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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NEURAL GLITCH : CONVINCED TO OBEY】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS PARKER OF NEURAL GLITCH !!

“I Consider Editing And Effects Design To Be As Vital an Instrument To The Overall Project As The Guitars, Drums, Bass, And Vocals.”

DISC REVIEW “CONVINCED TO OBEY”

「スタジオ・エンジニアとして、またソングライターとして、編集とエフェクト・デザインは、ギター、ドラム、ベース、ボーカルと同様に、プロジェクト全体にとって不可欠なひとつの “楽器” だと考えているんだ。僕は、NEGATIVELAND, EMERGENCY BROADCAST NETWORK, John Oswald など、編集とオーディオ操作の美しさに特化したオーディオ・コラージュ・アートの大ファンだからね。メタルの行く末を予測するのは難しいけど、これまで未開拓だった領域へと広がっていくことは間違いないと思う。僕の音楽がモダン・メタルの進化に少しでも貢献できれば、とても光栄に思うよ」
90年代初頭。グランジの台頭で絶滅の危機へと追い込まれたヘヴィ・メタルは、さながらかつて小惑星の衝突で絶滅待ったなしとなった地球の生物のように、多様化と細分化を押し進めることになりました。ただし、そんなステレオタイプから距離を置いたモダン・メタルの世界においても、やはりメタルらしい “流れ”、メタルらしいカタルシスを排除し、”脱構築” するバンドは皆無に近かったと言えるでしょう。テキサスの NEURAL GLITCH とその鬼才 Chris Parker は遂にその前代未聞に革命的なメスを入れます。
「僕は様々な形のメタルが好きだけど、それぞれのジャンルの枠の中では限定的すぎると思うことがよくあった。僕はすべてをミックスしたかった。私生活では実に様々な音楽を楽しんでいるので、このような多様な音楽的アイデアのパレットをまとまりのあるプロジェクトに取り入れたいと思ったんだ」
もちろん、多様性から生まれ出る “混沌” がひとつの “顔” となったモダン・メタルの現在ですが、それでもその “混沌” はすべからく意図して作られた混沌。NEURAL GLITCH はその混沌をある意味、神の手に委ねています。いや、もちろん Chris の話を聞けばその混沌は綿密に計算されたものですが、少なくともリスナーの耳にはあまりに突拍子もなく非連続な偶然の産物に聴こえます。
しかし、NEURAL GLITCH がずば抜けているのは、その偶然の産物が往々にして実にクールに連鎖していくこと。
「Devin Townsend と IGORRR の例えについてだけど、彼らの名前を挙げてもらえるだけでも大変光栄だよ。特に Devin は、長い間僕のソングライティングとスタジオ・プロダクションのヒーローの一人だったからね。彼の初期の作品は素晴らしいし、彼のアルバム ”Empath” はジャンルを融合させた傑作であり、スタジオ・プロダクションの最高峰だと僕は思う。僕は彼ら天才の作品の何分の一かのクオリティに達する努力しかできないよ」
なぜこれほど NEURAL GLITCH の “カット・アップ” はクールなのか?それは、Chris が音楽の切り貼り、”コラージュ” を自らの愛するメタルと様々な色彩のジャンルで埋めているから。オールド・スクールなデスメタル、スラッシュ・メタルから始まり、YES の壮大知的なプログレッシブ・ミュージック、MR. BUNGLE の前衛性、MINISTRY のインダストリアルに、Devin Townsend が司る複雑性の全知全能。
そうした Chris の愛情が注がれた音楽の断片たちは、唐突であっても決して偽物やセルアウトのようには聴こえません。むしろ、これこそが “グリッチ・アート”、美しき偶然性で、美しきエラー。我々はこのメタルを壊しながらメタルを愛する不思議な場所から何が生まれるのか、しっかりと見守る必要がありそうです。
今回弊誌では、Chris Parker にインタビューを行うことができました。 「The Boredams は容赦なく狂気的で、聴いていても信じられないようなサウンドだ。 彼らのアルバムを何枚か持っている。 彼らのボーカル、山塚アイのバンド、NAKID CITY での活動は、高く評価してもしきれない。 後にも先にもこのようなレコードはないね。 素晴らしいノイジーなエレクトロニック・パンク・アルバムをリリースしている Space Streakings も大好きだ。 数年前、Igorrr の前座で Melt Banana を見る機会に恵まれたんだけど、彼らのパフォーマンスは強烈で爆発的だった! さらに最近では、ジャンルを超えた予測不可能なサウンドと魅惑的なビジュアルで魅了する Deviloof を発見した。 それに、数週間後にHanabie. と Crystal Lake のライブを見るのが楽しみなんだ。驚異的な Kim Dracula と共演するんだよ」 どうぞ!!

NEURAL GLITCH “CONVINCED TO OBEY” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【JINJER : DUEL】 JAPAN TOUR 25′


COVER STORY : JINJER “DUEL”

“There Is No Guarantee That Tomorrow Is Coming, So You Live Right Here And Now.”

DUEL

JINJER のシンガー、ウクライナの英雄 Tatiana Shmayluk は今、メタル世界で最も注目を集める才能のひとりです。カナダの SPIRITBOX とともに披露した “Circle With Me” の驚異的なデュエットはYouTube で100万回以上再生され、何千ものコメント欄で “これまで見たライブの中で最高の瞬間のひとつ” と称賛されています。Shmayluk が Courtney LaPlante の美しいクリーンに乗って原始の活火山を思わせる叫び声を放つ刹那、私たちはヘヴィ・メタル最高の瞬間を目撃します。その自然の脅威にも似た Shmayluk の歌声はリスナーにもはや畏敬の念をさえ抱かせます。そしてそれは、JINJER のニュー・アルバム “Duél” を盛り上げるエネルギーでもあるのです。
ただそんな新たなスーパースターである彼女は、等身大の自分との格差に戸惑い、疲れ、不安と孤独を感じていました。それは、いったいどうやってこの場所にたどり着いたのかわからないという思いに集約されています。
「時々、自分の人生を振り返って、一体何が起こったんだろうと思うことがある。この現実から目をそらさないと、パニックに陥ってしまうのよ」
容赦ないツアー・スケジュール、何億ものクロス・プラットフォーム・ストリーミングの獲得、国際的なオーディエンスを増化、DISTURBED, SLIPKNOT, DEVILDRIVER といったヒーローたちからの招待。Shmayluk にとって、そんな日々はしばしば、とても騒々しく、とてもぼんやりとした夢のように感じられるのです。
「時々、私はこの人生には力不足だと感じるの……いつも強くなければならないことに疲れていたわ」

そんな日々を送る中で、彼女は中世で穏やかにひっそりと生きる人生を夢想するようになります。妄想、白昼夢の中への逃避。とはいえ、Shmayluk はストリーミング時代のロックスターで、絶え間ないツアー、忙しいスケジュール、過剰な刺激を要求される仕事に就いています。そして37歳になった今、彼女はようやく現実を受け入れ、 “人生に身を委ねた” と感じています。
バンドの5枚目のアルバムとなる “Duél” は、Shmayluk のそんな白昼夢から飛び出してきたような作品です。ほとんどの曲は、仮面舞踏会、ハイソサエティ・ソワレなど、血で血を洗うような大騒ぎが繰り広げられる1830年代が舞台。ギタリスト Roman Ibramkhalilov、ベーシスト Eugene Abdukhanov、ドラマー Vlad Ulasevichを擁するバンドは、19世紀のシンフォニック・ミュージックを、ハイパーチャージド・Djent・サウンドで表現しているのです。
オープナー、”Tantrum” はかつて “力不足” “本当にここにいて良いのだろうか?” と自問自答を重ねた Shmayluk の捌け口として機能しました。
「オープニングはどの曲でもいいんだけど、バンドには4人いるからね。だから、レコーディングが終わってからが大変なんだ。アートワークを決め、プレイリストのようなものを作り、曲順を決める!最終的には、本当にハードでヘヴィな曲から始めるのがいいとみんなで決めたんだ。
この曲はアルバムの中でも特に気に入っている。社会的な期待に逆らうこと、たとえクレイジーだと思われてもありのままの自分でいることを歌っている。個人の自由とスタイルについて歌っているの。歌詞を書いたとき、YouTubeで舞踏会のビデオをたくさん見たんだ!私がショーで着ているような服を着て、未来からのゲストとして舞踏会にに現れた様子を、人々の反応を想像してみたんだ。こういう集まりで目立つと、自分はそこにいるべきでないような気がするよね。それがこの曲の核心なんだ」

プログレッシブに酩酊を誘う “Green Serpent” はそうしたプレッシャーから逃れるために彼女が頼ったアルコールをテーマにしています。
「この曲はアルコール、そしてアルコールの乱用について歌っている。ベラルーシ、ウクライナ、ロシアなどでは、”グリーン・サーペント” はアルコールを意味する言葉だ。それに相当する英語を探そうと翻訳してみたんだけど、これほどしっくりくるものは見つからなかった。これほど詩的な例えはないわ。
この曲は、私のアルコール体験を投影したもので、とても心に響く。ツアー中だと、ショーの前に飲んで、ショーの後に飲むのが習慣になりがちなんだ。ストレスがたまると、それに対処するためにあっちで一杯、こっちで一杯と、考えてみれば、私はアルコール依存症だったのかもしれない。それに、常に英語を話さなければならないから、かなりの精神的エネルギーを使うのよ。お酒は助けになるように見えるけど、いつもひどい気分になって、結局、その価値はないと気づくようになったんだ」
実際、”Duél” は Shmayluk がシラフで書いた初めてのレコードです。12月で彼女は断酒2周年を迎えました。
「今までで最高の決断のひとつだわ。”恥は頭痛よりも痛い” という歌詞がマントラのように刺さる。酔ったときに自分がしたことをとても恥ずかしく感じたのよ。記憶がなくなれば、いつか誰かが私が犯罪を犯した、私が誰かを殺したと言うかもしれない。カフカの “裁判” のヨーゼフ・K のように目が覚めたら、身に覚えのない犯罪で連行されるかも。だから、私は自分自身をコントロールしなければならなかった。もちろん、今でもワインの白昼夢を見るわ。でも、酒を再開するのは60歳になってから」

