISINCARNATE, MY DYING BRIDE といったバンドだった。彼らの印象は今でも僕の中に残っている。でもDjent全体は、ほんの短い間だけ楽しめたものだった。それがすべて過ぎ去り、印象が残って、次に進んだのかもしれないけどね」
彼らの生み出す音の迷宮は、Djent のように機械仕掛けで精密なものではありません。むしろ、デスメタルがその凶暴を発揮し始めた90年代初頭の、おどろおどろしい混沌を百鬼夜行の壮大さで実現した狂気。そこにバルトークやライヒのような現代音楽の実験や、フランク・ザッパとマイルス・デイヴィスの挑戦を込めた奇々怪界は真に唯一無二。だからこそ、有機的で、実存的で、革命的な音楽が生まれるのです。
今回弊誌では、INGURGITATING OBLIVION にインタビューを行うことができました。「僕らのバンド名が哲学的に聞こえる主な理由のひとつは、僕がある時期哲学を勉強していた(その後、言語学に科目を変更した)という事実そのものにあると思う。だから、自然と哲学的なことや根源的なことに関心を持つようになったんだ。いくつかの古典(孫子、老子、ソクラテス、プラトン、デリダ、ニーチェ、そして宗教的/精神的な経典の数々)を読み、政治的/哲学的な言説に親しみを持っているからね。2024年初頭、僕はRoutledgeから “The Ethical Bottomline(倫理的ボトムライン)” というタイトルの最初の本を出版したんだ」 Tom Fountainhead がフレットレス・ギターを奏でるツールはEBOW ( 弦に近づけるだけでサスティンをコントロールできるアタッチメント。バッテリー駆動でバイオリン、ホーンや木管楽器のようなハーモニーを奏でることができる)。どうぞ!!

INGURGITATING OBLIVION “ONTOLOGY OF NOUGHT” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BEDSORE : DREAMING THE STRIFE OF LOVE】 CHRISTMAS SPECIAL 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BEDSORE !!

“There’s So Much Metal In Emerson Lake, & Palmer―What Could Be More Metal Than Karn Evil 9? “

DISC REVIEW “DREAMING THE STRIFE OF LOVE”

