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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE ANCHORET : IT ALL BEGAN WITH LONELINESS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE ANCHORET !!

“You Do Have To Be “A Deadman” To Have a “Great Gig in the Sky”, no? Haha! But Yes, You Caught Me Red-Handed, I’m a Huge Pink Floyd Fan And There’s Definitely Pink Floyd DNA Sprinkled Throughout The Whole Of The Album.”

DISC REVIEW “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS”

「音楽は、人種、肌の色、信条など、あらゆる境界を超越する。コンサートに行けば、僕たちが皆、互いに共生しているとわかる。そして想像力を育み、精神を高めてくれる!音楽は僕の人生を救ってくれた!音楽のあるところでは、僕らは決して一人じゃない! 」
結局、人とは孤独な生き物です。一人で生まれ、一人で死んでいく。すべては孤独から始まります。ただし、その孤独と孤独の狭間、ほんの閑日月に私たちは寂寞以外の何かに縋り、救われます。音楽、特にヘヴィ・メタルのファンタジーや包容力は、今や大きな社会問題とまでなった孤独、そして憂鬱の素晴らしき逃避場所。カナダを拠点とする THE ANCHORET は、世捨て人の名を冠した神々しき神父のプログ・メタルで、許しの灯火をかかげていきます。
「CYNIC と OPETH の両方と少しでも比較されるのは光栄なことだからね!この二つのバンドは、Paul Masvidal の “Aeon Spoke” とともに、僕の活動すべてに大きな影響を与えている。OPETH が音楽の探求を教えてくれたとしたら、 CYNIC は音楽の流れをよりよく理解する方法を教えてくれた」
孤独からの逃避、自己愛と希望の重要性を説く隠遁の神父たちにとって、プログ・メタルは格好の経典でした。プログとはプログレッシブ、即ち進化すること。もちろん、人は打ち込めるものがあれば、自分の才能と向き合えれば、将来の光を目視できれば、孤独を感じることはないでしょう。そのための鍵となる “好奇心” を、プログの世界は存分に与えてくれるのです。
加えて、メタルは当然、包容力と生命力を湛えた無限の水源地。両者を融合させた CYNIC と OPETH、そしてあの美しき AEON SPOKE は THE ANCHORET にとってまさに神の顕現だったのです。
「”天空でのグレート・ギグ” をやるには “死人” である必要があるよね。ハハハ!僕は PINK FLOYD の大ファンで、アルバム全体を通してそのDNAが散りばめられているよ。例えば “Buried” では、キーボードが “Ummagumma” 時代の PINK FLOYD から直接インスピレーションを受けていて、”Echoes” も少し混ざっているかな」
ただし、プログ・メタルのプログがもはや予定調和で画一的。そんな指摘もなされてきた21世紀において THE ANCHORET の挑戦は、レーベル・メイトの AN ABSTRACT ILLUSION, LIMINAL SHROUD, PYRRHON, SLUGDGE, COUNTLESS SKIES, PARIUS と同様に “真のプログレッシブ” を目指すもの。
これまで、KING CRIMSON や YES, RUSH が崇拝の対象だったプログ・メタルの教会に、PINK FLOYD のサイケデリアやアトモスフィアを持ち込んで、それでもメタルのカタルシスを失わない新宗派の輝きは、サクスフォンやヴォコーダー、フルートにクラリネット、ゴスペル・ボーカルという “ノン・メタル” な神器の存在があってこそ。
このバンドに亡き FAIR TO MIDLAND の面影を垣間見れる行幸。何より、アルバムを通して貫かれる、怪しいメランコリーや幽玄なイメージ、そして崇高なアトモスフィアには、まさに彼らが教義とする孤独と光が鮮明に投影されています。さて、プログ・メタルの鐘の音は、20年代も半ばとなった今、誰が為に鳴るのでしょう?
今回弊誌では、THE ANCHORET にインタビューを行うことができました。「”マクロス” から “はだしのゲン”、”ナウシカ”、”新世紀エヴァンゲリオン” まで、ありとあらゆるアニメを見て育ったからね。黒澤明や三池崇史の映画も定期的に見ているし、ビデオゲームもずーっとやっているよ。マリオ、ソニック、サイレントヒル、ファイナルファンタジー…。僕たちは日本の人々、文化、そして比類なき創造性に多くを負っているのさ!」 90年代にテイチクから出ていたHEAVEN’S CRY の “Food For Thought Substitute”、絶品で聴き漁っていたのですが、まさかここでそのメンバーと再会できるとは…どうぞ!!

Vocals by Sylvain Auclair
Drums by James Christopher Knoerl
Keyboards and Synthesizers by Andy Tillison
Guitar and Lead Guitar by Leo Estalles
Bass by Eduard Levitsky

THE ANCHORET “IT ALL BEGAN WITH LONELINESS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VVON DOGMA I : THE KVLT OF GLITCH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH FREDERICK “ChaotH” FILIATRAULT OF VVON DOGMA I !!

“As For Unexpect We Helped Coin The Term ‘Avant-Garde Metal’ Whatever That Meant.”

DISC REVIEW “THE KVLT OF GLITCH”

「2000年代のメタルやハードコアのシーンは、スタイルがまだ探求され、発展していた時期だった。音楽のサブジャンルがまだ生まれていて、中でもケベックのバンドは本当に何かを持っていたんだよ。CRYPTOPSY の前にはテクデスがなかったように、DESPISED ICON の前にはデスコアがなかったように。さらに ION DISSONANCE のようなバンドはエクストリームなマスコアを前進させた…そして UNEXPECT は、その意味がどうあれ、”アヴァンギャルド・メタル” という言葉を生み出す手助けをしたんだよ」
VOIVOD の偉業を振り返るまでもなく、カナダ、特にケベック周辺はメタルの進化に欠かせない異形を生み続ける特異点です。そして振り返れば、まだモダン・メタル=多様の定義もおぼつかなかった90年代後半から00年代にかけて、UNEXPECT ほど混沌と新鮮をメタル世界にもたらしたバンドは多くはありませんでした。
「UNEXPECT が早すぎるということはなかったと思うよ。僕の考えでは、シーン全体を前進させるためには、新しいアイデアを持って、早すぎるくらいに登場する必要があるんだよ」
もはや伝説となった9弦ベースの使い手 Frédérick “ChaotH” Filiatrault はそう嘯きますが、プログレッシブ、デスメタル、ブラックメタル、ジャズ、クラシック、オペラ、フォーク、エレクトロニカが “予想外の” ダンスを踊る UNEXPECT の音楽は、現在の多弦楽器の流行を見るまでもなく、あまりにも “早すぎて” 理解を得られなかった鬼才で奇祭にちがいありません。そして、UNEXPECT や WALTARI がいなければ、アヴァン・メタルの現在地も、今ほど “攻め” やすい場所ではなかったのかもしれませんね。
「このバンドは、90年代のオルタナティブや Nu-metal、2000年代の実験的なハードコアやメタル、2010年代のエレクトロニックの爆発など、僕がこれまで聴いてきたすべてのジャンルの音楽を調和させようとしたものなんだ。James Blake、Bon Iver, DEFTONES, MESHUGGAH, MARS VOLTA, IGORRR…といったアーティストのありえないブレンドを目指していたからね」
一度は夢を諦めた ChaotH が再びメタル世界に降り立ったのは、自身を形成した偉人たちに感謝を捧げ、そこから新たな “ドグマ” “教義” を生み出すため。さながら蛹が蝶になるように、華麗に変身した ChaotH のドグマは、EDM が脈打つインダストリアル・メタルと、欲望に満ちたプログレッシブ・メタルを、七色に輝くオルタナティブな経歴を反映しつつ融合しようと試みているのです。
つまり、VVON DOGMA I は UNEXPECT ではありません。もちろん、彼らのX線写真を見ると、過去の同僚 Blaise Borboën の乱れ打つヴァイオリンや、ChaotH の異世界ベース・パルスなどおなじみの骨格はありますが、機械の心臓は突然変異的な異なる動力で脈打っています。右心室に CYNIC を、左心室に MESHUGGAH を宿した VVON のサイバーパンクな心臓部は、時にタップを、時にスラップを、時に早駆けをを駆使して変幻自在に躍動する ChaotH の9弦ベースによって切り開かれ、緻密で冒険的で、しかし歪んだ哀愁の風景をリスナーの脳へと出力します。Djenty ながら Djent より有機的で、ヒロイックで、しばしば TOOL とも邂逅するギタリズムも白眉。
何より、悪魔城ドラキュラのメタル世界を想起させる “The Great Maze” から、”Triangles and Crosses” のネオンに染まる KING CRIMSON、そして RADIOHEAD の鋼鉄異教徒によるカバーまで、ここにはヘヴィ・メタルの “If” が存分に詰まっています。ノイズを崇拝し、レザーストラップと砂漠のゴーグルを身につけ、奇抜な乗り物に鎮座した VVON DOGMA I のサイバーな “もしも” の世界観は、AI と現実の狭間でリスナーという信者を魅了していくのです。
今回弊誌では、Frédérick “ChaotH” Filiatrault にインタビューを行うことができました。「クリエイティブな面では、アートワークの制作にAIが参加するのはとても興味深いことだと思ったね。つまり、このレコードの自発的な音楽 “合成” の側面は、アートワークによって強調され、とてもふさわしいものとなった。メタルヘッズの間では、シンセティック (人造、合成) なものを受け入れるというのは、あまりポピュラーなコンセプトではないけど、僕はアナログでなければ “メタル” ではないというエリート意識は、まったくもってデタラメだと思うよ」 傑作。どうぞ!!

VVON DOGMA I “THE KVLT OF GLITCH” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LUNAR CHAMBER : SHAMBHALLIC VIBRATIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH BRANDON IACOVELLA OF LUNAR CHAMBER !!

“日本はね…私にとって信じられないぐらい夢みたいなところなんですよ。人生と考え方に大影響を受けて、美しい思い出も出来ました…本当に本当に言葉で表現出来ません。今までで一番お気に入りの場所です!”

DISC REVIEW “SHAMBHALLIC VIBRATIONS”

