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COVER STORY + NEW DISC REVIEW 【MARCIN : DRAGON IN HARMONY】


COVER STORY : MARCIN “DRAGON IN HARMONY”

“The First Thing, Which Is Pretty Accessible For Any Guitarist, Is To Learn Tapping With Your Left Hand So That You’re Able To Produce Melodies And Basslines Very Clearly, Without Weird Overtones. It Frees Up Your Right Hand To Do a Bunch Of Fun Stuff.”

DRAGON IN HARMONY

フラメンコ、クラシックの世界から登場したギター・センセーション、Marcin Patrzalek は、デビュー・アルバムを世に放った時点ですでに何百万人ものファンが彼の才能に畏敬の念を抱いているという驚くべき存在です。そう彼は今、”エレキ・ギターの大物” たちから脚光を浴びながら、”アコースティック・ギターの未来” を披露しようとしているのです。
ポーランド生まれの24歳、Marcin はその若さにもかかわらず、すでに世界を股にかけて活躍し、アコースティック・ギターの新たな可能性を推し進めています。彼のデビュー・アルバム “Dragon In Harmony” は、クラシックで鍛えた左手とフラメンコをベースにしたストラミング、そして器用なパーカッシブ・テクニックが織り成す、ジャンルを融合させた妙技で大きな話題を呼んでいるのです。
17歳の誕生日を迎える前にポーランドとイタリアのTVタレントショーで勝利を収めた Marcin は、2019年に “America’s Got Talent” の準決勝に進出し、さらに多くの視聴者を獲得しました。数々のバイラルと成功を通じて、彼はすでに162万人のYouTube登録者を獲得しています。
LED ZEPPELIN の “Kashmir” のDADGADストンプ、ベートーベンの “月光” のロマンチックなメロディー、SYSTEM OF A DOWN の “Toxicity” におけるメタリックな激情。彼のカバー・ソングは2000万ビューを超え、同時にオリジナル曲も想像力をかきたてる魅力的な世界観を誇ります。
Marcin は、Tim Henson や Ichika といったモダン・ギター・シーンの “ビッグ・ボーイズ “たちがやっていることを見て、この楽器に対する人々の認識を再定義し、アコースティック・ギターがエレキ・ギターと同じくらいクールでありうることを証明したいと考えているのです。

「僕のゴールは、ミュージシャンやギタリストだけでなく、世界中にパーカッシブ・アコースティックが次の大きな流行になると示すこと。
これはメインストリームや一般大衆が注目するに値するもので、まだ多くの人が見たことも聞いたこともないものだからね。だから僕の曲は、”Snow Monkey” のように、ヒップホップ、ラテン、レゲトンの影響を受けた、よりメインストリーム向けのものなんだ。実験的な演奏と、メインストリームで親しみやすいものとの融合…。
アリアナ・グランデのようなサウンドになるとは言っていない。でもそれはギター界に欠けているものかもしれない。僕は実験的でニッチな音楽が大好きだけど、パーカッシブなギターは何にでも入れられるということをみんなに知ってほしい。こういった様々なサウンドやアプローチを使うことで、一般の人たちに、これが次の大きな流行になることを理解してもらえるはずだ!」
若手のギタリストはもちろんのこと、Steve Vai, Tom Morello, Jack Black といった大御所たちも皆、 Marcin のギタリズムには驚きを隠せません。2022年にギター・ワールドが彼を “同世代で最も才能あるギタリストのひとり” と称賛したのも決してフロックではないのです。
Marcin にとって、この数年は実にワイルドな日々でした。SNS のアカウントでファースト・ネームだけを名乗り、クラシック・ギターの頂に上り詰め、その世界では事実上他に類を見ないクロスオーバーの成功を収め、実写版 “One Piece” にも楽曲を提供。最近では “成功した” ことの最大のシンボルである彼自身のシグネチャー・ギターを手に入れました。

