NEW DISC REVIEW + INTERVIEW 【CYNIC : ASCENSION CODES】


EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL OF CYNIC !!

“Truly Unlimited Potential With The New Talent Out There. If Cynic Were To Continue I Could See It Acting More As a Collective In This Sense.”

DISC REVIEW “ASCENSION CODES”

「ショーン・マローンは2018年に母親を、2020年1月にはショーン・レイナートを失った。喪失感のダブルパンチで、マローンは大打撃を受けてしまったんだ。その後、パンデミックが起こった。すべてが閉鎖され、マローンの世界も閉ざされてしまった。痛みと苦しみが再び現れ、彼は光を失った…」
長年二人のショーンと人生を共にしたポール・マスヴィダルの言葉です。もちろん、2020年は人類全体にとって途方もなく困難な年として歴史に残るでしょう。しかし CYNIC の音楽を愛する人たちにとってはさらに困難な年となりました。1月に元ドラマーのショーン・レイナートが48歳で、12月にベーシストのショーン・マローンが50歳で早世。それはファンにとってまさに青天の霹靂でした。私たちでも激しいショックを受けたのです。公私ともに近しい関係にあったマスヴィダルの苦悩、そして喪失感はいかほどのものでしょう。
「神秘的な人生に身を任せることは、魂が成長するための偉大な “降伏” であり、そうすることで外界が自身に流れ込み、自分も外界に流れ込むことができるんだ。宇宙とつながるとでもいうのかな。つまり、人生に自然と起こることこそ、私たちの歩むべき道なんだ。起こることすべてが、与えられたギフトなんだよ」
しかし一人残されたマスヴィダルは、果てしない悲しみの中でも前へと進み続けます。喪失や悲劇でさえ成長のための贈り物と捉え、人生の流れに身を委ねる。死とは肉体の終わりであり魂の終わりではない。結局、人は皆量子レベルで互いにつながっているのだから。そんな彼の特殊な人生観、死生観、宇宙観は、マスヴィダルの心を泰然自若に保ち、CYNIC の新たな啓示 “Ascension Codes” をより崇高でスピリチュアルな世界へと導くことになったのです。
CYNIC とはメタル世界において、真の意味でのプログレッシブを指す言葉。トップレベルのパフォーマンス、大脳皮質に直接語りかけるような宇宙的哲学、そして実験と増殖を続ける音のエントロピー。デスメタル、プログ、エクスペリメンタル、ニューエイジ、ジャズ・フュージョンなど、CYNIC の世界は年を重ねるごとに音彩を加えながら、その色を交錯させていきました。しかし、4枚目のフル・アルバムの制作で CYNIC は、未曾有の困難に直面することになります。
「本来ならこのレコードは、”Kindly Bent to Free Us” の直後に作りたかったんだ。だけどすべてが崩壊してしまった…」
楽曲の一部は、2014年の時点で構想が練られていました。マスヴィダルによると、レイナートとマローンは、ここに収録されることになった楽曲の要素を聴いていたそうです。だからこそ彼は、亡くなった同志の思い出に敬意を表し、”Ascension Codes” “魂を昇天させるコード” というタイトルのアルバムを、ゆっくりと、慎重に、そしてマスヴィダルの言葉を借りるなら “愛と勇気を持って” 完成させたのです。
2015年にレイナートが CYNIC を脱退した後、マスヴィダルとマローンは彼の後任としてマット・リンチを起用。彼は”完璧な代役” 以上のものをバンドへともたらします。マスヴィダルはリンチのドラミングを “ハイブリッド・モダン・スタイル” と称しました。つまり、エレクトロニカなドラムン・ベースと、プログレッシブなアプローチの融合。繊細で多様な “Ascension Codes” に適役であるばかりか、絶妙な質感とリズムの地図を加えていきます。
