EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH EDMOND “HUPPOGIAMMOS” KARBAN OF DORDEDUH !!
“We Like To Experiment With Traditional Instruments. We Use Them In an Unconventional Way, With Changed Tunings, Intentionally Playing Them In a “Wrong” Way”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TAMAS KATAI OF THY CATAFALQUE !!
“The Underground Metal Scene Of The 90s Is My Main Source Of Inspiration Until This Time. I’m Not The Type Of Person That Locks Himself In The Past But That Era Is Very Important To Me And I Personally Think It Was The Golden Age Of Creative And Inventive Metal”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JAMIE SAINT MERAT OF ULCERATE!!
“We Knew Early On That We Needed To Capitalise On a Far Greater Sense Of Melody Than We Ever Had Before, And Really Challenge Our Own Intuitions.”
DISC REVIEW “STARE INTO DEATH AND BE STILL”
「早い段階で、これまでよりもさらに強くメロディのセンスを活用して、自分たちの直感に挑戦する必要があると気付いたんだ」
テクニカルかつアトモスフェリックなデスメタルとして高い評価を得ているUlcerate。その6作目となる『Stare Into Death And Be Still』は、彼らにとっては挑戦的な作品となりました。20年以上のバンド生活で養った本能は、いつしか「混沌」や「醜さ」「汚さ」に偏っていたようです。その偏りを「雪崩のように大量の素材を書いては捨てた」ことで洗い流したあとに芽生えてきた、異質なリフやパターン。そこには「力」や「美しさ」「明瞭さ」がはっきりと宿っていました。
彼らはその異質さをしっかりと捉え、さまざまな角度から強化していきます。もっともわかりやすいのがプロダクションの方向性でしょう。「今回のライティングとプリプロダクションの哲学は、混沌よりも力を優先すること」。そう語るJamieのことば通り、本作の音は明瞭で太く、暖かみさえ感じます。また、彼のドラミングにも変化がありました。メタルからジャズ、ファンクと、さまざまなジャンルのドラマーからそのスタイルを吸収してきたエクストリームメタル界きっての名手の彼ですが、本作では人生の大半をかけて磨いてきたそのテクニックを抑制し、曲そのものを活かすパフォーマンスを志向したのです。
彼らにとっては挑戦的なこうした変化は、リスナーにとってはむしろ“親しみやすい”作風に変化したと感じられるかもしれません。ただし、その親しみやすさは『Stare into Death and Be Still』というタイトルに接続しています。「死への畏敬」。死は常に突然に、暴力的にやってくるものではなく、ときには冷静にはっきりと観察せざるを得ない。そうした「穏やかな恐怖」とでもいうべき感情が、そしてそれに立ち向かうための意志が、「混沌」から「力」へと向かった彼らの作品には宿っています。
「もし『音としてはよいが意味がわからない』歌詞だったり、テキストとしては出来がよくてもフレーズがひどい歌詞だったりしたら、何の役にも立たないからね」。その通り、本作のテキストとそのサウンドは、楽曲と高度に一致しています。
このように、彼らは各要素を綿密に調整して作品を作っています。しかし、その綿密さは、あくまで彼らの精神と肉体から生み出されたものでなければなりません。「自分が演奏しているものが最終的な品物であること意識する」。コンピューターによる演奏の修正や数値管理を否定し、ライン入力ではなく部屋録りを志向する彼らの作品が、整理されたテクニカルさではなく、うねるようなグルーヴと、真に迫るアトモスフィアをまとっているのはうなずけます。
曲、歌詞、演奏、レコーディング、プロダクション……彼らの哲学のもとに、それらすべてが生々しく一体化したデスメタルの名盤がここに誕生しました。今回弊誌では、ドラマーのJamie Saint Meratにインタビューを行うことができました。「完璧は芸術の敵だ」。どうぞ!
