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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALLT : FROM THE NEW WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLLE NORDSTROM OF ALLT !!

“Hiroshima And Nagasaki Were The Starting Points For Our Research When Writing This Album. We Can’t Even Begin To Imagine The Horrors The Victims Experienced.”

DISC REVIEW “FROM THE NEW WORLD”

「メタルのコアなジャンルを掘り下げた後、2012年にデビュー・アルバムをリリースした VILDHJARTA を知ったんだ。彼らのサウンドはそれまで聴いたことのないものだった。僕の作曲にも音楽の好みにも大きな影響を与えたよ。彼らはモダン・メタルにおけるランドマーク的なバンドだよ」
2010年代にあれだけ一世を風靡した Djent は死んだのでしょうか?いえ、そんなことはありません。Djent のリフエイジやポリリズミカルなダンス、そして多様性や DIY の哲学はあのころ、Djent を崇め奉っていた若者たちの楽曲に今も息づいています。
2020年にスウェーデンのカールスコガにて結成された ALLT は、音楽で物語を語るストーリーテリングの能力と、機械的でありながら有機的という革新的なアプローチですぐに頭角を現しました。その名の通り “ALLT (All) is Everything” ジャンルを超越したメタルコアの煌めきは、フランス&ノルウェーの連合軍 MIRAR と双璧をなしていますが、驚くべきことに両バンド共にその心臓には VILDHJARTA の奇跡が眠っています。そう、美しいメタルは決して一夜にして築かれることはありません。そこには必ず、過去からの学びやつながりがあるのです。
「広島と長崎は、このアルバムを作る際のリサーチの出発点だった。犠牲者が経験した恐怖は、僕たちには想像することさえできないよ。石に刻まれた “人影の石” のような悲しみを知ることで、とても悲劇的なイメージが鮮明になり、1曲目の “Remnant” の歌詞になったんだ。 “死の人影、悲劇のシルエット” としてね。このようなテーマについて書くことは、僕たちに感情の解放や浄化を与えてくれる。そして、僕らと共にリスナーにもこうしたテーマを探求する機会を与えられたらと願う。僕たちは、犠牲者とその家族に対する深い尊敬の念を持ってこの曲に取り組んだんだ」
まさに “新世界より” 来たる “From The New World” は、荒廃の中に自己を発見する、綿密に作られた音楽の旅。世界の緊張と恐怖にインスパイアされたこの旅路は、核兵器による崩壊と回復、そしてその後に続く感情的で哲学的な風景をテーマにしています。そしてその創作の道のりで、ALLT は日本を物語の源泉に据えたのです。
そのタイトルが表すように、”From the New World” は日本から生み出された小説、アニメ “新世界より” に啓示を受けて生み出されました。そこでは、核兵器並みの暴力サイコキネシスによって滅んだ世界と、そのサイコキネシスを徹底した情報管理とマインドコントロールによって抑えた暴力のない新世界が描かれていました。ALLT はその物語を、核の脅威にさらされた現代と照らし合わせます。
機械的なサウンドと有機的なサウンドは自ずと融合し、荒廃と、その余波の中で生き続ける生命の静かな美しさ両方を呼び起こします。電波の不気味な質感から膨大な計算能力を持つ巨大な機械まで、あらゆるものを模倣した広がりのあるシンセ、ダイナミックなインストゥルメンテーション、パワフルなボーカル、そしてオーガニックな質感がこの音楽にリアリティを根付かせました。そうして彼らがたどり着いたのが、広島と長崎でした。
「僕の経験では、メタルは常に人々が暗闇に立ち向かい、カタルシスを見出すことのできる空間だった。メタルのコミュニティは一貫してファシズム、人種差別、不平等を拒絶してきた。メタルは、人々が最も深い感情を表現し、同じ感情を持つ人々とつながることのできる空間なんだよ。アーティストが真実を語り、境界線を押し広げ続ける限り、ポジティブな変化への希望は常にあると思う」
ALLT は “人影の石” に恐怖し、人の憎悪や暴力性が生み出す悲劇や不条理に向き合いました。それでも彼らは人類を諦めてはいません。なぜなら、ここにはヘヴィ・メタルが存在するから。一貫して人類の暗闇に立ち向かい、魂の浄化を願ってきたヘヴィ・メタルで彼らは寛容さ、優しさ、多様性、平和で世界とつながることを常に願っています。混沌とした世界でも、メタルが真実とポジティブなテーマを語り続ける限り、一筋の巧妙が消えることはないのですから。
今回弊誌ではギタリスト Olle Nordstrom にインタビューを行うことができました。「フロム・ソフトウェアと宮崎英高が創り出す世界には本当にインスパイアされているんだ。彼のゲームやストーリーは、僕が ALLT のリリックでストーリーを創り上げていく方法の大きなインスピレーションになっているんだ。アルバムのタイトルも、僕の大好きなアニメのひとつ “新世界より” から拝借したんだ。”エヴァンゲリオン” からも、そのスケールの大きさと想像力に深くインスパイアされているね。10代の鬱屈した時期に観て以来、あらゆる媒体の中で最も影響を受けた作品のひとつになったよ」 どうぞ!!

ALLT “FROM THE NEW WORLD” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【OPETH : THE LAST WILL AND TESTAMENT】


COVER STORY : OPETH “THE LAST WILL AND TESTAMENT”

“Why Not Do The Screams?’ And Now It’s Like, ‘Why Do The Screams?’ You Can’t Win!”

THE LAST WILL AND TESTAMENT

OPETH のニュー・アルバム “The Last Will & Testament” から、”§1″ というタイトルの新曲が発表されると、この楽曲は2019年の “In Cauda Venenum” からの曲よりもずっと大きな話題となりました。それは、これまでよりもずっとヘヴィで、数年ぶりに Mikael Åkerfeldt のグロウルが戻ってきたからでした。しかし、なぜ今なのでしょう?
「そうだね。グロウルがいつも問題になる。以前は、”なぜグロウルを使わないんだ?” で、今は “なぜグロウルを使ったのか?”。勝ち目がないね!でも、なぜ今なのか?ニュー・アルバムはコンセプト・アルバムだから、あのようなボーカルが有効だと思ったんだよ。
ある意味、流行に流されないのが好きなんだ。だから、あのデス・メタルのボーカルを復活させるときは、人々がもう気にしなくなったときにしたかったんだ!
逆に言えば、外からのプレッシャーを感じたことはない。もちろん、私も “OPETH はかつて素晴らしかった”, “OPETH をもう一度素晴らしくしてくれ。また OPETH をうならせてくれ” という声は知っていたよ。でも過去4枚のアルバムでは、そういうボーカルの余地はなかった。自分のもうひとつの声ももう少し追求したかったし、音楽がそれを必要としていなかった。前の4枚のアルバムには、そういうボーカルを入れる意味がなかったんだ。
それに、自信を持てたんだ。古い曲をたくさん演奏するツアーを何度かやったけど、楽しかった。私にとってスクリーミングは、ある意味ラップに近い。ラップがうまいというわけではないけど、私のリズム全体が面白いと思う。
私はグロウルにはとてもこだわりがあるんだ。相当うまくなければならない。具体的でなければならない。そういうものに関しては特別なセンスがあるんだ。そしてもちろん、音楽全体のアイデアにプラスになるものでなければならない。今回はコンセプト・レコードだから、そうなっている。全体として、より良いレコードになったと思う」

16年ぶりにうなる最初のラインは?”死に包まれて…伝承の遠吠え…”。この冒頭のセリフはこれから起こることの舞台を整えていますが、同時にグループとしての OPETH の伝承、伝説、歴史を物語っています。結成当初から、OPETH と Mikael は、メタルの同胞たちとは一線を画してきました。初期には、フロントマンが見事なグロウルとクリーン・パッセージを聴かせるプログレッシブ・スタイルのデス・メタルとブラック・メタルを提示することで、同世代のバンドとは一線を画していました。
その後のリリースごとに、バンドはソングライティングに対してより簡潔で合理的なアプローチを示し、自分たちを繰り返すことなく、優れた作品を作り続けました。コンセプト・アルバムであろうと、ハーシュとメロウという異なるスタイルをフィーチャーしたツイン・レコードであろうと、デス・グロールを完全に捨て去ろうと、英語とスウェーデン語の両方でアルバムをリリースしようと、Mikael とその仲間たちは常に自分たちの音楽を最高水準に保ってきました。彼らはその完全性を徹底的に守りながら、次の進化に努めてきたのです。
古い曲をライヴで演奏するのと、再びスタジオで、新曲で叫ぶのは異なる体験なのでしょうか?
「みんなに変な感じ?って聞かれたよ。いや、そんなことはなかったよ。ボーカルは全部、自宅の地下室でひとりで座って録音したんだ。でも、なぜかうまくいった。他のシンガーの友人には、私が怠け者の年寄りのように座ってボーカルを録音したことを話したけど、とにかくなぜだかうまくいったんだ。ただ試してみて、最終的にカッコいいと思える曲ができた。それをみんなに送ったら、グロウルを聴いて、クールだって言ってくれたんだ」