Marcin の特徴は、自分のギターを時にドラムセットのように扱いながら、叩いたり、ピッキングしたり、スクラッチしたりするアプローチでしょう。
このアプローチは、実際の音楽と同じかそれ以上に視覚的な派手さが重要視される現在の音楽業界の潮流において、Marcin を際立たせました。例えば、彼のSpotifyの月間リスナーは8万2000人弱ですが、YouTubeのチャンネル登録者数はその10倍近く、Instagramのフォロワー数は100万人を超えています。クラシック音楽界の多くを支配する伝統主義的な考え方を考えると、その成果は特に印象的。
「クラシック・ギターは、他の人、特に古い世代のクラシック音楽家を模倣することが多い。だから僕は、可能な限りワイルドなことをやりたかったし、それがこのスタイルに結実した」
そして Marcin は、そのスタイルをより多くの聴衆に伝える機会を十分に得ています。2年連続で、Jared Dines によるホリデーシーズン恒例のシュレッド・コラボレーションに参加し、Matt Heafy, Jason Richardson, Herman Li といったエレクトリックの巨匠たちとともにアコースティックでシュレッドを刻みました。また最近では、日本が誇る Ichika とのチームも注目を集めています。彼がこれまでに共演したギタリストの多彩さは、ギター界が今いかに健全であるかを物語っていると Marcin は誇ります。
「もはやポップスやロックが支配的な力ではなくなっているため、ギター・プレイヤーたちは “より折衷的で特異な” 演奏方法に引き寄せられている。そうしなければ、自分の居場所はないからね。
私はすべてを違うサウンドにしようとする、 たとえそれがインスタグラムの1分間の動画であってもね。
それが今の音楽のクールなところなんだ」

IbanezのMRC10は、20フレット全てに手が届くディープ・カッタウェイ、フィッシュマン・プリアンプ内蔵、そしておそらく最も重要なのは、Marcin 独特のパーカッシブなボディ・タッピング奏法を強化するためにデザインされた強化ウッド・プレートでしょう。
「ストラップを自分に巻けば、ギターを持ってステージを走り回ったり、飛び跳ねたりできるギターなんだ。このギターがあれば何でもできる。
僕はパーカッシブ・プレイヤーとしては、かなりユニークな立場だ。ソニー・ミュージックという大きなレーベルにいて、何百万人もの人が僕の名前をオンラインで知っている。だからこそ、自分ができることの全領域を見せたいんだ。このアルバムは、モダンなパーカッシブ・ギターがどのようなものであるかというヴィジョンと、今現在の自分の立ち位置を忠実に表現したものなんだ」
そんな Marcin のバックグラウンドは純粋にクラシック。10歳から勉強を始めたと彼は言います。
「ギターを手にしたのは10歳のとき。クラシック・ギターだったんだけど、この世界では、10歳というのは始めるにはちょっと遅いんだ。クラシックのヴァイオリン奏者を見ると、普通は4、5歳で始めている。僕がクラシックを始めたのは、父親が僕に何かやることを見つけてほしかったからなんだ。
音楽、特にメタルが好きだったのは10歳の頃。METALLICA はメタルで最初にハマる人が多い。父もロックが大好きで、僕に練習を始めさせたかったんだよね。
最初の先生は、大柄で風変わりな人だった。でも彼はとても率直で、とても協力的だった。彼は僕に完全なギターのヴィジョンを与えてくれたんだ。
練習が本当に楽しくて、普通は嫌がることだけど、そのおかげですぐに打ち込むことができた。正確な日付は覚えていないけど、父と先生から3ヶ月で最初のコンクールで優勝したと聞いた……初心者にしては超早いよね。10歳の大会だったんだけど、それからはすごくやる気が出たんだ。
それからの数年間は、僕にとって発展途上の日々だったが、徐々にクラシック音楽に、いや、他の人が何十年も何世紀も演奏してきたことをただ繰り返すことに、少し飽き始めた。クラシックのレパートリーでは定番中の定番で、学校の他の50人とまったく同じように弾くんだ。それで何が言いたいの?」

