COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALCEST : LES CHANTS DE L’AURORE】


COVER STORY : ALCEST “LES CHANTS DE L’AURORE”

“God Is Called Kami In Japanese, And They Basically Have a Kami For Everything. And You Can Clearly See That In Princess Mononoke.”

夜明けの歌

「今、メタルというジャンルはとてもオープンで、いろんなスタイルやアプローチがある」
ブラック・ゲイズ。このサブジャンルは、ブラック・メタルの狂暴で擦過的な暗闇と、シューゲイザーの幽玄でメランコリックな審美を等しく抱きしめた奇跡。メタルとインディー。つまり、このあまりに対照的な2つのジャンルの融合は、フランスの ALCEST が牽引したといっても過言ではないでしょう。
ALCEST にはサウンド面だけでなく、主にフランス語で作曲しながら、世界中に多くのカルト的なファンを獲得してきたという功績もあります。ヨーロッパや非英語圏のメタル・バンドは、より広くアピールするために英語で作曲するのが普通でしたが、ALCEST は音楽に普遍的な魅力があれば言語は関係ないことを証明し続けています。
7枚目のスタジオ・アルバム “Les Chants De L’Aurore” でALCEST は、極限まで輝かしく、メロディアスでみずみずしいアルバムを作るという野心的な探求に乗り出しました。”Spiritual Instinct” や “Kodama” で焦点となっていた “硬さ” や “ヘヴィネス” は減退。一部のファンは不意を突かれたかもしれませんが、”Les Chants De L’Aurore” はこれまで以上に、いやはるかにニュアンスがあり、高揚感があり、複雑なアルバムに仕上がりました。
タイトルの “Les Chants De L’Aurore” は直訳すると “夜明けの歌”。
「新しいアルバムを作るときは、音楽、ビジュアル、歌詞の間にとてもまとまりのあるものを作ろうとするんだ。アルバム・タイトルは、リスナーの心に強いイメージを喚起するものでなければならないと思う。”歌” にかんしては、このアルバムではいつもよりヴォーカルが多くて、合唱団もいるし、僕も歌っているからね。”夜明け” は、ジャケットのアートワークとリンクしていて、とても暖かくて、新しい一日のようでもあり、一日の終わりのようでもあり、その中間のようでもある。だから、このアルバムの持つ温かい雰囲気にぴったりだと思ったんだ」

ALCEST が前作 “Spiritual Instinct” をリリースしたのは5年前のことでした。その頃の世界は自由に動き回れる場所。ところが突然、世界的なパンデミックが起こり、私たちは孤立の繭に包まれました。
このさなぎから抜け出した多くの人たちは、本当に大切なものに対する感謝の気持ちを新たにしたでしょう。それはまるで夢想家に生まれ変わったかのようであり、世界の素晴らしさを再発見した子供たちのようでもありました。
「パンデミックの期間中、何もアイデアが浮かばず、ギターのリフを書こうとしても何も出てこなかった。今までで一番長い期間、何も書けなかった。1年間、リフが1つも出てこなかったと思う。僕はいつも何かを得ようとしていた。もうダメだって感じだった。そしてある日、すべてのブロックが外れた。
インスピレーションがどのように働くのか、本当に知りたい。とても複雑なテーマだ。1年間も何も見つからなかったのに、ある日突然、すべてが解き放たれたなんて。とても奇妙だよね。
10年間ノンストップでツアーを続けてきた僕らにとっては、何か違うことをするいい機会だった。大好きな人たちや、この10年間まともに会っていなかった家族と初めて一緒に過ごすことができた。これまでは年に1、2回地元に帰るだけだった。でもパンデミックのあとは、ほとんど毎日両親に電話するようになり、今では2~3カ月に1回は南仏に会いに行っている。人の温もりやあたたかい気持ちを再発見できた。だから結果的にはよかったんだよ」

つまり、Neige にとって夜明けの歌とは終焉であり、新たな始まりでもあります。
「僕にとってこのアルバムは、ALCEST のオリジナル・サウンドへのカムバックであり、初期のアルバムにあったような、とても異世界的でドリーミーなサウンドへの帰還だ。その後、ほとんどコンセプト・アルバムのようなものに踏み込んでいったから、ちょっとした再生のようなものだった。シューゲイザー・アルバム “Shelter” を作り、映画 “もののけ姫” をテーマにしたコンセプト・アルバム” Kodama” を作り、そして前作 “Spiritual Instinct” はとてもダークなアルバムだった。特に “Kodama” や “Spiritual Instinct” は様々な意味でより硬質だった。
でも、このニュー・アルバムこそが本当の ALCEST であり、僕がこのプロジェクトで表現したいことだと思う。子供の頃にスピリチュアルな体験をして、その体験を音楽で表現できないかと ALCEST を作ったんだからね」
そのスピリチュアルな体験とは何だったのでしょうか?
「子供の頃、何かとつながっているような感覚があった。子供には特別な感覚があると思うんだ。キリスト教的な宗教を連想させるから天国とは呼びたくないけど、人間的な経験をする前のような、僕たちみんなが来た場所、現世と前世、2つの人生の間にあるある種の安らぎの場所のような、魂が休まる場所とのつながりのね。
そのことをあまり話したくないから、代わりに音楽を作ることにしたんだ。だから、ALCEST のアルバムは毎回、物事の違う側面を探求しているというか、僕の日常生活や、いわば地道な生活の中で経験したことにより近いものがあるんだ」

同郷の GOJIRA とは異なり、ALCEST はほとんどの場合フランス語にこだわっています。そしてこのアンニュイな言語こそが、バンドの幽玄で優しい音楽をさらに引き立てているようにも思えます。
「とても不思議な話なんだけど、アジアや日本には巨大なファン・コミュニティがあるし、アメリカやヨーロッパの他の国にも僕らのファンがたくさんいる。でも、フランスは僕たちの存在に気づくのが本当に遅かった。フランスで本当に人気が出始めたのは “Kodama” からだと思う。なぜ英語に切り替えないかというと、フランス語で歌詞を書くことに安心感があるからなんだ。フランス語は僕の母国語だから、もちろん正確に書くし、母国語で書く方がずっと簡単なんだ。英語で歌おうとして、フランス語のアクセントが聞こえてしまうのが本当に嫌なんだよね。英語で歌うとフランス語のアクセントが確実に聞こえてしまう。
ただ、ボーカルがミックスの中ですごく大きいわけでもないから、フランス語が強すぎることはない。フランス語で歌うフランスのバンドだと思われたくないんだ。できることなら、僕らの音楽は少し普遍的であってほしいからね。あまりはっきり歌わないのはワザとだよ。フランス人だって歌詞を理解できないくらいにね。ボーカルは、メロディーのひとつの要素であってほしいんだ」
ブラックゲイズといった特定のレッテルを貼られることについては、どう感じているのでしょう?
「僕たちは最初の “ブラックゲイザー” バンドとしてクレジットされているし、プレスは ALCEST がブラックゲイズを発明したと言っている。どう考えたらいいんだろう……もちろん、僕らにとってはとても名誉なことだし、意図的にそうしたわけではないんだけど、僕らがジャンルを創り出したバンドだと思われているのならそれは素晴らしいことだと思う。ただ、ブラック・メタルのギターとドラム、ドリーミーなボーカル、そして天使のような、別世界のような、幽玄なタイプのメタルを演奏したかっただけなんだ。
そしたら、レビューの人たちがシューゲイザーという言葉を使い始めて、私は “ああ、シューゲイザーか、音楽スタイルとしてはとても面白い名前だけど、まあいいか” という感じだった。それからシューゲイザー・バンドを聴き始めて、”ああ、そうか、なぜ僕らがシューゲイザー・スタイルを連想されるのか、よくわかったよ” って感じになって、SLOWDIVE とかが大好きになったんだ。とても素敵なのは、ブラックゲイザー・バンドたちがみんな、ALCEST を聴いてバンドを結成したと言ってくれたこと。”あなたの音楽が大好きで、私も同じようなものを作りたかったからバンドを結成した”、これ以上の褒め言葉はないと思う」