「楽器としてのベースの役割を変える必要があったんだ。マローンのようなサウンドを期待して他の誰かを連れてくるのはフェアじゃなかったからね。私にとって彼はは現存する最も偉大なベーシストの一人であり、このレコードにおいてかけがえのない存在だった。アレンジを変えて、新しいサウンドにするしかなかったんだ」
では、マローンのベースを誰が置き換えるのか?マスヴィダルの答えは、”その必要はない” でした。”Ascension Codes” の中で聞こえるベース・ラインは、キーボード奏者のデイヴ・マッケイがシンセサイザーで演奏しています。彼はマローンの敏感なタッチを再現しつつ、CYNIC にドロドロとしたローエンドの可能性をもたらすことになります。そうしてここに、マスヴィダル曰く、”未来のリズム・セクション” が完成をみます。
「新しい才能を持った人たちは本当に無限の可能性を秘めているよ。仮に CYNIC がこれからも続いていくのであれば、そういう人たちを集めて、バンドというよりはより集合体としての役割を担うのかもしれないね」
“Ascension Codes” のビジョンを達成するために、マスヴィダルは新メンバー、アートワークやプロデュースだけでなく様々な若く才能に満ち溢れた音楽家をも多数起用しました。THE SURREALIST や DARKの活動で知られるルーパン・ガーグは、”コード・ワーカー”として、ハープのような天上のギター・テクスチャーを、EXIST のマックス・フェルペスは “ホログラフィック・レプティリアンボイス” を、オーストラリアの天才プリニは”The Winged Ones” にソロを提供しています。核となる二人のショーンを失った今、CYNIC の魂は新たな才能たちの宿り木として、死を迎えるのではなく形状を変えることにしたのかもしれません。
「コードのタイトルは、奏でられるべきサウンドを意味していてね。これらはそれぞれ、私たちの DNA に存在する、対応するコードを起動させる役割があるんだ」
様々な “仕掛け” を配し、その音の葉自体も野心的な”Ascension Codes” ですが、メインとなる9曲には爆発的な色彩とエネルギーが注ぎ込まれており、これらの楽曲には “アセンション” のための “コード” が埋め込まれているのです。”Mu-54*”、”A’va432″…だからこそ当然このレコードは全体を通して聴くべき作品です。それでも、推進力と冒険に満ち、刺激的な起伏が心を揺さぶり、数学的な配列と目まぐるしいダイナミズムが頭を悩ます “Mythical Serpents” のように、万華鏡のような激しさと折り目正しい規律の二律背反を背負った CYNIC の哲学はたしかに受け継がれています。
一方で、アルバムを締めくくるヘヴィでエセリアルな”Diamond Light Body” はリンチの非人間的なパターンを用いた非常に密度の高い楽曲で、彼らにとって新たな領域のように感じられる不可思議でメロディックなシーケンスが印象的。この曲の美しい緊迫感は否が応でも “形を変えた” CYNIC の未来を期待させてくれるでしょう。
“Ascension Codes” は、これまでの CYNIC のアルバムの中で最も謎を秘めたレコードであると同時に、前作よりもプログレッシブで重量感を伴ったサウンドが封じられています。そして失われたものを慈しみ補うかのように作品に携わるアーティストが増えたことで、アルバムの地平は広大にひろがっていきました。
多くの探求と喪失の後、CYNIC はあらゆる魂との一体感を獲得しました。それは神秘的で聖なる悟りの境地。これが最後の旅路となるのかどうかは “宇宙” のみぞ知るといったところですが、CYNIC の物語は “Ascension Codes” でひとまず完結をみます。「二人の肉体は姿を変えたけど、そのエネルギー体は永遠に宇宙を旅するような超越的音楽を私たちに与えてくれている。苦しみに直面しながらも、多くを与えてくれる創造的な存在と人生の一部を共有できた。感謝してるよ」Paul Masvidal インタビュー。日本盤は DAYMARE RECORDINGS から。ライナーは私、夏目進平が執筆。ニ度目の登場。どうぞ!!