グロウルを必要としたコンセプトはどんなストーリーなのでしょうか?
「時代は第一次世界大戦後の世界。3人の兄妹が実家の豪邸に到着するところから始まる。彼らの父親は厳格で年老いた保守的で偏執的で邪悪で高貴なクソ野郎だが、他界したんだ。3人の兄妹は、20代後半の男女2人の双子と、ポリオという骨格系の病気に冒された少女だ。そして、歌詞は遺言の朗読のようになっている。だから曲にはタイトルがなく、ただ1…2…7…と段落があるだけなんだ。
“遺言 “の朗読を通して、この子供たちは自分自身について、父親の秘密について、家族とのつながりについて、たくさんのことを知る。双子の兄妹はドナーによる子作りの結果生まれた。父とその妻は子供を作ろうとしたがうまくいかず、彼は妻が不妊であると責めた。しかしどうしても子供が必要だった彼は、妻に他の男をあてがうんだ。妻は双子を妊娠したが、その間、主人公は妻が他の男に犯されたことを後悔していた。だから、彼は基本的に2人の双子を後悔している。
“遺言 “の朗読を通して、双子は彼が本当の父親でないことを知り、最終的に遺産から取り残される。彼の唯一の血のつながった本当の子供は、病気の女の子だ。彼女はすべてを受け継ぐ。しかし彼女は、彼が屋敷のメイドと交わした恋の結果だった。彼は妻に、彼女のかわいそうな子供を身内のように面倒を見るべきだと嘘をついたんだ。
今、彼の妻も亡くなった。しかし、妻は夫が浮気をしていたことを知っていたようで、彼女は血のつながった相続人となった。彼女はすべてを相続する。そして遺言が終わり、最後の曲 “The Story Never Told” がはじまる。
彼女は今、屋敷に住んでいる。彼女はすべてを手に入れた。しかし、そこに一通の手紙が届く。それはメイドである母親からのもの。”私はあなたの父親に嘘をつきました。あなたは別の恋愛の結果です。彼はあなたの父親ではなかった” って。つまり、父は不妊症だったんだ」
かの KING DIAMOND が生み出しそうなストーリーです。
「否定できないね!(笑) だけど、彼はキャラクターとか名前とか、そういうことにもっと興味があるんだ。でも、私は家族全体に興味があったんだ。遺産相続をめぐって家族がどう衝突するかとか、血は水よりも濃いとか、そういうことにね。前作でもそうだった。そして、それをいい形で表現できるような音楽があれば、面白くてダークなトピックになると感じたんだ」

ストーリーと音楽。どちらからはじめたのでしょう?
「いつも音楽から始めるんだ。でも、アイデアはあったし、今回は並行してストーリーを考え始めて、メモを書き出した。同時に、曲の順番も考えなければならなかった。私は、音楽にとって良い方法で並べたかった。いわば、最初の10分で、すべてを台無しにするようなことはしたくない。私はレコードの流れるようなシークエンスが好きなので、まず音楽的にやりたかった。でも、いったん歌詞が決まったら、それを変えることはできなかったね。だから、いつもより少し大変だったかもしれないけど、より興味深かったし、楽しかったと思う。ガールフレンドにもたくさん助けてもらったしね。主人公に子供がいないという最後のひねりは、彼女のアイデアなんだ」
Mikael の作曲術は直感が命です。
「自分の直感を信じる。あまり深く考えない。ある種の知識はあると思うけど、それは理論から得たものではない。シンガーソングライターのレコードから持ってきたものもあるし、ポール・サイモンの曲かもしれない!デクスター・ゴードンの曲かもしれないし、MORBID ANGEL の曲かもしれない。必ずしもパクろうとするわけではないが、これらのパーツの総和が、私にとっての普通なんだ。
私にとってはいつもそうだった。例えば、MORBID ANGEL のサウンドにすぐに影響を受けたのは、ずいぶん昔の若い頃だった(笑)。どうやったらあんなことができるんだろう?彼らのサウンドって何だろう?そしてしばらくして、リフを書いてみて、”ああ、クソッ” って感じたんだ!”私が探していたのは、MORBID ANGEL のサウンドのようなものなんだ”ってね。ちょっと変わったミュージシャンに惹かれるんだ。
例えば、Trey Azagthoth とかね。私の知る限り、彼は唯一無二の存在だ。あんな音楽は誰も書けない。もし私が彼にインタビューするなら、こうを 聞くだろう。どうやったらこんなものが書けるんだ?何を聴いて今に至ったんだ?どんな血とDNAがあれば書けるんだ?とね。そうやって私の中にさまざまなジャンルがブレンドされているからこそ、OPETH はジャンルレスなサウンドなんだよ」

コンセプト・アルバム、プログ・メタル・オペラの制作は想像以上に労力を要します。
「直前になって、ある曲を2曲目ではなく7曲目に入れるなどということはできない。でもそれはある意味、解放的なことだった。
曲作りには常に多くの困難がつきまとうが、そのほとんどは個人的なものだ。自分自身を感動させたい。自分がいいと思うものを作りたい。いいものにしたい。鳥肌を立てたい。今自分がいる場所で、今自分がクールだと感じる音楽を書くのが好きなんだ。最終的に僕が求めているのは楽しむことなんだ。これを仕事だとは思っていないんだ」
Mikael はこのアルバムを、TikTok に例えます。
「これはとても落ち着きのないレコードだ。誰かが閉所恐怖症だと言った。あまりハッピーなレコードではない。つまり、どのメタル・バンドも “ダーク” という言葉を使うけど、このアルバムはそれよりも…落ち着きがないんだ。ぜんぜんダラダラしていない。アイデアが爆発しているような感じ…まるでTikTokのようだ。テレビシリーズの “サクセション” にも影響された。マードックのような父親の後を継いだ兄弟間の権力闘争を描いた素晴らしいテレビシリーズだったね。
安っぽく聞こえるかもしれないけど、ああいうストーリーが大好きなんだ。あのアイデア全体が私にとっては魅力的だ。父親を喜ばせて、王座を簒奪する、王座への道を拓く。金と権力は、人を自分がそうなるとは思ってもみなかったようなものに変えてしまう。兄と弟がお金を巡って争うように、家族が分裂するというアイデアに興味を持ったんだ。突然、血は水よりも濃くなくなった。私はそれが魅力的だと思う。このようなアイデアの断片を手に入れたら、あとは物語全体を通して自由な発想で進めていくだけだ」