13歳のとき、”フラメンコのメッカ” バレンシアのフラメンコ教師兼大学教授、カルロス・ピナーニャにマンツーマンで指導を受けることになりました。
「ワークショップに参加したとき、先生は僕を見て “スカイプで教えてあげよう、少年” と言ったんだ。それは僕にとって大きな出来事だった」
そうして Marcin は5年間、家庭教師の指導を受け、その経験は彼の右手を大きく変え、その過程でクラシックとフラメンコ、2つの伝統的なスタイルを融合させることになったのです。
「クラシック・ギターはとても伝統的で、多くを語ることはできないが、その多くが音楽全般とギター演奏の基礎を形成している。フラメンコはそれほど厳密ではないけれど、それでも厳格なリズムやコンパス、ギターにおけるフラメンコ音楽とは何かという具体的な考え方がある。単なるアコースティック・ギターには制限がない。
アコースティック・ギターは焚き火を囲んで演奏することもできるし、誰も予想しないようなワイルドなこともできる。アコースティック・ギターに転向してからは、ネットで他のパーカッシブ・プレイヤーがやっていることを見たり、自分自身のクラシックやフラメンコのテクニックを取り入れたりして、自分の音楽をさらに進化させられると確信したんだ」
つまり、Marcin は伝統主義にはこだわっていません。Tommy Emmanuel との出会いによって、彼はパーカッシブな演奏の世界に足を踏み入れます。それは、何百年ものギターの歴史を否定することなく、アコースティックに現代的なエネルギーを注入するための、パズルの最後のピースとなったのです。
「Tommy Emmanuel はアコースティック・ギターの伝統的な道を歩まない人たちが世界にいることを教えてくれた。それはとてもニッチだった。でも、僕はアウトサイダーになりたかったんだ」

クラシックをコンテンポラリーに聴かせるための秘訣はあるのでしょうか?
「例えば、僕はメタルを聴いたときに、Djent のブレイクダウンを聴いてインスピレーションを受ける。それがすべて僕のアプローチに反映されているんだ。Paco De Lucia は僕の最大のアイドルの一人で、彼の音楽からはたくさんの激しいテクニックや信じられないようなことが聴き取れる。Tommy Emmanuel もその一人で、若い頃は毎日、時には1日に2本もビデオを見ていたね。とはいえ、誰かのモノマネをすることは決してなかったよ」
クラシックといえば、メタルの世界にも Yngwie Malmsteen のような “クラシック奏者” が存在します。
「僕の考えでは、すべてのジャンルは一緒に混ざり合うことができる。多くのメタルはクラシックやシンフォニック・ミュージックから引用している。Yngwie はパガニーニから多くのことを学び、それらを自然に組み合わせることができたからだ。メタルのテクニックや和声構造は、特にパガニーニを見ると、クラシックに非常に近いものがある。
また、ANIMALS AS LEADERS のようにジャズのアイデアを多く取り入れたバンドでも、和声的な類似点はたくさんある。それは、もし彼らがディストーションやよりヘヴィなドラム・ビートを使わなければ、もっと明白になるのかもしれないね。
それから、CHON のようなバンドもある。彼らはドラムとリズムを取り除けば、ジャズやクラシック音楽に近い。だから、どのステップを踏んで、どのように枝分かれしていくかがすべてなんだよね….」

その独特なパーカッシブ・スタイルのアコースティック・プレイを習得するための最初のステップはどんな方法が適しているのでしょうか?
「どんなギタリストでも簡単にできることだけど、まずは左手のタッピングを覚えて、変な倍音を出さずにメロディーやベースラインをはっきり出せるようにすることだね。そうすれば、右手を解放していろいろな楽しいことができるようになる。左手だけですべてを演奏できるようになれば、自由な右手で可能性は無限に広がるんだ。左手でアストゥリアス(イサーク・アルベニスの曲)のベースラインを弾いて、右手をどう使うかはプレイヤーの想像力次第だ。
左手は低音弦をちょっと叩いて、それを鳴らすだけでいいんだ。右手については、まず弾きやすい曲を見て、なぜそうなるのかを理解し、メトロノームを使ってゆっくり弾くようにした。
人は練習しているときにいつしかメトロノームのことを忘れてしまい、答えは明白なのになぜうまくいかないのかと疑問に思う。僕のフラメンコの先生は、メトロノームはトイレにまで持って行けと言っていたよ!」
Marcin のスタイルを習得するためには、マルチタスクが得意であるべきなのでしょうか?
「正直なところ、人間がマルチタスクをこなせるとは思っていない。僕たちの脳はそういう仕組みになっていないと思う。意識的に2つのことを同時にこなすことはできない。もし僕がギターを弾きながら君に話しかけられるとしたら、それは僕が長年かけて鍛え上げたマッスルメモリーを駆使しているだけで、僕はただ自分が話していることに集中し、ギターは筋肉が覚えているんだよね。
だから、普段は左手が何をしているかなんて、脳内のシナプスは少しも考えていない。僕が考えているのは右手のことで、右手はより複雑でエキサイティングなリズムを刻んでいる。
一方で、右手がキックドラムのパートを演奏しているだけなら、左手に集中する。それは脳のスペースを空けることであって、分割しようとすることではないんだ。音楽は全体であって、別々のレイヤーの束ではないからね」