SLOWDIVE と Neige には特別なつながりがあります。”Shelter” 収録の “Away” では Neil Halstead と共演も行いました。
「初めて Neil Halstead に会ったとき、僕はまだ20代半ばだった。ファンボーイだったんだ。だから彼に会ったときは怖かったし、ファンであることを隠すのはとても難しかった。だから震えていたし、今思うとちょっと恥ずかしい。でも、彼は本当に親切にしてくれたし、僕が若いミュージシャンで、彼ほど経験を積んでいないことを見抜いていてくれた。
SLOWDIVE を知ったのは、かなり昔のことで、そのころ彼らは音楽の地図から消えていた。誰も彼らのことを知らなかったよ。90年代の幽霊バンドのような存在だった。でも、だんだんもっと語られるようになったような、何か話題になっているような気がしていたんだ。それで彼に言ったんだ。”バンドを再結成したら、みんな熱狂するよ” ってね。そしたら彼は、”いや、どうかな” って。でも面白いもので、彼らが再結成した1年後、僕は彼らを見るためだけにロンドンに行ったんだ。今、彼らは巨大なバンドになっている。Spotify か TikTok か何かで、キッズたちがみんな彼らを発見したんだ。ここ数ヶ月の間に2回彼らを見たけど、観客の中には10代の子もいた。とても奇妙で、とてもクールだよ!
SLOWDIVE で一番好きなのは、”Souvlaki” からのアウトテイクで、”I Saw the Sun” っていう曲。加えて、”Silver Screen”, “Joy”, “Bleeds” といった曲があり、アルバムではリリースされなかった曲だけど YouTube で見ることができるし、おそらくブートレグもリリースされていたと思う。これらはバンドの曲の中で私が一番好きな曲だ。Rachel に再レコーディングや再リリースなどの予定はあるのかと聞いたことがあるんだけど、彼らはこうした曲が好きではないと思う。本当に素晴らしい曲なのに、残念だよね。ぜひ聴いてみてほしい。”Souvlaki: Demos & Outtakes” というタイトルだよ」
THE CURE にもみそめられています。
「Robet Smith は僕たちのアルバム “Kodama” のファンで、アルバムの全曲を演奏してほしいといって彼がキュレーションする Meltdown に招待してくれたんだ。僕は “冗談だろう?” って思ったね。
多くの人がポスト・パンクやニューウェーブに夢中になっているように、THE CURE はとても重要なバンドなんだ。だから、彼のような人がいて、彼が僕らを知っているという単純な事実だけでも、すでにすごいことなんだけど、彼がファンで、彼のフェスティバルで僕らに演奏してほしいと言ってくれたんだ。とても光栄だよ!」
“Les Chants De L’Aurore” は、SLOWDIVE の “Just for a Day” や RIDE の “Nowhere” といったシューゲイザーの名盤と肩を並べるような作品なのかもしれません。
「たぶん RIDE は、”Nowhere” ではドラムがシューゲイザーのレコードにしてはかなりラウドにミックスされていることから来ていると思う。SLOWDIVE や MY BLOODY VALENTINE では、ドラムはそこにあるけれど、もっと背景のような感じ。僕たちの新しいアルバムでは、ドラムが本当に聴こえるよね。ドラムを大音量でミックスしたのは、このアルバムが初めてなんだ。というのも、プロセス・ミュージックはメロディーやムード、雰囲気に重点を置いているからね。でも、ドラムの Winterhalter は、ドラム・パートにとても力を入れているんだ。だから、今回はドラムの音をもう少し大きくしてもいいんじゃないかと思ったんだ」

なぜ、”Spiritual Instinct” のダークでヘヴィな世界から離れたのでしょう?
「そこから離れる必要があったから。いつもツアーをしていると、一人でいることがなくて、いつも人と一緒にいる。だから、自分自身との接点を失うのはとても簡単なことなんだ。最初のインスピレーションは何?この音楽プロジェクトを作ろうと思ったきっかけは?
“Spiritual Instinct” で聴くことができるように、僕は少し混乱していて、フラストレーションを感じていたんだと思う。そして、自分のスピリチュアリティと再びつながることがどうしても必要だった。あのタイトルは、僕が少し混乱していた時期でさえ、たとえ迷いを感じていたとしても、自分の中にある内なる世界やスピリチュアリティを感じることができたという意味なんだ。それは消えることはなかった。パンデミックで僕たちは一区切りをつけ、このバンドに対する主なインスピレーションは何だったのか、このバンドで表現したいことは何だったのか、本当に集中し直した。そして、最初のアルバムにあったコンセプトに戻りたいと気づいたんだ。最初の2枚のアルバムは、この別世界について歌っているからね。光と調和というもうひとつの世界に戻ってきたんだ」
回帰といえば、今回のアートワークはファースト・アルバム “Souvenirs d’un autre monde” を暗示しているように思えます。
「フルートの少女だね。ファースト・アルバムはフランス語で “別世界の思い出” という意味。そのファースト・アルバムの少女が成長し、今、僕がこのプロジェクトで成長したように、彼女も大人になったという意味で、ファースト・アルバムへの言及を入れたかった。ALCEST を始めたのは14歳か15歳のとき。基本的には子供だった。そして、このキャラクターも僕も、この世界、ALCEST の世界の中で成長した。そして、ニューアルバムのジャケットでは、大人になった彼女を再び見ることができるわけだよ」

そして、オープニング・トラックの日本語 “木漏れ日” でこのジャケットを暗示しています。
「恍惚とした曲だよね。幸せな気分になる。光に満ちている。日本語には、英語にもフランス語にも訳せないような言葉がいくつかあるけれど、それがひとつの概念になっているところが好きなんだ。”Komorebi” は、春の木漏れ日を意味する。そしてそれは、まるで宝石のように葉をエメラルド色に変える。とても美しいと思ったよ」
ALCEST のレコードには、宝石の名前を冠した曲が収録されています。
「そう、実は小さな伝統のようなものなんだ。”Komorebi” は、ファーストアルバムの1曲目 “Printemps Emeraude” “エメラルドの春” の現代版のようなもの。”Shelter” には “Opale”、 “Kodama” には “Onyx”、”Spiritual Instinct” には “Sapphire”、そして新作には “Amethyst” が収録されている。だから全部かな!でも、アメジストには特別な意味があるんだ。紫は神秘主義と精神性の色だからね。だから、それを指しているんだ。この石を曲のタイトルに使うのは、僕らのキャリアの中で完璧な瞬間だと思ったんだ。とても強い意味があるんだよ」
ただし、Neige のスピリチュアリティは、神秘主義のような秘教的なものとは異なります。
「確立された考え方に従わないという意味で、秘教的なものはあまり好きではない。というのも、スピリチュアリティについてあまり詳しく読みたくないから。誰もが自分の考えが正しいと思っているけれど、地球上には人の数だけ真実があると思う。そして誰も知らない。誰もすべての意味を知っているふりはできない。神はいるのか、それとも?
でも、自分の感情や直感に耳を傾けるなら、僕はとても直感的な人間だから、スピリチュアルなものやこの種のものと、ただ本で何かを読むよりもずっと深いつながりを持つことができると思う。高次のものとのつながりを感じるために教会に行く必要がある人もいる。でも僕の場合は、自然の中に身を置く必要があるので、故郷に近い南フランスで多くの時間を過ごしている。そこにはとても美しい自然があり、バンド結成当初から私にインスピレーションを与えてくれた。
森の中や海の近くなど、特別な場所にいると、現実ともっと壮大なものとの橋渡しをしてくれるような気がするんだ。この背後に何かがあることを実感できるんだ。少なくとも、僕はそう感じている。すべてに意味がある。そして、僕たちがここにいるのには、それなりの理由がある。それが、このプロジェクトで私が話していることなんだ」

“もののけ姫” にインスパイアされたように、Neige は日本の神道、自然界に存在するものすべてに魂が宿るという側面に惹かれています。
「神道では、すべてのものに魂が宿ると信じられている。例えば、村の小さな川にも魂が宿っている。だから彼らは自然をとても大切にするんだろうね。山には山の魂があり、空には空の魂がある。ちょっと比喩的な表現になるけれど。日本人は、すべてのものに魂が宿っていると本気で言っているわけではないと思うけど、それがすべてのものを尊重することにつながっている。自分たちの周りにあるすべてのものに敬意を払う。それは、僕が日本文化でとても好きなところだよ。日本語では “God” のことを神と呼ぶけど、彼らは基本的にすべてのものに神を持っている。”もののけ姫” を見れば、それがよくわかるよね。彼らは森の精霊、巨大な樫のような生き物を描いている。本当に美しい」
アルバムは、前半は陽気で多幸感にあふれ、それから後半は悲しい中にも喜びがあるような流れです。
「そう、アルバムは最後の曲で少し暗くなる。最後の曲は、ギョーム・アポリネールというフランスの作家の詩で、”L’adieu”。これは英語で “farewell” と訳される。僕が取った詩のタイトルなんだ。とても悲しい歌だよ。
僕がアルバムでやりたいのは、最後にもう少し深みを持たせることなんだ。そうすると、ある種のミステリアスなゾーンに行き着くんだ。自分の感情をどうしたらいいのかわからなくなる。そして、本当に少し緊張してくる。それに、僕は100%ハッピーエンドが好きではないのかもしれない。たぶん、最後のほうで物事を少し複雑にするのが好きなんだと思う」
ピアノ曲の “Reminiscence” は今までの ALCEST の曲とは一風異なります。
「アルバムで本物のピアノを使い、完全なアコースティックの曲を作ったのは初めてだからね。チェロのように聞こえる楽器があるけど、これはチェロではなくヴィオラ・ダ・ガンバという楽器。とても古い楽器なんだ。すべてアコースティック。とてもシンプルな曲だ。間奏曲のようなものだけど、僕にとってはとても深い意味がある。なぜなら、この曲は僕が生まれて初めて触った楽器、祖母のピアノで録音されたから。祖母はピアノの先生で、家族みんなに音楽の手ほどきをした。レコードで聴けるのは、僕の家族全員が使っているこの楽器の音なんだ。そして僕たちは皆、この楽器から音楽の弾き方を学んだ。だから、祖母がもたらしてくれたものへの素敵なオマージュなんだ。祖母がいなかったら、もしかしたら僕はこの音楽を作っていなかったかもしれないからね」
そうして、ALCEST は暗い時代に光を投じる灯台のようなアルバムを完成させました。
「今僕らが生きている時代の暗さにインスパイアされたアルバムを2枚作った後、特にこの暗い時代に、調和と美しさとポジティブさをたくさん持ったアルバムを作れば、本当に際立つことができると思った。このアルバムは、まるで癒しのような感じがするから、みんなに楽しんでもらえると思ったんだ」