地下室だけでなく、ウェールズのロックフィールドでもレコーディングを行いました。
「素晴らしかった!音楽の大部分はそこで録音したね。僕の家でメロトロンやボーカルを録り、その他のエフェクトなどはそこでやった。ソロのいくつかは、Fredrik Åkesson が自宅のスタジオでやったんだ。JETHRO TULL の Ian Anderson が参加しているが、彼はどこかのスタジオでスポークンワードのパートを担当した。EUROPE の Joey Tempest もこのアルバムに参加している。だから、いろんなスタジオを使ったけど、大部分はロックフィールドで作ったんだ。
超クールな場所だよ。あそこが大好きなんだ。ロックフィールドは落ち着きを与えてくれるし、孤立しているとは言わないけど、田舎の農場にいるような感じなんだ。だから、新しく入ってきたメンバー(ドラマーの Waltteri Väyrynen)との絆を深めるのに適していた。レコーディングの間、みんなでそこにいて、ぶらぶらしたり、ご飯を食べたり、ビールを飲んだり、くだらない話をしたり、とにかくレコードに集中したんだ」
そこはかつて、JUDAS PRIEST や OASIS がレコーディングした場所。
「クールだよ。たいていの場合、有名なスタジオに行くと、”ここがキッチンで、ここがコントロール・ルーム” みたいな感じなんだ。でも、そこには QUEEN がよく使っていたグランドピアノが普通に置いてある。”Killer Queen” はそのピアノでやったし、私たちのレコーディングでも使った。だから、本当にクールなんだ」
Ian Anderson と Joey Tempest。ふたりの異なる才能もアルバムに華を添えています。
「Ian は、何年か前に “Herigtage” のアルバムでフルートを吹いてくれないかと頼もうと思った。それで、正しいアドレスかどうかわからないけど、イアン宛にメールを送ったんだ。でも返事がなくてね。それで結局、今は亡きスウェーデン人をそのアルバムに起用したんだ。
しばらくして、レコードについて話すインタビューがあった。そのうちのひとつは JETHRO TULL のレコードで、Ian が返事をくれなかったことを話し、”あの野郎!” みたいなことを言ったと思う。そのあと、JETHRO TULL のマネージメントからメールが来て、”イアンは将来あなたと一緒に演奏したい。連絡してくれ” って言ってくれた。Ian のインタビューを見ていたら、彼の声、つまりしゃべりがすごくいいんだ。だから、彼にナレーションのようなものを頼んだんだ。その流れで、彼は “フルートも必要かい?” って。
Joey Tempest は私の家にランチを食べに来たんだ。それで “こんなパートがあるんだけど、私は本当にできないんだ。もし歌ってくれるなら、本当にクールだよ” って言った。すると彼は “マイクを向けてくれ” と言ってくれたんだ。まあ、私は歌詞をまだ書いていなかったので、結局、彼はロンドンで自分のパートをやった。たとえ彼らが私のヒーローであっても、有名人であっても、何であっても、2人のおかげですべてがとても良くなった。それが結局、彼らの名前ではなく、彼らがそこにいる理由なんだ」

アルバムには、ブラックモアやギルモアを想起させるギターヒーロー的な見せ場もふんだんに盛り込まれています。
「ああ、それはとてもいい指摘だ。Fredrik は ARCH ENEMY に在籍していたんだ。それに彼はスウェーデンの TALISMAN というバンドにいて、そのバンドには元Yngwie Malmsteenの2人、Marcel Jacob とJeff Scott Soto がいた。まさにギターヒーローだよ。彼はスウェーデンでトップ・ギタリストの一人として確立されていたけど、加えてミュージシャンとしての地位を確立したいという願いがあった。彼は私が難しいと感じることもこなせるし、私にはないギターヒーロー的な気概も持っている。私は彼のギターが大好きだ。彼は世界最高のギタリストだと思う。
私自身もギター・ヒーローが大好きだけど、私はソングライターでもあるから、シュレッドするときとソウルフルで長い音を出すときがはっきりしているんだ」
唯一曲名を持つ “A Story Never Told” のソロはそんなふたりのギターヒーローの協力の結果です。
「Fredrik には何も言う必要はなかった。彼はブレーキを踏むタイミングも知っているし、トップギアに入れるタイミングも知っている。彼はただ素晴らしいソロを披露してくれた。私は、ただ “ああ、最高だ” と言うだけだよ。
“A Story Never Told” のソロも上手くやるって言ってね。私はちょうど RAINBOW の “Bent Out Of Shape” を聴いていたんだけど、その中に “Snowman” という曲があって、すごくスローなんだ。だからこそ私はブラックモアが大好きなんだ。彼はいろんなトリックを持っていて、素晴らしいプレイヤーだったけど、いつも音楽的だった。Fredrik もそうさ!」
今回のレコーディングでは珍しく、テレキャスターも使用しました。人間らしさを得るために。
「私たちが目指しているのは完璧さではない。バーチャルの楽器を本物の楽器に置き換えるとき、欠点を探すのではなく、人間的な面を探している。不完全さの中にこそ人間性がある。それはデモにはないものだ。私のデモを聴けば、クソ完璧だ。私は、繰り返しになるが、人間的なサウンドの擁護者なのだ。完璧は私にとっては正しい音ではないんだ。完璧なテンプレートがあるのはいいことだけど、それをレコーディングするときにちょっと失敗して、最終的に人間的なサウンドのレコードになるんだ」

元 PARADISE LOST のスティックマンである Waltteri Väyrynen もバンドに新鮮な要素をもたらしています。彼がボスを感心させたことは間違いありません。
「Walt が素晴らしいドラマーだということは知っていた。このバンドはくだらないミュージシャンの集まりじゃない。演奏はできる。でも私たちはロックフィールド・スタジオに座っていて、彼は非常識でテクニカルな曲をワンテイクでやっていた。ほとんどリアルタイムでレコーディングしていた!彼はすごいよ!」
そう、これは OPETH 史上最高のギター・アルバムで、リズム・アルバムでもあるのです。バンドのもうひとりのキーパーソン、ギタリスト、Fredrik Åkesson も今回のアルバムの仕上がりには興奮を隠せません。
アルバムの複雑なテーマを踏まえて、Fredrik は Mikael とのコラボレーションが鍵だったと明かしました。
「このアルバムは、2008年の “Watershed” でバンドに加わったときと同じくらいエキサイティングだと今でも思っている。僕にとって特別なアルバムだからね。もちろん、どのアルバムも良いし、どれも満足しているけれど、このアルバムは、古い OPETH とプログの OPETH が新しい方向性と一歩前進のために組み合わされたような作品なんだ。
だからこそ、自分を本当にプッシュしたかったんだ。そして、すべてのソロに目的を持たせたかったんだ。Mikael と僕はヘヴィなリズム・リフを分担し、僕はアルバムの多くのメロディーを演奏した。Mikael はアコースティック・ソロを弾いているね。
“In Cauda Venenum” の時僕は、Mikael のスタジオで即興的にソロを弾いていた。でも今回は、音楽を送ってくれたんだ。だから、自分のスタジオでソロを考え、今までやったことのないことをやろうとより多くの時間を費やした。どのソロもそれぞれ違うものにしたかったんだ」
そうして Fredrik はこのアルバムで、より思慮深いアプローチへと突き進みました。この新しい創造的な空間において、彼は楽曲だけでなくレコードの大きな物語に合うように、それぞれのソロを綿密に作り上げていったのです。
「”目立ちたい “という考え方は好きじゃないんだ。テクニカルなものを盛り込むのは好きだけど、それは目的があってのこと。このアルバムでは、リードに多くの時間と余韻を費やした。
かつて Gary Moore が言ったように、”あなたが弾くすべての音色は、人生で最後に弾く音色のようであるべきだ”。そういうメンタリティなんだ。人生を当たり前だと思ってはいけない。常にベストを尽くしたいと思うだろう。それがいいモデルだと思うし、できればそれ以上になりたい。ちょっと野心的に聞こえるかもしれないけど、ある意味、少なくとも僕が目指していたのはそういうことなんだ。みんながどう思うかはこれからだけど、かなりいい出来だと思うよ」

ヘヴィでアグレッシヴなパッセージと、幽玄でメランコリックな瞬間がぶつかり合う OPETH の特徴的なサウンドは、このアルバムの中核をなしています。この両極端の間の複雑なバランスは、バンドが長年かけて習得してきたもので、彼らはアイデンティティを失うことなく、幅広いサウンドパレットを探求できるようになりました。そして彼らの14枚目のスタジオ・アルバムでは、そうした対照的な要素の相互作用が、慣れ親しんだものであると同時に、新たに活性化されたようにも感じられると Fredrik は言います。
「僕の見方では、OPETH の曲は陰と陽のようなものなんだ。とてもアグレッシブなパートと、よりメランコリックなパートが出会って、一方が他方のパートを糧にする。これはレコーディングの方法でどのように演奏し、どのようなサウンドを使うかによって、音楽にそうした極端な変化を生み出すことができるんだ。
ヘヴィなものから森のような夢のようなサウンドスケープまで。それは “Orchid” 以来、OPETH の一部になっているものだと思う。しかし、それは常に発展し、様々な方法で行われてきたんだよ」
“The Last Will and Testament” が形になるにつれ、この作品は Fredrik のようなベテラン・ミュージシャンにとっても新たな挑戦となることは明らかでした。レコーディング・プロセスでは、技術的な複雑さと新鮮な創造的要素がプロジェクトの重みを増し、バンドは予想外の方向にまで突き進みました。しかし、限界に挑戦し続けるというバンドの決意は揺るがず、革新と芸術的進化への深い情熱がその決意を支えたのです。実際 Fredrik は、音楽そのものの複雑さが障害となり、また成長の源となったことを明かしています。
「今回のドラムのパートはとても複雑だから、リフを入れるのに時間がかかった。ポリリズム的なものがとても多いんだ。だから、リフのいくつかを捉えるのに時間がかかった。でも僕は挑戦することが好きなんだ。Mikael は常に僕らにも挑戦したかったんだと思う。いい意味でちょっとサディスティックなんだ」

