タグ別アーカイブ: Mongol

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NINE TREASURES : AWAKENING FROM DUKKHA】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ASKHAN AVAGCHUUD OF NINE TREASURES !!

“I Start Practicing Since 2018, Because I Had Pretty Negative Life Before That. I Wanted To Pool Out Myself From Anxiety And I Found That Buddhism Is Very Suit For Me.”

DISC REVIEW “AWAKENING FROM DUKKHA”

「実際のところ、僕たちの曲のほとんどは、モンゴルの歴史や神話をテーマにしたものではないんだよね。古い神話にインスパイアされた曲もあるんだけど、ほとんどの曲は、僕の考えや頭の中にある何かを表現したいと思って書いたものなんだ」
大草原、砂漠、馬、そして匈奴やモンゴル帝国といった母国の自然と歴史、神話をテーマにメタルを侵略したモンゴルのハン、THE HU, TENGGER CAVALRY。一方で、同じく蒙古の血を引く内モンゴルのフォーク・メタルバンド、NINE TREASURES は伝統を次の時代へ導く九連宝燈です。
「僕は内モンゴルのとても小さな街で生まれたんだ。間違いなく、確実にメタルにとっても “砂漠地帯” のね。まあそれでも、かろうじてメタルの CD はお店で買えたんだよね。信じられないだろうけど。僕は、人間はみんな自分の愛する音楽に出会う運命があると信じているんだ。僕にとってその運命の出会いが HURD をはじめて聴いた時だったんだ」
中国の内モンゴル自治区、小さな草原の街で中学教師の息子として育った Askhan Avagchuud は、METALLICA よりも影響を受けたという HURD の音楽を聴いてメタルに目覚めます。HURD はモンゴルにメタルを伝導した偉大なバンド。そうして彼は首都フフホトの大学に通いながら、北京に移ってからは働きながらメタルの道を追求していきました。
「バンドで生活費を稼げるようになるまで、両方を同時に続けるのはとても大変だったよ。世界の他の地域と同じように、中国でもライブだけで生活できるメタルバンドは少ないし、ここではまだアンダーグラウンドな市場なんだ」
転機が訪れたのは2013年。ドイツの名高いメタル・フェス “Wacken Open Air” のバンドバトルで2位を獲得したのです。モンゴルの代名詞とも呼べるモリンホール、そしてウクライナ発祥ロシアの叙情バラライカ。2つの伝統楽器を優美に奏でながら、朴訥としたエピック・メタルを熱演する NINE TREASURES の情熱は、いつしか南は台湾から北はウランバートルまでツアーを行うほどにその人気を確固たるものにしていきました。自然を呼び覚ますメタルのダンスでありながら、TOOL の知性や IN FLAMES の哀愁、時に琴の音色までを盛り込みながら。
「ほとんどのモンゴルのフォークバンドがホーミーの技術を使っているから、逆に僕は自分の歌い方を守った方がいい。そうすれば、観客に違う選択肢を与えることができるからね」
インタビューから伝わるように、Askhan は他のモンゴル由来のバンドほど母国の文化や伝統を重要視はしていません。それでも、神話や歴史を時に引用する彼の重厚な唸りは、モンゴル語の自然なトリルと有機的に結合し、得も言えぬ中毒性、草原絵巻をリスナーへと届けていきます。
「仏教に改宗するまではかなりネガティブな人生を送っていたんだ。だから2018年から仏門の修行を始めたんだよ。不安から解放されたいと思っていたところで、仏教がとても自分に合っていることに気づいたからね」
“Awakening From Dukkha” “一切皆苦からの目覚め” と題された NINE TREASURES の新たな作品は、ネガティヴに生きてきた Askhan が仏教に改宗し新たな世界観でフィルターをかけた、バンド再生のリレコーディング・アルバムです。古代モンゴルの詩に登場する9つの要素をその名に掲げた歴戦の勇者は、達磨に学ぶことで不安や社会、批判といった苦しみから解放されて、真の自由を感じることができました。
つまり “Awakening from Dukkha” は、彼らがこれまで丹念に作り上げてきたメタルとモンゴル、ロシア、中国のフュージョンを、清らかに血の通った仏の門で蒸留した未来への意思表明なのでしょう。きっと、自ら命を絶った TENGGER CAVALRY, NATURE G. の魂を携えながら。
今回弊誌では、Askhan Avagchuud にインタビューを行うことができました。「最近僕は日本語を学んでいて、来年日本に行く予定なんだ。2年前に日本でマネージャーを見つけたので、うまくいけば彼が日本に連れてきてくれるだろうね。とても興奮しているよ」 どうぞ!!

NINE TREASURES “AWAKENING FROM DUKKHA” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【NINE TREASURES : AWAKENING FROM DUKKHA】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE HU : THE GEREG】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH THE HU !!