参考文献: FORBES:Alcest Flourish In The Unbridled Warmth Of Their Latest LP, ‘Les Chants De L’Aurore’

POST-PUNK .COM: BANDS FEATURED ARTICLES INTERVIEWS Emerald Leaves Shimmering in the Light of Dawn — An Interview with Alcest

KERRANG!:Alcest: “In dark times, to make an album of beauty and positivity could really stick out”

MARUNOUCHI MUZIK MAG ALCEST INTERVIEW

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREEDOM CALL : SILVER ROMANCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS BAY OF FREEDOM CALL !!

“The Audience On Our Concerts Is In Between The Ages Of 5 And 70. And We Are Happy To Maintain The Flame Of Metal For The Next Generations.”

DISC REVIEW “SILVER ROMANCE”

「”去年の夏は、SLAYERにハマってたんだ” なんて話を聞いたことはないだろう?そんなことはありえないんだ。メタル・ヘッズかそうでないか。人はそのどちらかだ。つまり、子供の頃はメタルを聴いていたけど、もう聴いていないなんていう人はいないはずだ。もし君がメタルに夢中なら、ずっと夢中なんだ!
一度ハマったら抜け出せねえ。言ってみれば、宗教さ」
EXODUS の Steve Souza の言葉です。たしかに、ヘヴィ・メタルの世界には自分も含めて “卒業” とは縁遠いファンが多いような気がします。メタルほど深い沼はない。その理由を、今年パワー・メタルの銀婚式を迎えた FREEDOM CALL の Chris Bay が弊誌に語ってくれました。
「メタル・ファンが最も忠実だということに同意するよ。私の意見だけど、メタル・ヘッズはただメタル音楽を聴いているのではないんだ。メタルはバック・グラウンドで流しているような音楽のスタイルではないからね。ロックとメタルはライフ・スタイルであり、このジャンルのファンは愛する音楽を積極的に、能動的に聴きながら生活しているのだよ…ラウドで激しくね..」
あのアルバムが出た時、結婚相手に出会った。就職した時は、あのTシャツを着ていた。愛猫が家に来た時は、あのライブに行った。そう、メタルはライフ・スタイルとなり、その人の人生と重なるような、インスタントとは程遠いヘヴィな音楽なのです。そうして、ファンとメタルは離婚とは無縁の幾久しき絆を育てていきます。
「”メタル・ジェネレーション” というアイデアは、何年も、何世代にもわたってこの種の音楽を支えてくれているすべてのメタル・ヘッズへの感謝の気持ちなんだ。私たちのコンサートの観客は5歳から70歳まで幅広い年代が来てくれる。そうやって、次の世代のためにメタルの炎を維持できることを嬉しく思っているんだ」
25年の銀婚式で幕を開ける FREEDOM CALL の “Silver Romance” は、まさにその幾久しき絆を祝う祝祭のパワー・メタル・アルバム。このバンドの素晴らしさは、勇壮なメタルの中に Chris Bay の趣味全開な80年代ポップス的かわいらしいメロディ、ビバリーヒルズ・コップを想起させるレトロなキーボードの祝祭感が織り込まれているところでしょう。
そんな彼らのお茶目で新たなサマー・パーティ・アンセムとなる “Metal Generation” は、メタルの絆を、灯火をつなげていくという決意表明でもあります。何世代にもわたってつながれ、更新され、愛され続けてきたヘヴィ・メタルの炎。5歳から70歳までが拳を突き上げ、 “メタルはみんなのもの” とシャウトする FREEDOM CALL のライブこそがメタルの寛容さ、自由、多様性の象徴でしょう。
「”フリーダム・コール” の意味は、以前にも増して時事的、今にあったものになっている。なぜなら、今この世界には数え切れないほどの戦争や残酷な行為があって、苦しむ人々、何百万人もの難民がいるからね。自由を求める声はかつてないほど大きくなっているよ」
そう、彼らのポジティブで優しい “ハッピー・メタル” こそ、暗い現代が求めるもの。彼らは大真面目に、寛容で敬意にあふれた世界、メタルによる世界平和の実現を夢見ています。バンド名を “自由への叫び” と名づけた25年前よりもかくじつに、世界には自由を求める人たちが増えています。FREEDOM CALL はそんな世界で今日も、法律より強く、鋼鉄とプライドでできた愛と平和のパワー・メタルを心の底から歌うのです。”メタル革命” が成就するその日まで。
今回弊誌では、Chris Bay にインタビューを行うことができました。「”メタルはみんなのもの” という言葉は調和のとれた世界を表現しているんだ。”一人はみんなのために、みんなは一人のために” というのがテーマだからね。ステージでこの言葉をつかうのは、もし世界中の人々がメタル・ファンになれば……地球は平和になると信じているからだ! メタルで地球に平和をもたらそう!」 二度目の登場。 どうぞ!!

FREEDOM CALL “SILVER ROMANCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE CHRONICLES OF THE FATHER ROBIN : THE SONGS & TALES OF AIROEA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDREAS WETTERGREEN OF THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN !!

“We Think It’s Sad If Someone Wants To Live And Express Themselves Only Through «New Formulas» And Dogmatic Only Seek To Do Something That No One Has Done Before. Then You Forget History And The Evolution Of Things, Which In Our Opinion Is At The Core Of Human Existence.”

DISC REVIEW “THE SONGS & TALES OF AIROEA – BOOK Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ

