NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【QUASARBORN : A PILL HARD TO SWALLOW】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH QUASARBORN !!

“I’d Like To Get As Far Away As Possible From Any Bands, And Develop a Style Of Music Which Will Make You Go: “Yup, That’s Quasarborn!” Like, When You Hear The Intro To “Reign in Blood”, or “South of Heaven”, You Just Know It’s Slayer.”

DISC REVIEW “A PILL HARD TO SWALLOW”

「自分も含めて、セルビアの人々は東洋と西洋の価値観やライフスタイルの間で、本当に引き裂かれていると思う。この地域全体が20世紀の戦争に引き裂かれたままで、政治はばかげていて、本当にひどいリアリティ番組を思い起こさせるね。」
SPACE EATER の灰から生まれたブラックホール、QUASARBORN は東欧のメロディーと西欧のテクニックを交差させるスラッシュメタルの新宇宙。同様に、コロラドで叙情と技巧をスラッシュの衝動に落とし込み喝采を得た、HAVOK の最新作 “V” に対する欧州からの強烈な回答です。
「できるだけどのスラッシュバンドからも離れた音楽のスタイルを展開していきたいと思っているよ。”そうだ、これが QUASARBORN だ!” と思わせるような音楽をね。例えば “Reign in Blood” や “South of Heaven” のイントロを聴いた時に、曲を知らなくても SLAYER だと分かるようにね」
METALLICA の王道、SLAYER の邪悪、MEGADETH の知性、ANTHRAX の奔放、EXODUS の暴力、TESTAMENT の美麗。
かつてのスラッシュメタルは、ジャンルの特性を超越してありあまるほど、戦士に宿る個性が魅力となり群雄割拠のメタル地図を形成していました。QUASARBORN の最新作 “A Pill Hard to Swallow” には、そんな定型を突破し自由を謳歌するあの時代の野心が投影されているのです。
メタルのエッジが鋭く研ぎ澄まされる開幕の “Mamula” では、熱狂的スピードとスラッシュのキックドラムでアドレナリンを沸騰させながら、東欧の影を深く織り込んだメランコリーでバンドのヘヴィーなペルソナを強調します。
PAIN OF SALVATION を思わせる捻くれた静寂で対比の美学を成立させ、アンセム感を際立たせたタイトルトラックでも、PANTERA 化した SKID ROW と形容したくなるメタリックパンキッシュな “Bastion” でも、ベイエリアの空気を胸いっぱいに吸い込んだ “Identity Crisis” でも、リスナーを導く灯火とはるのはシンガロングを誘う強力な哀愁ライン。
「僕の最大の夢は、世界最高のバンド VOIVOD のオープニングを務めることなんだ。」
一方で、VOIVOD を敬愛するバンドのプログレッシブな側面を象徴するのが、9分を超える陰鬱 “Stalemate With Suicide” でしょう。METALLICA の “One” のようにリアルに、THE BEATLES のようにサイケデリックに幕を開けるエピックは、トランペットの慕情や不協和のカオスを見事に制御しながら無慈悲にも、生への執着を徐々に奪っていくのです。
そうしてアルバムは、スラッシュメタルの特性の中で最大限の複雑性とドラマ性を実現させた “The Humbling” でその幕を閉じるのです。
今回弊誌では、QUASARBORN にインタビューを行うことができました。「僕は幼い頃、よく父と David Maxim Micic と釣りに行っていたよ。それから大人になって、彼のバンド DESTINY POTATO を発見したんだ。とても気に入ったよ。」 どうぞ!!

QUASARBORN “A PILL HARD TO SWALLOW” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【HEDVIG MOLLESTAD : EKHIDNA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HEDVIG MOLLESTAD !!

ALL PICS BY Julia Marie Naglestad & Thor EgilLeirtrø

“If My Work Can Be Considered a Bridge In Music, Nothing Is Better! I’d Love To Be a Bridge Between The Good Qualities In Jazz And The Good Qualities Of Metal. Complexity, Simplicity, Embodied. Like Most Humans.”

DISC REVIEW “EKHIDNA”