“To Me, The Question For The Source Of Inspiration Is The Same Question As “Where Does Life Come From?”. My Answer For Both Questions Would Be “The Cosmic Energy That Creates All And Destroys All”
DISC REVIEW “HEARTS OF NO LIGHT”
「スイスがいかに本当に小さな国であるかを考慮すれば、僕たちの国には初期のエクストリームメタルシーンとその進化にインパクトを与えたバンドがかなり存在したんだよ。」
バーゼルに居を構えるスイスメタルの灯火 SCHAMMASCH は、内省的でスピリチュアル、多義性に富んだトランセンドブラックメタルで CELTIC FROST, SAMAEL, CORONER といった同郷の巨人たちの偉大な影を追います。
「”Triangle” は、恐怖心から解放された心の状態へと導く道を切り開く試みだったね。それを悟りの状態と呼ぶイデオロギーもあるだろう。」
SCHAMMASCH がメタルワールドの瞠目を浴びたのは、2016年にリリースした “Triangle” でした。3枚組、16曲、140分の壮大極まるコンセプトアルバムは、様々な恐怖、不安から解脱し悟りと真の自由を得るためマスターマインド C.S.R にとって避けては通れない通過儀礼だったと言えるでしょう。
もちろん、彼らが得た自由は音楽にも反映されました。ポストロック、プログレッシブ、オーケストラル、さらにはダウンテンポのエレクトロニックなアイデアまで貪欲に咀嚼し、広義のブラックメタルへと吐き出した怪物は、BATUSHKA, LITURGY, BLUT AUS NORD, SECRETS OF THE MOON などと並んで “アウトサイドメタル” へと果敢に挑戦する黒の主導者の地位を手に入れたのです。
「ULVER はもしかしたら、長い間どんなメタルの要素も受け継がずに、それでもメタルというジャンルから現れたバンドだろうな。だから、彼らの現在の姿はとても印象的だよ。」
実際、初期に存在した “具体的” なデスメタリック要素を排除し、ある意味 “抽象的” なメタル世界を探求する SCHAMMASCH が、概念のみをメタルに住まわせる ULVER に親近感を抱くのは当然かも知れませんね。そして最新作 “Hearts of No Light” は、”Triangle” の多義性を受け継ぎながらアヴァンギャルドな音の葉と作品の完成度を両立させた二律背反の極みでしょう。
ブラッケンドの容姿へと贖うように、ピアニスト Lillan Lu の鍵盤が導くファンファーレ “Winds That Pierce The Silence” が芸術的で実験的で、しかし美しく劇的なアルバムの扉を開くと、狂気を伴うブラックメタリックな “Ego Smu Omega” がリスナーへと襲いかかります。
プリミティブなドラミングと相反するリズムの不条理は暗闇の中を駆け抜けて、レイヤードシンセと不穏でしかし美麗なギターメロディーの行進を導きます。悪魔のように囁き、時に脅迫するボーカルと同様に楽曲は荘厳と凶猛を股にかけ、リスナーに社会の裏と表を投影するのです。
故に、一気に内省と憂鬱のアンビエント、ピアノと電子の “A Bridge Ablaze” へ沈殿するその落差はダイナミズムの域さえ超越しています。”Ego Smu Omega” や “Qadmon’s Heir” の壮大劇的なプログレッシブブラックを縦糸とするならば、”A Bridge Ablaze” や “Innermost, Lowermost Abyss” の繊細でミニマルなエレクトロピースはすなわち “光なき心” の横糸でしょう。
そうして静と動で織り上げた極上のタペストリーは、さらにゴスとポストロックの異様なキメラ “A Paradigm of Beauty” のような実験と芸術のパッチワークが施され SCHAMMASCH をブラックメタルを超えた宇宙へと誘うのです。その制限なきアヴァンギャルドな精神は、32年の時を経て再来する “Into the Pandemonium” と言えるのかも知れませんね。
今回弊誌では、ボーカル/ギター C.S.R にインタビューを行うことが出来ました。「僕にとってインスピレーションの源に関する質問は、「人生はどこから来たのか?」と同じ質問なんだよ。そしてその両方の質問に対する答えは、「すべてを創造し、すべてを破壊する宇宙エネルギー」からなんだ。」 どうぞ!!
“We’re Trying To Place Ourselves In The Minds Of People From 2,000 Years Ago, 3,000 Years Ago, 4,000 Years Ago. What Are The Sounds The People Heard? Of Course, It’s The Nature Sounds. There’s An Ever-changing Use Of Instruments And Sounds That We Collect In Nature.”