「最初は若いワインのように最初は有望で実り豊かなバンドだったけど、やがて複雑さを増し、私たち集団の心の奥底にある濁った深みで数年間熟成され、エレジオンの森のオーク樽で熟成されたとき、ついにそのポテンシャルを完全に発揮することになったのさ」
アルバムの制作に長い時間をかけるバンドは少なくありませんが、それでも30年を超える月日を作品に費やすアーティストはほとんど前代未聞でしょう。ノルウェー・プログの粋を集めた THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN は、ロビン神父の数奇なる物語に自分たちの人生や経験を重ね合わせ、四半世紀以上かけてついに壮大な3部作を完成させました。
「90年代に親が着ていた70年代の古着に身を包み、髪を伸ばし、1967年から1977年の音楽ばかりを聴いていたんだ。当時のポップ・ミュージックやポップ・カルチャー・シーンにはとても否定的で、RUSH や YES, そして DOORS の音楽は、例えば RED HOT CHILLI PEPPERS や RAGE AGAINST THE MACHINE, NEW KIDS ON THE BLOCK など他のバンドが聴いている音楽よりもずっと聴き応えがあると、パーティーで長い間議論していたほどでね。私たちは、自分たちが他人よりより高い位置にいると確信し、できるだけ多くの “失われた魂” を救おうとしていたんだ。だけどそれからしばらくして、私たちは他人がどう思うかとか、彼らが何に夢中になっているかということに疲れ、ただ自分たちの興味と、ミュージシャンとして、バンドとしての成長にエネルギーを集中させていくことにした」
70年代が終焉を告げて以来、プログレッシブ・ロックはつねに大衆から切り離された場所にありました。だからこそ、プログの世界に立ち入りし者たちはある種の特権意識に目覚め、あまつさえ大衆の啓蒙を望む者まで存在します。90年代のカルチャーに馴染めなかった TCOFR のメンバーたちも当初はカウンター・カルチャーとしてのプログに惹かれていましたが、しかしワインのように熟成され、長い年月を重ねるにつれて、ただ自分たちが夢中になれる音楽を創造する “道” へと進んでいきました。
3部作のコンセプト最初の芽は、民話、神話、幻想文学、サイケデリア、冒険的な音楽に共通の興味を持つ10代の仲間から生まれ、最新の発見を紹介し合ううち、徐々にノルウェーの仲間たちは独自の糸を紡ぎ、パッチワークやレンガのように新たな色彩や経験を積み重ねるようになりました。それは30年もの長きにわたる壮大なブレイン・ストーミング。
「確かに、私たちはプログ・ロックの穴を深く這いずり回ってきたけど、クラシック・ロック、フォーク・ロック、サイケ、ジャズ、クラシック音楽、エスニック、ボサノヴァ、アンビエント・エレクトロニック・ミュージックなどを聴くのをやめたことはない。たとえ自分たちが地球上で最後の人間になったとしても、こうした音楽を演奏するだろう。私たちは、お金や “大衆” からの評価のために音楽をやったことはない。もちろん、レコードをリリースして夢を実現できるだけのお金を稼ぎたいとは思っているけど、どんなジャンルに属するものであれ、音楽を通じて自分たちの考えや感情を顕在化させることが最も重要であり、これからもそうあり続けるだろう。そしてそれこそが、極めてプログレッシブなことだと私たちは考えているんだ」
WOBBLER, WHITE WILLOW, Tusmørke, Jordsjø, IN LINGUA MORTUA, SAMUEL JACKSON 5など、ノルウェーの実験的でプログレッシブなバンドのアーティストが一堂に会した TCOFR は、しかしプログレッシブ・ロックの真髄をその複雑さや華麗なファンタジーではなく、個性や感情を顕在化させることだと言い切ります。
とはいえ、プログの歴史が積み重ねたステレオタイプやクリシェを否定しているわけではありません。学問もアートもすべては積み重ねから生まれるもの。彼らは先人たちが残したプログの書を読み漁り、学び、身につけてそこからさらに自分たちの “クロニクル” を書き加えようとしているのです。
表現力豊かな和声のカデンツ、絶え間なく変化するキーボードの華やかさ、ジャンキーなテンポ、蛇行するギター・セクションの間で、TCOFR の音楽は常に注意力を翻弄し、ドーパミンの過剰分泌を促します。ここにある TCOFR の狂気はまちがいなく、ノルウェーにおける温故知新のプログ・ルネサンスの成果であり、大衆やトレンドから遠すぎる場所にあるがゆえに、大衆やトレンドを巻き込むことを期待させるアートの要塞であり蔵から発掘された奇跡の古酒なのです。
今回弊誌では、WOBBLER でも活躍する Andreas Wettergreen にインタビューを行うことができました。「芸術の発展は、決して1969年の “In The Court of the Crimson King” やバッハのミサ曲ロ短調から始まったわけではない。芸術と芸術を通した人間の表現力は非常に長い間続いており、それは何世紀にもわたって展開し続けている。イタリアの作曲家カルロス・ゲスアルドは、16世紀に複雑で半音階的な難解な合唱作品を作ったが、一方で今日作られるもっとシンプルな合唱作品も美しく興味深いものである。両者は共存し、決して競い合うものではない。
心に響くなら、それはとても良いスタートだ。それが知性も捉えるものであれば、なおさらだ。音楽と芸術はシステムの問題ではなく、感情と気持ちの問題なんだよ。最も重要なことは、良い音楽に限界はないということだ」 ANEKDOTEN, ANGLAGARD に追いつけ、追い越せ。どうぞ!!

THE CHRONICLES OF FATHER ROBIN “THE SONGS AND TALES OF AIROEA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【BEATEN TO DEATH : SUNRISE OVER RIGOR MORTIS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKA MARTINUSSEN OF BEATEN TO DEATH !!

“I Urge You To Look Closer, Because I’m Still Trying To Keep My Precious Hair From Leaving My Balding Head, Haha! For Sure, There’s Not Much Left To Save, And It’s Hard To Imagine I’ll Keep It This Way Until I Die, But I Promise To Do My Best! “

DISC REVIEW “SUNRISE OVER RIGOR MORTIS”

「よく見てよ。僕はまだ、貴重な髪をハゲ頭からなくさないようにしているんだ!(笑) 確かに、残りは少ないし、死ぬまでこのままとは思えないけど、頑張るって約束するよ! !」
絶滅の危機を経て、メタルはいつしか現実世界の抑圧、孤独からの素晴らしき逃避場所として多くの人に救いをもたらすようになりました。戦争や分断、極右の台頭という生きづらい世界を公然と批判して風刺するバンドも増えています。そうした理不尽や権利に対してメタルが持つ反発力は、蹂躙されしものたちのまさに希望。
そして今、この世界で最も蹂躙され抑圧されしものこそ “オッサン”。もちろん、権力を持ち蹂躙するのもオッサンであれば、また社会から最も阻害され孤独を感じているのもオッサンなのです。オッサンというだけで即通報。出会って2秒で豚箱行き。そんな世の中に反旗を翻すべく、ノルウェーの BEATEN TO DEATH は “Sunrise Over Rigor Mortis” でオッサン讃歌のグラインド・コアを叩きつけました。
それを象徴するのが “My Hair Will Be Long Until Death”。死ぬまで髪の毛を離さねえ。ツーブロやセンターパート、毛先カラーで髪の毛を謳歌する若者たちに、オッサンの悲壮な頭志いや闘志を見せつける楽曲は、同時に大切なものや人を喪失した世界中の悲しみに勇気と共感を与えていきます。
そう、バーコードに撫で付けた髪の毛のごとく、失うことや年齢を重ねることはたしかに苦しいけれど、アルバム・タイトル “死後硬直に差す陽光” が示すように、いつだって何かを追い求め、ユーモラスに優しく前を向いていれば、死してなお朝日は昇ってくるのです。
「数ヶ月前にロンドンで NAPALM DEATH を観たんだけど、もちろん Barney は、人類がこれまで  “クソみたいな違いをいかに解決してこなかったか” についてスピーチをしたんだ。違いは悪じゃない。グラインド・コア・バンドがそうやって、僕たちの共有する地球の状態について何か言ってくれるのはありがたいよね」
つまり、年齢、性別、国籍、文化、宗教など人々の持つ “違い” など些細なこと。それをいかに個性として包容し、寛容になりあえるかがきっと人類の未来にとって重要な鍵なのでしょう。NAPALM DEATH の Barney に言われるまでもなく、BEATEN TO DEATH はそうした異端や逸脱、違いという名の個性を独創的なグラインド・コアで表現することで、寛容な心を世界に届けていきます。
「僕らのプレイが “真の” グラインド・コアかどうかということにあまりこだわらないということの自然な結果だと思う。新しい曲を作るときは、ほとんどクリーンなギター・サウンドでハーモニーやダイナミクスを試す方が自然だと感じるんだ。僕自身は、もっとハーモニーが冒険的でキャッチーでありながら、もっと過激でアグレッシブになれると感じている」
実際、彼らのグラインド・コアは暴力一辺倒ではありません。PIG DESTROYER, BRUTAL TRUTH, NASUM を敬愛しつつ、YES, VAI, MESHUGGAH, Zappa, Holdsworth といったプログ・パラダイスで育った Mika。ゆえに、彼らのグラインド・コアには繊細で知的な一面が素晴らしきコントラストとして映し出されています。
さらに、杏里、松原みき、竹内まりや、大貫妙子といった遠き日本のシティ・ポップのハーモニーまで養分として取り込んだ BEATEN TO DEATH のグラインド・コアは、見事に世界中の “違い” を音楽で解決していくのです。
今回弊誌では、4月に来日公演も成功させたベーシスト Mika Martinussen にインタビューを行うことができました。「正直なところ、僕にとっては、ブラック・メタルは全く好きではないんだ!失礼な言い方かもしれないけど、僕には信じられないほど無味乾燥で退屈に思えるし、ユーモアがなくて独りよがりなものなんだよ。シアトリカルな面もあまり好きじゃない。でも、他のメンバーの何人かは、なぜかそういうものに夢中なんだ」 どうぞ!!

BEATEN TO DEATH “SUNRISE OVER RIGOR MORTIS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SAIDAN : VISUAL KILL: THE BLOSSOMING OF PSYCHOTIC DEPRAVITY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SPLATTERPVNK OF SAIDAN !!

“Our Goal Was To Have Something Similar In Style To Suehiro Maruo. One Of My Favorite Bands “BALZAC” Used His Art On One Of Their Early Albums And It Really Stood Out To Me And I Wanted Something Like That.”