「私の作品が音楽の架け橋になるとしたら、それに勝るものはないと思うわ!ジャズの良さとメタルの良さの架け橋になりたいわね。複雑さ、シンプルさ、それが具現化されたもの。ほとんどの人間のようにね。」
上半身はジャズ。下半身はメタル。翼を纏うギリシャ神話の怪物エキドナは、現代の音楽世界に Hedvig Mollestad の姿を借りて降臨しました。そうして彼女の10年にも及ぶアヴァンジャズとヘヴィーロック壮大な実験の軌跡は、サイケデリックなグルーヴを伴いながらプログレッシブの頂点を極めます。
「私はメタルとジャズの真のハイブリッド。ただ TOOL や MASTODON、MEGADETH でさえその音楽の生々しさと強烈な表現は、多くのジャズ歌手の帽子と蝶ネクタイよりもずっと親近感があるからね。」
もちろん、ジャズとロックの融合は何も今に始まったことではありません。例えば源流がジャズならば WEATHER REPORT, RETURN TO FOREVER。ロックならば STEELY DAN でしょうか。ただし、Hedvig の起こす化学反応はよりダイナミックで肉感的。BLACK SABBATH の黒を起源とし脈々と連なるメタルの伝統を受け継いだリフの猛攻、獰猛、邪悪を繊細よりも頭脳的に血肉としているのです。
「私は、自由と同時に、いかに演奏されるべきか “正確に” 知っているものを演奏することの組み合わせが大好きなの。このリフはこの場所でこう変拍子になって、こんなダイナミズムをつけるって正確にね。分かっていればすべてのエナジーを注ぎ込めるでしょ?」
ロックやメタルの愛すべき予定調和と、ジャズの持つ自由奔放。この二つが等しく交わる時、そこにはきっとスピリチュアルな何がが生まれます。Miles Davis の “Bitches Brew” 然り、MAHAVISHNU ORCHESTRA の “Birds of Fire” 然り。超越し、ジャズでもロックでもなくなった名状しがたきスピリットが “Ekhidna” にもたしかに存在するのです。
同時に、温故知新の精神も Hedvig の音の葉をより超越的に彩ります。Miles の時代には存在しなかった MARS VOLTA の宇宙、TOOL の数学、MASTODON の浪漫、SLEEP の重厚を内包したモダンな建築手法は、以前のフュージョンとは一線を画する唯一無二。
実際、6曲で構成されるレコードで、幕開けから17分の空を切り裂く雷撃 (変幻自在なモダンメタルの躍動とサンタナの寛容がテレキネスで惹かれあう “Antilone” は珠玉) のあと訪れる3分の平穏、”Slightly Lighter”。興味深いことに、このオスロの丘の穏やかな呼吸は、70年代のプログやフュージョンに宿った伝説とも、スカンジナヴィアが産み落とす広大なフォークジャズとも、OPETH が引き寄せた音響空間の再現ともとれるのですから。
その多様な思慮深さは幕引きの “One Leaf Left” へと引き継がれます。METALLICA の “One” のようにスロウバーンで映画のようなサウンドスケープは、徐々に歪んだギターでサイケデリックな爆発を誘って行くのです。
スカンジナヴィアは2000年代から続くジャズロック黄金時代の真っ只中にあります。ELEPHANT 9や 絶対神 MOTORPSYCHO を生んだのもこのシーン。完璧な世界ならば、 “Ekhidna” はHedvig Mollestad を彼らのすぐ隣に押し上げ、それ以上にシーンの女王へと祀り上げてしかるべきでしょう。それだけのクオリティー、それだけの驚き、それだけの躍動感がこのレコードには宿っているのですから。
今回弊誌では、ノルウェーの至宝 Hedvig Mollestad にインタビューを行うことができました。「音楽は絶えず動いている。それが音楽の本質よ。探求し、進化し、挑戦し続けている。今後数十年の間に、ライターは音楽のジャンルを正しく記述するための新たな方法を見つけなければならないと思うわ。潜在的に、まだ非常に多くの創造的で正確な、未使用の言葉があると思うから!」 トランペットまで含むシクステッドでの新たな冒険。現代のマクラフリン、それともジェフ・ベックか。どうぞ!!

HEDVIG MOLLESTAD “EKHIDNA” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【LITURGY : ORIGIN OF THE ALIMONIES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HUNTER HUNT-HENDRIX OF LITURGY !!

“I Hope That The Metal Scene Learns To Have Less Of The ‘Boys Club’ Aspect And Hold Space For More Alterity. Personally I See That As The Leading Edge Of Originality For Metal”

DISC REVIEW “ORIGIN OF THE ALIMONIES”

「私は、人類の歴史が展開し始める要因となった神の中にはメタフィジカル (人間の理解や物理を超えた) な不均衡があり、その不均衡を回復するためには、解放的な政治や実験的な芸術が重要な役割を果たすと考えているのよ。」
昨年、”H.A.Q.Q.” でブラックメタルの地図に新大陸を記載した LITURGY。日本の雅楽までを飲み込み、実験と理想を両立させた音楽、芸術、哲学が三位一体のレコードは明らかにメタルの境界線を大きく押し広げました。そうして自らを “解放” しさらなる自由を得た首謀者 Hunter Hunt-Hendrix にとって、次なる超越的ブラックメタルのテーマはクラシックとグリッチを織り交ぜたメタルオペラでした。
「メタルシーンには、”ボーイズクラブ” 的な側面を減らして、もっと変幻自在になってほしいと思っているの。個人的には、それがメタルにとってのオリジナリティの最先端だと思っているから。」
LITURGY は、シンガー、ソングライター、作曲家、哲学者、そして先駆者 Hunter Hunt-Hendrixのプロジェクト。”H.A.Q.Q.” の成功の後、Hunter は様々な葛藤を乗り越え自らがトランスジェンダーであることを公表します。
体は男性、心は女性。彼女の作品の哲学的な性質を考えれば、この勇気ある公表がボーカルとアレンジメントの両方を通して、より深く、より生々しい感情的サウンドを喚起することは明らかでした。
「LITURGY の音楽には、いつもたくさんの愛、寛容さ、誠実さがある。だからといって、それがそのまま “女性的” ってことなのかしら? そう定義するのは、あまりにも堅苦しいような気がするわね。でも、私が個人的にそういった感情にアクセスして表現するときは、それは私にとって女性的なものだと感じているんだけどね。」
性別の移行と同時に、インストゥルメンタルだった万物の起源へと誘うオペラはその神話を語る声を得ました。それはすべて、この物語の主人公が SIHEYMN という女性だったから。言葉だけでも、音楽だけでも伝えられない彼女のメタフィジカルな理想は、そうして女性性を色濃くしながら “Origin of the Alimonies” へと昇華されることとなったのです。描かれるはトラウマティックな愛によって引き裂かれた2つの神の原理 OIOION と SIHEYMN の尊き神話。
「私が Messiaen について愛していることの一つは、彼が前衛的な作曲家であると同時に、私と同じようにキリスト教徒であるということなの。この二つの側面は、私が自分の作品の中で定義し、継続しようとしている “The Ark Work” の繋がりにとって重要なものだから。」
グリッチなシンセで幕を開けた “H.A.Q.Q.” とは対照的に、”Origin of the Alimonies” はフルートの孤高が導きの灯火。フランスの現代音楽作曲家でオルガニスト Olivier Messiaen に薫陶を受けたアルバムは、ヴァイオリン、トランペット、ハープを不穏に誘い、バーストビートのラウドな宇宙と結合することで、2020年代のチェンバーメタルオペラを提示することに成功したのです。
もちろん、”Lonely OIOION” を聴けば、圧倒的なバンドパフォーマンスの不変に今も身を委ねることが可能です。それでも、グリッチやオーケストレーションとのセンセーショナルな婚約に始まり、千変万化なトラップやフリージャズのビート、”The Fall of SIHEYMN” に降臨するマイクロトーナルの絶景、Messiaen 由来の現代音楽のリズムと不協和を設計図とする “Apparition of the Eternal Church” の叙事詩まで、37分すべてが明らかにブラックメタルを超えた芸術作品の域までこのオペラを高めています。
Hunter はかつて、このアルバムで自身のリスナーは大きく減るだろうと予言しました。しかし、作品を締めくくる “The Armistice” の美しき混沌に身を委ねれば、彼女の予言がいかに的外れであったか伝わるはずです。
複雑なリズムのクラスター、ポリフォニー、そして不協和音。常識を覆す斬新なアイデアと、原始的な人間の起源を描いたことによる初演の混乱。そうこれは21世紀のストラヴィンスキー、春の祭典なのかもしれませんね。もちろん、バレーのダンサーは半狂乱でしかし軽やかにモッシュピットで踊ります。ゆえに現在制作中という、アルバムを投影した映像作品も楽しみですね。
今回弊誌では、Hunter Hunt-Hendrix にインタビューを行うことができました。「もちろん、男らしさが悪いわけではないし、私はこれからも男らしさが常にメタルを支配していくと確信しているの。それは私にとって別に構わないのよ。」2度目の登場。どうぞ!!