実際、Shmayluk はカフカを愛しすぎて “Kafka” という楽曲まで制作しました。チェコの有名な作家、フランツ・カフカについてのドキュメンタリーを見ながら、彼女は仲間意識と安堵感を感じていました。特に彼女は、カフカが虐待を受けていた父親に宛てた手紙に特に強く反応しました。”私はいつもあなたから隠れて、自分の部屋で、本の中で、狂った友人たちと、あるいは贅沢な考えを抱いていました”
Shmayluk は、その手紙を読んで大泣きし、すぐに亡き作家の名を冠した曲を書こうと思ったのです。そして、彼女のような実は内向的な芸術家たちが、自分の想像の中や他人の創作物の中に、世間からの避難場所を求めることを白日の下に晒しました。カフカの “変身” に登場するゴキブリのグレゴールのように、彼女はしばしば “無視されている、虫のようだ ” と感じてきたといいます。
「子供の頃、私は本当に作家になりたかった。 散文や自然の描写が大好きで、言葉で風景を表現しようとしたの。 それから自分で物語を作るようになったんだけど、それはかなりくだらないものだった。中学1年生のときには、不条理な詩を書き始めたんだ。ランダムな言葉に韻を踏んだ、かなり前衛的と言えるかもしれない詩をね。
この曲は、(オーストリア系チェコ人の作家)フランツ・カフカのドキュメンタリーにインスパイアされたんだ。 当時はそれほど気にしていなかったかもしれないけれど、30代になった今、より強く心に響いたの。 カフカは傷つきやすく壊れやすい性格で、芸術家としてというより、一人の人間として共感できる。 芸術家として、自分の考えや感情を外に出すことには不安があるからね」

まだ不安と闘っている Shmayluk ですが、断酒してからは気分が和らいでいるといいます。依存症による波や動揺のない生活を取り戻すことは、時として挑戦でもあり、ただじっとしていること、ただ存在することが、どれほど難しく、ほとんど罰のように感じられることか。シラフでアルバムのレコーディングをしたことは、言うまでもなく、彼女にとってまったく違う経験でした。
「以前は怒りっぽかったけど、今は冷静になることを学んだわ」
しかし、酒を飲もうが飲むまいが、Shmayluk はドラマチックなことを好むのは彼女の性格の一部だと認めています。彼女は冷酷な自制心で、そして他人の飲酒習慣を身をもって体験することで、自分のそうした一面と戦わなければならなりませんでした。バーで友人たちと一緒にいるときは、オーケストラの指揮者に自分を例え、「さあ、もう一杯!」とタクトを振るうのです。
もちろん、ウクライナが今置かれている状況も彼女の不安を煽りました。
「”Rogue” “ならず者” は特にウクライナの状況についてだけど、血に飢えた支配者たちによってもたらされたあらゆる状況についても言える。人は権力に貪欲だ。この楽曲は、そうした恐怖を引き起こす血に飢えたすべての王に捧げられる。私たちの運命は残念ながら誰かの手の中にある。 悲しいことに、少なくとも近い将来には変えられないことだと思う。しかし、希望は常にある。 いつも言っているように、希望は最後まで潰えないものだから」

アメリカに住んで数年。しかし、移住4周年が近づくにつれ、彼女は不安感が増していることに気づいています。
「過去のトラウマが出てきたんだ。私は4年ごとに引っ越しをする傾向があるからね。休む時は自分の殻に閉じこもっていたい。特に、いつもフレンドリーなアメリカにはまだ馴染んでいない。私はまだ彼らに慣れようとしているの。私たちウクライナ人はあまり笑わないので、彼らはいつも私が何か悪いことをしたと思っているのよ (笑) 絶え間なくパニックが体中を巡り、西海岸の煙の灰色はおろか、空気を吸うのも大変なの」
明日が来ることが当たり前ではない世界を経験した彼女は、そこから新たな生き方も学びました。
「”Hedonist” はたぶん1年前、いくつかのビジネスを経営し、大成功を収めている女性のインタビューを見て思いついた。”快楽主義” という言葉はすでに知っていたけれど、彼女はそれを新たなレベルに引き上げていた。彼女にとっては精神的、心理的な旅だったけど、今では毎日最高の服を着て、毎日銀の皿で食事をするまでになった。今あるものを最大限に生かし、今を生き、今を楽しむことを学んだのよ。明日が来るとは限らないのだから」

女性であることも、時には生きることを難しくします。
「”Someone’s Daughter” は、女性アーティストが常に自分自身を正当化するよう求められているということ、そして最終的にはすべての女性についての曲。今の世界で女性であることは大変なことなのよ。毎日タフでなければならないし…生まれつきとても穏やかで、冷酷な特質を持っていない女性がたくさんいることは確か。 女性はとてもか弱いかもしれないし、実際、私自身もそういう人間だと思う。 私には保護とケアが必要なのだろうけど、私たちが生きている世界のせいで、私はしばしば一人で物事を進めなければならない。
もちろん、私の周りには私を助け、支えてくれる人たちがいるけど、最終的には自分の道を歩まなければならない。 自分自身を武装しなければならない。この曲のヘヴィな部分は、自分がしなくてもいいと思うような振る舞いを強いられる女性がもつ怒りについて歌っている。私だって戦いたくはない。そんなことはしたくないけど、生き残るためには戦士にならなければならないこともあるの。だから、マリー・キュリーやクレオパトラのような “歴史上の強い女性たち” を讃える曲にしたの」
現代のミュージシャンは、SNS とも戦わなければなりません。
「”A Tongue So Sly” は音楽が複雑なので、完成させるのに数日かかったわ。強いメッセージがある。自分に関する噂やゴシップを耳にしたときのことを歌っているんだ。噂は雪だるま式に大きくなり、その噂が間違っていることを証明しようとするあまり、孤立感を味わうことになる。噂を広める人たちは、本人の言い分には興味がない。彼らはあなたの後ろのドアを閉め、ソーシャルメディアや他の場所で汚いたわごとを吐き出したいだけなの」

いくつもの不安と戦いを乗り越えて、彼女は成長を遂げました。”Duel” とはふたりの自分、良い面と悪い面、内面と外面の戦いのこと。戦いはいつも暴力がその手段ではありません。彼女は意志の力で悪い自分、弱い自分に打ち勝ちました。
「”Duel” とは自分自身と戦争すること、自分の悪い面と良い面、自分の内面と外面。人は常に内面の変化が必要だ。成長しなければ、人生は死を歩くようなものだから。この曲はアルコール依存症を克服した私について書かれたもの。それは意志の力についてであり、私たちは皆それを持っている。自分を信じれば、悪いことにも打ち勝つことができる。この曲は暴力的な決闘のようなものではなく、心理的にはある種の暴力があるかもしれないけれど、自分自身をコントロールし、より良い人間になるということを歌っているんだ」


参考文献: KERRANG! :“There’s no guarantee that tomorrow is coming, so you live right here and now”: Inside Jinjer’s new album, Duél

INSIDE JINJER’S ‘DUÉL’: WILL TATIANA SHMAYLUK EVER FIND PEACE?

来日公演の詳細はこちら!TMMusic

COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ALL THAT REMAINS : ANTIFRAGILE】


COVER STORY : ALL THAT REMAINS “ANTIFRAGILE”

“The Biggest Thing That’s Happened To Us Was Oli Passed Away… It Was a Really, Really Big Deal.”

ANTIFRAGILE

「人間には不屈の魂が必要だ」
そう語るのは、ALL THAT REAMINS のバンドリーダーでボーカリストの Phil Labonte です。彼はメタルの “回復力” を知っています。
Labonte は、ATR が前作 “Victim of the New Disease” をリリースした2018年後半から、待望の10枚目のスタジオLP “Antifragile” の登場となる2025年初頭までのこの6年間、心が折れるような悲劇を含め、多くの障害に直面してきました。
現在、Labonte とギタリストの Mike Martin を除けば、バンドのラインナップは6年前とはまったく異なっています。最も深刻だったのは、2018年、リード・ギタリスト、Oli Herbert がコネチカット州スタッフォード・スプリングスの自宅敷地内、池のほとりで遺体で発見されたことでしょう。彼はまだ44歳でした。この事件は現在も未解決のまま。
Jason Richardson(元 CHELSEA GRIN、BORN OF OSIRIS)が Herbert の後を継ぎ、最初はツアー・メンバーとして、その後フルタイムのリード・ギタリストとなります。しかし、パンデミックにより、ALL THAT REMAINS の再始動、その勢いはすぐに止まってしまったのです。
2022年、ライブ・サーキットがようやく再開されると、グループは “The Fall of Ideals” のアニバーサリー・ツアーを行い、遅ればせながらアメリカン・メタルコアの画期的なレコード15歳の誕生日を祝いました。
さらにそこから大きな変化が待ち受けていました。Labonte 個人としては、ポッドキャスト Timcast IRL の共同司会とプロデュースを始めました。ALL THAT REMAINS としては元レコード・レーベルと友好的に決別。2024年春、ベーシストの Matt Deis とドラマーの Anthony Barone を加えた5人組は、自分たちだけで独立し、オール・ザット・リメインズ・レコーズという名の独立レーベルを設立したのです。