HOW HEILUNG DESCRIBES “THE DOWNFALL OF THE KNOWN WORLD” AND SURVIVAL WITH PAGANISM
「過去と繋がるためには、現在と断絶する必要がある。」とChristopher Juul は語ります。この言葉は発言主であるデンマークのプロデューサーがドイツの Kai Uwe Faust、ノルウェーの Maria Franz、2人の歌い手を誘うヒプノティックなプロジェクト HEILUNG のマニフェストとなっています。
アンプから歴史を紡ぐ HEILUNG。青銅器の芽生えからヴァイキングの荒波まで、北欧の野生と原始を呼び起こすグループの使命は、鹿と水牛の角、動物の皮、人骨、剣、世界最古の片面太鼓フレームドラム等の古代遺物とルーンストーンやアミュレットから再文脈化された陰鬱なリリックを融合させることとなりました。
Christopher が充すパーカッシブな海洋の中で、チベットの聲明を醸し出す Faust とノルウェーの伝統を紡ぐ Maria はせめぎ合い、闇と生命の複雑なバランスを構築します。
チベットの聲明を身につけたことも人生を大きく変えました。
「SLAYER や SEPULTURA も聴いていたけど、あれはメタルよりダークだよ。チベットの歌い手たちは、どんなメタルシンガーよりも深い。まさに探し求めていたサウンドだった。」
タトゥーへの情熱は遂に音楽への目覚めと交差します。戦士、古代のシンボル、鹿をフィーチャーした華やかなネオノルディックの印。Faust のアートは Christopher の目に留まり、2人はスタジオで一気に HEILUNG の原型を創造しました。ただし、あまりに狂気じみていたため、よりメロディックでエセリアルなイメージを求めて Christopher のガールフレンド、元バンドメイト Maria を呼び寄せることになったのです。そうして3人のミュージシャンは、奇しくもヴァイキングの文化によって集うこととなりました。
男性と女性が存在する自由も HEILUNG の強みでしょう。さらに、”Ofnir” が男性的に振れたアルバムだとすれば、振り子の針は”Futha” で女性側へと振れました。事実 ‘Svanrand”, “Norupo” といった不気味な聖歌、神々のため息において女声の存在感は確実に増していますし、歌詞にしても 1000年前の女性が暗唱したアイスランドのマジカルな呪文がもとになっているのですから。
「自然な流れだと思う。自然界ではバランスが重要なんだ。プラスとマイナス、昼と夜、黒と白。全ては両極の間を浮遊しているのだから。」
オープナー、”Galgaldr” はアルバムのテーマである “既知の世界の崩壊” とそこから生まれる “避け難き再生” を象徴する楽曲です。同時にそのテーマは、”Futha” のレコーディング中 Christopher と Maria が区画整理によって愛する家を手放さざるを得なくなった事象とリンクしています。
「Maria は庭で過ごし草花を育てることを愛していた。重機や業者は彼女の目の前でその庭を引き裂いたんだ。彼女は涙を流していたよ。だから彼女に大丈夫、今は恐ろしいけど全てを見ておくんだ。いつか全てが解決する日が来ると伝えたんだ。」
実は異教の司祭の息子で、幼い頃から儀式を幾度も取り扱ってきた Christopher が語るストーリーはおとぎ話ではなく現実ですが、それでも彼らはいつかより素敵な家を見つけ新たな幸せを噛みしめるはずです。それこそが再生の精神だと彼らは感じています。暗闇から現れる黄金の門。慣れ親しんだ価値観の破壊から生まれ来る真なる癒しと自由。人生という3人の旅路は、まさにアルバムの意思と見事にシンクロしているのです。
2020年代を前にして、メタル世界は自然崇拝や地霊信仰といったペイガニズムの波を全身に浴びています。Anna Von Hausswolff, Myrkur, Chelsea Wolfe など女性がムーブメントを後押ししているのは確かでしょう。そして HEILUNG はその最前線に位置しています。
「人間は自然と繋がることで、肉体的、精神的オーガニズムを感じるんだ。生命は全てが一つ。人間だけじゃなく、植物や海だって養ったり捕食したりしながら僕たちと関係しているんだから。」
しかしなぜ、エクストリームミュージックの住人は特段異教の世界に惹かれるのでしょうか? Christopher はその理由を理解しています。
「ルーン文字やペンタグラム、オカルトのシンボルは若者が大半を占めるエクストリームメタルの文化において重要な背徳感を備えているからね。」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH HUNTER HUNT-HENDRIX OF LITURGY !!