LITURGY “ORIGIN OF THE ALIMONIES” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【MELTED BODIES : ENJOY YOURSELF】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MELTED BODIES !!

“I Have Used Raw Meat In a Lot Of Pieces For a Number Of Years. It Seems To Evoke Both a Beautiful Yet Uncomfortable Reaction Which I Am Attracted To. I Think Its a Wonderful Medium To Work With.”

DISC REVIEW “ENJOY YOURSELF”

「俺は何年もの間、多くの作品に生肉を使用してきた。美しいけれど不快な反応も、両方を呼び起こすようだ。だからこそ魅了されているんだが。この作品はその2つが共に喚起される、素晴らしい触媒だと思う」
かつては固体だった肉の塊が、次にドロドロの液体になり、それから再びほとんど固体になったものが合体して、床の上で蠢き、目が皮膚の表面に浮かんで動き回る、そんなジョン・カーペンター 「遊星からの物体X」 のように気が遠くなるようなイメージを喚起させる「溶けた死体」のインパクト。
そのバンド名を体現するように、彼らは自らを「多様なアートを徐々にブレンドしたり、一つの塊にまとめたりすること。」と定義しました。
「David Lynch を挙げてくれて嬉しいね。意図的ではないにせよ、リンチの視覚的なテーマをいくつか活用していると思いたいね。無意識のうちに忍び込んでいるように思えるね。」
ただ、ミュージシャンと記すだけでは、MELTED BODIES のすべてを表すことは不可能です。生肉の造形でアートワークを描きグロテスクの中に美しさを挿入しながら、当たり前のように資本主義の文化に染み付いた大量消費の意味を問い、”Ad People” の MV では、インターネットの力を蒸留し、毎日提供されるSNSの自我と自己嫌悪をスクリーンでリスナーに反射させてみせるのですから。猟奇集団の目的は “魅せること” と “混乱させること”。
「思うに俺たちがいかに一般的で表面的なプラスチックになりつつあるかということだよね。特にソーシャルメディアを介して、同僚や知人、さらには家族に自分自身を提示するときはね。」
あるべき姿を失ったドロドロの死体にとって、世界に根付く陳腐で愚かなな常識を疑うことなど造作もありません。女性が警官たちを次々と家に招き入れ食べてしまう “Eat Cops” で、マイノリティの人々に対する国家による絶え間ない暴力をジョークに隠喩し、”Funny Commercials (And the Five Week Migraine) ではポップなパーティーキャノンで医療保険の欺瞞を叫び、さらに “The Abbot Kinney Pedophiles” では笑い話の中で 「金持ちや甘やかされた奴らの喉を切り裂け!」と目まぐるしい歌唱でアジテート。
すべての営利目的で表面的で偽善的な地獄絵図を、皮肉りながら笑い飛ばすのが彼らのやり方。そうしてキャッチーな罠でリスナーの心に疑念を抱かせるのです。
「1つ言えるのは、消費主義、後期資本主義といった表面的なものをテーマにした作品の多くは、カリフォルニアを中心とした、少なくともアメリカを中心としたものであることは間違いないと思う。」
その噛みつくようなしかし明るさを内包した音楽の塊には、世界で最も多様でエリートとサブカルチャーが蔓延るカリフォルニアという出自が少なからず影響しています。音楽的に、同郷の SYSTEM OF A DOWN や FAITH NO MORE の Mike Patton と比較されることの多い彼らですが、皮肉の中にパーティーを織り込む “Enjoy Yourself” の精神は特別LAの風景を投影しているようにも思えます。
“The Rat” が象徴するように、シンセサイザーのカラフルを武器にカリフォルニアの先達を咀嚼したオルタナティブとノイズの化け物は、そうして偽の幸福や不条理をパーティーで一つ一つ破壊していくのです。時に、シンセウェーブにポストパンク、LAメタルまで想起させるレトロフューチャーな世界観が映像を脳内まで誘う不思議。
結局、”Enjoy Yourself” とは、様々な困難を乗り越えながら、それでも自分自身を楽しむこと。ユニークな個性を曝け出し、本音を臆さず語ること。そうして彼らはその哲学を、視覚的、聴覚的な真の芸術家としてリスナーに訴えかけるのです。その姿はもはやミュージシャンというよりも、メディアでありインフルエンサーなのかもしれませんね。
今回弊誌では、MELTED BODIES にインタビューを行うことができました。「俺たちの曲の中にあるシニカルなテーマを少しでも楽しく感じさせるために、カオスなパーティーのエネルギーを好む傾向があるんだろうな。パーティーも大好きだし、いろんなところから影響を受けているから、楽しい音楽を作ろうとしているんだと思う。」 どうぞ!!