ギターのボディからさまざまな音を出すためのコツはあるのでしょうか?
「多くの人はドラムセットのようにアプローチするけど、重要なのは右手のどの部分を使うかだ。手首でボディを叩けば、どこを叩いてもとても低い音が出る。それがキック・ドラムになるんだ。
一方で、人差し指と親指でボディをL字型に叩くと、ムチのような動きになって、キックと同じところを叩いても、スナッピーでタイトなスネアができるんだ。
また、ナットから先の弦を叩けば、キメのいいシンバルになるし、爪でギターのボディを引っ掻くこともできる。
大きな違いはギターの側面だ。ここで最も一般的なのは、リムをかすめてサウンドホールに向かう方法だ。これは非常にキレがいいし、音も大きい。作曲をしていると、ちょっとした隙間(のようなもの)が見えてくるから、そういうテクニックを使えばそれを埋めることができる」
では、ドラムキットの感覚どの程度忠実に守っているのでしょう?
「アレンジを始めるとき、実はドラム・キットのことは考えないんだ。だからライブではドラマーと一緒に演奏するし、アルバムではカホンやさまざまなサンプルとのレイヤリングを多用している。すべてをギター・パートで代用するのは傲慢だ。ドラマーとパーカッシブスタイルのアコースティックな演奏をすることを誰も止めないよ」
弦ではなく、ギターのボディにラスゲアード (複数の指を使って弦を掻き鳴らすフラメンコのテクニック) を使うこともあります。
「あれはフラメンコの直接の影響なんだけど、僕がよくやるからネットで自分のパロディをよく見かける!薬指、人差し指、親指、または薬指、中指、人差し指という動きで、スネアを叩くようにボディを叩くんだ。右手のストラミング・テクニックをパーカッシブな演奏に取り入れるのが好きなんだ」

ソロ・ギターでバンド演奏をカバーするには、必ず取捨選択が必要です。
「ソロ・ギターのためのアレンジを始めようと思っている人は、最初は原曲をミラーリングしてみるといい。異なるパートや楽器が何をやっているのかがわかるだろう。それはかなり直訳的なものになるだろうが、もちろん自分ひとりですべてをこなすことはできないので、いくつかの犠牲を強いられることになる。
でもね、そうやって曲をカバーするのは、しばらくすると、とても芸術的ではないことに気づいた。僕はまるでCDプレイヤーとして生きているようなものだった。
だからソロ・ギターの限界を克服するクールな方法を見つける必要がある。結局、曲を完璧に再現しようとするのをやめて、音楽に新しい命を吹き込もうとした。今は、何かをアレンジすると決めたら、特にすでによく知っている曲はあまり聴かない。カバーするときにオリジナルを尊重する必要はないと思う。
むしろ、カバーにおいても “オリジナリティ” が大事なんだ。同じ音楽を違う頭脳と心で演奏するのだから。だから、僕の “Cry Me A River” のカバーには、ブラジルのボサノヴァのセクションが全部入っているんだ。メロディーを上に持ってくるまでは、オリジナルとのつながりはない。実験するのは自由だ」
右手で指板の上をタップすることも少なくありません。
「実用的なんだ。僕の右手は特によく動く。流動性を保つために円を描くように動かすので、いつも自然に手が戻ってくるんだ。だから、両手でタッピングするのは実用的だし、スクラッチパッドも17フレットあたりから始まるんだ」
このスタイルでは、オープンチューニングを使用するプレイヤーが多いといわれています。
「僕もオープンチューニングが大好きなんだけど、今まで誰もやったことがないようなセミ・オープンチューニングを試しているんだ。これは “Classical Dragon” と “I Don’t Write About Girls” で使ったチューニングで、B5スタンダードと呼んでいるんだ。
低音3弦はB5コード(B F# B)、そして上弦はスタンダード(G B E)。上の弦はおなじみだからアドリブで自由に弾けるけど、そのあと低音弦は地獄のように肉厚で、Animals As Leaders のベース・サウンドだって作ることができるんだ」

