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NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【KARDASHEV : LIMINAL RITE】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NICO MIROLLA OF KARDASHEV !!

“Young People Will Inevitably See The Cognitive Decline Of Someone Close To Them Beit a Grandparent, Aunt, Uncle, Or Parent In Their Life At Some Point And We Wanted To Capture That Moment In An Album.”

DISC REVIEW “LIMINAL RITE”

「基本的に僕たちは、ブラックメタルよりもデスメタルやデスコアの要素が強いと思っている。例えば、歌メロにしても、メタルコアとは明らかに違うからね。それに、アトモスフェリックな要素もあるけど、アトモスフェリックなブラックメタルとは違っている。最終的に、少なくとも僕にとって KARDASHEV は、デスメタルのリフやドラムワークとシューゲイザーのカスケード・リバーブを組み合わせたものだと判断し、”Deathgaze” “デスゲイズ” と呼ぶことにしたんだ」
KARDASHEV は、デスメタルとシューゲイザーの婚姻を祝いつつ、様々なフレーバーの独特なコンビネーションを生み出し、リリースごとに革命的な進化を遂げてきました。その名に仰ぐガルダシェフ・スケールでいえば、さながらメタルのタイプⅢ、銀河文明と言えるでしょうか。セカンド・フル “Liminal Rite” で彼らは、メタルの境界線をさらに押し広げ、極端にヘヴィでありながら、繊細で壊れやすい、不可能にも思える二律背反の音楽でとめどない感情の頂きに至ったのです。
「ナレーションには、リスナーが実際に向かい合う現実の認知症の人物とストーリーをつなぐ役割を果たし、アルバムを抽象的ではなく、より現実的なものにする役割があるんだよ。若い人たちは、祖父母、叔父、叔母、親など、身近な人の認知機能が衰えていくのを必ず目にするはずで、その瞬間をアルバムに収めたいと思った」
KARDASHEV は、”デスゲイズ” という独創的なジャンルの創始者であるだけでなく、歌詞の面でもヘヴィ・メタルの常識を覆します。その高齢化とは裏腹に、これまで多くのメタル戦士が避けて通ってきた “加齢” “認知症” という重さの種類が異なるテーマを、KARDASHEV は深々と掘り下げているのです。
過去に生きるとはどういうことなのか?過度のノスタルジーはいつ強迫観念となり、現在の妨げとなり、罪悪感という牢獄となるのか? “Liminal Rite” は、過度に美化された過去がいかに現在を傷つけ、誘惑し、自己破壊の道へと導くのかを探求し警鐘を鳴らしているのです。そして、リスナーが作品と現実をより強固に結びつけられるように、彼らはメタル世界ではそう馴染みのないナレーターを導入したのです。
インタビューに答えてくれた Nico は、このアルバムが忘れられた過去を喚起することで、今一度子供を強く抱きしめたり、長年話していなかった友人に電話をしたり、昔ハマっていた趣味を再開させたリスナーがいることをうれしく思っています。ただ、過去を反芻しすぎた結果、現在の混沌に圧倒されるノスタルジアのスパイラルにはまり込み、少し強迫観念的になってしまうことを怖れています。それは認知症の優しいはじまりかもしれないのですから。実際、”Luminal Rite” は、日々の生活が徐々に現実と乖離していく老人の物語。
「僕たちはポップなメタルを書いているわけではない。それは確かだ。でも、GOJIRA や ANIMALS AS LEADERS のようなアバンギャルドでもなく、ただ感情と興奮の瞬間を積み重ねる音楽を書いているだけなんだ。それが慣習を破壊することであるならば、それはそれでよいのだけど、僕たちはただ意味のある音楽を作りたいだけなんだよ」
音楽的にも、明らかに KARDASHEV はメタルの過去や慣習を破壊していますが、それはただ吐き出される感情や興奮が積み重なっただけ。まずはエモーショナルなトーン、それから他のすべてが続く。それが KARDASHEV のやり方です。”The Approaching Of Atonement” のゴージャスなドローン、”Silvered Shadows” の緻密なレイヤー、そこから悲劇の空気がアルバムの大部分を覆い、その文脈において彼らは様々な音楽の領域をカバーしていきます。プログレッシブ・デスメタルの世界から、”Lavender Calligraphy” のようなポストメタルの音の葉へシームレスに移行する彼らの破天荒な才能は、さながらフリーフォーム・ジャズや前時代のプログレッシブ・ロックのようでもあり、流星のようなサクスフォンとシンセの海を交えながら狂気のエナジーで意図的な物語を紡いでいくのです。
中でも、ブラックメタルの喉をかきむしるような騒めき、獣のようなデスメタルの咆哮、ポストハードコアの叫び、ガラスのような高音のクリーンなど、様々なスタイルをマルチトラックで表現する Garrett が、”Glass Phantoms” で見せる痛々しいまでの怒り、やり場のない絶望に心を動かされない人はいないはずです。KARDASHEV はまぶしいほど明るい場所と、心を奪われるほど暗い場所、そしてその美醜の中間を見事に支配して、最初から最後まで、心が痛むほど美しく、事実上、完璧な作品を作り上げました。
今回弊誌では、ギタリストで中心人物 Nico Mirolla にインタビューを行うことができました。「今は、まるで数年前よりも STEM (化学、技術、工学、数学) 分野で驚くべき進歩がまったく遂げられていないかのように、”優れている” “良い” 生活のあり方にまつわる時代錯誤があるように思えるんだよね。昔の方が良かったって。さらに、ノスタルジアはとんでもない麻薬であって、対処しないままだとひどく有害なものになりかねないということに、全員が同意したんだよ」 ライブより昼間の仕事を優先するというのも、これまでにはなかったタイプのバンドかもしれませんね。TesseracT のファンにもおすすめしたい。どうぞ!!

KARDASHEV “LIMINAL RITE” : 10/10

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