「”Karn Evil 9″ 以上にメタルなものがあるだろうか?そして H.R. ギーガーによるジャケット・アートも!組曲タルカスはなぜ、実際にはメタルでないのに、どうしてあんなにヘヴィで重厚に聴こえるのだろう?通常のメタルの定型に従った要素でなくても、何かが迫ってくるような雰囲気感を出すことができるんだ!」
YES, PINK FLOYD, KING CRIMSON, それに RUSH といったプログレッシブ・ロックから影響を受けたメタル・バンドは少なくありません。プログ・メタルという “プログレ” の系譜を受け継ぐジャンル以外でも、メタルはプログの恩恵を常に受けてきました。ただし、メタル世界で EMERSON LAKE & PALMER の名前が挙がることは、他の偉人と比べれば明らかに少なく思えます。それは当然、メタルの花形であるギターがそこにほとんどなかったから。
しかし、音楽そのものを考えれば、ELPこそメタルに最も親和性があるのではないでしょうか? “Karn Evil 9” や “Tarkus” の暗がり、重厚さ、そして圧倒的な迫力はまさにヘヴィ・メタルが目指す場所。一方で、”The Endless Enigma” や “Pirates” で見せた壮大なキャッチーさもまた、メタルが育んできたジャンルの魂。BEDSORE は、ELP と70年代のプログ、ダーク・メタル、そして母国イタリアへ “心からの愛を込めたファンファーレ” を贈るメタルの新鋭です。
「1970年代にはジャズ、フォーク・ロック、クラシック音楽が融合していたプログレッシブという考え方が、20世紀後半におけるこのジャンルの進化を通じて、半世紀後にエクストリーム・メタルと自然に融合するようになるとは誰が想像できただろうか。しかも、それは可能な限り有機的な方法で起こった。それこそが、僕らがプログが死なないと言った素晴らしい証明なんだよ」
OPETH が、BLOOD INCANTATION が、そして BEDSORE がメタルとプログを自然に融合させた事実こそ、”プログレ” が死なない理由。プログレが今も “プログレッシブ” である証明。そう彼らは信じています。彼らが願うのは、伝統と未来の有機的な融合。実際、その機運は BLOOD INCANTATION の大成功により、完璧に満ちました。
ただし、BEDSORE が OPETH や BLOOD INCANTATION と異なるのは彼らがイタリアの血を継いているところ。”プログレ大国” で彼らが養ったのは、LE ORME や PFM, BANCO に宿った音楽的な複雑さと感情表現を融合させる能力。創造的な自由、意志と思考の深さ。DEATH SS や DEVIL DOLL, GOBLIN のホラー。そして、イタリア語を駆使したルネサンスの精神とテーマ。
「僕たちは、テクニックのためのテクニカルな名人芸はあまり好きではない。僕たちはテクニックを “使って” 音楽を考え、構成し、アレンジする人を好むんだ。なぜなら、それが唯一才能を磨く手段だから。そもそも、テクニックは筋肉で鍛えるものだと考えられていたけど、Keith Emerson と Rick Wakeman は、この考えを完全に覆した。彼らはヴィルトゥオーゾ的な楽器奏者であったけど、何よりも思慮深い作曲家であり、そのヴィルトゥオーゾ性を適度に使うことに長けていた」
BEDSORE が過去から持ち帰ったのは70年代の音楽や精神だけではありません。廃れてしまった、メタルにおけるキーボード、鍵盤の美学を彼らは今に蘇らせます。Emerson や Wakeman があの楽器に託したもの。それは決して、筋トレやオリンピック的な哲学ではなく、思慮深さと色彩、クオリティ。そのスキルは、音楽の流れ、構造、感情を導く光。そうして、メロトロンのハミングとムーグの煙はプログの “イメージ” を完璧にかき立てます。イメージの詩。プログの色彩は、想像力に無限の広がりを与え、名状しがたい情感をもたらします。それはきっと、ファシズムに屈した世界にもたらす、一筋の光。
今回弊誌では、BEDSORE にインタビューを行うことができました。「僕たちは日本文化の大ファンだ。新世紀エヴァンゲリオンや AKIRA のようなアニメ、伊藤潤二や宮崎駿の作品、北野武や三池崇史の映画は、何度も僕たちに視覚的なインスピレーションを与えてくれた。Boris、Church of Misery、Flower Travellin’ Band、Mono、Boredoms、そして最近の Funeral Moth、Minami Deutsch、”2021 Split” でコラボレーションした Mortal Incarnation などのバンドは言うまでもないよ」 YSE の “Relayer” みたいな雰囲気もありますね。かっこいい!どうぞ!!

BEDSORE “DREAMING THE STRIFE OF LOVE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCYTHE OF SORROW : RAVEN’S CRY OF DESPAIR】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PETTERI SCYTHE FROM SCYTHE OF SORROW !!

“From The Moment I First Heard CoB, Alexi Became My Greatest Idol And Role Model As a Musician. His Music And Lyrics Have Helped Me Through Many Difficult Moments In Life.”

DISC REVIEW “RAVEN’S DRY OF DESPAIR”