DISC REVIEW “VISUAL KILL: THE BLOSSOMING OF PSYCHOTIC DEPRAVITY”

「このアルバムは、僕らのファースト・アルバム以来、最もJ-Rockの影響を受けたリフを持っているかもしれないね。ちょうど X JAPAN, L’arc-en-Ciel, Versailles, その他多くのヴィジュアル系バンドをよく聴いていて、それがアルバム・タイトルにもインスピレーションを与えたんだ。でも、BALZAC や Hi-STANDARD のような日本のパンク・バンドも、このアルバムの多くの部分に影響を与えているよ」
SAIDAN は、その名の通りプリミティブなブラック・メタルの祭壇に、日本の音楽やアートの生け贄を捧げ、メロディックな恐怖と狂気を錬金する米国の司祭。まさにスタイルを創造し、カテゴライズを無視し、規範からの逸脱を掲げる21世紀のブラック・メタルを象徴するような存在でしょう。
実際、彼らの創造物が発散する波動にステレオタイプなものは何もなく、ブラック・メタルの新たなオルタナティヴの形として唯一無二の呪怨を放っています。このアルバムには、ドメスティックでメロディックな J-Rock の純粋が、嘔吐を誘うような害虫スプラッターに染まる瞬間が克明に映し出されています。言いかえれば、”生の” ブラック・メタルが “生” でなくなる前に、どれほどメロディックになれるのか?そんな命題に “Visual Kill: The Blossoming of Psychotic Depravity” は挑戦しているのです。
「アートワークを丸尾末広に似たようなスタイルにすることが目標だったんだ。僕の大好きなバンド BALZAC の初期のアルバムに丸尾末広のアートが使われていて、それがすごく印象的で、ああいうのが欲しかったんだよね」
“見てはいけないもの” ほど人の関心をかうのは世の常でしょう。それはアートにおいても同じ。そして、純粋無垢が穢れる、悪意に染まる、発狂する瞬間ほど、”見てはいけないもの” やタブーとなりやすいものは他にないのかもしれませんね。丸尾末広のアートはまさにそんな瞬間をまざまざと描いていました。だからこそ、旋律美に蟲が沸き、血が滴る SAIDAN の音楽に、彼をオマージュしたアートワークは必要不可欠だったのです。
「”SICK ABDUCTED PURITY” という曲は、古田順子さんが殺害された事件 (1989年に足立区で起こった女子高生コンクリート詰め殺人事件) を題材に書いたもの。その事件を初めて知ったとき、僕は本当に心が傷つき、大きな悲しみを覚えたんだ…そしてずっとあの事件について書きたかった。もし歌にするのであれば、ある種の敬意を表しつつも、彼女に起こったことから逃げないようにしたいと思ったんだ」
そんな SAIDAN にとって、最も “見てはいけないもの” のひとつが、日本の足立区で起こった悍ましき “女子高生コンクリート詰め殺人事件” でした。人間はこれほどまでに獣になれるのか。そもそもは純粋だったはずの若者たちが、狂気と悪意に突き動かされ残酷残忍を極めたこの事件から、彼らは目を背けることができませんでした。
切り刻まれ、冒涜され、熱を帯びたシンフォニックな恐怖は、人間の貪欲さ、悪意、獣性、狂気によって複雑化されたメロディックな暴力によって蹂躙されていきます。いえ、きっと目を背けてはいけないのです。忘れてはいけないのです。風化とはすなわち、あまりにも無惨な被害者の魂を忘れ去ってしまうこと。きっと私たちは、この残忍なブラック・メタルと華麗な X JAPAN のアーティスティックな交差点で、人の残忍と純粋をいつまでも噛み締めておくべきなのでしょう。誰だって、ほんの少しの掛け違えで堕落の底まで落ちてしまう可能性をはらんでいるのですから。
今回弊誌では、SAIDAN にインタビューを行うことができました。「ブラック・メタルは、パンクのように他のジャンルのヘヴィ・ミュージックにも応用できる能力を持った、数少ないジャンルのひとつだと思う。僕の意見は、”メタル” の部分がメタルである限り、そのジャンルを自分のものにするために、好きなことをすればいいと思っているよ」 二度目の登場! どうぞ!!

SAIDAN “VISUAL KILL: THE BLOSSOMING PSYCHOTIC DEPRAVITY” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【WANG WEN : INVISIBLE CITY】 三国演義 JAPAN TOUR 24


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH XIE YUGANG OF WANG WEN !!

“能和Mono还有Jambinai一起演出太令人兴奋了。Mono是我们一直尊敬和热爱的乐队,过去的二十多年,他们一刻都没有停歇,一直在书写新的音乐,并把这些音乐带到了世界上的各个角落,他们绝对是我们的榜样。听Jambinai很多年了,他们的音乐绝对是独一无二的,硬核的节奏和幽怨的民族乐器奏出的旋律完美的融合在一起”

DISC REVIEW “INVISIBLE CITY”

「音楽の大きな役割はまさに、政治や文化の壁を越えることにあると思っている。音楽は国境を超えた言語であり、異なる国や民族の人々が音楽を通じて、言葉や文字以上の感情や情報を感じ取ることができるのだから。それはまるで、より高次元のコミュニケーションのようだよね。僕らは、音楽によって生まれる心と心のつながりを壊すことができるものは何もないと信じているんだよ」
日本、中国、韓国。東アジアの国々にはそれぞれに長い歴史があり、複雑に絡み合う愛憎劇を悠久の時を超え演じてきました。憎しみもあれば愛もある。互いの関係を一言で言い表すことは難しく、特に政治の上で東アジアの国々は決して蜜月を謳歌しているとはいえないでしょう。
ただし、いつまでも歪み合い、反目し合うことが東アジアに住む人々の幸せにつながるでしょうか?いつかはこれまでの恩讐を越え、より良い未来を作っていくべきではないでしょうか?中国の独創的なポスト・ロック WANG WEN は、そうやって国境や文化を超えた心と心のつながりを作るために、音楽以上の美しい言語はないと信じています。
「MONO や JAMBINAI と一緒に演奏できるので、とても興奮しているよ。MONO は僕たちが常に尊敬し愛してきたバンドで、彼らは過去20年以上、一瞬たりとも立ち止まることなく、新しい音楽を作り続け、それを世界中に届けてきたんだよ。彼らは僕たちの模範だよ。JAMBINAI の音楽は何年も聴いてきたけど、その音楽は絶対に唯一無二だね。ハードコアなリズムと哀愁漂う民族楽器の旋律が完璧に融合しているよ」
7月に日本で行われる “三国演義 Romance of the Three Kingdoms” は、まさにその第一歩を踏み出す素晴らしき会合で邂逅。MONO, WANG WEN, JAMBINAI。日中韓の伝奇を超えたポスト・ロックのラブロマンスは、きっと凝り固まった人々の心まで溶かす新たな三国志の幕開けでしょう。
「MONO は最も説得力がある例だと思うよ。前述したように、彼らは絶え間ない音楽の創作と疲れを知らない公演で多くの場所に行っているんだ。これらはすべて、僕たちが学び、努力するべき面だと思っているね。実際のところ、どんなスタイルのラベルも重要ではなく、自分自身の声と表現方法を見つけることこそが重要なんだよ」
重要なのは、三者がそれぞれリスペクトという絆で強くつながっていること。三者ともにポスト・ロックというラベルを超えて、自らの声、表現方法を見つけていること。そうそして、WANG WEN がその声を完全に確立したアルバムは、”Invisible City” なのかもしれません。
あの SIGUR ROS がレコーディング・スタジオに改造したレイキャビクのプール。雪の降り積もるアイスランドで録音を行った彼らの心にあったのは、生まれ故郷の大連でした。ホルン、チェロ、ヴァイオリンを加えた美のオーケストラ、不気味な子守唄、ざわめくアンビエント・ノイズの風は、優しさと哀愁、静かで明るい大連という都市の有り様を見事に伝えています。多くの若者が去り、街が沈んで老いていく。そんな中でも、この地に残る人々の希望を描く “不可視の都市” には、きっと反目とヘイトが飛び交う東アジアにおいても優しい未来を育む寛容な人たちと同じ理念、同じ音の葉が貫かれているはずです。
とはいえ、そうした哲学的な話を脇においても、WANG WEN の音楽は MONO や JAMBINAI 同様に世界中で認められた、雨と悲しみと少しの希望の物語。SIGUR ROS, PG. LOST, WE LOST THE SEA, そして PINK FLOYD が紡ぐエモーションと絵画のような創造性、複雑な音楽構造を共存させる稀有なる存在。そうしてきっと新たな三国志は、2000年の時を超えて人々の心を溶かし、ほんの少しだけ近づけてくれるはずです。
今回弊誌では Xie Yugang にインタビューを行うことができました。「ここ最近の数年間、中国ではポスト・ロックを聴く若者やバンドが増えてきているんだ。一方で、メタルは20年前と比べて大きく減少しているね。しかし、ポスト・ロックであれメタルであれ、主流のポップ・ミュージックに比べると、中国ではまだ非常にマイナーな音楽だといえる」  弊誌 MONO インタビュー。  弊誌 JAMBINAI インタビュー。どうぞ!!

