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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KANONENFIEBER : DIE URKATASTROPHE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NOISE OF KANONENFIEBER !!

“The Topic Of War In The Metal Genre Is Often Handled In a Provocative And Glorifying Way. We Wanted To Create a Contrast To That And Develop a Project That Depicts War In Its Worst Aspects, Serving As a Warning.”

DISC REVIEW “DIE URKATASTROPHE”

「メタル・ジャンルにおける戦争の話題は、しばしば挑発的で美化された方法で扱われているという点で意見が一致した。私たちはそれとは対照的に、戦争を最悪の側面から描き、警告の役割を果たすようなプロジェクトを展開したかった。戦争における苦しみと死は時を経ても変わらないものだから、今日の世界の緊張に照らしても特に適切なテーマだと思ったんだ」
例えば、SABATON や ACCEPT のように戦争の英雄譚を語るメタル・バンドは大勢います。それはきっと、メタルならではの高揚感や攻撃性が、勇壮な勝利の物語と素晴らしくシンクロするからでしょう。
しかし、彼らの描く戦争はあくまでファンタジー。ファンタジーだからこそ、酔いしれることができます。実際の戦争にあるのは、栄光ではなく悲惨、殺人、残酷、無慈悲、抑圧に理性の喪失だけ。誰もが命を失い、魂を失い、人間性を失う。だからこそ、戦争の狂気を知るものが少なくなった時代に、KANONENFIEBER はその狂気を思い出させようとしているのです。
「KANONENFIEBER の真正性は、大衆に理解されやすいことよりも私にとって重要なことだから。私の英語力では、兵士たちのスラングを正確に伝えることはできないんだ。そして、もうひとつの重要な要素は、私が扱う手紙や文書がドイツ語で書かれていることだ。私はそうした兵士の手紙や文書をもとに歌詞を書いているし、多くの文章を直接歌詞に取り入れているからね。だから、KANONENFIEBER にドイツ語を使うのは論理的な選択だった」
KANONENFIEBER がその “教育” や “警鐘” の舞台に第一次世界大戦を選んだのは、そこが産業化された大量殺戮の出発点だったから。そして、”名もなき” 市井の人や一兵卒があまりにも多く、その命や魂を削り取られる地獄のはじまりだったから。
だからこそ、彼らは戦争の英雄、戦争を美化するような将校やスナイパーではなく、数字や統計で抽象的に描かれてきた名もなき弱者を主人公に選びました。顔のない被害者たちに顔を与える音楽。そのために KANONENFIEBER の心臓 Noise は、当時の残された手紙や文献、兵士の報告書をひとつひとつ紐解き、心を通わせ、バンドの歌詞へと取り込んでいきました。
そうして、”Die Urkatastrophe” “原初の災難” と名付けられたアルバムには、採掘チームが戦線の地下にトンネルを掘り進めた苦難や(”Der Maulwurf”)や、オーストリア=ハンガリーがロシア軍からリヴィウ/レンベルクを奪還した地獄の戦い(”Lviv zu Lemberg”)といった真実の戦争が描かれることとなりました。
「デスメタルとブラックメタルは、私たちが選んだ戦争を最悪の側面から描くというテーマにとって最高の音楽的出口だ。これほど危険で抑圧的なサウンドでありながら、同時に雰囲気があってメランコリックなジャンルは他にないと思う。それに、私はこうしたジャンルにいると単純に落ち着くというのもあるね」
そしてそのストーリーは、凶悪さと物悲しさを併せ持つ、ほとんど狂おしいほどのエネルギー、メタルというエネルギーによって紡がれていきます。Noise のカミソリのような叫びや地を這う咆哮は兵士や市民の恐怖を代弁し、パンツァーファウストのように地鳴りをあげるトレモロに夕闇の荘厳とメランコリーが注がれていきます。そうして流血、死、絶望にまつわる物語の糸は戦場エフェクトや話し言葉の断片によって結ばれ、アルバム全体を有機的にあの暗黒の1910年代へと誘っていきます。
我々はこの狂気の嵐の中から、当時の戦災者の言葉から、戦争の非道、虚しさ、地獄を読み取らなければなりません。安全な場所から大きな声で勇ましい言葉を吐く英雄まがいほどすぐ逃げる。彼らは決して自分の体は張りません。だからこそ、KANONENFIEBER は匿名性を貫き、顔の見えない負けヒーローを演じ続けるのです。
今回弊誌では、Noise にインタビューを行うことができました。「私の家から車で10時間もかからないところで、戦争が起こっている。過去の領土主張をめぐって、人々が残忍にも他人を殺しているんだ。私には理解できない。私は政治的な教養があるわけではないし、政治的な対立について議論しようとは思わない。しかし、何事も暴力が解決策であってはならないと信じている。すべては言葉を交わすことと、譲り合いによって解決できるはずなんだ」ANGRY METAL GUY で滅多に出ない満点を獲得。どうぞ!!

KANONENFIEBER “DIE URKATASTROPHE” : 10/10

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COVER STORY + INTERVIEW 【PRIMAL FEAR : THALIA BELLAZECCA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THALIA BELLAZECCA OF PRIMAL FEAR !!

“Power Metal Is Like You Go Back To Childhood And Imagine Yourself Riding Eagles And Killing Enemies, Being a Hero Or Becoming The Dark Evil Guy That Wants To Conquer The World.”