“I Sincerely Think Philosophy Is a Very Important Tool For Having a Thoughtful Political Stance. People Have Such Strong Opinions That Have No Real Grounding, And I Think Even a Little Bit Of Critique Or Effort To Understand The Nature Of Reality And Of History Is Important In Deciding What It Would Mean For The World To Be a Better Place.”
I’ve had a difficult time finding justice in the world, finding accountability for the people who have done harm to me… The music is my way of holding people accountable and finding justice. My way of finding revenge.
MY SWEET REVENGE…THE STORY BEHIND “CALIGULA”
「世界に正義を見出すこと、私を傷つけた人間に責任を見出すことにずっと苦労してきたの。だから音楽は奴らに責任を負わせ、正義を見つける私のやり方なの。私なりの復讐なのよ。」
家庭内暴力、虐待の生還者 Kristin Hayter のパワフルな言葉です。そして彼女の受けた恐ろしき痛みと攻撃性は、オペラからノイズ、インダストリアル、フォークに教会音楽、スピリチュアル、そしてメタルまで全てを渾淆した婀娜めきのプロジェクト LINGUA IGNOTA に注がれています。
「何か違うことがやりたかったの。新鮮で私のビジョンのみを投影したようなね。どんなジャンルやカテゴリーにも繋がりたくはなかったのよ。ルールや限界を設けることになるから。真正で正直な音楽を作りたかったのよ。」
では “トランセンデンタル” とも形容され Chelsea Wolfe にも通づる音闇の聖堂の鍵はどこにあるのでしょう?
「リバーブね!ボーカルやピアノにリバーブをかけまくってウエットなサウンドにしているのよ。そうしてダークでありながら鮮明なサウンドスケープを創造しているの。」
カトリックと密接に思える LINGUA IGNOTA のアートですが、実は Kristin 自身は現在無神論者。
「教会で育ったけど、13で無神論者になったの。それ以来信じたり信じなかったりを続けているわ。今は…おそらく信じていない。だけどカトリックのイメージとか聖書の言語とは密接な繋がりを持っているの。カトリックに限らず、崇拝行為として構築された音楽やアートは実に美しく純粋な意図があるの。一方で、教会自体の不純な意図、腐敗に抑圧、虐待も存在するけどね。」
最近は DAUGHTERS の “You Won’t Get What You Want” がお気に入りです。
「他にもコーラルミュージックやドローンを良く聴くわ。サルディーニャやジョージアのポリフォニーも大好きよ。そういった音楽と Tim Hecker, Meredith Monk, それにハードコアやパンクをミックスしているのよ。」
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH GIANCARLO ERRA OF NOSOUND !!
“I’ve Never Been a Fan Of Being Very Good Or Even Virtuoso Or Any Instrument, I Hate Any Virtuoso Or Technical Playing, I Like Instead Emotions, That Are Always Simple And Direct.”
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH JOHN LAMACCHIA OF CANDIRIA !!
The Pioneer Of Experimental Extreme Music, Candiria Has Just Released Their Ambitious New Album “While They Were Sleeping” For The First Time In 6 Years !!