MELTED BODIES “ENJOY YOURSELF” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RETICENT : THE OUBLIETTE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS HATHCOCK OF THE RETICENT !!

“I Wanted To Make An Album That Confronted The Horror Of The Alzheimer Illness But Also The Cruel Way We Often Treat Those That Suffer With It.”

DISC REVIEW “THE OUBLIETTE”

「アルツハイマーが生み出す地獄。僕は家族と一緒にその光景を目の当たりにしたんだ。アルツハイマーは高齢者が大半を占めているから、病気を主張できないことが多く、社会的には見捨てられ、忘れ去られてしまうことだってよくあるんだ。僕はこの病気の恐ろしさと同時に、この病気で苦しむ人たちへの残酷な接し方にも向き合うアルバムを作りたいと思ったんだよ。」
65歳以上の6%が何らかの影響を受けるアルツハイマー病。ゆっくりと、しかし確実に重症度が増していく慢性的な神経変性疾患です。ゆるやかに自分自身を失っていく恐ろしい病。
プログメタルプロジェクト THE RETICENT の首謀者 Chris Hathcock は実際にその恐怖を目の当たりにし、その視点と経験を音の書へと綴ることを決意したのです。
「絶望と鬱を永続的に克服する道を知っていればいいのにと心から思うよ。僕たちの多くにとって、それはある意味生涯をかけた戦いになるからね。」
THE RETICENT は音楽に仄暗い感情を織り込む天才です。2016年の “On The Eve of a Goodbye” では、幼馴染だったイヴが自ら死を選ぶまでの悲愴を、すべてを曝け出しながら綴りました。徐々に近づいていく決断の刻。湧き出るような感情と共に迎えるクライマックス “Funeral for a Firefly” の圧倒的な光景は、聴くものの心激しくを揺さぶったのです。
「こんな悲しいテーマのアルバムを書いたのは、アルツハイマー病や認知症についての音楽がほとんどないからだよ。一般的に、多くの人は特に後期の段階でアルツハイマー病がいかに衰弱を強いる残酷な病気であるか、完全に認識していないよね。患者は記憶を失うだけでなく、さらに話すことも、移動することも、食べることも、飲み込むことさえ出来なくなるんだよ。」
そして THE RETICENT は再度真っ暗な感情の海へと旅立ちました。”The Oubliette” はアルツハイマーの7つの進行状況を7つの楽曲へと反映したコンセプトアルバムです。オープニングで、病院で自分の病状にさえ気付かず至福の時を過ごす主人公ヘンリーを紹介されたリスナーは、彼の静かな戦い、容赦のない悪夢を追体験していきます。
「僕はいつも、伝えたいことの感情に合ったサウンドを見つけようとしているんだ。それは伝統的なバンド(ギター、ベース、ドラム)のセットアップであることもあれば、ジャズのコンボやダルシマー、あるいはブラックメタルのようなワイルドな異なるジャンルへの挑戦の時もあるね。」
実際、ほぼすべての楽器を1人でこなす Chris のコンポジションとリリックは完璧に噛み合っています。OPETH のアグレッション、PORCUPINE TREE のアトモスフィア、RIVERSIDE のメランコリーに NEUROSIS の哲学と実験を認めた多様な音劇場は、エセリアルなメロディーやオーセンティックなジャズの響きに希望を、激烈なグロウルとメタルの方法論に喪失を見定めて進行していきます。亡き妻の生存を信じながら、時に彼女の死を思い出す動揺は、天秤のようなコントラストの上で悲しくも描かれているのです。挿入されるスポークンワードやトライバルなパーカッションも、ストーリーの追体験に絶妙な効果をもたらしていますね。
クライマックスにしてタイトルトラック、Oubliette とはヨーロッパ中世に聳え立つ城郭の秘密の地下牢。高い天井に一つの窓。ヘンリーはその唯一の出口、すなわち死を絶望的な懇願と共に迎えるのです。ただし今際の際に垣間見るは遂に訪れた平穏。
「それは複雑で “勝ち目のない” 状況と言えるだろうな。だからこそ、このアルバムが病気の現実に対する認識を高め、病気を経験している人やこれから経験するかもしれない人たちに小さな慰めを提供できたらと願っているんだよ。」
THE RETICENT はアルツハイマー病の認知度を高めるために、そして病と戦う患者や家族のために、またしても悲哀を呼び起こす感情的な傑作を創造しました。Chris Hathcock は音楽でただ寄り添い、世界へ訴えかけるのです。
今回弊誌では、その Chris にインタビューを行うことができました。「この病気で苦しんでいる人たちの世話をする人たちは、真のヒーローだよ。実に困難な仕事だからね。時にはほとんど不可能なくらいに。心が痛むし、イライラするし、意気消沈するし、とにかく絶え間ない葛藤が続くんだ。このアルバムで僕は、そんなヒーローたちにそれでも誰かが理解してくれるとメッセージを直接伝えたかったんだ。」 Jamie King のプロデュースはやはりプログメタルに映えますね。どうぞ!!