「彼の死を知った日のことはよく覚えている。妻と僕はヘルシンキで大晦日を祝った後、ポーランドに戻ったところだった。当時、僕はヘルシンキにいたけど、まだここには住んでいなかった。僕のアイドルが亡くなったとき、同じ街にいたことを知り、とても恐ろしい気持ちになったんだよ。
その日は受け入れることができなかった。彼はまだ若く、これからの人生もあった。僕は彼の新しいプロジェクト、BODOM AFTER MIDNIGHT に大きな期待を寄せていたし…。ああした結果になってしまったのは悲劇だよ。特にコンサートの前夜は、よく墓地に彼を訪ねるんだ。 彼が恋しいよ…」
伝説が、英雄が亡くなった時、私たちは大きな喪失感に襲われます。心にポッカリと穴が空いたような、空虚で無力で無気力な日々。押し寄せるのはただ悲しみだけ。4年前の年の瀬、ヘヴィ・メタル・コミュニティ全体がそんな状態に陥りました。CHILDREN OF BODOM の心臓で、唯一無二のメタル・ヒーロー Alexi Laiho がこの世を去ったのです。依存症というヘヴィな話題も、私たちの心を突き刺しました。
喪失感や痛み、空虚な心はある程度、時間が癒してくれます。あれから4年の月日を経て、私たちはそれでもやっと、CHILDREN OF BODOM がもう決して戻らないことを受け入れ始めました。彼らの音楽を聴き継いでいくことで、ありし日の姿を語り継いでいくことで、Alexi はずっと心の中に生き続けると。そしてもちろん、Alexi は自らの音楽以外にも、”影響” という大きな遺産を残してくれています。あの日、同じ悲しみに身を裂かれた Petteri Scythe はまさに Alexi の大いなる遺産で今、彼らの穴を埋めようと奮戦しています。
「CHILDREN OF BODOM を初めて聴いた瞬間から、Alexi は僕のミュージシャンとしての最大のアイドルで、ロールモデルになった。彼の音楽と歌詞は、人生における幾多の困難な場面で僕を助けてくれたんだ。もし彼と彼の音楽がなかったら、SCYTHE OF SORROW を作るためにポーランドからフィンランドに移住することもなかっただろう。彼はミュージシャンとしての僕にとって、常に究極のインスピレーションであり続けるだろうね」
Petteri の言葉通り、SCYTHE OF SORROW は CHILDREN OF BODOM の大いなる息子であり、Alexi の目指した未来を切り開く者。もちろんこれは彼らのデビュー作で、偉大なるレジェンドのレベルにはまだ及びませんが、それでもフレーズの端々に、テクニックの切れ味に、メロディの輝きに、私たちは “影の口付け” を垣間見ます。
「僕の一番ははいつもこれ。”Something Wild”。文字通り…ワイルドだからね。すべてから怒り、攻撃性、情熱が感じられる。 特に “In The Shadows” と “The Nail” が大好きなんだ。
次に “Follow The Reaper”。ちょっと皮肉なことに、ほとんどの人が “Hate Crew Deathroll” を選ぶだろうけど、僕はこのアルバムこそが世界への扉を開いたと信じているんだ」
もちろん、”赤青緑が好きなんだったらもっとネオクラに振ってくれ!” とか、”バカクソ長いソロセクションやインタープレイがあってもいいんだよ?” とか、”もうちょっと歌に説得力が欲しいなあ” とかいろいろあるでしょうけど、このキラキラなメロディック・デスメタルとあのギター、あのシルエットがもう一度私たちの前に降臨した…まずはその奇跡を喜ぼうではありませんか。
Petteri が EUROPE や Alexi の愛した GUNS N’ ROSES の大ファンというのも、ポイントが高いですね。今はまだ “Follower the Reaper” かもしれませんが、あの大鎌はいつか我々の喉元にきっとズブリと突き刺さるはずです。
今回弊誌では、Petteri Scythe にインタビューを行うことができました。「世界で最も人気のあるジャンルではないかもしれないが、ここフィンランドではかなり好調だ。 トラディショナル・ヘヴィ・メタルのニュー・ウェーブのように、メロディック・デスメタルのニュー・ウェーブが来るかもしれない。僕たちがその一部になれることを願っているよ!」 もうね、曲が疾走を始める寸前のアジテーション…あれだけで涙腺ダバダバですね。どうぞ!!

SCYTHE OF SORROW “RAVEN’S CRY OF DESPAIR” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SKINFLINT : BALOI】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GIUSEPPE SBRANA OF SKINFLINT !!

“No Metal Bands Were Covering African Mythology And Tales. So I Wanted To Incorporate This Element Of Our Culture Into The Music. I Feel These Tales Are The Most Important Aspect Of Skinflint.”