PRIMAL FEAR

「PRIMAL FEAR だと、”Rulebreaker” は特に気に入っているアルバムだし、その中の “Bullets & Tears” という曲が特に好きな曲ね。バンドの中で私は本当に若いけれど、子供の頃にメタルが好きになった80年代、90年代のシュレッディなソロをもっと出したい。彼らの全アルバムに収録されているパワフルでヘヴィなパワー・リフはそのままにね」
Kiko Loureiro, Joe Satriani, Steve Vai, Guthrie Govan, Paul Gilbert, Andy Timmons, Marty Friedman, Jason Becker, Yngwie Malmsteen など、数え切れないほどのギター・ヒーローたちから多大な影響を受けた左利きのニュー・ヒロインは、イタリアの FROZEN CROWN で名を上げ、Angus McSix との共闘で刃を研ぎ澄まし、そうして遂に独パワー・メタルのベテラン PRIMAL FEAR へとたどり着きました。
Tom Naumann と Alex Beyrodt。Matt Sinner の心臓 SINNER を原点とするふたりのギタリストは、PRIMAL FEAR でもその実力を余すところなく発揮して、バンドの強靭なリフワークと華々しいシュレッドを鋭利な刃物のように研ぎ澄ませてきました。彼らの脱退は PRIMAL FEAR にとって当然大きな損失でしたが、バンドはロックとサルサで育った異色のメタル・ウーマン Thalìa Bellazecca と、達人として名高い Magnus Karlsson を引き入れることでさらなる高みを目指すことになりました。
「Angus McSix でこの役を “コスプレ” できて、とても嬉しいし光栄よ。リーグ・オブ・レジェンド(大好きで今でもプレイしているゲーム)やアニメのおかげで、いつもコスプレをもっと掘り下げてみたいと思っていたんだけど、残念ながら時間がなかったんだ。コスプレって自分を象徴する分身を持つようなもので、より自分に自信を持ち、自分の行動やあり方に誇りを持つことにも役立っていると思うの」
ファンタジーをテーマとするパワー・メタルの世界において、役を演じる “ロール・プレイ”、そして役になりきる “コスプレ” は、暗く煩わしい日常から離れ異世界へと旅立つためにとても重要な “ツール” なのかもしれませんね。Thalìa はそのコスプレというツールを、パワー・メタルの世界で誰よりも巧みに使いこなします。GLORYHAMMER を追われた Angus McSix との共闘では、カレドニアのレイザー・アマゾンの女王を演じて喝采を浴びました。
しかし、実際のコスプレだけではなく、彼女はさまざまな “ペルソナ” を現実世界でも演じています。自身の人気 YouTube チャンネルを運営し、ヘヴィ・ミュージックとロック全般に対する彼女のスキルと情熱を紹介したと思えば、なんとモデルの領域にも進出。彼女のゴージャスな写真は、ミラノのPERSONAの公式インスタグラムで確認できますが、とにかく自身の “分身”、自身の才能をいくつも揃えることで、彼女は自信を携え、パワー・メタルの栄光に向かって邁進することができるようになったのです。
「パワー・メタルは、誰にでもある現実や嫌なことから逃避するのに役立っているの。それに、パワー・メタルは本当に楽しいジャンルだし、すべてのバンドが何かのキャラクターのコスプレをすることで、さらにエンターテイメント性が増す。まるで子供の頃に戻って、自分がワシに乗って敵を殺したり、ヒーローになったり、世界を征服しようとする暗い悪者になったりするのを再び想像することができるのよ」
大人になって、子供のころのように異世界への想像を膨らませたり、空想のキャラクターになりきることはそうそう許されることではないでしょう。しかし、Thalìa のような自信と才能に満ちたアーティストが先陣を切って、パワー・メタルの楽しさ、エンターテイメント、そして逃避場所としての優秀さを広めてくれたとしたら…私たちはためらいなく、エルフやドワーフ、もしくは侍になりきって、子供のころのように煩わしい日常を忘れられる “エンパワーメント・メタル” に浸ることができるのかもしれませんね。
今回弊誌では、Thalìa Bellazecca にインタビューを行うことができました。「デスノート、エヴァンゲリオン、デス・パレード、デッドマン・ワンダーランド、それにスタジオジブリの全作品が大好きよ。音楽なら、BAND-MAID, ALDIOUS, NEMOPHILA, LOVEBITES, MAXIMUM THE HORMONE, NIGHTMARE, それに TK from 凛として時雨。ゲームなら、ベヨネッタ、どうぶつの森、スーパーマリオ(特にギャラクシー)全部、Bloodborne、Ghost of Tsushima、大神。もともとファンタジーやSFのゲーム、映画が好きだったので、日本に行って、それがストリートでも受け入れられているのを見て、日本がもっと好きになったのよね」 どうぞ!!

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COVER STORY + INTERVIEW 【ROLAND GRAPOW : HELLOWEEN : MASTER OF THE RINGS】 30TH ANNIVERSARY !!


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ROLAND GRAPOW !!

“At The Beginning I Was a Little Upset, After All, I Was a Big Part Of The Helloween’s History, I Wrote a Lot Of Songs. But I’m a Fatalist, I Believe That Everything That Happens In This World, Everything Happens For The Best.”

DISC REVIEW “MASTER OF THE RINGS”

「”Master of the Rings” は、新しい HELLOWEEN のラインナップによる素晴らしいアルバムだ。バンド・メンバーやレコード会社の不安定な状況が何年も続いた後、僕たちは再び少し自由を見つけ、再び素晴らしいパワー・メタル・アルバムを作ることができた。僕たちもファンも幸せだった。振り返れば、実に素晴らしい時代だったね」
ここ日本で、いや世界中で、90年代のメタル・キッズをメタルへと誘った HELLOWEEN の傑作 “Master of the Rings” から30年。四半世紀以上の時を経ても、このアルバムが色褪せることはなく、素晴らしく時の試練に耐えています。それはきっと、”Master of the Rings” が、メタルの持つ逆境からの “回復力” と共鳴したから。実際、この前年、HELLOWEEN は崩壊の危機に瀕していました。
「僕は Weiki に、日本で “Chameleon” の曲(アコースティックな曲も多かった)を演奏した時、ファンが僕の前で泣いていたと言ったんだ。そして、”Keeper 1+2″ のような昔のスタイルに戻るべきだとも言った。彼は納得していたよ。それから数ヶ月して、Andi がバンドに加わった。彼も僕と同じことを言って、なぜ “Chameleon” のようなアルバムを作ったんだい?と尋ねていたね。とにかく、Uli と Andi がバンドに加わったことで、僕らの進むべき方向はまたひとつになったんだ」
“Master of the Rings” がリリースされる前年、HELLOWEEN が発表した “Chameleon” という文字通りカラフルなアルバムは大きな失敗と受け止められました。典型的なメタル、HELLOWEEN らしいパワー・メタルを捨てて、ポップな実験を試みたこのアルバムは、あまりに早すぎたのかもしれませんね。今聴けば、その多様性や芳醇なメロディが好奇心をそそる好盤にも思えますが、ステレオタイプは当時あまりに大きな壁でした。
「素晴らしい気持ちと同時に悲しい気持ちもあった。Ingo は病気だったし、僕らには本当にそうする以外選択肢がなかったんだ。一方で、Michael はポップ指向に傾倒していて、メタル・ミュージックにはもう興味がなかった。Andi と Uli は、ちょうどいいタイミングで適切なメンバーだったんだ」
さらに、HELLOWEEN の顔ともいえた Michael Kiske と Ingo Schwichtenberg の脱退は、負の連鎖に拍車をかけることとなります。しかし、心の病に侵された Ingo、そしてメタルに興味を失った Kiske がバンドを続けることは不可能でした。そして救世主となったのが、Andi Deris と Uli Kusch だったのです。
“Master of the Rings” は、あまりに印象的なドラム・フィルをイントロとする強烈な2つのスピード・チューンでその幕を開けます。実際、このドラム・フィルに心を奪われてメタルに誘われたファンも少なくないはずです。加えて、ガチガチのツイン・ペダルで暴風のように疾走する開幕の二撃。Uli の個性とインプットは、明らかにこの作品の見せ場となりました。
そして何より、Andi Deris の旋律。哀愁。高揚。激情。楽曲毎にコロコロと、猫の目のようにその色を変える Andi の感情は、ヘヴィ・メタルの強みを完璧なまでに代弁していました。
“Perfect Gentleman” で笑い、”Secret Alibi”で疼き、”In the Middle of Heartbeat” で咽び泣く。”Game is On” で初代ゲームボーイとのシンクロを楽しみ、”Mr.Ego” で素晴らしくも憎らしい Michael Kiske を偲ぶ。Andi の歌う新たな HELLOWEEN のアルバムには、明らかに、人の心に寄り添うヘヴィ・メタルの生命力が見事に吹き込まれていました。そして同時に、この作品には HELLOWEEN 史上最も理知的な整合感を極めたソング・ライティングとリフワークが備わっていたのです。何という復活!私たちはこの作品を聴いて、暗闇にもいつか光が射すことを教わりました。多くの困難は克服できると学びました。
「彼らのことを思えば満足だ。僕は招待されなかったから、再結成には参加していない。そう、最初は少し動揺したんだ。何しろ、僕はバンドの歴史の大きな部分を占めていたし、たくさんの曲を書いたからね。でも僕は運命論者で、この世で起こることはすべて最善のために起こると信じている」
“まだいける。俺たちはまだまだいけるんだ!”。30年前、アルバムに誰よりも力強い “Still We Go” を提供し大復活の立役者となった Roland Grapow はしかし30年後、HELLOWEEN の過去と未来をつなぐ大集結 PUMPKINS UNITED に呼ばれることはありませんでした。あの名曲 “The Chance” や “Someone’s Crying”, “Mankind” を作曲したにもかかわらず。
ある意味、これもまた大きな壁であり痛みなのかもしれません。しかし、”負けヒーロー” となった Roland は腐ることなく現在のメンバーたちにエールを贈ります。これぞまさに、ヘヴィ・メタルの寛容さ、包容力。音楽業界への失望を克服し、前を向いた Roland はこれからもまだまだ “いける” のです。
今回弊誌では、Roland Grapow にインタビューを行うことができました。「Weiki と僕がギターの腕前を競い合ったことは一度もなかった。Weiki はそのことについていつもクールだったからね。僕はただ、ギタリストとしてのスキルを少しでも伸ばしたかったんだ」 30年…Roland のお気に入り、”Dark Ride” の評価が海外で爆上がりしているのも面白いですね。どうぞ!!