それでも、Labonte は彼とバンドメンバーが乗り越えてきたすべてのことに活力を感じています。そしてそれこそが新譜のテーマとなりました。
「僕は、ポジティブで高揚感のあるコンセプトが欲しかった。人生で経験する苦難は、実は私たちをより強くしてくれるものなのだからね。
人には目的が必要だ。ビーチでマルガリータを飲みながらぶらぶらするだけでは十分じゃない。”喜びは目的地ではなく旅にある” という古いことわざは、真実だ」
つまり、ALL THAT REMAINS の新作は、近年の苦難の旅の中で鍛え上げられた、正真正銘の銘刀であり、バンドが輩出した初期の西マサチューセッツ・メタルコア・シーン、その特徴的なサウンドを想起させながら、ウルトラ・テクニカルなギター・プレイから精巧に磨き上げられたヴォーカル・フックに至るまで、現代的なタッチが加えられているのです。
ではこのバンドのリーダー Labonte にとって、この6年間で最大の苦難は何だったのでしょう。
「そうだね、いろいろあったよ。一番大きかったのはやっぱり Oli が亡くなったことかな…本当に、本当に大きな出来事だった。Oli は ALL THAT REMAINS に加入した最初の男だった。まだフルバンドになる前だった。ギタリストの Mike がやってきて、リフを弾いてみたんだけど、当時はまだうまく弾けなかったからね。Mike が彼の先生に会うべきだって言うんだ。それで Oli に会って意気投合したんだ。彼は最初から僕と一緒だった…
だから彼を失ったとき、彼なしで ALL THAT REMAINS をやれるのか、Oli Herbert 抜きの ALL THAT REMAINS とはどういうものなのかという大きな疑問が湧いたんだ。バンドののサウンドに欠かすことのできない存在だった彼抜きで何をやるのか?それを乗り越えるには長い時間がかかったね」

人として、Oli はバンドにとってどんな存在だったのでしょう?
「Oli はまるで家族のようだった。僕たちみんなを笑わせてくれた変なこととかがすぐ思い浮かぶんだけど、個人的なことだからあまり話したくないんだ。でも、みんなが変だと思うようなくだらないことこそ、家族みたいで大好きだったんだ。Oli が僕たちの1人か2人にイライラすることもあったけど、今振り返ると笑ってしまう。
昔の写真なんかを見ていると、ツアー中に彼が変なところで気絶しているのがたまらなく好きだ。空港とかホテルのロビーとか、変な格好で寝ている Oli の写真がフォルダに入っているんだ。バスを降りてすぐの草むらで気絶している Oli の写真もある。彼は “草の感触を味わいたかったんだ” って言ってた。僕らはそうだな!と笑ってた。
Oli について考えるとき、私はそういうことを思い出すのが好きなんだ。奇妙で風変わりなことが、彼をユニークで特別な男にしていたからね」
Oli の跡を継ぐ Jason Richardson と Labonte は本当に気が合うようです。
「彼はギターのサイボーグだからね!(笑) そう、彼はコンピュータープログラムなんだ。頭の中は1と0だけ。それだけ。あの子とは何度も一緒に出かけたけど、”彼は本物のロボットだ” って結論に達した (笑)。彼の演奏で本当に素晴らしいのは……彼は音楽理論や何やらについて深く膨大な知識を持っていて、小さなアイデアでもそれを発展させることができるんだ。僕たちは彼に2つのリフを渡して、”さて、どうしよう?”と言うことができる。そうすると彼は、曲全体で使える6、7種類のパートと、そのバリエーションとかを考えてくれるんだ。
ちょっとしたアイディアが浮かんだら、それを音楽理論に詳しい人に持っていくと、そのアイディアだけでなく、そのキーの他のスケールとの関係や、別のキーに移動させる方法などを教えてくれるんだ。それらはすべて、バンドが開いて実験できるドアなんだ。そういう人と一緒に仕事ができるのは本当に素晴らしいことだ。それが、僕たちが仲良くなれる理由のひとつだと思う。
もちろん、それは Oli が得意としていたことの1つであり、Jason が Oli と共有していることの1つだと思う。とにかく彼はワールドクラスのプレイヤーだが、ワールドクラスの知識も持っているんだ」

Labonte にとって、Oli の “モノマネ” をするギタリストは必要ではありませんでした。
「あの子は最高だよ。もし死後の世界があったとして、Oli が自分の場所に立っているのが Jason だとわかったら納得するだろうね。だから、それが重要なんだ。Oli になりすまそうとするようなヤツは獲りたくなかった。Oli は Oli だった。彼のリフの書き方、彼の個性。長髪でひげを生やしている人を断ることはなかったけど、長髪でひげを生やしてなければならないとは言わなかった。そんなことは求めていなかった。僕らが一番避けたかったのは、オーリーになりきってもらおうとしたように思われることだった。もう誰も Oli にはなれないんだから」
Richardson がギター・サイボーグになれたのはふたりの天才のおかげでした。
「Alexi が亡くなってから、CHILDREN OF BODOM をまた聴き始めたんだ。DREAM THEATER 並んで、僕が最も影響を受けて育ったバンドのひとつだからね。彼のギターは僕の嫌いなものばかりだけど、ずっと欲しかったんだ。 とんがっているのは好きじゃないし、EMG のファンでもないし、ノブは1つだし、ロッキング・ナットがついているし、フロイド・ローズもついている。 でも大人になってからは、Alexi か Petrucci かのどちらかが欲しかったんだ。周りの楽器屋には Petrucci のギターしか置いてなかったんだ」
Richardson にとって、ALL THAT REMAINS への加入は驚きでした。
「明らかに予想外だった。前任のギタリスト、Oli は20年間バンドに在籍していたんだけど、その Oli が亡くなったんだ。 ネットで見て、”なんてこった” って思った。彼は僕の友達で、以前一緒にツアーを回ったし、ジャムも一緒にやった。何時間も話をした。
それから1週間半後くらいだったと思うけど、彼らはインスタグラムにメッセージをくれた。”ちょっと聞きたいことがあるんだけど、僕らはすでにツアーを予約していて、アルバムのリリースも決まっているんだけど、このツアーの代役をやってもらえないかな?” ってね。ATR とは過去に何度か他のバンドでツアーをしたことがあったから、すぐにイエスと答えたよ。時間さえかければ曲は弾けると思っていた。幸運なことに、Oli はすべてを譜面に書き起こしていた。当時の新譜からの最新曲以外は、耳コピの必要はなかった。正直なところ、耳コピすることが唯一の不安だったんだ。それ以外のことは、もう一人のギタリストの Mike がビデオを送ってくれたりして、それで曲を覚えることができた」

Richardson は奇抜なソロキャリアと王道の ATR 、その二刀流を楽しんでいます。
「ATR は何枚もアルバムを出しているし、彼らのサウンドを評価する大勢のファンがいる。だから、彼らと一緒に曲を書いている間は、そのことを100%念頭に置かなければならない。でも幸いなことに、彼らには超クレイジーなテクニカル・メタルの旧作もたくさんあるし、”What If I Was Nothing” のようなストレートなロック・ヒット曲もある。意図的にラジオ用に書かれた曲が1、2曲ある。だから、よりシンプルで消化しやすいサウンドになっているのは明らかだ。
僕のソロをミュージシャンでない人が聴いて、”ああ、これは最高だ!” とは思わないだろう。僕のソロを聴くのは、ギタリストやミュージシャン・オタクだけだよ。ミュージシャンでなくても、”What If I Was Nothing” を聴けば、すぐにそれに惹きつけられるだろう。この曲は本当にキャッチーで、すぐに頭に残るから、バンドのために曲を書くときはいつも、もっとビジネス的な帽子をかぶらなければならない。その両方ができるようにならないとね。狂気的なメタルの曲も作りたいし、ラジオ向けのバラードも作りたい」
新メンバー、Richardson とドラマーの Anthony に加え、旧メンバーのベーシスト、Matt Deis もバンドに復帰しました。
「素晴らしいよ。2005年に Matt が脱退したときも、彼は僕らと仲が悪かったわけじゃないんだ。彼は CKY で演奏する機会を得たんだ。彼は大ファンだった。彼はそのバンドが大好きで、彼らのやっていることが大好きだった。ATR の2004年のセカンド・アルバム “This Darkened Heart” は発売されたばかりか、発売されて間もなかった。”The Fall of Ideals” はまだ出ていなかった。だから、僕らと一緒にいてもまだ何が起こるかわからないという状態だった。”Darkened” が少し成功して、みんなが僕たちを見て “これは誰だ?” という感じになったけど、それがキャリアになるかどうかは明らかではなかったんだ。
だから、彼が “こんなチャンスをもらったよ “と言ったとき、僕たちは “わかったよ。僕らにとっては最悪だけど、それでも君を愛している” って感じだった。連絡は取り続けたよ。彼はマサチューセッツ州西部の出身だから、幼馴染みみたいなものさ。Matt のことはずっと好きだったから、彼が戻ってきてくれて嬉しいよ。僕たちはいつも本当に仲が良かった。
それに素晴らしいミュージシャンなんだ。ピアノもベースもギターも弾く。音楽理論にも詳しいしね」

Labonte は作詞家として、”人間の条件に関する歌が最も説得力がある “と言っています。
「”Kerosene” は10月7日のイスラエル同時多発テロの直後に書かれたもので、パレスチナ人とイスラエル人の間で起こっている戦闘をアウトサイダーとして解釈したものなんだ。双方の言い分を聞けば、どちらにもそれぞれの物語があり、それぞれの理解の仕方がある。そのため、双方がそれぞれの理解の仕方を持っている。この確執は長い間続いている。1948年だけでなく、何千年もさかのぼるものなのだ。
彼らが相手側を少なくとも正当なものとして認め、同意することができない限り、このような事態はさらに続くだろう。”言葉がただの灯油になるとき” というサビのセリフがある。10月7日に実際に起こったことを聞いて、本当に、本当につらかった。控えめに言ってもね。2015年にパリの会場で行われた EAGLES OF DEATH METAL のコンサート中にバタクランで起きたテロ事件を思い出したよ。いろいろなものを見ていて、バタクランのことを考えずにはいられなかった。バタクランにいた人たちを知っていたから。
“Kerosene” を書いたのは、10月7日の事件の次の週末だったと思う。プロデューサーのジョシュ・ウィルバーとロサンゼルスにいて、そのことを話し始めたんだ。ただ会話が流れていて、”これを曲にできるかもしれない” と思ったんだ。この曲の出来栄えには本当に満足しているよ」
特に、ライブを楽しんでいただけの罪のない人々が巻き込まれたのですから、人ごとだとは思えませんでした。
「”Cut Their Tongues Out ” について話そうか。もっと怒っている曲だから (笑)。レコードのために最初に作った曲は “Divine”だった。Jason が曲を提供してくれて、僕とジョシュが一緒になって、アルバムのメッセージをどうしたいかを話し始めたんだ。このアルバムはパンデミック以来の作品だったから、全体的にダウナーな雰囲気にはしたくなかったんだ。この2年間、ロックダウンや抗争、そして多くの人たちが互いに罵り合ったりして、みんなもう十分に打ちのめされていたからね。
だから “Divine” は、自分が好きなことを何でもやっていて、自分が有能で、どうすればそれができるかを知っているとき、すべてがうまくいっているときに感じる感覚を表現しようとしたんだ。スポーツの世界では、それを “ゾーンに入る ” と呼ぶ。マイケル・ジョーダンがミスを一切許さなかったときのようにね。僕はその映像を覚えている。マイケル・ジョーダンが素晴らしいスリーポイントを決めたとき、彼は振り返ってコーチのフィル・ジャクソンの方を見るんだよな。”神 “とは、自分が着手しているどんなことでも、そのやり方を学ぶために全力を注いできたおかげで、ほんのちょっとだけ手に入れることができる小さな神性のかけらなんだよ。全てを注げば最高に有能になれるし、その結果には疑問の余地はない」