「Tomarumは普通に Progressive Black Metal をしてて、したことないもっとヘヴィな Progressive Death Metal をしたかったんです。お気に入りの Death Metal バンドを尊敬しながら自分のサウンドを作りたかったんです!」
“Shambhallic Vibrations” はプログレッシブでテクニカルなデスメタルのファンにとって、まさに天啓です。ブルータルでありながら静謐、エピックでありながら親密、難解でしかしスピリチュアルなデスメタルが、煌めきとヘヴィネスを伴って届けられる涅槃。
新進気鋭、アトランタのプログ・ブラック集団 Tómarúm の中心メンバー Brandon Iacovella と Kyle Warburn が Timeworn Nexus と They, Who May Not Be Perceived というペンネームで始めたバンドには、フレットレス・モンスターThomas Campbell、BENIGHTED のドラム・マシン Kévin Paradis という異才が加入して LUNAR CHAMBER の名乗りをあげました。
彼らのスピリチュアルな広がりと深みのあるブルータリティーは、現代のシーンに真の類似品がなく、その豊かできめ細かな質感は、フレットレス・ベースとスペーシーなシュレッドの綺羅星によって殊更際立つものとなっています。そのアプローチ、テクニック、トーン、そして影響の数々はあまりにも無数で、むしろすべてが一体となっていることさえ不思議なくらいですが、そこには、日本や仏教、東洋哲学に由来する調和の精神が大きく作用していました。
「若いころからヒンズー教と仏教に興味があって、歌詞とテーマを作りたかった時にその興味を思い出して、日本に住んでいた時とどのぐらい人生が変われたのかも思い出して、そのテーマについて書きたくなったんです」
実はコロナ禍以前、Brandon は日本が好きすぎて来日し、翻訳家を目指し学生として台東区で2年ほど暮らしていました。そこで日本の人たちと触れ合い、価値観や生き方を理解し、日本文化を受け入れることで彼の人生は大きく変わっていきました。争いよりも調和を、欲望よりも悟りを求める生き方は、そうしていつしか Brandon の創造する音楽へと憑依していったのです。
「日本のメタルシーンはめっちゃ凄くて、大好きです。Lunar Chamber の元々のドラマーは Temma Takahata なんですよ! Strangulation, 死んだ細胞の塊、Fecundation、等々のドラマーです!本当に凄いドラマーなんで、彼のバンドと他の友達のバンドも何回も見に行って、本当に大光栄でした。日本のシーンにも大影響を受けました。Desecravity, Viscera Infest, Anatomia, 等々も見ることが出来て、あれもかなりインパクトがありましたね。日本の音楽と言えば確かに Desecravity, Viscera Infest, Strangulation, 死んだ細胞の塊, Crystal Lake, Disconformity, 明日の叙景とかを考えますよね」
アルバムのフィナーレを飾る12分の “Crystalline Blessed Light Flows… From Violet Mountains into Lunar Chambers” は、今年のメタル界で最も注目すべき成果の1つかもしれません。シンセを多用した神秘的なオープニングから、巨大なフューネラル・ドゥームの睥睨、荘厳でマントラのようなメロディ、地響きのブラストと鋭く研ぎ澄まされたギター、瞑想的な静けさと地を這う重量の邂逅、そして到達する涅槃まで、すべては “菩提樹” で見せた印象的なモチーフとハーモニーをさながら経のように貫徹して、絶妙な結束を保持しているのです。
さらに言えば、LUNAR CHAMBER の体には、日本のメタル・シーンの “細胞” が組み込まれています。死んだ細胞の塊、明日の叙景、CRYSTAL LAKE といった現代日本のメタル世界を象徴するような多様性をその身に宿した LUNAR CHAMBER の “調和” は、その東洋思想と相まって、すべてが祇園精舎の菩提樹へと収束していきます。
今回弊誌では、Brandon Iacovella にインタビューを行うことができました。ほとんどの回答を日本語で答えてくれました。「仏教のメタルは、ある人にとっては間違いなく逃避の手段になり得ると思う。自分の音楽で物語を作るのが好きだし、この作品には内省的なところもあるから、誰かが自分の現実や心を探求し、私たちの物語に共感し、慰めを得ることができたら、それは私にとって大きな意味があるんだよ」 どうぞ!!

LUNAR CHAMBER “SHAMBHALLIC VIBRATIONS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【VOIVOD : ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DAN “CHEWY” MONGRAIN OF VOIVOD !!

“Let’s Help Each Other And Sing Together! Metal Is One Of The Most Open Community, People Gather And Have Fun, They Connect! We All Can Try To Be Ultraman In Our Own Ways And Help Each Other!”

DISC REVIEW “ULTRAMAN EP / SYNCHRO ANARCHY”

「今世界には、気候、戦争、政治など常に緊張感がある。日本はそれをよく理解しているはずなんだ。SF は時に僕たちが考えるよりも現実に近い。だからこそ、僕たちは皆、テレビの中のウルトラマンが勝利を収めることを望んでいたんだよね。そこに現実世界を重ねているから」
ピコン・ピコン・ピコン・ピコン…私たちは皆子供の頃、ウルトラマンの胸で輝くカラータイマーの点滅が加速するたび、スリルと心配で手に汗を握り、勝利を願いながらテレビにかじりついたものでしょう。もちろん、頭では “これは現実ではない” と理解していても、あの SF 怪奇大作戦に心がのめり込むのは “もしかすると現実でも起こり得る” そんな潜在的な不安と恐怖、そして共感をウルトラマンの巧みな設定やストーリー、そして音楽が掻きたてたから。そして、SF メタルの第一人者 VOIVOD は、今、この暗い時代にこそウルトラマンが必要だと誰よりも深く理解しているのです。
「僕たちは皆、ケベック州(カナダのフランス語圏)で翻訳されたフランス語版のウルトラマンを見て育ったんだ。オリジナル・シリーズ、音楽、怪獣、ベータ・カプセル…カラータイマーがどんどん早くなる時の緊張感…など、ウルトラマンはここケベックで知るものとは全く違っていて、新しい種類の冒険に心を開いてくれたんだよ」
なぜ今、VOIVOD がウルトラマンに着目し、テーマソングをカバーすることに決めたのか。理由は大きく二つ。一つは子供の頃からのヒーローだから。VOIVOD のメンバーはカナダ出身ですが、全員がフランス語圏のケベックで育ちました。日本の特撮やアニメの需要が高いフランス語圏において、彼らがウルトラマンやキャプテン・ハーロック、グレンダイザーをヒーローとして育ったことはある意味自然な成り行きでした。音楽産業がパンデミックや戦争で危機に瀕した時、ウルトラマンの登場を願うことも。
メンバーの中でも特に日本通、Dan “Chewy” Mongrain にとって、コロナ・ウィルスは怪獣に見えたのです。そして、ウルトラマンがその “怪獣コロナ” を一撃必殺のスペシューム光線で粉砕することを願いながら、ウルトラマンのテーマをアレンジしていったのです。そう、VOIVOD にとって光の戦士はまさに希望の象徴でした。
「このパンチの効いた不協和音はまさに VOIVOD のサウンドみたいだよね (笑) もしかするとオリジナル・ギタリストの Piggy は、ウルトラマンの音楽から影響を受けて初期の VOIVOD の音楽を作っていたのかもしれないね!ドラムの Away は僕のデモを聴いて、”うわっ!完全に VOIVOD だ!”と言っていたよ」
もう一つの理由は、純粋にウルトラマンのテーマがあまりに VOIVOD らしい楽曲だったから。それは Chewy が、前任のギタリストでバンドの支柱だった Piggy が、ウルトラマンのサウンドトラックから影響を受けたと推測するほどに。もちろん、半分は冗談でしょうが、SF マニアだった Piggy のことです。絶対にありえない話ではないでしょう。それほどに、ウルトラマンのテーマソング、そこに宿るブラスやオーケストレーション、そして不協和は解体してみれば実に VOIVO-DISH な姿をしています。
実際、VOIVOD は今が絶頂かと思えるほどに充実しています。40年にわたり SF プログレッシブ・スラッシュの王者として君臨してきた彼らは、1987年の3rd “Killing Technology” でこのスタイルを確立しましたが、メンバーの満ち引きを繰り返しながらその独自の方式に繰り返し改良を加えてきました。変幻自在にタイトでトリッキー、そしてフックの詰まった最新フル “Synchro Anarchy” は、まさにバンドが最高の状態にあることを示しています。
冒頭から、威風堂々圧倒的に異世界なギターリフ、近未来の激しいパーカッション、クセの強いディストピアンなボーカルが炸裂し、VOIVOD らしい歓迎すべきねじれた雰囲気を確立。 VOIVOD の愛する黙示録的な高揚感を完璧に体現しています。一方で、反復する心地よいハーモニーの催眠効果、不規則なサイクルと唐突な場面転換で、さながらフランク・ザッパのように VOIVOD は自由自在にメロディック・プログレッシブの地平も制覇していきます。
VOIVOD がただ、直接的な “苛酷” のみに止まらないのは、リスナーにポジティブなオーラ、夢や希望、ひと時でも現実を忘れる娯楽を提供するため。そうして彼らは、”Synchro Anarchy” と “Ultraman EP” の連作において見事にその目的を達成しました。ウルトラの父がいる。ウルトラの母がいる。そして “忠威” がここにいる。
今回弊誌では、Dan “Chewy” Mongrain にインタビューを行うことができました。「僕たちがしようとしたことは、皆を喜びやポジティブな気持ちをもたらすものに集中させること。悪い時は過ぎ去り、きっと良い日はやってくる。だからお互いに助け合い、一緒にメタルを歌おうよ! メタルは最もオープンなコミュニティーの一つだ。人はここに集まり、楽しみ、そしてつながっていく! 僕たちは皆、自分なりの方法で誰かのウルトラマンになろうと努力できるし、お互いに助け合うことができるんだよ!」 3度目の登場。感謝。どうぞ!!

VOIVOD “SYNCHRO ANARCHY” : 10/10

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NEXT BREAK-THROUGH 【CROWN LANDS: THE LEGACY OF RUSH TO BE PASSED ON】


NEXT BREAK-THROUGH : CROWN LANDS “THE LEGACY OF RUSH TO BE PASSED ON”

“One Of Our Favorite Bands Is Rush,And They Always Joke About Being The World’s Smallest Symphony. And We Kind Of Wanted To One-up, Or One-down Them, And See How Lush, Orchestral And Symphonic We Could Get With Our Rock Sound.”

WHITE BUFFALO

目を閉じると、誰もがそこに4人のミュージシャンがいると思うに違いない。
CROWN LANDS の音楽は、力強く、幻想的で、広大です。では、この若い二人のロッカーは、どのようにしてステージ上でこうしたワイドなサウンドを実現しているのでしょうか?
ひとつは当然、その音楽的な卓越性です。CROWN LANDS のシンガー兼ドラマー、Cody Bowles は、甲高い歌声と熱いビートを操る。一方、Kevin Comeau はギターの嵐、シルキーなシンセサイザー、輪郭の濃いベースを、しばしば同じ曲の中で同時に繰り出していきます。
「RUSH は僕らの好きなバンドのひとつなんだけど、僕たちは彼らはいつも世界一小さなシンフォニーだって冗談を言っているんだ。そして、彼らを超えるか、あるいは下回るかわからないけど、自分たちのロックサウンドでどれだけ豪華でオーケストラ的でシンフォニックになれるか試してみたかったんだ」そう Comeau は語ります。

RUSH の傑作 “A Farewell to Kings” は今年で45周年です。
「RUSH を知ったのは、僕が10代の頃、実は両親が RUSH を公然と嫌っていたからなんだ。僕は当時パンク・ロックに夢中で、音楽的な才能というよりも、彼らの反骨精神に惹かれていたんだよ。でも、両親が実は THE CLASH が好きで、MISFITS を面白いと思っていることに気づいたとき、パンク熱が冷めたんだよね。それで、”両親は何を嫌っているんだろう?”と思ったんだ。RUSH が嫌い?完璧だってね。それで、”彼らのアルバムを全部ダウンロードしよう” と思ったんだ。それで、叔父さんから彼らのディスコグラフィーを入手して、iPod にダウンロードしたんだよ。
この作品の冒頭の2曲、”A Farewell to Kings” と “Xanadu” は、ロックフィールド・スタジオの中庭でアコースティック・ギターやパーカッションなど、鳥のさえずりが聞こえるような牧歌的なサウンドをたくさん録音していて、僕の心を打ちのめした。そんな雰囲気のレコードは初めてで、想像を掻き立てられたんだ。その頃、僕は14歳でベースを弾いていたので、ベースが目立つ音楽ということもあって、RUSH の世界に入ることができた。GREEN DAY の Mike Dirnt、THE CLASH の Paul Simonon には大きな影響を受けたけど、Geddy Lee のような人はそれまで聴いたことがなかったんだ。THE WHO の John Entwistle くらいかな。
“A Farewell to Kings” は、変拍子やプログレッシブ・ロックの曲構成に対して僕の心を開き、ヴァース・コーラス・ブリッジに縛られなくなったんだ。まるで魔法のようだろ? “Xanadu” の冒頭でタウラスのペダル・パッドを聴いたとき、初めてシンセサイザーが何であるかを認識したんだよ。
人の心に響く音というのはあるものだね。僕の場合、自分たちの音楽の中でムーグの質感や音色に惹かれるのは、”A Farewell to Kings” があったから。Geddy がミニムーグとタウラスペダルを持ち出した最初のレコードだったんだ。そして Peart はドラマーからパーカッショニストになった……。
サウンド・デザインや美しい情景描写と、伝統的なハードロックの音楽性のバランスは、RUSH が “A Farewell to Kings” からずっと大切にしてきたことだね。だから特に今回、僕たちの新譜では、言葉だけでなく音楽で物語を語り、ある時間や場所を捉えようとした。そうやって、その感覚に近づきたかったんだ。”Xanadu” はプログラム・ミュージックの最初の例のひとつで、物語や絵を語るインストゥルメンタル音楽。この曲の最初の3分間は、文字通り、頭の中に信じられないような絵が描かれるんだ。
高校生の時、好きな女の子がいて、彼女のお父さんがこのアルバムをレコードで持っていたのを覚えているよ。そのレコードのアートワークに、RUSH は本当に大きなのお金をかけていた。開けてみると、クレジットや美しい歌詞がきれいなフォントで書かれているんだ」