DISC REVIEW “BALOI”

「アフリカでは多くの人がメタルに触れる機会が少なかった。ラジオ局でメタルが流れていなかったり、自分の周りにメタルについて知っている人がいなかったりすれば、やっぱりメタルに出会うことはなかっただろう。今はインターネットが普及し、人々はより簡単に様々な種類の音楽にアクセスできるようになったからね」
モダン・メタルに宿る寛容さが羽ばたかせたメタルの種子は、今や世界中に飛散し、芽吹き、華麗な花を咲かせようとしています。モダン・メタルの生命力は実に瑞々しく、行く手を遮るさまざまな障壁を壊し、世界各地の文化を包容し、その硬質な高揚感や知性を感染させていきます。
それでも、アフリカ大陸にメタルが根付くまでには長い時間を要しました。ライブがなかったり、渡航費が高かったり、ラジオでかからなかったり、そもそもメタルの存在自体が知られていなかったりで、近年までこの場所はまさにメタル不毛の地だったのです。
「ボツワナでは、メタルをブッキングしてくれる会場やプロモーターが絶対的に不足している。多くの人は、地元にシーンがあることさえ知らない。アフリカでの旅費は非常に高く、距離も離れているしね。さらに、ライヴは週末や月末にしか行われない。そのため、ツアーは非常に難しく、ほとんどのバンドはここでツアーさえ行おうとしないんだ。ステージもPAシステムも、スタジオだって自分たちで作らないといけない。とてもDIYなんだよ」
しかし、インターネットの普及によって、アフリカでもメタルは徐々に身近なものになりました。チェニジアの MYRATH や、南アフリカの VULVODYNIA、アンゴラの BEFORE CRUSH などは世界的に注目を集め、アフリカ大陸のメタルをあのバオバブの木のようにスクスクと育てています。
それでも、この地のメタルには今でも苦労が絶えないと、ボツワナの古豪 SKINFLINT の首領 Giuseppe Sbrana はその心情を吐露します。距離的問題、設備的問題、人的問題。そんな逆境においても彼らがメタルを諦めないのは、音楽に対する情熱とアフリカの誇り、そして DIY の矜持から。
「アフリカは歴史、神話、口承伝承の豊かな大陸だ。これらの物語の多くは、主流メディアで取り上げられたことさえなかったし、他のメディアでもまったく伝えられてこなかった。当時、こうした物語を取り上げるメタル・バンドは皆無だった。だから私は、私たちの文化のこの素晴らしい要素を音楽に取り入れたかったんだ。アフリカの物語は SKINFLINT の最も重要な側面だと感じているよ」
そう、彼らがメタルで描くのはアフリカの伝統とプライド。彼の地に残る神話や伝承を風化させず、世界中に伝えたい。その想いが、モダン・メタルの生命力、包容力、感染力と完璧にシンクロして彼らの最新作 “Baloi” は生まれました。アルバムでも屈指の名曲、”Sangoma Blood Magic” は、アフリカのシャーマンでヒーラー、サンゴマのストーリー。
身体的、精神的、スピリチュアル的な治療だけでなく、戦う人々を守ったり、迷子の牛を見つけたり、占いをしたり。薬草や動物の皮などを使って人々を癒すサンゴマ。西欧の医術が広まった今でもサンゴマの存在は大きく、人口の半分以上の人々がさまざまな困難でサンゴマを頼りにしています。それはきっと、日本の神道、八百万の神と同様にサンゴマが祖先と、伝統と、大地とつながっているから。
そんなズールーの秘術を宿した SKINFLINT のメタルは、MOTORHEAD のごとくパンキッシュに爆走し、VENOM のように凶暴で、SOULFLY のように伝統のリズムを体で受け止めます。ある意味、彼らのメタルも癒しであり、儀式。そうして、そのスピリチュアルなメタルのブラッド・ダンスはやがて世界を席巻するはずです。
今回弊誌では、Giuseppe Sbrana にインタビューを行うことができました。「私のメッセージは、欧米の検閲、キャンセルカルチャーによって、君たちの芸術が破壊され、本来の表現が変わってしまうことを決して許さないでほしいということ。日本はとてもユニークでクリエイティブな国なのだから」 どうぞ!!

SKINFLINT “BALOI” : 9.9/10

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