“The Last Will and Testament” は過去への回帰を意味するのか、それとも OPETH の進化の継続を意味するのでしょうか?
「継続だ。一歩前進だ。これは初期の OPETH とプログ時代の OPETH をひとつにまとめたものだ。他のアルバムとはいろいろな意味で違うが、OPETH サウンドは健在だ。ちょっと新しいサウンドなんだ。グロウルのヴォーカルもあるけど、Mikael は “Paragraph I” で聴けるような、もっと芝居がかったクリーン・ヴォイスを開発したんだ。これまでそういうことはしてこなかったからね」
バンドとして革新と進化を続ける原動力は、自己満足を避けたいからだと Fredrik は説明します。
「飽きられたくない。常にステップアップし、レベルを上げ、限界を上げなければならない。もちろん、それは難しいことだ。でも、新しいアルバムはリスナーに対してではなく、自分自身に対して何かを証明する機会なんだよね。
毎回また何かを証明する必要があると思うし、それは今でも OPETH のアルバムのモットーなんだ。ビジネスを維持するためだけにアルバムを作るのなんて意味がないからね」
最後に Mikael は自分とバンドの立ち位置を明確にします。
「私は自分をミュージシャンだと思いたい。ミュージシャン…つまり、私は自分が消費する音楽の産物だ。私はもう50歳だ。だから、長年にわたってたくさんの音楽を聴いてきた。そうして多くの音楽を盗み、参考にしてきたんだ。でも結局のところ、私は自分が何をやっているのかわからないんだよな!」

日本盤のご購入はこちら。Ward Records

参考文献: KERRANG! :“Screaming, for me, is almost like rapping”: Mikael Åkerfeldt talks Opeth’s new album, The Last Will & Testament

MUSIC RADER :“What we are after is not perfection. You’re looking for the flaws… the noise… earth hum. You’re looking for the arm-tight playing… the human aspect”: Opeth’s Mikael Åkerfeldt on inspirations, intuition, shred, and the problem with modern metal

PROG SPHERE :OPETH Guitarist Fredrik Åkesson on Crafting Their Most Challenging Record

GUITAR INTERACTIVE MAG:“It’s about a Murdoch-type media mogul and his children fighting for control… that inspired me to explore those dynamics.” How HBO’s Succession helped inspire Opeth’s new album The Last Will and Testament | Interview

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARNOSUS : WORMTALES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CARNOSUS !!

“If Putting a Label On Ourselves, We Would Probably Say Progressive Semi-Technical Melodic Thrash-Infused Death Metal? Our Sound Really Is a Mixture Of a Lot Of Influences.”

DISC REVIEW “WORMTALES”

「もし自分たちにラベルを付けるとしたら、”プログレッシブ・セミ・テクニカル・メロディック・スラッシュ・インフューズド・デス・メタル” とでも言うのかな?そんな感じかな。僕らのサウンドは実に多くの影響をミックスしたもので、それがテクニカルに聴こえる要因にもなっているかもしれない。でも、僕らがいつも “典型的なスウェーデン人” に聴こえないのは、おそらくアメリカのバンドからのインスピレーションによるものだろう」
テクデスの巨人 NECROPHAGIST が眠りについておよそ15年。数多のバンドが彼らの足跡を追おうとしましたが、その偉業に近づけた者は決して多くはありません。その理由は、おそらく NECROPHAGIST の “本質” を見誤っていたから。
もちろん、NECROPHAGIST はあの時代にしては異次元の複雑さと速度、そしてテクニックを纏っていましたが、そこにだけ囚われていたわけではありません。むしろ、そうした “オリンピック” 的離れ業の裏側に、恐ろしいほどに練り込まれ、書き込まれたリフやソロの類稀なる名脚本が存在していたのです。テクデスの魔法に必要なのは、BPM だけではありません。逆に言えば、そこを理解し、努力を重ねた ARCHSPIRE や FIRST FRAGMENT は自らの個性も際立たせながらテクデスの階段を登っていくことができたのです。
「その瞬間に正しいと思うことをやるだけで、今回はグルーヴとヘヴィネスにより重点を置いた、よりミドルテンポのアルバムに仕上がった。さっきも言ったように、僕らは自分たちを “テクデス”バンドだとは思っていない。そのレッテルを貼っているのは、僕らのファンやメタル・コミュニティなんだ」
スウェーデンから登場した CARNOSUS も、テクデスのステレオ・タイプやオリンピックに囚われない “多肉質な” バンドの一つ。同時に、スウェーデンというオールドスクールやメロデスのサンクチュアリで機械仕掛けのテクデスを体内に宿すステレオ・タイプの破壊者、デスメタルのサイボーグに違いありません。
“Tech 戦争” に身を投じたように見えた前作 “Visions of Infinihility” から1年。最新作 ”Wormtales” で彼らは、そのサウンドをこれまで以上に多様な方向に押し進め、テクデスに根ざしつつも、メロデスからスラッシュ、プログレッシブからブラックまで、様々なサブジャンルからの影響を取り入れることに決めました。次のスピード・スターを目指す以上に、その先の新たな怪異に進化する道を望んだのです。
実際、その選択は大成功でしょう。もちろん、”Wormtales” の心臓は機械仕掛けのテクデスでできていますが、その体はまさにスウェーデン。メロデスの悲哀、オールドスクールの地獄、デスラッシュの業火を身体に刻んだ CARNOSUS の血を吐き地を這うテクデスは、千変万化の咆哮を伴って “テクニカル” の意味をリスナーに問いかけます。フレットを正確に最速で駆け巡る以上のカタルシスがここにはあります。
今回弊誌では、CARNOSUS にインタビューを行うことができました。「僕たちの作品の歌詞は、ほとんどが架空の世界を舞台にしているけれど、現実との類似点があるのは間違いない。すべてのフィクションは現実の断片を取り込んでいるが、僕たちの歌詞も同じだ。全体主義体制、大量絶滅、抑圧といった要素が、錬金術、精神病、宗教的矛盾といったテーマと混ざり合っているのさ」時代は7弦ベース。どうぞ!!

CARNOSUS “WORMTALES” : 9.9/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SEVENTH DIMENSION : OF HOPE & ORDEALS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LUCA DELLE FAVE OF SEVENTH DIMENSION !!

“I First Discovered Japanese Culture Back In 2014. Actually It Was Back When Babymetal Was Starting To Become Big In The West And I Was Part Of The Early Bandwagon Of European Fans.”