“Our Message To The World Via Our Music Is Reminding The Importance Of Showing Gratitude To Your Parents, Loving Your Homeland, Protecting The Nature, Loving And Respecting Women, Respecting Your Country History And a’ncestors, And Finally Giving Individuals An Inner Power And Belief For Their Future.”

DISC REVIEW “THE GEREG”

「僕たちの音楽を通して送る世界へのメッセージ。それは両親への感謝、生まれ育った地を愛する心、自然の保護、女性への愛と敬意、母国の歴史や祖先への愛などの重要性を思い起こさせることなんだよ。そうして最終的には、リスナーそれぞれの内なる力を目覚めさせ、未来を信じられるようにしたいんだ。」
モンゴルの大草原に示現したロックの蒼き狼は、遊牧民のプライドと自然に根差す深い愛情、そして西洋文明に挑む冒険心全てを併合する誇り高き現代のハーンです。
80年代後半から90年代にかけて、ソヴィエト連邦の崩壊と共にそのサテライトであったモンゴルにも、西側からの影響が津波のように押し寄せました。そうしてモンゴルの音楽家たちは、伝統を保護しつつ否応無しに新たな波への適応を迫られたのです。
エスニックなプライドと冒険のダンス。社会的、政治的、そしてもちろん音楽的にもモンゴリアンミュージックはその両極を自らの舞踏に組み込み進化を続けて来ました。それは西欧音楽のコピペではなく、ルーツを大樹に影響の枝葉を伸ばすアジアの審美。
「”Hu” という言葉をバンド名に選んだのは、それが包括的には自然を意味するからなんだ。誰も除外することなく、世界中全ての “人間” に僕たちの音楽をシェアしたかったからね。」
まるで英雄チンギスハーンのように、登場から僅かな時間で西洋を飲み込んだ THE HU は間違いなく現代モンゴル音楽の最高傑作と言えるでしょう。
東洋と西洋、伝統と革新の過激なコントラストが世界を惹きつけたのは確かです。一つ “Yuve Yuve Yu” (“What’s Going On?)” のMV は象徴的でしょう。「偉大なモンゴルの祖先の名を抱きながら、長い間無意味に暴飲暴食を貪るだけ。裏切り者よ、跪け!」現代文明とモンゴルの大自然は皮肉と共に相対し、モンゴルの伝統楽器や彼ら自身は意図的にロックの煌びやかなイメージに彩られています。もちろん、かつてのモンゴル帝国がアジアとヨーロッパの大半を支配下に置いていたのはご存知の通り。
そう、THE HU は西洋に端を発するロック/メタルのフォーマットにありながら、ドラムス以外のクラッシックなロックインストゥルメントを極力廃しています。
官能的な西洋のアピアランスを与えられたモリンホールやトップシュールは、ギターの嗎をアグレッシブに、フォーキーに、美麗にモンゴルの流儀で世界に響かせ、さらに伝統的な喉歌ホーミーはハーモニーの恩恵を与えながらメタルのグロウルを代弁してアジアの歴史、底力を伝えるのです。そうして生まれるは異国情緒のダイナミズム。
「ホーミーとは、僕たちが誰なのか、僕たちが何を知っているのか、僕たちがどこから来たのか指し示すものさ。ホーミーは “正直な人間の地” から来ていて、それこそが僕たちにとって心地よく誇れるものなんだ。」
THE HU が提示する “Hunnu Rock” “匈奴ロック” の中で主役にも思えるホーミーは、もしかすると西洋文明に潜む欺瞞や差別を暴く “正直な” メッセージなのかも知れませんね。なぜなら彼らは、”誰も除くことなく世界中全ての人間に” 自らの音楽、モンゴルの魂を届けたいのですから。
デビューアルバムのタイトル “The Gereg” とは、モンゴル帝国のパスポートを意味しています。多くのモンゴル人にとって、ロマンチックに美化された騎馬の遊牧民や自由を謳歌するモンゴル帝国のヒーローは西洋のストーリーテラーによって描かれた征服者のフィクションなのかも知れません。
しかし、ステレオタイプなメタルファンを惹きつけるそのイメージを入り口に、THE HU は “The Gereg” をパスポートとして、モンゴル本来のスピリチュアルで愛と敬意に満ちた美しき文化、景色、音の葉を少しづつでも伝えていきたいと願っているのです。
今回弊誌では THE HU にインタビューを行うことが出来ました。「祖先から受け継がれるホーミーを僕たちは真にリスペクトしていて、このテクニックをマスターする時は光栄な気持ちになるんだよ。」一人ではなく、メンバー全員からの回答と表記して欲しいとのこと。YouTube 動画再生数は3000万を軽くオーバーするモンスター。どうぞ!!