そうした揺るぎない “好き” “得意” を作ることはまさに “Antifragile” “こわれにくいもの” のミッション・ステートメントと一致しています。どんなことでも、自分が充実していると感じられればいい。だからこそ、ATR は独立の道を選んだのでしょうか?
「レーベルに所属し、レーベルを通じてライセンス契約を結ぶという選択肢もあったけど、レーベルに付随する多くのネガティブな要素に煩わされることなく、自分たちの手で作品を作り上げるというアイディアがとても気に入ったんだ。もうね、今となっては、レーベルは単なる広告代理店に過ぎないから。
もし君たちが若いバンドなら、レーベルに所属したいと思うのは分かるよ。でもね、ALL THAT REMAINS にとって、これは10枚目のリリースなんだ。僕らには歴史がある。”Fall of Ideals” のアニバーサリー・ツアーをやったんだけど、20年近く前にリリースされたレコードの曲を聴きに来てくれたんだ。そうした影響力を持ち、人々がまだ気にかけてくれていることは、とても幸運なことだ。でも、もし僕らのようなカタログや歴史がなかったら、”何か突破口を見つけ、人々の注目を集める方法を見つけなければならない” と思うのは自然なことだからね」
Lebonte のもう一つの仕事、ティム・プールとのTimcast IRLの共同司会とプロダクションの仕事は、どのように始まったのでしょう?
「ツイッターだよ。2013年に彼が “ウォール街を占拠せよ” を取材していた時に、彼の番組をいくつか見たんだ。それから、ティムの毎日の番組を見るようになった。彼はただビデオを作るだけで、基本的にただカメラを回して自分自身を撮影するだけだった。
僕がレガシーな、大きなメディアから離れ始めたのは、彼らが僕が魅力的だと思うものを本当に表現していなかったからだ。9.11の直後、僕はニュース中毒になった。なぜ起きたのか、何が起きているのか、そういったことを知りたかった。YouTubeが普及し始めたこともあって、インターネットでいろいろなものを見るようになり、自分の関心のあることについて話している人たちを見つけるようになった。ティムもその一人だった。
2016年頃、ツイッターでティムと交流するようになり、その後、バンドがきっかけでIRLのゲストに招待されたんだ。そしてある日、彼から電話がかかってきて、”お願いできる?” ってね」

Lebonte は明らかに、政治的に非常に率直な人物ですが、ATR は決して政治的なバンドではないでしょう。
「僕は常に分けて考えようとしてきた。その理由は、ATR には常に異なる政治的意見を持つ人々がいたからだ。僕と元ベーシストは、かなりはっきりした政治的意見を持っていた。Jason と僕は、政治的な意見の違いがはっきりしている。でも僕は、これまでの人生で、政治的なことが誰かとの友達付き合いをやめる理由になると思ったことは一度もない。だから僕にとっては、”ステージに上がって説教することはできない” という感じだった。ATR のライヴでやったことのある政治的なことといえば、2012年にロン・ポールのシャツを着たことくらいかな。
あと、マリファナに耽溺していた頃、コロラド州でマリファナが合法化されたばかりだったと思うんだけど、そのときに言ったんだ。コロラド州がマリファナを合法化したのはいいことだ。もちろん、今となっては全く議論の余地はない。
バンドには、僕と同じ考え方のヤツもいれば、僕と全然違う考え方のヤツもいる。それが普通だと僕は思う。意見が合わない友達がいないなら、そっちのほうが異常な気がする」
反対意見を持ちにくい時代になった?
「そうだと思う。でもそれは変わりつつあると思う。マーク・ザッカーバーグは昨日、5年ほど前に行った自由な意見交換についてのスピーチを撤回した。
結局のところ、アメリカでは誰もが相違点よりも共通点の方が多いんだよ。そして、隣人を敵視するよう人々を駆り立てる衝動は、もう限界だと思うし、ほとんどのアメリカ人はそれにうんざりしていると思う。僕らは反対する人の意見にも耳を傾けるべきだ。
僕は、とてもとても “生かされて生きる” タイプの男だ。極端な政治的意見は持っていない。非常に穏健だ。正直に言うと、90年代の民主党的なんだ。ナチス呼ばわりされたことは数え切れないほどあるが、同時にナチスからユダヤの回し者、イスラエルの回し者として攻撃されたことも数え切れないほどある。両側からそう言われているのなら、どちらの側にもそこまで極端にはなれないはずだ」

キャンセル・カルチャーは滅びるのでしょうか?
「その力があるかどうかを決めるのは、一般人である僕たちだ。炎上時に起こることは、誰かが何かを言って、”ああ、この人はこんなことをしたんだ” となる。そしてネットで大騒ぎになる。
それが社会にとって良いことだとは思わない。特に、意図的にやっていない人の場合はね。だから、もし誰かが何かを言っていて、それが侮辱的であったり、分断的であったり、偏見に満ちていたりするつもりはなく、何かについて話していて、それがただ無慈悲な言葉でないなら、人々が自分の人生に悪影響を及ぼす理由はない。誰かが誰かを罵倒したりするのであれば、企業が “あなたとはもう付き合いたくない” と言うのは理にかなっているかもしれないけどね。
でも、軽はずみなキャンセル・カルチャーはもう終わりだと思う。でも、他人の行動に影響を与える方法として暴挙を利用しようとする人々がいる限り、常に暴挙は続くと思う。ただ、人々は絶え間なく憤慨し続けることに飽きているのだと思う。だから、少なくともしばらくの間はね…」


参考文献: REVOLVER MAG:HOW TRAGEDY AND TURMOIL MADE ALL THAT REMAINS ANTIFRAGILE

GUITAR WORLD :Jason Richardson on his love of Alexi Laiho, soundtracking Lifetime movies and how his late pet pug’s progressive drinking habits shaped his new album

NEW ENGLAND SOUNDS :Jason Richardson On Filling Big Shoes In All That Remains

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【ALLT : FROM THE NEW WORLD】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OLLE NORDSTROM OF ALLT !!

“Hiroshima And Nagasaki Were The Starting Points For Our Research When Writing This Album. We Can’t Even Begin To Imagine The Horrors The Victims Experienced.”

DISC REVIEW “FROM THE NEW WORLD”

「メタルのコアなジャンルを掘り下げた後、2012年にデビュー・アルバムをリリースした VILDHJARTA を知ったんだ。彼らのサウンドはそれまで聴いたことのないものだった。僕の作曲にも音楽の好みにも大きな影響を与えたよ。彼らはモダン・メタルにおけるランドマーク的なバンドだよ」
2010年代にあれだけ一世を風靡した Djent は死んだのでしょうか?いえ、そんなことはありません。Djent のリフエイジやポリリズミカルなダンス、そして多様性や DIY の哲学はあのころ、Djent を崇め奉っていた若者たちの楽曲に今も息づいています。
2020年にスウェーデンのカールスコガにて結成された ALLT は、音楽で物語を語るストーリーテリングの能力と、機械的でありながら有機的という革新的なアプローチですぐに頭角を現しました。その名の通り “ALLT (All) is Everything” ジャンルを超越したメタルコアの煌めきは、フランス&ノルウェーの連合軍 MIRAR と双璧をなしていますが、驚くべきことに両バンド共にその心臓には VILDHJARTA の奇跡が眠っています。そう、美しいメタルは決して一夜にして築かれることはありません。そこには必ず、過去からの学びやつながりがあるのです。
「広島と長崎は、このアルバムを作る際のリサーチの出発点だった。犠牲者が経験した恐怖は、僕たちには想像することさえできないよ。石に刻まれた “人影の石” のような悲しみを知ることで、とても悲劇的なイメージが鮮明になり、1曲目の “Remnant” の歌詞になったんだ。 “死の人影、悲劇のシルエット” としてね。このようなテーマについて書くことは、僕たちに感情の解放や浄化を与えてくれる。そして、僕らと共にリスナーにもこうしたテーマを探求する機会を与えられたらと願う。僕たちは、犠牲者とその家族に対する深い尊敬の念を持ってこの曲に取り組んだんだ」
まさに “新世界より” 来たる “From The New World” は、荒廃の中に自己を発見する、綿密に作られた音楽の旅。世界の緊張と恐怖にインスパイアされたこの旅路は、核兵器による崩壊と回復、そしてその後に続く感情的で哲学的な風景をテーマにしています。そしてその創作の道のりで、ALLT は日本を物語の源泉に据えたのです。
そのタイトルが表すように、”From the New World” は日本から生み出された小説、アニメ “新世界より” に啓示を受けて生み出されました。そこでは、核兵器並みの暴力サイコキネシスによって滅んだ世界と、そのサイコキネシスを徹底した情報管理とマインドコントロールによって抑えた暴力のない新世界が描かれていました。ALLT はその物語を、核の脅威にさらされた現代と照らし合わせます。
機械的なサウンドと有機的なサウンドは自ずと融合し、荒廃と、その余波の中で生き続ける生命の静かな美しさ両方を呼び起こします。電波の不気味な質感から膨大な計算能力を持つ巨大な機械まで、あらゆるものを模倣した広がりのあるシンセ、ダイナミックなインストゥルメンテーション、パワフルなボーカル、そしてオーガニックな質感がこの音楽にリアリティを根付かせました。そうして彼らがたどり着いたのが、広島と長崎でした。
「僕の経験では、メタルは常に人々が暗闇に立ち向かい、カタルシスを見出すことのできる空間だった。メタルのコミュニティは一貫してファシズム、人種差別、不平等を拒絶してきた。メタルは、人々が最も深い感情を表現し、同じ感情を持つ人々とつながることのできる空間なんだよ。アーティストが真実を語り、境界線を押し広げ続ける限り、ポジティブな変化への希望は常にあると思う」
ALLT は “人影の石” に恐怖し、人の憎悪や暴力性が生み出す悲劇や不条理に向き合いました。それでも彼らは人類を諦めてはいません。なぜなら、ここにはヘヴィ・メタルが存在するから。一貫して人類の暗闇に立ち向かい、魂の浄化を願ってきたヘヴィ・メタルで彼らは寛容さ、優しさ、多様性、平和で世界とつながることを常に願っています。混沌とした世界でも、メタルが真実とポジティブなテーマを語り続ける限り、一筋の巧妙が消えることはないのですから。
今回弊誌ではギタリスト Olle Nordstrom にインタビューを行うことができました。「フロム・ソフトウェアと宮崎英高が創り出す世界には本当にインスパイアされているんだ。彼のゲームやストーリーは、僕が ALLT のリリックでストーリーを創り上げていく方法の大きなインスピレーションになっているんだ。アルバムのタイトルも、僕の大好きなアニメのひとつ “新世界より” から拝借したんだ。”エヴァンゲリオン” からも、そのスケールの大きさと想像力に深くインスパイアされているね。10代の鬱屈した時期に観て以来、あらゆる媒体の中で最も影響を受けた作品のひとつになったよ」 どうぞ!!