“Classical Dragon” といえば、POLYPHIA の Tim Henson がゲスト参加して見事なプレイを披露しています。
「”Classical Dragon” は実はとても古い曲なんだ。2020年頃に書き始めたんだ。その頃の僕の目標は、フィンガースタイルの枠を飛び出して、エレクトリック・プレイヤーの真似をすることなく、彼らと手を組むことだった。僕の世界では誰もそういうことに挑戦していなかった。Tim はインスタグラムで僕をフォローし始めてくれたから、僕は “よし、どうやって彼を曲に誘おうか?” と思って、彼を意識して書いたんだ。
POLYPHIA のトラップっぽいハイハットが多かった。Tim にこの曲についてメッセージを送ったんだ。彼はすぐに返事をくれて、”これは素晴らしい、一緒に何かやろう!”って言ってくれたよ。
彼が送ってくれたパートは素晴らしかった。彼がこれまでやってきたこととはまったく違っていて、それに触発されて、より Marcin らしい曲にしようと思ったんだ。その後、何度も作り直したよ。彼がやっていることには本当に畏敬の念を抱いているので、彼がこの曲に参加してくれたことは信じられない経験だった」
この曲ではタッピングを多用しています。
「成長した複雑なアプローチなんだ。クラシックの曲は特に、ハーモニーという点ではかなり肉付けされたものになる。だから僕のタッピングは典型的な意味でのアルペジオではなく、コードの輪郭を描くのが普通でね。通常、ステップを踏んだり降りたりはしない。開放弦もたくさん使うよ。
左手でタッピングしながら、右手の指を1本か2本使えば、残りの指で開放弦を弾くことができる。突然、たくさんの音が鳴り響くハープのような構造を作ることができる。
パガニーニのカプリス24番を演奏したときに、よりゆっくりした、より開放的な変奏があるのがわかるだろう。基本的に、僕はこれらの下降音階を演奏しようとしたけど、できるだけ多くの音が鳴り響くように演奏したんだ。レガートでバタバタと弾くような感じがいいんだ。僕はこれをやるのが大好きでね」

両手タップに最も影響を与えたプレイヤーは誰なのでしょう?
「Michael Hedges について、ギターを始めた当初は知らなかったけど、このスタイルをやっている人はみんな彼を知っている。彼はこのスタイルのOGだ。80年代から90年代にかけて、彼は本質的に今起こっていることの青写真を作ったし、それは今でも発展し続けている。彼は悲劇的な早すぎる死を遂げたよね…
僕は彼から直接何かを学んだわけではないけど、間接的に大きな影響を受けた。そして、僕のアレンジをカバーしたり、僕のスタイルで演奏する人は、間接的に彼に影響を受けていることになる。彼のテクニックは誰をも超越しているし、まだ多くの人が彼のことをよく知らないから、彼のことに触れておきたかったんだ。
Mike Dawes も尊敬するプレーヤーの一人だ。僕が15歳のとき、彼はアレンジメントで爆発的に売れ始めていて、僕のスタイルに大きな影響を与えた。彼は今では私の友人で、インスタグラムで連絡を取り合っている。会えそうな機会もあったんだけど、Covidがそれを完全にぶち壊してしまった。彼は素晴らしい人だし、彼と知り合えて幸せだよ。
Jon Gomm も素晴らしい人だし、ミュージシャンでもある。彼は僕のスタイルに大きな影響を与えたわけではないし、また、彼はシンガーでもあり、それは素晴らしいことだが、僕自身は歌いたいという願望はないにしてもね。そうした人たちすべてがなんらかの影響を与えてくれた。だから僕は、メタルからフラメンコ、ヒップホップまで、どんなものでもアレンジに取り入れるよ」
パーカッシブな演奏にギターの種類は関係あるのでしょうか?
「でも、どんなアコースティック・ギターでもパーカッシブな演奏はできるよ。優れたパーカッシブ奏者なら、テイラー・スウィフトのギターでも僕のギターでも同じように演奏できる。
DIYで変えられるのは、弾き心地の良さだ。タッピング、特にゴースト・タップは音が大きくなるのでよくやるんだけど、ロー・アクションが絶対的な鍵になると思う。ロー・アクションだと鳴りが少ないから、きれいに弾きやすいんだ。
スクラッチパッドは最もわかりやすい付加物で、僕のIbanezのシグネチャーモデル MRC10 には非常に特別なもの(オイルフィニッシュされた無垢のシトカ・スプルース製)が使われている。ボディにスクラッチすることもできる」