DISC REVIEW “OF HOPE & ORDEAL”

「最近は、歌詞のアイデアの多くに日本文化が確かに影響しているよ。日本人である妻が最近、”雨ニモマケズ” という有名な日本の詩を紹介してくれてね。その詩の内容の多くが、僕の周りにいる多くの日本人の友人の中にあることに気づいたから心に残ったんだ」
“ほめられもせず 苦にもされず そういうものに わたしはなりたい”。宮沢賢治 “雨ニモマケズ” の最終節です。もしかすると、プログ・メタルというジャンル自体、音楽シーンのなかではまさにそんな存在なのかもしれません。欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている。デクノボーと呼ばれるかもしれない。それでも、こうした音楽に楽しみや癒しや救いを求める者があれば、行って希望を叶えてあげる。スウェーデンの SEVENTH DIMENSION はそんなプログ・メタルになりたいのです。
「僕らの音楽はプログレッシブでありながら、とても聴きやすい音楽でありたいといつも思っているんだ。コード進行の中で時々変なところに行ったり、長い曲があったりするかもしれないけど、曲が長く感じられるようには決してしたくない」
闇があるからこそ光が差す。試練があるからこそ希望がある。SEVENTH DIMENSION の最新作 “Of Hope & Ordeals” は、エゴと欲望が渦巻くこの暗い世界を迷宮という試練に例えながら、いつかは出口という光にたどり着くと歌います。プログという複雑で迷宮のような音楽において、色とりどりのメロディはまさに悦楽であり希望。そう、彼らはプログという一見エゴイスティックな音楽が、その実最も欲望や妬みから程遠いことをその音楽で証明します。煩悩よりも才能を。あまりに見事な甘やかなアートはそうして、世界の闇をクリスタルで払います。
「日本の音楽シーンで一番好きなのは、ジャンルは違っても、実際の楽器を使って音楽を演奏することが、今でも演奏やレコーディングのメジャーなスタイルだというところだね。西洋では多くのジャンルがそれを放棄し、プログラミングに完全に取って代わられていると感じるからね。だから、ポップ・ミュージックの中にも、人間的な要素がまだ強く残っている日本が好きなんだ」
そんな彼らの “試練”、プログ・メタルに大きな影響を与えたのが、日本の優しさの文化であり、日本の音楽世界のあり方でした。日本で4年間を過ごしたギタリスト Luca Delle Fave は、この国にきてまず、本物の楽器が今も幅を利かせていることに驚きました。なぜなら、欧米のシーンはプログラミングが今や音の大部分を占めているから。
フィジカルな “練習” を必要としないインスタントなサウンドは、プログという “試練” や “苦悩” とは真逆の場所にあります。だからこそ、そこには SEVENTH DIMENSION の求める光や希望は存在しないのかもしれません。日本で楽器を修練し、プログレッシブであることを許され、勇気を得た彼らは、そうしてグラミーを獲得した DREAM THEATER の背中を追います。
切なくも色香のあるラブリエのような歌声に、難解をフックに変えたインストの妙、そして美しきアトモスフィア。これまでスウェーデンの “Seventh” といえば Wonder でしたが、”Dimension” もこれからは外すことができないでしょう。
今回弊誌では、Luca Delle Fave にインタビューを行うことができました。「日本の文化を知ったのは2014年のこと。実はBabymetal が欧米でビッグになり始めた頃で、僕はヨーロッパのファンの初期メンバーの一員だったんだ。それで、Babymetal の最初のヨーロッパ公演を何度か見に行ったんだけど、そこで生まれて初めてたくさんの日本人に会ったんだ。彼らの優しさ、敬意、謙虚さに心を打たれた。その後、Babymetal コミュニティの中で多くの日本人の友人を作り、最終的に2015年初めに日本を訪れることになった。1カ月滞在した僕は、自分が見つけたこの新しい世界にすっかり魅了され、日本語を流暢に話せるようになって日本に住むことを決意したんだ」 どうぞ!!

SEVENTH DIMENSION “OF HOPE & ORDEALS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREAK KITCHEN : EVERYONE GETS BLOODY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MATTIAS IA EKLUNDH OF FREAK KITCHEN !!

“Turn Off Your Phone. Spend Time With Your Instrument. Don’t Be Afraid To Make Mistakes. Mistakes Are Beautiful.”

DISC REVIEW “EVERYONE GETS BLOODY”

「あのころ私たちは若かったから、最高のアルバムを作ろうと必死だった。楽しくてエキサイティングな時代だったよな!いくつかの賞も受賞したと思う。マイケル・イルバートにミキシングしてもらったことで、実際よりもずっと良くなった。彼は本物のプロだ。アルバムのアートワークは、私が持っているジャケット (服) の写真なんだ。あのジャケットを箪笥から取り出して、ほこりを払って、プレゼントか何かをする必要があるね。とにかく、”Appetizer” は私にとってとても大切なアルバムで、30年前のアルバムという古さがまったく感じられないよね。それは間違いないよ」
FREAK KITCHEN がデビュー・アルバム “Appetizer” をリリースして30年。30年経った今でも、あのユニークで、チャレンジングで、ウルトラ・ヘヴィでしかしウルトラ・キャッチーな傑作はまったく色褪せることはありません。そして、その傑作の立役者 Mattias IA Eklundh その人も、30年という月日で色褪せることはありませんでした。
「Caparison Guitarsには賞賛の言葉しかないし、デザイナーの菅野至は私の長年の友人だ。あのギターはあらゆる面で素晴らしい。だからこそ、私が住んでいるところから1時間ほど離れた、ここスウェーデンのトゥルー・テンペラメントの新しい工場でギターを作る機会を与えられてから、自分のブランドを立ち上げることについて長い間頭を悩ませていたんだ。でもね、最初から最後まで全工程に携われるというのは、断るにはあまりに魅力的なオファーだった。実際に自分のブランドを持つことができる。楽器は一流だし、それを作っている素晴らしい人たちは本当に、本当にプロフェッショナル。だからとても満足しているよ」
Mattias といえばキャパリソン。キャパリソンといえば Mattias。そんな常識が浸透していたギター世界。だからこそ、突然の Mattias によるギター・ブランド Freak Guitar Lab の立ち上げは驚天動地でした。しかし、結局あくまでも最後まで “職人” である Mattias にとって、すべてをコントロールできる、全工程に携われるスウェーデンの True Temperament Factory との提携はあまりにも魅力的でした。挑戦と変化を恐れない。Mattias は、ボロボロの Ibanez を弾いていた30年前から何も変わってはいないのです。
ギターの名前はウルフ。それは愛するスウェーデンの自然を投影した名前で、もちろん長年の友人だった愛犬の名を冠したもの。今のところ、8弦と6弦のラインがあり、日本では Zanshin Musical Instrument が代理店となるそうです。大阪サウンドメッセでの久々の来日も決まっています。
「音楽はとても大切だよ。音楽がなければ気が狂ってしまう。音楽はね、生きる力と目的を与えてくれるんだ。正気を保ち、インスピレーションを与えてくれる。世界が狂っているとき、音楽は最高だよ。身を守る盾になる。音楽の力を過小評価してはいけない。そして…そう、このアートワークとタイトルはまさに今日私たちがいる場所を反映している。私はね、両極化、終わりのない対立、プロパガンダ、嘘をつかれることにとても疲れているんだ。そんな世界で、音楽だけは私の魂を浄化してくれる」
そして、”Appetizer” 30年の年に、Mattias は前だけ見据えて新たなプレゼントを用意してくれていました。アルバム “Everyone Gets Bloody”。5月に発売される新作は、これまでとは少し異なる様相。争いや分断、暴力が蔓延る暗い世界に疲れ果てた Mattias は、ついに直接的にこの世界の異様さを音の中に込めました。もちろん、新たな挑戦はそれだけではありません。9弦という超低音域をオクターブ下でハモらせるという、常人には理解し難い試みもその一つ。デビュー30周年に新たなギターと新たな作品、新たなチャレンジで攻め続ける Mattias IA Eklundh と FREAK KITCHEN。来日とアルバムを楽しみに待ちましょう!
今回弊誌では、Mattias IA Eklundh にインタビューを行うことができました。「作曲や練習をするときはインターネットを避けること。気が滅入ってしまうからね。スマホの電源を切るべきなんだよ。ただ楽器と向き合ってね。そして何よりミスを恐れないで。音楽において間違いは美しいものだから。演奏を通して自分が何者であるかを知り、自分自身のアイデンティティを見つけるのは難しい。だからこそ、外部からのインプットが少なければ少ないほど、自分自身のもの、ユニークなものを作り上げることができると思うよ」 3度目の登場! どうぞ!!

FREAK KITCHEN “EVERYONE GETS BLOODY” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【ARCH ENEMY : JOEY CONCEPCION】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOEY CONCEPCION OF ARCH ENEMY !!

“Guitar Kids have to do it for the love of the music and find music that inspires them. In doing that, they will find their own sound. They should practice guitar every single day, and do it with passion or not at all.”