Bowles の特にお気に入りの RUSH 作品は3枚。
「常にに変化しているけど。”2112″ と “Caress of Steel” が最高を争っていて、”A Farewell to Kings” は3番目に近い位置づけかな。”2112″ を初めて聴いたときは、鳥肌が立ち、涙が出たよ(笑)。とても美しかった。正直なところ、ずっと Geddy の声は女性だと思っていたくらいでね。その後、”こんなふうに歌える人がいるんだ。信じられない。今までで一番素晴らしい歌声だ” と思ったんだ。そして今日まで、僕の人生の中で最高の歌声を聴かせてくれている。
でも正直なところ、別のアルバムが1番という日もあって、不思議な感じ。RUSH の場合、どのアルバムも、ある特定の日にその順位が変動するような気がするんだ。RUSH は物心ついたときからずっと好きなバンドで、家庭の必需品。正直、高校時代まで専ら聴いていた3つのバンドのうちのひとつさ。つい昨日も “2112” を聴いていたんだよ。Comeau が言っていた不思議な感覚は、僕も “Xanadu” を初めて聴いたときに同じ体験をした。実は、父が僕を RUSHに引き込んでくれたんだ。彼はドラマーで、長い間演奏しているんだけど、子供の頃からずっと RUSH に夢中だった。僕がまだ1歳にもなっていない頃、自宅の地下室で彼が “2112” のドラムセクションをすべて完璧に演奏するのを見たからね。彼の演奏には、ただただ畏敬の念を覚えたよ。僕は、リビングルームにあるカセット・プレイヤーでテープを聴き、ラジオに合わせて彼がドラムを演奏することで、その年齢から RUSH にのめり込んでいったんだ。”Xanadu” が流れてくるたびに “魔法の曲” だと思い、音量を上げていたのを思い出すよ。自分のレコードを手に入れるまで、それがどのアルバムのものなのか知らなかったけど。
“A Farewell to Kings” の雰囲気は、本当に大好だ。とても美しく、中世的でね。僕が本当に好きなバンドは皆、この中世的なエッジの効いたアルバムを1枚か2枚出すという奇妙な時期があるんだけど、QUEEN も “Queen II” で同じことをやっているよね。Comeau が言ったように、アコースティック・ギターのトラックで聴ける野鳥の声は、初めて聴いたときには忘れられないもの。そして、Geddy のメロディーの選び方や、音楽との連動性には本当に影響を受けた。それは、長年にわたって聴き続けることで、意識的に、あるいは浸透的に、確実に身についたものだ。”これこそ音楽がなし得るものだ。これが音楽が到達できる高さなんだ” と。僕がずっと憧れていたものだよ。美しくて、決して頭から離れない」

ライブにおいても、RUSH は彼らに大きな影響を与えています。
「RUSH のライブはとてもエキサイティングで、スタジオ録音を一音一音、カットごとに再現するような、当時ではありえないようなライブをやっていたよね。GRATEFUL DEAD のように、毎晩まったく違うライブをするバンドもいるけど、RUSH は “スタジオ録音を3人で完璧に再現する” という、まったく別の道を歩んだわけさ。彼らがテクノロジーを取り入れたこと、つまり正しい極性のフットスイッチを自作しなければならないほど早くからシーケンサーに取り組んでいたことは、当時はライブパフォーマンスの標準ではなかったんだ。彼らはキャリアの最後までクリック・トラックやバッキング・トラックを使用していなかったけど、彼らはテクノロジーを押し進め、その時点で彼らのライブサウンドは他の多くのバンドよりずっと先を行っていた。そのサウンドは、ブートレグの音源で聴くことができるね」
Terry Brown, Nick Raskulinecz, David Bottrill…RUSH を手がけた3人のプロデューサーと仕事を行う機会にも恵まれました。
「Terry から始まって、最初から “なんてこった、僕たちが?!”って感じだったんだ。その後、ツアーで曲が発展して、Nick にも参加してもらったんだけど、”これは完全にイカれてる” って感じだったよ。この2人のプロデューサーと仕事をしたなんて、信じられなかった。RUSH の最初の10枚を手がけた人と、最後の2枚を手がけた人、この2人と仕事をしたことが、僕らにとっては大きな意味を持つんだ。そして、Dave と一緒にボーカルを担当したことは、ストーンヘンジのような瞬間だった」
CROWN LANDS の今の時点における代表曲 “Context: Fearless Pt. I” は、その “2112″ 風のタイトルからもわかるように、確かに RUSH を彷彿とさせます。2021年のスタジオ・ライブ・アルバム “Odyssey Vol.1″ に収録されたバージョンには、特に素晴らしい演奏が残されています。
代数的な迫力に加えて、RUSH と CROWN LANDS はカナダという同じ故郷でつながっています。後者はオンタリオ州オシャワの出身で、前者は60年代後半のトロントで結成されました。
さらに、”ヒーローに会うべからず” という格言もありますが、CROWN LANDS の二人は、2020年にドラマー兼作詞家の Neal Peart が脳腫瘍で亡くなった後、遺されたメンバー、ベーシスト兼シンガーの Geddy Lee、ギタリストの Alex Lifeson と友人にまでなっているのです。
Bowles は Lifeson と Lee について、「人としてどうあるべきか、人にどう接するべきかは、音楽で何を作るかと同じくらい重要で、彼らはとても謙虚に人生を歩んでいる。40年も一緒に活動してきたのに、いまだに親友なんだ。君たちがツアーで長い時間を過ごしたことがあるかどうかは知らないが、これは驚くべき偉業なんだよ」と尊敬を新たにしています。

CROWN LANDS は、2021年のチャリティ・ギグで Lifeson のバックバンドを務めました。その際、Lifeson は Comeau に彼の象徴的な白いギブソンのダブルネックを貸し出し、持ち帰らせたのです。「あのギターで僕は毎晩、名曲 “Xanadu” を演奏したよ」と Comeau は振り返ります。「彼はとても寛大な人間なんだ」。Lifeson はまた、チャリティ・ショーのステージで、RUSH の名作写真に数多く写っている別のギブソンも Comeau に貸し与えました。
さらに、Comeau は FOO FIGHTERS のドラマー、Taylor Hawkins のオールスター・トリビュート・コンサートに向けて、RUSH のリハーサルに Dave Grohl と一緒に参加しました。彼は、ショーのために Lee のシンセサイザーをプログラムすることまで経験したのです。
ライブ配信も行われた9曲入りのLP “Odyssey Vol.1” は、CROWN LANDS の提示する新しくて懐かしいプログレッシブ・ハードロックへの理想的な入口となる作品でしょう。1971年の “At Fillmore East” がサザン・ロックの巨匠 THE ALLMAN BROTHERS の代表作となったのと同様に、”Odyssey” は CROWN LANDS 最初の3枚のスタジオ・アルバムからの曲をライブ演奏の熱気とともに、鮮明に捉えてより印象を強めています。
Comeau はバンドのバイブルとして、2021年のEP “White Buffalo” に収録され、”Odyssey” のフィナーレを飾る大作 “The Oracle” を挙げています。CROWN LANDS にとって、この曲はステージで演奏するのが最も難しい曲の一つ。
「大音量のヘヴィーな曲をライブで演奏するのは本当に簡単なんだ。スライドを駆使した “Mountain” のような初期の楽曲みたいにね。だけど、ダイナミクスを追求すると、バンドの人数が少なければ少ないほど、各メンバーの音量が大きくなる。だから、5人組や6人組のバンドは、それほどプレッシャーがかからないんだよね。”The Oracle” はダイナミックに動く音楽で、15分間に渡って拍子記号やとんでもないキーチェンジが繰り返されるから、常に気を抜けないんだよ」

“White Buffalo” のタイトル曲は、BLACK KEYS や WHITE STRIPES といった有名なインディー・ロック・デュオのファンにもアピールしそうな簡潔なロック・ナンバーです。しかし、ギターを弾くフロントマンがいる前述の2つのバンドとは異なり、Bowles は歌うドラマーで、それが CROWN LANDS に異なるグルーヴを与えています。
Bowles は、「歌いながらドラムを叩くことで、すべてのリズム、アクセント、ヒットを熟知することになる。だから、無意識にそのビートに合わせてボーカルのリフやフックを作り始めて、それがメロディの作り方に影響しているような気がするんだ」と語っています。Bowles は、”White Buffalo” のプロデューサーである David Bottrill が、以前 TOOL や Peter Gabriel と仕事をしていたことで、彼のボーカルのフレージングを広げる手助けとなった、そう信じています。
“White Buffalo” のブギーの中には、CROWN LANDS の心に寄り添う歌詞のメッセージが込められています。「多くの先住民の文化では、白い水牛は強さと繁栄を象徴している」と、ノバスコシア州の先住民族ミクマクのハーフである Bowles は説明します。
「この曲には、本当に素晴らしいドライブ・ビートがあった。止められない鼓動のような感じがしたんだよね。バンドにとって、このビートは野生の動物を連想させるものだった。そのことを考えると、先住民の先祖を持つ僕は、先住民のために望むべき新しい時代の到来について話したいと思ったんだ。それは、団結して、過去数百年間に僕たちの皿に押し付けられてきたすべての抑圧を克服するということだ」
音楽や生き様にもミクマクの遺産は息づいています。
「ミクマクは、僕の音楽の追求と芸術的表現に宿っている。僕はミクマクのハーフであることを誇りに思って育ち、学校でみんなに話すのを楽しみにしていたんだけど、それはすぐにからかいやいじめ、アメリカの過去に僕の民族に起こったことについての人種的な “ガスライティング” “心理的虐待” に変わったんだ。僕は子供の頃、長い髪をポニーテールや三つ編みにしていたから、よくからかわれたものだよ。残念ながら、これは日常茶飯事で、何年もネガティブな影響を受けてきた。先生にさえからかわれたから、家にいてドラムを叩くのが好きになったんだ。
週末になると、アルダービル先住民族の近くにあるコテージに行くんだよ。そこで子どもの頃、多くの時間を過ごした。僕たちは、その保護区の家族や長老と友達だからね。彼らから、先住民であることの意味について、かけがえのない教えを受けたんだ。
そして僕は、自分が女性的な側面と男性的な側面を併せ持つ “2つのスピリット” であることを深く理解することができたんだよね。西洋的な性別違和の二項対立に自分が当てはまるとは思えなくて、最近まで自分のその部分を探求することが難しかったんだけど、先住民の教えは深い解放と美しい啓示であり、今でも毎日多くのことを発見しているよ。
僕は自分の文化的ルーツに誇りを持ち、それを心の中に大切にしまっている。生い立ち、アイデンティティ、文化のこうした側面は、バンドの創作と並行して生きているんだよ」