THE RETICENT “THE OUBLIETTE” : 10/10

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THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2020: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE


THE 40 MOST IMPRESSIVE ALBUMS OF 2020: MARUNOUCHI MUZIK MAGAZINE

1. OCEANS OF SLUMBER “OCEANS OF SLUMBER”

コロナ禍、BLM、気候変動による異常気象。苦難の幕開けとなった20年代の始まりに、世界の分断と欺瞞は一際顕となりました。そんな暗闇の中でも、あのヴィルスを凌ぐメタルの多様で純粋な生命力は一筋の光となって世界に降り注いでいます。すでにメタルは西欧と白人だけのものではありません。東欧にも、南米にも、アジアにも、アフリカにも、どんな文化、宗教、人種、性別にも、欺瞞に贖うメタルの哲学は様々な変異種を生みだしつつ平等に感染しています (そんな中、メタルの祖国英国の復権が進行している事実もまた興味深いのですが) 。その象徴とも言えるバンドの一つが、OCEANS OF SLUMBER だと言えるでしょう。
音楽的にも、プログ、ジャズ、R&B、ドゥームにゴシック、デス、ブラックといくつもの垣根を取り払ったセルフタイトル “Oceans Of Slumber” において、女性であること、黒人であること、ヘヴィーメタルには直結しない2つの特徴を持つ Cammie Gilbert は文化や人種の壁も取り払いたいと切に願っています。
「ドラマーで私のパートナーでもある Dobber がこのレコードで君のことを語ろうと言ってくれたの。南部に住む黒人女性としての私の気持ちをもっと大きなスケールで OCEANS の音楽に反映させようってね。それってメタルコミュニティにはまだあまり浸透していない視点なの。
私はアメリカの黒人女性で、奴隷の曾孫娘。それは写真の中だけの記憶。幼い頃、私は奴隷の生活を想像しようとしたわ。だけど今起こっている現実は、私の子供じみた想像力の裏にある謎を解き明かしてくれたの。黒人の上院議員、市長、有名人、勇敢な人々がネット上でこの国の欠点に対する不満を共有しているとき、私はもう怒りの涙を抑えられないの。全国放送のテレビで、これまで以上に多くの黒人が泣いているのを見てきたわ。自分の歴史が壊れたような気がするし、この国が壊れたような気がする。ジョージ・フロイドは転機となった。新世代が「もういい加減にしろ」と言うきっかけになった。彼の人生を奪った紛れもない冷酷さを無視することはできなかったの。彼の死がビデオに撮られたことは、感情的にはぐちゃぐちゃになっていて居心地が悪いけれど、それでも幸運だと思っているわ。それはついに世界に、何十年もの間、ネイティブアフリカンのアメリカ人が注意を喚起しようとしてきたことを、自らの目で見る機会を与えてくれたから。物事はまだ壊れている。とても、とても、壊れている。アメリカの歴史を考えてみると、白人でない者に良いことはほとんどないの。それが真実よ。
抗議活動の勢いを持続させ、前進させるためにはどうすればいいのだろうか。これは、すべての人が反省するための時間。自分の信念が自分の人生をより良いものにしてきたのだろうか?私の信念は、私の周りの人々の生活をより良いものにしただろうか?正直に答えて、よく考えて欲しい。私たちの未来は、それにかかっているから。」

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2. CONFESS “EAT WHAT YOU KILL”

「ポジティブな話をしようじゃないか。もちろん、過去も重要だけど新たなアルバム、新たなツアー、未来について話したいんだ。」
イランで不敬罪に問われノルウェーへと亡命したメタルソルジャー。CONFESS の魂 Nikan Khosravi と弊誌のコンタクトはそうして始まりました。Nikan と同様の状況に立たされた時、それでもあなたは過去よりも未来を見つめ、希望を捨てずにいられるでしょうか?
「被告を懲役12年、鞭打ち74回の刑に処す。」2017年、テヘランの裁判官は、冒涜的な音楽を作ったとして政権に起訴されたイランの有名メタルデュオ、CONFESS 2人のメンバーに判決を言い渡しました。特にシンガーでリードギタリスト Nikan “Siyanor” Khosravi(27歳)は、”最高指導者と大統領を侮辱した”、”反体制的な歌詞と侮辱的な内容を含む音楽を制作し世論を混乱させた”、”野党メディアのインタビューに参加した” として非常に重い量刑を受けることとなったのです。
「実は最初は強制的に出国させられたんだ!そしてもう一つの理由は、目を覚まさせる率直な暴言というか意見を吐いたアーティストという理由だけで、10年以上も刑務所にいるのはフェアではないと感じたからだよ。どんなやり方でも、僕は刑務所の外にいた方が多くの人の役に立つことができると感じていたしね。」
イランが国民の表現の自由を厳しく制限していることは明らかです。ジャーナリストは今でも逮捕され続けていますし、公共の場で踊ったり顔を隠さなかっただけの女性も酷い罰を受けているのですから。つまり、抑圧的なイランの現政権にとって、芸術を通して自己や思想を表現する CONFESS のようなアーティストは格好の標的だったのです。
「僕は逮捕されたことを誇りに思っていたんだよ! なぜならそれは、僕の音楽と歌詞が非常に強力で真実味があることを意味していたからね。政権全体を脅かすことができたんだから。でも同時に、それは未知の世界に足を踏み入れることでもあったんだ。」
そんなある種のスケープゴートとされた Nikan ですが、自らのアートが真実で政権に脅威を与えたことをむしろ誇りに思っていました。人生は常にポジティブであれ。そんな Nikan の哲学とメタルの生命力は、偶然にも彼を迫害されるアーティストの移住を支援する ICORN によってメタルの聖地ノルウェーへと導くことになったのです。第三世界があげる復讐の叫びを伴いながら。

