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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【DREAMWAKE : THE LOST YEARS】


COVER STORY : DREAMWAKE “THE LOST YEARS”

“Wavecore Is Essentially The Mixture Of Synthwave And Metalcore. We Just Took The Two Coolest Sounding Words From Both Of Those And Put Them Together.”

WAVECORE

2025年のヘヴィ・ミュージック・シーン。多くのモダン・メタル・バンドが創造的なことをしているのを目にします。SLEEP TOKEN はメタルに強烈でポップなオーラをもたらし、ELECTRIC CALLBOY はヘヴィ・ミュージックをパーティーに変えていきます。また、ICE NINE KILLS はメタルのスタイルでホラーに命を吹き込んでいます。
そして4年前、シンセ・ウェーブへの強烈な愛と情熱をメタル・コアのスタイルに融合させたバンドは今、そのアイデアを広げただけでなく、サックスを全面的に取り入れ、彼らのブランド “ウェーブ・コア” のアーバンでセクシーなサウンドを開花させました。
メタル・コアにプログレッシブなアプローチを取り入れ、そこにシンセウェイヴやサックスパートを持ち込む野心。コネチカットの DREAMWAKE は2018年以降、そのサウンドと野心を見事にスケール・アップさせてきました。セカンド・アルバム “The Lost Years” では、まさに独自の進化を遂げたメタルの構築に成功。彼らの “ウェーブ・コア”サウンドは、メタル・コアのヘヴィネスとシンセウェイブの温かくノスタルジックなフィーリングをカップリングしたもので、まさに唯一無二の取り合わせ。まず、ウェーブ・コアとはどういったジャンルなのでしょうか?ギタリストの Dave Pazik が答えます。
「ウェーブ・コアとは、基本的にシンセ・ウェーブとメタル・コアのミックスだ。 シンセ・ウェーブとメタル・コアの中で、最もクールな響きを持つ2つの言葉を一緒にしたんだ。それでウェーブ・コアになった。 少しずつ定着し始めているね。シンセ・コアやレトロ・コアを使う人もいるけど、僕らはウェーブ・コアが気に入っている。それがこのバンドの本質なんだ。 僕らは典型的なメタルコア・バンドよりも少し多くのことをやろうとしている。 メタル・コアは僕らが大好きなものだけど、シンセ・ウェーブの要素を加えて、僕らのアートの原動力にしたいんだ」
フロントマンの Bobby Nabors も付け加えます。
「シンセウェーブは僕らの人生の中でとても大きな部分を占めている。 僕らはみんな、2017年にリリースされた “Nocturnal” で THE MIDNIGHT というバンドを知ったんだ。 僕たち全員が初めてそれを聴いて、音楽的にも人間としても変わったんだ。僕らの人生、キャリア、そして目標において、とても重要なポイントだった。 このアルバムは、僕たちがバンドとしての本当のアイデンティティを見つける手助けをしてくれたんだよ。僕たちはまだまだ拡大し、成長し、実験していくような気がするけど、超自然に真摯に僕たちの心と魂を完全に注ぎ込むことができるものを見つけたんだ。とても情熱を持っているよ。シンセ・ウェーブは DREAMWAKE の大きな部分を占めていて、これからもこの要素を加えたいと思っているんだ」

メタル・コアとして始まり、そこにシンセウェーブを加えたのでしょうか?Bobby が答えます。
「僕ら3人は、このバンドを結成する前にも複数のバンドをやっていたんだ。シンセを取り入れたバンドもあったけど、ほとんどはストレートなメタル・コアだった。それからバンドを始めて、EP “Dark Thoughts in Vibrant Minds” をリリースして、自分たちの本当のサウンドというか、少なくとも方向性を見つけることができた。でも、その中の何曲かはただのストレートなメタル・コアだった。 方向性が定まっていなかったんだ。実際にサックスを使って少し実験してみるまではね。サックス奏者 Jesse Molloy は、僕たちのすべてのレコーディングに参加してくれている。確か “Paradise” という曲で実験的に彼に声をかけたんだ。 この曲は春のビーチのようなフィーリングで、僕たちはサックスで一段上のフィーリングにしたかった。うまくいったし、だから僕たちはそれを取り入れて走り出した。Jesse は、それまでメタルはやったことがなかったので、自分とはまったく違うものだと言っていたけどね。こうして DREAMWAKE のサウンドが誕生したんだ。 サックスはかなり大きな存在だけど、シンセ・ウェーブで自分たちのサウンドを見つけたんだ」
つまり、DREAMWAKE にとってはメタル・コアと同じくらい、シンセ・ウェーブとの出会いが衝撃的だったのです。Dave が回想します。
「僕らが初めてシンセ・ウェーブに出会ったときのことを覚えている。とてもクールな瞬間だった。友人の車で音楽を聴いていたとき、彼が初めて THE MIDNIGHT を聴かせてくれたんだ。それまであまり聴いたことのない、本当にクールなスタイルの音楽だった。だから僕たちは、自分たちがすでに知っていて大好きなものを使って、シンセ・ウェーブを自分たちのものにする方法を見つけたかった」

Bobby がシンセ・ウェーブに見つけたのは、エモーションとノスタルジアでした。
「感情に訴える音楽に関しては、僕らはみんな本当に情熱的だと思う。僕たちは皆、音楽に何かを求めている。 何かを感じさせてくれるような… シンセ・ウェーブや THE MIDNIGHT、そういったバンドに出会って、一気に世界が広がった。シンセ・ウェーブの音楽の多くには、僕たちが書く傾向にあるものと似たテーマがある。人生、内なる葛藤、物事のダークでヘヴィな側面、でも同時にポジティブであること。ほろ苦さという奇妙なエネルギーがある。ノスタルジックで温かみがあると同時に、ちょっと冷たい感じもする。この作品は感情に左右される音楽で、サックスはその素晴らしい一部だと感じている。感情を引き出してくれる。 それこそが、僕らの音楽の正義なんだ。
サックスが入ると、ひとつのレベルからまったく違う領域になるんだ。鳥肌が立つような感じだ。バンドをやりながら自分たちを表現できることが本当に嬉しいね」
とはいえ、今をときめくあのバンドにも影響を受けています。
「SPIRITBOX, PERIPHERY, ERRA, NOVELISTS といったバンドやアーティストからインスピレーションを受けている。加えて、The Midnight, FM-84, Timecop 1983 といったシンセウェーブ・アーティストからも多くのインスピレーションを受け、プログレッシブ・メタルコアとシンセウェーブ・ミュージックの両方から影響を得ることで、現在のサウンドを作り上げることができたんだ」

モダン・メタルの世界では、多くのバンドが同じように外部から様々な影響を取り入れようとしていますが、不誠実で歪なやり方も少なくありません。しかし、DREAMWAKE は実に自然です。Bobby はこの実験をとても気に入っています。
「ありがとう。 サックスを使った実験は、最初は1回限りのものだったんだけど、曲の感情をうまく引き立てているのを聴いて、僕らのサウンドの永久的な一部にする必要があると感じたんだ。 僕らの曲はサックスがとてもよく合っている。
以前は曲を書いてから、入れる場所をサックス奏者に選んでもらっていた。サックスを入れる場所を決めてもらっていたんだ。でも今回のアルバムでは、彼に楽しんでもらうことにしたんだ。 やりすぎたり、無理強いしたりすることなく、サックスの出番を増やすようにした。以前のレコードよりもサックスを散りばめて、そのメッセージを訴えかけるようにしているんだ」
“The Lost Years” は、前作 “Virtual Reality” よりも様々な点で進化を遂げていると Dave は語ります。
「幅を広げたという感じかな。 サックスやシンセ・ウェーブ、軽めのパートもたくさん書いたけど、ヘヴィなパートも間違いなく増えた。 そういう意味でも幅が広がったと思う。今回は DREAMWAKE のダイナミックさがより広がったと思う。まず、僕らは “Virtual Reality” で自分たちのサウンドを見つけたんだ。今回のアルバムでは、自分たちがやっていることを両極端により強烈な形で届けるにはどうしたらいいか、より意図的で計算されたものにしたのさ」

“The Lost Years” から何を感じ取ってほしいのでしょう?Bobby が答えます。
「”The Lost Years” は人生の “ページめくり” のような気がするね。青春時代から、大人としての自分を発見し、人生の目的を見つける。人生の次のステップを踏み出し、自分が進むべき道を進む。制作中の何年かの間に、僕らはちょっとしたアイデンティティの危機に陥っている。
“The Lost Years” の多くは、痛みや感情、人生の良い年や悪い年について書かれている。しかし、トンネルの中には光もある。怖いけれど、楽観的になること。 地平線の先には、必ず良いことが待っている。人生は前進する。もしこのアルバムを聴いてくれる人がいたら、大丈夫だと感じてほしいし、人生がどんなに苦しくても、怖くても、前に進み続ける理由があることを知ってほしいんだ」
Dave が付け加えます。
「さらにいえば、陳腐に聞こえるかもしれないが、”君はひとりじゃない” というメッセージを発信したかった。年齢を重ね、問題や葛藤を抱えていると、かなり孤立してしまうような気がするんだよ。周りのみんなもそうした苦労をしている。時には結局自分しかいないことに気づくこともある。それは良いことでもあるけれど、誰にでもサポートシステムが必要だし、自分が経験している苦難は一時的なもので、解決できるものだと気づかせてくれる人が必要なんだ。僕らの音楽がそのための逃げ道になったり、苦境に立たされているのは自分だけではないということを誰かにわかってもらうためのプラットフォームになったりするのなら、それは素敵なことだ。それが大きな目標であり、僕たちの活動から受け取ってほしいメッセージなんだよ」

DREAMWAKE にとって、歌詞やメッセージはとても大切なものだと、フロントマンは語ります。
「僕は歌詞を書くとき、それが良いものであれ悪いものであれ、特定の感情を感じない限り何も書けないんだ。無理やり書くことを自分に許さない。書けるのは、音楽を通して納得して、解決するに値する何かを感じているときだけだ。だから歌詞を書くときは、誰がどう解釈してもいいように曖昧に書く。 でも、僕は自分自身の個人的な葛藤や自分の人生で経験していることから歌詞を書いているんだよ。
歌詞はある意味セラピーのようなもの。 自分の考えや感情を処理するためのね。誰だってそれを吐き出す方法が必要だ。僕の方法は幸運にも音楽だ。 歌詞には誇りを持っているし、時間をかけている。僕にとってとても大切なものであり、このアルバム全体がとても重要なものなんだ」
シンセ、サックス、そしてプログレッシブなメロディー。 曲を作るプロセスを Dave が説明します。
「どの曲もスタートが違う気がする。 最近はシンセのメロディから始まる曲が多い。というより、リフから書くことだけは避けるようにしている。むしろ、すでにそこにあるメロディにリフをつけるほうがいい。僕たちはいつも演奏を先に仕上げる。Bobby と僕は10代の頃からずっとそうだった。スタジオに行って、歌詞のない曲を書いて、曲を完成させる。 そうすれば、自分たちのサウンドスケープを作ることができる。 ギター・パートやシンセの多くが、まるでボーカルのメロディーのように歌えることに気づくだろう。 ボーカルを入れる前に、そういうものをたくさん入れるようにしているんだ。なぜなら、初めて聴いたときには気づかないような、サブリミナル的なメロディーが背後にあるからだ」

ボーカリストも、バックの演奏には絶大な自信を持っています。
「インストゥルメンタルの面では、ボーカルがいなくても、僕らの曲は大きな声で語りかけてくるような気がする。何が起こっているのか聴き取れる。僕らの音楽と作曲プロセスには、たくさんのレイヤーがある。 集中しないと聞こえないこともある。そのプロセスには、とても多くの思いが込められているんだ。もちろん、ボーカルがあるときは、とてもいいし、音楽に素晴らしい要素を加えているのだけど、インストゥルメンタルだけを聴いていないと聴こえないようなものがたくさん隠されてしまうんだ。だからファンにはインストゥルメンタルも集中して聴いてほしいと思っているんだ。ある意味、曲を別の視点から聴いているようなものだからね。
どのレイヤーも無駄にはなっていない。僕らの音楽には、ひとつひとつに明確な目的がある。 フィラーもナンセンスもない。それぞれのピースがそこになければならないと感じているんだ。 インストゥルメンタルにはプライドがあるんだ。僕らはバンドで全領域をカバーしようとしているんだ。 トラック内のあらゆるものが常にシュレッドしているようにしたいんだ(笑)。 もしそうでないなら、僕たちはそれをさらに加速させる必要がある。 すべての小品が印象的であってほしい。 どの曲にも驚きを与えたいんだ」
DREAMWAKE は音楽と歌詞だけでなく、MVやマーチャンダイズにもノスタルジックでレトロ・フューチャーな雰囲気が醸し出されています。逆にいえば、メタル・バンドが定期的に使うような色彩はあまり見かけません。Bobby が説明します。
「そうすることで、自分たちを最大限に表現することができる。このバンドのピースは、イメージ、マーチャンダイズ、すべてを含めて、僕たちの心の一部みたいなものなんだ。それはまた、僕たちがバンドと迷い、そして今ここにいること、人生の様々な時期に似ているのかもしれない。シンセ・ウェーブ/ヴェイパーウェイブの美学は、僕たち自身を本当によく捉えている。ノスタルジックな子供時代のような、温かくてファジーな感覚を持ちながら、同時に切なくてエモーショナルでもある。
ピンクとブルーを見ると、誰もが自動的に DREAMWAKE 思い浮かべるよね(笑)。それが僕らのカラーなんだ!」