WANG WEN “INVISIBLE CITY” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【MNEMIC : THE AUDIO INJECTED SOUL】20 YEARS ANNIVERSARY REUNION !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIRCEA GABRIEL EFTEMIE OF MNEMIC !!

“The Label “Fusion Future Metal” Was Our Definition Of What We Saw As The Potential For The “Djent” Genre, Even Before The Term Became Popular.”

DISC REVIEW “THE AUDIO INJECTED SOUL”

「”フューチャー・フュージョン・メタル” というラベルは、 “Djent” というジャンルが一般的になる前から、その音楽の可能性を見出していた僕たちの定義だった。だから今日、多くのバンドが僕たちの貢献をリスペクトし、認めてくれているのを見ると、信じられないほど嬉しいよ。たとえ当時の市場とタイミングが完全に一致していなかったとしても、僕たちが正しい道を歩んでいたことを再確認させてくれるからね」
音楽の世界には、多くの “早すぎた” バンドが存在します。しかし、ラテン語で “記憶” を意味するデンマークの MNEMIC 以上に、メタル世界の記憶に残った “早すぎた” バンドはいないでしょう。”MAINLY NEUROTIC ENERGY MODIFYING INSTANT CREATON”。”瞬時の創造性をモディファイする主なる神経症的エネルギー” の略語を同時に冠する偉大なバンドは、実際その当時の創造性を限りなくモディファイして、風のように去っていったのですから。
「僕たちは MESHUGGAH のようなバンドに大きな影響を受けた最初のバンドのひとつで、彼らが僕たちのサウンドに何らかの影響を与え、僕たちの音楽のポリリズムのコンポジションの一部を形作るのに役立ったんだと思う。とはいえ、SYBREED や TEXTURES など、僕らと同時期に活動していた他のバンドもいたから、その功績をすべて取り上げるのはフェアではないと思う。また、Djent というジャンルを本当に確固たるものにした、僕たちよりもずっと才能のあるバンドが後から市場に現れたことも忘れてはならないね。ただ僕たちは、Djent というジャンルを押し上げるために、その一翼を担えたことを嬉しく思っているんだ」
Djent といえば、MESHUGGAH が神であり、PERIPHERY が生みの親という認識がおそらく一般的なものでしょう。しかし MESHUGGAH のポリリズミックな有機的骨組みから、PERIPHERY の煌びやかな数学的キャッチー・プログの間には大きな隔たりがあるようにも感じられます。そう、進化は一晩で起こるものではありません。両者の間のミッシング・リンクこそが、MNEMIC であり、SYBREED であり、TEXTURES であったと考えるのが、今となってはむしろ自然な成り行きではないでしょうか?
「140カ国でいまだにこのバンドを聴き続けてくれているという事実と、バック・カタログが10万枚ほど売れているという事実に基づいている。時代は変わった。僕たちは、良い演奏をしなければならなかった時代、すべてがそれほど洗練されている必要がなかった時代、レコード制作において過剰に修正する必要がなかった時代の人間だ。だからこそ、僕たちは適切なチームと一緒に、昔の曲でも当時と同じように、よりシャープに、よりプロフェッショナルに演奏できることを証明したいんだ」
時代は変わりました。当時、インダストリアルや Nu-metal の一派として、SOILWORK の亜流として片付けられていた MNEMIC は掘り起こされ、Djent の始祖という正当な評価を手にしました。気は熟しました。そうして、彼らのマイルストーンとなった “The Audio Injected Soul” 20周年の年に、MNEMIC は華々しい復活を告げたのです。
この作品がなぜ革新的だったのか。それはもちろん、MESHUGGAH の偉大な骨格に、後の Djent が得た自由、多様なジャンルのパレットをもちこんだから。ただし革命はそれだけにとどまりません。当時のリスナーは、この作品の音の立体感に驚愕をおぼえたものです。
AM3Dテクノロジー。バイノーラル技術を駆使しリスナーの周りの3次元空間の特定の場所に音を定位させるように音を処理するテクノロジー。言葉の意味はわからずとも、ギターの音は極めて鮮明、ベースとドラムは響き渡り、背景にはアンビエント・サウンドが渦巻き、ボーカリスト Michael Bøgballe の分裂症のような遠吠えと嘲笑がミックスの至る所に現れるあまりにも強烈なサウンドは、アートワークの心脳をつんざくヘッドフォンを地でいっていたのです。音圧の破壊力。それは、1986年の傑作 “Rage For Order” で QUEENSRYCHE が見せつけたスタジオの大胆な魔法、その再現でした。
今回弊誌では、Mircea Gabriel Eftemie にインタビューを行うことができました。解散から11年を経て、MNEMIC は盟主として、歴史として、そして再び挑戦者としてメタル世界に戻ってきます。ついに時代は追いつきました。我々は、かつて MNEMIC がアルバムで描いた “多重人格” のカオスを全身で感じ取るのみ。今は亡き Guillaume Bideau をフィーチャーした “Passenger” もいいんですよね。どうぞ!!

MNEMIC “THE AUDIO INJECTED SOUL” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ARKA’N ASRAFOKOR : DZIKKUH】


COVER STORY : ARKA’N ASRAFOKOR “DZIKKUH”

“Metal Comes From Rock. Rock Comes From Blues. Blues Comes From The Blacks Deported To America. The Very Basis Of Metal Comes From Home. Metal Is African!”

DZIKKUH

トーゴ出身のメタル・バンドが、世界に羽ばたこうとしています。Arka’n Asrafokor は、メタルの激情とトーゴの音楽遺産を見事に融合させています。同時に、彼らはモダン・メタルの多様性を理解して、ファンク、ラップ、サイケデリックなタッチを混淆し、地球という唯一無二の美しき星へ音楽を捧げているのです。
3月末。Metal Hammer が週間ベスト10曲を発表しました。このおすすめリストは、通常、北米とヨーロッパのアーティストが独占しています。しかしその週は、メタル界のレジェンドたち、Ozzy Osbourne や Serj Tankian に混じって、トーゴのバンド Arka’n Asrafokor がシングル “Angry God of Earth” でランクインし、ガラスの天井を打ち破ったのです。この曲は、竜巻のようなスラッシュで始まり、儀式的な香りを匂わせる催眠術のようなテクスチャーを召喚。生のメタルと西アフリカの祖先の響き、母なる大地への祈りを巧みに融合させています。
「我々が選ばれたと聞いたとき、まず頭に浮かんだのは、どうして我々があんなところにいるんだろうということだった。きっとハードワークのご褒美なんだ。ロックは逆境に立ち向かうための、信念の行動だったから」
Kodzo Rock Ahavi は作曲を手がけ、ほとんどすべての歌詞を書いているバンドの顔。彼にとっても、Metal Hammer のようなビッグ・マガジンにチョイスされることは晴天の霹靂でした。

Ahavi は2010年、トーゴの首都ロメに数年前にオープンしたスタジオでデモのレコーディングを開始し、音楽プロジェクトをスタートさせました。そこで行う他のアーティストのプロデュースは、現在も彼の主な収入源となっています。
「トーゴのような国でメタル・プレイヤーとして生計を立てるのは難しい。芸術を愛するがゆえに、無償で演奏することを厭わない人でなければ、とてもじゃないけど続けられないよ!
トーゴにはメタル・シーンがひとつもなかったから、本当に大変だった。ステージもなかった。それに、みんなこの音楽が何なのか知らない。でも、トーゴのあちこちで戦略的に演奏してみたんだ。目的に応じて場所を選んだ。少しずつ、メタルが何なのかを知ってもらえるようになった。そして特に、私たちのスタイルが何なのかをね。そして驚いたことに、彼らはそれを気に入ってくれた。メタルを聴いたことがない人もいたけれどね。彼らは音楽の伝統的な側面が好きなんだ。彼らはそれを理解することができた。音楽は自分たちのルーツを映し出す鏡だった。
ここの人たちはロックを知っている。いいロックバンドがいる。でも、今のところトーゴで唯一のメタル・バンドは私たちだ。だから、音楽的な仲間がいたとは言えないと思う」

少しずつ、Ahavi はミュージシャンの友人を集め、自作曲と AC/DC や SCORPIONS のカバーを交互に演奏するライブを行うようになりました。そして口コミで、ほんの数週間のうちに、ロックとエクストリーム・メタルのファンで構成される、小さいながらも忠実な地元のファン・ベースが作られるようになったのです。
「反響はすごかった。カヴァーのリクエストはどんどん減り、オリジナル曲がどんどん増えていったんだ」
もちろん、困難もたくさんありました。
「私たちは悪魔崇拝者と呼ばれていた。少なくとも最初はそう呼ばれていた。西洋的なメタルのイメージ。黒い服を着て、ステージのあちこちで飛び跳ねたり、うなり声をあげたり…。でも、ファン層が広がり、クレイジーな連中がステージで何をしているのか、何を歌っているのかを彼らが理解したいと思うようになると、あっという間に状況は変わっていった。
自分たちのルーツから生まれた音楽だから、検閲もないしね。リスナーは自分が何を聴いているのかわかっている。トーゴの外に住んでいる人たちでさえね。例えばガーナのように、同じリズムと文化を共有している人はたくさんいる。私たちのメッセージは現実的で、人生や社会についてのもの。エキセントリックでも非倫理的でもない。だいじなのは自分の未来と自由のため、愛する人のために立ち上がり戦うこと、先人たちの残した足跡をたどること」