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3. IMPERIAL TRIUMPHANT “ALPHAVILLE”

「あのマスクは20世紀前半のニューヨークで育まれたアールデコ運動と密接に関係しているんだ。そのムーブメントは数千年前にさかのぼり、過去と深遠で神秘的な多くのつながりを持っている。そしてそれは、かつて僕たちの一部であったものがここにあると悠久に想いを馳せる、時を超えた夢の形でもあるんだよ。つまり歴史的意義のある魅力的な美学なんだ。」
政治的な対立、忌まわしい暴力、世界恐慌と終末のムードが世界を覆った1920年代。アールヌーボーの華美な装飾は機能的なアールデコへと移り変わり、混沌に触発された前衛的なジャズや実験音楽の先駆けは遂に芽吹きました。
100年の後、現代ニューヨークの多様な喧騒をノイジーなジャズや20世紀の前衛クラシックで再構築したエクストリームメタルで体現する仮面の三銃士 IMPERIAL TRIUMPHANT は、奇しくも1世紀前と等しい創造的な大胆不敵を宿す空想都市 “Alphaville” を世に放ちます。
「”Alphaville” は現在のような状況になる前から構想・制作されていたんだ。だけど社会的な枠組みの中における文明文化や個人の葛藤といった大きなテーマや題材は、今も昔も、そして人類が存在する限り未来においても存在しているのではないだろうか?そうは思わないかい?僕たちはいつも NYC のサウンドを演奏しているんだ。文化的にも僕たちの音楽世界には現在のアメリカの状況が反映されていると思う。」
コロナ禍や気候変動、反知性主義と分断が渦巻く2020年に、IMPERIAL TRIUMPHANT が複雑怪奇なブラック/デスメタルの迷宮で1920年代の復活と再構築を告げたのは決して偶然ではないはずです。
「まあ確実に僕たちは、メタル、ロック、ヘヴィーミュージックの複数のカテゴリーに当てはまる多様な音楽的影響を持っているよね。いつかは他のカテゴリーに入るかもしれないね。それが何になるかは分からないけどね!」
つまり、Steve が “グローバルなインテグレーション (分け隔てのない) の時代には、多様な視点がより実りある言説やコミュニケーションを生み出す” と語ったように、IMPERIAL TRIUMPHANT が破壊するのは過去の慣習だけではなく、ジャンルの壁や偏見、凝り固まった思想そのものだったのです。

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4. ORANSSI PAZUZU “MESTRIAN KYNSI”

「僕たちにとって、プログレッシブとは1つのジャンルに誠実でいることではなく、ジャンルを旅して新たな音の次元へと進んでいくことなんだ。そして僕はプログの巨人たちが、当時同じようなアイデアを持っていたと確信しているんだよ。」
古の巨人とその探究心を共有するフィンランドの哲音家、サイケデリックブラックマスター ORANSSI PAZUZU。ジャンルを巡るバンドの旅路は最新作 “Mestarin Kynsi” (マスターの爪) において一際ブラックメタルの暗黒宇宙を飛び出し、プログレッシブ、クラウトロック、アシッドハウス、ジャズ、アヴァンギャルド、ミニマル、ノイズの星々を探訪する壮大なる狂気の音楽譚へと進化を遂げています。
「ORANSSI PAZUZU という名前は、僕たちの音楽に存在する二元的な性質を表すため選んだんだ。サイケデリックなサウンドと70年代スタイルのジャムベースなクラウトロックの探検を、ブラックメタルに取り入れたかったからね。」
艶やかなオレンジと魔神パズズ。二極化されたバンド名が象徴するように、ORANSSI PAZUZU は時にメタルという重力からも解放されて、不可思議なリズム感とポップな感性を備えつつ、神秘と悲惨の破片に溶け出す独特の審美世界を呼び起こします。
「個人的に最初のビッグアイドルの1人は、ファイナルファンタジーサーガの音楽を創生した植松伸夫氏だったんだ。今でも彼のハーモニーやエモーションの素晴らしきアプローチに影響を受けていることに気づかされるね。”FF VII” は僕のエピカルで壮大な感覚が生まれた場所なんだ。」

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5. LOATHE “I LET IT IN AND IT TOOK EVERYTHING”

「このアルバムにはサウンドトラックに対する僕たちの愛情が反映されている訳だよ。オープニングの “Theme” はまさにこのレコード全体のフィーリングを象徴しているのさ。美しいけれど、どこか破滅的でハードブレーキングな雰囲気だよね。」
音楽を触媒とした野心はアーティストそれぞれ。有名になりたい者、レコードを数多く売りたい者、自らの限界に挑みたい者。リバプールの銀幕王 LOATHE は、刻々と移り変わる景色や瞬間、そして感情を切り取りレコードへと投影する、サウンドトラックの美学を自らの雄図に抱きます。
「日本のゲームからの影響は明らかに僕たちの音楽へ強く現れているよ。”The Cold Sun” は特に象徴的だけど。僕たちはそういったサウンドトラックが、しばしば LOATHE の音楽に通じるようなヘヴィーな感情を伝えているように感じるんだ。だからこそ、究極にエモーショナルな人間として惹きつけられるわけだよ。」
2017年にバンドがデビューフル “The Cold Sun” を放った時、多くのリスナーはその冷厳な陽光の影に日本のアニメーション “Akira” の存在を感じたはずです。アートワークはもちろん、Tech-metal とエレクトロの雄弁なアマルガムを裏路地へと引き摺り出すハードコアのリアルは、さながら遠近法の撮影トリックのように鮮やかにバンドの個性を投映したのです。共鳴するはレトロフューチャーな世界観。ただし、それはあくまでも “LOATHE RPG” の序章に過ぎませんでした。
「僕は、音楽的な多様性とはただ音楽的な自由を言い換えた言葉だと思うんだ。つまり、それがどのようなスタイルであれ、どんなバンドやアーティストかに関係なく、真の感情が宿る音楽である限りそれは価値ある “多様” と表現できるわけさ。」
最新作 “I Let It In And It Took Everything” は間違いなく、モダン=多様性のモダンメタルフィールドにおけるラストダンジョンの一つでしょう。ただし、メタリックハードコアからブラックメタル、ポストメタル、プログ、シューゲイズ、オルタナティブ、エモ、Nu-metal とカラフルに張り巡らされた罠の数々はあくまで単なる仕掛けに過ぎず、多様性のラスボスとは “真の感情” だと Feisal El-Khazragi は語ってくれました。