Bowles は男性的な面と女性的な面のバランスはどう取っているのでしょうか?
「ツー・スピリットであることは、両方を持っているようなもの。ただ、僕がツー・スピリットであることを人に話し始めたとき、皆が “もう知っているよ。君にはそのエネルギーがある” と言ってくれる。その圧倒的な受容は嬉しいよね。でも、あまり意識はしていないんだ。ある時は男性的で、ある時は女性的。まるで自分が美しい星で、その周りには美しい惑星がたくさんあって、ある星の方に引っ張られたり、別の星に好かれたり、でも決して一つの場所にいるわけではない…そんな感じかな。フレディ・マーキュリーは、僕にとってファッションの象徴。昔は、古着屋で何日もかけて自分に合うもの、合わないものを見つけるのが好きだったね。レディースのコーナーには、いい服がたくさんあるから、もっぱらそこで買い物をしているよ。特に何が欲しいというのはないんだ。ただ、気に入ったものを見つけて、それを着るだけだけど。外に出るとみんなに変な目で見られるけど、僕はそれが好きだ。自分を表現するのは素晴らしいことだからね」
皮肉なことに、多くのバンドがブレイクした曲を恨むようになると言われています。しかし、CROWN LANDS と “White Buffalo” の関係はそうならないと Comeau は考えています。
「この曲はラジオやストリーミングで最も人気のある曲のようだけど、この意味は僕たちにとってとても身近で大切なもの。とても幸運なことだと考えているんだ。この曲を本当に誇りに思っているんだよ」
先住民の苦境は、CROWN LANDS で繰り返し扱われるテーマです。2020年にリリースされたセルフ・タイトルのデビューLPでは、行方不明になり殺害された先住民の女性に捧げた “End of the Road” というトラックがクライマックスとなりました。さらに CROWN LANDS というバンド名自体、カナダで先住民が奪われた王家の土地を指すものでした。バンド名には、彼らの音楽的野心も込められています。”クラウンランド” とは君主の領土のことで、Bowles はこう言っています。「クラウンランドは盗まれた土地で、僕らはそれを取り戻している」
悲劇が起こったカナダ先住民のレジデンシャル・スクールについて、バンドは次のような声明を発表しました。
「僕たちはこの場を借りて、カナダのすべての居住区学校が徹底的に調査されるべきだということ言いたい。亡くなった人たちの家族は皆、悲しみに暮れている。この国では、人々は忌まわしい状況の中で生きている。僕たちは、こうした話を始めるために戦い続け、真の変化を起こせることを願っている」

CROWN LANDS は、卓越した演奏技術に加え、Comeau が言うように “たくさんのおもちゃ” を使って、桁外れの音楽を作り上げています。Bowles はコンサート・タム、ウィンド・チャイム、テンプル・ブロック、チューブラー・ベルなど数多のギミックを装備した巨大なドラムキットという要塞の中にいます。Comeau はギターと同時にベースラインを演奏する ムーグ・タウラスペダルなど、多数のシンセサイザーを足で操作しています。ただし、ライブでバッキング・トラックを使用することはありません。Bowles は「僕たちは見たままの姿を音にしたいんだ。それが僕たちのモットーなんだよ。個人的には、トラックを使用するバンドはそれでいいと思う。でも、僕らの場合は、ライブでトラックを使うことは絶対にないと言い続けてきた。僕らには向かないんだよ」
CROWN LANDS の二人は、ロサンゼルスでの活動を終えてヒッチハイクでカナダに戻ったばかりの Comeau が、Bowles がドラムを担当していたバンドのオーディションを受けたときに初めて出会いました。当時、Comeau はベーシストとして活躍していましたが、Bowles のバンドの新しいギタリストとしてオーディションを受けたのです。結果は不合格でした。
しかし、Bowles は彼のギター・プレイを気に入り、連絡を取り続けるようになります。二人は友人となり、やがて納屋で一緒にジャムるようになりました。この納屋でのジャムがきっかけで、Bowles は本格的に歌い始めたのです。「一緒に音楽をつくろうということになったんだ。CROWN LANDS はそうやって、なんとなく始まったんだよ」
彼らが一緒に書いた最初の曲は、”One Good Reason” でした。彼らは最初のEP、2016年の “Mantra” を、わずか2日でレコーディングし終えたのです。
RUSH の話題は、彼らの友情の中でも最も早い時期から浮上し、二人はそれぞれ相手がスーパーファンであることを知り、興奮を覚えたといいます。Comeau は RUSH の “スターマン” ロゴのタトゥーを腹部に彫っていることを明かし、これで二人の契約は成立したのです。
CROWN LANDS の他の重要な音楽的インスピレーションは、THE ALLMAN BROTHERS(Comeau は Duane Allman のスライドギターを崇拝)、Jeff Buckley(Bowles の伸縮性と感情的な歌声)、STARCASTLE(イリノイ州の70年代のプログ・バンド)など。

Bowles と Comeau は、最終的に CROWN LANDS のメンバーを増やすかどうかに関して、葛藤があるようです。Bowles は物事をシンプルにすることに傾いています。しかし、Comeau は、もしミュージシャンが増えたら、ステージ上で一つの楽器に集中できるようになるし、Bowles がドラムキットの後ろから、GENESIS で Phil Collins がやったように、前面に出て歌うようにもなると喜んでいます。
「Bowles は Neal Peart のようなことを歌いながらやろうとしているし、僕はキーボードとベースを担当し、ギターも弾く。RUSH の3人を2人に凝縮しようとしているんだ。彼らは “世界最小の交響楽団になりたい” と言ったことで有名だけど、僕らは、たった2人で同じようなことを成し遂げようとしている。生意気な冗談だったけど、多くのインスピレーションを受けているよ」
ただし明らかに、Bowles と Comeau は2人だけでも、まるで超能力を操るように音楽を奏でられます。宇宙的ヒッピーの衣装を身にまとった長髪の CROWN LANDSは、クラシック・ロックの魔法そのものです。最近大きな影響を受けたのは “Moving Pictures”。

「”Moving Pictures” で Alex がスタジオで使っていたのとほぼ同じ組み合わせのアンプを使ったんだ。だから特に “White Buffalo” のオープナーは、”Moving Pictures” のギターにかなり近づけたと思うけど。エンジニアリングの観点からは、”Moving Pictures” は今でも史上最高のサウンドを持つアルバムのひとつだと思う。今聴いても、とても新鮮だよね。このアルバムに収録されている楽器の忠実さはいつも目を引くけど、この新譜でもそれに近いものができたと思っているよ」
音的にも視覚的にも、CROWN LANDS は巨大な足跡を残しているあるバンドを彷彿とさせます。ミシガン州のロックバンド、GRETA VAN FLEETです。神々しくも ZEP の鉄槌を振りかざす若き異端児。
類似性は、音楽や見た目だけにとどまりません。GRETA VAN FLEET がグラミー賞を受賞したように、CROWN LANDS はカナダのグラミー、Juno賞を受賞していて、両バンド共に、ローリング・ストーン誌の最高の音楽ジャーナリスト、ブライアン・ハイアットによって記事にもされているのです。
現在、CROWN LANDS は、GRETA の2021年のトップ10アルバム “The Battle at Garden’s Gate” をサポートする米国アリーナ・ツアーのオープニング・アクトとしてツアーに出ています。
CROWN LANDS のミュージシャンたちは、自分たちのバンドに何が起きているのかを理解しています。「本当に感謝している」と Bowles は言います。「GRETA が好きな人はたいてい、僕らも好きだからね。アメリカで大勢の人の前で大きなステージで演奏できるのは大きいよ」
カナダでは、CROWN LANDS はバンドとしてシアター・レベルのステータスに近づいています。しかし、あまりツアーを行っていないアメリカでは、彼らはまだこれからのバンドなのです。

参考文献: AL.Com:America’s next must-see rock band is from Canada

EXCLAIM!:’A Farewell to Kings’ at 45: Crown Lands Talk the Influence of Rush’s Sonic Scale-Up

BEATROUT: FOR THE RECORD For The Record: Crown Lands’ Cody Bowles On Finding Empowerment In Their Indigenous Heritage

FUGUES:Marching to their own beat: Crown Lands drummer Cody Bowles

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AETERNAM : HEIR OF THE RISING SUN】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AETERNAM !!

“We Do Think Of War As Part Of Human History And Mainly a Great Way To Learn That Violence Is Never The Answer To Resolving Any Conflict. There’s Nothing Positive In Death Of Innocents That Benefits Humanity At Large.”

DISC REVIEW “HEIR OF THE RISING SUN”

「歌詞を読んでみると、この作品がただの歴史の授業ではなく、詩的で、時には出来事の完全な説明というより、もっとテーマを喚起するような内容になっていることに気がつくと思うんだ。中世ビザンツ帝国の時代は北米じゃ軽視されがちだけど、歌詞の内容的にも音楽的にも大きな可能性を秘めた、取り組むべき興味深い題材だと思った」
大砲が何発も何発も都市の城壁に打ち込まれる中、ダミアヌスは深く動揺しながらも、矢を手に城壁の上に立つ。彼はすぐに聖母に祈りを捧げた後、弓を包囲者たちに向けて放つ。埃が空中に舞い上がり、大砲を操るオスマン軍の将を左に数センチ外してしまう。パニックの中、ダミアヌスは選択を迫られる。先祖の土地を捨てて去るべきか、それとも戦って死ぬべきか?ダミアヌスが戦うことを決断した数分後、大砲の弾が命中し、彼の手足は引き裂かれ骨は粉々になった。おそらく神は帝国の滅亡を望んでおられるのだろう。コンスタンティノープルの街のあちこちが限界点に達し、ノヴァローマの富を手に入れるため、オスマン帝国はついに征服不可能な都市に突入した。
「実は、この曲はウクライナ戦争が始まるずっと前に作られたものなんだ。とはいえ、僕たちは戦争を人類の歴史の一部と考え、暴力がどんな争いも解決するための答えには決してならない、そのことを学ぶために最適な方法だと考えているんだ。罪のない人々の死が、人類全体の利益となるなんてことは絶対にない。戦争にポジティブなことは何もないのだから」
この “The Fall of Constantinople” “コンスタンティノープルの陥落” は、AETERNAM の5枚目のアルバム “Heir of the Rising Sun” を締めくくる、ビザンツ帝国の終焉を描いた壮大な楽曲です。この歴史的、音楽的なクライマックスに到達するために、AETERNAM は SEPTICFLESH の映画的シンフォニー、WILDERUN の知の陶酔、AMORPHIS の旋律劇、ORPHANED LAND の異国の香りを見事に混交しています。リスナーはこのレコードで時を超え、オスマンとビザンツの時代に旅をしながら、”永遠” の名を持つバンドが提起する人類永遠の課題 “戦争” を追体験するのです。この物語は遠い昔の話しでありながら、実は過去の遺物ではありません。そろそろ私たちは、ほんの少しでも歴史から何かを学ぶべきでしょう。
「”Kasifi’s Verses” の冒頭にあるトルコ語のちょっとしたナレーションを入れると、実は5つあるんだよね。 それは、曲の中で僕たちが語る人々に対する言葉でのオマージュと見ることができるだろうね」
“Heir of the Rising Sun” で AETERNAM はアグレッシブ・メロディアスなリフの合間に、中東・北アフリカの風を受けたギターリードがオスマン帝国の誇りを見せつけ、”征服者” がコンスタンティノープルを手にするため力をつけていく様を描いていきます。もちろん、その絵巻物の情景は、モロッコに生まれ育った Achraf の歌声が肝。
そうしてアルバムは、1453年5月29日が近づくにつれそのオリエンタルなテンションを増していきます。”Beneath the Nightfall” や “Where the River Bends” におけるブラックメタルの激しい旋律、荘厳に勝利を響かせる “Nova Roma”。
一方で、”The Treacherous Hunt” では、東洋の水にグレゴリオ聖歌とシンフォニック・ブラックメタルの構造を無理なく融合させて、ビザンツ帝国の側からもストーリーを肉付けしていきます。戦争に正義などありませんし、完全に善と悪で割り切れるものでもないでしょう。AETERNAM は侵略者、被侵略者、両方の物語を描く必要があることを知っていました。英語、ギリシャ語、トルコ語、ノルウェー語、ラテン語という5つの言語を使用したメタル・アルバムなど前代未聞。しかし、それはこの壮大な “教訓” をリアルに語るため、絶対に不可欠な要素だったのです。
フィナーレにしてクライマックスのクローザーでは、大胆なメロディとスタッカート主体のリフ、ドラムが大砲のように鳴り響き、オスマントルコの攻撃を演出。しかし、途中から勇壮なギター・リフに移り変わり、ビザンツ兵の視点が強調されます。逃げ出すか、このまま街に残って死ぬか。彼は嘆きながらこう決心するのです。
「もし神の意志で街がこの夜に滅びるのなら 私は命を捧げた戦士たちの側に倒れよう」
今回弊誌では、魂のボーカル&ギター Achraf Loudiy と、創始者のドラマー Antoine Guertin にインタビューを行うことができました。「Achraf と僕が出会ったとき、彼は AETERNAM の曲にもっと東洋的なメロディーを取り入れるというアイディアを持っていたんだ。 彼はモロッコでそうしたメロディーを聴いて育ったし、彼の母親が素晴らしいシンガーであることも重要だった。家系的にもそうなんだよね」 どうぞ!!

