タグ別アーカイブ: black metal

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DEAFHEAVEN : INFINITE GRANITE】


COVER STORY: DEAFHEAVEN “INFINITE GRANITE”

“If Sunbather Was Summery High Noon, Then Infinite Granite Is The Early Morning.”

ROADS TO INFINITE

2020年の大半を、George Clarke は夜明けの淡い光を見つめながら過ごしました。本来ならばステージや大自然の中で過ごすはずのエネルギーを蓄えていた DEAFHEAVEN のフロントマンは、ロックダウンでロサンゼルスのアパートの壁に囲まれたまま、不眠症になってしまったのです。しかし、ただ静けさの中で煮詰まるのではなく、その厳しい美しさに魅了され、午前3時から6時の間に執筆活動を行い、夜の深い闇が昼の露に溶けていくのを繰り返し眺めていたのです。
DEAFHEAVEN 5枚目のLP “Infinite Granite” は、そうした深夜のセッションの結果として、地平線上の光の反射のように生まれました。2018年の “Ordinary Corrupt Human Love” ではまだ残していたメタリックな重さの多くを捨てて、シューゲイザーとアヴァンギャルドなポストロック・サウンドへと大胆にコミット。繊細なメロディとアトモスフィアの9トラックを収録しています。では、George にとって “Infinite Granite” とはどういった存在なのでしょう?
「”Sunbather” が夏の正午だったとしたら、”Infinite Granite” は早朝だよ」と彼は、DEAFHEAVEN が2013年に発表した衝撃的なホットピンクの作品と比較します。単純化には注意を払うべきでしょうが、やはり表向きは “黒ずくめ” を何度も塗り替えることには、皮肉や目的が存在しています。今回のTOUCHE AMORE, Nick Steinhardt による抽象的なアートワーク(レコードの最初の60秒をハイテクなグラフィックで視覚化したもの)は、クールなブルーの色調でデザインされています。しかし、そのTシャツのような美的感覚よりもはるかに重要なのは、そこに対応する経験、思考プロセス、深い考察です。
「不眠症だったから、私の宿題の多くは、午前2時から6時の間に行われた。つまり、青い時間帯に多くの曲を書いていたと思う。それもアートワークに影響を与えているよ。全体的に、この落ち着かない時期の影響を受けているようだね」

例えば、タイトルにもなっている “Infinite Granite” “無限の堅牢” は、保留中の人生の静けさや停滞によって “化石化” した気分を表すメタファーです。George が当時を思い返します。
「固い空間に閉じ込められているような感覚があったね。繰り返しや日常の重みを感じていたんだ。”Infinite Granite” という曲は、抽象的な過去が現在の自分にどう影響を与えるかについて歌っている。自分が、部分的には家族の歴史の産物であることを知る。家族の問題はしばしば自分の問題でもあるんだよ。家族の苦難は、必然的に自分の人生でナビゲートしなければならないことにもつながる。それは過去を振り返ることであり、その過去が自分にどのような影響を与えるかを見ることなんだ」
印象主義的な歌詞の表面をなぞると、そこには幸運や運命、家族についての力強い問いかけがありました。
「この作品は、過去を振り返り、その過去が自分にどのような影響を与えるかを理解することが大部分だと感じているよ」
昨年12月に発売されたライヴ・アルバム “10 Years Gone” で節目を迎えた DEAFHEAVEN 10年目の旅。そこで彼らは空虚な時間の中、創造力としての彼らの過去、現在、未来を見つめ直し、それが “Infinite Granite” の印象的なスタイルの変化へとつながっていきました。”Daedalus” や “Language Games” のような初期のカットから、”Ordinary Corrupt Human Love” に収録された11分の “Glint” のようなより実験的な最近の曲まで、8つの傑出した曲を収録。ブラックメタルをベースに、シューゲイザーやポストロック、アンビエント・ミュージック、さらにはオルタナティブ・ロックまでをも取り込んで、DEAFHEAVEN が常にサウンドを前進させてきた10年の終わりに、このアルバムは驚くほど自然な響きを誇っていました。いいかえれば、DEAFHEAVENの物語を自らの言語で語った作品であり、それは彼らが時間をかけて洗練させ、故意に変化させたものなのです。George が振り返ります。
「最も注目したのは、10年間で私たちがどのように変化したかだった。より速く、よりアグレッシブに、よりスマートなダイナミクス、よりスマートなトーンになっていたよ。そして、これらの曲をレコーディングした後、すべての曲に歯ごたえと緊迫感が増していることに気がついたんだ。私たちがどのように成長したのかを見るのはとても興味深いことだったな。ある意味では、新しい DEAFHEAVEN が古い DEAFHEAVEN をカバーしていたというか。若い曲に今の自分たちの姿を重ね合わせていたんだ。例えば、 “Glint” のライブ・バージョンはレコードに収録されているものよりもかなり強化されているよね」
DEAFHEAVEN はブラックメタル純粋主義者の間では常に物議を醸していましたが、2013年の画期的な作品 “Sunbather” 以降、彼らはアンチの数を補うだけの賛同者が広い世界にいることを証明してきました。次に彼らが進む道は?

5枚目のアルバム “Infinite Granite” は、その問いかけに力強く答えます。今回の最も大きな変化は、リードシンガー George Clarke の声でしょう。過去のアルバムでリバーブの中に滲み出た扇情的で血も凍るようなエイリアンの叫び声はほとんどなくなり、代わりに TEARS FOR FEARS にも似たクリーンでメランコリックなボーカルが登場します。あるリスナーにはアリーナ・ロックが聞こえ、あるリスナーにはインディー・ロックが、あるリスナーにはアート・ロックが聞こえるでしょう。 しかし、このような急激な変化にもかかわらず、”Infinite Granite” は紛れもなく DEAFHEAVEN のアルバムです。つまり、広がりがあり、妥協がなく、極端。ギタリストの Kerry McCoy は彼らの過去と現在を対比させます。
「2011年のデビュー作 “Rods To Judah” を書いていた時の子供の俺を思い出すよ。Deathwish のようなレーベルと契約し、本物のブッキングエージェントを持ち、ドアが開くのを見たんだ。それは宝くじに当たったようなものだった。俺は文字通り、マイニングで得た金で暮らしていると思っていたし、今でもそう思っているくらいでね。だけど、俺はあの子供にとても共感しているんだ。あの子に、『大丈夫だよ、全部うまくいくよ。自分でコントロールできないことは心配するな』と言ってあげたいね」
Kerry は、”Ordinary Corrupt Human Love” を制作したあのころのバンドにも共感を示しています。たしかに3年前から変化は起きていましたが、薬物やアルコールへの依存を克服したこと、自分たちのバンドを囲い込むことに夢中になっていた同業者や有識者への “恨み” を晴らしたことは、より広い創造的解放への第一歩に過ぎませんでした。
「あのレコードは、禁酒する前に半分書いて、禁酒した後に半分書いたんだ。あの時期は、俺の脳内化学反応、感情、個人的な人間関係が非常に混乱していてね。個人的にも集団的にも、自分たちのことを理解し、成長し、いくつかの悪魔を正していくうちに、クリエイティブな人間につきものの恐怖心がなくなってきたんだよな。これが今の俺たちの状況で、言い訳をしたり、誰かに何かを証明したりする必要はないと思っている」
昔はもっと波乱万丈だったと George は言います。「私たちはエゴやネガティブな気持ち、自分が一番になりたいという気持ちに駆られていたからね。今では、そんな恐れを知らないことが私たちの原動力になっているんだよ」

“Infinite Granite” の作曲とレコーディングに向けて、バンドの5人のメンバーとコラボレーション・チームは、グループ・チャットの名前をそのまま “Infinite Granite” に変更しました。
Kerry が言うように “完全にロックなレコード” になるという明確なコンセンサスはありませんでしたが、状況はそのように傾いているように見えました。最終的にアルバム中盤のハイライトとなった “Lament For Wasps” の波打つシューゲイザーはテンプレートとなっているでしょうか。”Villain” で実験した “空気のようなファルセット” は、さらに彼らの方向性を強調します。
「いろいろな歌手の歌を聴いていた。力強く歌える方法を探していたんだ。シューゲイザーのライブで問題になるのは、轟音のギターに対抗して、ソフトな声を出すこと。私が好きバンドでも多くは、ライブでそのダイナミックさが必ずしもうまく伝わっていない。ミックスでそのバランスを取るのはとても難しいんだよね。
そこで最初に考えたのは、ギターに対抗できるような強い声が必要だということ。そこで、クラシックの名曲に立ち返り、ニーナ・シモンやチェット・ベイカーなど、個性的で力強い声の持ち主の声を聴くことにしたんだ。それに、TEARS FOR FEARS, DEPECHE MODE といったより力強いシンガーも。最終的にライブで演奏することになったとき、大音量のライブ音楽の中で繊細なボーカルに磨きをかけなければならないような、大きなハードルにはしたくないと思っていたからね。それがモチベーションになったんだ。
ある意味では、”Ordinary Corrupt Human Love ” の “Near” や “Night People” のように、自分ですでにやっていたことでもある。それでも、私のアイデンティティではないような、体外離脱の感覚はあるんだよね。全く新しい筋肉を使い、全く違う脳の部分を使っているような感覚だった。
あまりにも新しいことだから、途中で不安になることもあったよ。ボーカルだけでなく音楽的な面でも、作曲の過程で、ダブル・キックなどを簡単に入れることができたはずなのにとかね。それでも、いつも私の意見は、昔の習慣にとらわれず、進むべき道を進むだった。そして、それは何よりも私のためになったんだ。悲鳴を上げないで、自分のやりたいことをやるんだ。そして、やっているからには、続けること。続けること、そしてその正直さを発揮することがとても重要だった」
この楽曲は、George が禁酒について直接言及している唯一の曲でもあります。 “New Bermuda” の重苦しいトーンが、彼らがロサンゼルスに移った後、バンドを取り巻く幻滅とドラッグの雲を象徴していたことは明らかでした。”Infinite Granite” の角質除去されたサウンドには、感情の浄化が暗示されていますが、それは “Villain” で明確になりました。”Inform my mother’s people / 30 months is war / Dealing with the blood of 30 years well wear “とクラークは歌っています。 行間を読むのは簡単です。George は、30歳になって2年半の禁酒期間を経て、この曲を書いたことを認めています。”Infinite Granite” は、あからさまな断酒の記録ではありませんが、人間関係へのアプローチ、野心の概念、30歳を過ぎてからの個人的な進化についてのバンドの大きなテーマ、その中に断酒も確実に含まれていました。
「私の家系では、アルコール依存症と薬物依存症が何世代にもわたって大きな問題となっていた。ここ数年はそのことをよく調べていたんだよね」