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6. DUMA “DUMA”

2019年にウガンダのカンパラにある NyegeNyege Studio で録音されたインダストリアルノイズ渦巻く反抗のレコード “Duma” は、00年代初頭にケニアでハードコアパンクやメタルを聴いて育った2人が送る強烈なステイトメント。
「俺の好きな音楽だから、俺が育った場所で周りのみんなに聴かせてやりたいんだよ。」
彼らにとってメタルは救いであり、自己実現のためのツールでもありました。
「ラジオからメタルが流れてきて、人生が変わった。俺はいつも人生の中で自分の道を見つけようとしていたし、何かを発見しようとしていた。そしてこの音楽が俺に表現力を与えてくれていることに気付いたんだ。音楽がなければ自分の人生をどうすればいいのかわからない。目的がないんだ。メタルが生きがいを与えてくれた。一日の終わりには自分を表現しなければならない。そうしないと自分を抑え込んでしまう。精神的にも健康的じゃない。俺は苦手なことばかりだけど、少なくともこれは得意なんだ。」
ダンスビートを取り入れたダークでヘヴィーな実験 “Lionsblood” はまさにアフリカのバンドにしか書けない楽曲でしょう。Martin が説明します。
「これは俺の民族的背景であるマサイ族のルーツからきている。男になるためには、茂みに入ってライオンを殺し、ライオンの血で体を洗わなければならないんだ。それは、つまり自分を見つけたということだ。ライオンの血を飲むんだから、生き残れば自分の中にライオンが残る。この慣わしを使ったのは、俺たちが日常生活の中でどのように存在しているかを表現したかったから。
問題は、人種や文化の違いじゃなく、見解や認識の違いなんだ。その違いは、俺たちが共に分かち合うべき強さなんだよ。 この違いが組み合わさったとき、俺たちはみんな強くなるんだから。人は教会に行ったり、学校に行ったり、何かを発明したり、ビジネスを経営したりすることができる。もし本当に好きなことが得意なら、それをやってみて、好きなことをするように人々を鼓舞して欲しいね。それが人間として、俺たち全員のためになるんだから。」

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7. COUNTLESS SKIES “GLOW”

「”Glow” では、プログの要素をより多く取り入れて、他の音楽からの影響も取り入れた。僕は今も自分たちのサウンドを保ちたいと願っているんだ。ただし、新たなダイナミックな方法でね。今は自分たちのサウンドを見つけ始めていると思う。」
メロディックデスメタルは多くのファンに愛されるジャンルですが、あまりにそのサウンドが明確なため、90年代初頭の予定調和が繰り返されるだけという側面も否めません。実際、21世紀以降、この場所に新鮮な空気を持ち込んだ異能は数少なく、DARK TRANQUILLITY, INSOMNIUM, OMNIUM GATHERUM といった創始者に近い英傑たちに進化を委ねるしかありませんでした。
「僕たちは BE’LAKOR の大ファンなんだ。彼らは、自分たちの良さの基本を守りながら、常に変化し、新しいサウンドを探求しているバンドだからね。彼らの最新アルバム “Vessels” は、音楽的にも非常に異なるものになっている。」
僅かな例外の一つが BE’LAKOR で、彼らのプログレッシブな旅路が多くの後続を勇気づけたことは間違いありません。北欧のメランコリーからかけ離れた高級住宅街、イングランドのハートフォードシャーに現れた COUNTLESS SKIES もそんなバンド一つです。BE’LAKOR の名作 “Stone’s Reach” のファイナルトラックをバンド名に戴き、彼らの最新作 “Vessels” と自らのデビューフル “New Dawn” のリリースデートを合わせこむ COUNTLESS SKIES の BE’LAKOR 愛は本物。ただし、受け継いだのは音楽性そのものではなく、挑戦者の哲学とスピリットでした。
「有能なバンドを際立たせているのは、メタルをはるかに超えたところから影響を受け取り入れる能力だと思うからね。プログメタルは、他のジャンルのように特定のサウンドに限定されていないから好きなんだ。僕たちはメロディックデスメタルの観点からプログレッシブメタルに取り組んでいるんだ。」

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8. SCARDUST “STRANGERS”