ALLT “FROM THE NEW WORLD” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【DIAMOND CONSTRUCT : ANGEL KILLER ZERO】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KYNAN GROUNDWATER OF DIAMOND CONSTRUCT !!

“Bands Like Korn And Linkin Park Blend New Things Together So Well. We’ve Always Looked Up To The Nu-metal Genre For Being Something Truly Unique. That’s What We Want To Do In a Modern Way.”

DISC REVIEW “ANGEL KILLER ZERO”

「KORN や LINKIN PARK のようなバンドは、当時の新しいものをうまく融合させていた。だからこそ、僕たちは Nu-metal というジャンルが本当にユニークなものであることを常に尊敬してきたんだ。僕たちは、ああいうことを今の現代的なやり方でやりたいんだ。誰かが僕らの音楽を聴いたときに、”あれは DIAMOND CONSTRUCT だ!”と言ってもらえるような、新しくてすぐ認識できるものを作りたいんだよ」
CODE ORANGE, VEIN, SPIRITBOX, LOATHE, VENDED, TETRARCH といった新鋭の登場、 MADVAYNE や SATAIC-X の復活、そして SLIPKNOT や KORN, DEFTONES の奮闘によって Nu-metal は再びメタルのトレンドへと返り咲いてきました。興味深いのは、あの奇妙で雑多な電子的重量感が、近年メタルの原動力となった “ノイズ” と絶妙な核融合を起こしていることでしょう。オーストラリアの DIAMOND CONSTRUCT は、そのノイズと Nu-metal の核融合を使って、メタルコアの原石をダイヤモンドの輝きへと磨き上げました。
「メタルコアというジャンルが非常に規則的で、特定のサウンドやリフの書き方があるせいで門戸が閉ざされているようだということには、僕たちもまったく同意見だよ。だからこそ、僕たちは常にオリジナリティを大切にしてきた。DIAMOND CONSTRUCT を他の誰かのように聴かせたくない。だから、他のバンドが残してくれたサウンドから影響を受けつつも、自らのサウンドを拡大させようとベストを尽くしているんだ」
実際、DIAMOND CONSTRUCT は、ヘヴィ・ミュージックの暗闇に多様でエレクトロニックな光の華を咲かせることに成功しています。それは、メタルコアという箱の鍵を解き放ち、”ニュー・メタルコア” の潮流を押し進めることにもつながりました。だからこそ彼らは、SPIRITBOX, THOUSAND BELOW, そして HARPER といった印象的なバンドを擁するあの Pale Chord における最初のオーストラリア人ロースターとなることに成功したのです。
そして、EMMURE, ALPHA WOLF, DEALER を源流とし、DIAMOND CONSTRUCT や DARKO US を巻きこんで大きな津波へと成長したその波は、日本にまで到達して PALEDUSK, PROMPTS のようなバンドが海を渡る力にもなったのです。
「Braden はとてもユニークな人だ。時代の流れに逆らうのが好きで、期待されることをするのが嫌いなんだ。Wes Borland, Josh Travis, Jason Richardson のようなギタリストへの愛が、彼をペダル・ダンスというニッチなテクニックを見つけるまでに成長させたんだ。彼は、自分が最もシュレッディでテクニカルなギタリストではないかもしれないことを知っているからこそ、他の多くの人ができないことをやっているんだ。僕たちは、全員がギターという楽器の限界を押し広げるのが好きなんだ」
そんなトレンドを “開拓” した彼らが世界から注目を集めた一因が、ギタリスト Braden Groundwater の “ペダル・ダンス” でした。シュレッドとテクニックが溢れるインターネットの世界で、DIAMOND CONSTRUCT は楽器の扱いにおいても常識にとらわれず、ノイズと色彩の新たな潮流を生み出していきます。Braden は驚異的スピードや奇抜なテクニック以外にも、ギターには様々な可能性があることをペダルのタップダンスで巧みに証明していきました。白には200色ありますが、Braden のサウンドはきっとそれ以上に万華鏡の可能性を秘めています。
「アニメやゲームが持つオーラといかにマッチしているかということに、多くの共通点やつながりがあることに気づいたんだ。個人的な成長や失恋、恋愛、グループとの境界を乗り越える物語。それがこのアルバムのテーマだ。ファイナル・ファンタジーのようなゲームがもたらすストーリーに似ているよね。だからそれと連動させるために、ゲームから抜粋した声でインタールードを書いたんだ。僕たちが作った音楽とテーマにマッチしたビジュアルを表現することは、すべて理にかなっていたんだ」
そうして生み出されたダイヤのサウンドは、”Angel Killer Zero” で日本の文化と見事に融合を果たします。日本のアニメやゲームは、孤独感、失恋、幼少期のトラウマ、そして目を見張るような成長という、人生をナビゲートするようなストーリーで世界を魅了してきました。誰もが経験するような物語だからこそ、彼らはそのテーマに感化され、メタルと共に開拓することを心に誓いました。そうした普遍的で、しかし特別な勇気をもらえるようなテーマは、SNS も駆使して世界中多くの人に自身の音楽を届けたいと願う今の彼らにピッタリだったのです。
今回弊誌では、ボーカリスト Kynan Groundwater にインタビューを行うことができました。「最近、僕たちは、本当に注目されたり、注目を浴びるためには、現代のソーシャル・メディアを把握しなければならないことに気づいたんだ。それは、音楽と同じくらい重要なことなんだってね。だから僕たちは、その世界を学び、それに取り組み、より上手になり、より一貫したものにすることを自分たちに課したんだよ」 Wes Borland に影響を受けたギターっていいね。どうぞ!!

DIAMOND CONSTRUCT “ANGEL KILLER ZERO” : 10/10

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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【IN SEARCH OF SUN : LEMON AMIGOS】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ADAM LEADER OF IN SEARCH OF SUN !!

“I Think The Whole ‘Angry Looking Metal Band’ Is Getting a Bit Stale In General.”

DISC REVIEW “LEMON AMIGOS”

「”怒っているように見えるメタル・バンド” というのは、一般的に少し古臭くなってきていると思う。”Virgin Funk Mother” は間違いなく、自分たちの個性を探求し、殻を破り始めたアルバムだ。典型的なメタルではないアイデアを持ち込むことを恐れなくなった」
かつて、ヘヴィ・メタルといえば、そのイメージの中心に “怒り” が必ずありました。それは、隣の家のババアが凍るくらい寒いスイスの冬に向けられた怒りかもしれませんし、親のクドクドしたお説教に突きつける “Fuckin’ Hostile” かもしれませんし、ド悪政に対して売りつける喧嘩歌舞伎なのかもしれません。もちろん、そうやって怒りを吐き出すことで、アンガーマネージメントを行い、心の平穏を保つこともできました。つまり、メタルの中にはネガティブな怒りと、ポジティブな怒りが常に同居していたのです。
しかし、多様なモダン・メタルの開花とともに、メタル=怒りという単純な方程式は崩れつつあります。喪失や痛みを陰鬱なメタルで表現するバンドもあれば、希望や回復力を光のメタルで提示するバンドもいます。
そして、BULLET FOR MY VALENTINE, FUNERAL FOR A FRIEND, TWELVE FOOT NINJA といった大御所ともステージを共にしてきたロンドンの新たな才能 IN SEARCH OF SUN は、明らかに “高揚感” をそのメタルの主軸に据えています。典型という概念さえ時代遅れとなりつつある今、人生にもメタルにも、愛、幸福、悲しみ、怒りといったあらゆる感情が内包されてしかるべきなのかもしれませんね。
「本当に単純なことなんだけど、僕らはいろんな音楽が大好きで、みんなグルーヴに夢中なんだ!それがいつも僕らの曲作りに現れていて、それが僕らの音楽にファンキーな雰囲気を加えているんだと思う。グルーヴがなければ、音楽はただのノイズだからね!」
パッション・イエローの背景に、輪切りの悪魔的レモン。そのアートワークを見れば、IN SEARCH OF SUN がメタルの典型を一切気にしていないことが伝わります。もちろん、悪魔こそここにいますが、ではトヨタのロゴマークを悪魔に模した車すべてが真性の悪魔崇拝者なのでしょうか?むしろ、ここには甘酸っぱいエモンの果汁や、ちょっとしたユーモア、そして踊り出したくなるような楽しい高揚感で満たされています。
もしかすると、例えば、最強の魔法ゾルトラークがほんの10年ちょっとで誰にでも使える一般攻撃魔法になってしまったように、メタルの怒りや過激さ、凶悪な音、そんなヘヴィのイタチごっこにも限界があるのかもしれません。だからこそ、グルーヴがなければ音楽なんてただのノイズだと言い切る彼らの、冒険を恐れない多様性、典型を天啓としない奔放さ、そして何より、メインストリームにさえ挑戦可能な豊かで高揚感のあるリズムとメロディの輝きは、メタルの未来を託したくなるほどに雄弁です。
今回弊誌では、Adam Leader にインタビューを行うことができました。「ファースト・アルバムの中に “In Search Of Sun” という曲があるんだけど、この曲は内なる葛藤と、自分が一番愛しているものを掴みに行くための世界との戦いについて歌ったものなんだ。この曲は、決意と自分自身を決してあきらめないことについて歌っている。僕たち全員がそのような姿勢を共有しているから、自分たちを真に定義するような名前に変えるのは正しいことだと思ったんだ」 PANTERA や Djent, BON JOVI とMJと、UKポップス、UKガレージ、ダンス・ミュージックが出会う刻。どうぞ!!