HELLOWEEN “MASTER OF THE RINGS” : ∞/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FREEDOM CALL : SILVER ROMANCE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS BAY OF FREEDOM CALL !!

“The Audience On Our Concerts Is In Between The Ages Of 5 And 70. And We Are Happy To Maintain The Flame Of Metal For The Next Generations.”

DISC REVIEW “SILVER ROMANCE”

「”去年の夏は、SLAYERにハマってたんだ” なんて話を聞いたことはないだろう?そんなことはありえないんだ。メタル・ヘッズかそうでないか。人はそのどちらかだ。つまり、子供の頃はメタルを聴いていたけど、もう聴いていないなんていう人はいないはずだ。もし君がメタルに夢中なら、ずっと夢中なんだ!
一度ハマったら抜け出せねえ。言ってみれば、宗教さ」
EXODUS の Steve Souza の言葉です。たしかに、ヘヴィ・メタルの世界には自分も含めて “卒業” とは縁遠いファンが多いような気がします。メタルほど深い沼はない。その理由を、今年パワー・メタルの銀婚式を迎えた FREEDOM CALL の Chris Bay が弊誌に語ってくれました。
「メタル・ファンが最も忠実だということに同意するよ。私の意見だけど、メタル・ヘッズはただメタル音楽を聴いているのではないんだ。メタルはバック・グラウンドで流しているような音楽のスタイルではないからね。ロックとメタルはライフ・スタイルであり、このジャンルのファンは愛する音楽を積極的に、能動的に聴きながら生活しているのだよ…ラウドで激しくね..」
あのアルバムが出た時、結婚相手に出会った。就職した時は、あのTシャツを着ていた。愛猫が家に来た時は、あのライブに行った。そう、メタルはライフ・スタイルとなり、その人の人生と重なるような、インスタントとは程遠いヘヴィな音楽なのです。そうして、ファンとメタルは離婚とは無縁の幾久しき絆を育てていきます。
「”メタル・ジェネレーション” というアイデアは、何年も、何世代にもわたってこの種の音楽を支えてくれているすべてのメタル・ヘッズへの感謝の気持ちなんだ。私たちのコンサートの観客は5歳から70歳まで幅広い年代が来てくれる。そうやって、次の世代のためにメタルの炎を維持できることを嬉しく思っているんだ」
25年の銀婚式で幕を開ける FREEDOM CALL の “Silver Romance” は、まさにその幾久しき絆を祝う祝祭のパワー・メタル・アルバム。このバンドの素晴らしさは、勇壮なメタルの中に Chris Bay の趣味全開な80年代ポップス的かわいらしいメロディ、ビバリーヒルズ・コップを想起させるレトロなキーボードの祝祭感が織り込まれているところでしょう。
そんな彼らのお茶目で新たなサマー・パーティ・アンセムとなる “Metal Generation” は、メタルの絆を、灯火をつなげていくという決意表明でもあります。何世代にもわたってつながれ、更新され、愛され続けてきたヘヴィ・メタルの炎。5歳から70歳までが拳を突き上げ、 “メタルはみんなのもの” とシャウトする FREEDOM CALL のライブこそがメタルの寛容さ、自由、多様性の象徴でしょう。
「”フリーダム・コール” の意味は、以前にも増して時事的、今にあったものになっている。なぜなら、今この世界には数え切れないほどの戦争や残酷な行為があって、苦しむ人々、何百万人もの難民がいるからね。自由を求める声はかつてないほど大きくなっているよ」
そう、彼らのポジティブで優しい “ハッピー・メタル” こそ、暗い現代が求めるもの。彼らは大真面目に、寛容で敬意にあふれた世界、メタルによる世界平和の実現を夢見ています。バンド名を “自由への叫び” と名づけた25年前よりもかくじつに、世界には自由を求める人たちが増えています。FREEDOM CALL はそんな世界で今日も、法律より強く、鋼鉄とプライドでできた愛と平和のパワー・メタルを心の底から歌うのです。”メタル革命” が成就するその日まで。
今回弊誌では、Chris Bay にインタビューを行うことができました。「”メタルはみんなのもの” という言葉は調和のとれた世界を表現しているんだ。”一人はみんなのために、みんなは一人のために” というのがテーマだからね。ステージでこの言葉をつかうのは、もし世界中の人々がメタル・ファンになれば……地球は平和になると信じているからだ! メタルで地球に平和をもたらそう!」 二度目の登場。 どうぞ!!