THE HU “THE GEREG” : 9.9/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【THE HU : THE GEREG】

NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TENGGER CAVALRY : NORTHERN MEMORY, VOL.1】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH NATURE G. OF TENGGER CAVALRY !!

“The Whole World Know About The Mongol Invasion To Asia. But They Don’t Know That Long Before Mongolia, Countless Nomads Has Been Doing That, Meaning Invading And Immigrating To Northern China for Centuries. We Would Like To Bring Some Light To This Forgotten History To People.”

DISC REVIEW “NORTHERN MEMORY, VOL.1”

2017年の12月。遊牧民のメタルを世界に誇示する TENGGER CAVALRY の “ハン” Nature G. は、ニューヨークにそびえ立つ摩天楼の屋上に佇んでいました。
「実は元所属していたレーベルから法的な脅しのメールを受け取っていたんだ。まるで独裁者のような態度で、僕たちの10枚のアルバムの権利全てを彼らのものにしようとしてね。クソッタレさ。」
酒に酔い、惨めな気持ちでスマートフォンを眺めていた Nature G. は、自然に溢れ慣れ親しんだ内モンゴルから、現代的で雑然としたニューヨークへと居を移した憂鬱、そしてレーベルの過度な要求によるストレスが重なり自殺を試みようとしたのです。
現れた警官たちは、真摯に彼を心配していました。少しだけ救われたような気持ちで自殺を思い直した Nature G. は、そうして SNS に事の顛末をポストしたのです。
その投稿は大きな反響を呼びました。何より、Nature G. 宛に送られた300通を超えるメッセージは、その全てが同様に自殺を考えたり試みた経験のある友人やファンからだったのですから。
当時のインタビューで Nature G. は大きなショックを受けたことを明かしています。「みんな表面上は口にしないんだよ。完璧な人間であるかのように振舞ってね。だけど実際は、誰もが苦しんでいる。」
変化の必要性を痛感した Nature G. は決断を下します。現所属の老舗レーベル Napalm Records の助力とアドバイスを得て、問題を引きずっていたバンドを一旦解散すると、彼はオースティンへと旅立ちます。オースティンの優しいムードは Nature G. を惹き付け、風薫る草原は故郷モンゴルを思い起こさせました。そうして彼は里帰りの旅を決意するのです。
故郷で出会った力強い馬と人との営みは、Nature G. が TENGGER CAVALRY を結成した原点を見つめ直し、創造性の復活に大きな役割を果たしました。
「結局、馬を中心とした文化にインスパイアされているんだ。それがルーツなんだよ。動物と自然を愛する人達のための音楽さ。それが僕が音楽を書いている理由なんだからね。」
故に復活を遂げた TENGGER CAVALRY にとって、モンゴルへの報恩は当然、最優先事項となりました。実際、Nature G. はヴァイキングメタルの英雄たちが、祖国の遺産を誇りを持ってメタルと融合させていることにインスピレーションを受け、そのメンタリティーに賛辞を惜しみません。
「全世界が、モンゴル帝国のアジアへの侵攻を知っているよね。だけど、それ以前のモンゴルについてはよく知られていない訳だよ。無数の遊牧民族が何世紀にも渡って跋扈し、侵略し、中国北部に移住していったんだ。だから僕たちは、この忘れられた歴史に光を当て、みんなに知ってもらいたかったんだよ。」 そうして届けられた最新作 “Northern Memory, Vol.1” は、誇り高き遊牧民のレガシーを現代へと伝える高潔な絵巻物。
モンゴル帝国かつての栄華を誇示するように、繰り広げられるエピックはバンドのトレードマークであるモンゴル、中国の伝統音楽のみならず、中央アジアのフォークミュージックまでをも抱きしめています。
“砂漠のサウンド” と Nature G. が語るように、これまでのフォーキーなメロデスサウンドにマシナリーで無慈悲なイメージを加えた新生 TENGGER CAVALRY のサウンドスケープは、まさしく、広大なアジアが湛える荒涼と哀愁の一面まで素晴らしくカバーしているのです。
それは RAMMSTEIN の復活にも呼応する、伝統音楽とメタル、アジアと欧米、優雅と獰猛、自然と科学技術、古と現代、そして人の心、魂を巡る旅。時おり耳を捉える、ホーミーの響きも胸を抉ります。
今回弊誌では、Nature G. にインタビューを行うことが出来ました。「僕たちはいつも、ヘヴィーメタルと僕たちの文化を融合させたいと思っていたんだ。北京と内モンゴルは深く成熟した文化と遊牧民の歴史をシェアしているからね。」 どうぞ!!

TENGGER CAVALRY “NORTHERN MEMORY, VOL.1” : 9.7/10

続きを読む NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【TENGGER CAVALRY : NORTHERN MEMORY, VOL.1】