AETERNAM “HEIR OF THE RISING SUN” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIRST FRAGMENT : GLOIRE ETERNELLE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PHIL TOUGAS OF FIRST FRAGMENT !!

“Japanese Power Metal Bands Like Saber Tiger, Galneryus, Versailles, etc Sing In Their Own Language And It Fits Their Music Much Like Quebec French Fits Our Own Music Best. We Will Continue To Do So.”

DISC REVIEW “GLOIRE ETERNELLE”

「ARCHSPIRE の音楽は、正確で、数学的で、冷たく、残忍で、容赦なく、人間離れした速さで、怒りに満ちていて、極めてよく計算されている。対して FIRST FRAGMENT の音楽は、折衷的で、有機的で、時に緻密で、時に即興的で、陽気で、時に楽しくて痛快で、時に悲劇的でメランコリックなんだ。だから私は FIRST FRAGMENT を “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” と呼び、ARCHSPIRE を”テクニカル・デスメタル” と呼んでいる」
現在、メタル世界で最高峰のテクニック、そしてシュレッド・ファンタジーをもたらす場所がカナダであることは疑う余地もありません。先日インタビューを行った ARCHSPIRE がメカニカルな技術革新の最先端にいるとすれば、FIRST FRAGMENT はシュレッドのロマンを今に伝える黄金の化石なのかもしれませんね。奇しくも同日にリリースされた “Bleed The Future” と “Gloire Éternelle” は、正反対の特性を掲げながら、テクニカルなエクストリーム・メタルの歩みを何十歩、何百歩と進めた点でやはり同じ未来を見つめています。
「2007年のことを思い出してほしい。ケベック州のモントリオール地域では、デスメタル、ブラック・メタル、デスコアが主流だった。今でもそうだけど、その時期はさらにその傾向が強かったんだよね。だから私のようなエッジの効いた矛盾した人間にとっては、フラストレーションの溜まる時代だったよ」
VOIDCEREMONY, EQUIPOISE, ETERNITY’S END, FUNEBRARUM, ATRAMENTUS…。おそらくメタル世界でも最も多忙なギタリストとして知られる Phil Tougas は、MARTYR, CRYPTOPSY, AUGURY などが闊歩するテクデスの聖地ケベックに生まれ、だからこそ別の道を進むことを決意します。91年生まれ、まだ30歳にもかかわらず、Yngwie Malmsteen, RACER X, CACOPHONY, Tony Macalpine, Joey Tafolla (!!) といったシュラプネルの綺羅星にどっぷりと浸かりながらそのギターの鋭利を研ぎ澄ませていきました。
一方で、同世代に同じ趣味のプレイヤーがいなかったことから、MORBID ANGEL や NECROPHAGIST といったエクストリームの涅槃にも開眼し、FATES WARNING や ELEGY (!!) のプログ・パワーまで吸収した Phil は、FIRST FRAGMENT で “エクストリーム・ネオクラシカル・メタル” を創造するに至ります。グロウルを使えばデスメタルなのかい?という問いかけとともに。
「私たちのリフはすべて、ネオクラシカルなパワーメタルのコード進行で構成されている。デスメタルは砕け散り、重く、邪悪で残忍だ。FIRST FRAGMENT はインテンスの高い音楽だけど、これらの特徴はどれも持っていないし、その気もないんだよね。ゆえに、デスメタルではない」
バロックやロマン派のクラシック音楽から、フラメンコ、ジャズ、スウィングやファンク、ネオクラシカルなパワーメタル、デスメタル、プログレッシブ・メタル.。ジャンルを踊るように融合させ、大きなうねりを呼び起こすという点で、FIRST FRAGMENT の右に出るバンドはいないでしょう。そしてその華麗な舞踏会を彩るのが、Phil Tougas, Nick Miller, Dominic “Forest” Lapointe のシュレッド三銃士。
「ソロ・セクション自体は、通常のツイン・ギターではなく、私が “トリプル・リード・アタック” と呼んでいるものなんだ。このアルバムでは、ベースがギターの役割を果たし、ベースがギタリストと同じ数のソロを演奏し、合計30のベース・ソロを演奏するという、メタル・バンドの中でも珍しいことを成し遂げている」 の言葉通り、すべての弦楽器が平等に、鮮やかに、驚異的な指板のタップダンスを踊り尽くします。特筆すべきはリードが放つ揺らぎやエモーション、そしてサプライズで、近年大半を占めるレールの上を滑らかに進むようなソロイズムとは明らかに一線を画しています。例えば、RACER X や CACOPHONY が絶対的な楽曲、リード、プロダクションばかりを誇っていたかと言えば答えは否かもしれません。しかし、あの時代のギタリズムには予測不能のびっくり箱が無数に用意されていました。FIRST FRAGMENT にも宿る同様のシュレッド・ファンタジーは、アルバムのテーマと同じく音の輪廻転成を信じさせるに十分でしょう。
「SABER TIGER, GALNERYUS, VERSAILLES といった日本のパワーメタル・バンドは日本語で歌っていて、それはケベックのフランス語が私たちの音楽に一番合っているように、彼らの音楽にも合っているよね」
アルバム全編をフランス語で歌うエクストリーム・メタルという意味でも、FIRST FRAGMENT は文字通り “はじめてのカケラ” だと言えます。彼らの母語に潜む哀愁とラテンの響きは、アルバムの根幹をなすフラメンコとクラシカルな響きと絶妙に混ざり合い、ELEGY が “Spanish Inquisition” で成し遂げた夢幻回廊の奇跡を現代のメタル世界へと呼び戻すのです。
今回弊誌では、Phil Tougas にインタビューを行うことができました。「Tony MacAlpine, Joey Tafolla, ELEGY の Henk Van Der Laars。この3人のギタリストは今でも私の最大のヒーローだと思う」まさにメタル温故知新の最高峰。エルドラドならぬシュレッドラド。どうぞ!!

FIRST FRAGMENT “GLOIRE ETERNELLE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ARCHSPIRE : BLEED THE FUTURE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH DEAN LAMB OF ARCHSPIRE !!

“As a Band We Always Try To Write Music That Is About 10% Above Our Abilities, So That Means Everyone Is Constantly Pushing Themselves To Improve.”

DISC REVIEW “BLEED THE FUTURE”

「”Stay Tech” という言葉は、僕たちのバンドが目指すものをすべて体現している。だから、”Stay Tech industries” という想像上の会社名からこの言葉を残して、クールなロゴを作ってもらったんだよ。今ではバンド全員がこの言葉をタトゥーにしているし、同じタトゥーを入れている人にもあちこちで会うんだよ!」
STAY TECH!テクニカルでいようぜ!をモットーとするカナダのテクデス機械神 ARCHSPIRE。世界で最も速く、世界で最もテクニカルで、世界で最も正確無比なこの “メタル” の怪物をシーンのリーダーに変えたのは2017年の “Relentless Mutation” でした。アルバムのリリースを終え、OBSCURA の日本ツアーに帯同した ARCHSPIRE。口をあんぐり開けて立ち尽くし、彼らを見つめていた多くの観客を筆者は目撃しています。それはまさに、新時代の到来を告げる啓示といった類のライブ・パフォーマンスでした。
「バンドとして、僕たちは常に自分たちの能力の10%くらい上のレベルの音楽を書こうとしているんだ。つまり、このバンドでは誰もが常に自分を高めようとしているんだよ」
そうして、名優ジェイソン・モモアを含む何万もの新たなファンを獲得し、地球上をツアーしてきた ARCHSPIRE は、あの画期的なアルバムをさらに先鋭に研ぎ澄まし、別の次元へと到達させました。”Bleed The Future”。文字通り、血反吐を吐くようにして紡ぎ出した彼らの未来は、目のくらむようなテクニックと、複雑怪奇をキャッチーに聴かせるバンドの能力が光の速さで新たなレベルへと達しています。
「僕にとって8弦ギターはほとんど6弦と同じにしか見えないから、コード・シェイプやスケールはすべて10代の頃に学んだものを流用している。相棒の Tobi も8弦を弾くようになったから、僕たちは完全に “音域の広い” バンドになったんだ」
“Bleed The Future” という無慈悲な殺戮マシンの心臓部は、Tom Morelli と Dean Lamb の8弦ギター。雪崩のように押し寄せるブラスト・ビートと、ワープ・スピードで飛び交うテクニカル・エクスタシーを背に、5足と5足の超速スパイダーはアクロバティックにメロディックに指板の宇宙を踊り狂います。二人にとって、きっと6弦の指板は窮屈すぎるのでしょう。一方で、趣向を凝らしたクリーンなパッセージも秀逸。ともかく、他のバンドが2つの音を出す間に、彼らは少なくとも5つの音を繰り出します。
「デスメタルは非常に過激な音楽だから、リスナーが疲れずに “多くのもの” を聴くことは難しいと考えているんだ。だから僕たちの意見では、32分くらいがちょうどいいんだよね」
32分という短さに、想像を絶するスピードで、長い歌詞を含めて様々なものが詰め込まれた “Bleed The Future”。Tech-metal の世界では非人間的なテンポで演奏するバンドも少なくありませんが、さすがにこれは別物です。クラシックの美麗美技と獰猛超速のメタロイドを行き来する “Drone Corpse Aviator” がアルバムの招待状。BPM360 のタイトルトラック “Bleed The Future” で、ボーカリスト Oli Peters がさながら Busta Rhymes のように重たい言葉の弾丸を正確に連射すれば、モダン・メタルメタル界最速ドラマーの一人として知られる Spencer Prewett は、”A.U.M” で BPM を400まで到達させるだけでなく、千手観音の威光を纏いながら Gene Hoglan や Tomas Haake と同等の才能を証明します。
“A.U.M”, “Reverie on the Onyx” といった楽曲の、サンプリングやクラシカルなマテリアルをメインストリームやヒップホップのやり方で吸収し、デスメタルに昇華させる ARCHSPIRE の哲学は実に新鮮で傑出していますね。”Abandon The Linear’ で炸裂する Jared Smith のクラシカルかつグルーヴィーなベースソロも極上。そうやって彼らはフックやキャッチーな音の葉を多種多様に盛り込んでいくのです。
カナダはこれまでにも優れたテクデスの綺羅星を産み落としてきました。CRYPTOPSY, GORGUTS, BEANEATH THE MASSACRE, BEYOND CREATION…その中でも APCHSPIRE は最高傑作にして、テクデス・ルネサンスの最先端に位置しているように思えます。現時点で、彼ら以上のリーダーは存在しないでしょう。威風堂々、この威厳。この異次元。
今回弊誌では、ギター・マスター Dean Lamb にインタビューを行うことができました。「僕たちのスタイルにラップを加えることは、最初からの計画だったんだ。僕たちは皆、Tech N9ne をはじめとするスピード系ラッパーが大好きだから、2009年に Oli をバンドに誘ったときにラップに影響を受けたデスメタルというスタイルにしたいという話をしたんだよね」 Dave Otero のプロダクションも完璧な一枚。”メロディックなボーカルなんて絶対にやらない”。どうぞ!!