FREEDOM CALL “SILVER ROMANCE” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【INDUCTION : MEDUSA】JAPAN TOUR 24′


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TIM HANSEN OF INDUCTION !!

“Power Metal, Or Heavy Metal Just Seems Like The Most Versatile Metal Genre To Me. I Love The Focus On Great Melodies And The Freedom To Go Slow And Heavy, Or Fast And Hard. Power Metal To Me Is a Feeling, Not a Genre. And I Try To Embody That With Induction.”

DISC REVIEW “MEDUSA”

「パワー・メタル、あるいはクラシックなヘヴィ・メタルは、僕にとって最も汎用性の高いメタル・ジャンルに思えるんだ。素晴らしいメロディーを重視し、スローでヘヴィーな曲も、速くてハードな曲も自由自在なところが好きなんだよ。僕にとってのパワー・メタルは、ジャンルではなくフィーリングなんだ。そして、僕は INDUCTION でそれを体現しようとしているんだよ」
かつて、ヘヴィ・メタル、そのステレオタイプの象徴だったパワー・メタルを、”柔軟で汎用性の高い自由なジャンル” と言い切るジェネレーションが遂にあらわれました。それだけでももう隔世の感がありますが、その言葉があのミスター・パワー・メタル Kai Hansen の息子 Tim Hansen から発せられたのですから、時代と価値観の変化はたしかなものに違いありません。
「音楽的には父の世代より間違いなく一歩進んでいるし、いわゆるジャーマン・メタルのバンドたちとはサウンドは違う。でも、もしかしたら僕たちは “ジャーマン・メタルのニューウェーブ” と言えるかもしれないね。僕はそのサウンドが好きだ」
実際、Tim は自身のバンド INDUCTION で “ジャーマン・メタルのニューウェーブ”、そのアンバサダーに就任しました。INDUCTION がその称号に相応しいのには確固たる理由があります。Tim が “ディズニー・メタル” と称賛する TWILIGHT FORCE の完璧にオーケストレートされたシンフォニー、BEAST IN BLACK のダンス・パーティー、POLYPHIA や PERIPHERY まで想起させるモダンなギター・テクニック、硬軟取り揃えた曲調の妙。そんな現代的なアップデートを、80、90年代のクラシックなジャーマン・メタルに落とし込む。
「たしかに父がいなかったら、音楽とギターにのめり込むことはなかったと思う。でも、ギターを手にしたいと思わせる要素はもっとたくさんあったんだ。特定のギター・ヒーローがいたわけではないんだけど、お気に入りのギタリストは、Guthrie Govan, Teemu Mäntysaari, Kasperi Heikkinen。僕は人生の困難な時期に、自分自身に新しい使命が必要だと思った。そして、そのときから僕は完全に音楽にコミットし始め、自分の道を歩むようになった。でも、何かヒントが必要なときに、父のように側に助けてくれる人がいるのはいつもありがたかったよ!」
パワー・メタルを自由の土地とみなし、明日を見据えて狂気と才気を発電する。楽しい音楽を作ること。もちろん、その偉業の達成は Hansen 家の血が後押ししていますが、それだけではないでしょう。そもそも、メタル世界は政治や会社のように世襲制ではありません。継ぐべき地盤も資産もないのですから。それでも、Tim Hansen は父と同じパワー・メタルという夢の国で反乱を起こすと決めたのです。それは、パワー・メタルが好きだから。パワー・メタルへの情熱があふれるから。パワー・メタルが使命だから。ジャーマン・メタル。その過去へのトリビュートと未来への才狂を実現できるのは、Tim Hansen しかいないのですから。
今回弊誌では、Tim Hansen にインタビューを行うことができました。「とにかく楽しい音楽を書きたい。ライヴに来て、日常や普段の生活をすべて忘れて、ただ一晩放心状態になれる。そんな音楽をね。そういう意味で、僕はリスナーに逃避を提供しようとしているんだ。でもそれだけじゃなく、音楽をもっと深く掘り下げると、寓話やファンタジーだけでなく、曲の中にたくさんの実体と意味があることに気づくはずだよ」 親子での来日も決定!あの Ralf Scheepers も GAMMA RAY に帯同します。どうぞ!!

INDUCTION “MEDUSA” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ELECTRIC CALLBOY : TEKKNO】 FOX_FEST 24 SPECIAL !!


COVER STORY : ELECTRIC CALLBOY “TEKKNO”

“You Listen To With Your Ears But Feel In Your Heart. You’d Never Predefine The Type Of Person You’d Fall In Love With, So Why The Songs?”

TEKKNO

「僕たちが考えた他の新しい名前はどれも間違っていると感じた。ESKIMO CALLBOY は10年以上僕らの名前だったから、新しい名前にするのは違和感があったんだ。でも、僕らにはバンドとしての責任があることは分かっていた。他人のことを気にしないバンドにはなりたくない。人々を分断したり分離させたりするのではなく、ひとつにまとめなければならないんだ」
長く親しんだ名前を変えること。それは容易い決断ではありません。大人気のバンドならなおさら。それでもドイツのヤング・ガンズは改名に踏み切りました。 彼らは “Eskimo” という単語を “Electric” に変更しましたが、これはエスキモーという言葉が北極圏のイヌイットやユピックの人々に対する蔑称と見なされるため。その後、彼らは過去のアルバムのアートワークを新名称で再リリースしたのです。
「僕は初めて父親になったが、すでに存在するバンドに新しい名前をつけるのは難しいよ。だから、僕たちは “EC” というイニシャルを残したかった。”エレクトリック” ならかなり流動的だったし、イニシャルも残っていた。そうでなければ、リブランディングは大きな問題になると思ったんだ。みんな受け入れてくれるだろうか?多くの不安があった。でも、たぶん受け入れられるのに1ヵ月もかからなかったし、みんなそんなことは忘れてしまったよ。この新しい名前はとてもクールだよ」