ブルーとピンク。Bobby はそのツートンカラーの色合いを、完璧主義者とそこからの解放のふたつで実践しています。
「少なくとも僕は、ミュージシャンとして毎公演完璧でありたいと思っている。でも毎晩必ず何かがあるわけだから、自分の頭で考えて、ショーの後に自分を責めないことが大切なんだ。多くのミュージシャンは、少なくとも僕が会った人たちはそうだった。完璧でありたい、もっとうまくなりたいと思うのはみんな同じだけど、常に自分が一番の批判者なんだ。以前はステージから降りると、その晩はずっと怒っていて、ツアーや旅を台無しにしていた。今は、ステージに立つこと、そしてそのステージをやり遂げることに喜びを感じられるようになった。何が起ころうとも、起こったことは起こったことだし、自分が一生懸命やった限り、それがすべてなんだ。この前のツアーでは、それを本当に実践したし、精神状態も以前よりずっと良くなった。 ミュージシャンとして、少なくとも僕にとっては、毎晩110%完璧でなくても大丈夫だということが、大きなことだと感じている。 人間である以上、何かは起こるものだから、そこに行って人々のためにやった自分を褒めてあげて、多幸感を感じて次のステージに行くんだ」
DREAMWAKE というバンド名も、そもそも “多幸感” を意識してつけられました。
「DREAMWAKE という名前の由来は、音楽を演奏することで自分たちの感覚を体現できるような名前を見つけようとしたことからきているんだ。僕たちはそれを、夢やフロー状態、ネガティブな考えやアイディアから解放された状態だと考えたい。 音を通して、現実から一時的に逃避し、多幸感に浸るようなね」
シンセ・ウェーブは、ここ10年ほどの間に、音楽だけでなく様々な側面に浸透してきました。バンド全員がその事実に興奮を覚えています。
「本当にクールだと思うよ。 僕らのビデオにも、そういった側面をいくつか使っている。”Night Rider” のビデオでは、ランボルギーニが登場し、背景にはサイバー・パンクのような街並みが映っていた。
シンセ・ウェーブの要はフィーリングに浸れることだ。 だから、純粋でオーセンティックなシンセウェーブを取り入れたものには、何らかの愛着が湧くんだ。 胸に響く感覚を与えてくれる。僕らにとってはとてもありがたいことなんだ。
今、シンセウェーブが注目されているのはとても嬉しいことだよ。みんなが大好きなものだから、あちこちのメディアで目にすることができる。ある意味、僕らのために作られたトレンドのようなものだ。僕らにとっては、子供時代に似ているんだ。90年代に育ったから、80年代後半から90年代がスイートスポットだと感じている。まさにノスタルジーだね。僕たちがこの音楽をやっているのと同じ頃に流行っているというのは神だ。もちろん、情熱的なプロジェクトだから、流行に乗るつもりはないけれど、社会がシンセウェーブで病みつきになっているのは事実だ。僕たちはその利点を享受することができるんだ」

参考文献: DEAD RHETRIC : Dreamwake – Championing Wavecore

KILL THE MUSIC : UNSIGNED SPOTLIGHT DREAMWAKE

100% ROCK MAG: DREAMWAKE Interview

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CALVA LOUISE : EDGE OF THE ABYSS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JESSICA ALLANIC OF CALVA LOUISE !!

PIC BY HENRY CALVERT

“I grew up during a very hard economic and social crisis in Venezuela so the alternative scene was disappearing, I felt the need to leave the country.”

DISC REVIEW “EDGE OF THE ABYSS”

「多様なルーツはアドバンテージだよ。なぜなら、それぞれの文化から吸収した影響があって、ひとつに左右されないから。私たちが共通して持っているものに従い、より純粋な形でつながることができるから」
世界は、異なる文化や人種を再び “排斥” する方向へと向かっています。SNS において無闇に恐怖を煽る、悪質なデマを流す大声の煽動者たち。しかし、そもそも本当に異文化や異人種は “悪” なのでしょうか?寛容さはお花畑なのでしょうか?差別と区別は異なるものなのでしょうか?
イギリスに本拠地を置きながらも、ベネズエラ、フランス、ニュージーランドと多国籍な “移民” が集う CALVA LOUISE は、音楽によって壁を壊し、世界をつなげられると信じています。
「私はベネズエラの非常に厳しい経済・社会危機の中で育った。そんな状況だからベネズエラのオルタナティヴな音楽シーンは消えつつあり、国に止まる以外の様々な可能性を考慮しなければならなかったのよ。非常に複雑なプロセスに直面して、国を離れる必要性を感じていたのね。
しかし、最終的には、そうして国を離れたにもかかわらず、ベネズエラの人々、そして世界中の多くのベネズエラ人から多くの好意的なコメントを受け取っているのよ!」
まるで THE DILLINGER ESCAPE PLAN に加入した Poppy。そんな例えが違和感なく感じられる、破天荒なボーカリスト Jessica Allanic。そんな彼女の音楽人生もまた、波乱に満ちたものでした。
ベネズエラに生まれた Jessica は、彼の国の政情不安、ハイパーインフレーション、貧困、そして治安の悪化と向き合いながら育ちました。しかし彼女が最も耐え難かったのは、MUSE や SYSTEM OF A DOWN, QUEENS OF THE STONE AGE に憧れながら、ベネズエラのメタルやオルタナティブ・シーンが国力と共に衰退していったこと。そうして彼女は、欧州への移住を決意します。
「メタルにはカタルシスという側面もあるし、生々しく純粋な感情や深いメッセージを表現することで、そしてこのジャンルが人々にもたらす複雑な感情を表現することで、本物のつながりを作ることができる。私たちはバンドとして、特に今、それが本当に重要だと感じているのよ」
フランスで盟友と出会い、そしてイギリスでまた別の大陸の盟友と出会った Jessica は、自身の幼少期の想像の世界、SFの理想と夢を CALVA LOUISE で現実のものとします。彼女の夢には、どんな壁もありません。スペイン語、フランス語、英語はあまりにも自然に Jessica の夢幻世界へと溶け込み、オルタナティブもポップもNu-metalもメタルコアもプログもフォークもまた、あまりにも自然に夢のシチューで煮込まれて、えもいわれぬ極上の美味と混沌を生み出します。
バンド名の由来となったイヨネスコの不条理劇は、画一化されたアートへの反抗、社会規範への同調、その危険性を皮肉たっぷりに描いています。そして、CALVA LOUISE もまた、移民であること、多国籍であることをアイデンティティとして、全体主義、画一化への抵抗、創造的自由の追求をかかげているのです。音楽で世界をつなげるために。
今回弊誌では、Jessica Allanic にインタビューを行うことができました。今年の2月に2週間日本に行くことができ、最高の経験をしたの! デジモン、セーラームーン、カードキャプターさくら、その他たくさんのアニメを見て育ったからね! Maximum the Hormone のような日本のバンドや、Bunnyのような新しいアーティストも大好き! 私の夢は、いつか日本で演奏すること!」 どうぞ!!

CALVA LOUISE “EDGE OF THE ABYSS” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SPIRITBOX : TSUNAMI SEA】


COVER STORY : SPIRITBOX “TSUNAMI SEA”

“I Think Anything That Women Like Is Always Mocked, But I Think Teenage Girls Are The Purveyors Of Culture.”

TSUNAMI SEA

津波が本当の姿を現すのは、その波が水辺に到達してからだと言います。最初はほとんど見えない深海を脈打ちますが、最終的にはこの壊滅的な自然災害は無慈悲な水の壁を築き上げ、その進路にあるすべてのものを押しつぶすのです。
「津波が陸に到達した後、それが私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか飲み込めていないうちに、その災害は無慈悲に通過していく」
SPIRITBOX の生活は既に計り知れないほど変化しました。2015年にカルト的なマスコア・クルー iwrestledabearonce の灰から生まれ変わった Courtney LaPlante と Mike Stringer は、以前よりも暗く洗練された音楽を作ることを目指していきました。そうして、デビュー作 “Eternal Blue” からの “Holy Roller” や “Blessed Be” といった曲は、新たな表現を求めていたファンたちの心に響き、彼らをメタルの頂点へと押し上げたのです。以来、彼らは勢いを増し続け、2022年のDownloadフェスティバルでのテントを揺るがすデビューから、Reading & Leedsのメインステージ、Megan Thee Stallionとのレコーディング、先月のAlly Pallyでのソールドアウト公演まで、着実に歩みを進めてきました。その勢いは、メタルコア世界の狭い枠組みを飛び出した津波ともいえました。
しかし、SPIRITBOX はタイトルの “津波” そのものではありません。むしろ、縦波、横波、波浪、風浪、うねり、磯波…数多くの波が積み重なって壮大なコンセプトを形作る広大な海。メンタルヘルスにおける比喩的な津波…うつ病や暗い思考が心を押し流す状態。そして、Courtney と Mike の故郷バンクーバー島での生活経験…船以外では離れることができない孤独な環境。そうした痛みや恐怖、孤独の影響は、2022年の “Rotoscope EP” と2023年の “The Fear Of Fear” の即効的なスリル追求と比べ、より威圧的で包み込むような “Tsunami Sea” への到達に現れています。

大きな成功が Courtney の率直な歌詞の核心にある危機感を侵食するのではなく、”Tsunami Sea” はそれがさらに激化と同化したようにも思えます。”Eternal Blue” のタイトル・トラックで彼女は “苦痛が離岸流のように引きずり始める” と歌いました。4年後、ボーカリストの感情は今や海洋規模となり、”私のすべての涙を津波の海に変える” と表現されています。それでも、Courtney と SPIRITBOX はただ痛みの海に押し流されることはありませんでした。つまり、この音楽は、メンバー個人の内面的葛藤はもちろん、元メンバーの死去やベース奏者がロサンゼルスの山火事で自宅を失うなど、逆境を乗り越えてきたバンドにふさわしいものとなっているのです。
「Bill Crook の死は恐ろしいことだった。突然のことで、私たちはツアー中だったのよ。彼の母親が、彼の友人全員が追悼式に出席できるようにしてくれたことに、私たちは本当に感謝しているの。彼女は追悼式を延期してくれたのよ。
このアルバムは本当に彼のためのもの。なぜなら、彼は私たちと同じ場所で育ち、同じ経験をしてきたから。アルバムで話していることの多く – 私が精神的に向き合い、克服しようとしていること – 彼と私はその点で非常に似ていたんだよ。アルバムを彼に見せられたらよかったと思う。毎日彼をとても恋しく思っているわ。この数ヶ月は皆にとって大変だったけど、私たちは大丈夫。今年は本当に良い年になると思うよ」

“Soft Spine” という力強いリードシングルから、変幻自在なメロディが光る “Perfect Soul”、そしてインダストリアルな要素を交えた176秒の “No Loss, No Love” まで、リスナーはすでにこの11曲が SPIRITBOX の最高峰であることを直感しているでしょう。大きなステージで演奏する機会を得たことで、彼らは “A Haven With Two Faces” のような壮大な瞬間を捉える直感を磨いてきました。一方で、彼らは “Crystal Roses” のような予測不能なサウンド、例えば変幻自在なドラムンベースに挑戦する勇気をも得たのです。
「音楽を書く時はそれを意識しないが、後に1万人や2万人の観客の前で自分の好きな曲を演奏すると観客はただスマホをいじっているだけだ。一方、特に気にかけていない曲では、みんな跳ね回って大騒ぎしている。なぜそうなるのかと疑問に思うようになる。それは曲作りに直接影響するわけではなく、単に “この曲でみんなが狂喜する姿が見える” と気づくだけだ。でも、私はいつも間違っている。私の好きな曲は、いつも最も再生回数が少ない曲だ。それは呪いのようだ…このアルバムだと “Black Rainbow” に夢中なんだがね。あらゆるタイプの音楽からあらゆるインスピレーションを得ることは、とてもとても重要だ。 どのジャンルの中にも良いトーン、ソングライティング、メロディがあるんだ。だからブレイクダウンだけを聴くことに自分を限定すべきではない」
一方で、Courtney は観客の反応をあまり気にはしていません。
「それが私の音楽の楽しみ方じゃない。人々がモッシュしているかどうかで、私たちが良い仕事をしているかどうかを判断しないよ。もし彼らがモッシュするなら、それは素晴らしい。それがその人の音楽の楽しみ方だ。でも、ただ頷いているだけの人もいる。それがその人の音楽の楽しみ方かもしれない。そして、ただ立っているだけで音楽を吸収している人に対しては、エゴを持ってはいけない。もしかしたら、彼らはそこで SPIRITBOX を初めて発見しているのかもしれない。もしかしたら、ただ全てを吸収しているだけかもしれない。だから私は大好きな曲を歌いながら、人生で最も楽しい時間を過ごしているだけなの。結婚式で踊る人みたいに、自分の小さな世界に入り込んでいる!馬鹿に見えても構わないさ!」