ARCHSPIRE “BLEED THE FUTURE” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SPIRITBOX : ETERNAL BLUE】


COVER STORY : SPIRITBOX “ETERNAL BLUE”

“This Music Is What I Need To Move On From a Lot Of Feelings And Really Dark, Intrusive Thoughts That I Constantly Have”

ETERNAL BLUE

世界で最もホットなバンドは?少なくとも SPIRITBOX は、現在すべてのロック、メタルのファンが話題にせずにはいられないバンドでしょう。誰もが “ヘヴィー” の意味を問うことになる “Eternal Blue” の感情的な旅とともに。
SPIRITBOX には当初、大げさな指針や計画は存在しませんでした。そこに存在したのは、自分たちの音楽を作りたい、自分たちの物語を書きたい、自分たちの運命を切り開きたい、というシンプルな願望のみ。ゆえに決断は、簡単で迅速なものでした。
2015年末、当時アバンギャルド・エクスペリメンタル・メタルコア Iwrestledabearonce のボーカリストとギタリストであった Courtney LaPlante と Michael Stringer は、自分たちのキャリアが八方塞がりでどこにも到達しない道を歩んでいるという現実に直面したいました。毎晩ステージに立ち、誰かの曲を演奏する毎日。観客の数はどんどん減っていきました。そして、Courtney はある結論に達します。
「ある日、私たちは集まって、将来について話していたの。そして…私が自分自身についていた嘘のすべてが一度に襲ってきたの。このバンドには未来がないってね」
Courtney LaPlanteは、魅力的で、愛想がよく、努力を惜しまないクールな女性。当時の、好きなバンドと一緒に国中をツアーで回るという人生の過ごし方でわかったことは、アーティストの理想と現実でした。
「中堅のバンドに所属するほとんどの人は、現実から逃げているだけだと思うわ。ツアーが長引けば長引くほど、仕事をしたり、親の家の地下以外に住む場所を探したりする必要がなくなるだけなんだから」
当時27歳の Courtney は、時給8ドルのウエイトレスをしていました。Michael も同様に、配達車でピザを運ぶ仕事をしていました。そして現在、2人はデータ入力の会社で一緒に働いています。つまり、理想よりも現実に襲われ怯えていた当時の彼らには、それでも恋愛面でもクリエイティブな面でも、切っても切れない “ソウルメイト” であるお互いがいたのです。彼らにはまだビジョンがありました。そしてすぐに、彼らはプログレッシブでヘヴィーでアトモスフェリックな、TesseracT というバンドに少なからず影響を受けた音楽を “魂の箱” に入れて、自分たちの新しいバンドを結成したのです。そのバンドの名は SPIRITBOX。

20代半ばの Courtney は、Iwrestledabearonce の前ボーカルである Krysta Cameron の後任としてバンドに加入。本業を休むことになりました。後に Michael も加入しますが、結局あのバンドで、夫妻のクリエイティブな夢は叶えられませんでした。
「自分でバンドを始めるのとは違ったのね。私たちは、すでに確立されたもの、つまり、彼らのビジョンの中に入っていったのだから」
Iwrestledabearonce では、生活費を稼ぐこともままなりませんでした。
「文字通り、ズボンを買うお金もなかったわ。パッチを当てることもできなかった。でも、音楽業界にいない人たちは、みんな私たちが家や車などを持っていると思っているでしょうね。自分たちが目指す場所にたどり着くのはとても大変なことだけど、同じように感じているバンドは世界中に何百万といるでしょう。
メタルの世界は、ある意味ではとても遅れているの。このジャンルには、異なる雰囲気があるわ。業界全体が本物を求めているようだけど、メタルの世界では、ツアーを終えてバーで仕事をしていることを人々に知らせるのは、汚い秘密のようなものと考えているの。そのような姿を人に見られたくない、バンド活動の実際の苦労を見られたくない、みたいなね。
私は、正直な人をとても尊敬しているのよ。だから、”あなたたちはミュージシャン以外に普通の仕事をしているのですか?” と聞かれたら、私たちは正直に “そうよ、生きていくためには絶対に働かなければならないから” と答えるの。私たちと同じレベルのバンドで、仕事をしていないと言っているヤツはバカよ。19歳で母親と一緒に暮らしているか、それともバカかどっちかよ。正直なところ、時給8ドルで働きながらミュージシャンとして生きていくのはとても大変なの。」
Iwrestledabearonce が2016年頃に別れの言葉もなく解散したとき、創設メンバーではなかった Courtney と Michael は、Myspace のメタルコア時代に享受した成功を自分たちの言葉で再現しようと決意しました。Iwrestledabearonce が永久に止まってしまってから2年後、2人はカナダの小さな島に移住し、2017年末に SPIRITBOX として再登場し、自作の同名のデビューEPをリリースすることとなります。
バンド名の由来となった装置( “スピリットボックス” はAM と FM の周波数をスキャンし、ホワイト・ノイズの中に幽霊の声を拾うことができるとされている)の音が散りばめられた再登場で、彼らはメタルに対する雑食的でジャンルを共食いするようなアプローチを示し、インダストリアル・エレクトロニカの音が、マスコアのリフやシューゲイザーのようなメロディ、ポップなフックと一緒に鳴り響く唯一無二を提示したのです。

Courtney と Michael は、夢のバンドを結成するための時間と場所がようやく与えられたとき、結婚生活の年数を合わせたよりも多くの意見の食い違いがありました。アートワークはどのようなものにするか?火か花か?黒か青か?それはまるで結婚セラピーのようでもあり、初めての子育てのようでもありました。
「私たちには多くの意見の相違があったわ。例えば、作品のアートワークの色など、些細なことでもすべてにおいてね」
大局的な部分では基本的に一致していたものの、Photoshop のカラー・パレットについて口論する時間が待ち受けているとは、二人とも想像もしていませんでした。しかし、この戦いには価値がありました。30代になったばかりの2人は、音楽業界で20年の経験を積み、ついに自分たちのバンドと呼べるものを手に入れたのですから。
実は Michael と出会う前、Courtney は自分をメタルのシンガーではなく、女優として見ていました。それが変わったのは、俳優を目指す多くの才能ある子供たちが直面する教訓を学んだ日。自分は優秀だが、ベストではないという壁。
「15歳のとき、アラバマ州のクラスに150人しかいない町から、1,500人いるカナダに引っ越したの。私は、自分がやりたい学校劇の役に、自分より上手い人が挑戦していたら、絶対に挑戦しないタイプだったの」
若い頃に曲を作っていましたが、世に出す勇気がなかった彼女は、そうして弟と一緒に音楽を作ることに自分の創造性を向け始めます。
当時、Courtney は “Garden State” のサウンドトラックのような “ダサいヒップスターやインディーの曲” を聴いていましたが、弟は彼女をメタルの世界に引き込もうとしていました。最初に影響を受けたのは RAGE AGAINST THE MACHINE。
「ある日、弟が作曲した曲の中にブレイクダウンが入っていて、私は “これはどうすればいいの?” って聞いたのよ。すると弟は、”RATM のように叫べばいいんだよ” って。そこではじめて、ライオンが吼えたのです。
「この感覚に匹敵するものはないわね。頭蓋骨全体に振動が伝わるの。とてもパワフルな感じがするわ。音から性別を取り除くような感覚」
彼女はその性別を感じさせないサウンドを練習し続け、小さな町で披露するようになりました。それが、彼女の残りの人生だけでなく、最愛の人へと導く道となりました。
Courtney はその同じカナダの小さな田舎町で育った、後に夫となる SPIRITBOX の共同設立者と出会った瞬間を、今でも鮮明に覚えています。Michael は彼女の弟と同い年でしたが、早熟な楽器の才能を発揮する Michael を二人は畏敬の念を持って見守っていました。
若きギタリストだった Michael は、PROTEST THE HERO や A TEXTBOOK TRAGEDY といったカナダのプログメタル・バンドに夢中になっていました。後者は、BAPTISTS, SUMAC, GENGHIS TORN のドラマー Nick Yacyshyn を擁する、バンクーバーを拠点とする狂乱のバンドでした。Michael の最初のバンドである FALL IN ARCHAEA は、そういったグループの頭が回転するようなポリリズムの足跡を忠実に再現しています。
「2008年6月のことだったわ。彼のバンドと私のバンドが、同じアナーキストの本屋で演奏していたの。弟にあなたが彼の年齢になったときには、彼のように上手になれるわよと言い聞かせていたのだけど、Michael もまだ16歳だったのよね。彼はいつも目立っていたわ」
Courtney と Michael は、先鋭的な書店や小さな町の会場を同じように回っていましたが、それぞれが23歳と22歳になるまで、お互いの人生に大きく関わることはありませんでした。しかし、そんな友人関係は徐々に変わっていきます。
「ある時点で、私は彼を愛しているのではなく、彼に恋をしているのだと気づいたの。Michael も同じことを感じていたようね」
二人の関係は恋愛と仕事で共に、すぐに切り離せないものとなり、一緒にいない時間が苦痛に感じるようになりました。お互いが今ではすべてをさらけ出しています。
「私たちは互いのすべてを知っているわ。24時間365日一緒に過ごすことは、普通のことではないのよね。私たちの関係の境界線は非常に曖昧なのだけれど、一緒にバンドをやっていることで、お互いにもっと正直になれたのよね」

上昇志向の強いスーパー・カップルは、生活のほぼすべての面で絡み合っています。毎朝共に起きて、同じヘルス・データ入力の仕事に行き、同じ時間働いた後、家に帰ってきてバンドのために共同作業を行うのですから。
2016年に Courtney と Michael が結婚したとき、結婚式の招待客は新しいトースターを贈るかわりに、2017年にリリースされたデビューEPのミキシングとマスタリングの費用をまかなうために、2人に数ドルを提供するように求められました。現在の Courtney は、Michael と彼女が共有していた駆け出しのバンドに対する信念を、単にナイーブなだけではなく “妄想” とまでに表現しています。
「私は、バンドには2種類の人がいると思っているの。IWABO の最後の頃の私のように、気晴らしとして利用している人。そして、今の私たちのように、”どうしてもこのバンドをやらなければならない、誰にも止められない”という人たちね。私たちのように、バンドに所属していることが、すべての邪魔をする強迫観念となっている人もたくさんいるのよ」
ただし、そういった二人の “妄想” は、実を結んだと言ってもよいでしょう。ベーシストの Bill Crook が加入して完成をみた SPIRITBOX は、見過ごされていた過去とは一変して、今では世界中のロックやメタルのファン、マネージャー、プロモーター、レーベル、ジャーナリストが口にする名前となっています。4年前には”夫婦バンド” だからと一蹴された音楽が、今では7500万回もストリーミングで聴かれているのですから。
そうして届けられた “Eternal Blue” は2021年で最も完成度が高く、魅力的なヘヴィー・アルバムの一つとなりました。世界は、まさに彼らのもの。しかし、”Eternal Blue” の旅路を理解するには、まず Courtney LaPlante を理解する必要があります。
Courtney は、その曲が存在する何年も前から “Eternal Blue” という名前を見つけていました。もっと言えば、彼女は人生の中でずっとこのタイトルを見つけていたのです。
つまり “永遠の青” とは、自分の人生が “うつに悩まされてきた” という Courtney の告白。
「バンクーバー島が存在することさえ知らなかった。何?島なの?私をバカにしているの?私は18歳になったらすぐにここを出て、アラバマに戻るわよと言っていたの。でも叔父は、今はまだ理解できないだろうが、信じてくれ、お前はとても保護された場所で育ってきたが、これからは多くの新しい経験や人々に触れることになる。ここに戻ってくることはないだろう。君はそこを好きになるだろうってね。そして最終的に彼は正しかったわ」
アメリカ南部のアラバマ州で生まれ育った Courtney は、15歳のとき両親の離婚と母親の再婚を機に、北へ2,000マイル離れたカナダ西海岸のバンクーバー島、ビクトリアに引っ越しました。6人兄弟の長女である彼女はその時、”自分の人生のすべてを捨てた” と言います。新しい町の新しい学校で、彼女は居場所と友人を見つけるのに苦労しました。
「当時、私はうつ病というものがどういうものか知らなかったし、物事はそういうものだと思っていたから……私はよく助けを求めて泣いていたけど、周りの人たちがあまりにも多くのことを経験していて忙しかったから、助けてもらえなかったのでしょう。私は人を操るのがうまいので、何もしなくてもいいように、隙間をすり抜けていたの。私が今もここにいるのはとても幸運なことよ。10代の脳は、完全に発達した大人の脳とは大きく異なるのだから」
Michael がパートナーの感情の起伏、つまり “ベッドから起き上がれないほどの自信喪失と不安” が3日間続くことについて、穏やかに話し始めたのは、ちょうど2年前のことでした。Michael は Courtney に “この状況を何とかしなければならない。君はこんな思いをしなくてもいいんだよ” と告げます。
「私が普通ではないこと、それが私に何か問題があるのではなく、私という人間の一部なのだということを理解するには、彼が必要だったのよ。私は他の人と違うけど、それは欠陥のある人間だということではないのよね」