SHRED WITH PASSION

「音楽への愛情を原動力とすること。そしてインスピレーションを与えてくれる音楽を見つけることだね。そうすることで、自分の音を見つけることができる。毎日毎日ギターを練習し情熱を持ってやるべきで、それ以外は全くやらないのと同じだと思うよ」
“Shred With Passion”。情熱を秘めたシュレッド。それが新たに ARCH ENEMY に加わった新進気鋭、33歳のギタリスト Joey Concepcion の座右の銘です。コネチカット州出身のアメリカ人ギタリストは、メロデスへの愛とシュレッドへの情熱でついにビッグ・バンドへの挑戦権を勝ち取りました。しかし、栄光までの道のりは決して平坦なものではなかったのです。
「この10年間、たくさんのバンドとツアーをすることができて、信じられないような旅だった。ARMAGEDDON, THE ABSENCE, JASTA、そして SANCTUARY は、ツアー・ミュージシャンとしての僕を形成し、現在の僕へと導いてくれたんだ」
2008年、敬愛する LOUDNESS にも参加していた Mike Vescera からの依頼で、Joey のキャリアは幕を開けます。当時まだ17歳だった Joey は、アルバム “Sign of Things To Come” でギター・ソロを披露し、その若さとルックス、そしてハイパー・テクニカル&クラシカルなシュレッドで、あの偉大なる Jason Becker の後継者と目されるようになります。そう、彼のギターには、Jason 同様、天使と悪魔が宿っています。
「2012年に Christopher Amott から Skype でギターのレッスンを受け始めて、すぐに彼と親友になったんだ。その時に ARMAGEDDON に加入して、何年も一緒にプレイする中で、ARCH ENEMY と一緒にライヴをしたこともあったんだ。2015年のラウド・パークでの来日公演や、2016年のメキシコ・シティでの公演もあった。その時に、みんなでつるんで素晴らしい時間を過ごし、ARCH ENEMY のメンバーと仲良くなったんだ」
ただし、物事は、人生は決して一足飛びには進みません。THE ABSENCE, Jamie Jasta の JASTA, SANCTUARY と流浪し渡り歩く中で、徐々にその確かな才能と輝きが認められた Joey は、ギターの師匠で親友、ARMAGEDDON のバンド・メイトでもあった Christopher Amott の橋渡しによって ARCH ENEMY とのつながりを築きました。
2018年には Jeff Loomis の代役として ARCH ENEMY と欧州ツアーを敢行。そこで信頼を得た Joey が、Jeff の脱退に際してリストのトップにあがるのは当然でした。もちろん、あの NEVERMORE でテクニカル・メタルの真髄を極めた Jeff の後任というポジションは生半可なものではありません。それでも、Joey のシュレッドに対する情熱の炎は、きっと ARCH ENEMY をさらに前進させることでしょう。
同時に Joey は、自身のソロ・アルバムも2枚発表しています。デビュー作 “Alignment” のリリースに際して、Joey はこんな言葉を添えていました。
「このアルバムを、強迫性障害、不安障害、うつ病の患者たちに捧げたい。自分を信じ、ポジティブに、忍耐強く、常に最終的な結果を考えながら前に進めば、夢は必ず叶う。運命や宿命が生まれた時から決まっているかどうかはわからないよ」
そう、彼も多くのメタル戦士たちと同様に、不安と共に傷ついた心を抱える孤独なたちの味方です。それはきっと、自らも不遇な時代を過ごしてきたから。そう、どんなに世界から見放され、1人だと感じたとしても、愛するものを信じてやり続ければ、Joey のようにきっと夢はかなうのです。
今回弊誌では Joey Concepcion にインタビューを行うことができました。「LOUDNESS, CRYSTAL LAKE, EZO といったバンドも大好きだよ。ARCH ENEMY が日本ツアーで制作したライブ・アルバムは僕のお気に入りのひとつだし、武道館での Yngwie Malmsteen のライブ・アルバムや、Paul Gilbert と Mr.BIG のライブ・アルバムも大好きだ。僕の最も大切な瞬間のひとつは、ラウド・パーク15で ARCH ENEMY の演奏を観ることができた時なんだ」 どうぞ!!

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MOON SAFARI : HIMLABACKEN VOL.2】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MOON SAFARI !!

“We Actually Never Aimed For The Prog-genre. We Just Want To Create Art, And That Every Note We Write Has a Purpose.”

DISC REVIEW “HIMLABACKEN VOL.2”

「プログレというジャンルを目指したことはないよ。私たちはただ芸術を創り出したいだけで、私たちが書く一音一音には目的がある。どの曲もそれ自体がアートなんだ。だからこそ、ある曲は3分の短くエネルギッシュなものでなければならないし、ある曲は壮大で長いものでなければならないんだ。変拍子の方が合うと思う曲もあるけれど、決して複雑さのためだけに使っているわけではないんだよ。変拍子の方がグルーヴ感が出るのであれば、例えば9/8でもいいんだけどね」
かのメタルの帝王 Ozzy Osbnurne が最近、”私はメタルをやっているつもりはない。昔はすべてがロックと呼ばれていたし、私もその中にいると思う” と発言して物議を醸しましたが、スカンジナビアの良心 MOON SAFARI もきっと同じ哲学の下にいます。
複雑怪奇な “プログレ” と呼ぶには甘すぎて、ビーチ・ボーイズ由来のポップスと呼ぶには知的すぎる。そんな定まらぬジャンルは彼らにとって足枷であり、魅力でもありました。そして今回、10年ぶりにリリースした “Himlabacken Vol.2” で、彼らは周りの目には気もくれず、ただ自らの創造性とアートにしたがってさらにその世界を広げました。
「歌詞の多くは、現在の世界と、それが歩んできた間違った道についてだから。私たちの子供たちもその間違った歩みの世界にいるわけだよ。だからこそ、私たちは人間の愚かさについて歌い、世の中には悪いこともたくさんあることも描く。だけど、一番大切なのは、未来の世界にとって何が良い面なのかを知ってもらうことだと歌っているんだ。今の子供たちがこの世界の良さを信じ続ければ、いつか世界を良い方向に変えることができるかもしれないからね」
戦争、分断、パンデミック。前作をリリースした10年前とは変わり果てた世界で、それでも MOON SAFARI は優しさと寛容さの中に生きています。だからこそ、現代における人類の愚行を子どもたちに伝えたい、より良い世界を目指してほしいという願いはその音楽に宿りました。
もちろん、FLOWER KINGS を彷彿とさせるシンフォニー、表現力豊かなムーグとクワイアのオペラ、青く美しきコーラス・ワークスに洒落た変拍子は今でもここにありますが、自らの子供時代を通して現代の子どもたちを映し出した “Himlabacken Vol.2” には明らかに、暗くてメタリックな瞬間が存在します。
「私たちはみんな80年代生まれだし、このアルバムはノスタルジアの感覚で書かれているから、この曲は偉大な Eddie Van Halen へのオマージュなんだよ。彼は私の大好きなギタリストの一人でもあるしね」
MESHUGGAH 由来のヘヴィ・ポリリズム、Yngwie も舌を巻くクラシカルな光速リード、DREAM THEATER のメタル・イズム。MOON SAFARI は間違いなく、これまでとは異なる一面を垣間見せながら、スター・ウォーズやスタンド・バイ・ミーが “ジョーカー” へと変異した現代の闇をあらわにしていきます。そう、今みんなが心待ちにしているのは、きっと溢れんばかりの笑顔で夢を紡ぐ新たなエディ・ヴァン・ヘイレンの登場なのです。
「私たちは皆、同じ小さな教会で同じ経験をしてきたんだ。学校の最終日に教会で座っているときの、あの魔法のような感覚。”Epilog” から得られる感覚は、何年も前、小学生の時に私たちが感じたものだけど、今でもとても最近のことのように感じられるよ」
アルバムは、スウェーデン語で歌われる天上の讃美歌で幕を閉じます。昔は良かったなどと口にしようものなら即座に老害認定される世界で、MOON SAFARI はロマンチックなノスタルジーを隠そうとはしません。いえ、むしろ前面に押し出していきます。
それはきっと、自転車を手に入れた、ギターを手にした、ゲーム機をクリスマスに買ってもらった、CD をお小遣いで買いに行った…あの時の胸の鼓動と全能感を今の子供たちに分けてあげたいから。重要なのは、どこまでも行けるという無限の可能性を信じること。ネットで即座に手に入るものだけが、便利で評価の高いものだけが宝物ではないことを、彼らはきっと世界に思い出させたいのでしょう。
今回弊誌では、MOON SAFARI にインタビューを行うことができました。「スーパーマリオ、TMNタートルズ、ロックマン、ソニック、トランスフォーマー、スタージンガー、ポケモン、ゲーム&ウォッチ、任天堂、セガ、ソニープレイステーションの世界。子供の頃はずっとトヨタのカムリに乗っていたよ! 」  二度目の登場。どうぞ!!