事態が進むにつれ、George は自分のヴォーカルを “音楽的な弱点” と称して、より計算されたものにしたい、より行き当たりばったりではないものにしたいという願望を表明しました。
「私はアグレッシブなボーカルが好きだよ。何年もあのやり方を、楽しみながら進化させてきた。だけど、挑戦したいという気持ちが強かったんだ。これまでの DEAFHEAVEN のような伝統的なボーカル・アプローチでは、今回の曲を向上させることはできないだろうと思った。この方向性を考えると、全体を覆うような激しいボーカルでは限界があるのではないかと言ったんだ。より冒険的なボーカルと音楽をマッチさせる方が野心的だと感じたんだよね」
2018年末にプロデューサー Justin Meldal-Johnsenとの “セレンディピティ” な出会いがあったことで、この方向性はさらに加速しました。Kerry は Justin のカリフォルニア州グレンデールのスタジオで、匿名の他のアーティストにギター・パートを提供するように頼まれていました。そして George は、その年の12月にロサンゼルス・パラディアムで行われた NINE INCH NAILS のライブで Justin とばったり出会いました。DEAFHEAVEN はこれまで Jack Shirley(”Infinite Granite” のエンジニア)としか仕事をしたことがありませんでしたが、Justin のバンドに対する新鮮な熱意を受け、彼らの視野を広げる機会を見逃すことはできなかったのです。Kerry が説明します。
「Jackは、非常に自由な人なんだ。俺たちは彼の意見を聞きたければ聞くけど、俺たちの邪魔をするようなことはしない。彼は、その日のそのバンドの、その曲のタイムカプセルを作ることに重きを置いているからね。Justin は、俺をプロデュースすることに専念していたよ。俺はこれまで、そんなにインプットを受けたことがなかったからね。それがとても役に立ったんだ。とてもクールで満足のいく経験だったな」
実際、DEAFHEAVEN の煌びやかでエモーショナルなテイストは、その領域を誰よりも知っている男によって完全に引き出されています。Justin Meldal-Johnsen は、現在 St.Vincent のベーシスト兼音楽監督を務めており、Beck のツアーバンドにも数十年にわたって参加していました。さらに彼は M83の巨大なエレクトロポップ作品 “Hurry Up, We’re Dreaming” のようなサウンドを求める際に雇われる人物で、そのリストにはエモポップの代表格である TEGAN AND SARA, PARAMORE, JIMMY EAT WORLD までもが含まれているのです。
Justin は当初、DEAFHEAVEN が2019年の7分半の激しいシングル “Black Brick” の延長にあると考えていましたが、実際目の当たりにしたより広い方向性に目を見張りました。
「彼は最初、”Black Brick” みたいにやろう!という感じだったけど結局その後、全く別の感じに仕上がってしまったよね (笑) 。だから彼は必ずしもこの方向性に対して準備ができていなかったにもかかわらず、自分ができる最善の方法でこの音楽を促進してくれたんだ。このレコードを聴いた人たちが、新しいプロデューサーとして入ってきた彼を見て、『ああ、彼が DEAFHEAVEN をこの方向に押しやったんだな』と思うのは間違いないけどね。でも、変な言い方をすれば、それはほとんど逆だったんだよ」

実際、Justin の助けは必要でした。COVID がバンドとプロデューサーのカレンダーを空白にし、数ヶ月に及ぶアルバム制作に入ると、”従来型” の曲作りの難しさが痛感されたのです。Kerry が回顧します。
「俺たちは、これまでのキャリアにおいて、動きのある曲を書いてきたんだ。バース、プレコーラス、コーラスを試すというアイデアは、後ろ向きに見えて奇妙にも俺たちにとってはとても進歩的なものだった。また、ダブルキック、ブラストビート、そして大きなクレッシェンドというような手法に戻ることなく、普段やっていることの重厚さと強さを維持しながら、自分たちらしいサウンドにするという課題もあった。これまでのやり方の代わりに、DINOSAUR Jr. や SONIC YOUTH が楽曲にどうアプローチするかを考えてみたんだよね。今は鍛えるべき筋肉が違うんだ。同じトリックに戻ることなく、普段やっていることの強度を維持するという挑戦だよ」
George にもこだわりがありました。
「今回の作品は、以前の作品に比べて、よりディテールにこだわった、よりテクニカルなものになっているんだよ。いろんな意味で非常に赤裸々なんだ。これまでは、より強力な要素が混ざり合って、ある種の洗礼となっていた。だけどここでは、すべてが表現されているんだ。以前のサウンドに頼らずに、曲の流れやダイナミックさ、ドラマチックさを出すために、どれだけ細かく配慮しなければならなかったか。非常に難しかったよ」
リード・シングル “Great Mass Of Colour” は、そういったディテールの追求を象徴していると George は証言します。重なり合うボーカル・パターンと鏡のようなハーモニーはさながら渦を巻く万華鏡。「I feel them all / Great mass of color / Flooding in my bed / Dissolving into red…」高揚感を増した詩が、明快なコーラスへと展開しそして、堤防が決壊。ブラックメタルのまばらな水しぶきがようやくこぼれ落ちていきます。
「ただ単にメロディックなものを作るだけではないんだよ。大事なのは、記憶に残るものを作ることなんだ」
結果として “Infinite Granite” の楽曲コレクションは、ある部分では研磨され、ある部分では高光沢に溢れ、DEAFHEAVEN の新たな歩みへの第一歩となりました。
アルバムのオープニングを飾る “Shellstar” の鳴り響く馴染みのないアンビエンスは、熱気と怒りに飛び込むのではなく、雲の中を滑るように進んでいきます。George が語る「夏の火の中を崇高に彷徨う/炭、灰、咳、轟音…」というストーリーには、奇妙なメランコリーが漂っています。シングル “In Blur” は、RIDE 1990年の名曲 “Vapour Trail” を下敷きとしたもので、古典的なシューゲイザーの夢見がちな幸福感に翻弄され、「この混沌とした寒さの中で、昼の光はどのように見えるのだろうか」と問いかける、力強く痛烈なレイヤーボーカルをフィーチャーしています。
シンセを駆使したインストゥルメンタル “Neptune Raining Diamonds” は、ブレードランナーのスコアからそのまま切り取ったような186秒。アルバムの中で最も短い曲ですが、レトロフューチャーな眩しさがキラキラと渦巻いています。さらに大作 “Mombasa” (Shiv の母国であるケニア最古の都市にちなんで命名)の8分間は、平穏な美しさから猛烈なカタルシスへと宇宙を駆け抜けるような非日常を投影します。一方で、パンデミックという非日常が及ぼした影響も捨てきれません。George が証言します。
「頭の中にある恐怖や起こっている混乱が、曲作りにもよく影響していたよ。いくつかの曲で聞くことができると思う。特に “The Gnashing” には、ちょっとした奇妙な緊張感があるよね。あの曲のを作っているときに、LAで夜間外出禁止令が出たんだ。フリーウェイがすべてストップしていたのを覚えているよ。LAPD が至る所にいた。ヘリコプターのようなものも。そしてもちろん、BLM と、当時州内で起こっていた火事との間で、LAは日々赤茶色に染まっていて、現在進行中の COVID の状況もあった。これらのことがすべて、この曲に反映されているんだ。仮のタイトルは “End of the World” で、本当に終末論的な感じがしたよね。この曲には、終末論を感じさせる大きなエンディングがあり、全体的にダークでドライな雰囲気がある。あの雰囲気の中で作っていなかったら、必ずしも同じようにはならなかったと思うな」

では、これらの率直に言って、これまでと全く異なるサウンドは、メタルの世界、そしてその場所の牽引者としての立場から身を引く覚悟の意志表示なのでしょうか?George は決して反動ではないと断言しました。
「このアルバムは、非常にドライで、繊細で、エモーショナルな作品で、強さと開放性に焦点を当てている。実にテーマ性の高い作品で、解き明かすべきことがたくさんあるんだよ。私たちのすべてのレコードと同様に、この作品は今の私たちを映し出す鏡であり、人間としての私たちを自然に映し出している。もし何かへの反応だとするならば、それは自分たちの前作への反応だと思うんだ」
たしかに、このアルバムには古の影響が新しいスタイルのフィルターを通して吹き込んでいます。もちろん、ブラックメタルやブラックゲイズの影響はそれほど顕著ではありませんが、ノルウェーの伝説 ULVER の “Kveldssanger” 時代の冷ややかな閃光や、フランスの鬼才 ALCEST が2014年に放った “Shelter” の眩い光も差し込んでいるはずです。それに繊細で豊かなテクスチャーは、MY BLOODY VALENTINE, SWERVEDRIVER, SLOWDIVE といった英国のシューゲイザー・ムーブメントの要素がふんだんに盛り込まれているでしょう。
Kerry は、これらの参照点をさらに拡大して、PINK FLOYD, APHEX TWIN, Brian Eno, THE SMITHS, そして尊敬するスウェーデンのプログレッシブ・バンド、DUNGEN の名を挙げます。一方、 George は RADIOHEAD の重要性を強調し、高い評価を得た2016年のLP “A Moon Shaped Pool” とその3枚目のシングル “Identikit” が特にインスピレーションを与えてくれたと語っています。
実際、DEAFHEAVEN は、”Infinite Granite” を RADIOHEAD が2000年に発表した “Kid A” の自分たちのバージョンだと一貫して発言しています。大胆な音の再出発でありながら、作者のアイデンティティを維持し、拡大しているという共通項をあげながら。George は、「自分たちのやりたいことを堂々と、そして自由にやるという姿勢が大切だ。ヘヴィー・コミュニティでは、BORIS や OPETH のように、自分たちが制限されることはないという理解に基づいて活動しなければならない」と胸を張ります。
では、メタルのエッジを放棄した新たな領域で、DEAFHEAVEN らしさを保つための要素とは何でしょうか?Kerry は熟孝します。
「同じバンドの異なるフレーバーに過ぎないんだ。俺たちの音楽がいつも喚起する核心的な感情のすべてが、新しいフィルターを通して表現されているだけなんだよ。2015年の3枚目のLP “New Bermuda” で、自分たちの音楽にスラッシュやデスメタルの要素を入れることができると気づいたように、今回はこれもできると言っているんだ。それはそれでいいんだよね。これは、俺たちがクリエイティブな筋肉を伸ばせるように壊した、もうひとつの壁なんだよね。人は好きなことを言うものだよ。それは俺たちの仕事ではないんだ。俺たちの仕事は、欲しいものを作ることだけだから…」

George にとって、”Infinite Granite” は、かつてのトレードマークであった爆音のブラックメタルと落ち着いたアンビエンスの摩擦がなくても、気が遠くなるようなエッジを保つことができるという点が重要でした。
「このアルバムは、究極的には私たちを裏返したもの。まだまだ緊張感があるよね。メロディックであっても、かなりの不快感がある。私たちは、その緊張感のある微細な部分に焦点を当てるように努めたんだ。少し地味になったかもしれないけど、面白さが減ったとは思わないよ…」
パンデミックの影響を受けて、George はアメリカを離れ、ニュージーランドで数カ月間の旅行を楽しみました。地球上で最も息を呑むような景色に囲まれ、この島国のCOVID対応のおかげですべてが正常に機能していましたが、それでも彼はツアーに戻ることを夢見ていました。
「Kerry と私は、ライブがなくなったことで、ツアーや世界旅行、人々との出会いなど、このライフスタイルへの愛が深まったと話していたんだ。それは、私たちが失ってしまった、非常にユニークで素晴らしいものなんだ。だから、このアルバムのことを考えるときには、ツアーのことを考えているよ。つまり、可能な限り外に出て演奏し、最も愛している人たちと一緒に、最も愛していることをしながら世界を見て回りたいんだ」
“Infinite Granite” のクリエイティブな “賭け” が功を奏するのか、ファンの中でより凝り固まったメタルヘッズが離れていくならば、DEAFHEAVEN はそれを受け入れることができるでしょうか?George は答えます。
「ファンを失うこと、つまり、得することと失うことの二律背反は、実に面白いものだ。このバンドを愛してやまない私たちのファンが、このアルバムに共感できないのなら、私は理解するよ。彼らに恨みはないし、願わくば我々にも恨みをもたないでもらえれば。私たちには、他にもたくさんの作品がある。ある時期にお互いを見つけることができたのは、幸運で今でも本当に信じられないことなんだよ。そしてすべては進化していく。DEAFHEAVEN では、どの場所からでも乗ったり降りたりすることがでるんだ。この変化は必要だった。もし私たちが、ブラストビート、メジャーキーのコード進行、ディレイのかかったギターでいっぱいのレコードをもう1枚出していたら、人々は私たちに “壊れていないなら、直さないで!”というようなおきまりのレガシーバンドになるよう求めただろうから」
Kerryは誰かのための創作がいかに無意味かを知っています。
「誰かを喜ばせようと考え始めた瞬間に、自分の足を撃つことになる。まあでも、レコードが完成してから6ヶ月間じっくりと考えてみると、どうしてもそういった疑問が出てくるよね。俺たちが出すすべてのレコードは、どこかで怖い思いというかリスクを冒している。だけど、俺たちが音楽制作をしているときは、自分自身にも他の誰にも、「人々がこれをどう思うだろうか」というような疑問を持つことを許さないというルールがあるんだ。”New Bermuda” では、よりヘヴィーな要素を加えていったし、”Ordinary” では、ピアノから始まる曲でアルバムを始めた。毎回、同じルールで制作しているだけなんだ。まあ今回は “掛け金” が多少高かっただけでね。あとはツアーに出て、俺たちを好きな世界中の人たちと話すだけさ。彼らのTシャツを見て、このバンドが好きなキッズたちは、これから飛躍していくだろうと思うんだ」
George はレビューを読むことをやめました。
「”Sunbather” が爆発したとき、あるいはその前に “Roads to Judah” をリリースしたときには、私たちの存在を世界全体が認識していることを初めて垣間見ることができた。それはエキサイティングなことで、特に私たちが22歳、23歳のときには、私たちが作ったものをみんなが気に入ってくれている、クールだな。読んでみようかな?ワオ!ってね。そして、レビュー夢中になったよ。だけど、”Sunbather” が定着した頃には、レビューなんてどちらでも構わないということに気がついたんだよね。というのも、批評家の愛に感謝しているけど、それがずっと続くとは限らないから。あるいは、人間は人間であるとか、彼らは物事に対して様々な意見を持っていて、それが彼らの仕事であるとか、そういったことにね。
特に昔、”‘Sunbather” の時代には、私たちは音楽全体への神からの贈り物だという意見と、何でもありの真新しいものだという意見、その2つの陣営があるように思えた。私たちについて、卑劣で邪悪なことを言っている人もいたよ。私はこの2つの陣営が間違っていることに気づいたんだ。私たちは、音楽界に起こった最悪の出来事ではないけれど、もちろんビートルズでもなんでもない。私たちはただ音楽を作っている人間の集まりで、人々はそれに共感しているんだよね」