美しさ、陶酔、そして命がけの混沌が、”Tsunami Sea” を駆け抜ける中で尽きることなく展開されます。このバンドは、”Keep Sweet” のようなのモッシュ・コンフェクションを混ぜ合わせ、次に “Ride The Wave” の滑らかなオルタナティブ・ポップを軽やかに滑り、クリーンな歌声のクロージング・トラック “Deep End” では目眩く多様性を備えています。
「Michael も私も、本当に何でも聴くのが好きなの。 たとえそれが、プロダクションや歌詞のつながり、インストゥルメンタルや全体の雰囲気など、研究的に聴いているものであっても、聴かずにはいられないの。真空の中で曲を書くことはできない。 常に外部の音楽から影響を受けているんだ」
しかし、そのすべては心からの、しばしば胸を締め付けるような、感情に支えられています。”悲しみが私を追いかける” と、Courtney はオープニング・トラック “Fata Morgana” が迫力満点に始まると呟きます。 “呼吸するたびに、その悲しみを胸に感じる…” その悲しみの糸は彼女の中で途切れることはありません。周囲の騒音や勝利の味わいにもかかわらず、内側の暗闇は枯渇することがないのです。
「私の人生で素晴らしいことが起こっても、メンタルヘルスに気を配らなければ、私たちは常に極端な感情の波に翻弄されるだろう。特に私のような人間なら。それが私の感じ方よ。それが私の一部。悲しみや怒りの歌詞は、おそらく私にとって常に共感できるものだろう。
面白いことに…キャリアでの幸せや成功、人間関係での充実感が増すほど、まだあのネガティブな感情を抱えていることに恥ずかしさを感じるの。人生が順調なのに、メンタルヘルスが低下することに恥を感じている人は多い。そして、私は歌詞を通じて、見知らぬ人々にその感情をさらけ出したい衝動があるの。おそらく、それは自分自身をより深く理解するためのメカニズムかもしれない。そうやって、良い人間であるためにできる限りのことをしながら、その抑うつ症のブラックホールに引きずり込まれないようにしているの」

6年前、彼女は時給$8でウェイターとして働いていました。”Eternal Blue” がリリースされた当時でさえ、彼女と Michael はバンドの資金調達のために、データ入力の仕事をしていたのです。そうしてダウンロードで数万の観客を前に Courtney は、”Perfect Soul” の感動的なパフォーマンスを披露し、”私の夢はただの幻想だ” と歌いました。
「数万人の前でそんな個人的な感情を表現するのは、とても難しいこと。でも私を知っている人なら、私たちの旅路を見てきた人なら、私が言っていることに、私の生活について現実を投影できるだろう。でも、ほとんどの人が本当の私を知らない。あの言葉は、私たちのバンドとしての経験を超えた多くのことを指している。残念ながら、あの感情は私にとって常にレリバントなものだ。それは私の人生の一部だった。精神疾患、ペテン師症候群 (自分の能力や成功を過小評価し、自身を詐欺師のように感じてしまう) の経験があることを、私はずっと知らなかった。私は問題にしないのが上手だから、ただ隙間をすり抜けてきただけ。それは潮の満ち引きのような循環的なものだった」
Courtney はメタルにおける女性の存在についても、常に思考を巡らせています。
「人生のある時点で、女性や少女たちが誰も招待されていないパーティーには参加する気にならなくなるものよ。そこに、ドアマンが私を入場させるかどうか待って並ぶつもりはない。自分の、他のクラブを探しに行くでしょう。望まれないなら、私を歓迎してくれる場所を探すだけよ。
これは、若い少女の頃、メタルの世界から歓迎されていないと感じた経験からも来ているの。例えば、小さなメタルのライブに行って、なぜここにいるのかと疑問に思われるような状況。その状況は改善されているけど、私たちはより高い基準を求め、私たちに投げられたパン屑にはこだわらない必要がある。私たちはステーキを食べようとしているのだから」

Courtney にとって、女性リスナーの存在はとても大きなものです。
「SPIRITBOX, BAD OMENS, SLEEP TOKEN, そしておそらく KNOCKED LOOSE が共通しているのは、他の同世代のバンドと比べて女性リスナーがかなり多いことだと思う。Rise-core 時代や emo 時代のバンドも同じだ。METALLICA のドキュメンタリーを見ても、その点で笑われていた。女性が好きなものは常に嘲笑されるものだけど、私はティーンエイジャーの女の子が文化の伝道者だと考えているのよ」
“Crystal Roses” や “Ride the Wave” では、ボトルの中、エコーチェンバーの中に閉じ込められる怖さを、島で育った自身と重ねています。
「私たちがこれまで作ったすべての作品—歌詞的にもサウンド的にも—は、コンセプトアルバムとして考えていて、このアルバムのすべての曲は互いに関連しているの。最後の曲は、私が話したすべてのものの集大成。奇妙なサウンドは実際、海の音だよ。それは説明するものではないけれど。聴く人にさりげなく伝われば幸いだよ。
歌詞的には、このアルバムは私自身が何者であるかを、私の頭の中で描いた自伝のようなもの。育った環境は、世界を見る方法に深く刻み込まれていると思いの。15歳の時、バンクーバー島に移住したんだ。そこで、私のバンドのメンバーである夫の Michael と出会ったんだ。孤立した島で暮らし、キャリアの夢を叶えるために難しい環境は、私を非常に孤立させたの。それは私の人格を大きく形作ったけど、同時に懐かしさも感じている。故郷の場所を美化してしまうというかね。そこにいた時は私を縛っていたのに、離れてからは懐かしむの。家族を恋しく思うからかな」

SPIRITBOX はずっと冷静で、”自分たちが何になりたいのかを模索中だ” と語り、創造性に過度のストレスをかけることで創作物を歪めてしまうことを避けてきました。
「それが私たちの本質だと思う。過去数年間、たくさんのクールでクレイジーな経験を積んできた。グラミー賞でレッドカーペットを歩き、インタビューを受けた。しかし、そのようなことを繰り返すほど、私たちはまだ最低賃金の昼間の仕事をしていて、バンドを立ち上げるのが不可能に思えた時代と、今もつながっていることに気づくんだ。あの経験は、”レッドカーペットに立つ” というイメージよりもずっと身近なの。ああしたイベントは日常の一部ではないし、慣れるまでには長い時間がかかるでしょう。そして、私たちにはそれが起こり続けるかどうかは本当にどうでもいいんだよ…」
シーンの連帯感がプレッシャーを和らげる一方で、その裏側には、新しい世代の象徴としてそのコミュニティを背負う重圧がかかってきます。Courtney は、SPIRITBOX が “目隠しをして、それについて考えないようにし、音楽が誰かの消費対象となるための流行戦略討論に陥らないようにする” と主張します。
「考えれば考えるほどストレスが増す。みんなが歌詞を全部知っているのは、私たちにとってまだ非常に奇妙なことだ。インターネット・バンドとして実家の地下室で生まれた私たちが、”未来のフェスティバルのヘッドライナー” と呼ばれるようになったのは奇妙な感覚だ。プレッシャーは確かに存在する。しかし、自分たちらしさを保ち、楽しむ音楽をリリースし続ける限り、非難されることはない。それが現実だ… 自分の音楽は、無限の可能性を持っていたいんだ」

Courtney はメタルを非常に “二元的な” ジャンルだと理解しています。
「バンドがスローな曲をリリースしたら、”彼らは今やスローな曲しか作らない” とか、本当にヘヴィな曲をリリースしたら、”バンドが戻ってきた。彼らは最もヘヴィな曲を作ったし、それが彼らの現在だ” とか。
私たちの世界では、極めて二元的なのよね。実際に、ミュージックビデオのプレミア上映中に人々を見ていると、”OK、彼女は30秒叫んで、今は45秒歌ってる。ああ、ダメだ! でも、ブレイクダウンがある、神様ありがとう。また好きになった” と。サイドバーで “これはひどい” と表示されていても、私が叫び始めると、彼らは “やった!” と反応する。
なぜそんな二元的になるのだろう。私は常に、地元のシーンや地域のシーンの一部ではないと感じていたの。常に少し外側にいるような感覚だった。そしてある日、誰かがクリックし、誰かが魔法の杖を振ったかのように、プロのメディアが “このバンドは素晴らしい。これが君たちが好きになるべきバンドだ” って言い出したんだ。でも、自分たちが “メタルコア・バンドだ!” なんて思ったことは一度もないんだよね」
SPIRITBOX はメタルのステレオタイプを破壊してここまできました。
「私たちは “1つのバンドの価格で2つのバンドを味わえる” と言っているの。人々がそれを好むかどうかは分からないわ。誰かに2つの異なる SPIRITBOX の曲を聴かせても、同じバンドだと気づかないかもしれないよね。
だから、すべてのバンドがそうではないことは知っているけど、流動性って大事だよね。私は “血統” や “こうしないとメタルではない“ という外部の圧力を感じていないんだ。なぜなら、私はメタルを聴いてきたのに “メタルではない” と言われ続けてきたから。誰が気にするの? DEFTONES のようなバンドがそれについてどう思っているのか、いつも疑問に思っているよ」

Courtney がメタルを聴き始めたのは遅く、だからこそこのジャンルはサブジャンルに囚われすぎだと感じています。
「18歳くらいまで、メインストリーム以外の音楽を聴いたことがなくてね。そして、私が初めて接したメタルは、Protest the Hero, Despised Icon といったカナダのバンドたちだった。Misery Signals はカナダ出身ではないけど、私たちは彼らをカナダのバンドとして数えているんだけどね。
つまり、自分で探した音楽ではなく、私の島にやってくる人たちの音楽だった。非常に露出が少なかったよね。そして少し年を取ってから…私は確かにエクストリームな音楽が好きだと気づいた。Job for a Cowboy の “Entombment of a Machine” をかけて、技術的な能力を聴き分けていたんだよね。他の同年代の人がメタル音楽を聴き始めるのとは異なる方法で聴いていたんだ。後からその音楽を学んだから、なぜこうしたバンドがこうした音をしているのかを理解する必要があった」
今や、インターネット空間には様々な批判や悪意が蔓延しています。差別や抑圧に抗い、多様性を認め合うことはどんどん難しくなっています。
「私たちは互いを守ろうとしているの。憎しみを増幅させたくないのよね。個人的には、自分自身のことに集中したいだけで、常に悪口を言いたくないんだよ。右派の振り子の揺れもどし、アルゴリズムによる人々の過激化…そして、メタルは私たちが思っていたよりずっと保守的だったのかもしれないね。もちろん、公の場で批判することはできるけど、それがまさにあの彼らが求めていることのように感じるんだ。だから私は成功を収め、持っている影響力を活用して影響を与えることを望んでいるのよね。
NINE INCH NAILS はいい例だよ。フェスで一緒になった時、彼らがステージを見て “私たちのステージに女性を配置し、多様な人種の人々を配置する必要がある。これは受け入れられない” と言ったことがある。私は “Wow、あのバンドの影響力だ。彼らはそうできるんだ” と思った。だから、いつか私もそうできるかもしれないし、私の同世代の多くもそうできるかもしれない。全員を知っているわけではないけど、彼らは私たちと同じように感じていると思う。だから、同志のバンドたちが成功すると、それが私たち全員を強化することになるんだよね」

SPIRITBOX にとっての同志とは、BAD OMENS であり、SLEEP TOKEN でしょう。
「私の周りにメタルを聴いたことのない人たちが、SLEEP TOKEN の音楽を聴いている。特別なケースだよね。彼らは断然最もポップ寄りのバンド。
彼らに会ったことはないけど、多分私たちや BAD OMENS に近い存在だと思う。彼らとこの話題について話したことはないけど、彼らも作った曲のジャンルについて考えたことはないと思う。それが良いか悪いかは分からない…でも少なくとも AI にこんな音楽は作れないよ」
SPIRITBOX の成功は、疑いながらも自分を信じて諦めなかったことから生まれました。
「私は本当に妄想的な人間で、人生がこうなることをずっと知っていた。その確信は、極度の自己疑念とペテン師症候群の霞の中で常にそこにあった。27歳の誕生日は “最悪の日” だった。決して忘れないよ。その日、私はコーヒーショップで一人で働いていた。他の従業員は全員病気で休んでいてね。コーヒーを作ったり、サンドイッチを作ったりしながら、誕生日なのに最低賃金の仕事をしていることに恥ずかしさでいっぱいだった。そして、誰かがミルクの瓶を倒してしまい、私は床に膝をついて掃除しながら、涙が溢れそうで、怒り始めた客たちに囲まれていたんだ。”27歳で、教育も金もなくて、前のバンドを辞めたばかりなのに、牛乳をこぼしただけで泣いてるなんて!”と。
それでも、SPIRITBOX の成功は私にとって起こるべきことだと分かっていた。私たちは次のことにばかり集中して、今この瞬間を生き、自分を褒めることを十分にできていないのかもしれない。私たちが既にどれほど遠くまで来たかを考えると、信じられないほどだよ…」
結局、Courtney は音楽 “オタク” だったかつての自分からその本質は変わっていないのです。
「そう、だから自意識過剰なんだと思う。高校のクールな連中はみんな私たちをボコボコにしただろうね。ただ不愉快だからいじめられるオタクっているでしょ? それが私たち。ただ不愉快なだけなんだ。 私たちは “私たちは違うから嫌われてるんでしょ? “でも、”違うよ、ただ君が嫌いなだけだよ “って言われるんだ (笑)。
でも、だからこそ私たちは奇妙な音楽を作ることができる。 みんなにバカにされるけどね (笑)」

参考文献: ELI ENIS :”Your whole family’s going down”: A blunt talk with Spiritbox singer Courtney LaPlante

KERRANG! :Spiritbox: “Every time I walk out onstage, I can’t believe this is my life”

GRAMMY AWARDS :On ‘Tsunami Sea,’ Spiritbox’s Courtney LaPlante Contemplates Adversity, Solidarity & Renewal

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : AFTERGLOW】


COVER STORY : SLEEP THEORY “AFTERGLOW”

“Nowadays, Heavy Bands Have Flipped The Script, Making Music For Everyone’s Ears. You Might Be The Sort Of Listener Who Considers Themselves a Pop Fan, But You Could Turn On a Sleep Token Song And Enjoy It.”