「イスラエルには小さいながらもとてもパワフルで、最高のメタルバンドが集まっているのよ。ORPHANED LAND, WALKWAYS, SUBTERRANEAN MASQUERADE といった有名なバンドは氷山の一角に過ぎないの。」
米国と欧州、そして中東の交差点イスラエル。時に火薬庫にもなり得る複雑なその地で、音を宗教とするアーティストたちは、現実社会よりも容易に文化間の距離を縮めています。
デビューフル “Sands of Time” があの Prog 誌から “Extraordinary” という絶賛を浴びた SCARDUST も、イスラエルが生んだ極上の架け橋の一つ。世界に散らばるインスピレーションの結晶を集めながら、プログメタル無限の可能性を追求していくのです。
「僕はシンフォニックメタルというのは、プログロックの歴史を紐解けばその延長だと考えることが出来ると思っているんだ。」
バンドの専任コンポーザー、アレンジャー Orr Didi は、クラッシックとロックの甘やかな婚姻から始まったプログロックの起源が、現在のシンフォニックメタルへと続いている、そう主張します。実際、SCARDUST の音楽は荘厳なクワイアやストリングスのクラシカルな響きを抱きしめながら、メタルに宿るアグレッション、複雑な不合理、そしてテクニックの洪水をもしっかりとその身に受け止めているのです。
「イスラエルに最高のオーディエンスがいることは確かなんだけど、その人数は決して多くないから母国よりも遠く遠く離れた世界を対象に音楽を演奏し、作らねばならないと理解しなきゃいけないんだよ。それがある意味もどかしい部分ではあるんだけどね。」
アートとエモーションの粋を極めた絶佳のメタルオペラを創造していながら、母国以外での活動に力を入れなければバンドを維持できないもどかしさ。その中で感じた疎外感や孤独は乗り越える野心を伴って最新作 “Strangers” へと投影されました。

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9. THOU & EMMA RUTH RUNDLE “MAY OUR CHAMBERS BE FULL”

「”メタルヘッズ” と名乗る人たちの多くは、公平にみてもおそらく自分たちが言うよりもずっと多くの音楽的なニュアンスを持っていると思うよ。だから厳格なルールにしがみつくのではなく、バランスを取ってほしいと願うばかりだね。俺はしっかりバランスを取っているからこそ、40歳になった今でも、パンクやハードコアキッドなんだと思う。頭の中では、そういった概念がより曖昧で広がりを持っているように思えるからね。」
スラッジ、ドゥーム、メタル、ハードコア、グランジ。ルイジアナの激音集団 THOU はそんな音楽のカプセル化に真っ向から贖う DIY の神話です。
「ここ数年で培った退屈なオーディエンスではなく、もっと反応の良い(しかし少なくとも多少は敬意を払ってくれる)オーディエンスを獲得したいからなんだ。 堅苦しいメタル野郎どもを捨てて、THE PUNKS に戻る必要があるんじゃないかな!」
15年で5枚のフルアルバム、11枚の EP、19枚のスプリット/コラボレーション/カバー集。THOU の美学は、モノクロームの中世を纏った膨大なカタログに象徴されています。THE BODY を筆頭とする様々なアーティストとの共闘、一つのレーベルに拘らないフレキシブルなリリース形態、そしてジャンルを股にかける豊かなレコードの色彩。そのすべては、ボーカリスト Bryan Funck の言葉を借りれば “金儲けではなく、アートを自由に行う” ためでした。
「メンタルの病の個人的な影響を探求することがかなりの部分染み込んでいて、それは無慈悲なアメリカ資本主義の闇とは切っても切り離せないものだと思うんだ。」
THOU が次にもたらす驚きは、ポストロック/ダークフォークの歌姫 Emma Ruth Rundle とのコラボレーション作品でした。90年代のシアトル、オルタナティブの音景色を胸一杯に吸い込んだ偉大な反抗者たちの共闘は、壊れやすくしかしパワフルで、悲しくしかし怖れのない孤立からの脱出。精神の疾患や中毒、ストレスが容赦なく人間を押しつぶす現代で、灰色の世界で屍に続くか、希望の代わりに怒りを燃やし反抗を続けるのか。選択はリスナーの手に委ねられているのかも知れませんね。

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10 CEMICAN “YOOK ‘OL KAAB MAYA”

「ここ数年、ラテンアメリカでメタルは本当に強力なんだ。まあ世界中でそうなんだが。メキシコ人はアグレッシブなサウンドを愛しているから、メタルは我々の文化を拡散するのに最適な方法なんだよ。」
ヘヴィーメタルとフォークミュージック、伝統音楽の絆はあまりに深く強靭です。スカンジナヴィア、欧州、アジア、北米。もちろん、1996年、SEPULTURA がマトグロッソの先住民族シャヴァンチと共存した “Roots” を見れば、古のラテンアメリカとヘヴィーメタルにも時を超えた親和性があることに気づくでしょう。
「CEMICAN とは同じ意味の中で生と死全体を表す言葉であり、それはこれまですべての時の間に学んだすべての知識と知恵を統合しているんだよ。」
2006年、メキシコに示現した生と死の二元性を司るアステカのメタル司祭にとって、Xaman-Ek の加入は大きな出来事でした。アステカの文化や言語ナワトルに精通するステージのシャーマンによって、CEMICAN はプレヒスパニック文化やアステカの神話をメタルのアグレッションや知性へと昇華させる唯一無二へと変貌したのです。
伝統的な管楽器や打楽器を、装飾としてでなく、勇気を持って楽曲の中心に据える戦士の魂こそ CEMICAN の原点。そうして彼らはアステカの伝統に敬意を表しながら、ボディーペイント、羽毛や骨の頭飾り、甲冑を身につけてステージに立つのです。
「ナワトル語は我々の祖先が使用していた言葉だからな。彼らは自然の力とコミュニケーションを取るためにも使用していたんだ。ナワトル語は、今でもいくつかの地域では話されているんだよ。」
ステージ名やアルバムのタイトル、時には楽曲やその歌詞にもアステカやインディオの先住民の言語を使用する CEMICAN。ただし、唸りをあげる歌詞の大半はスペイン語で書かれています。今でもメキシコ公用語の一つで、170万人の話者を持つと推定されるナワトル語ですが、それでも理解が出来るのはごく一部の人たちだけ。CEMICAN はアステカの文化を世界に運ぶため、より柔軟でグローバルな視点も有したバンドなのです。

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