DISC REVIEW “WHILE THEY WERE SLEEPING”
ブルックリンが生んだ、モダンエクストリームミュージックのパイオニア CANDIRIA が6年の沈黙を経て、新作 While They Were Sleeping” と共にシーンへと帰還を果たしました!!バンドの成熟/進化と原衝動が共存するアルバムで、彼らは自らの価値を再度証明しています。
CANDIRIA の冒険は90年代の中盤から始まりました。メンバー各自が持ち寄った様々な影響、Hardcore は勿論、Death Metal, Hip Hop, Jazz, Fusion, Ambient, Noise といったバラバラな音楽をミックスし、奇跡とも思える革新性と共に圧倒的な存在感を見せつけたのです。現在のエクストリームミュージックシーンは、エクレクティックであることが命題のようにも思えるほど、ジャンルをクロスオーバーした作品が注目を集めていますが、その礎を築いたバンドの1つは間違いなく CANDIRIA ですし、後続に与えた影響は計り知れないと思います。
中でも “The Process of Self-Development”, “300 Percent Density” の2作は白眉。”シームレス”というキーワードの下、切れ目なく、流体のようにしなやかに形を変え続けるエクスペリメンタルな音楽とグルーヴ、そして黒人ボーカリスト Carley Coma のラップからスクリーム、グロウルへと自在に行き来するフレキシブルなボーカルが一体となり押し寄せる波は圧倒的で、今日でも新鮮さを保ちながらシーンのマイルストーンとして輝いていますね。
好調のバンドをアクシデントが襲ったのは2002年のことでした。ツアー中のバンが事故に遭い、メンバーが瀕死の重傷を負ってしまったのです。悲劇がメンバーに落とした影、そしてその影響は明らかでした。2004年に復活したバンドが発表した、強烈なタイトルの作品 “What Doesn’t Kill You…” では実験的、チャレンジングなムードが減退し、メロディーによりフォーカスしたある意味”らしくない”アルバムだったのです。以降、 CANDIRIA のシーンにおける存在感も徐々に減退していきました。
John がインタビューでも語ってくれたように、”While They Were Sleeping” は行き詰まりを感じ、長い休養を経たバンドが再生を果たした、フレッシュで野心的なレコードです。睡眠状態にある社会を “They” と表現し、成功を逃したミュージシャンがその崩壊した社会で王となるコンセプトも、アメリカの現在、そして何より彼ら自身の今を投影しているようで、見事にハマっていますね。
アルバムオープナー、 “While They Were Sleeping” はまさに CANDIRIA の堂々たる帰還、そして現在の立ち位置を告げています。近作のメロディックな歌唱と共に、Carley のラップやグロウルが大々的にフィーチャーされたマスマティカルでアグレッシブな楽曲では、中盤のアンビエントで Jazzy なパートが極上のコントラストを生み CANDIRIA の色を強く主張します。近作での方向性を活かしつつ、バンドが最も生き生きとしていた頃の感覚をしっかりと取り戻したタイトルトラックは純粋に魅力的で、作品を象徴していますね。
実際、アルバムを牽引するのは確実に Carley の千変万化で万華鏡のように多彩なボーカルでしょう。”Mereya” で聴ける Jazzy なスキャットは全くのサプライズですし、 “Forgotten” で堂々とキャッチーなアリーナロックを歌い上げたかと思えば、”The Whole World Will Burn” ではクールなラップでオリジネーターの凄みを見せつけます。まるで彼のボーカルがそれぞれの楽曲の個性を決定しているようにさえ感じますね。
特筆すべきは、”Wandering Light” と “Opaque”。奇しくも VAUREEN の Andrea Horne がフルートとボーカルでゲスト参加をした2曲は、成熟した Carley とバンドの現在を伝えています。
ヘヴィーでカオティックな “Wandering Light” に突如挿入される美しいフルートの響き、そしてオーガニックなボーカルは絶妙のアクセント、フックになっていますし、”Opaque” に至っては、2人のデュエットとギターのメロディーが心を打つ、バンド史上初の感動的なバラードです。
こうした CANDIRIA の新たな魅力、進化が自然に作品の流れに溶け込んでいることからも “While They Were Sleeping” はただアグレッション、ポリリズム、テンションノート、カウンターメロディーという彼らの原点に回帰しただけのレコードではないことが伺えます。6年ぶりの新作は、さらに音楽性、演奏、歌唱の幅を広げ、知性と攻撃性、実験性とキャッチーさを巧みに共存させた CANDIRIA の新たな記念碑であるのです。
唯一彼らと似たような方向性を選択しているのが、実は USオルタナティブの雄 DEFTONES であることを付け加えて置きましょう。
今回弊誌では、バンドのギタリスト John LaMacchia にインタビューを行うことが出来ました。彼は別プロジェクト SPYLACOPA で THE DILLINGER ESCAPE PLAN の Greg ともプレイしているシーンが認める奇才。どうぞ!!