AFTERGLOW

「僕たちはアートを作るためにここにいる。 みんなと同じでは何も始まらないからね」
SLEEP THEORY のフロントマン、Cullen Moore の最初の記憶は、リビングのソファーで父とボビー・ブラウンの反抗的なアンセム “My Prerogative” を一緒に歌ったことでした。”誰の許可も必要ない 自分で決断をする それが自分の特権だ”。
このマインドセットは、メタルの境界を破る SLEEP THEORY に結実しました。そのポップな滑らかさとR&B の野性味は前例のない共鳴、共感を呼んだのです。彼らはラジオを支配し続け、今後の大規模なフェスティバル出演が成功を確固たるものにしています。
「ガソリン・スタンドで止まった時、父が “SLEEP THEORY がこんなに大きくなるなんて考えたことある?” と聞いてきた。僕はただうん、と答えて父に “それは僕が決して小さくさせなかったからだよ” と伝えたんだ。僕は僕が関わるものに対しては、競争心が強く、決して自分の水準を下回ることを許さない。そのアティテュードがどこから来たのかは分からない。ただ、ずっとそうだっただけだ。それは他の人より “優れている” ことではない。誰かが何かを成し遂げるのを見て、自分がどれだけできるか試したいという意欲なんだ。SLEEP THEORY が既に到達したレベルに達していなくても、それが実現するまで努力を続けるだけだ」
Cullen のその自信には、作られた要素は一切ありません。 テネシー州とミシシッピ州の州境の南側で音楽に囲まれて育った彼は、その場所を親しみを込めて “メンフィシッピ” と呼びます。その背景が、彼の自信の大きな要因となっているのです。ブルースの発祥地であるビールストリート、メンフィス・ラップの誕生地である粗野な街、そしてエルヴィスのグレースランドの豪華絢爛な世界など、アメリカを象徴する多くのサウンドは、彼の家の玄関から車で 30 分圏内で生まれました。
「みんなは、僕がいつ歌えるようになったのか尋ねてくるけど、正直覚えていない。ただずっと歌っているだけなんだだ。それが唯一、僕ずっとできてきたことだから。父はいつも歌っていた。祖母も。叔父も。もう一人の叔父も。叔母も。大叔母も。僕たちは皆歌手だった。そして皆自然にやっている。人生で経験した多くのことにおいて、音楽が関与していた。そして、それは僕の人格の核心的な部分となった。歌が人生であることを疑ったことは一度もないんだ」

粒子の粗いVHSで父親の音楽ビデオを見たことが、Cullen が歌を職業として実現可能だと確信するきっかけになりました。両親は息子に良い育ちと彼が得るべき機会を与えるために努力しました。時には、勉学を優先して音楽を “プランB” にすべきだと奨励しましたが、それは決して彼の道ではなかったのです。
「12歳から音楽をやっている。そして14歳からスタジオにいる」
まずは、創造的な道を模索することが第一でした。Cullen にとってヒップ・ホップに手を出すことは魅力的ではなく、父親から受け継がれた純粋なR&Bのバトンを継ぐこともありませんでした。そうして彼は、人生のコントロールを握るという別の目標から父親の足跡をたどり、アメリカ軍に入隊しました。ミシシッピ州コリントを拠点とする警備隊での3年間、それは自己肯定感の向上と現実の厳しさを同時に感じた経験だったのです。
「あの瞬間を鮮明に覚えている。軍隊では、自分を正す必要があると感じるから入隊する人もいる。僕はバランスの取れた家庭で育った。悪い子供ではなかった。だけど、大学を中退し、自分がどこへ行きたいのか、何をしたかったのか分からない状態だったんだ。数歳年下の友人と将来の計画について話していた時、彼は軍隊に行くと言った。僕は人生で何をしたいのか分からなかったから、同じように入隊を決意したんだ。父には話さなかった。父が軍に行かせたがっていたことは知っていたけど、もしそれが気に入らないものになったら、彼のせいにするのではなく自分で決めたことだと言いたかったから」
軍での経験は強さを養い、Cullen は自信を磨きました。同時に、日本のアニメは “良い人間” になる手助けをしてくれたと語り、”Naruto” のタトゥーを腕に刻みました。
「僕は常に非常に意志の固い人間だった。非常に頑固で、自然に自分自身に自信を持っていた。しかし、軍隊を経験したことで、すでに制御不能な炎のように感じていたものがさらに強まったんだ。軍隊は僕に冷静な判断力を与え、本当に僕のパーソナリティを1000倍に強化してくれた。そして、忍耐とチームワークを教えてくれたんだ。もし時間を遡れるなら、再び入隊するだろうか?一瞬の迷いもなく、イエスだね!」

2023年初頭、SLEEP THEORY はまだ無名でした。 彼らのラインナップが固まったのはつい最近のことで、名前が決まったのはそのほんの数ヶ月前のことでした。新曲 “Another Way” の17秒のプレビューを気まぐれにTikTokに投稿したときは、ほとんど期待もしていませんでした。しかし、36時間以内に再生回数は50万回を記録し、新たなファンの軍団が続々と押し寄せてきたのです。
その瞬間が SLEEP THEORY の物語から切り離せないのはたしかですが、Cullen は彼らが “一夜の成功” と受け止められることには皮肉を感じています。なぜなら、2018年に軍を退役した彼は、それからずっと地元のプロデューサー、David Cowell と二人三脚で歩んできたからです。
「メタルのブルーノ・マーズになりたいと David に言ったんだ。僕は次に何をするのか全くわからないような、そういう明確なアイデンティティを持ったアーティストになりたかったんだ。 David はその時点でメンフィスで最高のプロデューサーだったと思うけど、まだ注目されていなかった。そして今、彼はプロデューサーとして、そして SLEEP THEORY はバンドとしてブレイクを果たした。彼の天才ぶりが注目されるのはいいことだ!」
最初の数年間はスタジオ・プロジェクトでしたが、2021年にベーシストの Paolo Vergara を迎え入れ、本格的に活動を開始しました。Paolo の紹介でドラマーの Ben Puritt が参加するようになり、素晴らしいシュレッダー/スクリーマーである Ben の弟 Daniel が加わったことで、すべてがかみ合いました。
「俳優、プロデューサー、撮影監督がいる映画を作るとしたら、僕は監督みたいなものかな。 ギターを弾くことはできないけど、物事を見て、物事を聞いて、すべてがどこに向かうべきかを理解することはできる。 また、他の人たちに仕事を任せるために、自分のやり方から離れるべきときも学んできた。 最初のころは、まだ物事を理解しようとしていたけれど、今は、よりよく動くマシーンになったよ」

Cullen にとって、自身の作品にラベルを付けるプロセスは難しいものでした。他のバンド名として “Monolith”(暗すぎる)と “Wavelength”(ポップすぎる)を却下し、オンラインで科学用語を閲覧していた際に、”Sleep Theory” に決めました。
「これが正しいと感じる。口に馴染む。重すぎず、軽すぎず」
2023年にEpitaphからリリースされた “Paper Hearts” はEPでしたが、その6曲に費やされた時間と努力は、それ以上のものを感じさせる作品でした。そうして、David のSupernova Soundスタジオ(メンフィス北東部)と往復しながら “Afterglow” のレコーディングを行った Cullen は、これがそのEP以上の決定的な声明である必要があると悟ったのです。
「”Afterglow” は “Paper Hearts” の続きから始まる。情熱的だが最終的に抽象的な感情の枠組みで、僕たちがこれまで語ってきたストーリーに終止符を打つものだ。愛する誰かと共に多くのことを経験したにもかかわらず、まだ “私とあなた” の間で迷っている感覚を捉えているんだよ。その余韻—アフターグロウ—は僕をまだ悩ませているんだよ。そこには個人的な経験が含まれているけど、それは僕だけに限定されたものではない。このバンドのどのメンバーからも、または僕たちのプロデューサーからも来得るもの。もちろん、スタジオに入って “さあ、愛について話そう!” と言ったわけではないけど、アルバムの曲は共感できるものにしたいと思っていた。誰もが失恋を経験するので、意識的か無意識かに関わらず、そのことを書いたんだよ」
ヒップホップのビートとエレクトロのアトモスフィア、メタルコアの咆哮とR&Bの官能性が融合し、刺激的な作品を構成。緊張感あふれるアドレナリンの爆発、脆い切なさ、魂を揺さぶるカタルシスの瞬間を織り交ぜるアルバムは実にユニークです。例えば “Hourglass” は、A Day To Remember の全盛期を思わせるポップ・パンクとメタルコアの融合。”Stuck In My Head” は、失恋の物語に巨大なフックを埋め込んで煮詰めた共感の一曲。EPからの継続曲 “Numb” はアンセムで、”壊れた夢の目を覗き込む / 縫い目が裂けた新たな計画” と挑発的に歌っていきます。

しかし、最も心に響くトラックは、新曲 “III”(「スリーズ」と発音)でしょう。バンドから奪われた何かが “想像し得る最悪の形で汚された” というストーリー。その耳に残るフックと楽曲の成功は、彼らにとって最も満足のいく復讐となるでしょう。
「人生に酸っぱいレモンを与えられたら、そこからレモネードを作ればいい。そんな悪い経験をしても、それをヒット曲に変えればいいんだ!」
正直さと純粋なビジョンが全て。たとえそれが、彼らの成功が SNS の “バズ” から始まったとしても。
「僕は “TikTokアプローチ” をただ受け入れるつもりはない。トレンドには興味がないんだ。一時的なバズのためにここにいるわけじゃない。みんながやっているなら、僕はやりたくない。TikTokダンスをしたり、他所でよく見かけるような目立つためのクリップを作ったりする人間にはならない。それではただ、大衆に迎合するだけだ。
「”Another Way” の最初のティーザーでも、それは “夏のTikTokソング” を目指すことではなく、僕たちが目指すよりプロフェッショナルなイメージを確立するためだった。僕はTikTokの基準に妥協しない。僕たちはコメディアンになるためにここにいるのではない。アートを作るためにここにいる。それは他の人と同じ場所から始まるものではない」

Cullen には説教臭さも不自然な派手さもありません。急速に成功を収めたアーティストとしては、驚くべきほど傲慢さがないのです。そうして論理、問題解決能力、そして抗いがたい自然な好奇心が存在します。彼は、SLEEP THEORY の急激な上昇だけでなく、より広範な盛り上がるオルタナティブ・シーン全体、そして SPIRITBOX から SLEEP TOKEN まで新たなリーダーたちにも焦点を当て、変化の潮流を見据えています。
「昔の Bring Me The Horizon は、好きか嫌いかの二者択一だった。しかし、最近の新しい Bring Me The Horizon には、多くの異なる要素が絡み合っていて、多くの人々がその中から気に入るものを見つけることができる。歴史は繰り返す。2009年ごろ、ヒップ・ホップとポップが真のブームを迎えていて、ロックはその波についていけなかった。ほとんどのアーティストは、この音楽を幅広い層に受け入れられるようにする努力をしていなかった。もしそうしていたなら、彼らは Thirty Seconds To Mars や Imagine Dragons のようなカテゴリー(ポップサウンドを直接取り入れた)か、Kings Of Leon のようなバンド(ポップな曲作りを重視した本格的なバンド)に分かれてったはずだ。適切なバンドがとてもポップな感覚を学んでね。でも、実際はヘヴィなメタルコアやスクリーモのジャンルに入ると、それははるかに “好みが分かれるもの” だった。
でも現在、ヘヴィなバンドは方針を転換し、誰もが楽しめる音楽を作っている。ポップ・ファンを自認する聴き手でも、SLEEP TOKEN の曲を聴いて楽しむことができる。感情の幅も広くなっている。悲しみや暗いテーマばかりではなく、より共感できる内容で、古いバンドが扱っていた感情の幅を捉えているんだ」

“Stuck in My Head “の野外アコースティック・パフォーマンスにも彼らのポップ・センスが現れています。
「アコースティックで曲を歌うのが大好きなんだ。 このプロジェクトの背景にあるアイデアは、ヘヴィなギターをすべて取り除けば、ポップな曲になるということなんだ。 どんなメタルやロックの曲でも、アコースティック・ヴァージョンを作れば歌えるんだ。
この曲のライティングやメロディが、ポップ・ソングとして問題なく成立させているんだと思う。 もしカントリー・アーティストが “Stuck in My Head” をカヴァーしたら、間違いなく完璧に歌いこなせるだろう」
あの BACKSTREET BOYS でさえ、彼らの栄養となっています。
「”Static”のビデオ撮影で “I Want It That Way” を4人で歌った。バンの中でみんなで歌ってるけど、まあリハーサルするようなことじゃないよ。 ただ歌い始めるだけ! ミュージックビデオの撮影で、僕が “You are my fire/The one desire” と歌い始めたら、他のみんなも歌い始めた。 だからインスタグラム用にちょっと作ったんだ」
あの伝説的なバンドも彼らの一部となっています。
「どのバンド・メンバーも、演奏や作曲に関して最も影響を受けたアーティストがいる。だけど SLEEP THEORY のサウンドに関して言えば、LINKIN PARK は僕らの音楽を形成する上で重要な役割を果たした。サウンドだけでなく、曲作りへのアプローチやオーディエンスとのつながり方にも影響を与えている。 多様性を受け入れること、純粋な感情を表現すること、サウンドで実験すること、そして自分独自の芸術的な声に忠実であること…それはロックとオルタナティヴ・ミュージックの世界に忘れがたい足跡を残したバンドの影響を反映しているんだ」