岐路において、安全性よりも自己満足を選択することは、いずれにせよ大きな賭けです。DEAFHEAVEN は、黄昏時のシューゲイザーがチャートを独占するはずもないことを十分に理解しており、より激しいメタル・サウンドにしがみついていた方がはるかに安全であることも知っています。ゆえに彼らは、自分たちに忠実でいるために常にリスクを取る価値があると繰り返しています。
いいかえれば彼らは、SLIPKNOT のような “当たり前” の存在となることを危惧していたのです。DEAFHEAVEN 自身は、2019年に BARONESS と共演した際にその危険性を認識していました。サイケ・スラッジの強豪で、確立されたフォーマットに忠実でありながら、常に興味深い方法で進化することに成功している BARONESS。彼らの最新LP “Gold & Grey” は、色分けされたアルバムタイトルを尊重しつつ、新しいギタリストと、TAME IMPALA のミキシングやMGMTのプロデュースを担当した人物を抱え込んでいます。DEAFHEAVEN は、自分たちも同様に長期的に活動する方法を考え始めていたようです。George は、ツアーを通して「やりきった感があった。ツアー中にもう限界だという感覚があったんだ。私は壁にぶつかってしまったようで、この先に私ができることはこのやり方にはもうあまりない」と認めていました。そうして彼らは未開の荒野に再度その身を解き放っていったのです。
「もし俺たちが “エクストリーム・メタル” のバンドであり続けたいと思っていたら、それは難しいことじゃなかった。今後10年間、”Deafheaveny” のレコードを出し続けることで、保証はどんどん増え、フェスのオファーも大きくなっていくだろうから。そうすれば、素敵で小さな “何か” にはなれただろう」
「私たちは、クリエイティブな面に少し興味を持ちすぎているんだ。つまり、他の何よりも自分たちが充実していないと、このプロジェクトは長続きしないんだよね。だから、私たちはまた未開の荒野に身を投じてしまうのさ」
DEAFHEAVEN にはまだまだ可能性が秘められています。
「アルバムには収録されていないけど、ある時期、初期のDJ Shadow や Unkle の最初のレコード、BOARDS OF CANADA のような雰囲気のものを入れようと考えていたことがある。これは、俺がよく聴いていたものでね。バンドの中に PORTISHEAD や MASSIVE ATTACK の影響があるのは確かだと思うけど、俺が興味を持っているもの、Shiv が興味を持っているもの、George が興味を持っているものなど、たくさんあるんだよね。例えば、このアルバムにも初期のWarp レコードや、”OK Computer” の “Airbag”、DJ Shadow のようなものを入れようとしていたんだ。だけど、それは全くフィットしなかったね。結果的にはそれがベストだったと思うけど。とにかく、俺たちにはまだいくつかのレーンが残されていると思うし、そうあってほしいと思う。それこそがクリエイティブな人間の醍醐味だと思うからね」
そう Kerry が目を輝かせれば、George も同意します。
「そうだね、確かにレイドバックしたトリップホップの影響は、私たちもかなり試したけど、今回のアルバムには必ずしも反映されなかった。オーケストラ的な要素を取り入れたり、補助的な楽器を追加したりすることも、まだやったことがないよね。ストリングスにしても、特に理由はないけど入れたことがない。Kerry が言ったように、私たちは常に何かを取り入れたり、試したりすることができる。そして願わくば、私たちが実験を続け、成長し続ければと思うよ」
日本盤は DAYMARE RECORDINGS から発売中!

参考文献: KERRANG!: When The Sun Hits: How Deafheaven stepped out of the shadows to embrace a brave new dawn

THE RINGER:The Sunbathers Turn to the Light: Deafheaven Is Back, and Clearer Than Ever

FADER:Deafheaven on evolution, reinvention, and Infinite Granite

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY CATAFALQUE : VADAK】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TAMAS KATAI OF THY CATAFALQUE !!

“The Underground Metal Scene Of The 90s Is My Main Source Of Inspiration Until This Time. I’m Not The Type Of Person That Locks Himself In The Past But That Era Is Very Important To Me And I Personally Think It Was The Golden Age Of Creative And Inventive Metal”

DISC REVIEW “VADAK”

「僕は過去に閉じこもるタイプではないけれど、90年代は僕にとって非常に重要なんだよね。個人的には、ユニークなサウンドとアティテュードを持つ多くのバンドが存在した、創造的で独創的なメタルの黄金時代だったと思っているんだよ」
メタル世界の番外地ハンガリーから現れた THY CATAFALQUE の謙虚な天才 Tamás Kátai は、やはり異端者です。ジャズ、ポップス、フォーク、エレクトロニカなど、様々なジャンルのしたたかなアマルガムでメタルのマニュアルを再創造していくのですから。そんな東欧に根ざす舞曲のような野心は、90年代に跋扈した魑魅魍魎の独創をドナウの流れに受け止めています。
「野生とか、野生動物を指す言葉さ。アートワークの写真を見れば意味がわかると思うよ。作品のゆるやかなコンセプトは、僕たちは、すべての生き物のように、時間の森の中で死に追われているということなんだ。僕たちは結局野生動物であって、ハンターではないんだよ」
“Vadak”。ハンガリー語で “野生” を意味するアルバムタイトルは、この新たな天啓のエキゾチックで野放図なエッセンスを指し示す重要なヒントとなっています。”Vadak” とは教訓としての死の予感。人にも獣にも同じように宿る儚さにフォーカスしたこのレコードは、人間も動物と等しく本質的に究極の終焉である “死” を恐れ逃げ出すという、フロイト的な生命の本能について深く探求しています。
「”Vadak” も例外ではなかったよ。ただ作曲と録音を始め、その過程でアルバムが勝手に出来上がっていったんだ。もっと有機的で自然なプロダクションにしたいと思い、楽器の世界に飛び込んだんだけど、このアイデアは作曲中にも出てきていたね」
THY CATAFALQUE を “バンド” と呼ぶのは少し不適当かもしれませんね。なぜなら、Tamás Kátai はこのプロジェクトの首謀者で、ソングライターで、マルチ・インストゥルメンタリストで、ボーカリストでもあるからです。つまり THY CATAFALQUE は基本的に Tamás が一人でギター、ベース、シンセ、プログラミング、ヴォーカルを担当している彼の子供のようなもの。
一方で Tamás は自分の音絵巻を完全なものとするために、多くの才能の助力を仰ぎます。”Vadak” では、ボーカル、バイオリン、サックス、レッドパイプ、トランペット、ギターなど、16人ものゲスト・ミュージシャンをアメリカ、ロシア、エジンバラ、ブラジルなど世界各地から招き入れているのです。
このような多国籍なアプローチには大抵大きな困難が伴いますが、”Vadak” は誇りと信頼性に加えて、まとまりを伴いこの難題を成功へと導きました。近年の DORDEDUH や WOODEN VEINS にも言えますが、アヴァンギャルド・メタルが混乱を意味していた時代は終わり、一つのベクトルを見据えた美しき旅路こそがこのジャンルの新たな看板として掲げられているのは明らかでしょう。
「僕は今でもこのジャンルが大好きで、音楽の中には常にブラックメタルの要素があると思っているよ。この数年で僕の目は大きく開き、最近はパレットがよりカラフルになったけど、やっぱり “黒色” はまだ存在していて、僕はそれでいいと思っているんだよね」
エレクトロニカ、ポップス、フォーク、インダストリアル、メロディック・デスメタル、ジャズ、ゴシックロック。色とりどりのパレットとなった THY CATAFALQUE の音楽ですが、今でもその中心にあるのは漆黒、つまりブラックメタルです。言い換えれば、それは90年代の型にはまらない独創性なのでしょう。EMPEROR, DISSECTION, NOCTURNUS, EDGE OF SANITY, TIAMAT といった境界があるようでなかった、限界があるようでなかった曖昧なバンドたちの DNA は間違いなくこの作品へと浸透しています。
シンセとブラックメタルの神々しい融合 “Szarvas”、レッドパイプと天使の女声が響き渡るフォーキーな “Köszöntsd a hajnalt”、金管楽器に東欧の幸福と孤独を投影する “Kiscsikó (Irénke dala)”、ギターとヴァイオリン、そしてブラストビートの音壁で背筋も凍るダークファンタジーを描いた “Vadak (Az átváltozás rítusai)”、そして熱病のようなすべての錯乱を冷ます幽玄なピアノのクローサー “Zúzmara”。そう、”Vadak” のすべてはあの時代に証明されたメタルの可能性を呼び覚まし、さらに前へと進める本能の祝祭。
今回弊誌では、Tamás Kátai にインタビューを行うことができました。「このバンドにとって、自然は初期の頃から非常に重要な要素で、それはブラックメタルの伝統にも由来しているんだ。このアルバムは、環境保護を意識したものではないと思うけど。自然は常に僕たちの創造性にとって豊かな土壌で、今回のアルバムもその例に習っただけなんだよね」 二度目の登場。どうぞ!!

THY CATAFALQUE “VADAK” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THY CATAFALQUE : VADAK】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WIZARDTHRONE : HYPERCUBE NECRODIMENSIONS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH MIKE BARBER OF WIZARDTHRONE !!