CYNIC “ASCENSION CODES” : 10/10

INTERVIEW WITH PAUL MASVIDAL

Q1: Last year was a very difficult year for you. We fans were shocked by the sudden death of the two Seans, but I can’t help but feel my heart breaking just thinking about your feelings. How are you dealing with their passing now?

【PAUL】: I move gently these days. My aspirations as a being on planet Earth  are more altruistic. I participate with life one moment at a time. I feel the fragility of existence and how our life could end at any moment. I’m grateful for that awareness and have come to accept that the circumstances behind this awareness was the gift of loss. I’m intimate with the energy of grief and letting go in a way I could have never imagined. I’ve surrendered to life as it is, and allowed my broken heart to lead me toward a more courageous and meaningful existence. I also have a sense of being continuous with the physical universe like a wave is with the ocean. I realize how connected we are to everything and that there is no death, only change of form.

Q1: 昨年はあなたにとって、本当に大変な一年でしたね。私たちファンは、もちろん二人の Sean の急逝に大きなショックを受けると同時に、残されたあなたのことを思うだけで胸が張り裂けそうです…

【PAUL】: そうだね、私はここのところ穏やかに生きているんだ。地球上の生物としての私の願望は、より愛他的なものなんだよ。一瞬一瞬の “生” に参加しているというか。存在の儚さを感じ、いつ人生が終わってもおかしくないと思って生きているんだ。
私はこの認識に感謝しているんだが、その背景にあるのが喪失という贈り物であることを受け入れるようになった。今は、想像もしなかったような方法で、悲しみと喪失のエネルギーと密接な関係を築いている。あるがままの人生に身を委ねることで、傷ついた心はより勇敢で意味のある存在へと導びかれるようになったんだ。
それに、波が海とつながっているように、私には物理的な宇宙とつながっているという感覚があってね。私たちはすべてのものとつながっているから、死ではなく、形が変わるだけだということを実感しているんだよ。

Q2: What were they like to you, musically and humanly?

【PAUL】: We loved each other. They were my brothers, my family. We forged our identities together, like mirrors to each other and we experienced life as deeply connected people. Our relationship was extremely vulnerable and real because of the music we created. I realize that letting aspects of oneself ‘die’ is how we grow and expand as spirits having a human experience. Letting go into the mystery of life is the great surrender of this path, to which the external world flows into you and you flow into it. Your life is what happens and what happens is your path. Everything is a gift.

Q2: 音楽的に、人間的に、二人はあなたにとってどんな存在でしたか?

【PAUL】: 私たちはお互いを愛していた。彼らは私の兄弟であり、家族だったよ。私たちは互いの鏡のようになって自己のアイデンティティを鍛え、深く結びついた人間として人生を共に経験してきたんだ。そして、私たちの関係は、私たちが作り出す音楽のために、非常に脆弱でリアルなものだった。
私は、自我を “死” せることが、人間としての経験を持つ魂が成長し、拡大する方法であると理解している。神秘的な人生に身を任せることは、この道を歩むための偉大な “降伏” であり、そうすることで外界が自身に流れ込み、自分も外界に流れ込むことができるんだ。宇宙とつながるとでもいうのかな。つまり、人生に自然と起こることこそ、私たちの歩むべき道なんだ。起こることすべてが、与えられたギフトなんだよ。

Q3: Does the title ‘Ascension Codes’ still relate to their passing? Are songs like “Interlude” the codes?

【PAUL】: Ascension Codes contains a conceptual story about healing and purpose. The code titles are sounds that are meant to be toned. They each activate corresponding codes in our DNA. The mysteries surrounding these aspects will be revealed more fully in the animated immersive film I’m developing and plan to release in ideally 2022/23.

Q3: 新作のタイトルを “Ascension Codes” としたのはやはり二人の逝去が関係しているんですよね? 曲間のインタルードが “コード” なのでしょうか?

【PAUL】: “Ascension Codes” には、癒しと目的に関するコンセプチュアルなストーリーが含まれているんだ。コードのタイトルは、奏でられるべきサウンドを意味していてね。これらはそれぞれ、私たちの DNA に存在する、対応するコードを起動させる役割があるんだ。
このコードにまつわる謎は、今私が開発中で2022~23年に公開を予定している没入型のアニメーション映画でより完全に明らかになるだろう。

Q4: It’s a very spiritual album, yeah, one of the most spiritual albums in the world, but what happens after the soul ascends? Do you believe in an afterlife?

【PAUL】: It seems that the energy that runs this body must continue and so it changes form. Death is only a doorway to a new manifestation of form or formlessness depending on the dimension the consciousness inhabits.

Q4: それにしても、”Ascension Codes” は実にスピリチュアルな作品ですね…あなたにとって魂の昇天とはどういったものなのでしょうか?死後の世界を信じていますか?

【PAUL】: 肉体を動かすにはエネルギーを与え続けなければならないよね。だから、死とは形を変えることなんだ。死は新たな出現への入り口に過ぎないよ。意識の住む次元によって、形あるもの、形のないものが別れているだけでね。

Q5: I heard that Dave Mackey played bass lines by keyboard on this album. Could you tell us why?

【PAUL】: The bass role as an instrument needed to change. It wasn’t fair to bring in someone else who I would expect to sound like Sean.
Sean Malone for me, was one of the greatest living bass players and he was irreplaceable on this record. The only way to make it work was to change the arrangement approach all together and go with a new sound. Thankfully Dave really delivered in a profound way. He brought his articulate and beautiful artistic voice to the music as keyboardist, while being conscious of and respectful of what had energetically come before.