MOON SAFARI “HIMLABACKEN VOL.2” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【STEVEN ANDERSON : GIPSY POWER 30TH ANNIVERSARY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH STEVEN ANDERSON !!

“I Founded My Inspiration In The Sounds Of The Swedish Mysterious And Enchanting Forest And The Nordic Light And Through My Journeys In Eastern Europe.”

DISC REVIEW “GIPSY POWER”

「私は伝統的なギター・ヒーローの典型的なタイプではなく、自分の音楽を前進させ、新しい音楽表現の方法を探求することに重点を置いていたんだと思う。スウェーデンの神秘的で魅惑的な森の音や北欧の光、そして東欧の旅を通してインスピレーションを得ていたんだ。東欧の音楽には、速いテクニカルな部分への挑戦がある一方で、挑戦的でプログレッシブな部分も非常に多いからね」
トルコとフランスを結ぶ豪華寝台列車、オリエント急行。アガサ・クリスティのミステリーの舞台にもなったこの列車の風景は、エジプトから中東、インド、そしてヨーロッパをまたにかけたジプシーの足跡をたどる旅路にも似ています。
ジプシーの文化はその渡り鳥的な生き方を反映して、実に自由かつ多様でした。言語はもちろん、風習、食事、そして音楽。ジプシーであるロマ族に生まれ、放浪生活の中でスウィング・ジャズとジプシー民謡を天才的に融合させた巨匠、ジャンゴ・ラインハルトのオリエンタルな音楽はその象徴でしょう。
1990年代前半、そんなジプシーのエスニックでオリエンタルな音楽をメタルで復活させた若者が存在しました。スティーヴン・アンダーソン。美しく長いブロンドをなびかせたスウェーデンの若きギタリストは、デビュー作 “Gipsy Power” で当時の日本を震撼させました。紺碧の背景に、真紅の薔薇と無垢なる天使を描いたアートワークの審美性。それはまさに彼の音楽、彼のギタリズムを投影していました。
重要なのは、スティーヴンのギター哲学が、あの頃ギター世界の主役であったシュラプネルのやり方とは一線を画していた点でしょう。決して技巧が劣るわけではなく、むしろ達人の域にありながら (イングヴェイがギターを始めたきっかけ) 、ひけらかすためのド派手なシュレッド、テクニックのためのテクニックは “Gipsy Power” には存在しません。いや、もはやこの作品にそんな飛び道具は相応しくないとさえいえます。楽曲と感情がすべて。スティーヴンのそのギタリズムは、当時のギター世界において非常に稀有なものでした。
では、スティーヴンが発揮した “ジプシー・パワー” とはいったい何だったのでしょうか?その答えはきっと、ギターで乗車する “オリエント・エクスプレス”。
スティーヴンのギターは、ジミ・ヘンドリックスの精神を受け継いだハイ・エナジーなサイケデリック・ギターと、当時の最先端のギター・テクニックが衝突したビッグバン。ただし、そのビッグバンは、ブルース、ロック、フォーク、プログレッシブ、クラシックの影響に北欧から中東まで駆け抜けるオリエンタルな旅路を散りばめた万華鏡のような小宇宙。
“The Child Within” の迸る感情に何度涙を流したでしょう。”Gipsy Fly” の澄み切った高揚感に何度助けられたでしょう。”Orient Express” の挑戦と冒険心に何度心躍ったことでしょう。”‘The Scarlet Slapstick” の限りない想像力に何度想いを馳せたでしょう。
その雄弁なギター・トーンは明らかに歌声。”Gipsy Power” は少なくとも、日本に住むメタル・ファンのインスト音楽に対する考え方を変えてくれました。私たちは、まだ見ぬ北欧の空に向かって毎晩拝礼し、スティーヴンを日本に迎え入れてくれた今はなきゼロ・コーポレーションを2礼2拍手1礼で崇め奉ったものでした。
しかし、より瞑想的で神秘的でプログレッシブなセカンド・アルバム “Missa Magica” を出したあと、スティーヴンは音楽シーンから忽然と姿を消してしまいました。”Gipsy Power” の虜となった私たちは、それ以来スティーヴンをいつでも探していました。向かいのホーム、路地裏の窓、明け方の桜木町…こんなとこにいるはずもないのに。言えなかった好きという言葉も…
私たちが血眼でスティーヴンを探している間、不運なことに、彼は事故で腕を損傷していました。その後炎症を起こし、何度も結石除去術、コルチゾン注射、さまざまな鍼治療法を受けましたが状況は改善せず、スティーヴンのギターは悲しみと共に棚にしまわれていたのです。
しかし、それから10年近く経って、彼は再びギターを弾いてみようと決心し、愛機レスポールを手に取りました。それはまさに、メタルのレジリエンス、反発力で回復力。スティーヴンの新しいバンドElectric Religions は、初めての中国、珠海国際ビーチ音楽祭で3万人以上の観客の前で演奏し、中国の映画チームによってドキュメンタリーまで制作され、その作品 “The Golden Awakening Tour in China” がマカオ国際映画祭で金賞を受賞しました。
マカオでの授賞式の模様は中国とアジアで放送され、推定視聴者数は18億人(!)に上りました。スティーヴンは現地に赴き、”文化的表現によって民主主義の感覚を高める” というマニフェストに基づいて心を込めて演奏しました。そして数年の成功と3度のツアーの後、彼は GIPSY POWER をバンドとして復活させるために、Electric Religions を脱退することを選んだのです。
長年の友人であり、音楽仲間でもあるミカエル・ノルドマルクとともに、スティーヴンは GIPSY POWER をバンドとして再結成。アルバム ”Electric Threads” は、2021年11月19日、ヨーロッパの独立系音楽・エンターテインメント企業 Tempo Digital の新しいデジタル・プラットフォームにより、全世界でリリースされました。新たな相棒となったミカエル・ノルドマルクは、MIT で学んだことはもとより、あのマルセル・ヤコブにレッスンを受けた天才の一番弟子。期待が高まります。ついに、大事にしまっていた宝石箱を開ける日が訪れました。奇しくも来年は、”Gipsy Power” の30周年。私たちは、ジプシーの夢の続きを、きっと目にすることができるでしょう。「日本は私のプロとしてのキャリアの始まりでもあった。日本にはたくさんの恩があるし、今でも日本という美しく歓迎に満ちた国に行って、クラブ・ツアーをしたいと思っているんだよ」 Steven Anderson です。どうぞ!!

STEVEN ANDERSON “GIPSY POWER” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KATATONIA : SKY VOID OF STARS】 JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS RENKSE OF KATATONIA !!

“I Don’t Really Mind The Different Tags People Put On Our Music. We Can Only Do The Music That Keeps Us Inspired And It Doesn’t Matter What Genre It’s Supposed To Be.”