“Children Of Bodom Played At Tuska Festival And Alexi Dedicated “Bodom Beach Terror” To Me And My Friends, And I Went Home To The UK Feeling More Motivated Than I Ever Had To Follow this path”

DISC REVIEW “HYPERCUBE NECRODIMENSIONS”

「私たちは基本的に過去15年間の音楽を無視していたんだよね。エクストリーム・ウィザード・メタルはうまく機能していると思うよ。レビュアーがこのバンドをパワー・メタル、メロディック・デス、テクニカル・デス、シンフォニック・ブラックと表現しているのをよく目にするけど、結局私たちの音楽はそれらのどれにも当てはまらず、すべての要素を少しずつ取り入れているんだよね」
WIZARDTHRONE は、宇宙から来たテクニカル・パワー・デス・シンフォニック・ブラック・メタルの名状し難き混合物で、いくつもの多元宇宙を越えた魔法使いの王。
カラフルで印象的な音楽性と純粋な不条理の間を行き来する複合魔法の創造性は、ALESTROM, GLORYHAMMER, AETHER REALM, NEKROGOBLIKON, FORLORN CITADEL といったメタル世界のファンタジーを司る英傑を依り代として生まれています。そうして、何百万光年も離れた銀河から地球に到達した彼らのデビュー・アルバム “Hypercube Necrodimensions” には、激しさと情熱、そして知性とファンタジーが溢れているのです。
「歌詞を見てすぐにはわからないかもしれないけど、このアルバムは、現代の政治的な音楽と同じように、同じくらい、強い声明を出していると思うんだよ。これは世界が悲しみと怒りに満ちている時代に作られた情熱と生命の祭典であり、作りながら僕たちにも未来への希望を与えてくれたんだ」
暗く歪んだ2020年を経て、メタル世界でも政治的な発言やリリックは正義の刃を構えながら確実に増殖しつつあります。メタルにおけるファンタジーやSFの役割は終わったのか?そんな命題に、GLORYHAMMER でも “ハンマー・オブ・グローリー” を手に暗黒魔術師ザーゴスラックスと戦う Mike Barber は堂々たる否をつきつけました。
「2007年にフィンランドを旅行した際、共通の友人から Alexi と Janne を紹介されたんだけど、彼らは親切で純粋で、何時間も私たちと一緒にいて、質問に答えたり、ビールを一緒に飲んだり、ミュージシャンになるためのアドバイスをしてくれたんだよね。翌日、CoB はTuskaフェスティバルで演奏し、彼はなんと “Bodom Beach Terror” を私と私の友人に捧げてくれたんだ。私は、この道を進むことにかつてないほどのモチベーションを感じながら英国に帰ったんだよ」
COB + EMPEROR などと陳腐な足し算ですべてを語る気はありません。ただし、未曾有のメタル・メルティングポットでありながら、ここ15年間の方程式をあえて捨て置いた WIZARDTHRONE の魔法には、たしかに亡き Alexi Laiho と CHILDREN OF BODOM の遺産が根づいています。
Mike と Matthew Bell (FORLORN CITADEL)。そのギターのデュエルは “Frozen Winds of Thyraxia” の凍てつくような風速を越えて、まばゆいばかりの爆発的なエネルギーをもたらします。さながら Alexi と Rope のコンビにも似た魅惑のダンス。タイトル・トラック “Hypercube Necrodimensions” では、その場所に ALESTORM や GLORYHAMMER の怪人 Christopher Bowes の高速鍵盤乱れ打ち、フォルクローレの瞬きが加味されて、”Wildchild” の面影がノスタルジアの星砂へと込められます。それは、テクデスのテクニカルな威圧をのみもってしても、パワー・メタルの勇壮をのみをもってしてもなし得ない、奇跡の瞬間でしょう。
一方で、”The Coalescence of Nine Stars in the System Once Known as Markarian-231″ の冷徹で黒々としたシンフォニックな響き、ナレーションを加えた “Black Hole Quantum Thermodynamics” のドラマティックなメタル劇場、”Forbidden Equations Deep Within the Epimethean Wasteland” の複雑を超越した音世界といった、様々なサブジャンルを予測不可能にシームレスに横断するハイパーキューブな黄泉の多次元体は、宇宙の真実を物語る現実を超えた壮大なサウンドに到達しているのです。もちろんそれは、メンバー各自が自身のバンドから持ち寄った “種” を育てた結果でもあり、スーパーバンドとしての理想形をも提示しているのではないでしょうか。
今回弊誌では、Mike Barber にインタビューを行うことができました。「サウンドよりも、彼らのアティテュードがこのアルバムの制作に影響を与えたと思う。ただし、タイトル曲には、CoB の解散に敬意を表して、明らかな影響をいくつか入れているよ。Alexi が亡くなってから、彼らは私にとってまた新たな意味を持つようになったんだ」 どうぞ!!

WIZARDTHRONE “HYPERCUBE NECRODIMENSIONS” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WIZARDTHRONE : HYPERCUBE NECRODIMENSIONS】

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ESOCTRILIHUM :DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH】


COVER STORY : ESOCTRILIHUM “DY’TH REQUIEM FOR THE SERPENT TELEPATH”

“It’s a Kantele, a Finnish Instrument. This Stringed Instrument Is Really Incredible, Because There Is Clearly a Mystical Character In The Frequencies Emitted By This Instrument! Actually, I Discovered The Kantele In a Very Surprising Way.”

DEMONS, DESPAIR, AND MADNESS

ESOCTRILIHUM は、今日活動しているブラックメタル・プロジェクトの中でも最も特異で、クリエイティブで、多作なプロジェクトのひとつへと急速に成長を遂げました。6枚のフルアルバムと1枚のEP を4年の間にリリースし、このフランスのワンマン・ユニットは、冷酷でありながらエモーショナルで奇々怪界なメタルの百鬼夜行を続けています。
ESOCTRILIHUM は、Asthâghul の不気味で無限とも思える野心と創造性でメタル・アンダーグラウンド内部で一手に賞賛を集めています。例えば、DIMMU BORGIR や BAL-SAGOTH のような90年代のシンフォニック・ブラックメタルの華やかなゴージャスを、生々しいローファイの攻撃で表現するような、例えば、OPETH に端を発するプログレッシブな知性を多種多様なジャンルとアーティストで細切れにして煮込んだような。そんな唯一無二の音の審美は、奇妙に魅力的なアートワークたちに吸い込まれ、リスナーの後退を許さなくします。
根底にキャッチーさとフックを常に配する Asthâghul の魅力的なリフ・スタイルは、1970年代と1980年代のクラシック・メタルから明らかにヒントを得ています。そんな謎めいたイヤーキャンディーに恐ろしく巨大なドラムとベースのインタープレイが加わり、彼のプロジェクトは堂々たるオーラと強烈な印象を纏うのです。そんな混沌とダイナミズム、 サウンドテクスチャーの申し子 Asthâghul が、はじめて買ったレコードは奇しくも OPETH の “Blackwater Park” でした。
「とても特別なアルバムで、忘れられない思い出があるよ。ある種の苦悩があり、明らかに本物の何かを反映している。子供の頃に最もよく聞いたアルバムは他には、PARADISE LOST の “One Second”, Björkの “Debut”, CATAMENIA の “Halls Of Frozen North” だろうな。この3枚は最高の思い出だよ」
一人ですべてを手がける Asthâghul。音楽制作(ミキシング、プロダクション、パフォーマンス)について最も勉強になったアルバムは何だったのでしょう?
「長年の間に直観的に学んだ技術もある。例えば、私は常に自分の無意識から何かを回収することで、自分自身の宇宙を作り出そうとしてきたからね。ただ、もし、2枚のアルバムを選ぶとしたら、GOJIRA の “The Link” と、SHAPE OF DESPAIR の”Illusion’s Play” だろうな。この2枚のアルバムは、私にとって特別なものだよ。”Illusion’s Play” にはたくさんのメランコリーと悲しみが詰まっている。このアルバムをどれだけ愛しているかを語る言葉はないけれど、全体のアトモスフィアが多くの感情を呼び起こし、その感情は永遠に私の中に刻まれることだろうね。私たちを心の奥底に連れて行き、失われた感情を呼び覚ましてくれる音楽だ。”The Link” については、この明らかに非典型的な側面が私は好きなんだ。GOJIRA は、壮大なアバンギャルド・メタル作品の中に、多くの影響をミックスしている。 非常に実験的であり、テクニカルでもあるよね。メロディーは、時に拷問のようで、時に非常に柔軟だ。 彼らは常に、パワーを失わないギターテクニックを重要視しているからね」
最近最も衝撃を受けたのは T.O.M.B. の “Fury Nocturnus” です。
「非常にパワフルな暗黒の流れを生み出しているアルバムだね。音楽を聴くという単純な事実が、非常に暗い存在を引き寄せ、呼び起こすと言ってもいい。すべての曲は、非常に謎めいていて、しかし非常に明白な何かへの頌歌となっている。私はこういった二面性がとても好きなんだ。こういった音楽が私たちの精神に与える影響を過小評価してはいけないよ。この作品はダーク・ミュージックの傑作だね。この種の傑作は、別の次元への扉を開く。マスターの波動は、複雑でユニークな魔法の音システムを作ることができる」
レビューを気にすることはあるのでしょうか?
「好きなアーティストのレビューを気にしたことはない。アルバムをとても気に入ったときは、インターネット上のネガティブなレビューを気にすることはないし、他人が私の意見を壊すこともない。LEVIATHAN の “Massive Conspiracy Against All Life” のようなアルバムだよ。私にとって、このアルバムは真の宝石で、贈り物。とにかく素晴らしいねこれほどまでに聴き込んだアルバムは他にないよ。プロダクションはこのプロジェクトのメンタリティを反映していて、すべてが本物。憎しみ、痛み、絶望があり、それらがとてもうまく混ざり合っている。このアルバムは過小評価されているね。ある曲が文脈から外れていると言う人もいるけど、私にとっては全くの誤りだね。全ての曲がまとまっていて、非常に特殊な世界に対応しているよ」

メタルを奏でる必然性についてはどう考えているのでしょうか?
「ブラックメタルとの相性については、説明するのが少し難しいんだけど、私が悪魔や密教に惹かれていたことがすべての始まりだったね。私は常に邪悪なものを好んでいたから、ブラックメタルとの出会いで、私の音楽的指向が明らかになったんだ。だけど、今日の私には異なるビジョンがあって、私の人生もこのプロジェクトを始めた頃とは異なっている。ただし、私の嗜好は常に不明瞭なものに向けられているがね。私がこの種の音楽に惹かれたのは、ごく自然なことだよ。というのも、暗闇というのは常に私が経験したい側面だったから。実際、ESOCTRILIHUM の前には、バンドで演奏したことはなかったんだけど、ファーストアルバム “Mystic Echo From A Funeral Dimension”を発表する前には、すでに多くの音楽を作っていたんだ」
様々な楽器をこなす才能は、今や現代的で DIY なブラックメタル・プロジェクトには欠かせない要素にも思えます。それでも、Asthâghul が織り込むする楽器の量は異常です。
「ESOCTRILIHUM のすべての楽器は私が担当している。最初に手にした楽器はギターだったよ。最初はギターで練習していたんだが、すぐにこの楽器との相性の良さに気づいたよ。最初の頃は、自分のアイデアすべてをタブ譜に書き込んでいたんだ。それは、いつか他の楽器をマスターして、組み合わせることができると確信していたからなんだけどね。私はいつも一人で学んでいる。誰も隣にいない方が効率的だからね。
実際、ギターを習ってすぐに、個人の音楽室でドラムを演奏する機会があり、何時間もかけてこの楽器をマスターするためのトレーニングをしたんだ。一つ一つのテクニックを学ぶことは快感で、まだ私には動揺の魔物は現れていなかったからね。ただ、当時の私は録音ソフトを持っていなかった。でも、私は心の底から “いつかプロジェクトを作る” と思っていたんだ。ヴァイオリンとカンテレに興味を持ったのは、数年後のことだよ。この2つの楽器は、音楽の別の次元を探求するために非常に特殊な周波数を探求することができる素晴らしい楽器だ。ギターを弾けるようになると、バイオリンも簡単に弾けるようになるよ。ピアノ、トランペット、オーボエ、オーケストレーションなどの残りの楽器は、MIDIキーボードで作業している。いずれにしても、それぞれの楽器の演奏方法を習得するには時間がかかったけど、新しいサウンドを追加することができて良かったよ」
世界には膨大な数のバンドが存在しています。ストリーミングの普及により山ほどの作品を聴いていると自負していても、それでも世の中にあるメタルの10%さえ私たちは耳にしていません。つまり、アーティストは熾烈な競争を勝ち抜かなければまず一聴を促すことさえままならないのです。その中で、傑出した自分のスタイルを確立することが聴いてもらうことへの近道かもしれません。今では、リスナーが夢中になり、次のリリースにも足を運んでくれる作品を提示するためには、巨大な存在感とユニークな音は必須。