Q5: アルバムでは、Dave Mackey がベース・ラインをキーボードでプレイしていますね?

【PAUL】: 楽器としてのベースの役割を変える必要があったんだ。Sean のようなサウンドを期待して他の誰かを連れてくるのはフェアじゃなかったからね。
私にとって Sean Malone は現存する最も偉大なベーシストの一人であり、このレコードにおいて彼はかけがえのない存在だった。アレンジを変えて、新しいサウンドにするしかなかったんだよ。ありがたいことに、Dave はその要求に対して、本当に深いところで応えてくれた。彼はキーボーディストとして、このアルバムが持っていたエネルギッシュなサウンドを意識しながら、敬意を払いながら、アーティスティックで美しい声を音楽に届けてくれたんだ。

Q6: Matt Lynch is one of the best drummers in the metal world today, and his transcendent playing makes this album even more overwhelming. Could you talk about the new possibilities for Cynic with “Rhythm section of Future” Matt and Dave? Cynic is going to continue, isn’t it?

【PAUL】: Lynch is a true musician and artist drummer with a voice all his own. The two guys found a symbiotic feel (rhythmically) that pushed the record into a space that is completely new.
I don’t know what the future holds for Cynic. I know Cynic as an entity is beyond the sum of its parts. At the same time I would love to make another record with these guys in some form, whether it be as Cynic or not.

Q6: Matt Lynch はメタル界で現在、世界最高のドラマーの一人だと思います。実際、新たな二人のリズム・セクションが CYNIC に新たな可能性をもたらしたと感じましたよ。
二人の加入は CYNIC の未来を指し示すものなのでしょうか?

【PAUL】: Lynch は真のミュージシャンで、独自の声を持つアーティスト・ドラマーだよ。二人は(リズム的に)共生する感覚を見出し、このレコードを全く新しい空間へと押し上げたんだ。
CYNIC の未来がどうなるかはわからない。CYNIC というバンドが、ただメンバーが集まったバンド以上の超越した存在になっていることは知っている。同時に、それが CYNIC としてであろうとなかろうと、何らかの形で今のメンバーたちとまたレコードを作りたいとは思っているんだ。

Q7: With so many talented guest players from the younger generation like THE SURREALIST and Plini, the possibilities for the album are endless, would you agree?

【PAUL】: Yes, truly unlimited potential with the new talent out there. If Cynic were to continue I could see it acting more as a collective in this sense.

Q7: THE SURREALIST, Plini といった新世代の才能をゲストに招くことで、”Ascension Codes” の世界はさらなる拡がりを見せています。

【PAUL】: そうだね、新しい才能を持った人たちは本当に無限の可能性を秘めているよ。仮に CYNIC がこれからも続いていくのであれば、そういう人たちを集めて、バンドというよりはもっと集合体としての役割を担っていくのかもしれないね。

Q8: Lastly, I think this artwork is a “mother ship” and you often mention the universe and cosmic energies, Aliens on social media. What does the universe mean to you?

【PAUL】: Martina Hoffmann’s painting on Ascension Codes cover is a mothership. Lars Gotrich from NPR Music described it as “An organic alien ship body. The tentacles reach across the universe, and that’s what the music is like too.”
The universe for me is a reflection, like a mirror or looking glass, it’s origin-less. Everything is dependent on everything else. We are all connected on a quantum, cellular level. The universe is more beautiful than we could ever imagine.

Q8: 最後に、”Ascension Codes” のアートワークは、宇宙から来訪した “母船” に見えますし、あなたはしばしば宇宙やそのエナジーについて言及しています。あなたの宇宙観について話していただけますか?

【PAUL】: “Ascension Codes” のカバーに描かれた Martina Hoffmann の絵は、母船だよ。NPR Music の Lars Gotrich はそれを “有機的なエイリアンの船体” と表現したよ。”触手が宇宙を越えて伸びている。あなたの音楽もそんな感じだ” と言っていたね。
私にとっての宇宙は鏡や覗き窓のような反射体であり、起源を持たないものだ。すべてのものは他のすべてに寄り添っている。だから私たちは皆、量子レベル、細胞レベルでつながっているんだよ。宇宙はね、私たちが想像する以上に美しいんだ。

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