改名のタイミングも完璧でした。最新作 “Tekkno” のリリース前、ロックダウン中。彼らのインターネットでの存在感を通してファンとなった人たちは、”Hypa Hypa” で津波のような畝りとなります。何よりも、ネオン輝くエレクトロニック・ミュージックとメタルの鋭さは、人々が最も暗く、そしておそらく最も慢性的に憂鬱をオンラインで感じているときに必要なものだったのです。
この曲の大成功は、すでに5枚のアルバムをリリースし、新時代の到来を告げるドイツのグループにとって強力な基盤となりました。
ラインナップの変更も発生。クリーン・ボーカリストの Nico Sallach が加入し、それに伴いグループ内に新たなケミストリーが生まれました。Sallach ともう一人のボーカリスト兼キーボーディスト Kevin Ratajczak の間には紛れもない絆が生まれ、それは ELECTRIC CALLBOY のライブ体験の特別な基盤となっています。そんな絶好調の彼らを “ドイツ最大の輸出品” と推す声も。
「今は2年前のような、みんながすごく期待していたような感じではないんだ。パンデミックの間に高まっていたバブル(誇大広告)だよ」

バブルは弾けるものですが、この人気の津波は決して彼らが儚い泡のようなアーティストではなかったことを証明しています。極彩色をちりばめた “Tekkno” のリリースは、バンドにとってスターダムへの最後の後押しとなりました。
重厚なブレイクダウンと自信に満ちたメタルコアのリフ、大胆にポップへと傾倒した予測不能なボーカル・メロディ。”Tekkno” は、ELECTRIC CALLBOY にドイツで初のアルバム・チャート1位をもたらしただけでなく、ヨーロッパやイギリスの他の地域のアルバム・チャートでもトップ20の栄誉を与えました。
さらに、このアルバムはソングライター、プロデューサーとしての彼らの洗練された芸術性をも実証しました。曲作りからプロダクション、ビデオへの実践的なアプローチに至るまで、そこに彼らの一貫した意見と指示がないものはありません。
「僕たちはお互いを高め合っている」 と Ratajczak は言います。「多くのバンドは、プロデューサーとバンドの1人か2人で曲を作っている。でも僕らは、みんなで曲について話し合うんだ。みんな、自分たちのアイディアを持っている」

つまり、ELECTRIC CALLBOY は、バンドだけでなく、音楽的にも生まれ変わったと言っていいのでしょう。
「Nico を新しいシンガーに迎え、以前のシンガーが辞めたこと。これは新たなスタートであり、かつてのバンドの死でもあった。新しいスタートを切り、2010年に戻ったのだから、何が起こるかわからなかった。 でも、少なくとも “Tekkno” で何をしたいかはわかっていた。”再生” という言葉がぴったりだと思う。これが自分たちだと胸を張って言える。これが僕らの音楽なんだ」
“Tekkno” に込めたのは、純粋さと楽しさ。シリアスなテーマのメタルコア・バンドが多い中、より楽観的なサウンド・スケープにフォーカスして作られたこのアルバムで彼らは、たまには解放されてもいいと呼びかけました。
「人生でやりきれないことがあったら、そのままにして人生を楽しもう。自分のために何かをしよう。
バンドを始めたとき、僕らは20代半ばだった。パーティーと楽しい時間がすべてだった。他のことはあまり気にしていなかった。責任感もなかった。ただその瞬間を生き、楽しい時間を過ごした。それは音楽にも表れていた。
しかし、成功とともに責任も重くなった。僕はいつもスパイダーマンとベンおじさんの言葉を思い出す。”大いなる力には大いなる責任が伴う”。だから多くのバンドが、政治的なテーマであれ、その他さまざまな深刻なテーマであれ、シリアスなテーマを取り上げるようになる。
でも僕たちは、たとえ嫌な気分、仕事で嫌なことがあったり、配偶者とケンカしたりしたときでも、その状況から気持ちを切り離して、そのままにしておいて、楽しい時間を過ごしたり、映画を観たり、例えばエレクトリック・コアを聴いたり、ただ放心状態になったりすると、日常生活の問題に再び立ち向かえるほど強くなれることに気づいたんだ。哲学的に聞こえるかもしれないけど (笑)。でも、これは普通の行動だと思う。自分のために何かをする、自分を守るためにね」

“パーティー・コア” “エレクトリック・コア” というジャンルに今や真新しい輝きがないことは多くの人が認めるところですが、彼らは改名を機に、このジャンルに再度新たな命を吹き込みました。
「5人全員が同意して、またこのジャンルをやってみたいと思った時期があって、再び書き始めたんだ。
“Rehab” は悪いアルバムだった (笑)。好きな曲もあったけど、あれはひとつの時代の終わりだった。あのアルバムを仕上げるのは、ほとんど重荷だった。昔のシンガーと妥協点を見出すのは不可能に近かったから。もうスタジオには行きたくなかった。その結果、僕たちは以前のボーカリストと決別することになった。正直なところ、これは僕たち全員にとって最高の出来事だった。というのも、僕たちは皆、バンドを愛し、10年以上もこのために懸命に働いてきた。だからそれがすべて崩れ去ることを恐れていたんだ。
恐怖だけではなかった。どうやって続けるのか?ファンは新しいボーカリストを受け入れてくれるだろうか?僕たちは新しいボーカリストを受け入れるのか?言っておくけど、前のボーカルのせいにはしたくない。彼は彼自身のことをやっている。彼も同じ話をするだろう。その後、5人全員がスタジオに来て、”2010年のように音楽を作ろう” と言ったんだ」
THY ART IS MURDER, SCOOTER, THE PRODIGY が彼らの中で同居することは、それほど奇妙ではありません。
「僕たちは、ジャンルの境界線が難しいと信じたことは一度もない。もちろん思春期には、自分が何者で、何を聴くかによって自分がどう違うかを定義しようとするものだ。でもね、音楽に説明はいらない。耳で聴き、心で感じる。どんな人と恋に落ちるかは決められないのに、なぜ好きになる歌はジャンルで決めるの?」

ゆえに、ELECTRIC CALLBOY にとって “メインストリームになる”、あるいは “メインストリームに引き寄せられる” といった揶揄は、いささかも意味をなしません。それは彼らのインスピレーションの源は、ほとんど無限であるだけでなく、ブラックメタルやデスコアのようなジャンルに閉じこもるバンドが、現実的には世界人口の1%にも届かないことを痛感しているからでしょう。
「僕の経験では、ヘヴィ・バンドが “メインストリームになる” というのは、バンドが自分たちの音楽を変えるということなんだ。彼らはよりソフトになり、より親しみやすくなり、より多くのリスナーを積極的に求めている。僕らはそんなことはしていない。確かに、ELECTRIC CALLBOY がメタル・ミュージックを “非メタル・ファン” の人たちにも親しみやすいものにしていると言われれば、それはとても美しいことだと思う。それでも、世界人口の60%以上にリーチできるかもしれないポップ・アーティストに比べれば、誰もが僕らを知る機会があるわけじゃない。僕たちは、すべての人々にリーチしたいし、その可能性があると信じている。だけどね、そのために変わることはない。大事なのは、僕たちのショーに参加した人たちが、友達みんなに伝えてくれて、次にその人たちも来てくれるようになることなんだよ」