“Eternal Blue” は、今年の初めにカリフォルニア州のジョシュアツリーでレコーディングされましたが、曲作りの多くはこの暗い時期に行われており、結果的にその旅路の傷跡が12曲の中に生々しく残っています。”Eternal Blue” というタイトルは、この12の音楽のコレクションと同様に、Courtney の物語を内包した言葉なのです。
「ヘヴィーな音楽は、自分自身がそういった感情と結びつくための最良の方法のひとつで、それによって、たとえ2、3のステップが必要であっても、乗り越えることができるの。”Eternal Blue” は純粋な利己主義的作品よ。なぜなら、私にとってこの音楽は、私が常に抱いている多くの感情や攻撃性、本当に暗くて私に侵入してくる考えから前に進むため必要なものだから。でもね、私のうつに対する対処法がたまたま市場性のあるものであったことは幸運だったのよ」
歌の中では、彼女のそんな考えが物理的な形で表現され、心の闇を具現化するキャラクターが登場していきます。
「私はイメージやメタファーの後ろに隠れるのが好きなの。それは私が安心できる場所、隠れている場所、そして誰も私を傷つけることができない場所だから」
例えば “Holy Roller” は、2019年のホラー映画 “Midsommar” を彷彿とさせるビデオをになり、昨年、SPIRITBOX を広く世に知らしめました。9歳の少女 Harper がこの曲をカバーしたバイラルビデオが瞬く間に広がり、Courtney の元にまで届いた事実はその証明で、彼女は今でもビデオを見るたび目に涙を溜めます。少なくとも、この9歳の少女は、Courtney の猛烈な音域を正確に捉え、彼女の2倍の体格と長年の経験を持つボーカリストのようなパワーを発揮していました。歌詞の内容まで深く理解しているかはわかりませんが。
「この歌詞は、私が私の中の悪魔として話しているのよ 。それは私の憂鬱であり、私を堕落させようとする悪であり、私を全然良くないからって暗闇に誘惑している声なのよ。私は無宗教だけど教会で育ったから、今でも聖書に書かれているサタンの擬人化の仕方が、いつも心に残っているの。悪魔はモンスターではなく、あなたにささやきかけてくる、最悪の事態を引き起こす人間なの」
Courtney は “Circle With Me” を例に挙げます。
「この曲では、自分自身のことを書いていることもあれば、潜在意識や、目標を阻む憂鬱な気持ちを代弁していることもあるの。自分がまだ十分ではないと言っているの。私の悪魔が私に言っているのよ。あなたが自分らしくあることを妥協すれば、すべてがあなたのものになる… ってね」
これらの声は、Courtney 自身のボーカル・パフォーマンスにも反映されています。クリーンからスクリームへの移行を、Courtney LaPlante のように巧みに、深く、激しくこなすフロントマンはほとんどいないでしょう。それは、バンドが自身の YouTube チャンネルで公開している、スタジオ内のボーカル・ブースでのワンテイク・パフォーマンスのビデオが証明しています。(バンドのシングル “Rule Of Nines” のリリースに合わせて公開されたこのビデオは、これまでに210万回再生され、同じ曲の公式ミュージックビデオよりも人気があるのですから。
Courtney は長年にわたって声帯に深刻な損傷を受け、声域が制限されていましたが、ポリープが奇跡的に消えたことで回復しました。だからこそ、”Eternal Blue” を32歳にしてようやく “自分の本当の声” を実現できた作品だと考えているのです。
天使と悪魔が、コートニーの左右の肩に座っているようにも思える彼女の歌声。表面的には明確なその二面性も、しかし彼女にとっては地続きです。
「私にとって、叫び声と歌声は同じ感情から来ているの。叫ぶことは体に負担がかかるけど、技術的なことはそれほど必要ないわ。私は自分のパフォーマンスに没頭するのが好きで、スクリームは催眠状態のようなもの。でも、歌声はもっと壊れやすいから、考えすぎないようにするのは難しいわね」

そうしてこの対照的な手法は、”Eternal Blue” 全体に、不安定さと脆弱さの感覚を生み出す役割を果たしています。特に後者は、コートニーにとって有益な感情であり、ヘヴィー・ミュージックにはまだまだ大きく欠けているものだと彼女は感じています。
「ヘヴィー・ミュージックはやっぱりまだまだ男性優位の世界だから、男は怒りや強さ以外の特徴を見せてはいけないと教えられているの。誰もが普遍的に弱さを感じることがあるけれど、多くの男性にとって、それを曲の中で表現することを快く思うサポートを得るのはとても難しいことなのよ。
特に、概して “克服” や “立ち上がること”、”戦い” がメッセージになるような攻撃的なタイプの音楽では、そういった状況に陥りやすいわ。だけど、ヘヴィー・ミュージックには周期性があって、その中は弱さが浮かび上がってくることもあるのよ?」
Courtney は、その証拠として “弱さ” を内包していた Nu-metal やエモのムーブメントを挙げ、これらのシーンが、他のサブ・ジャンルでは “ロック” から離れていたかもしれないファンにとって、音楽的なゲートウェイとなったと信じています。同時に彼女は今日、人々がヘヴィー・ミュージックを発見する道は、かつてないほど広く、アクセスしやすくなっていると付け加えました。これは重要なことだと Courtney は感じています。彼女自身の経験がそれを裏打ちしているからです。
「私はこの業界で成功しようと大人になってからずっと過ごしてきたんだけど、一つの定型化した音楽のジャンルにこれほど情熱を傾けるのはとても奇妙なことよね。でも、LOATHE や CODE ORANGE, SLEEP TOKEN のようなバンドが現れたり、ISSUES や BMTH のようなもう少し洗練されたバンドが現れたりすると、また違った感じでとても新鮮なのよ。メタルにおける “ゲート・キーピング” のような旧態依然とした考え方は、古臭くて何か癪に障るのよね。一つのスタイルのメタルしか好きになることができない人たちのようなね。
メタルというジャンルの好きなところの一つは、結局のところ、とても進歩的だということなの。新しい経験に対してオープンであること。奔放で、新しいサウンドを探求したり、ジャンルを試したりすることに寛容なのよ。でも一方では、新しい音楽やアイデアを理解したり受け入れたりすることを全く拒否し、チャンスを与えようともしない閉鎖的な考え方も非常に多いのよね。と言うよりも、多くの点で、メタルというジャンルの “古い” 印象は、境界線を押し広げて新しいことに挑戦している BMTH や ARCHITECTS のような新しいバンドに置き去りにされているからかもしれないわね。
これらのバンドは自分たちに忠実であると同時に、未知の世界へと足を踏み出しながら、昔々、私たちが “クラシック・メタル” と考えていたことをやっているんだけど、結果は違っているのよね。メタルというジャンルにとって、今は別の時代であり、好むと好まざるとにかかわらず、時は進むのよ。だから私たちはそれに合わせて進まなければならないと思うわ」
もちろん、パラダイムが世代によって変わることは、音楽、文学、ファッション、大衆文化などでは当たり前のこと。ヘヴィー・ミュージックは、今後もシフトし続け、劇的に変化していのでしょうか?
「そう思うわ。例えば、私はミレニアル世代だけど今、自分よりも若い世代を見てみると、ジェネレーションZの人たちが見えてくるの。彼らにとっての “ロックスター” のイメージは、現在はヒップホップの世界から来ているのよ。そこでは今、実験的で奇妙なカウンター・カルチャーが起こっていて、彼らは主流のポピュラー・カルチャーと心を通わせようとしているの。私の世代の親は METALLICA に夢中だったけど、今の若い世代はR&Bやヒップホップのアーティストに注目しているわ。
私は、オルタナティブ音楽のジャンルは、これらのアーティストを参考にして、彼らが現在の状況にどのように適応しているか、また、自分の音楽や全体的な影響力をどのように世界に発信し、マーケティングしているかを知ることで、利益を得ることができると考えているのよ。だから私はそういったアーティストから多くのことを学び、インスピレーションを得ているわ。彼ら(ヒップホップ・アーティスト)は、基本的に自分のやりたいように物事を進めていくことで自分の帝国を築き、現代の変化し続ける世界に道筋を作ってきたの」