ESOCTRILIHUM にとつて、”Inhüma” から “Eternity of Shaog” への道のりはまさにその巨大な存在感を身につける糸口になったはずです。よりメロディックで、ムーディーで、アトモスフェリックで、エモーショナル。”Eternity of Shaog” には嫌になるほど長いタイトルに加えて、ラヴクラフト的な宇宙、さらにメロディやリフの構造の多くに東洋的、あるいはメソポタミア的な色合いが見られます。 LEVIATHAN メンバーの手によるジンのような怪物がそびえ立つアートワークが示すように。
「古代文明では、例えばファラオの墓のように、世界に偶然開かれた扉を媒介にして、目に見えないものとコンタクトをとっていたという話をよく読むよね。クラーク・アシュトン・スミスも参考にしているんだ。彼はラヴクラフトと同様に、ある種族の秘密を知っていて、その知識を伝えるためにさまざまな形や名前を取ることにした作家さ。あとは、H.P.ブラヴァツキーの著作も参考にしているね。彼女が下層と上層の地球を理解していることは驚くべきことだよ。
意図的に東洋的なものを作ろうと思ったわけではないんだよ。”Telluric Ashes” のように、ベースにカンテレを入れたかっただけなんだけど、よくよく考えてみると、確かに東洋的な方向性を感じさせる音になっているよね。望んでいたものではないんだけど。
テーマとしては、悪魔、絶望、地球の理論、狂気、地獄の盟約など、秘密にしておくべきものから影響を受けている。これは私の考えを反映したものさ」
“Eternity of Shaog” の構成は以前と比べ、もう少し鮮明ですっきりしていて、全体的に明るく広々としているようにも見えます。冒頭の “Exh-Enî Söph” ですぐに確立されたこの雰囲気は、アルバム全体で維持され、壮大を増していきます。研磨された硬質なサウンド、以前のクランチーな雰囲気から一歩引いて、歪みのないメロディーを自由に飛び回らせて、音楽にダイナミズムとインパクトを与えているのです。
“Eternity of Shaog” にはシンフォニックな傾向が顕著に現れていて、シンフォニック・ブラックメタルというレッテルを貼るのもあながち間違いではなさそうにも思えます。 しかし、大げさでドラマチックな、ややサーカスに近いタイプではなく、むしろ1990年代後半のシンフォニック・ブラックメタルに親和性を感じます。 暖かみがあり、広がりがあり、曲の構成にはオーケストラのような雰囲気が存在。
「メロディックな部分は、私のオーケストレーションへの情熱と、ファンタジー文学作品の中のパラレルワールドへの情熱から生まれたものなんだ。昔はシンフォニックなサウンドを作ることができるいくつかのソフトウェアを使って遊んでいたんだけど、プロジェクトが進むにつれて、こういったシンフォニックな要素を自分の音楽に取り入れるようになった。謎めいているように見えるかもしれないけど、カンテレの練習はシンフォニックなサウンドを生み出すためのアプローチにおいて、私を後押ししてくれたんだ。そして、いくつかの楽器やメロディーの層を同時に組み合わせることが、シンフォニックな側面を作り出すことになった。ESOCTRILIHUME は、最初はシンフォニックなものを目指していなかったけど、時間の経過とともに状況が変わっていったんだよね」
実際、カンテレは “Eternity of Shaog” にとって不可欠な楽器となっています。
「カンテレはフィンランドの楽器なんだ。この弦楽器は本当にすごいよ。この楽器が発する周波数は、明らかに神秘的だ。実は、私がカンテレに出会ったのは、とても意外な場所だった。だからある存在に導かれて、必要に迫られて手に入れたのだと思う。ある意味、自分の考えと現実をつなぐ架け橋のようなもの。新しい楽器を手に入れなければならないことはわかっていたんだけど、どれが最初に心に届くのかはまだわかっていなかったからね。今では頻繁に使っているよ。すべての場面で使えるわけではないけど、なるべく直感的に使えるようにしているのさ」

そうしてたどり着いた約80分に及ぶ “Dy’th Requiem for the Serpent Telepath”。ESOCTRILIHUM は長いアルバムを出すことで知られていますが、最新作はこれまでの最長のレコードです。”Xuiotg” のように凶暴なブラックメタルで猛威を振るう瞬間もあれば、”Craanag” のようなアンビエントな曲も存在します。深みを増したシンセの魔法とアヴァンギャルドな哲学に窺えるのは、相互作用と実験への意欲。
“Dy’th Requiem for the Serpent Telepath” は、3曲ずつの4つのセクションで構成され、Serpent Telepath の死、変容、再生という壮大なストーリーを描いています。Serpent Telepath とは ESOCTRILIHUM が描いた恐ろしい世界に生息する強力な存在の1つ。物語は、拷問のようなイメージと精神的な闘争の間で引き裂かれる叙事詩のように展開します。幽体離脱と精神的な不安というテーマは深淵で、レコードに込められた邪悪な呪文にさらなる次元を加えています。エクストリーム・メタルと言うよりも、より正確にはエクストリーム・ミュージックでしょう。ブラック・メタルやデス・メタルのレコードであると同時に、Asthâghul は自信を持ってノイズ、アンビエント、プログレッシブ、ポスト・パンク、ゴシック・ロック、クラシカルの領域へと大胆に踏み込んでおり、曲の中で彼が選択したどの道においても、その道のプロにも匹敵する卓越した能力を発揮しているのです。この美しき混沌は一人のクリエイターが閉所で孤独に作ったものですが、その地平線は遥か彼方まで広がっています。
Asthâghul がその音の葉以上に公表していることはあまりなく、彼の音楽は彼の喚起的で異世界的なサウンド同様謎に包まれています。ブラックメタルの歴史の中には、BLUT AUS NORD のように顔を出さずに挑戦的な作品を作る特異なアーティストは少なくありません。しかし、ESOCTRILIHUM は何か異質で、まるで人間の目には見えない冥界からの超自然的な周波を発しているようにも感じられることがあるのです。そんな密教的創造に反して作品もプロジェクトもその規模を拡大していく中、ESOCTRILIHUM が他の音楽家を加えることはあるのでしょうか?
「私は最後まで一人でいるつもりだよ。正直なところ、誰も私と一緒に演奏することはできないんだ。というのも、私と他の人との間の伝達の流れを何かがブロックしていて、コラボレーションとなると全く上手くいかないんだ。私は一人でいる方が好きだよ。自分の作品をよりコントロールできるからね。それに、人脈を作ることも私にはできないんだ」

ブラックメタルは一人ですべてをこなすアーティストが多い印象です。
「ブラックメタルは、孤独や孤立と完全に調和しているスタイルだからね。なぜなら、孤立しているからこそ、自分の精神状態を完璧に反映したものを作ることができるから。それに孤立することは、目に見えないものと触れ合うための最良の方法でもある。一人で作業をしていると、アイデアが早く浮かび、必要に応じて無意識の力を借りることができるんだ。誰かのために何かをすることを強制されないという事実は、仕事をより興味深いものにしてくれるよ」
フランスは古くから、非常に革新的で先鋭的なブラックメタルを生むことで知られています。
「確かにフランスには様々なグループがあって、オカルト的なテーマを有しているよね。でも ESOCTRILIHUM は誰とも関係していまないんだ。なぜなら、私はコラボレーションを完全に拒否してこのプロジェクトを作ったから。この音楽を作るには一人でなければならないし、正直なところ一緒に音楽を作れる人を知らないんだ。つまり、すべては私の “創造したい” という一心から始まったと考えていいだろうね」
それにしても短期間であまりに膨大なリリースです。創造性は尽きないのでしょうか?
「自分の音楽的な衝動を信じ、その衝動が現れたときに仕事をしているだけなんだ。すべてを同時にリリースすることだって可能だけど、それは賢明ではないよね。私の中にはまだ充分情熱があるので、活動的であり続けていられる。精神が求めるときに、すぐに選ばれた楽器を演奏して自分自身の内面を映し出さなければならない。音楽的な衝動が頻繁に現れることもあれば、何も起こらずに長く待たされることもある。これは非常に暗いテーマだよ。なぜなら、私は物事の進展を説明できないことがあるから。ESOCTRILIHUM を管理することは苦しみであり、苦悩でもあるから、いつかは終止符を打たなければならないと思っている。私はすでにすべてをプログラムしているんだよ」

参考文献: METAL STORM: ESOCTRILIHUM INTERVIEW

THE WAR INSIDE MY HEAD: INTERVIEW ESOCTRILIHUM

ESOCTRILIHUM BANDCAMP

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CICADA THE BURROWER : CORPSEFLOWER】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CAMERON DAVIS OF CICADA THE BURROWER !!

“I Wanted The Name And Aesthetic Of The Record To Reflect The Duality Of My Personal Experience Being a Transgender Woman. It Seemed Like The Best Way To Do That Was To Combine Something Lifeless, a Corpse, With Something That Represents Life And Femininity, Flowers.”

DISC REVIEW “CORPSEFLOWER”

「私はトランスジェンダーの女性であるという個人的な経験、その二面性をレコードの名前と美学に反映させたいと思ったの。それには、生気のないもの、つまり死体と、生気や女性らしさを表すもの、つまり花を組み合わせるのが一番良い方法だと思ったのよ」
ブラックメタルは痛みを解放し人生を肯定してくれる魔法なのでしょうか。LITURGY の Hunter-Hunt Hendrix がトランスジェンダーの女性であることを公表したと時を同じくして、CICADA THE BURROWER の Cameron Davis も真の自分を世界に解き放ちました。
「このまま世の中には黙って性同一性障害を抱えて生きていくのがいいのか、それともトランスジェンダーであることを明らかにして社会的な影響を受けるのがいいのか。この葛藤を “Corpseflower” がうまく伝えてくれることを心から願っているわ」
美しい花には骨があります。自らのプロジェクトを “穴の中の蝉” と名付け、自らを羽化する前の蝉の幼虫に例えた Cameron にとって、”Corpseflower” は自身の痛み、苦悩、そして一握りの希望の両面を迷いの中から描き出す羽化の葛藤。二面性というスティグマは彼女の生にずっと宿っていて、死体と花は彼女の化身である音楽にも当然のように憑依していきます。
「ALCEST や DEAFHEAVEN のようなバンドは、私が “peak and valley” “山と谷” と呼んでいる優れた曲構成を実践している。彼らは、曲の激しい部分(山)を強調するために、繊細な部分(谷)を使用するの。私が “Corpseflower” で行ったことは、同じような考え方に基づいているんだけど、その方法論へのアプローチの仕方は、より抽象的で矛盾した感情を表現している可能性が高いと思うわ」
ラウンジ・ジャズやアダルト・コンテンポラリーがブラックメタルとまぐわう日をいったい誰が想像したでしょうか。Cameron はブラックゲイズの先駆者 ALCEST や DEAFHEAVEN の培った”山と谷” の方法論を、より高低差の大きい相反する二極での実験へと進化させました。自分が何者かを学び、未来の自分に折り合いをつけるため、彼女は映画のサウンドトラックのような眩くもキャッチーなジャズの煌めきと、暗闇に蠢くブラックメタルの牙をためらいなく混ぜ合わせ、美と暴力の混沌の中で自分自身を遂に見つけたのです。
そのシンプルで複雑な、ヒプノティックで没入感に満ち、即興的で筋書きのある光と闇のドラマは、そうしていつしかリスナーの人生まで抱きしめて、すべてを肯定していくのです。
「今日のブラックメタル・アーティストが生み出すサウンドにとって非常に重要な存在だよ。彼らが歩いたから、私たちは走ることができた。当時、音楽に許されていた限界を超えようとした彼らの意欲に、私は心から感謝しているのよ。彼らは、それまで探求されていなかったエクストリーム・ミュージックの隠れた可能性を明らかにしてくれたんだからね」
皮肉なことに、かつて最もプログレッシブから遠い世界と思われたブラックメタルは激しく変化し、今では最も進歩的なメタルサウンドを響かせています。DEAFHEAVEN や ALCEST のシューゲイザー、ZEAL & ARDOR のゴスペルとソウル、IMPERIAL TRIUMPHANT や KRALLICE, LITURGY のジャズ/現代音楽。そんな混乱するほど魅力的で複雑なブラックメタルの枝葉において、CICADA THE BURROWER はむしろダークウェーブやブラックゲイズを取り入れたジャズともいえる前衛的世界観で稀有な果実を実らせました。
リスクを冒す価値はありました。ここには、存在の本質的な寂しさ、選択の自由という野蛮な牢獄、そして心の季節の移り変わりが崇高なまでに如実に描かれているのですから。そうして蝉の幼虫は、暗い穴からゆっくりと、ゆっくりと木の幹を登っていきます。
今回弊誌では、Cameron Davis にインタビューを行うことができました。「セミは、一生の大半を地中に潜って過ごし、死ぬ数週間前に地上に出てきて、空を飛ぶ大きな生き物に変身する魅力的な虫。私はいつもこの生き物に共感していて、自分自身もまだ地下に潜っている人間だと思っているの。だから、私はこのプロジェクトを “Cicada the Burrower” “穴の中の蝉” と呼ぶことにしたんだよね」どうぞ!!