参考文献: KERRANG! :Electric Callboy: “We’re living our best lives right now. This is the time to celebrate that”

OUTBURN:ELECTRIC CALLBOY: Rebirth

LOUDERSOUND:”We have to bring people together not divide them”: Electric Callboy don’t mind being tagged a ‘novelty’ band so long as they can make metalheads smile

FOX_FEST JAPAN 特設サイト

COVER STORY 【NECROPHAGIST : ONSET OF PUTREFACTION / EPITAPH 25TH, 20TH ANNIVERSARY】


COVER STORY : “ONSET OF PUTREFACTION” / “EPITAPH” 25TH, 20TH ANNIVERSARY

“I Don’t Think Every Death Metal Maniac Should Buy My Album, But Anyone Who Is Tired Of All These Average Shit, Where One Band Sounds Like The Other.”

NECROPHAGIST

「”ネクロ “を名前に持つバンドは多すぎる。でも、1988年当時、”ネクロ” を含む名前を選んだバンドはほとんどなかった。今となっては、そんなことをするバンドはクソつまらないし、バカげてる。
僕らの名前が “Necrophagist” だからといって、世間からつまらないと思われるのは良くない。”Necropha-gist” は、音楽にのみ優先順位を設定し、それを改善し、独自の新しいスタイルのデスメタルを開発するためのバンド。だから僕のせいにしないで、ネクロを使っているデスメタル・バンドの “新時代” のせいにしたいね。君たち、想像力は一体どこにあるんだ?」
今からちょうど四半世紀前。Muhammed Suiçmez は、ギターとマイクとコンピューターを持ってスタジオに閉じこもり、史上最もユニークで影響力のあるメタル作品のひとつを録音しました。今にして思えば、 “Onset of Putrefaction” が1999年という前世紀に発表されたことが信じられません。音楽的なスタイルもプロダクションも、明らかに未来。案の定、この作品は、来るべき現代のテクデス・ワールドほとんどすべての規範となったのです。

「リハーサル・ルームで録音したんだけど、プロフェッショナルなサウンドに仕上がったよ。レコーディングに使った機材もプロ仕様。ミックスも最終的に、その道のプロと一緒にやったんだ。だから、リハーサル室で作ったとは思えない仕上がりになっている。そう、とても大変だったんだ。時間も神経も使ったけど、それだけの価値はあったよ」
2000年代に入る前、SUFFOCATION のようなデスメタル・バンドは、ハイゲインの氾濫とカオティックなエネルギー、そしてブルータルな重量が本質的ににじみ出る音楽を生み出していました。ただし、彼らのデスメタルはテクニカルな複雑さとは裏腹に、オーガニックな人間味が多く残されていたのです。NECROPHAGIST は、テクデスを次のステップに進め、より臨床的で冷たく、マシナリーで極めて正確なスタイルを打ち立てました。
「多くの人はデスメタルにおけるドラム・マシーンを好まないが、ドラム・ラインをプログラムするのに3週間、毎日12時間かかった。その結果、このCDはほとんど自然なサウンドになったんだよ」

それまでもテクデスは、もちろんある種の几帳面さを好む傾向がありましたが、”Onset of Putrefaction” は、強迫的な細菌恐怖症と例えられるほどに、無菌状態の完璧主義が貫かれています。プログラムされたドラムは、ロボットのような正確さと非人間的な冷たさを加え、偽物のように聞こえる以上にデスメタルのエッジとAIの無慈悲を獲得するのに役立っています。一方で、テクデスの命ともいえるリフは、当時の常識以上に可動性が高く、慌ただしく、細部まで作り込まれていました。さらにそれらはすべて、ディミニッシュ・アルペジオ、ホールトーン・スケール、クロマティック・ムードといった異端を最大限に活用して、流動的かつリズミカルな魅惑的な”音楽” に加工する魔法に覆われています。
そんな高度に機械化された無菌室は、デスメタル本来の穢れを祓い、過度に衛生化されるという懸念を、次から次へと収録される楽曲の超越したクオリティで薙ぎ払っていきます。一方で、ステレオタイプな低いうなり声のボーカルは、単に楽曲の意味を伝えるものとなり、リズム楽器の一つとして有効に機能しています。
「歌詞のほとんどは昔の CARCASS のようにゴアなテーマを扱っているけど、もっとセンスのあるものもある。これらはより新しいものだ。新しい歌詞はもっと哲学的なものになると思う」

NECROPHAGIST(ギリシャ語で「死者を喰らう者」の意)は、トルコ系ドイツ人のギタリスト/ボーカリスト Muhammed Suiçmez が結成し、フロントを務め、彼がすべてを決定するワンマン・バンドでした。
彼らのデビュー・アルバム “Onset of Putrefaction” は、Hannes Grossmann が制作したドラム・サンプルを使った新版が作られています。
「僕はドイツで生まれたので、1975年からここに住んでいる。ドイツの社会は奇妙で退屈だ。大学を卒業したら、この国を離れると思う。母国にはあまり行ったことがないし、トルコとの関係が希薄なんだ。
偏見を感じることはある。人々は異なる文化を恐れ、偏見を持ち、奇妙な振る舞いをする。とはいえ、僕はここで何人かのドイツ人と友好関係を築いた。彼らとの間には常に距離があるけれどね。私の親友は非ドイツ人であることを明言しなければならないよ。ドイツ人は、僕を自分自身や友人とは異なるものとして理解しているのだ」

そうしたある種の “孤高” と “孤独” の中でも、Muhammed は2010年の解散までに Christian Münzner, Hannes Grossmann, Marco Minnemann, Sami Raatikainen といったドイツの才能を次々と発掘し、彼らが OBSCURA のような次世代の旗手となっていったのはご承知の通り。そうした人を活かすアルバムとして発表された2004年の “Epitaph” は、その完璧な仕上がりとは裏腹に、文字通りバンドの墓標となってしまっています。アルバムでは、Muhammed自身も、7弦と27フレットを備えた新しいカスタムショップのIbanez Xiphosギターで攻めていました。唯一無二であることにこだわるが故の、消滅。
「昔から他のバンドをコピーするバンドはいたし、オリジナルなバンドもいた。その点では何も変わっていないが、レーベルが生き残るために利益を上げる必要がある限り、彼らは手に入るものは何でもリリースするだろう。少なくとも一部のレーベルはそうだ。特にアンダーグラウンドの小さなレーベルは、今でも利益を最も必要としている。それがビジネスであり、ある程度は理解できるが、これでは音楽の発展はない。
NECROPHAGIST は主に自分自身のためにやっているが、もちろん、人々が我々の音楽に影響を受けていると聞くのは光栄なことだ。
音楽的には、確かに僕らのルーツはデスメタルの最初の時代にある。それを除けば、僕たちはどんな音楽にもオープンだし、みんなかなり多様な音楽を聴いている。自分のことしか言えないけど、マルムスティーンのソロ・スタイルはかなり影響を受けていると思う。あとは、パワーメタルは影響を受けているが、それはある程度までだ。SONATA ARCTICA 以外によく聴くパワー・メタル・バンドは思いつかない。とにかくさまざまな角度から影響を受けてもいるよ。重要なのは、自分たちの音楽がどう聞こえるかだ」