ライブでギターを叩きすぎて、手が痛くなることはないのでしょうか?
「何かが当たってその場にとどまると、衝撃が長引くよ。でも、ちょっと叩いて手を離すだけなら、振動が発生するだけで、自分自身やギターを傷つけることはない。例えば、建物は常に振動している。日本はそうやって地震に耐えているんだ。
唯一の問題は、キック・ドラムを手首で叩くときで、振動が同じになるのが嫌だから、ギターのボディに少し長く置いたままにするんだ。ギターを傷める可能性があるけど、ブレーシングを補強するプレートを追加することができる」
Steve Vai も Marcin の才能を見出したひとりです。
「彼はギター界の光だ。彼は励ましてくれた…とても直接的に、徹底的にね。彼はとても明晰で、自分の意見やアドバイスをくれる。最近、彼は僕のLA公演にやってきて、バックステージで1時間も話をしたんだ。彼は僕が成功して、最高の自分になることを望んでいるんだ」
パーカッシブ・アコースティックを次の大きな流行にしたいと、Marcin は望んでいます。
「ここ2、3年で目にしたのは、フラメンコのパーカッシブをやっている人たちのカバーやアレンジのレベルが一気に上がったということだ。”Classical Dragon” が出てから、3日後にはネットでカヴァーがアップされるようになった。
だから今、このスタイルの聖火は多くの人に受け継がれつつある。クラシカル・フラメンコ的なパーカッシブな奏法が存在することを集団で理解するようになった。これはギミックではなく、ギターの世界を純粋にレベルアップさせるものなんだ」
若き天才は、さらに若い次の世代にどんなアドバイスを贈るのでしょうか?
「ピッキングがとても正確なプレーヤーがいる。僕はその一人だとは言えないし、下手なわけでもない。僕のスタイルでは、フレットを叩く手が常に支配的なんだ。どのプレイヤーも自分の長所を見極めるべきだし、みんなユニークな才能を持っている。
だから、できる限りそれを伸ばして、自分の音に磨きをかけることが重要なんだ。僕は世界最速のピッカーになりたいとは思っていない。
だからまず、好きな人全員のすべてを真似をしたり、すべてのテクニックを求めるのではなく、全ての基本をしっかりと身につけること。それは当たり前のことで、その上で、どれが自分のスタイルに響くかを見極めるんだ」


参考文献: GUITAR WORLD :“Classical-flamenco percussive playing is not a gimmick – it’s a level-up of the guitar world”: Steve Vai mentored him, Tim Henson lent him his talents, and now he’s invented his own “semi-open” tuning – Marcin is on a mission to redefine acoustic guitar

GUITAR WORLD :“Classical guitar is often about emulating other people, especially older generations – so I just wanted to do the wildest thing possible”: Marcin Patrzalek is reinventing the nylon-string for a new generation – and going viral while he’s at it

GUITAR WORLD :Marcin Patrzalek: “My goal is to show the world that percussive acoustic guitar should be the next big thing”

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【PAUL MASVIDAL (CYNIC) : MYTHICAL】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Chuck Gave His Life To Music And Was Always Interested In Learning New Things And Expanding His Art. I Think That Is Where We Connected As Artists. He Found In Me a Creative Young Spirit Looking To Try New Things.”