CICADA THE BURROWER “CORPSEFLOWER” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CICADA THE BURROWER : CORPSEFLOWER】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARA NEIR : PHASE OUT】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GARRY BRENTS OF CARA NEIR / GONEMAGE !!

“Here On Phase Out Is The Demonstration Of Him Warping Us Into a Video Game Dimension That He’s Created With The Use Of a Forbidden Device Known As The RPGBOY.”

DISC REVIEW “PHASE OUT”

「今回の作品は、これまでのスタイルとは全く異なるものになったよね。これまでの殺風景なイメージを一新して、自分たちの作ったコンセプトをしっかりと表現できるようにしたんだよね。ゲームソフトの表紙のようなイメージを切り取ったんだ」
“8-bit punk black metal chiptune chiptuneish indie rock lo-fi noise rock pixelcore post-hardcore skramz”。”Phase Out” の Bandcamp にはこれだけ大量の “タグ” が敷き詰められています。テキサスの異端児 CARA NEIR は、これまでブラックメタル、グラインドコア、ポストハードコア、スクリーモといったパレットの色彩からあらゆる不幸の痕跡を抽出し、万華鏡のように世界へと投影してきました。その多様性は時に一貫性のない “骨抜きのブラックメタル” と揶揄されながらも、ついに最も冒険的な “Phase Out” で魅惑と実験のアマルガムを最高の場所まで引き上げたのです。
「”Phase Out” では、ザ・ワンが “RPGBOY” と呼ばれる禁断のデバイスを使って、僕たちをビデオ・ゲームの次元にワープさせてしまったんだ。ゲームボーイのような形をしているけど、操作する人の知恵次第で時空を操ることができる力を持っているんだよ。ザ・ワンはその力を悪用して、RPGバージョンの僕たちを、彼のガントレットのような次元の中に作り出したんだよ。そして僕たちは、彼の病的な娯楽のために、このガントレットの中で競うように服従させられている」
例えば、忍者竜剣伝やドラゴンクエストの一場面を切り取ったようなドット絵のアートワークこそ “Phase Out” への招待状。宿敵の宇宙人 “ザ・ワン” によって RPG の世界に閉じ込められてしまった Garry Brents(ほぼすべての楽器、サンプル、プロダクション)と Chris Francis(ほぼすべての歌詞とボーカル)、つまり CARA NEIR の2人はアルバムを通してビデオゲーム “Phase Out” のクリアーを音楽で試みます。
「いとこと一緒に “マクロス/ロボテック” の卓上RPGをずっとプレイしていたんだ。ペンや鉛筆、紙を使って、マクロスの世界をダンジョンズ&ドラゴンズのスタイルで遊んだことが、子供の頃の自分の想像力の出発点となっているんだよね」
実際、マクロスやスター・オーシャン、クロノ・トリガーといった日本のアニメやゲーム、それに植松伸夫やロックマンのサウンドトラックを聖書として育った彼らの作品には、その息吹が存分に息づいています。レベルアップを告げるブレイクダウン、セーブポイントでのリラックスしたローファイなインストゥルメンタル、命をかけた圧倒的なバトル、スターオーシャンをサンプリングしたスポークンワード、そのすべては8-bitの歪みとファミコンのリヴァーブによって描き出され、子供のころ胸を弾ませたあの冒険へとリスナーを誘います。
ただし、CARA NEIR が連れ出す冒険とは狂った音楽の旅路。ブラックメタルを魔改造したアバンギャルドなサウンドから、チップチューン、サンプル、ジャジーなスウィング、トラップ、スクリーモ、グラインド、アコースティック、ハードコアまで、リスナーがたどり着く街やダンジョンはすべてが多様でユニークに絡まり合い、その魅力を存分にアピールしているのです。そこに一握りのニヒリズムとユーモア、そして現実からの逃避を散りばめながら。
「GONEMAGE はブラックメタルと8-bitサウンドをミックスしたものだけど、よりメランコリックでドリーミーな感じで、特にいくつかの曲ではシューゲイザーを取り入れているよ」
Garry の創作意欲は衰えることを知りません。CARA NEIR のリリースからわずか数ヶ月で完成を見た別プロジェクト、GONEMAGE もシーンの注目を浴びています。同様に8-bitをメタルとクロスさせつつ、よりブラックメタルに特化し感傷的なシューゲイズの響きも取り入れた “ピクセルコア” のサウンドは、実に奇抜でしかし心を激しく揺さぶられます。
今回弊誌では、Garry Brents にインタビューを行うことができました。「音楽的に大きな影響を受けているのは、常に ULVER だよ。今までで一番好きなバンド。彼らは常に変化し続けるバンドで、無意識のうちに自分の音楽や CARA NEIR のためにそのことを心に留めていたんだと思うよ」 どうぞ!!

CARA NEIR “PHASE OUT” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CARA NEIR : PHASE OUT】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【WRECHE : ALL MY DREAMS COME TRUE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN OF WRECHE !!

“I Think Within Black Metal, The Piano Opens Up Patterns Of Notes That Appear Like Tremolo Riffs, But Sustain a Greater Wealth Of Musicality – Also, Being That The Piano Notes Immediately Die Off After Being Played Unlike a Guitar That Has Sustain, The Athleticism Is Appealing.”

DISC REVIEW “ALL MY DREAMS COME TRUE”

「ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ」
“もしもブラックメタルで、トレモロ・リフを弾くギターの代わりにピアノを使ったら?” WRECHE の “All My Dreams Come True” は、そんな荒唐無稽でしかし好奇をそそる If の音夢を文字通り実現する物怪の幸いです。それだけではありません。アルバムにはピアノだけでなく、現実的な絶望苦悩に満ちたボーカル、シンセサイザーの神秘的で壮大なレイヤーが敷きつめられて、ブラックメタルでありながらブラックメタルの常識をすべて覆す、ジャンルにとって青天の霹靂ともいえる領域にまで到達しているのです。とはいえ、あくまでも手段は手段。儚さ、苦しみ、怒り、そして神秘的な体験という感情の肝は、たしかにこの場所に同居しています。
「僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ」
WRECHE の中心人物である John Steven Morgan は、Bandcamp ページにおいて、シュールレアリストであり、神秘主義者としても知られるヘンリー・ミラーの言葉を引用しています。”歌うためには、まず口を開かなければならない。肺があって、音楽の知識が少しあればいい。アコーディオンやギターを持っている必要はない。肝心なのは、歌いたいと思うこと。これが歌だ。私は歌っている”。今しかない、今はじめろ、今を生きろ。John がアルバムに込めたポジティブなメッセージは、音楽同様ブラックメタルの典型とは明らかに距離を置いていました。
「すべてが揃っていても、”歌いたい” という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。そしてそこから僕はミラーの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから」
隠喩としてだけではなく、音楽自体も “All My Dreams Come True” はヴォーカルに重きが置かれています。荒々しき “Schrezo” では、不協和なピアノラインに、苦悩に満ちた叫び声が重なります。ピアノの和音は絶えず背後で鳴り響き、ドラムのダーティーなシンバルは緊急事態を表現。この混沌とした状況の中で、トラックの大半をリードするのがスクリームであり、フィードバックとの相互作用が実に面白く、圧迫感のあるものとなっているのです。”肝心なのは歌いたいという気持ち”という言葉が、John の情熱と献身が、ハードコアの獰猛まで抱きしめたこのトラックを通して実によく伝わってきます。
一方で、アルバムの神秘性は、苦しみの裏返しとして、より “美しく” 儚い曲で伝えられていきます。”Mysterium” と名付けられた楽曲は、半音階的でハープにも似たドリーミーなピアノの音で幕を開け、万華鏡のピアノとシンセが楽曲の階段を駆け上がり、ブラックメタルが探求できる経験の底辺から、ブラックメタルが実現できる表現の高みまでを幻想的に描き切ります。
「僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね」
John はそう嘯きますが、醜さ狂気、暴力と同時に彼の鍵盤は神々しき美麗や荘厳、そして現実に残された一握りの希望までを的確に表現しています。暴力の天頂、宇宙の壮大、サイケデリックな夢、孤独、痛み、苦悩、悲しみ。対比というよりも、クラッシック、マスロック、ジャズ、ハードコアを通過したがゆえの多様な感情のスープでしょうか。そうして WRECHE は、ブラックメタルというジャンルの音楽的背景を、目を見張るような方法で変貌させ、拡張し、揺さぶり、前へと進めました。彼の言葉を借りれば、メタルに宿る無限の可能性を引き出したのです。
今回弊誌では、ほぼすべてを一人でこなす John Steven Morgan にインタビューを行うことができました。「クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね」 どうぞ!!

WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE” : 10/10

INTERVIEW WITH JOHN STEVEN MORGAN

Q1: This is the first interview with you. So, at first could you tell us about yourself? What kind of music were you listening to, when you were growing up?

【JOHN】: Yeah! Thanks for having me here. I grew up in a small rural desert town in CA, USA. I really loved Beethoven as a child (well the more popular pieces like Moonlight Sonata), but the bread and butter for me was listening to bands like The Doors, Queen, Boston, ELO, The Beatles, and Led Zeppelin. My dad and I would listen to classic rock on the radio on the way to school or when we were working outside on the property. My first obsession in music was Pink Floyd in high school – especially their psychedelic albums (Piper thru Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother).

Q1: 本誌初登場です!まずはあなたの音楽的なバックグラウンドからお話ししていただけますか?

【JOHN】: インタビューをありがとう。僕は、アメリカのカリフォルニア州にある小さな砂漠の田舎町で育ったんだ。子供の頃はベートーヴェンが大好きで(”月光” のような人気の高い曲も) 。僕にとっての糧は DOORS, QUEEN, BOSTON, ELO, BEATLES, LED ZEPPELIN みたいなバンドを聴くことだったね。
僕と父は、学校に行く途中や、外で敷地内の作業をしているときに、ラジオでクラシック・ロックを聴いていたんだよ。最初に音楽に夢中になったのは、高校時代に聴いた PINK FLOYD だったね。特にサイケデリックなアルバム(Ummagumma/ Meddle/ Atom Heart Mother)が好きだったよ。

Q2: You seem to be able to play a variety of instruments, how did you learn how to play them?

【JOHN】: I started piano at 15 and drums around the same time (playing on pots and pans), over time I just really loved to play and it was a great way to find respite from school or sports – then it became a full on passion by the time I turned 18 and started playing / improvising with Barret Baumgart. I just taught myself how to play the instruments and as time went on, I started self-study of Classical music, especially Beethoven. I both listened and read the scores to learn how they achieved certain effects and moods, and how they propelled the music forward through modulation.

Q2: あなたは様々な楽器を演奏できるようですね?

【JOHN】: 15歳でピアノを始め、同じ頃にドラムも始めたんだ。ドラムは鍋やフライパンで演奏していたんだけど。そのうちに演奏することが本当に好きになって、学校やスポーツの合間の息抜きになっていたね。18歳になって Barret Baumgart と一緒に演奏、即興演奏をするようになってからは、完全に音楽に対して情熱的になったんだよね。
楽器の演奏方法は独学で学んだんだけど、時間が経つにつれ、クラシック音楽、特にベートーヴェンを独学で研究し始めたんだ。スコアを聴いたり読んだりして、どうやって特定の効果やムードを生み出したのか、またどうやって転調させて音楽を前進させたのかをね。

Q3: What inspired you to start Wreche? What’s the meaning behind your band name Wreche?