BEARTOOTH と共に大規模な会場でライブを敢行し、WAGE WAR から NOTHING MORE, HOLLYWOOD UNDEAD まで、あらゆるバンドとステージを共有してきた SLEEP THEORY は、現在のヘヴィ・メタル界のトップクラスと肩を並べる能力を証明してきました。それでも、Cullen は青春時代聴いていたバンドを参考に、自身の道を模索しています。3つのフェイバリットを挙げるよう促されると、彼はさらに多くのバンドを挙げていきました。
「LINKIN PARK, FALL OUT BOY, PARAMORE と言えるかもしれない。でも DISTURBED, THREE DAYS GRACE, SAOSINとも言える。または WOE IS ME, DANCE GAVIN DANCE とも言える。僕にとって、一つに絞るには変数が多すぎる。難しいよ」
まず第一に、Cullen は音楽のファンであり、バンドのファンなのです。だからこそ、自分のバンドに対して他人が感じるファン心を、彼は最も誇りに思っています。たしかにストリーミング指標やチケットの売上は SLEEP THEORY の成功の一端を示すかもしれませんが、人間同士のつながりの電気のような力は、名声や富よりも価値があると信じています。
「”大きなバンド” になることは、人々の心を動かすことだ。それはほんの少しかもしれないけど、人々の生活を変えることだ。SLEEP THEORY の変化に気づいたのは、あるコンサートでのことだった。僕よりずっと年上の男性が写真撮影を求めて近づいてきた。彼が震えているのに気づき、大丈夫ですかと尋ねた。彼は “ヒーローに会うから緊張している” って。音楽が人々に影響を与えていることは知っていたけど、その瞬間、本当に実感したんだ。理解するのが難しかったよ。僕は人生のほとんどを、僕より年上の人々を尊敬してきたけど今や、僕より長く生き、多くの経験を積んだ人々が、僕を尊敬していると言っているんだからね!」
結局、最も重要なのは自分自身を満足させることです。様々な影響の中でも、Cullen はアトランタのメタルコアの先駆者 ISSUES、特に2019年のランドマーク作 “Beautiful Oblivion” を、最も模倣したいテンプレートとして挙げています。彼にとってこれは完璧なアルバムであり、自身のキャリアの終着点として無駄な曲の影も残さないことを理想としています。
「僕はマイケル・ジャクソンのようなアーティストを聴きながら育った。だから、これで十分だと言うような人間にはならない。平均的な曲は欲しくない。ただやり過ごすための曲も欲しくない。人々が僕のカタログを見て “素晴らしいけど、あの曲はもっと良くなれたはず…” と言うような曲も欲しくない。そして、ファンが聴きたいものを作りたいとは思っているけど、自分が作りたくないものは絶対に作らない。
人々はアーティストが聴き手に合わせるという考えに慣れすぎている。僕は誰にも合わせないよ。自分のやりたいことをやる。自分自身に忠実なだけだ。それに共感するかどうかはリスナー次第。僕は決して他人の気まぐれに屈しない。合わせることができない。それが本当に僕の本質だから」


参考文献: KERRANG!:Sleep Theory: “We’re here to make art. That does not begin with being the same as everybody else”

REVOLVER:TORNADOS, TIKTOK AND THE TRUTH: SLEEP THEORY TALK HIGHLY ANTICIPATED DEBUT ALBUM ‘AFTERGLOW’

LOUDWIRE: SLEEP THEORY INTERVIEW

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NEURAL GLITCH : CONVINCED TO OBEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS PARKER OF NEURAL GLITCH !!

“I Consider Editing And Effects Design To Be As Vital an Instrument To The Overall Project As The Guitars, Drums, Bass, And Vocals.”

DISC REVIEW “CONVINCED TO OBEY”

「スタジオ・エンジニアとして、またソングライターとして、編集とエフェクト・デザインは、ギター、ドラム、ベース、ボーカルと同様に、プロジェクト全体にとって不可欠なひとつの “楽器” だと考えているんだ。僕は、NEGATIVELAND, EMERGENCY BROADCAST NETWORK, John Oswald など、編集とオーディオ操作の美しさに特化したオーディオ・コラージュ・アートの大ファンだからね。メタルの行く末を予測するのは難しいけど、これまで未開拓だった領域へと広がっていくことは間違いないと思う。僕の音楽がモダン・メタルの進化に少しでも貢献できれば、とても光栄に思うよ」
90年代初頭。グランジの台頭で絶滅の危機へと追い込まれたヘヴィ・メタルは、さながらかつて小惑星の衝突で絶滅待ったなしとなった地球の生物のように、多様化と細分化を押し進めることになりました。ただし、そんなステレオタイプから距離を置いたモダン・メタルの世界においても、やはりメタルらしい “流れ”、メタルらしいカタルシスを排除し、”脱構築” するバンドは皆無に近かったと言えるでしょう。テキサスの NEURAL GLITCH とその鬼才 Chris Parker は遂にその前代未聞に革命的なメスを入れます。
「僕は様々な形のメタルが好きだけど、それぞれのジャンルの枠の中では限定的すぎると思うことがよくあった。僕はすべてをミックスしたかった。私生活では実に様々な音楽を楽しんでいるので、このような多様な音楽的アイデアのパレットをまとまりのあるプロジェクトに取り入れたいと思ったんだ」
もちろん、多様性から生まれ出る “混沌” がひとつの “顔” となったモダン・メタルの現在ですが、それでもその “混沌” はすべからく意図して作られた混沌。NEURAL GLITCH はその混沌をある意味、神の手に委ねています。いや、もちろん Chris の話を聞けばその混沌は綿密に計算されたものですが、少なくともリスナーの耳にはあまりに突拍子もなく非連続な偶然の産物に聴こえます。
しかし、NEURAL GLITCH がずば抜けているのは、その偶然の産物が往々にして実にクールに連鎖していくこと。
「Devin Townsend と IGORRR の例えについてだけど、彼らの名前を挙げてもらえるだけでも大変光栄だよ。特に Devin は、長い間僕のソングライティングとスタジオ・プロダクションのヒーローの一人だったからね。彼の初期の作品は素晴らしいし、彼のアルバム ”Empath” はジャンルを融合させた傑作であり、スタジオ・プロダクションの最高峰だと僕は思う。僕は彼ら天才の作品の何分の一かのクオリティに達する努力しかできないよ」
なぜこれほど NEURAL GLITCH の “カット・アップ” はクールなのか?それは、Chris が音楽の切り貼り、”コラージュ” を自らの愛するメタルと様々な色彩のジャンルで埋めているから。オールド・スクールなデスメタル、スラッシュ・メタルから始まり、YES の壮大知的なプログレッシブ・ミュージック、MR. BUNGLE の前衛性、MINISTRY のインダストリアルに、Devin Townsend が司る複雑性の全知全能。
そうした Chris の愛情が注がれた音楽の断片たちは、唐突であっても決して偽物やセルアウトのようには聴こえません。むしろ、これこそが “グリッチ・アート”、美しき偶然性で、美しきエラー。我々はこのメタルを壊しながらメタルを愛する不思議な場所から何が生まれるのか、しっかりと見守る必要がありそうです。
今回弊誌では、Chris Parker にインタビューを行うことができました。 「The Boredams は容赦なく狂気的で、聴いていても信じられないようなサウンドだ。 彼らのアルバムを何枚か持っている。 彼らのボーカル、山塚アイのバンド、NAKID CITY での活動は、高く評価してもしきれない。 後にも先にもこのようなレコードはないね。 素晴らしいノイジーなエレクトロニック・パンク・アルバムをリリースしている Space Streakings も大好きだ。 数年前、Igorrr の前座で Melt Banana を見る機会に恵まれたんだけど、彼らのパフォーマンスは強烈で爆発的だった! さらに最近では、ジャンルを超えた予測不可能なサウンドと魅惑的なビジュアルで魅了する Deviloof を発見した。 それに、数週間後にHanabie. と Crystal Lake のライブを見るのが楽しみなんだ。驚異的な Kim Dracula と共演するんだよ」 どうぞ!!

NEURAL GLITCH “CONVINCED TO OBEY” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JINJER : DUEL】 JAPAN TOUR 25′


COVER STORY : JINJER “DUEL”

“There Is No Guarantee That Tomorrow Is Coming, So You Live Right Here And Now.”

DUEL

JINJER のシンガー、ウクライナの英雄 Tatiana Shmayluk は今、メタル世界で最も注目を集める才能のひとりです。カナダの SPIRITBOX とともに披露した “Circle With Me” の驚異的なデュエットはYouTube で100万回以上再生され、何千ものコメント欄で “これまで見たライブの中で最高の瞬間のひとつ” と称賛されています。Shmayluk が Courtney LaPlante の美しいクリーンに乗って原始の活火山を思わせる叫び声を放つ刹那、私たちはヘヴィ・メタル最高の瞬間を目撃します。その自然の脅威にも似た Shmayluk の歌声はリスナーにもはや畏敬の念をさえ抱かせます。そしてそれは、JINJER のニュー・アルバム “Duél” を盛り上げるエネルギーでもあるのです。
ただそんな新たなスーパースターである彼女は、等身大の自分との格差に戸惑い、疲れ、不安と孤独を感じていました。それは、いったいどうやってこの場所にたどり着いたのかわからないという思いに集約されています。
「時々、自分の人生を振り返って、一体何が起こったんだろうと思うことがある。この現実から目をそらさないと、パニックに陥ってしまうのよ」
容赦ないツアー・スケジュール、何億ものクロス・プラットフォーム・ストリーミングの獲得、国際的なオーディエンスを増化、DISTURBED, SLIPKNOT, DEVILDRIVER といったヒーローたちからの招待。Shmayluk にとって、そんな日々はしばしば、とても騒々しく、とてもぼんやりとした夢のように感じられるのです。
「時々、私はこの人生には力不足だと感じるの……いつも強くなければならないことに疲れていたわ」

そんな日々を送る中で、彼女は中世で穏やかにひっそりと生きる人生を夢想するようになります。妄想、白昼夢の中への逃避。とはいえ、Shmayluk はストリーミング時代のロックスターで、絶え間ないツアー、忙しいスケジュール、過剰な刺激を要求される仕事に就いています。そして37歳になった今、彼女はようやく現実を受け入れ、 “人生に身を委ねた” と感じています。
バンドの5枚目のアルバムとなる “Duél” は、Shmayluk のそんな白昼夢から飛び出してきたような作品です。ほとんどの曲は、仮面舞踏会、ハイソサエティ・ソワレなど、血で血を洗うような大騒ぎが繰り広げられる1830年代が舞台。ギタリスト Roman Ibramkhalilov、ベーシスト Eugene Abdukhanov、ドラマー Vlad Ulasevichを擁するバンドは、19世紀のシンフォニック・ミュージックを、ハイパーチャージド・Djent・サウンドで表現しているのです。
オープナー、”Tantrum” はかつて “力不足” “本当にここにいて良いのだろうか?” と自問自答を重ねた Shmayluk の捌け口として機能しました。
「オープニングはどの曲でもいいんだけど、バンドには4人いるからね。だから、レコーディングが終わってからが大変なんだ。アートワークを決め、プレイリストのようなものを作り、曲順を決める!最終的には、本当にハードでヘヴィな曲から始めるのがいいとみんなで決めたんだ。
この曲はアルバムの中でも特に気に入っている。社会的な期待に逆らうこと、たとえクレイジーだと思われてもありのままの自分でいることを歌っている。個人の自由とスタイルについて歌っているの。歌詞を書いたとき、YouTubeで舞踏会のビデオをたくさん見たんだ!私がショーで着ているような服を着て、未来からのゲストとして舞踏会にに現れた様子を、人々の反応を想像してみたんだ。こういう集まりで目立つと、自分はそこにいるべきでないような気がするよね。それがこの曲の核心なんだ」

プログレッシブに酩酊を誘う “Green Serpent” はそうしたプレッシャーから逃れるために彼女が頼ったアルコールをテーマにしています。
「この曲はアルコール、そしてアルコールの乱用について歌っている。ベラルーシ、ウクライナ、ロシアなどでは、”グリーン・サーペント” はアルコールを意味する言葉だ。それに相当する英語を探そうと翻訳してみたんだけど、これほどしっくりくるものは見つからなかった。これほど詩的な例えはないわ。
この曲は、私のアルコール体験を投影したもので、とても心に響く。ツアー中だと、ショーの前に飲んで、ショーの後に飲むのが習慣になりがちなんだ。ストレスがたまると、それに対処するためにあっちで一杯、こっちで一杯と、考えてみれば、私はアルコール依存症だったのかもしれない。それに、常に英語を話さなければならないから、かなりの精神的エネルギーを使うのよ。お酒は助けになるように見えるけど、いつもひどい気分になって、結局、その価値はないと気づくようになったんだ」
実際、”Duél” は Shmayluk がシラフで書いた初めてのレコードです。12月で彼女は断酒2周年を迎えました。
「今までで最高の決断のひとつだわ。”恥は頭痛よりも痛い” という歌詞がマントラのように刺さる。酔ったときに自分がしたことをとても恥ずかしく感じたのよ。記憶がなくなれば、いつか誰かが私が犯罪を犯した、私が誰かを殺したと言うかもしれない。カフカの “裁判” のヨーゼフ・K のように目が覚めたら、身に覚えのない犯罪で連行されるかも。だから、私は自分自身をコントロールしなければならなかった。もちろん、今でもワインの白昼夢を見るわ。でも、酒を再開するのは60歳になってから」