SNS も現代では成功のための欠かせない要素だと思われています。
「私たちは、Facebook の数字そのものから離れていっていると思うわ。私は、それが音楽と同じくらい重要だった時代を覚えているの。数年前までは、バンドの公式ページにどれだけ多くの人が “いいね!” を押しているかが気になるのが当たり前で、”いいね!” を買っている人もいるくらいでね。
例えば、あるメタルコアバンドの Facebook ページにアクセスすると、ここ10年くらい続いているバンドの場合、Facebook の “いいね!” が15万件もあるのに、何かを投稿すると “いいね!” が6件くらいしかつかないことがあるわ。明らかに何かが間違っている。特定の方法で数字をごまかすことはとても簡単なのよ。幸いなことに、人々はそのような傾向から脱却しつつあり、特にレーベルは、最終的にはそれがとても重要ではないということに気付いているわ。
SPIRITBOX は、ソーシャルメディアの数はたいしたことはないけれど、エンゲージメントには素晴らしいものがあるのよ。私は、オンラインでのエンゲージメントは、音楽への入り口のようなものだと考えていてね。それがある人にとって興味深いものであれば、その人が音楽をチェックする可能性は非常に高くなるのだから。
でも、最近の人々は、まず音楽を聴いて、それからソーシャルメディアの美学をチェックする傾向にあると思いうわ。私が所属していたバンド (IWABO) は、50万以上の “いいね!” を獲得していたけど、ライブになると12人しか来なかった(笑)。つまり、私が言いたいのは、ソーシャルメディアは今日の業界のすべてではないということなのよね」
10代後半に弟を介してヘヴィー・ミュージックに出会った彼女は、幅広い趣味を持つ音楽ファンとして、ヒップホップや R&B、ポップスの世界でソング・ライティングのお手本を挙げる傾向が多いのですが、彼らのやり方はヘヴィー・ミュージックのそれとは相反すると感じています。
「ヘヴィー・ミュージックでは、ボーカリストが、曲の後ろを走ってついて行こうとしているように感じることがよくあるわ。他の多くのジャンルでは、楽曲はボーカリストをサポートするためにあるのであって、その逆ではないのよね。だけど、重要なのは、方法ではなく、何が語られているかということでしょ?
最近の若い世代は、とても勇敢だと思うわ。臆することなく自分自身を表現し、ヘヴィー・ミュージックの文脈の中で自分が何者であるかを探求しているわ。ヘヴィー・ミュージックの世界に入ってきている多様な声、人生の様々な場面で得たユニークな経験を表現することに前向きな声は、ヘヴィー・ミュージックをエキサイティングなものにするだけでなく、このジャンルが必要としているものでもあるのよね」
そもそも “ヘヴィー” とはいったい何でしょうか? “Eternal Blue” の最も重大な成果は、基本的なこの言葉の定義にとらわれることを拒否していることでしょう。確かにこのアルバムは、バンドのルーツであるポスト・メタルコアから生まれたもの。THE ACACIA STRAIN や ARCHITECTS(ボーカルの Sam Carter は、激しい “Yellowjacket” にゲスト参加している)などが、このアルバムの最もヘヴィーな瞬間に使われているトーンやチューニングに対して影響を与えているのは明らかです。テクニカルなリフ、挑戦的なリフ、そしてブレイクダウンも豊富。
しかしそれだけでなく、”Eternal Blue” は、異なる次元と色を持つレコードです。ジャンルの慣習は少なくとも参考にはなりますが、制限にはなるべきではないでしょう。ジョシュアツリーの20エーカーの孤立した土地で “Eternal Blue” をレコーディングしたことも一つの “掟破り” であり、この砂漠の環境がアルバムに幽霊のような雰囲気を与えています。Michael が説明します。
「パンデミックもあって、人里離れた場所での作業を希望していたんだ。そして、カリフォルニアの砂漠の真ん中にその場所を見つけたんだよ。外に出ても何も聞こえない、純粋な静けさだったね。まるで防音室の中にいるようだった。遠くに車が見えるくらいで、それだけさ。そんな生活を30日間続けたことで、このレコードは奇妙な雰囲気を醸し出していると思う」

同時にMichael は SPIRITBOX を立ち上げるにあたって、その作曲法を大きく転換させました。
「俺の最初のバンドは、とてもテクニカルで不協和音を多用していた。Iwrestledabearonce は、それ以上だったな。だから、これまでの俺は、どれだけ速く演奏できるか、どれだけ極端に楽器を演奏できるかといった、衝撃性に夢中だった。でも、SPIRITBOX を始めた頃は、同じような姿勢で、どれだけキャッチーなものを作れるだろうかという感じになっていたね」
Courtney は、”Michael から流れ出る” ギターワークを、”非常にアグレッシブだけど、悲しさもある” と表現しています。彼女は “sorrowful” や “mournful” という言葉を使って、彼のギターを人の声が聞こえてくるようなサウンドスケープを表現しました。Courtney の耳にとってそれは、まるで誰かが泣いている音のように聞こえてくるのです。
「私はいつも、衝撃的なテクニックよりもアトモスフィアに惹かれてきたの。テクニカルな音楽は、演奏しているときはとても楽しいのだけど、感動を時間が経っても持続させる力がないのよね。私の心に響くヘヴィネスの好例は、DEFTONES のようなバンド。ヘヴィネスとは、私にとっては圧縮感なの。ヘヴィーとは、あなたの心を重たくして、萎縮させるもの。自由になって叫ぶことができるような解放感ではなく、それこそがヘヴィーの定義なの」
ゆえに、彼女は友人と喧嘩した後に世界から閉ざされた気分になることを歌ったアルバムのタイトル・トラックを、アルバムの中で最も好きな曲であるだけでなく、アルバムを決定的にする瞬間であると指摘します。EVANESCENCE の影響を受けたオープニングの”Sun Killer” や、アルバムを締めくくる “Constance” では、メロディーの感情的な響きが、アルバムの中で最も激しい3分間 “Silk In The Strings” に匹敵する “重さ” を生み出しています。また、前述のCircle With Meでは、コートニーが “When birds of prey invade my thoughts, they promise I will feel the pain” と優しく歌うと、楽曲最後のノイズのクレッシェンドと同じくらいの衝撃が走ります。
「この音楽はとてもこころを動かすものよ。だから、私と一緒に完全に感情移入してもらいたいの」
このような色とりどりのスタイルは、感情の不安定で変化し続ける形を伝えたいという想いと、SPIRITBOX 独自の流動的で柔軟なサウンドを作りたいという二つの想いから生まれたものでした。 結局、”Eternal Blue” は、簡単に分類できるようなレコードではありませんが、それが重要なポイントなのです。感情や人間は、単純に一つのもので成り立っているわけではないのですから。
「ロックやメタルのリスナーとして、私たちはすべてのボリュームが常に “11” に上げられていることを期待するような耳を鍛えてきたのよね…」
Courtney は、この言葉がメタル界の鼻持ちならない人たちの眉間にしわを寄せるかもしれないことを知っています。そのような人たちに対して、あるいは誰に対しても、彼女は “Eternal Blue” への期待値や SPIRITBOX のサウンドが次にどこに向かうかについて、何の約束もしません。忘れてはならないのは、このバンドはまだ自分たちの足場を見つけたばかりであり、1年前でさえ、このようなスポットライトの下で期待を浴びいるとは思ってさえいなかったということ。

例えば、ライブが復活したら “Eternal Blue” の世界はどうなるのでしょうか?これまでにわずか15回のライブしか行っていないバンドにとって、それを考慮することがいかに難しいかを表現しながら、それは独特の、そして間違いなく歓迎されるべきプレッシャーであると Courtney は認めています。だからこそ、今 Courtney LaPlante は、最も落ち込んでいた2年前の、”Eternal Blue” を書いたときの自分とは少し距離があると感じているのです。
「これからの数年間は、時間に追われている Courtney ではなく、ミュージシャンとしての Courtney という本来の自分を取り戻すことができるでしょうね」
ただし、形は違えど、根っこにある感情は変わりません。
「今は、他の新しい不安を抱えているわ。私は失敗するのかしら?このアルバムは私の夢を叶えてくれるのかしら?それとも世界の笑いものになってしまうのかしら?でも、”Eternal Blue” の曲はすべて、今の私の心に一層響いているのよ。このアルバムの中で最も古い曲は、なりたい自分になれないもどかしさを歌ったものだから」
そして今、そのチャンスを手に入れたのでしょうか?
「今、私は自分の物語の中で自虐的な敵役になれるかもしれないわね。私は警戒心を捨てて、自分が必死であることに気づいているの。そう、私はこのバンドに必死なのよ」
Courtney は最近、Billie Eilish の “Same Interview” のビデオを見ました。その中でポップスターは、前回のインタビューからちょうど365日後にまったく同じ質問に答え、自分の人生の変化を振り返っています。2020年10月18日版では、それも4年目を迎えました。
「私たちは彼女が一人の女性として成長し、昔の自分を笑うのを見ているのよ。でも、彼女が言っていたことの中で、とても心に響いたのは、大スターになった今、誰かと話をしていると、自分ではないような、Billie Eilish の役を演じている自分を見ているような、そんな体外離脱の体験をすることがあるということね。そして、それはとても悲しいことなのよ。でも、私が自己認識を持ち続け、自分が説くことを実践し、自分の音楽の中で弱さを保つことができれば、私たちは大丈夫だと思うのよ」

参考文献:KERRANG!:Believe The Hype: Spiritbox are the hottest band in the world

REVOLVER:10 THINGS WE LEARNED FROM OUR SPIRITBOX

SPIRITBOX:SPIRITBOX: RISING CANUCK METAL TRIO IS A TRUE LABOR OF LOVE

OVERDRIVE:FEATURE INTERVIEW – SPIRITBOX

 

RISE RECORD: SPIRITBOX

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SPELL : OPULENT DECAY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAM MESMER OF SPELL !!

“We Think Our Music Is a Lot More Diverse Than That. We Never Try To Write ‘Heavy Metal Songs’ – We Just Try To Write The Best Songs We Can! Sometimes It Might Sound Like Pop, or Prog, or Gospel, or Disco, or Goth”

DISC REVIEW “OPULENT DECAY”

「カナダには偉大なバンドがたくさんいるけど、RUSH はアンタッチャブルな存在さ。19枚ものアルバムを全くの駄作なしで製作できるバンドが他にいるかい?彼らはキャリアを通じて何度も進化を遂げているし、常に適切で興味深い存在であり続けた。」
RUSH, TRIUMPH とカナダが生んだトリオは須らく、その音楽に絶佳の魔法を宿してきました。そしてその魔法は文字通り “呪文” の名を冠する若き三銃士 SPELL へと受け継がれていきます。
「”NWOBHM” や “NWOTHM” のラベルが貼られることが多いようには思えるね。おそらく CAULDRON, SKULL FIST, ENFORCER といった “ニューウェイブオブトラディショナルヘビーメタル” のムーブメントが勃興した時にバンドを始めたからだろうな。」
たしかに、SPELL はそのキャリアを通じてトラディショナルなメタルを磨き上げ、鮮やかな光沢を付与することに多大な貢献を果たしています。ただし、その狭い世界のみにとどまるには、SPELL の魔法はあまりに虹色です。
「僕たちの音楽は彼らよりもはるかに多様だよ。なぜなら僕たちは “ヘヴィーメタルソング” を書こうとはしていないから。ただ、できる限り最高の曲を書こうとしているんだ。だから時にはポップ、プログレッシブ、ゴスペル、ディスコ、ゴスのように聞こえるかもしれないね。良い音楽ならジャンルなんて気にしないのさ。」
“Opulent Decay” のサイケデリックな波光を受けて、SPELL の術式は神秘的なオーラとアクティブな胎動の共存を可能にします。エアリーなギタリズム、幾重にも重なるエセリアルなシンセ、叙情と憂いのハーモニー。時に Steve Harris を想起させる縦横無尽のベースラインはバンドの強力な碇です。
ポップ、プログレッシブ、ゴスペル、ディスコ、ゴスを巧みに操るメタルの新司教と言えば GHOST でしょう。ただし、バンドの首脳 Cam は GHOST や OPETH を目指しているわけではないと断言します。
「僕たちが自らを “Hypnotizing Heavy Metal” と称するのは、他のラベルが当てはまらないからなんだ。僕たちは音楽が魔法だと信じている。人々の現実を変える力を持った魔法だよ。”催眠術” をかけるようにね。それこそが僕たちの目標なんだ。」
ヒプノティックヘヴィーメタル。夢見心地の催眠術を施すヘヴィーメタルは、よりニッチでアンダーグラウンドな場所から現実を変える波動です。
BLUE ÖYSTER CULT の神曲 “(Don’t Fear) The Reaper” のヴァイブを纏う死神の哲学 “Psychic Death”、地下スタジアムの匂いを響かせるタイトルトラックに、よりリズミカルプログレッシブな “The Iron Wind”。何より、GHOST 成功の要因を抽出し黒魔術のポットで煮詰めたような “Deceiver” のロマンティシズム、訴求力にはただならぬものが感じられますね。
今回弊誌では、ベース/ボーカル Cam Mesmer にインタビューを行うことができました。「日本のバンドは大好きだよ!聖飢魔II、CROWLEY, LOUDNESS, GISM, THE EXECUTE, TOKYO YANKEES, THE COMES, G-SCHMITT, GHOUL なんかだね。日本には最高に強力でユニークなヘヴィーメタルとパンクの文化が根付いていて、僕はそこから最も影響されているんだよ。」どうぞ!!

SPELL “OPULENT DECAY” : 9.8/10

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