IN SEARCH OF SUN “LEMON AMIGOS” : 9.9/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【SLEEP THEORY : STUCK IN MY HEAD】


COVER STORY : SLEEP THEORY “STUCK IN MY HEAD”

“If Sleep Theory Was To Take All The Guitars Away, We Can Make a Pop Song. That’s What We Always Want To Do.”

SLEEP THEORY

SLEEP THEORY はまさにメタル世界のライジング・スター。たった1年で旋風を巻き起こしました。フロントマンの Cullen Moore はしかし、そのブレイクのために生涯をかけてトレーニングしてきたのです。R&Bミュージシャンの息子として育ち、父の後を継いで陸軍に入隊した Moore は、何年もかけて音楽キャリアの成功に必要な意欲、協調性、創造的なビジョンを培ってきました。
そして実際、このメンフィスのバンドは、2023年にデビュー・シングル “Another Way” をドロップした直後にブレイク。このムード満点のエモーショナルなアンセムは TikTok でバズり、わずか36時間で50万ビューを記録したのです。この即効性、即時性はまさに今という時代を誰よりも反映した存在でしょう。
「自分たちの音楽を広める機会に恵まれたのは幸運だった。インターネットとソーシャルメディアの力のおかげで、僕たちは人々とつながることができた。
TikTokで爆発的にバズったとき、僕たちはSNSでできる限りファンに対応しようとした。とにかく、今の時代はファンとつながることが重要だし、それが勢いを持続させる大きな鍵だったと思う」

Epitaph からリリースされたデビューEP “Paper Hearts” がその直後に発表され、David Draiman や Jelly Roll を含む多くのフォロワーや有名ファンを獲得。メタルコア、ポップ、R&Bをミックスしたバンドのエキサイティングなサウンドは、明らかに大きな反響を呼び、さらに SHINEDOWN, BEARTOOTH, FALLING IN REVERSE, WAGE WAR との共演で名を上げた SLEEP THEORY は、瞬く間にヘヴィ・ミュージックの大ブレイク・アーティストの一人となったのです。
彼らのサウンドは、BAD OMENS や SLEEP TOKEN のようなジャンルにとらわれないバンドを彷彿とさせ、ビートの効いたリフとソウルフルで胸を打つバラードを自信を持って織り交ぜています。
「正直、自分たちがどんなジャンルなのかさえわからない。ただ僕たちは、君たちの予想を裏切るつもりはない。ただこれが僕たちの好きなことなんだ」
Moore に加えて、ベーシストのPaolo Vergara、そしてギタリスト Daniel Pruitt とドラマー Ben Pruitt の兄弟で構成される SLEEP THEORY。Moore 以外のメンバーは、突然の注目に慌てましたが、Moore の反応は違いました。
「驚きはなかった。むしろ、”よし、始まったぞ “って感じだった」

つまり、Moore は一夜にして成功したように見えるかもしれませんが、彼がここにたどり着くまでには何年も必要とし、その道は決して一直線ではなかったのです。
この素晴らしきボーカリストが生まれる前、父親はR&Bに手を出し、子育てが優先される時期までバラードを書いていました。
Moore 自身の音楽への情熱が燃え上がったのは10代の頃で、彼は LINKIN PARK からマイケル・ジャクソンまで、あらゆるものにインスパイアされました。彼の父親は Moore をずっとサポートしてきましたが、しかし、母親は現実的な懸念を抱いていました。
「母も音楽が好きだったが、確実なキャリアを歩んでほしかったんだ。音楽で生計を立ててどっちに行くかわからないというのは、親にとって怖いことなんだよな」
Moore は父の音楽への情熱を共有しながらも、父と同じ軍人の道には進まないと確信していました。しかし、いつしか考え方や立場が変わり、彼はその “確実なキャリア” を選び、陸軍に入隊したのです。
「僕は決して面倒な人間ではなかったが、それでも軍隊に入ったことは自分にとって良かったんだ。他の人と協力し、心を開き、冷静になり、状況を全体的に見る方法を学べたからね。軍隊にいた時間は、いろいろな意味で自分を形成するのに役立ったよ」
しかし、結局 Moore の音楽への愛情は揺るがず、最終的にはロックスターの夢を追い求めるために退役を決めたのです。

まず、Moore はメンフィスのローカル・バンドと一緒にやってみたのですが、彼らのサウンドを次のレベルに引き上げてくれると信じていたプロデューサーの David Cowell との仕事をグループが拒否したため、そのパートナーシップは2019年に頓挫しました。そこで Moore と Cowell はクリエイティブ・パートナーシップを切り離し、新体制の SLEEP THEORY に専念することを決めたのです。
最初の数年間、SLEEP THEORY は Moore と Cowell を中心とした純粋なスタジオ・プロジェクトでした。しかし当初から、2人は音楽に対する大きな夢と野望を共有していました。
「多くの人は地元のアーティストと競争する傾向があるけど、それではダメなんだ」
SLEEP THEORY という名前はエニグマティックで、SLEEP TOKEN に次ぐ第二の “SLEEP” といったムードも醸し出しています。
「理由はバンドがある種の科学的な名前を調べ始めたという単純なことだった。科学的な言葉をググって、”REM Sleep” と “Theory” を見たんだ」
ベーシストの Vergara とはある誕生日パーティーで出会いました。彼がギターを手に取り、PARAMORE の “My Heart” を演奏するのを目撃した Moore は即リクルート。フィリピンから移住してきた Vergara は成功に飢えていました。
「2016年にアメリカに引っ越してきて、僕の人生の目標はミュージシャンか映画監督になることだった。バンドに加入したときは、今このような立場になるとは思ってもみなかった。フィリピンでバンドをやっていたけど、夢を実現したり、自分たちの曲を発表したりするチャンスはなかった。だから、もしアメリカに来て、バンドとしての夢を実現するチャンスがあるなら彼らの誇りになるようにしなければならない。その夢は今でもずっと心に残っている」

次に彼らはすぐにドラマーの Ben Pruitt を採用します。彼は “Another Way” のサビに入る、スキッターのようなドロップを見せつけました。
幸運なことに、SLEEP THEORY の音楽を求める声が急速に高まると、バンドは Ben の弟で、シュレッドとスクリームを自在に操るギタリスト、Dan を見つけます。ラインナップは固まりました。
「多くのステップを飛ばしたと言われるだろう。でも、正直なところ、いきなり急成長するのは、何年もそれに向かって努力するよりもストレスがたまるものなんだ。ちょっとでも、物事を風化させてしまうと、人々はすぐに気が散ってしまう……忘れ去られてしまう。どうすれば人気を保てるかを考えなければならなかった」
SLEEP THEORY の音楽的な成功の鍵は、ジャンルを飛び越えたサウンドのミックス、モダン・メタルの多様性を駆使して、最も熟練したメタル・リスナーをも飽きさせないその哲学にあります。受けた影響は、BRING ME THE HORIZON, LINKIN PARK, BEARTOOTH, SAIOSIN といった Moore が幼少期に愛したアーティストから、BAD OMENS, ISSUES のような現代のオルタナティブ・メタル・グループにまで遡ることができるます。特に後者の2019年作 “Beautiful Oblivion” は、Moore が今も目指している ベンチマークです。
ただし、彼らの影響はそれだけにとどまりません。子供の頃は Boyz II Men や TEMPTATIONS にも強く影響を受けていた Moore。当然、それらのインスピレーション、多くの人が共感するノスタルジーは SLEEP THEORY の音楽にも深く根付いています。
「SLEEP THEORY は、音楽業界において非常にユニークな位置にある。僕たちの目標は常に、ジャンルの融合を図りながら、人々に時代を超えたノスタルジックな感覚を与えること。僕たちはロック・バンドだけど、僕たちのサウンドは枠にはめることができないんだよ」