実際、Shmayluk はカフカを愛しすぎて “Kafka” という楽曲まで制作しました。チェコの有名な作家、フランツ・カフカについてのドキュメンタリーを見ながら、彼女は仲間意識と安堵感を感じていました。特に彼女は、カフカが虐待を受けていた父親に宛てた手紙に特に強く反応しました。”私はいつもあなたから隠れて、自分の部屋で、本の中で、狂った友人たちと、あるいは贅沢な考えを抱いていました”
Shmayluk は、その手紙を読んで大泣きし、すぐに亡き作家の名を冠した曲を書こうと思ったのです。そして、彼女のような実は内向的な芸術家たちが、自分の想像の中や他人の創作物の中に、世間からの避難場所を求めることを白日の下に晒しました。カフカの “変身” に登場するゴキブリのグレゴールのように、彼女はしばしば “無視されている、虫のようだ ” と感じてきたといいます。
「子供の頃、私は本当に作家になりたかった。 散文や自然の描写が大好きで、言葉で風景を表現しようとしたの。 それから自分で物語を作るようになったんだけど、それはかなりくだらないものだった。中学1年生のときには、不条理な詩を書き始めたんだ。ランダムな言葉に韻を踏んだ、かなり前衛的と言えるかもしれない詩をね。
この曲は、(オーストリア系チェコ人の作家)フランツ・カフカのドキュメンタリーにインスパイアされたんだ。 当時はそれほど気にしていなかったかもしれないけれど、30代になった今、より強く心に響いたの。 カフカは傷つきやすく壊れやすい性格で、芸術家としてというより、一人の人間として共感できる。 芸術家として、自分の考えや感情を外に出すことには不安があるからね」

まだ不安と闘っている Shmayluk ですが、断酒してからは気分が和らいでいるといいます。依存症による波や動揺のない生活を取り戻すことは、時として挑戦でもあり、ただじっとしていること、ただ存在することが、どれほど難しく、ほとんど罰のように感じられることか。シラフでアルバムのレコーディングをしたことは、言うまでもなく、彼女にとってまったく違う経験でした。
「以前は怒りっぽかったけど、今は冷静になることを学んだわ」
しかし、酒を飲もうが飲むまいが、Shmayluk はドラマチックなことを好むのは彼女の性格の一部だと認めています。彼女は冷酷な自制心で、そして他人の飲酒習慣を身をもって体験することで、自分のそうした一面と戦わなければならなりませんでした。バーで友人たちと一緒にいるときは、オーケストラの指揮者に自分を例え、「さあ、もう一杯!」とタクトを振るうのです。
もちろん、ウクライナが今置かれている状況も彼女の不安を煽りました。
「”Rogue” “ならず者” は特にウクライナの状況についてだけど、血に飢えた支配者たちによってもたらされたあらゆる状況についても言える。人は権力に貪欲だ。この楽曲は、そうした恐怖を引き起こす血に飢えたすべての王に捧げられる。私たちの運命は残念ながら誰かの手の中にある。 悲しいことに、少なくとも近い将来には変えられないことだと思う。しかし、希望は常にある。 いつも言っているように、希望は最後まで潰えないものだから」

アメリカに住んで数年。しかし、移住4周年が近づくにつれ、彼女は不安感が増していることに気づいています。
「過去のトラウマが出てきたんだ。私は4年ごとに引っ越しをする傾向があるからね。休む時は自分の殻に閉じこもっていたい。特に、いつもフレンドリーなアメリカにはまだ馴染んでいない。私はまだ彼らに慣れようとしているの。私たちウクライナ人はあまり笑わないので、彼らはいつも私が何か悪いことをしたと思っているのよ (笑) 絶え間なくパニックが体中を巡り、西海岸の煙の灰色はおろか、空気を吸うのも大変なの」
明日が来ることが当たり前ではない世界を経験した彼女は、そこから新たな生き方も学びました。
「”Hedonist” はたぶん1年前、いくつかのビジネスを経営し、大成功を収めている女性のインタビューを見て思いついた。”快楽主義” という言葉はすでに知っていたけれど、彼女はそれを新たなレベルに引き上げていた。彼女にとっては精神的、心理的な旅だったけど、今では毎日最高の服を着て、毎日銀の皿で食事をするまでになった。今あるものを最大限に生かし、今を生き、今を楽しむことを学んだのよ。明日が来るとは限らないのだから」

女性であることも、時には生きることを難しくします。
「”Someone’s Daughter” は、女性アーティストが常に自分自身を正当化するよう求められているということ、そして最終的にはすべての女性についての曲。今の世界で女性であることは大変なことなのよ。毎日タフでなければならないし…生まれつきとても穏やかで、冷酷な特質を持っていない女性がたくさんいることは確か。 女性はとてもか弱いかもしれないし、実際、私自身もそういう人間だと思う。 私には保護とケアが必要なのだろうけど、私たちが生きている世界のせいで、私はしばしば一人で物事を進めなければならない。
もちろん、私の周りには私を助け、支えてくれる人たちがいるけど、最終的には自分の道を歩まなければならない。 自分自身を武装しなければならない。この曲のヘヴィな部分は、自分がしなくてもいいと思うような振る舞いを強いられる女性がもつ怒りについて歌っている。私だって戦いたくはない。そんなことはしたくないけど、生き残るためには戦士にならなければならないこともあるの。だから、マリー・キュリーやクレオパトラのような “歴史上の強い女性たち” を讃える曲にしたの」
現代のミュージシャンは、SNS とも戦わなければなりません。
「”A Tongue So Sly” は音楽が複雑なので、完成させるのに数日かかったわ。強いメッセージがある。自分に関する噂やゴシップを耳にしたときのことを歌っているんだ。噂は雪だるま式に大きくなり、その噂が間違っていることを証明しようとするあまり、孤立感を味わうことになる。噂を広める人たちは、本人の言い分には興味がない。彼らはあなたの後ろのドアを閉め、ソーシャルメディアや他の場所で汚いたわごとを吐き出したいだけなの」

いくつもの不安と戦いを乗り越えて、彼女は成長を遂げました。”Duel” とはふたりの自分、良い面と悪い面、内面と外面の戦いのこと。戦いはいつも暴力がその手段ではありません。彼女は意志の力で悪い自分、弱い自分に打ち勝ちました。
「”Duel” とは自分自身と戦争すること、自分の悪い面と良い面、自分の内面と外面。人は常に内面の変化が必要だ。成長しなければ、人生は死を歩くようなものだから。この曲はアルコール依存症を克服した私について書かれたもの。それは意志の力についてであり、私たちは皆それを持っている。自分を信じれば、悪いことにも打ち勝つことができる。この曲は暴力的な決闘のようなものではなく、心理的にはある種の暴力があるかもしれないけれど、自分自身をコントロールし、より良い人間になるということを歌っているんだ」


参考文献: KERRANG! :“There’s no guarantee that tomorrow is coming, so you live right here and now”: Inside Jinjer’s new album, Duél

INSIDE JINJER’S ‘DUÉL’: WILL TATIANA SHMAYLUK EVER FIND PEACE?

来日公演の詳細はこちら!TMMusic

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALL THAT REMAINS : ANTIFRAGILE】


COVER STORY : ALL THAT REMAINS “ANTIFRAGILE”

“The Biggest Thing That’s Happened To Us Was Oli Passed Away… It Was a Really, Really Big Deal.”

ANTIFRAGILE

「人間には不屈の魂が必要だ」
そう語るのは、ALL THAT REAMINS のバンドリーダーでボーカリストの Phil Labonte です。彼はメタルの “回復力” を知っています。
Labonte は、ATR が前作 “Victim of the New Disease” をリリースした2018年後半から、待望の10枚目のスタジオLP “Antifragile” の登場となる2025年初頭までのこの6年間、心が折れるような悲劇を含め、多くの障害に直面してきました。
現在、Labonte とギタリストの Mike Martin を除けば、バンドのラインナップは6年前とはまったく異なっています。最も深刻だったのは、2018年、リード・ギタリスト、Oli Herbert がコネチカット州スタッフォード・スプリングスの自宅敷地内、池のほとりで遺体で発見されたことでしょう。彼はまだ44歳でした。この事件は現在も未解決のまま。
Jason Richardson(元 CHELSEA GRIN、BORN OF OSIRIS)が Herbert の後を継ぎ、最初はツアー・メンバーとして、その後フルタイムのリード・ギタリストとなります。しかし、パンデミックにより、ALL THAT REMAINS の再始動、その勢いはすぐに止まってしまったのです。
2022年、ライブ・サーキットがようやく再開されると、グループは “The Fall of Ideals” のアニバーサリー・ツアーを行い、遅ればせながらアメリカン・メタルコアの画期的なレコード15歳の誕生日を祝いました。
さらにそこから大きな変化が待ち受けていました。Labonte 個人としては、ポッドキャスト Timcast IRL の共同司会とプロデュースを始めました。ALL THAT REMAINS としては元レコード・レーベルと友好的に決別。2024年春、ベーシストの Matt Deis とドラマーの Anthony Barone を加えた5人組は、自分たちだけで独立し、オール・ザット・リメインズ・レコーズという名の独立レーベルを設立したのです。

それでも、Labonte は彼とバンドメンバーが乗り越えてきたすべてのことに活力を感じています。そしてそれこそが新譜のテーマとなりました。
「僕は、ポジティブで高揚感のあるコンセプトが欲しかった。人生で経験する苦難は、実は私たちをより強くしてくれるものなのだからね。
人には目的が必要だ。ビーチでマルガリータを飲みながらぶらぶらするだけでは十分じゃない。”喜びは目的地ではなく旅にある” という古いことわざは、真実だ」
つまり、ALL THAT REMAINS の新作は、近年の苦難の旅の中で鍛え上げられた、正真正銘の銘刀であり、バンドが輩出した初期の西マサチューセッツ・メタルコア・シーン、その特徴的なサウンドを想起させながら、ウルトラ・テクニカルなギター・プレイから精巧に磨き上げられたヴォーカル・フックに至るまで、現代的なタッチが加えられているのです。
ではこのバンドのリーダー Labonte にとって、この6年間で最大の苦難は何だったのでしょう。
「そうだね、いろいろあったよ。一番大きかったのはやっぱり Oli が亡くなったことかな…本当に、本当に大きな出来事だった。Oli は ALL THAT REMAINS に加入した最初の男だった。まだフルバンドになる前だった。ギタリストの Mike がやってきて、リフを弾いてみたんだけど、当時はまだうまく弾けなかったからね。Mike が彼の先生に会うべきだって言うんだ。それで Oli に会って意気投合したんだ。彼は最初から僕と一緒だった…
だから彼を失ったとき、彼なしで ALL THAT REMAINS をやれるのか、Oli Herbert 抜きの ALL THAT REMAINS とはどういうものなのかという大きな疑問が湧いたんだ。バンドののサウンドに欠かすことのできない存在だった彼抜きで何をやるのか?それを乗り越えるには長い時間がかかったね」

人として、Oli はバンドにとってどんな存在だったのでしょう?
「Oli はまるで家族のようだった。僕たちみんなを笑わせてくれた変なこととかがすぐ思い浮かぶんだけど、個人的なことだからあまり話したくないんだ。でも、みんなが変だと思うようなくだらないことこそ、家族みたいで大好きだったんだ。Oli が僕たちの1人か2人にイライラすることもあったけど、今振り返ると笑ってしまう。
昔の写真なんかを見ていると、ツアー中に彼が変なところで気絶しているのがたまらなく好きだ。空港とかホテルのロビーとか、変な格好で寝ている Oli の写真がフォルダに入っているんだ。バスを降りてすぐの草むらで気絶している Oli の写真もある。彼は “草の感触を味わいたかったんだ” って言ってた。僕らはそうだな!と笑ってた。
Oli について考えるとき、私はそういうことを思い出すのが好きなんだ。奇妙で風変わりなことが、彼をユニークで特別な男にしていたからね」
Oli の跡を継ぐ Jason Richardson と Labonte は本当に気が合うようです。
「彼はギターのサイボーグだからね!(笑) そう、彼はコンピュータープログラムなんだ。頭の中は1と0だけ。それだけ。あの子とは何度も一緒に出かけたけど、”彼は本物のロボットだ” って結論に達した (笑)。彼の演奏で本当に素晴らしいのは……彼は音楽理論や何やらについて深く膨大な知識を持っていて、小さなアイデアでもそれを発展させることができるんだ。僕たちは彼に2つのリフを渡して、”さて、どうしよう?”と言うことができる。そうすると彼は、曲全体で使える6、7種類のパートと、そのバリエーションとかを考えてくれるんだ。
ちょっとしたアイディアが浮かんだら、それを音楽理論に詳しい人に持っていくと、そのアイディアだけでなく、そのキーの他のスケールとの関係や、別のキーに移動させる方法などを教えてくれるんだ。それらはすべて、バンドが開いて実験できるドアなんだ。そういう人と一緒に仕事ができるのは本当に素晴らしいことだ。それが、僕たちが仲良くなれる理由のひとつだと思う。
もちろん、それは Oli が得意としていたことの1つであり、Jason が Oli と共有していることの1つだと思う。とにかく彼はワールドクラスのプレイヤーだが、ワールドクラスの知識も持っているんだ」