“Onset of Putrefaction” から25年。”Epitaph” から20年。年月を経た2枚のアルバムは、今やテクデスの聖典として、様々な後続に崇め奉られています。
「まあ、すべてのデスメタル・マニアが僕のアルバムを買うべきだとは思わないけど、他のバンドと同じように聴こえるような、平均的なクソにうんざりしている人なら誰でも買うべきだよ。申し訳ないけど、バンドはギターやドラムスティックを持てるようになったら、すぐにCDをレコーディングするべきではないと思うんだ。だから、NECROPHAGIST が10年前から存在し、音楽が年々向上していることを知っておいてほしい。新しい、あるいは違ったスタイルの音楽を聴いてもらいたいんだ。”Onset” が他のバンドに似ていると言っている人は、みんなよく聴いていない。だから、この音楽は間違いなくデスメタル・マニアのために作られたものだけど、ブラストビートやダウンチューニングのギターだけがここにあるわけじゃないんだ」

デスメタル・アルバムにおいて、ラジオ・ソングのように、すべての曲が他の曲とまったく違うと自信を持って断言できることがどれほどあるでしょう?NECROPHAGIST は魔法の公式を見つけたと思い込んで、それを繰り返し、同じようなサウンドの濫用になるようなバンドではありませんでした。すべての異なるトラックを全く異なる雰囲気で収録し、そのどれもが地獄のようにキャッチーであるという最も野心的な目標を達成してきました。つまり、彼らが残した2枚の聖典はジャンルを超越し、デスメタルの専門家でない人にとっても潜在的な興味対象であるという特殊性を持つ、史上数少ない真に偉大なアルバムとなったのです。
「ハードドライブのどこかに新しいアルバムは録音してある。でも今はもうバンドをやる気はないんだよな」
これが2019年、Muhammedからの最後の便り。今はエンジニアの資格をとって BMW でエンジニアとして働いているとも噂されていますが、このアニバーサリーの年に何か動きはあるでしょうか…


参考文献: MASTERFUL MAGAZINE : NECROPHAGIST

NIHILISTIC HOLOCAUST: NECROPHAGIST

ZWAREMETALEN Interview

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ATROCITY : OKKULT Ⅲ】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER KRULL OF ATROCITY !!

“Atrocity And Myself Were There When It All Started!”

DISC REVIEW “OKKULT Ⅲ”

「80年代に、私の家でも何度かパーティーを開いたんたけど、メタルヘッズとゴスキッズたちはお互いに少し離れたところにいようとしたんだ。別の部屋にいることさえあって、私が走って行き来しなきゃならなかったこともあったくらいでね (笑)。だからこそ、90年代半ばに ATROCITY でメタル、ニュー・ウェーブ、ゴシックのクロスオーバーを行い、彼らを引き合わせるというアイデアが当時生まれたのかもしれないよね」
INSTIGATOR の名でドイツにおけるハードコアの煽動者となった最初期から、ATROCITY と Alexander Krull はその音楽性をカメレオンのように変化させつづけています。テクニカル・デスメタルの一大叙事詩 “Todessehnsucht” を作り上げた時代、ゴシックやインダストリアルを咀嚼し PARADISE LOST や SENTENCED の先を歩んだ時代、 妹の Yasmin と共闘してアトモスフェリックなメタルにおける女性の存在をクローズ・アップした時代、80年代のニュー・ウェーブやポスト・パンクのカバーでポップを追求した時代。ATROCITY は常に時代の先を行き、実験と挑戦の残虐をその身に刻み込んできたバンドです。
「ATROCITY のアーティスト、ミュージシャンとして、私たちは音楽的な自由を持ち、異なるアプローチでアルバムをレコーディングすることが好きなんだ。ファンとしては、常に自分の好きなものを選ぶことができるし、リスナーは気分によって、ブルータルなデスメタルが似合うか、ダークなメロディーを持つアトモスフェリックな音楽が似合うかを決められるんだから、それでいいんじゃないか?」
ATROCITY を語る時、頻繁に登場するのが “Todessehnsucht” が好きすぎてそれ以降のアルバムを認められない問題でしょう。たしかにあの作品は、イカれたテクニカル・デスメタルでありながらどこか気品があり、耽美と荘厳を兼ね備え、暗闇にフックを携えた欧州デスメタル史に残る不朽の名品です。
インタビューで Alex が言及しているように、ドイツ語のタイトルもミステリアスかつ斬新で、ここでも RAMMSTEIN の先を歩んだ早すぎた挑戦でした。音楽の世界では、往々にして真の先駆者が成功を得られないことがありますが、ATROCITY はまさにそうした存在で、ゆえにメタルの地図がある程度定まってきた今こそ、私たちは彼らの旅路を再度歩み直す必要があるのではないでしょうか。当時は突拍子もないで片付けられたアイデアも、今となればすべてが “先駆” であったことに気づくはずです。つまり、ATROCITY は結局、”道” を外れたことなど一度もなかったのです。
「2004年に行った “Atlantis” のコンセプトに関する大規模な作業では、オカルトに関するさまざまな情報や接点が驚くほど豊富にあったんだ。科学的、考古学的な研究、秘教的な理論に対する神話的な視点、第三帝国のオカルティストの不明瞭な解釈、UFO学のような突飛な世界まで、さまざまなものが存在した。そして、次に私たちが思いつくコンセプトは、世界の謎や人間のダークサイドについてかもしれないと、ほとんど明白になったんだよな。そして、1枚のアルバムでは不十分で、ここに “Okkult” 3部作が誕生したわけだ。ダークで壮大で残忍な音楽で、まさにATROCITY のこの10年間を表現しているよ」
祖父がヴァンパイア伝説の震源地、トランシルヴァニア出身であることからオカルトに興味を惹かれた Alex は、そうして世界各地の怪しい場所や伝承、ダークで壮大で残忍なデスメタルを使ってホラー映画のようにダークサイドを描くライフワークに没頭するようになります。”オカルト・シリーズ” と題された深淵もこれが3作目。
この一連の流れでバンドは、遂にデスメタルの最前線に復帰しながらも、やはり実験の精神は微塵も失うことはありませんでした。Elina Siirala (LEAVES’ EYES) と Zoë Marie Federoff (CRADLE OF FILTH) をゲスト・ボーカルに迎えた “Malicious Sukkubus” では暗黒のストンプにシンフォニックな光が差し、”Teufelsmarsch” では90年代のゴス/インダストリアルを逆輸入しつつその邪悪に磨きをかけます。重要なのは、常にオカルティックなエニグマと、地獄の腐臭が共存していること。ATROCITY の闇への最敬礼はやはり、本物の毒と気品を兼ね備えています。
今回弊誌では、レジェンド Alexander Krull にインタビューを行うことができました。「私たちはヨーロッパで最初に結成されたエクストリーム・メタル・バンドの1つとしてスタートし、メタル音楽の新しい地平を開拓するパイオニアとなり、多くの変わったプロジェクトに携わり、メタルで初めて他の音楽スタイルを組み合わせていったんだ」 どうぞ!!