【JOHN】: Well, Barret Baumgart and I started Wreche with our 2017 self-titled album – it was an extension of our 2008 band Architeuthis (which was also piano & drums, just instrumental). He went off to grad school and I was working on other things, but around 2015 we decided we wanted to do another project more in the metal vein. I also wanted to work in a genre that served my ambitions as a pianist and composer – and metal seemed pretty limitless, and still is in my opinion. The meaning behind the band name is “misery” – Wreche is the middle english spelling of wreak – as in to wreak havoc, or befell with great sadness/misery (from the Oxford English Dictionary). I was sad at the time I came up with it haha.

Q3: WRECHE を始めたきっかけを教えていただけますか?

【JOHN】: Barret Baumgart と僕は2017年のセルフタイトル・アルバムで WRECHE を始めたんだけど、これは2008年に活動していたバンド ARCHITEUTHIS(ピアノ&ドラムのインストゥルメンタル)の延長線上にあったんだ。
彼は大学院に行き、僕は他の仕事をしていたんだけど、2015年頃に、もっとメタルの流れを汲む別のプロジェクトをやりたいと思ってね。僕は、ピアニストや作曲家として自分の野心を満たすようなジャンルで仕事をしたいと思っていたんだけど、メタルはそういう意味でかなり無限の可能性を秘めていると思ってね。
バンド名に込められた意味は “不幸” だよ。 中世で Wreak は Wreche と綴られていて、「大混乱を引き起こす」「大きな悲しみや不幸に見舞われる」という意味を持っていたんだ。オックスフォード英語辞典からの引用だけど。この名前を思いついたとき、僕は悲しかったんだよ。

Q4: One of the unique aspects of Wreche is that you use the piano as your main instrument instead of the guitar, even though it’s black metal. Why did you go for such an idea?

【JOHN】: I really love metal, but I don’t play guitar! However, as Barret and I discovered over the years, my playing style really lends itself more to the metal genre than say jazz or classical. I love banging on the thing and I’m a pretty violent player.

Q4: WRECHE は、なんと言ってもブラックメタルにもかかわらず、ギターの代わりにピアノをメインの楽器として使用しているところが非常にユニークですよね?

【JOHN】: 僕はメタルが大好きなんだけど、ギターが弾けないからね!だけも、Barret と僕が長年にわたって発見してきたように、僕の演奏スタイルは、ジャズやクラシックよりもメタルのジャンルに適しているんだよね。僕は鍵盤を叩くのが大好きで、かなり暴力的なプレイヤーだからね。

Q5: In fact, guitar tremolo riffs are an iconic part of black metal, are you using the piano as an alternative or something completely new? Within the framework of black metal, is there something that can be expressed only with the piano?

【JOHN】: There’s a few sections in “Les Fleurs mov.2” where I purposefully emulate tremolo guitar riffs (as a sort of homage or quote to black metal). Otherwise, yeah it was difficult in some ways to adapt my playing further into the black metal style – especially in terms of subbing for tremolo riffs. I needed a way to create constant motion on the piano. I did this by implementing arpeggios and various triplet or quadruplet double hand patterns to create a moving base for the music to stand on, and to keep up with blast beats. I hope this hits people as completely new – I have never seen the piano used this way in metal before…usually it’s just for pretty little interludes or ballads. I think within black metal, the piano opens up patterns of notes that appear like tremolo riffs, but sustain a greater wealth of musicality – also, being that the piano notes immediately die off after being played unlike a guitar that has sustain, the athleticism is appealing. You have to keep moving to create vast clouds of energy. This is something the piano does that guitars cannot – each note is like a small shard of glass in a mosaic because of the nature of the instrument’s sustain.

Q5: 実際のところ、ギターのトレモロ・リフはブラックメタルの象徴とも言えますが、あなたはピアノをその代用としているのでしょうか?それともピアノならではの表現を模索しているのでしょうか?

【JOHN】: “Les Fleurs mov.2” では、ブラックメタルへのオマージュや引用として、意図的にトレモロ・ギターのリフを模倣した部分がいくつかあるね。ただ、それ以外の部分では、自分の演奏をさらにブラックメタルのスタイルに合わせるのは難しい面があったのは確かだよね。トレモロ・リフという意味ではね。
だから、ピアノに一定の動きを持たせる方法が必要だったんだ。そこで、アルペジオや3連、4連の両手のパターンを導入して、音楽の土台となる動きを作ったり、ブラストビートに合わせたりしたんだよね。今までメタルでこのようにピアノが使われたことはなかったよね。インタルードやバラード以外では。みんなが完全に新しいと感じてくれればいいな。
ブラックメタルでは、ピアノはトレモロ・リフのような音のパターンを開拓しながら、より豊かな音楽性を維持することができると思うんだ。サスティーンのあるギターと違って、ピアノは弾いたらすぐに音が消えてしまう。そのために必要となる運動性の高さも魅力だよね。膨大なエネルギーの雲を作るためには、動き続けなければならない。これは、ギターにはできないピアノの特徴だよ。サスティーンがないからこそ、一音一音がモザイクの中の小さなガラスの破片のようになるわけさ。

Q6: The title “All My Dreams Come True” and the artwork of flowers are far from typical Black metal images, and also very impressive. Can you tell us about the concept of the album and the theme of the lyrics?

【JOHN】: Yes! They are distant from standard black metal imagery. I’m not that into the fantasy/escapist side of black metal, even if I did put flowers on the cover. I really wanted to express what was around me in the city (and even the US) on this album – the widespread poverty and despair, people being tricked by their religious leaders and the politicians backing them, all while there’s tent cities everywhere, abject cruelty. It is so sad. The flowers were a gift to me and I took the photo years before the album was finished. However, the more I thought about life, the more I saw it in relation to the flowers. They live and die, they are put on your grave as a final statement, they grow from last year’s dead detritus every spring as a sign of new life. It was a perfect metaphor for the past/present/future – the cycle of life. The title reflects this – rather than waiting for the afterlife, or some invisible future, it is an urge to see what is in front of you, to be present in your surroundings. It is easy these days with social media to feel so isolated, un recognized – as if your dreams and goals are constantly further away from you because of the comparisons you may make to other people’s successes – all right in your face 24hrs/day. It is a call to throw out fantasy/future planning for some distant plain of transcendence, merely existing for the next day, and realize that this earth, this time we have here, is both heaven and hell. There is no afterlife. Only now. All my dreams came true because I am here..

Q6: アルバムのタイトルである “All My Dreams Come True”、それにこのアートワークはブラックメタルの典型的なイメージとは程遠いですよね?

【JOHN】: そうなんだよ!標準的なブラックメタルのイメージとはかけ離れているよね。ジャケットに花をあしらったとしても、僕はブラックメタルのファンタジーや逃避的な側面にはあまり興味がないんだよね。貧困と絶望が蔓延し、宗教指導者とそれを支持する政治家に騙され、いたるところにテント村があり、残酷な行為が行われているという、僕の身の回りにある世界をこのアルバムで表現したかったんだ。とても悲しいことだよ。
この花は僕がもらったもので、アルバムが完成する何年も前に撮影したんだ。その間に、人生について考えれば考えるほど、この花との関連性が見えてきたんだよね。花は生きて死に、最後の意思表示として墓に供えられ、毎年春になると去年の枯れた残骸から新しい生命の証として成長していく。それは、過去・現在・未来、つまり生命のサイクルを表す完璧なメタファーだったんだ。死後の世界や目に見えない未来を待つのではなく、自分の目の前にあるものを見て、世界の中に存在したいという衝動が、このタイトルには込められているんだよ。
SNS が発達した昨今では、自分が孤立しているように感じたり、認識されていないように感じたりすることがよくあるよね。他人の成功と比較することで、自分の夢や目標が常に遠くにあるように感じてしまうんだ。
これは、空想や将来の計画をどこか遠くの超越した場所に投げ捨て、ただ次の日のために存在するだけで、この地球、この時間が天国でもあり地獄でもあることを理解するように呼びかけるアルバムだ。死後の世界なんてないよ。今しかない。僕がここにいるからこそ、すべての夢が叶うんだ。

Q7: At Bandcamp, you quoted Henry Miller’s words. It seems to imply the importance of vocal and lyrics in your mind, would you agree?

【JOHN】: In a lot of ways yes, but I meant it more in terms of making art. The lyrics are very important to me because they voice best what I want to say about the world and my place in it – my personal experiences and observations. The quote for me (which isn’t the objective meaning of course), puts importance on the will to do something less the requisite materials. You could have everything, but if the “want to sing” isn’t there, it means nothing. Also, I see that quote in terms of how something is to be started, or manifested as a work of art, or anything in life for that matter – you simply begin and then it becomes.

Q7: Bandcamp のページであなたはヘンリー・ミラーの言葉を引用していますよね?あなたの中の、歌や歌詞の重要性を隠喩しているように感じました。

【JOHN】: いろいろな意味でまあそう取れるよね。だけど、僕はアートを作るという意味でより多くのことを考えたんだ。歌詞は僕にとって非常に重要なもので、世界とその中での自分の居場所について言いたいこと、つまり個人的な経験と観察を最もよく表しているからね。
僕にとってミラーのこの言葉はもちろん客観的な意味ではないけれど、必要な材料がなくても何かをしようとする意志を重要視しているんだよ。すべてが揃っていても、「歌いたい」という気持ちがなければ何の意味もないわけだから。
そしてそこから僕はこの言葉を、何かを始めるとき、あるいは芸術作品として表現するとき、あるいは人生において何かを行うときの方法として捉えているんだ。ただシンプルに、始めることが実現への第一歩だから。

Q8: With the emergence of Alcest and Deafheaven, black metal has continued to spread and diversify. You are one of such a new generation, what does the first generation of Inner Circle and evil legends mean to you? Have you ever seen the movie “Lord of Chaos” ?

【JOHN】: Definitely haha! The movie was pretty good. The documentary “until the light takes us” is pretty good too. To me, some of the music still holds up and is really good, but ultimately , they were for the most part (with exceptions like that guy Gaahl) a bunch of suburbia kids running around causing mayhem spreading neo polytheistic, and for some – racist, and homophobic ideas; burning down churches to reclaim their heritage from the crusading Jesus pushers back in 1200AD. Not sure if those bloodlines still run, but I do understand how horrific the christian crusades were – erasing entire cultures in order to replace their history with the Bible’s history, and they did it all over the world. Still, the music was great, the atmosphere was great, though I think kids like that are/would have been diametrically opposed to people like me. One thing I do agree with is the anti-capitalist sentiment.

Q8: 映画 “Lord of Chaos” はご覧になりましたか?
ALCEST や DEAFHEAVEN の登場でブラックメタルは多様化と拡散を続け、あなたもそういったアーティストの1人ですが、第1世代のインナーサークルや狂気にかんしてはどう感じていますか?

【JOHN】: もちろん見たよ!ハハハ! 映画はかなり良かった。ドキュメンタリー映画の “Until the Light Take Us” もいいよね。
僕にとっては、いくつかの当時の音楽は今でも残っていてとても良いと思うんだ。だけど結局のところ、Gaahl のような例外はあるにしても彼らは、新多神教を広めて騒乱を起こしながら走り回る郊外のキッズ集団であり、一部の人にとっては人種差別的で同性愛嫌悪的な考えであり、西暦1200年に十字軍に参加したイエスの押し売りから自分たちの伝統を取り戻すために教会を焼き払っていたわけだよね。
もちろん、その血筋が今も続いているかどうかはわからないけど、キリスト教の十字軍がどれほど恐ろしいものだったかは理解しているよ。彼らの歴史を聖書の歴史に置き換えるために、文化全体を消し去り、それを世界中で行ったんだからね。
音楽は素晴らしかったし、雰囲気も良かった。でも、あのようなキッズたちは、僕のような人間とは正反対だったと思うよ。一つだけ同意できるのは、反資本主義的な感情かな。

FIVE ALBUMS THAT CHANGED JOHN’S LIFE

HELLA “HOLD YOUR HORSE IS”

THE BAD PLUS “SUSPICIOUS ACTIVITY?” “PROG”

PINK FLOYD “MEDDLE”

ULCERATE “VERMIS”

BEETHOVEN “SONATAS”

MESSAGE FOR JAPAN

Thank you so much for reading this! It has been my desire to reach people in Japan ever since 2007 – I was very much into Hella and they toured Japan and made a DVD called Homeboy/Concentration Face. I could not believe the enthusiasm for such a strange band! In America, Hella shows were not packed, but in Japan they were. It made me respect the culture and the open minded approach to life and art. I thought that maybe one day, I can get my music out there because I think people will give it a chance. So, I hope you all enjoy the new record and I hope to get out there to play live one day.