Labonte にとって、Oli の “モノマネ” をするギタリストは必要ではありませんでした。
「あの子は最高だよ。もし死後の世界があったとして、Oli が自分の場所に立っているのが Jason だとわかったら納得するだろうね。だから、それが重要なんだ。Oli になりすまそうとするようなヤツは獲りたくなかった。Oli は Oli だった。彼のリフの書き方、彼の個性。長髪でひげを生やしている人を断ることはなかったけど、長髪でひげを生やしてなければならないとは言わなかった。そんなことは求めていなかった。僕らが一番避けたかったのは、オーリーになりきってもらおうとしたように思われることだった。もう誰も Oli にはなれないんだから」
Richardson がギター・サイボーグになれたのはふたりの天才のおかげでした。
「Alexi が亡くなってから、CHILDREN OF BODOM をまた聴き始めたんだ。DREAM THEATER 並んで、僕が最も影響を受けて育ったバンドのひとつだからね。彼のギターは僕の嫌いなものばかりだけど、ずっと欲しかったんだ。 とんがっているのは好きじゃないし、EMG のファンでもないし、ノブは1つだし、ロッキング・ナットがついているし、フロイド・ローズもついている。 でも大人になってからは、Alexi か Petrucci かのどちらかが欲しかったんだ。周りの楽器屋には Petrucci のギターしか置いてなかったんだ」
Richardson にとって、ALL THAT REMAINS への加入は驚きでした。
「明らかに予想外だった。前任のギタリスト、Oli は20年間バンドに在籍していたんだけど、その Oli が亡くなったんだ。 ネットで見て、”なんてこった” って思った。彼は僕の友達で、以前一緒にツアーを回ったし、ジャムも一緒にやった。何時間も話をした。
それから1週間半後くらいだったと思うけど、彼らはインスタグラムにメッセージをくれた。”ちょっと聞きたいことがあるんだけど、僕らはすでにツアーを予約していて、アルバムのリリースも決まっているんだけど、このツアーの代役をやってもらえないかな?” ってね。ATR とは過去に何度か他のバンドでツアーをしたことがあったから、すぐにイエスと答えたよ。時間さえかければ曲は弾けると思っていた。幸運なことに、Oli はすべてを譜面に書き起こしていた。当時の新譜からの最新曲以外は、耳コピの必要はなかった。正直なところ、耳コピすることが唯一の不安だったんだ。それ以外のことは、もう一人のギタリストの Mike がビデオを送ってくれたりして、それで曲を覚えることができた」

Richardson は奇抜なソロキャリアと王道の ATR 、その二刀流を楽しんでいます。
「ATR は何枚もアルバムを出しているし、彼らのサウンドを評価する大勢のファンがいる。だから、彼らと一緒に曲を書いている間は、そのことを100%念頭に置かなければならない。でも幸いなことに、彼らには超クレイジーなテクニカル・メタルの旧作もたくさんあるし、”What If I Was Nothing” のようなストレートなロック・ヒット曲もある。意図的にラジオ用に書かれた曲が1、2曲ある。だから、よりシンプルで消化しやすいサウンドになっているのは明らかだ。
僕のソロをミュージシャンでない人が聴いて、”ああ、これは最高だ!” とは思わないだろう。僕のソロを聴くのは、ギタリストやミュージシャン・オタクだけだよ。ミュージシャンでなくても、”What If I Was Nothing” を聴けば、すぐにそれに惹きつけられるだろう。この曲は本当にキャッチーで、すぐに頭に残るから、バンドのために曲を書くときはいつも、もっとビジネス的な帽子をかぶらなければならない。その両方ができるようにならないとね。狂気的なメタルの曲も作りたいし、ラジオ向けのバラードも作りたい」
新メンバー、Richardson とドラマーの Anthony に加え、旧メンバーのベーシスト、Matt Deis もバンドに復帰しました。
「素晴らしいよ。2005年に Matt が脱退したときも、彼は僕らと仲が悪かったわけじゃないんだ。彼は CKY で演奏する機会を得たんだ。彼は大ファンだった。彼はそのバンドが大好きで、彼らのやっていることが大好きだった。ATR の2004年のセカンド・アルバム “This Darkened Heart” は発売されたばかりか、発売されて間もなかった。”The Fall of Ideals” はまだ出ていなかった。だから、僕らと一緒にいてもまだ何が起こるかわからないという状態だった。”Darkened” が少し成功して、みんなが僕たちを見て “これは誰だ?” という感じになったけど、それがキャリアになるかどうかは明らかではなかったんだ。
だから、彼が “こんなチャンスをもらったよ “と言ったとき、僕たちは “わかったよ。僕らにとっては最悪だけど、それでも君を愛している” って感じだった。連絡は取り続けたよ。彼はマサチューセッツ州西部の出身だから、幼馴染みみたいなものさ。Matt のことはずっと好きだったから、彼が戻ってきてくれて嬉しいよ。僕たちはいつも本当に仲が良かった。
それに素晴らしいミュージシャンなんだ。ピアノもベースもギターも弾く。音楽理論にも詳しいしね」

Labonte は作詞家として、”人間の条件に関する歌が最も説得力がある “と言っています。
「”Kerosene” は10月7日のイスラエル同時多発テロの直後に書かれたもので、パレスチナ人とイスラエル人の間で起こっている戦闘をアウトサイダーとして解釈したものなんだ。双方の言い分を聞けば、どちらにもそれぞれの物語があり、それぞれの理解の仕方がある。そのため、双方がそれぞれの理解の仕方を持っている。この確執は長い間続いている。1948年だけでなく、何千年もさかのぼるものなのだ。
彼らが相手側を少なくとも正当なものとして認め、同意することができない限り、このような事態はさらに続くだろう。”言葉がただの灯油になるとき” というサビのセリフがある。10月7日に実際に起こったことを聞いて、本当に、本当につらかった。控えめに言ってもね。2015年にパリの会場で行われた EAGLES OF DEATH METAL のコンサート中にバタクランで起きたテロ事件を思い出したよ。いろいろなものを見ていて、バタクランのことを考えずにはいられなかった。バタクランにいた人たちを知っていたから。
“Kerosene” を書いたのは、10月7日の事件の次の週末だったと思う。プロデューサーのジョシュ・ウィルバーとロサンゼルスにいて、そのことを話し始めたんだ。ただ会話が流れていて、”これを曲にできるかもしれない” と思ったんだ。この曲の出来栄えには本当に満足しているよ」
特に、ライブを楽しんでいただけの罪のない人々が巻き込まれたのですから、人ごとだとは思えませんでした。
「”Cut Their Tongues Out ” について話そうか。もっと怒っている曲だから (笑)。レコードのために最初に作った曲は “Divine”だった。Jason が曲を提供してくれて、僕とジョシュが一緒になって、アルバムのメッセージをどうしたいかを話し始めたんだ。このアルバムはパンデミック以来の作品だったから、全体的にダウナーな雰囲気にはしたくなかったんだ。この2年間、ロックダウンや抗争、そして多くの人たちが互いに罵り合ったりして、みんなもう十分に打ちのめされていたからね。
だから “Divine” は、自分が好きなことを何でもやっていて、自分が有能で、どうすればそれができるかを知っているとき、すべてがうまくいっているときに感じる感覚を表現しようとしたんだ。スポーツの世界では、それを “ゾーンに入る ” と呼ぶ。マイケル・ジョーダンがミスを一切許さなかったときのようにね。僕はその映像を覚えている。マイケル・ジョーダンが素晴らしいスリーポイントを決めたとき、彼は振り返ってコーチのフィル・ジャクソンの方を見るんだよな。”神 “とは、自分が着手しているどんなことでも、そのやり方を学ぶために全力を注いできたおかげで、ほんのちょっとだけ手に入れることができる小さな神性のかけらなんだよ。全てを注げば最高に有能になれるし、その結果には疑問の余地はない」

そうした揺るぎない “好き” “得意” を作ることはまさに “Antifragile” “こわれにくいもの” のミッション・ステートメントと一致しています。どんなことでも、自分が充実していると感じられればいい。だからこそ、ATR は独立の道を選んだのでしょうか?
「レーベルに所属し、レーベルを通じてライセンス契約を結ぶという選択肢もあったけど、レーベルに付随する多くのネガティブな要素に煩わされることなく、自分たちの手で作品を作り上げるというアイディアがとても気に入ったんだ。もうね、今となっては、レーベルは単なる広告代理店に過ぎないから。
もし君たちが若いバンドなら、レーベルに所属したいと思うのは分かるよ。でもね、ALL THAT REMAINS にとって、これは10枚目のリリースなんだ。僕らには歴史がある。”Fall of Ideals” のアニバーサリー・ツアーをやったんだけど、20年近く前にリリースされたレコードの曲を聴きに来てくれたんだ。そうした影響力を持ち、人々がまだ気にかけてくれていることは、とても幸運なことだ。でも、もし僕らのようなカタログや歴史がなかったら、”何か突破口を見つけ、人々の注目を集める方法を見つけなければならない” と思うのは自然なことだからね」
Lebonte のもう一つの仕事、ティム・プールとのTimcast IRLの共同司会とプロダクションの仕事は、どのように始まったのでしょう?
「ツイッターだよ。2013年に彼が “ウォール街を占拠せよ” を取材していた時に、彼の番組をいくつか見たんだ。それから、ティムの毎日の番組を見るようになった。彼はただビデオを作るだけで、基本的にただカメラを回して自分自身を撮影するだけだった。
僕がレガシーな、大きなメディアから離れ始めたのは、彼らが僕が魅力的だと思うものを本当に表現していなかったからだ。9.11の直後、僕はニュース中毒になった。なぜ起きたのか、何が起きているのか、そういったことを知りたかった。YouTubeが普及し始めたこともあって、インターネットでいろいろなものを見るようになり、自分の関心のあることについて話している人たちを見つけるようになった。ティムもその一人だった。
2016年頃、ツイッターでティムと交流するようになり、その後、バンドがきっかけでIRLのゲストに招待されたんだ。そしてある日、彼から電話がかかってきて、”お願いできる?” ってね」

Lebonte は明らかに、政治的に非常に率直な人物ですが、ATR は決して政治的なバンドではないでしょう。
「僕は常に分けて考えようとしてきた。その理由は、ATR には常に異なる政治的意見を持つ人々がいたからだ。僕と元ベーシストは、かなりはっきりした政治的意見を持っていた。Jason と僕は、政治的な意見の違いがはっきりしている。でも僕は、これまでの人生で、政治的なことが誰かとの友達付き合いをやめる理由になると思ったことは一度もない。だから僕にとっては、”ステージに上がって説教することはできない” という感じだった。ATR のライヴでやったことのある政治的なことといえば、2012年にロン・ポールのシャツを着たことくらいかな。
あと、マリファナに耽溺していた頃、コロラド州でマリファナが合法化されたばかりだったと思うんだけど、そのときに言ったんだ。コロラド州がマリファナを合法化したのはいいことだ。もちろん、今となっては全く議論の余地はない。
バンドには、僕と同じ考え方のヤツもいれば、僕と全然違う考え方のヤツもいる。それが普通だと僕は思う。意見が合わない友達がいないなら、そっちのほうが異常な気がする」
反対意見を持ちにくい時代になった?
「そうだと思う。でもそれは変わりつつあると思う。マーク・ザッカーバーグは昨日、5年ほど前に行った自由な意見交換についてのスピーチを撤回した。
結局のところ、アメリカでは誰もが相違点よりも共通点の方が多いんだよ。そして、隣人を敵視するよう人々を駆り立てる衝動は、もう限界だと思うし、ほとんどのアメリカ人はそれにうんざりしていると思う。僕らは反対する人の意見にも耳を傾けるべきだ。
僕は、とてもとても “生かされて生きる” タイプの男だ。極端な政治的意見は持っていない。非常に穏健だ。正直に言うと、90年代の民主党的なんだ。ナチス呼ばわりされたことは数え切れないほどあるが、同時にナチスからユダヤの回し者、イスラエルの回し者として攻撃されたことも数え切れないほどある。両側からそう言われているのなら、どちらの側にもそこまで極端にはなれないはずだ」

キャンセル・カルチャーは滅びるのでしょうか?
「その力があるかどうかを決めるのは、一般人である僕たちだ。炎上時に起こることは、誰かが何かを言って、”ああ、この人はこんなことをしたんだ” となる。そしてネットで大騒ぎになる。
それが社会にとって良いことだとは思わない。特に、意図的にやっていない人の場合はね。だから、もし誰かが何かを言っていて、それが侮辱的であったり、分断的であったり、偏見に満ちていたりするつもりはなく、何かについて話していて、それがただ無慈悲な言葉でないなら、人々が自分の人生に悪影響を及ぼす理由はない。誰かが誰かを罵倒したりするのであれば、企業が “あなたとはもう付き合いたくない” と言うのは理にかなっているかもしれないけどね。
でも、軽はずみなキャンセル・カルチャーはもう終わりだと思う。でも、他人の行動に影響を与える方法として暴挙を利用しようとする人々がいる限り、常に暴挙は続くと思う。ただ、人々は絶え間なく憤慨し続けることに飽きているのだと思う。だから、少なくともしばらくの間はね…」


参考文献: REVOLVER MAG:HOW TRAGEDY AND TURMOIL MADE ALL THAT REMAINS ANTIFRAGILE

GUITAR WORLD :Jason Richardson on his love of Alexi Laiho, soundtracking Lifetime movies and how his late pet pug’s progressive drinking habits shaped his new album

NEW ENGLAND SOUNDS :Jason Richardson On Filling Big Shoes In All That Remains

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALLT : FROM THE NEW WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLLE NORDSTROM OF ALLT !!

“Hiroshima And Nagasaki Were The Starting Points For Our Research When Writing This Album. We Can’t Even Begin To Imagine The Horrors The Victims Experienced.”