ATROCITY “OKKULT Ⅲ” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OBSIDIOUS : ICONIC】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH LINUS KLAUSENITZER OF OBSIDIOUS !!

“The Wars And Violence In The World Can Only Make You Feel Depressed. I Try To Still Have a Normal Life By Focusing On The Beautiful Things In Life Without Ignoring What Is Happening In The World.”

DISC REVIEW “ICONIC”

「OBSCURA の Steffen と違って、Javi はギターと歌を同時に演奏する必要がない。だから、もう複雑さにも限界はないんだよ。アルバムのプロダクションはとてもモダンで、音楽の中の情報がよりクリアに伝わってくる。それに、僕たちはパワー・メタルの要素を取り入れているのも特徴だ。テクデスとパワー・メタルのミックスはあまり見かけないものだし、プレイしていて楽しかったね」
Linus Klausenitzer, Rafael Trujillo, Sebastian Lanser, Javi Perera。OBSCURA, ALKAROID, ETERNITY’S END, JUGGERNAUT といったプログレッシブ/テック・メタルの綺羅星から集結した4人。これまでも、複雑かつテクニカルなメタルの迷宮で存分に好き者たちを魅了してきた英傑たちは、それでも飽き足らずに複雑の限界を越えようとしています。ただし、黒曜石でできた新たな惑星 OBSIDIOUS はこれまでの星々とは全く別の美しさを誇ります。”Iconic” と名付けられた集合体の象徴は、ウルトラ・テクニカルでありながら敷居の高い堅苦しさとは無縁。このアルバムは、炎のようなインテンスを保ちながら、耳を捉えて離さないメロディーの洪水に満たされています。さながら、溶岩と濁流がクラッシュして黒曜石が生まれる奇跡の瞬間のように、OBSIDIOUS はパワー・メタルとデスメタルをテクニカルな化学反応で一つにしていくのです。
「僕たちはあの頃のバンドの雰囲気に不満で、もう将来の進展、未来の展望が見えなかったんだ。残念ながら、Steffen は僕たちの脱退にとても腹を立てている。もう連絡は取っていないよ。でも、OBSCURA に対して悪い感情は持っていないし、彼らの成功を願っているんだ」
4人中3人がかつてテック・メタルの巨星 OBSCURA の住人で、なおかつ “OBS” で始まるバンドを結成。これで OBSCURA を意識しないリスナーはいないでしょう。しかし、本人たちはどこ吹く風。巨星の絶対的独裁者 Steffen Kummerer から解き放たれ自由を手にした3人は、新たな挑戦にその身を躍らせます。パワー・メタルの咀嚼ももちろん、その一つ。加えて、Rafael Trujillo と Linus のタッグが永続的に復活したことで、多弦ギターとフレットレス・ベースによる異次元のフレットレス・マッドネスが繰り広げられることにも繋がりました。”フレットレス楽器は人間の歌声に近い” と Linus が語る通り、そうして OBSIDIOUS の音楽はより有機的な人間味を帯びることとなったのです。
「結局、世界の戦争や暴力は、自分を憂鬱にさせるだけ。僕は、世界で起こっていることを無視することなく、人生の美しいものに焦点を当てることで、まだ普通の生活を送れるよう努力しているんだよ」
人間味を帯びたのは、何も音楽だけにとどまりません。宇宙をテーマとしていた巨星を脱出した3人とボーカルの Javi Perera は、ロックダウンによるインスピレーションの “無” や、戦争の暴力を目の当たりにして地面に降り立とうと決意します。日常からあまりにもかけ離れた壮大な宇宙の話から、より人間らしいテーマを扱おうと。性的に加虐嗜好が行きすぎた人の話から、認知症とその周りの苦悩まで、誰にでも起こり得るテーマに焦点を当てながら、OBSIDIOUS は人の営みに黒曜石の輝きを探していきます。その探索に、Javi の看護師としての “体験” が生きていることは言うまでもないでしょう。
それにしても、モダンなテクデスからブラッケンドな息吹、スピード違反のアルペジオ、GOJIRA 風のチャグチャグ、ドラマチックなリード・メロディにジェットコースターのソロワークまで、互いの通れない音の隙間をぬいながら、ジャンルの障壁をいとも簡単にぶち破る弦楽隊の多様な才能には恐れ入ります。特に Linus にとって、その音楽的な寛容さは、OBSCURA はもちろん、様々なセッション・ワーク、パワー・メタルの ETERNITY’S END, そしてより伝統的なプログを摂取した ALKAROID で養われたものに違いありません。
そして、見事なオーケストレーションに、硬軟、単複、自由自在なカメレオンのボーカル。知的でエンターテイメント性の高いヘヴィ・メタルと言うことは簡単ですが、その両極端を勇気を持って結びつけるバンドは決して多くはないのですから。例えば、メタル版オペラ座の怪人とか、ブロードウェイのテクニカル・デスメタル。そんな表現を使いたくなるほど、OBSIDIOUS の挑戦は際立っているのです。
今回弊誌では、Linus Klausenitzer にインタビューを行うことができました。「Warrel Dane のファースト・ソロアルバム “Praises to the War Machine” を再び見つけたんだ。このアルバムには素晴らしい曲がたくさんあって、彼のボーカルはとても個性的に聞こえるね」 4度目の登場。どうぞ!!

OBSIDIOUS “ICONIC” : 10/10

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