読んでくれて、本当にありがとう。2007年に HELLA に夢中になり、彼らが日本をツアーして “Homeboy/Concentration Face” という DVD を作ったときから、日本の皆さんに僕の音楽を届けたいと思っていたんだ。
ああいった奇妙なバンドが熱狂的な支持を受けるなんて信じられなかった。アメリカでは、HELLA のショーは満員ではなかったけど、日本では満員だった。それを見て、僕は日本の文化や、人生や芸術に対するオープンマインドなアプローチを尊敬したんだよ。いつか自分の音楽を世に出せるかもしれない、そうすれば日本の人々はチャンスを与えてくれるだろうと思ったんだ。
だから、みんなが新譜を楽しんでくれることを願っているし、私もいつか日本でライブをしたいと思っているよ。

JOHN STEVEN MORGAN

WRECHE Official
WRECHE Bandcamp
DIES IRAE WRECHE “ALL MY DREAMS COME TRUE”

mmmB5dvKwaCcAEznJZ

PLZ FOLLOW US ON FACEBOOK !!

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RUINS OF BEVERAST : THE THULE GRIMOIRES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEXANDER VON MEILENWALD FROM THE RUINS OF BEVERAST !!

“We Were Teenagers And Fairly Easily Manipulable, And an Extreme Movement Coming From Obscure Scandinavia, That Was Surrounded By Kind Of an Occult Aesthetic And an Almost Radical Anonymity And Secretiveness, Seemed Overwhelmingly Fascinating To Us.”

DISC REVIEW “THE THULE GRIMOIRES”

「自分がやっていることがブラック・メタルのルールに則っているかどうかは、あまり意識していない。もちろん、NAGELFAR 時代にもそうしていたんだけど、THE RUINS OF BEVERAST は最初から巨大な音の風景を構築することを目的としていたから、限界を感じるものは直感的に無視しようとしていたのだと思うな。そして、何よりもまず制限となるのは、ジャンルのルールだからね」
ジャーマン・ブラック・メタルの伝説。Alexander von Meilenwald の落とし胤 THE RUINS OF BEVERAST は、長い間メタルの海岸線を侵食しながらアンダーグラウンドの美学を追求してきました。ブラック、デス、ドゥームに、サイケデリックな装飾や多彩なサウンドスケープ、サンプルを宿しながら綴る、音のホラー小説。
デビューアルバム “Unlock the Shrine” の広大なアトモスフィアから、15世紀ドイツの異端審問を描いた “Blood Vault – The Blazing Gospel of Heinrich Kramer” のコンセプチュアルな作品まで、Alex の言葉を借りれば、自然や世界を聴覚的に表現する音楽はアルバムごとにそれぞれの独特な感性を備えています。
「俺はいつもゼロからのスタートなんだ。いつも、新しいアルバムのためのビジョンを描き、それが創造的なプロセス全体の地平線として設定される。そして、先ほど言ったように、それは以前の作品とは全く関係がないんだ。」
Alex の6度目の旅路 “The Thule Grimoires” は、これまでのどの行き先よりも楽曲を重視し、アイデアを洗練させ、多様であると同時に即効性のある目的地へと向かいました。スラッジの破壊と暗く壮大な混沌のドゥームを探求した “Exuvia” とは異なり、”The Thule Grimoires” は初期の生々しいスタイルを再度回収しています。では、Alex は過去の寄港地、ブラックメタルのルーツにそのまま戻るのでしょうか?それともトライバルでサイケデリックな領域をさらに旅し続けるのでしょうか?圧倒的で落胆に満ちたドゥーム・アルバム? メタルではなくアンビエントなテクスチャーに根ざした何か?答えはその全てです。
「ブラック・メタルが重要じゃないわけじゃないんだ。”Ropes Into Eden” の冒頭を聴いてみると、かなり古典的なブラックメタルのパートだけど、同時に見慣れない要素によって拡張されている。これはすべてオートマティックに起こることさ」
アグレッシブなテンポ、ブラスト・ビート、そしてトレモロ・リフに大きな重点を置きながら、美しく録音された作品には、フューネラル・ドゥームの深い感情を呼び起こすような、不安になるほど酔いしれた雰囲気が漂っています。ただし、テンポが速くなったことでこれまで以上に素早くシーケンスからシーケンスへと飛び移ることが可能となり、その結果、楽曲は様々な影響が回転ドアのように目まぐるしく散りばめられているのです。
「俺の音楽人生には何度か、必ずポップ、シンセウェーブ、ポスト・パンクの衝撃が戻ってきているんだ。NAGELFAR の “Srontgorrth” アルバムや、初期の THE RUINS OF BEVERAST のリリースでも、少なくともゆるやかには存在していたからね。ただこのアルバムでみんながこれほど “ノン・メタル” な影響を確認する主な理由は、クリーンなボーカルだと思うんだ」
アルバムは陰鬱なスペース・ロック、”Monotheist” 時代の CELTRC FROST、さらには80年代のゴス・ロック、ポスト・パンク、シンセ・ポップからも影響を受けています。しかし、すべてのスタイルを支えているのは、鼓動するブラックメタルの心臓。
例えば “Polar Hiss Hysteria” ではトレモロの嵐とサイケデリックなリードがバランスよく配置されており、膨らんだ緊張感はそのままドゥーム・メタルに身を委ねていきます。クリーン・ボーカルも、アルバム中盤のハイライト “Anchoress in Furs” の見事なコーラスのようにより強調され、不協和音のコーラス讃歌にサイケデリックなギター、Alex の奇妙に高揚したバリトン・ヴォイスが万華鏡のような泥沼を創造します。
「俺はあのバンドを心から尊敬しているし、Peter Steele は “俺たち” の音楽世界でら最も非凡で傑出した人物の一人だと思っているんだよ。彼の黙示録的な皮肉は独特で、彼の声も同様に独特だった。完全に他にはないものだったね。だからこそ、俺は彼の真似をしようとは思わなかったんだ。”Deserts To Bind And Defeat” の冒頭では、俺の声をできるだけ深いトーンで表現することにしたんだよ」 そしてもちろん、TYPE O NEGATIVE。
今回、弊誌では Alexander von Meilenwald にインタビューを行うことができました。「ブラック・メタルのムーブメントが始まったとき、俺たちはノルウェーについてできるだけ多くのことを知りたいと思った。突然、ほとんどすべての人が、スカンジナビアから生まれた創作物を賞賛することに同意したんだからね。俺たちはティーンエイジャーで、簡単に影響をうける年ごろだった。オカルト的な美学と、匿名性と秘密性に包まれた、無名のスカンジナビアから生まれた過激なムーブメントは、俺たちにとって圧倒的に魅力的なものだったんだ」 ブラックメタルが贈る審美の最高峰。どうぞ!!

THE RUINS OF BEVERAST “THE THULE GRIMOIRES” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE RUINS OF BEVERAST : THE THULE GRIMOIRES】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AD NAUSEAM : IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH AD NAUSEAM !!

“We Would Like To Contribute Bringing Metal Music Sound Approach To a Different Level In The Future. There Are Many Listeners That, Like Us, Are Deeply Tired By The Fake Plastic Sounding Records That Are Trending Since The Last 20 Years.”

DISC REVIEW “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE”

「将来的には、メタルのサウンド・アプローチを別のレベルに引き上げることに貢献したいと考えているよ。僕たちと同じように、過去20年間のトレンドである偽のプラスチック・サウンドのレコードに深く疲れている多くのリスナーがいるからね」
機械化されたダンス・ミュージックも、そのバカげた単調さも、そんな音楽を使うクラブも、すべてが100% 大嫌いなんだ。アナログの録音を極めたエンジニア、かの Steve Albini はかつてそう言い放ちました。デジタルに支配された我々は、たしかに繊細で温もりのある生のレコード、その音響を忘れつつあるのかもしれません。それは、耳に鮮やかな添加物にまみれた、メタル世界も同様でしょう。
「ここ数年、メタルの中で音質の平均値が大きく下がっているから、僕たちのようなアルバムは目立ちやすいんだろうな。例えば、ダイナミクスを重要視している作品はほとんどないよね」
近年、その実験精神とこだわり抜いたコンセプトで注目を集めるイタリアのメタルシーン。中でも、”吐き気がするまで追求する” をバンド名に掲げる AD NAUSEAM の献身はもはや狂気の域でしょう。現状に不満があるなら、自ら創造する。ここには、大げさで滑稽な偽物のプロダクションは存在しません。アーティスト本人がエンジニアリングを学び、専用のスタジオ・マシン、キャビネット、アンプ、ドラムキット、さらにはマイクの設計にまで趣向を凝らしたスタジオを建設。すべてはただ、自らが心地良いと感じるサウンドを構築するためだけに、AD NAUSEAM は途方もない労力を注ぎ込んだのです。チューニングも既存のものとはかけ離れています。
「いくつかのオーケストラ・パート( “Sub Specie Aeternitatis” の最後と “Inexorably Ousted Sente” の最初)は、60以上のヴァイオリンを重ねて、彼自身が1つずつ録音したものなんだよ」
6年の歳月をかけて制作された最新作 “Imperative Imperceptible Impulse”。Bandcamp で販売されている “フル・ダイナミック・レンジ” のアルバムを聴けば、この作品が現代のメタル・サウンドとは全く趣を異にする音の葉を響かせることに気づくはずです。
全体の音量は隅々まで見渡せるようにコントロールされ、さながら精巧なタペストリーのごとくすべての楽器が入念に折り重ねられています。ドラムの幽霊音、ギターの息遣い、そしてベースの呪詛まで、生々しく肉感的な三次元の重苦しいオーケストラは、そうしてリスナーの部屋までライブの興奮を運んで来るのです。実際、その録音手法はクラッシックの原理。
「メタルに様々なジャンルのダークな不純物を加えて溶かしたいという本質的な衝動は、最初は不十分な試みだったけど、たしかにそこにあったんだ。新しいものを作るには、自分の限界から一歩踏み出さなければならないことを理解するべきさ」
アルバムは、例えば LITURGY, 例えば KRALLICE, 例えば IMPERIAL TRUMPHANT といった今メタルシーンを牽引する複雑怪奇な NYC の魑魅魍魎とシンクロし、奇しくも同じ方向を向いています。デスメタルやブラックメタルと、ジャズや現代音楽の不協和な錬金術。ただし、NYC の新鋭たちが意図的にラフでアンダーグラウンドなイメージをそのサウンドに残しているのに対し、AD NAUSEAM の合成法は実に緻密で繊細。
テクニックの粋を尽くしながらギターソロさえ存在しないダークな音の不純物は、奇抜に躍動しながらもすべてが正確無比な譜面の中へパズルのように収まります。それは、NEUROSIS とGORGUTS の踊る地獄のの祭典でしょうか。ストラヴィンスキーはひとつのキーワードでしょう。マスコアやテクデスの洗礼も浴びながら、ヌルヌルと蠢く百鬼夜行が奏でる呪詛は、そうしてリスナーを吐き気がするまで何度もリピートへと誘うのです。
彼らにいわせれば、単なるリフの連続ではなく、音が過去を参照したり、未来を予測したりする秩序。不調和によって和声が得られ、不協和音によって旋律が得られるような音楽。真のアヴァンギャルド。
今回弊誌では、AD NAUSEAM にインタビューを行うことができました。「このアルバムは、18年間の研究と実験の結果なんだ。Steve Albini のサウンド哲学は、僕たちの哲学ととても近いものがある。自分よりも優れた人から学ぼうとするのは自然なことだよ。そして、彼はおそらくこの業界で最高の人だ」 どうぞ!!

AD NAUSEAM “IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE” : 10/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【AD NAUSEAM : IMPERATIVE IMPERCEPTIBLE IMPULSE】