さらには、Ariana Grande や Drake まで。つまり、この予測可能性の欠如が SLEEP THEORY の創作プロセスを定義するようになっていったのです。&Bを織り交ぜたローファイな曲を作るという実験的な試み “Gone or Staying” のようなシングルから、Moore が “スーパーR&B” だと強調するリリースされたばかりのニュー・シングル “Stuck in My Head” まで、彼らの音楽は想像の斜め上へと飛び出していきます。
同時に Moore にとって、素直さと弱さを感じさせる歌詞を書くことも重要でした。
「多くの場合、人はその曲をどう受け取って解釈してもいいという書き方をする。でも僕たちは、それをどう受け取ればいいかをしっかり伝えて曲を書きたいんだよ」
Moore のリリシズムのこの要素は、感情的な直接的さをと同様に、SLEEP THEORY の “Reimagined” “再想像シリーズ” で大きな役割を果たしています。オルタナティブに録音された同じ曲の別の音源を聴くことで、彼の言葉の背後にある感情をまったく違った角度から見ることができるのです。
この例として彼は “Numb” を挙げています。”Numb”は、GODSMACK 風のピットでの怒りに満ちた失恋ソングとして生まれましたが、”Reimagined” バージョンではアコースティック・ギター・ソングとして、傷ついた絶望のナンバーへと変貌を遂げました。
「SLEEP THEORY からギターをすべて取り除いたら、ポップ・ソングができる。それが僕らがいつもやりたいことなんだ。ポップ・ソングを書き、それをメタルやロックにする」
Moore がファンからもらったネット上のコメントのひとつに、”このバンドは悪い曲をリリースしたことがない” というものがあります。彼はその考えを持ち続け、今後取り組むすべての作品の指標としています。
「その言葉に取り憑かれてしまったんだ。どの曲もバンガー (最高) に次ぐ最高であり続けようとしている。それはまるで強迫観念のようだ。音楽を作るのは楽しいよ.僕らはクールな曲を書いて、それを楽しんでいるんだ」
そして彼らは、2025年にリリース予定のデビュー・アルバムで、その注目度の高さに応えるような、バイラルを途切れさせないような作品を作ろうと意欲を燃やしています。Moore によれば、まだタイトルの決まっていないアルバムはほぼ完成していますが、”Beautiful Oblivion” のような “飛ばす曲のないアルバム” にしたいという彼の完璧主義と強迫観念のせいもあり、今でも微調整を続けているのです。
「僕たちは、君たちが予想もしないような音楽を投げかけるつもりだよ。そしてこのアルバムを隅から隅まで体験してもらいたいんだ」


参考文献: REVOLVER:SLEEP THEORY: HOW AN ARMY VET FOUND A NEW MISSION IN THIS METALCORE-MEETS-R&B PROJECT

MUSIC SCENE MEDIA: SLEEP THEORY INTERVIEW

LOUDWIRE: SLEEP THEORY

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【OMERTA : CHARADE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH OMERTA !!

“Even Many Of The Biggest Japanese Mainstream Hits Tout Musical Penmanship With Such Finesse That It Makes Western Music Look Amateur And Incompetent By Comparison.”

DISC REVIEW “CHARADE”

「日本のメディアは欧米のメディアよりも常にエッジが効いているんだ。だから、オルタナティブな文化に憧れを抱いて育った子供時代には、当然その方が魅力的だった。題材がより成熟していたのか、アートスタイルがそうだったのか、何にせよ、欧米で普通に見られるものよりも奥深さや意図があるように思えた。また、僕たちはインターネットとともに成長し、日本のメディアは多くのオンライン・コミュニティに信じられないほど強い影響力を持っている。日本の技術力は言うまでもないしね。だから自然と、今日のインターネット文化は、日本にルーツがあるだろうものの下流にある作品が多くなったんだよ」
先日、来日を果たし大盛況のうちにツアーを終えた BLIND EQUATION が最も影響を受けた音楽が、ZUN による東方サウンド・トラックでした。そう、現代ほど日本のサブカルチャーやアンダー・グラウンドの文化が世界中に “飛び火” し、花開いた時代はなかったはずです。なぜそんな状況が訪れたのか。今、日本のネット音楽界隈で最も “バズって” いるアメリカのバンド OMERTA は、その理由を日本のアートが異質で尖っていたから、そうした日本文化を敬愛するオンライン・コミュニティで育ったから、そしてそんなファンタジーの世界が、メタルと同様に暗い世界で増えつつある心を病んだ “メンヘラ” な人たちの逃避場所となっているからだと説明します。つまり、同時多発的な日本文化礼賛バンドのバイラルは、決して偶然ではなく必然なのでしょう。
「アメリカで育ってきた僕にとって、アメリカのメインストリーム音楽はとても “安全” な傾向があるんだよ。西洋音楽と非西洋音楽の断絶は驚くほど明白だよ。平均して、西洋の曲は不協和音、調の変化、半音階的表現、ポリリズムなどを避け、非常に無難な旋律とリズムの慣習に従っている。これとは対照的に、日本の音楽は曲作りやプロダクションのデフォルト・モードとして複雑さやテクニックを用いることが多い。日本ではメインストリームの大ヒット曲の多くでさえ、西洋音楽が素人や無能に見えるほど精巧な音楽的巧妙さを売り物にしている」
さらに、ラテン系やアジア系をルーツに持つ OMERTA にとって、欧米のメインストリーム・ミュージックはあまりに安全で、耳に馴染まず、冒険心のない音楽に聴こえました。移民の国アメリカのメインストリームは、すでに誰からも愛される音楽ではありません。
一方で、吸収と研究が得意な日本。様々な場所から無節操に思えるほど多くの影響を取り入れ、コード感や変調、リズムの豊かさを強調し、それでいて日本らしいポップなメロディを備える  J-Rock やアニメ、ゲームの音楽こそ、OMERTA にとってはよほど魅力的な挑戦に見えたのでしょう。
「メタルコアや Nu-metal、あるいは僕たちより前に存在していたかもしれない他のジャンルの既存の基盤の上に、僕たちの音楽を構築することではない。これらのジャンルにはそれぞれ理論的な天井があり、それを突破することはできないから。僕たちの作曲に対するアプローチは、ラベルを無視して、最も適切と思われるものをただ書くというもの。僕たちは、アーティストとは神のインスピレーションを直感し、解釈し、伝える媒介物に過ぎないと固く信じている。ジャンルの枠に自分を縛ることは、唯一無二の美しさを歪めてしまう危険性があるからだ」
そんな、BLIND EQUATION や OMERTA といった日本文化の “下流“ にある Z世代のアーティストが口を揃えて主張するのが “ジャンルの破壊” です。実際、OMERTA の音楽にジャンルのラベルを貼ることは決して簡単ではないでしょう。巨大なバイラルを得た最新シングル “Charade” を聴けば、メタルコアや Nu-metal はもちろん、プログレッシブ、J-Rock, K-Pop, ボカロやアニメ、ヒップホップなど実に多様な音のパレットが反発することもなく耳下に広がっていきます。
そう、ネット世代の若さは壁をたやすく突き破りました。彼らの使命は、芸術とはこうあるべきだという期待やステレオタイプに挑戦すること。結局、暴力的な芸術とは慣例の破壊。粉々に吹き飛ばされた瓦礫の上に、何か美しいもの、何か新しいものを構築することこそ “Hyperviolence” なのです。
今回弊誌では、OMERTA にインタビューを行うことができました。メタル魔法少年オメルたん。薄い本にも期待です。Vincente Void が生んだ、アメリカで “一番嫌われている” ボーイズ・バンドだそうですよ。どうぞ!!

OMERTA “CHARADE” : 10/10

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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【ELECTRIC CALLBOY : TEKKNO】 FOX_FEST 24 SPECIAL !!


COVER STORY : ELECTRIC CALLBOY “TEKKNO”

“You Listen To With Your Ears But Feel In Your Heart. You’d Never Predefine The Type Of Person You’d Fall In Love With, So Why The Songs?”

TEKKNO

「僕たちが考えた他の新しい名前はどれも間違っていると感じた。ESKIMO CALLBOY は10年以上僕らの名前だったから、新しい名前にするのは違和感があったんだ。でも、僕らにはバンドとしての責任があることは分かっていた。他人のことを気にしないバンドにはなりたくない。人々を分断したり分離させたりするのではなく、ひとつにまとめなければならないんだ」
長く親しんだ名前を変えること。それは容易い決断ではありません。大人気のバンドならなおさら。それでもドイツのヤング・ガンズは改名に踏み切りました。 彼らは “Eskimo” という単語を “Electric” に変更しましたが、これはエスキモーという言葉が北極圏のイヌイットやユピックの人々に対する蔑称と見なされるため。その後、彼らは過去のアルバムのアートワークを新名称で再リリースしたのです。
「僕は初めて父親になったが、すでに存在するバンドに新しい名前をつけるのは難しいよ。だから、僕たちは “EC” というイニシャルを残したかった。”エレクトリック” ならかなり流動的だったし、イニシャルも残っていた。そうでなければ、リブランディングは大きな問題になると思ったんだ。みんな受け入れてくれるだろうか?多くの不安があった。でも、たぶん受け入れられるのに1ヵ月もかからなかったし、みんなそんなことは忘れてしまったよ。この新しい名前はとてもクールだよ」

改名のタイミングも完璧でした。最新作 “Tekkno” のリリース前、ロックダウン中。彼らのインターネットでの存在感を通してファンとなった人たちは、”Hypa Hypa” で津波のような畝りとなります。何よりも、ネオン輝くエレクトロニック・ミュージックとメタルの鋭さは、人々が最も暗く、そしておそらく最も慢性的に憂鬱をオンラインで感じているときに必要なものだったのです。
この曲の大成功は、すでに5枚のアルバムをリリースし、新時代の到来を告げるドイツのグループにとって強力な基盤となりました。
ラインナップの変更も発生。クリーン・ボーカリストの Nico Sallach が加入し、それに伴いグループ内に新たなケミストリーが生まれました。Sallach ともう一人のボーカリスト兼キーボーディスト Kevin Ratajczak の間には紛れもない絆が生まれ、それは ELECTRIC CALLBOY のライブ体験の特別な基盤となっています。そんな絶好調の彼らを “ドイツ最大の輸出品” と推す声も。
「今は2年前のような、みんながすごく期待していたような感じではないんだ。パンデミックの間に高まっていたバブル(誇大広告)だよ」

バブルは弾けるものですが、この人気の津波は決して彼らが儚い泡のようなアーティストではなかったことを証明しています。極彩色をちりばめた “Tekkno” のリリースは、バンドにとってスターダムへの最後の後押しとなりました。
重厚なブレイクダウンと自信に満ちたメタルコアのリフ、大胆にポップへと傾倒した予測不能なボーカル・メロディ。”Tekkno” は、ELECTRIC CALLBOY にドイツで初のアルバム・チャート1位をもたらしただけでなく、ヨーロッパやイギリスの他の地域のアルバム・チャートでもトップ20の栄誉を与えました。
さらに、このアルバムはソングライター、プロデューサーとしての彼らの洗練された芸術性をも実証しました。曲作りからプロダクション、ビデオへの実践的なアプローチに至るまで、そこに彼らの一貫した意見と指示がないものはありません。
「僕たちはお互いを高め合っている」 と Ratajczak は言います。「多くのバンドは、プロデューサーとバンドの1人か2人で曲を作っている。でも僕らは、みんなで曲について話し合うんだ。みんな、自分たちのアイディアを持っている」