DISC REVIEW “MYTHICAL”

テクニカル/プログレッシブデスメタルの祖 DEATH がジャンルのリミットを解除したトリガーにして、CYNIC がメタルに宇宙とアトモスフィアをもたらした根源。Paul Masvidal は現代メタル史の筆頭に記載されるべき偉人です。
「Chuck はその人生を音楽に捧げ、いつも新たなことを学ぶ意欲を持ち、自身のアートを広げていったんだ。そういう点が、アーティストとしての僕たちを結びつけたんだと思う。きっと彼は僕の中にも、新たなことに挑戦する若きクリエイティブなスピリットを見つけていたんだろうな。」今は亡きデスメタルのゴッドファーザー Chuck Schuldiner の眼差しには、自身と同様に既成概念という亡霊に囚われない眩いばかりの才能が映っていたはずです。
実際、DEATH の “Human” でメタルとプログレッシブ、ジャズの垣根をやすやすと取り払った後、Paul は CYNIC をはじめ GORDIAN KNOT, ÆON SPOKE といった “器” を使い分けながら野心的な音旅を続けて来たのです。
咆哮と SF のスペーシーな融合 “Focus”、幽玄でアンビエントなアートメタルの極地 “Traced in Air” “Carbon-Based Anatomy”、そして THE BEATLES の精神を受け継ぐアビーロードメタル “Kindly Bent to Free Us”。そうしてもちろん、Paul がメスを握り執刀する音楽の臨床実験は、ソロ作品においても同様に先鋭と神秘の宇宙でした。
「分かっていたことが2つあってね。1つはアコースティックのレコードを作りたかったこと。もう1つは、ヒーリング体験を伴う新たなサウンドテクノロジーに深く興味を惹かれていたこと。」
サウンドスケープを探求するスペシャリストが “MYTHICAL” で到達したのは、音楽と治療の未知なる融合でした。
もちろん、これまでもロックとエレクトロニカを掛け合わせる実験は幾度も行われて来ましたし、ヒーリングを目的とした環境音楽も当然存在しています。
しかし Paul Masvidal が遂に発想した、シンガーソングライター的アコースティックな空間に、集中やくつろぎ、そして癒しを得るためのアイソクロニック音やバイノーラルビートを注入する試みは前代未聞でしょう。
「Lennon/McCartney を愛しているからね。彼ら二人はソングライティングにおいて、最大のインスピレーションなんだ!」
Paul が語るように、シンガーソングライターというルーツ、”家” に回帰した MASVIDAL の音楽は、THE BEATLES への愛情に満ち溢れています。仄かに RADIOHEAD も存在するでしょうか。
コード進行、旋律や歌い回しは “Fab Four” の魔法を深々と継承し、”Kindly Bent to Free Us” からメタリックな外観を取り払ったオーガニックな木造建築は居心地の良い自由で快適な空間を謳歌します。特に CYNIC のメランコリーまで濃密に反映した “Parasite” の美しさは筆舌に尽くしがたいですね。
そして、このアーティスティックな建造物にはスピリチュアルな癒しの効果も付与されています。表となり、裏となり、アルバムを通して耳に届くアイソクロニック音やバイノーラルビートは、不思議と Paul の演奏に調和し、音の治療という奇跡を実現するのです。”メタルが癌に効く” より先に、心と体に “効く” 音楽を作り上げてしまった鬼才の凄み。
「そういった “治療用トーン” や “脳を楽しませるトーン” を音楽に組み込むことができれば、音楽の効果と治癒力を高めることができると思った訳だよ。」音の葉と感情の相互作用を追求し続けるマエストロはそうして最後に大きなサプライズを用意していました。
“Isochronic Tone-Bath”。音浴、つまり音のお風呂体験。EPに用意された5曲から、Paul の演奏を剥ぎ取りヒーリングのトーンのみをレコードの最後に据えたマエストロの真の目的は、”聴く” と “感じる” の同時体験を瞑想と共にリスナーへ提供すること。そうして 「信念を曲げず、信念の元に」 進み続ける冒音者は、再度真に常識に逆らう道を進み、革命的な作品を完成へと導いたのです。
今回弊誌では、Paul Masvidal にインタビューを行うことが出来ました。「Chuck とは素晴らしい思い出が沢山あるよ。その思い出の大半は、僕を笑顔にしてくれるんだよ。僕は彼が充実した作品とインスピレーションを、これからミュージシャンとなる世代に残してくれたことが嬉しいんだ。」 きっと真の音楽は時の荒波にも色褪せません。どうぞ!!

MASVIDAL “MYTHICAL” : 10/10

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