DISC REVIEW “FROM THE NEW WORLD”

「メタルのコアなジャンルを掘り下げた後、2012年にデビュー・アルバムをリリースした VILDHJARTA を知ったんだ。彼らのサウンドはそれまで聴いたことのないものだった。僕の作曲にも音楽の好みにも大きな影響を与えたよ。彼らはモダン・メタルにおけるランドマーク的なバンドだよ」
2010年代にあれだけ一世を風靡した Djent は死んだのでしょうか?いえ、そんなことはありません。Djent のリフエイジやポリリズミカルなダンス、そして多様性や DIY の哲学はあのころ、Djent を崇め奉っていた若者たちの楽曲に今も息づいています。
2020年にスウェーデンのカールスコガにて結成された ALLT は、音楽で物語を語るストーリーテリングの能力と、機械的でありながら有機的という革新的なアプローチですぐに頭角を現しました。その名の通り “ALLT (All) is Everything” ジャンルを超越したメタルコアの煌めきは、フランス&ノルウェーの連合軍 MIRAR と双璧をなしていますが、驚くべきことに両バンド共にその心臓には VILDHJARTA の奇跡が眠っています。そう、美しいメタルは決して一夜にして築かれることはありません。そこには必ず、過去からの学びやつながりがあるのです。
「広島と長崎は、このアルバムを作る際のリサーチの出発点だった。犠牲者が経験した恐怖は、僕たちには想像することさえできないよ。石に刻まれた “人影の石” のような悲しみを知ることで、とても悲劇的なイメージが鮮明になり、1曲目の “Remnant” の歌詞になったんだ。 “死の人影、悲劇のシルエット” としてね。このようなテーマについて書くことは、僕たちに感情の解放や浄化を与えてくれる。そして、僕らと共にリスナーにもこうしたテーマを探求する機会を与えられたらと願う。僕たちは、犠牲者とその家族に対する深い尊敬の念を持ってこの曲に取り組んだんだ」
まさに “新世界より” 来たる “From The New World” は、荒廃の中に自己を発見する、綿密に作られた音楽の旅。世界の緊張と恐怖にインスパイアされたこの旅路は、核兵器による崩壊と回復、そしてその後に続く感情的で哲学的な風景をテーマにしています。そしてその創作の道のりで、ALLT は日本を物語の源泉に据えたのです。
そのタイトルが表すように、”From the New World” は日本から生み出された小説、アニメ “新世界より” に啓示を受けて生み出されました。そこでは、核兵器並みの暴力サイコキネシスによって滅んだ世界と、そのサイコキネシスを徹底した情報管理とマインドコントロールによって抑えた暴力のない新世界が描かれていました。ALLT はその物語を、核の脅威にさらされた現代と照らし合わせます。
機械的なサウンドと有機的なサウンドは自ずと融合し、荒廃と、その余波の中で生き続ける生命の静かな美しさ両方を呼び起こします。電波の不気味な質感から膨大な計算能力を持つ巨大な機械まで、あらゆるものを模倣した広がりのあるシンセ、ダイナミックなインストゥルメンテーション、パワフルなボーカル、そしてオーガニックな質感がこの音楽にリアリティを根付かせました。そうして彼らがたどり着いたのが、広島と長崎でした。
「僕の経験では、メタルは常に人々が暗闇に立ち向かい、カタルシスを見出すことのできる空間だった。メタルのコミュニティは一貫してファシズム、人種差別、不平等を拒絶してきた。メタルは、人々が最も深い感情を表現し、同じ感情を持つ人々とつながることのできる空間なんだよ。アーティストが真実を語り、境界線を押し広げ続ける限り、ポジティブな変化への希望は常にあると思う」
ALLT は “人影の石” に恐怖し、人の憎悪や暴力性が生み出す悲劇や不条理に向き合いました。それでも彼らは人類を諦めてはいません。なぜなら、ここにはヘヴィ・メタルが存在するから。一貫して人類の暗闇に立ち向かい、魂の浄化を願ってきたヘヴィ・メタルで彼らは寛容さ、優しさ、多様性、平和で世界とつながることを常に願っています。混沌とした世界でも、メタルが真実とポジティブなテーマを語り続ける限り、一筋の巧妙が消えることはないのですから。
今回弊誌ではギタリスト Olle Nordstrom にインタビューを行うことができました。「フロム・ソフトウェアと宮崎英高が創り出す世界には本当にインスパイアされているんだ。彼のゲームやストーリーは、僕が ALLT のリリックでストーリーを創り上げていく方法の大きなインスピレーションになっているんだ。アルバムのタイトルも、僕の大好きなアニメのひとつ “新世界より” から拝借したんだ。”エヴァンゲリオン” からも、そのスケールの大きさと想像力に深くインスパイアされているね。10代の鬱屈した時期に観て以来、あらゆる媒体の中で最も影響を受けた作品のひとつになったよ」 どうぞ!!

ALLT “FROM THE NEW WORLD” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DIAMOND CONSTRUCT : ANGEL KILLER ZERO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KYNAN GROUNDWATER OF DIAMOND CONSTRUCT !!

“Bands Like Korn And Linkin Park Blend New Things Together So Well. We’ve Always Looked Up To The Nu-metal Genre For Being Something Truly Unique. That’s What We Want To Do In a Modern Way.”

DISC REVIEW “ANGEL KILLER ZERO”

「KORN や LINKIN PARK のようなバンドは、当時の新しいものをうまく融合させていた。だからこそ、僕たちは Nu-metal というジャンルが本当にユニークなものであることを常に尊敬してきたんだ。僕たちは、ああいうことを今の現代的なやり方でやりたいんだ。誰かが僕らの音楽を聴いたときに、”あれは DIAMOND CONSTRUCT だ!”と言ってもらえるような、新しくてすぐ認識できるものを作りたいんだよ」
CODE ORANGE, VEIN, SPIRITBOX, LOATHE, VENDED, TETRARCH といった新鋭の登場、 MADVAYNE や SATAIC-X の復活、そして SLIPKNOT や KORN, DEFTONES の奮闘によって Nu-metal は再びメタルのトレンドへと返り咲いてきました。興味深いのは、あの奇妙で雑多な電子的重量感が、近年メタルの原動力となった “ノイズ” と絶妙な核融合を起こしていることでしょう。オーストラリアの DIAMOND CONSTRUCT は、そのノイズと Nu-metal の核融合を使って、メタルコアの原石をダイヤモンドの輝きへと磨き上げました。
「メタルコアというジャンルが非常に規則的で、特定のサウンドやリフの書き方があるせいで門戸が閉ざされているようだということには、僕たちもまったく同意見だよ。だからこそ、僕たちは常にオリジナリティを大切にしてきた。DIAMOND CONSTRUCT を他の誰かのように聴かせたくない。だから、他のバンドが残してくれたサウンドから影響を受けつつも、自らのサウンドを拡大させようとベストを尽くしているんだ」
実際、DIAMOND CONSTRUCT は、ヘヴィ・ミュージックの暗闇に多様でエレクトロニックな光の華を咲かせることに成功しています。それは、メタルコアという箱の鍵を解き放ち、”ニュー・メタルコア” の潮流を押し進めることにもつながりました。だからこそ彼らは、SPIRITBOX, THOUSAND BELOW, そして HARPER といった印象的なバンドを擁するあの Pale Chord における最初のオーストラリア人ロースターとなることに成功したのです。
そして、EMMURE, ALPHA WOLF, DEALER を源流とし、DIAMOND CONSTRUCT や DARKO US を巻きこんで大きな津波へと成長したその波は、日本にまで到達して PALEDUSK, PROMPTS のようなバンドが海を渡る力にもなったのです。
「Braden はとてもユニークな人だ。時代の流れに逆らうのが好きで、期待されることをするのが嫌いなんだ。Wes Borland, Josh Travis, Jason Richardson のようなギタリストへの愛が、彼をペダル・ダンスというニッチなテクニックを見つけるまでに成長させたんだ。彼は、自分が最もシュレッディでテクニカルなギタリストではないかもしれないことを知っているからこそ、他の多くの人ができないことをやっているんだ。僕たちは、全員がギターという楽器の限界を押し広げるのが好きなんだ」
そんなトレンドを “開拓” した彼らが世界から注目を集めた一因が、ギタリスト Braden Groundwater の “ペダル・ダンス” でした。シュレッドとテクニックが溢れるインターネットの世界で、DIAMOND CONSTRUCT は楽器の扱いにおいても常識にとらわれず、ノイズと色彩の新たな潮流を生み出していきます。Braden は驚異的スピードや奇抜なテクニック以外にも、ギターには様々な可能性があることをペダルのタップダンスで巧みに証明していきました。白には200色ありますが、Braden のサウンドはきっとそれ以上に万華鏡の可能性を秘めています。
「アニメやゲームが持つオーラといかにマッチしているかということに、多くの共通点やつながりがあることに気づいたんだ。個人的な成長や失恋、恋愛、グループとの境界を乗り越える物語。それがこのアルバムのテーマだ。ファイナル・ファンタジーのようなゲームがもたらすストーリーに似ているよね。だからそれと連動させるために、ゲームから抜粋した声でインタールードを書いたんだ。僕たちが作った音楽とテーマにマッチしたビジュアルを表現することは、すべて理にかなっていたんだ」
そうして生み出されたダイヤのサウンドは、”Angel Killer Zero” で日本の文化と見事に融合を果たします。日本のアニメやゲームは、孤独感、失恋、幼少期のトラウマ、そして目を見張るような成長という、人生をナビゲートするようなストーリーで世界を魅了してきました。誰もが経験するような物語だからこそ、彼らはそのテーマに感化され、メタルと共に開拓することを心に誓いました。そうした普遍的で、しかし特別な勇気をもらえるようなテーマは、SNS も駆使して世界中多くの人に自身の音楽を届けたいと願う今の彼らにピッタリだったのです。
今回弊誌では、ボーカリスト Kynan Groundwater にインタビューを行うことができました。「最近、僕たちは、本当に注目されたり、注目を浴びるためには、現代のソーシャル・メディアを把握しなければならないことに気づいたんだ。それは、音楽と同じくらい重要なことなんだってね。だから僕たちは、その世界を学び、それに取り組み、より上手になり、より一貫したものにすることを自分たちに課したんだよ」 Wes Borland に影響を受けたギターっていいね。どうぞ!!

DIAMOND CONSTRUCT “ANGEL KILLER ZERO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN SEARCH OF SUN : LEMON AMIGOS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM LEADER OF IN SEARCH OF SUN !!

“I Think The Whole ‘Angry Looking Metal Band’ Is Getting a Bit Stale In General.”

DISC REVIEW “LEMON AMIGOS”

「”怒っているように見えるメタル・バンド” というのは、一般的に少し古臭くなってきていると思う。”Virgin Funk Mother” は間違いなく、自分たちの個性を探求し、殻を破り始めたアルバムだ。典型的なメタルではないアイデアを持ち込むことを恐れなくなった」
かつて、ヘヴィ・メタルといえば、そのイメージの中心に “怒り” が必ずありました。それは、隣の家のババアが凍るくらい寒いスイスの冬に向けられた怒りかもしれませんし、親のクドクドしたお説教に突きつける “Fuckin’ Hostile” かもしれませんし、ド悪政に対して売りつける喧嘩歌舞伎なのかもしれません。もちろん、そうやって怒りを吐き出すことで、アンガーマネージメントを行い、心の平穏を保つこともできました。つまり、メタルの中にはネガティブな怒りと、ポジティブな怒りが常に同居していたのです。
しかし、多様なモダン・メタルの開花とともに、メタル=怒りという単純な方程式は崩れつつあります。喪失や痛みを陰鬱なメタルで表現するバンドもあれば、希望や回復力を光のメタルで提示するバンドもいます。
そして、BULLET FOR MY VALENTINE, FUNERAL FOR A FRIEND, TWELVE FOOT NINJA といった大御所ともステージを共にしてきたロンドンの新たな才能 IN SEARCH OF SUN は、明らかに “高揚感” をそのメタルの主軸に据えています。典型という概念さえ時代遅れとなりつつある今、人生にもメタルにも、愛、幸福、悲しみ、怒りといったあらゆる感情が内包されてしかるべきなのかもしれませんね。
「本当に単純なことなんだけど、僕らはいろんな音楽が大好きで、みんなグルーヴに夢中なんだ!それがいつも僕らの曲作りに現れていて、それが僕らの音楽にファンキーな雰囲気を加えているんだと思う。グルーヴがなければ、音楽はただのノイズだからね!」
パッション・イエローの背景に、輪切りの悪魔的レモン。そのアートワークを見れば、IN SEARCH OF SUN がメタルの典型を一切気にしていないことが伝わります。もちろん、悪魔こそここにいますが、ではトヨタのロゴマークを悪魔に模した車すべてが真性の悪魔崇拝者なのでしょうか?むしろ、ここには甘酸っぱいエモンの果汁や、ちょっとしたユーモア、そして踊り出したくなるような楽しい高揚感で満たされています。
もしかすると、例えば、最強の魔法ゾルトラークがほんの10年ちょっとで誰にでも使える一般攻撃魔法になってしまったように、メタルの怒りや過激さ、凶悪な音、そんなヘヴィのイタチごっこにも限界があるのかもしれません。だからこそ、グルーヴがなければ音楽なんてただのノイズだと言い切る彼らの、冒険を恐れない多様性、典型を天啓としない奔放さ、そして何より、メインストリームにさえ挑戦可能な豊かで高揚感のあるリズムとメロディの輝きは、メタルの未来を託したくなるほどに雄弁です。
今回弊誌では、Adam Leader にインタビューを行うことができました。「ファースト・アルバムの中に “In Search Of Sun” という曲があるんだけど、この曲は内なる葛藤と、自分が一番愛しているものを掴みに行くための世界との戦いについて歌ったものなんだ。この曲は、決意と自分自身を決してあきらめないことについて歌っている。僕たち全員がそのような姿勢を共有しているから、自分たちを真に定義するような名前に変えるのは正しいことだと思ったんだ」 PANTERA や Djent, BON JOVI とMJと、UKポップス、UKガレージ、ダンス・ミュージックが出会う刻。どうぞ!!

IN SEARCH OF SUN “LEMON AMIGOS” : 9.9/10

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