DISC REVIEW “FOR THIS WE FOUGHT THE BATTLE OF AGES”
ソルトレイクシティの Dramatic-Doom マスター、SubRosa が自身の最高到達点 “For This We Fought the Battle of Ages” をリリースしました!!一世紀も前に書かれた SF ディストピア小説にインスピレーションを得て制作されたアルバムは、バンドのアイデンティティーである Dramatic-Doom のスケールを一層高めた、様々な音楽ファンに愛されるマイルストーンとなるでしょう。
SubRosa は Doom Metal バンドには珍しく、女性ボーカル Rebecca Vernon のミスティックな歌唱を中心に据えています。加えて、Sarah Pendleton と Kim Pack のダブルヴァイオリンとアディショナルボーカルが唯一無二の美麗な Doom を創出しているのです。
ALCEST や DEAFHEAVEN を見れば分かる通り、近年、メタルに “Beauty”, “Atmosphere” を持ち込む、才気溢れるバンドが注目を集め、シーンの限界を押し広げていますが、SubRosa のユニークなラインナップが生み出す手法、冒険、マジックは中でも際立っていると言えるでしょう。
インタビューにもある通り、”For This We Fought the Battle of Ages” はロシアの反体制活動家 Yevgeny Zamayatin の著書 “We” に触発された作品です。当時のソヴィエト初期社会主義時代の、閉塞された状況を描き揶揄したディストピア小説は、しかし、政府による管理、監視、支配という、実は現代社会が抱える問題に読み解くことも可能です。SubRosa はその命題を、人生、死、自由、愛といったテーマを与えた楽曲を通して、エピカルに、ドラマティックに、そしてドゥーミーに描いているのです。
アルバムオープナー、15分半のエピック、”Despair Is a Siren” は深化したバンドを象徴するような1曲です。Doom という特性上、勿論、長くなりがちな楽曲ですが、しっかりとストーリーやシーンを描写する彼女たちにとって、この長さは意図してデザインされた SubRosa’s Way。
静寂が支配するイントロとラウドで実験的なパートの対比が生むボリューム、テンポのダイナミクス、見事にレイヤーされたトリプルボーカルの魔術、そしてデュエットの如くメロディーとカウンターメロディーを行き来する、複雑で美麗なボーカルとヴァイオリン。バンドのトレードマークとも言える要素が、寄せてはは引く波のように揺らぎつつ、リスナーへと届きます。同時に、六拍子とリズムにフォーカスしたディストーションギターが交わり流れ出すカオスの潮流は、SubRosa が NEUROSIS 以来脈々と繋がる Experimental Metal の落胤であることを主張していますね。
アルバムの中心に据えられた “Black Majesty” も同様に15分を超える大曲。東洋的とも感じられるエスニックでエモーショナルなヴァイオリンが先導する、プログレッシブで極上の展開美を誇るこのエピックにおいて、Rebecca は “Isn’t it beautiful?” とリスナーに問いかけます。その1節、歌声からは “Doom Metal だけど美しいでしょ?” という自負心、アイデンティティーが強烈に伝わりますね。
後半の BLACK SABBATH meets GODSPEED YOU! BLACK EMPEROR とでも形容したくなるパートでは、リズム隊を中心に、群を抜いたバンドアンサンブルを聴かせることも記して置くべきでしょう。
また、”Il Cappio” では Rebecca の多彩な一面を覗かせます。バンジョーと共に紡がれるリリックは何とイタリア語。囁くようにスイートなトーンで歌う新しいアプローチにより、陰影を帯びた切なくもフォーキッシュな楽曲は、続く “Killing Rapture” の完璧なプレリュードとして機能していると共に、作品の素晴らしいアクセントとして色を添えています。
ドラマティックでプログレッシブ。”美”にとことんまで拘り、”戦い”抜いた野心的な “For This We Fought the Battle of Ages” は、まさにモダンメタル、Experimental Metal, Post-Doom / Sludge の最新型、金字塔として、凛然と輝く名作に仕上がりました。今回弊誌では、バンドの創立メンバーで、ボーカル/ギター、無数の声を使い分ける才女 Rebecca Vernon にインタビューを行うことが出来ました。日本初取材です!どうぞ!!
SUBROSA “FOR THIS WE FOUGHT THE BATTLE OF AGES” : 9.8/10