つまり、ELECTRIC CALLBOY は、バンドだけでなく、音楽的にも生まれ変わったと言っていいのでしょう。
「Nico を新しいシンガーに迎え、以前のシンガーが辞めたこと。これは新たなスタートであり、かつてのバンドの死でもあった。新しいスタートを切り、2010年に戻ったのだから、何が起こるかわからなかった。 でも、少なくとも “Tekkno” で何をしたいかはわかっていた。”再生” という言葉がぴったりだと思う。これが自分たちだと胸を張って言える。これが僕らの音楽なんだ」
“Tekkno” に込めたのは、純粋さと楽しさ。シリアスなテーマのメタルコア・バンドが多い中、より楽観的なサウンド・スケープにフォーカスして作られたこのアルバムで彼らは、たまには解放されてもいいと呼びかけました。
「人生でやりきれないことがあったら、そのままにして人生を楽しもう。自分のために何かをしよう。
バンドを始めたとき、僕らは20代半ばだった。パーティーと楽しい時間がすべてだった。他のことはあまり気にしていなかった。責任感もなかった。ただその瞬間を生き、楽しい時間を過ごした。それは音楽にも表れていた。
しかし、成功とともに責任も重くなった。僕はいつもスパイダーマンとベンおじさんの言葉を思い出す。”大いなる力には大いなる責任が伴う”。だから多くのバンドが、政治的なテーマであれ、その他さまざまな深刻なテーマであれ、シリアスなテーマを取り上げるようになる。
でも僕たちは、たとえ嫌な気分、仕事で嫌なことがあったり、配偶者とケンカしたりしたときでも、その状況から気持ちを切り離して、そのままにしておいて、楽しい時間を過ごしたり、映画を観たり、例えばエレクトリック・コアを聴いたり、ただ放心状態になったりすると、日常生活の問題に再び立ち向かえるほど強くなれることに気づいたんだ。哲学的に聞こえるかもしれないけど (笑)。でも、これは普通の行動だと思う。自分のために何かをする、自分を守るためにね」

“パーティー・コア” “エレクトリック・コア” というジャンルに今や真新しい輝きがないことは多くの人が認めるところですが、彼らは改名を機に、このジャンルに再度新たな命を吹き込みました。
「5人全員が同意して、またこのジャンルをやってみたいと思った時期があって、再び書き始めたんだ。
“Rehab” は悪いアルバムだった (笑)。好きな曲もあったけど、あれはひとつの時代の終わりだった。あのアルバムを仕上げるのは、ほとんど重荷だった。昔のシンガーと妥協点を見出すのは不可能に近かったから。もうスタジオには行きたくなかった。その結果、僕たちは以前のボーカリストと決別することになった。正直なところ、これは僕たち全員にとって最高の出来事だった。というのも、僕たちは皆、バンドを愛し、10年以上もこのために懸命に働いてきた。だからそれがすべて崩れ去ることを恐れていたんだ。
恐怖だけではなかった。どうやって続けるのか?ファンは新しいボーカリストを受け入れてくれるだろうか?僕たちは新しいボーカリストを受け入れるのか?言っておくけど、前のボーカルのせいにはしたくない。彼は彼自身のことをやっている。彼も同じ話をするだろう。その後、5人全員がスタジオに来て、”2010年のように音楽を作ろう” と言ったんだ」
THY ART IS MURDER, SCOOTER, THE PRODIGY が彼らの中で同居することは、それほど奇妙ではありません。
「僕たちは、ジャンルの境界線が難しいと信じたことは一度もない。もちろん思春期には、自分が何者で、何を聴くかによって自分がどう違うかを定義しようとするものだ。でもね、音楽に説明はいらない。耳で聴き、心で感じる。どんな人と恋に落ちるかは決められないのに、なぜ好きになる歌はジャンルで決めるの?」

ゆえに、ELECTRIC CALLBOY にとって “メインストリームになる”、あるいは “メインストリームに引き寄せられる” といった揶揄は、いささかも意味をなしません。それは彼らのインスピレーションの源は、ほとんど無限であるだけでなく、ブラックメタルやデスコアのようなジャンルに閉じこもるバンドが、現実的には世界人口の1%にも届かないことを痛感しているからでしょう。
「僕の経験では、ヘヴィ・バンドが “メインストリームになる” というのは、バンドが自分たちの音楽を変えるということなんだ。彼らはよりソフトになり、より親しみやすくなり、より多くのリスナーを積極的に求めている。僕らはそんなことはしていない。確かに、ELECTRIC CALLBOY がメタル・ミュージックを “非メタル・ファン” の人たちにも親しみやすいものにしていると言われれば、それはとても美しいことだと思う。それでも、世界人口の60%以上にリーチできるかもしれないポップ・アーティストに比べれば、誰もが僕らを知る機会があるわけじゃない。僕たちは、すべての人々にリーチしたいし、その可能性があると信じている。だけどね、そのために変わることはない。大事なのは、僕たちのショーに参加した人たちが、友達みんなに伝えてくれて、次にその人たちも来てくれるようになることなんだよ」


参考文献: KERRANG! :Electric Callboy: “We’re living our best lives right now. This is the time to celebrate that”

OUTBURN:ELECTRIC CALLBOY: Rebirth

LOUDERSOUND:”We have to bring people together not divide them”: Electric Callboy don’t mind being tagged a ‘novelty’ band so long as they can make metalheads smile

FOX_FEST JAPAN 特設サイト

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【FIXATION : MORE SUBTLE THAN DEATH】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JONAS W HANSEN !!

“We Wanted Something To Reflect The Title «More Subtle Than Death» Which Was Derived From The Quote «Society Knows Perfectly Well How To Kill a Person And Has Methods More Subtle Than Death»”

DISC REVIEW “MORE SUBTLE THAN DEATH”

「タイトルの “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” は、”社会は人を殺す方法を熟知しており、死よりも巧妙な方法がある” という名言に由来している。
僕にとってこの言葉は、社会が人間らしさを奪い去り、殻に閉じこもらせてしまうということを指しているんだ。それは僕たちがアートワークに込めた思いでもある。この花は人間のメタファーでもあるんだ」
正邪混沌の時代。事実と虚構の境界線は日ごとに曖昧となり、貪欲、腐敗、抑圧が横行した世界で、ノルウェーの FIXATION はデビュー・アルバムからそうした社会の経年劣化をメタル・コアの叫びで再生したいと願います。
アルバム “More Subtle Than Death” “死よりも巧妙な死” において彼らは、社会の無慈悲な盲目さを大胆に取り上げました。肉体的な死よりも残酷なのは精神的な死。誰からも認められない孤独な尊厳の死こそ最も恐ろしいことを、社会が時に途方もなく欲望に忠実で残酷なことを FIXATION は知っています。それは、自分たちもここまで来るのに、認められるのに多くの時間と孤独を費やしたから。だからこそ彼らは世界中に絶望と恐怖をもたらす対立や分断の溝を埋めながら、希望を持ち続け、自分に忠実であり続け、名声よりも自分自身の中に強さを見出そうとメッセージを放っているのです。その言葉はアルバムを通して真実味を帯びています。
「あれでもない、これでもないと言われたこともあるよ。でも正直に言うと、僕たちはただ自分たちが好きな音楽を作っているだけで、人々がそれを何と呼ぼうと勝手なんだ。門番なんて本当にバカバカしいよ。みんなが好きな音楽を楽しめばいいんだ」
自分に忠実であり続けるというメッセージは、その音楽にも貫かれています。通常、メタル・コアといえば、ヘヴィネス、クリーンとグロウルのダイナミズム、モンスターのようなブレイクダウンが重視されるものですが、FIXATION のメタル・コアではそれ以上に質感、ニュアンス、アンビエンスがサウンドの骨格を担います。だからこそ、ヘヴィなギター・リフ、エレクトロニックな装飾、幻想的なイメージ、フックのあるコーラスがシームレスに流動し、感情が生まれ、聴く者を魅了し、活力を与えるのです。加えてここには、ポップな曲もあれば、アグレッシブな曲もあり、さらにオペラも顔負けの壮大なスケールの曲まで降臨して、実にバラエティにも富んでいます。”メタルコア、ポスト・ハードコア、スタジアム・ロックを取り入れたハイテンションでしかしよく練られたモダン・ロック” とはよく言ったもので、BRING ME THE HORIZON からメールを受け取ったという逸話にも納得がいきます。
「世界が暗い方向に向かっていても、トンネルの先に光があることをもちろん願っているよ。もしその希望の光がなかったら、僕たちは何のために戦っているのだろう?」
欲望や名声を追い求めることに警告を発したアルバムにおいて、エンディング・トラックの “Dystopia” は特別オペラティックに明快なメッセージを贈ります。天使のような純粋さで歌い上げる歌詞には、支配と抑圧の色合いが兆し、しばらくの沈黙の後、沸き起こるコーラスにおいて、次世代の未来に対する警告のメッセージが叫ばれます。最後のメッセージ “俺たちは寄生虫” という言葉は、示唆に富み、激しく心を揺さぶります。そう、このアルバムには何か美しく心を揺さぶるものがあるのです。おそらくそれは、欲にまみれた人間の手による世界の終焉を我々みなが予感しているからかもしれませんね。
今回弊誌では、シーンきっての美声の持ち主 Jonas Wesetrud Hansen にインタビューを行うことができました。「日本のゲームとともに育ったことは、僕たちの子供時代を決定づけたし、大人になった今でも僕たちを決定づけ続けている。全員が任天堂、ポケモン、マリオ、ゼルダとともに育ったんだから。もちろんキングダム・ハーツもね!」 どうぞ!!

FIXATION “MORE SUBTLE THAN DEATH” : 9.9/10

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