Arka’n Asrafokor はそうして2015年に誕生し、現在まで安定したラインナップを保っています。2019年、彼らはファースト・アルバム “Za Keli” をリリースし世界を驚かせました。トライバル、スラッシュ、グルーヴ、デス……といったメタルのサブカテゴリーを幅広く取り揃え、Ahavi が常に引き出してきた影響のるつぼを凝縮した作品。
「私たちのエウェ語で、Zã Keli とは闇と光、夜と昼という意味。この世界を支えている二面性、そして私たちはそれを受け入れ、調和し、自分の役割を果たさなければならないという事実を常に忘れないために、このアルバムタイトルを選んだんだ。Zã Keli の二面性は、アルバムのほとんどすべての歌詞で感じることができる。明るい花の咲く丘や暗い地獄のような谷、笑いや涙、学び、成長、しかし魂の内なる核は安全で、手つかずで、明るく、人間的であり続ける。私たちの曲を聴けば、希望に満ちた美しい平和的な言葉が、他の曲では憎悪と貪欲から私たちの母なる地球に死を撒き散らす者たち、罪のない生命を破壊する者たちへの無慈悲な戦いを呼びかける戦士の叫びが聞こえてくる」

リズムは、轟音のシーケンス、ファンク・エレガンス、アフリカの打楽器が組み合わさり、ラップ、レゲエ、サイケデリックなギターソロも取り揃えています。Ahavi は KORN と Jimi Hendrix、PANTERA と Eddie Van Halen を同じくらい愛しているのです。そして彼は、自分の創作過程をアーティストと作品との一対一の対話だと考えています。
「作曲をするときは、曲の流れに身を任せ、曲が私に何を求めているのかに耳を傾ける」
“Zã Keli” はオープナー “Warrior Song” から最後まで、メタル・アルバムでは出会ったことのないような楽器やサウンドの数々で楽しませてくれる作品でもあります。ガンコグイ(地元のカウベル)、アクサツェ(パーカッシブなシェイカー)、エブー・ドラム、ジャンベ、そして西アフリカのトーキング・ドラムなど、彼らがヘヴィ・メタルを解釈するための道具はまさに無限大。
6/8拍子で演奏されるほとんどの楽曲。これもまた彼らの民族音楽を強く反映しています。伝統に沿ったメタルの演奏にこだわるのは、自分たちのルーツを誇り、自分たちが何者であるかを世界に示すため。
特に近年の多様なモダン・メタル、その折衷的なカクテルの中では、ルーツが特別な意味を持ちます。
「私のベースのインスピレーションは、やはりトーゴの伝統文化。その雰囲気、その知恵だ。スピリチュアルなものは目に見えないことが多い。しかし、アルカーンやアフリカ全般にとって、物理的な力とスピリチュアルなものは2つの異なるものではない。それどころか、一方は他方の延長であり、その連続なんだ。身体、石、木には魂がある。私たちはスピリチュアルなものを音楽から切り離すことはしない。アルカーン という言葉は、まさにその宇宙の隠された側面を指している」

そして Arka’n Asrafokor の創始者は、自分がアフリカ大陸で異質なメタルを作っているとは思ってもいません。
「メタルはもともとアフリカのものだ。だからこそインスピレーションをブレンドしやすい。アフリカのメタルは、長い海を越えて帰ってきた放蕩息子を迎えるようなものなんだ」
彼の主張を理解するには、祖先が遠く離れた土地に無理やり連れ去られたという歴史を思い返す必要があります。
「西アフリカ人が奴隷として米国に連れて行かれ、その子孫がブルースを発明し、それがロックに進化し、さらにそれがメタルに進化した。そう考えれば、たしかにメタルはそもそもアフリカのものだろ?」
その誇りは音楽にもあらわれています。
「私たちの音楽は、アフリカで接ぎ木したヨーロッパのメタルではない。私たちは地元の言葉であるエウェ語を話すので、人々は私たちが歌うことの精神的な意味を理解できるからね。私たちが演奏するリズムも純粋なヨーロッパ的なものではなく、アフリカの人々はそれに共感する。ときどき村の人に我々の音楽を聴かせると、故郷のいい音楽だと言ってくれる。私たちのやっていることは、ある種ユニークで、ポップな傾向に縛られていないから、聴衆は年齢層で分けられることもない。誰でも聴くことができる」

素晴らしき “Za Keli” のあと、彼らは国際的に知られるようになり、他のアフリカ諸国でも公演を行うようになりました。海外で自分たちをアピールする機会がさらに増え、2019年末にガーナの首都アクラで行われたコンサートは、訪れた数人のヨーロッパのプロモーターまでも魅了し、フランス、ドイツ、スイスでの演奏に招待されたのです。それ以来、彼らは世界中でメタル・フェスティバルの常連となりました。
さらに、サハラ砂漠以南のメタルのアイデンティティを描いた著書 “Scream for me, Africa” で、アメリカ人作家のエドワード・バンチスが彼らを主役に抜擢します。ハック誌のインタビューで、アフリカの荒々しいサウンドを聴き始めるのに理想的なバンドについて尋ねられたとき、バンチスは躊躇しませんでした。
「Arka’n Asrafokor の音楽はクレイジーだ。聴く者を別世界に誘う。今まで誰も聴いたことのないものを聴くには、気合いが必要なんだ」
ボツワナの SKINFLINT のような他のアフリカン・メタル・バンドも、アフリカ大陸の音の遺産に敬意を表しているのはたしかです。
「アフリカのメタルは今やそれほど珍しいものではなくなった。ケニア、ガーナ、ナイジェリア、南アフリカ、ボツワナ、ウガンダ、アンゴラ……から推薦できるバンドはたくさんある。アフリカのデスメタルシーンの守護者であるボツワナの OVERTHUST と WRUST, OverthrustとWrust、ボツワナのヘヴィ・メタル SKINFLINT。ケニアの SEEDS OF DATURA や LAST YEAR TRAGEDY, 素晴らしき DIVIDING THE ELEMENTS, そしてもちろんチュニジアの MYRATH は最も世界的に知られたアフリカン・メタル・バンドのひとつだね。我々は皆、”訛りのあるメタル” をやっているし、そうあるべきなんだ」

しかし、彼と彼のバンド仲間たちはこのルーツとメタルのミックスを明らかに “別のレベル” まで高めているのです。それは、言語(彼らは英語、フランス語、トーゴ語のエウェ語で歌う)、メロディー、そして外見さえも超えた “完全な融合”。ビデオやコンサートでは、Arka’n Asrafokor のメンバーは、往年のトーゴ人兵士へのオマージュとして、黒とアフリカの衣装をミックスしたり、顔に白いペンキを塗ったりしています。エウェ語でアスラフォは戦士を意味し、アスラフォコアまたはアスラフォコールはアハヴィの造語ですが、戦士たちの音楽を意味し、ザ・ケリは戦士の歌という独自の賛美歌。
「アルカンとはスピリチュアル。アスラフォは母国語で戦士を意味する。そしてアスラフォコールは戦士の音楽を意味する。戦士は私たちの文化の象徴だった。彼らは常にコミュニティのために戦い、死ぬ準備ができていた。名誉、正義、真実、平和、愛のために死ぬ準備ができている。そして、この心と魂の状態は、常に私たち一人ひとりの心の奥深くに生き続け、保ち続けなければならないものだ。それがアルカンの精神だ。私たちはそういう人間だ。それこそが、祖先の歩みを受け継ぐ戦士の掟なんだ」
そうして昨年、彼らはドイツのビッグ・レーベル、アトミック・ファイア・レコードと契約を結びましたが、Ahavi は依然としてDIY的アプローチを貫いています。
「レコーディング、ミックス、ミュージックビデオの撮影、編集…私たちは特定のマーケットに合わせたり、流行のトレンドに引っ張られたりすることなく、完全に自由を謳歌している」
“Got to break it” や “Walk with us” のような曲のビデオでは、ミニマルな風景と手作りのエフェクトが個性を生み出し、YouTube ユーザーのコメント欄には、”過小評価” という形容が繰り返されています。

そうして Arka’n Asrafokor たちの音楽を用いた闘いは、崇高な目標を追求していきます。「正義、平和、愛…すべての生き物の起源である母なる地球への敬意」
Ahavi はそうバンドの理念を声高に宣言します。彼にとって、環境保護が人間の外部にあるもののように語られることは驚きでしかありません。
「私たちは自然の一部なのに。人間は明日、呼吸画できるかどうか決めることはできないんだ」
セカンド・アルバム “Dzikkuh” の象徴となる “Angry God of Earth” は、盲目で貪欲な人間の行き過ぎた行為と、それに怒る神について語っています。この曲は、神の懲罰としての気候的黙示録を描いているのです。
「死だけが残る。人間が蒔いた種を刈り取る時が来た。私たちの文化では、地球は女性的であったり男性的であったりする。彼女の怒りをこれ以上刺激しないようにしよう」

参考文献: EL PAIS:Un grupo de metal de Togo se abre hueco en el panorama del rock duro internacional

ECHOES AND DUST :(((O))) INTERVIEW: ARKA’N ASRAFOKOR: TOGO HEAVY METAL WARRIORS

PAN AFRICAN MUSIC :Arka’n : “Metal is African”

ATOMIC FIRE RECORDS

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PIRATE QUEEN : GHOSTS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH VICTORIA OF PIRATE QUEEN !!