DISC REVIEW “SKY VOID OF STARS”

「すべてのアルバムは新しい章であり、作曲やレコーディングをしている間は、そのアルバムが将来的にどんな意味を持つかなんて考えていない。僕らははただ “今” にいて、自分自身を凌駕しようとしている。作ったアルバムがディスコグラフィーの名作になるかどうかは、歴史が示してくれるだろうね」
KATATONIA、そして Jonas Renkse は、”時代” という言説をあまり信用していません。正直なところ、多くのバンドはそうではありません。そして、KATATONIA というアーティストは、自身をリスナーとは全く違った “今” というレンズで作品を見ています。
「僕らの音楽に付けられる様々なタグはあまり気にしていないんだ。僕らが生み出せるのはインスピレーションを維持できる音楽だけで、それがどんなジャンルであろうと関係ないんだからね」
ゴシック・ドゥームやデスメタルに生を受け、アトモスフェリックなダーク・メタル、ポスト系の音作り、アンビエント、フォーク、プログレッシブと、時に鋭く、時に溶け合いながら、万華鏡のごとくそのサウンドを変化させてきた KATATONIA。リスナーからすれば、アルバム間の区別、つまり “Brave Murder Day” と “Discouraged Ones”、”Last Fair Deal Gone Down” と “Viva Emptiness” 、”The Great Cold Distance” と “Night Is the New Day” 、さらにそこから “Dead End Kings” とのリリースを隔てる、ほとんど断崖絶壁のような決定的 “違い” は、何らかの意識的な決断が働いていると思わざるを得ません。しかし、Jonas はインタビューの中で、そうではなく、KATATONIA の各アルバムは明らかに、一つの芯となる同じ DNA を共有していることを明かしています。それは、彼らの象徴である鴉に宿る暗がりで、メランコリーで、憂鬱。ただし、そんな KATATONIA にも、皮肉なことに “時代” の風を受けた変化の兆しが現れています。
「音楽は常に苦しい現実からの慰めと逃避を提供してきた。そして今もそうだ。音楽という、苦難から乖離した聖域を作り出すことのできる力。その一部になれたことを、僕はうれしく思うよ」
パンデミックや大きな戦争、分断という未曾有の苦難は、KATATONIA の活動、そして Jonas の心にこれまで以上の暗い影を落としました。自分にできることは何なのか。Jonas がたどり着いた結論は、音楽で逃避場所という “サンクチュアリ” を作ること。
“Sky Void of Stars” で私たちは、間違いなくそれを聴くことができます。分厚いベース、轟くメランコリー、そして寂しげなギターはたしかに、今でも彼らのサウンドの大部分を占めています。しかし、”Opaline” が示唆するノスタルジックで、きらびやかで、重厚なシンセの虹空は、エモーショナルなコーラスと相まって、明らかに、苦境に立つリスナーへと寄り添う KATATONIA の新たなサンクチュアリでしょう。
もちろん、プログレッシブな “Austerity”、アンセミックな “Birds”、アトモスフェリックな “Sclera” は過去の残響。しかし、その残響にはすべて、”優しさ” という新たな魅力が加味されています。星のない空などを望む人はいないでしょう。エネルギッシュでありながら瞑想的な優しき名作。そう、KATATONIA は常に挑戦し、今を生きるメタル世界では稀有なるバンドなのです。また、アルバムを締めくくる、6/8の変幻自在なバラードが素晴らしい…
「Mikael Akerfeldt との “聴き合い” の儀式は今でもやっているよ。楽しい儀式だし、最近は集まってつるむための理由という意味の方が大きいかもしれないね。OPETH と KATATONIA は今でも多くの影響を共有しているけれど、ささやかで恵まれない始まりから間違いなく違う道を歩んできているよ」
そんな KATATONIA の初来日が遂に決定しました。”Better Late Than Never”。ボーカリスト Jonas Renkse の、OPETH の Mikael Akerfeldt との親交の深さ (“Brave Murder Day” のボーカルはほとんどが Mikael のもの) 、音楽性の近しさは有名な話ですが、それ以外にも、AYREON や Bruce Soord との WISDOM OF CROWD への参加など、彼の歌声に対するミュージシャンからの信頼は絶大なものがあります。Mr. エモーショナル。Jonas Renkse です。どうぞ!!

KATATONIA “SKY VOID OF STARS” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【SCAR SYMMETRY : THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH) JAPAN TOUR 23’】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PER NILSSON OF SCAR SYMMETRY !!

“Meshuggah Let Me – Even Insisting On – Play My Own Solos In The Songs, Not Copying Fredrik’s Solos, And I Had a Lot Of Fun With That. I Improvised Every Solo So That Every Night, I Could Try Something New.”

DISC REVIEW “THE SINGULARITY (PHASE Ⅱ)”

「MESHUGGAH のツアーで数年間は忙しかったし、NOCTURNAL RITES のアルバム制作とツアー、KAIPA との数枚のアルバムのレコーディング、他のバンドのプロデュースやミックスの仕事、セッションの仕事、2019年には父親になったし、世界的なパンデミックも起きた。だから、私生活でも仕事でも世界全体でもいろいろなことがあったんだよ!でも、アルバムがついにリリースされ、ファンが本当に気に入ってくれているようで、今は本当に素晴らしいと感じているよ!」
スウェーデンの近未来知的創造体 SCAR SYMMETRY がバンド結成20年のメモリアルに華々しい復活を遂げようとしています。主役はもちろん、あの MESHUGGAH で鬼才 Fredrik Thordendal の代役を長く務めたギターマスター Per Nilsson。紆余曲折のあったバンドですが、中心メンバーであった Christian Älvestam と Jonas Kjellgren が去って Per の創造性を心臓に据えた北欧の特異点は、メロデスのカタルシスとプログレッシブな冒険心を絶妙な “対称性” で律する最高の SF エピックを紡ぎ出しています。
「3部作の各章は、3部作の音楽世界の一部とつながり、感じられる必要がある一方で、僕は各フェーズが独自のものであることも望んでいたからね。だから、”Phase II” では、メロディや先進性を犠牲にしてでも、”Phase I” よりもかなりヘヴィでアグレッシヴなものにする必要があったんだ」
2014年に始まった SCAR SYMMETRY の “The Singularity” 三部作。キャリア・ハイとなった “Phase I” は、トランス・ヒューマニズム (科学技術で人間の身体や認知を進化させる思想) を軸としたSF コンセプト・アルバムで、精巧であると同時にバンドの歴史上最もキャッチーな作品でした。一般の人間と、金に物を言わせて自身を強化したエリート集団 “ネオ・ヒューマン” との階級闘争、そして戦争に発展する未来社会の物語。Per Nilsson 率いるスウェーデンの5人組は、9年後の “Phase Ⅱ” においても変わらず自信に満ち、強力で、自分たちの “シンギュラリティ” を完全にコントロールしているように見えます。
「近い将来、僕たちは AI に、僕たちが望み、体験したい芸術を創作するよう促すことができるようになるだろう。例えば、モーツァルトとポール・マッカートニーが作曲し、ボブ・ロックがプロデュースとレコーディングを担当し、ベースはクリフ・バートンに、ボーカルはエルトン・ジョンに……といったような曲を AI に作らせることができるようになる。もし、その結果に満足できなければ、AI に指示をして微調整してもらえばいいだけだろう」
とはいえ、2004年、境界のない新しいタイプのデスメタルを作ろうと結成されたバンドには、もはや AI の助力や指図は必要ないでしょう。巨大なシンセサイザーと、本物のデスメタルの嗎、官能的なクリーン・ボーカルはシームレスに組み合わされて、対称と非対称の狭間にある天秤のバランスを巧みに釣り合わせていきます。
FEAR FACTORY や SOILWORK も真っ青なメタル・ディストピアの残酷さに唖然とさせられた刹那、そこにメロディーが生まれ、エピックが兆し、プログパワーのような雄々しさとメロハーのようなエモーションが乱立していきます。深慮遠謀のリフワークに、天高く舞い上がる緻密な音のホールズワース階段こそ Per Nilsson の真骨頂。Jacob Collier や Tim Miller, Tigran Hamasyan まで咀嚼したメタル世界のエイリアン、最高のサブジャンルとギター・ナードの組み合わせは、すべてがユニークで予測不可能なサウンドを生み出すためにブレンドされているのです。
叫び声を上げるもよし、激しく頭を振るもよし、エアギターを達者に気取ってみるもよし、空を見上げながらメロディを口ずさむもよし。あらゆる形態のメタル・ファンにとってあらゆる条件を満たすアルバムがここに完成をみました。もしかすると、Per Nilsson はすでに、人工知能を宿したトランス・ヒューマンであり、このアルバムこそが “シンギュラリティ” を超えた未来なのかもしれません。
今回弊誌では、Per Nilsson にインタビューを行うことができました。「”Future Breed Machine”、”Rational Gaze”、”Bleed” といった僕のお気に入りの曲を演奏できた。そして観客が熱狂するのを見ることができた。彼らは、Fredrik のソロをコピーするのではなく、自分自身のソロを曲の中で演奏させてくれたんだ。僕は毎晩、何か新しいことに挑戦できるように、すべてのソロを即興で演奏したよ」 どうぞ!!

SCAR SYMMETRY “THE SINGULARITY (PHASE II – XENOTAPH)” : 10/10

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