“As a Woman I Believe We All Have The Same Chances To Reach Our Goals In Music World And It Must Not Be Divided By Gender.”

DISC REVIEW “GHOSTS”

「私たちは実際、あらゆる不正義と戦っていると言えるでしょうね。私たちはメタル・シーンが、そこにいたいと願うすべてのミュージシャン、すべての人にとって安全で親切な場所であってほしいと切に願っているの。音楽の世界でゴール、目標に到達するチャンスは女性も同じだけあると信じているし、それは性別によって分断されてはならないものなの」
かのメタル世界のゴールド・ロジャー、RUNNING WILD がジョリー・ロジャーの旗の下航海に旅立ってからおよそ40年。パイレーツ・メタルという異端の生みの親がフェスのヘッドラインを飾るようになった21世紀。その多様で寛容なメタルのグランドラインに颯爽と登場したのは、5人の女海賊でした。5人にとってのワンピースとは、すなわち海闊天空。悠遠に広がるメタルの海がただ、寛容で、親切で、平等な場所であること。そして、その秘宝は必ずや音の戦、実力で手に入れます。
「故郷のリクシオンは浮島で、いつも簡単に見ることができるわけではないんだ。リクシオンでの生活は自由の香りがいっぱいで、主に女性がリードしているの。もちろん男性もいるけどね。古い航海年代記には、海賊の才能によって結ばれた血縁関係にある5人の少女たちが一堂に会する時が来るという予言が記されているの。そして激動の2023年、私たちは実際にメインランドで再会した。浮島はそんなに大きくないから、とにかくみんな顔見知り。だから、すべては自然に起こったことなの」
ただし、PIRATE QUEEN の5人は RUNNING WILD よりもはるかに年上です。年代期に残る古い記録によると、彼女たちは1523年に海賊を始めています。バミューダ・トライアングルの中にある謎の浮島リクシオンに生を受け、500年もの長い時を刻んできた PIRATE QUEEN の5人は、女王に忠誠を誓いながら世界各地で領海を広げ、名声を上げ、ついに再集結を果たします。すべては、女王の名の下に。音楽の自由、メタルの自由こそ、今の彼女たちが欲する宝。
「私たちは “ファンタジー・メタル” という言葉を使っているのよ。メタル・スタイルとクラシックのミックスだと思っている。パワー・メタルに近いけれど、よりファンタジー的な要素を含んでいると言えるかもしれない。とはいえ私たちが作曲をするときは、ジャンルにとらわれないことを好む。それが海賊の自由の賜物だから。自分たちが作ったものが好きである限り、私たちは海賊船でどこへだって行くことができるのよ」
実際、PIRATE QUEEN の海賊船に踏破できない海はありません。女海賊たちは7つの海へと繰り出し、エピック・メタルの遺産を驚くべき技術とモダンな精神で略奪していきます。クラシックなメタルに壮大なセンスを吹き込み、古の襲撃者たちからインスピレーションを得つつ、未知の海域に踏み込み、見慣れぬジャンルから略奪した宝物でメタルを豊かにしていくのです。
漂流する船の音とセイレーンの歌声。荒波の中で5人はリスナーをフォークとエキゾチックなメロディーの渦に巻き込み、海洋ファンタジーと壮大なメタルの精神を呼び起こします。女王陛下のカリスマ性と海賊たちの無限のエネルギーは、ボーカル・ハーモニー、オーケストレーションを巻き込んで幾重にも重なるメタルの聖地マリージョアをここに完成させたのです。
今回弊誌では、ギタリストにして海賊大将 Victoria Pearl Fata-Morgana にインタビューをおこなうことができました。「リクシオンの海賊の世界も変わってきていて、意見の食い違いがあっても絶対に暴力や戦争が解決策になってはいけないと思っているのよ。我々は海賊で、我々が生き残るために何をしてきたかについて、いろいろと言われることは知っているの。でも、今は戦争は避けなければならないと心から信じている」 “Ghosts” の妖艶な転調がたまりませんね。どうぞ!!

PIRATE QUEEN “GHOST” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SPECTRAL WOUND : A DIABOLIC THIRST】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SPECTRAL WOUND !!

“We Are Not Particularly Interested In “Pushing The Boundaries” In That Manner. There Is Room Enough For Experimentation In Black Metal Without Turning It Into Toothless Post-rock.”

DISC REVIEW “A DIABOLIC THIRST”

「そう、私たちは特にそうした “境界を押し広げる” ことには興味がない。わざわざ “歯抜けの” 間抜けなポスト・ロックにしなくても、ブラック・メタルには実験を行う余地が十二分にあるからね」
今やブラック・メタルの世界は百花繚乱。シューゲイザー、ポスト・ロック、ジャズ、プログレッシブ、そしてその土地土着のフォーク・ミュージックなど、トレモロとブラストが渦巻く狂乱の暗黒世界は多様に進化を続けています。
ただし、その動きに我関せず、なんなら退化と嘲笑うかのようにブラック・メタルの神秘と美学を守り続けるアーティストも当然存在します。ついに来日を果たすカナダの創傷 SPECTRAL WOUND はそんな鎮守荒神の筆頭でしょう。
「フィンランド人のメロディーの巧みさは、おそらく他の追随を許さないだろうな。自分たちが聴きたいと思う音楽を作っている限りにおいて、メロディにはこだわりたい。ただ我々は広くアピールしようとはせず、自分たちの欲求を満たすことだけを追求しているんだ」
カナダ、ケベックというブラック・メタル生誕の地からは遠く離れた場所に居を構えながらも、SPECTRAL WOUND はあくまでもプリミティブです。何も新しいことはやりたくない。その哲学が、かえって今のブラック・メタル世界には新しいのかもしれません。
絶え間なく迫り来るブラストの海にトレモロの嵐。ただし、彼らの絞り出す寒々しい断末魔のメロディはあまりにも心を抉ります。SARGEIST や HORNA に心酔する彼らにとって、北欧のミュルクヴィズ、暗くて凍える針葉樹の冬を描き出すことこそが理想なのでしょう。
「ブラック・メタルはその創成期から、人間の最もダークな部分を探求する音楽だった。従って、様々な形の過激主義に傾倒していったとしても何ら不思議ではないし、その事実を歴史から消し去ることもできない。私たちはこの歴史を受け入れる必要はないし、弁解する必要もない。ただ、 私たちはそうした歴史を理解し、それと闘わなければならないのだよ」
一方で、SPECTRAL WOUND のブラック・メタル、その背後にある思想は20世紀のそれとは大きく異なります。今でもかつての流れを汲んだ、極右やナチズムに傾倒するブラック・メタル NSBM は少なからず存在します。しかし彼らは、そうした暴力、抑圧、差別に対しては真っ向から反旗を翻しているのです。
Red and Anarchist Black Metal、RABM にまで属するのかはわかりませんが、少なくとも彼らはオールド・スクールなブラック・メタルにニュー・スクールな思想を持ち込んで、世界の闇をインスピレーションとして喰らい尽くしているのです。
今回弊誌では、SPECTRAL WOUND にインタビューを行うことができました。「日本の映画や音楽は大好きだよ。SABBAT, ABIGAIL, BORIS, CORRUPTED, G.I.S.M….彼らははみんな偉大だし、Flower Travellin’ Band, 坂本龍一、清水靖晃、高橋幸宏など、日本の音楽界の巨人たちも素晴らしいね。浅川マキは、北米ではほとんど知られていないけど、とても魅力的なアーティストだ。日本映画では、小津安二郎はその狂気において、黒澤、成瀬巳喜男、北野武、押井守、大友克洋、鈴木清順、三池崇史と並ぶ巨匠であることは間違いないね」どうぞ!!

SPECTRAL WOUND “A DIABOLIC THIRST” : 10/10

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